(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113638
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ポリアミド酸、ポリアミド酸溶液、ポリイミド、ポリイミド基板、電子デバイス、ならびにポリイミド基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/14 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
C08G73/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109476
(22)【出願日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2023018144
(32)【優先日】2023-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】滝 隆之介
(72)【発明者】
【氏名】中山 博文
(72)【発明者】
【氏名】堀井 越生
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PC016
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA47
4J043SA85
4J043SB01
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4J043TB01
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4J043UA042
4J043UA121
4J043UA132
4J043UB402
4J043YA06
4J043ZA35
4J043ZB50
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、高耐熱性、低熱膨張性、かつ、支持体であるガラスと適度な密着性を示すポリイミド、およびその前駆体としてのポリアミド酸、ポリイミド基板、電子デバイスの提供を目的とする。また、ポリイミド基板の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】式1で表される構成単位、および式1における芳香族ジアミンの構成単位をシロキサン構造含有ジアミン構成単位に置き換えた構造を含有するポリアミド酸およびそれから得られるポリイミド、ポリイミド基板、電子デバイス、ならびにポリイミド基板の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式1で表される構成単位、および一般式2で表される構成単位を含有し、テトラカルボン酸二無水物基の総モル数xと、p-フェニレンジアミン残基の総モル数yとの比y/xが、0.9920~1.0100であり、一般式2のシロキサン構造含有ジアミンの総モル数zとの比z/xが、0.0005~0.0096であるポリアミド酸(但し、一般式2のR
1およびR
2はそれぞれ独立に2価の炭化水素基であり;nは1~5の整数である。)
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記一般式2で表される構成単位が式2Bで表される構成単位である、請求項1に記載のポリアミド酸。
【化3】
【請求項3】
一般式1と一般式2の組成比(一般式2)/〔(一般式1)+(一般式2)〕が、0.0003~0.0095であることを特徴とする請求項2に記載のポリアミド酸。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のポリアミド酸と有機溶媒とを含有するポリアミド酸溶液。
【請求項5】
請求項4に記載のポリアミド酸溶液を支持体上に塗布し、前記有機溶媒の除去および前記ポリアミド酸のイミド化を行い、前記支持体上に密着積層されたポリイミド膜を形成する、ポリイミド基板の製造方法。
【請求項6】
前記支持体が、ガラス基板、またはガラス上へ二酸化ケイ素、窒化ケイ素およびアモルファスシリコンから選択される1種以上の層を形成した基板である、請求項5に記載のポリイミド基板の製造方法。
【請求項7】
一般式Iで表される構成単位、および一般式IIで表される構成単位を含有し、テトラカルボン酸二無水物基の総モル数xと、p-フェニレンジアミン残基の総モル数yとの比y/xが、0.9920~1.0100であり、一般式IIのシロキサン構造含有ジアミンの総モル数zとの比z/xが、0.0005~0.0096であるポリイミド。(但し、一般式IIのR
1およびR
2はそれぞれ独立に2価の炭化水素基であり;nは1~5の整数である。)
【化4】
【化5】
【請求項8】
前記一般IIで表される構成単位が式IIBで表される構成単位である、請求項7に記載のポリイミド。
【化6】
【請求項9】
一般式Iと一般式IIの組成比(一般式II)/〔(一般式I)+(一般式II)〕が、0.0003~0.0095であることを特徴とする請求項8に記載のポリイミド。
【請求項10】
請求項7~9のいずれかに記載のポリイミドを含むポリイミド基板。
【請求項11】
