(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113702
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ペロブスカイト型発光性ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
C09K 11/66 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
C09K11/66 ZNM
C09K11/66
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090943
(22)【出願日】2024-06-04
(62)【分割の表示】P 2020028595の分割
【原出願日】2020-02-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日 平成31年2月25日 刊行物 第66回応用物理学会春季学術講演会予稿集 公益社団法人応用物理学会(CD‐ROMによる配布) [刊行物等] 開催日 平成31年3月9日 集会名、開催場所 第66回応用物理学会春季学術講演会 東京工業大学 大岡山キャンパス(東京都目黒区大岡山2丁目12-1) [刊行物等] 開催日 令和元年6月14日 集会名、開催場所 第3回電気化学会学生支部会員山形大学学生支部シンポジウム 山形大学米沢キャンパス(山形県米沢市城南4丁目3番16号) [刊行物等] 発行日 令和元年6月25日 刊行物 第10回有機分子・バイオエレクトロニクス国際会議予稿集、第302頁、公益社団法人応用物理学会 [刊行物等] 開催日 令和元年6月26日 集会名、開催場所 第10回有機分子・バイオエレクトロニクス国際会議 奈良春日野国際フォーラム甍~I・RA・KA~(奈良県奈良市春日野町101) [刊行物等] 発行日 令和元年9月21日 刊行物 化学系学協会東北大会予稿集、第137頁、公益社団法人日本化学会東北支部 [刊行物等] 開催日 令和元年9月21日(開催期間 令和元年9月21日~令和元年9月22日) 集会名、開催場所 化学系学協会東北大会 山形大学 小白川キャンパス(山形県山形市小白川町1丁目4番12号) [刊行物等] 発行日 令和元年10月10日 刊行物 第7回スマートシステム工学国際会議予稿集、第59頁、国立大学法人山形大学フロンティア有機材料システム創成フレックス大学院 [刊行物等] 開催日 令和元年10月11日(開催期間 令和元年10月10日~令和元年10月11日) 集会名、開催場所 第7回スマートシステム工学国際会議 山形大学米沢キャンパス(山形県米沢市城南4丁目3番16号) [刊行物等] 開催日 令和元年12月6日 集会名、開催場所 CANON財団 リユニオン2019(東京都千代田区大手町1-5-1 ファーストスクエアイーストタワー2F) [刊行物等] 開催日 令和元年12月11日(開催期間 令和元年12月11日~令和元年12月13日) 集会名、開催場所 マテリアルズリサーチミーティング2019 横浜産貿ホール マリネリア(神奈川県横浜市中区山下町2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [刊行物等] ウェブサイトの掲載日 令和元年12月11日 ウェブサイトのアドレス https://iopscience.iop.org/article/10.7567/1347-4065/ab4ecd/meta
(71)【出願人】
【識別番号】390005681
【氏名又は名称】伊勢化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】増原 陽人
(72)【発明者】
【氏名】梅本 和輝
(72)【発明者】
【氏名】横山 雅晃
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
(57)【要約】
【課題】
PLQYが改善されたペロブスカイト型の発光性ナノ粒子を提供すること。
【解決手段】
ペロブスカイト型の発光性ナノ粒子であって、CuKα線を用いて測定した粉末X線回折パターンにおける(110)面に対応するピークの半値幅が0.53~5.5°であり、Aサイトカチオンとして有機カチオンを含む、発光性ナノ粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型の発光性ナノ粒子であって、
