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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113566
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20240815BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20240815BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
F02D29/02 321C
F02D43/00 301Z
F02D43/00 301H
F02D43/00 301B
F02D43/00 301K
F02D45/00 362
F02D29/02 321B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018644
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】大橋 美貴典
(72)【発明者】
【氏名】田賀 淳一
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 賢一
【テーマコード(参考)】
3G093
3G384
【Fターム(参考)】
3G093AA01
3G093BA00
3G093BA21
3G093BA22
3G093BA33
3G093CA02
3G093DA03
3G093DA07
3G093DB05
3G093DB19
3G093EA05
3G093EA09
3G093EA13
3G093EA15
3G384AA01
3G384AA29
3G384BA05
3G384BA14
3G384BA24
3G384BA26
3G384CA02
3G384CA23
3G384DA15
3G384FA06Z
3G384FA08Z
3G384FA58Z
3G384FA79Z
(57)【要約】
【課題】エンジンの自動停止時の振動を抑制しつつ再始動時の着火性を確保する。
【解決手段】エンジンの制御装置は、吸気弁の位相を変更可能な位相可変装置と、所定の自動停止条件が成立した場合に、燃料カットを行ってエンジンを自動的に停止させる自動停止制御部と、所定の再始動条件が成立した場合に、膨張行程で停止した停止時膨張行程気筒に最初の燃料を噴射して燃焼させる再始動制御部とを備える。自動停止制御部は、燃料カット後のエンジン回転数が所定の第1回転数領域Iにある場合に、吸気閉弁時期が進角側の第1時期IV1になるように位相可変装置を制御し、燃料カット後のエンジン回転数が第1回転数領域Iよりも低い第2回転数領域IIにある場合に、吸気閉弁時期が遅角側の第2時期IV2になるように位相可変装置を制御する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの制御装置であって、
吸気弁の位相を変更可能な位相可変装置と、
所定の自動停止条件が成立した場合に、前記エンジンへの燃料供給を停止する燃料カットを行って前記エンジンを自動的に停止させる自動停止制御部と、
自動停止した前記エンジンを再始動させる再始動条件が成立した場合に、膨張行程で停止した停止時膨張行程気筒に最初の燃料を噴射して燃焼させる再始動制御部とを備え、
前記自動停止制御部は、
前記燃料カット後のエンジン回転数が所定の第1回転数領域にある場合に、前記位相可変装置を最大限遅角側に作動させたときの前記吸気弁の閉時期である最遅角時期よりも進角側に設定された第1時期で前記吸気弁が閉弁するように前記位相可変装置を制御し、
前記燃料カット後のエンジン回転数が前記第1回転数領域よりも低い第2回転数領域にある場合に、前記第1時期および吸気下死点のいずれよりも遅角側に設定された第2時期で前記吸気弁が閉弁するように前記位相可変装置を制御する、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの制御装置において、
前記第2時期は前記最遅角時期と同一である、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエンジンの制御装置において、
前記エンジンは、吸気通路に開閉可能に設けられたスロットル弁を備え、
前記自動停止制御部は、前記第1回転数領域において、前記スロットル弁の開度を前記燃料カット前よりも増大させる、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジンの制御装置において、
前記自動停止制御部は、前記第2回転数領域において、前記スロットル弁の開度を前記第1回転数領域のときよりも低下させる、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のエンジンの制御装置において、
前記自動停止制御部は、
前記第2回転数領域の前半部において、前記スロットル弁の開度を、前記第1回転数領域での開度よりも小さくかつ全閉よりも大きい範囲で、吸気圧に基づき可変的に設定し、
前記第2回転数領域の後半部において、前記スロットル弁の開度を全閉にする、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載のエンジンの制御装置において、
前記自動停止制御部は、前記第2回転数領域よりも低い第3回転数領域において、前記スロットル弁の開度を前記第2回転数領域のときよりも増大させる、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
前記エンジンは、車輪を回転駆動することが可能な電動モータと断接可能に接続されている、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの自動停止および再始動が可能な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの自動停止および再始動に関する技術として、下記特許文献1が知られている。具体的に、この特許文献1のエンジンの停止制御装置は、吸気弁の開閉時期を変更可能なバルブタイミング変更手段と、エンジンの自動停止条件が成立したときに吸気弁の開閉時期が最進角時期まで補正されるようにバルブタイミング変更手段を制御するバルブタイミング制御手段とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-95519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、自動停止条件の成立に伴い吸気弁の閉時期が最進角時期まで補正されるので、吸気弁が圧縮行程中に開弁する期間が短縮される結果、燃焼室から吸気ポートに吹き返される吸気の量が減少する。このことは、上記のような進角補正を行わなかった場合に比べて、気筒内で実際に圧縮される吸気の量つまり吸気充填量を多くする作用をもたらす。吸気充填量が多くなると、ピストンに作用する圧縮反力が増大し、このことが停止動作中のエンジン振動を増大させるおそれがある。
