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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113567
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/06 20060101AFI20240815BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20240815BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20240815BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20240815BHJP
   B60W 20/20 20160101ALI20240815BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20240815BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20240815BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240815BHJP
   F16D 25/0638 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/54
B60W10/02 900
B60W20/20
F02D29/02 321B
F02D43/00 301B
F02D43/00 301J
F02D43/00 301V
F02D45/00 362
F16D25/0638
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018645
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】大橋 美貴典
(72)【発明者】
【氏名】田賀 淳一
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智史
(72)【発明者】
【氏名】引地 勇気
【テーマコード(参考)】
3D202
3G093
3G384
3J057
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB05
3D202BB37
3D202BB64
3D202CC35
3D202CC37
3D202CC42
3D202CC85
3D202DD16
3D202DD41
3D202FF04
3D202FF13
3G093AA01
3G093BA02
3G093CA01
3G093DA07
3G093EA05
3G093EA13
3G384AA01
3G384AA28
3G384BA18
3G384BA24
3G384BA39
3G384CA01
3G384DA22
3G384FA16Z
3G384FA52Z
3G384FA58Z
3J057AA03
3J057BB04
3J057GA27
3J057GA65
3J057GA66
3J057GB22
3J057GE05
3J057HH01
3J057JJ01
(57)【要約】
【課題】エンジン走行モードへの切り替え時に、車両ショックを軽減しつつ加速応答性を向上させる。
【解決手段】車両用駆動装置は、燃料噴射弁を含むエンジンと、モータと、エンジンとモータとを断接可能に連結する油圧式のクラッチと、クラッチの油圧を検出する油圧検出器と、制御器とを備える。制御器は、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切り替えに伴うエンジンの始動時に、クラッチを解放状態から締結状態に移行させつつ、油圧検出器による検出油圧に基づきクラッチの締結状態を判定し、その判定の結果クラッチが所定の締結初期状態にあることが確認された時点で、燃料噴射弁に燃料を噴射させる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁を含むエンジンと、
車輪と連結された電動式のモータと、
前記エンジンと前記モータとを断接可能に連結する油圧式のクラッチと、
前記クラッチの油圧を検出する油圧検出器と、
前記モータを駆動して前記エンジンを停止するモータ走行モードと、少なくとも前記エンジンを駆動するエンジン走行モードと、のいずれかを選択的に実行可能な制御器とを備え、
前記制御器は、前記モータ走行モードから前記エンジン走行モードへの切り替えに伴う前記エンジンの始動時に、前記クラッチを解放状態から締結状態に移行させつつ、前記油圧検出器による検出油圧に基づき前記クラッチの締結状態を判定し、その判定の結果前記クラッチが所定の締結初期状態にあることが確認された時点で、前記燃料噴射弁に燃料を噴射させる、ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用駆動装置において、
前記締結初期状態は、前記クラッチのクラッチ板どうしのクリアランスが実質ゼロになる状態である、ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用駆動装置において、
前記エンジンは、前記燃料噴射弁から噴射された燃料と空気とを含む混合気に点火する点火プラグをさらに備え、
前記制御器は、前記エンジンの始動時に、前記燃料噴射弁による燃料噴射から所定期間経過後に前記点火プラグに点火を行わせる、ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用駆動装置において、
前記エンジンは、前記燃料噴射弁および前記点火プラグがそれぞれ備えられた複数の気筒を含み、
