IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ブリヂストンの特許一覧

特開2024-113598ポリエチレンテレフタレートの製造方法
<>
  • 特開-ポリエチレンテレフタレートの製造方法 図1
  • 特開-ポリエチレンテレフタレートの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113598
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ポリエチレンテレフタレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/183 20060101AFI20240815BHJP
   C07C 1/12 20060101ALI20240815BHJP
   C07C 15/08 20060101ALI20240815BHJP
   C07C 29/151 20060101ALI20240815BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20240815BHJP
   C07C 1/20 20060101ALI20240815BHJP
   C07C 51/265 20060101ALI20240815BHJP
   C07C 63/26 20060101ALI20240815BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
C08G63/183
C07C1/12
C07C15/08
C07C29/151
C07C31/04
C07C1/20
C07C51/265
C07C63/26 D
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018709
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228120
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 蓮太朗
(72)【発明者】
【氏名】杉本 健一
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
4J029
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC29
4H006AC41
4H006BA07
4H006BA09
4H006BA14
4H006BA30
4H006BA71
4H006BE20
4H006BE41
4H006BS30
4H006FE11
4H039CA60
4H039CL25
4J029AA03
4J029AB05
4J029AC01
4J029BA03
4J029CB06A
(57)【要約】
【課題】原材料の配慮が要らず、かつ、高純度のポリエチレンテレフタレートの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、COからポリエチレンテレフタレートを製造する方法であって、COとHを反応させて、パラキシレンを製造する工程と、前記パラキシレンを酸化させて、テレフタル酸を製造する工程と、前記テレフタル酸とモノエチレングリコールとを重合させて、ポリエチレンテレフタレートを製造する工程と、を含む、方法である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
COからポリエチレンテレフタレートを製造する方法であって、
COとHを反応させて、パラキシレンを製造する工程と、
前記パラキシレンを酸化させて、テレフタル酸を製造する工程と、
前記テレフタル酸とモノエチレングリコールとを重合させて、ポリエチレンテレフタレートを製造する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記パラキシレンを製造する工程が、
触媒Zを用いてCOとHを逆水性ガスシフト反応させる工程Aと、
触媒Zを用いて前記工程Aで得られた生成物をFischer-Tropsch反応させる工程Bと、
触媒Xを用いて前記工程Bの生成物を芳香族化させる工程Cと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パラキシレンを製造する工程が、
触媒Yを用いてCOとHからメタノールを合成する工程aと、