【0005】
また、自動停止したエンジンを良好に再始動するには、混合気の着火性を確保する必要がある。例えば、エンジンをクランキングするモータの所要トルクを軽減する等の目的で、膨張行程で停止した停止時膨張行程気筒で最初の燃焼を行う場合があるが、このような場合は混合気の着火性が特に問題になりやすい。すなわち、停止時膨張行程気筒の混合気は常圧に近い状態にあるため、十分な掃気を行って燃焼室内の既燃ガスの量を極力減らさないと、着火性が確保できない可能性がある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、自動停止時の振動を抑制しつつ再始動時の着火性を確保することが可能なエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのものとして、本発明のエンジンの制御装置は、吸気弁の位相を変更可能な位相可変装置と、所定の自動停止条件が成立した場合に、前記エンジンへの燃料供給を停止する燃料カットを行って前記エンジンを自動的に停止させる自動停止制御部と、自動停止した前記エンジンを再始動させる再始動条件が成立した場合に、膨張行程で停止した停止時膨張行程気筒に最初の燃料を噴射して燃焼させる再始動制御部とを備え、前記自動停止制御部は、前記燃料カット後のエンジン回転数が所定の第1回転数領域にある場合に、前記位相可変装置を最大限遅角側に作動させたときの前記吸気弁の閉時期である最遅角時期よりも進角側に設定された第1時期で前記吸気弁が閉弁するように前記位相可変装置を制御し、前記燃料カット後のエンジン回転数が前記第1回転数領域よりも低い第2回転数領域にある場合に、前記第1時期および吸気下死点のいずれよりも遅角側に設定された第2時期で前記吸気弁が閉弁するように前記位相可変装置を制御する、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、第1回転数領域での吸気閉弁時期が最遅角時期よりも進角側の第1時期に設定されるため、圧縮行程中に吸気弁が開弁する期間が短縮され、燃焼室に存在していた既燃ガスが吸気ポートに吹き返される量が減少する。このことは、吸気ポートから再び燃焼室に導入される既燃ガスの量、つまり内部EGR量を減少させる作用をもたらし、燃焼室の掃気性を向上させる。これにより、再始動時における混合気の着火性が向上するので、エンジンの円滑な再始動を図ることができる。
【0009】
特に、本発明では、エンジンの再始動時に停止時膨張行程気筒で最初の燃焼が行われるので、混合気の着火性が問題になり易い。すなわち、停止時膨張行程気筒の混合気は実質的に圧縮されていないため、内部EGR量が多くなると必要な着火性を確保できない可能性が高くなる。これに対し、第1回転数領域で吸気閉弁時期が進角寄りに設定される本発明では、内部EGR量の減少による着火性の改善が見込めるので、停止時膨張行程気筒での最初の燃焼を支障なく行わせることができ、エンジンを円滑に再始動することができる。
【0010】
さらに、本発明では、第1回転数領域よりも回転数が低い第2回転数領域での吸気閉弁時期が、前記第1時期および吸気下死点のいずれよりも遅角側の第2時期に設定されるので、圧縮行程中に吸気弁が開弁する期間が長くなり、燃焼室から吸気ポートへの吹き返し量が増大する。これにより、各気筒のピストンに作用する圧縮反力が減少するので、エンジンの軸トルクの変動幅を減少させることができ、エンジンの振動を抑制することができる。
【0011】
前記第2時期は、前記最遅角時期と同一であることが好ましい(請求項2)。
【0012】
この態様では、第2回転数領域での吸気閉弁時期が最遅角時期とされるので、各気筒の圧縮反力を減少させる上述した効果を最大化することができ、エンジンの振動を効果的に抑制することができる。
【0013】
好ましくは、前記エンジンは、吸気通路に開閉可能に設けられたスロットル弁を備え、前記自動停止制御部は、前記第1回転数領域において、前記スロットル弁の開度を前記燃料カット前よりも増大させる(請求項3)。
【0014】
このように、第1回転数領域でのスロットル弁の開度(以下、スロットル開度ともいう)を増大させた場合には、燃焼室に導入される新気の量を増やすことができ、掃気性をより向上させることができる。これにより、エンジンの再始動時における停止時膨張行程気筒での最初の燃焼を支障なく行わせることができ、円滑な再始動を図ることができる。
【0015】
好ましくは、前記自動停止制御部は、前記第2回転数領域において、前記スロットル弁の開度を前記第1回転数領域のときよりも低下させる(請求項4)。
【0016】
この態様では、第2回転数領域での吸気圧を、エンジンの振動低減に有利な所望の圧力付近にまで減少させることができ、エンジンの振動を抑制することができる。
【0017】
より具体的に、前記自動停止制御部は、前記第2回転数領域の前半部において、前記スロットル弁の開度を、前記第1回転数領域での開度よりも小さくかつ全閉よりも大きい範囲で、吸気圧に基づき可変的に設定し、前記第2回転数領域の後半部において、前記スロットル弁の開度を全閉にすることが好ましい(請求項5)。
【0018】
この態様では、第2回転数領域の前半部でスロットル開度が吸気圧に基づき調整されるので、その後に第2回転数領域の後半部に移行したときの吸気圧を安定させることができる。当該移行時の吸気圧が安定すれば、第2回転数領域の後半部でスロットル開度を一律に全閉にすることで、吸気圧を狙いのパターンに沿って低下させることができ、エンジンの振動を効果的に抑制することができる。
【0019】
好ましくは、前記自動停止制御部は、前記第2回転数領域よりも低い第3回転数領域において、前記スロットル弁の開度を前記第2回転数領域のときよりも増大させる(請求項6)。
【0020】
このように、第3回転数領域でのスロットル開度を増大させた場合には、エンジンが完全停止する少し前にエンジンのポンピングロスを減少させることができる。これにより、完全停止前の最後の圧縮上死点を迎える気筒のピストンが圧縮上死点を超え易くなり、エンジンのクランク軸をより正転方向に進めることができる。このことは、停止時膨張行程気筒のピストンと停止時圧縮行程気筒のピストンとを、圧縮上死点から同程度離れた位置で停止させることを可能にする。これにより、圧縮上死点を挟んだ2つの気筒の空気量がバランスするので、エンジンの再始動性を向上させることができる。
【0021】
前記エンジンは、車輪を回転駆動することが可能な電動モータと断接可能に接続されたものであってもよい(請求項7)。
【0022】
この態様では、エンジンと電動モータとを併用したハイブリッド車両を対象として、走行モードの切り替えに伴うエンジンの自動停止時にエンジンの振動を抑制することができ、かつその後のエンジンの再始動時に混合気の着火性を確保することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明のエンジンの制御装置によれば、自動停止時の振動を抑制しつつ再始動時の着火性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置が適用されたエンジンおよびこれを搭載した車両の概略構成を示すシステム図である。