前記制御器は、前記エンジンの始動時に、前記燃料噴射弁による燃料噴射と前記点火プラグによる点火とを、膨張行程で停止していた気筒である停止時膨張行程気筒に対し最初に行わせる、ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用駆動装置において、
前記制御器は、前記停止時膨張行程気筒に対し、複数回の前記燃料噴射を行い、その後複数回の前記点火を行う、ことを特徴とする車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとモータとを併用する車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃式のエンジンと電動式のモータとを動力源として併用する車両、つまりハイブリッド車両が知られている。ハイブリッド車両の一種として、動力の少なくとも一部をエンジンで賄うエンジン走行モードと、動力の全てをモータで賄うモータ走行モードとに切り替え可能な車両が存在する。このようなハイブリッド車両では、走行モードの切り替えに伴い、エンジンを停止させる制御、もしくは停止したエンジンを再始動させる制御が実行される。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、モータ走行モード(EV走行モード)からエンジン走行モード(HVモード)への切り替え時に、エンジンを始動しつつ、当該エンジンとモータ(モータジェネレータ)とをクラッチを介して連結することが開示されている。具体的に、特許文献1では、エンジン走行モードへの切り替え時に、混合気に点火してエンジン回転数を上昇させる制御と、クラッチに作動油を充填してクラッチを締結させる制御とが、この順に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-30507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のように、混合気の点火、燃焼を行った後にクラッチを締結した場合、混合気の燃焼が開始されてから、クラッチが締結されてエンジンが動力として機能するまでの間に、比較的長い時間を要することになる。このことは、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切り替えに要する時間を長期化し、加速応答性を悪化させる要因となり得る。また、これを避けるためにクラッチの締結タイミングをむやみに早めた場合には、回転数差が大きい状況でクラッチが締結される等により、車両に比較的大きなショックが生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、エンジン走行モードへの切り替え時に車両ショックを軽減しつつ加速応答性を向上させることが可能な車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのものとして、本発明の車両用駆動装置は、燃料噴射弁を含むエンジンと、車輪と連結された電動式のモータと、前記エンジンと前記モータとを断接可能に連結する油圧式のクラッチと、前記クラッチの油圧を検出する油圧検出器と、前記モータを駆動して前記エンジンを停止するモータ走行モードと、少なくとも前記エンジンを駆動するエンジン走行モードと、のいずれかを選択的に実行可能な制御器とを備え、前記制御器は、前記モータ走行モードから前記エンジン走行モードへの切り替えに伴う前記エンジンの始動時に、前記クラッチを解放状態から締結状態に移行させつつ、前記油圧検出器による検出油圧に基づき前記クラッチの締結状態を判定し、その判定の結果前記クラッチが所定の締結初期状態にあることが確認された時点で、前記燃料噴射弁に燃料を噴射させる、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
燃料が噴射されてから実際に燃料が燃焼してエンジンが回転するまでの間には遅れ時間が存在し、また、クラッチが締結初期状態になってから完全締結に至るまでの間にも遅れ時間が存在する。この点を考慮して、本発明では、クラッチの締結初期状態が確認されるとその時点で燃料が噴射されるので、燃焼エネルギーによりエンジンが回転している期間内にクラッチを完全締結することが可能になる。これにより、クラッチを介してモータからエンジンに伝達される回転力を、燃焼エネルギーによる回転力に重畳することができ、エンジン回転数を迅速に上昇させることができる。その結果、エンジンの始動完了(完爆)までの所要時間を短縮することができ、エンジン走行モードへの切り替え時の加速応答性を向上させることができる。また、エンジンの回転中にクラッチが完全締結されることで、当該完全締結に伴い大きな車両ショックが発生するのを抑制することができる。
【0009】
好ましくは、前記締結初期状態は、前記クラッチのクラッチ板どうしのクリアランスが実質ゼロになる状態である(請求項2)。
【0010】
この態様では、クラッチ板どうしのクリアランスが実質ゼロになるまでクラッチ板がストロークした時点で燃料を噴射することができる。これにより、その後クラッチ油圧が上昇してクラッチが完全締結に至るタイミングを、燃焼エネルギーによりエンジンが回転している期間内に好適に収めることができる。
【0011】
好ましくは、前記エンジンは、前記燃料噴射弁から噴射された燃料と空気とを含む混合気に点火する点火プラグをさらに備え、前記制御器は、前記エンジンの始動時に、前記燃料噴射弁による燃料噴射から所定期間経過後に前記点火プラグに点火を行わせる(請求項3)。
【0012】
この態様では、噴射された燃料と空気とが十分に混合したタイミングで混合気に点火することができ、混合気を適切に燃焼させることができる。
