(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113517
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】異材接合用アーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20240815BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20240815BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20240815BHJP
B25J 13/00 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/02 M
B23K9/12 331K
B23K9/23 F
B25J13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018565
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 要
【テーマコード(参考)】
3C707
4E001
4E081
【Fターム(参考)】
3C707AS11
3C707DS01
4E001AA03
4E001BB08
4E001CA01
4E001CA02
4E001CB01
4E001DD02
4E081BA02
4E081BA08
4E081BA40
4E081BB15
4E081BB17
4E081CA08
4E081DA06
4E081DA28
4E081DA49
4E081EA24
(57)【要約】
【課題】鋼材とアルミニウム合金材との異材接合において、溶接を実施する位置が鋼材の端部付近であっても磁気吹きの発生を抑制することができるとともに、信頼性の高い品質で接合でき、これにより、得られる継手を軽量化できる異材接合用アーク溶接方法を提供する。
【解決手段】異材接合用アーク溶接方法は、アルミニウム合金板11に、第1穴12aを有する鋼板12を重ねて配置し、鋼板12の溶接面12cにおける第1穴12aから第1端面12bまでの間及び第1端面12b、の少なくとも一部の領域に、鋼製の当て板17を接触させて配置する。その後、アーク溶接により第1穴12aを介してアルミニウム合金板11の表面を溶融し、第1穴12aを充填する溶接金属を形成するとともに、鋼板12の溶接面12c上に第1穴12aの直径よりも大きい直径を有する余盛を形成し、アルミニウム合金板11と鋼板12とを接合する。
【選択図】
図3C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金製の第1部材と、鋼製の第2板材と、を接合する異材接合用アーク溶接方法であって、
前記第2板材に、その板厚方向に貫通する第1穴を設ける第1穴形成工程と、
前記第1部材に前記第2板材を重ねて配置する母材配置工程と、
前記第2板材における前記第1部材と対向する面と反対側の面を溶接面とし、前記第2板材の板厚方向に略平行な端面のうち、前記第1穴に最も近い端面を第1端面とした場合に、前記溶接面における前記第1穴から前記第1端面までの間及び前記第1端面、の少なくとも一部の領域に、鋼製の当て板を接触させる当て板配置工程と、
アーク溶接により前記第1穴を介して前記第1部材の表面を溶融し、前記第1穴を充填する溶接金属を形成するとともに、前記第2板材の溶接面上に前記第1穴の直径よりも大きい直径を有する接合頭部を形成し、前記第1部材と前記第2板材とを接合する接合工程と、を有することを特徴とする、異材接合用アーク溶接方法。
【請求項2】
前記当て板は、前記第2板材の前記第1端面に当接させる当て板側端面を有し、前記当て板配置工程において、前記第2板材の前記第1端面と、前記当て板側端面とを接触させることを特徴とする、請求項1に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項3】
前記当て板配置工程において、前記第1穴の中心から前記第1端面までの距離が4mm以上25mm以下である領域に前記当て板を接触させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項4】
前記第2板材の比透磁率が10以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項5】
前記当て板の比透磁率が10以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項6】
前記第1端面に直交する方向を第1方向とした場合に、前記第1方向における当て板の長さが15mm以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項7】
前記当て板は、前記当て板と前記第2板材との相対的な位置を決定する位置決め機能を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項8】
前記当て板は、前記第2板材の前記第1端面に当接させる当て板側端面と、前記第2板材の前記溶接面上に突出する突出部を有し、
前記当て板配置工程において、前記当て板側端面を前記第1端面に当接させるとともに、前記突出部が前記溶接面上に位置するように前記当て板を配置することを特徴とする、請求項7に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項9】
前記当て板が、溶接ロボットにより制御されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項10】
