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特開2024-11366レーザ加工機及びレーザ加工機の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011366
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】レーザ加工機及びレーザ加工機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20240118BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
B23K26/00 Q
B23K26/03
B23K26/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113304
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】橋本 将吾
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AA00
4E168AD07
4E168CA01
4E168CA06
4E168CA11
4E168CB03
4E168CB15
4E168CB22
4E168DA02
4E168EA17
4E168FB03
4E168FB04
4E168KA15
(57)【要約】
【課題】ワークの加工効率が低下するのを抑制することが可能なレーザ加工機及びレーザ加工機の制御方法を提供する。
【解決手段】レーザヘッド4から出射するレーザ光によりワークWを加工するレーザ加工機1であって、ワークWの加工時にワークWから発せられた光をレーザヘッド4内におけるレーザ光通過空間の一部を介して検出することでワークWを撮像する撮像部27を有する観察光学系5と、観察光学系5の温度Tを検出する温度検出部6と、温度検出部6により急峻な温度変化ΔTが観測された後、温度Tが安定した状態に移行した段階で、観察光学系5の調整を行うべきタイミングであることを判定する判定部13と、を備えたことを特徴とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザヘッドから出射するレーザ光によりワークを加工するレーザ加工機であって、
前記ワークの加工時に前記ワークから発せられた光を前記レーザヘッド内におけるレーザ光通過空間の一部を介して検出することで前記ワークを撮像する撮像部を有する観察光学系と、
前記観察光学系の温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部により急峻な温度変化が観測された後、前記温度が安定した状態に移行した段階で、前記観察光学系の調整を行うべきタイミングであることを判定する判定部と、
を備えたことを特徴とするレーザ加工機。
【請求項2】
前記判定部により前記観察光学系の調整を行うべきタイミングであることが判定された場合、その旨を利用者に通知する通知部を備える、
請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項3】
前記判定部により前記観察光学系の調整を行うべきタイミングであることが判定された場合、前記観察光学系の調整を行う調整部を備える、
請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項4】
前記調整部は、前記観察光学系の調整として、前記レーザ光の出力の中心位置と、前記撮像部により撮像される画像の中心位置との位置合わせを実行する、
請求項3に記載のレーザ加工機。
【請求項5】
前記判定部は、前記温度検出部により検出された前記温度の単位時間あたりの温度変化が、第1の範囲を逸脱するものになった場合に、前記急峻な温度変化が観測されたと判定する、
請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項6】
前記判定部は、前記急峻な温度変化が観測されたと判定した後に前記単位時間あたりの温度変化が所定時間にわたって第2の範囲に収まっていた場合に、前記温度が安定した状態に移行したと判定する、
請求項5に記載のレーザ加工機。
【請求項7】
前記温度検出部は、前記観察光学系内において設置箇所が異なる複数の温度センサを有し、
前記判定部は、各温度センサで検出された測定値の差が第1設定値を超えた場合には、前記急峻な温度変化が観測されたと判定し、前記急峻な温度変化が観測されたと判定した後に前記測定値の差が所定時間にわたって前記第1設定値より小さい第2設定値以下に収まった場合に、前記温度が安定した状態に移行したと判定する、
請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項8】
前記判定部は、前記レーザ加工機の起動時から予め定めた時間が経過する間においては、前記急峻な温度変化が観測されたか否かの判定を行わずに、前記温度が安定したか否かの判定を行う、
請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項9】
前記ワークのレーザ加工時に前記撮像部が撮像した画像に基づいて前記ワークの加工状態に関する加工状態データを求める算出部と、
前記加工状態データを記録する記憶部と、を備え、
前記算出部は、前記温度検出部により前記急峻な温度変化が観測されてから、前記温度が安定した状態に移行するまでの間においては、前記加工状態データに対して、前記加工状態データの信用度が低下していることを示すデータを対応付けて前記記憶部に記録する、
請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項10】
レーザヘッドから出射するレーザ光によりワークを加工するレーザ加工機の制御方法であって、
前記ワークの加工時に前記ワークから発せられた光をレーザヘッド内におけるレーザ光通過空間の一部を介して検出することで撮像部により前記ワークを撮像することと、
前記撮像部を有する観察光学系の温度を、温度センサを用いて検出することと、
前記温度センサにより急峻な温度変化が観測された後に、前記温度が安定した状態に移行した段階で、前記観察光学系の調整を行うべきタイミングであることを判定することと、
