(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113720
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
F02M 61/18 20060101AFI20240816BHJP
F02M 61/04 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
F02M61/18 320C
F02M61/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018837
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向井 寛
(72)【発明者】
【氏名】杉井 泰介
(72)【発明者】
【氏名】宮本 明靖
(72)【発明者】
【氏名】米谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】三宅 威生
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA02
3G066BA01
3G066BA23
3G066CC27
3G066CC48
(57)【要約】
【課題】複数の噴孔に加工を施すことなく、噴霧に旋回を付与することができる燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】燃料噴射装置100の噴孔部材109は、複数の噴孔201a~201fと、複数の噴孔201a~201fに燃料を案内する複数の噴孔上流側流路202a~202dとを有する。弁体110は、複数の噴孔201a~201fを開閉する。噴孔間角度が最大である最大噴孔間角度をαmaxとしたとき、αmaxの範囲内に複数の噴孔上流側流路202a~202dのうちの1つの噴孔上流側流路202aの中心線(流路群対称軸303)が存在する。そして、1つの噴孔上流側流路202aの中心線は、αmaxを構成する噴孔対201c,201fから等距離に定義される対称軸(噴孔群対称軸302)に対して、角度γ変位している。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の噴孔と、前記複数の噴孔に燃料を案内する複数の噴孔上流側流路とを有する噴孔部材と、
前記噴孔部材に対して着座又は離座し、前記複数の噴孔を開閉する弁体と、を備え、
前記複数の噴孔及び前記複数の噴孔上流側流路は、それぞれ前記弁体の周方向に並んでおり、
前記周方向に隣接した噴孔対と前記噴孔部材の中心軸で定義される噴孔間角度が最大である最大噴孔間角度をαmaxとしたとき、前記αmaxの範囲内に前記複数の噴孔上流側流路のうちの1つの噴孔上流側流路の中心線が存在し、前記1つの噴孔上流側流路の中心線は、前記αmaxを構成する噴孔対から等距離に定義される対称軸に対して、角度γ変位している
燃料噴射装置。
【請求項2】
前記周方向に隣接した2つの噴孔上流側流路の中心と前記噴孔部材の中心軸で定義される噴孔上流側流路間の角度をβとした場合に、下記関係式が成立する
請求項1に記載の燃料噴射装置。
(数1)
γ≦(β-αmax/2)・・・(1)
【請求項3】
前記αmaxを除く噴孔間角度を構成する噴孔対の間に、前記複数の噴孔上流側流路の中心点が1つ存在する又は存在しない
請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
複数の噴孔と、前記複数の噴孔に燃料を案内する複数の噴孔上流側流路とを有する噴孔部材と、
前記噴孔部材に対して着座又は離座し、前記複数の噴孔を開閉する弁体と、を備え、
前記複数の噴孔及び前記複数の噴孔上流側流路は、それぞれ前記弁体の周方向に並んでおり、
前記周方向に隣接した噴孔対と前記噴孔部材の中心軸で定義される噴孔間角度が最大である最大噴孔間角度をαmax1、2番目に大きい噴孔間角度をαmax2としたとき、前記αmax1及び前記αmax2のそれぞれの範囲内に、前記複数の噴孔上流側流路のうちの1つの噴孔上流側流路の中心線が存在し、前記αmax1の範囲内に存在する1つの噴孔上流側流路と、前記αmax2の範囲内に存在する1つの噴孔上流側流路は、前記αmax1及び前記αmax2のそれぞれを構成する噴孔対から等距離に定義される対称軸に対して、非対称位置に配置されている
燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられる燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関には、シリンダ内に燃料を直接噴射する筒内噴射方式の燃料噴射装置が多く用いられている。燃料噴射装置では、噴孔から吐出する燃料の速度を増加させることで燃料噴霧の微粒化を促進して、燃焼効率を向上させている。そのため、近年の燃料噴射装置は、燃料供給圧力(以下,「燃圧」と略記する)が上昇する傾向にある。
【0003】
