(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113701
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】CAS9塩基エディターを使用するリンパ球造血系操作
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240815BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240815BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20240815BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240815BHJP
C12N 5/0781 20100101ALI20240815BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240815BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240815BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240815BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N5/10 ZNA
C12N5/0789
C12N5/0783
C12N5/0781
C12N15/864 100Z
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/12
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024089990
(22)【出願日】2024-06-03
(62)【分割の表示】P 2020548785の分割
【原出願日】2019-03-13
(31)【優先権主張番号】62/642,151
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】305023366
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】モリアリティ ブランデン
(72)【発明者】
【氏名】ウェバー ボー
(72)【発明者】
【氏名】ローンツリー カーラ-リン
(72)【発明者】
【氏名】ディアーズ ミーチャレーン
(72)【発明者】
【氏名】クルースナー ミッチェル
(72)【発明者】
【氏名】ラー ウォーカー
(72)【発明者】
【氏名】ポメロイ エミリー ジョイ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞を生成する。
【解決手段】スプライスアクセプター-スプライスドナー部位を標的とするように設計された塩基エディターおよびガイドRNA(gRNA)を使用する、哺乳動物細胞における標的化遺伝子破壊(ノックアウト、ミスセンス変異)および標的化遺伝子ノックインのための方法および系が本発明において提供される。免疫療法関連遺伝子における標的化破壊および治療適用のためにCAR/TCRを含む普遍的に許容される遺伝子操作された細胞も本発明において提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞を生成するための方法であって、
(a)リンパ球造血系細胞中に、
(i)Cas9ニッカーゼドメインに融合したデアミナーゼドメインを含む塩基エディター融合タンパク質をコードするプラスミド、mRNA、またはタンパク質であって、前記ニッカーゼドメインが、塩基除去修復インヒビタードメインを含む、該プラスミド、mRNA、またはタンパク質、および
(ii)遺伝子改変される標的核酸配列に対する相補性を有する、1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNA
を導入することと、
(b)前記1種以上のSA-SD gRNAによって標的とされるスプライス部位の破壊を促進する条件下で、導入を受けた前記細胞を培養することであって、それによって、前記標的核酸配列が、トランスフェクトされていないリンパ球造血系細胞と比べて、塩基前記エディター融合タンパク質および前記1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNAによって改変され、かつそれによって、遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞が生成されることと
を含む方法。
【請求項2】
1種以上の標的化ノックインまたはミスセンス変異を生じるように設計された1種以上のgRNAを前記リンパ球造血系細胞中に導入することをさらに含み、それによって、遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞が、少なくとも1つの遺伝子ノックアウトおよび1種以上の遺伝子ノックインもしくはミスセンス変異を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1種以上の標的化ノックインおよび1種以上のミスセンス変異を生じるように設計された1種以上のgRNAを前記リンパ球造血系細胞中に導入することをさらに含み、それによって、遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞が、少なくとも1つの遺伝子ノックアウト、少なくとも1つの遺伝子ノックイン、および少なくとも1つのミスセンス変異を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記塩基エディター融合タンパク質が、BE3、BE4、またはアデニン塩基エディター(ABE)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リンパ球造血系細胞が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、B細胞、またはCD34+造血幹前駆細胞(HSPC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1種以上のSA-SD gRNAが、各gRNAの少なくとも1つの5’ヌクレオチドおよび少なくとも1つの3’ヌクレオチドに2’-O-メチルホスホロチオエート修飾を含むように化学的に修飾されている、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基エディター融合タンパク質および1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNAが、約50%~約90%のCからTへの変換の効率を呈する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記1種以上のSA-SD gRNAが、表1に示されている配列から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
遺伝子改変されたT細胞を生成するための方法であって、
(a)ヒトT細胞へと
(i)Cas9ニッカーゼドメインに融合したデアミナーゼドメインを含む塩基エディター融合タンパク質をコードするプラスミド、mRNA、またはタンパク質であって、前記ニッカーゼドメインが、塩基除去修復インヒビタードメインを含む、プラスミド、mRNA、またはタンパク質、
(ii)TRAC、B2M、およびPDCD1のそれぞれの発現を破壊するための1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNA、
(iii)T細胞受容体(TCR)およびキメラ抗原受容体(CAR)をコードするドナーDNA鋳型、ならびに
(iv)標的挿入部位に対して相補的な2つのgRNA
をトランスフェクトすることと、
(b)前記SA-SD gRNAによって標的とされるスプライス部位の破壊を促進する条件下で、トランスフェクトされた前記T細胞を培養することであって、それによって、TRAC、B2M、およびPDCD1遺伝子産物の発現が、トランスフェクトされていないT細胞と比べて低減されることと、
(c)前記標的挿入部位において、前記ドナーDNA鋳型の標的化ノックインを促進する条件下で、トランスフェクトされた前記T細胞を培養することと
を含む方法。
【請求項10】
前記塩基エディター融合タンパク質が、BE3、BE4、またはアデニン塩基エディター(ABE)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1種以上のSA-SD gRNAが、表1に示されている配列から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記SA-SD gRNAおよび前記標的挿入部位に対して相補的なgRNAのうちの1種以上が、各gRNAの少なくとも1つの5’ヌクレオチドおよび少なくとも1つの3’ヌクレオチドに2’-O-メチルホスホロチオエート修飾を含むように化学的に修飾されている、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記ドナーDNA鋳型が、rAAVとして提供される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記TCRが、腫瘍抗原に特異的に結合する、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記CARが、腫瘍抗原に特異的に結合するCAR抗原結合ドメインを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記TCRおよび前記CARが、異なる抗原に結合する、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法に従って得られる遺伝子改変された細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その開示が参照によりすべての目的のためにその全体が本明細書に組み込まれる、2018年3月13日に出願された米国仮特許出願第62/642,151号からの優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
初代ヒト細胞の正確なモジュレーションは、免疫療法、自己免疫および酵素異常症の分野で複数の適用を有する。遺伝子レベルでの患者の免疫細胞のモジュレーションは、処置の永続性および患者による拒絶のリスクが低いことにより、治療のための魅力的なルートである。免疫細胞の遺伝子編集の1つのアプローチは、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)系を使用して、目的の遺伝子内の二重鎖切断(DSB)を誘導し、それによって、非相同性末端結合(NHEJ)経路による非常に可変的な修復によって創出される規模の小さい挿入または欠失(「インデル」と総称される)の形成をもたらすことである。あるいは、正確なゲノム変更を、相同組換え修復(HDR)による修復のためのDNA鋳型の同時送達と共にDSBを導入することによって達成することができる。このアプローチは、NHEJによって単一の遺伝子を単に破壊する場合に効率的でありかつ信頼性が高いが、HDRによる単一のヌクレオチドの正確な変更は、効率性がはるかに低い。さらに、多重遺伝子編集手順の間に複数のDSBを誘導することにより、望ましくない遺伝毒性および潜在的に発癌性の大規模な染色体転座の形成がもたらされる場合がある。したがって、毒性DSBの誘導が制限されたヒト免疫細胞の多重遺伝子操作の、より制御されかつより安全な方法が、この分野において依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
第1の態様では、遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞を生成するための方法が本発明において提供される。この方法は、(a)(i)Cas9ニッカーゼドメインに融合したデアミナーゼドメインを含む塩基エディター融合タンパク質をコードするプラスミド、mRNA、またはタンパク質であって、ニッカーゼドメインが、塩基除去修復インヒビタードメインを含む、プラスミド、mRNA、またはタンパク質、および(ii)遺伝子改変される標的核酸配列に対する相補性を有する1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNAをリンパ球造血系細胞中に導入するステップと、(b)1種以上のSA-SD gRNAによって標的とされるスプライス部位の破壊を促進する条件下で、導入を受けた細胞を培養するステップであって、それによって、標的核酸配列が、トランスフェクトされていないリンパ球造血系細胞と比べて、塩基エディター融合タンパク質および1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNAによって改変され、かつそれによって、遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞が生成されるステップとを含むかまたはそれらから本質的になり得る。一部の場合には、この方法は、1種以上の標的化ノックインまたはミスセンス変異を生じるように設計された1種以上のgRNAをリンパ球造血系細胞中に導入するステップであって、それによって、遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞が、少なくとも1つの遺伝子ノックアウトおよび1種以上の遺伝子ノックインまたはミスセンス変異を含むステップをさらに含む。一部の場合には、この方法は、1種以上の標的化ノックインおよび1種以上のミスセンス変異を生じるように設計された1種以上のgRNAをリンパ球造血系細胞中に導入するステップであって、それによって、遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞が、少なくとも1つの遺伝子ノックアウト、少なくとも1つの遺伝子ノックイン、および少なくとも1つのミスセンス変異を含むステップをさらに含む。塩基エディター融合タンパク質は、BE3、BE4、またはアデニン塩基エディター(ABE)であり得る。リンパ球造血系細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、B細胞、またはCD34+造血幹前駆細胞(hematopoietic stem progenitor cell)(HSPC)であり得る。1種以上のSA-SD gRNAは、各gRNAの少なくとも1つの5’ヌクレオチドおよび少なくとも1つの3’ヌクレオチドに2’-O-メチルホスホロチオエート修飾を含むように化学的に修飾され得る。塩基エディター融合タンパク質および1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNAは、約50%~約90%のCからTへの変換の効率を呈し得る。1種以上のSA-SD gRNAは、表1に示されている配列から選択することができる。
【0004】