前記接合工程において、前記アーク溶接に使用される溶接トーチと、前記当て板とは、同一の溶接ロボットにより制御されていることを特徴とする、請求項9に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項11】
前記第1部材及び前記溶接金属は、同一の成分若しくは互いに異なる成分を有するアルミニウム又はアルミニウム合金からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項12】
前記第1穴形成工程と前記接合工程との間に、前記第1穴に、アルミニウム又はアルミニウム合金製の接合補助部材を挿入する工程を有し、
前記接合補助部材は、前記第1穴が貫通する方向と略同一の方向に貫通する第2穴を有し、
前記接合工程は、前記接合補助部材の前記第2穴を介して前記第1部材の表面の少なくとも一部と前記接合補助部材の少なくとも一部をアーク溶接により溶融する工程を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材接合用アーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両における乗員の安全性向上が求められており、係る目的のために車体の強度を向上させてきた。他方、地球温暖化問題等の深刻化を背景に、自動車の燃費改善の動きが加速している。燃費改善には車体の軽量化が有効であることが知られている。
【0003】
しかし、輸送機器の主要材料の全てを軽量素材に置換すると、高コスト化や強度不足になる、といった課題がある。この解決策として、鋼と軽量素材を適材適所に組み合わせて溶接する、異種金属MIG(Metal Inert Gas)アークスポット溶接(以下、DASW(Dissimilar metals Arc Spot Welding)ということがある。)により接合する方法が考案されている。
【0004】
アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、単にアルミニウム合金という)からなる溶接ワイヤを使用して、鋼材とアルミニウム合金材とをDASWにより接合する場合に、MIGアーク特有の末広がりのアーク形状が得られるとともに、特有の電流経路をとる。電流が流れる場所においては、電流が磁場の影響を受ける磁気吹きが発生する。磁気吹きが発生すると、アークが偏り、溶接金属にも偏りが生じて継手強度低下の原因となるだけでなく、多量のスパッタやスマット発生の原因となり、実用化の障害となる。
【0005】
例えば、特許文献1には、パルスアーク溶接において、磁気吹きによるアークの偏向を早期に判別することができる磁気吹き判別方法が記載されている。上記特許文献1に記載の判別方法によると、磁気吹きが判別されたときには、溶接条件の見直しや、母材側ケーブルの接続位置の見直し等によって磁気吹きの発生が生じない条件に設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、異材接合に限らず、磁気吹きによる溶接不良は、従来より工業的な損失をもたらしており、上記特許文献1に記載の磁気吹き判別方法では、磁気吹き現象を定量的に評価したり、磁気吹きの発生そのものを抑制することは困難である。本発明者は、特に、空気やアルミニウム合金と比較して大きい透磁率を有する鋼材や、フェライト系、マルテンサイト系ステンレス鋼材を溶接する場合に、電流に対する磁場の影響が大きくなること、また、これらの鋼材の端部付近に電流が流れる場合に、磁気吹きが発生しやすくなることを見出した。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、アルミニウム又はアルミニウム合金製の第1部材と鋼製の第2板材とを接合する場合に、溶接を実施する位置が第2板材の端部付近であっても磁気吹きの発生を抑制し、溶接の不安定化やスパッタの多量発生、溶接部の偏りなどを抑制して、第1部材と第2板材とを信頼性の高い品質で接合でき、これにより、得られる継手を軽量化でき、該継手を車体に使用した場合に燃費改善を実現することができる、異材接合用アーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) アルミニウム又はアルミニウム合金製の第1部材と、鋼製の第2部材と、を接合する異材接合用アーク溶接方法であって、
前記第2板材に、その板厚方向に貫通する第1穴を設ける第1穴形成工程と、
前記第1部材に前記第2板材を重ねて配置する母材配置工程と、
前記第2板材における前記第1部材と対向する面と反対側の面を溶接面とし、前記第2板材の板厚方向に略平行な端面のうち、前記第1穴に最も近い端面を第1端面とした場合に、前記溶接面における前記第1穴から前記第1端面までの間及び前記第1端面、の少なくとも一部の領域に、鋼製の当て板を接触させる当て板配置工程と、
アーク溶接により前記第1穴を介して前記第1部材の表面を溶融し、前記第1穴を充填する溶接金属を形成するとともに、前記第2板材の溶接面上に前記第1穴の直径よりも大きい直径を有する接合頭部を形成し、前記第1部材と前記第2板材とを接合する接合工程と、を有することを特徴とする、異材接合用アーク溶接方法。
【0010】
(2) 前記当て板は、前記第2板材の前記第1端面に当接させる当て板側端面を有し、前記当て板配置工程において、前記第2板材の前記第1端面と、前記当て板側端面とを接触させることを特徴とする、(1)に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0011】
