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特開2024-113555不飽和二重結合を有する化合物、該化合物を含有する組成物、ポリベンゾオキサゾール及び半導体素子用ポリベンゾオキサゾール膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113555
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】不飽和二重結合を有する化合物、該化合物を含有する組成物、ポリベンゾオキサゾール及び半導体素子用ポリベンゾオキサゾール膜
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/22 20060101AFI20240815BHJP
   C08F 20/54 20060101ALI20240815BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20240815BHJP
   G03F 7/027 20060101ALI20240815BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C08G73/22
C08F20/54
G03F7/004 512
G03F7/027 514
H01L23/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018629
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高本 大平
(72)【発明者】
【氏名】高 希蓮
【テーマコード(参考)】
2H225
4J043
4J100
4M109
【Fターム(参考)】
2H225AC65
2H225AC68
2H225AC79
2H225AD06
2H225AN41P
2H225AN88P
2H225BA01P
2H225CA12
2H225CB02
2H225CC01
2H225CC13
4J043QB15
4J043QB23
4J043QB33
4J043RA05
4J043SA06
4J043SA71
4J043TA26
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA141
4J043UA151
4J043UB061
4J043UB121
4J043XA19
4J043ZB47
4J043ZB50
4J100AM23P
4J100BA34P
4J100BC04P
4J100BC43P
4J100BC44P
4J100BC45P
4J100DA02
4J100JA37
4J100JA38
4M109EA15
4M109EE01
4M109EE04
4M109EE06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新規な不飽和二重結合を有する化合物を提供する。さらに、当該新規化合物を含有する組成物、ポリベンゾオキサゾール及び半導体素子を提供する。
【解決手段】下記式(1)

(式(1)中、Aは下記式(1-1)、(1-2)若しくは(1-3)

を表し、Aは、飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基、芳香族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基等を表し、Aは水素原子、又はメチル基を表す。)で表される不飽和二重結合を有する化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、Aは下記式(1-1)、(1-2)若しくは(1-3)
【化2】
(式(1-1)、(1-2)及び(1-3)中、環aはベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、Xは直接結合又は二価の連結基を表し、式(1)中にXが複数存在する場合、複数のXは互いに同じでも異なってもよい。Zは環aに結合した一価の置換基を表し、式(1)中にZが複数存在する場合、複数のZは互いに同じでも異なってもよい。p、q及びrは一価の置換基Zの数であって、p及びqはそれぞれ独立に0乃至3の整数を表し、rは0乃至2の整数を表し、式(1-1)中にpが複数存在する場合、複数のpはそれぞれ互いに同じでも異なってもよく、式(1-1)中にqが複数存在する場合、複数のqはそれぞれ互いに同じでも異なってもよく、式(1-2)及び式(1-3)中にrが複数存在する場合、複数のrはそれぞれ互いに同じでも異なってもよい。)で表される二価の連結基、又は、式(1-1)、(1-2)及び(1-3)以外の二価の連結基を表す。但し、Aの少なくとも一つは式(1-1)、(1-2)若しくは(1-3)で表される二価の連結基である。Aは、飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基、芳香族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基、又は、飽和脂肪族ジカルボキシ化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基及び芳香族ジカルボキシ化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基以外の二価の連結基を表し、Aが複数存在する場合、複数のAは互いに同じでも異なってもよい。Aは水素原子、又は、メチル基を表す。nは繰り返し単位数の平均値であって、1≦n≦9の範囲にある実数である。)
で表される不飽和二重結合を有する化合物。
【請求項2】
がそれぞれ独立して式(1-1)、(1-2)又は(1-3)のいずれかで表される二価の連結基であって、かつ、環aがベンゼン環である請求項1に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
【請求項3】
1.0<n≦4.0である請求項1または2に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
【請求項4】
の少なくとも一つは飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基である請求項1または2に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
【請求項5】
が飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基である請求項1または2に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
【請求項6】
が飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基であり、一つのAの脂肪族に含まれる炭素数の平均が2乃至10の請求項1または2に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
【請求項7】
Xがそれぞれ独立に直接結合、又は下記式(a)乃至(f)
【化3】
のいずれかで表される二価の連結基である請求項1又は2に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の化合物及び光重合開始剤若しくは硬化触媒を含有する組成物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の不飽和二重結合を有する化合物及び不飽和二重結合と反応し得る化合物を含有する組成物。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の化合物を加熱して得られる分子内脱水閉環物であるポリベンゾオキソザール。
【請求項11】
請求項10に記載のポリベンゾオキサゾールを含む表面保護膜、層間絶縁膜、又は再配線層の絶縁膜を備える半導体素子。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の化合物を含む組成物を基材で挟み込んで得られるドライフィルムレジスト。


























【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不飽和二重結合を有する化合物、それを用いた組成物、ポリベンゾオキサゾール及び半導体素子用ポリベンゾオキサゾール膜に関する。本発明の不飽和二重結合を有する化合物は半導体素子用の保護膜、層間絶縁膜及び再配線層の絶縁膜等に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜等には、耐熱性や機械特性等に優れたポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂などが広く使用されている(特許文献1)。ポリイミド樹脂やポリベンゾオキサゾール樹脂を表面保護膜や層間絶縁膜として使用する場合、これらの樹脂を含むポジ型のフォトレジストを用いたエッチングの手法によってスルーホール等を形成する方法が知られている。しかしながら、この方法ではフォトレジストの塗布や剥離等の煩雑な工程が必要なことが問題であった。そこで作業工程の合理化を目的に感光性が付与された耐熱性材料の検討がなされてきた(特許文献2)。