別の態様では、遺伝子改変されたT細胞を生成するための方法が本発明において提供される。この方法は、(a)(i)Cas9ニッカーゼドメインに融合したデアミナーゼドメインを含む塩基エディター融合タンパク質をコードするプラスミド、mRNA、もしくはタンパク質であって、ニッカーゼドメインが、塩基除去修復インヒビタードメインを含む、プラスミド、mRNA、もしくはタンパク質、(ii)TRAC、B2M、およびPDCD1のそれぞれの発現を破壊するための1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNA、(iii)T細胞受容体(TCR)およびキメラ抗原受容体(CAR)をコードするドナーDNA鋳型、ならびに(iv)標的挿入部位に対して相補的な2つのgRNAをヒトT細胞中に導入するステップと、(b)SA-SD gRNAによって標的とされるスプライス部位の破壊を促進する条件下で、(a)のT細胞を培養するステップであって、それによって、TRAC、B2M、およびPDCD1の発現が、トランスフェクトされていないT細胞と比べて低減されるステップと、(c)標的挿入部位において、ドナーDNA鋳型の標的化ノックインを促進する条件下で、トランスフェクトされたT細胞を培養するステップとを含むかまたはそれらから本質的になり得る。塩基エディター融合タンパク質は、BE3、BE4、またはアデニン塩基エディター(ABE)であり得る。1種以上のSA-SD gRNAは、表1に示されている配列から選択することができる。SA-SD gRNAおよび標的挿入部位に対して相補的なgRNAのうちの1種以上は、各gRNAの少なくとも1つの5’ヌクレオチドおよび少なくとも1つの3’ヌクレオチドに2’-O-メチルホスホロチオエート修飾を含むように化学的に修飾され得る。ドナーDNA鋳型は、rAAVとして提供され得る。TCRは、腫瘍抗原に特異的に結合し得る。CARは、腫瘍抗原に特異的に結合するCAR抗原結合ドメインを含み得る。TCRおよびCARは、異なる抗原に結合し得る。
【0005】
さらなる態様では、この開示の方法に従って得られる遺伝子改変された細胞が本発明において提供される。
本発明は、以下のその詳細な説明が考慮される場合、よりよく理解され、上記に示されたもの以外の特徴、態様および利点が明らかとなるであろう。このような詳細な説明では、以下の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】標的DNAに結合したCas9塩基エディター(BE)(左)およびBE3およびBE4(右)を用いて達成される塩基編集ウィンドウを示すプロトスペーサーを示す図を表す。哺乳動物のスプライスドナー(SD)およびスプライスアクセプター(SA)エレメントならびにスプライス部位の破壊によるBEノックアウトに利用されるプロトスペーサーの関連する方向を示すロゴ図も示される。
【
図2】未成熟STOP(pmSTOP)コドンの導入によるか、または塩基エディターによるスプライス部位の破壊による単一の遺伝子ノックアウトに関するワークフローの例を示す図である。
【
図3-1】
図3A~3Lは、PDCD1、B2M、およびTRACにおける遺伝子破壊に関するガイドRNAの活性の評価を実証する図である。(a)各sgRNAの相対的位置を示すPDCD1遺伝子座の図。ボックスの着色した部分はタンパク質コード領域を表し、赤色の縦線はストップコドンを示す。(b)サンガーシーケンシングトレースのEditR分析によって決定した(n=3の独立したT細胞ドナー)、BE3 mRNAまたはBE4 mRNAのいずれかとの同時送達後の、各PDCD1 sgRNAに関する標的塩基のCからTへの変換の定量。(c)フローサイトメトリーによって決定した(n=3の独立したT細胞ドナー)、表示したsgRNAとBE3 mRNAまたはBE4 mRNAのいずれかとの送達後のPDCD1タンパク質ノックアウトの頻度。(d)サンガーシーケンシングトレースのEditR分析によって決定した(n=3の独立したT細胞ドナー)、BE3 mRNAまたはBE4 mRNAのいずれかとの同時送達後の、PDCD1 Ex1 SD sgRNAの検出された編集ウィンドウ(赤色で示す)内のすべてのCにおけるCからT/A/Gへの変換の定量。下線を付したCは、適切なスプライシングに重要な標的ヌクレオチドを示す。(e)各sgRNAの相対的位置を示すTRAC遺伝子座の図。(f)サンガーシーケンシングトレースのEditR分析によって決定した(n=3の独立したT細胞ドナー)、BE3 mRNAまたはBE4 mRNAのいずれかとの同時送達後の、各TRAC sgRNAに関する標的塩基のCからTへの変換の定量。(g)CD3損失に関するフローサイトメトリーによって決定した(n=3の独立したT細胞ドナー)、表示したsgRNAとBE3 mRNAまたはBE4 mRNAのいずれかとの送達後のTRACタンパク質ノックアウトの頻度。(h)サンガーシーケンシングトレースのEditR分析によって決定した(n=3の独立したT細胞ドナー)、BE3 mRNAまたはBE4 mRNAのいずれかとの同時送達後の、TRAC Ex3 SA sgRNAの検出された編集ウィンドウ(赤色で示す)内のすべてのシトシンにおけるCからT/A/Gへの変換の定量。(i)各sgRNAの相対的位置を示すB2M遺伝子座の図。(j)サンガーシーケンシングトレースのEditR分析によって決定した(n=3の独立したT細胞ドナー)、BE3 mRNAまたはBE4 mRNAのいずれかとの同時送達後の、各B2M sgRNAに関する標的塩基のCからTへの変換の定量。(k)B2M損失に関するフローサイトメトリーによって決定した(n=3の独立したT細胞ドナー)、表示したsgRNAとBE3 mRNAまたはBE4 mRNAのいずれかとの送達後のB2Mタンパク質ノックアウトの頻度。(l)サンガーシーケンシングトレースのEditR分析によって決定した(平均±SDとして表したデータ、n=3の独立した生物学的T細胞ドナー)、BE3 mRNAまたはBE4 mRNAのいずれかとの同時送達後の、B2M Ex1 SD sgRNAの検出された編集ウィンドウ(赤色で示す)内のすべてのシトシンにおけるCからT/A/Gへの変換の定量。最も高い編集ガイドと2番目に高い編集処理の間で、スチューデントの対応のある両側t検定によって計算したp値(非有意 P>0.05、
*P≦0.05、
**P≦0.01、
***P≦0.001、
****P≦0.0001)。
【
図4-1】
図4A~4Fは、最適なsgRNA(TRAC Ex3 SA、B2M Ex1 SD、およびPDCD1 Ex1 SD)を使用する多重編集の最適化を実証するグラフである。(a)3つの標的sgRNAおよび3μg用量で送達された第1世代のBE3(BE3)mRNAもしくはBE4(BE4)mRNA;sgRNAと複合体形成したBE4タンパク質(BE4 RNP);または1.5μgもしくは4μg用量で送達されたコドン最適化BE4 mRNA(coBE4)の同時送達後に、NGSによって分析した、TRAC、PDCD1、およびB2Mにおける標的シトシンのすべての他の塩基への変換頻度。(b)3つの標的sgRNAおよび3μg用量で送達された第1世代のBE3(BE3)mRNAもしくはBE4(BE4)mRNA;sgRNAと複合体形成したBE4タンパク質(BE4 RNP);または1.5μgもしくは4μg用量で送達されたコドン最適化BE4 mRNA(coBE4)の送達後に、NGSによって分析した、TRAC、PDCD1、およびB2Mにおけるインデルの頻度。(c)3つの標的sgRNAと1.5μgまたは4μg用量のSpCas9ヌクレアーゼmRNAとの同時送達後に、NGSによって分析した、TRAC、PDCD1、およびB2Mにおけるインデルの頻度。(d)3つの標的sgRNAおよび3μg用量で送達された第1世代のBE3(BE3)mRNAまたはBE4(BE4)mRNA;sgRNAと複合体形成したBE4タンパク質(BE4 RNP);および1.5μgまたは4μg用量で送達されたコドン最適化BE4 mRNA(coBE4)の送達の7日後に、フローサイトメトリーによって測定した、TRAC、PDCD1、およびB2Mタンパク質損失の頻度。(e)電気穿孔の7日後に実施した多重フローサイトメトリー分析のSPICE表示。(f)WT、単一の遺伝子KO、二重遺伝子KO、および三重遺伝子KOの画分の定量。データは、平均±SD、n=2の2つの独立した生物学的T細胞ドナーとして表した。
【
図5A】
図5A~5Bは、多重編集T細胞における転座の頻度を実証する図である。(a)TRAC、B2M、PDCD1、およびPDCD1 OT部位における二本鎖切断誘導から生じる可能な転座の結果のCircosプロット。(b)転座の頻度のドロップレットデジタルPCRによる定量。すべてのアッセイは、n=2の独立した生物学的T細胞ドナーにわたって、技術的二連で実行した。
【
図6A】
図6A~6Dは、多重編集T細胞の機能を実証する図である。(a)編集および拡大後のメモリーマーカーCD27およびCD45roの発現。活性化後のCD4 T細胞およびCD8 T細胞による(b)サイトカインそれぞれの生成および(c)それらを組み合わせたサイトカインの生成。(d)T細胞との共培養後に、ルシフェラーゼルミネセンスアッセイによって測定した、CD19neg K562、CD19pos Raji細胞、またはCD19pos/PD-L1pos Raji細胞を死滅させるT細胞の能力。グラフのタイトルは、E:Tの比を示す。データは、2つの独立した生物学的T細胞ドナーにおいて三連で実行したアッセイに関して、平均±SDとして表した。(非有意 P>0.05、
*P≦0.05、
**P≦0.01、
***P≦0.001、
****P≦0.0001)。
【
図7】
図7A~7Cは、
図3A~3Lにおける各sgRNAに関する非標的編集を実証するグラフである。データをNGSから分析する。積み重ねたバーの高さは、エラーバー±標準偏差1の平均を表す。n=3の独立したドナー。
【
図8-1】
図8A~8Cは、
図3A~3Lにおけるすべての試料に関するインデルを表すグラフである。データをNGSから分析する。積み重ねたバーの高さは、エラーバー±標準偏差1の平均を表す。n=3の独立したドナー。
【
図9】第1世代の、低用量(1.5μg)BE3 mRNAまたはBE4 mRNAを使用するT細胞の多重塩基編集を実証するグラフである。タンパク質レベルでTRAC、B2MおよびPDCD1の塩基エディターに媒介されるノックアウトを示す棒グラフ。タンパク質発現を、方法のセクションに記載したように、フローサイトメトリーによって評価した。n=2の独立したドナー。
【
図10】T細胞の電気穿孔後の塩基エディタータンパク質レベルを実証する図である。2つの独立したドナーにおいて、刺激したT細胞の電気穿孔の24時間後に、Cas9、BE3、BE4、およびコドン最適化BE4をコードするmRNAを使用して達成したタンパク質レベルを評価するデジタルウエスタンブロットの結果。精製したBE3タンパク質も、BEタンパク質の抗体検出の陽性対照として使用した。
【
図11】再刺激の際のPDCD1、B2M、およびTRACの代表的なフロープロットを表す図である。電気穿孔の5日後に、T細胞を再刺激し、PD-1タンパク質ノックアウトの頻度の評価を可能とするPDCD1の発現を誘導した。多重co-BE4 mRNA編集後のドナーに適合したT細胞のTRAC、B2M、およびPDCD1発現およびパルスのみの対照(左の列)の代表的なフローサイトメトリープロットが、ここで示されている。
【
図12】
図12A~12Bは、計算により予測されるオフターゲット塩基編集およびインデル形成の評価を実証するグラフである。T細胞において、Cas9またはBE4 mRNAと組み合わせて、TRAC、B2MまたはPDCD1を標的とする最適なsgRNAを使用する、次世代シーケンシングを使用して評価したオンターゲットおよび上位10個の計算により予測されるオフターゲットsgRNA結合部位における塩基編集(A)およびインデル(B)の頻度。
【
図13】3つの標的遺伝子座の間の転座の頻度を実証するグラフである。3つのsgRNAおよびspCas9タンパク質、spCas9 mRNA、BE4タンパク質、またはcoBE4 mRNAの送達後のTRAC、B2M、およびPDCD1の間の転座の頻度のドロップレットデジタルPCRによる定量。n=2の独立したT細胞ドナーを二連でアッセイした。
【
図14】標的遺伝子座とPDCD1オフターゲット部位の間の転座の頻度を実証するグラフである。3つのsgRNAおよびspCas9タンパク質、spCas9 mRNA、BE4タンパク質、またはcoBE4 mRNAの送達後のPDCD1 OT部位とTRAC、B2M、およびPDCD1の間の転座の頻度のドロップレットデジタルPCRによる定量。n=2の独立したT細胞ドナーを二連でアッセイした。
【
図15】
図15A~15Bは、CAR形質導入およびT細胞拡大の効率を実証するグラフである。(A.)2つの独立したドナーにおいて、RQR8を染色することにより、MOIが20のMND-CD19 CAR-RQR8レンチウイルスベクターを使用する形質導入を受けたT細胞の頻度を示す棒グラフ。RQR8は、CD34およびCD20に特異的な抗体で染色するためのドメインを含有するハイブリッド分子であり、CAR陽性T細胞の頻度を決定するサロゲートとしての役割を果たす。(B.)電気穿孔および形質導入後5日目と12日目の生存可能な細胞数を示す棒グラフ。n=2の独立したドナー。
【
図16】Cas9ヌクレアーゼおよびCas9ニッカーゼと比べたBEニッカーゼの活性および効率を使用する、標的化ノックイン(KI)を例証する図である。
【
図17-1】
図17A~17Bは、転座接合部にわたるサブクローニングしたPCR産物のシーケンシングを実証する図である。(A)記載したように、Cas9またはBEのmRNAまたはタンパク質を使用して、記載した標的遺伝子間で実施した転座PCRの結果。AAVS1対照PCRも実施し、PCRに対するgDNAの質と官能性を確認した。(B)(A)からのPCR産物は、TOPOプラスミド中にクローニングされたTAであり、次に、サンガーシーケンシングによって分析した。次いで、得られたクロマトグラムを、記載した標的遺伝子のgRNA切断部位とアライメントした標的遺伝子のgRNA切断部位の間の仮定の「完全な」接合配列に対してアライメントした。データを作成するために使用したddPCRプローブも示した。
【
図18-1】
図18A~18Cは、拡大した、活性化UCB CD34+ HSPCにおける効率性の高い塩基編集を実証する図である。CからTへの変換をEditRを使用して計算した。
【
図19】プロリンに変異した場合、ADAM17によってCD16切断不可能とみなされる重要なセリン(赤色)を有する、CD16の以前に特定されたADAM17により切断可能な領域を示す図である。C-T塩基エディターバリアントを使用して、本発明者らは、隣接するバリン(青色)を標的とすることができた。C-T塩基エディターバリアントを使用して達成可能な、このバリンへの可能なアミノ酸変化が示される。
【
図20-1】
図20A~20Bは、代表的なサンガーシーケンシングクロマトグラムを示す。(A)は、対照(BE3-VQR単独)および編集した(BE3-VQR+CD16 gRNA)試料(上)からのシーケンシングクロマトグラムを示す。CからTへの変換をEditRを使用して計算した。2つの別々のドナーからの結果を棒グラフ(下)で合わせた。(B)は、対照(ABE単独)および編集した(ABE+CD16a gRNA)試料からのシーケンシングクロマトグラムを示す。TからCへの変換をEditRを使用して計算した。ABE+CD16a gRNA試料により、切断耐性CD16aバリアントへの変換が実証される。
【
図21-1】