図2】エンジンの構造を示す概略断面図である。
図3】車両の制御系統を示す機能ブロック図である。
図4】エンジン走行モードからモータ走行モードへの切り替えに伴い行われるエンジンの自動停止制御の前半部を示すフローチャートである。
図5】上記自動停止制御の後半部を示すフローチャートである。
図6】上記自動停止制御中に設定される吸気閉弁時期を示す図である。
図7】モータ走行モードからエンジン走行モードへの切り替えに伴い行われるエンジンの再始動制御の内容を示すフローチャートである。
図8】エンジンの自動停止制御に伴う各種状態量の時系列変化の一例を示すタイムチャートである。
図9】エンジンが完全停止したときのピストン位置の好適例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[車両の全体構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置が適用されたエンジン1およびこれを搭載した車両Vの概略構成を示すシステム図である。本図に示すように、車両Vは、エンジン1と、クラッチ30と、モータ31と、インバータ32と、バッテリ33と、変速機35と、差動装置36と、駆動輪37と、PCM50とを備える。エンジン1およびモータ31は、いずれも走行用の動力源として駆動輪37(車輪)を駆動することが可能である。すなわち、本実施形態における車両Vは、エンジン1とモータ31とを動力源として併用するハイブリッド車両である。
【0026】
エンジン1は、燃料の燃焼により出力を発生する内燃式のエンジンである。本実施形態では、ガソリンを主成分とする燃料(ガソリン燃料)を用いる4サイクルのガソリンエンジンが、エンジン1として用いられる。エンジン1の詳細については後述する。
【0027】
モータ31は、モータとしての機能と発電機としての機能とを兼ね備えたモータジェネレータである。例えば、モータ31は、三相交流同期型の電動モータからなる。モータ31は、車両Vの加速時等にモータとして作動し、駆動輪37を回転駆動するための駆動力を発生する。また、モータ31は、車両Vの減速時等に発電機として作動し、駆動輪37から伝達される回転力を受けて発電する。
【0028】
インバータ32は、交流電力から直流電力への変換、並びにその逆変換を行う変換器である。モータ31が発電機として作動する場合、インバータ32は、モータ31で生成された交流電力を直流電力に変換した上でバッテリ33に供給する。一方、モータ31がモータとして作動する場合、インバータ32は、バッテリ33に蓄えられた直流電力を交流電力に変換した上でモータ31に供給する。また、インバータ32は、モータ31とバッテリ33との間の電力授受制御を通じてモータ31の出力または発電量を調整する機能を有する。
【0029】
バッテリ33は、充放電可能な二次電池である。例えば、バッテリ33は、リチイムイオンバッテリもしくはニッケル水素バッテリからなる。バッテリ33は、インバータ32を介してモータ31に駆動電力を供給するとともに、モータ31で発電された電力をインバータ32を介して受け入れて蓄電する。
【0030】
バッテリ33には、当該バッテリ33に対する入出力電流を検出するバッテリセンサSN3が取り付けられている。バッテリセンサSN3により検出された電流値は、バッテリSOC、つまりバッテリ33のフル充電時の充電量に対する現在の充電量の割合を特定するために利用される。言い換えると、バッテリセンサSN3は、バッテリSOCを検出するためのセンサである。具体的に、PCM50は、バッテリセンサSN3の検出値に基づいてバッテリ33の単位時間当たりの充電量および放電量を算出し、これらを積算することでバッテリSOCを算出する。
【0031】
クラッチ30は、エンジン1とモータ31とを断接可能に連結するクラッチである。すなわち、クラッチ30は、エンジン1の出力軸(後述するクランク軸7)とモータ31の回転軸(ロータ軸)とを直列に連結し、またはその連結を解除する。クラッチ30が締結されてエンジン1とモータ31とが連結されると、エンジン1およびモータ31の双方のトルクが変速機35および差動装置36を介して駆動輪37に伝達される。一方、クラッチ30の締結が解除されると、モータ31とエンジン1とが切り離され、モータ31のトルクのみが駆動輪37に伝達される。
【0032】
変速機35は、エンジン1およびモータ31から入力される回転を変速して差動装置36に出力する。本実施形態では、変速機35は自動変速機であり、車速とエンジン回転数とに応じて変速段が自動的に変更される。差動装置36は、変速機35から入力される回転を左右の駆動輪37に分配する。
【0033】
変速機35には、車両Vの走行速度つまり車速を特定するための車速センサSN1が取り付けられている。具体的に、車速センサSN1は、変速機35の出力軸43の回転数を検出し、この検出値に基づいて車速が特定されるようになっている。
【0034】
車両Vには、運転者により踏み込み操作されるアクセルペダル39が設けられている。アクセルペダル39には、その踏込み量の程度を表すアクセル開度を検出するアクセルセンサSN2が取り付けられている。
【0035】
PCM50は、演算を行うプロセッサ(CPU)と、ROMおよびRAM等のメモリーと、各種の入出力バスと、を含むマイクロコンピュータを要部とする制御器である。PCM50は、エンジン1、モータ31、および変速機35を統括的に制御する。具体的に、PCM50は、車両Vの走行条件に応じた適切な駆動力が駆動輪37に伝達されるように、エンジン1の出力を制御するとともに、インバータ32を通じてモータ31の出力を制御し、さらには変速機35の変速段を制御する。
【0036】
[エンジンの構造]
図2は、エンジン1の構造を示す概略断面図である。エンジン1は、エンジン本体2と、吸気通路20と、排気通路27とを備える。
【0037】
エンジン本体2は、複数の気筒2aを有する多気筒型のものである。本実施形態では、エンジン本体2は直列6気筒型である。すなわち、エンジン本体2は、図2の紙面に直交する方向に並ぶ6つの気筒2aを有する。エンジン本体2は、当該6つの気筒2aを内部に画成するシリンダブロック3およびシリンダヘッド4と、各気筒2aに往復動可能に収容された6つのピストン5とを備える。
【0038】
各気筒2aのピストン5の上方には、それぞれ燃焼室Cが形成されている。各燃焼室Cは、シリンダヘッド4の下面と、気筒2aの側周面(シリンダライナ)と、ピストン5の上面(冠面)とによって画成された空間である。燃焼室Cには、後述するインジェクタ8からの噴射燃料が供給される。ピストン5は、燃焼室Cに供給された燃料の燃焼による膨張エネルギー(燃焼エネルギー)を受けて上下方向に往復運動する。
【0039】
ピストン5の下方には、クランク軸7が配設されている。クランク軸7は、エンジン1の出力軸であり、シリンダブロック3の下部に回転可能に支持されている。クランク軸7は、コネクティングロッド6を含むクランク機構を介して各気筒2aのピストン5と連結され、当該ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転する。
