(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113742
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/10 20120101AFI20240816BHJP
F16H 1/28 20060101ALI20240816BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20240816BHJP
【FI】
F16H48/10
F16H1/28
F16H57/04 K
F16H57/04 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018884
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 克紀
(72)【発明者】
【氏名】森尾 俊之
【テーマコード(参考)】
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3J027FA21
3J027FA36
3J027FB02
3J027GA01
3J027GC25
3J027GC26
3J027GD04
3J027GD08
3J027GE11
3J027GE29
3J027HB02
3J027HB12
3J027HC14
3J027HC15
3J027HC29
3J063AA04
3J063AB12
3J063AC11
3J063BA11
3J063BB41
3J063XD03
3J063XD16
3J063XD32
3J063XD43
3J063XD72
(57)【要約】
【課題】ピニオンシャフトに軸方向に向けて形成された第1軸方向油孔に油を導入可能にするものでありながら、軸方向の短縮化を図ること。
【解決手段】車両用駆動装置(1)において、キャリヤ(CR)の側板(CRa)は、径方向に向けて形成された第1径方向油孔(b1)を有し、ピニオンシャフト(PS)は、第1径方向油孔(b1)に連通し、軸方向に向けて形成された第1軸方向油孔(b2)と、第1軸方向油孔(b2)とピニオン(SP)の内径側とを連通するように径方向に向けて形成された第2径方向油孔(b3)と、を有し、軸部(2D)は、軸方向に形成された第2軸方向孔(2H)を有し、回転部(2)は、一端の開口が第2軸方向孔(2H)に連通し、他端の開口が軸方向において径方向から視て側板(CRa)の少なくとも一部に重なるように管状に形成された管状部(20)を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングギヤと、
軸部と、前記軸部からフランジ状に形成され、前記リングギヤを支持するリングギヤ支持部と、を有し、ケースに対して回転可能に支持された回転部と、
前記リングギヤに噛合するピニオンと、前記ピニオンを回転自在に支持するピニオンシャフトと、前記ピニオンシャフトを支持する側板と、を有し、前記側板が前記リングギヤ支持部に軸方向に対向配置されたキャリヤと、を備え、
前記側板は、径方向に向けて形成された第1径方向油孔を有し、
前記ピニオンシャフトは、前記第1径方向油孔に連通し、軸方向に向けて形成された第1軸方向油孔と、前記第1軸方向油孔と前記ピニオンの内径側とを連通するように前記径方向に向けて形成された第2径方向油孔と、を有し、
前記軸部は、軸方向に形成された第2軸方向孔を有し、
前記回転部は、一端の開口が前記第2軸方向孔に連通し、他端の開口が前記軸方向において前記径方向から視て前記側板の少なくとも一部に重なるように管状に形成された管状部を有する、
車両用駆動装置。
【請求項2】
前記管状部は、前記軸部と別体に形成され、前記第2軸方向孔に嵌挿された、
請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記径方向において前記リングギヤ支持部と前記管状部との間に配置された第1ベアリングを備え、
前記管状部は、内周面に外径に向けて凹むように周方向に形成された溝部と、前記溝部と前記第1ベアリングとを連通するように形成された第1貫通孔と、を有する、
請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記径方向において前記軸部と前記ケースとの間に配置された第2ベアリングを備え、
前記軸部は、前記第2軸方向孔と前記第2ベアリングとを連通するように形成された第2貫通孔を有し、
前記管状部は、前記一端に、前記第2貫通孔が形成された前記第2軸方向孔の内周面よりも内径側に突出する内径突出部を有する、
