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特開2024-113762金属含有皮膜を有する炭素繊維強化プラスチック成形体
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  • 特開-金属含有皮膜を有する炭素繊維強化プラスチック成形体 図1
  • 特開-金属含有皮膜を有する炭素繊維強化プラスチック成形体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113762
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】金属含有皮膜を有する炭素繊維強化プラスチック成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240816BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240816BHJP
   C23C 24/04 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B32B27/00 103
B32B27/12
C23C24/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018917
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小川 和洋
(72)【発明者】
【氏名】市川 裕士
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 宏輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 成高
(72)【発明者】
【氏名】泉 安津志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康司
(72)【発明者】
【氏名】石田 翔馬
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 恵寛
(72)【発明者】
【氏名】西崎 昭彦
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AB01B
4F100AB10B
4F100AB17B
4F100AD11A
4F100AK01A
4F100AK54A
4F100AK54B
4F100BA02
4F100DE01B
4F100DH02A
4F100EH56
4F100EH56B
4F100EJ45B
4F100GB31
4F100GB32
4F100GB41
4F100JB13A
4F100JB16A
4F100JG01B
4F100JJ01
4F100JK02B
4F100JL11
4F100YY00B
4K044AA16
4K044AB09
4K044BA06
4K044BA10
4K044BA21
4K044BB01
4K044BB11
4K044BC12
4K044CA23
4K044CA27
4K044CA29
(57)【要約】
【課題】最適な混合比率で金属粒子とPAEK粉末を混合し、炭素繊維強化プラスチック複合材料の上に混合粉末を特定圧力の圧縮ガスと共に投射し、緻密で強固に密着した金属含有皮膜が形成された成形体、とくにその金属含有皮膜により高熱伝導性を発現可能な成形体を提供する。
【解決手段】炭素繊維強化プラスチックの表面の少なくとも一部に、ポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂を0重量%を超えて2重量%以下含む金属粒子が固相状態のまま1MPa以下の圧縮ガスと共に投射されることにより、熱伝導率が20.0W/Km以上の、前記金属粒子の金属およびPAEK樹脂から成る皮膜が形成されている成形体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチックの表面の少なくとも一部に、ポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂を0重量%を超えて2重量%以下含む金属粒子が固相状態のまま1MPa以下の圧縮ガスと共に投射されることにより、熱伝導率が20.0W/Km以上の、前記金属粒子の金属およびPAEK樹脂から成る皮膜が形成されていることを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記投射がコールドスプレー法により行われている、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記圧縮ガスの温度が300℃以上460℃以下である、請求項1に記載の成形体。
【請求項4】
前記皮膜の電気抵抗率が2.0mΩ・cm以下である、請求項1に記載の成形体。
【請求項5】
前記皮膜の引張強度が10MPa以上である、請求項1に記載の成形体。
【請求項6】
前記金属粒子が球状である、請求項1に記載の成形体。
【請求項7】
前記金属粒子の粒径が0.1μm以上、10μm未満である、請求項6に記載の成形体。
【請求項8】
前記金属粒子がCu、Alから選ばれる少なくとも1つからなる、請求項1に記載の成形体。
【請求項9】
前記皮膜と炭素繊維強化プラスチックが酸素原子または炭素原子を介して結合している、請求項1に記載の成形体。
【請求項10】
前記炭素繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂を含む、請求項1に記載の成形体。
【請求項11】
前記炭素繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂を含む、請求項1に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有皮膜を有する炭素繊維強化プラスチック成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの複合材料は軽量で高強度であるため、航空機、自動車、船舶等の構造部材として広く用いられている。このような炭素繊維強化プラスチックは、熱伝導性の低い樹脂をマトリックスとして含んでいるため、例えばスマートフォン、タブレット、携帯型パソコンなどの情報端末機器にてバッテリー、回路基板等が搭載される筐体、筐体ケース、筐体等に一体的に取付けられる筐体表面材、天板等として用いる場合、放熱性を持たせるために表面に高い熱伝導性を付与する必要がある。複合材料の表面に高い熱伝導性を付与する方法としては、複合材料の成形と同時に銅箔を加熱接着成形することにより、複合材料表面に銅箔を露出させる手法が知られている(例えば、特許文献1)が、複合材料の表面に銅箔を同時加熱接着成形する上記の方法は、熱膨張係数の大きく異なる樹脂と銅箔とを貼り合せることから、密着性に劣る問題があった。