(3) 前記当て板配置工程において、前記第1穴の中心から前記第1端面までの距離が4mm以上25mm以下である領域に前記当て板を接触させることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0012】
(4) 前記第2板材の比透磁率が10以上であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0013】
(5) 前記当て板の比透磁率が10以上であることを特徴とする、(1)~(4)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0014】
(6) 前記第1端面に直交する方向を第1方向とした場合に、前記第1方向における当て板の長さが15mm以上であることを特徴とする、(1)~(5)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0015】
(7) 前記当て板は、前記当て板と前記第2板材との相対的な位置を決定する位置決め機能を有することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0016】
(8) 前記当て板は、前記第2板材の前記第1端面に当接させる当て板側端面と、前記第2板材の前記溶接面上に突出する突出部を有し、
前記当て板配置工程において、前記当て板側端面を前記第1端面に当接させるとともに、前記突出部が前記溶接面上に位置するように前記当て板を配置することを特徴とする、(7)に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0017】
(9) 前記当て板が、溶接ロボットにより制御されていることを特徴とする、(1)~(8)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0018】
(10) 前記接合工程において、前記アーク溶接に使用される溶接トーチと、前記当て板とは、同一の溶接ロボットにより制御されていることを特徴とする、(9)に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0019】
(11) 前記第1部材及び前記溶接金属は、同一の成分若しくは互いに異なる成分を有するアルミニウム又はアルミニウム合金からなることを特徴とする、(1)~(10)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0020】
(12) 前記第1穴形成工程と前記接合工程との間に、前記第1穴に、アルミニウム又はアルミニウム合金製の接合補助部材を挿入する工程を有し、
前記接合補助部材は、前記第1穴が貫通する方向と略同一の方向に貫通する第2穴を有し、
前記接合工程は、前記接合補助部材の前記第2穴を介して前記第1部材の表面の少なくとも一部と前記接合補助部材の少なくとも一部をアーク溶接により溶融する工程を有することを特徴とする、(1)~(11)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金製の第1部材と鋼製の第2板材とを接合する場合に、溶接を実施する位置が第2板材の端部付近であっても磁気吹きの発生を抑制し、溶接の不安定化やスパッタの多量発生、溶接部の偏りなどを抑制して、第1部材と第2板材とを信頼性の高い品質で接合できる、異材接合用アーク溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】
図1Aは、上板の端部から離隔した位置でアーク溶接を実施した場合のアークの様子を示す模式図である。
【
図1B】
図1Bは、
図1Aにおける溶接時に発生する電流と磁界の様子を上面から示す模式図である。
【
図2A】
図2Aは、上板の端部近傍の位置でアーク溶接を実施した場合のアークの様子を示す模式図である。
【
図2B】
図2Bは、
図2Aにおける溶接時に発生する電流と磁界の様子を上面から示す模式図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の第1実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法を工程順に示す図であり、母材配置工程を示す断面図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の第1実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法において
図3Aの次工程を示す図であり、当て板配置工程を示す断面図である。
【
図3C】
図3Cは、本発明の第1実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法において
図3Bの次工程を示す図であり、接合工程を示す模式的断面図である。
【
図3D】
図3Dは、本発明の第1実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法において
