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特開2024-113683施工性、粉砕処理性及び環境保全性に優れた軽量土壌被覆ガスバリヤーシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113683
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】施工性、粉砕処理性及び環境保全性に優れた軽量土壌被覆ガスバリヤーシート
(51)【国際特許分類】
   A01M 17/00 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
A01M17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024018304
(22)【出願日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2023018719
(32)【優先日】2023-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000101123
【氏名又は名称】アグロカネショウ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】田中 基晴
(72)【発明者】
【氏名】田中 一輝
(72)【発明者】
【氏名】美野 光哉
(72)【発明者】
【氏名】九冨 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】菊池 明日香
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA11
2B121AA20
2B121CA11
2B121CA13
2B121EA25
2B121FA15
2B121FA16
(57)【要約】
【課題】施工性、粉砕処理性及び環境保全性に優れた軽量土壌被覆ガスバリヤーシートを提供する。
【解決手段】以下の構成要素を有する。
(1)未晒の針葉樹パルプを80~100%含有する基紙の一面に対し生分解性ポリマー1を含浸した含浸基紙と、(2)前記含浸基紙の前記生分解性ポリマー1の含浸側に形成された生分解性ポリマー2により形成される塗膜層とを含む。前記基紙は、坪量50~75g/m2、緊度0.5~0.8g/cm3、湿潤引張強度(60分)(縦:T)0.18~0.5kN/m及び(横:Y)0.08~0.3kN/m、及び湿潤引張強度(60分)のY/T×100(%)が、40~60%を有する。前記含浸基紙における該基紙に対する生分解性ポリマー1の含浸塗工量(固形分)は、2~20g/m2であり、且つ、前記含浸基紙上に設ける前記塗膜層の生分解性ポリマー2の塗工量(固形分)は、2~20g/m2である。そして、前記土壌被覆ガスバリヤーシートは、2,500g/m2・24h未満の透湿度を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成要素、
(1) 未晒の針葉樹パルプを80~100%含有する基紙の一面に対し生分解性ポリマー1を含浸した含浸基紙、及び
(2) 前記含浸基紙の前記生分解性ポリマー1の含浸側に形成された生分解性ポリマー2により形成される塗膜層、を含み、
前記基紙が、坪量50~75g/m2、緊度0.5~0.8g/cm3、湿潤引張強度(60分)(縦:T)0.18~0.5kN/m及び(横:Y)0.08~0.3kN/m、及び湿潤引張強度(60分)のY/Tx100(%)が、40~60%を有する、土壌被覆ガスバリヤーシートであり、
前記含浸基紙における該基紙に対する生分解性ポリマー1の含浸塗工量が2~20g/m2で、且つ、前記含浸基紙上に設ける前記塗膜層の生分解性ポリマー2の塗工量が、2~20g/m2であり、
前記土壌被覆ガスバリヤーシートが、2,500g/m2・24h未満の透湿度を有する、
ことを特徴とする土壌被覆ガスバリヤーシート。
【請求項2】
前記基紙の引裂強度(縦:T)が、500~1500mNであり、引裂強度(横:Y)が、500~1700mNである、請求項1に記載の土壌被覆ガスバリヤーシート。
【請求項3】
前記基紙において生分解性ポリマー1を含浸する側の面の平滑度が、8~70秒である、請求項1に記載の土壌被覆ガスバリヤーシート。
【請求項4】
土壌被覆ガスバリヤーシートの透気度が、50,000秒以上である、請求項1に記載の土壌H被覆ガスバリヤーシート。
【請求項5】
前記基紙の破裂強度が、150KPa~350KPaである、請求項1に記載の土壌被覆ガスバリヤーシート。
【請求項6】
前記生分解性ポリマー1及び前記生分解性ポリマー2の重合度が、500~2400であり、且つ、前記生分解性ポリマー1及び前記生分解性ポリマー2のけん化度が、85~99mol%である、請求項1に記載の土壌被覆ガスバリヤーシート。
【請求項7】
前記生分解性ポリマー2が、充填剤を含有する、請求項1に記載の土壌被覆ガスバリヤーシート。
【請求項8】
前記充填剤が、カオリンクレー又は雲母である、請求項7に記載の土壌被覆ガスバリヤーシート。
【請求項9】
前記充填剤のアスペクト比が10~100である、請求項7に記載の土壌被覆ガスバリヤーシート。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一つに記載の土壌被覆ガスバリヤーシートの敷設方法であって、前記土壌被覆ガスバリヤーシートを、その生分解性ポリマー層を形成した側を下側にして、土壌消毒剤を混合した土壌表面に設置することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌消毒に用いる、生分解性の土壌被覆ガスバリヤーシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場における土壌消毒には、土壌消毒剤を土壌に混合して、一定期間、土壌を燻蒸することが行われているが、近年、農薬使用における環境負荷を軽減することが求められており、そのため、土壌消毒剤の使用量を抑えつつ、より高い燻蒸効果を発揮する使用方法が求められている。
【0003】
このような要請に対応するため、土壌消毒剤を土壌に注入する、あるいは土壌への散布と混和を行う処理を施した後、土壌表面上にポリ塩化ビニル(PVC)やポリエチレン(PE)などの素材からなる被覆シートで覆うことにより、土壌中でガス化した土壌消毒剤の有効成分を土壌外に散逸させないようにする方法が採られている。
そして、被覆シートで被覆したまま燻蒸期間を経た後、作物の播種又は植付前の処理として土壌をロータリー耕によりガス抜き作業を行うことになるが、このガス抜き作業の前に又はそれと同時に、土壌を覆っている被覆シートを除去する作業がある。
つまり、例えば、従来から採用されているPVC又はPE等の非生分解性素材の被覆シートは、土壌で分解しないため、被覆シートを手作業で除去する必要があり、加えて、使用後のシートを廃棄処分するといった問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-287458
【0005】
