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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113609
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】時間デジタル変換回路
(51)【国際特許分類】
   H03K 5/26 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
H03K5/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018732
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢央
(72)【発明者】
【氏名】市川 保
(72)【発明者】
【氏名】石田 嵩
(72)【発明者】
【氏名】岡本 智之
(72)【発明者】
【氏名】中谷 隆之
(72)【発明者】
【氏名】小林 春夫
【テーマコード(参考)】
5J039
【Fターム(参考)】
5J039JJ06
5J039JJ13
5J039KK09
5J039KK10
5J039KK13
5J039MM16
(57)【要約】
【課題】遅延素子の遅延時間より高い時間分解能を有するTDC回路を提供する。
【解決手段】ジッタ重畳回路110は、第1入力信号IN1および第2入力信号IN2のうちの一方に、経時的に変化するジッタJ,J…を重畳し、第1中間信号INT1および第2中間信号INT2を生成する。時間デジタル変換器130は、ジッタが変化するたびに、第1中間信号INT1および第2中間信号INT2の時間差を測定する。統計処理部150は、複数のジッタJ,J…に対応して時間デジタル変換器130が測定した複数の時間差τINT1,τINT1…を統計処理し、第1入力信号IN1および第2入力信号IN2の時間差τINを計算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1入力信号および第2入力信号の時間差を測定する時間デジタル変換回路であって、
前記第1入力信号および前記第2入力信号のうちの一方に、経時的に変化するジッタを重畳し、第1中間信号および第2中間信号を生成するジッタ重畳回路と、
ジッタが変化するたびに、前記第1中間信号および前記第2中間信号の時間差を測定する時間デジタル変換器と、
複数のジッタに対応して前記時間デジタル変換器が測定した複数の時間差を統計処理し、前記第1入力信号および前記第2入力信号の時間差を計算する統計処理部と、
を備える、時間デジタル変換回路。
【請求項2】
前記時間デジタル変換器は、逐次比較型である、請求項1に記載の時間デジタル変換回路。
【請求項3】
前記時間デジタル変換器は、バーニア型である、請求項2に記載の時間デジタル変換回路。
【請求項4】
前記時間デジタル変換器は、
前記第1中間信号を受ける第1入力ノードと、前記第2中間信号を受ける第2入力ノードと、前記第1中間信号に可変の遅延を与えた第1遅延信号を出力する第1出力ノードと、前記第2中間信号に可変の遅延を与えた第2遅延信号を出力する第2出力ノードと、を有するプログラマブルディレイ回路と、
入力端子に前記第1遅延信号を受け、クロック端子に前記第2遅延信号を受けるフリップフロップと、
前記フリップフロップの出力にもとづいて前記プログラマブルディレイ回路を制御し、前記第1遅延信号と前記第2遅延信号の時間差を検出する逐次比較処理部と、
を含む、請求項2または3に記載の時間デジタル変換回路。
【請求項5】
前記時間デジタル変換器は、フラッシュ型である、請求項1に記載の時間デジタル変換回路。
【請求項6】
前記ジッタ重畳回路は、
前記第1入力信号を第1基準電圧と比較する第1コンパレータと、
前記第2入力信号を第2基準電圧と比較する第2コンパレータと、
を含み、
前記第1中間信号は前記第1コンパレータの出力に応じており、
前記第2中間信号は前記第2コンパレータの出力に応じており、
前記第1基準電圧および前記第2基準電圧のうちの一方は、前記第1基準電圧および前記第2基準電圧のうちの他方に、経時的に変化するオフセット電圧を重畳した電圧である、請求項1から3のいずれかに記載の時間デジタル変換回路。