【0003】
耐熱性及び機械特性に優れたポリイミド樹脂やポリベンゾオキサゾール樹脂の薄膜は、一般にはそれらの前駆体の塗膜を熱的に脱水閉環させて得られるが、その際に通常350℃前後の高い温度での焼成を必要とする。しかしながら、例えばMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory;磁気抵抗メモリ)等の次世代メモリやこれらのメモリの封止に用いられる樹脂は高温に弱い。そのため、このような素子の表面保護膜や封止樹脂上に再配線構造を形成するファンアウトウエハレベルパッケージの層間絶縁膜に用いられるポリイミド樹脂やポリベンゾオキサゾール樹脂には、約225℃以下の低温での焼成で硬化し、かつ従来の材料を350℃前後の高温で焼成した場合と遜色ない諸特性が得られることが求められている。
【0004】
また、従来用いられてきたポリイミド樹脂は、その現像工程においてN-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を大量に用いる必要があり、コストが割高になる。そこで、コスト削減の必要性のみならず、安全性および近年の環境問題の高まりなどから、脱有機溶剤化が求められている。これに対して、フォトレジストと同様に、希薄アルカリ水溶液で現像(パターン形成)可能な様々な耐熱性の樹脂材料を用いた方法、例えば、ポリアミド酸とアミノ基、アミド基又はウレタン基等を有する化合物とを混合し、光開始剤の存在下、露光後加熱する方法(特許文献3)、ポリアミド酸とフェノール性水酸基を有するアミン化合物との塩にキノンジアジドを混合する方法(特許文献4)、ポリアミド酸とニフェジピン等の塩基発生剤とを混合する方法(特許文献5)などが提案されている。
これらの方法は何れもポリアミド酸をベースとしたポジ型の感光性組成物を用いたものである。このような感光性組成物は、比較的良好な現像性を示すものの露光部と未露光部の溶解度差が小さいためパターンの膜減りが大きく、また光感度も不充分である。しかも、これらの組成物は、ポリマー主鎖中に遊離カルボン酸が多量に存在するため、ポリマー自体の有する酸性によって主鎖が経時的に加水分解してしまい、保存安定性が極めて低いという欠点がある。
【0005】
特許文献6には、ポリアミド酸のカルボキシ基にグリシジルメタクリレートを作用させることによりエステル結合を介して感光基を導入する際に生成するエポキシ環由来の水酸基を、分子内環状酸無水物でブロックしたネガ型感光性材料が提案されている。しかしながら、同文献の感光性材料もポリマー中に遊離カルボン酸が多量に存在するため、主鎖および感光性側鎖の経時的な加水分解の影響で保存安定性が低いことが懸念される。加えて、このような感光性材料においては、感光基導入時の加熱によってイミド化反応が進んでしまい、目的のポリマーが得られないといった諸問題があった。
【0006】
さらに、スマートフォンに代表される通信端末のデータ通信量は増加の一途を辿っており、データ量の伝達を短時間で行うために、通信周波数の高周波化が進んでいる。通信周波数を高くするためには伝送損失を抑制する必要があり、低誘電率及び低誘電正接を有する材料が必要とされている。しかしながら、これまでに挙げたような特性と誘電特性を両立させることは困難であった。
【0007】
加えて、層間絶縁膜の形状の微細化が進んでおり、感光性材料の解像性が重要となっている。高い解像性を有することで電子部材の小型化や高機能化が達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-199557号公報
【特許文献2】特開平11-24271号公報
【特許文献3】特開平6-289626号公報
【特許文献4】特開平6-161102号公報
【特許文献5】特開平5-5995号公報
【特許文献6】特公平2-37934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、新規な不飽和二重結合を有する化合物を提供することである。
本発明の更なる目的は、当該新規化合物を含有する組成物、ポリベンゾオキサゾール及び半導体素子を提供することである。
本発明の更なる別の目的は、希薄アルカリ水溶液を用いた際に現像性と解像性に優れ、225℃以下の低温での加熱処理(又は光照射と225℃以下の加熱処理)であっても硬化膜(好ましくは熱特性及び電気的特性に優れた硬化膜)が得られる化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定構造の不飽和二重結合化合物の重合体(耐熱性樹脂)を用いることにより、225℃以下の低温での加熱処理(又は光照射と225℃以下の加熱処理)であっても、その分子内脱水閉環物であるポリベンゾオキサゾールを含む硬化膜が得られることを見出した。さらに、特定の繰り返し数(n)とすることで、前述の特性を保有したまま、解像性が優れる組成物が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の諸態様およびいくつかの好ましい実施形態は、以下のとおりである。
[1].
下記式(1)
【0012】
【化1】
【0013】
(式(1)中、Aは下記式(1-1)、(1-2)若しくは(1-3)
【0014】
【化2】
【0015】
(式(1-1)、(1-2)及び(1-3)中、環aはベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、Xは直接結合又は二価の連結基を表し、式(1)中にXが複数存在する場合、複数のXは互いに同じでも異なってもよい。Zは環aに結合した一価の置換基を表し、式(1)中にZが複数存在する場合、複数のZは互いに同じでも異なってもよい。p、q及びrは一価の置換基Zの数であって、p及びqはそれぞれ独立に0乃至3の整数を表し、rは0乃至2の整数を表し、式(1-1)中にpが複数存在する場合、複数のpはそれぞれ互いに同じでも異なってもよく、式(1-1)中にqが複数存在する場合、複数のqはそれぞれ互いに同じでも異なってもよく、式(1-2)及び式(1-3)中にrが複数存在する場合、複数のrはそれぞれ互いに同じでも異なってもよい。)
で表される二価の連結基、又は式(1-1)、(1-2)及び(1-3)以外の二価の連結基を表す。但し、Aの少なくとも一つは式(1-1)、(1-2)又は(1-3)で表される二価の連結基のいずれかである。Aは、飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基、芳香族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基、又は、飽和脂肪族ジカルボキシ化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基及び芳香族ジカルボキシ化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基以外の二価の連結基を表し、Aが複数存在する場合、複数のAは互いに同じでも異なってもよい。Aは水素原子、又は、メチル基を表す。nは繰り返し単位数の平均値であって、1≦n≦9の範囲にある実数である。)
で表される不飽和二重結合を有する化合物。
[2].
がそれぞれ独立して式(1-1)、(1-2)又は(1-3)のいずれかで表される二価の連結基である[1]に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
[3].
前記式(1-1)、(1-2)及び(1-3)中、環aの全てがベンゼン環である[1]又は[2]に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
[4].
1.0<n≦4.0である[1]乃至[3]に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
[5].
の少なくとも一つは飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基である[1]乃至[4]に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
[6].
が飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基である[1]乃至[5]に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
[7].
が飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基であり、一つのAの脂肪族に含まれる炭素数の平均が2乃至10の[1]乃至[6]に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
[8].
Xがそれぞれ独立に直接結合、又は下記式(a)乃至(f)
【0016】
【化3】
【0017】
のいずれかで表される二価の連結基である[1]乃至[7]のいずれか一項に記載の不飽和二重結合を有する化合物。
[9].
[1]乃至[8]のいずれか一項に記載の化合物及び光重合開始剤若しくは硬化触媒を含有する組成物。
[10].
[1]乃至[8]のいずれか一項に記載の不飽和二重結合を有する化合物及び不飽和二重結合と反応し得る化合物を含有する組成物。
[11].
