IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社BIOTAの特許一覧

特開2024-113603室内の微生物多様性維持方法及び室内の微生物多様性維持装置
<>
  • 特開-室内の微生物多様性維持方法及び室内の微生物多様性維持装置 図1
  • 特開-室内の微生物多様性維持方法及び室内の微生物多様性維持装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113603
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】室内の微生物多様性維持方法及び室内の微生物多様性維持装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240815BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C12N1/20 D
C12N1/20 A
C12M1/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018723
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】521094492
【氏名又は名称】株式会社BIOTA
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光平
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB01
4B029CC01
4B029DG10
4B029GB05
4B029HA05
4B065AA01X
4B065AC20
4B065CA54
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】簡易な方法で室内の微生物多様性を維持できる方法及び装置を提供する。
【解決手段】ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を室内で散布する工程を備えることを特徴とする室内の微生物多様性維持方法である。また、除菌用組成物又は除菌用ガスを散布後、ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する工程を備えることを特徴とする室内の微生物多様性維持方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を室内で散布する工程を備えることを特徴とする室内の微生物多様性維持方法。
【請求項2】
除菌用組成物又は除菌用ガスを散布後、ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する工程を備えることを特徴とする室内の微生物多様性維持方法。
【請求項3】
前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌が、バチルス属の細菌である請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項4】
前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を、所定時間ごとに1回散布する請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項5】
前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物が、前記微生物を、1×10CFU/mL以上含有するものである請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項6】
前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を、1~3時間毎に1回、0.1~3ml散布する請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項7】
室内の中央に位置する床の表面を拭うことによって採取したサンプルをメタゲノムシーケンス解析することによって得られる系統的多様性とシャノン多様性指数の積の、散布前からの低下率を10%以下にする、請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項8】
ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する散布手段を備えることを特徴とする室内の微生物多様性維持装置。
【請求項9】
除菌用組成物又は除菌用ガスを散布する散布手段、及び、人及び動物に無害な微生物を含有する液状組成物を散布する散布手段を備える室内の微生物多様性維持装置。
【請求項10】
室内の微生物多様性維持用であるフィルミクテス門の細菌。
【請求項11】
ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する室内の微生物多様性維持用組成物。










【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内の微生物多様性維持方法及び室内の微生物多様性維持装置に関し、詳しくは、ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を室内で散布する工程を備えることを特徴とする室内の微生物多様性維持方法、及び、ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する散布手段を備えることを特徴とする室内の微生物多様性維持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間が生活し、活動する部屋の内部(室内)は、人間の吐息、飛沫、皮膚、毛髪等に由来する微生物が偏在する傾向が高い。すなわち、室内の微生物叢は、人間由来の微生物の占有率が高く、多様性が低くなる傾向がある。考えられる理由の一つとして、人間が活動すれば、呼吸や代謝などに伴って常に人間由来の微生物が室内に供給されることが挙げられる。