図3Cの次工程を示す図であり、得られた異材接合継手を示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法の一工程を示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第3実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法の一工程を示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第4実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法の一工程を示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第5実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法の一工程を示す断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法において、第1穴の位置及び当て板のサイズ等を説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法において、当て板を配置する位置等を説明するための上面図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法により得られた異材接合継手について、磁気吹きを評価するための方法を説明するための断面図である。
【
図11】
図11は、横軸を当て板の幅pとし、縦軸を乖離率とした場合の、当て板の幅pと乖離率との関係を示すグラフ図である。
【
図12】
図12は、横軸を当て板の板厚とし、縦軸を乖離率とした場合の、当て板の板厚と乖離率との関係を示すグラフ図である。
【
図13】
図13は、横軸を当て板の比透磁率とし、縦軸を乖離率とした場合の、当て板の比透磁率と乖離率との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本願発明者は、磁気吹きの発生を抑制する技術を確立するため、まず、磁気吹き発生のメカニズムについて検討した。
図1Aは、上板の端部から離隔した位置でアーク溶接を実施した場合のアークの様子を示す模式図であり、
図1Bは、その溶接時に発生する電流と磁界の様子を上面から示す模式図である。また、
図2Aは、上板の端部近傍の位置でアーク溶接を実施した場合のアークの様子を示す模式図であり、
図2Bは、その溶接時に発生する電流と磁界の様子を上面から示す模式図である。
【0024】
図1Aに示すように、アルミニウム合金板1の上に、穴2aを有する鋼板2を重ねて配置し、穴2aの上方からアルミニウム合金製の溶接ワイヤ3を使用してアーク溶接を実施すると、アーク4aは溶接ワイヤ3を軸として対称性の高い形状で広がる。また、
図1Bに示すように、磁界5を表す図形は電流6を中心とした対称性の高い円形状となる。
【0025】
一方、
図2A及び
図2Bに示すように、穴2aが鋼板2の端面2bの近傍に位置していると、鋼板2の穴2aと端面2bとの間で磁界5が密となって磁束密度が大きくなり、磁界5の対称性が低下する。その結果、上面視で鋼板2の端面2b側から電流6の方向に発生するローレンツ力F1が、端面2bから離れた位置から電流6の方向に発生するローレンツ力F2よりも大きくなるため、アークが偏ることにより、磁気吹きが発生する。これは、鋼板2とその端面2b側の空気との間で透磁率が大きく異なることが原因であると推測される。
【0026】
そこで、本願発明者は、鋼板2の端面2bから外方に向かう領域において、透磁率の変化を減少させるための方法について種々検討を行った。その結果、鋼板2の端面2bに当て板を配置することによって、アークの偏りを抑制し、磁気吹きの発生を抑制することができることを見出した。
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法について、図面に基づいて詳細に説明する。本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0028】
[異材接合用アーク溶接方法]
<第1実施形態>
図3A~
図3Dは、本発明の第1実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法を工程順に示す断面図である。本実施形態は、アルミニウム又はアルミニウム合金製の第1部材(アルミニウム合金板11)と、鋼製の第2板材(鋼板12)とを接合するアーク溶接方法である。
【0029】
(第1穴形成工程)
図3Aに示すように、まず、鋼板2に、その板厚方向に貫通する第1穴12aを形成する。
【0030】
(母材配置工程)
次に、アルミニウム合金板11の上に鋼板2を重ねて配置する。なお、本実施形態において、鋼板12の板厚方向に略平行な端面のうち、第1穴12aに最も近い端面を第1端面12bとする。また、鋼板12の上面、すなわち、鋼板12におけるアルミニウム合金板11に対向する面と反対側の面を溶接面12cとする。本実施形態においては、鋼板12の第1端面12bとアルミニウム合金板11の任意の端面11aとが面一となるように揃えて配置する。
【0031】
(当て板配置工程)
その後、
図3Bに示すように、第1端面12b及びアルミニウム合金板11の端面11aに、鋼製の当て板17の端面(当て板側端面)17aを接触させる。
【0032】
(接合工程)
その後、
図3Cに示すように、第1穴12aの上方に溶接トーチ14を配置し、シールドガス16を流しながら溶接トーチ14に保持されたアルミニウム合金製の溶接ワイヤ13とアルミニウム合金板11との間を通電してアーク15を発生させる。これにより、
図3Dに示すように、第1穴12aを介してアルミニウム合金板11の表面を溶融し、第1穴12aを充填する溶接金属18を形成する。また、鋼板12の溶接面12c上に、第1穴12aの直径よりも大きい直径を有する余盛(接合頭部)18aを形成する。このようにして、アルミニウム合金板11と鋼板12とを接合する。
【0033】
