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  • 特開-リング状金属ガスケット 図1
  • 特開-リング状金属ガスケット 図2A
  • 特開-リング状金属ガスケット 図2B
  • 特開-リング状金属ガスケット 図2C
  • 特開-リング状金属ガスケット 図3
  • 特開-リング状金属ガスケット 図4
  • 特開-リング状金属ガスケット 図5A
  • 特開-リング状金属ガスケット 図5B
  • 特開-リング状金属ガスケット 図6A
  • 特開-リング状金属ガスケット 図6B
  • 特開-リング状金属ガスケット 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113600
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】リング状金属ガスケット
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/08 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
F16J15/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018715
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏原 一之
(72)【発明者】
【氏名】藤堂 聡
【テーマコード(参考)】
3J040
【Fターム(参考)】
3J040AA01
3J040BA03
3J040EA18
3J040FA01
(57)【要約】
【課題】リング状金属ガスケットを、断面積が小さくてより狭いスペースにも適用可能であり、また、小さな軸力でも所望の封止性能が得られるものにする。
【解決手段】半径方向内側面2が平坦な断面矩形状で、半径方向外側面の両角部に面取り4を設ける。断面の半径方向の幅に対する面取り4の一辺の長さの比を、0.500以上0.875以下とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の被封止部材に挟み込まれるリング状金属ガスケットであって、
半径方向内側面が平坦な断面矩形状で、半径方向外側面の両角部に面取りが設けられており、
断面の半径方向の幅に対する前記面取りの一辺の長さの比が、0.500以上0.875以下である
ことを特徴とするリング状金属ガスケット。
【請求項2】
断面のアスペクト比が、2.0以上3.5以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のリング状金属ガスケット。
【請求項3】
面取りの軸方向に対する角度が、35°以上55°以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のリング状金属ガスケット。
【請求項4】
半径方向内側面及び半径方向外側面が平坦な断面六角形である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のリング状金属ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定フランジなどの一対の被封止部材に挟み込まれるリング状金属ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空の形成及び内外圧力を密封するための固定フランジ用のリング状金属ガスケットは知られている。この種のリング状金属ガスケットとして、例えば図6Aに示すような断面形状のメタルOリング101が知られている。このメタルOリング101は、例えば図6Bに示すように、上下のフランジ110,111で締め付けることにより変形し、反力を得てシール性能を発現する。
【0003】
一方、特許文献1のように、径方向に延びる一対のフォーク部と、フォーク部の基部同士を連結する連結部と、フォーク部の先端側から圧縮方向反対側に突出するリップ部とを備える、複雑な断面形状のリング状金属ガスケットも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-167617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のリング状金属ガスケットが使用される設備や装置は、一般的に小型化に向かう傾向があり、使用される各部品に許容されるスペースの制限は、より厳しくなっている。リング状金属ガスケットについても例外ではなく、より狭い限られたスペースで使用可能な小さな断面の製品が求められている。
【0006】
また、設備、装置等の小型化に伴ってボルト等の締結部品のサイズも小さくなり、得られる軸力が低下するため、リング状金属ガスケットは、より小さな締結力で封止性能を発現することが必要となってきた。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、リング状金属ガスケットを、断面積が小さくてより狭いスペースにも適用可能であり、また、小さな軸力でも所望の封止性能が得られるものにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、リング状金属ガスケットの断面形状に工夫を加えた。
【0009】
具体的には、第1の発明のリング状金属ガスケットは、一対の被封止部材に挟み込まれるリング状金属ガスケットであって、
半径方向内側面が平坦な断面矩形状で、半径方向外側面の両角部に面取りが設けられており、
断面の半径方向の幅に対する前記面取りの一辺の長さの比が、0.500以上0.875以下である。
【0010】