触媒Xを用いて前記メタノールを芳香族化させる工程bと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒Zが鉄系の触媒である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒Yが金属酸化物である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記工程C又は前記工程bで用いる触媒Xがゼオライトである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
前記触媒Zが、前記触媒Xで覆われている、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒Yが、前記触媒Xで覆われている、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記COが、焼却ガスから回収したものである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記Hが焼却による発電で生み出された電力や、再生可能エネルギーを使用した発電により生み出された電力により、水の電気分解を行い、得られたHである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートは、様々な用途で広く使用されている。資源循環や環境配慮の観点から、非石油由来のポリエチレンテレフタレートを使用することが望ましい。このような非石油由来のポリエチレンテレフタレートとして、一般的に、バイオマス由来のポリエチレンテレフタレートや、ポリエチレンテレフタレート製品をリサイクルして得る再生ポリエチレンテレフタレートが知られている(下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第10920071号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の非石油由来のポリエチレンテレフタレートを製造する方法では、バイオマス由来品は、モノエチレングリコール部分のみがバイオマス由来であるものが主流であり、テレフタル酸部分もバイオマス由来とするには暫くの開発期間を要する。再生品はテレフタル酸部分を作れるが、使用できる原材料が限られ、それらの回収、選別が必要となり、また、原材料の種類によって高純度のポリエチレンテレフタレートが得られないという問題が存在する。例えば、再生品の主要な原材料はPETボトルであるが、これらには意図的に少量のイソフタル酸が添加されており、精製して完全なテレフタル酸にする為には多くの工数を要する。必然的にPETボトルの再生品はPETボトルとして再利用する事が好ましくなるが、タイヤコードの様にイソフタル酸等を含まない高純度のPETを必要とする製品は原材料の入手が困難となる。また、再生品を使用する限り、量的に目減りする事は避けられず、将来的にPETボトル回収品の争奪戦も予想される。一方、タイヤにはポリエチレンテレフタレートなどからなる有機繊維が使用されており、これはイソフタル酸等を含まないが、タイヤから有機繊維をリサイクルする際には、有機繊維のみをタイヤから分離する必要があり、それは困難とされている。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、原材料の配慮が要らず、かつ、高純度のポリエチレンテレフタレートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明のポリエチレンテレフタレートの製造方法の要旨構成は、以下のとおりである。
【0007】
[1] COからポリエチレンテレフタレートを製造する方法であって、
COとHを反応させて、パラキシレンを製造する工程と、
前記パラキシレンを酸化させて、テレフタル酸を製造する工程と、
前記テレフタル酸とモノエチレングリコールとを重合させて、ポリエチレンテレフタレートを製造する工程と、を含む、方法。
この場合、新たな化石燃料を消費せずに、かつCOを消費しつつ、原材料に配慮しないでパラキシレンを製造でき、かつ、高純度のポリエチレンテレフタレートが得られる。
【0008】
[2] 前記パラキシレンを製造する工程が、
触媒Zを用いてCOとHを逆水性ガスシフト(Reverse water gas shift,RWGS)反応させる工程Aと、
触媒Zを用いて前記工程Aで得られた生成物をFischer-Tropsch(FT)反応させる工程Bと、