【0003】
そこで、複合材料の表面の熱伝導率を向上するために、コールドスプレー法により金属粒子を複合材料上に直接噴射して金属皮膜を形成する手法が知られている(例えば、特許文献2および特許文献3)。
【0004】
他方、CFRPへの金属皮膜の密着性を向上させる試みとして、非特許文献1ではCu粒子にPEEKを混合してコールドスプレーする検討が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-175511号公報
【特許文献2】特開2010-47825号公報
【特許文献3】WO2022-190736号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】V. Bortolussi, F. Borit, A. Chesnaud, M. Jeandin, Evry /F, M. Faessel, B. Figliuzzi, F. Willot, Fontainebleau /F,K. Roche, G. Surdon, Argenteuil /F:Cold spray of metal-polymer composit e coatings ontocarbon fiber-reinforced polymer (CFRP) Interna tional Thermal Spray Conference 2016 (ITSC 2016), DVS, May 20 16, Shanghai, China. 7 p. hal-01337696
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2には非球状の異形粒子を複合材料にコールドスプレーする方法が、特許文献3には0.1μm以上、10μm未満の粒径の金属粒子を複合材料にコールドスプレーする方法について記載されているが、これらの文献に示されるコールドスプレーで金属皮膜を形成する方法においては、金属皮膜と複合材料との密着力を十分に高めることができないおそれがあり、例えば構造物や熱疲労を受けやすい情報端末機器に適用される際には、金属皮膜に十分な強度が発現しないおそれがあるという課題があった。
【0008】
非特許文献1では、CFRPへの金属皮膜の密着性を向上させる試みとして、Cu粒子にPEEKを混合してコールドスプレーする検討が行われているが、この非特許文献1では10μm以上と比較的大きなサイズの球形Cu粒子とPEEK粉末を混合し、圧力が1MPa以上の高圧のコールドスプレー装置によりCFRPへ混合粉末を投射しているため、基材としてのCFRP表面が損傷したり、一旦成膜された金属含有皮膜が部分的にはがれてしまうといった課題があった。また、金属粒子とPEEK粉末を混合する際に、PEEK粉末の混合割合を増やす程、熱伝導率が低下するという課題があった。
【0009】
そこで本発明の課題は、このような従来技術の背景に鑑み、最適な混合比率で金属粒子とPAEK粉末を混合し、炭素繊維強化プラスチック複合材料の上に混合粉末を特定圧力の圧縮ガスと共に投射し、緻密で強固に密着した金属含有皮膜が形成された成形体、とくにその金属含有皮膜により高熱伝導性を発現可能な成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、主として、以下の構成を有する。
[1] 炭素繊維強化プラスチックの表面の少なくとも一部に、ポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂を0重量%を超えて2重量%以下含む金属粒子が固相状態のまま1MPa以下の圧縮ガスと共に投射されることにより、熱伝導率が20.0W/Km以上の、前記金属粒子の金属およびPAEK樹脂から成る皮膜が形成されていることを特徴とする成形体。
[2]前記投射がコールドスプレー法により行われている、 [1]に記載の成形体。
[3]前記圧縮ガスの温度が300℃以上460℃以下である、 [1]に記載の成形体。
[4]前記皮膜の電気抵抗率が2.0mΩ・cm以下である、 [1]に記載の成形体。
[5]前記皮膜の引張強度が10MPa以上である、 [1]に記載の成形体。
[6]前記金属粒子が球状である、[1]に記載の成形体。
[7]前記金属粒子の粒径が0.1μm以上、10μm未満である、[6]に記載の成形体。
[8]前記金属粒子がCu、Alから選ばれる少なくとも1つからなる、[1]に記載の成形体。
[9]前記皮膜と炭素繊維強化プラスチックが酸素原子または炭素原子を介して結合している、[1]に記載の成形体。
[10]前記炭素繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂を含む、[1]に記載の成形体。
[11]前記炭素繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂を含む、[1]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炭素繊維強化プラスチックの表面に、ポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂を特定量含む金属粒子が固相状態のまま特定の圧力以下の圧縮ガスと共に投射されることにより、高熱伝導率の金属含有皮膜が形成された成形体は、炭素繊維強化プラスチックへの金属含有皮膜の密着強度が高く、緻密に形成された金属含有皮膜により成形体を高熱伝導化できるため、パソコン筐体などの放熱部材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の成形体の熱伝導率を測定する際の成形体の配置方法と測定方向の例を示す概略図である。
図2】本発明の実施例1における成形体の断面のデジタルマイクロスコープ写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、実施の形態とともに詳細に説明する。