【0003】
ヒト由来の微生物の中には病原性のものもあることから、室内の微生物環境を整えるために、アルコール等による除菌によって室内の微生物を死滅させるというアプローチが採られることが多い。しかしながら、このアプローチは、アルコール等の薬剤に耐性のある菌のみが生存し、却って多様性が失われることや、除菌効果が一時的なものであり、すぐに微生物、特に人間由来の微生物が増殖することから問題の根本的な解決とはならない。
【0004】
このように、室内の微生物叢は多様性が失われがちである。生物多様性が地球規模で非常に重要であることが言われはじめてから久しいが、本発明者は、最近、室内の微生物多様性の維持が人間の健康や免疫にとって重要であることを提唱している。人間は、子供の頃から野外で活動するなどして様々な微生物やウイルスに触れる機会が多いと免疫が寛容となり、成長してから花粉症、喘息などの自己免疫疾患の悪化率が低くなるという衛生仮説が知られている。本発明者は、この衛生仮説を参考にして、室内の微生物多様性は、人間の健康や免疫に影響を与えると考えている。ところが、現在のところ、簡易な方法で室内の微生物多様性を維持する方法は知られていない。
【0005】
そこで、簡易な方法で室内の微生物多様性を維持できる手段が求められている。
【0006】
特許文献1には、非病原性細菌株が当該表面等に適用されることを特徴とする、表面、物体及び/又は設置物を病原体から自由に保つための方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1には、室内の微生物多様性を維持することについては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2006/125283号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、簡易な方法で室内の微生物多様性を維持できる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のグループに属する微生物を含む液体組成物を室内に散布することで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]~[11]である。
[1]ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を室内で散布する工程を備えることを特徴とする室内の微生物多様性維持方法。
[2]除菌用組成物又は除菌用ガスを散布後、ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する工程を備えることを特徴とする室内の微生物多様性維持方法。
[3]前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌が、バチルス属の細菌である請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
[4]前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を、所定時間ごとに1回散布する[1]の室内の微生物多様性維持方法。
[5]前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物が、前記微生物を、1×10CFU/mL以上含有するものである[1]の室内の微生物多様性維持方法。
[6]前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を、1~3時間毎に1回、0.1~3ml散布する[1]の室内の微生物多様性維持方法。
[7]室内の中央に位置する床の表面を拭うことによって採取したサンプルをメタゲノムシーケンス解析することによって得られる系統的多様性と、シャノンインデックスの積について、散布前と散布後とを比較したときに、散布後、1時間、2時間、3時間、5時間後、24時間後、48時間後、72時間後、1週間後あるいは14日後のいずれかの時点において、散布前からの低下率を10%以下に維持する[1]の室内の微生物多様性維持方法。
[8]ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する散布手段を備えることを特徴とする室内の微生物多様性維持装置。
[9]除菌用組成物又は除菌用ガスを散布する散布手段、及び、人及び動物に無害な微生物を含有する液状組成物を散布する散布手段を備える室内の微生物多様性維持装置。
[10]室内の微生物多様性維持用であるフィルミクテス門の細菌。
[11]ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する室内の微生物多様性維持用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、本発明は、簡易な方法で室内の微生物多様性を維持できる方法及び装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例の結果を示すグラフ図である。各サンプルにおける系統的多様性の変動(菌体噴霧)を示す。
図2】実施例の結果を示すグラフ図である。各サンプルにおけるシャノン指数の変動(菌体噴霧)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<室内の微生物多様性維持方法>