【0013】
好ましくは、前記エンジンは、前記燃料噴射弁および前記点火プラグがそれぞれ備えられた複数の気筒を含み、前記制御器は、前記エンジンの始動時に、前記燃料噴射弁による燃料噴射と前記点火プラグによる点火とを、膨張行程で停止していた気筒である停止時膨張行程気筒に対し最初に行わせる(請求項4)。
【0014】
この態様では、停止時膨張行程気筒で最初の燃焼を行わせて当該気筒のピストンを押し下げることにより、速やかにエンジンに回転力を付与することができる。
【0015】
好ましくは、前記制御器は、前記停止時膨張行程気筒に対し、複数回の前記燃料噴射を行い、その後複数回の前記点火を行う(請求項5)。
【0016】
この態様では、停止時膨張行程気筒に形成される未圧縮の混合気を支障なく燃焼させることができる。すなわち、複数回の燃料噴射が燃焼室内の空気を何度もかき混ぜることにより、燃料と空気とのミキシングが促進される。これにより、燃料と空気とが十分に混合した混合気が燃焼室に形成される。そして、形成された混合気に対し複数回の点火がなされることにより、混合気の着火性を向上させて大部分の混合気を的確に燃焼させることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の車両用駆動装置によれば、エンジン走行モードへの切り替え時に車両ショックを軽減しつつ加速応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る駆動装置が適用された車両の概略構成を示すシステム図である。
図2】エンジンの構造を示す概略断面図である。
図3】車両の制御系統を示す機能ブロック図である。
図4】エンジン走行モードからモータ走行モードへの切り替えに伴い行われるエンジンの自動停止制御の内容を示すフローチャートである。
図5】エンジンが完全停止したときのピストン位置の好適例を示す図である。
図6】モータ走行モードからエンジン走行モードへの切り替えに伴い行われるエンジンの再始動制御の内容を示すフローチャートである。
図7】エンジンの再始動制御に伴う各種状態量の時系列変化の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[車両の全体構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る駆動装置が適用された車両Vの概略構成を示すシステム図である。本図に示すように、車両Vは、エンジン1と、クラッチ30と、モータ31と、インバータ32と、バッテリ33と、変速機35と、差動装置36と、駆動輪37と、PCM50とを備える。エンジン1およびモータ31は、いずれも走行用の動力源として駆動輪37(車輪)を駆動することが可能である。すなわち、本実施形態における車両Vは、エンジン1とモータ31とを動力源として併用するハイブリッド車両である。
【0020】
エンジン1は、燃料の燃焼により出力を発生する内燃式のエンジンである。本実施形態では、ガソリンを主成分とする燃料(ガソリン燃料)を用いる4サイクルのガソリンエンジンが、エンジン1として用いられる。エンジン1の詳細については後述する。
【0021】
モータ31は、モータとしての機能と発電機としての機能とを兼ね備えたモータジェネレータである。例えば、モータ31は、三相交流同期型の電動モータからなる。モータ31は、車両Vの加速時等にモータとして作動し、駆動輪37を回転駆動するための駆動力を発生する。また、モータ31は、車両Vの減速時等に発電機として作動し、駆動輪37から伝達される回転力を受けて発電する。
【0022】
インバータ32は、交流電力から直流電力への変換、並びにその逆変換を行う変換器である。モータ31が発電機として作動する場合、インバータ32は、モータ31で生成された交流電力を直流電力に変換した上でバッテリ33に供給する。一方、モータ31がモータとして作動する場合、インバータ32は、バッテリ33に蓄えられた直流電力を交流電力に変換した上でモータ31に供給する。また、インバータ32は、モータ31とバッテリ33との間の電力授受制御を通じてモータ31の出力または発電量を調整する機能を有する。
【0023】
バッテリ33は、充放電可能な二次電池である。例えば、バッテリ33は、リチイムイオンバッテリもしくはニッケル水素バッテリからなる。バッテリ33は、インバータ32を介してモータ31に駆動電力を供給するとともに、モータ31で発電された電力をインバータ32を介して受け入れて蓄電する。
【0024】
バッテリ33には、当該バッテリ33に対する入出力電流を検出するバッテリセンサSN4が取り付けられている。バッテリセンサSN4により検出された電流値は、バッテリSOC、つまりバッテリ33のフル充電時の充電量に対する現在の充電量の割合を特定するために利用される。言い換えると、バッテリセンサSN4は、バッテリSOCを検出するためのセンサである。具体的に、PCM50は、バッテリセンサSN4の検出値に基づいてバッテリ33の単位時間当たりの充電量および放電量を算出し、これらを積算することでバッテリSOCを算出する。
【0025】
クラッチ30は、エンジン1とモータ31とを断接可能に連結するクラッチである。すなわち、クラッチ30は、エンジン1の出力軸(後述するクランク軸7)とモータ31の回転軸(ロータ軸)とを直列に連結し、またはその連結を解除する。
【0026】
クラッチ30は、軸方向に相対向する一対のクラッチ板30aを含む。すなわち、クラッチ30は、クラッチ板30aどうしが圧接された締結状態と、クラッチ板30aどうしが離れた解放状態とに変位可能である。クラッチ30が締結されてエンジン1とモータ31とが連結されると、エンジン1およびモータ31の双方のトルクが変速機35および差動装置36を介して駆動輪37に伝達される。一方、クラッチ30が解放されると、モータ31とエンジン1とが切り離され、モータ31のトルクのみが駆動輪37に伝達される。
