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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113755
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】砥石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/12 20060101AFI20240816BHJP
   B24D 3/02 20060101ALI20240816BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B24D3/12
B24D3/02 310E
B24D3/00 340
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018902
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】岩井 広幸
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063BB01
3C063BB02
3C063BB03
3C063BB04
3C063BC06
3C063CC30
3C063FF08
3C063FF23
3C063FF30
(57)【要約】
【課題】加工レート、加工維持性及び耐摩耗性に優れるとともに、バインダの急硬性、耐酸性及び耐火性に優れ、かつ製造時の二酸化炭素排出量を確実に削減できる砥石を提供する。
【解決手段】本発明の砥石は、セメントを含むバインダ1と、バインダ1中に分散状態で固定された研磨粒子3とを有している。バインダは、アルミナセメントからなり、(CaO)2(Al23)(H2O)8、(CaO)3(Al23)(H2O)6及びAl(OH)3の合計の析出量が10.0%以上である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含むバインダと、前記バインダ中に分散状態で固定された研磨粒子とを有し、
前記バインダは、アルミナセメントからなり、(CaO)2(Al23)(H2O)8、(CaO)3(Al23)(H2O)6及びAl(OH)3の合計の析出量が10.0%以上であることを特徴とする砥石。
【請求項2】
前記バインダ中に分散状態で固定されたフィラーを有する請求項1記載の砥石。
【請求項3】
AlとCaとの質量による原子比率が1.1~4.4である請求項1又は2記載の砥石。
【請求項4】
アルミナセメント、研磨粒子、フィラー及び水を含むペーストを得る第1工程と、
前記ペーストを固化させて固化体を得る第2工程と、
前記固化体を養生して砥石を得る第3工程とを備え、
前記第3工程では、(CaO)2(Al23)(H2O)8、(CaO)3(Al23)(H2O)6及びAl(OH)3の合計の析出量を10.0%以上とすることを特徴とする砥石の製造方法。
【請求項5】
前記ペーストは、前記研磨粒子とフィラーとの合計を100質量部とした場合、前記アルミナセメントの比率が20~150質量%である請求項4記載の砥石の製造方法。
【請求項6】
前記ペーストは、前記アルミナセメントと前記研磨粒子との合計を100質量部とした場合、前記フィラーの比率が0.1~150質量%である請求項4又は5記載の砥石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は砥石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~5にセメントをバインダに用いた砥石が開示されている。バインダ中にはSiO2等の研磨粒子が分散状態で固定されている。特許文献1における実施例3の砥石は、バインダがマグネシアセメントからなる。特許文献2の砥石は、バインダがポルトランドセメント、フライアッシュセメント又はマグネシアセメントからなる。特許文献3の砥石は、バインダがポルトランドセメントからなる。特許文献4の砥石は、バインダがマグネシアセメントからなる。特許文献5の砥石は、バインダがアルミナセメント及び樹脂からなる。
【0003】
特許文献1~5の各砥石は、セメントの水和反応によって研磨粒子をバインダ中に分散状態で固定できることから、バインダがガラス又は金属からなる砥石と比べ、製造時の二酸化炭素排出量を削減することが可能である。また、特許文献1~5の砥石は、バインダがガラス又は金属からなる砥石と同様、バインダに樹脂を用いた砥石と比べ、バインダが研磨時に相手材に付着し難いことから、高い加工維持性を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭52-3797号公報
【特許文献2】特開昭61-188078号公報
【特許文献3】実開昭62-19165号公報
【特許文献4】特公平7-73827号公報