を含む、レーザ加工機の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機及びレーザ加工機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光によりワークを加工するレーザ加工機が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、レーザ加工を行う際に、ケーシング内の温度に対応する光軸のずれ量を算出し、この光軸のずれ量に対応する分だけ反射ミラーの傾斜角度を調整することが記載されている。また、レーザ加工機は、レーザ加工時においてワークの加工状態を撮像する撮像部を有する観察光学系を備える場合がある。このレーザ加工機では、撮像部で撮像された画像に基づいてワークの加工状態を検出しており、撮像部で撮像された画像の中心位置と、レーザ光の出力の中心位置とが一致していることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-344169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
観察光学系の一部又は全部がレーザヘッドに収容されている場合、レーザヘッドに急峻な温度変化が発生すると、観察光学系内に温度分布が生じて、レーザ光の出力の中心位置と、観察光学系を介して撮像される画像の中心位置とにズレが生じる場合がある。このズレを解消するためには観察光学系の調整作業を行う必要があるが、ズレが生じたタイミングが分かりにくいため、定期的に観察光学系の確認、調整作業を行う必要があり、ワークの加工効率が低下してしまう。なお、特許文献1に記載された技術は、光軸の位置とレーザ光の光軸とのずれを温度に応じて調整するだけであり、レーザ光の出力の中心位置と、画像の中心位置とのズレを調整することについては考慮されていない。
【0005】
本発明は、ワークの加工効率が低下するのを抑制することが可能なレーザ加工機及びレーザ加工機の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に係るレーザ加工機は、レーザヘッドから出射するレーザ光によりワークを加工するレーザ加工機であって、ワークの加工時にワークから発せられた光をレーザヘッド内におけるレーザ光通過空間の一部を介して検出することでワークを撮像する撮像部を有する観察光学系と、観察光学系の温度を検出する温度検出部と、温度検出部により急峻な温度変化が観測された後、温度が安定した状態に移行した段階で、観察光学系の調整を行うべきタイミングであることを判定する判定部と、を備える。
【0007】
本発明の態様に係るレーザ加工機の制御方法は、レーザヘッドから出射するレーザ光によりワークを加工するレーザ加工機の制御方法であって、ワークの加工時にワークから発せられた光をレーザヘッド内におけるレーザ光通過空間の一部を介して検出することで撮像部によりワークを撮像することと、撮像部を有する観察光学系の温度を、温度センサを用いて検出することと、温度センサにより急峻な温度変化が観測された後に、温度が安定した状態に移行した段階で、観察光学系の調整を行うべきタイミングであることを判定することと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
上記態様に係るレーザ加工機によれば、レーザ光の出力の中心位置と、画像の中心位置とのズレを最適なタイミングで調整することができ、ワークの加工効率が低下するのを抑制することが可能となる。
【0009】
また、判定部により観察光学系の調整を行うべきタイミングであることが判定された場合、その旨を利用者に通知する通知部を備えてもよい。この構成によれば、利用者は、観察光学系の調整を行うべきタイミングを把握することができる。また、判定部により観察光学系の調整を行うべきタイミングであることが判定された場合、観察光学系の調整を行う調整部を備えてもよい。また、調整部は、観察光学系の調整として、レーザ光の出力の中心位置と、撮像部により撮像される画像の中心位置との位置合わせを実行してもよい。これらの構成により、観察光学系の調整を行うべきタイミングで、レーザ光の出力の中心位置と、撮像部により撮像される画像の中心位置との位置合わせを行うことができる。
【0010】
また、判定部は、温度検出部により検出された温度の単位時間あたりの温度変化が、第1の範囲を逸脱するものになった場合に、急峻な温度変化が観測されたと判定してもよい。また、判定部は、急峻な温度変化が観測されたと判定した後に単位時間あたりの温度変化が所定時間にわたって第2の範囲内に収まっていた場合に、温度が安定した状態に移行したと判定してもよい。この構成により、観察光学系の調整を行うべきタイミングであることを容易に判定することできる。
【0011】
また、温度検出部は、観察光学系内において設置箇所が異なる複数の温度センサを有し、前記判定部は、各温度センサで検出された測定値の差が第1設定値を超えた場合には、急峻な温度変化が観測されたと判定し、急峻な温度変化が観測されたと判定した後に測定値の差が所定時間にわたって第1設定値より小さい第2設定値以下に収まった場合に、温度が安定した状態に移行したと判定してもよい。この構成により、観察光学系内の温度変化を精度よく検知して観察光学系の調整を行うべきタイミングであることを判定することできる。
【0012】
また、判定部は、レーザ加工機の起動時から予め定めた時間が経過する間においては、急峻な温度変化が観測されたか否かの判定を行わずに、温度が安定したか否かの判定を行ってもよい。この構成により、急激な温度変化が発生していると推定できる期間において、急峻な温度変化が観測されたか否かの判定を省略することで、判定処理の負荷を軽減できる。
【0013】
また、ワークのレーザ加工時に撮像部が撮像した画像に基づいてワークの加工状態に関する加工状態データを求める算出部と、加工状態データを記録する記憶部と、を備え、算出部は、温度検出部により急峻な温度変化が観測されてから、温度が安定した状態に移行するまでの間においては、加工状態データに対して、加工状態データの信用度が低下していることを示すデータを対応付けて記憶部に記録してもよい。この構成により、レーザ加工時の加工状態データが、信用度が低下したときに得られたデータであるか否かを判別可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係るレーザ加工機の一例を示す模式図である。
図2】本実施形態に係るレーザヘッド4の構成の一例を示す図である。
図3】本実施形態に係るレーザヘッドが進行方向0°で移動しながらレーザ加工することによって形成されたカーフの画像を示す図である。
図4】本実施形態に係るレーザヘッドが進行方向30°で移動しながらレーザ加工することによって形成されたカーフの画像を示す図である。
図5】本実施形態に係る位置合わせ処理を説明する図である。
図6】本実施形態に係る観察光学系の調整方法を説明する図である。
図7】本実施形態に係る急峻な温度変化の判定方法と温度変化の安定の判定方法とを示す図である。
図8】本実施形態に係るレーザ加工機の動作のシーケンス図である。