他方、近年、生分解性樹脂からなるフィルム素材が開発されているが、そのフィルム素材を、燻蒸期間経過後、ロータリー耕でガス抜き攪拌とともに土壌へ取り込むように土壌攪拌を行うと、回転刃に、短冊状で、フィルム素材がしつこく絡み付き、土壌中へ鋤き込むが困難となり、また、刃に絡み付いたフィルム樹脂を手作業により除去しなければならず、作業性及び取扱い性に問題があることが分かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の土壌被覆シートは、農業従事者にとって取り扱い易い重量であることはもとより、土壌中の農薬の有効成分をガスとして土壌外に散逸させることなく有効に土壌中に滞留させることができるガスバリヤー性を有するものであるとともに、生分解性素材からなるシートであっても、燻蒸処理期間が終了した後、ロータリー耕によるガス抜き作業と同時に土壌に容易に鋤き込み混和できるような破砕性又は細断性に優れた、軽量土壌被覆ガスバリヤーシートを提供することを目的とするものである。
【0007】
特に、本発明の土壌被覆シートは、生分解性素材からなるシートであっても、燻蒸処理期間が終了した後、ロータリー耕による土壌攪拌の時、回転刃に絡み付くことなく、土壌中に細断破片として鋤き込まれ、一定期間が経過すれば、土壌中にて細断されたシート破片が崩壊して分解する生分解性を有する、軽量土壌被覆ガスバリヤーシートを提供することを目的とするものである。
【0008】
また、本発明の土壌被覆シートは、生分解性素材からなるシートであっても、土壌消毒前の準備工程において、土壌表面を被覆するのにマルチャー機を用いて施工する時、例えば、展張作業で横方向に負荷がかかった場合でも、横方向へのある程度の伸びが得られ、マルチャー機による展張工程での破れ発生頻度などを著しく抑えることのできる、優れた展張効率を実現する、軽量土壌被覆ガスバリヤーシートを提供することを目的とするものである。
【0009】
ところで、土壌消毒における燻蒸ガスを土壌中に留めるために使用されるシートのガスバリヤー性を向上させるには、空気を通し難くすること、換言すれば、透気度(JIS P 8117)の値(秒)を高くすることのみでは達成することは難しい。本発明者らは、透気度が非常に高い値で空気を通し難いレベルであっても、一定期間、燻蒸ガスを土壌中に留め、土壌消毒剤が要求する効果まで燻蒸性能を高めるには、透湿度を合わせて検討することが肝要であることを見出した。
本発明者らは、本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートにおいて、基紙の構成及び含浸層及び塗膜層の材料の選択とともに、透気度が、例えば、20,000秒以上、好ましくは50,000秒以上、より好ましくは100,000秒以上とし、且つ、透湿度を、2,500g/m2・24h未満、好ましくは、1,900g/m2・24h未満、より好ましくは1,800 g/m2・24h未満に制御することが、高い燻蒸性能を達成できることを見出した。この範囲に制御することで、土壌消毒剤を混合した後、5日ないし1週間の間、土壌消毒剤の散逸を、土壌消毒剤混合直後の土壌消毒剤ガス濃度の6割以上で保持することが可能となり、その後の燻蒸期間に亘って、安定した土壌消毒剤ガス濃度を保持するための重要なファクターとなることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1に、本発明は、(1)未晒の針葉樹パルプを80~100%含有する基紙の一面に対し生分解性ポリマー1を含浸した含浸基紙、及び(2)前記含浸基紙の前記生分解性ポリマー1の含浸側に設けられた生分解性ポリマー2により形成される塗膜層を有し、
前記基紙が、坪量50~75g/m2、緊度0.5~0.8g/cm3、湿潤引張強度(60分)(縦:T)0.18~0.5kN/m及び(横:Y)0.08~0.3kN/m、及び湿潤引張強度(60分)のY/T×100(%)が40~60%である、土壌被覆ガスバリヤーシートであって、
前記含浸基紙における該基紙に対する生分解性ポリマー1の含浸塗工量(固形分)が2~20g/m2で、且つ、前記含浸基紙上に設ける前記塗膜層の生分解性ポリマー2の塗工量(固形分)が2~20g/m2であり、土壌被覆シートの透湿度が、2,500g/m2・24h未満の透湿度である、土壌被覆ガスバリヤーシートを提供する。
第2に、本発明は、前記基紙の引裂強度が(縦:T)500~1500mN及び引裂強度(横:Y)500~1700mNである、前記第1に記載の土壌被覆ガスバリヤーシートを提供する。
【0011】
第3に、本発明は、前記基紙において生分解性ポリマー1を含浸する側の面の平滑度が、8~70秒である、前記第1又は第2に記載される土壌被覆ガスバリヤーシートを提供する。
【0012】
第4に、本発明は、透気度が、50,000秒以上である、前記第1から第3のいずれか一つに記載される土壌被覆ガスバリヤーシートを提供する。
【0013】
第5に、本発明は、前記基紙の破裂強度が、150KPa~350KPaである、前記第1から第4のいずれか一つに記載される土壌被覆ガスバリヤーシートを提供する。
【0014】
第6に、本発明は、前記生分解性ポリマー1及び前記生分解性ポリマー2の重合度が、500~2400であり、且つ、前記生分解性ポリマー1及び前記生分解性ポリマー2のけん化度が、85~99mol%である、上記第1から第5のいずれか一つに記載される土壌被覆ガスバリヤーシートを提供する。
第7に、本発明は、前記生分解性ポリマー2が、充填剤を含有する、上記第1から第6のいずれか一つに記載の土壌被覆ガスバリヤーシートを提供する。
第8に、本発明は、前記充填剤が、カオリンクレー又は雲母である、上記第7に記載の土壌被覆ガスバリヤーシートを提供する。
第9に、本発明は、前記充填剤のアスペクト比が、10~100である、上記第7又は第8に記載の土壌被覆ガスバリヤーシートを提供する。
第10に、本発明は、上記第1から第9のいずれか一つに記載の土壌被覆ガスバリヤーシートの敷設方法であって、前記土壌被覆ガスバリヤーシートを、その生分解性ポリマー層を形成した側を下側にして、土壌消毒剤を混合した土壌表面に設置する方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートは、土壌を被覆し土壌消毒剤の有効成分を留めるガスバリヤー性、及び、土壌被覆する一定期間、風雨等の環境下においても高い耐候特性を有し、これらの特性だけでなく、農業従事者にとって取り扱い易いような軽量シートであり、更に、マルチャー機を用いて土壌消毒剤を含む土壌表面をシートで覆い展張作業するのに優れた展張性、燻蒸期間の終了後の土壌攪拌と同時にシートが細断され、土壌鋤き込み混合されるのに優れた細断性、更には、土壌中で崩壊し、分解する生分解性を備える。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記発明の課題を達成するための土壌被覆ガスバリヤーシートについて、以下、説明する。
本発明の一形態に係る土壌被覆ガスバリヤーシートは、(1)未晒の針葉樹パルプを80~100%含有する基紙の一面に対し生分解性ポリマー1を含浸した含浸基紙、及び(2)前記含浸基紙の前記生分解性ポリマー1の含浸側に設けられた生分解性ポリマー2により形成された塗膜層を備え、前記基紙が、坪量50~75g/m2、緊度0.5~0.8g/cm3、湿潤引張強度(60分)(縦:T)0.18~0.5kN/m及び(横:Y)0.08~0.3kN/m、及び湿潤引張強度(60分)のY/T×100%が、40~60%である、土壌被覆ガスバリヤーシートであって、 前記含浸基紙における基紙に対する生分解性ポリマー1の含浸塗工量(固形分)が、2~20g/m2で、且つ、前記含浸基紙上に設けられる前記塗膜層の生分解性ポリマー2の塗工量(固形分)が、2~20g/m2であり、土壌被覆シートの透湿度が2,500g/m2・24h未満である。