触媒Xを用いて前記工程Bの生成物を芳香族化させる工程Cと、を含む、[1]に記載の方法。
この場合も、新たな化石燃料を消費せずに、かつCOを消費しつつ、原材料に配慮しないでポリエチレンテレフタレートを製造でき、かつ、高純度のポリエチレンテレフタレートが得られる。
【0009】
[3] 前記パラキシレンを製造する工程が、
触媒Yを用いてCOとHからメタノールを合成する工程aと、
触媒Xを用いて前記メタノールを芳香族化させる工程bと、を含む、[1]に記載の方法。
この場合も、新たな化石燃料を消費せずに、かつCOを消費しつつ、原材料に配慮しないでパラキシレンを製造でき、かつ、高純度のポリエチレンテレフタレートが得られる。
【0010】
[4] 前記触媒Zが鉄系の触媒である、[2]に記載の方法。
この場合、工程A及び工程Bで用いられる物質の反応性がより良くなり、高純度のポリエチレンテレフタレートが得られる。
【0011】
[5] 前記触媒Yが金属酸化物である、[3]に記載の方法。
この場合、工程aで用いられる物質の反応性がより良くなり、高純度のポリエチレンテレフタレートが得られる。
【0012】
[6] 前記工程C又は前記工程bで用いる触媒Xがゼオライトである、[2]又は[3]に記載の方法。
この場合、新たな化石燃料を消費せずに、かつCOを消費しつつ、原材料に配慮しないで効率よく高純度のポリエチレンテレフタレートを得られる。
特に細孔径の大きさがパラキシレン分子の大きさに近いゼオライトが生成物中のパラキシレンの選択率を高める為、好ましく、特にZSM-5が好ましい。
【0013】
[7] 前記触媒Zが、前記触媒Xで覆われている、[2]又は[4]に記載の方法。
この場合、新たな化石燃料を消費せずに、かつCOを消費しつつ、原材料に配慮しないで効率よく高純度のポリエチレンテレフタレートを得られる。
【0014】
[8] 前記触媒Yが、前記触媒Xで覆われている、[3]又は[5]に記載の方法。
この場合、新たな化石燃料を消費せずに、かつCOを消費しつつ、原材料に配慮しないで効率よく高純度のポリエチレンテレフタレートを得られる。
【0015】
[9] 前記COが、焼却ガスから回収したものである、[1]~[8]のいずれか一つに記載の方法。
この場合、リサイクルの際に生じたCOをポリエチレンテレフタレートの材料として再利用できる。
【0016】
[10] 前記Hが焼却による発電で生み出された電力や、再生可能エネルギーを使用した発電により生み出された電力により、水の電気分解を行い、得られたHである、[1]~[9]のいずれか一つに記載の方法。
この場合、原料に配慮の要らないポリエチレンテレフタレートの製造となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、新たな化石燃料を消費せずに、かつCOを消費しつつ、原材料の配慮が要らず、かつ、高純度のポリエチレンテレフタレートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態のパラキシレンを製造する方法を説明するフロー図である。
図2】本発明を利用した好適なリサイクルのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下で、本発明のポリエチレンテレフタレートの製造方法を詳細に説明する。
【0020】
<定義>
本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【0021】
本明細書において、数値範囲を「A~B」と記載した場合、端点である「A」及び「B」も数値範囲内に含まれることを意味する。
【0022】
本明細書において、鉄系の触媒とは、鉄元素を含む触媒を意味する。
【0023】
<ポリエチレンテレフタレートの製造方法>
本発明のポリエチレンテレフタレートの製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ということもある)は、CO(「二酸化炭素」ということもある)からポリエチレンテレフタレートを製造する方法であって、
COとH(「水素」ということもある)を反応させて、パラキシレンを製造する工程と、
前記パラキシレンを酸化させて、テレフタル酸を製造する工程と、
前記テレフタル酸とモノエチレングリコールとを重合させて、ポリエチレンテレフタレートを製造する工程と、を含む。