上記第1実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法によると、アルミニウム合金板11及び溶接ワイヤ13は、ともにアルミニウム合金からなるものであるため、溶接金属18はアルミニウム合金板11に強固に接合される。また、溶接金属18は第1穴12aよりも大きい余盛18aを有するため、鋼板12は余盛18aとアルミニウム合金板11との間で挟持され、機械的に固定される。したがって、アルミニウム合金板11と鋼板12とをアーク溶接により接合することができる。
【0034】
また、本実施形態においては、第1端面12bの少なくとも一部の領域に当て板17の端面17aを接触させている。当て板17は鋼製であり、当て板17を配置しない空気の場合よりも透磁率が大きいため、鋼板12の第1端面12bの付近で磁束密度が大きくなることを抑制することができる。その結果、アークの偏りによる磁気吹きの発生を抑制することができる。また、鋼板12の第1端面12bの付近であっても、鋼板12とアルミニウム合金板11とを強固に接合することができるため、鋼材同士を接合する場合と比較して、継手の軽量化を実現することができる。さらに、本実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法を使用して、自動車等の車体を製造した場合に、燃費及び安全性を向上させることができる。
【0035】
なお、第1実施形態において、鋼板12の第1端面12bとアルミニウム合金板11の端面11aを揃えて配置し、第1端面12bと端面11aとに接触するように当て板17を配置したが、第1端面12bと端面11aは必ずしも揃えて配置する必要はない。アルミニウム合金板11の端面11aが鋼板12の第1端面12bよりも外方に位置している場合であっても、アルミニウム合金板11の上面に載せるように当て板17を配置し、第1端面12bの少なくとも一部と当て板17の端面17aとが接触すればよい。
【0036】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法の一工程を示す断面図である。第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、当て板の形状のみである。したがって、
図4に示す第2実施形態において、
図3Cに示すものと同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0037】
上記第1実施形態と同様に、第1穴形成工程及び母材配置工程を実施する。
【0038】
(当て板配置工程)
第2実施形態において、当て板27は、当て板27自身を鋼板12接触させる位置を決定するための位置決め機能を有する。具体的に、当て板27は、アルミニウム合金板11と鋼板12との合計の板厚よりも大きい板厚を有し、鋼板12の第1端面12b及びアルミニウム合金板11の端面11aに当接させる当て板側端面27aと、アルミニウム合金板11の端面11aからアルミニウム合金板11の上面に沿って外方に突出する突出部27bを有する。そして、当て板側端面27aを鋼板12の第1端面12bに当接させるとともに、突出部27bが溶接面12c上に位置するように当て板27を配置する。
【0039】
その後、第1実施形態と同様に、接合工程を実施する。
【0040】
上記のように構成された当て板27を使用する第2実施形態によると、アルミニウム合金板11の端面11aと鋼板12の第1端面12bとに当て板27を当接させることによって、端面11aと第1端面12bとを容易に揃えて配置することができる。また、突出部27bを溶接面12c上に突出させるように当て板27を配置するため、当て板配置工程において鋼板12とアルミニウム合金板11との相対的な位置を容易に決定することができ、ずれの防止も実現することができる。
【0041】
<第3実施形態>
図5は、本発明の第3実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法の一工程を示す断面図である。
図5に示す第3実施形態において、
図4に示す第2実施形態と同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
第3実施形態においては、溶接ワイヤ13を保持する溶接トーチ14と、当て板27とが同一の溶接ロボット19により制御されている。
【0042】
このように構成された第3実施形態によると、溶接トーチ14と当て板27とを同時に移動させることができる。このため、鋼板12の第1端面12bの近傍に複数の第1穴12aが形成されている場合や、第1端面12bに沿って延びる第1穴が形成されている場合に、当て板27を溶接トーチ14とのそれぞれを個別に制御する必要がない。したがって、アルミニウム合金板11と鋼板12との接合を円滑に実施することができる。
【0043】
なお、溶接トーチ14と当て板27とは同一の溶接ロボットで制御する方が好ましいが、互いに異なる溶接ロボットで制御してもよい。いずれの場合であっても、当て板27を溶接ロボットで制御することにより、容易に適切な位置へ当て板27を移動することができる。
【0044】
<第4実施形態>
図6は、本発明の第4実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法の一工程を示す断面図である。
図6に示す第4実施形態において、
図3Bに示す第1実施形態と同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0045】
まず、上記第1実施形態と同様に、第1穴形成工程及び母材配置工程を実施する。このとき、本実施形態においては、