[1]乃至[8]に記載の化合物を加熱して得られる分子内脱水閉環物であるポリベンゾオキソザール。
[12].
[11]に記載のポリベンゾオキサゾールを含む表面保護膜、層間絶縁膜、又は再配線層の絶縁膜を備える半導体素子。
[13].
[9]又は[10]に記載の組成物を基材で挟み込んで得られるドライフィルムレジスト。
【発明の効果】
【0018】
本発明の化合物は、アルカリ系の水溶液で現像可能であり、さらに優れた解像性を有し、該化合物から形成された重合体を用いることにより、225℃以下の低温での加熱処理(又は光照射と225℃以下の加熱処理)であっても、ポリベンゾオキサゾールを含む硬化膜を得ることができる。また、本発明の好ましい実施形態による硬化膜は、熱特性及び電気的特性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
本発明の不飽和二重結合を有する化合物(以下、単に「本発明の化合物」とも記載する)は下記式(1)で表される。
【0020】
【化4】
【0021】
式(1)中、Aは、それぞれ独立に、直接結合(式(1)中のAの両側に明記された2つのNHが、原子や二価の連結基等を介することなく直接結合した態様であり、本明細書において「直接結合」はこれと同じ意味で用いられる)、下記式(1-1)、(1-2)若しくは(1-3)で表される二価の連結基、又は式(1-1)、(1-2)並びに(1-3)以外の二価の連結基を表す。但し、複数存在するAの少なくとも一つは式(1-1)、(1-2)又は(1-3)で表される二価の連結基である。
【0022】
【化5】
【0023】
式(1-1)、(1-2)及び(1-3)中、環aはベンゼン環又はシクロヘキサン環を表す。Xは直接結合又は二価の連結基を表す。Zは環aの有する一価の置換基を表し、式(1)中にZが複数存在する場合、複数のZは互いに同じでも異なってもよい。p、q及びrは置換基Zの数であって、p及びqはそれぞれ独立に0乃至3の整数を表し、rは0乃至2の整数を表し、式(1-1)中にpが複数存在する場合、複数のpはそれぞれ互いに同じでも異なってもよく、式(1-1)中にqが複数存在する場合、複数のqはそれぞれ互いに同じでも異なってもよく、式(1-2)または式(1-3)中にrが複数存在する場合、複数のrはそれぞれ互いに同じでも異なってもよい。
【0024】
式(1)中に式(1-1)、(1-2)又は(1-3)で表される二価の連結基が複数存在する場合、式(1)中に複数存在する環aは全てがベンゼン環であってもよく、全てがシクロヘキサン環であってもよく、またベンゼン環とシクロヘキサン環の両者が混在していてもよい。複数存在する環aの全てがベンゼン環であることが好ましい。
【0025】
式(1-1)のXが表す二価の連結基とは、置換基を有していてもよい2-アミノフェノール化合物二つが二価の連結基で結合した公知のジアミン化合物又は置換基を有していてもよい2-アミノシクロヘキサノール化合物二つが二価の連結基で結合した公知のジアミン化合物の有する二価の連結基であれば特に限定されない。ジアミン化合物中の二価の連結基の一例を挙げると、例えば3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルの有する二価の連結基は酸素原子であり、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンの有する二価の連結基はメチレン基である。
式(1-1)のXが表す二価の連結基としては、最終的に得られる不飽和二重結合を有する化合物の溶解性や該不飽和二重結合を有する化合物を含む組成物(後述する)の硬化物の膜物性の観点から、下記式(a)乃至(f)の何れかで表される二価の連結基が好ましい。Xが表す二価の連結基の別の好ましい例としては、-O-Ph-O-が挙げられる。下記式(c)及び(d)の何れかで表される二価の連結基がより好ましい。
【0026】
【化6】
【0027】
式(1-1)におけるXとしては、直接結合、又は炭素原子、フッ素原子、硫黄原子及び酸素原子からなる群より選択される一種以上を含む二価の連結基が好ましい。直接結合、又は上記式(a)乃至(f)の何れかで表される二価の連結基がより好ましく、直接結合又は上記式(c)若しくは(d)で表される二価の連結基が更に好ましい。
【0028】
式(1-1)、(1-2)及び(1-3)のZが表す一価の置換基は特に限定されないが、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、脂肪族基、芳香族基、アセチル基、カルボキシ基、エステル基、アミド基、トリフルオロメチル基、イミド基又はウレア基が好ましい。Zが複数存在する場合、それぞれのZは互いに同じでも異なってもよい。
【0029】
式(1-1)、(1-2)及び(1-3)のZの好ましい態様であるハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、臭素原子、塩素原子及びヨウ素原子が挙げられる。フッ素原子が好ましい。
式(1-1)、(1-2)及び(1-3)のZの好ましい態様である脂肪族基とは、芳香性を持たない炭化水素化合物から水素原子を一つ除いた残基である。該炭化水素化合物は直鎖状、分岐鎖状又は環状の何れにも限定されず、これらの形状の複数を有する化合物であってもよい。
式(1-1)、(1-2)及び(1-3)のZの好ましい態様である脂肪族基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基並びにシクロヘキサン基等の炭素数1乃至6のアルキル基、プロペン等の炭素数1乃至6のアルケニル基、及びプロピン等の炭素数1乃至6のアルキニル基等が挙げられる。メチル基が好ましい。
【0030】
式(1-1)、(1-2)及び(1-3)のZの好ましい態様である芳香族基とは、芳香族化合物の芳香環から水素原子を一つ除いた残基である。該芳香族化合物は芳香性を有する化合物であれば、芳香族炭化水素化合物、芳香族複素環化合物、複素環縮合芳香族化合物等の何れにも限定されない。
式(1-1)、(1-2)及び(1-3)のZの好ましい態様である芳香族基の具体例としては、フェニル基及びナフチル基等が挙げられる。フェニル基が好ましい。
式(1-1)、(1-2)及び(1-3)のZの好ましい態様であるエステル基の具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基及びフェノキシカルボニル基が挙げられる。フェノキシカルボニル基が好ましい。
式(1-1)、(1-2)及び(1-3)のZの好ましい態様であるアミド基の具体例としては、-CONH、-CONH(CH)、-CONH(i-C)等のアルキルアミド基;ベンズアミド基、ナフトアミド基、p-t-ブチルベンズアミド基、o-クロロベンズアミド基及び-CON(Ph)等のアリールアミド基等が挙げられる。ベンズアミド基が好ましい。なお本明細書において、Phはフェニル基を示す。
式(1-1)、(1-2)及び(1-3)におけるZとしては、重合体の低温での分子内脱水閉環のしやすさから脂肪族基がより好ましい。
【0031】
式(1-1)、(1-2)及び(1-3)におけるp、q及びrとしては、それぞれ独立に0又は1の整数であることが好ましい。
【0032】
式(1-1)、(1-2)及び(1-3)のフェノール性水酸基は、水酸基の酸素原子を介して他の置換基へ変換することが可能であるが、フェノール性水酸基として残存していることが好ましい。フェノール性水酸基として50%以上残存していることがより好ましく、80%以上残存していることが更に好ましく、100%残存していることが最も好ましい。フェノール性水酸基が残存していることで、アルカリ系の水溶液での現像が可能になることに加えて、最終段階での硬化による閉環反応ができるため、電気的特性を悪化させず、硬化膜の強度を保つことができる。
