(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113627
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】低臭気組成物、低VOC樹脂組成物及びこれらの製造方法、再生材
(51)【国際特許分類】
C08L 97/02 20060101AFI20240815BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240815BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240815BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240815BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240815BHJP
B29B 7/48 20060101ALI20240815BHJP
B29B 9/14 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C08L97/02 ZAB
C08L101/00
C08K3/04
C08K3/22
C08J5/04
B29B7/48
B29B9/14
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018795
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿谷 朋
(72)【発明者】
【氏名】坂井 俊之
【テーマコード(参考)】
4F072
4F201
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA02
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(57)【要約】
【課題】焦げ臭気やVOCの放散量が少なく、且つ低コストで製造可能な組成物法を提供すること。
【解決手段】本発明は、リグニンを含むリグノセルロース繊維と樹脂と臭気低減材とを混錬してなり、繊維強化樹脂材料として使用される低臭気組成物である。前記臭気低減材が、活性炭及び塩基性化合物のいずれか一方又は両方である。また本発明は、ヘミセルロースを含むリグノセルロース繊維と樹脂とVOC低減材とを混錬してなり、繊維強化樹脂材料として使用される低VOC樹脂組成物である。前記VOC低減材が、ヒドラジド化合物を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンを含むリグノセルロース繊維と樹脂と臭気低減材とを混錬してなり、繊維強化樹脂材料として使用される低臭気組成物であって、
前記臭気低減材が、活性炭及び塩基性化合物のいずれか一方又は両方である、低臭気組成物。
【請求項2】
前記リグノセルロース繊維は、リグニン成分の質量割合が5%以上50%以下である、請求項1に記載の低臭気組成物。
【請求項3】
前記活性炭は、質量比で20%以上70%以下の水を含む含水活性炭である、請求項1に記載の低臭気組成物。
【請求項4】
前記活性炭が、質量比で20%以上70%以下の水を含む含水活性炭であり、前記リグノセルロース繊維と前記樹脂と前記臭気低減材との混錬時に、前記水を、水蒸気として放出させてなる、請求項1に記載の低臭気組成物。
【請求項5】
前記塩基性化合物が無機化合物である、請求項1に記載の低臭気組成物。
【請求項6】
前記樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリオキシエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリアミド類、ポリヒドロキシアルカン類、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合類、ポリウレタン、及びこれらの変性樹脂、並びに共重合樹脂からなる群より一つ以上選ばれるものである、請求項1に記載の低臭気組成物。
【請求項7】
前記リグノセルロース繊維を1%以上95%以下含む、請求項1に記載の低臭気組成物。
【請求項8】
ヘミセルロースを含むリグノセルロース繊維と樹脂とVOC低減材とを混錬してなり、繊維強化樹脂材料として使用される低VOC樹脂組成物であって、
前記VOC低減材が、ヒドラジド化合物を含む、低VOC樹脂組成物。
【請求項9】
前記VOC低減材が、ヒドラジド化合物及び尿素化合物を含む、請求項8に記載の低VOC樹脂組成物。
【請求項10】
前記VOC低減材は、低VOC樹脂組成物に含まれるリグノセルロース繊維由来のVOCを低減する、請求項8に記載の低VOC樹脂組成物。
【請求項11】
前記リグノセルロース繊維は、ヘミセルロース成分の質量割合が1%以上30%以下である、請求項8に記載の低VOC樹脂組成物。
【請求項12】
前記ヒドラジド化合物が、アジピン酸ジヒドラジド又はセバシン酸ジヒドラジドである、請求項8に記載の低VOC樹脂組成物。
【請求項13】
前記ヒドラジド化合物を0.1質量%以上10質量%以下含む、請求項8に記載の低VOC樹脂組成物。
【請求項14】
JASO M902試験において、
(1)サンプリングバッグ加熱温度65℃でのホルムアルデヒド放散濃度が100μg/m3以下であるか、
(2)サンプリングバッグ加熱温度65℃でのアセトアルデヒド放散濃度が48μg/m3以下である、請求項8に記載の低VOC樹脂組成物。
【請求項15】
前記樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリオキシエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリアミド類、ポリヒドロキシアルカン類、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合類、ポリウレタン、及びこれらの変性樹脂、並びに共重合樹脂からなる群より選ばれる一種又は二種以上のものである、請求項8に記載の低VOC樹脂組成物。
【請求項16】
前記リグノセルロース繊維を1%以上95%以下含む、請求項8に記載の低VOC樹脂組成物。
【請求項17】
請求項1~7の何れか一項に記載の低臭気組成物、又は請求項8~16の何れか一項に記載の低VOC樹脂組成物からなるペレット。
【請求項18】
請求項1~7の何れか一項に記載の低臭気低減材、又は請求項8~16の何れか一項に記載の低VOC樹脂組成物からなる繊維強化樹脂材料。
【請求項19】
請求項1~7の何れか一項に記載の低臭気低減材、又は請求項8~16の何れか一項に記載の低VOC樹脂組成物からなる成形品。
【請求項20】
2本以上のスクリューを備えた多軸スクリュー押出機を用いて、請求項1~7の何れか一項に記載の低臭気組成物を製造する、低臭気組成物の製造方法であって、
前記多軸スクリュー押出機は、前記スクリューが配された混錬空間を内部に有するシリンダと、該シリンダの外周部に、該シリンダの軸方向に沿って複数配された加温部を含む加熱装置とを備えており、
前記樹脂のみ、又は前記リグノセルロース繊維を含む前記樹脂を、該樹脂の融点以上で溶融する工程と、
前記加温部の設定温度を前記樹脂の融点未満に維持しつつ、前記リグノセルロース繊維と溶融した前記樹脂とを混錬する工程とを有する、低臭気組成物の製造方法。
【請求項21】
2本以上のスクリューを備えた多軸スクリュー押出機を用いて、請求項8~16の何れか一項に記載の低VOC樹脂組成物を製造する、低VOC樹脂組成物の製造方法であって、
前記多軸スクリュー押出機は、前記スクリューが配された混錬空間を内部に有するシリンダと、該シリンダの外周部に、該シリンダの軸方向に沿って複数配された加温部を含む加熱装置とを備えており、
前記樹脂のみ、又は前記リグノセルロース繊維を含む前記樹脂を、該樹脂の融点以上で溶融する工程と、
前記加温部の設定温度を前記樹脂の融点未満に維持しつつ、前記リグノセルロース繊維と溶融した前記樹脂とを混錬する工程とを有する、低VOC樹脂組成物の製造方法。
【請求項22】
リグノセルロース繊維と樹脂の組成物の再生材であって、
請求項1~7の何れか一項に記載の低臭気組成物、又は請求項8~16の何れか一項に記載の低VOC樹脂組成物を含む、再生材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低臭気組成物、低VOC樹脂組成物及びこれらの製造方法、再生材に関する。
【背景技術】
【0002】
木材や非木材の植物に由来するリグノセルロース資源は、植物の生長過程において二酸化炭素を蓄積しており、その使用や廃棄に際しては余剰の二酸化炭素を排出しないカーボンニュートラルな材料として認識されている。
木材や非木材の植物から得られるリグノセルロース資源は、リグノセルロース繊維で構成されている。リグノセルロース繊維は、リグノセルロース資源を機械的、熱機械的、化学的、化学機械的、又は化学熱機械的に処理することで、繊維を接着剤的に束ねている中間層を軟化、或いは、破壊させ、解きほぐしたり、微細化することで得られる。このようにして得られたリグノセルロース繊維は、主に紙原料としてのパルプやファイバーボード原料としての繊維として使用されている。これは、リグノセルロース繊維が、軽量で高強度、且つ、高弾性、再生可能で低コストであるためである。
【0003】
近年の地球温暖化に代表されるような環境問題を解決するために、樹脂の補強材として従来用いられてきたような、タルク、ガラス繊維、炭素繊維、合成樹脂繊維、鉱物繊維、金属繊維の代替として、リグノセルロース繊維の使用が期待されている。従来の再生不可能な材料をリグノセルロース繊維で代替することによって、材料の軽量化、LCA(Life Cycle Assessment)の改善やコストダウンといった利点が得られ、そのため輸送機器製造産業、特に自動車製造産業において、リグノセルロース繊維の利用は注目を集めている。
【0004】
しかしながら、リグノセルロース繊維は、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンの3成分で構成されており、ヘミセルロースやリグニンはセルロースに比して、熱に不安定であるため、熱可塑性樹脂との混錬時や成型時に熱変性を起こし、特にリグニンは焦げたような臭気(以下、「焦げ臭気」と称する)の発生等の問題を引き起こし易い。なお、焦げ臭気とは木材が炭化初期に発するような特有の焦げたような又は焼けたような臭気、若しくは煙のような臭気のことを指し、主に低分子の芳香族化合物、例えば、フェノール類やその類縁化合物のフェノールアルデヒド、フェノールケトン、フェノールアルコール等を含む臭気のことである。
【0005】
したがって、リグノセルロース繊維を熱可塑性樹脂と混錬し、繊維と樹脂の組成物や成形物を製造する場合、焦げ臭気の発生を防ぐためには、純度の高い、所謂、溶解セルロース(高純度セルロース)や熱安定性の高い化学変性セルロースといった、高価なセルロース材料を用いざるを得ず、コスト高になってしまうといった問題があった。
【0006】
また、ヘミセルロースは熱分解点が低く、熱可塑性樹脂との混錬時や成型時に熱により酸化、変性、分解され易く、その結果、カルボン酸類やアルデヒド類等のVOC(Volatile Organic Compounds)を放散し易い。その中でも、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドは厚生労働省指定の室内空気中化学物質であるため、室内濃度指針値が公表されており、建築や自動車の内装等、用途ごとに、建築会社や自動車メーカー等の各社が放散量の基準値を定めている。このような事情を背景に、リグノセルロース繊維を含む樹脂を市場に供するには、これらVOCの放散指針値を満たす必要がある。
【0007】
したがって、リグノセルロース繊維を熱可塑性樹脂と混錬し、繊維と樹脂の組成物や成形物を製造する場合、VOCの放散量を低減する観点からも、純度の高い、所謂、溶解セルロース(高純度セルロース)や熱安定性の高い化学変性セルロースといった、高価なセルロース材料を用いざるを得ず、コスト高になってしまうといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63-33446号
【特許文献2】特開平11-2903034号
【特許文献3】特開2000-319477号
【特許文献4】特開2002-179830号
【特許文献5】特開2018―187366号
【特許文献6】特許5428857号
【特許文献7】特開2006-28366号
【特許文献8】PCT/JP2016/08566号
【特許文献9】特開2000-186212号
【特許文献10】特開2020-196797号
【特許文献11】特開2021―178952号
【特許文献12】特開2021-54893
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Emission of possible odorous low molecular weight compounds in recycled biofiber/polypropylene composites monitored by head-space SPME-GC-MS, Polymer Degradation and Stability 90 (2005) 555-562, Espert et al.