ガラス基板、またはガラス基板上へ二酸化ケイ素、窒化ケイ素、およびアモルファスシリコンから選択される1種以上の層を形成した基板とポリイミドフィルムとのピール強度が0.05N/cm以上0.80N/cm以下である請求項10に記載のポリイミド基板。
【請求項12】
100~400℃における線熱膨張係数が20ppm/K以下である、請求項10に記載のポリイミド基板。
【請求項13】
請求項10に記載のポリイミド基板上に電極および/または電子素子を備える電子デバイス。
【請求項14】
請求項11に記載のポリイミド基板上に電極および/または電子素子を備える電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸、ポリアミド酸溶液、ポリイミド、ポリイミド基板、電子デバイス、ならびにポリイミド基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ、タッチパネル、太陽電池等の電子デバイスにおいて、薄型化、軽量化、およびフレキシブル化が要求されており、ガラス基板に代えて樹脂フィルム基板の利用が検討されている。
【0003】
電子デバイスの製造プロセスでは、基板上に、薄膜トランジスタ(TFT)等の半導体等や電極等の電子素子が形成される。これらの素子の形成は高温プロセスを要するため、樹脂フィルム基板に高い耐熱性が要求される。基板上に設けられる素子は一般に無機材料からなり、基板の線熱膨張係数と素子を構成する無機材料の線熱膨張係数が大きく異なると、素子形成界面の応力等に起因して、基板の反りや素子の破壊が生じる場合がある。そのため、樹脂フィルム基板は、素子を構成する無機材料と同等の線熱膨張係数を有することが望まれる。また電子デバイスは、支持体であるガラスへ樹脂フィルムを形成し、その上に絶縁層である酸化ケイ素や窒化ケイ素を形成後、樹脂フィルムを作製し、無機材料の素子や有機ELを積層して形成後、支持体のガラスと樹脂フィルムを剥離することで作製する。各層を形成する際に、樹脂フィルムとガラスや絶縁層の間で剥がれが起こると、緻密な回路を形成できず、電子デバイスとしての機能が発現しない。さらに支持体ガラスと樹脂フィルムの剥離において、密着性が高すぎる場合、剥がす際にフィルムがカールし上層の電子素子を破壊する問題が発生する。上記の理由により、電子デバイス用樹脂フィルム基板材料には、高耐熱、低熱膨張、ガラスおよび絶縁層への適度な密着性が求められる。
【0004】
ガラスに匹敵する高耐熱性、低熱膨張、および高透明性を実現可能な樹脂材料として、耐熱性に優れるポリイミド系材料が検討されている。また、ポリイミド前駆体としてのポリアミド酸にシリコーンオイルを添加してイミド化を行うことにより、得られるポリイミドフィルムが基材への高い密着性を示すことが知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2017/159538
【特許文献2】特開2015-178628
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリイミドを電子基板材料に適用するためには、高耐熱性、低熱膨張、素子形成プロセスにおいて支持体であるガラスや絶縁層との適度の接着性を示し、かつ素子形成後にガラス支持体から容易に剥離できることが求められる。しかしながら、上記特許文献1~2に開示のポリイミド材料は、これらすべての要求特性を同時に満足することはできない。
【0007】
上記に鑑みて、本発明は、高耐熱性、低熱膨張性、かつ、支持体であるガラスと適度な密着性を示すポリイミド、およびその前駆体としてのポリアミド酸、ポリイミド基板、電子デバイスの提供を目的とする。また、ポリイミド基板の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、ポリマー骨格中に剛直な構造を導入し、さらにシロキサン結合を有するモノマー成分を適量導入することにより、上記特性を満足するポリイミド、およびその前駆体としてのポリアミド酸が得られることを見出した。本発明は、以下の構成をなす。
【0009】
1).一般式1で表される構成単位、および一般式2で表される構成単位を含有し、テトラカルボン酸二無水物基の総モル数xと、p-フェニレンジアミン残基の総モル数yとの比y/xが、0.9920~1.0100であり、一般式2のシロキサン構造含有ジアミンの総モル数zとの比z/xが、0.0005~0.0096であるポリアミド酸。(但し、一般式2のR1およびR2はそれぞれ独立に2価の炭化水素基であり;nは1~5の整数である。)
【0010】
【0011】
【化2】
2).前記一般式2で表される構成単位が式2Bで表される構成単位である、1)に記載のポリアミド酸。
【0012】
【化3】
3).一般式1と一般式2の組成比(一般式2)/〔(一般式1)+(一般式2)〕が、0.0003~0.0095であることを特徴とする1)または2)に記載のポリアミド酸。
【0013】
4).1)~3)のいずれか1項に記載のポリアミド酸と有機溶媒とを含有するポリアミド酸溶液。
【0014】
5).4)に記載のポリアミド酸溶液を支持体上に塗布し、前記有機溶媒の除去および前記ポリアミド酸のイミド化を行い、前記支持体上に密着積層されたポリイミド膜を形成する、ポリイミド基板の製造方法。
