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特開2024-113672酸化グラフェン層を有する中空糸状複合半透膜
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  • 特開-酸化グラフェン層を有する中空糸状複合半透膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113672
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】酸化グラフェン層を有する中空糸状複合半透膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20240815BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 71/10 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 71/12 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 71/42 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 71/76 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 71/62 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/08
B01D71/68
B01D71/64
B01D71/10
B01D71/12
B01D71/42
B01D71/34
B01D71/36
B01D71/76
B01D71/56
B01D71/26
B01D71/44
B01D71/62
B01D69/10
B01D69/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014344
(22)【出願日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2023018367
(32)【優先日】2023-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100227352
【弁理士】
【氏名又は名称】白倉 加苗
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
(72)【発明者】
【氏名】中川 敬三
(72)【発明者】
【氏名】久保田 昇
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA01
4D006MA01
4D006MA06
4D006MA21
4D006MA33
4D006MB13
4D006MC05X
4D006MC09
4D006MC11
4D006MC16
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC39
4D006MC47
4D006MC54
4D006MC57
4D006MC58
4D006MC62
4D006MC63
4D006NA45
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB13
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】有機系液体の処理(有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等の処理)に有用な、透過性能に優れた半透膜を提供する。
【解決手段】耐有機液性の有機高分子で構成される多孔性中空糸膜の内表面上に酸化グラフェン層を有する、中空糸状複合半透膜。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐有機液性の有機高分子で構成される多孔性中空糸膜の内表面上に酸化グラフェン層を有する、中空糸状複合半透膜。
【請求項2】
前記耐有機液性の有機高分子が、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロース、セルロース誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、エチレン-四フッ化エチレン共重合体、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン及びポリベンツイミダゾールからなる群から選ばれる1種以上の有機高分子である、請求項1に記載の中空糸状複合半透膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化グラフェン層を内表面に有する中空糸状複合半透膜に関する。
【背景技術】
【0002】
膜は、液体は液体のまま、気体は気体のまま物質を分離できるため、蒸留法等の相変化(気体⇔液体⇔固体)を伴う古くからの分離手段に比べ、相変化に必要な潜熱の投与が不要になり、少ないエネルギーで物質の分離が可能である。
そのため、膜を用いた分離技術は、今後のカーボンニュートラルの時代に向け、エネルギー消費の少ない分離技術として、その活躍の場を広げることが期待されている(非特許文献1)。
海水から溶解塩を分離して(淡水化して)飲料水を得る分離(海水淡水化)は、従来は蒸留法が主流であったが、現在では、新規の海水淡水化設備としては、蒸留法に比べ使用エネルギーを数分の1にできる膜法(逆浸透膜法)が主流である(非特許文献2)。
【0003】
なお、溶解性物質の分離(例えば上記海水淡水化の場合、水と水に溶解した塩との分離、その他にも水と水に溶解した高分子との分離等)に使用できる膜は、「半透膜」と呼ばれる。また、「半透膜」は、蒸留法の代替となる膜法にも使え得る。
一般的には、「半透膜」は、逆浸透膜(RO膜)及び限外濾過膜(UF膜)と呼称される膜種であり、ふるい分け分離としての分離サイズは、100nm以下の領域である。
本願明細書において、「半透膜」及び「半透性」の語は、「溶解性物質を分離できる膜」の意で用い、「一般的には逆浸透膜及び限外濾過膜と呼ばれる領域の膜」の意で用いる。
【0004】
カーボンニュートラルの実現が大きな課題となっている現在、「膜法を用いる、少ないエネルギーでの分離」には大きな期待が寄せられており、既に実現している上記海水淡水化(水系液での蒸留代替)だけでなく、未だ蒸留法が主体のエネルギー多消費型の分離が行われている有機系液の分離(化学系産業での有機系液溶剤分離、有機系液中に溶解している有価物の分離等)にも膜法を適用しようとする研究が行われている(非特許文献2)。