【非特許文献2】日本自動車技術会規格:Japanese Automotive Standards Organization(JASO)M902;「自動車部品-内装材-揮発性有機化合物(VOC)放散測定方法」(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の問題を解決しながら、リグニンを含むリグノセルロース繊維を原料として使用し、且つ、汎用的に使用されている樹脂の加工装置を使うことを前提とした場合、焦げ臭気の原因となるリグニンの変性や分解を物理化学的に減ずる技術や、発生する焦げ臭気を加工工程中に系外に放出することで減ずる技術、発生した焦げ臭気を物理化学的に減ずる技術等を開発することが、実用面でもコスト面でも好ましい。
【0011】
特許文献1には、熱可塑性樹脂、繊維化されたセルロースを主体とする植物繊維及び活性炭からなる低臭気樹脂組成物に関する技術が開示されている。同文献には、繊維化されたセルロースを主体とする植物繊維としては、古紙、紙屑等を解繊し繊維化したものが挙げられることが記載されている。しかしながら、古紙、紙屑等の紙には臭気、特に焦げ臭気の原因となるリグニンもヘミセルロースもほとんど含まれていないため、本来その臭気は相当少なく、繊維化されたセルロースを主体とする植物繊維に代えて、リグニンやヘミセルロースを含むリグノセルロース繊維を使用した場合の効果は不明である。また、同文献では樹脂との混錬時の温度条件が開示されていないので、本来適当でない混錬条件を採用していることにより臭気が発生している可能性は否定できない。
【0012】
特許文献2には、樹脂、塩基性化合物、含水ケイ酸、ジヒドラジドからなるアルデヒドやアンモニア臭気の脱臭組成材が開示されている。しかしながら、当該組成材は混錬・成形後の樹脂材が外部からの臭気を吸着する効果を意図したものであり、混錬時や成形時に発生する内部からの臭気を減ずるためのものではないため、内部発生臭に対する効果は不明である。更に、当該組成材は、リグノセルロース繊維由来の焦げ臭気への効果については記載されていないため、その効果は不明である。
【0013】
特許文献3には、軟質アクリル樹脂、活性炭からなる低アクリル臭気樹脂組成物が開示されている。しかしながら、アクリル臭気とリグノセルロース繊維由来の焦げ臭気とは、原因物質や対象物質が異なるので、リグノセルロース繊維由来の焦げ臭気に対する効果は不明である。
【0014】
特許文献4には、活性炭を含む発泡樹脂からなる脱臭材が開示されている。また特許文献5には、樹脂、ヒドラジンからなるアルデヒド臭気の脱臭材が開示されている。また特許文献6には、無機粒子、アミンからなる構成物を繊維上に、混錬。繊維化後に付着させた繊維質脱臭材が開示されている。しかしながら、特許文献4~6に記載の脱臭材は、混錬・成形後の樹脂材が外部からの臭気を吸着する効果を意図したものであり、混錬時や成形時に発生する内部からの臭気を減ずるためのものではないため、内部発生臭に対する効果は不明である。更に、特許文献4~6には、リグノセルロース繊維由来の焦げ臭気への効果については記載されていないため、リグノセルロース繊維由来の焦げ臭気に対する効果は不明である。
【0015】
また、VOCについても、VOCの原因となるヘミセルロースの変性や分解を物理化学的に減ずる技術や、発生するVOCを加工工程中に系外に放出することで減ずる技術、発生したVOCを物理化学的に減ずる技術等を開発することが、実用面でもコスト面でも好ましい。
【0016】
特許文献7には、ホルムアルデヒド系接着剤を含むパーティクルボードのような木質系材料に塗布して用いる、ヒドラジン系化合物とカルボン酸の混合水溶液からなるホルムアルデヒド捕捉剤に関する技術が開示されている。しかしながら、樹脂成型品の製造工程に、こうした水溶液を樹脂成型品に塗布や噴霧する工程を加えるのはコスト高であり、また、塗布や噴霧痕が製品表面に発生するため、外観を損なうという課題がある。さらに、該ホルムアルデヒド捕捉剤を樹脂混錬時に内部添加し、樹脂混錬や成形のような200℃周辺の高熱に曝された後の残存効果や、アセトアルデヒドについての低減能、更には、室温ではなく放散量の著しく増える高温、例えば、65℃でのアルデヒド低減効果、特にリグノセルロース由来のアルデヒド類のそれについては定かではない。
【0017】
特許文献8には、セルロース繊維、セルロース繊維の解繊助剤としてのヒドラジン化合物、樹脂からなる乾式でのナノセルロース補強樹脂の製造方法及び補強樹脂組成物が開示されている。しかしながら、同文献では、ヒドラジン化合物は、比較的粗大なセルロース繊維束をナノレベルのセルロース分子束へ解繊するための解繊助剤であり、VOCを低減する目的で使用されているものではなく、その示唆もない。
【0018】
特許文献9には、結合材と共にヒドラジド化合物及びイミダゾール化合物を含む消臭組成物が開示されている。しかしながら、当該消臭組成物が、樹脂混錬や射出・押出成形のような200℃周辺の高熱に曝された後の残存効果や、アセトアルデヒドについての低減能、更には、室温ではなく放散量の著しく増える高温、例えば、65℃でのアルデヒド低減能については定かではない。また、その実施の態様から、対象物へ外部添加して効果を発揮する例しか示されておらず、アルデヒドの放散源、例えば、樹脂へ内部添加して使用した場合の効果も不明である。
【0019】
特許文献10には、エポキシ樹脂とセルロースナノファイバーとジヒドラジド化合物を含む樹脂組成物が開示されている。しかしながら、当該樹脂組成物において、ジヒドラジド化合物は、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられており、VOCの低減材ではなく、VOC低減材としての効果は不明である。
【0020】
特許文献11及び12には、ポリアセタール樹脂と特定のヒドラジン化合物の組合せからなるモールドデポジット性を改善した低VOC樹脂組成物が開示されている。しかしながら、ポリアセタール樹脂はホルムアルデヒド多量体をモノマーとするホルムアルデヒド系樹脂であり、樹脂マトリックス自体からホルムアルデヒドを放散する性質を持っている。この場合、ポリアセタール樹脂の海内へヒドラジン化合物を混錬し、島として分散状態にさせることで、均一なホルムアルデヒド-ヒドラジンの化学反応が期待できるため、アルデヒドの低減効率は高い。
【0021】
その一方で、リグノセルロース繊維を含むポリオレフィンのような非ホルムアルデヒド系樹脂では、非ホルムアルデヒド系樹脂自体からアルデヒドが放散されることはほとんどないため、ホルムアルデヒドの発生源はリグノセルロース繊維が独占的になる。前述の非ホルムアルデヒド系樹脂では、特許文献11及び12に記載の技術とは異なり、樹脂の海の中でヒドラジンとリグノセルロース繊維は独立した島状態で別々の粒子状態に存在し、双方が均一に会合する機会が少ないため、リグノセルロース繊維から放散されるホルムアルデヒドとヒドラジン化合物の会合や反応は、極めて不均一、且つ、低効率なものになると予想されるので、前述の非ホルムアルデヒド系樹脂に、特許文献11及び12に記載の技術を適用した場合に、VOCの低減効果はあまり期待できない。当然、その効果の予見も困難である。また、アセトアルデヒドについての低減能、更には、室温ではなく放散量の著しく増える高温、例えば、65℃でのアルデヒド低減能、更にはリグノセルロース由来のそれについても定かではないことは言うまでもない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
焦げ臭気が発生する原因について、最も代表的な樹脂とリグノセルロースの組成物である、ポリプロピレン樹脂とリグノセルロース繊維の組成物を混練し、成形する過程を例に説明する。当該樹脂組成物の混練及び成形温度は、該樹脂の融点以上である200℃周辺に達することが多い。混練及び成形温度が200℃周辺に達したとき、以下(1)及び(2)の理由により、焦げ臭気が発生する。
(1)リグニンが高熱により熱分解を起こし、焦げ臭気を発生する。
(2)ヘミセルロースが熱分解した結果、例えば、酢酸のようなカルボン酸系の酸性化合物を生成し、その酸性化合物によりリグニンの熱分解がより促進され、焦げ臭気が更に発生する。
【0023】
非特許文献1には、リグニンやヘミセルロースを含まないクラフトパルプ及びリグニンやヘミセルロースを含むヘンプパルプを1:1で混合した混合物と、ポリプロピレン樹脂とを混合・加熱し、SPME-GC-MSで放散ガス成分を分析した結果、数多くのカルボン酸やフェノール類が検出され、これらはリグニンやヘミセルロースを含むヘンプパルプ由来であることが記載されている。すなわち、リグニンやヘミセルロースを含む場合、リグニンやヘミセルロースを含まない場合に比して、焦げ臭気が発生し易くなることは明白である。
したがって、本発明者らは、焦げ臭気を減ずるには、これら熱に不安定な両成分の分解や変性を抑制する対策が重要であることに着目して、鋭意研究を行った。
【0024】
本発明者らが鋭意研究を行った結果、リグノセルロース繊維と樹脂とを混錬する際に、特定の多孔質吸着剤を配合することで、上記(1)により発生した焦げ臭気を抑制できることを見出した。
また本発明者らは、リグノセルロース繊維と樹脂とを混錬する際に、塩基性化合物を配合することで、上記(2)により発生した酸性化合物を中和することができ、該酸性化合物によりリグニンの分解促進を予防し、リグニンの変性や熱分解に由来する、過剰な焦げ臭気の発生を抑制できることも見出した。
【0025】
また、ポリプロピレン樹脂とリグノセルロース繊維の組成物の混練及び成形温度が200℃周辺に達したとき、リグノセルロース繊維中のヘミセルロースが熱により酸化、変性、分解した結果、アルデヒド類を生成し、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドを放散する。また、リグノセルロース繊維を含む材料は、40~50℃以上で急激にVOCの放散量が増加する性質があり、自動車内装材料に求められるような、65℃でのVOC放散量試験を行うと、室温で行うそれよりも、遥かに多量のVOCの放散が認められるため、65℃でのVOC放散量を抑制させるのは容易ではない。