請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
第1リングギヤと、
第1車輪に駆動連結されると共に前記第1リングギヤに駆動連結される第1出力部材と、
駆動回転が入力される第2リングギヤと、
第3リングギヤと、
第2車輪に駆動連結されると共に前記第3リングギヤに駆動連結される第2出力部材と、
前記第1リングギヤに噛合する第1ピニオンギヤ、前記第2リングギヤに噛合する第2ピニオンギヤ、及び前記第3リングギヤに噛合する第3ピニオンギヤが一体に連結されたステップピニオンと、前記ステップピニオンを回転自在に支持するピニオンシャフトと、を有する第1キャリヤと、
第4リングギヤと、
前記第4リングギヤに噛合する第4ピニオンギヤを有し、前記第4ピニオンギヤを回転自在に支持すると共に前記第1キャリヤに駆動連結された第2キャリヤと、
前記第4ピニオンギヤに噛合し、回転電機に駆動連結される第1サンギヤと、
第5リングギヤと、
前記第5リングギヤに噛合する第5ピニオンギヤを有し、前記第5ピニオンギヤを回転自在に支持すると共に前記第2リングギヤに駆動連結された第3キャリヤと、
前記第5ピニオンギヤに噛合し、前記ケースに固定される第2サンギヤと、を備え、
前記第1車輪と前記第2車輪との差回転を許容しつつ前記第2リングギヤに入力された駆動回転を前記第1車輪と前記第2車輪とに伝達し、かつ前記回転電機の駆動力を前記第1車輪と前記第2車輪とに異なる大きさで伝達するように分配可能であり、
前記リングギヤは、第1リングギヤであり、
前記ピニオンは、前記ステップピニオンであり、
前記キャリヤは、第1キャリヤであり、
前記回転部は、前記第1出力部材である、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側板が回転部のリングギヤ支持部に対向配置されたキャリヤを備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両に搭載される自動変速機、ハイブリッド駆動装置、ディファレンシャル装置等の車両用駆動装置においては、ピニオンギヤを回転自在に支持するキャリヤを有するプラネタリギヤを備えたものがある。キャリヤは、軸方向の端部に配置された側板によってピニオンシャフトを支持しており、ピニオンギヤは、そのピニオンシャフトに回転可能に支持される。このようなピニオンシャフトとピニオンギヤとの間には、摩耗等を低減するため、摺動部分に潤滑油を供給することが求められるが、ピニオンギヤがピニオンシャフトの外径側を覆っているため、ピニオンシャフトの内部からピニオンギヤの内径側に潤滑油を導入する必要がある。このため、キャリヤの側板にオイルカバーを取付け、内径側から供給されてくる潤滑油を受け止めて、ピニオンシャフトの内部に潤滑油を導入するものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のように、キャリヤの側板にオイルカバーを取付けるものは、フランジ状に形成されてリングギヤを支持するリングギヤ支持部との間に当該オイルカバーが配置されるため、その分、リングギヤ支持部とキャリヤとの間の間隔を確保しなければならず、軸方向の短縮化の妨げとなっていた。
【0005】
そこで本発明は、ピニオンシャフトに軸方向に向けて形成された第1軸方向油孔に油を導入可能にするものでありながら、軸方向の短縮化を図ることが可能な車両用駆動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、リングギヤと、軸部と、前記軸部からフランジ状に形成され、前記リングギヤを支持するリングギヤ支持部と、を有し、ケースに対して回転可能に支持された回転部と、前記リングギヤに噛合するピニオンと、前記ピニオンを回転自在に支持するピニオンシャフトと、前記ピニオンシャフトを支持する側板と、を有し、前記側板が前記リングギヤ支持部に軸方向に対向配置されたキャリヤと、を備え、前記側板は、径方向に向けて形成された第1径方向油孔を有し、前記ピニオンシャフトは、前記第1径方向油孔に連通し、軸方向に向けて形成された第1軸方向油孔と、前記第1軸方向油孔と前記ピニオンの内径側とを連通するように前記径方向に向けて形成された第2径方向油孔と、を有し、前記軸部は、軸方向に形成された第2軸方向孔を有し、前記回転部は、一端の開口が前記第2軸方向孔に連通し、他端の開口が前記軸方向において前記径方向から視て前記側板の少なくとも一部に重なるように管状に形成された管状部を有する、車両用駆動装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、ピニオンシャフトに軸方向に向けて形成された第1軸方向油孔に油を導入できるものでありながら、軸方向の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態に係るディファレンシャル装置を示すスケルトン図である。
