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  • 特開-インスリン分泌促進剤及びその利用 図1
  • 特開-インスリン分泌促進剤及びその利用 図2
  • 特開-インスリン分泌促進剤及びその利用 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113518
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】インスリン分泌促進剤及びその利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20240815BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240815BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240815BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240815BHJP
   C07D 311/30 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
A61K31/353
A23L33/105
A61P3/10
A61P43/00 107
C07D311/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018567
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 富保
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和宜
(72)【発明者】
【氏名】井藤 千裕
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 純一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 慧香
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB08
4B018MD52
4B018MD57
4B018MD61
4B018ME03
4B018MF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB22
4C086ZC35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】糖尿病発症を引き起こす可能性のある潜在的な発症前状態を改善するのに有用な組成物等を提供する。
【解決手段】以下の式(1)で表される化合物を含有する、インシュリン分泌促進剤を提供する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)で表される化合物を含有する、インシュリン分泌促進剤。
【化1】
(ただし、式(1)中、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基又は水素原子を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基、又は水素原子を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基、又は水素原子を表し、R、R及びR10は、それぞれ、独立して、水素原子又は炭素数が1~3個のアルキル基を表し、R7は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、又は水素原子を表し、R8は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、又は水素原子を表す。)
【請求項2】
前記式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基を表す、請求項1に記載のインシュリン分泌促進剤。
【請求項3】
前記式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基を表す、請求項1に記載のインシュリン分泌促進剤。
【請求項4】
は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、又は水素原子を表す、請求項1に記載のインシュリン分泌促進剤。
【請求項5】
は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基又は水素原子を表す、請求項1に記載のインシュリン分泌促進剤。
【請求項6】
は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基又は水素原子を表す、請求項1に記載のインシュリン分泌促進剤。
【請求項7】
、R及びR10は、水素原子を表す、請求項1に記載のインシュリン分泌促進剤。
【請求項8】
以下に示す化合物群から選択される化合物を含有する、請求項1記載のインシュリン分泌促進剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のインシュリン分泌促進剤を含有する、インシュリン分泌促進のための組成物。
【請求項10】
前記組成物は、Pongamia pinnata、Talinum triangular、Citrus unshiu、及びKempferia paviflora並びにこれらの近縁種からなる群から選択される1種又は2種以上の植物体若しくはその一部又はその抽出物を含有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物は、食品組成物である、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物は、医薬組成物である、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
以下の式(1)で表される1種又は2種以上の化合物を被験化合物として、インシュリン分泌促進作用及び/又は血糖値上昇抑制作用を評価する評価工程と、