なおVOCとは、揮発性有機化合物の総称である。非特許文献2にはVOCに関し、「ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物を除く」と記載されているが、本明細書では特に区別せずに、意図したサンプリング温度で放散されてくる有機化合物をVOCと総称する。
【0026】
本発明者らは、比較的吸電子性の低いアルデヒド類を低減する目的で、比較的求核性の高いアミン類の効果を検証した結果、建築用途の木質材料のホルムアルデヒド放散量を抑制するためによく使われる尿素を配合することで、アルデヒドの放散量をある程度抑制できること見出した。しかしながら、尿素のアルデヒド低減反応は平衡反応であること、添加量当たりの低減効果はあまり高くないこと、尿素の融点以上での混錬や成形を行うと、尿素が溶融と共にアンモニアを放散する反応が生じるため、アンモニア臭が強くなること、混錬吐出時のストランドの強度が弱くなること等の諸問題に気が付いた。
【0027】
これらの諸問題を解決するために、アミン類の中でも、毒性や腐食性が低いこと、不快臭気を有しないこと、融点が混錬や成形温度より高いこと、或いは、混錬や成形温度と融点が近くても臭気やアンモニア放散が無視出来る程度であること等の条件を前提に検討した結果、ヒドラジド化合物が、リグノセルロース繊維に由来するアルデヒド類の低減に対して、有効であることを見出すに至った。
本発明は、これらの知見に基づき、完成された発明である。
【0028】
本発明は、リグニンを含むリグノセルロース繊維と樹脂と臭気低減材とを混錬してなり、繊維強化樹脂材料として使用される低臭気組成物であって、前記臭気低減材が、活性炭及び塩基性化合物のいずれか一方又は両方である、低臭気組成物を提供するものである。
【0029】
また本発明は、リグニンを含むリグノセルロース繊維と樹脂とVOC低減材とを混錬してなり、繊維強化樹脂材料として使用される低VOC樹脂組成物であって、前記VOC低減材が、ヒドラジド化合物を含む、低VOC樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、焦げ臭気やVOCの放散量が少なく、且つ低コストで製造可能な組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明の低臭気組成物の製造に用いられる多軸スクリュー押出機の一例である2軸スクリュー押出機を示す模式図である。
【
図2】
図2は、互いに平行に配された2本のスクリューを、シリンダを省略して上方から視た透視平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
まず、本発明の低臭気組成物について説明する。本発明の低臭気組成物は、リグニンを含むリグノセルロース繊維と樹脂と臭気低減材とを混錬してなり、繊維強化樹脂材料として使用されるものである。本発明の低臭気組成物は、例えば、リグノセルロース繊維と樹脂と臭気低減材とを、2軸以上のスクリューを備えた多軸スクリュー押出機に導入し、3者を混錬することにより製造することができる。
【0033】
リグノセルロース繊維と樹脂とを混錬する際に発生する熱により、リグノセルロース繊維に含まれているリグニンが変性し、焦げ臭気が発生してしまうところ、本発明の低臭気組成物は、臭気低減材を含むので、焦げ臭気を抑えることができる。具体的には、臭気低減材は、活性炭及び塩基性化合物の何れか一方又は両方である。臭気低減材が活性炭であることにより、上記(1)の理由により発生する焦げ臭気を抑制することができる。また、臭気低減材が塩基性化合物であることにより、上記(2)の理由により発生する焦げ臭気を抑制することができる。また、臭気低減材が、活性炭及び塩基性化合物の両方であることにより、どちらか一方のみでは抑制しきれない焦げ臭気にも複層的に対応することが可能となり、比較的効果な活性炭の使用量を低減することができる。
以下、本発明の低臭気組成物において用いられる、リグノセルロース繊維、樹脂及び臭気低減材について説明する。
【0034】
〔リグノセルロース繊維〕
本発明で用いるリグノセルロース繊維は、木材又は非木材の植物由来のリグノセルロース材料を、機械的、熱機械的、化学的、化学機械的、又は化学熱機械的に処理することで、繊維を接着剤的に束ねている中問層を軟化、或いは、破壊させ、解きほぐしたり、微細化したものである。リグノセルロース繊維としては、そのようなものを特に制限なく用いることができる。木材は、針葉樹でも広葉樹でも良い。非木材の植物由来のリグノセルロース繊維としては、ワラパルプ、バガスパルプ、ヨシパルプ、ケナフパルプ、リネンパルプ、ラミーパルプ、ヘンプパルプ、フラックスパルプ、竹パルプ等が挙げられる。さらに、繊維やパルプの意味には、木粉や微粉砕物や鋸屑のような粉体も含むものとする。
【0035】
本発明で用いるリグノセルロース繊維としては、例えば、リグノセルロース粉体、セミケミカルパルプ、ケミグランドパルプ、リファイナーグランドパルプ、サーモメカニカルパルプ、砕木パルプを好ましく用いることができるが、コストの観点からはリグニンを5%以上含むことが好ましい。その中でも、機械パルプ、又はファイバーボード用繊維を用いることが、製造効率や物理的性質、コストの観点から好ましい。機械パルプとしては、リファイナーグランドパルプ、サーモメカニカルパルプ、砕木パルプ等が挙げられる。同様の観点から、更に好ましくはサーモメカニカルパルプである。サーモメカニカルパルプには、ファイバーボード用繊維も含まれる。ファイバーボード用繊維とは、広義にはサーモメカニカルパルプであり、狭義には、その中でも比較的粗大な繊維のことである。
【0036】
繊維の物理的な形態の一例として、サーモメカニカルパルプとして、直径30μm、長さ2~3mm程度を挙げることができる。また、長さ及び幅方向をナノサイズまで細かくしたナノセルロースファイバー(ナノリグノセルロースファイバーとも呼ばれる)や長さ及び幅方向にナノサイズ或いはマイクロサイズの繊維が混交したマイクロセルロースファイバー(マイクロリグノセルロースファイバーとも呼ばれる)のようなもの、或いは、所謂木粉と呼ばれる木の微粉末であっても、その長さと幅の大きさの違いからアスペクト比を有しており、リグノセルロース繊維の一種として、例示することができる。
リグノセルロース繊維は、ある程度以上漂白(脱リグニン)されたパルプと異なり、リグニン及び又はヘミセルロースを含んでいる。リグノセルロース繊維は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0037】
リグノセルロース材料をリグノセルロース繊維化する方法としては、公知の方法を特に制限なく用いることができ、例えば、パルプを製造する従来の方法やファイバーボード用繊維を製造する従来の方法、チップ等を粉状にするミル等を適宜用いることができる。
リグノセルロース材料をリグノセルロース繊維化する方法の一例としては、リグノセルロース材料をチップ状に破砕し、その後、プレヒーターやプレスチーマーで1~10Bar程度の圧力を掛けながら蒸煮することで、リグノセルロース材料の構成成分であるリグニンやヘミセルロースを軟化させた後、加圧型リファイナー内で圧力を掛けながらディスク式刃物を用いて、繊維或いは繊維束まで解繊して、所望の繊維を製造する方法を挙げることができる。
【0038】
本発明で用いるリグノセルロース繊維は、その幅が、好ましくは1μm以上100μm以下、更に好ましくは10μm以上50μm以下であり、その長さが、好ましくは0.1mm以上50mm以下、更に好ましくは1mm以上5mm以下である。このような繊維の長さや幅は、リファイナーのディスクの間隔等の運転条件を調整することで適宜所望の長さや幅に調整することができる。
リグノセルロース繊維は、繊維のアスペクト比を大きく保持したまま得ようとする場合、前記のような水熱的な工程を経て製造されることが効率が良く、得られた繊維の損傷も少ない。一方、木粉のようなアスペクト比の低下した粉体でも良い場合は、粉砕装置やミルを用いることができる。使用する電力や熱エネルギーの種類にも依り、材料のGHG評価が異なるため、目的に応じて選ぶことができる。
【0039】
ナノセルロースファイバー又はマイクロセルロースファイバーを製造する方法としては、機械的に所望のサイズまで微細化する方法や、化学変性した後に水中或いは樹脂中で外力を加えて微細化する方法、これらを組み合わせた方法等の既知の方法を何れも用いることができる。
【0040】
本発明で用いるリグノセルロース繊維は、リグニン成分の質量割合が、好ましくは5%以上50%以下、より好ましくは5%以上45%以下、更に好ましくは5%以上40%以下である。リグノセルロース繊維におけるリグニン成分の質量割合を、上述の範囲内とすることにより、臭気低減材の添加量を合目的に低減することが可能となるので、臭気低減材が混錬物の物性に意図しない影響を与えることを防いだいり、臭気低減材のコストを削減することが可能となる。
【0041】
また、多くの場合において、リグノセルロース繊維は、輸送や保存、貯蔵やハンドリングの向上の目的で乾燥される。リグノセルロース繊維の乾燥方法としては、公知の方法を特に制限なく用いることができるが、例えば、製紙・パルプ工業で行われているように、濡れた状態のリグノセルロース繊維をローラーやワイヤ上に吐出し、吸引や加圧により脱水した後に、熱乾燥させる方法や、ファイバーボード用の繊維の製造で行われているように、濡れた状態のリグノセルロース繊維を熱風を流している管の中を気流下で熱乾燥させる方法等を挙げることができる。このような、リグノセルロース繊維の乾燥は、例えば60℃以上200℃以下で行うことが好ましく、より好ましくは80℃以上160℃以下であり、更に好ましくは100℃以上140℃以下である。
近年では、水熱条件を用いずに乾式条件で解繊・繊維を製造する方法も普及している。コストや品質面から水熱条件で製造した繊維でなくとも受け入れられる場合もあり、そのような場合は、乾式で製造した繊維でも良い。
【0042】
〔樹脂〕