【請求項7】
前記ジッタ重畳回路は、
ノイズ信号を生成するノイズ源と、
前記ノイズ信号を受けるローパスフィルタと、
をさらに含み、
前記ローパスフィルタの出力信号が前記オフセット電圧である、請求項6に記載の時間デジタル変換回路。
【請求項8】
第1入力信号および第2入力信号の時間差を測定する時間デジタル変換回路であって、
前記第1入力信号を受ける第1入力ノードと、前記第2入力信号を受ける第2入力ノードと、前記第1入力信号に可変の遅延を与えた第1遅延信号を出力する第1出力ノードと、前記第2入力信号に可変の遅延を与えた第2遅延信号を出力する第2出力ノードと、を有するプログラマブルディレイ回路と、
前記第1遅延信号および前記第2遅延信号のうちの一方に、経時的に変化するジッタを重畳し、第1中間信号および第2中間信号を生成するジッタ重畳回路と、
入力端子に前記第1中間信号を受け、クロック端子に前記第2中間信号を受けるフリップフロップと、
前記フリップフロップの出力にもとづいて前記プログラマブルディレイ回路を制御し、前記第1中間信号と前記第2中間信号の時間差を検出する逐次比較処理部と、
複数のジッタに対応して前記逐次比較処理部が検出した複数の時間差を統計処理し、前記第1入力信号および前記第2入力信号の時間差を計算する統計処理部と、
を備える、時間デジタル変換回路。
【請求項9】
前記ジッタ重畳回路は、
前記第1遅延信号を第1基準電圧と比較する第1コンパレータと、
前記第2遅延信号を第2基準電圧と比較する第2コンパレータと、
を含み、
前記第1中間信号は前記第1コンパレータの出力に応じており、
前記第2中間信号は前記第2コンパレータの出力に応じており、
前記第1基準電圧および前記第2基準電圧のうちの一方は、前記第1基準電圧および前記第2基準電圧のうちの他方に、経時的に変化するオフセット電圧を重畳した電圧である、請求項8に記載の時間デジタル変換回路。
【請求項10】
前記ジッタ重畳回路は、
ノイズ信号を生成するノイズ源と、
前記ノイズ信号を受けるローパスフィルタと、
をさらに含み、
前記ローパスフィルタの出力信号が前記オフセット電圧である、請求項9に記載の時間デジタル変換回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、時間測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路において、時間を測定したい場合に、TDC(Time To Digital Converter)回路が利用される。TDC回路の構成として、フラッシュ型TDC、逐次比較型(SAR:Successive Approximation Register)TDCなどが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】1. H. Kobayashi, A. Kuwana, J. Wei, Y. Zhao, S. Katayama, T. M. Tri, M. Hirai, T. Nakatani, K. Hatayama, K. Sato, T. Ishida, T. Okamoto, T. Ichikawa, "Analog/Mixed-Signal Circuit Testing Technologies in IoT Era", IEEE 15th International Conference on Solid-State and Integrated Circuit Technology, Kunming, China (Nov. 2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フラッシュ型やSAR型のTDC回路は、カスケードに接続された複数の遅延素子からなる遅延線を備える。従来のTDC回路の最小時間分解能は、遅延素子の遅延時間の制約を受ける。
【0005】