ここで、リング状金属ガスケットの矩形状断面の半径方向の長さ(幅)に対する面取りの比を0.500よりも小さくすると変形に必要な軸力が大きくなってしまい、0.875よりも大きくすると変形に必要な軸力は小さくなるものの、適切なシール性能を得るためには変形後の幅が大きくなりすぎて溝の外径に干渉する懸念がある。しかし、上記の構成によると、変形後の幅を大きくしすぎないようにしながら、小さな軸力で適切なシール性能が得られる。特に半径方向内側面が平坦であることから変形前の幅が小さく、変形時にも膨らみにくいことから変形後の幅の増加も抑えられる。また、面取りがあることにより、被封止部材の成形時に形成された隅角のR部との接触が避けられて有利である。ここで、「平坦」とは、完全に凹凸のないフラットな形状という意味ではなく、多少の凹凸や傾斜があってもよいことを意味する。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、
断面のアスペクト比は、2.0以上3.5以下である。
【0012】
ここで、断面のアスペクト比を2.0よりも小さくすると、幅の割合が増えて変形させるために必要な軸力が大きくなりすぎ、3.5よりも大きくすると、軸力が小さくなりすぎてシール性能を得るために必要な反力を得られなくなる懸念がある。また、変形しやすくなりすぎて適切なシール性能を得るためには変形後の幅が大きくなり、溝の外径に干渉する懸念がある。しかし、上記の構成によると、変形後の幅を大きくしすぎないようにしながら、小さな軸力で適切なシール性能が得られる。
【0013】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
面取りの軸方向に対する角度は、35°以上55°以下である。
【0014】
ここで、面取りの軸方向に対する角度が、35°よりも小さくなると一対の被封止部材で挟み込んだときに、変形させるための軸力が大きくなってしまい、55°よりも大きくなると軸力が小さくなりすぎてシール性能を得るために必要な反力を得られなくなる懸念がある。また、シール面が尖りすぎて変形量が大きくなりすぎて溝の外径に干渉する懸念がある。しかし、上記の構成によると、変形後の幅を大きくしすぎないようにしながら、小さな軸力で適切なシール性能が得られる。
【0015】
第4の発明では、第1から第3のいずれか1つの発明において、
リング状金属ガスケットは、半径方向内側面及び半径方向外側面が平坦な断面六角形である。
【0016】
上記の構成によると、最も簡単な形状で、切削、切断などにより成形がしやすく、変形前及び変形後の幅を抑えやすいリング状金属ガスケットが得られる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明のリング状金属ガスケットは、一対の被封止部材で挟み込んだときに、変形前及び変形後の幅が抑えられるので、断面積が小さくてより狭いスペースにも適用可能であり、変形後の幅を抑えながらも小さな軸力で所望の封止性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るリング状金属ガスケットを拡大して示す断面図である。
図2A】本発明の実施形態に係るリング状金属ガスケットを示す正面図である。
図2B】本発明の実施形態に係るリング状金属ガスケットを示す平面図である。
図2C】本発明の実施形態に係るリング状金属ガスケットを示す斜視図である。
図3図2BのIII-III線拡大断面図である。
図4】本発明の実施形態に係るリング状金属ガスケットの使用状態の一例を示す断面図である。
図5A】本発明の実施例に係るリング状金属ガスケットに対して行った解析結果の変形前の様子を示す図である。
図5B】本発明の実施例に係るリング状金属ガスケットに対して行った解析結果の変形後の様子を示す図である。
図6A】従来技術(比較例)に係るメタルOリングに対して行った解析結果の変形前の様子を示す図である。
図6B】従来技術(比較例)に係るメタルOリングに対して行った解析結果の変形後の様子を示す図である。
図7】荷重特性を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1図3は、本発明の実施形態のリング状金属ガスケット1を示し、このリング状金属ガスケット1は、半径方向内側面2及び半径方向外側面3が平坦な断面矩形状である。ここで、「平坦」とは、完全に凹凸のないフラットな形状という意味ではなく、多少の凹凸や傾斜があってもよいことを意味する。
【0021】
そして、半径方向外側面3における、軸方向両端の両角部に面取り4が設けられている。これにより、リング状金属ガスケット1は、半径方向内側面2及び半径方向外側面3が平坦な断面六角形状をしている。面取り4は、原則として、軸方向両側の形状が軸方向中間線を中心に対称形をしているが、場合によっては非対称であってもよい。面取り4が施されることで形成された軸方向両端角部が被封止部材とのシール面5を形成する。
【0022】
リング状金属ガスケット1は、例えば、図4に示すように、半導体製造装置などに用いられるマスフローコントローラの、被封止部材としての上側固定フランジ10と下側固定フランジ11との間に挟み込まれ、両者間でガス、液体などの流体を封止する役割を果たす。
【0023】
この面取り4は、糸面取りのような、単に尖りを無くすための小さい面取りではなく、断面の半径方向の長さ(すなわち幅W)に対する面取り4の一辺の長さLの比(L/W)が、0.500以上0.875以下(0.500≦L/W≦0.875)という、幅Wに対して比較的大きなものである。ここで一辺の長さLは、被封止部材のシール面と接する側(軸方向端面側)の一辺の長さをいう。この面取り4が設けられているので、例えば、下側固定フランジ11の成形時に形成された隅角のR部12との接触が避けられて有利である。
【0024】