【0033】
式(1)におけるAが表す式(1-1)、(1-2)及び(1-3)以外の二価の連結基とは、フェノール性水酸基を持たないジアミン化合物(但し、ヒドラジンは除く)から二つのアミノ基を除いた二価の連結基であれば特に限定されない。前記二価の連結基となり得るジアミン化合物としては、例えばフェノール性水酸基を持たない脂肪族ジアミン及びフェノール性水酸基を持たない芳香族ジアミン等が挙げられる。エチレンジアミン、1,3-プロバンジアミン及び1,4-ブタンジアミン等の直鎖脂肪族ジアミン、ノルボルナンジアミン及び1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環構造を有する脂肪族ジアミン、並びにダイマージアミン等の分岐構造を有する脂肪族ジアミン等の脂肪族ジアミンが好ましい。最終的に得られるビスマレイミド化合物の溶解性や該ビスマレイミド化合物を含む組成物の硬化膜の膜物性の観点からダイマージアミンが好ましい。
【0034】
ダイマージアミンとは、オレイン酸等の不飽和脂肪酸の二量体であるダイマー酸の有する二つのカルボキシ基を一級アミノ基に置換したものである(例えば、特開平9-12712号公報参照)。ダイマージアミンの市販品の具体例としては、PRIAMINE1074及びPRIAMINE1075(いずれもクローダジャパン株式会社製)、並びにバーサミン551(コグニスジャパン株式会社製)等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。以下、ダイマージアミンの非限定的な一般式を示す(各式において、m+n=6乃至17が好ましく、p+q=8乃至19が好ましく、破線部は炭素-炭素単結合又は炭素-炭素二重結合を意味する)。
【0035】
【化7】
【0036】
式(1)中のAにフェノール性水酸基を持たないジアミン化合物から二つのアミノ基を除いた二価の連結基や直接結合を導入する場合、最終的に得られる不飽和二重結合を有する化合物の溶解性や該不飽和二重結合を有する化合物を含む組成物の硬化膜の膜物性の観点から、フェノール性水酸基を持たないジアミン化合物由来の二価の連結基の導入量は全てのA中の30%以下であることが好ましい。尚、ここでいう「全てのA中の30%以下」とは、例えば、本発明の化合物が10個のAユニットを有する場合、直接結合及びフェノール性水酸基を持たないジアミン化合物由来の二価の連結基の数(平均)が1乃至3個であることを意味する。直接結合及びジアミン化合物由来の二価の連結基の導入量は、本発明の化合物を合成する際に用いるジアミン成分中のヒドラジン及びフェノール性水酸基を持たないジアミン化合物の含有量(モル%)で調整することができる。
【0037】
式(1)におけるAとしては、全てが式(1-1)、(1-2)及び(1-3)からなる群より選択される二価の連結基であるか、又は少なくとも一つが脂肪族ジアミン化合物からアミノ基を二つ除いた二価の連結基であって残りが式(1-1)、(1-2)及び(1-3)からなる群より選択される二価の連結基であることが好ましい。また、式(1)におけるAの全てが式(1-1)である場合、柔軟性に優れる。
【0038】
式(1)中、Aは、飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基、芳香族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基、又は、飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基及び芳香族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基以外の二価の連結基(以下、単に「その他の二価の連結基」と記載する)を表す。Aが複数存在する場合、複数のAは互いに同じでも異なってもよい。Aは飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基であることが好ましく、式(1)中、n=1の場合、Aは飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基であることが好ましく、式(1)中、n>1の場合、複数存在するAの少なくとも一つは飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基であることが好ましい。さらに、全てのAが飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基であることが最も好ましい。Aの少なくとも一つは飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基であることで、電気的特性に優れる不飽和二重結合を有する化合物とすることができる。
【0039】
式(1)中、Aのうち少なくとも一つは飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基であることで、電気的特性が優れる化合物となる。電気的特性のうち、誘電率(Dk)は2.7以下であることが好ましく、2.6以下であることがより好ましく、2.5以下であることが更に好ましい。誘電正接(Df)は0.010以下であることが好ましく、0.008以下であることがより好ましく、0.004以下であることが更に好ましい。DkとDfを小さくすることで、伝送損失を抑制することができる。
【0040】
前記飽和脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、エチルマロン酸、イソプロピルマロン酸、ジ-n-ブチルマロン酸、スクシン酸、テトラフルオロスクシン酸、メチルスクシン酸、2,2-ジメチルスクシン酸、2,3-ジメチルスクシン酸、グルタル酸、ヘキサフルオログルタル酸、2-メチルグルタル酸、3-メチルグルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジメチルグルタル酸、3-エチル-3-メチルグルタル酸、アジピン酸、オクタフルオロアジピン酸、3-メチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2,6,6-テトラメチルピメリン酸、スベリン酸、ドデカフルオロスベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ヘキサフルオロセバシン酸、1,9-ノナン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、ペンタコサン二酸、ヘキサコサン二酸、ヘプタコサン二酸、オクタコサン二酸、ノナコサン二酸、トリアコンタン二酸、ヘントリアコンタン二酸、ドトリアコンタン二酸、ジグリコール酸等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。脂肪族鎖中に酸素原子や硫黄原子のようなヘテロ原子を一部含んでもよい。
【0041】
これらの中でも、硬化膜の機械特性の観点から、飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の飽和脂肪族鎖の炭素数が4以上となるものが好ましい。炭素数が4以上20以下のものがより好ましく、炭素数が4以上10以下のものが更に好ましい。
飽和脂肪族鎖の炭素数が4以上であることによって、十分な機械特性を有する硬化膜を得ることができる。飽和脂肪族鎖の炭素数が20以下であることによって、当該化合物と他の成分との相溶性や化合物の重合体から形成されたポリベンゾオキサゾールの感光特性を良好に保つことができる。
【0042】