前記評価工程における前記インシュリン分泌促進作用及び/又は血糖値上昇抑制作用に基づいて、前記被験化合物につきインシュリン分泌促進剤及び/又は血糖値上昇抑制剤の候補化合物とする、方法。
【化2】
(ただし、式(1)中、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基又は水素原子を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基、又は水素原子を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基、又は水素原子を表し、R、R及びR10は、それぞれ、独立して、水素原子又は炭素数が1~3個のアルキル基を表し、R7は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、又は水素原子を表し、R8は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、又は水素原子を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、インスリン分泌促進剤及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病関連疾患は世界的に患者数が増大しており、患者数の増大とそれによる医療費の増大は経済的成長が妨げられるリスクがある。
【0003】
こうしたリスクをできるだけ低減しあるいは回避するには、糖尿病の発症を予防することが重要である。例えば、柿葉などに由来するフラボノイドのアグリコンであるケンフェロールに膵β細胞インシュリン分泌促進作用があることが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-215253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
経済的な負担の増大を抑制しつつ糖尿病の発症を抑制することが重要である。また、過度の血糖値低下を引き起こさないことも重要である。
【0006】
本明細書は、糖尿病発症を引き起こす可能性のある潜在的な発症前状態を改善するのに有用な組成物等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、各種の天然型フラボノイドにつき、そのインスリン分泌性能に基づきスクリーニングを行った。その結果、いくつかのフラボノイド化合物につき、グルコース濃度依存性インスリン分泌促進作用を見出した。これらの知見に基づいて、本明細書は、以下の手段を提供する。
【0008】
[1]以下の式(1)で表される化合物を含有する、インシュリン分泌促進剤。
【化1】
(ただし、式(1)中、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基又は水素原子を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基、又は水素原子を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基、又は水素原子を表し、R、R及びR10は、それぞれ、独立して、水素原子又は炭素数が1~3個のアルキル基を表し、R7は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、又は水素原子を表し、R8は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、又は水素原子を表す。)
[2]前記式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基を表す、[1]に記載のインシュリン分泌促進剤。
[3]前記式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基を表す、[1]に記載のインシュリン分泌促進剤。
[4]Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、又は水素原子を表す、[1]~[3]のいずれかに記載のインシュリン分泌促進剤
[5]Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基又は水素原子を表す、[1]~[4]のいずれかに記載のインシュリン分泌促進剤。
[6]Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基又は水素原子を表す、[1]~[5]のいずれかに記載のインシュリン分泌促進剤。
[7]R、R及びR10は、水素原子を表す、[1]~[6]のいずれかに記載のインシュリン分泌促進剤。
[8]以下に示す化合物群から選択される化合物を含有する、インシュリン分泌促進剤。
[9][1]~[8]のいずれかに記載のインシュリン分泌促進剤を含有する、インシュリン分泌促進のための組成物。
[10]前記組成物は、Pongamia pinnata、Talinum triangular、Citrus unshiu、及びKaempferia paviflora並びにこれらの近縁種からなる群から選択される1種又は2種以上の植物体若しくはその一部又はその抽出物を含有する、[9]に記載の組成物。
[11]前記組成物は、食品組成物である、[9]又は[10]に記載の組成物。
[11]前記組成物は、医薬組成物である、[9]又は[10]に記載の組成物。
[13]以下の式(1)で表される1種又は2種以上の化合物を被験化合物として、インシュリン分泌促進作用及び/又は血糖値上昇抑制作用を評価する評価工程と、
前記評価工程における前記インシュリン分泌促進作用及び/又は血糖値上昇抑制作用に基づいて、前記被験化合物につきインシュリン分泌促進剤及び/又は血糖値上昇抑制剤の候補化合物とする、方法。
【化2】
(ただし、式(1)中、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基又は水素原子を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基、又は水素原子を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基を表し、Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基、又は水素原子を表し、R、R及びR10は、それぞれ、独立して、水素原子又は炭素数が1~3個のアルキル基を表し、R7は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、又は水素原子を表し、R8は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、又は水素原子を表す。)