噴孔から吐出する燃料の速度を増大させると、燃料噴霧の到達距離が伸びる。しかし、噴霧の先端がシリンダの壁面に到達してしまうことがある。この場合は、噴霧が液膜に変化するため、燃焼不良が生じて排ガス性能が悪化してしまう。そこで、燃料噴霧に旋回を付与して、噴霧の到達距離を縮小することが考えられている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載された燃料噴射弁は、ノズル本体の先端部に周上に並ぶように配置された一部ないし全部の噴孔において、噴孔出口の周縁に対し噴孔の配置方向に沿った切り欠き部を設けている。この切り欠き部は、シリンダ側から噴孔内に流入するガスの流れを周方向にガイドして、燃料噴霧に旋回を付与する。
【0005】
また、特許文献2には、噴孔の入口側にテーパー部を設けるとともに噴孔の内壁に螺旋溝が設けられた燃料噴射ノズルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-89770号公報
【特許文献2】特開2010-48237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された燃料噴射装置は、噴孔を通過する燃料に旋回を付与して噴霧の到達距離を縮小する。そのため、噴孔の出口もしくは噴孔の入口及び内壁に、燃料の流動を制御する機構が必要であった。したがって、製造時に噴孔周囲に微細な加工が必要となり、加工コストが増大してしまう。さらに、噴孔周囲の微細な構造は、摩耗や汚れの影響を受けやすいという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、複数の噴孔に加工を施すことなく、噴霧に旋回を付与することができる燃料噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の一態様である燃料噴射装置は、噴孔部材と、弁体とを備える。噴孔部材は、複数の噴孔と、複数の噴孔に燃料を案内する複数の噴孔上流側流路とを有する。弁体は、噴孔部材に対して着座又は離座し、複数の噴孔を開閉する。複数の噴孔及び複数の噴孔上流側流路は、それぞれ弁体の周方向に並んでいる。周方向に隣接した噴孔対と噴孔部材の中心軸で定義される噴孔間角度が最大である最大噴孔間角度をαmaxとしたとき、αmaxの範囲内に複数の噴孔上流側流路のうちの1つの噴孔上流側流路の中心線が存在する。そして、1つの噴孔上流側流路の中心線は、αmaxを構成する噴孔対から等距離に定義される対称軸に対して、角度γ変位している。
【発明の効果】
【0010】
上記構成の燃料噴射装置によれば、複数の噴孔に加工を施すことなく、噴霧に旋回を付与することができる。
なお、上述した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る燃料噴射装置の構造を示す縦断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る燃料噴射装置の噴孔部材の軸方向に平行な断面を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る燃料噴射装置の噴孔部材の軸方向に直交する断面を示す断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る燃料噴射装置の噴孔部材における燃料が流れる方向を模式的に示す説明図である。
【
図5】第1実施形態に係る燃料噴射装置による噴霧の状況を模式的に示す説明図である。
【
図6】第1実施形態に係る角度γ及び角度βを説明する図である。
【
図7】第1実施形態に係る燃料噴射装置の噴霧の挙動を可視化して示す図である。
【
図8】第1実施形態に係る燃料噴射装置の噴霧の平均到達距離を示す図である。
【
図9】第2実施形態に係る角度γ及び角度βを説明する図である。
【
図10】第2実施形態に係る燃料噴射装置の噴霧の平均到達距離を示す図である。
【
図11】第1及び第2実施形態に係る噴孔上流流路構造の非対称配置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0013】
1.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態に係る燃料噴射装置について、
図1~
図8を参照して説明する。
【0014】
[燃料噴射装置の構成]
まず、第1実施形態に係る燃料噴射装置の構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、第1実施形態に係る燃料噴射装置の構造を示す縦断面図である。
【0015】
燃料噴射装置100は、例えば、筒内直接噴射式のガソリンエンジン向けの燃料噴射装置である。燃料ポンプから供給された燃料は、マニホールド(本実施例では省略)を介して燃料噴射装置100の後端部(
図1において上部)に供給される。そして、燃料噴射装置100は、開弁動作時に先端部(
図1において下部)からシリンダ内に燃料を噴射する。
【0016】
燃料噴射装置100は、概軸対称構造である。燃料噴射装置100は、第1ハウジング101と、Oリング102と、第2ハウジング103と、ノズルホルダ107とを備える。また、燃料噴射装置100は、コイル104と、磁気コア(固定子)105と、アンカー(可動子)106と、プランジャロッド108とを備える。
【0017】