本発明で用いる樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂は、融点が260℃以下であることが好ましい。また熱可塑性樹脂は、一定の耐熱性を有することが好ましい。具体的には、融点が100℃以上であることが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリアミド類、ポリヒドロキシアルカン類、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合類、ポリウレタン、及びこれらの変性樹脂、並びに共重合樹脂、並びにポリマーアロイ等からなる群から選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。
熱可塑性樹脂の形態は、圧縮成型体状や、粉末状、顆粒状、繊維状であってもよいが、ペレット状であることが好ましい。
【0043】
〔臭気低減材〕
本発明に用いられる臭気低減材は、上述のように、リグノセルロース繊維に由来する焦げ臭気を低減するために用いられる。臭気低減材としては、活性炭及び塩基性化合物が挙げられる。本発明の低臭気組成物では、臭気低減材は、活性炭及び塩基性化合物の何れか一方又は両方である。
【0044】
〔活性炭〕
活性炭は、特に、熱によるリグノセルロース繊維由来の焦げ臭気の吸着に有効に働く。
活性炭は主に原材料となる木質のおが粉やヤシガラ、或いは、石炭粉を不活性雰囲気化で揮発性物質を熱分解(炭化)させ、薬品や水蒸気で賦活と呼ばれる処理を行い、細孔を発達させたものである。さらに、使用の目的に応じて、中和や洗浄を行ったり、酸で灰分を抽出したりして純度を高めたものであってよいし、吸着効果を高めるために薬品を展着させたものであってもよい。繊維強化樹脂材料に用いられる従来の再生不可能な材料を、リグノセルロース繊維で代替することによって、材料の軽量化、LCAの改善やコストダウンといった利点が得られることを鑑みれば、活性炭は、化石資源である石炭由来のものよりも、木質由来のおが粉やヤシガラ由来のものが好ましい。
【0045】
活性炭の見かけの形状としては、結着体のような成型体状、粉末状、粒状、粉砕状又は球状が挙げられる。樹脂への効果的な分散目的のためには、活性炭の見かけの形状は、配合時或いは混錬時に粉末状であることが好ましい。粉末のサイズは0.01μm以上1,000μm以下、好ましくは0.1μm以上500μm以下、更に好ましくは1.0μm以上50μm以下を挙げることができる。サイズが細かいほど、比表面積が増え吸着能が上がり、さらに樹脂組成物の物性や表面性への影響も少なくなるが、一方で、粉塵が顕著になる、加工にエネルギー、時間やコストが掛かる、嵩高くなるといった問題が生じ易くなる。
活性炭の粉末のサイズの測定方法としては、公知の方法を特に制限なく採用することができる。一例として、「JIS K 1474(2014)活性炭試験方法」による粒径測定方法であっても良いし、市販の粉体の粒度分布計測装置を用いた測定方法であっても良い。
【0046】
活性炭の比表面積は吸着能の目安とすることができる。比表面積の単位は「m2/gで」ある。活性炭の比表面積としては、50m2/g以上10,000m2/g以下、好ましくは100m2/g以上5,000m2/g以下、更に好ましくは200m2/g以上3,000m2/g以下を挙げることができる。活性炭の吸着能を高める観点からは、活性炭の比表面積は大きいほうが好ましいが、コストも考慮して決定される。
活性炭の比表面積の測定方法としては、公知の方法を特に制限なく採用することができる。一例として、水銀圧入法やガス吸着法、空気浸透法等を用いても良い。
【0047】
活性炭は平常状態で周辺大気中の水分を吸着していることが多いが、それ以上に水分を加えることも有益である。これは、熱可塑性樹脂のVOC低減策の一つとして、樹脂の混錬時に水分を配合内に導入し、混錬時に熱で水蒸気として気化させることで、低分子のVOCや臭気を系外に放出することを促進させる技術に準じた効果が得られることが期待されるからであり、また、作業時に発生する粉塵の好ましくない飛散を抑制するためである。
【0048】
上述のとおり、樹脂への効果的な分散目的のためには、活性炭の形状は粉末状であることが好ましいところ、粉末状の活性炭は非常に軽量で嵩高いため、材料配合時や混錬装置への供給時に粉塵を舞い上がらせ周囲を著しく汚染してしまう恐れがある。そこで、活性炭を、一定量の水を含む含水活性炭とすることで、周囲への粉塵汚染を予防できる。また、一般に、混錬時に過剰な水分が存在すると、混錬不良やストランド切れ、装置内での結露、混錬材料のバックフロー、混錬物への気泡の混入等が発生する恐れがあるので、樹脂との混錬時に水分を含むことは禁忌とされているが、本発明の低臭気組成物を製造する場合は、活性炭やリグノセルロース繊維を介して水分を分散、徐放することにより、水分を含んでいても混錬工程に相対的に問題が生じ難い。また、適量の水を含む配合とすることで、混錬時に水蒸気と共に臭気成分を系外に放出促進し易い効果も得られる。
【0049】
含水活性炭は、乾燥した活性炭に対する質量比で20%以上70%以下の水を含むことが好ましく、30%以上60%以下の水分を含むことがより好ましい。活性炭粉末を20℃、湿度95%の条件下で吸湿させると、水分率が20%を超えるまでに、通常、2~3週間以上要する。したがって、活性炭の水分率が20%を超える場合は、意図的に吸湿・吸水させていると判断できる。ここで、活性炭の水分率(%)は、以下の式(1)により算出することができる。
活性炭の水分率(%)={(水の重量)/(乾燥活性炭の重量+水の重量)}×100・・・(1)
【0050】
活性炭に含まれる水分が多すぎると、混錬や混合時に水分がガス気泡になったり、過剰な圧力増加を招いたり、装置内での結露、材料の装置への供給の不安定化、材料の塊化、材料の装置内でのバックフローといった問題が生じ易くなる。また、逆に水分が少ないと、粉塵が立ち易い問題は解決され難い。これらの問題を解決する観点から、含水活性炭に含まれる水分量は、上述した範囲内であることが好ましい。
【0051】
また、排気・臭気を吸着させ易くする目的で、薬剤を展着させた活性炭が実用化されている。これは排気ガスを吸着する目的で、例えば、酸性の排気ガスに対しては塩基性薬剤を展着させ、塩基性の排気ガスに対しては酸性薬剤を展着させて、その効果を高めている。本発明で用いる活性炭は、このような薬剤展着活性炭から選ばれても構わない。そのような活性炭の酸塩基性としては、中性から塩基性が好ましい。
なお、本発明の目的を損なわない範囲で、シリコンオイル等の高耐熱液体で活性炭粉末に粘着性を付与し、飛散を抑制する等の対応を行っても構わない。
【0052】
〔塩基性化合物〕
本発明では、塩基性化合物はヘミセルロースの熱分解により発生した酸性化合物を中和し、リグニンの分解を促進するのを予防する目的や、更には、カルボン酸に由来する臭気を抑制する目的で使用されても構わない。
塩基性化合物としては、塩基性を示す化合物であれば、特に制限なく用いることができる。ただし、それらが生物への有害な毒性を有していたり、装置への腐食性を有していたり、環境への悪影響を与える物であったり、醜悪な臭気を発生させたりする物は、好ましくないことは言うまでもない。
【0053】
塩基性化合物の例としては、有機化合物及ぶ無機化合物の何れも挙げることが出来るが、熱加工時に分解せずに安定して作用することを期待すれば、無機化合物である金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸化合物、金属ケイ素化合物やこれらの複素化合物等を挙げることができる。樹脂組成物への配合実績、入手容易性、コスト等を考慮すると、アルカリ金属の酸化物や水酸化物やアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物、好ましくは酸化マグネシウムや水酸化マグネシウム、酸化カルシウムや水酸化カルシウム等を挙げることができる。リグノセルロース繊維にヘミセルロースが含まれている場合、ヘミセルロースの分解を避ける目的で、弱塩基性化合物を用いることが好ましく、このような化合物の例として、水酸化マグネシウムを挙げることができる。このような塩基性化合物の表面は、樹脂中への分散性を高めるためにカップリング剤や相溶化剤、脂肪酸等で処理されていても構わないし、中和効果を最大限に期待して、未処理であっても構わない。
これら化合物は樹脂への混合の容易性を考えれば、粉末状であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲でスラリー状や水溶液状でも構わない。また、上述したように、活性炭に予め酸塩基性やその他吸着を高める化合物を展着させておく方法でも構わない。
【0054】
〔低臭気組成物〕
本発明の低臭気組成物の組成は、配合や樹脂の種類、低臭気組成物の用途により、適宜決定することができる。
本発明の低臭気組成物の組成の一例として、リグノセルロース繊維の配合率は、そのまま成形装置に供するための繊維配合率(重量)(例えば、10~70%)でも構わないし、新たに樹脂と希釈して使用するための高い繊維配合率(重量)(例えば、30~99%)でも構わない。
本発明の低臭気組成物は、物性の向上、及び化石資源やそれに由来する温暖化ガスの排出低減の観点から、リグノセルロース繊維を、質量比で、1%以上95%以下含むことが好ましく、3%以上85%以下含むことがより好ましく、5%以上75%以下含むことが更に好ましい。
【0055】
本発明の低臭気組成物の組成の一例として、臭気低減材の配合率は、リグノセルロース繊維の添加率やリグノセルロース繊維の受ける熱履歴、リグノセルロース繊維中のリグニン率より異なるが、例えば、全体に対して0.1~20%でも構わないし、リグノセルロース繊維に対して、例えば、0.1~300%でも構わない。
本発明の低臭気組成物の比重は、配合割合やその他添加材(例えば、比重の大きなガラス繊維、タルク、炭酸カルシウム、バサルト繊維等)の有無によって異なるが、0.7~1.7、好ましくは0.8~1.6、更に好ましくは0.9~1.5を挙げることができる。
【0056】
また、本発明の低臭気組成物の嵩密度は同様に配合割合やその他添加材によって異なるが、100~800kg/m3、好ましくは150~600kg/m3、更に好ましくは200~500kg/m3を挙げることができる。