本発明に係る成形体は、炭素繊維強化プラスチックの表面の少なくとも一部に、金属含有皮膜を形成させてなるものであり、とくに、ポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂を特定量含む金属粒子が固相状態のまま特定の圧力以下の圧縮ガスと共に投射されることにより、特定値以上の高熱伝導率の金属含有皮膜が形成されたものである。
【0014】
本発明における炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、ビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とするセルロース系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが挙げられる。これら炭素繊維のうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましく用いられる。また、炭素繊維のほかに目的に応じてその他の強化繊維を併用することもできる。併用する強化繊維の種類としては特に限定されず、無機繊維、金属繊維、有機繊維等が例示される。これらを2種以上用いてもよい。
【0015】
金属繊維としては、例えば、鉄、金、銀、銅、アルミニウム、黄銅、ステンレスなどの金属からなる繊維が挙げられる。
【0016】
有機繊維としては、例えば、アラミド、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンなどの有機材料からなる繊維が挙げられる。アラミド繊維としては、例えば、強度や弾性率に優れるパラ系アラミド繊維と、難燃性、長期耐熱性に優れるメタ系アラミド繊維が挙げられる。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維などが挙げられ、メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維などが挙げられる。アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維に比べて弾性率の高いパラ系アラミド繊維が好ましく用いられる。
【0017】
無機繊維としては、例えば、ガラス、バサルト、シリコンカーバイト、シリコンナイトライドなどの無機材料からなる繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、Eガラス繊維(電気用)、Cガラス繊維(耐食用)、Sガラス繊維、Tガラス繊維(高強度、高弾性率)などが挙げられる。バサルト繊維は、鉱物である玄武岩を繊維化した物で、耐熱性の非常に高い繊維である。玄武岩は、一般的に、鉄の化合物であるFeOまたはFeO2を9~25重量%、チタンの化合物であるTiOまたはTiO2を1~6重量%含有するが、溶融状態でこれらの成分を増量して繊維化することも可能である。
【0018】
本発明で用いる炭素繊維は、通常、多数本の単繊維を束ねた炭素繊維束を1本または複数本並べて構成される。1本または複数本の炭素繊維束を並べたときの炭素繊維束1本の単繊維本数は、500~50,000本が好ましい。取扱性の観点からは、炭素繊維の単繊維本数は、1,000~50,000本がより好ましく、1,000~40,000本がさらに好ましく、1,000~30,000本が特に好ましい。炭素繊維の単繊維本数の上限は、ボイドや分散性といった品位や取り扱い性とのバランスも考慮して、分散性、取り扱い性を良好に保てるようであればよい。
【0019】
1本の炭素繊維束は、好ましくは平均直径5~10μmである炭素繊維の単繊維を500~50,000本束ねて構成されたものである。
【0020】
本発明における炭素繊維強化プラスチックに使用されるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
【0021】
本発明に使用される熱硬化性樹脂としては例えば、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、マレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂および尿素樹脂などが挙げられる。これらの中で、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂およびこれらの樹脂の混合物は、高い力学特性を有し、好ましく用いられる。特に、エポキシ樹脂は力学特性に優れ、かつ、炭素繊維との接着にも優れているため、特に好ましく用いられる。
【0022】
エポキシ樹脂としては、分子内に複数のエポキシ基を有する化合物が用いられる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノール化合物とジシクロペンタジエンの共重合体を原料とするエポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、およびこれらの樹脂の組み合わせが好適に用いられる。
【0023】
本発明に使用される熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、フッ素系樹脂等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体を用いることができ、これらは2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。とりわけ、耐熱性、長期耐久性の観点からは、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、液晶ポリマー樹脂がより好ましい。
【0024】
前記ポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、低粘度ポリアリーレンエーテルケトン(LM-PAEK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンエーテルケトン(PEEKEK)樹脂、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)樹脂、及びポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)樹脂等が挙げられ、これらの共重合体、変性体、および2種以上ブレンドした樹脂などであってもよい。
【0025】