【
図2】本実施の形態に係るディファレンシャル装置を示す速度線図である。
【
図3】本実施の形態に係るディファレンシャル装置を示す断面図である。
【
図4】本実施の形態に係る左側の出力軸及びパイプ部材を示す拡大断面図である。
【
図5】本実施の形態に係る左側の出力軸及びパイプ部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施の形態に係る車両用駆動装置としてのディファレンシャル装置を
図1乃至
図5を用いて説明する。
【0010】
[ディファレンシャル装置の概略]
まず、本実施の形態に係るディファレンシャル装置1の概略について
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本実施の形態に係るディファレンシャル装置を示すスケルトン図である。
図2は本実施の形態に係るディファレンシャル装置を示す速度線図である。
【0011】
図1に示すように、本実施の形態に係るディファレンシャル装置1は、図示を省略したエンジンやモータを駆動源とした駆動回転を出力する駆動力出力装置30に駆動連結され、駆動力出力装置30から出力される出力回転を、左右の車輪100L,100Rの差回転を吸収しつつ、それら車輪100L,100Rに分配して伝達する。そして、本ディファレンシャル装置1は、回転電機であるモータMGの駆動回転を伝達するモータ駆動伝達部50にも駆動連結されており、そのモータの回転速度を制御することにより左右の車輪100L,100Rに付与するトルクを移動(変動)させる、いわゆるトルクベクタリング式のディファレンシャル装置を構成している。
【0012】
詳細には、ディファレンシャル装置1は、シングルピニオンプラネタリギヤである第1プラネタリギヤPR1、第2プラネタリギヤPR2、及び第3プラネタリギヤPR3を有する第1ギヤセットGS1と、シングルピニオンプラネタリギヤである第4プラネタリギヤPR4及び第5プラネタリギヤPR5を有する第2ギヤセットGS2と、によって構成されている。
【0013】
第1ギヤセットGS1においては、第1プラネタリギヤPR1、第2プラネタリギヤPR2、及び第3プラネタリギヤPR3における第1キャリヤとしての共通のキャリヤCRが備えられており、そのキャリヤCRは、第1ピニオンギヤP1、第2ピニオンギヤP2、及び第3ピニオンギヤP3をステップピニオンとして有する共通のピニオンSPを回転自在に支持している。第2ピニオンギヤP2には、駆動力出力装置30のカウンタシャフト31の出力ギヤ31a(
図3参照)が噛合されたデフリングギヤR2aが一体に形成された第2リングギヤR2が噛合されている。そして、第1ピニオンギヤP1には、第1車輪としての左側の車輪100Lが駆動連結された第1リングギヤR1が噛合されており、第3ピニオンギヤP3には、第2車輪としての右側の車輪100Rが駆動連結された第3リングギヤR3が噛合されている。なお、第1リングギヤR1に対する第1ピニオンギヤP1の歯数比(Zp1/Zr1)は、第2リングギヤR2に対する第2ピニオンギヤP2の歯数比(Zp2/Zr2)よりも小さく、第2リングギヤR2に対する第2ピニオンギヤP2の歯数比(Zp2/Zr2)は、第3リングギヤR3に対する第3ピニオンギヤP3の歯数比(Zp3/Zr3)よりも小さくなるように構成されている(
図2参照)。
【0014】
第2ギヤセットGS2において、第4プラネタリギヤPR4は、第1サンギヤとしての第4サンギヤS4と、第4リングギヤR4と、それら第4サンギヤS4及び第4リングギヤR4に噛合する第4ピニオンギヤP4を回転自在に支持する第2キャリヤとしての第4キャリヤCR4と、を有して構成されている。また同様に、第5プラネタリギヤPR5は、第2サンギヤとしての第5サンギヤS5と、第5リングギヤR5と、それら第5サンギヤS5及び第5リングギヤR5に噛合する第5ピニオンギヤP5を回転自在に支持する第3キャリヤとしての第5キャリヤCR5と、を有して構成されている。
【0015】