【特許文献5】特開昭48-45992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、発明者らの試験結果によれば、バインダにセメントを用いた従来の砥石は加工レート、加工維持性及び耐摩耗性が十分ではない。発明者は、この原因がバインダによる研磨粒子の保持性が十分でないことに起因していると推察している。
【0006】
また、上記特許文献1~4の各砥石は、バインダがポルトランドセメント、フライアッシュセメント又はマグネシアセメントからなり、バインダの急硬性、耐酸性及び耐火性に懸念がある。一方、特許文献1の砥石は、バインダの急硬性、耐酸性及び耐火性に優れたアルミナセメントを用いているものの、バインダに樹脂も用いているため、加工維持性が劣ることが予見される。しかも、特許文献1の砥石は、バインダの樹脂を加熱によって硬化させていることから、製造時の二酸化炭素排出量の削減効果も阻害している懸念がある。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、加工レート、加工維持性及び耐摩耗性に優れるとともに、バインダの急硬性、耐酸性及び耐火性に優れ、かつ製造時の二酸化炭素排出量を確実に削減できる砥石を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の砥石は、セメントを含むバインダと、前記バインダ中に分散状態で固定された研磨粒子とを有し、
前記バインダは、アルミナセメントからなり、(CaO)2(Al23)(H2O)8、(CaO)3(Al23)(H2O)6及びAl(OH)3の合計の析出量が10.0%以上であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の砥石の製造方法は、アルミナセメント、研磨粒子、フィラー及び水を含むペーストを得る第1工程と、
前記ペーストを固化させて固化体を得る第2工程と、
前記固化体を養生して砥石を得る第3工程とを備え、
前記第3工程では、(CaO)2(Al23)(H2O)8、(CaO)3(Al23)(H2O)6及びAl(OH)3の合計の析出量を10.0%以上とすることを特徴とする。
【0010】
アルミナセメントは、CaO・Al23やCaO・2Al23等のアルミン酸カルシウムが以下の水和反応を生じ、固化する。ここで、CaOをC、Al23をA、H2OをHと略記する。
【0011】
CA+10H→CAH10
2CA+11H→C2AH8+AH3
3CA+12H→C3AH6+2AH3
【0012】
CAH10、C2AH8は準安定相であるが、さらに以下の反応によってより高密度な水和物であるC2AH8、C3AH6及びAH3に相転移(コンバージョン)する。
【0013】
3C2AH8→2C3AH6+AH3+9H
3CAH10→C3AH6+2AH3+18H
【0014】
発明者の試験結果によれば、成形後の養生条件によって(CaO)2(Al23)(H2O)8、(CaO)3(Al23)(H2O)6及びAl(OH)3の少なくとも1種の析出量が変化する。これらの水和物を特定水和物という。そして、これら特定水和物の合計の析出量が10.0%以上であるか否かによって、砥石が加工レート、加工維持性及び耐摩耗性に優れるか否かが変化する。
【0015】
発明者の試験結果によれば、これら特定水和物の合計の析出量が10.0%以上であれば、砥石が加工レート、加工維持性及び耐摩耗性に優れる。これら特定水和物が砥石内で研磨粒子を保持するネットワークを形成し、研磨粒子が良好に保持されるためであると推察している。
【0016】
これら特定水和物の合計の析出量が10.0%未満では、砥石の加工維持性及び耐摩耗性が劣る。これら特定水和物の合計の析出量が5.5%未満では、さらに砥石の加工レートが劣る。
【0017】
また、本発明の砥石は、バインダがアルミナセメントであることから、バインダの急硬性、耐酸性及び耐火性に優れる。また、バインダに加熱が必要な樹脂を用いておらず、製造時の二酸化炭素排出量を確実に削減できる。
【0018】
したがって、本発明の砥石は、加工レート、加工維持性及び耐摩耗性に優れるとともに、バインダの急硬性、耐酸性及び耐火性に優れ、かつ製造時の二酸化炭素排出量を確実に削減できる。
【0019】
発明者の試験結果によれば、本発明の砥石の製造方法の第2工程において、成形型のキャビティ内に鋳込んだ後、24時間放置して固化体とし、第3工程において、養生時間を12時間以上、養生温度を常温以上、かつ加湿養生とすることが好ましい。養生時間を24時間以上とすれば、養生温度を常温以上とすれば、必ずしも加湿養生でなくてもよい。加湿養生は水中で硬化させてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の砥石は、加工レート、加工維持性及び耐摩耗性に優れるとともに、バインダの急硬性、耐酸性及び耐火性に優れ、かつ製造時の二酸化炭素排出量を確実に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、下段から試験品1-1、1-2、1-5の砥石のXRDパターンである。