図21A~21Dは、DNA修復欠損である、ファンコニー貧血(FA)線維芽細胞が、BE3およびBE4を使用する塩基編集を受けることができることを実証する図である。(A)BE4で処置したFA患者由来の線維芽細胞のFANCA Ex.39 c.3934+2 T>C pos.4 gRNA標的部位のシーケンシングクロマトグラム。塩基編集の頻度をEditRソフトウェアにより定量した。(B)Aに類似する実験であるが、ABEおよびPDCD1 Ex.1 SD gRNAに関して実施した実験からの結果。(C)対照(MPS1)の線維芽細胞およびBE3を使用するFA患者由来の線維芽細胞における塩基編集の詳細。(D)TIDEアルゴリズムを使用して分析したサンガーシーケンシングデータからの、線維芽細胞におけるCas9ヌクレアーゼ活性の結果。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、種々の修正および変更形態をとることが可能であるが、その例示的な実施形態が、図面において例として示され、本明細書において詳細に記載されている。しかし、例示的な実施形態の記載は、本発明を開示された特定の形態に限定することを意図するものではなく、反対に、添付の特許請求の範囲に定義されている本発明の趣旨および範囲内にあるすべての修正、均等物および変更を網羅することを意図することが理解されるべきである。
詳細な説明
以下に限定されないが、この明細書で引用された特許および特許出願を含むすべての刊行物は、本出願においてその全体が示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0008】
本明細書に記載の方法、系、および組成物は、少なくとも部分的に、CRISPR-Cas9塩基エディターを使用する初代ヒトリンパ球造血系細胞のゲノム操作に関するプロトコールの本発明者らによる発見に基づく。相同組換え修復(HDR)を使用することなく点突然変異させるために、研究者らは、Cas9ニッカーゼまたはdCas9をシチジンデアミナーゼ様APOBEC1に融合させるCRISPR塩基エディターを開発した。CRISPRと異なり、塩基編集によって二本鎖DNAは切断されないが、代わりに、デアミナーゼ酵素を使用して、DNAまたはRNAを構成する4つの塩基のうちの1つにおける原子のいくつかを正確に再配列させ、その周りの塩基を変更することなく塩基を変換する。塩基エディターはガイドRNA(gRNA)によって特定の遺伝子座へと標的化され、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)部位の近くの小さな編集ウィンドウ内で、シチジンをウリジンに変換することができる。次に、ウリジンは、塩基除去修復によってチミジンに変換され、CからTへの変化(または反対の鎖におけるGからAへの変化)を創出する。塩基除去修復インヒビターUGIがCas9ニッカーゼに融合されている第3世代の塩基エディター(BE3系)は、細胞が、ミスマッチ修復のための鋳型として編集された鎖の使用を促されるように、未修飾DNA鎖をニックする。結果として、細胞は、鋳型としてUを含有する鎖(シチジンの脱アミノ化によって導入された)を使用してDNAを修復し、塩基編集を複製する。第4世代の塩基エディター(BE4系)には、塩基除去修復インヒビターUGIの2つの複製が用いられる。産物の純度が高く(典型的には、少なくとも99.9%)、インデルの割合が低い(典型的には、0.1%以下)ゲノムDNAにおいて、標的化A・T塩基対をG・Cに効率的に変換する(ヒトの細胞において0~100%の効率)アデニン塩基エディター(ABE)が開発された。例えば、Gaudelli et al., Nature 551:464-471 (2017)を参照されたい。
【0009】
以下の段落および実施例に記載されているように、本発明者らのゲノム操作に対する合理化されたアプローチには、DNAドナー鋳型の存在下で、ノックアウトおよびミスセンス変異による標的化遺伝子破壊ならびに標的化遺伝子ノックインのために塩基エディター(例えば、第3世代および第4世代の塩基エディター、アデニン塩基エディター)が用いられる。これらの方法、系、および組成物の利点は多種多様である。特に、この方法は、単一の方法において遺伝子編集のトリオ:標的化遺伝子ノックアウト、標的化ミスセンス変異、および標的化遺伝子ノックインを作製するのに有用である。本明細書に記載の方法は、リンパ球造血系細胞の生物学および遺伝子機能を研究する、原発性免疫不全症などの疾患をモデル化すること、ならびに疾患を引き起こす点突然変異を修正すること、および治療適用のための新規細胞生成物(例えば、T細胞生成物)を生成するのに非常に適している。特定の理論または作用機序に拘束されることなく、所定のウイルス組込みパターンの使用および毒性の二本鎖切断の誘導の制限、本明細書に記載の方法、系、および組成物により、より安全で、制御可能な細胞の操作が可能になると考えられる。
【0010】
したがって、標的遺伝子の転写または翻訳の標的化破壊のための方法が本明細書において提供される。特に、この方法は、スタートコドンの破壊、未成熟ストップコドンの導入、および/またはイントロン/エクソンスプライス部位の破壊の標的化によって、標的遺伝子の転写または翻訳の破壊の標的化を含む。一部の場合には、塩基編集融合タンパク質をコードする核酸配列をガイドRNAと組み合わせるステップであって、それによって、特に、CD34+ HSPC、T細胞、ナチュラルキラー細胞、およびB細胞などの初代細胞において、予期せずに高い割合の塩基編集が得られるステップを含む方法が本発明において提供される。本明細書に記載の方法を使用して、効率が改善され、オフターゲットインデル形成速度が低減した、初代細胞における目的の1種以上の遺伝子がノックインおよび/またはノックアウトされ得る。好ましい実施形態では、この方法は、遺伝子ノックイン、遺伝子ノックアウト、およびミスセンス変異を含む多重化された塩基編集のために使用される。
【0011】
第1の態様では、遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞を生成するための方法が本発明において提供される。特に、この方法は、塩基編集成分をリンパ球造血系細胞へとトランスフェクトするステップを含み、ここで、この成分は、(i)Cas9ニッカーゼドメインに融合したデアミナーゼドメインおよび塩基除去修復インヒビタードメインを含む塩基エディター融合タンパク質をコードするプラスミドであって、Cas9ニッカーゼドメインが塩基除去修復ドメインに融合していてもよい、プラスミド;ならびに(ii)遺伝子改変される標的核酸配列に対する相補性を有する1種以上のgRNAを含む。トランスフェクトされた細胞を1種以上のgRNAによって標的とされるスプライス部位の破壊を促進する条件下で培養する場合、標的核酸配列は、トランスフェクトされていない細胞と比べて、塩基エディター融合タンパク質および1種以上のgRNAによって修飾され、それによって、遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞が生成される。本明細書で使用される場合、用語「リンパ球造血系細胞」は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、B細胞、CD34+造血幹前駆細胞(HSPC)、ならびにリンパ球ならびに血液、骨髄、脾臓、リンパ節、および胸腺の細胞の生成に関与する他の細胞を指す。
【0012】
本明細書で使用される場合、「塩基エディター」(「核酸塩基エディター」としても公知)は、Cas9ニッカーゼドメインまたはデアミナーゼに融合したデッドCas9(dCas9)を含むCas9融合タンパク質である。一部の実施形態では、融合タンパク質は、UGIドメインにさらに融合したCas9ニッカーゼを含む。一部の実施形態では、UGIドメインは、この系においても提供されるが、Cas9ドメインに融合していない。一部の場合には、塩基編集融合タンパク質は、塩基エディター3(BE3)または塩基エディター4(BE4)であり、ここで、BE3およびBE4は、それぞれ、第3世代の塩基エディターおよび第4世代の塩基エディターを指す。BE3およびBE4は、C>GもしくはAまたはインデル変異を生じ得る。他の場合には、塩基編集融合タンパク質は、アデニン塩基エディター(ABE)、例えば、細菌およびヒトの細胞のDNAにおいて、A・T塩基対をG・C塩基対に変換するABEである。例えば、Gaudelli et al., Nature 551:464-471 (2017)を参照されたい。ATG「開始」コドンにおいてヌル変異を導入し、標的化遺伝子の発現を破壊するものを含む他の塩基エディターが、本明細書に記載の方法に従って使用するのに好適であることが理解されるであろう。
【0013】
ある特定の実施形態では、この方法は、スプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)部位または未成熟STOP(pmSTOP)部位を標的とすることによって、遺伝子をノックアウトするステップを含む。このような方法では、CRISPR gRNA分子は、標的ヌクレオチド配列内の1種以上のスプライスアクセプター/ドナー部位を破壊するように設計される。CRISPRガイドRNA分子(gRNA)は、少なくとも10個の連続ヌクレオチドの配列、および多くの場合、生物のゲノム内の標的配列に対して相補的であり、標的塩基対を含む17~23個の連続ヌクレオチドを含む。gRNAは、gRNA標的部位に対して、部分的にまたは全体的に相補的であるヌクレオチド配列を含む。gRNA標的部位は、標的部位からすぐ下流に位置するプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)も含む。PAM配列の例が知られている(例えば、Shah et al., RNA Biology 10 (5): 891-899, 2013)を参照されたい。
【0014】
SA-SD部位における破壊は、ストップコドンをリードスルーせずに、コード配列および非コードRNA(ncRNA)をノックアウトすることができるため、特に有利である。ヒトの長い非コードRNAおよび免疫療法に関連するヒトのタンパク質コード遺伝子に対して設計される例示的なSA-SD gRNAを表1に示す。以下の実施例において実証されているように、SA-SD部位を標的とするgRNAを使用する破壊は、ノックアウト効率の観点で、未成熟STOPコドンの導入よりも優れている。塩基編集効率は、サンガーシーケンシングトレースのEditR分析によるか、または次世代シーケンシング(NGS)による、ゲノムレベルでの、およびフローサイトメトリーによるタンパク質レベルに関して決定することができる。スプライスドナー領域およびスプライスアクセプター領域を標的とするスプライスアクセプター-スプライスドナー塩基編集gRNAは、少なくとも5%、一部の場合には、少なくとも80%またはそれより高い割合で(例えば、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%)の塩基変換の効率を呈する。一部の場合には、SA-SD gRNAは、未成熟ストップコドンの破壊を導入するgRNAよりも、CからTへの変換が有意により効率的である。
【0015】
SA-SD部位を標的とするためのガイドRNAは、すべてのncRNAおよびタンパク質コード遺伝子のSA-SD部位を標的とするgRNAを特定するRベースのプログラムを使用して設計することができる。一部の場合には、ユーザーが、参照ゲノム、参照配列のEnsemblの転写物番号、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)部位、およびエクソン-イントロン境界の上流と下流のサブセットへの距離を供給する。プログラムは、20塩基対+エクソン-イントロン境界の上流のPAMの長さおよび下流の15塩基対の配列を、スプライス部位のモチーフと共に抽出する。一部の実施形態では、ガイド分子は、20~120塩基長、またはそれより長い長さであり得る。ある特定の実施形態では、ガイド分子は、20~60塩基長、または20~50塩基、または30~50塩基、または39~46塩基であり得る。
【0016】
一部の場合には、哺乳動物の細胞へとトランスフェクトされた場合に、安定性の増加した化学的に修飾されたgRNAを使用することが有利である。例えば、gRNAは、各gRNAの少なくとも1つの5’ヌクレオチドおよび少なくとも1つの3’ヌクレオチドに2’-O-メチルホスホロチオエート修飾を含むように化学的に修飾され得る。一部の場合には、3つの末端5’ヌクレオチドおよび3つの末端3’ヌクレオチドは、2’-O-メチルホスホロチオエート修飾を含むように化学的に修飾される。
【0017】
ある特定の実施形態では、この方法は、(i)鋳型からの相同組換え修復(HDR)または(ii)ウイルスベクターの組込みによって、ドナー配列の挿入を媒介する塩基編集ニッカーゼ活性を用いる。このような方法では、Cas9ニッカーゼドメインによって、挿入部位を標的とするgRNAを使用して、DNAドナー鋳型の存在下で、標的化遺伝子ノックインが促進される。一部の場合には、ドナー配列は、内因性セーフハーバー遺伝子座、例えば、C-Cモチーフケモカイン受容体5(CCR5)、アデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)、ROSAβgeo26(Rosa26)、アルブミン(ALB)、T細胞受容体アルファ定常(TRAC)、および/またはヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1(HPRT)に組み込まれる。例えば、ガイドRNAは、AAVS1遺伝子座を標的とするように設計することができる。このような場合には、ガイドRNAは、DNA標的部位に対して相補性を有する。標的化ノックイン(KI)を例証する
図16を参照すると、BEニッカーゼ活性は、rAAV DNAドナーの送達と組み合わせた場合にHDRを刺激するのに非常に有効である。一部の場合には、標的挿入部位に対して相補的な2つのガイドRNAを使用するBEの効率は、単一のgRNAの使用、またはCas9ヌクレアーゼもしくはCas9ニッカーゼの使用と比べて非常に改善された。
【0018】
実施形態としては、同時に起こる多重遺伝子編集方法が挙げられる。例えば、塩基編集を使用する、ヒト細胞における多重操作のための方法が本発明において提供される。一部の場合には、この方法は、塩基エディター融合タンパク質(例えば、BE3、BE4、ABE)および1種以上の遺伝子が破壊され(ノックアウトのために)、かつ1種以上の遺伝子が挿入のためにドナーDNA鋳型を使用してノックインされるgRNAを含む。
図12を参照すると、ヒトT細胞において、TRAC、B2M、およびPDCD1のノックアウト発現を成功させるために、塩基エディター3(BE3)および塩基エディター4(BE4)を3つのSA-SD gRNAと共に使用した。また、BE3およびBE4を、ドナーDNA鋳型をノックインするために、2つのAAVS1を標的とするgRNAを含むこれらの3つのSA-SD gRNAと共に使用した。これらのデータは、本発明において提供される塩基編集方法が、標的DNA鋳型またはミスセンス変異のノックインの有無にかかわらず、細胞(例えば、T細胞)における免疫療法に関連する複数の遺伝子の多重破壊に有用であることを実証する。
【0019】
in vitro、in vivo、またはex vivoで、原核細胞または真核細胞においてゲノム操作するための(例えば、1種以上の遺伝子または1種以上の遺伝子産物の発現を変更するかまたは操作するための)方法も本明細書において提供される。特に、本発明において提供される方法は、ヒトT細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、CD34+造血幹前駆細胞(HSPC)(例えば、さい帯血HSPC)、および線維芽細胞(例えば、MPS1線維芽細胞、ファンコニー貧血線維芽細胞)を含む哺乳動物細胞における標的化塩基編集による破壊に有用である。重要なことに、