本発明の室内の微生物多様性維持方法は、ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を室内で散布する工程を備えることを特徴とするものである。
【0015】
[微生物多様性]
生物多様性とは、生態系、生物群系または地球全体に、多様な生物が存在していることを指す。微生物多様性とは、生物多様性のうち、微生物の多様性のことをいう。室内の微生物多様性を維持することは、そこで生活する人間あるいはペットが多様な微生物に触れることになり、衛生仮説と同様に、健康や免疫に良好な影響を与えることが期待できる。また、多様性を維持することによって、特定の微生物が増殖、占有することを防ぐことができる。これにより、例えば、悪臭の原因となる菌が室内環境を占有することを防ぎ、悪臭を防止することが期待できる。
【0016】
微生物多様性は、公知の方法で測定ないし評価することができる。例えば、室内の空間から、或いは、床、壁を拭うなどすることによってサンプルを採取し、サンプル中の16S rRNA遺伝子をPCRにて増幅し、次世代シーケンサを用いてメタゲノムシーケンスを行う方法が挙げられる。微生物多様性の評価基準としては、例えば、シャノンインデックス、系統的多様性が挙げられる。
本発明の室内の微生物多様性維持方法は、室内から採取したサンプルから測定される系統的多様性と、シャノンインデックスの積について、散布前と散布後とを比較したときに、例えば、散布後、1時間、2時間、3時間、5時間後、24時間後、48時間後、72時間後、1週間後あるいは14日後のいずれかの時点において、散布前からの低下率を10%以下に維持することが好ましい。
【0017】
[フィルミクテス門の細菌]
本発明において用いられるのは、非病原性のフィルミクテス門(Firmicutes)の細菌である。本発明者は、室内の微生物多様性維持用として、非病原性のフィルミクテス門の細菌を用いることができることを見出した。非病原性とは、正常な免疫を有するヒトや動物に対して病原性を示さないということである。この場合、動物とは、好ましくは犬や猫などの愛玩動物を指すが、牛や豚などの家畜であってもよい。したがって、病原性のフィルミクテス門の細菌、例えば、破傷風菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌は本発明では使用されない。フィルミクテス門は、バシラス綱、クロストリジウム綱、エリュシペロトリクス綱、ネガティウィクテス綱、サーモリソバクテリア綱を含む。このうち、バシラス網が好ましい。バシラス綱は、ラクトバシラス目、バシラス目を含み、ラクトバシラス目が好ましい。ラクトバシラス目は、アエロコックス科、カルノバクテリウム科、エンテロコッカス科、ラクトバシラス科、ロイコノストック科、レンサ球菌科(ストレプトコッカス科)を含み、ラクトバシラス科が好ましい。ラクトバシラス科は、ラクトバシラス属を含む。非病原性のフィルミクテス門の細菌は一種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明において使用する菌としては、食用として公知の菌、食物の生産に用いられるものとして公知の菌、又はヒトに対する安全性が確認されているものが好ましい。
【0018】
[液状組成物]
本発明において用いられる液状組成物は、フィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物である。好ましくは、フィルミクテス門の細菌と溶媒とを含む。フィルミクテス門の細菌は、菌体の状態でもよく、芽胞の状態でもよい。芽胞の状態であっても、散布後、通常の状態の細胞となり、微生物多様性の維持に資することが期待できる。保存安定性の観点からは芽胞の状態が好ましい。溶媒は、フィルミクテス門の細菌を死滅させることなく分散できるものであれば特に限定されないが、散布から所定期間経過後に揮発するものが好ましい。水、液体培地、エタノールなどの水性溶媒、或いはこれらの混合物などが挙げられる。液状組成物中のフィルミクテス門の細菌の含有量は、好ましくは、1×10CFU/mL以上であり、より好ましくは1×10~1×10CFU/mLである。
【0019】
液状組成物の粘度は特に限定されないが、スプレーノズルから散布可能な程度に低粘度であることが好ましい。
【0020】
[散布]
液状組成物の散布方法は特に限定されず、公知の薬剤散布装置、スプレー、噴霧器などを使用することができる。また、エアゾール式スプレー、手動タイプ、自動タイプ、ハンドスプレー、トリガーポンプ付き容器に充填することで構成されるポンプ式のスプレー製品や、耐圧容器に、液状組成物と、必要に応じて噴射剤とを封入することで構成されるエアゾール製品等を使用することができる。噴射剤としては、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等が挙げられる。スプレー製品、及びエアゾール製品としては、定量噴射バルブを用いたワンプッシュ式スプレーヤーや、トリガー式スプレーヤーを備えるものであってもよい。これにより、噴射回数に応じて適切な量の液状組成物を散布することができる。
【0021】
室内の微生物多様性を維持するという観点から、所定時間内に1回散布することが好ましい。このような散布方法を容易に実現する方式として、タイマー付きの自動散布装置が好ましい。例えば、タイマーによって時間を計測し、予め設定された時間毎に一回、液状組成物を散布する。より好ましくは、1~24時間に1回散布するものであり、さらに好ましくは1~8時間に1回散布するものである。このようなスケジュールで散布することによって、より効率よく室内の微生物多様性を維持することが期待できる。