【0005】
有機系液の分離に使用される膜は、有機系液に対する耐性を持つ素材から構成される必要がある。従来から、膜素材として使われているポリサルホン系素材やポリアクリロニトリル系素材なども、ある程度の範囲においては有機系液への耐性を持つ。
また、有機系液への高い耐性が期待できるポリケトン素材の検討もされている(特許文献1~3)。さらに、半透性を現出する微細な篩分けを有機系液中で行える可能性のある素材として、酸化グラフェン素材の検討も為されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-144390号公報
【特許文献2】特開2002-348401号公報
【特許文献3】特開平2-4431号公報
【特許文献4】特開2022-84357号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D. S. Sholl and R. P. Lively, Seven chemical separations to change the world, Nature, 532 (2016) 435-437
【非特許文献2】「化学技術のフロンティアシリーズ1サーキュラー・バイオエコノミーを支える分離技術」第2部第2章2.3及び第4章、新化学技術推進協会編・発行、2022年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機系液体の処理(有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等の処理)に有用な、透過性能に優れた中空糸状半透膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のとおりである。
【0010】
<<態様1>>
耐有機液性の有機高分子で構成される多孔性中空糸膜の内表面上に酸化グラフェン層を有する、中空糸状複合半透膜。
【0011】
<<態様2>>
前記耐有機液性の有機高分子が、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロース、セルロース誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、エチレン-四フッ化エチレン共重合体、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン及びポリベンツイミダゾールからなる群から選ばれる1種以上の有機高分子である、態様1に記載の中空糸状複合半透膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機系液体の処理(有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等の処理)に有用な、透過性能に優れた中空糸状複合半透膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、比較例1で得られた、ポリケトンより成る多孔性中空糸膜の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は内表面、(b)は内表面近傍の膜断面、(c)は(b)に示す観察視野の一部のより高倍率での観察画像をそれぞれ示す。
図2図2は、実施例1で得られた中空糸状複合半透膜の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は内表面、(b)は内表面近傍の膜断面、(c)は(b)に示す観察視野の一部のより高倍率での観察画像をそれぞれ示す。
図3図3は、比較例3で得られた、ポリアクリロニトリル系重合体より成る多孔性中空糸膜の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は内表面、(b)は内表面近傍の膜断面、(c)は(b)に示す観察視野の一部のより高倍率での観察画像をそれぞれ示す。
図4図4は、比較例4で得られた、ポリアクリロニトリル系重合体より成る多孔性中空糸膜の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は内表面、(b)は内表面近傍の膜断面、(c)は(b)に示す観察視野の一部のより高倍率での観察画像をそれぞれ示す。
図5図5は、実施例2で得られた中空糸状複合半透膜の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は内表面、(b)は内表面近傍の膜断面、(c)は(b)に示す観察視野の一部のより高倍率での観察画像をそれぞれ示す。
図6図6は、実施例3で得られた中空糸状複合半透膜の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は内表面、(b)は内表面近傍の膜断面、(c)は(b)に示す観察視野の一部のより高倍率での観察画像をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記述する実施の形態に限定されるものではなく、その示す範囲内で種々変形して用いることができる。
【0015】
<中空糸状複合半透膜>
本実施形態における中空糸状複合半透膜は、概略的には、耐有機液性の有機高分子で構成される多孔性中空糸膜の内表面上に、酸化グラフェン層を有する。
【0016】
本実施形態の複合半透膜の重要な機能である半透性機能を持つ緻密な薄膜層として、酸化グラフェン層は、多孔性中空糸膜の内表面上に存在する。これは、本実施形態において重要な機能(半透性機能)を持つ緻密な薄膜層(酸化グラフェン層)が、傷を受けるリスクを減らすために重要である。
また、本実施形態の複合半透膜の利用形態の1つである「有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等」を行う場合に、有価物を複合半透膜の中空部内に濃縮することが、濃縮度を高める観点等から有効である。複合半透膜の中空部内で濃縮を行うためには、本実施形態の複合半透膜は、内表面側に半透性機能を持つ緻密な薄膜層(酸化グラフェン層)を有することが好ましい。
【0017】
本願明細書において、本実施形態の複合半透膜が透過性能に優れるとは、透液量で示される透液性能と溶質阻止率で示される阻止性能のバランスが良いことを意味する。
本実施形態の複合半透膜は、優れた透過性能を有するため、有機系液体の処理(有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等の処理)に有用である。