【0015】
6).前記支持体が、ガラス基板、またはガラス上へ二酸化ケイ素、窒化ケイ素およびアモルファスシリコンから選択される1種以上の層を形成した基板である、5)に記載のポリイミド基板の製造方法。
【0016】
7).一般式Iで表される構成単位、および一般式IIで表される構成単位を含有し、テトラカルボン酸二無水物基の総モル数xと、p-フェニレンジアミン残基の総モル数yとの比y/xが、0.9920~1.0100であり、一般式IIのシロキサン構造含有ジアミンの総モル数zとの比z/xが、0.0005~0.0096であるポリイミド。(但し、一般式IIのR1およびR2はそれぞれ独立に2価の炭化水素基であり;nは1~5の整数である。)
【0017】
【0018】
【化5】
8).前記一般IIで表される構成単位が式IIBで表される構成単位である、7)に記載のポリイミド。
【0019】
【化6】
9).一般式Iと一般式IIの組成比(一般式II)/〔(一般式I)+(一般式II)〕が、0.0003~0.0095であることを特徴とする7)または8)に記載のポリイミド。
【0020】
10).7)~9)いずれかに記載のポリイミドを含むポリイミド基板。
【0021】
11).ガラス基板、またはガラス基板上へ二酸化ケイ素、窒化ケイ素、およびアモルファスシリコンから選択される1種以上の層を形成した基板とポリイミドフィルムとのピール強度が0.05N/cm以上0.80N/cm以下である10)に記載のポリイミド基板。
【0022】
12).100~400℃における線熱膨張係数が20ppm/K以下である、10)または11)に記載のポリイミド基板。
【0023】
13).10)~12)のいずれかに記載のポリイミド基板上に電極および/または電子素子を備える電子デバイス。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリアミド酸から得られるポリイミドは、高耐熱性、低熱膨張性に加えて、ガラス等の支持体や無機絶縁層との適度な密着性を有する。そのため、バッチプロセスにおいて支持体への適度な密着性が要求される電子デバイス用基板材料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[ポリアミド酸およびポリイミドの構造]
本発明のポリアミド酸は、以下の一般式1で表される構成単位および一般式2で表される構成単位を含み、テトラカルボン酸二無水物基の総モル数xと、p-フェニレンジアミン残基の総モル数yとの比y/xが、0.9920~1.0100であり、一般式2のシロキサン構造含有ジアミンの総モル数zとの比z/xが、0.0005~0.0096であるポリアミド酸である。(但し、一般式2のR1およびR2はそれぞれ独立に2価の炭化水素基であり;nは1~5の整数である。)
【0026】
【0027】
【化8】
本発明のポリイミドは、以下の一般式Iで表される構成単位、および一般式IIで表される構成単位を含み、テトラカルボン酸二無水物基の総モル数xと、p-フェニレンジアミン残基の総モル数yとの比y/xが、0.9920~1.0100であり、一般式IIのシロキサン構造含有ジアミンの総モル数zとの比z/xが、0.0005~0.0096であるポリイミドである。(但し、一般式IIのR
1およびR
2はそれぞれ独立に2価の炭化水素基であり;nは1~5の整数である。)
【0028】
【0029】
【化10】
前記一般式1ならびに一般式2のポリアミド酸、および一般式I、一般式IIのポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物である3,3’,4,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の残基から形成され、また前記一般式1のポリアミド酸は、芳香族ジアミン残基であるp―フェニレンジアミンより形成される。
【0030】
一般式2中のR1およびR2は、それぞれ独立に2価の炭化水素基であり、nは1~5の整数である。R1およびR2は、それぞれ独立に、メチレン基、エチレン基、またはプロピレン基であることが好ましく、中でもプロピレン基であることが特に好ましい。nは1~3であることがより好ましく、1であることが最も好ましい。
【0031】
上記一般式1の構成単位および上記一般式2の構成単位を有するポリアミド酸をイミド化することにより、一般式Iの構成単位および一般式IIの構成単位を有するポリイミドが得られる。この構造を有するポリイミドは、ガラスとの密着性に優れるため、樹脂フィルム基板の形成、およびフィルム基板上への素子の形成プロセスへの利用に適している。
【0032】
ポリアミド酸の重合時の反応性に優れ、かつポリイミドが低熱膨張性を示すことから、上記一般式2および上記一般式IIにおけるR1およびR2は、それぞれ独立に、メチレン基、エチレン基、またはプロピレン基であることが好ましく、中でもプロピレン基であることが特に好ましい。ポリアミド酸が高い溶解性を示し、かつポリイミドフィルムが高透明性を示すことから、上記一般式2および上記一般式IIにおけるnは、1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1であることが最も好ましい。
【0033】