【0040】
シリンダブロック3には、クランク角センサSN4が取り付けられている。クランク角センサSN4は、クランク軸7の回転角であるクランク角と、クランク軸7の回転数であるエンジン回転数とを検出するためのセンサである。
【0041】
シリンダヘッド4には、インジェクタ8および点火プラグ9が取り付けられている。インジェクタ8は、各気筒2aの燃焼室Cに燃料を噴射する噴射弁である。点火プラグ9は、インジェクタ8から燃焼室Cに噴射された燃料と空気とを含む混合気に点火するプラグである。インジェクタ8および点火プラグ9は、各気筒2aに対しそれぞれ1組ずつ用意されている。
【0042】
シリンダヘッド4には、吸気ポート11および排気ポート12が形成されている。吸気ポート11は、各気筒2aの燃焼室Cと吸気通路20とを連通するポートである。排気ポート12は、各気筒2aの燃焼室Cと排気通路27とを連通するポートである。各気筒2aの吸気ポート11にはそれぞれ吸気弁13が設けられ、各気筒2aの排気ポート12にはそれぞれ排気弁14が設けられている。
【0043】
シリンダヘッド4には、吸気動弁機構15および排気動弁機構16が装備されている。吸気動弁機構15は、吸気弁13の上方に配置された吸気カムシャフト15aを含み、排気動弁機構16は、排気弁14の上方に配置された排気カムシャフト16aを含む。吸気カムシャフト15a、排気カムシャフト16a、およびクランク軸7は、例えばチェーンを含む動力伝達機構を介して互いに連結されている。すなわち、吸気動弁機構15および排気動弁機構16は、クランク軸7の回転に連動して各気筒2aの吸気弁13および排気弁14を開閉する。吸気弁13は、吸気動弁機構15の駆動に応じて吸気ポート11の燃焼室C側の開口を周期的に開閉し、排気弁14は、排気動弁機構16の駆動に応じて排気ポート12の燃焼室C側の開口を周期的に開閉する。
【0044】
吸気動弁機構15には、吸気SVT17が装備されている。吸気SVT17は、クランク軸7の回転位相に対する吸気カムシャフト15aの回転位相を変更することにより、吸気弁13の位相(開閉時期)を変更する装置である。なお、吸気SVT17は、本発明における「位相可変装置」に相当する。
【0045】
本実施形態において、吸気SVT17は、吸気弁13のリフト量および開弁期間を一定に維持したまま位相を変更するタイプ、換言すれば、吸気弁13の開時期および閉時期を同量ずつ変更するタイプの可変装置である。吸気SVT17によって位相が変更される吸気カムシャフト15aは、全ての気筒2aに共用のカムシャフトである。言い換えると、吸気SVT17は、吸気カムシャフト15aの回転位相を変更することにより、各気筒2aの吸気弁13の位相(開閉時期)を一括して変更する。
【0046】
吸気通路20は、各気筒2aの燃焼室Cに吸気を導入するための通路である。吸気通路20は、各気筒2aの燃焼室Cに吸気ポート11を介して連通するようにエンジン本体2に接続されている。具体的に、吸気通路20は、単管状の共通吸気管23と、共通吸気管23の下流端に接続されたサージタンク22と、複数(6つ)の気筒2aの各吸気ポート11とサージタンク22とを接続する複数(6つ)の独立吸気管21とを有する。
【0047】
共通吸気管23には、スロットル弁24が開閉可能に設けられている。スロットル弁24は、吸気通路20を流通する吸気の流量を調整するために開閉駆動される。
【0048】
サージタンク22には吸気圧センサSN5が設けられている。吸気圧センサSN5は、エンジン本体2(気筒2a)に導入される吸気の圧力つまり吸気圧を検出するセンサであり、サージタンク22の内部圧力を吸気圧として検出する。
【0049】
排気通路27は、各気筒2aの燃焼室Cから排出された排気ガスを外部に排出するための通路である。排気通路27は、各気筒2aの燃焼室Cに排気ポート12を介して連通するようにエンジン本体2に接続されている。排気通路27には、排気ガス中の有害成分を浄化するための触媒装置28が設けられている。
【0050】
[制御系統]
図3は、車両Vの制御系統を示す機能ブロック図である。本図に示すように、PCM50は、上述した車速センサSN1、アクセルセンサSN2、バッテリセンサSN3、クランク角センサSN4、および吸気圧センサSN5と電気的に接続されている。PCM50には、当該各センサにより検出された情報、つまり車速、アクセル開度、バッテリSOC、クランク角、エンジン回転数、および吸気圧等に相当する情報が逐次入力される。
【0051】
PCM50は、前記各センサSN1~SN5からの入力情報に基づいて車両Vの走行を制御する。すなわち、PCM50は、上述したエンジン1のインジェクタ8、点火プラグ9、吸気SVT17、およびスロットル弁24と電気的に接続されるとともに、上述したクラッチ30、モータ31、およびインバータ32と電気的に接続されている。PCM50は、これらの機器に対し、前記各センサSN1~SN5からの入力情報に基づく演算等を経て生成した制御信号を出力する。
【0052】
例えば、PCM50は、車速センサSN1により検出された車速と、アクセルセンサSN2により検出されたアクセル開度とに基づいて、駆動輪37に伝達すべきトルクである車両Vの要求トルクを都度算出するとともに、算出した当該要求トルクと、バッテリセンサSN3により検出されるバッテリSOCとに基づいて、車両Vの走行モードを決定する。そして、決定した走行モードに従って、エンジン1、クラッチ30、およびモータ31(インバータ32)を制御する。
【0053】
具体的に、車両Vの要求トルクが比較的小さく、かつバッテリSOCが比較的高い場合は、モータ走行モードが選択される。この場合、PCM50は、エンジン1を停止させるとともに、クラッチ30の締結を解除する。また、PCM50は、車両Vの要求トルクに相当するトルクをモータ31から出力させることにより、モータ31のみによって車両Vを走行させる。
【0054】
車両Vの要求トルクが比較的高いか、またはバッテリSOCが比較的低い場合は、エンジン走行モードが選択される。この場合、PCM50は、エンジン1を駆動する(燃焼を行わせる)とともに、クラッチ30を締結する。また、PCM50は、例えばエンジン1の出力トルクが車両Vの要求トルクに対し不足する場合にモータ31を駆動し、当該トルクの不足分に相当するアシストトルクをモータ31から出力させる。この場合、PCM50は、エンジン1およびモータ31の合計のトルクが車両Vの要求トルクに相当するように、エンジン1およびモータ31を制御する。一方、モータ31が駆動されない場合は、車両Vの要求トルクに相当するトルクをエンジン1から出力させることにより、エンジン1のみによって車両Vを走行させる。
【0055】
上記のような制御を実現するための機能要素の一部として、PCM50は、自動停止制御部51および再始動制御部52を有する。自動停止制御部51は、エンジン走行モードからモータ走行モードへの切り替えに伴いエンジン1を自動的に停止させるモジュールである。再始動制御部52は、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切り替えに伴い、停止したエンジン1を再始動させるモジュールである。