本開示は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、遅延素子の遅延時間より高い時間分解能を有するTDC回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様は、第1入力信号および第2入力信号の時間差を測定する時間デジタル変換回路に関する。時間デジタル変換回路は、第1入力信号および第2入力信号のうちの一方に、経時的に変化するジッタを重畳し、第1中間信号および第2中間信号を生成するジッタ重畳回路と、ジッタが変化するたびに、第1中間信号および第2中間信号の時間差を測定する時間デジタル変換器と、複数のジッタに対応して時間デジタル変換器が測定した複数の時間差を統計処理し、第1入力信号および第2入力信号の時間差を計算する統計処理部と、を備える。
【0007】
本開示の別の態様も、第1入力信号および第2入力信号の時間差を測定する時間デジタル変換回路に関する。時間デジタル変換回路は、第1入力信号を受ける第1入力ノードと、第2入力信号を受ける第2入力ノードと、第1入力信号に可変の遅延を与えた第1遅延信号を出力する第1出力ノードと、第2入力信号に可変の遅延を与えた第2遅延信号を出力する第2出力ノードと、を有するプログラマブルディレイ回路と、第1遅延信号および第2遅延信号のうちの一方に、経時的に変化するジッタを重畳し、第1中間信号および第2中間信号を生成するジッタ重畳回路と、入力端子に第1中間信号を受け、クロック端子に第2中間信号を受けるフリップフロップと、フリップフロップの出力にもとづいてプログラマブルディレイ回路を制御し、第1中間信号と第2中間信号の時間差を検出する逐次比較処理部と、複数のジッタに対応して逐次比較処理部が検出した複数の時間差を統計処理し、第1入力信号および第2入力信号の時間差を計算する統計処理部と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明あるいは本開示の態様として有効である。さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、本発明の欠くべからざるすべての特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0009】
本開示のある態様によれば、高い時間分解能が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態1に係る時間デジタル変換回路の回路図である。
図2図2は、ジッタ重畳回路の構成例を示す回路図である。
図3図3は、図2のジッタ重畳回路の動作波形図である。
図4図4は、時間デジタル変換器の構成例を示す回路図である。
図5図5は、TDC回路の動作を説明する図である。
図6図6は、実施形態2に係るTDC回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0012】
一実施形態に係る時間デジタル変換回路は、第1入力信号および第2入力信号の時間差を測定する。時間デジタル変換回路は、第1入力信号および第2入力信号のうちの一方に、経時的に変化するジッタを重畳し、第1中間信号および第2中間信号を生成するジッタ重畳回路と、ジッタが変化するたびに、第1中間信号および第2中間信号の時間差を測定する時間デジタル変換器と、複数のジッタに対応して時間デジタル変換器が測定した複数の時間差を統計処理し、第1入力信号および第2入力信号の時間差を計算する統計処理部と、を備える。
【0013】
この構成によると、ジッタを変化させながら、ジッタごとに時間差を測定し、その結果得られた複数の時間差を統計処理することで、時間デジタル変換器が有する分解能よりも高い分解能で、第1入力信号と第2入力信号の時間差を測定することができる。
【0014】
一実施形態において、時間デジタル変換器は、逐次比較型であってもよい。
【0015】
一実施形態において、時間デジタル変換器は、バーニア型であってもよい。
【0016】
一実施形態において、時間デジタル変換器は、第1中間信号を受ける第1入力ノードと、第2中間信号を受ける第2入力ノードと、第1中間信号に可変の遅延を与えた第1遅延信号を出力する第1出力ノードと、第2中間信号に可変の遅延を与えた第2遅延信号を出力する第2出力ノードと、を有するプログラマブルディレイ回路と、入力端子に第1遅延信号を受け、クロック端子に第2遅延信号を受けるフリップフロップと、フリップフロップの出力にもとづいてプログラマブルディレイ回路を制御し、第1遅延信号と第2遅延信号の時間差を検出する逐次比較処理部と、を含んでもよい。
【0017】