第1ハウジング101は、内部が中空構造の筒状に形成されている。第1ハウジング101の軸方向の一端(上端)部は、不図示のマニホールドに接続される。Oリング102は、第1ハウジング101の軸方向の一端部に配置されている。Oリング102は、第1ハウジング101とマニホールドとの間に介在する。Oリング102は、第1ハウジング101とマニホールドとの間を封止して、燃料漏れを防ぐ。
【0018】
第2ハウジング103は、筒状に形成されている。第2ハウジング103の軸方向の一端(上端)部は、第1ハウジング101の軸方向の他端(下端)部に接続されている。第2ハウジング103は、第1ハウジング101に密着している。また、第2ハウジング103の外周部には、コイル104が巻回されている。
【0019】
コイル104は、コイル104の巻き始めと巻き終わりの端部は、不図示の配線を介してコネクタの電力供給用の端子に接続されている。コイル104は、外部から電流が供給されると、磁界を発生する。コイル104は、ノズルホルダ107に覆われている。
【0020】
ノズルホルダ107は、内部が中空構造の筒状に形成されている。ノズルホルダ107の軸方向の一端(上端)部は、第2ハウジング103の軸方向の他端(下端)部に接続されている。ノズルホルダ107の内部空間は、第2ハウジング103の内部空間と連通している。ノズルホルダ107の軸方向の他端(下端)部には、噴孔部材109が固定されている。
【0021】
磁気コア105は、磁性体により筒状に形成されている。磁気コア105は、第1ハウジング101の内周面に嵌合された状態で固定されており、第1ハウジング101の軸方向の他端部から突出している。磁気コア105の第1ハウジング101から突出した部分は、第2ハウジング103内に挿入されている。
【0022】
アンカー106は、磁性体により筒状に形成されている。アンカー106の軸孔には、プランジャロッド108が嵌合している。本実施形態では、アンカー106がプランジャロッド108に締結されている。アンカー106は、ノズルホルダ107の内部空間及び第2ハウジング103の内部空間に配置されている。
【0023】
アンカー106の軸方向の一端部は、磁気コア105の軸方向の他端部と対向している。アンカー106の外周面とノズルホルダ107及び第2ハウジング103の内周面との間には、微小な間隙が形成されている。アンカー106には、軸方向に延びる偏心貫通孔(不図示)が形成されている。この偏心貫通孔は、燃料が通過する流路となる。
【0024】
プランジャロッド108は、円柱状に形成されている。プランジャロッド108は、ノズルホルダ107の内部空間及び第2ハウジング103の内部空間において、ノズルホルダ107及び第2ハウジング103の軸方向に移動可能に配置されている。
【0025】
プランジャロッド108の軸方向の他端(下端)部には、弁体110が固定されている。すなわち、本実施形態において、アンカー106、プランジャロッド108、弁体110は、一体化されており、ノズルホルダ107及び第2ハウジング103に摺動可能に支持されている。
【0026】
噴孔部材109は、燃料の通り道となる複数の噴孔201a,201b,201c,201d,201e,201fと、複数の噴孔上流側流路202a,202b,202c,202dを有する。また、噴孔部材109は、プランジャロッド108が摺動する複数の摺動部203a,203b,203c,203d(
図3参照)と、弁体110が着座又は離座するシート部204(
図2参照)を有する。
【0027】
弁体110は、複数の噴孔201a~201fを開閉する。弁体110がシート部204に着座すると、燃料が複数の噴孔201a~201fを通過不可能になり、燃料噴射装置100は、閉弁状態になる。また、弁体110がシート部204から離座すると、燃料が複数の噴孔201a~201fを通過可能になり、燃料噴射装置100は、開弁状態になる。
【0028】
第1ハウジングの軸孔には、調整部材112が配置されている。調整部材112は、第1ハウジングの軸孔に圧入されており、第1ハウジングの内部に固定されている。調整部材112は、筒状に形成されている。調整部材112の軸孔は、燃料が通過する流路となる。
【0029】
調整部材112の軸方向の一端(上端)部は、第1ハウジング101の一端部の開口と対向している。調整部材112の軸方向の他端(下端)部は、プランジャロッド108の軸方向の一端部と対向している。調整部材112の軸方向の他端部とプランジャロッド108の軸方向の一端部との間には、スプリング111が配置されている。
【0030】
スプリング111の一端(上端)は、調整部材112の軸方向の他端部に当接し、スプリング111の他端(下端)は、プランジャロッド108の軸方向の一端部に当接している。スプリング111は、プランジャロッド108を噴孔部材109側(ノズルホルダ107の他端側)へ付勢する。これにより、弁体110は、噴孔部材109のシート部204(
図2参照)に押し付けられる。
【0031】
燃料噴射装置100が閉弁状態において、燃料噴射装置100に供給された燃料は、第1ハウジング101、第2ハウジング103、ノズルホルダ107、噴孔部材109、弁体110で構成されたハウジング内空間内に満たされている。
【0032】
コイル104に通電されていない状態では、スプリング111の付勢力が、プランジャロッド108及び弁体110を噴孔部材109側に付勢する。これにより、弁体110が噴孔部材109のシート部204(