COは、例えば、種々の廃棄物を焼却して入手でき、また、Hは、例えば、太陽光、風力等の再生可能エネルギーにより発電を行い、発電した電力により水を電気分解することで入手できるため、本発明のポリエチレンテレフタレートの製造方法によると、原材料を考慮せずにポリエチレンテレフタレートを製造できる。また、中間体としてパラキシレンを製造した後、テレフタル酸を製造し、更に該テレフタル酸をモノエチレングリコールと重合させて、ポリエチレンテレフタレートを製造するため、高純度のポリエチレンテレフタレートを得られる。
【0024】
本発明のポリエチレンテレフタレートの製造方法において、各工程で使用される電力としては、二酸化炭素を発生させる燃料や焼却物等を焼却する際の熱を用いた発電、太陽光発電、及び/又は風力発電等で生み出された電力を使用することができる。このような発電により生み出された電力を使用することで、環境に配慮したポリエチレンテレフタレートの製造方法となる。
【0025】
以下で、本発明のポリエチレンテレフタレートの製造方法に含まれる各工程について説明する。
【0026】
(パラキシレンを製造する工程)
本発明のポリエチレンテレフタレートの製造方法は、COとHからパラキシレンを製造する工程を含む。
【0027】
前記COとHからパラキシレンを製造する工程で使用されるHは、特に限定されないが、HOを電気分解して得られたHであるのが好ましい。HOを電気分解して得られたHであると、原材料に配慮の要らないポリエチレンテレフタレートの製造方法となる。
前記HOの電気分解には、焼却時の熱を用いた発電、太陽光発電、及び/又は風力発電等で生み出された電力を使用するのが好ましい。前記焼却の熱を用いた発電における焼却の対象物としては、特に限定されないが、例えば石油等の化石燃料、廃油、廃タイヤ等の廃ゴム、廃プラスチック、ゴムくず、繊維くず、紙くず、木くず、植物性残渣、作物残渣、食品残渣等が挙げられる。これらの中でも、特に廃タイヤは燃焼エネルギーが高く、電気分解によるH製造の発電に有利である為好ましい。
【0028】
前記COとHからパラキシレンを製造する工程で使用されるCOは、特に限定されず、焼却ガスから回収したCO、火力発電所や各種加熱炉などのCOを発生する燃料を燃焼させる装置からの排ガスから分離されたCO、アンモニア製造装置やエチレングリコール製造装置や水素製造装置において分離されたCO、石炭やバイオマスやゴミのガス化炉の生成ガスから分離されたCO、製鉄所の高炉から分離されたCO、大気中の空気から分離したCOなどを利用することができる。これらの中でも、焼却ガスから回収したCOであるのが好ましい。COを焼却ガスから回収することによって、実質的に焼却物から生じたCOを再利用して、ポリエチレンテレフタレートを製造することができる。なお、COを焼却ガスから回収する場合、焼却炉の煙道は、CO濃度が高く、効率的にCOを取り出し易いという利点もある。また、排ガスは、NOx、SOxを含むことがあるので、適宜、脱硝、脱硫等を行うことが好ましい。
前記焼却ガスを得る焼却の対象物としては、特に限定されないが、例えば廃油、廃タイヤ等の廃ゴム、廃プラスチック、ゴムくず、繊維くず、紙くず、木くず、植物性残渣、作物残渣、食品残渣等が挙げられる。これらの中でも、特に廃タイヤであるのが好ましい。また、廃タイヤは、一般に石炭よりも熱量が高い為、焼却時に多くの熱量が得られるという利点もある。実際、現状でもタイヤ廃棄の大半は焼却に頼っており、タイヤ販売店、ガソリンスタンド等を通じた回収方法が既に確立していると共に、焼却により現在大気中に排出されるCO量を削減する事が可能である。加えて、COが得られれば原理的には同等のパラキシレンが得られるため、原材料を選ばない。使用するタイヤコードに対して焼却可能な廃タイヤ量は遥かに多い為、特定の原材料の争奪戦も起こる心配がない。以上の様に廃タイヤを焼却した際に生じた焼却ガスからCOを得て、本発明のポリエチレンテレフタレートの製造方法を使用することで、実質的に、タイヤのリサイクルの際に生じる廃有機繊維からタイヤに使用される有機繊維へのリサイクルが可能となる。また、廃タイヤを焼却する場合、廃タイヤ中のスチールコード等の金属部材を事前に除去しておいてもよく、該金属部材は、電炉によりリサイクルすることも可能である。
なお、焼却ガスからのCOの回収技術としては、化学吸収法、物理吸収法、膜分離法等を使用できる。これらのCOの回収技術の中でも、常圧で大量のCOを回収できる化学吸収法が好ましい。該化学吸収法では、例えば、アミン水溶液を用いて、排ガス中のCOを吸収し(ここで、アミン水溶液とCOをイオン結合反応させてアミン炭酸塩を生成させる)、吸収したCOをこの水溶液から放出させ(例えば、110℃~130℃程度に加熱することで、COをアミン水溶液から気化させることができる)、タンクなどにCOを回収する。