【0022】
散布は、液状組成物を室内に広く分散させるという観点から、室内の空中に向けて行われることが好ましい。また、一点に集中してスプレーするよりも、広い範囲に向けて散布することが好ましい。サーキュラーなどの分散補助手段を用いることもできる。また、エアコンの吹き出し口や扇風機、サーキュレーターのファンの近傍に散布装置を取り付けることで液状組成物を散布することも可能である。
【0023】
液状組成物の散布は、一回あたり、液状組成物を0.1ml~10ml散布することが好ましく、0.1ml~5ml散布することがより好ましく、0.1~3ml散布することが特に好ましい。一回あたりの散布量が多いほど、室内に供給されるフィルミクテス門の細菌の量が増え、高い効果が期待できるが、あまり散布量が多いと、散布量の増加に見合う効果の増強が見られなくなる一方で、液状組成物の散布後、揮発せずに残存する液滴が多くなる。
【0024】
散布される液状組成物の液滴の粒径は特に限定されないが、小さいほど液状組成物の分散性が高くなり、フィルミクテス門の細菌が室内に広く分散することが期待できる。一方で、散布装置のノズル形状等から、液滴の粒径の下限が規定される。粒径(例えば、D50)は、レーザー回折粒度分布測定装置によって測定することができる。
【0025】
<除菌用組成物又は除菌用ガス>
本発明の別の態様の室内の微生物多様性維持方法は、除菌用組成物又は除菌用ガスを散布後、ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する工程を備えることを特徴とするものである。除菌用組成物又は除菌用ガスを室内に散布すると、その除菌用組成物又は除菌用ガスに対する耐性を有する菌を除いて非特異的に菌が除かれ、耐性菌の占有率が高くなり、多様性は下がる。また、除菌用組成物又は除菌用ガスによる除菌効果は一時的である。そのため、除菌用組成物又は除菌用ガスを散布することは、室内の多様性維持にとってマイナスである。ところが、本発明者は、除菌用組成物又は除菌用ガスを散布した後に、室内の多様性維持に有用なヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布することで、結果として、室内の多様性の回復を早め、室内の多様性維持にとって好適であることを見出した。除菌後に非病原性のフィルミクテス門の細菌を室内で増殖させることで薬剤耐性菌などの有害な微生物の占有を抑えることができ、他の微生物の増殖が阻害されない。
【0026】
除菌用組成物は、除菌用として公知の組成物、好ましくは除菌用の液状組成物を用いることができる。例えば、30~90%エタノールを含有する水溶液などのエタノール含有液、酢酸含有液、クエン酸含有液、次亜塩素酸水を挙げることができる。添加物として、緑茶抽出物、乳酸ナトリウム、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、リンゴ酸、植物由来の抗菌剤等を含有していてもよい。除菌用組成物は、除菌力を有しつつも、人体や動物に無害なものが好ましい。また、除菌用ガスは、除菌用として公知のガスをいずれも用いることができ、例えば、オゾンガス、二酸化塩素ガスなどが挙げられる。また、除菌用ガスは、混合ガスであってもよい。
【0027】
本発明においては、除菌用組成物又は除菌用ガスを散布した後に、所定時間経過後にヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布することが好ましい。除菌用組成物又は除菌用ガスを散布した後、20分~3時間経過後にヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布することが好ましく、より好ましくは、0.5時間~2時間経過後、さらに好ましくは1~2時間経過後である。
【0028】
除菌用組成物が液状組成物の場合の粘度は特に限定されないが、スプレーノズルから散布可能な程度に低粘度であることが好ましい。
【0029】
[散布]
除菌用組成物又は除菌用ガスの散布方法は特に限定されず、公知の薬剤散布装置、スプレー、噴霧器などを使用することができる。また、エアゾール式スプレー、手動タイプ、自動タイプ、ハンドスプレー、トリガーポンプ付き容器に充填することで構成されるポンプ式のスプレー製品や、耐圧容器に、液状組成物と、必要に応じて噴射剤とを封入することで構成されるエアゾール製品等を使用することができる。噴射剤としては、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等が挙げられる。スプレー製品、及びエアゾール製品としては、定量噴射バルブを用いたワンプッシュ式スプレーヤーや、トリガー式スプレーヤーを備えるものであってもよい。これにより、噴射回数に応じて適切な量の除菌用組成物又は除菌用ガスを散布することができる。
【0030】
室内の微生物多様性を維持するという観点から、除菌用組成物又は除菌用ガスを所定時間内に1回散布することが好ましい。このような散布方法を容易に実現する方式として、タイマー付きの自動散布装置が好ましい。例えば、タイマーによって時間を計測し、予め設定された時間毎に一回、除菌用組成物又は除菌用ガスを散布する。より好ましくは、24~96時間に1回散布するものであり、さらに好ましくは24~48時間に1回散布するものである。このようなスケジュールで散布することによって、より効率よく室内の微生物多様性を維持することが期待できる。一定時間ごとに除菌用組成物又は除菌用ガスを散布する場合、ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物も一定時間毎に散布することが好ましい。
【0031】