【0018】
(有機系液体)
有機系液体とは、本願明細書において、一般的な有機溶媒に溶質が溶解している溶液(一態様において、有機液)を指し、有機溶媒は特定の種類には限定されない。この場合、有機系液中の有機溶媒の種類は1種類ではなく複数種の混合溶媒であってもよい。また、水を含む含水系の有機系液体であってもよい。
【0019】
(有機溶媒)
有機液が含む有機溶媒としては、例えば、炭化水素系の非極性溶媒であるトルエン、キシレン、ヘキサン及び流動パラフィンなどの非極性溶媒、そして、メタノール及びエタノールなどのアルコール、酢酸などの有機酸、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミドなどの極性溶媒、そして酢酸エチルなどの有機酸エステルが挙げられる。
【0020】
<耐有機液性の有機高分子>
本実施形態において、「耐有機液性」は、必ずしも「全てのあらゆる有機液に対する耐性」を指すものではない。「一部の有機液に対する耐性、あるいは、一部の濃度範囲における耐性」を有する場合も「耐有機液性」とする。
本願明細書では、一態様において、「一部の有機液における耐性」とは、メタノール、エタノール、トルエン、キシレン、ヘキサン、流動パラフィン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸、酢酸エチル、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミドからなる群から選択される少なくとも1つの有機溶媒を含む有機液に対して、耐性を有することを意味する。
本願明細書では、一態様において、「一部の濃度範囲における耐性」は、処理対象とする有機液の濃度に応じて求められる耐性が異なることを意味する。例えば、一態様において、処理対象とする有機液の濃度が10質量%(例えば、メタノールの含有量が10質量%で水の含有量が90質量%の含水メタノール液)であれば、濃度10質量%の有機液に対する耐性があればよい。
なお、ここでいう「耐性」とは、その有機液に対する膨潤等の物理的化学的変化の程度が小さく、濾過等の実使用上に問題を呈さないことを言う。
【0021】
即ち、耐有機液性の有機高分子とは、処理対象となる有機液に対して、多孔性中空糸膜にした状態で浸漬させても、膜の溶解が起こらず、かつ、膜の長さの伸び率が、浸漬前後で5%以下、好ましくは3%以下となる有機高分子である。
より詳細には、処理対象となる有機液に対して、多孔性中空糸膜にした状態で浸漬させても、膜の溶解が起こらず、かつ、膜の長さの伸び率が、浸漬前後で5%以下、好ましくは3%以下であれば、その多孔性中空糸膜を構成する有機高分子は、耐有機液性が有ると言える。
中空糸膜の長さの伸び率(%)は、(有機液浸漬後の中空糸膜の長さ-有機液浸漬前の中空糸膜の長さ)÷有機液浸漬前の中空糸膜の長さ×100で表される。
中空糸膜及び複合半透膜の有機液への浸漬は、処理対象とする有機液の濃度相当の有機液に、長さ変化が飽和する(長さが実質的に変化しなくなる)まで浸漬を行うことにより、実施される。浸漬を行う時間(長さ変化が飽和する時間)は、数十分~一時間程度あれば充分であることが多い。
また、有機液浸漬前後の中空糸膜の長さは、中空糸膜の片端を起点として、もう一方の端を終点とする膜の長手方向における長さとして、定規を用いて測定できる。
【0022】
本実施形態の中空糸状複合半透膜に係る多孔性中空糸膜を構成する耐有機液性の有機高分子としては、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロース、セルロース誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、エチレン-四フッ化エチレン共重合体、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン及びポリベンツイミダゾールからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
つまり、本実施形態の中空糸状複合半透膜に係る多孔性中空糸膜を構成する耐有機液性の有機高分子として、単独又は複数種の有機高分子の混合物を挙げることができる。これらの中から、処理対象とする有機液に耐性を持つ有機高分子を選んで用いることができる。
【0023】
例えば、ポリサルホン系の有機高分子(ポリサルホン、ポリエーテルサルホン)は、アルコール系の有機液(メタノール、エタノール等)には耐性を持ち、アセトニトリルのような有機液にもある程度の濃度までは耐性を持つ。
ポリアミドイミド、セルロース誘導体(酢酸セルロースなど)及びポリフッ化ビニリデンも、有機液に対する耐性の程度は、ポリサルホン系の有機高分子とほぼ同様である。
ポリアクリロニトリルは、テトラヒドロフランのような有機液にも耐性を持ち、ポリサルホン系の有機高分子以上に広く有機液に対する耐性を持つため、処理対象とできる有機液の範囲が広くできるという点では、より好ましい有機高分子である。
ポリアミド、ポリエチレン及びポリプロピレンは、さらに多くの有機液に耐性を持ち、さらに好ましい有機高分子である。
ただし、例えばトルエン系の有機液に対しては、ポリエチレンよりもポリアクリロニトリルの方が、耐性が高く、処理対象の有機液の種類によっては、好ましい有機高分子は、変わり得る。
【0024】
ポリケトンは、ほとんどの有機液に対して耐性を持つため、有機液耐性の点ではオールマイティに近い有機高分子であり、耐有機液性の有機高分子として、特に好ましい。
ポリケトンは、一酸化炭素とオレフィン(一態様において、エチレン、プロピレン等)との共重合体である(オレフィンとして2種以上を共重合されていてもよい)。
ポリケトンの分子量は、特に制限は無いが、多孔性中空糸膜への成形のしやすさや機械的強度の観点から、極限粘度にて0.5dL/g以上、5dL/g以下が好ましい。ポリケトンの極限粘度は、例えば特開2015-203048号公報記載の方法にて測定できる。
【0025】
なお、ポリ四フッ化エチレン、ポリイミド、セルロース、エチレン-四フッ化エチレン共重合体、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン及びポリベンツイミダゾールもほとんどの有機液に対して耐性を持つが、製膜する際に工夫が必要な場合がある。
一方でポリケトンは、ほとんどの有機液に対する耐性を持つ上に、製膜性を両立できるため、本実施形態の中空糸状複合半透膜に係る多孔性中空糸膜を構成する耐有機液性の有機高分子として特に好ましい。
【0026】