CuKα線を用いて測定した粉末X線回折パターンにおける(110)面に対応するピークの半値幅が0.53~5.5°であり、
Aサイトカチオンとして有機カチオンを含む、発光性ナノ粒子。
【請求項2】
ペロブスカイト型の発光性ナノ粒子であって、
CuKα線を用いて測定した粉末X線回折パターンにおける(100)面に対応するピークの半値幅が0.55~1.1°であり、
Aサイトカチオンとして有機カチオンを含む、発光性ナノ粒子。
【請求項3】
ペロブスカイト型の発光性ナノ粒子であって、
CuKα線を用いて測定した粉末X線回折パターンにおける(200)面に対応するピークの半値幅が0.55~1.5°であり、
Aサイトカチオンとして有機カチオンを含む、発光性ナノ粒子。
【請求項4】
Aサイトカチオンの60モル%以上が、アンモニウムカチオン、グアニジウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン及びプロトン化チオウレアカチオンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の発光性ナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型発光性ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト型の発光性ナノ粒子は、優れた光学的又は電子的特性を有することなどから、有機LED(Light Emitting Diode)、太陽電池、レーザー光源、マイクロLEDディスプレイ、液晶ディスプレイ、UVセンサー等、多くの分野での応用が期待される材料である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ペロブスカイト型の発光性ナノ粒子の光ルミネセンス量子効率(photoluminescence quantum yield、PLQYとも言う)について、依然として改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発光性ナノ粒子は、ペロブスカイト型の発光性ナノ粒子であって、CuKα線を用いて測定した粉末X線回折パターンにおける(110)面に対応するピークの半値幅が0.53~5.5°であり、Aサイトカチオンとして有機カチオンを含む。
【0006】
また、本発明の発光性ナノ粒子は、ペロブスカイト型の発光性ナノ粒子であって、CuKα線を用いて測定した粉末X線回折パターンにおける(100)面に対応するピークの半値幅が0.55~1.1°であり、Aサイトカチオンとして有機カチオンを含むものであってもよい。
【0007】
本発明の発光性ナノ粒子は、ペロブスカイト型の発光性ナノ粒子であって、CuKα線を用いて測定した粉末X線回折パターンにおける(200)面に対応するピークの半値幅が0.55°~1.5°であり、Aサイトカチオンとして有機カチオンを含むものであってもよい。
【0008】
上記発光性ナノ粒子において、Aサイトカチオンの60モル%以上が、アンモニウムカチオン、グアニジウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン及びプロトン化チオウレアカチオンからなる群から選択される少なくとも一種であると好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、PLQYが改善されたペロブスカイト型の発光性ナノ粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態の発光性ナノ粒子は、ペロブスカイト型の発光性ナノ粒子であって、Aサイトカチオンとして有機カチオンを含み、条件(1)~(3)のうち少なくとも一つを満たすものである。
(1)粉末X線回折パターンにおける(110)面に対応するピークの半値幅が0.53~5.5°である。
(2)粉末X線回折パターンにおける(100)面に対応するピークの半値幅が0.55~1.1°である。
(3)粉末X線回折パターンにおける(200)面に対応するピークの半値幅が0.55~1.5°である。
発光性ナノ粒子は、条件(1)~(3)のうち二つ以上を満たすことが好ましく、条件(1)~(3)のすべてを満たすことが好ましい。なお、本明細書においては、半値幅は、半値全幅を意味する。また、粉末X線回折パターンは、横軸を回折角(2θ)で表したものである。また、本明細書において、粉末X線回折パターンは、CuKα線(波長:約0.15418nm)を用いて測定したものである。
【0011】