本発明に用いる金属粒子について、その形状については特に限定はなく、樹枝状のような非球状の異形粒子や、球状の粒子などを用いることができる。特に球状の粒子であると緻密で均一な金属含有皮膜を炭素繊維強化プラスチック上に形成しやすいため好ましい。ここでいう球状粒子とは例えばSEM(走査型電子顕微鏡)で2,000倍の観察画像から任意に抽出した粒子50個それぞれの短径と長径を測定し、それぞれの長径/短径の値を求め、それらの平均値が1~1.5の範囲内にあるもののことを指す。
【0026】
また、金属粒子の粒径は0.1μm以上、10μm未満であることが好ましい。粒径が10μm以上だと運動エネルギーが課題となるため、炭素繊維強化プラスチックの表面やその内部の炭素繊維を損傷してしまう可能性がある。金属粒子の粒径は好ましくは0.5μm~7μmの範囲であり、より好ましくは1~5μmである。ここで、金属粒子の粒径は、レーザー回折式粒度分布測定機を用いて常法に従って測定した径分布に基づき求められる重量平均径に基づき求められる重量平均粒径として求められる値である。
【0027】
本発明に用いる金属粒子の金属種には特に限定はないが、Cu、Al、Ti、Ag、Ni、Zn、Sn、Mo、Fe、Ta、Nb、Si、Crなどやそれらの合金等について好ましく用いられる。その中でも炭素繊維強化プラスチックとの親和性や皮膜の作りやすさなどの観点から、Cu、Alなどを用いることがより好ましい。
【0028】
また、複数の金属を用いて炭素繊維強化プラスチック上に投射することにより金属含有皮膜を形成することもできる。その場合、複数の金属を混合して同時に投射することもできるし、複数の金属を別々に投射することにより金属含有皮膜を積層して順次積み重ねることもできる。金属含有皮膜を順次積層する場合、炭素繊維強化プラスチック上にまず相対的に柔らかい第1の金属層を成膜した後、相対的に硬い第2の金属層を成膜することで、第1の層に第2の層が物理的に強固に結合した金属含有皮膜を形成することができる。積層する層については、目的に応じて3層以上積層してもよい。
【0029】
例えば、Snなどの金属の中で比較的柔らかい金属を用いると、投射した際に炭素繊維強化プラスチックの中に入り込むという新知見が得られており、また、Snの層の上からそれよりも硬いCuなどの別の金属をさらに投射することにより、Sn層が炭素繊維強化プラスチックとの接着アンカーコート層になり、そのアンカーコート層上に強固に接着可能なCu層を確実に形成することができる。
【0030】
本発明の成形体の金属含有皮膜は金属粒子およびポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂の粉粒体を投射して形成する。
【0031】
投射する方法として特に限定はないが、炭素繊維強化プラスチックの損傷をできるだけ抑制する観点からは、コールドスプレー法による投射が好ましい。コールドスプレー法とは溶射技術の一種であり、金属粒子の融点または軟化温度より低い温度に加熱(200~900℃程度)したガスを先細末広型ノズルにより超音速流にして、その流れの中に金属粒子を投入して加速させ、固相状態のまま基材に高速で衝突させて皮膜を形成する技術である。
【0032】
作動ガスにはヘリウム、窒素、空気などが使用されるが、安全性やコストを考慮すると空気を使用することが好ましい。作動ガスの圧力が1MPa以上のものを高圧コールドスプレー法と呼び、1MPa未満のものは低圧コールドスプレー法と呼ばれ、目的に応じてそれらを適宜使い分ければよいが、炭素繊維強化プラスチックに金属粒子を投射する場合には、炭素繊維強化プラスチックがエロージョン摩耗をなるべく起こさないように低圧コールドスプレー法を適用することが好ましく、ガス温度としては、300℃以上460℃が好ましく350℃以上420℃以下がより好ましい。好ましい範囲は樹脂粒子の混合割合が増える程、低下する傾向がある。また、ガス圧力としては0.3MPa以上、0.9MPa以下が好ましく、0.5MPa以上、0.8MPa以下がより好ましい。
【0033】
コールドスプレー法では金属粒子の運動エネルギーにより粒子が塑性変形して皮膜を形成しはじめる。この皮膜を形成しはじめる速度を臨界速度と呼ぶ。この臨界速度は金属粒子と基材の材料、粒径などにより異なる。
【0034】
コールドスプレー法の特徴としては、皮膜の酸化や熱変質がほとんどなく、緻密な皮膜を形成でき、基材との密着力が高く、金属粒子の付着効率が高いため厚膜の作製が可能である。
【0035】
コールドスプレーの噴射条件としては、金属粒子や基材の種類により調整すればよく、ガス温度、ガス圧力、ノズルと基材間の距離を適宜選定すればよい。
【0036】
本発明の金属含有皮膜は金属粒子およびポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂の粉粒体を投射して形成するが、投射の方法としては限定がない。まず炭素繊維強化プラスチックにPAEK樹脂の粉粒体を投射した後、その上から金属粒子を投射してもよいし、金属粒子を投射してからその上にPAEK樹脂を投射してもよい。さらに金属粒子とPAEK樹脂のそれぞれの粉粒体を予め混合しておいてから炭素繊維強化プラスチックの表面に投射することも好ましい。
【0037】
PAEK樹脂はエンジニアリングプラスチックの中でも耐熱温度が高く、機械的強度、耐久性、耐熱水性、耐薬品性、耐放射線性に優れるため、本発明の金属含有皮膜を有する炭素繊維強化プラスチックをパソコン筐体などの高熱伝導材料として用いるのに好適である。
【0038】
投射するPAEK樹脂としては特に限定はないが、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、低粘度ポリアリーレンエーテルケトン(LM-PAEK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンエーテルケトン(PEEKEK)樹脂、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)樹脂、及びポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)樹脂等が好ましく用いられ、さらにこれらの共重合体、変性体、および2種以上ブレンドした樹脂などであってもよい。
【0039】
PAEK樹脂の粉粒体の形態としては特に限定はないが、コールドスプレー装置での投射の容易さから粒子形状であることが好ましい。PAEK樹脂の粒径としては1μm以上、100μm未満であることが好ましい。より好ましくは5μm~70μmであり、さらに好ましくは10μm~50μmである。
