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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113734
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】磁気冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 21/00 20060101AFI20240816BHJP
   F25B 9/00 20060101ALI20240816BHJP
   F25B 9/14 20060101ALI20240816BHJP
   F25J 1/00 20060101ALI20240816BHJP
   F25J 1/02 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
F25B21/00 A
F25B9/00 D
F25B9/14 530Z
F25J1/00 A
F25J1/00 C
F25J1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018871
(22)【出願日】2023-02-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「磁気冷凍材料および水素液化システムに関する研究開発」、「熱磁気特性に関する研究開発」および「GM冷凍機に関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 宏治
(72)【発明者】
【氏名】沼澤 健則
(72)【発明者】
【氏名】松本 宏一
(72)【発明者】
【氏名】増山 新二
【テーマコード(参考)】
4D047
【Fターム(参考)】
4D047AA02
4D047CA06
4D047CA15
4D047CA20
4D047DA17
(57)【要約】
【課題】 磁気冷凍機を用いて液体窒素温度以下の極温度まで冷却する場合、熱交換ガスを室温から極低温まで冷却して供給する必要があるが、従来の多管式熱交換器で予冷すると、冷却装置全体が大型化する。
【解決手段】 本発明の磁気冷凍装置は、クライオスタットと、熱交換ガスを循環させるための、クライオスタットの外側に設置された室温ポンプと、クライオスタットの内部に設置された、磁気熱量効果を有する磁性体を用いて冷却する磁気冷凍機と、熱交換ガスを磁気冷凍機に送り、室温ポンプに帰還させる連結パイプと、室温ポンプから磁気冷凍機までの間に設けられた熱交換ガスを冷却するための熱アンカーとを含み、室温ポンプと熱アンカーの間に、熱交換ガスを予備冷却するための蓄冷式熱交換器をさらに備えている。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱材で包囲され内部を真空化可能なクライオスタットと、
熱交換ガスを循環させるための、前記クライオスタットの外側に設置された室温ポンプと、
前記クライオスタットの内部に設置された、磁気熱量効果を有する磁性体を用いて冷却する磁気冷凍機と、
前記熱交換ガスを前記室温ポンプから前記磁気冷凍機に送り、前記室温ポンプに帰還させる連結パイプと、
前記室温ポンプから前記磁気冷凍機までの間に設けられた、前記熱交換ガスを冷却するための熱アンカーとを含む
被冷却体を冷却する磁気冷凍装置であって、
前記室温ポンプと前記熱アンカーの間に、前記熱交換ガスを予備冷却するための蓄冷式熱交換器をさらに備えた
磁気冷凍装置。
【請求項2】
前記磁気冷凍機は、磁気熱量効果を有する磁気作業物質を内蔵する磁性体と、それを包囲するように配置された前記磁性体に磁場を印加するための磁場発生手段と、前記磁性体を前記磁場から出し入れするように間欠的に往復運動させる機構とを含み、前記室温ポンプは、前記磁性体の前記往復運動と同期して前記磁性体中に前記熱交換ガスを流すAMR方式により動作するように構成された、請求項1に記載の磁気冷凍装置。
【請求項3】
前記蓄冷式熱交換器は、入口と出口を有する容器の内部に、蓄熱材として積層した複数のステンレスメッシュを内蔵し、前記熱交換ガスは、前記蓄冷式熱交換器を通過する時に複数の前記ステンレスメッシュと熱交換を行う、請求項2に記載の磁気冷凍装置。
【請求項4】
前記熱交換ガスがヘリウムガスまたは水素ガスである、請求項3に記載の磁気冷凍装置。
【請求項5】
前記熱アンカーがギフォード・マクマホン(GM)冷凍機により冷却されている、請求項4に記載の磁気冷凍装置。
【請求項6】