また、本発明の低臭気組成物の、取引時の水分率は0~20%、好ましくは0~15%、更に好ましくは0~10%を挙げることができる。この時、水分率(%)は、以下の式(2)により算出することができる。
水分率(%)={(水の質量)/(全体の質量)}×100・・・(2)
水分量は、乾燥等による減量を水分量とする方法や、市販の水分計(例えば、カールフィッシャ水分計等)等を用いる方法等により測定することができる。
【0057】
また本発明の低臭気組成物は、臭気低減材として、質量比で20%以上70%以下の水を含む含水活性炭を含み、リグノセルロース繊維と樹脂と該臭気低減材との混錬時に、水を、水蒸気として放出させてなるものであることが好ましい。低臭気組成物は、混錬時に水を水蒸気として放出させてなるものであることにより、水蒸気とともに、焦げ臭気等の臭気成分が放出されたものになりやすいので、焦げ臭気が一層低減されたものとすることができる。なお、リグノセルロース繊維と樹脂と該臭気低減材との混錬時に、水を、水蒸気として放出させてなる低臭気組成物は、本発明の効果に寄与するための粒子構造や特性の全部を解析することは実質的に不可能であり、その構造及び特性によって特定するには著しく過大な経済的支出及び時間を要する。そのため、前記低臭気組成物には、本出願の出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情、すなわち「不可能・非実際的事情」が存在する。
【0058】
〔低臭気組成物の製造方法〕
本発明の低臭気組成物は、リグノセルロース繊維と樹脂と臭気低減材とを混錬してなるものである。リグノセルロース繊維と樹脂と臭気低減材とは、例えば、多軸スクリュー押出機、高圧ニーダー機、バンバリーミキサー機、ヘンシェルミキサー機、ロールミル機等の混練装置により混錬することができる。リグノセルロース繊維、樹脂及び臭気低減材は、混錬装置に投入する前に予め混合しておいてもよいし、混錬装置内で混合されることを目的として、リグノセルロース繊維、樹脂及び臭気低減材を、同じ投入口又は異なる投入口から投入してもよい。例えば、樹脂を、混錬装置に先に投入し、該樹脂を溶融させた後に、混錬装置にリグノセルロース繊維や臭気低減材を逐次投入してもよいし、樹脂、リグノセルロース繊維及び臭気低減材を同時に混錬装置に投入し、樹脂を溶融させながら、樹脂、リグノセルロース繊維及び臭気低減材を混錬してもよい。
【0059】
〔多軸スクリュー押出機〕
本発明の低臭気組成物を得るためには、2本以上のスクリューを備えた多軸スクリュー押出機を用いることが好ましい。本発明の低臭気組成物の製造に用いることができる多軸スクリュー押出機には、2本のスクリューを備えた2軸スクリュー押出機と、3本以上のスクリューを備えた多軸スクリュー押出機が含まれる。
【0060】
図1に、本発明の低臭気組成物の製造に用いることができる多軸スクリュー押出機の一例である2軸スクリュー押出機1を示す。2軸スクリュー押出機1は、混錬用のスクリュー3と、シリンダ2と、加熱装置8と、押出口71を有するノズル部7と、材料投入部6と、混錬時に発生するガス分を真空脱気する脱気部(図示せず)とを備えている。シリンダ2は、スクリュー3が配された混錬空間を内部に有する。2軸スクリュー押出機1は、
図1及び
図2に示すように、シリンダ2の混錬空間内に、2本のスクリュー3が、その回転軸であるスクリュー軸31を互いに平行にして回転自在に並設されている。スクリュー軸31のそれぞれには、
図2に示すように、相互に噛み合うスクリュー羽根32が設けられている。加熱装置8は、シリンダ2の外周部に、該シリンダ2の軸方向に沿って複数配された加温部81を含む。加温部81は、材料投入部6からノズル部7まで、シリンダ2の軸方向に沿って複数設置されている。加温部81としては、例えば、電熱線を備えたヒーターや、高温の熱媒体が流通するヒーター等を用いることができる。
2軸スクリュー押出機1は、2本のスクリュー3の駆動源4として、例えば、電動モーターを備えており、2本のスクリュー3のスクリュー軸31に、駆動源4から動力が、歯車機構等の動力伝達系5を介して伝達されることで、2本のスクリュー軸31のそれぞれが回転する。
【0061】
2軸スクリュー押出機1は、加熱装置8によって加温可能な加温領域Rhを有する。加温領域Rhは、シリンダ2の軸方向に沿って延びている。
図1に示す2軸スクリュー押出機1では、加温領域Rhには、加熱装置8の加温部81が配されている。加温領域Rhは、シリンダ2の軸方向に沿って複数の区画S1~S11に分けることができる。ここで、区画とは、独立して温度設定可能な領域を意味する。
図1に示す2軸スクリュー押出機1は、11個の区画S1~S11に分けられており、加温領域Rhをシリンダ2の軸方向に沿って見たときに、各区画それぞれに1つの加温部81が配されている。1つの区画に配されている加温部81の数は1つに限られず、1つの区画に複数の加温部81が配されていてもよい。2軸スクリュー押出機1は、各区画ごとに加温部81が配されていることにより、材料の混錬・移送の各段階に応じた温度設定ができるようになっている。なお、区画の数は11個に限られず、1個であってもよいし、2個以上10個以下であってもよいし、12個以上であってもよい。
【0062】
以下、本発明の低臭気組成物の製造方法の好ましい一実施態様について、上述した2軸スクリュー押出機1を用いて低臭気組成物を製造する方法を例に説明する。本実施態様の製造方法は、混錬工程を有する。
混錬工程において、リグノセルロース繊維A、熱可塑性樹脂B及び臭気低減材Cは、スクリュー3の回転によって、ノズル部7が存在する下流側に向かって強制的に移送される。
【0063】
本実施態様の混錬工程は、溶融工程と低温度混錬工程とを備える。
溶融工程は、少なくとも1つの区画において行われる。本実施態様では、溶融工程は、区画S1で行われる。溶融工程では、加温部81の設定温度を熱可塑性樹脂Bの融点以上に維持し、熱可塑性樹脂Bを溶融し、リグノセルロース繊維A、臭気低減材C及び溶融した熱可塑性樹脂Bの混合物を得る。高温度混錬工程を行う区画は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。溶融工程では、熱可塑性樹脂Bのみを単独で溶融した後、溶融した熱可塑性樹脂Bと、リグノセルロース繊維Aと臭気低減材Cとを混合してもよいし、リグノセルロース繊維を含む熱可塑性樹脂Bを溶融した後、溶融した熱可塑性樹脂Bとリグノセルロース繊維Aと臭気低減材Cとを混合してもよいし、リグノセルロース繊維及び臭気低減材を含む熱可塑性樹脂Bを溶融した後、溶融した熱可塑性樹脂Bとリグノセルロース繊維Aと臭気低減材Cとを混合してもよい。
【0064】
低温度混錬工程は、溶融工程後に行う。溶融工程は、少なくとも1つの区画において行われる。本実施態様では、低温度混錬工程は、区画S2~区画S11で行われる。低温度混錬工程では、加温部81の設定温度を、熱可塑性樹脂Bの融点未満の温度に維持しつつ、溶融工程で得られた混合物を混錬する。また本実施態様では、低温度混錬工程後に、前記混合物が押出口71から吐出され、低臭気組成物Dが得られる。低温度混錬工程を行う区画は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0065】
本実施態様においては、混錬工程後に、前記混合物を押出口71から吐出した後、吐出された低臭気組成物Dを長さ方向に切断しペレット化するペレット化工程を備えることが好ましい。ペレット化工程を備えることにより、低臭気組成物Dを、効率的に使用することが可能となる。ペレット化工程において、低臭気組成物Dを切断する方法としては、該低臭気組成物Dを水槽内で冷却せずに切断するホットカットや、該低臭気組成物Dを空冷却や水冷却した後、切断する方式、該低臭気組成物Dを水中に吐出した後、水中で該低臭気組成物Dを切断する方式等、既知の方法を用いることができる。吐出された低臭気組成物Dは、所望の長さに切断することができる。
【0066】
本実施態様の製造方法は、低温度混錬工程を有することにより、リグノセルロース繊維が受ける熱履歴を減らすことができる。その結果、上記(1)の理由により起こるリグニンの熱分解を抑制することができる。上記(2)の理由により生じる焦げ臭気を抑制する観点からは、本実施態様の製造方法で用いられる臭気低減材は、塩基性化合物を含むことが好ましい。
【0067】
本実施態様の製造方法では、溶融工程よりも後の工程を行う区画の数に対する低温度混錬工程を行う区画の数の割合(以下、区画率ともいう)が、好ましくは15%以上100%以下である、より好ましくは20%以上100%以下、更に好ましくは25%以上100%以下である。区画率を、上述の範囲内とすることによって、本発明の低臭気組成物を、効率的且つ容易に得ることができるという効果が一層顕著に奏されるようにすることができる。区画率は、以下の式(3)により算出することができる。
区画率%={(低温度混錬工程を行う区画の数)÷(溶融工程よりも後の工程を行う区画の数)}×100・・・(3)
【0068】
また、本実施態様の製造方法では、溶融工程よりも後の工程を行う区画の通過に要する時間に対する、低温度混錬工程を行う区画の通過に要する時間の割合は、好ましくは10%以上100%以下、より好ましくは15%以上100%以下、更に好ましくは20%以上100%以下である。前記時間の割合を、上述の範囲内とすることによって、本発明の低臭気組成物を、効率的且つ容易に得ることができるという効果が一層顕著に奏されるようにすることができる。前記時間の割合は、以下の式(4)により算出することができる。
前記時間の割合%={(低温度混錬工程を行う区画の通過に要する時間)÷(溶融工程よりも後の工程を行う区画の通過に要する時間)}×100・・・(4)
【0069】
次に、本発明の低VOC樹脂組成物について説明する。本発明の低VOC樹脂は、ヘミセルロースを含むリグノセルロース繊維と樹脂とVOC低減材とを混錬してなり、繊維強化樹脂材料として使用されるものである。本発明の低VOC樹脂組成物は、例えば、リグノセルロース繊維と樹脂とVOC低減材とを、2軸以上のスクリューを備えた多軸スクリュー押出機に導入し、3者を混錬することにより製造することができる。