【0027】
クラッチ30の締結および解放は、図外の油圧供給装置から供給される油圧の制御を通じて行われる。すなわち、クラッチ30の締結時は、クラッチ板30aに作用する油圧つまりクラッチ油圧が増大されてクラッチ板30aどうしが圧接され、クラッチ30の解放時は、当該クラッチ油圧が低減されてクラッチ板30aの圧接が解除される。また、クラッチ30には、クラッチ油圧を検出する油圧センサSN3が設けられている。なお、油圧センサSN3は、本発明における「油圧検出器」に相当する。
【0028】
変速機35は、エンジン1およびモータ31から入力される回転を変速して差動装置36に出力する。本実施形態では、変速機35は自動変速機であり、車速とエンジン回転数とに応じて変速段が自動的に変更される。差動装置36は、変速機35から入力される回転を左右の駆動輪37に分配する。
【0029】
変速機35には、車両Vの走行速度つまり車速を特定するための車速センサSN1が取り付けられている。具体的に、車速センサSN1は、変速機35の出力軸43の回転数を検出し、この検出値に基づいて車速が特定されるようになっている。
【0030】
車両Vには、運転者により踏み込み操作されるアクセルペダル39が設けられている。アクセルペダル39には、その踏込み量の程度を表すアクセル開度を検出するアクセルセンサSN2が取り付けられている。
【0031】
PCM50は、演算を行うプロセッサ(CPU)と、ROMおよびRAM等のメモリーと、各種の入出力バスと、を含むマイクロコンピュータを要部とする制御器である。PCM50は、エンジン1、モータ31、および変速機35を統括的に制御する。具体的に、PCM50は、車両Vの走行条件に応じた適切な駆動力が駆動輪37に伝達されるように、エンジン1の出力を制御するとともに、インバータ32を通じてモータ31の出力を制御し、さらには変速機35の変速段を制御する。
【0032】
[エンジンの構造]
図2は、エンジン1の構造を示す概略断面図である。エンジン1は、エンジン本体2と、吸気通路20と、排気通路27とを備える。
【0033】
エンジン本体2は、複数の気筒2aを有する多気筒型のものである。本実施形態では、エンジン本体2は直列6気筒型である。すなわち、エンジン本体2は、図2の紙面に直交する方向に並ぶ6つの気筒2aを有する。エンジン本体2は、当該6つの気筒2aを内部に画成するシリンダブロック3およびシリンダヘッド4と、各気筒2aに往復動可能に収容された6つのピストン5とを備える。
【0034】
各気筒2aのピストン5の上方には、それぞれ燃焼室Cが形成されている。各燃焼室Cは、シリンダヘッド4の下面と、気筒2aの側周面(シリンダライナ)と、ピストン5の上面(冠面)とによって画成された空間である。燃焼室Cには、後述するインジェクタ8からの噴射燃料が供給される。ピストン5は、燃焼室Cに供給された燃料の燃焼による膨張エネルギー(燃焼エネルギー)を受けて上下方向に往復運動する。
【0035】
ピストン5の下方には、クランク軸7が配設されている。クランク軸7は、エンジン1の出力軸であり、シリンダブロック3の下部に回転可能に支持されている。クランク軸7は、コネクティングロッド6を含むクランク機構を介して各気筒2aのピストン5と連結され、当該ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転する。
【0036】
シリンダブロック3には、クランク角センサSN5が取り付けられている。クランク角センサSN5は、クランク軸7の回転角であるクランク角と、クランク軸7の回転数であるエンジン回転数とを検出するためのセンサである。
【0037】
シリンダヘッド4には、インジェクタ8および点火プラグ9が取り付けられている。インジェクタ8は、各気筒2aの燃焼室Cに燃料を噴射する燃料噴射弁である。点火プラグ9は、インジェクタ8から燃焼室Cに噴射された燃料と空気とを含む混合気に点火するプラグである。インジェクタ8および点火プラグ9は、各気筒2aに対しそれぞれ1組ずつ用意されている。
【0038】
シリンダヘッド4には、吸気ポート11および排気ポート12が形成されている。吸気ポート11は、各気筒2aの燃焼室Cと吸気通路20とを連通するポートである。排気ポート12は、各気筒2aの燃焼室Cと排気通路27とを連通するポートである。各気筒2aの吸気ポート11にはそれぞれ吸気弁13が設けられ、各気筒2aの排気ポート12にはそれぞれ排気弁14が設けられている。
【0039】
シリンダヘッド4には、吸気動弁機構15および排気動弁機構16が装備されている。吸気動弁機構15および排気動弁機構16は、クランク軸7の回転に連動して各気筒2aの吸気弁13および排気弁14を開閉する。吸気弁13は、吸気動弁機構15の駆動に応じて吸気ポート11の燃焼室C側の開口を周期的に開閉し、排気弁14は、排気動弁機構16の駆動に応じて排気ポート12の燃焼室C側の開口を周期的に開閉する。
【0040】
吸気通路20は、各気筒2aの燃焼室Cに吸気を導入するための通路である。吸気通路20は、各気筒2aの燃焼室Cに吸気ポート11を介して連通するようにエンジン本体2に接続されている。具体的に、吸気通路20は、単管状の共通吸気管23と、共通吸気管23の下流端に接続されたサージタンク22と、複数(6つ)の気筒2aの各吸気ポート11とサージタンク22とを接続する複数(6つ)の独立吸気管21とを有する。共通吸気管23には、スロットル弁24が開閉可能に設けられている。スロットル弁24は、吸気通路20を流通する吸気の流量を調整するために開閉駆動される。
【0041】