一実施形態において、時間デジタル変換器は、フラッシュ型であってもよい。
【0018】
一実施形態において、ジッタ重畳回路は、第1入力信号を第1基準電圧と比較する第1コンパレータと、第2入力信号を第2基準電圧と比較する第2コンパレータと、を含んでもよい。第1中間信号は第1コンパレータの出力に応じており、第2中間信号は第2コンパレータの出力に応じており、第1基準電圧および第2基準電圧のうちの一方は、第1基準電圧および第2基準電圧のうちの他方に、経時的に変化するオフセット電圧を重畳した電圧であってもよい。
【0019】
一実施形態において、ジッタ重畳回路は、ノイズ信号を生成するノイズ源と、ノイズ信号を受けるローパスフィルタと、をさらに含んでもよい。ローパスフィルタの出力信号がオフセット電圧であってもよい。
【0020】
一実施形態に係る時間デジタル変換回路は、第1入力信号および第2入力信号の時間差を測定する。時間デジタル変換回路は、第1入力信号を受ける第1入力ノードと、第2入力信号を受ける第2入力ノードと、第1入力信号に可変の遅延を与えた第1遅延信号を出力する第1出力ノードと、第2入力信号に可変の遅延を与えた第2遅延信号を出力する第2出力ノードと、を有するプログラマブルディレイ回路と、第1遅延信号および第2遅延信号のうちの一方に、経時的に変化するジッタを重畳し、第1中間信号および第2中間信号を生成するジッタ重畳回路と、入力端子に第1中間信号を受け、クロック端子に第2中間信号を受けるフリップフロップと、フリップフロップの出力にもとづいてプログラマブルディレイ回路を制御し、第1中間信号と第2中間信号の時間差を検出する逐次比較処理部と、複数のジッタに対応して逐次比較処理部が検出した複数の時間差を統計処理し、第1入力信号および第2入力信号の時間差を計算する統計処理部と、を備える。
【0021】
この構成によると、ジッタを変化させながら、ジッタごとに時間差を測定し、その結果得られた複数の時間差を統計処理することで、プログラマブル遅延回路が有する分解能よりも高い分解能で、第1入力信号と第2入力信号の時間差を測定することができる。
【0022】
一実施形態において、ジッタ重畳回路は、第1遅延信号を第1基準電圧と比較する第1コンパレータと、第2遅延信号を第2基準電圧と比較する第2コンパレータと、を含んでもよい。第1中間信号は第1コンパレータの出力に応じており、第2中間信号は第2コンパレータの出力に応じており、第1基準電圧および第2基準電圧のうちの一方は、第1基準電圧および第2基準電圧のうちの他方に、経時的に変化するオフセット電圧を重畳した電圧であってもよい。
【0023】
一実施形態において、ジッタ重畳回路は、ノイズ信号を生成するノイズ源と、ノイズ信号を受けるローパスフィルタと、をさらに含んでもよい。ローパスフィルタの出力信号がオフセット電圧であってもよい。
【0024】
(実施形態)
以下、好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施形態は、開示および発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示および発明の本質的なものであるとは限らない。
【0025】
本明細書において、「部材Aが、部材Bに接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0026】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0027】
また本明細書に示される波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化されている。
【0028】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る時間デジタル変換(TDC:Time to Ditigal Converter)回路100の回路図である。TDC回路100は、第1入力信号IN1および第2入力信号IN2の時間差τINを測定する。時間差τINは、第1入力信号IN1の所定のエッジと、第2入力信号IN2の所定のエッジとの時間差である。本実施形態では、第1入力信号IN1のポジティブエッジと第2入力信号IN2のポジティブエッジの時間差を測定するものとする。
【0029】