図6に示すように、鋼板12の第1穴12aに接合補助部材20を挿入する。接合補助部材20は、例えばアルミニウム合金製であり、第1穴12aに挿入可能な外径を有する胴部20aと、胴部20aに連続して形成され、第1穴12aよりも大きい外径を有する頭部20bとを有する。また、接合補助部材20は、第1穴12aに挿入された状態で、第1穴12aが貫通する方向と略同一の方向に貫通する第2穴20cが形成されている。
【0046】
(当て板配置工程)
本実施形態においては、鋼板12の第1端面12bよりもアルミニウム合金板11の端面11aが外方に延出しているため、当て板37をアルミニウム合金板11の上面に載置するとともに、鋼板12の第1端面12bに当て板37の端面37aを当接させて配置する。
【0047】
(接合工程)
その後、接合補助部材20の上方に溶接トーチを配置し、接合補助部材20の第2穴20cを介してアルミニウム合金板11の表面の少なくとも一部と、接合補助部材20の少なくとも一部とをアーク溶接により溶融し、第2穴20cを充填する溶接金属18を形成する。
【0048】
このように構成された第4実施形態によると、接合補助部材20が頭部20bを有しており、頭部20bは第1穴12aよりも大きい直径を有している。したがって、第1実施形態の余盛と同様に、第2穴20cに溶接金属が充填されることにより接合頭部が形成され、鋼板12は接合頭部とアルミニウム合金板11との間で挟持されて、機械的に固定される。したがって、アルミニウム合金板11と鋼板12とをアーク溶接により接合することができる。
【0049】
また、接合補助部材20を用いた溶接であっても、上記第1~第3実施形態と同様に、当て板37を鋼板12の所定の位置に接触させることにより、アークの偏りを抑制し、磁気吹きの発生を抑制することができる。さらに、アルミニウム合金板11と鋼板12とを高強度で接合することができるため、継手の軽量化を実現することができ、本実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法を使用して自動車等の車体を製造した場合に、軽量化による燃費改善と強度確保による安全性向上とを実現することができる。
【0050】
なお、接合補助部材20を使用する場合に、接合補助部材20を挿入するタイミングは、第1穴形成工程と接合工程との間であれば特に限定されない。
【0051】
<第5実施形態>
図7は、本発明の第5実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法の一工程を示す断面図である。
図7に示す第5実施形態において、
図4に示す第2実施形態と同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0052】
まず、上記第1実施形態と同様に、第1穴形成工程及び母材配置工程を実施する。
【0053】
(当て板配置工程)
第5実施形態において、当て板37の端面37aは、鋼板12の第1端面12bに当接させず、当て板37を鋼板12の角部12dに立てかけるようにして、鋼板12に接触させている。
【0054】
その後、第1~第4実施形態と同様に、アーク溶接を実施することにより、磁気吹きの発生を抑制することができる。なお、上記第5実施形態に示すように、鋼板12と当て板37とを接触させる領域は、必ずしも面状である必要はなく、鋼板の溶接面12cと第1端面12bとの間の角部12dと当て板37とが線状に接触していてもよい。すなわち、当て板37は、鋼板12の溶接面12cにおける第1穴12aから第1端面12bまでの間の少なくとも一部(角部12dを含む)か、又は第1端面12bの少なくとも一部の領域に接触させればよい。
【0055】
以下、本発明の実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法において使用することができる母材、当て板及び溶接ワイヤについて詳細に説明する。
【0056】
(第1部材)
下板となる第1部材としては、アルミニウム又はアルミニウム合金製の部材であれば特に限定されず、要求される特性に応じて適宜選択することができる。第1部材として、具体的には、上記第1~第5実施形態で例示したような板材の他に、押出材や、ダイキャスト等を使用することができる。
【0057】
(第2板材)
上板となる第2板材としては、鋼製の板材であれば特に限定されず、要求される特性に応じて適宜選択することができる。なお、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304は、比透磁率が10未満であるため、第2板材としてSUS304鋼板を使用した場合に、磁気吹きが発生しにくく、当て板を使用する必要はない。したがって、比透磁率が10以上である第2板材を使用する場合に、本発明を適用することが好ましい。このような鋼種としては、SPCC、SUS430、SS400、各種熱延鋼板、熱延ハイテン、冷延鋼板、冷延ハイテン、ホットスタンプ用鋼板等が挙げられるが、特に限定されない。
【0058】
第2板材に形成する第1穴の形状及びサイズは特に限定されない。具体的には、一般的に穴を利用したアーク溶接が可能である形状及びサイズで第1穴を形成すればよく、一方向に延びる形状等であってもよい。
【0059】
なお、本発明の実施形態に係る異材アーク溶接方法は、鋼板の第1穴が第1端面に接近している場合に発生する磁気吹きを抑制する効果を有する。本発明を適用することが好ましい第1穴の位置等について、
図8を参照して説明する。
【0060】