図21A~21Dに示されているように、ファンコニー貧血(よって、DNA修復欠損の)患者由来の線維芽細胞は、依然として、例えば、BE3、BE4、またはABEを使用する塩基編集を受けることができる。したがって、本明細書に記載の方法に従って改変されたT細胞などの遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞も本発明において提供される。
【0020】
一部の場合には、この方法は、治療適用のために「普遍的に許容される」細胞として好適である遺伝子操作されたT細胞を生成するために構成される。本明細書で使用される場合、用語「普遍的に許容される」は、免疫学の用語において細胞産物の一般的許容性を指し、ここで、患者および細胞の交差マッチングは必要とされず、免疫抑制は必要とされない。このような細胞を得るために、この方法は、例えば、(i)Cas9ニッカーゼドメインに融合したデアミナーゼドメインを含む塩基エディター融合タンパク質をコードするプラスミド、mRNA、またはタンパク質であって、ニッカーゼドメインが塩基除去修復インヒビタードメインを含む、プラスミド、mRNA、またはタンパク質、(ii)TRAC、B2M、およびPDCD1のそれぞれの発現を破壊するための1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNA、(iii)T細胞受容体(TCR)およびキメラ抗原受容体(CAR)をコードするドナーDNA鋳型、ならびに(iv)標的挿入部位に対して相補的な2つのgRNAをヒトT細胞へとトランスフェクトするステップを含み得る。この方法は、SA-SD gRNAによって標的とされるスプライス部位の破壊を促進する条件下で、トランスフェクトされたT細胞を培養するステップであって、それによって、TRAC、B2M、およびPDCD1遺伝子産物の発現が、トランスフェクトされていないT細胞と比べて低減されるステップと、標的挿入部位においてドナーDNA鋳型の標的化ノックインを促進する条件下で、トランスフェクトされたT細胞を培養するステップとをさらに含む。この例では、得られた遺伝子改変されたT細胞はCAR/TCRを発現し、TRAC、PDCD1、およびB2Mの発現を欠く。一部の場合には、この方法は、CTLA-4の発現を破壊するように設計されたgRNAを導入するステップをさらに含む。遺伝子TRAC、PDCD1、およびB2Mにおける標的塩基を編集するための例示的なgRNAの配列を表1に示す。
【0021】
【0022】
塩基編集融合タンパク質は、Cas9ニッカーゼドメインまたは不活性化Cas9ヌクレアーゼドメイン(デッドCas9またはdCas9と称される)に融合したデアミナーゼドメインを含み、ここで、一部の場合には、デアミナーゼドメインは、アポリポタンパク質B mRNA編集複合体(APOBEC)ファミリーのデアミナーゼである。APOBEC1シチジンデアミナーゼドメインによって、シチジンの代わりにチミジンの単一塩基の置換がなされる標的化遺伝子破壊が可能となる。
【0023】
別の態様では、塩基編集の修正のために疾患を標的とするための方法が本発明において提供される。標的配列は、当技術分野で確立されている、任意の疾患関連ポリヌクレオチドまたは遺伝子であり得る。内因性遺伝子配列の変異または「修正」の有用な適用の例としては、疾患関連遺伝子変異の変更、スプライス部位をコードする配列における変更、制御配列における変更、機能獲得型変異を引き起こす配列における変更、および/または機能喪失型変異を引き起こす配列における変更、ならびにタンパク質の構造的特徴をコードする配列の変更の標的化が挙げられる。
【0024】
別の態様では、切断耐性Fc受容体を得るために塩基編集を使用するための方法が本発明において提供される。例えば、一部の場合には、塩基編集酵素の変異原性ドメインを使用して、より高い親和性を有するFCγRIIIa(IgG受容体IIIaのFc断片)遺伝子産物(CD16aとしても公知)を生じる変異を誘導する。したがって、この方法は、塩基編集のための成分(例えば、BE3、BE4、gRNA、ドナー鋳型)をナチュラルキラー細胞中に導入し、NK細胞の抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCC)を増強するCD16aにおける変異を導入するステップを含み得る。
図18A~18Dを参照すると、本発明において提供される方法に従う塩基編集によって、CD16aを切断耐性形態へと改変することによって、CD3
-CD56
+NK細胞の改変に成功した。BE3-VQRおよびCD16a gRNAを使用して、40%のCからTへの編集効率が得られた。
【0025】
一部の場合には、本明細書に記載の方法を使用して、細胞がキメラ抗原受容体(CAR)および/またはT細胞受容体(TCR)を発現するように、細胞を遺伝子改変することが有利であろう。「キメラ抗原受容体(CAR)」は、「キメラ受容体」、「T-ボディ」、または「キメラ免疫受容体(CIR)」と呼ばれることがある。本明細書で使用される場合、用語「キメラ抗原受容体(CAR)」は、膜貫通ドメインおよび少なくとも1つの細胞内ドメインに作動可能に連結した抗体の細胞外抗原結合ドメイン(例えば、単鎖可変ドメイン(scFv))を含む、人工的に構築されたハイブリッドタンパク質またはポリペプチドを指す。一般的に、CARの抗原結合ドメインは、目的の標的細胞の表面に発現される特定の抗原に対して特異性を有する。例えば、T細胞は、B細胞リンパ腫上のCD19に対して特異的なCARを発現するよう操作され得る。ドナーマッチングによって制限されないアロジェニックな抗腫瘍細胞療法では、CARをコードする核酸をノックインするだけではなく、ドナーマッチングを担う遺伝子(TCRマーカーおよびHLAマーカー)をノックアウトするよう細胞を操作することができる。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝子改変された」および「遺伝子操作された」は交換可能に使用され、挿入するために使用される方法にかかわらず、外因性ポリヌクレオチドを含む原核細胞または真核細胞を指す。一部の場合には、エフェクター細胞は、ヒトの手によって創出または改変された天然に存在しない核酸分子を含むよう改変されるか(例えば、組換えDNA技術を使用して)、またはこのような分子に由来する(例えば、転写、翻訳などによって)。外因性、組換え、合成、および/またはその他の場合には改変されたポリヌクレオチドを含有するエフェクター細胞は、操作された細胞であると考えられる。
【0027】
一部の実施形態では、塩基エディターおよびガイド分子を含む成分は、in vitro、ex vivo、またはin vivoで、細胞に送達され得る。一部の場合には、ウイルスまたはプラスミドベクター系は、本明細書に記載の塩基編集成分を送達するために用いられる。好ましくは、ベクターは、ウイルスベクター、例えば、レンチウイルスまたはバキュロウイルスまたは好ましくはアデノウイルス/アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであるが、送達の他の手段も公知であり(例えば、酵母系、マイクロベシクル、遺伝子銃/金ナノ粒子にベクターを付着する手段)、企図されている。ある特定の実施形態では、gRNAおよび塩基エディター融合タンパク質をコードする核酸は、細胞に送達するために、1種以上のウイルス送達ベクター内にパッケージングされる。好適なウイルス送達ベクターとしては、限定されないが、アデノウイルス/アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクターが挙げられる。一部の場合には、当技術分野で公知である非ウイルストランスファー方法を使用して、核酸またはタンパク質を哺乳動物細胞に導入することができる。核酸およびタンパク質は、薬学的に許容されるビヒクルと共に、または例えば、リポソーム内に封入されて送達され得る。他の送達手段も公知であり(例えば、酵母系、マイクロベシクル、遺伝子銃/金ナノ粒子にベクターを付着する手段)、企図されている。一部の場合には、細胞は、gRNAおよび塩基エディター(例えば、BE3、BE4、ABE)を取り込むために電気穿孔される。一部の場合には、DNAドナー鋳型は、電気穿孔によるgRNA、塩基エディター、およびベクターの導入後に培養培地にウイルス上清を添加することによって、アデノ随伴ウイルス6型(AAV6)ベクターとして送達される。
【0028】
挿入または欠失(インデル)形成の割合は、適切な方法によって決定することができる。例えば、サンガーシーケンシングまたは次世代シーケンシング(NGS)を使用して、インデル形成の割合を検出することができる。好ましくは、接触させることにより、塩基編集の際に20%未満のオフターゲットインデル形成が生じる。接触させることにより、塩基編集の際に、少なくとも2:1の意図した産物対意図していない産物が生じる。
【0029】
本発明において提供される方法に有用な細胞は、新たに単離された初代細胞であるか、または初代細胞培養の凍結されたアリコートから得ることができる。一部の場合には、細胞は、gRNAおよび塩基編集融合タンパク質の取り込みのために電気穿孔される。以下の実施例において記載されているように、いくつかのアッセイのための(例えば、T細胞のための)電気穿孔条件は、1400ボルト、10ミリ秒のパルス幅、3パルスを含み得る。電気穿孔の後、電気穿孔されたT細胞は、細胞培養培地中で回収され、次いで、T細胞拡大培地中で培養することが可能である。一部の場合には、電気穿孔された細胞は、約5~約30分(例えば、約5、10、15、20、25、30分)間で、細胞培養培地中で回収することが可能である。好ましくは、回収細胞培養培地は、抗生物質または他の選択剤を含まない。一部の場合には、T細胞拡大培地は、CTS OpTmizer T細胞拡大完全培地である。
【0030】
用語「核酸」および「核酸分子」は、本明細書で使用される場合、核酸塩基および酸性部分、例えば、ヌクレオシド、ヌクレオチド、またはヌクレオチドのポリマーを含む化合物を指す。典型的には、ポリマー核酸、例えば、3つ以上のヌクレオチドを含む核酸分子は、隣接するヌクレオチドがホスホジエステル結合を介して互いに連結している直鎖分子である。一部の実施形態では、「核酸」は、個々の核酸残基(例えば、ヌクレオチドおよび/またはヌクレオシド)を指す。一部の実施形態では、「核酸」は、3つ以上の個々のヌクレオチド残基を含むオリゴヌクレオチド鎖を指す。本明細書で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドのポリマー(例えば、少なくとも3つのヌクレオチドのストリング)を指すために交換可能に使用され得る。一部の実施形態では、「核酸」は、RNAならびに一本鎖および/または二本鎖DNAを包含する。核酸は、例えば、ゲノム、転写物、mRNA、tRNA、rNRA、siRNA、snRNA、プラスミド、コスミド、染色体、染色分体の文脈で天然に存在し得るか、または他の天然に存在する核酸分子であり得る。一方、核酸分子は、天然に存在しない分子、例えば、組換えDNAもしくはRNA、人工染色体、操作されたゲノム、もしくはその断片、または合成DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッドであり得るか、あるいは天然に存在しないヌクレオチドまたはヌクレオシドを含み得る。さらに、用語「核酸」、「DNA」、「RNA」、および/または類似の用語は、核酸類似体、すなわち、ホスホジエステル骨格以外を有する類似体を含む。核酸は、天然の供給源から精製され、組換え発現系を使用して精製され、任意に精製され、化学的に合成され得る。該当する場合、例えば、化学的に合成された分子の場合には、核酸は、化学的に修飾された塩基または糖を有する類似体などのヌクレオシド類似体、および骨格修飾を含み得る。核酸配列は、別段に示されていなければ、5’から3’の方向に示される。一部の実施形態では、核酸は、天然のヌクレオシド(例えば、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジン、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシグアノシン、およびデオキシシチジン);ヌクレオシド類似体(例えば、2-アミノアデノシン、2-チオチミジン、イノシン、ピロロ-ピリミジン、3-メチルアデノシン、5-メチルシチジン、2-アミノアデノシン、C5-ブロモウリジン、C5-フルオロウリジン、C5-ヨードウリジン、C5-プロピニル-ウリジン、C5-プロピニル-シチジン、C5-メチルシチジン、2-アミノアデノシン、7-デアザアデノシン、7-デアザグアノシン、8-オキソアデノシン、8-オキソグアノシン、O(6)-メチルグアニン、および2-チオシチジン);化学的に修飾された塩基;生物学的に修飾された塩基(例えば、メチル化塩基);インターカレートされた塩基(intercalated base);修飾された糖(例えば、2’-フルオロリボース、リボース、2’-デオキシリボース、アラビノース、およびヘキソース);および/もしくは修飾されたホスフェート基(例えば、ホスホロチオエートおよび5’-N-ホスホラミダイト連結)であるか、またはそれらを含む。
【0031】
用語「タンパク質」、「ペプチド」、および「ポリペプチド」は本明細書において交換可能に使用され、ペプチド(アミド)結合によって互いに連結したアミノ酸残基のポリマーを指す。この用語は、任意のサイズ、構造、または機能のタンパク質、ペプチド、またはポリペプチドを指す。典型的には、タンパク質、ペプチド、またはポリペプチドは、少なくとも3アミノ酸長であることになる。タンパク質、ペプチド、またはポリペプチドは、個々のタンパク質またはタンパク質の集合を指し得る。例えば、タンパク質、ペプチド、またはポリペプチドにおけるアミノ酸のうちの1種以上は、例えば、炭水化物基、水酸基、ホスフェート基、ファルネシル基、イソファルネシル基、脂肪酸基、コンジュゲーション、官能基化、または他の修飾のためのリンカーなどの化学的実体の付加によって修飾されてもよい。タンパク質、ペプチド、またはポリペプチドは、単一の分子であってもよく、または複数の分子の複合体であってもよい。タンパク質、ペプチド、またはポリペプチドは、天然に存在するタンパク質またはペプチドの単なる断片であってもよい。タンパク質、ペプチド、またはポリペプチドは、天然に存在するか、組換え体であるか、もしくは合成であるか、またはそれらの任意の組合せであってもよい。タンパク質は、様々なドメイン、例えば、核酸結合ドメインおよび核酸切断ドメインを含んでもよい。一部の実施形態では、タンパク質は、タンパク質性の部分、例えば、核酸結合ドメインを構成するアミノ酸配列、および有機化合物、例えば、核酸切断剤として作用することができる化合物を含む。
【0032】
この開示を解釈する際に、すべての用語は、文脈に矛盾しない最も広い可能な意味で解釈されるべきである。この開示において記載されている本発明の特定の適応は、当業者にとって日常的な最適化の問題であり、本発明の趣旨、または添付の特許請求の範囲の範囲を逸脱することなく実施することができる。
本明細書で使用される場合、用語「合成の」および「操作された」は交換可能に使用され、ヒトの手によって操作された態様を指す。
本発明において提供される組成物および方法をより容易に理解することができるように、特定の用語が定義される。
【0033】