また、COの回収においては、環境への配慮と初期投資のバランスの観点から、COの回収率は、50%以上が好ましく、80%以上95%以下がより好ましい。回収率に上限を設けたのは、高すぎるとCOの回収塔、再生塔が大きくなりすぎ、場所の限定、初期投資の負担が増加する為である。
【0029】
前記パラキシレンを製造する工程としては、特に限定されるものではないが、図1に示すように、CO及びHを原料として、工程A、工程B及び工程Cを含む工程(第1のパラキシレンを製造する工程)、並びに工程a及び工程bを含む工程(第2のパラキシレンを製造する工程)が挙げられる。以下で、それぞれ説明する。
【0030】
-第1のパラキシレンを製造する工程-
触媒Zを用いてCOとHを逆水性ガスシフト(RWGS)反応させる工程Aと、
触媒Zを用いて前記工程Aで得られた生成物をFischer-Tropsch(FT)反応させる工程Bと、
触媒Xを用いて前記工程Bの生成物を芳香族化させる工程Cと、を含む、パラキシレンを製造する工程を、本明細書において、第1のパラキシレンを製造する工程と称する。
第1のパラキシレンを製造する工程を使用してポリエチレンテレフタレートを製造することで、新たな化石燃料を消費せずに、かつCOを消費しつつ、原材料に配慮しないでパラキシレンを製造でき、かつ、高純度のポリエチレンテレフタレートを得られる。
【0031】
第1のパラキシレンを製造する工程は、触媒Zを用いてCOとHを逆水性ガスシフト反応させる工程Aを含む。
該工程AにおけるCOとHの逆水性ガスシフト反応は、COをCO(一酸化炭素)に変換する反応であり、下記反応式(1)で表される。
CO+H → CO+HO ・・・(1)
【0032】
前記工程Aにおいては、触媒Zを用いる必要がある。該触媒Zとしては、鉄系の触媒を用いるのが好ましい。これは鉄系の触媒が工程Aと工程Bの両方の反応に対して触媒能力を持つためである。ここで、前記鉄系の触媒とは、鉄元素を含む物質である。また、鉄系の触媒はKまたはNa等のアルカリ金属を添加する事で反応促進する事が知られており、しばしばこれらを添加した触媒が用いられる。
前記鉄系の触媒としては、限定されるものではないが、例えばZnFeO-nNa、NaFeなどが挙げられる。これらを用いる事で工程A、工程Bの両反応が進行し、それに続く工程Cにより、COとHからパラキシレンが得られ、該パラキシレンを利用することで、高純度のポリエチレンテレフタレートが得られる。
【0033】
第1のパラキシレンを製造する工程は、触媒Zを用いて工程Aで得られた生成物をFischer-Tropsch反応させる工程Bを含む。
該工程BにおけるFischer-Tropsch反応は、炭化水素を生成する反応であり、下記反応式(2)で表される。
nCO+(2n+1)H → C2n+2+nHO ・・・(2)
なお、上記反応式(2)は、生成する炭化水素がパラフィンの場合の反応式の例であるが、工程Bで生成する炭化水素は、パラフィンに限定されるものではなく、オレフィン等の他の炭化水素であってもよい。
【0034】
前記工程Bにおいても、前記工程Aと同様に、触媒Zを用いることが必要である。前記触媒Zは、鉄系の触媒であるのが好ましい。ここで、前記鉄系の触媒とは、鉄元素を含む触媒である。触媒上でFT反応を起こすためにはCO及びHを触媒表面吸着させる能力とCとO、HとH間の結合を切る2つの能力が必要である。両者を満たす金属としてはRu、Fe、Coが一般に知られているが、Ruは非常に価格が高く、Coも存在が限定される金属である為、工程Bに対する触媒は鉄系であるのが好ましい。また、鉄系の触媒は工程AにおけるRWGS反応に対して触媒能力を持つ点でも好ましい。
前記鉄系の触媒としては、限定されるものではないが、例えばZnFeO-nNa、NaFeなどが挙げられる。
【0035】
第1のパラキシレンを製造する工程は、触媒Xを用いて前記工程Bの生成物を芳香族化させる工程Cを含む。
【0036】
該工程Cにおいて用いる触媒Xは、ゼオライトであるのが好ましく、例えば、ZSM-5及びその改良品が挙げられる。ZSM-5は、細孔径に特徴があり、より具体的には、細孔径がパラキシレンの分子サイズに適切であるため、パラキシレンの選択率を高め、高純度のパラキシレンが得られ、該パラキシレンを利用することで、高純度のポリエチレンテレフタレートが得られる。