図2参照)に接触(着座)して、複数の噴孔201を閉じる。その結果、燃料噴射装置100は、閉弁状態を維持する。
【0033】
コイル104に電流を流す(通電する)と、コイル104、磁気コア105、アンカー106を通る磁路が形成される。その結果、磁気コア105とアンカー106との間に、電磁力(磁気吸引力)が生じる。磁気吸引力が、スプリング111の付勢力を超えると、アンカー106は、磁気コア105に向かって移動する。これにより、弁体110が噴孔部材109のシート部204から離れる(離座する)。その結果、弁体110が複数の噴孔201を開いて、燃料噴射装置100は、開弁状態となる。そして、ハウジング内空間の燃料が複数の噴孔201からシリンダ内に噴射される。
【0034】
[噴孔部材の構成]
次に、噴孔部材109の構成について、
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、噴孔部材109の軸方向に平行な断面を示す断面図である。
図3は、噴孔部材109の軸方向に直交する断面を示す断面図である。
【0035】
図2に示すように、噴孔部材109は、ノズルホルダ107(
図1参照)の内周面に圧入される筒部205と、筒部205の軸方向の一端に連続するシート部204とを有している。
【0036】
図3に示すように、筒部205の内周面には、プランジャロッド108が摺動する4つの摺動部203a~203dが設けられている。4つの摺動部203a~203dは、噴孔部材109の周方向に等間隔で形成されている。4つの摺動部203a~203dは、プランジャロッド108を噴孔部材109の中心軸方向(
図2では上下方向)に移動可能に支持する。
【0037】
また、筒部205の内周面には、4つの噴孔上流側流路202a~202dが設けられている。4つの噴孔上流側流路202a~202dは、隣り合う摺動部203a~203d間に形成されている。4つの噴孔上流側流路202a~202dは、シート部204に向けて延在しており、燃料をシート部204に案内する。
【0038】
シート部204は、筒部205の軸方向の一端部側の開口を塞ぐ。シート部204は、筒部205と反対側(以下、「先端側」とする)に向けて突出する略半球のカップ状に形成されている。シート部204の内側には、弁体110が接触及び離間するシート面204aが形成されている。シート面204aは、先端側に向かうにつれて縮径する円錐台形状(テーパー状)に形成されている。閉弁状態において、弁体110は、シート面204aに接触しており、燃料を封止している。
【0039】
シート部204のシート面204aよりも先端側には、複数(本例では、6つ)の噴孔201a,201b,201c,201d,201e,201fが設けられている。5つの噴孔201a,201b,201c,201e,201fは,噴孔部材109の中心軸に対して、概同一半径の円周上に配置されている。また、噴孔201dの中心は、噴孔部材109の中心軸と略一致している。
【0040】
本実施形態の5つの噴孔201a,201b,201c,201e,201fは、噴孔部材109の中心軸と、5つの噴孔201a,201b,201c,201e,201fのうち周方向に隣接する噴孔とで定義される噴孔間角度は、均一ではない。本実施形態では、噴孔部材109の中心軸と噴孔201cと噴孔201eとで定義される噴孔間角度が最大となっている。
【0041】
上述したように、コイル104に電流を流す(通電する)と、燃料噴射装置100が開弁状態になる。このとき、燃料は、燃料噴射装置100の一端部(上部)から供給され、ハウジング内空間、噴孔上流側流路202a~202d、弁体110とシート面204a間に生じた間隙を経て、噴孔201a~201fを通ってシリンダ内に噴射される。
【0042】
[噴孔部材における燃料の流れ]
次に、噴孔部材109における燃料の流れについて、
図4を参照して説明する。
図4は、噴孔部材109における燃料が流れる方向を模式的に示す説明図である。
【0043】
図4に示す矢印301b,301b,301c,301dは、噴孔上流側流路202a~202dから流入するガソリンの流れを模式的に示している。補助線302は、便宜上設けたものであり、噴孔部材109の中心軸を通る直線である。噴孔201a~201fは、補助線302を対称軸として、線対称に配置されている。以下、補助線302を、「噴孔群対称軸302」とする。なお、噴孔群対称軸302は、噴孔201c,201eから等距離の直線である。
【0044】
補助線303は、噴孔部材109の中心軸、噴孔上流側流路202aの中心、及び噴孔上流側流路202cの中心を通る直線である。噴孔上流側流路202a~202dは、補助線303を対称軸として、線対称に配置されている。以下、補助線303を、「流路群対称軸303」とする。なお、流路群対称軸303は、噴孔上流側流路202a,202cの中心線でもある。噴孔群対称軸302は、流路群対称軸303と一致せずに、流路群対称軸303から角度γ変位している(γ>0)。
【0045】
矢印304aは、5つの噴孔201a,201b,201c,201e,201fの内側(以下、「噴孔群の内側」とする)の燃料の流れを模式的に示している。噴孔上流側流路202aから流入した燃料の流れ301aは、噴孔201cと噴孔201eの間を通過して、噴孔群の内側に浸入する。
【0046】