図9】本実施形態に係る温度センサの配置位置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。なお、図面において、同一又は類似の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省く場合がある。また、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために誇張されることがある。
【0016】
図1は、本実施形態に係るレーザ加工機の一例を示す模式図である。図2は、図1のレーザ加工機1に備えられたレーザヘッド4の構成の一例を示す図である。本実施形態に係るレーザ加工機1は、レーザ光Lを出射して加工対象であるワークWに対して、切断,マーキングなどのレーザ加工を行う。レーザ加工機1は、レーザ発振器2と、レーザヘッド4と、観察光学系5と、温度検出部6と、アシストガス供給部7と、ヘッド駆動部8と、ヘッド制御装置9と、画像処理装置10とを備えている。
【0017】
レーザ発振器2は、加工用レーザ光L1を発生させる。例えば、加工用レーザ光L1は、赤外レーザ光である。レーザ発振器2は、光ファイバFを介してレーザヘッド4に接続されている。光ファイバFは、レーザ発振器2から出力される加工用レーザ光L1をレーザヘッド4に導入する。観察光学系5には、照明ユニット3が設けられている。照明ユニット3は、レーザアレイ3A及びコリメータ3Bを備える。レーザアレイ3Aは、加工用レーザ光L1と異なる波長の照明用レーザ光L2を発する。コリメータ3Bは、レーザアレイ3Aから照明用レーザ光L2が入射する位置に設けられ、レーザアレイ3Aから入射する照明用レーザ光L2を平行光に変換する。
【0018】
レーザヘッド4は、ノズル15からレーザ光L(加工用レーザ光L1及び照明用レーザ光L2)をワークWに向けて照射する。レーザヘッド4は、ワークWに対して、X方向、Y方向、Z方向に相対的に移動可能に設けられる。レーザヘッド4は、ワークWに対して相対的に移動しながら、ワークWに形成する切断ラインに沿って加工用レーザ光L1を照射することで切断加工を行う。
【0019】
図2に示すように、レーザヘッド4は、ノズル15と、照射光学系20とを備える。ノズル15は、レーザヘッド4の下方に取り付けられる。ノズル15は、下方向に向けられている。ノズル15は、出射孔15Aを有する。
【0020】
加工用レーザ光L1及び照明用レーザ光L2は、出射孔15Aから下方向に向けて照射される。ノズル15は、ガス供給管等を介してアシストガス供給部7に接続される。ノズル15は、加工用レーザ光L1を照射する領域に向けて、アシストガス供給部7からのアシストガスをワークWに供給する。
【0021】
照射光学系20は、レーザヘッド4の内部に設けられている。照射光学系20は、レーザ発振器2で発生した加工用レーザ光L1を、ワークWに向けて案内することにより、ノズル15の出射孔15Aを通してワークWに照射する。例えば、照射光学系20は、コリメータ21と、ビームスプリッタ22と、集光レンズ23とを備える。
【0022】
コリメータ21は、加工用レーザ光L1の入射側の焦点が光ファイバFの端部の位置と一致するように設けられ、レーザ発振器2から出力される加工用レーザ光L1を平行光に変換する。ビームスプリッタ22は、コリメータ21を通過した加工用レーザ光L1が入射する位置に設けられ、加工用レーザ光L1を透過し、照明用レーザ光L2を反射させる。集光レンズ23は、ビームスプリッタ22からの加工用レーザ光L1が入射する位置に設けられ、入射する加工用レーザ光L1を集光する。集光レンズ23は、光学系駆動部(図示なし)によって光軸に沿って移動可能である。この光学系駆動部によってワークW側の焦点が調整される。
【0023】
観察光学系5は、照明ユニット3と、ハーフミラー24と、波長選択フィルタ25と、結像レンズ26と、撮像部27とを備える。ハーフミラー24は、コリメータ3Bを通過した照明用レーザ光L2が入射する位置に設けられ、照明用レーザ光L2の一部を反射し、一部を通過させる。ハーフミラー24で反射した照明用レーザ光L2は、ビームスプリッタ22を反射する。集光レンズ23は、ビームスプリッタ22を反射した照明用レーザ光L2を集光する。ワークWにおいて照明用レーザ光L2が照射される領域は、ワークWに対して加工用レーザ光L1が照射される領域を含むように設定される。
【0024】
ワークWからの戻り光は、集光レンズ23を通過してビームスプリッタ22に入射する。戻り光は、照明用レーザ光L2がワークWで反射錯乱した光と、加工用レーザ光L1がワークWで反射した光とを含む。照明用レーザ光L2に由来する光は、ビームスプリッタ22で反射してハーフミラー24に入射する。同様に、加工用レーザ光L1に由来する光は、ビームスプリッタ22で反射してハーフミラー24に入射する。
【0025】
波長選択フィルタ25は、例えば、ダイクロイックミラー、ノッチフィルター等である。ハーフミラー24に入射した戻り光は、ハーフミラー24を通過して波長選択フィルタ25に入射する。照明用レーザ光L2に由来する光は、波長選択フィルタ25で反射して結像レンズ26に入射する。一方、加工用レーザ光L1に由来する光は、波長選択フィルタ25を透過する。結像レンズ26は、波長選択フィルタ25で反射した光を撮像部27に集光する。
【0026】
撮像部27は、レーザヘッド4に設けられる。撮像部27は、加工用レーザ光L1が照射される領域を撮像する。撮像部27は、撮像素子27Aを備える。撮像素子27Aは、照明用レーザ光L2の照明がワークWで反射錯乱した戻り光を検出し、画像Gを生成するイメージセンサである。すなわち、撮像部27は、ワークWの加工時にワークWから発せられた光をレーザヘッド4内におけるレーザ光通過空間の一部を介して検出することでワークWを撮像する。レーザ光通過空間とは、レーザ光が通過する空間である。撮像部27は、撮像素子27Aにより生成された画像Gを画像処理装置10に送信する。
【0027】
温度検出部6は、観察光学系5の温度Tを検出する。例えば、温度検出部6は、レーザヘッド4の内部の観察光学系5内に配置されている、1つ以上の温度センサ6aを有する。温度検出部6は、画像処理装置10に接続されている。温度検出部6は、一定周期ごとに観察光学系5の温度Tを検出し、その検出した温度Tを画像処理装置10に送信する。なお、図1に示す温度センサ6aの位置は、一例であって、観察光学系5内に配置されていれば特に限定されない。
【0028】
アシストガス供給部7は、レーザヘッド4に接続されている。アシストガス供給部7は、ノズル15内にアシストガスを供給する。アシストガスは、レーザ加工において、溶融した材料を除去するために用いられる。アシストガスの供給源としては、例えば、ガスボンベ、工場の供給ライン等が用いられる。アシストガスとしては、例えば、窒素ガス、空気、窒素と酸素とを混合したガス等が用いられる。
【0029】