この明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈が別段に明確に示していなければ、複数の対象を含む。本明細書において、「または(or)」へのいずれの言及も、別段に記載されていなければ、「および/または(and/or)」を包含することを意図する。
【0034】
用語「含む(comprising)」および「含む(comprises)」および「から構成される(comprised of)」は、本明細書で使用される場合、「含む(including)」、「含む(includes)」または「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的であるかまたはオープンエンドであり、追加の、記載されていないメンバー、要素、または方法のステップを排除しない。本明細書で使用される表現法および用語法は、説明を目的とするものであり、限定とみなされるべきではない。「含む(including)」、「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「関与する(involving)」、およびこれらの変形は、以降に列挙される項目および追加の項目を包含することを意味する。ある特定の要素を「含む(comprising)」と言及された実施形態はまた、これらの要素「から本質的になる(consisting essentially of)」および「からなる(consisting of)」として企図される。特定の要素を修飾するための、請求項における順序を示す用語、例えば、「第1の」、「第2の」、「第3の」などの使用は、1つの請求項の要素について、別の請求項の要素に対するいかなる優先度、優位性、もしくは順序、または方法の行為が実施される時間順序も、それ自体では包摂しない。順序を示す用語は、請求項の要素を識別するために、特定の名称を有する1つの請求項の要素を同じ名称(順序を示す用語の使用がなければ)を有する別の要素と識別するための単なる標識として使用されるに過ぎない。
【0035】
本明細書で使用される場合、1種以上の標的核酸配列を「改変する(modifying)」(「改変する(modify)」)とは、(1種以上の)標的核酸配列のすべてまたは一部を変更することを指し、標的核酸配列のすべてまたは一部の切断、導入(挿入)、置換え、および/または欠失(除去)を含む。標的核酸配列のすべてまたは一部は、本発明において提供される方法を使用して完全にまたは部分的に改変され得る。例えば、標的核酸配列を改変することは、標的核酸配列のすべてもしくは一部を1種以上のヌクレオチド(例えば、外因性核酸配列)と置き換えること、または標的核酸配列のすべてまたは一部(例えば、1種以上のヌクレオチド)を除去もしくは欠失することを含む。1種以上の標的核酸配列を改変することは、1種以上のヌクレオチド(例えば、外因性配列)を1種以上の標的核酸配列中(内)に導入または挿入することも含む。
【0036】
用語「約(about)」および「およそ(approximately)」は、一般的に、測定値の性質または精度を考慮して、測定された量の誤差の許容される度合いを意味する。典型的には、例示的な誤差の度合いは、所与の値または値の範囲の10%以内、好ましくは5%以内である。あるいは、および特に、生物系では、用語「約(about)」および「およそ(approximately)」は、所与の値の1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内である値を意味し得る。本明細書で与えられる数量は、別段に記載されていなければ、明確に記載されていない場合に用語「約(about)」または「およそ(approximately)」が推測され得ることを意味する近似である。
【0037】
別段に定義されていなければ、本明細書で使用されるすべての技術用語は、この発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈において別段に明確に示されていなければ、単一および複数の参照を含む。よって、例えば、「薬剤(an agent)」への言及は、単一の薬剤および複数のこのような薬剤を含む。本明細書において、「または(or)」へのいずれの言及も、別段に記載されていなければ、「および/または(and/or)」を包含することを意図する。
この発明による組成物および方法の様々な例示的な実施形態を以下の非限定的な実施例において、ここに記載する。実施例は、例証の目的のためだけに与えられ、決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。実際に、本明細書で示され、記載されているものに加えて、様々な修正が、前記説明および以下の実施例から当業者には明らかとなり、添付の特許請求の範囲の範囲内にある。
【実施例0038】
このセクションは、80%の高効率で、初代ヒトリンパ球造血系細胞における4つの異なる遺伝子をノックアウトするための、第3および第4世代の塩基エディターの使用の成功を実証する。スプライス部位の破壊は、遺伝子ノックアウトに関して未成熟ストップコドンよりもより有効であることが判明した。より後の世代の塩基エディターのCas9ニッカーゼ機能として、標的化遺伝子ノックインはまた、ドナー鋳型を送達するためにAAV6ベクターを投与した後に、最大70%の効率で達成された。まとめると、本明細書に記載のアッセイおよび結果によって、操作されたT細胞ベースの免疫療法の安全性と有効性の両方を増強する多重遺伝子編集プラットフォームの改善が実証される。
【0039】
(実施例1)
スプライス部位の塩基編集
以前に、塩基編集を使用して、マウスおよび哺乳動物細胞において、遺伝子ノックアウトのための未成熟ストップ(pmSTOP)コドンが誘導された
15~18。しかし、本発明者らは、スプライス部位の破壊が、pmSTOPコドンの誘導に優るいくつかの利点を有し得ると判断した(
図1)。例えば、ストップコドンのリードスルーが一部の遺伝子において最大31%の頻度で生じることが示され、細胞ストレスの条件下で促進される場合がある
19、20。スプライス部位の編集は、翻訳レベルでは回避されにくい、RNAレベル21での遺伝子のプロセシングを変更するため、この懸念を軽減する。さらに、現在の塩基エディターは、厳密なCからTへの編集を生じず、最近の塩基エディターでさえ、最大25%の非標的編集(CからG/Aへの)しか生じない
22。pmSTOPの文脈では、非標的編集によって未成熟ストップコドン形成が排除され、それによって、タンパク質ノックアウトの効率が低下し、代わりに、望ましくないアミノ酸変化が引き起こされることが予想される。
【0040】
pmSTOPの導入とスプライス部位の破壊の両方の性能を評価するために、本発明者らは、アミノ酸コドンをpmSTOPに変換するかまたはPDCD1、TRAC、およびB2M内のスプライスドナー(SD)およびアクセプター(SA)配列を破壊するために単一のガイドRNA(sgRNA)のパネルを設計した(
図2A、2E、2I;表1)。個々のsgRNAを、電気穿孔によって、T細胞へと、第1世代のBE3
13 mRNAまたはBE4
22 mRNAで化学的に修飾されたRNAオリゴヌクレオチド
23と同時送達した。標的CからTへの編集の割合を、遺伝子レベルでの塩基編集の分析を効率化し、その費用を節約するために本発明者らのグループが開発した分析ソフトウェア
24(ワールドワイドウェブのbaseeditr.comにおいて利用可能)である、サンガーシーケンシングおよびEditRによって評価した。
【0041】
最初に、本発明者らは、8つのsgRNA(そのうちの3つはpmSTOPコドンを導入することが予測され、2つはSD部位の破壊を標的とし(GT:CA)、かつ3つはSA部位の破壊を標的とした(AG:TC))を設計することによって、チェックポイント遺伝子PDCD1(PD-1としても公知)を標的とした(
図3A)。本発明者らは、sgRNAのBE3 mRNAまたはBE4 mRNAとの同時送達により、すべての標的遺伝子座における標的Cの測定可能な編集が媒介され、いくつかの候補sgRNAは、他のものより有意に高い編集割合を呈することを見出した(
図3B;
図7A~7C)。具体的には、本発明者らは、PDCD1のエクソン1のSD部位を標的とすることによって、BE3(51.3±7.0%、M±SD)mRNAとBE4(63.7±2.1%)mRNAの両方で、最も高い割合の標的CからTへの編集が生じることを見出した(
図3B)。次の2つの最も効率のよいsgRNAは、エクソン3のSA部位(BE3に関して32.6±5.5%;BE4に関して36.0±4.0%)およびエクソン2における候補pmSTOP部位(BE3に関して37.1±1.2%;BE4に関して48.5±3.7%)を標的とした(
図3B)。遺伝子編集によってタンパク質損失が生じるか否かを決定するために、本発明者らは、フローサイトメトリーによってPD-1タンパク質の発現を評価した。本発明者らの遺伝子分析と一致して、PDCD1のエクソン1のSDを標的とすることにより、最も高い割合のタンパク質損失が生じ(BE3に関して69.5±7.0%;BE4に関して78.6±4.1%)、続いて、エクソン3のSA(BE3に関して40.6±7.8%;BE4に関して44.7±3.8%)、エクソン2のpmSTOP(BE3に関して37.9±3.4%;BE4に関して51.5±9.0%)であった(
図3C)。
【0042】
本発明者らのPDCD1の結果の情報を用い、本発明者らは、TRACを標的とするsgRNAに焦点を当てたパネルを設計した。ここで、本発明者らは、CからTへの変換が、エクソン1のSD部位(BE3に関して47.6±4.6%;BE4に関して60.0±11.3%)およびエクソン3のSA部位(BE3に関して40.3±9.7%;BE4に関して62.3±11.0%)で最も高く、BE4が、各標的においてBE3よりも高い編集割合を呈したことを見出した(
図3F)。効率的な編集は、いずれかのスプライス部位を破壊するsgRNAのものよりも効率がより低いにもかかわらず、エクソン3における2つのpmSTOP候補部位でも観察された。エクソン1のSD部位とエクソン3のSA部位の両方が同様の頻度で編集されたが、それにもかかわらず、エクソン3のSA部位の破壊により、細胞表面のCD3発現の損失によって測定した、最も高い割合のTCRの破壊がもたらされた(BE3に関して69±15.3%;BE4に関して83.7±5.8%)(
図3G)。
【0043】
次に、本発明者らは、同様の戦略を使用して、B2Mを標的とした(
図3I)。エクソン1のSD部位を標的とするsgRNAと共に送達されたBE4 mRNAは、標的塩基の最も効率的なCからTへの変換を示し(BE3に関して58.3±2.5%;BE4に関して70.3±3.2%)(
図3J)、B2Mタンパク質の有効なノックアウトをもたらす(BE3に関して79.1±1.3%;BE4に関して80.0±3.2%)(
図3K)ことを示した。本発明者らはまた、比較的効率的なCからTへの編集(BE3に関して43.3±5.7%;BE4に関して55.7±5.0%)、およびタンパク質ノックアウト(BE3に関して56.2±5.1%;BE4に関して61.5±1.8%)(
図3J、3K)をもたらしたエクソン2における候補pmSTOP部位を特定した。注目すべきことに、ノンコーディングエクソン3のSA部位を標的とすることにより、効率的なCからTへの編集が生じたが、タンパク質発現において検出可能な低減はもたらさなかった(
図3J、3K)。
【0044】
非標的編集(すなわち、CからAまたはGへの)は、BE3に関して報告された
13、C末端に連続して融合した第2のウラシルグリコシラーゼインヒビター(UGI)を含有するBE4で低減する
22。本発明者らは、BE3およびBE4を含む本発明者らの最も効率的なsgRNAの編集ウィンドウ(主に、プロトスペーサーの塩基4~8)内のすべてのCについて、非標的編集割合を評価した。期待した通り、BE4は、すべての遺伝子座で、BE3と比較して非標的編集の低減を示した(-14%±6.6%、P<2.2e-16、対応のある一元t検定)(
図3D、3H、3L;
図7A~7C)。ニッカーゼ機能しか有さないにもかかわらず、BE3とBE4の両方で、低レベルのインデル形成が観察された
13、22。よって、本発明者らは、次世代シーケンシング(NGS)を使用して、編集後にすべての標的部位でインデルの頻度を測定した(
図8A~8C)。インデルは、標的部位に基づいて変化するレベルで、BE3とBE4の両方で検出可能であった。以前の刊行物と一致して、BE4は、全体的に低減したインデルの頻度を呈した(-4.8%±6.1%、P<4.6e-16、対応のある一元t検定)(
図8A~8C)
22。
【0045】
機能が増強された、アロジェニックな「既製の」T細胞を生成するために利用され得る多重編集戦略を評価するという本発明者らの目的に向かって、本発明者らは、各遺伝子に対する本発明者らの最も上位のsgRNAを第1世代のBE3 mRNAまたはBE4 mRNAと同時送達した。驚くべきことに、各標的におけるノックアウト効率は、多重設定で送達された場合、BE3とBE4の両方について、実質的に低減した(
図9)。編集効率の低減がタンパク質レベルが低いことに起因するかどうかを決定するために、本発明者らは、等用量のBE3 mRNA、BE4 mRNA、およびヌクレアーゼ活性化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)のCas9(SpCas9) mRNAをT細胞へと送達し、電気穿孔の24時間後にタンパク質発現を測定した。際立ったことに、SpCas9タンパク質発現は、これらの時点で容易に検出することができたが、BE3タンパク質およびBE4タンパク質は検出不可能であった(
図10)。この問題に対処するために、本発明者らは、最初に、本発明者らの最初の多重実験で使用した用量(1.5μg)よりも2倍多い用量(3μg)のBE3 mRNAおよびBE4 mRNAを送達した。この戦略は、各遺伝子座における編集効率を改善したが、その効率は、本発明者らの単一の遺伝子標的実験で観察されたものよりも依然として低かった(
図4A)。
【0046】
これらの実験の経過中、ヒト細胞において、転写効率と翻訳効率の両方を著しく低減する、第1世代のBE3およびBE4発現ベクターの使用に関する問題を特定する独立した報告が出現した
17、25。この問題を回避するために、本発明者らは、リボヌクレオタンパク質(RNP)複合体として、精製したBE4タンパク質を、各標的に対して最も効率的な本発明者らのsgRNAと共に送達した。RNP送達に関する本発明者らの電気穿孔プロトコールを最適化することによって、本発明者らは、BE4 RNPが、2倍用量の第1世代のBE4 mRNAに対して改善された編集効率を媒介したことを見出した(
図4C)。次に、本発明者らは、BE4の配列をコドン最適化し(coBE4)、mRNAとして送達された場合に、タンパク質発現の増加を観察した(
図10)。coBE4 mRNAが、本発明者らの標準的な用量(1.5μg)とより高い用量(4μg)の両方で、本発明者らの最適なsgRNAのうちの3つすべてと共に送達された場合、本発明者らは、複数の独立したT細胞ドナーにわたって、3つの遺伝子座のすべてで、実質的により高い割合の多重標的CからTへの編集を達成し、いくつかの例では90%を超えた(
図4A)。第1世代のBE3 mRNAおよびBE4 mRNAで観察された非標的編集は、BE4 RNPを使用する場合にわずかに低減し、両方の用量のcoBE4 mRNAでさらに低減した(