式(1)中、n>1の場合、複数あるAはそれぞれ独立して異なる飽和脂肪族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基、であってよい。この場合でも、好ましい炭素数は前項と同じである。
【0043】
前記芳香族ジカルボン酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’-ジカルボキシジフェニルスルホン、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸及び4,4’-スチルベンジカルボン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、イソフタル酸、および4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテルが、カルボキシ基を二つ除いた二価の連結基としたときに優れた膜物性や溶解性を示し、好ましい。これら化合物は単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。Aとして芳香族ジカルボン酸化合物からカルボキシ基を二つ除いた二価の連結基を導入することにより、式(1)で表される不飽和二重結合を有する化合物を含む組成物の硬化膜の熱特性および電気的特性などの膜物性が向上する。
【0044】
その他の二価の連結基となり得るジカルボン酸化合物としては、飽和脂肪族ジカルボン酸化合物及び芳香族ジカルボン酸化合物以外のジカルボン酸化合物であれば特に限定されないが、例えば不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物が挙げられる。前記のその他の二価の連結基となり得る不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4-ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0045】
は水素原子でもよいし、メチル基でもよいし、それらを組み合わせて使用してもよい。一般的にメチル基の方が透明性と低吸湿性に優れるため、メチル基であることが好ましい。
【0046】
式(1)で表される不飽和二重結合を有する化合物の平均繰り返し数(n)は1≦n≦9が好ましく、1.0<n≦4.0であることがより好ましい。
平均繰り返し数(n)が1以上の場合は、本発明の不飽和二重結合を有する化合物の製膜性に優れ、組成物に光照射した際のクラック(組成物層の割れ)が発生抑制でき、適切な構造体を得ることができる。また、平均繰り返し数(n)が9以下の場合は、不飽和二重結合の割合が適度に確保されるため、硬化性に優れる。ここで、平均繰り返し数(n)は合成時の仕込みモル比から算出される値である。例えば、ジアミンの仕込みモル数がジカルボン酸化合物の仕込みモル数の2.0倍であった場合、平均繰り返し数(n)は1.0となる。
【0047】
本発明の化合物の製造方法に特に制限はないが、ジアミノジフェノール化合物又はジアミノジフェノール化合物のベンゼン環を水素添加したシクロヘキサン環化合物(以下、ジアミノジフェノール化合物又はその水素添加物と称する)を含むジアミン化合物と、飽和脂肪族ジカルボン酸化合物または、芳香族ジカルボン酸化合物やその他のジカルボン酸化合物(例えば、不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物)を任意成分とするジカルボン酸化合物のジハライド誘導体とを、ジアミン化合物の過剰モル(平均繰り返し数(n)が1≦n≦9が好ましく、1.0<n≦4.0が更に好ましい)で脱塩酸反応させて脱塩酸反応物を得る;その後、前記で得られた脱塩酸反応物が両末端に有するアミノ基に、アクリル酸またはメタクリル酸のハライド誘導体を反応させる方法が一般的である。あるいは、この一般的な製造方法において、ジアミノジフェノール化合物をジアミノカテコール化合物(Aが式(1-2)または(1-3)である式(1)のビスマレイミド化合物に対応した製造原料)に置き換えることができる(以降の製造方法の説明においても同様)。アクリル酸またはメタクリル酸(以下アクリル酸類)のハライド誘導体は単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0048】
フェノール性水酸基を持たないジアミン類を併用して反応する場合は、反応に用いるジアミン化合物の合計モル数がジカルボン酸化合物のジハライド誘導体のモル数よりも過剰であり、平均繰り返し数(n)が1≦n≦9でありさえすれば、その反応の手順は特に限定されない。例えば、ジアミノジフェノール化合物又はその水素添加物とフェノール性水酸基を持たないジアミン類の両方を予め混合しておいてジカルボン酸化合物のジハライド誘導体と反応させてもよいし、先ず一方のみをジカルボン酸化合物のジハライド誘導体と反応させた後に他方を添加して反応させてもよい。
ジカルボン酸化合物のジハライド誘導体としてはジクロリド誘導体が好ましい。ジクロリド誘導体に変換する際に用いるハロゲン化剤としては、通常の酸クロリド化反応に使用される塩化チオニル、塩化オキサリル、塩化ホスホリル及び塩化リン等が挙げられる。ジカルボン酸化合物のジクロリド誘導体は市販品を用いてもよい。
また、脱塩酸反応物の両末端のアミノ基と反応させるアクリル酸類のハライド誘導体は、公知の手法で合成したものを用いても市販品を用いてもよい。合成したものを用いる場合は、ハロゲン化剤を用いてアクリル酸類をハロゲン化すればよい。
【0049】
本発明の化合物を製造する際に用いるジアミノジフェノール化合物又はその水素添加物としては、例えば下記化合物No.5乃至12、及び化合物No.5乃至12中のベンゼン環を水素添加したシクロヘキサン環化合物が挙げられる。これらジアミノジフェノール化合物又はその水素添加物は、単独で又は二種類以上組み合わせて用いることができる。
【0050】
【化8】
【0051】
ジカルボン酸化合物のジハライド誘導体とジアミン化合物又はその水素添加物との反応は、脱ハロゲン化剤の存在下、有機溶剤中で行うのが望ましい。脱ハロゲン化剤としては、通常、ピリジン、2-メチルピリジン及びトリエチルアミン等の有機塩基を用い得る。また、有機溶剤としては、スルホラン、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等を用い得る。溶媒を含めた反応系全体に対する反応成分群の濃度は特に限定されるものではないが、10乃至50質量%が好ましく、20乃至40質量%がより好ましい。
具体的な合成手順としては、ジアミン化合物を有機溶剤に溶解させ、そこにジカルボン酸化合物のジハライド誘導体を添加する。ジカルボン酸化合物のジハライド誘導体を添加する温度は-20乃至35℃が好ましく、-10乃至30℃がより好ましい。ジアミン化合物とジカルボン酸化合物のジハライド誘導体の反応温度は0乃至80℃が好ましく、10乃至40℃がより好ましい。また反応時間は30分間乃至24時間が好ましく、1乃至5時間がより好ましい。その後、続けてアクリル酸類のハライド誘導体を反応系に添加する。マレイミドカルボン酸のハライド誘導体を添加する温度は-20乃至20℃が好ましく、-10乃至10℃がより好ましい。その後の反応温度は0乃至30℃が好ましく、0乃至10℃がより好ましい。また反応時間は10分間乃至3時間が好ましく、30分間乃至2時間がより好ましい。反応終了後、得られた反応液に水を投入することにより、本発明のビスマレイミド化合物を得ることができる。
前記の手順で得られた化合物に、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、または中性水溶液、さらに有機溶剤等を用いることで不純物を除去することができる。