【0056】
[自動停止制御]
次に、上述したエンジン走行モードからモータ走行モードへの切り替え時の制御、特に当該切り替えに伴いエンジン1を自動的に停止させる制御(自動停止制御)の詳細について、図4および図5のフローチャートを用いて説明する。本図に示す制御は、エンジン走行モードによる走行中に実行される。つまり、本制御が実行される前提として、車両Vの走行モードはエンジン走行モードであるものとする。
【0057】
図4の制御がスタートすると、PCM50は、車両Vの走行モードをエンジン走行モードからモータ走行モードに切り替える要求が出されたか否かを判定する(ステップS1)。すなわち、PCM50は、エンジン走行モードでの走行中に、車速センサSN1、アクセルセンサSN2、およびバッテリセンサSN3の各検出値に基づいて、車両Vの走行モードを決定する条件パラメータ(例えば要求トルクやバッテリSOC等)を調べる。そして、当該条件パラメータがモータ走行モードに適合する条件に変化した時点で、エンジン走行モードからモータ走行モードへの切替要求が出されたと判定する。なお、エンジン走行モードからモータ走行モードへの切り替えは、エンジン1を自動的に停止させる制御(自動停止制御)を伴うから、ここでの切替要求の有無判定は、エンジン1の自動停止条件の成否を判定することと等価である。
【0058】
上記ステップS1でNOと判定されてモータ走行モードへの切替要求がないこと、換言すればエンジン1の自動停止条件の非成立が確認された場合、PCM50は、車両Vの走行モードをエンジン走行モードに維持する(ステップS17)。このとき、スロットル弁24の開度および吸気SVT17の作動角は、車両Vの要求トルク等に応じた適宜の値に制御される。
【0059】
一方、上記ステップS1でYESと判定されてモータ走行モードへの切替要求が確認された場合、つまりエンジン1の自動停止条件の成立が確認された場合、PCM50の自動停止制御部51は、クラッチ30の締結を解除してエンジン1とモータ31とを切り離す(ステップS2)。
【0060】
次いで、自動停止制御部51は、インジェクタ8から燃焼室Cへの燃料供給(燃料噴射)を停止する燃料カットを実行する(ステップS3)。この燃料カットによる燃焼の停止に伴い、エンジン回転数が低下し始める。
【0061】
次いで、自動停止制御部51は、吸気弁13の閉時期である吸気閉弁時期が予め定められた第1時期IV1になるように吸気SVT17を制御する(ステップS4)。図6に示すように、第1時期IV1は、吸気下死点(BDC)よりも遅角側で、かつ後述するステップS7で設定される第2時期IV2(最遅角時期)よりも進角側の時期である。例えば、第1時期IV1は、吸気下死点からクランク角で70°遅角側のABDC70°CAとすることができる。なお、自動停止条件が成立するときの吸気閉弁時期は、条件にもよるが、第1時期IV1よりも遅角側にあることが多い。この場合、自動停止制御部51は、吸気SVT17の作動角を燃料カット直前の作動角よりも進角させることにより、吸気閉弁時期を第1時期IV1に変更する。
【0062】
上記ステップS4と併せて、自動停止制御部51は、スロットル弁24の開度であるスロットル開度を予め定められた第1開度TV1に設定する(ステップS5)。第1開度TV1は、例えば25%程度とすることができる。なお、モータ走行モードへの切り替わりは、車両Vの要求トルクが比較的小さいときに行われるから、自動停止条件が成立するときのスロットル開度は比較的小さい。このため、当該ステップS5において、自動停止制御部51は、燃料カット直前よりも開度が増大するようにスロットル弁24を駆動し、これによってスロットル開度を第1開度TV1に変更する。
【0063】
次いで、自動停止制御部51は、クランク角センサSN4の検出値に基づいて、エンジン回転数が予め定められた第1回転数NE1未満まで低下したか否かを判定する(ステップS6)。第1回転数NE1は、例えば780rpm程度とすることができる。
【0064】
上記ステップS6でNOと判定されてエンジン回転数が第1回転数NE1以上であることが確認された場合、自動停止制御部51は、上記ステップS4,S5の制御を繰り返す。
【0065】
一方、上記ステップS6でYESと判定されてエンジン回転数が第1回転数NE1未満まで低下したことが確認された場合、自動停止制御部51は、吸気閉弁時期が予め定められた第2時期IV2になるように吸気SVT17を制御する(ステップS7)。図6に示すように、第2時期IV2は、上記第1時期IV1および吸気下死点(BDC)のいずれよりも遅角側の時期である。言い換えると、当該ステップS7において、自動停止制御部51は、吸気閉弁時期を第1時期IV1から第2時期IV2まで遅角させる。本実施形態において、第2時期IV2は、吸気SVT17の作動角を最大限遅角側にシフトさせたときの吸気閉弁時期である最遅角時期と同一である。例えば、第2時期IV2は、吸気下死点からクランク角で100°遅角側のABDC100°CA程度とすることができる。
【0066】
上記ステップS7と併せて、自動停止制御部51は、スロットル開度を第2開度TV2に設定する(ステップS8)。第2開度TV2は、上述した第1開度TV1よりも小さく、かつ全閉(0%)よりも大きい開度である。言い換えると、当該ステップS8において、自動停止制御部51は、スロットル開度を第1開度TV1から第2開度TV2まで低下させる。
【0067】
また、第2開度TV2は、吸気圧センサSN5により検出される吸気圧に基づき可変的に設定される。言い換えると、第2開度TV2は、第1開度TV1と全閉(0%)との間で吸気圧により変動する開度である。例えば、第2開度TV2は、吸気圧が標準的な値である場合において、3%程度とすることができる。この場合、吸気圧が標準値より高い条件での第2開度TV2は3%より小さくされ、吸気圧が標準値より低い条件での第2開度TV2は3%より大きくされる。
【0068】
次いで、自動停止制御部51は、エンジン回転数が予め定められた第2回転数NE2未満まで低下したか否かを判定する(ステップS9)。第2回転数NE2は、例えば500rpm程度とすることができる。
【0069】
上記ステップS9でNOと判定されてエンジン回転数が第2回転数NE2以上であることが確認された場合、自動停止制御部51は、上記ステップS7,S8の制御を繰り返す。
【0070】
一方、上記ステップS9でYESと判定されてエンジン回転数が第2回転数NE2未満まで低下したことが確認された場合、自動停止制御部51は、スロットル開度を全閉(0%)まで低下させる(S11)。吸気閉弁時期は変更されず、上記ステップS7で設定された第2時期IV2(最遅角時期)に維持される。
【0071】
次いで、自動停止制御部51は、エンジン回転数が予め定められた第3回転数NE3未満まで低下したか否かを判定する(ステップS12)。第3回転数NE3は、例えば160rpm程度とすることができる。
【0072】