上記第4サンギヤS4は、モータ駆動伝達部50を介してモータMGに駆動連結されており、第4キャリヤCR4は、上記第1ギヤセットGSの共通のキャリヤCRに駆動連結されている。また、第4リングギヤR4と第5リングギヤR5とは互いに駆動連結されており、第5キャリヤCR5は、上記第2リングギヤR2に駆動連結されている。そして、第5サンギヤS5は、ディファレンシャル装置1のケース9に対して回転不能に固定されている。なお、第4プラネタリギヤPR4における第4サンギヤS4と第4ピニオンギヤP4と第4リングギヤR4とのそれぞれの歯数は、第5プラネタリギヤPR5における第5サンギヤS5と第5ピニオンギヤP5と第5リングギヤR5とのそれぞれの歯数と同じに構成されており、つまり第4プラネタリギヤPR4と第5プラネタリギヤPR5とは同一歯数比のプラネタリギヤで構成されている(
図2参照)。
【0016】
図2に示すように、例えば車両が直進走行状態(左右の車輪100L,100Rに差回転が無い状態)にあって、第1ギヤセットGS1において駆動力出力装置30からの駆動力Tr2が第2リングギヤR2に入力されると、第2リングギヤR2が駆動力Ttvで駆動され、共通のキャリヤCRのピニオンSPを介して第1リングギヤR1に駆動力Tr1を伝達すると共に、第3リングギヤR3に駆動力Tr3を伝達する。即ち、左右の車輪100L,100Rに略均等に駆動力を分配して伝達する。
【0017】
この状態で、上記第5サンギヤS5の回転は固定されているため、第2リングギヤR2に駆動連結されている第5キャリヤCR5の回転に伴って第5リングギヤR5は回転し、それに駆動連結されている第4リングギヤR4も同回転で回転する。上述したように第4プラネタリギヤPR4と第5プラネタリギヤPR5は同一歯数比に構成されており、共通のキャリヤCRに駆動連結された第4キャリヤCR4が第2リングギヤR2と同回転であるため、第4サンギヤS4は第5サンギヤS5と同回転となり、つまりモータMGの回転速度が0である。
【0018】
また、例えば左旋回、或いは右の車輪100Rが駆動力の伝達時にスリップ、或いは左の車輪100Lが制動力の伝達時にスリップ等の状態となると、左の車輪100Lの回転速度が右の車輪100Rの回転速度よりも低くなる。すると、第1リングギヤR1の回転速度が第3リングギヤR3の回転速度よりも低くなり、共通のキャリヤCR及び第4キャリヤCR4の回転速度が低くなるため、第4サンギヤS4及びモータの回転速度が負方向に回転する。
【0019】
また反対に、例えば右旋回、或いは左の車輪100Lが駆動力の伝達時にスリップ、或いは右の車輪100Rが制動力の伝達時にスリップ等の状態となると、右の車輪100Rの回転速度が左の車輪100Lの回転速度よりも低くなる。すると、第3リングギヤR3の回転速度が第1リングギヤR1の回転速度よりも低くなり、共通のキャリヤCR及び第4キャリヤCR4の回転速度が高くなるため、第4サンギヤS4及びモータの回転速度が正方向に回転する。
【0020】
ここで、例えばモータMGがトルクベクタリングの駆動力として正方向の駆動力Ttvmを出力すると、その駆動力Ttvmによって第4ピニオンギヤP4を介して第4リングギヤR4に正方向の駆動力Tr4を作用させるが、第5サンギヤS5がケース9に固定されているため、反力となる負方向の駆動力Ttvmを生じ、第5ピニオンギヤP5を介して第5リングギヤR5に負方向の駆動力Tr5を作用させる。このため、第4キャリヤCR4には、第4サンギヤS4の正方向の駆動力Ttvmと第4リングギヤR4の正方向の駆動力Tr4とに対する反力としての負方向の駆動力Ttv(GS2)が作用し、共通のキャリヤCRに対して負方向の駆動力Ttvを作用させる。また、第5キャリヤCR5には、第5サンギヤS5の負方向の駆動力Ttvmと第5リングギヤR5の負方向の駆動力Tr5とに対する反力としての正方向の駆動力Ttv(GS2)が作用し、第2リングギヤR2に対して正方向の駆動力Ttvを作用させる。従って、第1リングギヤR1に負方向の駆動力を付与しつつ第3リングギヤR3に正方向の駆動力を付与するので、左の車輪100Lに付与する駆動力を減少せると共に右の車輪100Rに付与する駆動力を増加させ、つまり車両を右旋回させるトルクベクタリングを行う。なお、モータMGが負方向の駆動力を出力した場合は、この逆となるだけであるので、その説明を省略する。
【0021】
以上のようにディファレンシャル装置1は、左の車輪100Lと右の車輪100Rとの差回転を許容しつつ、第2リングギヤR2に駆動力出力装置30から入力された駆動回転を、左の車輪100Lと右の車輪100Rとに伝達し、かつモータMGの駆動力Ttvmを左の車輪100Lと右の車輪100Rとに異なる大きさで伝達するように分配可能に構成されている。