【0017】
基紙の説明
土壌被覆ガスバリヤーシートに使用される基紙は、環境保全性の観点から、セルロースパルプにより構成される。セルロースパルプとして、未晒の針葉樹パルプを含むことが、軽量であっても、基紙の強度を高める上で好ましい。未晒の針葉樹パルプに比較して、晒クラフトパルプや、半晒クラフトパルプは、繊維長が比較的短く、また、繊維幅も狭いため、本発明で採用される未晒の針葉樹パルプに比べて、基紙の強度が低くなるものと推測される。但し、下記で説明するように、晒クラフトパルプや、半晒クラフトパルプは、未晒の針葉樹パルプと組み合わせて、基紙の各種の強度が低下しない程度の適宜、少量で配合することができる。
使用される未晒の針葉樹パルプの算術平均繊維長は、一般に、0.60~1.00mm、好ましくは、0.70~0.85mmが好適である。
使用される未晒の針葉樹パルプの長さ加重平均繊維長は、一般に、1.50~2.00mm、好ましくは、1.80~1.95mmが好適である。
使用される未晒の針葉樹パルプの重量荷重平均繊維長は、一般に、2.50~3.00mm、好ましくは、2.55~2.80mmが好適である。
使用される未晒の針葉樹パルプの平均繊維幅は、一般に、25.0~30.0μm、好ましくは、27.0~29.0μmが好適である。
このような未晒の針葉樹パルプを使用するので、基紙は、生分解性であり、土中において徐々に分解される。
基紙を構成する未晒の針葉樹パルプの割合は、80質量%~100質量%であり、好ましくは、90質量%~100質量%である。
未晒の針葉樹パルプ以外のセルロースパルプを配合してもよいが、その場合、例えば、20質量%までであることが好ましい。そのようなセルロースパルプとしては、晒又は未晒の広葉樹や、晒針葉樹などのパルプが好適に上げられる。
繊維長及び繊維幅は、バルメット社製、繊維長測定機「VALMET FS5」を用いて、JIS-P8226:2011(ISO16065-2:2007)「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法」に準じて測定した。繊維分析計「VALMET FS5」は、希釈したパルプ繊維が繊維分析計内部の測定セルを通過する際の画像分析により高い精度でパルプ繊維の長さ、幅を測定できる。
【0018】
基紙の坪量(JIS P 8124)は、農業従事者が取り扱い易い程度の軽量性を得るためには、50~75g/m2、好ましくは50~60g/m2であることが適当である。また、マルチャー機に設置して展張作業を実施するうえで軽量性を確保するのが望ましく、他方、風雨に曝される環境下で使用されるため耐候強度も要するという観点から、緊度(又は密度)(JIS P 8118)は、0.5~0.8g/cm3、好ましくは0.5~0.75g/cm3、より好ましくは0.6~0.7g/cm3、であることが適当である。また、展張性の観点から、基紙の厚み(JIS P 8118)は、通常50~140μm、好ましくは60~120μm、より好ましくは65~80μmであることが適当である。
【0019】
また、土壌被覆ガスバリヤーシートは、通常、土壌消毒剤を含む土壌表面を覆う又は土壌表面に展張される際に、手作業にて行うほか、マルチャー機(トラクター)を利用する。マルチャー機(トラクター)を利用する場合、土壌表面をマルチャー機(トラクター)の進行方向に対して、シートの両端をマルチャー機の押さえ部で押さえながら、マルチャー機に付属する土寄せ部位でシート両端に土壌を盛りながら、本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートを展張する。
押さえ、土寄せ、土壌盛りという一連の操作は、マルチャー機によって自動的に行われるが、土壌被覆ガスバリヤーシートが、安定に地面に設置、固定され、風などにより、めくれ上がり、飛ばされないように、シートの少なくとも一部、特に、両側部において、土壌で盛って固定される。マルチャー機としては、通常のロータリー機に、マルチング張り装置が接続したものでもよい。そのようなマルチャーは、市販されており、例えば、(株)アグリアタッチ研究所などより販売されている。
【0020】
土壌被覆ガスバリヤーシートが土壌消毒を行う所定の期間に亘って、風雨などの天候によって、破れたりしない強度を得るという観点から、基紙の引張強度(JIS P 8113)は、(湿潤)引張強度とともに、適度な範囲にあることが求められる。
基紙の長手方向(縦方向:T)の引張強度(JIS P 8113)は、通常2~6kN/m、好ましくは、3~6kN/mであり、横幅方向(Y)は、通常1~4kN/m、好ましくは、1.5~2.5kN/mであることが適当である。また、Y/T×100(%)は、通常30~80%、好ましくは、40~60%、より好ましくは、40~50%であることが適当である。このような範囲にある土壌被覆ガスバリヤーシートによれば、横方向の引張強度は、より伸びに追従しつつも強度が保たれる傾向にあり、マルチャー機による展張の際、破れといった破損等の頻度が低下し、土壌消毒の燻蒸期間における強い風などの環境下でも耐え得る。
また、基紙の湿潤引張強度(60分)(JIS P 8135)は、土壌被覆ガスバリヤーシートが燻蒸期間に亘って、天候変化あるいは土壌からの水蒸気を封じ込める観点から、適度な範囲にあることが求められ、湿潤引張強度(60分)(縦:T)は、0.15~0.5kN/m、より好ましくは、0.2~0.3kN/mであり、横幅方向(横:Y)は、0.08~0.3kN/m、好ましくは、0.09~0.25kN/mであることが適当である。また、湿潤引張強度(60分)のY/T×100(%)は、40~60%、好ましくは、40~50%であることが適当である。
【0021】
長手方向(縦方向)の基紙の引裂強度(JIS P 8116)(T)は、通常500~1500mN、好ましくは500~1000mN、より好ましくは500~800mN、更により好ましくは500~650mNあり、横幅方向の引裂強度(Y)は、通常500~1700mN、好ましくは600~1500mN、より好ましくは650~900mN、更により好ましくは700~800mNであることが適当である。Y/T×100(%)は、通常100~150%、好ましくは110~140%、より好ましくは120~140%であることが適当である。このような範囲にある土壌被覆ガスバリヤーシートは、ロータリー耕でガス抜きと同時に細断され易くなり、土壌に均一的に鋤き込まれる効率が高くなり、土壌中でシート破片が崩壊し、分解される効率も非常に高くなる傾向となる。
【0022】
基紙の伸張率(JIS P 8113に基づく測定)を所定の範囲に制御することで、マルチャー機による展張作業の効率として、横方向への伸縮を確保しつつ展張の負荷がかかっても破れる頻度を抑えることが可能となるため、伸張率を制御するのが好ましい。縦方向(T)において、例えば、通常0.8~2.3%、好ましくは1.0~2.3%、より好ましくは1.0~1.8%程度に設定しておくことが良く、横方向(Y)において、例えば、通常4~7%、好ましくは4~6%、より好ましくは4~5.5%程度に制御することで、展張作業時の効率を維持しつつも、強度も確保できるため望ましい。
【0023】
基紙の破裂強度(JIS P 8112)は、例えば、通常150~350Kpa、好ましくは160~300Kpa、より好ましくは180~250Kpa、更により好ましくは185~200Kpaであることが適当である。このような範囲にある土壌被覆ガスバリヤーシートは、ロータリー耕で土壌攪拌してガス抜きと同時に細断される時、基紙のこの特性により、ロータリー機の刃に絡み付くこともなく細かく細断される傾向となる。