上記ステップS12でNOと判定されてエンジン回転数が第3回転数NE3以上であることが確認された場合、自動停止制御部51は、上記ステップS11の制御を繰り返す。
【0073】
一方、上記ステップS12でYESと判定されてエンジン回転数が第3回転数NE3未満まで低下したことが確認された場合、自動停止制御部51は、スロットル開度を全開(100%)まで増大させる(S13)。吸気閉弁時期は変更されず、上記ステップS7で設定された第2時期IV2(最遅角時期)に維持される。
【0074】
次いで、自動停止制御部51は、エンジン1が完全停止したか否か、つまりエンジン回転数が実質的にゼロまで低下したか否かを判定する(ステップS14)。
【0075】
上記ステップS14でNOと判定されてエンジン1がまだ完全停止していないことが確認された場合、自動停止制御部51は、上記ステップS13の制御を繰り返す。
【0076】
一方、上記ステップS14でYESと判定されてエンジン1が完全停止したことが確認された場合、自動停止制御部51は、吸気閉弁時期およびスロットル開度を停止時の要求値に設定する(ステップS15)。なお、停止時の要求値は、エンジン1の再始動を考慮して予め定められている。すなわち、当該ステップS15において、自動停止制御部51は、吸気閉弁時期およびスロットル開度を、エンジン1の再始動に適した時期および開度にそれぞれ設定する。
【0077】
[再始動制御]
次に、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切り替え時の制御、特に当該切り替えに伴いエンジン1を再始動させる制御(再始動制御)の詳細について、図7のフローチャートを用いて説明する。本図に示す制御は、モータ走行モードによる走行中に実行される。つまり、本制御が実行される前提として、車両Vの走行モードはモータ走行モードであるものとする。
【0078】
図7の制御がスタートすると、PCM50は、車両Vの走行モードをモータ走行モードからエンジン走行モードに切り替える要求が出されたか否かを判定する(ステップS21)。すなわち、PCM50は、モータ走行モードでの走行中に、車速センサSN1、アクセルセンサSN2、およびバッテリセンサSN3の各検出値に基づいて、車両Vの走行モードを決定する条件パラメータ(例えば要求トルクやバッテリSOC等)を調べる。そして、当該条件パラメータがエンジン走行モードに適合する条件に変化した時点で、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切替要求が出されたと判定する。なお、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切り替えは、エンジン1を再始動させる制御(再始動制御)を伴うから、ここでの切替要求の有無判定は、エンジン1の再始動条件の成否を判定することと等価である。
【0079】
上記ステップS21でNOと判定されてエンジン走行モードへの切替要求がないこと、換言すればエンジン1の再始動条件の非成立が確認された場合、PCM50は、車両Vの走行モードをモータ走行モードに維持する(ステップS30)。これにより、エンジン1の停止状態が継続される。
【0080】
一方、上記ステップS21でYESと判定されてエンジン走行モードへの切替要求が確認された場合、つまりエンジン1の再始動条件の成立が確認された場合、PCM50の再始動制御部52は、停止時膨張行程気筒のインジェクタ8に燃料を噴射させる(ステップS22)。停止時膨張行程気筒とは、上述した自動停止制御によりエンジン1が停止した時点で膨張行程にあった気筒のことである。再始動制御部52は、この停止時膨張行程気筒で再始動のための最初の燃焼を行わせるべく、停止時膨張行程気筒のインジェクタ8に燃料を噴射させる。この燃料噴射により、停止時膨張行程気筒の燃焼室Cには、燃料と空気とを含む混合気が形成される。
【0081】
次いで、再始動制御部52は、停止時膨張行程気筒の点火プラグ9に火花を発生させて、当該気筒の燃焼室Cに形成された上記混合気に点火する(ステップS23)。点火は、上記ステップS22による燃料噴射から間もないタイミングで行われる。この点火をきっかけに、停止時圧縮行程気筒で混合気が燃焼し、当該燃焼による膨張力が停止時膨張行程気筒のピストン5を押し下げてエンジン1に回転力を付与する。
【0082】
次いで、再始動制御部52は、クラッチ30を締結し(ステップS24)、エンジン1のクランキングを開始する(ステップS25)。すなわち、再始動制御部52は、クラッチ30を締結してエンジン1とモータ31とを連結するとともに、締結されたクラッチ30を介してモータ31のトルクをエンジン1に伝達することにより、エンジン1に回転力を付与する。付与された回転力は、上述した停止時圧縮行程気筒での燃焼による回転力に上乗せされる。このことは、始動開始後の最初の圧縮上死点を迎える気筒(停止時圧縮行程気筒)のピストン5を加速させ、当該ピストン5が圧縮上死点を乗り越えることを可能にする。なお、トルクの急な伝達によるショックを避けるため、少なくともクランキングの初期におけるクラッチ30の締結は、エンジン1の出力軸(クランク軸7)とモータ31の回転軸との相対回転を許容するような比較的弱い締結力による締結(半締結)とされる。
【0083】
次いで、再始動制御部52は、停止時膨張行程気筒以外の気筒に対し順次燃焼を行わせる(ステップS26)。燃焼は、圧縮上死点を迎える気筒順に行われる。具体的に、再始動制御部52は、エンジン1が停止した時点で圧縮行程にあった停止時圧縮行程気筒が圧縮上死点を迎えるタイミング付近で当該気筒に燃焼を行わせ、その後、他の気筒に対しても同様に、圧縮上死点を迎えるタイミング付近で燃焼を行わせる。
【0084】
次いで、再始動制御部52は、エンジン1が完爆したか否かを判定する(ステップS27)。例えば、再始動制御部52は、エンジン回転数が予め定められた規定回転数を超えた時点で、エンジン1が完爆した、つまりエンジン1の再始動が完了したと判定する。
【0085】
上記ステップS27でNOと判定されてエンジン1が未だ完爆していないことが確認された場合、再始動制御部52は、上記ステップS26の制御を繰り返す。
【0086】
一方、上記ステップS27でYESと判定されてエンジン1が完爆したことが確認された場合、再始動制御部52は、車両Vの要求トルクに応じてエンジン1の燃焼を制御する(ステップS28)。すなわち、再始動制御部52は、車両Vの要求トルクからモータ31の出力トルクを差し引いたトルクがエンジン1から出力されるように、エンジン1の燃焼を制御する。
【0087】
[動作例]
図8は、エンジン1の自動停止制御に伴う各種状態量の時系列変化の一例を示すタイムチャートである。本図では、車両Vの走行モードがエンジン走行モードからモータ走行モードに切り替わった時点、換言すればエンジン1の自動停止条件が成立した時点を、時点t0としている。この時点t0からやや遅れた時点t1において、クラッチ30の締結が解除されるとともに、時点t1からやや遅れた時点t2において、燃料噴射を停止する燃料カット(F/C)が実行される。また、当該燃料カットと併せて、吸気閉弁時期が第1時期IV1(例えばABDC70°CA)に向けて進角されるとともに、スロットル開度が第1開度TV1(例えば25%)に向けて増大される。このようなスロットル開度の増大を含む制御は、吸気圧の上昇をもたらす。時点t2以降に吸気圧が上昇しているのはこのためである。