<多孔性中空糸膜>
多孔性中空糸膜は、半透性機能を持つ緻密な薄膜層(本実施形態においては、酸化グラフェン層)を乗せる基材となる膜で、複合半透膜の機械的強度を支える、重要な機能を持つ。その一方で、液体の透過抵抗は低いことが好ましいため、多孔性構造の膜が適している。
【0027】
多孔性中空糸膜は、その表面(本実施形態においては内表面)に半透性機能を持つ緻密な薄膜層(酸化グラフェン層)を欠陥なく乗せるために、緻密な薄膜層と接する部分(多孔性中空糸膜の内表面部分)の孔径は、ある程度小さい、すなわち、数ナノメートルから数百ナノメートルの範囲が好ましい。当該孔径は、好ましくは、5nm以上かつ500nm以下、より好ましくは10nm以上かつ300nm以下である。
なお、多孔性中空糸膜全体として、液体の透過抵抗は低いことが好ましいため、緻密な薄膜層(酸化グラフェン層)と接していない部分(多孔性中空糸膜の内表面とその近傍以外の大部分の断面部分)の孔径は、数ナノメートルから数百ナノメートルの範囲よりも大きい孔径も許容される。当該孔径は、例えば、孔の大きさが数10μmを超えるボイド孔を含んでいてもよい。
多孔性中空糸膜の孔径は、走査型電子顕微鏡を用いて、測定される値であり、以下の通り、測定する。
多孔性中空糸膜に導電処理を行い、観察用サンプルを作製する。
作製したサンプルを走査型電子顕微鏡により、観察して画像を取得する。観察するときの倍率の目安は、数μm~数百nmレベルの大きさの観察を行う場合は、1,000倍~20,000倍、数十nmレベルの大きさの観察を行う場合は、10,000倍~50,000倍程度が適切である。
取得した画像から孔部を識別する黒白二値化等の画像処理を行い、多孔性中空糸膜の孔径を測定する。
【0028】
多孔性中空糸膜の断面の巨視的構造は、スポンジ状構造でも、ボイドを含む構造でも許容される。このような構造の多孔性中空糸膜は、限外濾過膜及び精密濾過膜として知られる範疇の膜に該当する。多孔性中空糸膜の各部分の構造は、例えば走査型電子顕微鏡観察により確認をすることができる。
【0029】
多孔性中空糸膜の空隙率は特に限定されないが、液体の透過抵抗を低くする観点から、及び機械的強度を確保する観点から、50%~95%が好ましく、60%~90%がより好ましく、70%~85%がさらに好ましい。多孔性中空糸膜の空隙率は、下記数式(1)により算出できる。
空隙率(%)=(1-G・ρ-1・V-1)×100 ・・・数式(1)
(数式(1)中、Gは支持層の質量(g)であり、ρは支持層の質量平均密度(g/cm)であり、Vは支持層の体積(cm)である。)
空隙率測定用の多孔性中空糸膜サンプルは、乾燥処理を行ったものを用いる。
Gは、多孔性中空糸膜サンプルに対し、天秤(電子天秤等)を用いて測定される。
ρは、多孔性中空糸膜を構成する有機高分子の文献値を用いることができる。
Vは、多孔性中空糸膜サンプルの外径、内径及び長さを測定した後、{(外径/2)π-(内径/2)π}×長さにより算出できる。
【0030】
「中空糸膜」は、直径(外径)が1cm以下の管状の膜である。膜は、実際に濾過分離等で使用する際には、膜を容器の中に収めて被処理流体側と膜を透過した流体側とを隔離シールした「モジュール」という形で用いられる。
中空糸膜は、他の形態の膜(シート状の膜(平膜)等)に比べ、容器の中に収める際に、単位容積当たりに充填できる膜面積を大きくでき得るので、コンパクトなモジュール(即ち、コンパクトな膜濾過設備)にすることができるため、中空糸膜は、工業的実用に適した膜形態である。
【0031】
容積当たりの充填膜面積を大きくするためには、中空糸膜の直径(外径)は小さい方が好ましい。
一方、中空糸膜の直径(外径)が小さくなりすぎると必然的に中空糸膜の内径も小さくなるため、中空部分を流れる流体の圧力損失調整の観点から、中空糸膜の直径(外径)としては、好ましくは5mm以下かつ0.3mm以上、より好ましくは3mm以下かつ0.4mm以上である。
中空糸膜の内径及び外径は、中空糸膜サンプルを輪切りにした切片を、光学顕微鏡を使用して観察することで測定する。
【0032】
また、中空糸膜の内外径比(外径÷内径)の値は、膜の機械的強度及び膜断面を透過する流体の透過抵抗の両面から重要である。
機械的強度の観点からは内外径比は大きいほど好ましく、透過抵抗の観点からは小さい方が好ましい。中空糸膜の内外径比は、好ましくは1.3以上3.0以下、より好ましくは1.4以上2.5以下である。
【0033】
<酸化グラフェン>
酸化グラフェンは、グラファイト(黒鉛)の構成要素であるグラフェン(炭素六員環のsp共役構造が平面状に発達した二次元(平板状)シート)の炭素の一部が酸化されて、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基等の官能基が固定された二次元(平板状)シートである。極性の官能基(水酸基、カルボキシル基等)を有するため、水等の極性溶媒中に薄片状で分散しやすい性質を持つ。
【0034】
この性質を利用し、酸化グラフェンの薄片(例えば厚み1nm程度、長さ1μm~数μm程度)を多孔性中空糸膜の内表面上に密に薄く積層(平板を積み重ねた層)することで、多孔性中空糸膜の内表面上に酸化グラフェン層を形成することが可能になる。例えば、水のような極性溶媒中に酸化グラフェンの薄片を分散させた液体を多孔性中空糸膜に内表面側から濾過することで、多孔性中空糸膜の内表面上に酸化グラフェンを密に薄く積層することが可能である。なお、酸化グラフェンのような平板状の物質を、中空糸膜表面のような曲率を持つ表面上に積層をする試みは、従来ほとんど行われてきていなかった。
本実施形態の複合半透膜は、多孔性中空糸膜の内表面上に、酸化グラフェン層を積層しているので、半透性機能を持つ酸化グラフェン層が、傷を受けるリスクを減らすことができる。
また、本実施形態の複合半透膜の利用形態の1つである「有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等」を行う場合に、濃縮度を高める観点等から、有価物を複合半透膜の中空部内に濃縮することができるため、多孔性中空糸膜の内表面側に半透性機能を持つ緻密な薄膜層(酸化グラフェン層)を積層することが好ましい。
【0035】
積層された酸化グラフェン薄片間の隙間(上下に存在する酸化グラフェン薄片との平板間の微小な隙間、横方向に隣接する酸化グラフェン薄片との薄片端部間の微小な隙間)が、液中の溶解溶質分離を行うことが可能な半透性機能(分子篩機能)(物理的サイズ分離及び/又は化学的相互作用(静電力、水素結合、疎水性相互作用等)による分離)を持ち得る。
【0036】