排気通路27は、各気筒2aの燃焼室Cから排出された排気ガスを外部に排出するための通路である。排気通路27は、各気筒2aの燃焼室Cに排気ポート12を介して連通するようにエンジン本体2に接続されている。排気通路27には、排気ガス中の有害成分を浄化するための触媒装置28が設けられている。
【0042】
[制御系統]
図3は、車両Vの制御系統を示す機能ブロック図である。本図に示すように、PCM50は、上述した車速センサSN1、アクセルセンサSN2、油圧センサSN3、バッテリセンサSN4、およびクランク角センサSN5と電気的に接続されている。PCM50には、当該各センサにより検出された情報、つまり車速、アクセル開度、クラッチ油圧、バッテリSOC、クランク角、およびエンジン回転数等に相当する情報が逐次入力される。
【0043】
PCM50は、前記各センサSN1~SN5からの入力情報に基づいて車両Vの走行を制御する。すなわち、PCM50は、上述したエンジン1のインジェクタ8、点火プラグ9、およびスロットル弁24と電気的に接続されるとともに、上述したクラッチ30、モータ31、およびインバータ32と電気的に接続されている。PCM50は、これらの機器に対し、前記各センサSN1~SN5からの入力情報に基づく演算等を経て生成した制御信号を出力する。
【0044】
例えば、PCM50は、車速センサSN1により検出された車速と、アクセルセンサSN2により検出されたアクセル開度とに基づいて、駆動輪37に伝達すべきトルクである車両Vの要求トルクを都度算出するとともに、算出した当該要求トルクと、バッテリセンサSN4により検出されるバッテリSOCとに基づいて、車両Vの走行モードを決定する。そして、決定した走行モードに従って、エンジン1、クラッチ30、およびモータ31(インバータ32)を制御する。
【0045】
具体的に、車両Vの要求トルクが比較的小さく、かつバッテリSOCが比較的高い場合は、モータ走行モードが選択される。この場合、PCM50は、エンジン1を停止させるとともに、クラッチ30の締結を解除する。また、PCM50は、車両Vの要求トルクに相当するトルクをモータ31から出力させることにより、モータ31のみによって車両Vを走行させる。
【0046】
車両Vの要求トルクが比較的高いか、またはバッテリSOCが比較的低い場合は、エンジン走行モードが選択される。この場合、PCM50は、エンジン1を駆動する(燃焼を行わせる)とともに、クラッチ30を締結する。また、PCM50は、例えばエンジン1の出力トルクが車両Vの要求トルクに対し不足する場合にモータ31を駆動し、当該トルクの不足分に相当するアシストトルクをモータ31から出力させる。この場合、PCM50は、エンジン1およびモータ31の合計のトルクが車両Vの要求トルクに相当するように、エンジン1およびモータ31を制御する。一方、モータ31が駆動されない場合は、車両Vの要求トルクに相当するトルクをエンジン1から出力させることにより、エンジン1のみによって車両Vを走行させる。
【0047】
上記のような制御を実現するための機能要素の一部として、PCM50は、自動停止制御部51および再始動制御部52を有する。自動停止制御部51は、エンジン走行モードからモータ走行モードへの切り替えに伴いエンジン1を自動的に停止させるモジュールである。再始動制御部52は、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切り替えに伴い、停止したエンジン1を再始動させるモジュールである。
【0048】
[自動停止制御]
次に、上述したエンジン走行モードからモータ走行モードへの切り替え時の制御、特に当該切り替えに伴いエンジン1を自動的に停止させる制御(自動停止制御)の詳細について、図4のフローチャートを用いて説明する。本図に示す制御は、エンジン走行モードによる走行中に実行される。つまり、本制御が実行される前提として、車両Vの走行モードはエンジン走行モードであるものとする。
【0049】
図4の制御がスタートすると、PCM50は、車両Vの走行モードをエンジン走行モードからモータ走行モードに切り替える要求が出されたか否かを判定する(ステップS1)。すなわち、PCM50は、エンジン走行モードでの走行中に、車速センサSN1、アクセルセンサSN2、およびバッテリセンサSN4の各検出値に基づいて、車両Vの走行モードを決定する条件パラメータ(例えば要求トルクやバッテリSOC等)を調べる。そして、当該条件パラメータがモータ走行モードに適合する条件に変化した時点で、エンジン走行モードからモータ走行モードへの切替要求が出されたと判定する。
【0050】
上記ステップS1でNOと判定されてモータ走行モードへの切替要求がないことが確認された場合、PCM50は、車両Vの走行モードをエンジン走行モードに維持する(ステップS7)。
【0051】
一方、上記ステップS1でYESと判定されてモータ走行モードへの切替要求があることが確認された場合、PCM50の自動停止制御部51は、クラッチ30を解放してエンジン1とモータ31とを切り離す(ステップS2)。
【0052】
次いで、自動停止制御部51は、インジェクタ8から燃焼室Cへの燃料供給(燃料噴射)を停止する燃料カットを実行する(ステップS3)。この燃料カットによる燃焼の停止に伴い、エンジン回転数が低下し始める。
【0053】
次いで、自動停止制御部51は、スロットル弁24の開度であるスロットル開度をエンジン回転数に基づき制御する(ステップS4)。例えば、自動停止制御部51は、燃料カットからしばらくの間は、エンジン1の振動を抑えるためにスロットル開度を比較的小さい開度(全閉付近)まで低下させる。そして、エンジン回転数が予め定められた規定回転数(例えば160rpm)まで低下した時点で、スロットル開度を増大させる。このように、エンジン1が完全停止する少し前にスロットル開度が増大されることで、エンジン1のポンピングロスが減少し、完全停止前の最後の圧縮上死点を迎える気筒のピストン5が圧縮上死点を超え易くなる。このことは、膨張行程で停止する気筒である停止時膨張行程気筒のピストン5と、圧縮行程で停止する気筒である停止時圧縮行程気筒のピストン5とを、圧縮上死点から同程度離れた位置で停止させることを可能にする。