【0024】
基紙の透気度(JIS P 8117)は、通常5~50秒、好ましくは5~40秒、より好ましくは5~30秒、更により好ましくは5~20秒、特に好ましくは5~15秒であることが適当である。換言すれば、本発明で採用される基紙は、より目が粗くなっており、その分、土壌被覆ガスバリヤーシートとしてのシート重量が低下し、ロータリー耕でのガス抜きと同時にシートが細断される際に、ロータリー機の刃で容易に切断され易くなるとともに、生分解性の観点からもこのような範囲にあることでシート破片が土壌中で崩壊し完全に分解されるために望ましい。
【0025】
本発明で採用される基紙は、上記セルロースパルプを使用し、通常の抄紙方法によって製造することができる。基紙の透気度は、抄紙工程においてパルプフリーネス(JIS P 8121-2)を制御することによって所定の範囲におさめ、本発明に要請される特性を得ることができる。セルロースパルプのフリーネスを通常500~750ccの範囲で制御することにより、透気度を所定の範囲内にコントロールすることができる。
【0026】
また、必要に応じて、基紙に対する後述する生分解性ポリマーの含浸性を改善するために、サイズ性を付与してもよい。サイズ性を改善するサイズ剤としては、ロジンサイズ剤、エマルジョンサイズ剤、アルケニルコハク酸無水物、アルキルケテンダイマー等の中から選択して使用することができる。
【0027】
サイズ性は、ステキヒトサイズ度(JIS P 8122)として、例えば、通常5~50秒、好ましくは10~40秒、より好ましくは10~15秒であることが適当であり、コブサイズ10秒(JIS P 8140)として、例えば、5~20g/m2、好ましくは7~15g/m2、より好ましくは11~15g/m2であることが適当である。コブサイズ度及びステキヒトサイズ度は、特に基紙への水の浸透性を評価するものだが、本発明においては、上記の基紙を用いて後述する含浸ポリマー1を用いて透気度を制御しつつ所定の含浸基紙を得るために、上記範囲とすることが望ましい。
【0028】
含浸基紙の上に更に塗膜層を形成する際に、含浸ポリマーの含浸の程度、更にその上に塗膜層を形成した時の密着性、特に、塗膜層でピンホール発生を制御する観点から、基紙の平滑度(JIS P 8119)を制御することが適当である。例えば、平滑度は、通常5~70秒、好ましくは5~40秒、より好ましくは10~25秒、更により好ましくは7~20秒の範囲となる程度とすることが適切である。
【0029】
生分解性ポリマー
上記のように形成された基紙の一面に対しては、含浸用ポリマー(生分解性ポリマー1)を含浸させることによって、含浸基紙を得た後、更に、その含浸層上に生分解性ポリマー2を塗工して、塗膜層を形成する。
生分解性ポリマー1又は生分解性ポリマー2として適用するポリマーは、生分解性ポリマーが溶媒に可溶であり、かつ基紙の表面上に塗工されるものである限り、各種の生分解性ポリマーを使用することができる。
有機溶媒の使用を避ける環境においては、水に可溶性である生分解性ポリマーが好ましく、特に、ポリビニルアルコールが好ましい。生分解性ポリマーとして、重合度500~2400、好ましくは600~2300、より好ましくは700~2000、更により好ましくは800~1500程度であることが好適である。生分解性ポリマーのけん化度(JIS K 6725)は、85~99mol%、好ましくは90~99mol%、より好ましくは98~99mol%の範囲にあることが適当で、且つ、その粘度(JIS K 6725)は、3~70mPas(4%溶液、20℃)、好ましくは10~60mPas(4%溶液、20℃)、より好ましくは10~50mPas(4%溶液、20℃)、更により好ましくは10~40mPas(4%溶液、20℃)であることが適当である。
【0030】
本発明において、含浸基紙に用いる含浸ポリマー(生分解性ポリマー1)と、その上に形成する塗膜層に用いる生分解性ポリマー2は、同じものを使用することができる。例えば、本発明における基紙の適用されるポリビニルアルコールは、重合度が、例えば、500~2400、好ましくは700~2000、より好ましくは800~1500であり、けん化度は85~99mol%、好ましくは90~99mol%、より好ましくは98~99mol%であり、粘度が、例えば、3~70mPas(4%溶液、20℃)、好ましくは、10~50mPas(4%溶液、20℃)であることが適当である。
このようなポリビニルアルコールを使用することで、上述のとおり、湿潤引張強度60分又は引張強度において上述の強度特性を有する、比較的目の粗い基紙との組合わせにより、土壌被覆ガスバリヤーシートは、土壌中での分解性が高い基紙を使用しても、燻蒸ガスのガスバリヤー性を高めることが可能となる。
【0031】
充填剤
本発明における含浸基紙上に形成する含浸層及び塗膜層に用いる塗膜ポリマー(生分解性ポリマー1及び2)には、適宜、充填剤を配合してもよい。このような充填剤を配合することにより、使用する生分解性ポリマーの量を相対的に低減することができる。そのような充填剤として、例えば、カオリンクレーや雲母などの充填剤を使用することができる。また、カオリンクレーとして、例えば微粒クレー、2級クレー、1級クレー、エンジニアードクレー等が好適なものとして挙げられる。
充填剤のアスペクト比としては、例えば、5~1000のものが適当であり、好ましくは、10~200、より好ましくは、10~100である。アスペクト比を扁平な形状のものとすると通気度(秒)を上昇させ通気性を抑制する傾向にあるが、扁平の度合を高くコントロールするだけでは本発明の基紙の特性において目的とするガスバリヤー性を獲得するのは容易ではない。例えば、アスペクト比が、20よりも小さい粒子形の充填剤を使用することで、含浸基紙の構造において柔軟性のあるシートを得ることに有利に作用しなお且つガスバリヤー性を高めることができる。なお、充填剤のアスペクト比の下限としては、5程度が好ましい。充填剤のアスペクト比が5未満であると、充填剤の配向性が低下し易く、ガスバリヤー性が低下する傾向にある。
【0032】
ここで、アスペクト比とは、無機粒子の形状で、その長径(最長径)と厚さ(最短径)との比をいう。上記アスペクト比は、例えば、レーザー回折・散乱式の粒子分布測定装置堀場製作所製、Horiba LA 950による粒子画像解析や粉体粒子を電子顕微鏡で撮影し、ランダムに抽出した500個について、直径を厚さで割って平均値を求めることで得ることができる。
充填剤の平均粒子径としては、例えば、0.2μm~7.0μmが好適である。平均粒子径は、レーザー回析散乱法により測定された粒度分布曲線の50%体積%粒子径であるメジアン径(D50)である。
上記の充填剤は、含浸ポリマー(生分解性ポリマー1又は2)に適宜、任意で配合することができる。
【0033】
含浸基紙