すなわち、一般式2の構成単位は、下記の一般式2Bで表されるアミド酸構成単位であることが好ましく、一般式IIの構成単位は、下記の一般式IIBで表されるイミド構成単位であることが好ましい。
【0034】
【0035】
【化12】
ポリイミドフィルムに、高耐熱性、低熱膨張性、およびガラスや無機絶縁層との適度な密着性を持たせる観点から、前駆体であるポリアミド酸中の一般式1および一般式2のテトラカルボン酸二無水物残基の総モル数xと、一般式1のp-フェニレンジアミン残基の総モル数yとの比y/xは、0.9920~1.0100の範囲である。また一般式2のシロキサン構造含有ジアミンの総モル数zとxの比z/xが、0.0005~0.0096の範囲であり、y/xが、0.9930~1.0000、z/xが0.0010~0.0080であることが好ましい。
【0036】
本発明のポリアミド酸は、高耐熱性、およびガラスや無機絶縁層との適度な密着性を持たせる観点で、一般式1と一般式2の組成比(一般式2)/〔(一般式1)+(一般式2)〕が、0.0003~0.0095であることが好ましく、0.0005~0.0080であることがより好ましい。
【0037】
また、本発明のポリイミドは、同様に高耐熱性、およびガラスや無機絶縁層との適度な密着性を持たせる観点で、一般式Iと一般式IIの組成比(一般式II)/〔(一般式I)+(一般式II)〕が、0.0003~0.0095であることが好ましく、0.0005~0.0080であることがより好ましい。
【0038】
本発明のポリアミド酸およびポリイミドは、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレンオキシド換算の重量平均分子量が、10,000~500,000であることが好ましく、20,000~300,000あることがより好ましく、30,000~200,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が10,000以上であれば、ポリアミド酸およびポリイミドを塗膜またはフィルムとすることが可能となる。一方、重量平均分子量が500,000以下であると、溶媒に対して十分な溶解性を示すため、表面が平滑で膜厚が均一な塗膜またはフィルムが得られやすい。
【0039】
[ポリアミド酸およびポリイミドの合成]
上記の一般式Iおよび一般式IIを含むポリイミドは、公知の方法により得られる。例えば、ポリイミドは、ポリアミド酸やポリイミドエステル等の前躯体を経由する合成法、および前躯体を経由しない合成法により合成できる。モノマーの入手性および重合の簡便さから、前駆体としてのポリアミド酸のイミド化により、ポリイミドを合成することが好ましい。
【0040】
上記の一般式1および一般式2を含むポリアミド酸は、有機溶媒中でジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させることにより得られる。例えば、ジアミンを、有機溶媒中に溶解またはスラリー状に分散させて、ジアミン溶液とし、テトラカルボン酸二無水物を、有機溶媒に溶解もしくはスラリー状に分散させた溶液または固体の状態で、上記ジアミン溶液中に添加すればよい。テトラカルボン酸二無水物溶液中に、ジアミンを添加してもよい。ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の溶解および反応は、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。
【0041】
ポリアミド酸の合成反応に使用する有機溶媒は特に限定されない。有機溶媒は、使用するテトラカルボン酸二無水物およびジアミン類を溶解可能であり、かつ重合により生成するポリアミド酸を溶解可能であるものが好ましい。有機溶媒の具体例としては、テトラメチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア等のウレア系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォン等のスルホキシドまたはスルホン系溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-ブチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N―ジメチルプロパンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、1,3-ジメチルイミダゾリノン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;γ―ブチロラクトン等のエステル系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;フェノール、クレゾール等のフェノール系溶媒;シクロペンタノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。必要に応じて2種以上の有機溶媒を組合せて用いてもよい。ポリアミド酸の溶解性および反応性を高めるために、ポリアミド酸の合成に使用する有機溶媒は、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒およびエーテル系溶媒より選択されることが好ましく、特にDMF、DMAC、NMP等のアミド系溶媒が好ましい。