前記ZSM-5の市販品としては、例えばZSM-5ゼオライト(東ソー社製 HSZ-800シリーズ 822H0A)等を使用することができる。
前記ZSM-5は、利用する条件に応じて、Si/Al比率を調整したり、Zn、Ga等を添加したり、シリカライト(例えば、シリカライト-1)で被覆する等の修飾を行ってもよい。
【0037】
前記工程A、工程B及び工程Cは、それぞれ順番に行っても、前記工程A、工程B及び工程Cを同時に行っても可能だが、他の生成物が生成する可能性が低くなり、パラキシレンの製造の効率及び収率が良くなるため、前記工程A、工程B及び工程Cを同時に行うのが好ましい。
【0038】
前記工程A、工程B及び工程Cを同時に行う方法として、原料ガスの流れる反応槽内の触媒Zが、触媒Xで覆われている配置が好ましい。反応槽内において、原料ガスの流れる方向に対して、触媒Z、触媒Xの順になる配置、触媒Zと触媒Xとを混在させた配置、触媒Zを触媒X上に担持した配置でも可能であるが、パラキシレンの選択率を向上させる観点から、触媒Zが触媒Xで覆われた配置(換言すると、触媒Zをコアとし、触媒Xをシェルとする、コア-シェル構造)であるのが特に好ましい。触媒Zが触媒Xで覆われた配置であると、工程Aから工程Cの反応が連続で起こるため、パラキシレン以外の生成物が生成されにくく、パラキシレンの収率が良くなる。
【0039】
第1のパラキシレンを製造する工程において、温度及び圧力は適宜選択できる。工程A~Cが同一の槽内で反応することから、温度は180~530℃、圧力は0.1~8MPaが好ましく、温度は300~350℃、圧力は1~5MPaがより好ましい。
【0040】
-第2のパラキシレンを製造する工程-
触媒Yを用いてCOとHからメタノールを合成する工程aと、
触媒Xを用いて前記メタノールを芳香族化させる工程bと、を含む、パラキシレンを製造する工程を、本明細書において、第2のパラキシレンを製造する工程と称する。
第2のパラキシレンを製造する工程を使用してポリエチレンテレフタレートを製造することで、原材料に配慮しないでポリエチレンテレフタレートを製造でき、かつ、高純度のポリエチレンテレフタレートを得られる。
【0041】
第2のパラキシレンを製造する工程は、触媒Yを用いてメタノールを合成する工程aを含む。
前記工程aでは、メタノールを合成する反応が起こり、該反応は、下記反応式(3)で表される。
CO+3H → CHOH+HO ・・・(3)
【0042】
前記工程aにおいては、触媒Yを用いる。該触媒Yは、金属酸化物であるのが好ましく、例えば、亜鉛又はクロム等を含む金属酸化物が挙げられる。限定されるものではないが、前記触媒Yとしては、例えばZnAlO、ZnO-ZrO、Cr及びZnCrO等が挙げられる。金属酸化物である触媒Yを使用することで、工程aでメタノールの生成反応が可能となる。このメタノールから、後述の工程bにより高純度のパラキシレンが得られ、該パラキシレンを利用することで、高純度のポリエチレンテレフタレートが得られる。
【0043】
第2のパラキシレンを製造する工程は、触媒Xを用いて前記メタノールを芳香族化させる工程bを含む。前記工程bでは、前記工程aで合成したメタノールを芳香族化させる。
前記工程bにおいては、以下の(4)のように、前記工程aで合成されたメタノールが、低級オレフィンを経由して、芳香族化合物となる。
CHOH ⇒ C、C等 ⇒芳香族化合物 ・・・(4)
【0044】
前記工程bでは、第1のパラキシレンを製造する工程における工程Cと同様に、触媒Xを用いる。前記触媒Xは、ゼオライトであるのが好ましく、例えば、ZSM-5及びその改良品が挙げられる。ZSM-5は、細孔径に特徴があり、より具体的には、細孔径がパラキシレンの分子サイズに適切であるため、パラキシレンの選択率を高めることができ、高純度のパラキシレンが得られ、該パラキシレンを利用することで、高純度のポリエチレンテレフタレートが得られる。
前記ZSM-5の市販品としては、例えばZSM-5ゼオライト(東ソー社製 HSZ-800シリーズ 822H0A)等を使用することができる。
前記ZSM-5は、利用する条件に応じて、Si/Al比率を調整したり、Zn、Ga等を添加したり、シリカライト(例えば、シリカライト-1)で被覆する等の修飾を行ってもよい。
【0045】
前記触媒Yと触媒Xの配置としては、反応槽内において、原料ガスの流れる方向に対して、触媒Y、触媒Xの順になる配置、触媒Yと触媒Xとを混在させた配置、触媒Yを触媒X上に担持した配置でも可能であるが、触媒Yが、触媒Xで覆われた配置(換言すると、触媒Yをコアとし、触媒Xをシェルとする、コア-シェル構造)がパラキシレンの選択率を向上させる観点から、好ましい。触媒Yが触媒Xで覆われた配置であると、工程a及び工程bの反応が連続で起こるため、パラキシレン以外の生成物が生成されにくく、パラキシレンの収率および選択率が良くなる。