上述のとおり、第2板材(鋼板12)の第1穴12aの位置と第1端面12bとの間の距離が十分に大きい場合には、磁気吹きが発生することはないため、当て板17を使用する必要はない。したがって、第1端面12bに直交する方向を第1方向とした場合に、第1方向において、第1穴12aの中心から第1端面12bまでの距離a0が4mm以上25mm以下である場合に、本発明の効果を十分に発揮することができる。第1穴が円形ではなく、例えば一方向に延びる楕円形状等の場合は、上面視で溶接ワイヤの先端位置から第1端面12bまでの距離a0が上記範囲である場合に、本発明の効果を発揮することができる。
【0061】
(当て板)
当て板としては、鋼製の板材を使用することができる。具体的には、当て板を配置しない場合(空気の場合)と比較して、組成にかかわらず空気よりも比透磁率が高い材質からなる当て板を使用すれば、磁気吹きの発生を抑制することができる。なお、比透磁率が10以上である当て板を使用すると、磁気吹きを抑制する効果をより一層高めることができる。当て板として使用することができる鋼種としては、SPCC、SUS430、SUS304、SS400等が挙げられ、SPCC、SUS430、SS400、各種熱延鋼板、熱延ハイテン、冷延鋼板、冷延ハイテン、ホットスタンプ用鋼板等が好ましい。
【0062】
当て板を配置する位置及び当て板のサイズについて、
図8及び
図9を参照して説明する。上述のとおり、第1穴12aの中心Q
0から第1端面12bまでの距離a
0が4mm以上25mm以下の場合に磁気吹きが発生しやすいため、当て板17を第2板材(鋼板12)に接触させることが好ましい。言い換えると、
図9に示すように、第1穴12aの中心Q
0(又は上面視で溶接ワイヤの先端位置)から第1端面12bにおける任意の位置までの距離をa
nとする場合に、a
nが4mm以上25mm以下である領域に、当て板17を接触させることが好ましい。
【0063】
また、第1穴12aの中心Q0に対して対称性の高い磁界を形成するためには、第1方向における当て板17の長さ(幅p)が15mm以上であることが好ましい。
【0064】
さらに、当て板は、繰り返し使用される可能性が高いため、その表面にスパッタ・スマットの付着を防止する処理が施されていると、当て板の表面を容易に清掃することができ、また、定期的に表面を清掃することで、他の領域を汚染することを抑制することができる。
【0065】
なお、上述の第1~第5実施形態において、鋼板12における第1穴12aに最も近い端面を第1端面としているが、2番目に第1穴12aに近い端面を第2端面(不図示)とした場合に、第1穴12aが第2端面に接近していると、第2端面の付近で磁束密度が高くなり、アークが偏向する。したがって、アークの偏向を抑制するためには、第1穴12aから全ての端面までの距離を考慮し、第1穴12aの全ての方向についてアークの偏向を抑制できるように、第1穴12aに接近した端面に当て板を接触させることが好ましい。すなわち、第1穴12aの中心Q0から鋼板12の全ての端面における任意の位置までの距離が4mm以上25mm以下である領域に、当て板を接触させることが好ましい。
【0066】
(溶接ワイヤ)
本発明の実施形態においては、アルミニウム又はアルミニウム合金製の溶接ワイヤを使用することができ、これにより、得られる溶接金属とアルミニウム又はアルミニウム合金製の第1部材とを強固に接合することができる。ただし、溶接ワイヤと第1部材とは完全に同一の成分であってもよいし、互いに異なる成分を有するアルミニウム又はアルミニウム合金からなるものであってもよい。したがって、溶接ワイヤと第1部材とが溶融して、得られる溶接金属が第1部材に所望の強度で接合できればよく、溶接金属と第1部材とは、同一の成分であっても互いに異なる成分であってもよい。
【0067】
[異材接合継手]
異材接合継手は、本発明に係る異材接合用アーク溶接方法により形成されるものである。本発明に係る異材接合用アーク溶接方法により形成された異材接合継手は、軽量化を実現することができ、自動車等の車体に適用した場合に、軽量化による燃費改善と強度確保による安全性向上とを実現することができる。異材接合用アーク溶接方法の具体例は上述のとおりであるが、異材接合用アーク溶接方法としては上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【実施例0068】
以下に示す異材接合用アーク溶接方法を使用して、アルミニウム合金板と鋼板とをアーク溶接により異材接合継手を作製し、溶接金属の余盛を観察することにより磁気吹きを評価した。
【0069】
[異材接合継手の作成]
まず、第1部材(下板)としてアルミニウム合金板11を使用し、第2板材(上板)として第1穴12aが形成された種々の鋼種の鋼板12を使用して、
図6に示すように、アルミニウム合金板11の端面11aが鋼板12の第1端面12bよりも延出するように、両者を重ねて配置した。次に、発明例No.1~4及び6~14については、種々の鋼種の当て板37をアルミニウム合金板11の上面に載置するとともに、当て板37の端面と鋼板12の第1端面12bとを当接させるように配置した。発明例No.5については、
図7に示すように、当て板37を鋼板12の角部12dに立てかけるように配置した。比較例No.1~6については、当て板を使用せず、次の接合工程に進んだ。
【0070】
その後、アルミニウム合金製の溶接ワイヤを使用して、第1穴12aの中心を狙ってガスシールドアーク溶接を実施した。なお、
図6では接合補助部材20を使用しているが、本発明例、比較例については接合補助部材を使用しないものとした。これにより、第1穴12aを充填する溶接金属18を形成するとともに、鋼板12の溶接面12c上に第1穴12aの直径よりも大きい直径を有する余盛18aを形成し、アルミニウム合金板11と鋼板12とを接合して、異材接合継手を得た。