【0054】
例えば、本実施形態のような6気筒エンジンの場合は、上記のようなスロットル弁24の制御の結果、各気筒2aのピストン5の停止位置パターンとして、図5に示すようなパターンが得られ易くなる。すなわち、停止時膨張行程気筒のピストン5が、圧縮上死点から60°遅角側のATDC60°CA付近で停止し、かつ、停止時圧縮行程気筒のピストン5が、圧縮上死点から60°進角側のBTDC60°CA付近で停止するようなパターンである。なお、他の気筒2aのピストン5は、停止時膨張行程気筒と同位相のATDC60°CA付近か、停止時圧縮行程気筒と同位相のBTDC60°CA付近か、下死点(BDC)付近か、のいずれかで停止することになる。
【0055】
次いで、自動停止制御部51は、エンジン1が完全停止したか否か、つまりエンジン回転数が実質的にゼロまで低下したか否かを判定する(ステップS5)。
【0056】
上記ステップS5でNOと判定されてエンジン1がまだ完全停止していないことが確認された場合、自動停止制御部51は、上記ステップS4の制御を繰り返す。
【0057】
一方、上記ステップS4でYESと判定されてエンジン1が完全停止したことが確認された場合、自動停止制御部51は、スロットル開度を停止時の要求値に設定する(ステップS6)。停止時の要求値は、例えば、エンジン1の再始動を考慮して予め定められている。すなわち、当該ステップS6において、自動停止制御部51は、スロットル開度をエンジン1の再始動に適した開度に設定する。
【0058】
[再始動制御]
次に、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切り替え時の制御、特に当該切り替えに伴いエンジン1を再始動させる制御(再始動制御)の詳細について、図6のフローチャートを用いて説明する。本図に示す制御は、モータ走行モードによる走行中に実行される。つまり、本制御が実行される前提として、車両Vの走行モードはモータ走行モードであるものとする。
【0059】
図6の制御がスタートすると、PCM50は、車両Vの走行モードをモータ走行モードからエンジン走行モードに切り替える要求が出されたか否かを判定する(ステップS11)。すなわち、PCM50は、モータ走行モードでの走行中に、車速センサSN1、アクセルセンサSN2、およびバッテリセンサSN4の各検出値に基づいて、車両Vの走行モードを決定する条件パラメータ(例えば要求トルクやバッテリSOC等)を調べる。そして、当該条件パラメータがエンジン走行モードに適合する条件に変化した時点で、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切替要求が出されたと判定する。
【0060】
上記ステップS11でNOと判定されてエンジン走行モードへの切替要求がないことが確認された場合、PCM50は、車両Vの走行モードをモータ走行モードに維持する(ステップS23)。これにより、エンジン1の停止状態が継続される。
【0061】
一方、上記ステップS11でYESと判定されてエンジン走行モードへの切替要求があることが確認された場合、PCM50の再始動制御部52は、解放状態にあるクラッチ30に油圧を供給し、クラッチ板30aを締結方向にストロークさせる(ステップS12)。このステップS12においてクラッチ30に供給される油圧つまりクラッチ油圧は、クラッチ板30aをストロークさせることができる圧力であればよく、クラッチ30を締結に至らせる圧力(締結油圧)よりは小さい値とされる。
【0062】
次いで、再始動制御部52は、クラッチ30がゼロクリアランス状態になったか否かを判定する(ステップS13)。ゼロクリアランス状態とは、クラッチ板30aどうしのクリアランスが実質ゼロになった状態、換言すればクラッチ板30aどうしがちょうど接触する位置までクラッチ板30aをストロークさせた状態のことである。
【0063】
上記ゼロクリアランス状態の判定は、クラッチ30に設けられた油圧センサSN3の検出値に基づき行われる。例えば、クラッチ板30aどうしが接触すると、これに応じてクラッチ油圧が上昇する。すなわち、クラッチ油圧は、クラッチ板30aがストロークしている間は略一定になるが、クラッチ板30aどうしが接触すると瞬間的に立ち上がる。再始動制御部52は、このような油圧の挙動が油圧センサSN3の検出値に基づき確認された時点で、クラッチ30がゼロクリアランス状態になったと判定する。
【0064】
上記ステップS13でNOと判定されてクラッチ板30aのストロークが未だ完了していないことが確認された場合、再始動制御部52は、上記ステップS12の制御を繰り返す。
【0065】
一方、上記ステップS13でYESと判定されてクラッチ30がゼロクリアランス状態になったことが確認された場合、再始動制御部52は、予め定められた目標油圧に向けてクラッチ油圧を徐々に増大させる(ステップS14)。目標油圧は、クラッチ30を完全締結するのに必要な油圧である締結油圧よりもいくらか低い値に設定される。このような目標油圧に向けたクラッチ油圧の漸増により、クラッチ30は半締結状態へと移行する。半締結状態とは、クラッチ板30aどうしの相対回転(スリップ)を許容しながらトルクを伝達することが可能な比較的弱い力でクラッチ30が締結された状態のことである。
【0066】