TDC回路100は、ジッタ重畳回路110、時間デジタル変換器130、統計処理部150を備える。
【0030】
ジッタ重畳回路110は、第1入力信号IN1および第2入力信号IN2のうちの一方に、経時的に変化するジッタJ,J,J,…Jを重畳し、第1中間信号INT1および第2中間信号INT2を生成する。ジッタJを変化させる間、TDC回路100には、時間差τINは一定である第1入力信号IN1と第2入力信号IN2が繰り返し入力されている。
【0031】
本実施形態では、ジッタ重畳回路110は、第2入力信号IN2にジッタを与えて、第2中間信号INT2を生成し、第1入力信号IN1にはジッタを与えずに、そのまま第1中間信号INT1として出力する。
【0032】
時間デジタル変換器130は、ジッタJが変化するたびに、第1中間信号INT1および第2中間信号INT2の時間差τINTを測定する。ジッタがJであるときの時間差を、τINTiと表記する。
【0033】
統計処理部150は、複数のジッタJ~Jに対応して時間デジタル変換器130が測定した複数の時間差τINT1~τINTNを統計処理し、第1入力信号IN1および第2入力信号IN2の時間差τINを計算する。
【0034】
本開示は、図1のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本開示の範囲を狭めるためではなく、本開示や本発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0035】
図2は、ジッタ重畳回路110の構成例を示す回路図である。ジッタ重畳回路110は、第1コンパレータ112、第2コンパレータ114、ノイズ源116、ローパスフィルタ118を備える。
【0036】
第1コンパレータ112は、第1入力信号IN1を第1基準電圧VREF1と比較する。第2コンパレータ114は、第2入力信号IN2を第2基準電圧VREF2と比較する。第1中間信号INT1は第1コンパレータ112の出力に応じており、第2中間信号INT2は第2コンパレータ114の出力に応じている。
【0037】
第1基準電圧VREF1および第2基準電圧VREF2のうちの一方は、第1基準電圧VREF1および第2基準電圧VREF2のうちの他方に、経時的に変化するオフセット電圧VOFSを重畳した電圧である。
【0038】
オフセット電圧VOFSは、ノイズ源116およびローパスフィルタ118によって生成することができる。ノイズ源116は、ノイズ信号Nを生成する。たとえばノイズ信号Nは、正規分布に従うガウス雑音であってもよい。ローパスフィルタ118は、ノイズ信号Nを受け、高周波成分を除去し、低周波成分のみを通過させる。ローパスフィルタ118のカットオフ周波数は、時間デジタル変換器130が1回の測定を実行する期間、オフセット電圧VOFSが実質的に同一レベルであるとみなせるように定めるとよい。
【0039】
図3は、図2のジッタ重畳回路110の動作波形図である。第2入力信号IN2のポジティブエッジは、ある有限のスロープを有している。そのため、第2コンパレータ114の出力である第2中間信号INT2は、第2基準電圧VREF2が高いほど、遅れて遷移し、第2基準電圧VREF2が低いほど、進んで遷移することとなる。つまり第2中間信号INT2は、第2入力信号IN2に対して、オフセット電圧VOFSに応じたジッタJを重畳した信号となる。
【0040】
図4は、時間デジタル変換器130の構成例を示す回路図である。時間デジタル変換器130は、逐次比較型TDCである。時間デジタル変換器130は、プログラマブルディレイ回路132、フリップフロップ134、逐次比較処理部136を備える。プログラマブルディレイ回路132は、第1入力ノードI1に第1中間信号INT1を受け、第1中間信号INT1に制御可能な遅延τ1を与えて第1遅延信号DLY1を生成し、第1出力ノードO1から出力する。同様にプログラマブルディレイ回路132は、第2入力ノードI2に第2中間信号INT2を受け、第2中間信号INT2に制御可能な遅延τ2を与えて第2遅延信号DLY2を生成し、第2出力ノードO2から出力する。遅延時間τ1、τ2は、逐次比較処理部136からの制御信号に応じて制御可能となっている。プログラマブルディレイ回路132は市販のプログラマブル遅延回路を用いてもよい。あるいはプログラマブルディレイ回路132を、フリップフロップ134や逐次比較処理部136と同じICチップに集積化してもよい。