ヘッド駆動部8は、ヘッド制御装置9に制御され、レーザヘッド4をX方向、Y方向、及びZ方向の各方向に移動させる。ヘッド駆動部8は、例えば、X方向に移動可能なガントリと、ガントリに対してY方向に移動可能なスライダと、スライダに対してZ方向に移動可能な昇降部とを有する。なお、ヘッド駆動部8は、上記の構成に限定されず、ロボットアーム等の他の構成により実現されてもよい。
【0030】
ヘッド制御装置9は、ヘッド駆動部8を制御することで、レーザヘッド4の移動を制御する。例えば、ヘッド制御装置9は、レーザヘッド4の位置情報を所定の周期で取得し、その取得した位置情報に基づいてヘッド駆動部8を制御することでレーザヘッド4の移動を制御する。また、ヘッド制御装置9は、アシストガス供給部7を制御してアシストガスの噴射を開始させ、レーザ発振器2から加工用レーザ光L1を出力させることで、照射光学系20からワークWに加工用レーザ光L1を照射させる。
【0031】
画像処理装置10は、例えばコンピュータなどの情報処理装置である。画像処理装置10は、ヘッド制御装置9に接続されており、相互に情報を送受可能である。画像処理装置10は、温度検出部6に接続されている。画像処理装置10は、撮像部27に接続されている。
【0032】
図1に戻り、画像処理装置10は、例えば、記憶部11と、画像処理部12と、判定部13と、通知部14とを備える。画像処理部12、判定部13、及び通知部14は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部又は全部は、LSI(Large Scale Integrated circuit)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0033】
記憶部11は、例えば、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、又はRAM(Random Access Memory)等により構成される。上記のプログラムは、記憶部11に格納されていてもよい。
【0034】
画像処理部12は、例えば、算出部30と、調整部31とを備える。算出部30は、撮像素子27Aにより生成された画像Gを受信する。算出部30は、受信した画像Gに対する画像処理を実行し、加工状態に関するデータを求める。算出部30は、加工状態に関するデータとして、例えば、カーフ幅Kを算出する。例えば、画像処理部12は、レーザ加工によるカーフの両端のエッジを検出し、画像G上のエッジ間の距離を実スケールの距離に変換することでカーフ幅Kを算出する。
【0035】
図3は、レーザヘッド4が進行方向0°で移動しながらレーザ加工することによって形成されたカーフの画像Gを示す図である。例えば、レーザヘッド4が進行方向0°で移動しながらレーザ加工することによって形成されたカーフは、図3に例示するように、画像G上の右側に現れる。算出部30は、図3に例示する状態を進行方向0°とし、進行方向0°でのレーザ加工によって形成されたカーフの両端に相当する領域に評価範囲Hを設定する。評価範囲Hは、カーフの両端のエッジを検出するための範囲である。算出部30は、評価範囲Hによりカーの両端のエッジを検出し、画像G上のエッジ間の距離を実スケールの距離に変換することでカーフ幅Kを求める。
【0036】
図4は、レーザヘッド4が進行方向30°で移動しながらレーザ加工することによって形成されたカーフの画像Gを示す図である。図4(A)に示すように、進行方向が30°傾く場合、画像G上のカーフも30°傾く。この場合、評価範囲Hとカーフとの相対位置を適切な位置に合わせるために、算出部30は、図4(B)に示すように画像Gの中心位置Ogを回転軸として画像Gを30°回転させる処理と、図4(C)に示すように評価範囲Hを30°回転させる処理のいずれかの処理を実行する。
【0037】
ここで、算出部30は、例えば、画像Gを回転させる場合において、画像Gの中心位置Ogと、加工用レーザ光L1の出力の中心位置Orとが一致している場合には、図5(A)に例示するように評価範囲Hとカーフとの相対位置を適切な位置に合わせられる。ただし、画像Gの中心位置Ogと、加工用レーザ光L1の出力の中心位置Orとが一致していない場合には、図5(B)に例示するように、評価範囲Hとカーフとの相対位置を適切な位置に合わせることができず、カーフのエッジが評価範囲Hから外れてしまう。その結果、カーフのエッジを正確に検出することができず、カーフ幅Kの算出精度が低下してしまう場合が起こりえる。そのため、本実施形態では、調整部31によって、画像Gの中心位置Ogと、加工用レーザ光L1の出力の中心位置Orとを一致させる位置合わせ処理が所定のタイミングで実行される。なお、この一致とは、画像Gの中心位置Ogと、加工用レーザ光L1の出力の中心位置Orとのずれが許容範囲内であることを含む。
【0038】
算出部30は、算出した加工状態データを記憶部11に記録する。算出部30は、加工状態データの信用度が低下している場合には、算出した加工状態データに対して、加工状態データの信用度が低下していることを示すデータを対応付けて記憶部11に記録する。加工状態データの信用度が低下している場合とは、例えば、画像Gの中心位置Ogと、加工用レーザ光L1の出力の中心位置Orとが一致していない場合である。
【0039】
調整部31は、所定のタイミングで位置合わせ処理を実行する。例えば、位置合わせ処理は、画像処理であって、画像Gの中心位置Ogと、加工用レーザ光L1の出力の中心位置Orとを一致させる。ただし、これに限定されず、調整部31は、位置合わせ処理として、実際にレンズ又はミラーをアクチュエータで動かして、画像Gの中心位置Ogと、加工用レーザ光L1の出力の中心位置Orとを一致させてもよい。すなわち、調整部31は、位置合わせ処理として、観察光学系5を構成するレンズ又はミラーをアクチュエータで動かすことで物理的に画像Gの中心位置Ogと加工用レーザ光L1の出力の中心位置Orとを一致させてもよいし、撮像部27を調整してソフトウェア上で画像Gの中心位置Ogと、加工用レーザ光L1の出力の中心位置Orとを一致させてもよい。なお、以下の説明では、位置合わせ処理が、ソフトウェア上で画像Gの中心位置Ogと、加工用レーザ光L1の出力の中心位置Orとを一致させる処理である場合を例として説明する。
【0040】
図6は、本実施形態に係る位置合わせ処理を含む観察光学系の調整方法を説明する図である。調整部31は、位置合わせ処理を行う場合には、加工レーザ光の出力の中心位置Orを判定できるための画像(以下、「テスト画像」という。)Gtを取得する必要がある。例えば、図6に示すように、レーザ加工機1は、加工用レーザ光L1の出力の中心位置Orが判定できるような低出力かつ短時間のレーザ光を用いてノズル15に別途貼ったテープ(例えば、セロハン又はアルミ)に穿孔を形成する。レーザ加工機1は、テープに対して穿孔を形成すると観察光学系5を用いてテープ表面を撮影することでテスト画像Gtを取得する。調整部31は、画像処理によりテスト画像Gtから穿孔の中心位置を算出する。穿孔の中心位置は、加工レーザ光の出力の中心位置Orを示す。