【0040】
ここで、金属粒子の粒径は、レーザー回折式粒度分布測定機を用いて常法に従って測定した径分布に基づき求められる重量平均径に基づき求められる重量平均粒径として求められる値である。
【0041】
金属粒子とPAEK樹脂からなる粉粒体は、コールドスプレー装置に投入される前に金属粒子とPAEK樹脂が固体の状態で混合されていることが好ましく、乾燥された状態で均一に粉体混合されていることがより好ましい。このようにコールドスプレー装置に投入される前に金属粒子とPAEK樹脂が固体の状態で均一に混合されていると、コールドスプレー装置での投射の際に金属粒子とPAEK樹脂からなる粉粒体との到達時間に差がなくなるか差を極めて小さくでき、所望の金属含有皮膜を効率よく形成することが可能になる。
【0042】
本発明の炭素繊維強化プラスチック上に形成する金属含有皮膜において、皮膜中の金属とPAEK樹脂の組成比としては特に限定はなく、金属の比率が高いほど導電性等の金属含有皮膜の特性が向上する。金属含有皮膜中のPAEK樹脂の比率としては、高い導電性と炭素繊維強化プラスチックへの密着性を両立させる観点からは、2wt%以下とする必要がある。より好ましくは1.5wt%以下であり、さらに好ましくは1wt%以下である。また下限については特に限定されないが、0.1wt%以上であることが好ましい。
【0043】
本発明の炭素繊維強化プラスチック上に形成する金属含有皮膜において、優れた放熱性を得る観点から、皮膜の熱伝導率は高い方が良い。放熱性を得るのに熱伝導率は20W/Km以上が必要あり、より好ましくは50W/Km以上、さらに好ましくは100W/Km以上である。また、上限については特に限定されないが、金属粉末と同種の圧延プレートの熱伝導率以下であることが好ましい。
【0044】
本発明の炭素繊維強化プラスチック上に形成する金属含有皮膜において、高い熱伝導率を得るために、熱伝導率と物理的特性において相関関係にある電気伝導率が高い方が良い。従い、電気伝導率の逆数である電気抵抗率は低い方が良く、必要な電気抵抗率は2mΩ・cm以下であり、より好ましくは1mΩ・cm以下、さらに好ましくは0.1mΩ・cm以下である。また、下限については特に限定されないが、0.001mΩcm以上であることが好ましい。
【0045】
本発明の炭素繊維強化プラスチック上に形成する金属含有皮膜において、例えばパソコン筐体において発熱部品の熱疲労に耐えるため、引張強度は10MPa以上が好ましく、より好ましくは20MPa以上、更に好ましくは30MPa以上である。また、上限については特に限定されないが、40MPa以下であることが好ましい。
【0046】
本発明における金属含有皮膜は炭素繊維強化プラスチックと酸素原子または炭素原子を介して結合していることが好ましい。酸素原子や炭素原子と金属や炭素繊維強化プラスチックの樹脂や炭素繊維が結合していることで、成膜された金属含有皮膜と炭素繊維強化プラスチックとの密着力が向上し、実用上の耐久性に優れる。酸素原子や炭素原子と金属や炭素繊維強化プラスチックとの結合に関しては、コールドスプレー法により金属を炭素繊維強化プラスチックに投射したエネルギーで双方の界面に化学反応を起こさせて結合を生成してもよいし、予め炭素繊維強化プラスチックの表面をレーザーやプラズマ、コロナ放電などで処理することで活性化させて結合を生成してもよい。
【0047】
また、炭素繊維強化プラスチックの表面をサンディングやレーザーによる溝加工を施してその上に金属粒子をコールドスプレーすることによって機械的なインターロックによる結合を生成することで炭素繊維強化プラスチックと金属含有皮膜の密着強度を高めることができる。
【実施例0048】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。各実施例および比較例における特性評価は下記の方法にしたがって行った。
【0049】
1.SEM-EDX(走査型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光装置)
試料であるコールドスプレー後の金属含有皮膜を形成した成形体を、包埋用エポキシ樹脂に埋め込み、室温で一昼夜硬化させた後、成形体の横断面を研磨し、次いで研磨面をSEM-EDX(日立ハイテクノロジー(株)製)を使用して、拡大倍率2,000倍で撮影してライン分析を実施した。
【0050】
2.デジタルマイクロスコープ
試料であるコールドスプレー後の金属含有皮膜を形成した成形体を包埋用エポキシ樹脂に埋め込み、室温で一昼夜硬化させた後、成形体の横断面を研磨し、次いで研磨面をVHX-6000((株)キーエンス製)を使用して、拡大倍率300倍で撮影して成形体や成形体と炭素繊維強化プラスチックの界面を観察した。
【0051】
3.皮膜の熱伝導率の測定方法
定常法熱伝導率測定装置(アルバック理工社製GH-1S)を用い、図1に示す通り縦20mm×横20mm(厚み2mm)のサイズの成形体を縦向きに8~9枚並べて合計の厚みが18~20mmとなるように調整し、30℃環境下での熱伝導率を測定した。
皮膜の熱伝導率は、金属皮膜を形成する前の成形体(以下ブランク材)の熱伝導率λbを測定し、試料であるコールドスプレー後の金属含有皮膜を形成した成形体の皮膜厚みtm、基材厚みtb、熱伝導率λcを測定することで式(1)によりλmを算出した。
λc=λm×tm/(tm+tb)+λb×tb/(tm+tb)・・・(1)
λc:金属皮膜を形成した成形体の熱伝導率(W/m・K)
λm:金属皮膜の熱伝導率(W/m・K)
λb:金属皮膜を形成する前の成形体の熱伝導率(W/m・K)
tm:金属皮膜の厚み(mm)
tb:金属皮膜を除いた成形体の厚み(mm)
【0052】
4.皮膜の引張強度測定方法
ASTM D4541に基づき、皮膜強度を測定する。エルコメーター106プルオフ式付着力試験機を用い、試料であるコールドスプレー後の金属含有皮膜を形成した成形体の上にドリーをエポキシ系接着剤にて固定し、試験機のラチェットを一定の速度で回すことで引張力を負荷し、皮膜が破壊する強度を測定した。
【0053】
5.皮膜の電気抵抗測定方法
日置電機株式会社社製低抵抗計RM3544を用い、4端子法にてピン式テスター棒を用いて、皮膜の電気抵抗を測定した。ピン式テスターは皮膜表面において+側と-側を1cm離して接触させ、テスター間の電気抵抗を測定した。