基紙に生分解性ポリマー1を含浸する方法として、例えば、少なくとも基紙1面に対し、生分解性ポリマー1を含浸塗工する方法が挙げられる。具体的に、例えば、基紙に対する生分解性ポリマーの含浸方法として、生分解性ポリマーを溶媒に溶解し、必要に応じて、充填剤などの任意添加剤を配合し、固形分濃度が、例えば、5~25質量%、好ましくは、10~20質量%程度となるように調整して(以下、生分解性ポリマー1及び任意の添加剤を含む組成物を、ポリマー1組成物又は含浸ポリマー組成物ともいう。)、各種の塗工方式により塗工することができる。塗工方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ロッド塗工方式や、ブレード塗工方式、エアナイフ塗工方式、カーテン塗工方式、ロール塗工方式、ダイ塗工方式などに使用される各種の塗工装置を使用することができる。得られた含浸基紙は、次いで、エアドライヤーや、シリンダードライヤー、赤外線ドライヤーなどの組み合わせにより乾燥することができる。
含浸する生分解性ポリマー1及び任意の添加剤の量(ポリマー組成物としての含浸塗工量(固形分))は、調整された単位面積当たりの質量として、2~20g/m2、好ましくは、3~15g/m2、より好ましくは、4~8g/m2であることが適当である。この範囲内であれば、基紙の空間部を封鎖して、ピンホールの発生を防止することが可能となり、本発明において使用する基紙に対し優れた燻蒸性能を付与することができる。
得られた含浸基紙における基紙重量に対する生分解性ポリマー1の含浸割合として通常1質量%~35質量%、好ましくは、5~30質量%とするのが適当である。
含浸層における生分解性ポリマー1の含浸塗工量(固形分)は、含浸層の塗工量(固形分)に基づいて、使用された生分解性ポリマー1と、必要により配合される任意成分との配合割合から計算することができる。また、含浸基紙における基紙重量に対する生分解性ポリマー1の含浸割合として、通常、1質量%~35質量%、好ましくは、4質量%~30質量%、より好ましくは、5質量%~25質量%とするのが適当である。
【0034】
生分解性ポリマー1又は生分解性ポリマー2として、例えば、ポリビニルアルコールの他に、グリコールと多価カルボン酸との重縮合体、ポリグリコール酸やポリ乳酸などのポリ(α-ヒドロキシ酸)の重合体及びこれらの共重合体などのポリマーからが挙げられ、適用できる。これらのポリマーが、溶媒に溶解し、基紙に対して、塗工性を有する限り、各種の生分解性ポリマーを使用することができる。このような生分解性ポリマーとして、例えば、ポリエチレンオキサレートや、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリネオペンチルオキサレート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(β-プロピオラクトン)、ポリ-3-ヒドロキシプロピオネート、ポリ-3-ヒドロキシブチレート、ポリ-3-ヒドロキシカプロレート、ポリ-3-ヒドロキシヘプタノエート、ポリ-3-ヒドロキシオクタノエートなどが挙げられ、これらから生分解性ポリマー1又は生分解性ポリマー2を同一、又は異なるように組み合わせて使用できる。
【0035】
含浸基紙に対する塗膜形成
含浸基紙上(含浸側の面)に対し、更に、生分解性ポリマー2の塗膜層が形成される。生分解性ポリマー2として、含浸したポリマー1と同一であっても、異なるポリマーであってもよい。そのような生分解性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコールを用いた塗膜層を形成する場合、上述と同様、重合度500~2,400、好ましくは、700~2,000であり、けん化度85~99mol%、好ましくは、90~99mol%であり、粘度3~70mPas(4%溶液、20℃)、好ましくは10~50mPas(4%溶液、20℃)のポリビニルアルコールを使用することが適当である。この範囲であれば、比較的に目の粗い基紙で土壌中での分解性が高い特性となる基紙をベースに使用していても、含浸基紙上に更に塗膜層を形成した後、塗膜層の密着性を高めるとともに、塗膜層により高い確率でピンホール発生を抑制し、燻蒸ガスのガスバリヤー性を高めることが可能となる。
【0036】
含浸基紙に設けられる生分解性ポリマー2の塗膜層は、例えば、生分解性ポリマー2を溶媒に溶解し、必要に応じて、充填剤などの任意添加剤を配合し、固形分濃度が、例えば、5~25質量%、好ましくは、10~20質量%程度となるように調整して(以下、生分解性ポリマー2及び任意の添加剤を含む組成物を、ポリマー2組成物又は塗膜用ポリマー組成物ともいう。)、塗工方式は特に限定されないが、ロッド塗工方式、ブレード塗工方式、エアナイフ塗工方式、カーテン塗工方式、ロール塗工方式、ダイ塗工方式などに使用される各種の塗工装置を使用して、含浸基紙の含浸ポリマー側に塗工し、次いで、エアドライヤーや、シリンダードライヤー、赤外線ドライヤーなどの組み合わせにより、乾燥することによって形成することができる。
【0037】
含浸基紙上の塗膜層の形成において、例えば、塗工する方法として、ポリマー2組成物(固形分)を、2~20g/m2、好ましくは3~15g/m2、より好ましくは4~8g/m2の塗膜の重量範囲であることが適当である。このような範囲とすることで、土壌被覆ガスバリヤーシートの軽量性を確保しつつ、燻蒸ガスのガスバリヤー性を高く維持することが可能となる。また、ロータリー機の回転刃に絡み付くことを抑えるうえでも、塗膜量をこのような重量範囲で制御するのが望ましい。
なお、塗膜層の生分解性ポリマー2の塗工量(固形分)は、ポリマー2組成物の塗工量(固形分)に対して、使用された生分解性ポリマー2と、任意成分との配合割合から計算することができる。
【0038】
土壌被覆ガスバリヤーシート
上記構成により、本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートの透湿度(JIS Z 0208)の上限値は、好ましくは2,500g/m2・24h未満、より好ましくは1,800g/m2・24h未満の範囲で制御することが可能となり、且つ、透気度(JIS-P8117)が、20,000秒以上、好ましくは50,000秒以上、より好ましくは100,000秒以上とすることができる。例えば、少なくとも、透湿度2,500g/m2・24h未満で且つ20,000秒以上の土壌被覆ガスバリヤーシートであれば、本発明で用いた基紙をベースとしても、土壌消毒剤の燻蒸ガスを一定期間、封じ込めることが実現し、土壌消毒剤の有効成分を留めるガスバリヤー性に優れ、高い燻蒸性能を得ることが実現する。
本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートの透湿度の範囲としては、100g/m2・24h以上2,500g/m2・24h未満、好ましくは、150g/m2・24h以上2,500g/m2・24h未満であり、より好ましくは、200g/m2・24h以上1,800g/m2・24h未満、更により好ましくは、500g/m2・24h以上1,800g/m2・24h未満これらの範囲に制御することで、土壌消毒の燻蒸ガスを留めるためのガスバリア性を維持しつつ、生分解性ポリマーの含浸基紙上に塗膜層を形成しても、ベースの基紙の伸長性を損なわず、シートの柔軟性が得られ展張性に優れた土壌被覆ガスバリヤーシートの実現が可能となる。
【0039】
本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートの透気度の範囲として、例えば、20,000秒~100,000秒、好ましくは、50,000秒~100,000秒の範囲に制御することで、土壌消毒のための所定の期間、燻蒸ガスを留めて良好な燻蒸性能を維持することができる。