【0042】
ポリアミド酸溶液は、各種の添加剤含んでいてもよい。例えば、ポリアミド酸溶液は、溶液の消泡やポリイミドフィルム表面の平滑性向上等を目的として、表面調整剤を含有してもよい。表面調整剤としては、ポリアミド酸およびポリイミドとの適度な相溶性を示し、消泡性を有するものを選択すればよい。高温加熱時に有害物が発生し難いことから、アクリル系化合物、フッ素系化合物、シリコーン系化合物等が好ましく、リコート性に優れることから、アクリル系化合物が特に好ましい。
アクリル系化合物から構成される表面調整剤の具体例としては、DISPARLON LF-1980、LF-1983、LF-1985(楠本化成株式会社製)、BYK-3440、BYK-3441、BYK-350、BYK-361N、(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等があげられる。
【0043】
表面調整剤の添加量はポリアミド酸100重量部に対して、0.0001~0.1重量部が好ましく、0.001~0.1重量部がより好ましい。添加量が0.0001重量部以上であれば、ポリイミドフィルムの表面の平滑性改善に十分な効果を発揮し得る。添加量が0.1重量部以下であれば、ポリイミドフィルムに濁りが発生し難い。表面調整剤は、そのままポリアミド酸溶液に添加してもよく、溶媒で希釈してから添加してもよい。
【0044】
ポリアミド酸の合成反応の温度条件は、特に限定されない。ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との反応が進行するにつれてポリアミド酸が生成し、反応液の粘度が上昇する。重合反応が進行しはじめた後は、ポリアミド酸の解重合による分子量低下を抑制するために、温度を80℃以下とすることが好ましく、20℃~50℃とすることがより好ましい。
【0045】
ポリアミド酸の分子量(粘度)の調整にあたっては、解重合反応(アミド結合の加水分解)を利用しても良い。溶媒中の水を使用してポリアミド酸の加水分解反応を進行させて粘度を調整し、反応にあたってはポリアミド酸の重合よりも高温で実施することが好ましく、溶液温度は例えば70~100℃であり、好ましくは80~95℃である。粘度調整後は、溶液を冷却することで解重合反応を終了する。この際溶液温度を30℃以下とすることが好ましい。
【0046】
ポリアミド酸の分子量(粘度)を調整する他の方法としては、テトラカルボン酸二無水物である3,3’,4,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の酸無水物基を1つまたは2つ加水分解した、ジカルボン酸基を有するモノマーを、ポリアミド酸の合成反応時に任意の割合添加することで分子量を調整しても良い。
【0047】
有機溶媒中でジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを重合することにより、ポリアミド酸と有機溶媒とを含むポリアミド酸溶液が得られる。この重合溶液は、そのままポリアミド酸溶液として使用できる。また、重合溶液から溶媒の一部を除去したり、溶媒を添加することにより、ポリアミド酸の濃度および溶液の粘度を調整してもよい。添加する溶媒は、ポリアミド酸の重合に用いた溶媒と異なっていてもよい。また、重合溶液から溶媒を除去して得られた固体のポリアミド酸樹脂を溶媒に溶解してポリアミド酸溶液を調製してもよい。ポリアミド酸溶液の有機溶媒としては、ポリアミド酸の溶解性が高いものが好ましく、ポリアミド酸の合成に使用する有機溶媒として先に例示の有機溶媒を使用できる。中でも、DMF、DMAC、NMP等のアミド系溶媒が好ましい。
【0048】
ポリアミド酸を脱水閉環することにより、イミド化を行うことができる。脱水閉環は、共沸溶媒を用いた共沸法、熱的手法または化学的手法により行われる。溶液の状態でイミド化を行う場合は、イミド化剤および/または脱水触媒をポリアミド酸溶液に添加して、化学的イミド化を行うことが好ましい。イミド化剤は特に限定されないが、3級アミンを用いることが好ましく、中でも複素環式の3級アミンが好ましい。複素環式の3級アミンとしては、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール類等が挙げられる。脱水触媒としては、無水酢酸、プロピオン酸無水物、n-酪酸無水物、安息香酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物、γ―バレロラクトン等が挙げられる。
【0049】
ポリアミド酸溶液から溶媒を除去してイミド化を行う場合は、加熱により脱水閉環を行う熱イミド化が好ましい。ポリアミド酸を加熱する方法は特に制限されないが、例えば、ガラス板、金属板、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の支持体に、ポリアミド酸溶液を塗布した後、80℃~500℃の範囲内で熱処理を行えばよい。加熱時間は、脱水閉環を行うポリアミド酸溶液の処理量や加熱温度により異なるが、一般的には、処理温度が最高温度に達してから1分~5時間加熱を行うことが好ましい。ポリアミド酸溶液にイミド化剤および/または脱水触媒を加えて、上記のような方法で加熱してイミド化を行ってもよい。