酸化グラフェン薄片は、例えば、Improved Hammer’s法(D.C. Marcano et al., ACS Nano., 4 (2010) 4806-4814参照)により作製ができる。
また、酸化グラフェン薄片は、市販品、例えば、Sigma-Aldrich 製の酸化グラフェン水溶液としても入手できる。
【0037】
酸化グラフェンは、各種後処理を施して用いることもできる。後処理としては、例えば化学的な還元処理(カルボキシル基を水酸基に転化する等)、物理的な超音波処理(酸化グラフェン薄片を細かくする)などを1種あるいは複数種組み合わせた処理を行うことができる。
還元処理を行うと酸化グラフェン表面の化学的性質が変わるため、半透性機能における化学的相互作用の調整ができる。また、還元処理を行うと酸化グラフェン薄片間の相互作用程度(斥力や引力の程度)が変わりうるため、酸化グラフェン薄片間の距離の調整も可能になりうる。
酸化グラフェンの還元処理は、例えば、酸化グラフェンの水中分散液に、グルコース水溶液及びアンモニア水溶液を加えて混合し、加熱処理(例えば95℃で1時間等)することで行うことができる。
また、超音波処理を行うと、酸化グラフェン薄片平板間の隙間を液が流れる距離が短くなり得るため、液の透過抵抗の低減につながり得る。
超音波処理は、例えば酸化グラフェンの水中分散液に超音波処理をすることで実施できる。
【0038】
<酸化グラフェン層>
一態様に係る複合半透膜においては、耐有機液性の有機高分子で構成される多孔性中空糸膜の内表面上に、酸化グラフェンの薄片(例えば厚み1nm程度、長さ1~数μm程度)が薄く積層されている。
酸化グラフェン層の厚みは、欠陥(酸化グラフェン薄片の無い部分)が生じない程度に厚く、液体の透過抵抗にならない程度に薄いことが望ましく、数nm~1μmが好ましい。より好ましくは、酸化グラフェン層の厚みは、10nm~500nmであり、さらに好ましくは15nm~200nmであり、特に好ましくは20nm~100nmである。
酸化グラフェン層の厚みは、例えば、複合半透膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察することによって測定することができる。
酸化グラフェン層の厚みは、走査型電子顕微鏡を用いて、測定される値であり、以下の通り、測定する。
複合半透膜に導電処理を行い、観察サンプルを作製する。
作製したサンプルを走査型電子顕微鏡により観察して画像を取得する。数百nm~数十nmの大きさを観察するので、倍率は、5,000倍~50,000倍程度が適切である。
取得した画像から酸化グラフェン層を目視で識別し、その厚みを定規で測定し、観察倍率を考慮して、酸化グラフェン層の厚みを測定する。
【0039】
耐有機液性の有機高分子で構成される多孔性中空糸膜の内表面への酸化グラフェンの積層は、例えば、酸化グラフェン薄片の懸濁液を、多孔性中空糸の内表面から外表面に向けて加圧濾過する(あるいは、多孔性中空糸膜の内表面から外表面に向けて吸引濾過する)ことにより、実施できる。
酸化グラフェン層の厚みは、濾過する酸化グラフェン薄片の懸濁液中の酸化グラフェン濃度及び濾過液量により制御可能である。酸化グラフェン薄片の懸濁液の懸濁媒体としては、用いる多孔性中空糸膜に耐性があるものであれば特には制限されないが、水やアルコールを用いることができる。
また、内表面から外表面への濾過方式も特には制限されず、全濾過方式でもクロスフロー濾過方式でもよい。なお、膜形態が中空糸膜状の場合、膜形態が平膜状の場合に比べて膜全体への濾過液の均質性が高いクロスフロー濾過方式の実施が容易であり、その結果として、膜の内表面への酸化グラフェン薄片を積層する条件選定の自由度が大きいという利点がある。
【0040】
酸化グラフェン薄片の懸濁液中の酸化グラフェンの濃度は、低すぎると積層に必要な液量が多くなり、また高すぎると均一な積層が困難になるため、0.20mg/L以上1.50mg/L以下が好ましい。
酸化グラフェン薄片を積層するときの濾過圧力(内外表面間の膜間差圧)は、平均値として0.10bar以上2.50bar以下が好ましい。
また、クロスフロー濾過方式で酸化グラフェン薄片を積層する場合のクロスフロー線速度は、1cm/s以上100cm/s以下が好ましい。
【0041】
酸化グラフェン薄片平板間の隙間距離の調整及び安定化のために、酸化グラフェン薄片平板間の架橋を行うこともできる。例えば、正荷電及び/又は正荷電性の化合物を酸化グラフェン薄片平板間に添加することで架橋できる。例えば、酸化グラフェン積層時に用いる酸化グラフェンの懸濁液中に、正荷電及び/又は正荷電性の化合物を添加することで行うことができる。
正荷電及び/又は正荷電性の化合物は、酸化グラフェン表面の負荷電性官能基(カルボキシル基等)と相互作用をすることで、酸化グラフェン薄片平板間の距離の調整や安定化に寄与するものと推測される。
正荷電及び/又は正荷電性の化合物としては、例えば、金属イオン(カリウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン(3価)、アルミニウムイオン(3価)など)、アミン化合物(トリエタノールアミン、エチレンジアミンなど)を挙げることができる。
【0042】
酸化グラフェン層中のアミン化合物の存在の確認は、例えばX線光電子分光法(XPS)にて、窒素原子の検出を行うことでできる。
また、赤外線吸収分析法(FT-IR法等)により、N-H結合に基づく波長1500~1600cm-1の吸収の存在からアミン化合物の存在を確認することも可能である。
酸化グラフェン層中の金属イオンの存在の確認は、例えば、蛍光X線分析(XRF)、X線光電子分光法(XPS)などの元素分析手段により、金属元素の検出を行うことでできる。
【0043】
<用途>
本実施形態における中空糸状複合半透膜は、有機系液体の処理(例えば、有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等の処理など)に使用することができる。
「有機液中の中低分子有価物」及び「有機液中の高分子有価物」とは、本願明細書において、有機液中に溶解している溶質であり、それぞれ、分子量が10,000以下の有価物及び分子量が10,000超の有価物を意味する。
例えば、本実施形態における中低分子有価物としては、医薬品(医薬原薬)、各種の生理活性物質、ペプチド系化合物、核酸、香料、色素及び均一系触媒等が挙げられる。
本実施形態の複合半透膜によれば、耐有機液性を有し膨潤等の物理的化学的変化が小さく、透過性能に優れるため、有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等の処理に使用できる。
【0044】