本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートは、特定の基紙をベースとするため、農業従事者にとって取り扱い易い軽量でありながら、風雨等の環境下においても耐候性などの強度特性を有し、加えて、マルチャー機による作業性や、ロータリー耕によるガス抜き攪拌における作業効率を上げる施工特性として、土壌表面をシートで覆うのに優れた展張性、燻蒸期間終了後のガス抜き工程で土壌攪拌と同時にシートが細断され、土壌鋤き込み混合が可能となる細断性、土壌中で崩壊し、分解する生分解性、これらの特性をかね備えたものとなる。本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートは、使用後のシート撤去と廃棄が不要となるため、優れた環境保全性も確保できる。
【0040】
本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートの使用方法としては、圃場において、生分解性ポリマー層を形成した側を下側にして、土壌消毒剤を混合した土壌表面に設置される。その際、マルチャー機に取り付けられた土壌被覆ガスバリヤーシートのロールから、その土壌被覆ガスバリヤーシートが長手方向に順次繰り出されつつ、同時に、マルチャー機の進行方向に向かって前後に取り付けられた回転刃と、ゴムタイヤとにより、シートの幅方向両端部において、土壌被覆ガスバリヤーシートが土壌面に溝状にかつ土壌で覆われるように設置され、土壌被覆ガスバリヤーシートが、その幅方向の両端において、地面に安定して固定されるようになっている。
【0041】
本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートが適用される土壌消毒剤としては、特に制限されることなく、これまで使用されている各種の土壌消毒剤が適宜採用される。
土壌消毒剤としては、例えば、ダゾメット粉粒剤や、クロルピクリン燻蒸剤、D-D剤、カーバムナトリウム塩液剤、メチルイソチオシアネート・D-D油剤、クロルピクリン・D-D燻蒸剤などが、栽培又は育成される作物に応じて、適宜採用される。また、使用される土壌消毒剤の量は、使用される土壌消毒剤の種類や、栽培又は育成される作物に応じて、適宜変動するが、通常、ダゾメットの場合には、10~60g/m2、好ましくは、20~30g/m2程度の量で使用される。D-D剤の場合には、15~40ml/m2、好ましくは、20ml/m2の量で使用される。カーバムナトリウム塩液剤の場合には、40~80ml/m2の量で使用される。メチルイソチオシアネート・D-D油剤の場合には、20~40ml/m2の量で使用される。
燻蒸期間は、使用される土壌消毒剤の種類や、栽培又は育成される作物などに応じて、適宜変動するが、例えば、ダゾメット粉粒剤且つはくさい(秋冬作)の場合には、播種又は定植の21日前までに薬剤を処理し、1~4週間、好ましくは、1~2週間程度の期間が適当である。
【0042】
燻蒸期間が経過すると、ガス抜きの作業が行われる。通常、ロータリー機により行われる。本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートは、ロータリー機の回転刃により、速やかに、土壌の攪拌とともに、細断又は破砕される。細断片の大きさは、通常、最大径が、10~80cm、好ましくは10~50cm、より好ましくは10~30cm、更により好ましくは10~20cm程度である。細断片は、その後、土壌中において、生分解性ポリマーの分解が速やかに進行し、基紙の分解は、それよりも緩やかに、徐々に、進行する。およそ、3ヶ月程度で、土壌中には、土壌被覆ガスバリヤーシートの破片は、ほとんど認められない程度となる。
【実施例0043】
以下、実施例及び比較例によって、本発明について、更に詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。なお、特に記載がない限りは、薬剤の含有量及び塗工量は固形換算量を意味する。
【0044】
実施例1
(基紙の製造)
針葉樹材として未晒クラフトパルプ100質量%(NUKP)を使用し、レファイナーでフリーネスを580~640cc(カナダ標準フリーネス)に調整後、カチオン澱粉6.0kg/t、硫酸バンド6.8kg/t、ロジン系内添サイズ剤3.0kg/tを添加した紙料スラリーを用いて、これを紙料として用いてオントップ多筒型抄紙機により長尺基紙を製造した。得られた基紙の特性は、下記表1の通りである。
【0045】
【表1】
【0046】
(基紙の含浸)
上記表1の基紙の1表面に、ロッド塗工方式を適用して生分解性ポリマー1(含浸ポリマー1)を含浸させ、エアドライヤーで乾燥して、含浸基紙を得た。
使用した含浸用ポリマー1として、ポリビニルアルコールを使用し、含浸溶液を調製して、これを基紙に含浸させ、含浸基紙とした。含浸溶液に使用したポリビニルアルコール(PVA)として、クラレ製「ポバール110-98」を使用した。このポリビニルアルコールの重合度は、1,000、けん化度は、98-99mo%、粘度は、10.2-11.8mPas(4%溶液、20℃)であった。このポリビニルアルコールを水溶液濃度15質量%とし、このポリビニルアルコール溶液100質量部(固形分)に対し、カオリンクレー(アスペクト比10)100質量部(固形分)を配合し、含浸用溶液(含浸用ポリマー組成物)を調製し、これをロッド塗工方式により基紙の1表面に含浸させた。この時のポリマー及びカオリンクレーの(含浸)塗工量(固形分)は、全体で、5g/m2であった。即ち、含浸層の全体の塗工量は、5g/m2(固形分)であるので、含浸層を構成するポリビニルアルコールの含浸塗工量(固形分)は、2.5g/m2であり、カオリンクレーの塗工量(固形分)は、2.5g/m2であった。使用したカオリンクレーは、白石カルシム社製の微粒クレー「カオファイン」(アスペクト比10)であった。
【0047】
(塗膜層の形成)
上記で調製した含浸基紙に対し、生分解性ポリマー2として、上記含浸ポリマーと同じポリビニルアルコールを使用し、そのポリビニルアルコールに対して、カオリンクレー(アスペクト比10)を等量で配合し、含浸層の形成の際に調製した含浸用ポリマー組成物と同じ組成の塗膜用ポリマー組成物を調製し、含浸層の形成の場合と同様にして、塗膜層を形成した。従って、塗膜層の全体の塗工量は、5g/m2(固形分)であり、塗膜層を構成するポリビニルアルコールの塗工量(固形分)は、2.5g/m2であり、カオリンクレーは、2.5g/m2であった。
このようにして調製された本発明の土壌被覆ガスバリヤーシート(実施例1)の構成及び測定項目の特性は、表2に示す通りである。
【0048】
ブロッキングの特性は、次のようにして評価した。
調製された土壌被覆ガスバリヤーシート(大きさ10cm×10cm)を塗工面どうし重ね合わせてガラス板で挟み、1kg荷重をかけたまま温度40℃、湿度80%の環境下で1日保管し、剥がれ易さを評価する。保管後、互いに剥がれず密着したままとなる場合「×」とし、製品保管に問題が発生するとして評価した。
評価基準として次の通りである。
○:上記所定の条件下で保管後、シート剥離時にべたつきや剥離音も見られず密着が発生しない。
△:上記所定の条件下で保管後、シート上にべたつきや剥離音が見られるが、剥がれる。
×:上記所定の条件下で保管後、密着し、外観に異常が出てしまう。
【0049】
また、完成品の生分解性は、次のように評価した。温度約20℃かつ湿度50~60%の条件下、土壌を入れたプラスチック製容器の土壌中に土壌被覆ガスバリヤーシートに使用する基紙(大きさ約25cm×25cm)を埋め、90日間、土壌の温度と湿度を適度に維持しながら保持し、基紙の生分解性を観察する。