【0022】
[ディファレンシャル装置の構造]
続いて、ディファレンシャル装置1の構造の詳細について
図3を用いて説明する。
図3は本実施の形態に係るディファレンシャル装置を示す断面図である。なお、
図3中の右側が車両の進行方向に対する右側であり、
図3中の左側が車両の進行方向に対する左側である。
【0023】
ディファレンシャル装置1は、概ね筒状に形成されたメインケース9Aと、そのメインケース9Aの右側を閉塞する右側カバー9Rと、反対にメインケース9Aの左側を閉塞する左側カバー9Lと、を備えており、これらにより一体のケース9が構成されている。このケース9には、左側カバー9Lにおいて第1ボス部9Baが形成されており、メインケース9Aの右側には第2ボス部9Bbが形成されている。第1ボス部9Baの外径側にはテーパードローラベアリングB1が嵌合するように配置されており、また、第2ボス部9Bbの外径側にはテーパードローラベアリングB2が嵌合するように配置されており、これらテーパードローラベアリングB1,B2によってケース9に対し、デフケース4A,4B及びデフリングギヤR2a(第2リングギヤR2)が回転自在に支持されている。デフケース4A,4BはデフリングギヤR2aに対してボルト41によって軸方向に締結されて一体化されている。なお、デフリングギヤR2aは、駆動力出力装置30におけるカウンタシャフト31の出力ギヤ31aに噛合されている。また、カウンタシャフト31の外径側には入力ギヤ32がスプライン等により回転不能に駆動連結されている。
【0024】
一方、メインケース9Aと右側カバー9Rとの間には、モータ駆動伝達部50としてモータMGの出力ギヤに噛合するアイドラギヤ51が配置されており、そのアイドラギヤ51に噛合された入力ギヤ11がメインケース9Aの第2ボス部9Bbの外径側に回転自在に支持されている。入力ギヤ11は、ハブ形状に形成されたハブ部材12の外径側に駆動連結されており、ハブ部材12の内径側の端部には、第2ボス部9Bbの内径側に回転自在に支持されると共に中空軸に形成された連結軸13が駆動連結されている。そして、この連結軸13の左側の端部には、第2ギヤセットGS2の第4プラネタリギヤPR4の第4サンギヤS4が一体に形成されている。また、第2ボス部9Bbの内径側には、スリーブ状に形成されたスリーブ部材14が固定支持されており、このスリーブ部材14の左側の端部には、第2ギヤセットGS2の第5プラネタリギヤPR5の第5サンギヤS5が固定支持されている。
【0025】
第5サンギヤS5に噛合する第5ピニオンギヤP5は、デフケース4Bとそれに固定された側板CR5aとによって支持されたピニオンシャフトPS5に回転自在に支持されている。一方、第4サンギヤS4に噛合する第4ピニオンギヤP4は、後述する共通のキャリヤCRに連結された連結部材5における右側の端部に形成された側板CR4aによって支持されたピニオンシャフトPS4に回転自在に支持されている。そして、第4リングギヤR4及び第5リングギヤR5は、一体に形成されて、それら第4ピニオンギヤP4及び第5ピニオンギヤP5にそれぞれ噛合されつつ外径側を覆う形で支持されている。
【0026】
上記第2ボス部9Bbの内径側にあって、連結軸13のさらに内径側には、右側の車輪100Rに駆動連結されるドライブシャフト(不図示)が嵌合される第2出力部材としての右側の出力軸3がケース9に対して回転自在に支持されている。出力軸3は、中空軸状に形成されたドライブシャフト嵌合部3Dと、そのドライブシャフト嵌合部3Dの左側の端部にあって外径側にフランジ状に形成されたフランジ部3Fと、を有している。このフランジ部3Fの外径側には、第1ギヤセットGS1の第3プラネタリギヤPR3の第3リングギヤR3が固定支持されている。
【0027】
一方、同様に、上記第1ボス部9Baの内径側には、左側の車輪100Lに駆動連結されるドライブシャフト(不図示)が嵌合される回転部或いは第1出力部材としての左側の出力軸2がケース9に対して回転自在に支持されている。出力軸2は、中空軸状に形成された軸部としてのドライブシャフト嵌合部2Dと、そのドライブシャフト嵌合部2Dの左側の端部にあって外径側にフランジ状に形成されたリングギヤ支持部としてのフランジ部2Fと、を有している。このフランジ部2Fの外径側には、第1ギヤセットGS1の第1プラネタリギヤPR1の第1リングギヤR1が固定支持されている。なお、この出力軸2のドライブシャフト嵌合部2Dの内周面2c(