流路群対称軸303(噴孔上流側流路202aの中心線)が、噴孔群対称軸302に対して角度γで傾斜している。そのため、噴孔群の内側に浸入する燃料の流れ304aは、噴孔201c側(
図4において右方向)へ向かう速度成分を有している。その結果、噴孔群の内側には、
図4において右回りの燃料の旋回流が生じる。矢印304aに沿う燃料の旋回流は、噴孔201dに流入する。これにより、噴孔201d内の燃料の流速に旋回成分が付与される。
【0047】
噴孔上流側流路202bから流入した燃料の流れ301bの殆どは、噴孔201cからシリンダ内に噴出される。すなわち、燃料の流れ301bの殆どは、噴孔群の内側に到達しない。これと同様に、噴孔上流側流路202cから流入した燃料の流れ301cと、噴孔上流側流路202dから流入した燃料の流れ301dは、噴孔群の内側に到達しない。このため、噴孔群の内側には、矢印304aに沿う燃料の旋回流が安定して生成される。
【0048】
一方、噴孔201c付近には、矢印304aに沿う燃料の旋回流によって励起された矢印305cに沿う旋回流が発生する。そして、矢印305cに沿う燃料の旋回流は、噴孔201cに流入する。これにより、噴孔201c内の燃料の流速に旋回成分が付与される。
【0049】
これと同様に、各噴孔201b,201a,201f,201eの周りに燃料の旋回流が発生する。そして、各旋回流に関する燃料が、各噴孔201b,201a,201f,201eに流入する。これにより、各噴孔201b,201a,201f,201e内の燃料の流速に旋回成分が付与される。
【0050】
[旋回成分が付与された噴霧]
次に、噴孔内の燃料の流速に旋回成分が付与された場合の噴霧について、
図5を参照して説明する。
図5は、燃料噴射装置100による噴霧の状況を模式的に示す説明図である。
【0051】
図5に示すように、噴孔201a内の燃料の流速に旋回成分が付与されると、噴孔201aから噴射される燃料噴霧401には、旋回成分が生じる。旋回成分が生じる場合の燃料噴霧401は、遠心力により噴孔201aの中心軸に対して半径方向に広がる。その結果、燃料噴霧401の到達距離を短縮することができる。このように、本実施形態では、複数の噴孔201a~201fに加工を施すことなく、燃料噴霧に旋回を付与することができる。
【0052】
なお、
図4に示す角度γが0(ゼロ)の場合は、噴孔群の内側に旋回流が生成されず、噴孔201a~201f内の燃料の流速に旋回成分が付与されることは無い。したがって、噴霧の到達距離の短縮効果を得ることができない。
【0053】
噴孔201a~201f内の燃料の流速に付与される旋回成分の大きさは、
図4に示す角度γを調整することで変更することができる。そして、噴孔201a~201f内の燃料の流速に付与される旋回成分の大きさを調整することにより、噴霧の到達距離を変更することができる。
【0054】
[角度γと噴孔群の内側に生じる旋回流]
次に、角度γと噴孔群の内側に生じる旋回流の関係について、
図6を参照して説明する。
図6は、角度γを説明する図である。
【0055】
噴孔群の内側に強い旋回流を生成するためには、以下の制約がある。燃料噴射装置100の中心軸と隣接する噴孔とで定義される噴孔間角度αが最大となるαmaxに含まれる噴孔上流側流路は、1つであることが望ましい。
【0056】
本実施形態では、噴孔上流側流路202aから流入する燃料の流れ301a(
図4参照)により噴孔群の内側に旋回流を生成している。そして、噴孔群の内側の旋回流により各噴孔に流入する燃料の流速に旋回成分を付与している。この場合に、噴孔上流側流路202bの中心がαmaxの範囲外であれば、噴孔上流側流路202bから流入する燃料の流れ301b(
図4参照)は、噴孔群の内側への進行を噴孔201cに阻害される。その結果、燃料の流れ301bが燃料の流れ301aに及ぼす影響は小さい。
【0057】
しかし、噴孔上流側流路202bの中心がαmaxの範囲内に存在する場合は、燃料の流れ301bは、噴孔群の内側への進行を噴孔201cに阻害されにくくなる。その結果、燃料の流れ301bが燃料の流れ301aに及ぼす影響が大きくなり、燃料の流れ301bは、噴孔群の内側の旋回流を弱めることになる。
【0058】
噴孔上流側流路202aの中心線、噴孔部材109の中心軸、及び噴孔上流側流路202bの中心線で定義される噴孔上流側流路間の角度を角度βとする。この場合に、角度γは、次の関係式(1)を満たす。
【0059】
[数1]
β-γ≧(αmax/2)
γ≦β-(αmax/2)・・・(1)
【0060】
また、理想的には、噴孔上流側流路202aから流入する燃料の流れ301aを阻害しないために、燃料の流れ301a以外の燃料の流れ301b~301dは、周方向に並ぶ噴孔201c,201b,201a,201f,201eに阻止されることが望ましい。このため、αmaxの範囲以外において隣接する噴孔間に対向する噴孔上流側流路の中心は、1カ所以下(1カ所又は存在しない)であることが望ましい。なお、αmaxの範囲以外において隣接する噴孔間は、噴孔201c,201b間、噴孔201b,201a間、噴孔201a,201f間、及び噴孔201f,201e間である。
【0061】
[噴霧の挙動及び到達距離]
次に、複数の噴孔201の位置に応じた燃料噴霧の挙動及び到達距離について、
図7及び
図8を参照して説明する。