【0050】
ポリアミド酸からポリイミドへのイミド化は、1~100%の任意の割合で行うことができ、一部がイミド化されたポリアミド酸を合成してもよい。ポリアミド酸からポリイミドへのイミド化が進行すると、有機溶媒への溶解性や溶液の粘度が変化する傾向がある。また、特定のイミド化率でイミド化を停止することは一般に容易ではない。溶液の塗布および乾燥によりフィルムを形成する場合は、溶液の粘度やチクソトロピーが膜厚の均一性に影響を及ぼす。そのため、プロセスの安定性を考慮すると、ポリアミド酸にはイミド化剤および脱水触媒を添加せずに、イミド化率が略ゼロの状態で支持体上への塗布を行い、支持体上での加熱により溶媒の除去およびイミド化を行うことが好ましい。
【0051】
[ポリアミド酸およびポリイミドの用途]
ポリアミド酸およびポリイミドは、そのまま製品や部材の作製に用いてもよい。ポリアミド酸およびポリイミドに、熱硬化性成分、光硬化性成分、非重合性バインダー樹脂、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、シランカップリング剤、微粒子、増感剤等を添加して組成物としてもよい。これらの任意成分の配合割合は、ポリイミドの固形分全体に対し、0.1重量%~95重量%の範囲であることが好ましい。なお、組成物の固形分とは有機溶媒以外の全成分であり、液状のモノマー成分も固形分に含まれる。
【0052】
本発明のポリイミドは、耐熱性に優れるため、ガラス代替用途等の透明基板として使用可能であり、例えば、TFT基板、電極基板等の電子デバイス用基板への適用が期待できる。電子デバイスの中でも、液晶表示装置、有機EL素子、電子ペーパー、タッチパネル等の光透過性を必要とするデバイス用の基板としての使用が好ましい。本発明のポリイミドは、カラーフィルター、反射防止膜、ホログラム等の光学部材または建築材料や構造物の材料としても利用できる。本発明のポリイミドの表面に、金属酸化物や透明電極等の各種無機薄膜を形成していてもよい。無機薄膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法およびイオンプレーティング法等のPVD法、ならびにCVD法等のドライプロセスにより形成される。
【0053】
[ポリイミド基板および電子デバイスの作製]
本発明のポリイミドは、耐熱性、低熱膨張性、および透明性に加えて、支持体との密着性が良いことから、バッチプロセスで製造される電子デバイスの基板として好ましく用いられる。バッチプロセスでは、支持体上にポリイミド膜(基板)を形成し、その上に素子を形成した後、素子が形成されたポリイミド基板を支持体から剥離することにより電子デバイスが得られる。
【0054】
支持体上にポリアミド酸溶液を塗布し、加熱により、有機溶媒の除去およびポリアミド酸のイミド化を行い、支持体上に密着積層されたポリイミド膜(ポリイミド基板)が得られる。ポリイミド基板の厚みは、1~200μm程度であり、5~100μm程度が好ましい。
【0055】
ポリアミド酸溶液を塗布する支持体としては、ガラス基板;SUS等の金属基板または金属ベルト;ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース等の樹脂フィルム等が挙げられる。現行のバッチタイプのデバイス製造プロセスに適応させるためには、支持体としてガラス基板を用いることが好ましい。支持体が、ガラス基板、またはガラス上へ二酸化ケイ素、または窒化ケイ素およびアモルファスシリコンから選択される1種以上の層を形成した基板であることが特に好ましい。
【0056】
ガラス等の支持体にポリアミド酸溶液を塗布し、加熱すると、溶媒の蒸発とともにポリアミド酸のイミド化が始まり、有機溶媒およびイミド化(ポリアミド酸の脱水)により生成した水がポリアミド酸溶液から揮発する。このとき、一部の水および/または有機溶媒が揮発せずに、支持体とイミド化中の樹脂膜との間に滞留し、支持体と樹脂膜との界面での剥離の原因となる。支持体と樹脂膜との界面に滞留した水および/または有機溶媒は、その後、高温で加熱する工程において、ポリイミド膜を透過して排出され、剥離または浮きが生じた部分に気泡が残存する。このような気泡が生じると、ポリイミド基板上に素子を形成する際に不具合を生じる。特に、薄型化または小型化されたデバイスでは、細かい剥離または浮きでも、素子等の形成または実装に大きな影響を与える。
【0057】
シロキサン構造を有する本発明のポリアミド酸およびポリイミドは、ガラスとの密着性が高いため、支持体上での溶媒の乾燥およびイミド化の際に、ガラス支持体と樹脂膜との界面への有機溶媒や水の滞留に起因する浮きや剥離が生じ難い。そのため、支持体上に密着積層されたポリイミド基板上への素子の形成や実装を正確に実施できる。また、シロキサン構造(一般式II)の比率を調整することにより、素子を形成後のポリイミド基板の支持体からの剥離を容易に実施できる。
【0058】