【0071】
共通の溶接条件及び使用した鋼板の比透磁率の参考データを以下に示し、使用した鋼板12の種類及び板厚、当て板17の種類、板厚及び第1方向の長さを下記表1に示す。
【0072】
アルミニウム合金板:A6061 板厚1.0mm
第1穴の直径d:5mm
溶接ワイヤ:A5356、直径1.2mm
シールドガスの種類、流量:100%Ar、25リットル/分
コンタクトチップ-母材間距離(CTWD:Contact Tip to Work Distance):15mm
ワイヤ送給速度
溶接モード:パルスMIG(Metal Inert Gas)
溶接電圧:19V
ワイヤ送給速度:650(cm/分)
アークタイム:2.0秒
狙い位置:第1穴の中央
【0073】
鋼板の比透磁率(参考データ)
SPCC:5000
SUS430:1000~1800
SUS304:1.003~7
SS400:5000
【0074】
[磁気吹きの評価]
図9及び
図10に示すように、得られた異材接合継手において、第1端面12bに直交する第1方向における余盛18aの幅wを測定するとともに、第1方向における余盛18aの中心R
0と第1穴12aの中心Q
0との距離を測定した。余盛18aの中心R
0が、第1穴12aの中心Q
0に近いほど、磁気吹きが抑制されたと評価することができる。したがって、余盛18aの中心R
0と第1穴12aの中心Q
0との距離を乖離量δ(mm)とし、余盛18aの幅wに対する乖離率(δ/w)×100を算出することによって磁気吹きを評価した。すなわち、乖離率が0に近いほど、磁気吹きが抑制されていることを示す。なお、
図10において、乖離量δは図中の矢印方向をプラスとしている。
【0075】
第1方向における第1穴12aの中心Q0から第1端面12bまでの距離a0、余盛18aの幅w、乖離量δ及びδ/wの値を下記表1に併せて示す。
【0076】
【0077】
上記表1に示すように、発明例No.1と比較例No.1とを比較すると、当て板の有無を除く溶接時の条件は同一である。比較の結果、当て板を使用した発明例No.1が当て板を使用しない比較例No.1と比較して、乖離率が小さい値となり、磁気吹きが抑制されたことが示された。
【0078】
発明例No.2~4と比較例No.2とを比較すると、当て板の有無と当て板の第1方向における長さ(幅p)が異なるのみで、その他の溶接時の条件はほぼ同一である。比較の結果、当て板を使用した発明例No.2~4は、当て板を使用しない比較例No.2と比較して、乖離率が小さい値となり、磁気吹きが抑制されたことが示された。なお、発明例No.2~4において、当て板の幅pを15mm、35mm、50mmと変化させた結果、
図11に示すように、当て板の幅pが長いほど、磁気吹きの発生を抑制することができた。
【0079】
発明例No.4と発明例No.5とは、当て板を配置する位置が互いに異なるため、鋼板と当て板との接触する領域が互いに異なるものとなっているが、当て板の配置位置にかかわらず、いずれも比較例No.2と比較して磁気吹きの発生を抑制する効果を得ることができた。
【0080】
発明例No.6及び7と比較例No.2とを比較すると、当て板の有無と当て板の板厚が異なるのみで、その他の溶接時の条件はほぼ同一である。比較の結果、当て板を使用した発明例No.6及び7は、当て板を使用しない比較例No.2と比較して、乖離率が小さい値となり、磁気吹きが抑制されたことが示された。なお、
図12に示すように、当て板の板厚が磁気吹きの抑制に与える影響は少ないことが示された。
【0081】
発明例No.4、8及び9と比較例No.2とを比較すると、当て板の有無と当て板の鋼種が異なるのみで、その他の溶接時の条件はほぼ同一である。比較の結果、当て板を使用した発明例No.4、8及び9は、当て板を使用しない比較例No.2と比較して、乖離率が小さい値となり、磁気吹きが抑制されたことが示された。なお、
図13に示すように、当て板の鋼種については、SPCC、SUS430、SUS304の順に比透磁率が高く、当て板の比透磁率が高いほど磁気吹きの抑制効果が向上した。
【0082】
発明例No.10及び11と比較例No.3とを比較すると、当て板の有無と当て板の幅pが異なるのみで、その他の溶接時の条件はほぼ同一である。比較の結果、当て板を使用した発明例No.10及び11は、当て板を使用しない比較例No.3と比較して、乖離率が小さい値となり、磁気吹きが抑制されたことが示された。また、当て板の幅pが長いほど磁気吹きの抑制効果が向上した。
【0083】
発明例No.12と比較例No.4とを比較すると、当て板の有無を除く溶接時の条件はほぼ同一であり、いずれも第1穴の中心から第1端面までの距離a0が20mmを超えている。したがって、当て板を使用しない場合であっても乖離率は7.1%であり、磁気吹きの程度は小さくなったが、当て板を使用した発明例No.12の方が、乖離率が小さい値となり、当て板の使用によって磁気吹きが抑制されたことが示された。
【0084】
発明例No.13及び14は、鋼材の鋼種が発明例No.1~12と異なり、SUS430を使用している。発明例No.13及び14と比較例No.5とを比較すると、当て板の有無及び当て板の鋼種が異なるのみで、その他の溶接時の条件はほぼ同一である。比較の結果、当て板を使用した発明例No.13及び14は、当て板を使用しない比較例No.5と比較して、乖離率が小さい値となり、磁気吹きが抑制されたことが示された。
【0085】
比較例No.6は、鋼板としてSUS304を使用した例である。SUS304は、比透磁率が低い材質であるため、当て板を使用しない場合であっても、磁気吹きはほとんど発生しなかった。