【0041】
たとえばプログラマブルディレイ回路132は、第1ディレイライン140、第2ディレイライン142、第1コントローラ144、第2コントローラ146を含む。第1ディレイライン140は、バイナリで重み付けした遅延を発生するm個(m≧2、この例ではm=9個)の遅延要素D1~Dmと、m個のマルチプレクサMUX1~MUXmを含む。i段目(1≦i≦m)の遅延要素Diは、前段からの信号に遅延を与える。i段目の遅延要素Diの遅延量は、τ×2(m-i)である。τはプログラマブルディレイ回路132の遅延の分解能である。
【0042】
i段目(1≦i≦m)のマルチプレクサMUXiは、前段からの信号と、同じ段の遅延要素Diの出力信号とを受け、第1コントローラ144による制御に応じた一方を出力し、後段に出力する。
【0043】
第2ディレイライン142は、第1コントローラ144と同様に構成される。
【0044】
Dフリップフロップ(単にフリップフロップともいう)134は、第1遅延信号DLY1を入力端子Dに受け、第2遅延信号DLY2をクロック端子CLKに受ける。フリップフロップ134の出力Qは、逐次比較処理部136に入力される。
【0045】
フリップフロップ134の出力Qは、第1遅延信号DLY1のエッジの方が、第2遅延信号DLY2のエッジよりも先行しているとき、ハイとなる。反対に、第1遅延信号DLY1のエッジの方が、第2遅延信号DLY2のエッジよりも遅れているとき、フリップフロップ134の出力Qはローとなる。つまりフリップフロップ134の出力Qは、第1遅延信号DLY1のエッジと第2遅延信号DLY2のエッジの時間軸上での前後関係を表す。
【0046】
逐次比較処理部136は、第1ディレイライン140と、第2ディレイライン142の相対遅延(τ1-τ2)を変化させて、フリップフロップ134の出力が1となる相対遅延とフリップフロップ134の出力が0となる相対遅延との境界を検出する。この境界に対応する相対遅延が、第1中間信号INT1と第2中間信号INT2の時間差τINTとなる。逐次比較処理部136は、たとえば二分探索などの処理によって、第1ディレイライン140と第2ディレイライン142の遅延量を制御してもよい。
【0047】
逐次比較処理部136は、複数回の探索の後、境界に相当する相対遅延τ1-τ2に対応するコードを、時間差τINTを示すデータとして出力する。ジッタをN回、変化させることにより、N個のジッタに対するN個の時間差τINT1~τINTNが生成される。
【0048】
以上がTDC回路100の構成である。続いてその動作を説明する。
【0049】
図5は、TDC回路100の動作を説明する図である。ここでは、ガウス分布にしたがうジッタJを与えた場合を説明する。
【0050】
図5の上段は、ジッタJを変化させて、N回の測定を行ったときに測定される遅延量τINTのヒストグラムを表す。横軸は、遅延量τINTを表すコードCODEを表しており、τ刻みの離散的な値をとる。縦軸が各コードCODEの度数である。
【0051】
ジッタJがガウス分布にしたがうとき、ヒストグラムもまた、ガウス分布にしたがうこととなる。破線160は、ヒストグラムに対してフィッティングさせたガウス分布を示す。このガウス分布160の最大値に対応する時間差が、2つの入力信号IN1とIN2の時間差τINとなる。この時間差τINは、隣接する2つのコードの間に位置することができ、時間デジタル変換器130の時間分解能τよりも高い精度を有している。
【0052】
図5の下段の破線162は、ヒストグラムを利用したフィッティングによって得られる累積確率密度関数を示す。累積確率密度関数162が、確率0.5となるときの遅延量τINTが、2つの入力信号IN1とIN2の時間差τINとなる。
【0053】
統計処理部150は、図5の上段のヒストグラムにもとづいて、2つの入力信号IN1とIN2の時間差τINを計算してもよい。あるいは統計処理部150は、図5の下段の累積確率密度関数にもとづいて2つの入力信号IN1とIN2の時間差τINを計算してもよい。なお、時間差τINを計算するための統計処理は、ここで説明したものに限定されず、公知のさまざまな技術を用いることができる。
【0054】