【0041】
調整部31は、テスト画像Gtの中心位置Ogと、穿孔の中心位置、すなわち加工レーザ光の出力の中心位置Orとを一致させる。なお、テスト画像Gtは、穿孔が形成されたテープ表面の画像に限定されない。
【0042】
調整部31は、テスト画像Gtに基づいて位置合わせ処理を行うにあたって、事前に、画像G上のマーカーパターンの位置の設定値とノズル15の位置の設定値とを把握しておくことが望ましい。マーカーパターンは、観察光学系5の経路上、必ず撮像部27により結像される範囲に設けられている。ノズル15の位置とは、観察光学系5の撮像に含まれるノズル15について、中心座標及び出射孔15Aのエッジ位置などの情報である。調整部31は、テスト画像Gtにおけるマーカーパターン及びノズル15の位置の変化を含む情報に基づいて、テスト画像Gtの中心位置Ogの相対的な変化量、すなわち加工用レーザ光L1の出力の中心位置Orに対するテスト画像Gtの中心位置Ogのずれ量を推定してもよい。なお、テスト加工によりテスト画像Gtを取得して位置合わせ処理を実行する処理を、観察光学系5の調整と称する場合がある。
【0043】
判定部13は、温度検出部6により温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測された後、温度Tが安定した状態に移行した段階で、観察光学系5の調整を行うべきタイミングであることを判定する。観察光学系5の調整を行うべきタイミングは、温度検出部6により温度Tの急峻な温度変化が観測された後において、温度Tが安定している状態であればよい。観察光学系5の調整を行うべきタイミングは、例えば、温度Tが安定した状態に移行したタイミングであってもよいし、温度Tが安定した状態に移行してからレーザ加工機1が観察光学系5の調整を実行可能な状態になったタイミングであってもよい。
【0044】
図7は、急峻な温度変化ΔTの判定方法と温度変化ΔTの安定の判定方法とを示す図である。図7において、縦軸が温度Tの温度変化を示し、横軸が時間を示す。判定部13は、例えば、温度検出部6により検出された温度Tに基づいて、温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測されたか否かを判定する処理(以下、「第1判定処理」という。)を実行する。第1判定処理として、例えば、判定部13は、温度Tの単位時間あたりの温度変化ΔTが、基準値の範囲R1から外れた場合に温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定する。この単位時間は、判定部13の温度Tの取得周期であってもよい。基準値の範囲R1は、第1の範囲の一例である。
【0045】
温度変化ΔTが、基準値の範囲R1から外れた場合とは、温度変化ΔTが第1閾値を超えた場合であってもよいし、温度変化ΔTが第1閾値ΔT1よりも小さい第2閾値ΔT2を下回った場合であってもよいし、その両方であってもよい。判定部13は、温度Tの単位時間あたりの温度変化ΔTが、一定時間にわたって基準値の範囲R1から外れた場合に温度Tの急峻な温度変化が観測されたと判定してもよい。
【0046】
温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測された場合には、観察光学系5内に温度分布が生じて、レーザ光の出力の中心位置Orと、画像Gの中心位置Ogとにズレが生じる場合がある。そのため、温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測された場合には、カーフ幅Kの算出結果などの加工状態データの信用度が低下していることが考えられる。判定部13は、温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定した場合には、その旨を示す情報(以下、「第1情報」という。)を画像処理部12に送信する。この構成により、画像処理部12は、判定部13から第1情報を受け取ることで、加工状態データの信用度が低下していることを把握することできる。
【0047】
判定部13は、温度検出部6により温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測された後に、温度Tが安定した状態に移行したか否かを判定する処理(以下、「第2判定処理」という。)を実行する。例えば、判定部13は、第1判定処理にて温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定した後に、第2判定処理として単位時間あたりの温度変化ΔTが基準値の範囲R2内に収まったか否かを判定する。基準値の範囲R2は、第2の範囲の一例である。
【0048】
判定部13は、単位時間あたりの温度変化ΔTが基準値の範囲R2内に収まった場合には、温度Tが安定した状態に移行したと判定する。ここで、温度変化ΔTが、基準値の範囲R2内に収まった場合とは、第3閾値ΔT3を超えた温度変化ΔTが第3閾値ΔT3以下になった場合であってもよいし、第3閾値よりも低い第4閾値ΔT4を下回った温度変化ΔTが第4閾値ΔT4を上回った場合であってもよいし、その両方であってもよい。判定部13は、温度Tの単位時間あたりの温度変化ΔTが、一定時間にわたって基準値の範囲R2内に収まった場合に温度Tが安定した状態に移行したと判定してもよい。なお、例えば、第3閾値ΔT3は、第1閾値ΔT1以下である。例えば、第4閾値ΔT4は、第2閾値ΔT2以上である。すなわち、基準値の範囲R2は、基準値の範囲R1と同じであってもよい。また、基準値の範囲R2は、基準値の範囲R1に含まれ、基準値の範囲R1よりも狭い範囲であってもよい。
【0049】
判定部13は、第2判定処理において温度Tが安定した状態に移行したと判定した場合には、観察光学系5の調整を行うべきタイミングであると判定する。なお、第2判定処理において温度Tが安定した状態に移行したと判定したタイミングが、観察光学系5の調整を行うべきタイミングである必要はない。例えば、判定部13は、第2判定処理において温度Tが安定した状態に移行したと判定した後に、観察光学系5の調整を行うべきタイミングであると判定してもよい。判定部13は、観察光学系5の調整を行うタイミングであると判定すると、その旨を示す情報(以下、「第2情報」という。)を画像処理部12及び通知部14に送信する。
【0050】
通知部14は、判定部13により観察光学系5の調整を行うべきタイミングであることが判定された場合に、その旨を利用者に通知する。例えば、通知部14は、利用者が使用する情報端末と有線又は無線で通信可能である。通知部14は、判定部13から第2情報を取得した場合には、利用者が使用する情報端末(図示せず)に対して第2情報を通知する。ただし、これに限定されず、通知部14は、例えば、画像処理装置10に設けられている表示装置(図示せず)に対して、第2情報を表示することで利用者に第2情報を通知してもよい。また、通知部14は、第2情報を知らせるための音(音声を含む)を出力することで利用者に第2情報を通知してもよい。