前記磁場発生手段が超伝導磁石である、請求項5に記載の磁気冷凍装置。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の磁気冷凍装置を用いた、水素ガスから液体水素を生成する水素液化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体窒素温度以下の極低温まで冷却可能な磁気冷凍装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍や冷房、あるいは気体の液化を実現する冷凍技術として、従来、フロン等の冷媒気体の圧縮・膨張サイクル(ブレイトン・サイクル)を利用した気体冷凍が幅広く用いられてきたが、近年、磁気冷凍への関心が高まってきている。磁性体に外部から磁場を印加すると、内部自由度である電子スピンの向きが揃い、その過程で磁性体は発熱する。一方、その状態から断熱状態で急に磁場を切ると磁性体は吸熱して温度が低下する。この可逆的な「磁気熱量効果」を利用して被冷却物を冷却する技術が磁気冷凍技術である。磁気冷凍は、地球温暖化を促進するフロン等の冷媒を使用しないので環境負荷が小さい。また圧縮機が不用なため気体の圧縮・膨張での損失がなく高効率、かつ小型化が可能である。このような利点のため、室温付近の空調や業務用冷蔵庫・冷凍庫への応用、あるいは将来のエネルギー源として注目を集めている液体水素を製造する水素液化装置への応用が期待されている(非特許文献1)。
【0003】
図1は極低温用の磁気冷凍装置の基本的な構成を説明する模式図である。磁気冷凍を行う磁気冷凍機の基本構成要素は、磁気熱量効果を発生する磁気作業物質(例えばガドリニウム(Gd))を内蔵する磁性体、これと熱交換を行う熱交換ガス、そして磁場を発生させる超伝導磁石等の磁場発生手段である。磁気冷凍機は真空断熱を保つ真空断熱容器(クライオスタット)の内部に収納され、その他の付帯装置として、磁性体を磁場から出し入れするための駆動機構、熱交換ガスを循環させるための流体ポンプを備えている。近年は、冷凍効果を向上させるため、磁場発生手段の中心に配置される磁性体を、外部の駆動機構により所定の冷凍サイクルで上下に往復運動させ、さらに、流体ポンプがこの往復運動と同期して磁性体中に熱交換ガスを間欠的に流すことによって、磁気熱量効果を熱交換ガスに効果的に伝達させるAMR(Active Magnetic Regenerator:能動的蓄冷器)方式が用いられる(非特許文献2)。後述する本発明によるAMR方式を用いた磁気冷凍機の中心部分に、外部の水素ガスの貯蔵タンクから水素ガス供給ラインを通して水素ガスを供給すれば、水素液化装置を構成することも可能となる。
【0004】
磁気冷凍機を用いて液体窒素温度以下の極低温まで冷却する場合、熱交換ガスは、室温から磁気冷凍機が効率的に冷凍能力を発揮するのに必要な極低温まで冷却して供給する必要がある。磁気冷凍機の磁性体の温度は100K以下になるので、流体ポンプにより室温で送り込まれる熱交換ガスと極低温の磁性体との温度差は非常に大きくなる。すると熱交換ガスから磁気冷凍機への熱侵入量が増大し、本来発揮されるべき磁気冷凍機の冷凍能力が発揮されない状態となってしまう。これを避けるために、図1に示す極低温用磁気冷凍装置は、室温のガスを液体窒素温度以下になるまで冷却する気体冷凍機と、そこから到達目標の極低温までの冷却を受け持つ磁気冷凍機から成る複合システムを構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-241215号公報
【特許文献2】特許第3677551号公報
【特許文献3】特開平6-166865号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】沼澤健則、「水素エネルギー社会における磁気冷凍の可能性」、水素エネルギーシステム、 第31巻, 第2号、2006年
【非特許文献2】Koji Kamiya et al., “Active magnetic regenerative refrigeration using superconducting solenoid for hydrogen liquefaction”, Applied Physics Express, 15, 053001 (2022).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図1に示す極低温用磁気冷凍装置では、流体ポンプにより磁気冷凍機に熱交換ガスが送られるが、上記のように室温の熱交換ガスを直接磁気冷凍機に供給することはできないため、前段階として気体冷凍機を通して熱交換ガスを十分に予備冷却する。一般的に、ギフォード・マクマホン(GM)冷凍機等の機械式冷凍機が熱アンカーとして熱交換ガスの予備冷却に用いられるが、室温の熱交換ガスを送るとGM冷凍機への熱負荷が大きいため、流体ポンプ(以下では室温ポンプとも言う)とGM冷凍機の間にさらに熱交換器を挿入する必要がある。