粉末X線回折パターンにおける(110)面に対応するピークの半値幅の下限は0.53°であり、0.55°であると好ましい。また、粉末X線回折パターンにおける(110)面に対応するピークの半値幅の上限は5.5°であり、4°であると好ましく、2°であるとより好ましく、1.5°であると更に好ましく、1.1°であると特に好ましい。
【0012】
粉末X線回折パターンにおける(100)面に対応するピークの半値幅の下限は0.55°であり、0.56°であると好ましい。また、粉末X線回折パターンにおける(100)面に対応するピークの半値幅の上限は1.1°であり、1.0°であると好ましく、0.9°であるとより好ましく、0.8°であると更に好ましく、0.75°であると特に好ましい。
【0013】
粉末X線回折パターンにおける(200)面に対応するピークの半値幅の下限は0.55°であり、0.56°であると好ましく、0.57°であるとより好ましい。また、粉末X線回折パターンにおける(200)面に対応するピークの半値幅の上限は1.5°であり、1.3°であると好ましく、1.2°であるとより好ましく、1.0°であると更に好ましく、0.9°であると特に好ましい。
【0014】
粉末X線回折測定では、取得したデータに対してバックグラウンド補正、平滑化及びkα2除去等の補正を行ってもよい。
【0015】
本実施形態の発光性ナノ粒子は、ペロブスカイト型の発光性ナノ粒子、すなわち一般式ABX3で表される化合物である。ここで、AはAサイトを占有する化学種(つまり、Aサイトカチオン)であり、BはBサイトを占有する化学種(つまり、Bサイトカチオン)であり、Xは、Xサイトを占有する化学種である。なお、Aサイトカチオン及びBサイトカチオンという用語は、形式電荷としてそれぞれ+1価及び+2価を有するものの、あくまでAサイト及びBサイトの各サイトの化学種を表し、実際の化合物において形式電荷のとおりの電荷を有していなくてもよい。
【0016】
Aサイトカチオンとしては、有機カチオン及び無機カチオンの少なくとも一方である。無機カチオンとしては、アルカリ金属イオンが挙げられる。アルカリ金属イオンとしては、Cs+、Rb+、K+、Na+、及びLi+が挙げられる。
【0017】
Aサイトの有機カチオンとしては、窒素含有有機カチオンが挙げられる。窒素含有有機カチオンとしては、アンモニウムカチオン、アミジニウムカチオン、グアニジウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン及びプロトン化チオウレアカチオンからなる群から選択される少なくとも一種であるカチオンが挙げられ、より具体的には、以下の式(A-1)~(A-7)で表されるカチオン、すなわち、第一級~第四級アンモニウムカチオン(A-1)(ただし、(A-2)で表されるものを除く)、ピロリジニウムカチオン(A-2)、アミジニウムカチオン(A-3)、グアニジニウムカチオン(A-4)、イミダゾリウムカチオン(A-5)、ピリジニウムカチオン(A-6)、及びプロトン化チオウレアカチオン(A-7)等が挙げられる。
【0018】
【0019】
ここで、式(A-1)において、Rは、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、ハロゲン原子、若しくは擬ハロゲンを表す、又は2つのRが一緒になって炭素数2~6のアルキレン基を形成する。
Rがアルキル基の場合、Rとしては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
2つのRが一緒になって炭素数2~6のアルキレン基を形成する場合、当該アルキレン基としては、エチレン基、n-プロピレン基、2,2-ジメチルプロピレン基等が挙げられる。
式(A-1)で表されるカチオンとしては、ベンジルアンモニウムカチオン、iso-ブチルアンモニウムカチオン、n-ブチルアンモニウムカチオン、t-ブチルアンモニウムカチオン、ジエチルアンモニウムカチオン、ジメチルアンモニウムカチオン、エチルアンモニウムカチオン、メチルアンモニウムカチオン(MA)、フェネチルアンモニウムカチオン、iso-プロピルアンモニウムカチオン、n-プロピルアンモニウムカチオン等が挙げられ、メチルアンモニウムカチオンが好ましい。
【0020】
式(A-2)~(A-7)において、R2は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられ、メチル基、又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。なお、分子内にR2が複数ある場合、各R2は、互いに異なっていてもよく、同じものであってもよい。