図4A)。次に、本発明者らは、以前の研究に従って、多重塩基編集後に、各標的部位におけるインデル形成の割合を評価し、BE3およびSpCas9ヌクレアーゼと比較して、BE4のすべての形態で、各部位におけるより低い割合のインデル形成を見出した(
図4B、4C)。低用量のcoBE4 mRNAと高用量のcoBE4 mRNAの両方は、調べたすべての部位で、最も低いインデル形成の全体的頻度を呈した(
図4B)。
【0047】
フローサイトメトリーによって、各標的遺伝子に関して、多重タンパク質ノックアウトを分析し、タンパク質損失の頻度は、遺伝子編集の頻度と十分に相関した(
図4D、r=0.90、df=28、P=1.3e-11)。BE4 RNPは、第1世代のBE3 mRNAおよびBE4よりも効率的なタンパク質ノックアウトを実証したが、それにもかかわらず、coBE4 mRNAは最も効率的であり、低用量と高用量のmRNAの両方で、各遺伝子に対して90%を超えるタンパク質損失であった(
図4D;
図11)。多重編集についての重要な検討事項は、遺伝子ノックアウトのそれぞれ可能性のある組合せを有する得られた細胞の割合である。本発明者らの実験においてこの現象をより深く理解するために、本発明者らは、フローサイトメトリーによって、すべての標的遺伝子のタンパク質発現を同時に評価し、SPICE分析を使用して、ノックアウトなし、単一の遺伝子ノックアウト、二重遺伝子ノックアウト、または三重遺伝子ノックアウト;およびこれらの画分のそれぞれの中のタンパク質損失の組合せを有する個々の細胞の割合を決定した(
図4E)。第1世代のBE4 mRNAは、様々な組合せのノックアウト表現型を有する終了時の細胞集団を生じたが、三重ノックアウト細胞の頻度が低かった(21.9±1.1%)。三重ノックアウト細胞の割合は、BE4 RNPを使用すると実質的により高く(68.6±0.37%)、1.5μg(86.6±3.75%)と4μg(89.57±4.2%)のcoBE4 mRNAではさらに増加した(
図4F)。
【0048】
オフターゲット(OT)DSB誘導は、ヌクレアーゼプラットフォームが直面している重要な課題である
26。本発明者らの最適なsgRNAの特異性を決定するために、本発明者らは、それぞれを個別にSpCas9ヌクレアーゼまたはBE4 mRNAと共に送達し、NGSによって予測される上位10個のOT部位で編集を評価した(表2)。SpCas9ヌクレアーゼまたはBE4の処理条件のいずれにおいても、予測されたB2MまたはTRACのOT部位のいずれにおいても編集は観察されなかった(
図12)。予測されたPDCD1のOT部位で、本発明者らは、SpCas9 mRNAを使用して、インデル頻度13.0%を有する単一のOT編集を観察した(
図12)。際立ったことに、この部位でのCからTへの編集は、BE4 mRNAに関して0.9%に過ぎず、インデル形成は、本発明者らのアッセイの最低検出限界に近かった(0.2%)(
図12)。
【0049】
表2 計算により予測される候補オフターゲット部位
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
ヌクレアーゼに媒介される多重編集はまた、ヒトT細胞において望ましくない転位を生じることが報告されている
3。塩基編集は、DSB形成の頻度を実質的に低減するため、本発明者らは、本発明者らの塩基編集アプローチを使用して転座が同様に低減されるはずだと判断した。本発明者らの仮説を試験するために、本発明者らは、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)を使用して、本発明者らの3つの標的遺伝子座と単一の特定されたOT部位の間に生じることが予測される12の可能な転座の結果の頻度を定量した(
図5A)。SpCas9ヌクレアーゼまたはmRNAのいずれかと本発明者らの2つの最適なsgRNAの同時送達の後に、本発明者らは、様々な頻度で12の予測された転座の結果すべてを検出することができた(
図5B、
図13~14)。すべての場合で、SpCas9 mRNAは、最も高い割合の転座を生じ、TRACとB2Mの間の転座は、最も頻度が高かった(2.04±0.09%)(
図5B)。対照的に、本発明者らの3つの標的遺伝子座の間の転座の結果は、本発明者らの最適なsgRNAと共にBE4 RNPまたはいずれかの用量のcoBE4 mRNAを受けた細胞集団において事実上検出不可能であった(
図5B、
図13)。1つのドナーからの単一の複製では、PDCD1:B2Mのアッセイによって、低用量のcoBE4 mRNAに関して2つの陽性ドロップレットが生じた(計算された頻度=0.003±0.006%)。BE4 RNPまたは高用量のcoBE4 mRNAに関しては陽性ドロップレットが検出されなかったため、これらはアーチファクトであり得る(
図13)。本発明者らの3つの標的遺伝子座と単一の特定されたOT部位の間の転座は、低頻度であるにもかかわらず、SpCas9で処理されたT細胞においても検出されたが、BE4で処理した試料は、本発明者らのアッセイの検出限界(0.01%)を超えるシグナルを示さなかった(
図5B、
図14)。
【0062】
次に、本発明者らは、本発明者らの塩基編集戦略を使用して生成した多重ノックアウトT細胞がサイトカインの機能性を保持しており、CARを備えた場合に標的細胞の死滅を媒介することが可能であるか否かを決定しようと試みた。本発明者らは、分化マーカーを分析することによって、CD19に特異的なCARの有無にかかわらず、電気穿孔パルス対照とcoBE4ノックアウトT細胞の両方の表現型評価を実施した
27。形質導入されていないT細胞とCARを形質導入したT細胞は両方、類似する分化表現型を呈し、エフェクターとメモリーの集団の画分は、対照とcoBE4ノックアウトT細胞の間で類似していた(
図6A)。CARの形質導入と細胞拡大は、パルス群とcoBE4 mRNA群の間でも同等であった(
図15A~15B)。活性化後、高頻度の形質導入されていないcoBE4ノックアウトT細胞とCARを形質導入したcoBE4ノックアウトT細胞の両方が、サイトカインIL-2、TNFα、およびIFNγの頑健な生成を示した(
図6B)。サイトカインの多機能性は、多重編集プロセスの後も同様に保持された(
図6C)。まとめると、これらのデータは、CARの形質導入と組み合わせた多重coBE4編集は、T細胞の表現型または機能に負の影響を与えなかったことを実証する。最期に、CD19 CARを備えたcoBE4ノックアウトT細胞が標的細胞を死滅させる能力を保持しているかどうかを決定するために、本発明者らは、通常は、細胞表面PD-1を発現するT細胞によって死滅を阻害するように作用する、非標的CD19
neg/PD-L1
neg K562;標的CD19
pos/PD-L1
neg Raji;およびPD-1を過剰発現するよう操作された標的CD19
pos/PD-L1
pos Rajiとのin vitro同時培養アッセイを行った。対照とcoBE4ノックアウトT細胞の両方がCD19
posの特異的死滅を媒介したが、CD19
neg標的細胞の特異的死滅は媒介しなかった(
図6D)。しかし、coBE4ノックアウトT細胞のみが、CD19
pos/PD-L1
pos標的細胞の有意な死滅を達成することができ、CD19
pos/PD-L1
neg標的細胞のものと同等の死滅効率を有した(
図6D)。
【0063】
細胞ベースの免疫療法と遺伝子治療の成功のための要件がより理解されるようになり、普遍的な、アロジェニック細胞の生成への熱意が増すにつれて、高度な多重遺伝子編集はもっとありふれたものとなるであろう。しかし、DSBが、ゲノムの不安定性および細胞死を駆動し得る有毒な損傷であることは十分に報告されてきた11、12。このことは、研究のために細胞を操作する場合にはそれほど重要ではない問題であるが、治療用途のために細胞を遺伝子編集する場合には、形質転換または機能低下をもたらし得る。DBS周辺の本発明者らの問題は、複数の、同時DSBが毒性を増す可能性のある多重遺伝子編集の文脈においてさらに強まる。このことは、別個のDSB部位の数と可能性のある転座の結果の間の放物線の関係によって強調され、その結果、10の遺伝子座を標的とする編集戦略によって、インバージョンおよび大規模な欠失などの他の可能性のあるゲノム変更を考慮から外しても、90の可能な転座が生じ得る。これらの問題を克服するために、本発明者らは、多重T細胞操作のために塩基エディター技術の使用を実施し、塩基編集によるスプライス部位の破壊によって、DSBが誘導する標的化ヌクレアーゼの使用と比較して、有効かつ安全なアプローチがもたらされる。
【0064】
興味深いことに、本発明者らは、トランスフェクトされたmRNAから発現したcoBE4と比較して、BE4 RNPを使用する場合に、非標的編集とインデル形成の両方の割合が高いことを見出した。この観察は、直接BE4タンパク質を送達するのとは対照的に、安定したmRNAから高いレベルで発現した場合に達成されるBE4滞留時間の延長に起因する。遊離のUGIでさえも、BE3の文脈で、インデルの頻度と非標的編集の両方を低減することが示されているので28、mRNAによって達成された滞留時間の延長によって、DSBの形成および非標的編集を軽減するBE4 UGIドメインの追加の能力が可能となり得る28。
【0065】
本発明者らのこの研究では、本発明者らは、CAR-T療法において現在の業界標準である、CD19に特異的なCARのレンチウイルスによる送達を利用した。しかし、このアプローチには、挿入変異原性のリスク、可変的CAR発現、および遺伝子のサイレンシングを含む多くの欠点がある29~31。これらの問題を克服するために、いくつかのグループは、相同組換え(HR)のためのrAAVに送達されるDNAドナー鋳型と一緒にCas9ヌクレアーゼを使用する、高効率の、部位特異的組込みを実証した。これにより、rAAVおよびCas9のオルソログ、例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のCas9(SaCas9)またはフランシセラノベルラ(Francisella novella)のCas9(FnCas9)32、33を使用する部位特異的様式で、治療用導入遺伝子を同時に導入して、安全かつ効率的に多重遺伝子をノックアウトするためにBE4が採用され得る可能性が生じる。Cas9オルソログの適用により、相互利用を懸念せずに、BE4およびCas9ヌクレアーゼに特異的な別個のsgRNAを同時に使用することが可能となるであろう。あるいは、DNAニックを使用して、効率が低いにも関わらず、DNAドナー分子としてネイキッドDNAまたはrAAVを使用して、HRを刺激できることが実証されている34。このことによって、デアミナーゼ活性によって遺伝子ノックアウトを媒介するBE4の能力が、興味深いことに強調されるが、一方、そのニッカーゼ機能によってHRが同時に媒介される。このシナリオでは、sgRNA結合部位には、CからTへの変換による配列変化に起因するCas9結合の損失を妨げるために、塩基編集ウィンドウ内にシトシンが存在しないことが必要とされ得る。
【0066】
塩基エディターと標的化ヌクレアーゼの使用の間の注目すべき1つの差は、編集事象からの可能性のある結果の数である。ヌクレアーゼに媒介されるDSBは、可変性の高い非相同末端結合(NHEJ)経路を介して修復され、インデルのスペクトラムをもたらし、そのうちの一部は、フレームシフト変異を導入せず、よって、遺伝子発現と機能に対して未知の重要性を有するであろう。代わりに、本発明者らの塩基編集アプローチは、限定された数の結果しか有さず、非標的編集を考慮した場合でさえ、すべてが、ネイティブスプライスドナーまたはアクセプターの機能損失をもたらす。但し、選択的または潜在性のスプライシングによって遺伝子の生物学的機能を維持できるので、ネイティブスプライス部位が、常に非機能的生成物をもたらすわけではないことを考慮することが重要である。
【0067】
sgRNA標的部位にわたる小さなddPCRアンプリコン(>200bp)を使用する転座分析によって、最適な試薬を用いる塩基編集によって、検出可能な転座は事実上排除されるが、一方、Cas9ヌクレアーゼは多数の転座を生じ、一部は1.5%もの高い頻度である。注目すべきことに、より規模の大きい欠失も、SpCas9で処理した細胞からサブクローニングした接合PCRアンプリコン(約500bp)のサンガーシーケンシングによって、転座の部位において特定された(
図17A~17B)。これらのデータは、本発明者らの現在のddPCRアッセイによって検出されない、以前に報告された
9、10ものに類似するより多くの複合体ゲノム再配列の存在を示唆する。電気穿孔による細胞間の核酸送達の効率の可変性を考慮して、高レベルのSpCas9/sgRNAを受ける細胞は、より高い頻度で転座を保有することが可能である。
【0068】
本発明者らは、BE4が、SpCas9ヌクレアーゼと比較して、DSB誘導を実質的に低減し、検出可能な転座を生じないことを実証するが、望ましくない事象が生じる可能性は依然として存在する。例えば、BE4のrAPOBEC1は、DNA複製の間に、一本鎖DNAのシトシンを非特異的に編集することが可能である35。あるいは、BE4のUGIは、非特異的様式で、ウラシルDNAグリコシラーゼを潜在的に阻害し、それによって、正常な哺乳動物細胞において、天然に存在し、かつ高頻度で存在するシトシンの脱アミノ化の塩基除去修復を妨げ得る36。このような意図しない出来事を確定的に記録することは困難であるが、これらの可能性のある事象を調べるさらなる研究は、塩基編集された細胞の臨床解釈の前に取り組まれるべきである。これらの領域の不確実さにもかかわらず、塩基エディターのプラットフォームは、現在のヌクレアーゼ技術と比較して、安全性プロファイルの改善された、治療用初代細胞の高効率な多重操作に関する新規アプローチとなる。
【0069】
方法
クローニングおよびウイルス生成:T2AによってRQR8に連結したCD19キメラ抗原受容体に関するDNA配列をgBlock Gene Fragment(Integrated DNA Technologies [IDT])として合成した。断片をpRRL中にGibson Assembled37した(ワールドワイドウェブのwww.addgene.org/36247において利用可能)。Gibson反応をDH10β大腸菌(E. coli)中に形質転換し、アンピシリンを含むLB寒天上にプレーティングした。プラスミドDNAを、GeneJET Plasmid Miniprep Kit(ThermoFisher)を使用してコロニーから精製した。サンガーシーケンシングによる確認後に、ウイルス粒子の生成および用量設定のために、クローンをミネソタ大学のViral Vector & Cloning Core(VVCC)に送付した。
【0070】
ガイドRNAの設計:塩基編集によるスプライス部位の破壊のためのsgRNA設計プログラムであるSpliceR(ワールドワイドウェブのz.umn.edu/splicerにおいて利用可能)[KluesnerおよびLahrら、準備中]を使用して、ガイドRNA(sgRNA)を設計した。SpliceRは、R統計プログラミング言語(v.3.4.3)で記載されている。簡潔には、SpliceRは、標的Ensemblの転写物番号、塩基エディターPAMバリアント、およびインプットとしての種を得る。Ensemblからのエクソンおよびイントロン配列を使用して、ユーザーに特異的なウィンドウに基づいて、各スプライス部位の周辺の領域をプログラムが抽出する。次いで、N20-NGGのパターンを抽出された配列のアンチセンス鎖に適合させる。次いで、適合したパターンを、以前の刊行物13に基づいて予測された編集ウィンドウ内の標的モチーフの位置に基づいてスコア化する。次に、sgRNAを転写物内のそれらの位置に基づいてスコア化し、ここで、転写物における早期のsgRNAはより高いスコアを受ける。pmSTOPを誘導するgRNAを、Benchling塩基編集gRNA設計ツール(ワールドワイドウェブのbenchling.com/pub/liu-base-editorにおいて利用可能)を使用して設計した。