【0008】
AMR方式の磁気冷凍機では流れが往復する熱交換ガスを用いる。磁気冷凍機が内蔵する磁気作業物質は、所定の冷凍サイクルに従って往復運動する間に励磁・消磁過程を行う必要があるため、励磁中、消磁中は熱交換ガスを流すことができない。すなわち、磁気冷凍機の熱交換ガスの流れは単純な往復運動ではなく、上記冷凍サイクルに同期して間欠的に往復する流れとする必要がある。そのため、熱交換ガスの冷却は、この熱交換ガスの動きに素早く応答し、冷凍サイクル中の限られた時間内で熱交換ガスを十分低温まで冷却する必要がある。従って、これに用いる熱交換器には、定常流のガス冷却の場合よりもさらに高い熱交換効率が求められる。
【0009】
一般的に、熱交換器としては例えば図2に示すような多管式熱交換器が広く用いられている。しかし、磁気冷凍装置に多管式熱交換器を適用した場合、磁気冷凍機に必要な流体の流量を十分に熱交換させて冷却するためには、10~20mの長さのチューブが必要となり、熱交換器のサイズが非常に大型になってしまうことが計算シミュレーションの結果明らかになった。従って、このような多管式熱交換器を磁気冷凍装置の内部に収納することは難しく、もし収納したとしても装置全体が大型化し、小型化が可能という磁気冷凍機の大きな特徴を生かすことができない。このように、一般的に用いられる小型の多管式熱交換器では、極低温で動作する磁気冷凍機に供給する熱交換ガスを、磁気冷凍の効率的な運転温度まで冷却することは困難である。そのため、極低温用の小型磁気冷凍装置は今まで実現されてこなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記熱交換ガスの予備冷却の問題を解決するために、磁気冷凍装置用の熱交換器として蓄冷式熱交換器を開発した。蓄冷式熱交換器には蓄冷材が用いられ、多様な材質、形状のものがあるが(特許文献2)、本発明で用いた蓄冷材は汎用のステンレスのメッシュを多数積層させたものであり、例えば特許文献3に開示されているような、ランタノイド等の希少で高価なレアアースを含む蓄熱物質を用いることなく、熱交換器としての効率を大きく改善させることができる利点を有する。
【0011】
蓄冷式熱交換器は、元来再生式冷凍機に部品として組込まれて用いられることが多いが、蓄冷式熱交換器をGM冷凍機等に用いる場合は、圧力損失が大きいため熱効率の損失の要因の一つとなっている。しかし、磁気冷凍機へ適用する場合は、動作に必要とする圧力をGM冷凍機の半分程度(~1MPa)に抑えることができるため、圧力損失に起因する熱効率の損失を小さくできるという効果も奏する。
【0012】
本発明による磁気冷凍装置は以下のように構成される。
断熱材で包囲され内部を真空化可能なクライオスタットと、
熱交換ガスを循環させるための、前記クライオスタットの外側に設置された室温ポンプと、
前記クライオスタットの内部に設置された、磁気熱量効果を有する磁性体を用いて冷却する磁気冷凍機と、
前記熱交換ガスを前記室温ポンプから前記磁気冷凍機に送り、前記室温ポンプに帰還させる連結パイプと、
前記室温ポンプから前記磁気冷凍機までの間に設けられた、前記熱交換ガスを冷却するための熱アンカーとを含む
被冷却体を冷却する磁気冷凍装置であって、
前記室温ポンプと前記熱アンカーの間に、前記熱交換ガスを予備冷却するための蓄冷式熱交換器をさらに備えている。
【0013】
前記磁気冷凍機は、磁気熱量効果を有する磁気作業物質を内蔵する磁性体と、それを包囲するように配置された前記磁性体に磁場を印加するための磁場発生手段と、前記磁性体を前記磁場から出し入れするように間欠的に往復運動させる機構とを含み、前記室温ポンプは、前記磁性体の前記往復運動と同期して前記磁性体中に前記熱交換ガスを流すAMR方式により動作するように構成されている。
【0014】
前記蓄冷式熱交換器は、入口と出口を有する容器の内部に、蓄熱材として積層した複数のステンレスメッシュを内蔵し、前記熱交換ガスは、前記蓄冷式熱交換器を通過する時に複数の前記ステンレスメッシュと熱交換を行う。
【0015】
前記熱交換ガスはヘリウムガスまたは水素ガスが好適である。
【0016】
前記熱アンカーがGM冷凍機により冷却されていてもよい。
【0017】
前記磁場発生手段は超伝導磁石であってもよい。
【0018】