図2図2は、実施例3の砥石の模式断面図である。
図3図3は、試験品4-8の砥石の100倍の顕微鏡写真である。
図4図4は、試験品4-8の砥石の1000倍の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
研磨粒子としては、ダイヤモンド、シリカ、セリア、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マンガン酸化物、炭酸バリウム、酸化クロム、炭化ホウ素、酸化鉄等の粒子を採用することが可能である。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0023】
発明者の試験結果によれば、AlとCaとの質量による原子比率が1.1~4.4であることが好ましい。AlとCaとの質量による原子比率が1.1未満では砥石にクラックが生じ易く、4.4を超えれば加工レート、加工維持性又は耐摩耗性が劣り易い。
【0024】
バインダには、研磨粒子の他、気孔が分散状態で固定されていてもよい。また、フィラーがバインダに分散状態で固定されていてもよい。フィラーとしては、研磨粒子より軟質の無機粉末、無機繊維、樹脂粉末、樹脂繊維、金属粉末又は金属繊維を採用することができる。フィラーは、研磨粒子の凝集を防止するとともに、研磨粒子を弾性的に保持し、研磨時に研磨粒子に作用する反力を緩和すると推察している。また、フィラーの材質によっては、耐摩耗性が向上する。
【0025】
フィラーとして用いる無機粉末としては、例えば、アルミナ、シリカ、タルク、SiC、炭酸カルシウム、粘土等が挙げられる。フィラーとして用いる無機繊維としては、ガラスファイバー、カーボンファイバー等が挙げられる。フィラーとして用いる樹脂粉末や樹脂繊維としては、既に硬化している熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂の粉末、エマルジョン又は繊維を採用することができる。フィラーとして用いる金属粉末としては、銅、SUS、鉄、ニッケル等が挙げられる。フィラーとして用いる金属繊維としては、銅、SUS等が挙げられる。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0026】
発明者の試験結果によれば、ペーストは、研磨粒子とフィラーとの合計を100質量部とした場合、アルミナセメントの比率が20~150質量%であることが好ましい。アルミナセメントがこの範囲外であれば、砥石は加工レート、加工維持性及び耐摩耗性が劣る。また、研磨粒子とフィラーとの合計を100質量部とし、アルミナセメントの比率を160質量%とすると、砥石にクラックが生じやすい。
【0027】
発明者の試験結果によれば、ペーストは、アルミナセメントと研磨粒子との合計を100質量部とした場合、フィラーの比率が0.1~150質量%であることが好ましい。アルミナセメントと研磨粒子との合計を100質量部とし、フィラーの比率を150質量%とすると、砥石は加工レートが低下する。
【0028】
(試験1)
アルミナセメント(デンカ(株)製「デンカアルミナセメント1号」)、研磨粒子としてのダイヤモンド粒子(平均粒径5μm)、フィラーとしてのアルミナ粉末(平均粒径10μm)及び水を用意した。
【0029】
第1工程として、アルミナセメントを30質量%、ダイヤモンド粒子を20質量%、フィラーを30質量%及び水を20質量%で混合し、ペーストを得た。
【0030】
第2工程として、このペーストを成形型のキャビティ内に鋳込んだ後、24時間放置して厚さ5mmの固化体とした。
【0031】
第3工程として、固化体を成形型から脱型し、表1の条件で養生した。ここで、試験品1-1~1-3の各砥石は、固化体をそのまま常温で放置し、養生時間のみを異ならせたものである。試験品1-4の砥石は、固化体に水で湿ったウェスを被せて常温で24時間放置したものである。試験品1-5の砥石は、固化体を60°Cの水中に浸し、24時間放置したものである。
【0032】
【表1】
【0033】
得られた試験品1-1、1-2、1-5の各砥石をX線回折に供してXRDパターンを求め、結晶構造を評価した。試験品1-1の砥石のXRDパターンを図1の下段の線図に示し、試験品1-2の砥石のXRDパターンを図1の中段の線図に示し、試験品1-5の砥石のXRDパターンを図1の上段の線図に示す。図1において、Kは(CaO)3(Al23)(H2O)6(C3AH6で略記)を示し、LはAl(OH)3(AH3で略記)を示し、Mは(CaO)2(Al23)(H2O)8(C2AH8で略記)を示し、NはCaAl24を示す。C2AH8、C3AH6及びAH3が特定水和物である。図1より、砥石は、養生によって特定水和物が生成されていることがわかる。
【0034】
試験品1-1~1-5の各砥石のXRDパターンから、特定水和物である(CaO)2(Al23)(H2O)8(C2AH8で略記)、(CaO)3(Al23)(H2O)6(C3AH6で略記)及びAl(OH)3(AH3で略記)それぞれの析出量(%)を求めた。また、特定水和物の合計の析出量(%)を求めた。結果も表1に示す。