図4)には、詳しくは後述するパイプ部材20が配置されている。また、径方向においてフランジ部2Fとパイプ部材20との間にはスラストベアリングB4が配置されている。さらに、径方向においてドライブシャフト嵌合部2Dとケース9の第1ボス部9Baとの間には、ニードルベアリングB3が配置されている。
【0028】
共通のキャリヤCRは、左側の側板CRaと右側の側板CRbとを有しており、これら側板CRa,CRbが、共通のピニオンSPと径方向に異なる位置に配置された不図示のブリッジによって連結され、一体化された枠体を構成している。このうちの側板CRaは、フランジ部2Fに隣接して対向配置されており、つまりキャリヤCRはフランジ部2Fに対向配置されている。なお、反対側の側板CRbは、フランジ部3Fに隣接して対向配置されて。また、上述した連結部材5は、この不図示のブリッジに駆動連結されている。
【0029】
これら側板CRa,CRbには、ピニオンシャフトPSが掛け渡されるように固定支持されており、このピニオンシャフトPSの外径側にワッシャ等を介して共通のピニオンSPが回転自在に支持されて配置されている。そして、上述したように共通のピニオンSPの外周面には、左側から順に、第1ピニオンギヤP1、第2ピニオンギヤP2、及び第3ピニオンギヤP3が形成されており、それらに順に第1リングギヤR1,第2リングギヤR2、及び第3リングギヤR3が噛合されている。
【0030】
[パイプ部材の構成]
ついで、上記出力軸2の内部に軸方向に形成された中空孔2Hに嵌合されるパイプ部材20の構成について、
図4及び
図5を用いて説明する。
図4は本実施の形態に係る左側の出力軸及びパイプ部材を示す拡大断面図である。
図5は本実施の形態に係る左側の出力軸及びパイプ部材を示す斜視図である。
【0031】
図4及び
図5に示すように、管状部としてのパイプ部材20は、出力軸2のドライブシャフト嵌合部2Dの内部に形成された第2軸方向孔としての中空孔2Hに右側から左側に向けて嵌合される環状の部材である。パイプ部材20は、本体20aと、その本体20aの一端(左端)において、詳しくは後述する油路a7が形成されたドライブシャフト嵌合部2Dの内周面2aよりも内径側に突出するように屈曲形成された内径突出部としての内径屈曲部20bと、その本体20aの他端(右端)において外径側に突出するように屈曲形成された外径屈曲部20cと、を有しており、内径屈曲部20bの内径側に一端の開口20dを形成していると共に、外径屈曲部20cの内径側に他端の開口20eを形成している。
【0032】
一方、出力軸2の中空孔2Hは、内周面2aと、それよりも拡径されている内周面2cと、を有しており、それら内周面2a,2cの径の違いにより段差部2dが形成されている。上記パイプ部材20は、段差部2dに内径屈曲部20bが突き当てられるように内周面2cに嵌合されている。パイプ部材20の本体20aは、内周面2cよりも軸方向に長く形成されており、つまり段差部2dに内径屈曲部20bが突き当てられた取付け状態で、中空孔2Hよりも軸方向の左側(他端側)に突出しており、さらには、フランジ部2Fよりも軸方向の左側(他端側)に突出するように配置される。要するに、パイプ部材20は、一端の開口20dが中空孔2Hに連通し、他端の開口20eが軸方向において径方向から視て側板CRaの少なくとも一部に重なるように配置されている。また、本体20aには、径方向に貫通形成された第1貫通孔としての複数の貫通孔20gが、取付け状態で第1ベアリングとしてのスラストベアリングB4に対し、径方向から見て軸方向に重なる位置に形成されている。
【0033】
[共通のピニオンの潤滑経路]
ついで、上記共通のピニオンSPの内径側におけるピニオンシャフトPSとの間の摺動部分に潤滑油を供給する潤滑経路について
図3を用いて説明する。
【0034】
図3に示すように、上記左側カバー9Lの図中下方には、潤滑油が供給される配管が接続される接続ポートa1が形成されており、その接続ポートa1は、左側カバー9Lにおいて出力軸2の軸中心に向かって径方向(放射方向)に形成された油路a2に連通されている。油路a2は、左側カバー9Lと出力軸2との間に配置されたスリーブ60に軸方向に向けて形成された油路a3に連通しており、油路a3は、該スリーブ60に径方向に形成された油路a4に連通されている。
【0035】