本発明の磁気冷凍装置を用いて、水素ガスから液体水素を生成する水素液化装置を構成することもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明による、磁気冷凍用の蓄冷式熱交換器を搭載した磁気冷凍装置は、従来の蓄冷式極低温冷凍機(例えば特許文献1)に比べて構成が簡単で、装置全体のサイズが小型でかつ安定した磁気冷凍運転を実現する。本発明の磁気冷凍装置は、効率低下が避けられなかった水素液化温度(20K)付近で、磁気冷凍機に高い冷凍能力を発揮させることが可能となる。従って、本発明の磁気冷凍装置を用いることにより、従来のブレイトン冷凍機では実現困難であった小型で可搬性のある冷凍装置、あるいは水素液化機の実現が可能となる。
【0020】
また、特許文献1の蓄冷式冷凍機は、使用温度が液体窒素以下の極低温に限定されるのに対し、本発明の磁気冷凍装置は、設定冷却温度を容易に室温まで拡張できるため、適用温度範囲が広く汎用性が高い小型の冷凍装置の実現が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一般的な磁気冷凍装置の構成を示す模式図である。
図2】多管式熱交換器の一例の外観写真である。
図3A】~
図3D】本発明による磁気冷凍装置の構成とAMRサイクルによる磁性体の位置と熱交換ガスの流れの変化を示す模式図である。
図4】(A)は本発明による蓄冷式熱交換器の外観図、(B)は配管パイプを外した円筒容器の外観図を示す。
図5】本発明による蓄冷式熱交換器に用いた蓄熱材(ステンレスメッシュ)1枚の外観写真である。
図6】多管式熱交換器を用いた磁気冷凍装置の磁性体の温度変化を示すグラフである。
図7】蓄冷式熱交換器を用いた本発明の磁気冷凍装置の磁性体の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図3A図3Dは、本発明による磁気冷凍装置100の構成と、AMRサイクルによる磁性体の位置と熱交換ガスの流れの変化を模式的に示す図である。真空断熱容器(クライオスタット)10は熱シールド11を備え、内部を排気装置(非図示)により真空化が可能で、真空断熱を保持する。その外部には、熱交換ガス15を循環させる室温ポンプ40、後述する磁性体22U、22Dを上下運動させるための、アクチュエーター42により駆動される駆動シャフト43およびベローズ44が取り付けられている。真空断熱容器10の内部には、磁気冷凍を行うための磁気冷凍機20が設置されている。磁気冷凍機20は、磁気熱量効果を発生する磁気作業物質23Uを内蔵する上側の磁性体22Uと、作業物質23Dを内蔵する下側の磁性体22Dが1対で連通して結合されており、連結パイプ13を介して熱交換ガス15が流され、磁気作業物質23U、23Dと熱交換が行われる。本実施例では、熱交換ガス15としてヘリウムガスを用いたが、水素ガスを用いてもよい。一対の磁性体22U、22Dの一方の周囲には、これに磁場を印加するための磁場発生手段24が配置されている。本実施例では超伝導磁石を用いたが、必要な強度の磁場を発生できればネオジム等を含む希土類永久磁石を用いてもよい。
【0023】
室温ポンプ40は、熱交換ガス15を、連結パイプ13内を通過して磁性体22U、22Dを経由し室温ポンプ40に帰還するように循環させている。上述のように、磁気冷凍機20は極低温の熱交換ガス15を必要とするため、室温ポンプ40によって導入された室温に近い熱交換ガス15を、100K以下の磁性体22U、22Dの温度になるまで冷却して供給する必要がある。そのため、本実施例では、室温ポンプ40と磁気冷凍機20の間に、蓄冷式熱交換器30、およびGM冷凍機35により冷却された熱アンカー36を設け、熱交換ガス15は連結パイプ13によりこれらの気体冷凍機を経由して冷却され、磁気冷凍機20に供給される。本実施例では、熱アンカー36の冷却にGM冷凍機を用いたが、他の方式の冷凍機を用いて冷却しても良い。
【0024】
本実施例では冷凍サイクルとしてAMR方式を採用しているので、磁性体22U、22Dは、アクチュエーター42、駆動シャフト43、ベローズ44から成る駆動機構により間欠的に往復運動するように構成され、磁場発生手段24の中を出入りする。さらに、このAMRサイクルと同期して、バルブシステム46により熱交換ガス15の流れの方向を変化させる。磁性体22U、22Dの往復運動とバルブシステム46の開閉動作、およびその他の付帯装置の動作は、コントローラ50により制御されている。
【0025】