式(A-3)において、R1は、メチル基、水素原子、ハロゲン原子、又は擬ハロゲンを表す。
式(A-3)のカチオンとしては、アセトアミジニウムカチオン、ホルムアミジニウムカチオン(FA)等が挙げられ、ホルムアミジニウムカチオンが好ましい。
式(A-2)、及び式(A-4)~(A-7)のカチオンとしては、ピリジニウムカチオン、グアニジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、1-メチルイミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、1-メチルピリジニウムカチオン、プロトン化チオウレアカチオンが挙げられる。
【0021】
Aサイトカチオンの60モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上が、アンモニウムカチオン、グアニジウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン及びプロトン化チオウレアカチオンからなる群から選択される少なくとも一種であってよい。また、Aサイトカチオンの40モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下がアミジニウムカチオンであってよい。Aサイトカチオンは、アミジニウムカチオンを含まなくてもよい。
【0022】
特に、Aサイトカチオンとしては、アンモニウムカチオンが好ましく、炭素数1~4のアルキル基を有する第一級アンモニウムカチオンがより好ましく、メチルアンモニウムカチオンが更に好ましい。アンモニウムカチオンは、Aサイトカチオンの60モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上を占めると好ましい。
【0023】
Bサイトカチオンとしては、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Cu、Ni、Co、Fe、Mn、Cr、Pd、Cd、Eu、Yb、Ag等から選択される金属元素のカチオンが挙げられ、Pb又はSnのカチオンが好ましい。Bサイトカチオンは1種のみであってもよいが、2種以上であってもよい。
【0024】
Xは、Xサイトを占有する化学種である。なお、Xサイトは、Bサイトに位置する元素を中心とした八面体構造の頂点に位置するサイトであり、ペロブスカイト型酸化物の酸素が存在するサイトに対応するものである。Xとしては、Cl、Br、I、-CN(シアニド)、-SCN(チオシアネート)、-NSC(イソチオシアネート)、-S(スルフィド)等が挙げられ、これらは、アニオンとして存在していてもよく、Bサイトを占有する元素に配位結合していてもよい。Xとしては、Cl、Br又はIが好ましい。発光性ナノ粒子は、Xとして、1種又は2種以上の化学種を含むことができる。
【0025】
A、B及びXは、発光性ナノ粒子内のポテンシャル、並びにA、B及びXに含まれる原子のサイズ等を考慮して適宜選択することができる。
【0026】
発光性ナノ粒子は、界面活性剤により表面処理されていてもよい。界面活性剤としては、特に制限はなく、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、双性界面活性剤、及びアニオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0027】
界面活性剤としては、アミン化合物又は第四級アンモニウム塩、炭素数8~30のカルボン酸等が好ましい。
【0028】
界面活性剤としてのカルボン酸の炭素数は、10~25であると好ましく、12~20であるとより好ましい。また、当該カルボン酸は、モノカルボン酸であってもよく、多価カルボン酸であってもよい。カルボン酸のカルボキシル基は、一部又は全部が中和されていてもよい(つまり、一部又は全部が塩となっていてもよい)。カルボン酸の塩としては、特に制限されないが、アルカリ金属塩等が挙げられる。界面活性剤としてのカルボン酸は、芳香族カルボン酸及び脂肪族カルボン酸のいずれであってもよいが、脂肪族カルボン酸であると好ましい。脂肪族カルボン酸としては、脂肪酸が好ましい。
脂肪酸は、8~30個の炭素原子を有していると好ましく、12~20個の炭素原子を有していると更に好ましい。脂肪酸としては、具体的には、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等が挙げられ、オレイン酸が好ましい。脂肪酸の塩としては、アルカリ金属塩等が挙げられる。