ガラス基板、またはガラス上へ二酸化ケイ素、または窒化ケイ素およびアモルファスシリコンから選択される1種以上の層を形成した基板上に密着積層されたポリイミド膜(ポリイミド基板)は、支持体からの90°ピール強度が、0.05~0.80N/cmであることが好ましく、0.08~0.60N/cmであることがより好ましく、0.10~0.40N/cmであることがさらに好ましい。上記の密着性を有する場合、素子の形成および実装プロセスにおいて剥離が生じ難く、かつ素子の形成および実装後の支持体からの剥離が容易である。90°ピール強度は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0059】
本発明のポリイミドを含むポリイミド基板は、線熱膨張が小さく、加熱前後の寸法安定性に優れる。ポリイミド膜の線熱膨張係数は、20ppm/K以下が好ましく、10ppm/K以下がより好ましい。線熱膨張係数は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。本発明のポリイミドは、膜厚10μmの膜を形成した際の線熱膨張係数が上記範囲であることが好ましい。
【0060】
本発明のポリイミド膜は、耐熱性に優れ、1%重量減少温度は、560℃以上が好ましく、565℃以上が特に好ましい。1%重量減少温度は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。本発明のポリイミドは、膜厚10μmの膜を形成した際の線熱膨張係数が上記範囲であることが好ましい。
【実施例0061】
[ポリアミド酸溶液の調製]
<実施例1>
ステンレス製撹拌翼を備える撹拌機および窒素導入管を取り付けた500mLのガラス製セパラブルフラスコに、p―フェニレンジアミン(PDA)7.99g、およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)157.2gを仕込み、室温(23℃)で攪拌して溶解させた。PDAの溶解を目視で確認した後、NMPにて1重量%へ希釈した1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(PAM-E)を12.89g添加し、さらに撹拌した。この溶液に、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)21.89gを加え、90℃で6時間、加熱攪拌して、ポリアミド酸溶液を得た。この反応溶液におけるジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は、反応溶液全量に対して15重量%であった。
【0062】
<実施例2>
PDAの仕込み量を6.41g、NMPの仕込み量を127.0g、1重量%のPAM-Eの仕込み量を7.40g、BPDAの仕込み量を17.51gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を得た。
【0063】
<実施例3>
PDAの仕込み量を6.42g、NMPの仕込み量を131.6g、1重量%のPAM-Eの仕込み量を4.41g、BPDAの仕込み量を17.53gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を得た。
【0064】
<実施例4>
PDAの仕込み量を6.44g、NMPの仕込み量を134.5g、1重量%のPAM-Eの仕込み量を1.50g、BPDAの仕込み量を17.54gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を得た。
【0065】
<実施例5>
PDAの仕込み量を4.84g、NMPの仕込み量を129.4g、1重量%のPAM-Eの仕込み量を0.61g、BPDAの仕込み量を13.16gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を得た。この反応溶液におけるジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は、反応溶液全量に対して12重量%であった。
【0066】
<実施例6>
PDAの仕込み量を8.01g、NMPの仕込み量を155.3g、1重量%のPAM-Eの仕込み量を14.82g、BPDAの仕込み量を21.85gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を得た。
【0067】
<実施例7>
PDAの仕込み量を6.43g、NMPの仕込み量を128.7g、1重量%のPAM-Eの仕込み量を7.39g、BPDAの仕込み量を17.49gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を得た。
【0068】
<実施例8>
PDAの仕込み量を7.96g、NMPの仕込み量を152.7g、1重量%のPAM-Eの仕込み量を17.49g、BPDAの仕込み量を21.86gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を得た。
【0069】
<実施例9>
PDAの仕込み量を7.97g、NMPの仕込み量を153.6g、1重量%のPAM-Eの仕込み量を16.54g、BPDAの仕込み量を21.86gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を得た。
【0070】
<比較例1>