<膜性能評価>
本実施形態の膜の性能には、透液性能及び阻止性能があり、それぞれ透液量及び溶質阻止率によって評価することができる。これら膜性能は、基本、室温(25℃)にて評価を行う。
ここで、透液量とは、加圧濾過における膜を透過した膜面積あたりの溶液量(単位:L・m-2・h-1・bar-1)であり、例えば0.1~5barの範囲で加圧した純水及びメタノール等の種々の溶液の膜面積あたりの膜を透過した溶液量(単位:L・m-2・h-1・bar-1)である。
溶質阻止率は、溶質を含む供給溶液の加圧濾過において、100×{(1-膜を透過した透過液中の溶質濃度(重量%)/供給溶液中の溶質濃度(重量%))}で算出される値(単位:%)である。
透液量で示される透液性能と溶質阻止率で示される阻止性能は、通常トレードオフの関係にあり、両方の性能を両立することは難しい。しかし、本実施形態の複合半透膜によれば、透液性能と阻止性能のバランスが良く両立できるため、有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等の処理に優れる。
【0045】
溶質阻止率の試験に用いる試験用溶質としては、一態様において、水系液では硫酸ナトリウム(分子量142)、エバンスブルー(分子量961)、ポリエチレングリコール(分子量数百~数万程度、例えば、分子量400、600、1000、2000、6000及び10000等)及びデキストラン(分子量1万~200万)が挙げられる。
また、溶質阻止率の試験に用いる試験用溶質としては、一態様において、アルコール系の有機系液では、メチルオレンジ(分子量327)、アシッドレッド265(分子量636)及びエバンスブルー(分子量961)が挙げられる。
溶質阻止率の試験に用いる溶液は、一態様において、水系液では、上記試験用溶質の水溶液が挙げられる。
また、溶質阻止率の試験に用いる溶液は、一態様において、有機系液では、上記試験用溶質のメタノール溶液などが挙げられる。
上記に示す中低分子量の溶質群のうち少なくとも1つの試験用溶質を含む溶液における溶質阻止率が50%~100%である複合半透膜は、特に分子量が中~低範囲の有価物の分離精製に有用であり得る。
【実施例0046】
以下、本発明の実施の形態を実施例等によってさらに具体的に説明するが、本発明の実施の形態は、これらの実施例にのみ限定されるものではない。以下、ppmとは質量ppmのことを指す。
【0047】
(比較例1)
国際公開第2022/004738号の実施例1に記載の方法に従い、ポリケトンより成る、外径0.8mm、内径0.5mm、空隙率78%、最大孔径130nmの多孔性中空糸膜を得た。
【0048】
得られた多孔性中空糸膜の内表面及び内表面近傍の膜断面の走査型電子顕微鏡画像(日本電子株式会社製、JSM-7500Fを用いて測定)を、図1a~cに示す。
図1aより、多孔性中空糸膜の内表面には、0.1μm近辺のサブミクロンオーダーの孔径の孔が多数観察されるため、中低分子量の有価物の阻止(濃縮)は難しい(中低分子有価物の分離精製濃縮は難しい)ことが画像から分かる。
その一方で、上記サブミクロンオーダーの孔が多数存在することから、本実施形態における、酸化グラフェン層を積層するための多孔性中空糸膜としては、好適であることが分かる。
図1b及び図1bをより高倍率で観察した図1cより、多孔性中空糸膜には、内表面のみでなく断面部分においてもサブミクロンオーダーあるいはより大きなミクロンオーダーの大きさの孔が連続的に存在し、表面部分だけでなく、断面部分においても、中低分子量の有価物の阻止(濃縮)は難しい(中低分子有価物の分離精製濃縮は難しい)ことが画像から分かる。
その一方で、連続した(連通した)サブミクロンオーダーからミクロンオーダーの孔が多数存在することから、本実施形態における、酸化グラフェン層を積層するための多孔性中空糸膜としては、好適であることが分かる。
【0049】
得られた多孔性中空糸膜の膜性能評価を25℃にて、以下の条件で行った。
得られた多孔性中空糸膜の中空部に純水及び純メタノールを0.35barにて注入し全濾過を行ったところ、透液量はそれぞれ、2434L・m-2・h-1・bar-1及び2794L・m-2・h-1・bar-1であった。
また、溶質としてエバンスブルー(分子量961)を濃度10ppmで溶解した水溶液を中空部に、中空部入側の流量6.7mL/分、中空部入側の圧力0.15bar、中空部出側の圧力は大気開放にてクロスフロー濾過を行ったところ、透液量581L・m-2・h-1・bar-1及び溶質阻止率0%であった。
また、溶質としてエバンスブルー(分子量961)を濃度10ppmで溶解したメタノール溶液を中空部に、中空部入側の流量6.7mL/分、中空部入側の圧力0.25bar、中空部出側の圧力は大気開放にてクロスフロー濾過を行ったところ、透液量503L・m-2・h-1・bar-1及び溶質阻止率0%であった。
なお、得られた多孔性中空糸膜の純メタノール(濃度100質量%)への浸漬を実施したが、浸漬による膜の長さの変化は、生じなかった(膜の長さの伸び率は0%であった)。
【0050】
以上の結果から、ポリケトンは耐有機液性の有機高分子であること、及び作製した多孔性中空糸膜は有機系液(少なくとも純メタノール)に対し耐性を有し、有機系液(少なくとも純メタノール)の濾過等の処理には問題なく使用できることが分かる。
以上より、比較例1の多孔性中空糸膜は、阻止性能の観点から有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等に使用することは困難であるが、酸化グラフェン層を積層するための耐有機液性の有機高分子で構成される多孔性中空糸膜としては好適であることが分かる。
【0051】
(実施例1)
酸化グラフェン懸濁液として、Sigma-Aldrich 製の酸化グラフェン水溶液(4.0mg/mL)に純水を加えて調製した、酸化グラフェン濃度0.33mg/Lの酸化グラフェン懸濁液(動的光散乱法による平均粒子径2.3μm)を作製した。
比較例1で得られた長さ約20cmの多孔性中空糸膜の中空部に、この懸濁液を、中空部入側の流量6.7mL/分、中空部入側の圧力1.6bar、中空部出側の圧力1.5barにて、中空部入側でのクロスフロー線速度53cm/sでクロスフロー濾過を行い(透過液量として150mL)、多孔性中空糸膜の内表面上への酸化グラフェンの積層を行い、中空糸状複合半透膜を作製した。
【0052】
得られた中空糸状複合半透膜の内表面及び内表面近傍の膜断面の走査型電子顕微鏡像画像(日本電子株式会社製、JSM-7500Fを用いて測定)を、図2a~cに示す。