【0035】
また、試験品1-1~1-5の各砥石について、以下の条件で加工レート(μm/分)、加工維持性及び耐摩耗性を評価した。これらの結果を表2に示す。
【0036】
加工レート:加工面圧20kPaでSiCウェハを研磨して加工レートを求めた。加工レートが0.05μm以上/分であれば◎、加工レートが0.01μm以上/分、0.05μm未満/分であれば○、加工レートが0.01μm未満/分であれば×を付して評価した。
【0037】
加工維持性:加工面圧20kPaでSiCウェハを研磨し、20分経過後の加工レート(μm/分)/初期の加工レート(μm/分)を求めた。加工維持性が0.5以上であれば◎、加工維持性が0.1以上、0.5未満であれば○、加工維持性が0.1未満であれば×を付して評価した。
【0038】
耐摩耗性:加工面圧20kPaでSiCウェハを研磨し、摩耗レート(μm/分)を求めた。摩耗レートが0.01μm未満/分であれば◎、摩耗レートが0.01μm以上/分、0.5μm未満/分であれば○、摩耗レートが0.5μm以上/分であれば×を付して評価した。
【0039】
【表2】
【0040】
表1及び表2より、特定水和物の合計の析出量が10.0%以上であれば、砥石が加工レート、加工維持性及び耐摩耗性に優れることがわかる。特定水和物が砥石内でダイヤモンド粒子を保持するネットワークを形成し、ダイヤモンド粒子が良好に保持されるためであると推察している。
【0041】
特定水和物の合計の析出量が10.0%未満では、砥石の加工維持性及び耐摩耗性が劣っている。また、特定水和物の合計の析出量が5.5%未満では、さらに砥石の加工レートが劣る。
【0042】
(実施例・比較例)
本発明を具体化した実施例1~4と、比較例1、2とを説明する。
【0043】
上記試験1と同様、アルミナセメント、ダイヤモンド粒子(平均粒径5μm)、第1フィラーとしてのタルク、第2フィラーとしてのガラスファイバー(平均長さ300μm、平均径5μm)、第3フィラーとしてのアクリル樹脂粉末((株)花王製「タフエース」、平均粒径50nm)及び水を用意した。
【0044】
これらを表3に示す質量%で混合し、第1工程でペーストを得た。試験1と同様に第2工程を行い、各ペーストから固化体を得た。次いで、試験品1-5と同一の条件で第3工程を行い、実施例1~4の各砥石を得た。図2に実施例3の砥石の模式断面図を示す。
【0045】
【表3】
【0046】
図2~4に示すように、実施例3の砥石は、アルミナセメントからなるバインダ1と、バインダ1中に分散状態で固定されたダイヤモンド粒子からなる研磨粒子、フィラー5、7とを有している。バインダ1中には図2では図示しない無数の気泡も分散状態で固定されている。
【0047】
比較例1の砥石は公知のビトリファイド砥石である。比較例1の砥石は製造時に400°C以上の熱処理を行っている。比較例2の砥石はバインダに樹脂のみを用いた公知のレジンボンド砥石である。
【0048】
実施例1~4及び比較例1、2の各砥石について、上記試験1と同一の条件で加工レート(μm/分)、加工維持性及び耐摩耗性を評価した。これらの結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表4より、実施例1~4の各砥石は、比較例1の砥石と同等以上の優れた加工レート、加工維持性及び耐摩耗性を発揮できることがわかる。他方、比較例2の砥石は加工レート及び加工維持性が実施例1~4及び比較例1の各砥石より劣っている。
【0051】
(試験2)
上記試験1と同様、アルミナセメント、ダイヤモンド粒子(平均粒径5μm)、フィラーとしてのアルミナ粉末(平均粒径10μm)及び水を用意した。
【0052】
第1工程として、アルミナセメントを30質量%、ダイヤモンド粒子を20質量%、フィラーを30質量%及び水を20質量%で混合し、ペーストを得た。この際、アルミナセメントが含有するAl23と、CaOとについて、表5に示すように、AlとCaとの質量による原子比率で調整を行った。
【0053】
【表5】
【0054】
これらを混合し、第1工程でペーストを得た。試験1と同様に第2工程を行い、各ペーストから固化体を得た。次いで、試験品1-5と同一の条件で第3工程を行い、試験品2-1~2-7の各砥石を得た。
【0055】
試験品2-1~2-7の各砥石について、クラックの有無を目視で確認するとともに、上記試験1と同一の条件で加工レート、加工維持性及び耐摩耗性を評価した。これらの結果を表6に示す。
【0056】
【表6】
【0057】
表6から、AlとCaとの質量による原子比率が1.1~4.4であれば、砥石は加工レート、加工維持性及び耐摩耗性が優れることがわかる。また、AlとCaとの質量による原子比率が1.1未満では砥石にクラックが生じ易く、4.4を超えれば加工レート、加工維持性又は耐摩耗性が劣り易いこともわかる。
【0058】
(試験3)