【0088】
時点t2から遅れた時点t3において、エンジン回転数は第1回転数NE1(例えば780rpm)まで低下する。この回転低下を受けて、吸気閉弁時期が最遅角の第2時期IV2(例えばABDC100°CA)に向けて遅角されるとともに、スロットル開度が第2開度TV2(例えば3%前後)に向けて低下される。第2開度TV2は、時点t3以降のエンジン回転数の値に応じて適宜増減される。
【0089】
時点t3から遅れた時点t4において、エンジン回転数は第2回転数NE2(例えば500rpm)まで低下する。この回転低下を受けて、スロットル開度が全閉(0%)に向けて低下される。
【0090】
時点t4から遅れた時点t6において、エンジン回転数は第3回転数NE3(例えば160rpm)まで低下する。この回転低下を受けて、スロットル開度が全開(100%)に向けて増大される。この状態は、エンジン1が完全停止する時点、つまりエンジン回転数がゼロになる時点t7まで継続される。
【0091】
以上のように、本実施形態では、燃料カット後のエンジン回転数の値によって吸気閉弁時期およびスロットル開度が異なる態様で制御される。ここで、燃料カットの実行時点t2以降のエンジン回転数を、吸気閉弁時期およびスロットル開度の制御の相違によって3つの領域に区分し、それぞれ第1回転数領域I、第2回転数領域II、第3回転数領域IIIと定義する。第1回転数領域Iは、燃料カットが実行される時点t2での回転数から、その後の時点t3での回転数(第1回転数NE1)までの領域である。第2回転数領域IIは、時点t3での回転数(第1回転数NE1)から時t6での回転数(第3回転数NE3)までの領域である。第3回転数領域IIIは、時点t6での回転数(第3回転数NE3)から時点t7での回転数(ゼロ)までの領域である。
【0092】
さらに、第2回転数領域IIを2つに分割し、それぞれ第2回転数前半領域II-1、第2回転数後半領域II-2と定義する。第2回転数前半領域II-1は、時点t3での回転数(第1回転数NE1)から時t4での回転数(第2回転数NE2)までの領域であり、第2回転数後半領域II-2は、時点t4での回転数(第2回転数NE2)から時t6での回転数(第3回転数NE3)までの領域である。なお、第2回転数前半領域II-1は、本発明における「第2回転数領域の前半部」に相当し、第2回転数後半領域II-2は、本発明における「第2回転数領域の後半部」に相当する。
【0093】
図8および先の図4図5に示した制御の内容より、本実施形態では、吸気閉弁時期およびスロットル開度の回転数領域ごとの制御を、次のようにまとめることができる。
【0094】
(第1回転数領域)
第1回転数領域Iでは、吸気閉弁時期が最遅角時期(第2時期IV2)よりも進角側の第1時期IV1に設定される。スロットル開度は、燃料カット前の開度よりも大きい第1開度TV1に設定される。
【0095】
(第2回転数領域)
第1回転数領域Iよりも回転数が低い第2回転数領域IIでは、吸気閉弁時期が最遅角の第2時期IV2に設定される。スロットル開度は、第1開度TV1よりも小さい値に設定される。詳しくは、スロットル開度は、第2回転数前半領域II-1において、第1開度TV1よりも小さくかつ全閉よりも大きい範囲で、吸気圧に基づき可変的に設定される。また、第2回転数後半領域II-2では、スロットル開度は全閉にされる。
【0096】
(第3回転数領域)
第2回転数領域IIよりも回転数が低い第3回転数領域IIIでは、吸気閉弁時期が最遅角の第2時期IV2に設定されるとともに、スロットル開度が全開にされる。
【0097】
[作用効果]
以上説明したとおり、本実施形態では、エンジン1の自動停止条件(エンジン走行モードからモータ走行モードへの切替要求)が成立すると、エンジン1への燃料供給を停止する燃料カットが実行されるとともに、当該燃料カット後のエンジン回転数に基づき吸気閉弁時期を進角または遅角させる制御が実行される。具体的には、エンジン回転数が第1回転数領域Iにある場合に、吸気弁13がその最遅角時期よりも進角側の第1時期IV1で閉弁するように吸気SVT17が制御され、エンジン回転数が第1回転数領域Iよりも低い第2回転数領域IIにある場合に、第1時期IV1および吸気下死点のいずれよりも遅角側に設定された第2時期IV2で吸気弁13が閉弁するように吸気SVT17が制御される。このような構成によれば、自動停止時のエンジン1の振動を抑制しつつ再始動時の着火性を確保できるという利点がある。
【0098】
すなわち、本実施形態では、第1回転数領域Iでの吸気閉弁時期が最遅角時期よりも進角側の第1時期IV1に設定されるため、圧縮行程中に吸気弁13が開弁する期間が短縮され、燃焼室Cに存在していた既燃ガスが吸気ポート11に吹き返される量が減少する。このことは、吸気ポート11から再び燃焼室Cに導入される既燃ガスの量、つまり内部EGR量を減少させる作用をもたらし、燃焼室Cの掃気性を向上させる。これにより、再始動時における混合気の着火性が向上するので、エンジン1の円滑な再始動を図ることができる。
【0099】
特に、本実施形態では、エンジン1の再始動時に停止時膨張行程気筒で最初の燃焼が行われるので、混合気の着火性が問題になり易い。すなわち、停止時膨張行程気筒の混合気は実質的に圧縮されていないため、内部EGR量が多くなると必要な着火性を確保できない可能性が高くなる。これに対し、第1回転数領域Iで吸気閉弁時期が進角寄りに設定される本実施形態では、内部EGR量の減少による着火性の改善が見込めるので、停止時膨張行程気筒での最初の燃焼を支障なく行わせることができ、エンジン1を円滑に再始動することができる。また、停止時膨張行程気筒で最初の燃焼を行うことは、エンジン1をクランキングするモータ31の所要トルクを軽減し、モータ31の消費電力の減少につながる。これにより、モータ走行モードを選択できる機会が増えるので、エネルギー効率をトータル的に高めることができる。
【0100】
さらに、本実施形態では、第1回転数領域Iよりも回転数が低い第2回転数領域IIでの吸気閉弁時期が、第1時期IV1および吸気下死点のいずれよりも遅角側の第2時期IV2に設定されるので、圧縮行程中に吸気弁13が開弁する期間が長くなり、燃焼室Cから吸気ポート11への吹き返し量が増大する。これにより、各気筒2aのピストン5に作用する圧縮反力が減少するので、エンジン1の軸トルクの変動幅を減少させることができ、エンジン1の振動を抑制することができる。
【0101】
特に、本実施形態では、第2回転数領域IIでの吸気閉弁時期が、吸気SVT17の作動角を最大限遅角側にシフトさせたときの吸気閉弁時期である最遅角時期に設定されるので、各気筒2aの圧縮反力を減少させる上述した効果を最大化することができ、エンジン1の振動を効果的に抑制することができる。
【0102】