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例における天然フラボンのグルコース誘導性インシュリン分泌促進能の評価結果を示す図である。
図2】4種の天然フラボンのグルコース濃度依存性のインシュリン分泌促進能の評価結果を示す図である。
図3】フィセチンとそのメチルエーテル、ケルセチンとそのメチルエーテルとのグルコース誘導性インシュリン分泌促進能の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に開示されるインシュリン分泌促進剤は、特定構造のフラボンを含む。特定された構造を有するフラボンは、好ましいインシュリン分泌促進能を有している。こうしたインシュリン分泌促進剤を含有する組成物は、好ましいインシュリン分泌促進能を発揮することができる。本明細書に開示されるスクリーニング方法は、特定構造を有するフラボンにつき、より優れたインシュリン分泌促進能剤及び/又は血糖値上昇抑制剤の候補化合物を得ることができる。
【0011】
本発明者らは、天然のフラボン及びメチルエーテル化した化学修飾フラボンについて、インシュリン分泌促進能を評価した結果、フラボン骨格の各部位の基とインシュリン分泌促進能についてある種の関係を見出すことができた。本発明者らによれば、それらに基づいて、式(1)で表される構造を特定することができる。以下、本明細書に開示される手段について、詳細に説明する。
【0012】
(インシュリン分泌促進剤)
本明細書に開示されるインシュリン分泌促進剤(以下、単に、本剤ともいう。)は、式(1)で表されるフラボンを含有している。式(1)で表されるフラボンは、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
【化3】
【0014】
本明細書において、フラボンは、特定される構造を有している限り、その由来を問わない。すなわち、フラボンは、天然の存在するフラボン、天然のフラボンを人工的に修飾した修飾フラボン、及び完全合成した合成フラボンであってもよい。
【0015】
本明細書において、アルキル基とは、直鎖構造であっても、分岐構造であってもよい。炭素原子数が1~3個のアルキル基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基(1-メチルエチル基)である。
【0016】
<R
は、フラボン骨格の3位の炭素原子に結合する基に関する。Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基を表す。
【0017】
炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、1-メチルエトキシ基が挙げられる。以下の説明においても、同様である。
【0018】
炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基は、アセチル基(エタノイル基)、プロピオニル基(プロパノイル基)、1-メチルエタノイル基、ブタノイル基、2-メチルプロピオン酸、1-メチルプロピオン基が挙げられる。以下の説明においても同様である。
【0019】
は、例えば、炭素数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基であり、また例えば、メトキシ基又はエトキシ基であり、また例えば、メトキシ基である。Rは、フラボンのインシュリン分泌促進能を強く特徴付ける場合があり、メトキシ基などの上記アルコキシ基が、インシュリン分泌促進能に大きく貢献する場合がある。
【0020】
<R
は、フラボン骨格の5位の炭素原子に結合する基又は原子に関する。Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基又は水素原子を表す。
【0021】
は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、水酸基又は水素原子である。また例えば、メトキシ基、水酸基又は水素原子であり、また例えば、メトキシ基又は水素原子である。R2は、フラボンのインシュリン分泌促進能を特徴付ける場合があり、水素原子又はメトキシ基などの上記アルコキシ基がインシュリン分泌促進能に貢献する場合がある。
【0022】
<R
は、フラボン骨格の6位の炭素原子に結合する基又は原子に関する。Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基、又は水素原子を表す。
【0023】
3は、例えば、水素原子、メトキシ基又はエトキシ基である。また例えば、水素原子又はメトキシ基であり、また例えば、水素原子である。R3は、フラボンのインシュリン分泌促進能を特徴付ける場合があり、水素原子又はメトキシ基などの上記アルコキシ基がインシュリン分泌促進能に貢献する場合がある。
【0024】
<R
は、フラボン骨格の7位の炭素原子に結合する基に関する。Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基を表す。
【0025】
4は、例えば、上記アルコキシ基であり、また例えば、メトキシ基又はエトキシ基であり、また例えば、メトキシ基である。R4は、フラボンのインシュリン分泌促進能を強く特徴付ける場合があり、メトキシ基などの上記アルコキシ基が、インシュリン分泌促進能に大きく貢献する場合がある。
【0026】
<R
は、フラボン骨格の8位の炭素原子に結合する基に関する。Rは、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、水酸基、又は水素原子を表す。
【0027】
5は、例えば、水素原子、メトキシ基又はエトキシ基である。また例えば、水素原子又はメトキシ基であり、また例えば、水素原子である。R5は、フラボンのインシュリン分泌促進能を特徴付ける場合があり、水素原子又はメトキシ基などの上記アルコキシ基がインシュリン分泌促進能に貢献する場合がある。