【0051】
通知部14は、ヘッド制御装置9と有線又は無線で通信可能である。通知部14は、判定部13から第2情報を取得した場合には、ヘッド制御装置9に対して、テスト加工を実施させる指令情報を送信する。なお、この指令情報は、第2情報と同じ情報であってもよい。ヘッド制御装置9は、指令情報を受信したことを契機としてテスト画像Gtを取得するための処理を開始する。なお、通知部14からヘッド制御装置9への指令情報の送信は、例えば、レーザ加工機1が観察光学系5の調整を実施可能な状態になってから実施されてもよい。例えば、温度Tが安定した状態に移行し、かつ、レーザ加工機1及び画像処理装置10が他の高負荷の処理を行っておらず、観察光学系5の調整を実行可能な状態になったタイミングで、通知部14からヘッド制御装置9に指令情報が送信されてもよい。
【0052】
以下に、本実施形態に係るレーザ加工機1の動作の流れを、図8を用いて説明する。図8は、本実施形態に係るレーザ加工機1の動作のシーケンス図である。
【0053】
時刻t1にレーザ加工機1が起動する。レーザ加工機1が起動すると、判定部13は、一定時間ごとに温度Tを温度検出部6から取得し、温度Tの温度変化ΔTに基づいて第1判定処理を実行する。そして、判定部13は、第1判定処理において、温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定した場合には、第2判定処理を開始する。ここで、レーザ加工機1の起動(例えば、コールドスタート)の直後では、第1判定処理が行われなくとも、急激な温度変化ΔTが発生していると推定できる場合がある。従って、レーザ加工機1の起動直後では、第1判定処理を省略してもよい。例えば、図8に例示するように、判定部13は、レーザ加工機1の起動時から予め定めた時間Δt1が経過するまでは第1判定処理を行わずに、予め定めた時間Δt1が経過した時刻t2において第2判定処理を実行してもよい。
【0054】
判定部13は、第2判定処理として、温度変化ΔTが一定時間Δt2にわたって基準値の範囲R2内に収まったか否かを判定する。図8に示す例では、時刻t2から所定時間後の時刻t3において温度変化ΔTが基準値の範囲R2内となり、一定時間Δt2にわたって基準値の範囲R2内に収まっている。従って、判定部13は、時刻t3から一定時間Δt2後の時刻t4において、温度Tが安定した状態に移行したと判定する。なお、一定時間Δt2は、例えば、観察光学系5内の部品全体の温度勾配が解消される時間が設定される。一定時間Δt2は、例えば、実験に基づいて事前に設定される。
【0055】
判定部13により、温度Tが安定した状態に移行したと判定されると、レーザ加工機1は、観察光学系5の調整待ちの状態になる。時刻t4から所定の時間経過後の時刻t5においてレーザ加工機1が観察光学系5の調整を実行できる状態になると、判定部13によって観察光学系5の調整を行うべきタイミングであると判定され、観察光学系5の調整が開始される。
【0056】
例えば、ヘッド制御装置9は、時刻t5において、画像処理装置10から指令情報を受信すると、ヘッド駆動部8及びレーザ発振器2を制御することで、テープ又はテスト用のワークに加工用レーザ光L1を照射させてテスト加工を行う。なお、テスト加工が実行される前には、出射孔15Aの中心と加工用レーザ光L1の出力の中心とが一致させる芯出し処理が行われる。
【0057】
画像処理部12は、テスト加工が行われると撮像部27からテスト画像Gtを取得し、そのテスト画像Gtに基づいて位置合わせ処理を行う。位置合わせ処理が終了すると、加工状態データの信用度が担保されたことになる。従って、ヘッド制御装置9は、時刻t6から実際のワークWのレーザ加工を開始してもよい。画像処理部12は、時刻t6においてレーザ加工が開始されると画像Gを取得し、取得した画像Gに基づいて一定周期ごとに加工状態データを求める。そして、画像処理部12は、求めた加工状態データを記憶部11に記録していく。また、判定部13は、位置合わせ処理が終了すると第1判定処理を一定周期ごとに実行する。すなわち、判定部13は、レーザ加工中において、温度変化ΔTを常に監視しており、急峻な温度変化ΔTの発生の有無を判定している。
【0058】
時刻t7において、温度変化ΔTが基準値の範囲R1を逸脱するものになった場合、判定部13は、温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定する。判定部13は、温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定すると、その旨を示す第1情報を画像処理部12に送信する。温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測されてもレーザ加工が継続される場合には、画像処理部12は、第1情報を受信した後の加工状態データに対して加工状態データの信用度が低下していることを示すデータを対応付けて記憶部11に記録する。なお、レーザ加工機1は、温度Tの急峻な温度変化ΔTが観測された場合にレーザ加工を停止してもよい。レーザ加工が停止されると、画像処理部12は、加工状態データの生成を停止してもよい。
【0059】
判定部13は、時刻t7の後に第2判定処理を開始し、温度変化ΔTが一定時間Δt2にわたって基準値の範囲R2内に収まっているか否かを判定する。図8に示す例では、時刻t8において温度変化ΔTが基準値の範囲R2内となり、一定時間Δt2にわたって基準値の範囲R2内に収まっている。従って、判定部13は、時刻t8から一定時間Δt2後の時刻t9において、温度Tが安定した状態に移行したと判定する。判定部13により、温度Tが安定した状態に移行したと判定されると、レーザ加工機1は、観察光学系5の調整待ちの状態になる。時刻t9から所定の時間経過後の時刻t10においてレーザ加工機1が観察光学系5の調整を実行できる状態になると、判定部13によって観察光学系5の調整を行うべきタイミングであると判定され、観察光学系5の調整が開始される。時刻t10から一定時間後の時刻t11において位置合わせ処理が終了すると、加工状態データの信用度が担保されたことになる。従って、時刻t11からレーザ加工が再開される。
【0060】
本実施形態に係る作用効果について説明する。本実施形態の観察光学系5は、加工用レーザ光L1の出力とカメラによる撮像系・照明系とを共存させるために、特定の波長領域の光のみを通過させる波長選択フィルタ25や一定の割合のみ光を透過させるハーフミラー24などの各種ミラーを使った折れ曲がった光路をとる。