出力軸2のドライブシャフト嵌合部2Dには、上述したように中空状に形成されていることで内部に中空孔2Hが形成されており、その中空孔2Hには、不図示のドライブシャフトが嵌合されて図中左側が閉塞されることで、軸方向の油路a6が形成される。また、ドライブシャフト嵌合部2Dには、軸方向の異なる位置にあって、径方向に向けて複数の貫通孔である油路a5、油路a7、油路a8が形成されている。このうちの第2貫通孔としての油路a7は、中空孔2HとニードルベアリングB3とを連通するように形成されている。また、油路a8は、径方向の外径側に向けて左側に向くように傾斜して形成されている。そして、このうちの油路a5は、上記油路a4に連通しており、つまり接続ポートa1に供給された潤滑油が、油路a2,a3,a4,a5を介して出力軸3の内部にある油路a6に流入される。
【0036】
このように油路a6に流入され潤滑油の一部は、油路a7から軸受けである第2ベアリングとしてのニードルベアリングB3に向けて流される。この際、上記パイプ部材20の内径屈曲部20bが内周面2aよりも内径側に突出しているので(
図4参照)、油路a6に導入された潤滑油は、特に出力軸2の回転時に遠心力によって内径屈曲部20bにより堰き止められる形で内周面2aに溜められる。さらに、内周面2aには、外径側に向けて凹むようにかつ周方向に一周する形で溝部2bが形成されており、その溝部2bに潤滑油が溜まることで、油路a7に十分な潤滑油を流すことを可能にし、上記ニードルベアリングB3に十分な潤滑油を供給している。要するに、内径屈曲部20bは、内周面2aより内径側に突出する突出量によって、油路a7に流す潤滑油量と、パイプ部材20の開口20dからパイプ部材20の内部に流す潤滑油量と、の分配を適量に設定する形となっている。
【0037】
上記油路a7に流れずに油路a6にある潤滑油は、上記内径屈曲部20bを越えて開口20dからパイプ部材20の内部に流れる。本体20aは、その内周面20hに外径側に向けて凹むようにかつ周方向に一周する形で溝部20fが形成されており、その溝部20fに潤滑油が溜まることで、上記貫通孔20gに十分な潤滑油を流すことを可能にしている。貫通孔20gに流された潤滑油は、スラストベアリングB4と油路a8とに分配される形で流され、さらに、油路a8に流された潤滑油は、テーパードローラベアリングB1に向けて流される。そして、貫通孔20gに流れずに溝部20fを越えた潤滑油は、開口20eから軸方向の他端側(図中右側)に流される。
【0038】
一方、
図3に示すように、上記共通のキャリヤCRの側板CRaには、ピニオンシャフトPSの内径側にあって、径方向(放射方向)に向けて第1径方向油孔としての径方向油孔b1が形成されている。この径方向油孔b1は、ピニオンシャフトPSにあって軸方向に形成された第1軸方向油孔としての軸方向油孔b2に連通されており、さらに、ピニオンシャフトPSには、軸方向油孔b2からピニオンシャフトPSの外周面に向けて径方向に、軸方向油孔b2とピニオンSPの内径側とを連通するように第2径方向油孔としての径方向油孔b3が形成されている。
【0039】
このように構成された共通のキャリヤCRにあっては、上記パイプ部材20の開口20eから流されてきた潤滑油が、径方向油孔b1に導入され、さらに軸方向油孔b2に導入されて、径方向油孔b3からピニオンSPの内径側におけるピニオンシャフトPSとの摺動部分に流される。なお、ピニオンSPの内径側に流された潤滑油は、当該ピニオンSPに形成された複数の油孔によって、第1ピニオンギヤP1と第1リングギヤR1との噛合部分、第2ピニオンギヤP2と第2リングギヤR2との噛合部分、第3ピニオンギヤP3と第3リングギヤR3との噛合部分、等を潤滑する。また、以上のように各部を潤滑した潤滑油は、デフケース4A,4Bの外部に流れ、ケース9の内部を流下して、不図示の油溜まりに戻される。
【0040】
ところで、例えばパイプ部材20が無ければ、出力軸2のフランジ部2Fと、共通のキャリヤCRの側板CRaと、の間に中空孔2Hに導入された潤滑油が流れてしまうため、それを受け止めるオイルカバー等を側板CRaに取付ける必要が生じ、フランジ部2Fと側板CRaとの間にオイルカバー等を設置するスペースが必要となって、軸方向の肥大化を招いてしまうという問題がある。しかしながら、本実施の形態に係るディファレンシャル装置1においては、パイプ部材20によって出力軸2の中空孔2HからキャリヤCRの側板CRaの内径側まで潤滑油を掛け渡して流すことができるので、例えばオイルカバー等の部品を設けることを不要として、軸方向の短縮化を図ることができる。
【0041】
また、パイプ部材20は、出力軸2と一体に形成することも可能であるが、一体に形成すると出力軸2の形状が複雑となり、製造コストが高くなるという問題がある。しかしながら、本実施の形態に係るディファレンシャル装置1においては、パイプ部材20を出力軸2と別体に形成し、中空孔2Hに嵌挿するように構成したので、出力軸2やパイプ部材20を簡易に加工することができ、かつそれらを簡易に組合せるだけの簡易な製造工程で足り、製造コストを低減することができる。