芳香族カルボン酸としては、3-フェニルプロピオン酸、4-フェニル-3ブテン酸、フェニル酢酸、安息香酸等が挙げられる。
【0029】
界面活性剤としてのアミン化合物は、第一級アミン化合物、第二級アミン化合物、及び第三級アミン化合物のいずれであってもよく、芳香族アミンであっても脂肪族アミンであってもよい。
界面活性剤としてのアミン化合物が含む炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基等が挙げられ、アルキル基が好ましい。アルキル基は直鎖又は分岐鎖アルキル基であってよい。
脂肪族アミン化合物としては、第一級脂肪族モノアミン化合物が好ましい。第一級脂肪族アミン化合物としては、炭素数2~20個の脂肪族炭化水素基を有する第一級脂肪族アミン化合物が挙げられ、より具体的には、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン等が挙げられ、オクチルアミンが好ましい。また、脂肪族アミン化合物としては、1,8-オクチルジアミン等の脂肪族ジアミンも挙げることができる。
芳香族アミンとしては、ベンジルアミン、フェネチルアミン、3-フェニル-2-プロペン-1-アミン、フェニルメチルアミン、2,2’-イミノジ安息香酸、アニリン、3-フェニルプロピルアミン、4-フェニルブチルアミン等が挙げられる。
界面活性剤としての第四級アンモニウム塩としては、脂肪族第四級アンモニウム塩が挙げられる。脂肪族第四級アンモニウム塩としては、ジドデシルジメチルアンモニウム、3-(N,N-ジメチルオクタデシルアンモニオ)プロパンスルホナート塩等が挙げられる。
【0030】
界面活性剤は、ホスホン酸、リン脂質等のリンを含有する化合物を含んでいてもよい。ホスホン酸としては、オクチルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸等が挙げられる。リン脂質としては、トリオクチルホスフィンオキシド等が挙げられる。
また、界面活性剤は、アルキルチオールを含んでいてもよい。アルキルチオールとしては、炭素数6~20のアルキルチオールであってよく、具体的には、1-オクタンチオール等が挙げられる。
【0031】
発光性ナノ粒子は、ハロゲン化金属化合物により表面処理されていてもよい。ハロゲン化金属化合物の金属としては、上記Bサイト金属以外の金属が挙げられ、より具体的には、Zn、Mn、Ga、In等が挙げられる。ハロゲン化金属化合物としては、具体的にはZnBr2、MnBr2、GaBr2、InBr2等が挙げられる。ハロゲン化金属化合物により修飾する場合、発光性ナノ粒子は、上記Aサイトを占有する化学種が金属元素であるものが好ましい。
【0032】
本実施形態の発光性ナノ粒子は、優れたPLQYを有する。特許文献1等に示されるとおり、従来のペロブスカイト型の発光性ナノ粒子は、粉末X線回折パターンにおける(110)、(100)又は(200)面に対応するピークの半値幅が、例えば0.1°程度であり、非常に小さいものである。しかしながら、本発明者が鋭意検討したところ、粉末X線回折パターンにおける(110)、(100)又は(200)面に対応するピークの半値幅が従来よりも大きい範囲(すなわち、条件(1)~(3)の範囲)であるとむしろPLQYが向上することが分かった。その理由としては、必ずしも明確ではないが、半値幅の広がりはアモルファスの形成を示しており、ナノ結晶表面がアモルファス状態になることでパッシベーション層として働き、PLQYが向上するという理由であると考えている。
【0033】
本実施形態のペロブスカイト型の発光性ナノ粒子の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、LARP法(Ligand Assisted Reprecipitation)により製造することができる。
【0034】
LARP法では、まず、原料及び配位子を良溶媒に溶解させた前駆体溶液を用意する。次に前駆体溶液に貧溶媒を加えることにより、発光性ナノ粒子を析出させることができる。貧溶媒の添加は一つの反応容器内で前駆体溶液に貧溶媒を添加するバッチ式で行うと、上記条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たす発光性ナノ粒子が得られやすい。
【0035】