【0028】
<R6
6は、フラボン骨格の2’位の炭素原子に結合する基又は原子に関する。水素原子又は炭素数が1~3個のアルキル基を表す。R6は、例えば、水素原子である。
【0029】
<R7
7は、フラボン骨格の3’位の炭素原子に結合する基又は原子に関する。R7は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、又は水素原子を表す。
【0030】
7は、例えば、上記アルコキシ基また例えば水素原子であり、また例えば、上記アルコキシ基であり、また例えば、メトキシ基又はエトキシ基であり、また例えば、メトキシ基である。R7は、フラボンのインシュリン分泌促進能を強く特徴付ける場合があり、メトキシ基などの上記アルコキシ基が、インシュリン分泌促進能に大きく貢献する場合がある。
【0031】
<R8
8は、フラボン骨格の4’位の炭素原子に結合する基又は原子に関する。R8は、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素原子数が1~3個のアルキル基を有するアシル基、又は水素原子を表す。
【0032】
8は、例えば、上記アルコキシ基また例えば水素原子であり、また例えば、上記アルコキシ基であり、また例えば、メトキシ基又はエトキシ基であり、また例えば、メトキシ基である。R8は、フラボンのインシュリン分泌促進能を強く特徴付ける場合があり、メトキシ基などの上記アルコキシ基が、インシュリン分泌促進能に大きく貢献する場合がある。
【0033】
<R9及びR10
9及びR10は、それぞれ、フラボン骨格の5’位及び6’位の炭素原子に結合する基又は原子に関する。R9及びR10は、それぞれ、独立して、水素原子又は炭素数が1~3個のアルキル基を表す。R9及びR10は、例えば、水素原子である。
【0034】
<特定基の組合せ>
式(1)において、例えば、R及びRは、それぞれ独立して、メトキシ基などの上記アルコキシ基を表すことがインシュリン分泌促進に好適な場合がある。R及びRは、メトキシ基など、同一の上記アルコキシ基を表すことが好適な場合がある。
【0035】
式(1)において、例えば、R及びRは、それぞれ独立して、メトキシ基などの上記アルコキシ基を表すことがインシュリン分泌促進に好適な場合がある。R及びRは、メトキシ基など、同一の上記アルコキシ基を表すことが好適な場合がある。R及びRは、R、R、R及びRが、それぞれ独立して、メトキシ基などの上記アルコキシ基を表すことが好適な場合がある。R、R、R及びRが、メトキシ基など、同一の上記アルコキシ基を表すことが好適な場合がある。
【0036】
さらに、R及びR、及び/又は、R及びRにおける特定基の組合せに加えて、R及び/又はRは、メトキシ基などの上記アルコキシ基又は水素原子を表すことが好ましい場合がある。
【0037】
さらに、R及びR、及び/又は、R及びRにおける特定基の組合せに加えて、Rは、メトキシ基などの上記アルコキシ基又は水素原子を表すことが好ましい場合がある。さらにまた、R及び/又はRにおける特定基の組合せに加えて、Rは、メトキシ基などの上記アルコキシ基又は水素原子を表すことが好ましい場合がある。
【0038】
こうした特定基の好適な組合せは、例えば、以下の表で表される。
【表1】
【0039】
こうした、好適な特定基の組合せを有する、フラボンとしては、例えば、以下のフラボンが挙げられる。
【化4】
【0040】
本剤における、インシュリン分泌促進とは、例えば、グルコース誘導性のインシュリン分泌促進である。天然フラボン、化学修飾フラボン及び全合成フラボンが、インシュリン分泌促進能は、公知の種々の方法により確認することができる。例えば、実施例に開示される方法を用いることができる。
【0041】
(インスリン分泌促進のための組成物)
本明細書に開示されるインシュリン分泌促進のための組成物(以下、単に、本組成物ともいう。)は、1種又は2種以上の本剤を含有することができる。本組成物は、式(1)で表されるフラボンを含むものであればよく、植物体又はその一部から抽出したフラボン、これを化学修飾したフラボン、又は全合成したフラボンとして含んでいてもよい。また、本組成物は、式(1)で表されるフラボンを、天然由来の他の成分との混合物として、天然の植物体若しくはその一部をそのまま又はこれらからの抽出物として含んでいてもよい。
【0042】
フラボンにおける各位置の炭素原子に対して官能基を導入したり、フラボンを全合成することは、当業者であれば、適宜実施することができる。
【0043】
フラボンは、種々の植物体及びその一部に含まれている。例えば、例示したフラボンを含むフラボン類の由来植物の一例を以下に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
本組成物は、例えば、式(1)で表される1種又は2種以上のフラボンを含む1種又は2種以上の植物体又はその一部をそのままで、また例えば、上記植物体又はその一部を粉砕及び/又は乾燥した処理物、また例えば、上記植物体又はその一部からフラボンを含む画分を粗抽出及び/又は分離した処理物、また例えば、上記植物体又はその一部からフラボンを含む抽出物であってもよい。なお、植物体からフラボンを抽出、分離等する方法は、例えば、特開2016-193906号公報、特開2010-037317号公報、特開2013-192513号公報等に開示されている。概して、原料となる植物体又はその一部を、細断又は粉砕するなどして、例えば、水、温水、熱水、酢酸などの酸による酸性水、アセトン、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール及びブチルアルコールからなる低級アルコール群から選択される1種類以上のアルコールなどの親水性有機溶媒、エタノールなど前記1種以上のアルコールを含む含水アルコール、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂等を用いることができる。抽出物に対しては、常法に従い、分離、希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施すことができる。精製方法としては、活性炭処理、樹脂吸着処理、イオン交換樹脂、液-液向流分配、分取用液体クロマトグラフィー等の方法が挙げられるが、精製を施さないものであってもよい。