【0042】
また、パイプ部材20の内周面20hに溝部20fを形成し、その溝部20fに貫通孔20gを形成したので、パイプ部材20の外周側にある部位(スラストベアリングB4等)に適量の潤滑油を供給することを、簡易な構成で実現することができている。
【0043】
さらに、パイプ部材20の内径屈曲部20bは、パイプ部材20の一端を屈曲形成するだけの簡単な加工で形成できるものでありながら、パイプ部材20の開口20dからパイプ部材20の内部に流す潤滑油量を適量に設定することができている。
【0044】
また、パイプ部材20の外径屈曲部20cは、パイプ部材20の他端を屈曲形成するだけの簡単な加工で形成できるものでありながら、パイプ部材20を出力軸2の中空孔2Hに嵌挿する際に治具の押圧力を受圧する受圧部として構成することができている。また、外径屈曲部20cは、外側に向けて屈曲されていることで、潤滑油をキャリヤCRの側板CRaに流す際に、流れを妨げないようにすることができている。なお、このようにパイプ部材20は外径屈曲部20cを有しているため、製造時にあっては、スラストベアリングB4を出力軸2のフランジ部2Fに対して組付けてから、パイプ部材20を出力軸2の中空孔2Hに嵌挿することが好ましい。
【0045】
そして、本実施の形態では、ベクタリングトルクをモータMGにより付与することが可能なディファレンシャル装置1の軸方向の短縮化を可能とすることができている。
【0046】
<他の実施の形態の可能性>
以上説明した本実施の形態においては、パイプ部材を備えた構成をディファレンシャル装置1に適用したものを説明したが、これに限らず、例えば自動変速機、ハイブリッド駆動装置、電気自動車用の電動駆動装置など、リングギヤを支持する回転軸と、キャリヤとが軸方向に隣接して配置されているものであれば、どのような車両用駆動装置であっても構わない。
【0047】
また、本実施の形態においては、パイプ部材20を出力軸2と別体に形成したものを説明したが、これに限らず、製造コストは増加する可能性があるものの、一体に形成したものであっても構わない。
【0048】
また、本実施の形態においては、パイプ部材20に、内径屈曲部20b、外径屈曲部20c、溝部20f、貫通孔20g等を設けたものを説明したが、必ずしもこれらの構成を備えてないものでもよく、つまり中空孔2Hの潤滑油を、フランジ部2FとキャリヤCRの側板CRaとの間の隙間を越えて側板CRaの内径側まで導くことができれば、パイプ部材20の形状はどのようなものでも構わない。
【0049】
また、本実施の形態においては、左側の出力軸2にパイプ部材20を設けたものを説明したが、左右方向について、これに限定するものではなく、右側の出力軸3にパイプ部材を設けるような構成でもよい。さらに、本ディファレンシャル装置1は、左右の車輪に動力を分配して伝達する所謂フロントデフやリヤデフに用いられる構造のものを説明しているが、これに限らず、前後の車輪に動力を分配して伝達する所謂センターデフであっても構わない。
【符号の説明】
【0050】
1…ディファレンシャル装置(車両用駆動装置)/2…出力軸(回転部、第1出力部材)/2a…内周面/20b…内径屈曲部(内径突出部)/2D…ドライブシャフト嵌合部(軸部)/2F…フランジ部(リングギヤ支持部)/2H…中空孔(第2軸方向孔)/3…出力軸(第2出力部材)/9…ケース/20…パイプ部材(管状部)/20d…一端の開口/20e…他端の開口/20f…溝部/20g…貫通孔(第1貫通孔)/100L…車輪(第1車輪)/100R…車輪(第2車輪)/a7…油路(第2貫通孔)/b1…径方向油孔(第1径方向油孔)/b2…軸方向油孔(第1軸方向油孔)/b3…径方向油孔(第2径方向油孔)/B3…ニードルベアリング(第2ベアリング)/B4…スラストベアリング(第1ベアリング)/CRa…側板/CR…キャリヤ(第1キャリヤ)/CR4…第4キャリヤ(第2キャリヤ)/CR5…第5キャリヤ(第3キャリヤ)/MG…モータ(回転電機)/P1…第1ピニオンギヤ/P2…第2ピニオンギヤ/P3…第3ピニオンギヤ/P4…第4ピニオンギヤ/P5…第5ピニオンギヤ/PS…ピニオンシャフト/R1…リングギヤ(第1リングギヤ)/R2…第2リングギヤ/R3…第3リングギヤ/R4…第4リングギヤ/R5…第5リングギヤ/S4…第4サンギヤ(第1サンギヤ)/S5…第5サンギヤ(第2サンギヤ)/SP…ピニオン(ステップピニオン)