PDAの仕込み量を6.36g、NMPの仕込み量を121.2g、1重量%のPAM-Eの仕込み量を14.79g、BPDAの仕込み量を17.48gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を得た。
【0071】
<比較例2>
PDAの仕込み量を4.83g、NMPの仕込み量を170.0g、BPDAの仕込み量を13.16gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を得た。この反応溶液におけるジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は、反応溶液全量に対して9.6重量%であった。
【0072】
[ポリイミド膜の作製]
上記の実施例1~4、実施例6~7および比較例1で得られたポリアミド酸溶液を、固形分濃度が11重量%、粘度40P になるようにNMPで希釈した。実施例5は希釈せず、粘度は60Pであった。比較例2は希釈せず粘度は15Pであった。またそれぞれのポリアミド酸溶液へ表面調整剤としてBYK-361Nを添加した。
ポリアミド酸溶液を、バーコーターを用いて、100mm×100mmの無アルカリガラス板(コーニング社製 イーグルXG、厚さ0.7mm)および100mm×100mmの無アルカリガラス板へSiOx膜を形成した基板上に、乾燥後の厚みが10μmになるように流延し、熱風オーブン内で120℃にて30分乾燥して、基板上にポリアミド酸の塗膜を形成した。基板とポリアミド酸塗膜との積層体を、窒素雰囲気下で、20℃から450℃まで7℃/分で昇温した後、450℃で10分加熱して、塗膜のイミド化を行い、ポリイミド膜とガラスとの積層体を得た。また、無アルカリガラスの代わりに、シリコン酸化膜を表面に形成したガラス基板(SiOx+ガラス基板)に変え、同様にポリイミド膜とガラスとの積層体を得た。
【0073】
比較例2では、基板とポリイミド膜との間に多数の気泡が確認されたため、剥離後のフィルムのカールの有無の観察を行わなかった。比較例2以外では、ポリイミド膜の剥離による気泡は確認されず、剥離後のフィルムのカールの有無の観察を行なった。
【0074】
[ポリイミド膜の評価]
<ピール強度>
ガラス板とポリイミド膜との積層体を、23℃55%RHの環境下で24時間静置して調湿した後、ASTM D1876-01規格に従い、90°ピール強度を測定した。ポリイミド膜にカッターナイフにて10mm幅の切り込みを入れ、東洋精機製引張試験機(ストログラフVES1D)を用いて、23℃55%RH条件下、引張速度50mm/分、剥離長さ50mmにて90°ピール試験を実施し、剥離強度の平均値をピール強度とした。
【0075】
<線熱膨張係数(CTE)>
線熱膨張係数の測定は、日立ハイテクサイエンス社製TMA/SS7100を用いて(サンプルサイズ:幅3mm×長さ10mm;膜厚を測定し、フィルムの断面積を算出)、荷重29.4mNとし、10℃/分で10℃から550℃まで一旦昇温させた後、40℃/分で降温させ、降温時の100~400℃における単位温度あたりの試料の歪の変化量から線膨張係数を求めた。
【0076】
<1%重量減少温度(Td1)>
1%重量減少温度の測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TG/DTA7200を用いて、サンプルを約10mg天秤へのせて測定を実施、測定条件は120℃で10分間脱水後、10℃/分で650℃まで昇温させる、その際に試料重量が1重量%減少した時点の温度を測定した。
【0077】
<剥離後のフィルム(のカールの有無)>
ポリイミド膜とガラスとの積層体から、ポリイミド膜を剥がし、剥がしたポリイミド膜のカールの有無を観察した。
【0078】
実施例および比較例のポリアミド酸重合時のモノマー仕込み量(酸二無水物およびジアミンのそれぞれのモル比、製膜後のポリイミド膜の基板からの剥離の有無、ポリイミド膜のガラス板およびガラス上へSiOx膜を形成した基板からのピール強度、ならびにポリイミド膜の特性の評価結果を、表1に示す。
【0079】
【0080】
ジアミンであるPAM-Eを未添加の比較例2については、ガラス板上への塗布後の熱イミド化の際にガラス板とポリイミド膜との間に多数の気泡が発生し、ガラス板から剥離していた。実施例1~7および比較例1は熱イミド化後、ガラスからの剥離はなかった。
PAM-Eを添加した実施例1~9、および比較例1については、ガラス基板およびガラス上へSiOx膜を形成した基板のピール強度は、PAM-Eの添加量増加に伴い向上することを確認し、基板との密着性に優れていた。剥離したフィルムを確認すると実施例1~9はカールせず、比較例1はカールした。電子素子の作製をする上での適度な密着性と剥離時にカールを引き起こさない観点から、PAM-Eの添加量は、BPDAとのmоl比から、z/xは0.0005~0.0096が好ましい。
【0081】
実施例1~9および比較例1で得られたポリイミド膜の線熱膨張係数(CTE)は低く、寸法安定性に優れていた。
【0082】
実施例1~9および比較例1で得られたポリイミド膜の1%重量減少温度は、PAM-Eの増加に伴って低下しており、565℃以上の耐熱性を考えた場合、PAM-Eの添加量は、BPDAとのmоl比から、z/xは0.0005~0.0096が好ましく、基板材料としての利用に期待できる。