上記試験1、2と同様、アルミナセメント、ダイヤモンド粒子(平均粒径5μm)、フィラーとしてのアルミナ粉末(平均粒径10μm)及び水を用意した。
【0059】
第1工程として、アルミナセメント、ダイヤモンド粒子、フィラー及び水を表7に示す質量部で混合し、ペーストを得た。この際、ダイヤモンド粒子とフィラーとの合計を100質量部とし、アルミナセメントの比率を10~160質量%で変更させた。
【0060】
【表7】
【0061】
試験1、2と同様に第2工程を行い、各ペーストから固化体を得た。次いで、試験品1-5と同一の条件で第3工程を行い、試験品3-1~3-9の各砥石を得た。
【0062】
試験品3-1~3-9の各砥石について、クラックの有無を目視で確認するとともに、上記試験1、2と同一の条件で加工レート、加工維持性及び耐摩耗性を評価した。これらの結果を表8に示す。
【0063】
【表8】
【0064】
表8から、ダイヤモンド粒子とフィラーとの合計100質量部に対し、アルミナセメントは20~150質量%であることが好ましいことがわかる。アルミナセメントがこの範囲外であれば、砥石は加工レート、加工維持性及び耐摩耗性が劣る。また、ダイヤモンド粒子とフィラーとの合計を100質量部とし、アルミナセメントを160質量%とすると、砥石にクラックが生じやすい。
【0065】
(試験4)
上記試験1~3と同様、アルミナセメント、ダイヤモンド粒子(平均粒径5μm)及び水を用意するとともに、表9に示す種々のフィラーを用意した。アルミナ粉末の平均粒径は10μm、SiC粉末の平均粒径は10μm、炭酸カルシウム粉末の平均粒径は15μm、シリカ粉末の平均粒径は10μmである。ガラスファイバーの平均長さは150μm、繊維径は11μmであり、カーボンファイバーの平均長さは50μm、繊維径は11μmである。
【0066】
【表9】
【0067】
第1工程として、アルミナセメントを30質量%、ダイヤモンド粒子を20質量%、フィラーを30質量%及び水を20質量%で混合し、ペーストを得た。
【0068】
試験1~3と同様に第2工程を行い、各ペーストから固化体を得た。次いで、試験品1-5と同一の条件で第3工程を行い、試験品4-1~4-7の各砥石を得た。図3に試験品4-8の砥石の100倍の顕微鏡写真、図4に試験品4-8の砥石の1000倍の顕微鏡写真を示す。
【0069】
試験品4-1~4-9の各砥石について、上記試験1~3と同一の条件で加工レート、加工維持性及び耐摩耗性を評価した。これらの結果を表10に示す。
【0070】
【表10】
【0071】
表10から、この組成であれば、種々のフィラーを採用できることがわかる。また、フィラーとして、SiC粉末、ガラスファイバー又はカーボンファイバーを採用すれば、耐摩耗性が向上する。
【0072】
(試験5)
上記試験1~4と同様、アルミナセメント、ダイヤモンド粒子(平均粒径5μm)及び水を用意するとともに、フィラーとして、樹脂粉末を用意した。樹脂粉末の材質はアクリル樹脂エマルジョン、平均粒径は50nmである。
【0073】
第1工程として、アルミナセメント、ダイヤモンド粒子、フィラー及び水を表11に示す質量部で混合し、ペーストを得た。この際、アルミナセメントとダイヤモンド粒子との合計を100質量部とし、フィラーの比率を0.1~150.0質量%で変化させた。
【0074】
【表11】
【0075】
試験1~4と同様に第2工程を行い、各ペーストから固化体を得た。次いで、試験品1-5と同一の条件で第3工程を行い、試験品5-1~5-7の各砥石を得た。
【0076】
試験品5-1~5-7の各砥石について、クラックの有無を目視で確認するとともに、上記試験1~4と同一の条件で加工レート、加工維持性及び耐摩耗性を評価した。これらの結果を表12に示す。
【0077】
【表12】
【0078】
表12から、ペーストは、アルミナセメントとダイヤモンド粒子との合計を100質量部とした場合、フィラーが0.1~150質量%であることが好ましいことがわかる。アルミナセメントとダイヤモンド粒子との合計を100質量部とし、フィラーを150質量%とすると、砥石は加工レートが低下している。
【0079】
また、実施例1~4及び各試験品の砥石は、バインダがアルミナセメントであることから、バインダの急硬性、耐酸性及び耐火性に優れる。また、バインダに加熱が必要な樹脂を用いておらず、製造時の二酸化炭素排出量を確実に削減できている。
【0080】
したがって、実施例1~4及び各試験品の砥石は、加工レート、加工維持性及び耐摩耗性に優れるとともに、バインダの急硬性、耐酸性及び耐火性に優れ、かつ製造時の二酸化炭素排出量を確実に削減できることがわかる。
【0081】
以上において、本発明を実施例1~4及び各試験品に即して説明したが、本発明は上記実施例1~4及び各試験品に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は工業用砥石等に利用可能である。
【符号の説明】
【0083】
1…バインダ
3…研磨粒子(ダイヤモンド粒子)
5、7…フィラー
図1
図2
図3
図4