【0054】
[基材]
実施例および比較例において、炭素繊維強化プレスチック基材は以下に示すものを用いた。
【0055】
(基材1)
Toray Advanced Composites社製、熱可塑性樹脂としてLM-PAEKを用いた熱可塑UDテープ(UD:一方向性)の積層板(“TC1225”を擬似等方積層してプレス成形したもの)
【0056】
(基材2)
東レ(株)製、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いたCFRP板(航空機用エポキシプリプレグ材を疑似等方積層してオートクレーブ成形したもの)
【0057】
[金属粒子]
実施例および比較例において、投射する金属粒子およびポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂は以下に示すものを用いた。
【0058】
(粒子1)
福田金属箔粉工業(株)製、球状銅粒子(“Cu-HWQ”:平均粒径5μmのもの)
【0059】
(粒子2)
福田金属箔工粉業(株)製、球状銅粒子(“Cu-HWQ”:平均粒径3μmのもの)
【0060】
(粒子3)
福田金属箔工粉業(株)製、球状銅粒子(“Cu-HWQ”:平均粒径10μmのもの)
【0061】
(樹脂1)
VICTREX社製、LM-PAEK樹脂(AE250 PWD 粒径25μm)
【0062】
(樹脂2)
DAICEL EVONIC社製、PEEK樹脂(VESTAKEEP 2000UFP20、平均粒径:20μm)
【0063】
(樹脂3)
DAICEL EVONIC社製、PEEK樹脂(VESTAKEEP 2000FP、平均粒径:50μm)
【0064】
〔実施例1〕
炭素繊維強化プラスチックとして基材1を用い、金属粒子として粒子1を99t%、ポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂として樹脂1を1wt%として予め混合したものを用いた。プラズマ技研工業社製低圧コールドスプレー装置型式H-05により、ガス温度350℃、圧力0.7MPa、送り速度100mm/s、ノズルと基材間の距離55mm、パス回数7回、フィーダー設定1rpmとしてコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。断面写真(図2)よりCu粒子とLM-PAEK樹脂からなる金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ300μm程度の厚みで堆積していた。金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながって緻密化された部分と、LM-PAEK樹脂が複数つながって緻密化された部分が存在し、さらに銅粒子とLM-PAEK樹脂が入り混じっている構造となった。皮膜の熱伝導率は31.5W/Km、電気抵抗率は0.3mΩ、引張強度は10.9MPaであった。SEM-EDXおよびSTEM-EDX(走査透過型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光装置)によりライン分析を実施したところ、金属含有皮膜中のCuと炭素繊維強化プラスチックの境界面付近にO原子が観測され、Cuと炭素繊維強化プラスチックがO原子を介して結合していることを示唆する結果であった。
【0065】
〔実施例2〕
金属粒子として粒子1を98wt%と樹脂1を2wt%として予め混合したものを用い、ガス温度を420℃とした以外は実施例1と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。実施例1と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ300μm程度の厚みで堆積していた。また、実施例1と同様に金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながって緻密化された部分と、LM-PAEK樹脂が複数つながって緻密化された部分が存在し、さらに銅粒子とLM-PAEK樹脂が入り混じっている構造となった。皮膜の熱伝導率は23.8W/Km、電気抵抗率は0.8mΩ、引張強度は12.3MPaであった。SEM-EDXおよびSTEM-EDX(走査透過型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光装置)によりライン分析を実施したところ、金属含有皮膜中のCuと炭素繊維強化プラスチックの境界面付近にO原子が観測され、Cuと炭素繊維強化プラスチックがO原子を介して結合していることを示唆する結果であった。
【0066】
〔実施例3〕
金属粒子として粒子2を99wt%、樹脂1を1wt%として予め混合したものを用い、ノズルと基材間の距離50mmとした以外は実施例1と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子をと樹脂の混合粉体を投射した。実施例1と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ300μm程度の厚みで堆積していた。また、実施例1と同様に金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながって緻密化された部分と、LM-PAEK樹脂が複数つながって緻密化された部分が存在し、さらに銅粒子とLM-PAEK樹脂が入り混じっている構造となった。皮膜の熱伝導率は25.6W/Km、電気抵抗率は0.6mΩ、引張強度は12.7MPaであった。SEM-EDXおよびSTEM-EDX(走査透過型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光装置)によりライン分析を実施したところ、金属含有皮膜中のCuと炭素繊維強化プラスチックの境界面付近にO原子が観測され、Cuと炭素繊維強化プラスチックがO原子を介して結合していることを示唆する結果であった。
【0067】
〔実施例4〕