【0071】
CD3+T細胞の単離:塩化アンモニウムベースの赤血球溶解を使用して、Trima Accel leukoreductionシステム(LRS)チャンバーから末梢血単核球(PBMC)を単離した。EasySepヒトT細胞単離キット(STEMCELL Technologies)を使用して、免疫磁気陰性選択によって、CD3+T細胞をPBMC集団から単離した。T細胞を1mLのCryostor CS10(STEMCELL Technologies)当たり10~20×106個の細胞で凍結させ、必要に応じて培養中に解凍した。
【0072】
T細胞の培養:2.5%のCTS Immune Cell SR(ThermoFisher)、L-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン、N-アセチル-L-システイン(10mM)、IL-2(300IU)、IL-7(5ng)、およびIL-15(5ng)を含有するOpTmizer CTS T細胞拡大SFM中で、1mL当たり1×106個の細胞で、37℃および5%のCO2にて、T細胞を培養した。T細胞を、2:1のビーズ:細胞比で、電気穿孔前の48~72時間、Dynabead Human T-Activator CD3/CD28(ThermoFisher)で活性化した。
【0073】
T細胞の電気穿孔:48時間後、Dynabeadを磁気によって除去し、適切な電気穿孔緩衝液中に再懸濁する前に、細胞をPBSで1回洗浄した。シングルプレックス実験では、3×105個のT細胞を、以下の条件下で、Neon Transfection System(ThermoFisher)を使用して、10μLのチップ中で、1μgの化学的に修飾されたsgRNA(Synthego、Menlo Park、CA)と1.5μgのSpCas9、BE3、またはBE4のmRNA(TriLink Biotechnologies)で電気穿孔した。1400ボルト、10ミリ秒のパルス幅、3回のパルス。20μL当たり1×106個のT細胞、示したように1.5~4μgのBE mRNA、およびNucleofectorプログラムEO-115を用いる多重研究のために、4D-Nucleofector(Lonza)とP3キットを使用した。10μgのSpCas9タンパク質(IDT、Coralville Iowa)、または12μgのBE4タンパク質(Aldevron、Fargo)の、3μgの各化学的に修飾されたsgRNA(Synthego)との、室温で15分間のインキュベーションによって、RNPを生成し、NucleofectorプログラムEH-115を使用して電気穿孔した。遺伝子移入の後、37℃、5%のCO2で20分間、抗生物質を含まない培地中でT細胞が回収され、次いで、上記した完全CTS OpTmizer T細胞拡大SFM中で培養した。
レンチウイルスによる形質導入:Retronectin(Takara)でコーティングしたプレート上でのスピンフェクションによって、MOIが20のpRRL-MND-CAR19-RQR8レンチウイルスベクター(UMN Viral Vector & Cloning Core)で、トランスフェクションの24時間後に、T細胞に形質導入した。
【0074】
ゲノムDNAの分析:スピンカラムベースの精製によって、電気穿孔の5日後に、ゲノムDNAをT細胞から単離した。CRISPRにより標的化された遺伝子座のPCR増幅、PCRアンプリコンのサンガーシーケンシング、および前述したウェブアプリケーションEditR(ワールドワイドウェブのbaseeditr.comにおいて利用可能)24を使用するサンガーシーケンシングトレースの次の分析によって、塩基編集効率をゲノムレベルで分析した。次世代シーケンシング(NGS)も同じPCRアンプリコンに関して実施した。
【0075】
次世代シーケンシングおよび分析:Primer3Plusを使用して、目的の領域周辺の375~425bpの部位を増幅するために、Nexteraユニバーサルプライマーアダプター(Illumina)を有するプライマーを設計した(表2)。製造業者(Invitrogen)のプロトコールに従って、AccuPrime Taq DNAポリメラーゼ、High Fidelityを使用し、[94℃-2:00]-30回の[94℃-0:30、55℃-0:30、68℃-0:30]-[68℃-5:00]-[4℃-維持]のサイクルを使用して、ゲノムDNAをPCR増幅した。QIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を使用して、1%のアガロースゲルからアンプリコンを精製した。インデックスプライマーを用いる次の増幅とMiSeq 2x300bpのラン(Illumina)でのシーケンシングのために、試料をミネソタ大学のGenomics Centerに提出した。オンターゲット部位に対して、最小の1,000個のアライメントしたリード対を生成し、オフターゲット部位に対しては、10,000個のリード対を生成した。以前に記載したCRISPR/Cas9編集分析パイプラインCRISPR-DAV38を使用して、Raw fastqファイルを参照配列とsgRNAプロトスペーサー配列に対して分析した。出力された「sample_snp.xlsx」と「sample_len.xlsx」をコンパイルし、カスタムのRマークダウンスクリプト(R v3.4.2)を使用して分析した。
【0076】
フローサイトメトリー:フローサイトメトリーの前に、シングルプレックスPDCD1に破壊されたT細胞を、上記したように、CD3/CD28Dynabeadを使用して、48時間再刺激した。TRACノックアウトを用いる多重実験では、T細胞をホルボール12-ミリステート 13-アセテート(PMA;100ng/mL;Sigma-Aldrich)とイオノマイシン(250ng/mL;MilliporeSigma)で24時間活性化した。PMA/イオノマイシンで処理したT細胞をPBSで洗浄し、培養培地中に再懸濁させ、フローサイトメトリーの前にさらに24時間インキュベートした。T細胞を、フルオロフォアをコンジュゲートした抗ヒトCD3(BD Biosciences)、B2M(BioLegend)、およびCD279(PD-1)(BioLegend)抗体で染色した。抗ヒトCD34モノクローナル抗体(QBEnd10)(ThermoFisher)を使用して、CD19-T2A-RQR8 CARの発現を検出した39。Fixable Viability Dye eFluor 780またはLIVE/DEAD Fixable Aqua Dead Cell Stain(ThermoFisher)を使用して、細胞生存率を評価した。FACSDivaソフトウェアを使用して、LSR IIまたはLSRFortessaフローサイトメトリーにT細胞を捕捉し、FlowJo v10ソフトウェアを使用して、データを分析した。刺激によって、すべての対照T細胞においてPD-1発現が均一に上方調節されなかったので、PD-1+細胞の頻度を正規化した。対照試料におけるPD-1+細胞のPD-1-亜集団に対する比率(rPD1)を使用して、以下のすべての試料について、正規化されていない値(F°posおよびF°pos)からPD-1+とPD-1-亜集団の正規化された値(F’’pos’およびF’neg’)を計算した。
F’pos=F°pos+F°pos(1-rPD1)
F’neg=F°neg-Fp°os(1-rPD1)
【0077】
サイトカインのプロファイリング:簡潔には、K562細胞もしくはRaji細胞、またはPDL1を過剰発現するように操作されたRaji細胞の非存在下または存在下で、2.5%のCTS Immune Cell SR、L-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン、モネンシン(0.7μg/ml;BD Biosciences)およびブレフェルジンA(10μg/ml;Sigma-Aldrich)を含有したN-アセチル-L-システイン(10mM)を含有する200μlのOpTmizer CTS T細胞拡大SFM中で、2×105個のT細胞を12時間培養した。洗浄後、CD4、CD8、CD27、およびCD45roについて、細胞を表面染色し;eFluor780アミン反応性染料を使用して、分析から死細胞を排除した。透過処理(Cytofix/Cytopermキット;BD Biosciences)後、CD3、ガンマインターフェロン(IFN-γ)、インターロイキン2(IL-2)、および腫瘍壊死因子(TNF)について、細胞を染色した。5×104~1×105個の間の事象を、各場合に回収した。試験試料において使用した個々のmAbに関して別々に染色したmAb捕捉ビーズ(BD Biosciences)で電子補償を行った。修正Fortessaフローサイトメトリー(BD Immunocytometry Systems)を使用して、細胞を分析した。FlowJoバージョン9.9.3を使用して、データを分析した。前方散乱面積対前方散乱高さを使用して、細胞凝集物をゲートアウトし、バックグラウンド染色を低減するために分析から死細胞を除去した。染色とサイトカイン生成のバックグラウンドレベルを、刺激していないT細胞を使用して決定した。
【0078】
転座アッセイ:転座PCRアッセイを、2回のプライマー+プローブ qPCRに関する設定を使用して、PrimerQuestソフトウェア(Integrated DNA Technologies、Coralville IA)を使用して設計した。内部参照プライマー+プローブセット(HEX)および実験プライマー+プローブセット(FAM)からなる二重アッセイとして、各試料をランした。プライマーとプローブをIDTから取り寄せた。製造業者の説明書に従って、アッセイ毎に200ngのゲノムDNAを用いて、プローブとしてddPCR Supermix(dUTPなし)(Biorad、Hercules、CA)を使用して反応を設定した。ドロップレットを作成し、QX200 ドロップレット-デジタルPCRシステム(Bio-Rad)を使用して分析した。
【0079】
細胞毒性アッセイ:ルシフェラーゼを発現するK562、Raji、またはRaji-PDL1細胞を96ウェル丸底プレート中に播種した(3×104個の細胞/ウェル)。T細胞を計数し、示したE:T比で三連でウェルに添加した。エフェクターを含まない標的細胞は、陰性対照(自然に起こる細胞死)としての役割を果たし、1%のNP-40と共にインキュベートした標的細胞は、陽性対照(最大の死滅)としての役割を果たした。共培養は、37℃で48時間インキュベートした。インキュベーション後、D-ルシフェリン(カリウム塩;Gold Biotechnology)を25μg/mLの最終濃度で各ウェルに添加し、イメージングの10分前にインキュベートした。BioTek Synergyマイクロプレートリーダーを使用して、エンドポイントモードでルミネセンスを読み取った。エフェクターを含まない標的細胞を100%生存として設定し、実験試料における死滅をこのベースラインに対して測定した。
【0080】
免疫ブロッティングアッセイ:プロテアーゼとホスファターゼのインヒビター(Sigma-Aldrich、COEDTAF-RO、P5726、およびP0044)を含む完全RIPA緩衝液中で、1×106個の細胞からタンパク質を単離した。製造業者のプロトコールに従って、Pierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific Inc.、23225)を使用して総タンパク質を定量した。3μg/μLの細胞溶解液をランし、製造業者(ProteinSimple)のプロトコールに従って、95℃で5分間変性した後にWesプラットフォームで分析した。SpCas9(Cell Signaling、番号14697)およびアクチン(Cell Signaling、番号8457)に対する一次抗体を、キットで供給された緩衝液中で、それぞれ、1:100と1:50に希釈して使用し、プラットフォームを最適化した二次抗体をProtein Simpleから購入した。
【0081】
データ分析および可視化:すべての統計分析をR studioで実施した。有意差のレベルをα=0.05に設定した。統計検定の前に正規性とホメオダシティ(homeodascity)の仮定について、データを分析にかけた。テキストで示したように、スチューデントのペアワイズ片側または両側t検定を使用した。Prism 8(Graphpad)、または様々なtidyverseを用いるR studio(ワールドワイドウェブのwww.tidyverse.org/において利用可能)およびBioconductor(ワールドワイドウェブのwww.bioconductor.org/において利用可能)のパッケージを使用して、データを可視化した。
データの利用可能性:次世代シーケンシングリードは、公開前にNCBI Sequence Read Archiveのデータベースに寄託されることになる。
【0082】
【0083】
(実施例2)
ナチュラルキラー(NK)細胞における塩基編集
方法
末梢血単核球(PBMC)の単離:末梢血を冷やした1×PBSで3:1に希釈した。希釈した血液を15mLのLymphoprep(Stem Cell Technologies)に対して滴下添加した。細胞を、ブレーキなしで、400×gで25分間遠心分離した。バフィーコートを除去し、冷やした1×PBSで洗浄し、400×gで10分間遠心分離した。上清を除去し、細胞をPBMCで凍結させるかまたはNK細胞を精製するために直ぐに使用した。
CD3-CD56+NK細胞の単離:PBMCの密度を1mL当たり5×107個の細胞に調整し、細胞を14mLのポリスチレン丸底チューブに移した。キットの説明書に従い、ヒトNK細胞濃縮キットまたはヒトNK細胞単離キット(Stem Cell Technologies)を使用して、NK細胞を単離した。濃縮した細胞を計数し、フローサイトメトリーによって純度(%CD56+、%CD3+)を分析した。
【0084】
CD3-CD56+NK細胞の刺激:CD3-CD56+NK細胞を計数し、1mL当たり1.25×105個の細胞の密度でプレーティングし、トランスジェニックmbIL21 K562フィーダー細胞(クローン9;Denman et al. PLoS One, 2012)と、2:1(フィーダー:NK)の比で共培養した。共培養の前に、フィーダー細胞に100グレイでX線照射した。フィーダー細胞とNK細胞を50IU/mLのIL2(Peprotech)を含有するB0培地中に再懸濁させた。3日目と5日目に、培地とIL2を新しくした。7日目に、細胞を計数し、実験に使用した。
フローサイトメトリー:冷やした1×PBS+0.5%のFBSで細胞を洗浄し、抗ヒトCD3(eBioscience)と抗ヒトCD56(Miltenyi Biotec)で染色した。LSR Fortessa(BD Biosciences)とFlowJo(Treestar)を使用して、して、細胞を分析した。
【0085】
NK細胞のネオン電気穿孔:刺激したNK細胞をネオントランスフェクションキット(Invitrogen)を使用してトランスフェクトした。細胞を計数し、1mL当たり3×107個の細胞の密度で緩衝液T中に再懸濁させた。塩基編集試薬を電気穿孔の前に細胞に添加した:1.5μgの塩基エディター、1μgのgRNA、1μgのeGFP mRNA。1850ボルトの10ミリ秒のパルスを2回で、細胞を電気穿孔した。電気穿孔後に、1ng/mLのIL15を補充したB0培地中に細胞をプレーティングした。1日おきに培地を新しくした。5日目に、塩基編集効率について細胞を分析した。