散布は、除菌用組成物又は除菌用ガスを室内に広く分散させるという観点から、室内の空中に向けて行われることが好ましい。また、一点に集中してスプレーするよりも、広い範囲に向けて散布することが好ましい。サーキュラーなどの分散補助手段を用いることもできる。また、エアコンの吹き出し口や扇風機、サーキュレーターのファンの近傍に散布装置を取り付けることで除菌用組成物又は除菌用ガスを散布することも可能である。
【0032】
除菌用組成物又は除菌用ガスの散布は、除菌用組成物が液状である場合、一回あたり、除菌用組成物を0.1ml~10ml散布することが好ましく、0.1ml~5ml散布することがより好ましく、0.1~3ml散布することが特に好ましい。一回あたりの散布量が多いほど、室内に供給される除菌用組成物の量が増え、高い効果が期待できるが、あまり散布量が多いと、散布量の増加に見合う効果の増強が見られなくなる一方で、除菌用組成物の散布後、揮発せずに残存する液滴が多くなる。
【0033】
散布される除菌用組成物が液状組成物である場合の液滴の粒径は特に限定されない。
【0034】
<室内の微生物多様性維持装置>
本発明の室内の微生物多様性維持装置は、ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する散布手段を備えることを特徴とするものである。微生物多様性、及び、ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物については、本発明の室内の微生物多様性維持方法と同様である。
【0035】
本発明の室内の微生物多様性維持装置の散布手段は、特に限定されず、公知のスプレーノズル、或いは噴霧機構を採用することができる。本発明の装置は、散布手段のほか、液状組成物を収容するタンク、タンクから散布手段までの液状組成物の流路を備える。また噴霧は、電子制御によって一定の間隔で一定量を散布するようプログラムされることができる。さらに本発明の装置は、空調システムと併用して、取り入れた外気に液状組成物を混合させて室内に噴霧することもできる。
【0036】
本発明の室内の微生物多様性維持装置は、フィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する散布手段の他に、除菌用組成物又は除菌用ガスを散布する散布手段を備えていてもよい。この場合、タンクもフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を収容するタンクの他に、除菌用組成物又は除菌用ガスを収容するタンクを備える。
【実施例0037】
非病原性のフィルミクテス門の細菌として、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)を芽胞状態で、1×10CFU/mL含有するエタノール水溶液からなる液状組成物を用意した。エタノール濃度は、8%であった。
上記液状組成物を、鉄筋コンクリート構造のオフィスビルの個室トイレの一室(0.8畳、室温:25℃)に、一回あたり、1.0mL散布した。散布は、ハンドスプレーを用いて、室内の空中に向けて行った。また、散布は、24時間ごとに一回散布を行った。
散布前、及び、散布後、経時的に室内の中心部の床をスワブで拭い、測定サンプルを採取した。スワブは、Isohelix社のIsohelix Swab:SK-3を用い、採取したサンプルは同じくIsohelix社のBuccalFix Stabilization and Lysis Buffers:BFX/S1-05の溶液中で保存した。
測定サンプルは、PCRによって16S rRNA遺伝子を増幅したのち、次世代シーケンサを用いてメタゲノムシーケンスを行い、系統的多様性とシャノンインデックスを算出した。得られた結果を図1及び図2に示す。図1はシャノン指数の経時的変化を示すグラフであり、図2は系統的多様性の経時的変化を示すグラフである。本実験は、個室トイレ2室について実施しており、それぞれ「10F toilet」、「12F toilet」と表記する。図1及び図2中、「average」とは、「10F toilet」及び「12F toilet」の値の平均値である。系統的多様性は、分子系統樹を利用して、その枝長の和で多様性を評価する指標である。この指数においては、より系統的に離れた種が多数存在するほど値は高くなる。一方シャノンインデックスは、サンプル全体に対する種の割合から算出され、より多くの種が存在し、それらが均等に存在するほどこの指数は高くなる。
例えば、Infect Drug Resist. 2019; 12: 501-510.に記載されているように、化学洗剤や消毒剤を使用した従来のサニテーション技術では薬剤耐性菌が生き残り、却って室内の微生物多様性が減少することが知られている。また、密閉性の高い部屋では特に対策をしないと室内の微生物多様性は減少していく傾向があることが知られている。
機械換気を行う室内では、系統的多様性は平均10~15まで低下し(Steven W Kembel et al., The ISME Journal volume 6 pages1469-1479 (2012))、集中治療室(ICU)のような密閉された空間では、シャノンインデックスは平均3.8まで低下した(Alexander Mahnert et al., Nature Communications volume 10, number: 968 (2019))。
これに対して、図1及び図2のグラフから明らかなように、密閉性の高い部屋では経時的に室内の微生物多様性が低下することが知られているにもかかわらず、非病原性のフィルミクテス門の細菌としてバチルス サブチリス(Bacillus subtilis)を含有する液状組成物を散布した場合、室内の微生物多様性の低下が抑制され、微生物多様性を維持することができた。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-06-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を、ヒトが生活し、活動する部屋の内部である室内で散布する工程を備えることを特徴とする室内の微生物多様性維持方法。