発光性ナノ粒子の原料としては、Aサイトの化学種を含む原料、Bサイトの化学種を含む原料、Xサイトの化学種を含む化合物が挙げられる。発光性ナノ粒子の原料は、一般式ABX3におけるA、B及びXのいずれかを供給できるものであればよく、A、B及びXの複数の化学種を含んでいてよい。
【0036】
Aサイトの化学種を含む原料としては、Aサイトの化学種とXとを含む化合物が挙げられる。例えば、Aサイトカチオンがアルカリ金属イオンを含む場合、Aサイトカチオンを含む原料としては、アルカリ金属とXとの塩が好ましく、アルカリ金属のハロゲン化物であることが好ましいが、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の酢酸塩等、Xを含まない化合物であってもよい。
【0037】
Aサイトの化学種が有機カチオンである場合、有機カチオンとXとの塩が挙げられる。より具体的には、Aサイトの化学種を含む原料として、アンモニウム塩、アミジニウム塩、グアニジニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、ピロリジニウム塩及びプロトン化チオウレアの塩からなる群から選択される少なくとも一つの化合物が挙げられ、これらの塩は、ハロゲン化物塩であることが好ましく、臭化物塩、ヨウ化物塩又は塩化物塩であることが好ましい。Aサイトの化学種を含む原料としては、臭化メチルアンモニウム等のハロゲン化アンモニウム塩、及び臭化ホルムアミジニウム等のハロゲン化ホルムアミジニウム塩が好ましい。
【0038】
Bサイトカチオンを含む原料としては、Bサイト金属含有化合物が挙げられ、BサイトカチオンとXとの塩が挙げられる。Bサイト金属含有化合物は、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Cu、Ni、Co、Fe、Mn、Cr、Pd、Cd、Eu、Yb及びAgからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む化合物であることが好ましい。Bサイト金属含有化合物として、より具体的には、Ge、Sn、Pb、Sb、又はBiのハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、又はヨウ化物)が挙げられ、Ge、Sn、Pb、Sb、又はBiの臭化物、ヨウ化物又は塩化物が好ましい。
【0039】
Xサイトの化学種を含む化合物としては、上述のAサイト又はBサイトの化学種とXサイトの化学種を含む化合物のほか、HCl、HI等のAサイト又はBサイトのいずれの化学種も含まない化合物が挙げられる。
【0040】
配位子としては、上述の界面活性剤として例示したものが挙げられるが、脂肪族モノアミン(炭素数3~16のアルキル基を有するものが好ましい)又は芳香族アミンと、炭素数8~30のカルボン酸とを併用すると、上記条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たす発光性ナノ粒子が得られやすい。配位子としての脂肪族モノアミンが有するアルキル基としては、分岐鎖及び直鎖アルキル基のいずれであってもよいが、直鎖アルキル基であると好ましい。また、脂肪族モノアミンが有するアルキル基の炭素数は、3~16が好ましく、4~12がより好ましく、4~8が更に好ましい。脂肪族モノアミンが有するアルキル基としては、具体的には、n-プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基が挙げられる。
【0041】
配位子としての芳香族アミンは、アリール基を有するアミンが挙げられ、特にフェニル基又は置換フェニル基を有するアミンが好ましい。中でも、フェニル基又は置換フェニル基が炭素数2~6のアルキレン基により窒素原子と連結された構造を有する化合物が挙げられ、具体的には、2-フェニルエチルアミン、3-フェニルプロピルアミン、4-フェニルブチルアミンが好ましく、特に2-フェニルエチルアミンが好ましい。置換フェニル基が有する置換基としては、ハロゲン原子等が挙げられる。置換フェニル基は、一つのフェニル基に対して1又は2個の置換基を有することが好ましい。置換フェニル基を有する芳香族アミンとしては、2-フェニルエチルアミン、3-フェニルプロピルアミン、4-フェニルブチルアミン等のフェニル基の水素原子が置換基(例えばハロゲン原子)で置換されたものが挙げられる。
【0042】
配位子としてのカルボン酸としては、炭素数8~30のカルボン酸が好ましく、炭素数10~20のカルボン酸がより好ましく、炭素数12~20のカルボン酸が更に好ましい。配位子としてのカルボン酸としては、具体的には、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等が挙げられる。