【0052】
尚、上記の説明はジジアミノジフェノール化合物又はその水素添加物を含むジアミン化合物、ジカルボン酸化合物のジハライド誘導体及びアクリル酸類のハライド誘導体を用いた本発明の化合物の製造方法についてであるが、別法として、ジアミノジフェノール化合物又はその水素添加物、ジカルボン酸化合物及びアクリル酸類を用いて、公知の脱水縮合反応で本発明の化合物を製造してもよい。
【0053】
次に、本発明の組成物について説明する。
本発明の第一の態様の組成物は、式(1)で表される本発明の不飽和二重結合を有する化合物の少なくとも1種、及び、光重合開始剤の少なくとも1種若しくは硬化触媒の少なくとも1種を含有する。
【0054】
本発明の第一の態様の組成物に用いられる光重合開始剤は、不飽和二重結合基を有する化合物の光硬化に用いられる従来公知の光重合開始剤であれば特に制限されない。光重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、2,2-ジメトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn-プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン=2-(O-ベンゾイルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、2,4-ジエチルチオキサントン等が挙げられる。これらの光重合開始剤としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
これらの中でも、半導体の保護膜等の製造工程に標準的に用いられている縮小投影露光機(ステッパー、光源波長:365nm、436nm)で微細なパターン形成ができるという観点から、露光波長310乃至436nm(より好ましくは365nm)において効率よくラジカルを発生するものを用いることが好ましい。好ましい光重合開始剤としては、例えば、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン=2-(O-ベンゾイルオキシム)(BASFジャパン製、「IRGACURE OXE-01」)、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)(BASFジャパン製、「IRGACURE OXE-02」)、2,4-ジエチルチオキサントン(日本化薬株式会社製、「DETX-S」)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン(IGM Resins B.V.製、「Omnirad 907」)が挙げられる。
光重合開始剤の使用量は、(これが使用される場合)式(1)で表される化合物100質量部に対して好ましくは0.1乃至20質量部、より好ましくは1乃至10質量部さらに好ましくは3乃至8質量部である。
【0056】
光重合開始剤を含有する第一の態様の組成物には増感剤を併用してもよい。併用し得る増感剤は従来公知のものであれば特に限定されないが、例えば4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
増感剤の使用量は、(これが使用される場合)式(1)で表される化合物100質量部に対して、2質量部以下が好ましく、0.05乃至0.5質量部がより好ましい。増感剤を併用することにより、自己重合の際の光に対する感度を高めることができる。
【0057】
本発明の第一の態様の組成物に用いられる硬化触媒は、加熱により本発明の式(1)で表される化合物が両末端に有するアクリル基またはメタクリル基(以下アクリル基類)の自己重合を促進し得るものであれば特に制限されず、従来用いられているものを適宜採用することができる。硬化触媒の具体例としては、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール及び1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール及びベンジルジメチルアミン等のアミン類、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン及びトリオクチルホスフィン等のホスフィン類、オクチル酸スズ、オクチル酸亜鉛、ジブチルスズジマレエート、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト及びオレイン酸スズ等の有機金属塩、塩化亜鉛、塩化アルミニウム及び塩化スズ等の金属塩化物、ジ-tert-ブチルパーオキサイド及びジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル及びアゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物、塩酸、硫酸及びリン酸等の鉱酸、三フッ化ホウ素等のルイス酸、炭酸ナトリウム及び塩化リチウム等の塩類などが挙げられる。
硬化触媒の使用量は、(これが使用される場合)式(1)で表される化合物100質量部に対して好ましくは10質量部以下、より好ましくは1乃至5質量部である。
【0058】
本発明の組成物には、必須成分である式(1)で表される不飽和二重結合を有する化合物、ならびに、任意選択の光重合開始剤および/または硬化触媒、あるいはアクリル基類と反応し得る化合物に加えて、その他の成分を併用してもよい。
本発明の組成物に併用し得るその他成分としては、有機溶剤、カップリング剤等の密着増強剤、熱可塑性樹脂、着色剤、増粘剤、熱重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤等の各種添加剤が挙げられる。
【0059】
有機溶剤としては、特に限定されないが、例えばγ-ブチロラクトン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ベンジル、n-ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、3-メチルメトキシプロピオネート、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ホルミルモルホリン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリルアミド、テトラメチレンスルホン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン及びメチルアミルケトン等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で又は2種以上併用して用いることができる。有機溶剤を併用することは、組成物のハンドリングが向上する点で好ましい態様である。
本発明の組成物における有機溶剤の含有量に特に制限はないが、通常は、(これが使用される場合)組成物中の溶剤の含有量が95質量%以下、好ましくは20乃至90質量%である。
【0060】
有機溶剤として3級アミン構造を含む化合物を添加すると、アクリル基類の反応が促進することができる。そのため、前述の有機溶剤のうち、3級アミン構造を含む化合物として、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ホルミルモルホリン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを単独、または、3級アミン構造を含まない化合物と併用して用いることが望ましい。