AMRサイクルについて以下に簡単に説明する。図3Aはその初期状態を示し、駆動機構により磁性体22U、22Dを下方向に移動させる(上側の磁性体22Uの励磁/下側の磁性体22Dの消磁)。その間、熱交換ガス15は真空断熱容器10の内部に導入されないようにする。次に図3Bでは、上側の磁性体22Uが磁場発生手段24の中に入った状態でバルブシステム46を切り替え、熱交換ガス15を磁性体22U、22D中を下側から上側に反時計回りに流すようにして熱交換を行う。次に図3Cでは、再び熱交換ガス15の流れを停止し、磁性体22U、22Dを今度は上方向に移動させる(上側の磁性体22Uの消磁/下側の磁性体22Dの励磁)。次に図3Dでは、下側の磁性体22Dが磁場発生手段24の中に入った状態でバルブシステム46を切り替え、熱交換ガス15を磁性体22U、22D中を今度は上側から下側に時計回りに流すようにして熱交換を行う。そして図3Aの初期状態に戻る。図3A図3Dで示したAMRサイクルに従って磁性体22U、22Dの位置と熱交換ガス15の流れの方向を制御することにより、磁気熱量効果で発生した熱が熱交換ガス15に効果的に伝達されて高い冷凍効果が得られる(非特許文献2)。
【0026】
図4は、本発明の磁気冷凍装置100のために開発した蓄冷式熱交換器30の全体の外観を(A)に、連結パイプを外した円筒容器31の外観を(B)に示す。入口と出口を有するテンレスの円筒容器31の内部には、蓄冷材として多数のステンレスメッシュ33が積層されて内蔵されている。熱交換ガス15が高温側から低温側へ流れる時はガスの熱がステンレスメッシュ33に伝達蓄積され、同じガスが低温側から高温側へ流れる時には蓄積された熱がガスに放出される。この熱交換により容器内に大きな温度勾配が形成される。この蓄冷式熱交換器30を用いると、磁気冷凍機20が効率的に動作可能な所定の温度に冷却するために必要な円筒容器31の長さは、30cm程度で十分であることが分かった。なお、本実施例では円筒形の容器を用いたが、設置空間の状況に応じた別の形状の容器を用いても良い。
【0027】
蓄熱材として使用したメッシュは、図5に示すような円形(34mmΦ)の市販の汎用品である。熱交換ガス15とメッシュ表面の接触率を高くして熱交換効率を上げるため、本実施例では200メッシュ(本/インチ)、線径0.05mmΦの細目のメッシュを用いた。積層するメッシュ数は、目的の冷却性能を達成するのに必要な蓄冷式熱交換器30の長さと直径を決定した後、必要なメッシュの枚数を汎用の数値計算ソフトウエアを用いて計算した。上記円形メッシュの場合は約1800枚と算出され、これを積層した。これは通常用いられる枚数(特許文献2によれば300~500枚)よりもかなり多い枚数となっている。なお、使用するメッシュの規格は上記の値に特に限定されるものではなく、蓄冷式熱交換器30の大きさ、必要となる熱交換効率に応じて適宜設定することができる。
【0028】
次に磁気冷凍機20の温度安定性について説明する。比較のため、磁気冷凍装置に収納可能なサイズの、約2mの長さのチューブを用いた多管式熱交換器(図2)を用いて、熱交換器以外は本発明の磁気冷凍装置100と同じ構成の磁気冷凍装置を作製し、磁気冷凍機の一つの磁性体22の高温端、中間部、低温端の3か所の温度変化を、磁場を切った状態で測定した。その結果を図6に示す。磁気冷凍機の稼働開始後の200秒あたりから終了の700秒までの短時間で温度の上昇が見られ、特に高温端では25Kも上昇した。本実験で用いた多管式熱交換器のサイズでは、磁気冷凍機に流入する熱交換ガスの徐熱性能が十分でないことを示している。
【0029】
これに対して、本発明による蓄冷式熱交換器30を用いた磁気冷凍装置100の温度変化を同様に測定した結果を図7に示す。稼働開始から2000秒近くまで経過しても、高温端、中間部、低温端いずれの温度も上昇は極めて緩やかで、磁性体22への熱の侵入が蓄冷式熱交換器30によって格段によく阻止されることが分かった。また、本発明の蓄冷式熱交換器を用いた磁気冷凍機20の低温部に、図1で示した構成で水素ガスをパイプで導入し、液体水素を生成することにも成功した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の磁気冷凍装置は、室温から極低温領域にわたる温度範囲の冷凍冷却装置に用いることができる。具体的には、空調機器、冷蔵庫、冷凍庫、極低温冷凍機、水素液化装置等に幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
100 磁気冷凍装置
10 クライオスタット
11 熱シールド
13 連結パイプ
15 熱交換ガス
20 磁気冷凍機
22U 上側の磁性体
22D 下側の磁性体
23U 上側の磁気作業物質
23D 下側の磁気作業物質
24 磁場発生手段
30 蓄冷式熱交換器
31 円筒容器
33 ステンレスメッシュ
35 GM冷凍機
36 熱アンカー
40 室温ポンプ
42 アクチュエーター
43 駆動シャフト
44 ベローズ
46 バルブシステム
50 コントローラ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7