図7は、燃料噴射装置の燃料噴霧の挙動を可視化して示す図である。
図8は、燃料噴射装置の噴霧の平均到達距離を示す図である。
【0062】
図7に示す噴孔部材601の角度γは、0である(γ=0)。燃料噴霧611は、噴孔部材601を用いて燃料の噴射を一定時間が経過するまで行った場合の噴霧の可視化画像である。噴孔部材601は、上方から下方に向けて燃料噴霧611を噴射している。
【0063】
噴孔部材602は、本実施形態の噴孔部材109と同じものである。噴孔部材602の角度γは、β-(αmax/2)以下である(γ≦β-(αmax/2))。燃料噴霧612は、噴孔部材602を用いて燃料の噴射を一定時間が経過するまで行った場合の噴霧の可視化画像である。噴孔部材602は、上方から下方に向けて燃料噴霧612を噴射している。
【0064】
なお、燃料噴霧611,612の可視化画像は、視点を側方に設けているため、4本の燃料噴霧のみが示されている。また、噴孔部材601,602が開弁している時間は、同一である。したがって、噴孔部材601,602から噴射される燃料の量は同じである。
【0065】
図7に示すように、噴孔部材602から噴射された燃料噴霧612は、噴孔部材601から噴射された燃料噴霧611よりも到達距離が短くなっている。したがって、本実施形態の噴孔部材109を備える燃料噴射装置100は、燃料噴霧に旋回を付与して、噴霧の到達距離を短縮することができる。
【0066】
また、4つの噴孔から噴射された4本の燃料噴霧のいずれにおいても、噴孔部材602から噴射されたものが、噴孔部材601から噴射されたものよりも到達距離が短い。これにより、本実施形態の噴孔部材109では、いずれの噴孔においても燃料の流速に旋回成分を付与することが分かる。
【0067】
図8に示す噴孔部材601の角度γは、0である(γ=0)。
図8に示す噴孔部材602の角度γは、β-(αmax/2)以下である(γ≦β-(αmax/2))。
図8に示す噴孔部材603の角度γは、β-(αmax/2)より大きい(γ>β-(αmax/2))。
図8に示すグラフは、噴孔部材601,602,603に対して流れ解析を行った際に得られた、ある時刻における燃料噴霧の到達距離の平均値を示している。
【0068】
図8に示すように、噴孔部材601から噴射された燃料噴霧の到達距離の平均値を100%とした場合に、噴孔部材602から噴射された燃料噴霧の到達距離の平均値は、80%である。したがって、本実施形態の噴孔部材109を備える燃料噴射装置100は、燃料噴霧に旋回を付与して、噴霧の到達距離を短縮することができる。
【0069】
また、噴孔部材601から噴射された燃料噴霧の到達距離の平均値を100%とした場合に、噴孔部材603から噴射された燃料噴霧の到達距離の平均値は、約95%である。したがって、角度γが0より大きければ(γ>0)、燃料噴霧に旋回を付与して、噴霧の到達距離を短縮することができる。
【0070】
2.第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態に係る燃料噴射装置について、
図9及び
図10を参照して説明する。
【0071】
第2実施形態に係る燃料噴射装置700は、第1実施形態に係る燃料噴射装置100と同様の構成を備えている。第2実施形態に係る燃料噴射装置700が、第1実施形態に係る燃料噴射装置100と異なる点は、噴孔部材702である。そのため、ここでは、第2実施形態に係る噴孔部材702について説明し、重複する構成の説明を省略する。
【0072】
[噴孔部材の構成]
まず、噴孔部材702の構成について、
図9を参照して説明する。
図9は、第2実施形態に係る角度γ及び角度βを説明する図である。
【0073】
図9に示すように、噴孔部材702は、ノズルホルダ107(
図1参照)の内周面に圧入される筒部205と、筒部205の軸方向の一端に連続するシート部704とを有している。筒部205は、第1実施形態と同じである。
【0074】
シート部704は、筒部205の軸方向の一端部側の開口を塞ぐ。シート部704は、筒部205と反対側(以下、「先端側」とする)に向けて突出する略半球のカップ状に形成されている。シート部704の内側には、弁体110が接触及び離間するシート面が形成されている。シート面は、先端側に向かうにつれて縮径する円錐台形状(テーパー状)に形成されている。閉弁状態において、弁体110は、シート部704のシート面に接触しており、燃料を封止している。
【0075】
シート部704のシート面よりも先端側には、複数(本例では、6つ)の噴孔701a,701b,701c,701d,701e,701fが設けられている。6つの噴孔701a~701fは,噴孔部材702の中心軸に対して、概同一半径の円周上に配置されている。
【0076】
本実施形態の6つの噴孔701a~701fは、噴孔部材702の中心軸と、6つの噴孔701a~701fのうち周方向に隣接する噴孔とで定義される噴孔間角度は、均一ではない。本実施形態では、噴孔部材702の中心軸と噴孔701cと噴孔701dとで定義される噴孔間角度と、噴孔部材702の中心軸と噴孔701aと噴孔701fとで定義される噴孔間角度が最大となっている。
【0077】
以下、噴孔部材702の中心軸と噴孔701cと噴孔701dとで定義される噴孔間角度をαmax1とする。また、噴孔部材702の中心軸と噴孔701aと噴孔701fとで定義される噴孔間角度をαmax2とする。