90日間経過後、土壌中に目立った破片が残存するか否かを確認し、破片などの残存が見られなかった基紙を生分解性として評価する。
生分解性として評価された基紙に対し、ガスバリヤー性を付与するポリマーを含浸及び/又は塗布してガスバリヤーシート(完成品)を得て、実施例、比較例及び製造例とした。これらガスバリヤーシートについての生分解性評価は次のとおりである。

〇:生分解性を示す基紙及びポリマーからなる材料のみで構成されたガスバリヤーシート
×:生分解性を示さない材料を含んで構成されたガスバリヤーシート
【0050】
燻蒸性能:
燻蒸性能は、以下のように測定した。
土壌水分率が40%となるように調整した市販の黒土(鹿沼興産製造、商品名「黒土」)に、土壌消毒剤ダゾメット粉粒剤(商品名:バスアミド微粒剤)を、30g/m2となるように混和して混和土壌を形成し、この混和土壌を、直ちに、表面積1/500,000m2gの円筒形のワグネルポット(藤本科学工業株式会社製造、深さ約0.4m)一杯に充填した。ワグネルポット内に充填した薬剤混合土壌の表面に、塗膜層が形成された面が土壌表面側に面するように、土壌被覆ガスバリヤーシートを被覆し、ビニールテープを用いてワグネルポットに固定した。ワグネルポットは25℃に設定した恒温器内で保持した。
混和土壌中のダゾメット粉粒剤の燻蒸ガス濃度の測定は、以下のように行った。
まず、ワグネルポットの下端部周面に設けられた開口部を通して、経時的にガス検知管(メタクリル酸メチル製、株式会社ガステックNo.149)を用いて測定することにより行った。
燻蒸ガス濃度は、経時的に測定し(3日後、5日後、7日経過後、又は4日後、7日経過後に、それぞれの経時点で測定実施)、土壌消毒剤を混合した翌日における測定濃度に対する割合として、燻蒸ガス残存率を評価した。燻蒸ガスの残存率について、3段階評価で100%~75%を「5.0」とし、75%未満~40%を「3.0」とし、40%未満~0%を「0.0」として(※燻蒸ガスの残存濃度が低く、燻蒸性能を得るのが困難な状態)評価した。
【0051】
【表2】

【0052】
上記実施例1の結果より、本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートは、本発明の構成を有することにより、透気度が、100,000秒以上と高く、一方、1,700g/m2・24hの透湿度を有するものであり、透気度と、透湿度とのバランスに優れ、燻蒸性能において、燻蒸開始から4日間は、燻蒸ガス濃度を75%以上で保持することができ、1週間経過しても、燻蒸ガス濃度を40%以上で保持できることが分かる。また、ブロッキング及び完成品の生分解性も優れていた。
【0053】
実施例2
実施例1と同様にして、下記表3で示されるように、含浸層及び塗膜層を形成し、本発明の実施例2の土壌被覆ガスバリヤーシートを調製した。
実施例2の土壌被覆ガスバリヤーシートの構成及び測定項目の特性は、以下の同表3に示す通りである。
【0054】
【表3】

【0055】
上記実施例2の結果より、本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートは、本発明の構成を有することにより、透気度と、透湿度とのバランスに優れ、燻蒸性能において、燻蒸開始から5日間は、燻蒸ガス濃度を75%以上で保持することができ、1週間経過しても、燻蒸ガス濃度を40%以上で保持できることが分かる。また、ブロッキング及び完成品の生分解性も優れていた。
【0056】
実施例3~実施例6
実施例3では、以下の表4に示すように、使用するポリビニルアルコールの重合度を、1700(クラレ製「ポバール117-98」)のものを使用した以外は、実施例1と同様にして、土壌被覆ガスバリヤーシート3~6を調製した。
実施例4では、含浸層及び塗膜層に、カオリンクレーを使用しないことを除いて、実施例1と同様にして、土壌被覆ガスバリヤーシートを調製した。
実施例5では、含浸層及び塗膜層で使用されるカオリンクレーの生分解性ポリマーに対する比率を半分に落としたこと以外は、実施例1と同様にして、土壌被覆ガスバリヤーシートを調製した。
実施例6では、含浸層及び塗膜層で使用されるカオリンクレーの生分解性ポリマーに対する比率を半分に落とすとともに、使用するカオリンクレーのアスペクト比を、100としたフレーク状のカオリンクレー(イメリス社製「バリサーフHX」)を使用したことを除いて、実施例1と同様にして、土壌被覆ガスバリヤーシートを調製した。
得られた土壌被覆ガスバリヤーシートの構成及び測定項目の特性は、以下の表4に示す通りである
【0057】
【表4】

【0058】
上記表4に示すように、実施例3~6の土壌被覆ガスバリヤーシートは、いずれも、透湿度が、100,000秒以上と高く、一方、3,000g/m2・24h未満の透湿度を有するものであり、ブロッキングや、完成品の生分解性、及び燻蒸性能のいずれにおいても、優れた特性を有していた。
また、カオリンクレーを使用する場合、アスペクト比が10から100の範囲にあるものを使用すれば、本発明で発見した燻蒸性能を奏する透湿度の範囲条件を満たすことができ、土壌被覆ガスバリヤーシートとしての特性を得られることが分かる。
【0059】
比較例1~5
比較例1~5
これらの比較例1~5では、含浸用ポリマー1として、ポリ酢酸ビニル、SBRラテックス、又はポリビニルアルコールを使用し、また、含浸用ポリマー1において、カオリンクレーを使用する場合と使用しない場合とに態様を変え、一方、塗膜層を採用しないことを除いて、実施例1と同様にして、比較土壌被覆ガスバリヤーシート1~5を調製した。
得られた比較土壌被覆ガスバリヤーシート1~5の構成及び土壌被覆ガスバリヤーシートの測定結果は、以下の表5及び6に記載された通りである。
【0060】
【表5】

【0061】
【表6】
【0062】
上記表5及び6に示されているように、比較例1では、含浸層におけるポリマーの塗工量が比較的多く、一方、塗膜層が設けられていないため、ブロッキングを生じた。また、比較例2~3の土壌被覆ガスバリヤーシートは、透気度と、透湿度とのバランスが悪く、経時的な燻蒸ガス保持能力に欠けることが分かる。また、比較例4~5は、比較的、透気度と、透湿度とのバランスは良いとしても、塗膜層を採用しないことにより、燻蒸期間に亘る燻蒸ガス保持能力に欠けることが分かる。
【0063】
比較例6
比較例6では、含浸層にSBRラテックス(非生分解性ポリマー)を使用し、塗膜層には、カオリンクレーを配合しないことを除いて、実施例1と同様にして、比較土壌被覆ガスバリヤーシートを調製した。
得られた比較土壌被覆ガスバリヤーシート6の構成及び土壌被覆ガスバリヤーシートの測定結果は、以下の表7に記載された通りである。
【0064】
【表7】
【0065】
上記表7の結果によれば、含浸層に、非生分解性ポリマーを採用しているので、燻蒸性能は、良いとしても、生分解性がないため、土壌に混ぜ込むことができず、土壌被覆ガスバリヤーシートを手作業で回収するなど、シートの取り扱いが劣るものであることが分かる。
【0066】
比較例7
比較例7では、含浸層にSBRラテックス(非生分解性ポリマー)を使用し、塗膜層にスチレンアクリル樹脂(非生分解性ポリマー)を使用し、塗膜層には、カオリンクレーを配合しないことを除いて、実施例1と同様にして、比較土壌被覆ガスバリヤーシートを調製した。含浸層にSBRラテックス(非生分解性ポリマー)を使用し、塗膜層に、カオリンクレーを配合しないことを除いて、実施例1と同様にして、比較土壌被覆ガスバリヤーシート7を調製した。