【請求項2】
除菌用組成物又は除菌用ガスを散布後、ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する工程を備えることを特徴とする、ヒトが生活し、活動する部屋の内部である室内の微生物多様性維持方法。
【請求項3】
前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌が、バチルス属の細菌である請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項4】
前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を、所定時間ごとに1回散布する請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項5】
前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物が、前記微生物を、1×10CFU/mL以上含有するものである請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項6】
前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を、1~3時間毎に1回、0.1~3ml散布する請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項7】
室内の中央に位置する床の表面を拭うことによって採取したサンプルをメタゲノムシーケンス解析することによって得られる系統的多様性とシャノン多様性指数の積の、散布前からの低下率を10%以下にする、請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項8】
ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する散布手段を備えることを特徴とする、ヒトが生活し、活動する部屋の内部である室内の微生物多様性維持装置。
【請求項9】
除菌用組成物又は除菌用ガスを散布する散布手段、及び、人及び動物に無害な微生物を含有する液状組成物を散布する散布手段を備える、ヒトが生活し、活動する部屋の内部である室内の微生物多様性維持装置。
【請求項10】
ヒトが生活し、活動する部屋の内部である室内の微生物多様性維持用であるフィルミクテス門の細菌。
【請求項11】
ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する、ヒトが生活し、活動する部屋の内部である室内の微生物多様性維持用組成物。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を、ヒトが生活し、活動する部屋の内部である室内で散布する工程を備えることを特徴とする室内の微生物多様性維持方法。
【請求項2】
除菌用組成物又は除菌用ガスを散布後、ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する工程を備えることを特徴とする、ヒトが生活し、活動する部屋の内部である室内の微生物多様性維持方法。
【請求項3】
前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌が、バチルス属の細菌である請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項4】
前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を、所定時間ごとに1回散布する請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項5】
前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物が、前記微生物を、1×10CFU/mL以上含有するものである請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項6】
前記ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を、1~3時間毎に1回、0.1~3ml散布する請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項7】
室内の中央に位置する床の表面を拭うことによって採取したサンプルをメタゲノムシーケンス解析することによって得られる系統的多様性とシャノン多様性指数の積の、散布前からの低下率を10%以下にする、請求項1記載の室内の微生物多様性維持方法。
【請求項8】
ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する液状組成物を散布する散布手段を備えることを特徴とする、ヒトが生活し、活動する部屋の内部である室内の微生物多様性維持装置。
【請求項9】
除菌用組成物又は除菌用ガスを散布する散布手段、及び、人及び動物に無害な微生物を含有する液状組成物を散布する散布手段を備える、ヒトが生活し、活動する部屋の内部である室内の微生物多様性維持装置。
【請求項10】
ヒト及び動物に対して非病原性のフィルミクテス門の細菌を含有する、ヒトが生活し、活動する部屋の内部である室内の微生物多様性維持用組成物。