図2aより、中空糸状複合半透膜の内表面には、比較例1の膜で観察された、例えばサブミクロンオーダーの孔が観察されず、酸化グラフェン層にて表面が(少なくとも観察視野内では)欠陥無く覆われていることが観察されるため、阻止性能の観点からは、中低分子有価物の分離精製濃縮に適する膜になっている可能性があることが分かる。
図2b及び図2bをより高倍率で観察した図2cを、図1b及び図1bをより高倍率で観察した図1cとそれぞれ比較しながら観察することにより、中空糸状複合半透膜の内表面近傍には、薄膜状に形成された酸化グラフェン層が観察されるため、透液性能及び阻止性能に優れた(即ち、透過性能に優れた)中空糸状複合半透膜になっている可能性があることが分かる。
【0053】
得られた中空糸状複合半透膜の内表面における酸化グラフェン層の厚みの範囲は観察視野内での最小値51nm~最大値64nmであった。
【0054】
得られた中空糸状複合半透膜に対し、中空部入側の圧力を1.6bar及び中空部出側の圧力を1.5barにした以外は、比較例1における多孔性中空糸膜の膜性能評価と同様の膜性能評価を行ったところ、純水の透液量は23L・m-2・h-1・bar-1及び純メタノールの透液量は29L・m-2・h-1・bar-1であった。
また、水系液であるエバンスブルー水溶液の透液量は19.1L・m-2・h-1・bar-1及び溶質阻止率は99.8%であった。
さらに、有機系液であるエバンスブルーのメタノール溶液の透液量は9.0L・m-2・h-1・bar-1及び溶質阻止率は54%であった。
【0055】
以上の結果は、後述の比較例2の多孔性平膜と比較しても、実施例1の中空糸状複合半透膜は水系液では、「透液量はほぼ同等であるが、溶質阻止率が高い」かつ、有機系液でも「溶質阻止率はほぼ同等であるが、透液量が多い」。即ち、実施例1の複合半透膜は透液量及び溶質阻止率が共に優れており、透液性能と阻止性能のバランスが良く両立できる「透過性能が高い膜」といえる。
以上の結果より、実施例1の複合半透膜は、透液性能と阻止性能のバランスが良く両立できるため、透過性能に優れており、有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等に使用できる。
【0056】
(比較例2)
一酸化炭素とエチレンとが完全交互共重合したポリケトン(極限粘度3.0dL/g)を、10重量%になるように、65重量%のレゾルシノール水溶液に溶解した。このポリケトン溶液を、ガラス板上に0.4ミリメートル厚みで流延した後、30重量%のメタノール水溶液の浴中に浸漬し、さらにアセトン及びヘキサンで洗浄し、ポリケトンより成る平膜状の多孔性膜を得た。この膜を、純水で洗浄することでポリケトン樹脂より成る多孔性平膜を得た。
【0057】
Improved Hammer’s法により作製した酸化グラフェン薄片を濃度5ppmで純水中に分散させた分散液を作製した(動的光散乱法(大塚子株式会社製、Photal ELSZ-1000を用いて測定)により測定した平均粒子径1μm)。この分散液を、上記の平膜に、膜面積当たり7mL/cmの量の濾過(全濾過方式での吸引濾過)を行い、酸化グラフェン層がポリケトン樹脂より成る多孔性平膜上に積層されて成る膜を得た。
【0058】
得られた膜を用い、水系液での性能を確認するために、濃度10ppmのエバンスブルー(分子量961)水溶液の加圧濾過を1.5barで行ったところ、透液量は21L・m-2・h-1・bar-1、エバンスブルーの溶質阻止率は65%であった。
【0059】
また、有機系液での性能を確認するために、濃度10ppmのエバンスブルー(分子量961)のメタノール溶液の加圧濾過を1.5bar、25℃で行ったところ、透液量は3.1L・m-2・h-1・bar-1及び溶質阻止率は50%であった。
【0060】
(比較例3)
特許第3317975号公報の例1に従い、アクリロニトリル91.5重量%、アクリル酸メチル8.0重量%、メタリルスルホン酸ナトリウム0.5重量%のポリアクリロニトリル系重合体からなる、外径1.35mm、内径0.75mmの多孔性中空糸膜を得た。
得られた多孔性中空糸膜のデキストラン阻止性能(溶質阻止率)を、以下のように測定した。
多孔性中空糸膜に対し、デキストランの0.1重量%水溶液を、濾過圧力0.5bar、線速度0.1m/秒及び室温(25℃)にて濾過を行った。透過液中のデキストラン濃度(重量%)を、屈折計等を用いて測定することで、デキストランの阻止率を測定した。
デキストランの阻止率は、100×{1-(透過液中のデキストラン濃度)/(膜に供給した供給液中のデキストラン濃度)}の式により、求めた。
平均分子量1万のデキストラン(Pharmacosmos社製、デキストランT-10)の阻止率は5%未満、平均分子量200万のデキストラン(Pharmacosmos社製、デキストランT-2000)の阻止率は95%であった。
【0061】
これらのデキストランの阻止率より、得られた多孔性中空糸膜は、高分子有価物の阻止(濃縮)はでき得るが、中低分子有価物(分子量が1万以下)の阻止(濃縮)は難しく、一般に「限外濾過膜」と呼ばれる範疇の膜であることが分かる。
また、純水及び純メタノール(濃度100質量%)を得られた多孔性中空糸膜の中空部に0.35barにて注入し全濾過を行い、純水及び純メタノールの透液量を測定したところ、それぞれ500L・m-2・h-1・bar-1及び725L・m-2・h-1・bar-1であった。
【0062】
得られた多孔性中空糸膜の内表面及び内表面近傍の断面の走査型電子顕微鏡像(日本電子株式会社製、JSM-7500Fを用いて測定)を、図3a~cに示す。図3b及び図3cから、膜断面にサブミクロンオーダーの多孔構造が存在していることが分かる。
なお、得られた多孔性中空糸膜の純メタノールへの浸漬を実施したが、浸漬による膜の長さの変化は、生じなかった(膜の長さの伸び率は0%であった)。
【0063】
以上より、比較例3の多孔性中空糸膜は、阻止性能の観点から有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等に使用することは困難であるが、酸化グラフェン層を積層するための耐有機液性の有機高分子で構成される多孔性中空糸膜としては好適であることが分かる。
【0064】
(比較例4)
ポリアクリロニトリル系重合体として、アクリロニトリル89.0重量%、アクリル酸メチル5.0重量%、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド6.0重量%からなる重合体、重合体の溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)及び、内部液としてDMSO水溶液(組成は、DMSO50重量%、水50重量%)を用いた以外は、特許第3317975号公報の例1と同様にして、外径1.35mm、内径0.75mmの多孔性中空糸膜を得た。