得られた比較土壌被覆ガスバリヤーシート7の構成及び土壌被覆ガスバリヤーシートの測定結果は、以下の表8に記載された通りである。
【0067】
【表8】
【0068】
上記表8の結果によれば、比較例7では、含浸層及び塗工層の両方に、非生分解性ポリマーを採用しているので、燻蒸性能は良いとしても、生分解性がないため、土壌に混ぜ込むことができず、土壌被覆ガスバリヤーシートを手作業で回収するなど、シートの取り扱いが劣るものであることが分かる。
【0069】
土壌被覆ガスバリヤーシートの展張性評価
マルチャー機による展張性能を次のとおり評価した。
圃場において、土壌表面に対して、土壌消毒剤ダゾメット粉粒剤(商品名:バスアミド微粒剤)を30g/m2となるように散布し、混和して形成して混和土壌を調整準備した。そして、この混和土壌の表面に、クボタ(株)社製ヒラウネマルチのマルチャー機を使用して、土壌消毒剤を含む混和土壌表面をマルチャー機(トラクター)の進行方向に対して、シートの両端をマルチャー機の押さえ部で押さえながら、マルチャー機に付属する土寄せ部位でシート両端に土壌を盛りながら、本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートを展張した。
【0070】
表9に示すとおり、実施例1の土壌被覆ガスバリヤーシート、比較例4の土壌被覆ガスバリヤーシートを上述のとおり展張して評価した他、比較A~比較Dのフィルムについても、同様に評価した。比較Aに0.05mmのポリエチレンフィルム(農業ポリ、住化積水フィルム(株)社製)、比較Bに0.03mmのポリエチレンフィルム(農業ポリ、住化積水フィルム(株)社製)、比較Cにポリビニルアルコール・フィルム(PVAフィルム、サンプラック工業(株)社製)、比較Dに3層フィルム(ポリエチレン層/ポリビニルアルコール層/ポリエチレン層からなるフィルム、東罐興産(株)を利用し実施した。
マルチャー機による展張時の作業性を含む展張性を、以下の基準で評価した。
A:サンプラック工業株式会社製の生分解性マルチフィルムと同等に展張できる。
B:サンプラック工業株式会社製の生分解性マルチフィルムの展張と比べて、マルチャー機で展張し引っ張った時に時々破れる。
C:マルチャー機で展張し引っ張ると頻繁に破れ、マルチャー機での作業が困難である。
表9の展張性評価に示されるとおり、本発明の土壌被覆ガスバリヤーシート(実施例1)は、横方向への伸びがあるためマルチャー機を利用しての展張が可能で、生分解性マルチフィルムを展張した場合とほぼ同等に展張することができた(評価結果:「A」に近い)。
【0071】
土壌被覆ガスバリヤーシートの耐候性評価
前述のようにして圃場で展張した土壌被覆ガスバリヤーシートについて、経時変化による強度(耐候性)を以下の基準により評価した。
A:21日間において、シートの破れなどの欠陥は、生じなかった。
B:21日間において、一部の破れが生じた。
C:21日間において、シートの破れの程度が大きく、期間内のガスバリヤー性を保持できなかった。
本発明の土壌被覆ガスバリヤーシート(実施例1)は、圃場での燻蒸期間21日間に亘って破れなど発生せず評価「A」であった。比較(基準)として使用したサンプラック工業株式会社製の生分解性マルチフィルムも同一の期間、破れなかった。
【0072】
燻蒸期間経過後のロータリー耕による細断性(及び鋤き込み)評価
21日間の燻蒸期間経過後、松山株式会社製のロータリー機を使用し、土壌被覆シートが被覆されたまま、ロータリー耕を行って、ガス抜き及び土壌すき込みを実施した。これらの作業性について、以下の基準により、評価した。
A:ロータリー機による細断がスムーズで、細断されたシート破片が土壌に上手く鋤き込まれながら、ロータリー耕が可能である。回転刃に細断されたシート破片が付着・残存した場合でも、破片は小さく簡単に取り除くことができる。
B:ロータリー機を用いて作業上問題とならないレベルで細断することでロータリー耕が可能ではあるが、回転刃に細断されたシート片が付着し、回転刃に残ったシート破片を取り除くのに労力が要る。
C:ロータリー機を用いた細断において、回転刃等への付着や絡まりで細断性が悪く、細断されたシート破片の土壌鋤も込みが著しく劣り、ロータリー耕が不可能。
【0073】
表9の細断性評価に示されるとおり、本発明の土壌被覆ガスバリヤーシート(実施例1)は、21日間の燻蒸期間経過後、松山株式会社製のロータリー機を使用してロータリー耕を行った結果、ロータリー機の回転刃への付着はほぼ無く、細断されたシート破片は容易に土壌に鋤も込まれ、作業を中断してシート絡まりを取り除くといったことも生じず、ロータリー耕による土壌鋤も込みながらのガス抜きがスムーズに実施できた(評価結果:A)。
これに対して、生分解性マルチフィルムは、ロータリー機を使用し、ロータリー耕を行えるものの、大きく細断されたフィルム破片が回転刃に多く絡まり付着してしまい、ロータリー耕の作業を中断し、大きなフィルム破片が回転刃に深く絡み付き、取り除くことに労力を要した(評価結果:C)。比較A,比較B、比較D、及び比較Eのフィルムは土壌中で非分解性のため、ガス抜き作業のためのロータリー耕において、フィルムを粉砕させ土壌に鋤も込むことが出来ないため、土壌燻蒸が完了した後、ロータリー耕を行う前に、土壌被覆していたフィルムを事前に取り除く作業が必要になる。
【0074】
土壌中での生分解性評価
ロータリー耕によりガス抜き及び土壌被覆シートの鋤も込みを行った後、一定期間経過した後、土壌中に残存する土壌被覆シートの破片の大きさを評価することにより、生分解性を評価した。その評価基準は、以下の通りである。
A:3ヶ月後、細断されたシート片(サイズ10cm程度のシート片)がほとんど目立たなくなり、分解され崩壊する。
B:3ヶ月後において、大きめのシート片が残っている。
C:3ヶ月後において、細断されたシート片の大きさのまま残存し、分解崩壊せず変化がない。
表9の崩壊性評価に示されるとおり、本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートは、3か月経過後の土壌中で、シート片がほとんど目立たなくなり、崩壊していた(評価結果:A)。
【0075】
【表9】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートによれば、生分解性ポリマー1を含浸させ、生分解性ポリマー2の塗膜層を形成するために組み合わせる基紙として、耐候強度に優れつつ、他方、土壌中で一定期間経過後に崩壊するような、軽量の基紙を使用することで、農業従事者にとって取り扱い易い、土壌被覆ガスバリヤーシートを提供することができる。
特に、本発明の土壌被覆ガスバリヤーシートによれば、土壌消毒における一連の作業性に対し、マルチャー機を使用して土壌表面を被覆する作業のための展張性に優れるだけでなく、ロータリー機でガス抜き攪拌する時に同時に細断粉砕することが可能となる粉砕性又は細断性を有している。このように本発明は、マルチャー機の使用によるに対する展張性や、ロータリー耕での攪拌ガス抜きと同時に、被覆シートを細断して土壌中に鋤き込むことができる、土壌消毒の作業効率を高めた土壌被覆シートを提供される。
また、土壌中に鋤き込まれたシート片は崩壊して分解するため、脱プラスチックという観点においても、従来使用していたプラスチック製の被覆フィルムの廃棄といったことが不要となるため、環境保全性にも優れた土壌被覆ガスバリヤーシートが提供される。