また、本実施形態では、第1回転数領域Iでのスロットル開度が、燃料カット前の開度よりも大きい第1開度TV1に設定されるので、燃焼室Cに導入される新気の量を増やすことができ、掃気性をより向上させることができる。これにより、エンジンの再始動時における停止時膨張行程気筒での最初の燃焼を支障なく行わせることができ、円滑な再始動を図ることができる。
【0103】
また、本実施形態では、第2回転数領域IIでのスロットル開度が、第1回転数領域Iでのスロットル開度よりも低下されるので、第2回転数領域IIでの吸気圧を所望の圧力付近まで減少させることができ、エンジン1の振動を抑制することができる。
【0104】
すなわち、本願発明者等の知見によれば、停止動作中のエンジン1の振動は、エンジン回転数が所定回転数NEx(図8)まで低下した時点t5での吸気圧に大きく影響される。所定回転数NExは、エンジンの共振周波数に対応する回転数(例えば300rpm)であって、第2回転数領域IIに含まれる。この所定回転数NEx(時点t5)での吸気圧をある目標値付近に収めることが、エンジン1の振動を抑制する上で重要である。上述した第2回転数領域IIでのスロットル開度の低下は、所定回転数NExでの吸気圧を上記目標値付近まで低下させる作用をもたらし、その結果としてエンジン1の振動を抑制することができる。
【0105】
特に、本実施形態では、第2回転数領域IIの中でも相対的に回転数が高い第2回転数前半領域II-1において、第1開度TV1よりも小さくかつ全閉よりも大きい範囲でスロットル開度が吸気圧に基づき可変的に設定されるとともに、第2回転数領域IIの中でも相対的に回転数が低い第2回転数後半領域II-2において、スロットル開度が全閉にされるので、上記所定回転数NExでの吸気圧を目標値付近に精度よく収めることができる。
【0106】
すなわち、第2回転数前半領域II-1でスロットル開度が吸気圧に基づき調整されることにより、その後に第2回転数後半領域II-2に移行したときの吸気圧を安定させることができる。例えば、図8の吸気圧のグラフにおいて一点鎖線の波形で示すように、燃料カット以降の吸気圧が比較的高かった場合には、第2回転数前半領域II-1でのスロットル開度を小さくする(全閉に近づける)ことにより、吸気圧の減少速度を速めることができる。これにより、第2回転数後半領域II-2への移行時の吸気圧が、吸気圧が標準的であった場合(実線波形)の圧力と同等になる。このように、第2回転数後半領域II-2への移行時の吸気圧が安定すれば、第2回転数後半領域II-2でスロットル開度を一律に全閉にすることで、吸気圧を狙いのパターンに沿って低下させることができる。これにより、第2回転数後半領域II-2に含まれる上記所定回転数NExでの吸気圧を目標値付近に精度よく収めることができ、エンジン1の振動を効果的に抑制することができる。
【0107】
また、本実施形態では、第2回転数領域IIよりも回転数が低い第3回転数領域IIIにおいてスロットル開度が全開にされるので、エンジン1が完全停止したときのピストン5の位置であるピストン停止位置を再始動に適したものとすることができ、エンジン1の再始動性を向上させることができる。すなわち、第3回転数領域IIIでスロットル開度が全開にされることにより、エンジン1が完全停止する少し前にエンジン1のポンピングロスを十分に減少させることができる。これにより、完全停止前の最後の圧縮上死点を迎える気筒のピストン5が圧縮上死点を超え易くなり、エンジン1のクランク軸7をより正転方向に進めることができる。このことは、停止時膨張行程気筒のピストン5と停止時圧縮行程気筒のピストン5とを、圧縮上死点から同程度離れた位置で停止させることを可能にする。これにより、圧縮上死点を挟んだ2つの気筒2aの空気量がバランスするので、エンジン1の再始動性を向上させることができる。
【0108】
例えば、本実施形態のような6気筒エンジンの場合は、図9に示すように、停止時膨張行程気筒のピストン5を、圧縮上死点から60°遅角側のATDC60°CA付近で停止させることができるとともに、停止時圧縮行程気筒のピストン5を、圧縮上死点から60°進角側のBTDC60°CA付近で停止させることができる。この場合、他の気筒2aのピストン5は、停止時膨張行程気筒と同位相のATDC60°CA付近か、停止時圧縮行程気筒と同位相のBTDC60°CA付近か、下死点(BDC)付近か、のいずれかで停止していることになる。このような位置関係でピストン5が停止することにより、各気筒2aの空気量がバランスし、エンジン1の再始動が容易になる。
【0109】
[変形例]
上記実施形態では、エンジン1の自動停止制御の一環として、燃料カット後のエンジン回転数が第2回転数領域IIにあるときの吸気閉弁時期を、吸気SVT17の作動角を最大限遅角側にシフトさせたときの吸気閉弁時期である最遅角時期と同一の第2時期IV2に設定したが、第2回転数領域IIでの吸気閉弁時期(第2時期IV2)は、吸気下死点から十分に遅角したタイミング、換言すればピストン5に作用する圧縮反力の減少効果が有意に得られるようなタイミングであればよく、必ずしも最遅角時期である必要はない。例えば、最遅角時期から少し進角したタイミングを第2時期IV2としてもよい。
【0110】
上記実施形態では、第2回転数領域IIよりも回転数が低い第3回転数領域IIIでのスロットル開度を全開(100%)に設定したが、第3回転数領域IIIでのスロットル開度は、少なくとも第2回転数領域IIでのスロットル開度よりもある程度大きければよく、必ずしも全開である必要はない。
【0111】
上記実施形態では、吸気弁13の位相を変更する位相可変装置として、吸気弁13のリフト量および開弁期間を一定に維持したまま位相を変更するタイプの位相可変装置である吸気SVT17を用いたが、これに代えて、バルブ位相と併せてリフト量または開弁期間を変更するタイプの位相可変装置を用いてもよい。
【0112】
上記実施形態では、ガソリンエンジンからなるエンジン1と電動式のモータ31とを併用したハイブリッド型の車両Vに本発明を適用した例について説明したが、本発明は、走行用の動力源としてエンジンのみを用いるエンジン車にも適用可能である。すなわち、エンジン車では、車両の停止時にエンジンを自動的に停止させるアイドリングストップが採用されることが多いが、このようなアイドリングストップ式の車両にも本発明を好適に適用することができる。
【0113】
さらに、本発明を適用可能なエンジンは、上記実施形態のような6気筒型のエンジンに限られない。4気筒型や3気筒型など、種々の気筒数のエンジンに本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0114】
1 エンジン
2a 気筒
17 吸気SVT(位相可変装置)
24 スロットル弁
31 モータ(電動モータ)
37 駆動輪(車輪)
51 自動停止制御部
52 再始動制御部
IV1 第1時期
IV2 第2時期
I 第1回転数領域
II 第2回転数領域
II-1 第2回転数前半領域(第2回転数領域の前半部)
II-2 第2回転数後半領域(第2回転数領域の後半部)
III 第3回転数領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9