【0046】
なお、植物体の一部としては、葉、茎、枝、花、根、根茎、子実体、果実、種子、果実皮、果実の果肉、樹皮等が挙げられる。
【0047】
ここで、Pongamia pinnata(Millettia pinnata)は、マメ科植物であり、和名はクロヨナとされる。葉、種子、花、茎、枝、樹皮又は根等が利用される。また、Talinum triangulareは、スペリヒユ科植物であり、和名は、サンカクハゼランである。例えば、葉、茎、根等が用いられる。また、Citrus unshiuは、ミカン科植物であり、和名はウンシュウミカンである。例えば、果実、果皮又は種子等が用いられる。Kaempferia pavifloraは、ショウガ科植物であり、和名は、クロウコン(ブラックジンジャー)である。例えば、根茎部等が使用される。これらの植物体及びその近縁種には、本剤のフラボンを含有している。したがって、こうした植物体若しくはその一部又はこれらに由来する抽出物を、本組成物又はその一部とすることができる。
【0048】
本組成物の各種形態を採ることができる。本組成物は、植物体若しくはその一部又はその抽出物、種々のフラボンをそのまま、あるいは製剤化、あるいは食品に加工することができる。本組成物は、具体的には、粉末、液体、ゼリー、固形物、スムージー等の形態ほか、エキス、錠剤、散剤、粒剤等の各種の経口製剤形態、経管製剤等の形態を採ることができる。
【0049】
本組成物は、例えば、健康食品やサプリメント用途に用いることができる。この場合、本組成物を、添加剤組成物として、他の成分とともに各種形態のサプリメントとすることができる。
【0050】
また、本組成物は、食品用途としても用いることができる。例えば、植物体又はその一部をそのまま、パンや麺などの小麦加工品、各種米飯加工品、バー、キャンデー、グミ、和菓子、洋菓子などの固形食品、ゼリー、ムース、スムージー、ジュースなどの流動性食品の成分として用いることができる。
【0051】
また、本組成物は、医薬組成物として用いることができる。医薬組成物として用いる場合、当業者に周知の方法で種々の形態に製剤化することができる。典型的には、各種経口製剤又は経管栄養製剤などとすることができる。
【0052】
(スクリーニング方法)
本明細書に開示される、スクリーニング方法は、式(1)で表される1種又は2種以上の化合物を被験化合物として、インシュリン分泌促進作用及び/又は血糖値上昇抑制作用を評価する評価工程と、前記評価工程における前記インシュリン分泌促進作用及び/又は血糖値上昇抑制作用に基づいて、前記被験化合物につきインシュリン分泌促進剤及び/又は血糖値上昇抑制剤の候補化合物とする。この方法によれば、効率的にインシュリン分泌促進作用及び/又は血糖値上昇抑制作用を有する候補化合物を得ることができる。
【0053】
スクリーニング方法において、被験化合物とする化合物は、式(1)で表されるフラボンが挙げられる。
【0054】
インシュリン分泌促進作用の評価方法は、例えば、実施例に開示される方法のほか、モデル動物などを用いる方法が挙げられる。典型的には、モデル動物に対する経口ブドウ糖負荷試験または経静脈的ブドウ糖負荷試験により、被験化合物と共にグルコースを付加し、経時的に尾静脈などから採血し、血糖値およびインスリン濃度を測定する方法が挙げられる。
【実施例0055】
以下、本明細書の開示を実施例を挙げて具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本明細書の開示を説明するものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例0056】
本実施例では、天然物に含まれる各種フラボノイドを入手して、グルコース誘導性インシュリン分泌促進能について一次スクリーニングを行った。すなわち、3mM及び20mMのグルコース濃度下及び個々のフラボノイド10μM濃度(溶媒:DMSO)下で膵臓β細胞株(MIN6)を、0.5%BSA及び3mMグルコースを含むHKRB緩衝液で1時間培養後、培養液中のインシュリン濃度を、Insulin High Range Assay Kit (cisbio/PerkinElmer社)を使用して測定した。なお、コントロールをDMSOとした。用いたフラボンとそのインシュリン分泌促進能を併せて図1に示す。
【0057】
図1に示すように、Fisetin methylether(フィセチンメチルエーテル)、3,5,7,8,3',4'-Hexamethoxyflavone(以下、単に、ヘキサメトキシフラボンという。)、3,5,6,7,8,3',4'-Heptamethoxyflavone(以下、単に、ヘプタメトキシフラボンという。)、Quercetin methyether(ケルセチンメチルエーテル)、Retusin (レツシン)及びGalangin methylether(ガランギンメチルエーテル)は、いずれも優れたインシュリン分泌促進能を呈した。
【実施例0058】
本実施例では、フィセチンメチルエーテル、ケルセチンメチルエーテル、ヘプタメトキシフラボン及びヘキサメトキシフラボンの4種のフラボンについて、グルコース反応性β細胞株MIN6を用いて、培地中のグルコース濃度を3mMから20mMまで変化させてインシュリン分泌促進能を評価した。グルコース濃度を変化させる点以外は、実施例1と同様に行った。結果を、図2に示す。
【0059】
図2に示すように、4種のフラボンは、いずれも優れたインシュリン分泌促進能を示した。なかでも、フィセチンメチルエーテルとヘプタメトキシフラボンは、対コントロールに対して優れた結果を示した。
【実施例0060】
本実施例では、フィセチンとフィセチンメチルエーテル、及び、ケルセチンとケルセチンメチルエーテルとについて、グルコース誘導性インシュリン分泌促進能を評価した。操作は、実施例1に準じて行った。結果を、図3に示す。
【0061】
図3に示すように、メチルエーテル(メトキシ)化の有無で、グルコース誘導性インシュリン分泌促進能は、約1.5倍となった。以上のことから、これらに共通する特定部位(3、7)、さらには、追加の特定部位(3’、4’)にメトキシ基などのアルコキシ基を導入することがグルコース誘導性インシュリン分泌促進能に大きく貢献することがわかった。
図1
図2
図3