得られた多孔性中空糸膜のデキストラン阻止性能(溶質阻止率)を、比較例3と同様にして測定したところ、平均分子量1万のデキストラン(デキストランT-10)の阻止率は10%、平均分子量200万のデキストラン(デキストランT-2000)の阻止率は98%であった。
【0065】
これらのデキストランの阻止率より、得られた多孔性中空糸膜は、高分子有価物の阻止(濃縮)はでき得るが、中低分子有価物(分子量が1万以下)の阻止(濃縮)は難しく、一般に「限外濾過膜」と呼ばれる範疇の膜であることが分かる。
また、純水及び純メタノール(濃度100質量%)を得られた多孔性中空糸膜の中空部に0.35barにて注入し全濾過を行い、純水及び純メタノールの透液量を測定したところ、それぞれ300L・m-2・h-1・bar-1及び535L・m-2・h-1・bar-1であった。
【0066】
得られた多孔性中空糸膜の内表面及び内表面近傍の断面の走査型電子顕微鏡像(日本電子株式会社製、JSM-7500Fを用いて測定)を、図4a~cに示す。図4b及び図4cから、膜断面にサブミクロンオーダーの多孔構造が存在していることが分かる。
なお、得られた多孔性中空糸膜の純メタノールへの浸漬を実施したが、浸漬による膜の長さの変化は、生じなかった(膜の長さの伸び率は0%であった)。
【0067】
以上より、比較例4の多孔性中空糸膜は、阻止性能の観点から有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等に使用することは困難であるが、酸化グラフェン層を積層するための耐有機液性の有機高分子で構成される多孔性中空糸膜としては好適であることが分かる。
【0068】
(実施例2)
多孔性中空糸膜として、比較例3で得られた多孔性中空糸膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、多孔性中空糸膜の内表面上に酸化グラフェンの積層を行い、中空糸状複合半透膜を作製した。
得られた中空糸状複合半透膜の内表面及び内表面近傍の断面の走査型電子顕微鏡像(日本電子株式会社製、JSM-7500Fを用いて測定)を、図5a~cに示す。
図5b及び図5bをより高倍率で観察した図5cを、図3b及び図3bをより高倍率で観察した図3cとそれぞれ比較しながら観察することにより、中空糸状複合半透膜の内表面近傍には、薄膜状に形成された酸化グラフェン層が観察されるため、透液性能及び阻止性能に優れた(即ち、透過性能に優れた)中空糸状複合半透膜になっている可能性があることが分かる。
【0069】
得られた中空糸状複合半透膜の内表面上に積層された酸化グラフェン層の厚みは、観察視野内では、最小値10nm~最大値60nmであった。
【0070】
得られた中空糸状複合半透膜に対し、実施例1と同様の膜性能評価を行ったところ、純水の透液量は35L・m-2・h-1・bar-1及び純メタノールの透液量は80L・m-2・h-1・bar-1であった。
【0071】
また、水系液であるエバンスブルー水溶液の透液量は25L・m-2・h-1・bar-1及び溶質阻止率は99.5%であった。
【0072】
さらに、有機系液であるエバンスブルーのメタノール溶液の透液量は76L・m-2・h-1・bar-1及び溶質阻止率は57%であった。
【0073】
前述の比較例2の多孔性平膜と比較して、実施例2の中空糸状複合半透膜は水系液では、「透液量はほぼ同等で、溶質阻止率が高い」かつ、有機系液では、「溶質阻止率は高く、透液量も多い」。即ち、実施例2の複合半透膜は透液量及び溶質阻止率が共に優れており、透液性能と阻止性能のバランスが良く両立できる「透過性能が高い膜」といえる。
以上の結果より、実施例2の複合半透膜は、透液性能と阻止性能のバランスが良く両立できるため、透過性能に優れており、有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等に使用できる。
【0074】
(実施例3)
多孔性中空糸膜として、比較例4で得られた多孔性中空糸膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、多孔性中空糸膜の内表面上に酸化グラフェンの積層を行い、中空糸状複合半透膜を作製した。
得られた中空糸状複合半透膜の内表面及び内表面近傍の断面の走査型電子顕微鏡像(日本電子株式会社製、JSM-7500Fを用いて測定)を、図6a~cに示す。
図6b及び図6bをより高倍率で観察した図6cを、図4b及び図4bをより高倍率で観察した図4cとそれぞれ比較しながら観察することにより、中空糸状複合半透膜の内表面近傍には、薄膜状に形成された酸化グラフェン層が観察されるため、透液性能及び阻止性能に優れた(即ち、透過性能に優れた)中空糸状複合半透膜になっている可能性があることが分かる。
【0075】
多孔性中空糸膜の内表面上に積層された酸化グラフェン層の厚みは、観察視野内では、最小値10nm~最大値60nmであった。
【0076】
得られた中空糸状複合半透膜に対し、実施例1と同様の膜性能評価を行ったところ、純水の透液量は33L・m-2・h-1・bar-1及び純メタノールの透液量は75L・m-2・h-1・bar-1であった。
【0077】
また、水系液であるエバンスブルー水溶液の透液量は20L・m-2・h-1・bar-1及び溶質阻止率は99.8%であった。
【0078】
さらに、有機系液であるエバンスブルーのメタノール溶液の透液量は72L・m-2・h-1・bar-1及び溶質阻止率は60%であった。
【0079】
前述の比較例2の多孔性平膜と比較して、実施例3の中空糸状複合半透膜は水系液では、「透液量はほぼ同等で、溶質阻止率が高い」かつ、有機系液では、「溶質阻止率が高く、透液量も多い」。即ち、実施例3の複合半透膜は透液量及び溶質阻止率が共に優れており、透液性能と阻止性能のバランスが良く両立できる「透過性能が高い膜」といえる。
以上の結果より、実施例3の複合半透膜は、透液性能と阻止性能のバランスが良く両立できるため、透過性能に優れており、有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等に使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、化学工業や医薬工業等での有機系液体の処理(有機液中の中低分子有価物の分離精製濃縮等の処理)等、幅広い産業分野での利用が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6