【0043】
良溶媒としては、原料に対する溶解度(25℃)が1g/L以上であるものが挙げられ、具体的には、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等を挙げることができる。
【0044】
貧溶媒としては、例えば、原料に対する溶解度(25℃)が1g/L未満のものが挙げられ、具体的には、トルエン、ヘキサン、オクタデセン等の炭化水素系溶媒や、クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒を挙げることができる。原料に対する貧溶媒の溶解度は、10mg/L以下であると好ましく、1mg/L以下であるとより好ましい。
【0045】
使用する貧溶媒の量としては、発光性ナノ粒子が析出した後の再溶解を抑制できる観点から、前駆体溶液に対して体積比で10倍以上であると好ましく、15倍以上であるとより好ましい。
【0046】
配位子の使用量(添加量)は、飽和溶解度(反応温度における分散媒に溶解する界面活性剤の最大量)以下であれば制限はなく、発光性ナノ粒子の原料の総量に対して、1質量%以下であると好ましい。なお、製造時に使用した配位子は、発光性ナノ粒子製造後に洗浄して発光性ナノ粒子から除去してもよく、配位子をほぼ完全に除去した状態としてよい。また、発光性ナノ粒子の凝集を抑制する等の観点から、配位子の除去後に別の界面活性剤により発光性ナノ粒子を表面処理してもよい。また、配位子を除去せずに、得られた発光性ナノ粒子に界面活性剤を添加して更なる表面処理を行ってもよい。
【0047】
上記混合物におけるAサイトの化学種を含む原料と、Bサイトの化学種を含む原料とのモル比は、特に限定されないが、Bサイトの化学種を含む原料をAサイトの化学種を含む原料よりも過剰に使用することもでき、例えば、Aサイトの化学種とBサイトの化学種とのモル比に換算して1.0:1.0~1.0:35であると好ましく、1.0:1.0~1.0:7であるとより好ましい。また、Aサイトの化学種を含む原料をBサイトの化学種を含む原料よりも過剰に使用することもできる。その場合は、Aサイトの化学種とBサイトの化学種とのモル比に換算して1.0:1.0~70:1.0であると好ましく、1.0:1.0~14:1.0であるとより好ましい。
【0048】
得られた発光性ナノ粒子は、デカンテーション、濾過、遠心分離等の分離方法により、回収することができる。
【0049】
本実施形態の発光性ナノ粒子は、有機LED、太陽電池、レーザー光源、マイクロLEDディスプレイ、液晶ディスプレイ、UVセンサー等に使用することができる。本実施形態の発光性ナノ粒子は、発光性ナノ粒子と、結合剤とを含む組成物として使用することができる。結合剤としては、樹脂が挙げられ、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。結合剤中での分散性を高めるため、本実施形態の発光性ナノ粒子の表面をシランカップリング剤等の分散剤で表面修飾してもよい。
【実施例0050】
(製造例1~7)
原料として、臭化メチルアンモニウム3.6mg及び臭化鉛(II)14.7mgをN,N-ジメチルホルムアミド1mLに溶解させ、配位子として表1に示すアミン化合物4μLとオレイン酸5μLとを添加して前駆体溶液を調製した。
得られた前駆体溶液を、体積比で25倍のクロロホルムに加え、発光性ナノ粒子が分散した分散液を得た。
【0051】
【0052】
製造例1~7で得られた分散液に回転数9000rpmで10分間遠心分離を行った。遠心分離後、分散液から沈殿層を採取し、ガラス板上に塗布して一晩乾燥させて測定用サンプルを得た。
上記測定用サンプルを用いて粉末X線回折パターンの測定を行った。使用した装置は、株式会社Rigaku製の商品名「全自動多目的X線回折装置 SmartLab 9kw」であり、使用した線源はCuKα線である。取得した粉末X線回折測定データをRigaku 統合粉末X線解析ソフトウェアに導入し、「バックグラウンド補正、平滑化、kα2除去」処理を行った。結果を表2に示す。
【0053】
蛍光分光光度計(HORIBA製、商品名:FluoroMax-2)を用いて発光性ナノ粒子の蛍光強度を測定し発光性ナノ粒子の発光ピークの波長を測定した。また、絶対PL 量子収率装置(浜松ホトニクス製、商品名:C9920-01)を用いてPLQYを測定した。それぞれ、結果を表2に示す。
【0054】