【0046】
第2のパラキシレンを製造する工程において、温度及び圧力は適宜選択できる。工程a~bが同一の槽内で反応することから、温度は260~530℃、圧力は0.1~7MPaが好ましく、温度は300~350℃、圧力は3~7MPaがより好ましい。
【0047】
なお、パラキシレンを製造する工程として、第1の工程、第2の工程の2つを示したが、反応の効率の観点から、第1の工程を経る方がより好ましい。
【0048】
(テレフタル酸を製造する工程)
本発明のポリエチレンテレフタレートを製造する方法は、第1の又は第2のパラキシレンを製造する工程で製造したパラキシレンを酸化させて、テレフタル酸を製造する工程を含む。
【0049】
前記テレフタル酸を製造する工程において、パラキシレンを酸化させるために、公知の方法を用いることができる。一例としては、パラキシレンを、コバルト、マンガン、臭素イオンの触媒下で、空気酸化することで、テレフタル酸を製造できる(Amoco法)。
【0050】
(ポリエチレンテレフタレートを製造する工程)
本発明のポリエチレンテレフタレートを製造する方法は、テレフタル酸を製造する工程で得られたテレフタル酸とモノエチレングリコール(単に「エチレングリコール」とも呼ばれる。)とを重合させて、ポリエチレンテレフタレートを製造する工程を含む。
【0051】
前記ポリエチレンテレフタレートを製造する工程で使用されるモノエチレングリコールは、特に限定されないが、バイオマス由来のエチレングリコール(バイオモノエチレングリコール)であるのが好ましい。該工程でバイオモノエチレングリコールを使用することで、より環境に配慮したポリエチレンテレフタレートの製造方法が可能となる。
【0052】
前記ポリエチレンテレフタレートを製造する工程におけるテレフタル酸とモノエチレングリコールの重合方法は、溶融重合法、固相重合法等の公知の方法を用いることができる。
【0053】
<ポリエチレンテレフタレート樹脂>
本発明のポリエチレンテレフタレートの製造方法により製造されたポリエチレンテレフタレートは、高純度である。
【0054】
本発明のポリエチレンテレフタレートの製造方法により製造されたポリエチレンテレフタレートの用途は、特に限定されず、種々の用途で使用することができ、例えば繊維、フィルム、ボトルなどの用途で使用できる。
限定されるものではないが、本発明のポリエチレンテレフタレートの製造方法で製造したポリエチレンテレフタレート樹脂は、ポリエチレンテレフタレート繊維の原材料とすることができ、該ポリエチレンテレフタレート繊維をタイヤの補強材として使用することができる。これにより、特に、廃タイヤを焼却の対象物として使用した場合に、タイヤのリサイクルの際に生じた廃有機繊維をタイヤの有機繊維として再生利用することが可能となる。
【0055】
<本発明を利用したリサイクル>
本発明を利用したリサイクル工程を、図2を参照して説明する。
廃タイヤなどの廃棄物を焼却することで生成されるCOを、脱硝・脱硫し、CO回収技術により回収する。また、前記焼却による発電で生み出された電力や、太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーを使用した発電により生み出された電力により、水の電気分解を行い、Hを得る。回収したCO及びHを使用してパラキシレンを製造する工程、テレフタル酸を製造する工程、及びポリエチレンテレフタレートを製造する工程を経て、ポリエチレンテレフタレートを製造する。製造したポリエチレンテレフタレートを原料として、ポリエチレンテレフタレート繊維とし、新たなタイヤの有機繊維コードとして使用する。このような工程を経ることで、原材料に配慮が要らず、かつ、高純度のポリエチレンコードを製造できる。特に、廃タイヤを焼却物として焼却した際に発生したCOを使用して製造したポリエチレンテレフタレートを、新たなタイヤの有機繊維コードとして使用した場合には、タイヤの有機繊維からタイヤの有機繊維への実質的なリサイクルが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、新たな化石燃料を消費せずに、かつCOを消費しつつ、原材料の配慮が要らず、かつ、高純度のポリエチレンテレフタレートの製造方法を提供することができる。
図1
図2