【0061】
ここで、観察光学系5内に配置されているハードウェアの各部位の熱伝導率が異なる場合がある。例えば、上記のハードウェアとは、光学素子を保持する部材である。このような場合には、観察光学系5で急峻な温度変化が発生することにより、上記のハードウェアにおいて熱変位が生じて光学素子の位置又は反りの状態が変化し、光軸ずれが発生する場合がある。この光軸ずれは、レーザ光の出力の中心位置Orと、観察光学系5を介して撮像される画像の中心位置Ogとにズレを引き起こす場合がある。なお、観察光学系5内の急峻な温度変化は、例えば激しい発熱をともなうレーザ加工を行う場合に生じる。激しい発熱をともなうレーザ加工とは、例えば、アシストガスに酸素を使う場合又は分厚い板を切断する場合である。レーザ光の出力の中心位置Orと、観察光学系5を介して撮像される画像の中心位置Ogとのズレを解消するために観察光学系5の調整作業を行う必要があるが、定期的に観察光学系5の調整作業を行うとワークの加工効率が低下してしまう。
【0062】
上記の実施形態において、レーザ加工機1は、温度検出部6により急峻な温度変化ΔTが観測された後、温度Tが安定した状態に移行した段階で、観察光学系5の調整を行うべきタイミングであることを判定する。この構成により、レーザ加工機1は、定期的に観察光学系5の調整作業を不要とし、適切なタイミングで観察光学系5の調整作業が可能となるため、ワークWの加工効率の低下を抑制することができる。
【0063】
また、例えば、レーザ加工機1のコールドスタート時又は昼夜の寒暖差が激しい環境の場合などの周囲温度が安定化していない状態では、レーザ加工開始時には観察光学系5内に急峻な温度変化が生じている場合がある。この場合において、位置合わせ処理を行うと、画像の回転軸、すなわち画像の中心位置Ogがレーザ光の出力の中心位置Orとずれている場合がある。また、レーザ加工が長時間に及んだ場合、外気温に起因する周囲温度が安定している場合でも、ワーク材料への発熱及び耐熱により、観察光学系5内に急峻な温度変化が起こる場合がある。この場合、画像の中心位置Ogがレーザ光の出力の中心位置Orとずれている場合がある。
【0064】
上記の実施形態において、レーザ加工機1は、温度検出部6により急峻な温度変化ΔTが観測された後、温度Tが安定した状態に移行した段階で、観察光学系5の調整を行うべきタイミングであることを判定する。この構成により、レーザ加工機1は、温度変化ΔTが急峻に変化した後に温度Tが安定した段階で位置合わせ処理を実行するため、画像Gの中心位置Ogがレーザ光の出力の中心位置Orからずれることを抑制することができる。換言すれば、レーザ加工機1は、温度Tが不安定な状態での位置合わせ処理を実行するのではなく、例えば画像Gの中心位置Ogのズレを最適なタイミングで調整することができる。
【0065】
上記の実施形態において、温度検出部6は、観察光学系5内において設置箇所が異なる複数の温度センサ6aを有してもよい。例えば、温度検出部6が2つの温度センサ6aを有する場合には、図9に例示するように、一方の温度センサ6aが観察光学系5の撮像部27の付近に配置され、他方の温度センサ6aがハーフミラー24付近に配置されてもよい。
【0066】
観察光学系5内に複数の温度センサ6aが配置されている場合において、判定部13は、各温度センサ6aで計測された各測定値の差を観察光学系5内の温度分布のばらつきと見なし、観察光学系5内の急峻な温度変化ΔTの判定に用いてもよい。例えば、判定部13は、各温度センサ6aで検出された測定値の差が、第1設定値を超えた場合には、急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定してもよい。また、判定部13は、各温度センサ6aで検出された測定値の差が、所定時間にわたって第1設定値を超えた場合に、急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定してもよい。
【0067】
観察光学系5内に複数の温度センサ6aが配置されている場合において、判定部13は、急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定した後に測定値の差が第1設定値より小さい第3閾値以下に収まった場合に、温度Tが安定した状態に移行したと判定してもよい。また、判定部13は、急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定した後に測定値の差が所定時間にわたって第1設定値より小さい第2設定値以下に収まった場合に、温度Tが安定した状態に移行したと判定してもよい。
【0068】
判定部13は、第1判定処理及び第2判定処理を実行するにあたって、温度検出部6で検出された温度Tをそのまま用いるのではなく、例えば、温度Tを平滑化して使用してもよい。すなわち、判定部13は、単位時間あたりの温度変化ΔTを導出する場合に、平滑化した温度Tを用いてもよい。判定部13は、平滑化の方法として、例えば、移動平均、又は遅れ系を持つ伝達関数を用いてもよい。
【0069】
上記の実施形態において、レーザ加工機1は、信用度が低下している場合、すなわち第1判定処理において急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定された場合には、記録した加工状態データの活用方法に制限を設けてもよい。例えば、レーザ加工機1は、レーザ加工中において、加工状態データに基づいて加工異常の判定を行う。ただし、レーザ加工機1は、第1判定処理において、急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定された場合には、加工異常の判定を停止してもよい。そして、レーザ加工機1は、第2判定処理において、温度Tが安定したと判定した場合には、加工異常の判定を再開してもよい。
【0070】
レーザ加工機1は、加工状態データを利用したレーザ加工の加工条件のフィードバック制御を行ってもよい。加工条件とは、例えば、加工用レーザ光L1の出力、ワークWに対する加工用レーザ光L1の焦点位置、及びアシストガスの圧力の少なくとも1つ以上である。この場合において、レーザ加工機1は、信用度が低下している場合での加工状態データの活用方法の制限の一例として、加工条件のフィードバック制御を停止してもよい。すなわち、レーザ加工機1は、第1判定処理において、急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定された場合には、加工条件のフィードバック制御を停止してもよい。そして、レーザ加工機1は、第2判定処理において、温度Tが安定したと判定した場合には、加工条件のフィードバック制御を再開してもよい。
【0071】