上記ステップS14と併せて、再始動制御部52は、停止時膨張行程気筒のインジェクタ8に燃料を噴射させる(ステップS15)。停止時膨張行程気筒とは、先にも触れたとおり、上記自動停止制御(図4)によりエンジン1が停止した時点で膨張行程にあった気筒のことである。再始動制御部52は、この停止時膨張行程気筒で再始動のための最初の燃焼を行わせるべく、停止時膨張行程気筒のインジェクタ8に燃料を噴射させる。この燃料噴射により、停止時膨張行程気筒の燃焼室Cには、燃料と空気とを含む混合気が形成される。
【0067】
上記ステップS15の燃料噴射は、本実施形態では分割噴射とされる。すなわち、上記ステップS15において、再始動制御部52は、停止時膨張行程気筒のインジェクタ8から所要量の燃料を複数回に分けて噴射させる。分割回数は、例えば3回が好適である。
【0068】
次いで、再始動制御部52は、停止時膨張行程気筒の点火プラグ9に火花を発生させて、当該気筒の燃焼室Cに形成された上記混合気に点火する(ステップS16)。点火は、上記ステップS22による燃料噴射から所定期間経過後に行われる。所定期間は、噴射された燃料が空気と混合して混合気が形成されるのに必要な時間として予め定められている。この点火をきっかけに、停止時圧縮行程気筒で混合気が燃焼し、当該燃焼による膨張力が停止時膨張行程気筒のピストン5を押し下げる。これにより、エンジン1に回転力が付与されて、エンジン回転数が上昇し始める。
【0069】
上記ステップS16の点火は、本実施形態ではマルチ点火とされる。すなわち、上記ステップS16において、再始動制御部52は、停止時膨張行程気筒の点火プラグ9に複数回点火を行わせる。点火回数は、例えば3回が好適である。この場合、上記ステップS15の複数回の燃料噴射のうちの最後の噴射から上記所定期間経過後に、1回目の点火が行われ、その後立て続けに2回目以降の点火が行われる。
【0070】
次いで、再始動制御部52は、エンジン1の出力軸(クランク軸7)とモータ31の回転軸との回転数差が予め定められた規定値を下回ったか否かを判定する(ステップS17)。
【0071】
上記ステップS17でYESと判定されて上記回転数差が規定値未満であることが確認された場合、再始動制御部52は、クラッチ30を完全締結させる(ステップS18)。すなわち、再始動制御部52は、クラッチ板30aのスリップが許容されないような高い油圧として予め定められた締結油圧までクラッチ油圧を高めることにより、クラッチ30を完全締結させる。
【0072】
次いで、再始動制御部52は、停止時膨張行程気筒以外の気筒に対し順次燃焼を行わせる(ステップS19)。燃焼は、圧縮上死点を迎える気筒順に行われる。具体的に、再始動制御部52は、エンジン1が停止した時点で圧縮行程にあった停止時圧縮行程気筒が圧縮上死点を迎えるタイミング付近で当該気筒に燃焼を行わせ、その後、他の気筒に対しても同様に、圧縮上死点を迎えるタイミング付近で燃焼を行わせる。
【0073】
次いで、再始動制御部52は、エンジン1が完爆したか否かを判定する(ステップS20)。例えば、再始動制御部52は、エンジン回転数が予め定められた規定回転数を超えた時点で、エンジン1が完爆した、つまりエンジン1の再始動が完了したと判定する。
【0074】
上記ステップS20でNOと判定されてエンジン1が未だ完爆していないことが確認された場合、再始動制御部52は、上記ステップS19の制御を繰り返す。
【0075】
一方、上記ステップS20でYESと判定されてエンジン1が完爆したことが確認された場合、再始動制御部52は、車両Vの要求トルクに応じてエンジン1の燃焼を制御する(ステップS21)。すなわち、再始動制御部52は、車両Vの要求トルクからモータ31の出力トルクを差し引いたトルクがエンジン1から出力されるように、エンジン1の燃焼を制御する。
【0076】
[動作例]
図7は、エンジン1の再始動制御に伴う各種状態量の時系列変化の一例を示すタイムチャートである。本図では、車両Vの走行モードがエンジン走行モードからモータ走行モードに切り替わった時点、換言すればエンジン1の再始動指示が出された時点を、時点t0としている。この時点t0から、クラッチ板30aをストロークさせるための油圧がクラッチ30に加えられる。これにより、クラッチ30の状態は、解放状態から、クラッチ板30aが締結方向にストロークする状態へと移行する。
【0077】
クラッチ板30aのストロークにより、時点t0から遅れた時点t1において、クラッチ30がゼロクリアランス状態になり、クラッチ板30aどうしのクリアランスが実質ゼロになる。これを受けて、時点t1から、停止時膨張行程気筒に対し複数回(ここでは3回)の燃料噴射が行われ、その後、同じく停止時膨張行程気筒に対し複数回(3回)の点火が行われる。また、クラッチ油圧は、時点t1から徐々に上昇するように制御される。
【0078】
上記燃料噴射および点火により、停止時膨張行程気筒において混合気が燃焼する。この燃焼による膨張力が停止時膨張行程気筒のピストン5を押し下げることにより、エンジン1に回転力が付与される。これにより、時点t2以降、エンジン回転数が上昇し始める。
【0079】
また、クラッチ30がゼロクリアランス状態になった時点t1の後、クラッチ30は半締結状態へと移行している。半締結状態にあるクラッチ30は、モータ31からエンジン1にトルクを伝達し、エンジン1に回転力を付与する。上述した時点t2からのエンジン回転数の上昇には、このようなモータ31からの伝達トルクによる回転上昇も含まれる。
【0080】
エンジン1が回転し始めると、その後間もなくして、始動開始後の最初の圧縮上死点を迎える気筒である停止時圧縮行程気筒のピストン5が圧縮上死点を乗り越える。この圧縮上死点の通過に伴う回転抵抗の増加により、時点t3でエンジン回転数が低下に転じる。
【0081】