(実施形態2)
実施形態1では、時間デジタル変換器130の前段において、ジッタを重畳したが、本開示はそれに限定されず、ジッタ重畳回路110の機能を、時間デジタル変換器130の内部に組み込んでもよい。
【0055】
図6は、実施形態2に係るTDC回路200の回路図である。TDC回路200は、時間デジタル変換器130Aおよび統計処理部150を備える。時間デジタル変換器130Aは、図1の時間デジタル変換器130に、ジッタ重畳回路110を組み込んだ回路である。
【0056】
時間デジタル変換器130Aは、プログラマブルディレイ回路132、ジッタ重畳回路110、フリップフロップ134、逐次比較処理部136を含む。プログラマブルディレイ回路132は、逐次比較処理部136からの制御に応じて、第1入力信号IN1と第2入力信号IN2の相対的な遅延量を変化させる。プログラマブルディレイ回路132は、第1入力信号IN1に遅延τ1を与えた第1遅延信号DLY1と、第2入力信号IN2に遅延τ2を与えた第2遅延信号DLY2を出力する。
【0057】
ジッタ重畳回路110は、第1遅延信号DLY1と第2遅延信号DLY2の少なくとも一方に、ジッタを重畳し、第1中間信号INT1、第2中間信号INT2を出力する。
【0058】
フリップフロップ134は、入力端子に第1中間信号INT1を受け、クロック端子に第2中間信号INT2を受ける。逐次比較処理部136は、プログラマブルディレイ回路132の相対遅延(τ1-τ2)を変化させて、フリップフロップ134の出力が1となる相対遅延とフリップフロップ134の出力が0となる相対遅延との境界を検出する。この境界に対応する相対遅延が、第1中間信号INT1と第2中間信号INT2の時間差τINTとなる。
【0059】
逐次比較処理部136は、複数回の探索の後、境界に相当する相対遅延τ1-τ2に対応するコードを、時間差τINTを示すデータとして出力する。ジッタをN回、変化させることにより、N個のジッタに対するN個の時間差τINT1~τINTNが生成される。
【0060】
統計処理部150は、複数のジッタJ~Jに対応して時間デジタル変換器130が測定した複数の時間差τINT1~τINTNを統計処理し、第1入力信号IN1および第2入力信号IN2の時間差τINを計算する。
【0061】
ジッタ重畳回路110やプログラマブルディレイ回路132は、実施形態1で例示したものを利用することができる。
【0062】
以上がTDC回路200の構成である。このTDC回路200によれば、実施形態1に係るTDC回路100と同様に、時間デジタル変換器130の分解能よりも高い分解能で、遅延量τINを測定することができる。
【0063】
最後に、変形例を説明する。
【0064】
(変形例1)
実施形態では、時間デジタル変換器130として逐次比較型を用いたが本開示はそれに限定されず、フラッシュ型の時間デジタル変換器を用いてもよい。
【0065】
(変形例2)
時間デジタル変換器130のプログラマブルディレイ回路132としては、ノギスの原理を利用して高い分解能を得ることが可能なバーニア型のディレイ回路を用いてもよい。
【0066】
(変形例3)
ジッタ重畳回路110の構成や、ジッタの重畳の方式は、実施形態で説明したそれに限定されない。
【0067】
(付記)
本明細書には以下の技術が開示される。
【0068】
(項目1)
第1入力信号および第2入力信号の時間差を測定する時間デジタル変換回路であって、
前記第1入力信号および前記第2入力信号のうちの一方に、経時的に変化するジッタを重畳し、第1中間信号および第2中間信号を生成するジッタ重畳回路と、
ジッタが変化するたびに、前記第1中間信号および前記第2中間信号の時間差を測定する時間デジタル変換器と、
複数のジッタに対応して前記時間デジタル変換器が測定した複数の時間差を統計処理し、前記第1入力信号および前記第2入力信号の時間差を計算する統計処理部と、
を備える、時間デジタル変換回路。
【0069】
(項目2)
前記時間デジタル変換器は、逐次比較型である、項目1に記載の時間デジタル変換回路。
【0070】
(項目3)
前記時間デジタル変換器は、バーニア型である、項目2に記載の時間デジタル変換回路。
【0071】
(項目4)
前記時間デジタル変換器は、