画像処理装置10は、加工状態データに基づいてレーザ加工を停止するか否かを判定し、レーザ加工を停止すると判定した場合にはレーザ加工を停止させる加工停止指令をヘッド制御装置9に出力してもよい。この場合において、画像処理装置10は、加工状態データの活用方法の制限の一例として、加工停止指令の出力を停止してもよい。すなわち、画像処理装置10は、第1判定処理において、急峻な温度変化ΔTが観測されたと判定された場合には、加工停止指令の出力を禁止してもよい。そして、画像処理装置10は、第2判定処理において温度Tが安定したと判定した場合には、加工停止指令の出力を許可してもよい。
【0072】
上記の実施形態において、観察光学系5は、同軸観察光学系である場合を例として説明した。ただし、これに限定されず、観察光学系5は、レーザ加工機1の同軸観察光学系だけでなく、例えば、数μmのスケールで撮像位置を正確に調整する必要があるようなミラー付きの光学系であってもよい。
【0073】
なお、観察光学系5の調整が実際に実施されるタイミングは、温度Tが安定した状態に移行した時に即時実施されてもよいし、温度Tが安定した状態となり、かつ、レーザ加工機1が一連のレーザ加工又は部分的なレーザ加工が終了したタイミングで実施されてもよい。
【0074】
上記の実施形態において、算出部30は、観察光学系5の調整が行われてから急峻な温度変化ΔTが観測されるまでの間において得られた加工状態データに対して、加工状態データの信用度が担保されていることを示すデータを対応付けて記憶部11に記録してもよい。
【0075】
上記の実施形態では、観察光学系5の調整が自動で行われる場合を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、観察光学系5の調整は、操作盤からオペレータの指示により行われてもよい。例えば、観察光学系5の調整は、観察光学系5の調整を行うべきタイミングであると判定部13により判定されたことを契機としてオペレータの指示の有無にかかわらず実施されてもよい。また、観察光学系5の調整は、観察光学系5の調整を行うべきタイミングであると判定部13に判定されてからオペレータの指示があったことを契機として実施されてもよい。
【0076】
<付記>
上記実施形態は、少なくとも以下の構成を開示する。
(構成1)
レーザヘッドから出射するレーザ光によりワークを加工するレーザ加工機であって、
前記ワークの加工時に前記ワークから発せられた光を前記レーザヘッド内におけるレーザ光通過空間の一部を介して検出することで前記ワークを撮像する撮像部を有する観察光学系と、
前記観察光学系の温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部により急峻な温度変化が観測された後、前記温度が安定した状態に移行した段階で、前記観察光学系の調整を行うべきタイミングであることを判定する判定部と、
を備えたことを特徴とするレーザ加工機。
(構成2)
前記判定部により前記観察光学系の調整を行うべきタイミングであることが判定された場合、その旨を利用者に通知する通知部を備える、
構成1に記載のレーザ加工機。
(構成3)
前記判定部により前記観察光学系の調整を行うべきタイミングであることが判定された場合、前記観察光学系の調整を行う調整部を備える、
構成1又は構成2に記載のレーザ加工機。
(構成4)
前記調整部は、前記観察光学系の調整として、前記レーザ光の出力の中心位置と、前記撮像部により撮像される画像の中心位置との位置合わせを実行する、
構成3に記載のレーザ加工機。
(構成5)
前記判定部は、前記温度検出部により検出された前記温度の単位時間あたりの温度変化が、第1の範囲を逸脱するものになった場合に、前記急峻な温度変化が観測されたと判定する、
構成1から構成4のいずれかの構成に記載のレーザ加工機。
(構成6)
前記判定部は、前記急峻な温度変化が観測されたと判定した後に前記単位時間あたりの温度変化が所定時間にわたって第2の範囲に収まっていた場合に、前記温度が安定した状態に移行したと判定する、
構成1から構成5のいずれかの構成に記載のレーザ加工機。
(構成7)
前記温度検出部は、前記観察光学系内において設置箇所が異なる複数の温度センサを有し、
前記判定部は、各温度センサで検出された測定値の差が第1設定値を超えた場合には、前記急峻な温度変化が観測されたと判定し、前記急峻な温度変化が観測されたと判定した後に前記測定値の差が所定時間にわたって前記第1設定値より小さい第2設定値以下に収まった場合に、前記温度が安定した状態に移行したと判定する、
構成1から構成6のいずれかの構成に記載のレーザ加工機。
(構成8)
前記判定部は、前記レーザ加工機の起動時から予め定めた時間が経過する間においては、前記急峻な温度変化が観測されたか否かの判定を行わずに、前記温度が安定したか否かの判定を行う、
構成1から構成7のいずれかの構成に記載のレーザ加工機。
(構成9)
前記ワークのレーザ加工時に前記撮像部が撮像した画像に基づいて前記ワークの加工状態に関する加工状態データを求める算出部と、
前記加工状態データを記録する記憶部と、を備え、
前記算出部は、前記温度検出部により前記急峻な温度変化が観測されてから、前記温度が安定した状態に移行するまでの間においては、前記加工状態データに対して、前記加工状態データの信用度が低下していることを示すデータを対応付けて前記記憶部に記録する、
構成1から構成8のいずれかの構成に記載のレーザ加工機。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、上述した実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることは当業者において明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上述した実施形態等で説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述した実施形態等で説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、本実施形態において示した各手順の実行順序は、前の手順の結果を後の手順で用いない限り、任意の順序で実現可能である。また、上述した実施形態における動作に関して、便宜上「まず」、「次に」、「続いて」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須ではない。
【符号の説明】
【0078】
1・・・レーザ加工機
4・・・レーザヘッド
5・・・観察光学系
6・・・温度検出部
6a・・・温度センサ
10・・・画像処理装置
11・・・記憶部
12・・・画像処理部
13・・・判定部
14・・・通知部
15・・・ノズル
27・・・撮像部
30・・・算出部
31・・・調整部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9