3級アミン構造を含まない化合物と併用して用いる場合は、それぞれの添加割合を特に制限されるものではないが、3級アミン構造を含む化合物は一般的に沸点が高いためスピンコート後の乾燥時間が長くなることから、3級アミン構造を含む化合物は溶媒中の50%以下であることが好ましい。
【0061】
密着増強剤としてのカップリング剤は、特に限定されないが、典型的にはシランカップリング剤であってよい。シランカップリング剤としては、特に限定されないが、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル・トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン及び3-ユレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
シランカップリング剤は、本発明の化合物等(化合物、自己重合物、ポリベンゾオキサゾール)とは未反応性のものであるため、基材界面で作用する成分以外は硬化後に残存成分として存在することになり得る。従って、密着増強剤としてのシランカップリング剤は、多量に使用すると物性低下などの望ましくない影響を及ぼす恐れがある。基材の種類によっては、少量でも効果を発揮する点から、望ましくない影響を及ぼさない範囲内での使用が適当である。シランカップリング剤の使用割合は、(これが使用される場合)組成物の総質量に対して通常は15質量%以下、0質量%超かつ5質量%以下が好ましいが、使用割合の上限は、基材の種類によって変動し得る。
【0062】
熱可塑性樹脂としては、例えばポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリカーボネート等が挙げられる。
着色剤としては、例えばフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アイオジン・グリーン、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラック等が挙げられる。
増粘剤としては、例えばオルベン、ベントン、モンモリロナイト等が挙げられる。
熱重合禁止剤としては、例えばヒドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-p-メチルフェノール等が挙げられる。
消泡剤としては、例えばシリコーン系、フッ素系および高分子系等の消泡剤が挙げられる。
これらの添加剤の使用量は、(これらが使用される場合)本発明の組成物中、例えば、それぞれ好ましくは30質量%以下が一応の目安であるが、使用目的に応じ適宜増減し得る。
【0063】
本発明の組成物には、例えば硫酸バリウム、チタン酸バリウム、酸化ケイ素、無定形シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、雲母粉等の無機充填剤を併用してもよい。無機充填剤の配合割合は、(これが使用される場合)本発明の組成物中に好ましくは60質量%以下である。
【0064】
本発明の組成物には、熱酸発生剤(熱潜在酸発生剤)や熱塩基発生剤(熱潜在塩基発生剤)を含んでもよい。熱酸発生剤や熱塩基発生剤を使用すると、ポリベンゾオキサゾール前駆体である式(2)のフェノール性水酸基含有ポリアミド構造(ベンゼン環が水添されてシクロヘキサン環を形成している場合は非フェノール性水酸基含有ポリアミド構造)が分子内脱水閉環反応を起こして環化する際の触媒として効率的に働くので好ましい。特に熱酸発生剤から発生する酸によって分子内脱水閉環反応を低温化でき、その際に得られる硬化膜は、高温で硬化したものと遜色ない性能が得られる。
【0065】
上記熱酸発生剤から発生する酸としては、強酸が好ましい。このような強酸としては、具体的には、例えば、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸のようなアリールスルホン酸、カンファ-スルホン酸、トリフルオロメチルスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸のようなアルキルスルホン酸が好ましい。これらの酸は、ポリベンゾオキサゾール前駆体である式(2)のフェノール性水酸基含有ポリアミド構造(ベンゼン環が水添されてシクロヘキサン環を形成している場合は非フェノール性水酸基含有ポリアミド構造)が分子内脱水閉環反応を起こして環化する際の触媒として効率的に働く。
【0066】
本発明の化合物及び当該化合物を含む組成物をドライフィルムレジストの形態で用いることもできる。即ち、本発明の化合物及び組成物を、ベースフィルム上にロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、バーコーター、グラビアコーター等を用いて塗布した後、45乃至140℃に設定した乾燥炉で乾燥し、所定量の溶剤を除去することにより、又必要に応じてカバーフィルム等を積層することによりドライフィルムレジストとすることができる。この際、ベースフィルム上のレジストの厚みは、2乃至200μmに調整される。ドライフィルムレジストを形成するために用いられる本発明の化合物及び組成物は、当該化合物を含むものである限り、上述のいずれのものであってもよいが、上記第1の態様の組成物が好ましい。ベースフィルム及びカバーフィルムとしては、例えばポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、TAC、ポリイミド等のフィルムが使用される。これらフィルムには、必要に応じてシリコーン系離型処理剤や非シリコーン系離型処理剤により処理されたフィルムを用いてもよい。ドライフィルムレジストとして供給すれば、支持体上への塗布、及び乾燥の工程を省略することが可能であり、より簡便に本発明の組成物を用いることができる。
【0067】
本発明のポリベンゾオキサゾールは、上記した本発明の重合体(自己重合物及び共重合物)の分子内脱水閉環物である。
本明細書及び添付した特許請求の範囲の全体において、環aがベンゼン環である場合だけでなく、ベンゼン環が水添されて形成されたシクロヘキサン環である場合も含めて、便宜上、式(2)で表される単位構造を有する重合体の分子内脱水閉環物を「ポリベンゾオキサゾール」と総称することとする。
本発明の重合体を分子内脱水閉環させる際の諸条件は、ポリベンゾオキサゾール前駆体を分子内脱水閉環反応によりポリベンゾオキサゾールとする際に通常用いられる諸条件であれば特に限定されない。分子内脱水閉環反応は、例えばホットプレート、オーブン、温度プログラムを設定できる昇温式オーブンを用いて行うことができる。分子内脱水閉環反応は空気中で行ってもよく、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
本発明の重合体の分子内脱水閉環反応は、有利なことに225℃以下の低温によって行うことができる。分子内脱水閉環反応の温度は、好ましくは225℃未満であってよく、より好ましくは215℃以下であってよい。
【0068】
本発明のポリベンゾオキサゾールを含む硬化膜は、半導体装置や多層配線板等の電子部品、有機EL表示装置に使用することができる。具体的には、この硬化膜は、半導体のパッシベーション膜、半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜、高密度実装用多層配線の層間絶縁膜、再配線層の絶縁膜、インダクタや、SAWフィルターなどの電子部品の層間絶縁膜、有機電界発光素子の絶縁膜や平坦層などの用途に好適に用いられるが、これに限定されず、様々な構造をとることができる。
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例中の「部」及び「%」は質量基準である。
【0070】
(実施例)合成例
実施例1(本発明の化合物の合成)