【0086】
材料
【0087】
【0088】
【0089】
B0培養培地:60%mLのDMEM 30%mLのHam’s F12
10%mLのヒトAB血清
100U/mLのペニシリン;
100μg/mLのストレプトマイシン
20μMの2-メルカプトエタノール
50μMのエタノールアミン
10μg/mLのアスコルビン酸
1.6ng/mLの亜セレン酸ナトリウム
寒剤:CryoStor CS10
細胞分離試薬:ヒトNK細胞単離キット(Stem Cell Technologies)、ヒトNK細胞濃縮キット(Stem Cell Technologies)
電気穿孔試薬:ネオン10μLのトランスフェクションキット(Invitrogen)
【0090】
(実施例3)
CD34+造血幹前駆細胞(HSPC)における塩基編集
材料および方法
培養培地:StemSpan Serum Free Expansion Media II(SFEM II)(Stem Cell Technologies カタログ番号09605);100ng/mlのhSCF(Peprotech);100ng/mlのhTPO(Peprotech);100ng/mlのhFlt-3L(Peprotech);100ng/mlのhIL-6(Peprotech);StemRegenin1(0.75μMの最終濃度)Cayman Chemical
凍結培地:Cryostor CS10
細胞分離試薬:ヒトUCB CD34+濃縮キット(Stem Cell Technologies;複数のバリエーションが上記供給源によって利用可能である)。
他の試薬:他の試薬:ネオンキット(Thermo Fisher Scientific、共有減に応じて、複数の選択肢が利用可能である)。
【0091】
解凍試料:培養に使用したのと同じタイプの培地を使用して、予め温めた培養培地(37℃)中で細胞を解凍した。1mLの培養培地を15mLの滅菌コニカルチューブに添加した。単一の氷晶が残るまで、凍結バイアルを37℃の水浴中で解凍した。バイアルをバイオセーフティキャビネットに直ぐに取り除き、70%エタノールでスプレーして、ふき取った。バイアルを注意深く開けた。1つのバイアルから15mLの円錐チューブ中に細胞懸濁液を注意深くピペットで滴下した。さらに1mlの培養培地を滴下添加し、穏やかに回転させた。別の1mlの培養培地を滴下添加し、穏やかに回転させた。さらに4mlの培養培地を添加し、穏やかに混合した。175gで10分間遠心分離した。より高い遠心力は細胞死をもたらすであろう。上清を吸引し、細胞ペレットを培養培地中に懸濁させた。細胞を計数し、試験するかまたは培養に置いた。細胞を培養培地中およびインキュベーターに入れるのが遅くならないようにすることが重要である。
【0092】
CD34+HSPCの培養:0日目:完全培地中24ウェルプレートにおいて、1mL当たり1×106個の細胞の密度でプレーティングした。細胞を37℃および5%のCO2で72~96時間インキュベートし、色と細胞密度に基づいて、必要に応じて培地を添加した。
CD34+細胞のネオントランスフェクション:10μlのチップ中で3e5の生存可能な細胞を電気穿孔した。電気穿孔パラメーター:1450V、10ミリ秒、3回のパルス。
すべてのmRNAを使用するノックアウトでは:100μlのチップ:15μgのCas9 mRNA、10~20μgのgRNA-RNA;10μlのチップ:1.5μgのCas9 mRNA、1~2μgのgRNA-RNA。
トランスフェクション後に、細胞を5%のCO2を含有する抗生物質を含まない培地中で、1μl当たり3000個の細胞の密度で、約20分間細胞をプレーティングした。
回収期間後に、2倍の体積の抗生物質を含有する培地をウェルに添加した。5%のCO2中37℃で細胞を培養した。
CD34+細胞のrAAV形質導入:rAAVを氷上で解凍し、細胞を添加する前にウェルを混合した。電気穿孔後の以下の時点で添加した特定のMOI。
Cas9 mRNAにより編集された細胞では:電気穿孔の4~6時間後にウイルスを添加する。
Cas9タンパク質(RNP)では:電気穿孔の15分後にウイルスを添加する。
【0093】
電気穿孔後の拡大:培地添加の指標として観察された電気穿孔後の培地の色。タイミングは、特定の実験/ドナーに関する細胞の健康に応じて変わることになる。培地の色がオレンジ色に変わると(一部の場合には、早くても48時間)、本発明者らは、2倍の濃度のサイトカインを含有する培養培地(「2×培地」)を使用して培養培地の体積を2倍にした。培養期間の経過に対して、このプロセスを必要に応じて継続した。
一部の場合には、細胞が非常に急速に成長し(特におよそ7~9日目)、培地が素早く消費される場合、細胞をスピンダウンし、2~3倍の体積の1倍の培地中で再構築した。
【0094】
細胞の成長が乏しく、培地を2倍にする必要もなく3~4日が経過した場合には、本発明者らは、上部からピペッティングによって約50%の培地を注意深く取り除いた。本発明者らは、フラスコの底に沈降した細胞を注意深く濁らさないようにした。除去した培地を等量の2倍の培地で置き換えた。
【0095】
(実施例3)
初代線維芽細胞における塩基編集
方法
細胞培養:ファンコニー貧血、またはMPS1を有する健康な患者(複数可)からの初代線維芽細胞を1mL当たり1×106個の細胞の濃度のCryoStor中で凍結させた。細胞をヒト初代線維芽細胞(hFib)培地中で解凍した。hFib培地は、500mLのMEMアルファ配合培地(Invitrogen)、5mLのGlutaMAX(商標)(100x、Invitrogen)、20mLのFBS、2.5mLのペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/mL、Invitrogen)、5mLの非必須アミノ酸(100×、Invitrogen)、500μLの抗酸化サプリメント(1000x、Sigma-Aldrich)、100uLのmEGF(50ng/μL、Sigma-Aldrich)、および100uLのhFGF(2.5μg/μL Sigma-Aldrich)からなる。培地を2日毎に新しくし、毎週継代培養することで、5%のCO2および5%のO2で37℃にて細胞を70~100%のコンフルエンシーに維持した。
【0096】
初代線維芽細胞のトランスフェクション:1日前に、90~100%のコンフルエンシーの線維芽細胞を、12ウェルプレートの1ウェル当たり3×105個の細胞の密度でプレーティングした。0日目に、培地を1mLの37℃のhFib培地で置き換えた。100μLのOpti-MEMに対して、1.5μgのBE4max mRNA、1μgのcm-sgRNA、および100ngのeGFP mRNAを添加した。2μLのmRNAブースト試薬(Mirus)とその後の2μLのTrans-IT試薬(Mirus)を、製造業者のプロトコールに従って添加した。室温で3分のインキュベーション後に、Opti-MEM溶液を細胞に対して滴下して分配した。1日目の、トランスフェクションの24時間後に培地を交換し、細胞をGFPに対して可視化した。3日目に、培地を交換し、4日目に、ゲノム分析のために細胞を採取した。
【0097】
ゲノム分析:ゲノムDNA分析:スピンカラムベースの精製によって、ゲノムDNAを線維芽細胞から単離した。CRISPRにより標的化された遺伝子座のPCR増幅、PCRアンプリコンのサンガーシーケンシング、および前述したウェブアプリケーションEditR(baseeditr.com)を使用するサンガーシーケンシングトレースの次の分析によって、塩基編集効率をゲノムレベルで分析した。
【0098】
材料
【0099】
【0100】
【0101】
結果:塩基編集を使用して、ファンコニー貧血の原因であるFNACA遺伝子における病原性変異を修正できるかどうかを決定するために、本発明者らは、BE4max mRNAとcm-sgRNAを初代線維芽細胞に導入し、変異の修正を試みた。本発明者らは、本発明者らが、WT対立遺伝子に対して19%の病原性変異の修正を達成することができたことを見出した(
図21A)。さらなる実験では、この修正が、特に、クロスリンクしたDNAのDNA修復および人工多能性幹細胞(iPSC)中に再プログラミングされる能力に関して、WT表現型の回復をもたらすかどうかが評価されるであろう。アデノシンデアミナーゼ塩基編集が初代ファンコニー貧血線維芽細胞において可能であるかどうかを決定するために、本発明者らは、cm-sgRNAと一緒にABE7.10 mRNAを初代線維芽細胞に導入した。本発明者らは、本発明者らが、標的部位において49%の編集を達成することができたことを見出し、これは、初代細胞に対する高効率の塩基編集であることを示した(
図21B)。この部位での高効率の塩基編集は、HDRの代わりに、単一のヌクレオチド編集に対するアプローチとして、塩基編集を使用することの実行可能性を示す。さらなる研究には、自己遺伝子修正および移植のために、造血系幹細胞への分化のためのiPSCを生成することを意図して、遺伝子疾患に罹患した様々な患者由来の初代線維芽細胞における病原性変異を修正するために、アデノシンデアミナーゼおよびシチジンデアミナーゼ塩基エディターが使用されるであろう。
【0102】
【0103】
当業者は、単なる日常的な実験を使用して、本明細書に記載の本発明の具体的実施形態に対する多くの均等物を認識するか、または確認することができるであろう。このような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
本明細書に開示されている、特許文献を含むすべての参照文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞を生成するための方法であって、
(a)リンパ球造血系細胞中に、
(i)Cas9ニッカーゼドメインに融合したデアミナーゼドメインを含む塩基エディター融合タンパク質をコードするプラスミド、mRNA、またはタンパク質であって、前記ニッカーゼドメインが、塩基除去修復インヒビタードメインを含む、該プラスミド、mRNA、またはタンパク質、および
(ii)遺伝子改変される標的核酸配列に対する相補性を有する、1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNA
を導入することと、
(b)前記1種以上のSA-SD gRNAによって標的とされるスプライス部位の破壊を促進する条件下で、導入を受けた前記細胞を培養することであって、それによって、前記標的核酸配列が、トランスフェクトされていないリンパ球造血系細胞と比べて、塩基前記エディター融合タンパク質および前記1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNAによって改変され、かつそれによって、遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞が生成されることと
を含む方法。
〔2〕1種以上の標的化ノックインまたはミスセンス変異を生じるように設計された1種以上のgRNAを前記リンパ球造血系細胞中に導入することをさらに含み、それによって、遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞が、少なくとも1つの遺伝子ノックアウトおよび1種以上の遺伝子ノックインもしくはミスセンス変異を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕1種以上の標的化ノックインおよび1種以上のミスセンス変異を生じるように設計された1種以上のgRNAを前記リンパ球造血系細胞中に導入することをさらに含み、それによって、遺伝子操作されたリンパ球造血系細胞が、少なくとも1つの遺伝子ノックアウト、少なくとも1つの遺伝子ノックイン、および少なくとも1つのミスセンス変異を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕前記塩基エディター融合タンパク質が、BE3、BE4、またはアデニン塩基エディター(ABE)である、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕前記リンパ球造血系細胞が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、B細胞、またはCD34+造血幹前駆細胞(HSPC)である、前記〔1〕に記載の方法。
〔6〕前記1種以上のSA-SD gRNAが、各gRNAの少なくとも1つの5’ヌクレオチドおよび少なくとも1つの3’ヌクレオチドに2’-O-メチルホスホロチオエート修飾を含むように化学的に修飾されている、前記〔1〕に記載の方法。
〔7〕前記塩基エディター融合タンパク質および1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNAが、約50%~約90%のCからTへの変換の効率を呈する、前記〔1〕に記載の方法。
〔8〕前記1種以上のSA-SD gRNAが、表1に示されている配列から選択される、前記〔1〕に記載の方法。
〔9〕遺伝子改変されたT細胞を生成するための方法であって、
(a)ヒトT細胞へと
(i)Cas9ニッカーゼドメインに融合したデアミナーゼドメインを含む塩基エディター融合タンパク質をコードするプラスミド、mRNA、またはタンパク質であって、前記ニッカーゼドメインが、塩基除去修復インヒビタードメインを含む、プラスミド、mRNA、またはタンパク質、
(ii)TRAC、B2M、およびPDCD1のそれぞれの発現を破壊するための1種以上のスプライスアクセプター-スプライスドナー(SA-SD)gRNA、
(iii)T細胞受容体(TCR)およびキメラ抗原受容体(CAR)をコードするドナーDNA鋳型、ならびに
(iv)標的挿入部位に対して相補的な2つのgRNA
をトランスフェクトすることと、
(b)前記SA-SD gRNAによって標的とされるスプライス部位の破壊を促進する条件下で、トランスフェクトされた前記T細胞を培養することであって、それによって、TRAC、B2M、およびPDCD1遺伝子産物の発現が、トランスフェクトされていないT細胞と比べて低減されることと、
(c)前記標的挿入部位において、前記ドナーDNA鋳型の標的化ノックインを促進する条件下で、トランスフェクトされた前記T細胞を培養することと
を含む方法。
〔10〕前記塩基エディター融合タンパク質が、BE3、BE4、またはアデニン塩基エディター(ABE)である、前記〔9〕に記載の方法。
〔11〕前記1種以上のSA-SD gRNAが、表1に示されている配列から選択される、前記〔9〕に記載の方法。
〔12〕前記SA-SD gRNAおよび前記標的挿入部位に対して相補的なgRNAのうちの1種以上が、各gRNAの少なくとも1つの5’ヌクレオチドおよび少なくとも1つの3’ヌクレオチドに2’-O-メチルホスホロチオエート修飾を含むように化学的に修飾されている、前記〔9〕に記載の方法。
〔13〕前記ドナーDNA鋳型が、rAAVとして提供される、前記〔9〕に記載の方法。
〔14〕前記TCRが、腫瘍抗原に特異的に結合する、前記〔9〕に記載の方法。
〔15〕前記CARが、腫瘍抗原に特異的に結合するCAR抗原結合ドメインを含む、前記〔9〕に記載の方法。
〔16〕前記TCRおよび前記CARが、異なる抗原に結合する、前記〔9〕に記載の方法。
〔17〕前記〔1〕~〔16〕のいずれか1項に記載の方法に従って得られる遺伝子改変された細胞。