【0078】
補助線312は、噴孔部材702の中心軸を通る直線である。噴孔701a~701fは、補助線312を対称軸として、線対称に配置されている。以下、補助線312を、「噴孔群対称軸312」とする。なお、噴孔群対称軸312は、噴孔701c,701dから等距離の直線であり、噴孔701a,701fから等距離の直線でもある。
【0079】
補助線313は、噴孔部材702の中心軸、噴孔上流側流路202aの中心、及び噴孔上流側流路202cの中心を通る直線である。噴孔上流側流路202a~202dは、補助線313を対称軸として、線対称に配置されている。以下、補助線313を、「流路群対称軸313」とする。
【0080】
なお、流路群対称軸313は、噴孔上流側流路202a,202cの中心線でもある。噴孔群対称軸312は、流路群対称軸313と一致せずに、流路群対称軸313から角度γ変位している(γ>0)。すなわち、噴孔上流側流路202aと噴孔上流側流路202cは、噴孔群対称軸312に対して、非対称位置に配置されている。
【0081】
噴孔上流側流路202aから流入した燃料の流れは、噴孔701cと噴孔701dの間を通過して、噴孔群の内側に浸入する。また、噴孔上流側流路202cから流入した燃料の流れは、噴孔701aと噴孔701fの間を通過して、噴孔群の内側に浸入する。
【0082】
流路群対称軸313(噴孔上流側流路202a,202cの中心線)が、噴孔群対称軸312に対して角度γで傾斜している。そのため、噴孔上流側流路202aから噴孔群の内側に浸入する燃料の流れは、噴孔201c側(
図9において右方向)へ向かう速度成分を有している。また、噴孔上流側流路202cから噴孔群の内側に浸入する燃料の流れは、噴孔201f側(
図9において右方向)へ向かう速度成分を有している。その結果、噴孔群の内側には、
図9において右回りの燃料の旋回流が生じる。
【0083】
噴孔上流側流路202bから流入した燃料の流れの殆どは、噴孔701b,701cからシリンダ内に噴出される。すなわち、噴孔上流側流路202bから流入した燃料の殆どは、噴孔群の内側に到達しない。これと同様に、噴孔上流側流路202dから流入した燃料の流れは、噴孔群の内側に到達しない。このため、噴孔群の内側には、燃料の旋回流が安定して生成される。
【0084】
一方、噴孔701cの周りには、噴孔群の内側に生成された燃料の旋回流によって励起された旋回流が発生する。この旋回流に関する燃料は、噴孔701cに流入する。これにより、噴孔701c内の燃料の流速に旋回成分が付与される。
【0085】
これと同様に、各噴孔701b,701a,701f,701e,701dの周りを旋回する旋回流が発生する。そして、各旋回流に関する燃料が、各噴孔701b,701a,701f,701e,701dに流入する。これにより、各噴孔701b,701a,701f,701e,701d内の燃料の流速に旋回成分が付与される。
【0086】
噴孔部材702において、噴孔群の内側に強い旋回流を生成するためには、αmax1及びαmax2に含まれる噴孔上流側流路は、1つであることが望ましい。これにより、噴孔上流側流路202b,202dから流入した燃料の流れが、噴孔上流側流路202a,202cから流入して噴孔群の内側に旋回流を生成する燃料の流れに及ぼす影響を小さくすることができる。
【0087】
[噴霧の挙動及び到達距離]
次に、複数の噴孔701a~701fの位置に応じた燃料噴霧の到達距離について、
図10を参照して説明する。
図10は、燃料噴射装置の噴霧の平均到達距離を示す図である。
【0088】
図10に示す噴孔部材711の角度γは、0である(γ=0)。
図10に示す噴孔部材702の角度γは、0よりも大きい(γ>0)。噴孔部材702は、
図9を参照して説明したものである。
図10に示すグラフは、噴孔部材711,702に対して流れ解析を行った際に得られた、ある時刻における燃料噴霧の到達距離の平均値を示している。
【0089】
図10に示すように、噴孔部材711から噴射された燃料噴霧の到達距離の平均値を100%とした場合に、噴孔部材702から噴射された燃料噴霧の到達距離の平均値は、約90%である。したがって、本実施形態の噴孔部材702を備える燃料噴射装置700は、燃料噴霧に旋回を付与して、噴霧の到達距離を短縮することができる。
【0090】
3.まとめ
(1)以上説明したように、上述した第1実施形態に係る燃料噴射装置100は、噴孔部材109と、弁体110とを備える。噴孔部材109は、複数の噴孔201a~201fと、複数の噴孔201a~201fに燃料を案内する複数の噴孔上流側流路202a~202dとを有する。弁体110は、噴孔部材109に対して着座又は離座し、複数の噴孔201a~201fを開閉する。複数の噴孔201a,201b,201c,201e,201f及び複数の噴孔上流側流路202a~202dは、それぞれ弁体110の周方向に並んでいる。周方向に隣接した噴孔対と噴孔部材109の中心軸で定義される噴孔間角度が最大である最大噴孔間角度をαmaxとしたとき、αmaxの範囲内に複数の噴孔上流側流路202a~202dのうちの1つの噴孔上流側流路202aの中心線(流路群対称軸303)が存在する。そして、1つの噴孔上流側流路202aの中心線は、αmaxを構成する噴孔対201c,201fから等距離に定義される対称軸(噴孔群対称軸302)に対して、角度γ変位している。