攪拌機及び温度計を備えた0.5リットルのフラスコにN-メチルピロリドン150部を仕込み、2,2’-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン22.0部及び2-メチルピリジン15.5部を添加して攪拌溶解し、30℃以下に保ちながらセバシン酸ジクロリド12.0部を15分間掛けて滴下した後、30℃で3時間攪拌を続けた。前記で得られた溶液を10℃以下に保ちながら、メタクリル酸クロリド2.5部を10分間掛けて滴下した後、1時間攪拌を続けた。前記で得られた溶液に0.25リットルの水を投入し、析出物を回収した。この析出物をアセトン150部で溶解させた後、攪拌している水1リットル中に滴下し析出物を回収した。その後、60℃のオーブンで1日間乾燥させることにより、本発明の化合物(a-1)を得た。化合物(a-1)のn(平均繰り返し数)は5.0であった。
【0071】
実施例2~12(本発明の化合物(化合物(a-2)乃至化合物(a-12))の合成)
各原料と添加量を合成例・比較合成例 表1の通りに変えた以外は合成例1と同様の条件で合成を行った。同材料で2つ以上の原料を使用する場合は、添加量が少ないものを加えた後、添加量が多いものを加えた。
【0072】
比較例1~5(比較例の化合物(化合物(c-1)乃至化合物(c-5))の合成)
各原料と添加量を合成例・比較合成例 表2の通りに変えた以外は合成例1と同様の条件で合成を行った。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
(実施例)
実施例13乃至24及び比較例6乃至10の組成物の調製
表3及び表4に示した部数で各成分を配合し、組成物を調製した。
【0076】
実施例13乃至24及び比較例6乃至10の組成物に用いた成分は下記の通りである。
a-1乃至a-12;実施例1乃至12で得られた化合物(a-1)乃至(a-12)
c-1乃至AC-5;比較例1乃至5で得られた化合物(c-1)乃至(c-3)
光重合開始剤:1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)(BASFジャパン製、「IRGACURE OXE-02」)
溶剤:シクロペンタノン及び4-ホルミルモルホリン
【0077】
(組成物の製膜性評価)
スピンコーターを用いて、実施例13乃至24及び比較例6乃至10で得られた各組成物をシリコン基板にそれぞれ塗布した後、95℃で5分間の条件で乾燥させてシリコン基板上に厚さ10μmの組成物層をそれぞれ形成した。その後、波長365nmにおける露光量が500mJ/cmで組成物層の全面に露光を行い、150℃で5分加熱をおこなった。組成物層の表面を目視で確認して下記の評価基準で製膜性を評価した。
〇;表面が平滑なもの。
×;表面が平滑でないもの。又はクラック(組成物層のひび割れ)が発生しているもの。
【0078】
(組成物の硬化性評価)
前項で得られた組成物層を有するシリコン基板を2.38%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(トクヤマ社製 トクソーSD-1)100部に1分間浸漬させた後、組成物層の表面を目視で確認して下記の評価基準で溶解性を評価した。結果を表3及び表4に示した。
〇;溶解していなかったもの
×;溶解していたもの
【0079】
(組成物の解像性評価)
スピンコーターを用いて、実施例13乃至24及び比較例6乃至10で得られた各組成物をシリコン基板にそれぞれ塗布した後、95℃で5分間の条件で乾燥させてシリコン基板上に厚さ10μmの組成物層をそれぞれ形成した。その後フォトマスクを用いて500mJ/cmでラインとスペースが1:1の幅のパターンで露光して、2.38%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(トクヤマ社製 トクソーSD-1)100部に1分間浸漬させた後、下記の評価基準で製膜性を評価した。
〇;最小解像度15μm未満
△;最小解像度15~30μm
×;最小解像度30μm以上
【0080】
実施例25(本発明の重合体膜及びベンゾオキサゾール膜の作製)
アプリケータを用いて、実施例13で得られた組成物を厚さ18μmの銅箔上に塗布した後、100℃で120分間の条件で乾燥させて銅箔上に厚さ20μmの組成物層をそれぞれ形成した。前記で得られた銅箔上の組成物層に、GSユアサ社製コンベアUV照射装置CS30L-1-1を用いて、波長365nmにおける露光量が1000mJ/cmとなるように露光を行い、次いで、150℃で60分間の条件で加熱することにより銅箔上に重合体膜をそれぞれ形成した。前記で得られた重合体膜を有する銅箔を225℃で120分間の条件で加熱することによって重合体の分子内脱水閉環反応を行った。その後、銅箔をエッチングによって除去することにより、本発明のベンゾオキサゾール膜を得た。
【0081】
実施例26乃至36及び比較例11乃至15(本発明の重合体膜並びにベンゾオキサゾール膜、及び比較用の硬化膜の作製)
実施例13で得られた組成物を実施例14乃至24及び比較例6乃至10で得られた組成物に変更した以外は実施例25と同じ方法で、本発明の重合体膜並びにベンゾオキサゾール膜、及び比較用の硬化膜をそれぞれ得た。
【0082】
(誘電特性(誘電率:Dk、誘電正接:Df)評価)
長さ60mm、幅3mmに切断した実施例9乃至12及び比較例7乃至9で得られたベンゾオキサゾール膜及び比較例の硬化膜をそれぞれ複数枚積層した後、シリカゲルが充填されたデシケータ中で12時間乾燥させることにより、膜厚50乃至300μmの試験片をそれぞれ作製した。測定器にAET社製ベクトル型ネットワークアナライザADMSO10c1を、空洞共振器に株式会社関東電子応用開発製CP531(10GHz帯共振器)を用いて、前記で得られた試験片の誘電特性を空洞共振器摂動法によりそれぞれ測定した。測定条件は、周波数10GHz、温度25℃とした。結果を表3及び表4に示した。
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
表3の結果によれば、実施例13乃至24の組成物は製膜性が良好であり、また、優れた硬化性と解像性を示した。さらに、これらの組成物を用いて得られた実施例25乃至36のベンゾオキサゾールは、225℃の加熱条件においても優れた誘電特性を示した。
一方、比較例6と8の組成物は硬化性が不十分であり、そのため、露光部もアルカリ現像液に溶解し、解像性は著しく低下した。さらに、比較例7と9の組成物は露光後にクラックが発生し、解像性は著しく低下した。組成物10はアルカリ現像性を示さなかった。
【0086】
本発明の式(1)で表される構造単位を有する重合体は、ネガ型のパターン形成能をもつ感光性ポリベンゾオキサゾール前駆体であり、パターン形成のためにアルカリ性水溶液を使用することが可能である。このため、これまで大量に発生していた有機溶剤の産業廃棄物を全廃することができる。また最終的に得られるポリベンゾオキサゾール膜は、成膜性と解像性に優れ、さらに225℃というより低温の加熱条件において形成されたものであるにもかかわらず、電気特性に優れている。そのため、この硬化膜は、通常使用されている半導体の表面保護膜、層間絶縁膜、及び再配線層の絶縁膜に使用することが可能になった。本発明は、感光性樹脂組成物に使用される樹脂骨格そのものと、その製造方法に関するものである。これらは全く新規の発明に基づくものであり、他に類のない非常に優れた発明であることが容易に理解できる。
本発明の上記の詳細な説明を考慮して、他の修正および変形が当業者に明らかになるであろう。しかしながら、そのような他の修正および変形は、本発明の本質および範囲から逸脱することなく実施され得ることは明らかである。