【0070】
リグノセルロース繊維と樹脂とを混錬する際に発生する熱により、リグノセルロース繊維に含まれているヘミセルロースが酸化、変性又は分解され、カルボン酸類やアルデヒド類等のVOCが発生してしまうところ、本発明の低VOC樹脂組成物は、VOC低減材を含むので、VOCの発生を抑えることができる。具体的には、VOC低減材は、ヒドラジド化合物を含む。VOC低減材がヒドラジド化合物を含むことにより、VOCの発生を抑えた低VOC樹脂組成物を、低コストで製造することができる。
以下、本発明の低VOC樹脂組成物において用いられる、リグノセルロース繊維、樹脂及びVOC低減材について説明する。
【0071】
本発明の低VOC樹脂組成物では、本発明の低臭気組成物に用いられるリグノセルロース繊維及び樹脂と、同様のリグノセルロース繊維及び樹脂を用いることができる。
本発明で用いるリグノセルロース繊維は、ヘミセルロース成分の質量割合が、好ましくは1%以上30%以下、より好ましくは2%以上25%以下、更に好ましくは3%以上20%以下である。リグノセルロース繊維におけるヘミセルロース成分の質量割合を、上述の範囲内とすることにより、VOC低減材の添加量を合目的に低減することが可能となるので、VOC低減材が混錬物の物性に意図しない影響を与えることを防いだいり、VC低減材のコストを削減することが可能となる。
【0072】
〔VOC低減材〕
本発明の低VOC樹脂組成物に用いられるVOC低減材は、熱によるリグノセルロース繊維由来のVOC、特にアルデヒド類の低減に有効に働く。
本発明に用いるVCO低減材は、ヒドラジド化合物が好ましい。ヒドラジド化合物としては、モノヒドラジド、ジヒドラジド、ポリヒドラジド化合物が挙げられるが、ジヒドラジド化合物が好ましい例として挙げられる。このような、ジヒドラジド化合物の例としては、二塩基酸ジヒドラジドである、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ダイマー酸ジヒドラジド、2,6ナフトエ酸ジヒドラジド等が挙げられる。このようなヒドラジド化合物は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を混合しても使用できる。
【0073】
ヒドラジド化合物の形態は、粉体でリグノセルロース繊維や樹脂と混合して用いても良いし、予め、水溶液とした水、或いは、シリコンオイル等の結着材を介してリグノセルロース繊維や樹脂、例えば、活性炭のような、その他の共存させる添加剤に付着させてから、配合しても構わない。
また、ヒドラジド化合物とカルボン酸やカルボン酸塩等を組み合わせることで、アルデヒド類の放散量をさらに効果的に低減させることが知られているが、このような既知の捕捉促進材も、本発明の目的に適合する限りは、特に制限なく用いることができる。
【0074】
ここで、例えば、ポリオレフィン樹脂とリグノセルロース繊維、ヒドラジド化合物の混錬状態を考えると、ポリオレフィン樹脂の海の中では、リグノセルロース繊維とヒドラジド化合物が島として、孤立別個状態で存在する態様が想定される。この状態では、リグノセルロースから放散されるアルデヒド類をヒドラジド化合物が補足するのは、偶発的で極めて低い両者の会合確率を考えると、効果的ではないと予想される。しかしながら、後述の実施例にて説明するように、本発明では極めて少量のヒドラジド化合物の添加率で、効果的にアルデヒドの放散を低減できていることから、従来の想定にない新しいメカニズムが存在していると考えられる。すなわち、樹脂の海の中で、極性のあるリグノセルロースとヒドラジド化合物は、双方が有極性に由来する双親和性を発揮した結果、互いに引き寄せ合う結果となり、孤立別個の状態よりも、両者は近接した状態に置かれ、リグノセルロースから放散されるアルデヒド類をヒドラジド化合物が効率的に捕捉することができている、という新しいメカニズムと、それに基づく新しい効果が提案される。なお、尿素化合物の添加についても、同様のメカニズムが提案される。
【0075】
本発明の低VOC樹脂組成物は、ヒドラジド化合物に加えて、VOC低減助材として、尿素化合物を含むこともできる。尿素化合物は、尿素及びその類縁化合物や誘導体を広く含む意であるが、コストや入手容易性等を勘案すると、尿素が好ましい。一般に、酸とアンモニアやアミンの縮合化合物、これらの類縁化合物や誘導体類は、加水分解や溶融すると、アンモニアを発生する場合が多い。尿素もまた融点以上の熱に曝されると融解し、アンモニアを放散するため、多量に配合すると混錬や成形時の熱でアンモニアを生成し、特有のアンモニア臭を発することがある。従って、その配合量には注意が必要ではあるものの、注意深く組み合わせることで、比較的高価なヒドラジド化合物の配合量を低減し、VOCを低減させる役割を尿素化合物に担わせることが可能である。
尿素化合物は、粉体や造粒体でリグノセルロース繊維や樹脂と混合して用いても良いし、予め、水溶液とした水、或いは、シリコンオイル等の結着材を介してリグノセルロース繊維や樹脂に付着させてから、配合しても構わない。
【0076】
〔低VOC樹脂組成物〕
本発明の低VOC樹脂組成物の組成は、配合や樹脂の種類、低VOC樹脂組成物の用途により、適宜決定することができる。
本発明の低VOC樹脂組成物の組成の一例として、リグノセルロース繊維の配合率は、そのまま成型装置に供するための繊維配合率(重量)(例えば、10~70%)でも構わないし、新たに樹脂と希釈して使用するための高い繊維配合率(重量)(例えば、30~99%)でも構わない。
【0077】
ヒドラジド化合物の配合率(質量)は、同時に配合されているリグノセルロース繊維の配合率や種類、熱履歴によって変わるため、一概には決められないが、一例として、全体に対して0.01~20%、好ましくは0.05~10%、さらに好ましくは0.1~5%を挙げることができる。配合率が小さいとVOC低減効果は得られず、逆に、大きいと樹脂組成物の物性や加工性、外観が低下したり、ヒドラジド化合物自体の加熱臭気も発生する。
本発明の低VOC樹脂組成物は、混錬物の物性やコスト等の観点から、ヒドラジド化合物を、0.1質量%以上5質量%以下含むことが好ましく、0.2%以上5%以下含むことがより好ましく、0.3%以上5%以下含むことが更に好ましい。
【0078】
尿素化合物の配合率(重量)は、同時に配合されているリグノセルロース繊維やヒドラジド化合物の配合率や種類、熱履歴によって変わるため、一概には決められないが、一例として、全体に対して0.01~20%、好ましくは0.05~10%、さらに好ましくは0.1~5%を挙げることができる。配合率が小さいとVOCやヒドラジドの配合率の低減効果は得られず、逆に、大きいと樹脂組成物の物性や加工性、外観が低下したり、加熱時にアンモニア臭気も発生する。尿素化合物は、特にリグノセルロース繊維に尿素や尿素ホルムアルデヒド樹脂等の形態でリグノセルロース繊維へ付着させておき、それを尿素化合物を含むリグノセルロース繊維源として使用することもできる。これは例えば、尿素ホルムアルデヒド系接着剤で製造された繊維板のようなものを一例として挙げることができる。
【0079】
本発明の低VOC樹脂組成物の比重は、配合割合やその他添加材(例えば、比重の大きなガラス繊維、タルク、炭酸カルシウム、バサルト繊維等)の有無によって異なるが、0.7~1.7、好ましくは0.8~1.6、更に好ましくは0.9~1.5を挙げることができる。
また、その嵩密度は同様に配合割合やその他添加材によって異なるが、100~800kg/m3、好ましくは150~600kg/m3、更に好ましくは200~500kg/m3を挙げることができる。
【0080】
また、本発明の低VOC樹脂組成物の、取引時の水分率は0~20%、好ましくは0~15%、更に好ましくは0~10%を挙げることができる。この時、水分率(%)は、上記式(2)により算出することができる。
【0081】
本発明の低VOC樹脂組成物は、JASO M902試験において、以下の(1)又は(2)を満たすことが好ましい。
(1)サンプリングバッグ加熱温度65℃でのホルムアルデヒド放散濃度が100μg/m3以下である。
(2)サンプリングバッグ加熱温度65℃でのアセトアルデヒド放散濃度が48μg/m3以下である。
JASO M902は、自動車のインストゥルメンタルパネルやドアパネル等のような内装材に用いられる材料におけるVOCの放散量の測定方法を規定したものである。本発明の低VOC樹脂組成物は、上記(1)又は(2)の指針値を満たすことにより、自動車の内装で使用される条件下でのVOC放散量のシミュレーションに用いる際の一つの根拠となる。
【0082】
〔低VOC樹脂組成物の製造方法〕
本発明の低VOC樹脂組成物は、本発明の低臭気組成物と同様にして製造することができる。具体的には、本発明の低臭気組成物の製造方法において、臭気低減材に代えて、VOC低減材を用いることにより、本発明の低VOC樹脂組成物を製造することができる。
本発明の低VOC樹脂組成物を得るためには、上述した多軸スクリュー押出機を用いることができる。本発明の低VOC樹脂組成物の製造方法の好ましい一実施態様においても、上述した2軸スクリュー押出機1を用いることができる。本実施態様の低VOC樹脂組成物の製造方法は、臭気低減材Cに代えてVOC低減材を用いる以外は、上述した、本実施態様の低臭気組成物の製造方法と同様に行うことができる。
本実施態様の低VOC樹脂組成物の製造方法は、低温度混錬工程を有することにより、リグノセルロース繊維が受ける熱履歴を減らすことで、ヘミセルロースの熱分解を減じ、更なるアルデヒドの発生機会を抑制することができる。
【0083】
以下、本発明の低臭気組成物及び低VOC樹脂組成物に共通する点について説明する。
〔再生材〕
本発明の低臭気組成物及び低VOC樹脂組成物は、再生材であってもよい。再生材とは、廃棄された熱可塑性樹脂材料を熱で溶かして再度ペレット(リペレット)化(或いは、破砕したままペレット化しない場合も含む)し、熱成形加工を行い、再び樹脂製品として使用するための材料を意味する。この場合の、廃棄は広い意味を含み、消費者に製品が渡る前の製造工程で発生した材料、消費者が製品を使用した後に回収された材料、成形時に発生するランナーやスプル、不合格品などの製造工場内での廃材等を、実際に使用したかしないか、廃棄を目的としているかしていないかに関わらず、幅広く含むものである。