前記第1中間信号を受ける第1入力ノードと、前記第2中間信号を受ける第2入力ノードと、前記第1中間信号に可変の遅延を与えた第1遅延信号を出力する第1出力ノードと、前記第2中間信号に可変の遅延を与えた第2遅延信号を出力する第2出力ノードと、を有するプログラマブルディレイ回路と、
入力端子に前記第1遅延信号を受け、クロック端子に前記第2遅延信号を受けるフリップフロップと、
前記フリップフロップの出力にもとづいて前記プログラマブルディレイ回路を制御し、前記第1遅延信号と前記第2遅延信号の時間差を検出する逐次比較処理部と、
を含む、項目2または3に記載の時間デジタル変換回路。
【0072】
(項目5)
前記時間デジタル変換器は、フラッシュ型である、項目1に記載の時間デジタル変換回路。
【0073】
(項目6)
前記ジッタ重畳回路は、
前記第1入力信号を第1基準電圧と比較する第1コンパレータと、
前記第2入力信号を第2基準電圧と比較する第2コンパレータと、
を含み、
前記第1中間信号は前記第1コンパレータの出力に応じており、
前記第2中間信号は前記第2コンパレータの出力に応じており、
前記第1基準電圧および前記第2基準電圧のうちの一方は、前記第1基準電圧および前記第2基準電圧のうちの他方に、経時的に変化するオフセット電圧を重畳した電圧である、項目1から5のいずれかに記載の時間デジタル変換回路。
【0074】
(項目7)
前記ジッタ重畳回路は、
ノイズ信号を生成するノイズ源と、
前記ノイズ信号を受けるローパスフィルタと、
をさらに含み、
前記ローパスフィルタの出力信号が前記オフセット電圧である、項目6に記載の時間デジタル変換回路。
【0075】
(項目8)
第1入力信号および第2入力信号の時間差を測定する時間デジタル変換回路であって、
前記第1入力信号を受ける第1入力ノードと、前記第2入力信号を受ける第2入力ノードと、前記第1入力信号に可変の遅延を与えた第1遅延信号を出力する第1出力ノードと、前記第2入力信号に可変の遅延を与えた第2遅延信号を出力する第2出力ノードと、を有するプログラマブルディレイ回路と、
前記第1遅延信号および前記第2遅延信号のうちの一方に、経時的に変化するジッタを重畳し、第1中間信号および第2中間信号を生成するジッタ重畳回路と、
入力端子に前記第1中間信号を受け、クロック端子に前記第2中間信号を受けるフリップフロップと、
前記フリップフロップの出力にもとづいて前記プログラマブルディレイ回路を制御し、前記第1中間信号と前記第2中間信号の時間差を検出する逐次比較処理部と、
複数のジッタに対応して前記逐次比較処理部が検出した複数の時間差を統計処理し、前記第1入力信号および前記第2入力信号の時間差を計算する統計処理部と、
を備える、時間デジタル変換回路。
【0076】
(項目9)
前記ジッタ重畳回路は、
前記第1遅延信号を第1基準電圧と比較する第1コンパレータと、
前記第2遅延信号を第2基準電圧と比較する第2コンパレータと、
を含み、
前記第1中間信号は前記第1コンパレータの出力に応じており、
前記第2中間信号は前記第2コンパレータの出力に応じており、
前記第1基準電圧および前記第2基準電圧のうちの一方は、前記第1基準電圧および前記第2基準電圧のうちの他方に、経時的に変化するオフセット電圧を重畳した電圧である、項目8に記載の時間デジタル変換回路。
【0077】
(項目10)
前記ジッタ重畳回路は、
ノイズ信号を生成するノイズ源と、
前記ノイズ信号を受けるローパスフィルタと、
をさらに含み、
前記ローパスフィルタの出力信号が前記オフセット電圧である、項目9に記載の時間デジタル変換回路。
【符号の説明】
【0078】
100 TDC回路
110 ジッタ重畳回路
112 第1コンパレータ
114 第2コンパレータ
116 ノイズ源
118 ローパスフィルタ
IN1 第1入力信号
IN2 第2入力信号
INT1 第1中間信号
INT2 第2中間信号
DLY1 第1遅延信号
DLY2 第2遅延信号
130 時間デジタル変換器
132 プログラマブルディレイ回路
134 フリップフロップ
136 逐次比較処理部
140 第1ディレイライン
142 第2ディレイライン
144 第1コントローラ
146 第2コントローラ
150 統計処理部
200 TDC回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6