一方、時点t3からやや遅れた時点t4では、クラッチ油圧が締結油圧まで高められ、クラッチ30が完全締結に至る。これにより、エンジン1とモータ31とが完全に連結され、モータ31のトルクが本格的にエンジン1に伝達されるようになる。すると、低下し始めていたエンジン回転数が再び上昇に転じる。エンジン回転数は、その後も上昇し続け、幾らかの期間を経た後に完爆回転数へと至る。
【0082】
[作用効果]
以上説明したとおり、本実施形態では、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切り替えに伴うエンジン1の始動時に、クラッチ30を締結するためにクラッチ油圧が高められるとともに、当該クラッチ油圧の検出値に基づいてクラッチ30の締結状態が判定される。そして、判定の結果クラッチ30がゼロクリアランス状態にあることが確認された時点で、停止時膨張行程気筒に燃料が噴射される。このような構成によれば、エンジン走行モードへの切り替え時に、車両ショックを軽減しつつ加速応答性を向上できるという利点がある。
【0083】
すなわち、本実施形態では、クラッチ30がゼロクリアランス状態になった時点、つまりクラッチ板30aどうしのクリアランスが実質ゼロになった時点で、停止時膨張行程気筒に燃料が噴射されるので、噴射された燃料の燃焼によるエネルギーがエンジン1を回転させている期間内にクラッチ30を完全締結することができ、エンジン回転数を迅速に上昇させることができる。
【0084】
具体的に、停止時膨張行程気筒に燃料が噴射されると、噴射された燃料がその後の点火をきっかけに燃焼し、さらにその燃焼による膨張力(燃焼エネルギー)が停止時膨張行程気筒のピストンを押し下げてエンジン回転数を上昇させる。一方、ゼロクリアランス状態のクラッチ30は、しばらく半締結状態にされた後に完全締結に至る。言い換えると、燃料が噴射されてから実際に燃料が燃焼してエンジン1が回転するまでの間には遅れ時間が存在し、また、クラッチ30がゼロクリアランス状態になってから完全締結に至るまでの間にも遅れ時間が存在する。この点を考慮して、本実施形態では、ゼロクリアランス状態が確認されるとその時点で燃料が噴射されるので、燃焼エネルギーによりエンジン1が回転している期間内にクラッチ30を完全締結することが可能になる。これにより、クラッチ30を介してモータ31からエンジン1に伝達される回転力を、燃焼エネルギーによる回転力に重畳することができ、図7の最下段のチャートにおいて実線の波形で示すように、エンジン回転数を迅速に上昇させることができる。その結果、エンジン1の始動完了(完爆)までの所要時間を短縮することができ、エンジン走行モードへの切り替え時の加速応答性を向上させることができる。また、エンジン1の回転中にクラッチ30が完全締結されることで、当該完全締結に伴い大きな車両ショックが発生するのを抑制することができる。
【0085】
例えば、仮にクラッチ30の状態とは無関係に燃料噴射のタイミングを決定した場合には、燃料噴射のタイミングとクラッチ30の締結タイミングとが大きくずれる結果、図7の最下段のチャートにおいて一点鎖線の波形で示すように、燃焼エネルギーによるエンジン回転数の上昇と、締結されたクラッチ30を介したトルク伝達によるエンジン回転数の上昇とが、時間差をおいてばらばらに生じるおそれがある。すなわち、燃焼エネルギーを受けて回転し始めたエンジンが再び停止した後、ようやくクラッチ30を介したトルク伝達が行われるようなケースである。この場合、エンジン回転数がゼロまで低下した後に再びモータ31によって回転数が引き上げられるので、エンジン1の始動完了(完爆)までの時間が長期化するだけでなく、クラッチ30の締結時の車両ショックが増大することが懸念される。これに対し、本実施形態では、燃焼エネルギーを受けたエンジン1の回転中にクラッチ30が完全締結されるので、上記のような事態を有効に回避することができ、車両ショックを軽減しつつ加速応答性を向上することができる。
【0086】
また、本実施形態では、上述した停止時膨張行程気筒への燃料噴射および点火がそれぞれ複数回行われるので、停止時膨張行程気筒に形成される未圧縮の混合気を支障なく燃焼させることができる。すなわち、複数回の燃料噴射が燃焼室C内の空気を何度もかき混ぜることにより、燃料と空気とのミキシングが促進される。これにより、燃料と空気とが十分に混合した混合気が燃焼室Cに形成される。そして、形成された混合気に対し複数回の点火がなされることにより、混合気の着火性を向上させて大部分の混合気を的確に燃焼させることができる。
【0087】
[変形例]
上記実施形態では、クラッチ30がゼロクリアランス状態になった時点、つまりクラッチ板30aどうしのクリアランスが実質ゼロになった時点で、停止時膨張行程気筒に燃料を噴射するようにしたが、燃料噴射のタイミングは、クラッチ30を締結する制御の初期段階である締結初期状態のときであればよく、ゼロクリアランス状態のときに限られない。例えば、クラッチ板30aどうしのクリアランスがゼロより大きい所定値まで低下した状態を締結初期状態として、この状態が確認された時点で燃料噴射を行ってもよい。
【0088】
上記実施形態では、6つの気筒を含む6気筒型のエンジン1とモータ31とを備えたハイブリッド型の車両Vに本発明を適用した例について説明したが、本発明は、このような車両に限らず、クラッチを介して断接されるエンジンおよびモータを備えた車両に広く適用可能である。例えば、本発明を適用し得る車両に備わるエンジンは、6気筒型に限らず、4気筒型や3気筒型など、種々の気筒数のエンジンであり得る。
【符号の説明】
【0089】
1 エンジン
2a 気筒
8 インジェクタ(燃料噴射弁)
9 点火プラグ
30 クラッチ
30a クラッチ板
31 モータ
37 駆動輪(車輪)
50 PCM(制御器)
SN3 油圧センサ(油圧検出器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7