金属粒子として粒子1を99wt%、樹脂2を1wt%として予め混合したものを用い、ガス温度を420℃にした以外は実施例1と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子をと樹脂の混合粉体を投射した。実施例1と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ300μm程度の厚みで堆積していた。また、実施例1と同様に金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながって緻密化された部分と、PEEK樹脂が複数つながって緻密化された部分が存在し、さらに銅粒子とPEEK樹脂が入り混じっている構造となった。皮膜の熱伝導率は28.8W/Km、電気抵抗率は0.4mΩ、引張強度は13.1MPaであった。SEM-EDXおよびSTEM-EDX(走査透過型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光装置)によりライン分析を実施したところ、金属含有皮膜中のCuと炭素繊維強化プラスチックの境界面付近にO原子が観測され、Cuと炭素繊維強化プラスチックがO原子を介して結合していることを示唆する結果であった。
【0068】
〔実施例5〕
金属粒子として粒子1を98wt%、樹脂2を1wt%として予め混合したものを用いた以外は実施例4と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。実施例4と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ300μm程度の厚みで堆積していた。また、金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながって緻密化された部分と、PEEK樹脂が複数つながって緻密化された部分が存在し、さらに銅粒子とPEEK樹脂が入り混じっている構造となった。皮膜の熱伝導率は26.7W/Km、電気抵抗率は0.6mΩ、引張強度は13.7MPaであった。SEM-EDXおよびSTEM-EDX(走査透過型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光装置)によりライン分析を実施したところ、金属含有皮膜中のCuと炭素繊維強化プラスチックの境界面付近にO原子が観測され、Cuと炭素繊維強化プラスチックがO原子を介して結合していることを示唆する結果であった。
【0069】
〔実施例6〕
金属粒子として粒子2を99wt%、樹脂2を1wt%として予め混合したものを用い、ガス温度460℃、ノズルと基材間の距離50mmとした以外は実施例4と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。実施例4と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ300μm程度の厚みで堆積していた。また、金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながって緻密化された部分と、PEEK樹脂が複数つながって緻密化された部分が存在し、さらに銅粒子とPEEK樹脂が入り混じっている構造となった。皮膜の熱伝導率は27.5W/Km、電気抵抗率は0.6mΩ、引張強度は12.8MPaであった。SEM-EDXおよびSTEM-EDX(走査透過型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光装置)によりライン分析を実施したところ、金属含有皮膜中のCuと炭素繊維強化プラスチックの境界面付近にO原子が観測され、Cuと炭素繊維強化プラスチックがO原子を介して結合していることを示唆する結果であった。
【0070】
〔実施例7〕
金属粒子として粒子1を99wt%、樹脂3を1wt%として予め混合したものを用い、ガス温度350℃とした以外は実施例4と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。実施例4と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ300μm程度の厚みで堆積していた。また、金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながって緻密化された部分と、PEEK樹脂が複数つながって緻密化された部分が存在し、さらに銅粒子とPEEK樹脂が入り混じっている構造となった。皮膜の熱伝導率は21.3W/Km、電気抵抗率は0.9mΩ、引張強度は11.8MPaであった。SEM-EDXおよびSTEM-EDX(走査透過型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光装置)によりライン分析を実施したところ、金属含有皮膜中のCuと炭素繊維強化プラスチックの境界面付近にO原子が観測され、Cuと炭素繊維強化プラスチックがO原子を介して結合していることを示唆する結果であった。
【0071】
〔実施例8〕
金属粒子として粒子1を98wt%、樹脂樹脂3を2wt%として予め混合したものを用い、ガス温度300℃とした以外は実施例4と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。実施例4と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ300μm程度の厚みで堆積していた。また、金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながって緻密化された部分と、PEEK樹脂が複数つながって緻密化された部分が存在し、さらに銅粒子とPEEK樹脂が入り混じっている構造となった。皮膜の熱伝導率は23.7W/Km、電気抵抗率は0.8mΩ、引張強度は13.7MPaであった。SEM-EDXおよびSTEM-EDX(走査透過型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光装置)によりライン分析を実施したところ、金属含有皮膜中のCuと炭素繊維強化プラスチックの境界面付近にO原子が観測され、Cuと炭素繊維強化プラスチックがO原子を介して結合していることを示唆する結果であった。
【0072】
〔実施例9〕