本発明の低臭気組成物及び低VOC樹脂組成物は、樹脂として、廃棄された熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。また、再生材を製造するための、廃棄された材料として、本発明の低臭気組成物及び低VOC樹脂組成物を使用してもよい。
【0084】
リグノセルロース繊維と熱可塑性樹脂の組成物は、リグノセルロース繊維の柔軟な特性により、複数回再生加工(例えば、使用後に破砕してリペレット化し、再び成形加工を行う場合等)を行っても、ガラス繊維のような脆性な繊維に比して、繊維の折損が少なく、物性が低下し難い、という再生に適した材料特性を有する。しかしながら、前述したように、リグノセルロース繊維は熱加工工程を経る度に、リグニンの熱酸化、熱減衰や熱劣化、熱分解が進み、焦げ臭気を発生し易くなるという問題も発生する。かかる問題に対して、リグノセルロース繊維樹脂の組成物が、再生前より臭気低減材を配合されている、或いは、再生時に臭気低減材を適宜追加的に配合することで、複数回の再生熱加工を経ても、なお焦げ臭気が発生し難いという効果を発揮することが可能である。
【0085】
〔リグノセルロース繊維強化樹脂材料〕
本発明の低臭気組成物及び低VOC樹脂組成物は何れも、再生可能で軽量、高弾性、且つ、LCA評価に優れているリグノセルロース繊維を含むことによって、繊維強化樹脂材料として用いたときに、優れた軽量化効果、補強効果、LCA改善効果を発現して、高性能な繊維強化樹脂材料を得ることができる。
本発明の低臭気組成物又は低VOC樹脂組成物を含む繊維強化樹脂材料(以下、「リグノセルロース繊維樹脂強化材料」ともいう)は、本発明の効果を損なわない範囲で防腐剤、防虫剤、防カビ剤、撥水剤、紫外線吸収剤、難燃剤、充填材、カップリング剤、ゴム、エラストマー、消泡剤、発泡剤、滑剤、顔料、色素、消泡剤、発泡剤、ワックス、離型剤、流動性改良剤、ストランド強化剤、酸化防止剤、他の吸着剤、他の脱臭剤等の種々の添加剤を加えることができる。これらは、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、これらの添加剤は、リグノセルロース繊維強化樹脂材料とする前の段階も含めて、任意の段階で適宜、配合することができる。特に、液体状の臭気低減材剤やVOC低減材等を、樹脂成形品(半製品又は製品)の表面に噴霧や塗布等で付着させることは、通常行われる。
【0086】
強化樹脂材料の意には、最終的な製品だけでなく、製品を製造する原料となるもの、例えば、リグノセルロース繊維と樹脂の組成物、リグノセルロース繊維と樹脂の組成物を製造する過程の中間体やこれらの混合物等を含むことは言うまでもない。
本発明の低臭気組成物及び低VOC樹脂組成物は、それぞれ、組成物で販売しても良いし、希釈を目的としたマスタバッチのような中間体、最終的な成型品、及び、成型品を含む集合体や組合せ体として販売しても良い。
以上、本発明の好ましい実施形態を示して説明したが、各発明は、上記の実施形態に制限されず適宜に変更可能である。
【実施例0087】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、かかる実施例によって何ら限定されるものではない。
【0088】
〔リグノセルロース繊維と熱可塑性樹脂と臭気低減材との組成物の製造〕
ラジアータパインを主原料としたリグニンやヘミセルロースを含む木材繊維(サーモメカニカルパルプ、或いは、MDF用繊維と呼ばれる)と熱可塑性樹脂、塩基性化合物、活性炭を適宜配合し、上述した本実施態様の製造方法により、実施例1~6、比較例1~4及び参考例1の組成物からなるペレットを製造した。ペレット化工程において、低臭気組成物を切断する方法としては、低臭気組成物を水冷却した後、切断する方式を用いた。各ペレットの製造に用いた材料の組成は後述する。実施例1~6、比較例1~4の組成物を製造する際の、各区画の設定温度は、表1に示すとおりである。参考例1の組成物を製造する際の、各区画の設定温度は、表2に示すとおりである。なお、表1及び2において、区画S11はノズル部である。また、区画S1以前の、温度を設定していない区画の設定温度は、表1及び2から省略している。実施例1~6、比較例1~4及び参考例1の組成物を製造する際のスクリュー回転数は250rpmに設定した。
【0089】
【0090】
【0091】
〔成形品〕
実施例1~8、比較例1~4及び参考例1のペレットを射出成形機にて、厚み2mm×縦100mm×横100mmの平板状に成形し、成形品を製造した。
【0092】
(実施例1の組成)
樹脂:ポリプロピレン(住友化学:Z101A) 66質量部
相溶加材:マレイン酸変性ポリプロピレン(理研ビタミン:MG441P) 1質量部
リグノセルロース繊維:30質量部
塩基性化合物:超微粒子水酸化カルシウム(近江化学工業:Caldic2000)3質量部
(実施例2の組成)
塩基性化合物を以下のように変更した以外は、実施例1と同様である。
塩基性化合物:水酸化カルシウム粉末(白石工業:CLS―B):3質量部
(実施例3の組成)
塩基性化合物を以下のように変更した以外は、実施例1と同様である。
塩基性化合物:水酸化マグネシウム粉末(関東化学):3質量部
【0093】
(比較例1の組成)
塩基性化合物を含まない以外は、実施例1と同様である。
(参考例1の組成)
塩基性化合物を含まない点、及びリグノセルロース繊維に代えて、セルロース(富士フィルム和光純薬)30質量部を用いた点以外は、実施例1と同様である。
【0094】
〔評価〕
実施例1~3、比較例1及び参考例1のペレットについて、以下の方法により、焦げ臭気を評価した。ペレットの焦げ臭気は、換言すれば、組成物の混錬時に発生した焦げ臭気である。評価結果を表3に示す。
【0095】
<ペレットの焦げ臭気の評価方法>
ペレット化工程の直後、即ち、2軸スクリュー押出機から吐出された低臭気組成物を冷却し切断した後直ちに、3名の評価者が直接的にペレットの臭気を嗅いで、ペレットの焦げ臭気を官能評価した。
【0096】
また実施例1~3、比較例1及び参考例1の成形品について、以下の方法により、焦げ臭気を評価した。成形品の焦げ臭気は、換言すれば、成形時に発生した焦げ臭気である。評価結果を表3に示す。
【0097】
<成形品の焦げ臭気の評価方法>
製造された成形品を自然放冷した後、ポリエチレン製のビニル袋内に密閉し、20℃、24時間養生した。24時間後に、ビニル袋の口を開けて、1名の評価者が直ちに直接的に袋内の臭気を嗅いで、成形品の焦げ臭気を官能評価した。
【0098】
【0099】
〔結果〕
実施例1~3は、臭気低減材として、塩基性化合物を含むものである。比較例1は、臭気低減材を含まないものである。参考例1は、リグノセルロース繊維として、リグニンやヘミセルロースを含まない、高純度セルロース粉末を用いたものである。
実施例1~3の評価結果と、比較例1の評価結果とを比較すると、臭気低減材である塩基性化合物を含むことにより、焦げ臭気を抑制できることが分かる(表3参照)。
【0100】
また実施例1と、実施例2とを比較すると、実施例1の方がより効果的に焦げ臭気を抑制できることが分かる(表3参照)。実施例1で用いた塩基性化合物は強塩基であるのに対し、実施例2で用いた塩基性化合物は弱塩基である。また、実施例1で用いた塩基性化合物は、実施例2で用いた塩基性化合物よりも比表面積が大きく、活性が強い。実施例1及び2の結果から、塩基性化合物として、強塩基且つ比表面積が大きいものを用いることにより、焦げ臭気を一層効果的に抑制できることがわかる。
【0101】
また参考例1は、組成物を製造する際に、実施例1~3及び比較例1よりも、高温で混錬を行っているにも拘わらず(表1参照)、ペレット及び成形品の何れにおいても焦げ臭気が無かった。このことから、焦げ臭気の原因はリグニンやヘミセルロースであることが再確認された。また、リグニンやヘミセルロースを含まないパルプでは焦げ臭気の問題は生じ難く、焦げ臭気は、これら成分を含むリグノセルロース材料固有の問題であることも改めて明確となった。
【0102】
(実施例4の組成)
塩基性化合物に代えて、以下の吸着材を用いた以外は、実施例1と同様である。
吸着材:活性炭(乾燥)富士フィルム和光純薬:3質量部
(実施例5の組成)
吸着材を以下のように変更した以外は、実施例4と同様である。
吸着材:活性炭(50%水分)(フタムラ化学:太閤 P-W)6質量部(内、水分が3質量部)
【0103】
(比較例2の組成)
吸着材を以下のように変更した以外は、実施例4と同様である。
吸着材:ゼオライト(富士フィルム和光純薬):3質量部
(比較例3の組成)
吸着材を以下のように変更した以外は、実施例4と同様である。
吸着材:珪藻土(昭和化学工業:ラヂオライトスペシャルフロー):3質量部
(比較例4の組成)
吸着材を以下のように変更した以外は、実施例4と同様である。
吸着材:活性アルミナ(富士フィルム和光純薬:中性、スーパーI):3質量部
【0104】
〔評価〕
実施例4及び5、並びに比較例2~4のペレット及び成形品について、上述の方法により、焦げ臭気を評価した。結果を表4に示す。
【0105】
【0106】
〔結果〕
実施例4及び5は、臭気低減材として活性炭を含むものである。比較例2~4は、活性炭以外の吸着材を含むものである。
実施例4及び5の評価結果と、比較例2~4の評価結果とを比較すると、臭気低減材として活性炭を含むことにより、焦げ臭気を抑制できることが分かる(表4参照)。
また実施例4では、乾燥した活性炭を用いているのに対し、実施例5では、質量比で50%の水を含む含水活性炭を用いている。実施例4及び5の何れも、ペレット及び成形品の何れにおいて焦げ臭気が無いことから、乾燥した活性炭及び含水活性炭の両方に、焦げ臭気を抑制する効果があることが分かる。
また、比較例2~4より、活性炭以外の吸着材には、十分な焦げ臭気の抑制効果は見られないことが分かった(表4参照)。
【0107】