そして、リング状金属ガスケット1の矩形状断面の半径方向の幅(幅W)に対する面取り4の比を0.500よりも小さくすると変形に必要な軸力が大きくなり、0.875よりも大きくすると軸力は小さくなるが、適切なシール性能を得るためには変形後の幅Wが大きくなりすぎて下側固定フランジ11の溝の外径に干渉する懸念がある。しかし、本実施形態のように0.500≦L/W≦0.875であれば、変形後の幅を大きくしすぎないようにしながら、小さな軸力で適切なシール性能が得られる。
【0025】
また本実施形態では、リング状金属ガスケット1の断面の高さをHとしてアスペクト比(H/W)が、2.0以上3.5以下(2.3≦H/W≦3.5)と高さHが幅Wに比べて高くなっている。
【0026】
断面のアスペクト比を2.0よりも小さくすると、幅Wの割合が増え、変形させるために必要な軸力が大きくなり、3.5よりも大きくすると、幅Wの割合が減って変形しやすくなるが、軸力が小さくなりすぎてシール性能を得るために必要な反力を得られなくなる懸念がある。また、適切なシール性能を得るためには変形後の幅Wが大きくなりすぎて下側固定フランジ11の溝の外径に干渉する懸念がある。しかし、本実施形態のように2.3≦H/W≦3.5であれば、変形後の幅Wを大きくしすぎないようにしながら、小さな軸力で適切なシール性能が得られる。
【0027】
また本実施形態では、面取り4の軸方向に対する角度θが、35°以上55°以下である(35°≦θ≦55°)。
【0028】
面取り4の軸方向に対する角度が、35°よりも小さくなると変形させるための軸力が大きくなり、55°よりも大きくなると変形量が大きくなりすぎて下側固定フランジ11の溝の外径に干渉する懸念がある。しかし、本実施形態のように35°≦θ≦55°であると、変形後の幅を大きくしすぎないようにしながら、小さな軸力で適切なシール性能が得られる。
【0029】
本実施形態では、例えば、一辺の長さLが0.30mm、高さHが0.8mm、角度θが45°で、外径が20.25mmの場合を図示している。これらの寸法は、用途に合わせ、上記範囲内で変更可能である。リング状金属ガスケット1の外径は、特に制限はないが、例えば5mm~45mm程度で、比較的小さなものである。
【0030】
リング状金属ガスケット1は、例えば、SUS316Lなどの丸棒や丸パイプから削り出し、切断などによって加工される。面取り4の加工はどの段階で行ってもよい。リング状金属ガスケット1の材質も、用途に合わせて適切な金属を選択すればよく、SUSU316Lに限定されない。本実施形態のリング状金属ガスケット1は、基本的な断面が矩形状で、半径方向外側面3に面取り4が形成されて六角形状になるという極めて単純な形状であるので、例えば、丸棒や丸パイプから削り出し、切断等で成形するときの加工がしやすく、製造しやすいという利点もある。
【0031】
-実施例-
次に、実施例である本実施形態に係るリング状金属ガスケット1と、比較例である従来のメタルOリング101の荷重特性を比較したシミュレーション結果について図5A図7を用いて説明する。
【0032】
まず、断面形状であるが、圧縮前のシミュレーション用に設定した平坦な上下のフランジ110,111の間隔であるセット高さ0.855mmの形状では、図6Aに示すように、比較例のメタルOリング101は、外径D0が0.855mmの円環形で、肉厚t0が0.25mmである。
【0033】
一方、図5Aに示すように、実施例のリング状金属ガスケット1の幅Wが0.355mmで、高さHが0.855mmである。幅だけ比べても実施例のリング状金属ガスケット1の幅WがメタルOリングの幅(外径D0)の1/2よりも小さい(W<D0/2)。
【0034】
そして、上下のフランジ110,111の間隔を狭くして、セット高さを0.60mmまで小さくすると、図6Bに示すように、比較例のメタルOリング101は、押しつぶされて、幅が左右均等に拡がって1~2割程度大きくなる。
【0035】
一方、実施例のリング状金属ガスケット1では、特に半径方向内側面2の上下中間部はほとんど膨らまずに、半径方向内側面2の上下のシール面5部分が拡がり、半径方向内側面2と半径方向外側面3との間の距離はあまり増えない。このように、元々の幅Wが小さく、変形後の幅Wの増加も抑えられている。
【0036】
次いで、図7に実施例及び比較例の荷重特性について示す。上下の被封止部材の間隔(セット高さ)を小さくしていくと、比較例の方が、若干圧縮荷重が大きいが、実施例においても同様の荷重特性を示すことが分かった。
【0037】
実施例では、変形前の幅Wを比較例に比べて1/2よりも小さくしたにもかかわらず、幅の大きな比較例と同等の圧縮荷重が得られることが分かる。
【0038】
このように、本実施形態に係るリング状金属ガスケット1は、一対の被封止部材で挟み込んだときに、変形前及び変形後の幅Wが抑えられるので、断面積が小さくてより狭いスペースにも適用可能である。また、変形後の幅Wを抑えながらも小さな軸力で所望の封止性能が得られる。このため、小さなボルト等の締結力によって得られる軸力が限られている場合でも、必要な封止性能を確保できる。
【0039】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0040】
すなわち、上記実施形態では、リング状金属ガスケット1は、マスフローコントローラの上側固定フランジ10と下側固定フランジ11との間に挟み込まれ、両者間でガスなどの流体を封止する用途について説明したが、これに限定されず、封止する流体は液体でもよく、用途も特に限定されない。
【0041】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0042】
1 リング状金属ガスケット
2 半径方向内側面
3 半径方向外側面
4 面取り
5 シール面
10 上側固定フランジ(被封止部材)
11 下側固定フランジ(被封止部材)
12 R部
101 メタルOリング(比較例)
110 フランジ
111 フランジ
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7