金属粒子として粒子1を99wt%、樹脂3を1wt%として予め混合したものを用い、ガス温度350℃、ノズルと基材間距離50mmとした以外は実施例4と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。実施例4と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ300μm程度の厚みで堆積していた。また、金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながって緻密化された部分と、PEEK樹脂が複数つながって緻密化された部分が存在し、さらに銅粒子とPEEK樹脂が入り混じっている構造となった。皮膜の熱伝導率は20.9W/Km、電気抵抗率は1.1mΩ、引張強度は12.9MPaであった。SEM-EDXおよびSTEM-EDX(走査透過型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光装置)によりライン分析を実施したところ、金属含有皮膜中のCuと炭素繊維強化プラスチックの境界面付近にO原子が観測され、Cuと炭素繊維強化プラスチックがO原子を介して結合していることを示唆する結果であった。
【0073】
〔実施例10〕
炭素繊維強化プラスチックとして基材2を用い、金属粒子として粒子1を99wt%、樹脂1を1wt%として予め混合したものを用いた以外は実施例1と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。実施例1と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ200μm程度の厚みで堆積していた。また、実施例1と同様に金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながって緻密化された部分と、LM-PAEK樹脂が複数つながって緻密化された部分が存在し、さらに銅粒子とLM-PAEK樹脂が入り混じっている構造となった。皮膜の熱伝導率は21.1W/Km、電気抵抗率は0.8mΩ、引張強度は10.3MPaであった。
【0074】
〔比較例1〕
金属粒子として粒子1を97wt%、樹脂1を3wt%として予め混合したものを用いた以外は実施例1と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。実施例1と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ300μm程度の厚みで堆積していた。また、実施例1と同様に金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながって緻密化された部分と、LM-PAEK樹脂が複数つながって緻密化された部分が存在し、さらに銅粒子とLM-PAEK樹脂が入り混じっている構造となった。皮膜の引張強度は13.2MPaであったが、LM-PAEK樹脂割合を増やしたため、熱伝導率は7.8W/Km、電気抵抗率は5.1mΩと低下した。
【0075】
〔比較例2〕
金属粒子として粒子3を98wt%、樹脂3を2wt%として予め混合し、ノズルと基材間距離65mmとした以外は実施例1と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。実施例1と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ300μm程度の厚みで堆積していた。また、実施例1と同様に金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながって緻密化された部分と、LM-PAEK樹脂が複数つながって緻密化された部分が存在し、さらに銅粒子とLM-PAEK樹脂が入り混じっている構造となった。金属粒子の粒子径10μmとし、粒子運動エネルギーが増加したため、皮膜の熱伝導率は7.3W/Km、電気抵抗率は6.8mΩ、引張強度は2.1MPaと低下した。
【0076】
〔比較例3〕
金属粒子として粒子1を100wt%とした以外は実施例1と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。実施例1と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ200μm程度の厚みで堆積していた。また、実施例1と同様に金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながる構造となった。樹脂粒子を混合しなかったため、緻密な構造が形成されにくくなり、皮膜の熱伝導率は5.6W/Km、電気抵抗率は13.5mΩ、引張強度は0.9MPaと低下した。
【0077】
〔比較例4〕
ガス温度を280℃とした以外は実施例1と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。実施例1と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ150μm程度の厚みで堆積していた。また、実施例1と同様に金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながる構造となった。皮膜の熱伝導率は1.2W/Km、電気抵抗率は45.6mΩ、引張強度は0.5MPaと低下した。
【0078】
〔比較例5〕
ガス温度を500℃、粒子1を100wt%とした以外は実施例1と同様にコールドスプレーして基材上に金属粒子と樹脂の混合粉体を投射した。実施例1と同様に金属含有皮膜が基材上に積層されており、おおよそ200μm程度の厚みで堆積していた。また、実施例1と同様に金属含有皮膜中では銅粒子が複数つながる構造となり、ガス温度が高い営業で、皮膜は茶褐色となり酸化銅を形成していた。熱伝導率は6.4W/Km、電気抵抗率は11.8mΩ、引張強度は3.6MPaと低下した。
【0079】
表1は実施例および比較例に用いた材料およびコールドスプレー条件と皮膜特性をまとめたものである。
【0080】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る炭素繊維強化プラスチックに金属含有皮膜を形成した成形体は高い熱伝導性を有することから、スマートフォン、タブレット、携帯型パソコンなどの情報端末機器にてバッテリー、回路基板等が搭載される筐体、筐体ケース、筐体等に一体的に取付けられる筐体表面材、天板等の放熱材料として好適である。また、本発明に係る炭素繊維強化プラスチックに金属含有皮膜を形成した成形体は炭素繊維強化プラスチックと金属含有皮膜の密着性が高いことから、自動車の補強用の金属-炭素繊維強化プラスチック接合材、炭素繊維強化プラスチックからなるバッテリーケースの放熱材、水素などの気体を封入した金属-炭素繊維強化プラスチックなどの圧力容器等の一般産業用途へ適用することができる。
図1
図2