リグノセルロース繊維は、極性化合物であり、発生するガス成分もまた、極性化合物が多数を占めると通常考えられる。しかしながら、実施例4及び5では、典型的な無極性の多孔質吸着材である活性炭が有効に機能しており、これは比較的極性の低いフェノール系化合物が、閾値の低い焦げ臭気成分として重要であることを示していると考えられる。リグノセルロースのような極性材から発生するガスの吸着材として、無極性吸着材が機能することは、容易に予見できるものではない。
【0108】
(実施例6の組成)
樹脂:ポリプロピレン(住友化学:Z101A):63質量部
相溶加材:マレイン酸変性ポリプロピレン(理研ビタミン:MG441P):1質量部
リグノセルロース繊維:30質量部
吸着材:活性炭(50%水分)(フタムラ化学:太閤 P-W):6質量部(内、水分が3質量部)
塩基性化合物:水酸化マグネシウム(富士フィルム和光純薬):3質量部
【0109】
〔評価〕
実施例6のペレット及び成形品について、上述の方法により、焦げ臭気を評価した。結果を表5に示す。
【0110】
【0111】
〔結果〕
実施例6は、臭気低減材として、活性炭及び塩基性化合物の両方を含むものである。
実施例6の結果より、活性炭と塩基性化合物の組合せにも、双方が負の干渉効果を与えることなく、効果的な臭気の抑制効果があることが確認された(表5参照)。
【0112】
〔再生材〕
(実施例7)
実施例6のペレットを用いて、混練、細分化、冷却のサイクルを5回繰り返した。各サイクルの詳細は以下のとおりである。
<1サイクル目>
実施例6のペレットを、卓上型樹脂混錬装置(ラボプラストミル:東洋精機製作所社)を用いて、以下の混錬条件で混錬し、混錬物を得た。
<混錬条件>
混錬温度;180℃
混錬時間;5分
回転数;100RPM
得られた混錬物を、軟らかい間にハサミで細分化し、20℃の水で20秒間冷却した。
<2~4サイクル目>
前回のサイクルで得られた、冷却された断片を、1サイクル目と同じ混錬条件で混錬し、混錬物を得た。その後、得られた混錬物を、1サイクル目と同様に、細分化し、冷却した。
<5サイクル目>
前回のサイクルで得られた、冷却された断片を、1サイクル目と同じ混錬条件で混錬し、混錬物を得た。
〔評価〕
2~5サイクル目の混錬物について、焦げ臭気を官能評価した。官能評価は、3名の評価者が、混練直後の混錬物の臭気を直接的に嗅いで行った。その結果を、表6に示す。
【0113】
【0114】
(実施例8)
活性炭として、40%水分活性炭(フタムラ化学:太閤 CB-W)を用いた以外は、実施例6と同様にして、ペレットを製造した。製造したペレットを用いて、実施例7と同様に、混錬、細分化、冷却のサイクルを5回繰り返した。そして、2~5サイクル目の混錬物について、実施例7と同様にして、焦げ臭気を評価した。その結果を、表6に示す。
【0115】
実施例7及び8の結果から、ペレット化を繰り返した場合であっても、焦げ臭気の発生が効果的に抑制されていることが確認された(表6参照)。すなわち、本発明の低臭気組成物は、リグノセルロース繊維を含む樹脂材の再生に対しても、有効であると言える。なお、樹脂の状況、再生方法、再生回数、配合組成の相違等の諸条件を考慮して、再生材の配合時やリペレット時に新たに、本発明の低臭気組成物を適宜追加することで合目的に調整できることは言うまでもない。
【0116】
〔リグノセルロース繊維と熱可塑性樹脂とVOC低減材の組成物の製造〕
ラジアータパインを主原料とした木材繊維(サーモメカニカルパルプ、或いは、MDF用繊維と呼ばれる)と熱可塑性樹脂、VOC低減材を適宜配合し、上述した本実施態様の製造方法により、実施例9~12、比較例5~11及び参考例2の組成物からなるペレットを製造した。各組成物の製造に用いた材料は後述する。各組成物の製造に用いた材料の配合量は、表7に示す。表7中、PPはポリプロピレンを示し、MAPPはマレイン酸変性ポリプロピレンを示す。実施例9~12、比較例5~11及び参考例2の組成物を製造する際の、各区画の設定温度は、実施例1の組成物を製造したときと同じであり、表1に示すとおりである。
【0117】
〔成形品〕
実施例9~12、比較例5~11及び参考例2のペレットを射出成形機にて、厚み2mm×縦100mm×横100mmの平板状に成形し、成形品を製造した。
【0118】
(実施例9の材料)
樹脂:ポリプロピレン(住友化学:Z101A)
相溶加材:マレイン酸変性ポリプロピレン(理研ビタミン:MG441P)
リグノセルロース繊維
VOC低減材:尿素(富士フィルム和光純薬)
【0119】
(実施例10の材料)
尿素の添加量を変更した点以外は、実施例9と同様である(表7参照)。
【0120】
(実施例11の材料)
VOC低減材を以下のように変更した以外は、実施例9と同様である。
VOC低減材:アジピン酸ジヒドラジド(東京化成)
【0121】
(実施例12の材料)
VOC低減材を以下のように変更した以外は、実施例9と同様である。
VOC低減材:セバシン酸ジヒドラジド(東京化成)
【0122】
(比較例5の材料)
VOC低減材を含まない以外は、実施例9と同様である。
(参考例2の材料)
VOC低減材を含まない点、及びリグノセルロース繊維に代えて、セルロース(富士フィルム和光純薬)を用いた点以外は、実施例1と同様である。
【0123】
(比較例6の材料)
VOC低減材を以下のように変更した以外は、実施例9と同様である。
VOC低減材;BYK-MAX 4200(BYK)
(比較例7の材料)
VOC低減材を以下のように変更した以外は、実施例9と同様である。
VOC低減材;BYK-MAX OR4207(BYK)
【0124】
(比較例8の材料)
VOC低減材を以下のように変更した以外は、実施例9と同様である。
VOC低減材;AS757(Structol)
(比較例9の材料)
VOC低減材を以下のように変更した以外は、実施例9と同様である。
VOC低減材;AS756(Structol)
(比較例10の材料)
VVOC低減材を以下のように変更した以外は、実施例9と同様である。
VOC低減材;ケムキャッチ TP-6900(大塚化学)
(比較例11の材料)
VOC低減材を以下のように変更した以外は、実施例9と同様である。
VOC低減材;エポミンSP-200(日本触媒)
【0125】
〔評価〕
実施例9~12、比較例5~11及び参考例2の成形品を、自然放冷した後に、ポリエチレン製のビニル袋内に密閉保管した。その後、各成形品を試験直前まで袋から取り出すことなく養生し、JASO M902(2018)「自動車部品-内装材-揮発性有機化合物(VOC)放散測定方法」のサンプリングバッグ法に基づいて、65℃で各種VOC放散濃度の計測を行った。その結果を表7に示す。
【0126】
【0127】
なお、室内空気中化学物質の室内濃度指針値について(◆平成31年01月17日薬生発第117001号) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3866&dataType=1&pageNo=1(2022年11月4日確認)によると、13物質が挙げられているが、事前の試験の結果より、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒド以外の放散値は、対策を取らなくても指針値未満であったため、試験結果から省略している。
【0128】
〔結果〕
実施例9及び10の結果より、尿素の添加量が増えるにつれ、アセトアルデヒド放散濃度が徐々に低下することが確認された(表7参照)。
また実施例11及び12の結果より、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド共に、アルデヒド類の放散濃度低減に効果的に作用することが確認された(表7参照)。
比較例5の結果より、VOC低減材を含まない組成では、アルデヒド類の放散濃度は相対的に高いことが分かった(表7参照)。
参考例2の結果より、ヘミセルロースを含まない高純度セルロースでは、アセトアルデヒドの放散濃度は相対的に低く、リグニンやヘミセルロースを含むリグノセルロース繊維がアルデヒド類の発生由来であることが示された(表7参照)。
比較例6、8~11ではアルデヒドの放散濃度低減効果は認められなかった(表7参照)。しかし、比較例11については、混錬や成形過程において、アミン特有の臭気が発生する問題が生じた。
【0129】
以上より、リグニン及びヘミセルロースを含むことを必須とするリグノセルロース繊維、樹脂、VOC低減材としてヒドラジド化合物を含む樹脂組成物とすることで、樹脂内での相対的に不均一なリグノセルロースとVOC低減材の存在、或いは、反応態様であるにも関わらず、効果的にリグノセルロース由来のVOC放散濃度低減を可能とすることが分かった。特筆すべきは、VOC放散濃度が増加するサンプリングバッグ加熱温度65℃においても(また、これまで不明であった)低減の難しいアルデヒド類の放散濃度低減についても極めて効果的であることが示されたことである。
【0130】
〔リグノセルロース繊維と熱可塑性樹脂と臭気低減材とVOC低減材の組成物の製造〕
ラジアータパインを主原料とした木材繊維(サーモメカニカルパルプ、或いは、MDF用繊維と呼ばれる)と熱可塑性樹脂、臭気低減材、VOC低減材を適宜配合し、上述した本実施態様の製造方法により、実施例13の組成物からなるペレットを製造した。組成物の製造に用いた材料は後述する。組成物の製造に用いた材料の配合量は、表8に示す。実施例13の組成物を製造する際の、各区画の設定温度は、実施例1の組成物を製造したときと同じであり、表1に示すとおりである。
【0131】
(実施例13の材料)
樹脂:ポリプロピレン(住友化学:Z101A)
相溶加材:マレイン酸変性ポリプロピレン(理研ビタミン:MG441P)
臭気低減材:活性炭(フタムラ化学:太閤 CB-W)、水酸化マグネシウム(関東化学)
VOC低減材:アジピン酸ジヒドラジド(東京化成)
【0132】
〔評価〕
実施例13のペレットについて、上述の方法により、焦げ臭気を評価した。結果を表8に示す。また実施例13のペレットについて、上述の方法により、VOC放散濃度を計測した。結果を表8に示す。
【0133】
【0134】
実施例13の結果より、臭気低減材とVOC低減材を併用しても負の効果はなく、焦げ臭気及びVOC放散量共に、良好に低減させることができることが分かる(表8参照)。