これにより、噴孔上流側流路202aから流入する燃料の流れ301aを用いて、複数の噴孔201a,201b,201c,201e,201fにおける噴孔部材109の中心軸側(噴孔群の内側)に、燃料の旋回流を生じさせることができる。そして、複数の噴孔201a~201f内の燃料の流速に旋回成分を付与することができる。その結果、複数の噴孔201a~201fに加工を施すことなく、燃料噴霧に旋回を付与することができる。
【0091】
(2)上述した第1実施形態に係る周方向に隣接した2つの噴孔上流側流路202a,202bの中心と噴孔部材109の中心軸で定義される噴孔上流側流路間角度をβとした場合に、γ≦(β-αmax/2)が成立する。
これにより、噴孔上流側流路202bから流入する燃料の流れ301bが、噴孔上流側流路202aから流入する燃料の流れ301aに及ぼす影響を小さくすることができる。その結果、噴孔群の内側に燃料の旋回流を安定して生成させることができる。
【0092】
(3)上述した第1実施形態に係るαmaxを除く噴孔間角度を構成する噴孔対の間に、複数の噴孔上流側流路202a~202dの中心線が1つ存在する又は存在しない。
これにより、噴孔上流側流路202b~202dから流入する燃料の流れ301b~301dが、噴孔上流側流路202aから流入する燃料の流れ301aを阻害しないようにすることができる。
【0093】
(4)上述した第2実施形態に係る燃料噴射装置700は、噴孔部材702と、弁体110とを備える。噴孔部材702は、複数の噴孔701a~701fと、複数の噴孔701a~701fに燃料を案内する複数の噴孔上流側流路202a~202dとを有する。弁体110は、噴孔部材702に対して着座又は離座し、複数の噴孔701a~701fを開閉する。複数の噴孔701a~701f及び複数の噴孔上流側流路202a~202dは、それぞれ弁体110の周方向に並んでいる。周方向に隣接した噴孔対と噴孔部材702の中心軸で定義される噴孔間角度が最大である最大噴孔間角度をαmax1、2番目に大きい噴孔間角度をαmax2としたとき、αmax1の範囲内に噴孔上流側流路202aの中心線が存在し、αmax2の範囲内に噴孔上流側流路202cの中心線が存在する。そして、噴孔上流側流路202aと噴孔上流側流路202cは、αmax1及びαmax2のそれぞれを構成する噴孔対から等距離に定義される対称軸(噴孔群対称軸312)に対して、非対称位置に配置されている。
これにより、噴孔上流側流路202aから流入する燃料の流れを用いて、複数の噴孔701a~701fにおける噴孔部材109の中心軸側(噴孔群の内側)に、燃料の旋回流を生じさせることができる。そして、複数の噴孔701a~701f内の燃料の流速に旋回成分を付与することができる。その結果、複数の噴孔701a~701fに加工を施すことなく、燃料噴霧に旋回を付与することができる。
【0094】
以上、本発明の燃料噴射装置の実施形態について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、本発明の燃料噴射装置は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、上述した第1及び第2実施形態では、噴孔部材が6つの噴孔を有する構成にした。しかし、本発明に係る噴孔部材の噴孔数は、噴孔上流側流路数に応じて適宜設定することができる。
【0095】
また、
図2ないし
図9において、噴孔上流側流路は、90度間隔で配置された4個の流路202a~202dで構成されている。しかし、本発明に係る噴孔上流側流路の数は、4個である必要はなく、適宜設定することができる。
図11は、第1及び第2実施形態に係る噴孔上流流路構造の非対称配置例を示す図である。
図11に示すように、本発明に係る噴孔上流側流路の間隔は、一定である必要はない。
【0096】
また、上述した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0097】
なお、本明細書において、「平行」及び「直交」等の単語を使用したが、これらは厳密な「平行」及び「直交」のみを意味するものではなく、「平行」及び「直交」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある、「略平行」や「略直交」の状態であってもよい。
【符号の説明】
【0098】
100,700…燃料噴射装置、 101…第1ハウジング、 102…Oリング、 103…第2ハウジング、 104…コイル、 105…磁気コア(固定子)、 106…アンカー(可動子)、 107…ノズルホルダ、 108…プランジャロッド、 109,602,603,702…噴孔部材、 110…弁体、 111…スプリング、 112…調整部材、 201a,201b,201c,201d,201e,201f,701a,701b,701c,701d,701e,701f…噴孔、 202a,202b,202c,202d…噴孔上流側流路、 203a,203b,203c,203d…摺動部、 204,704…シート部、 204a…シート面、 205…筒部、 302,312…噴孔群対称軸、 303,313…流路群対称軸、 401,612…燃料噴霧