(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113763
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20240816BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240816BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240816BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/54
H01M4/36 A
C01B25/45 Z
C01B25/45 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018918
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池上 潤
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】横山 歩
【テーマコード(参考)】
5H031
5H050
【Fターム(参考)】
5H031BB01
5H031BB09
5H031EE03
5H031RR01
5H050AA15
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】使用済みリチウムイオン電池の再生処理として、安全性が高く工程の簡略化を図ることもできる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法に関する。
【解決手段】炭素を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(A)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)を用い、次の工程(I):粉体(X)、特定の水溶性リチウム化合物(Y)、及び水溶性リチウム化合物(Y)以外のリチウムイオン伝導体(C)を特定の量比にて混合してスラリー水Iを得る工程、工程(II):得られたスラリー水IのpHを10~14に調整した後、特定の還元剤(Z)を混合して、スラリー水IIを得る工程、工程(III):得られたスラリー水IIを水熱反応に付した後、噴霧乾燥に付す工程を備える、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(A)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)を用い、
次の工程(I)~(III):
(I)粉体(X)、水溶性リチウム化合物(Y)、及び水溶性リチウム化合物(Y)以外のリチウムイオン伝導体(C)を混合してスラリー水Iを得る工程
(II)得られたスラリー水IのpHを10~14に調整した後、還元剤(Z)を混合して、スラリー水IIを得る工程
(III)得られたスラリー水IIを水熱反応に付した後、噴霧乾燥に付す工程
を備える、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法であって、
水溶性リチウム化合物(Y)が、水酸化リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上であり、
還元剤(Z)が、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1種又は2種以上であり、
工程(I)における、リチウムイオン伝導体(C)に含まれるLiモル量((C)Li)と、粉体(X)に含まれるMn、Fe、及びM(Mは、式(A)中におけるMと同義)の合計モル量((X)Mn+Fe+M)との比((C)Li/(X)Mn+Fe+M)が、0.05~0.25であり、かつ
リチウム系ポリアニオン粒子(A)が、下記式(A)
LiaMnbFecMxPO4・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表される、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法。
【請求項2】
リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体が、リチウム系ポリアニオン粒子(A)とリチウムイオン伝導体(C)とにより形成されてなる複合体である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【請求項3】
リチウムイオン伝導体(C)が、Li3PO4、LISICON型化合物、NASICON型化合物、ペロブスカイト型化合物、及びガーネット型化合物から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【請求項4】
工程(I)において、粉体(X)に含まれるLi、及び水溶性リチウム化合物(Y)に含まれるLiの合計モル量((X)Li+(Y)Li)と、粉体(X)に含まれるMn、Fe、及びM(Mは、式(A)中におけるMと同義)の合計モル量((X)Mn+Fe+M)との比({(X)Li+(Y)Li}/(X)Mn+Fe+M)が、0.88~0.98である請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【請求項5】
工程(I)において、水溶性リチウム化合物(Y)、及びリチウムイオン伝導体(C)を混合した後、粉体(X)を混合する、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みリチウムイオン二次電池を有効活用することのできる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、携帯電話やデジタルカメラ、ノートPC、ハイブリッド自動車、及び電気自動車等、広い分野に利用されている。なかでも、LiMnxFe1-xPO4のようなリチウム系ポリアニオン粒子は、その安全性の高さや容量の大きさから、こうしたリチウムイオン二次電池の正極材料として極めて有用性が高い。
ところで、近年、環境意識が世界的にも高まり、資源枯渇への対応も要求されるなか、廃棄される使用済みリチウムイオン電池のリサイクル実現化が強く望まれており、正極材料の再生処理についても種々試みられている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、使用済みLiFePO4カソード材料の再生処理が開示されており、熱水条件下にてリチウムの補充しつつ、還元剤としてN2H4・H2Oを投入している。また、特許文献1には、廃棄リン酸鉄リチウムの選択的酸化還元再生方法が開示されており、特定の条件下における1次焼結、及び2次焼結により、リチウムや炭素の補填、及び組成調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Qiankun Jing 外、「Direct Regeneration of Spent LiFePO4 Cathode Material by a Green and Efficient One-Step Hydrothermal Method」、ACS Sustainable Chemical Engineering、 2020、Vol 8、No.48、17622-17628
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の技術では、過酷な処理条件に付す必要がある上、還元剤の毒性にも配慮しなければならず、工業化を図るには未だ改善すべき余地がある。また特許文献1に記載の技術であっても、依然として処理工程の煩雑化が避けられない状況にある。
【0007】
したがって、本発明は、使用済みリチウムイオン電池の再生処理として、安全性が高く工程の簡略化を図ることもできる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得た粉体を原料とし、特定の水溶性リチウム化合物とリチウムイオン伝導体とを特定の量的関係の元で用いながら、水熱反応に付すという簡易な工程を経ることにより、リチウム系ポリアニオン粒子の再生を有効に図ることのできる製造方法を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、炭素を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(A)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)を用い、
次の工程(I)~(III):
(I)粉体(X)、水溶性リチウム化合物(Y)、及び水溶性リチウム化合物(Y)以外のリチウムイオン伝導体(C)を混合してスラリー水Iを得る工程
(II)得られたスラリー水IのpHを10~14に調整した後、還元剤(Z)を混合して、スラリー水IIを得る工程
(III)得られたスラリー水IIを水熱反応に付した後、噴霧乾燥に付す工程
を備える、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法であって、
水溶性リチウム化合物(Y)が、水酸化リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上であり、
還元剤(Z)が、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1種又は2種以上であり、
工程(I)における、リチウムイオン伝導体(C)に含まれるLiモル量((C)Li)と、粉体(X)に含まれるMn、Fe、及びM(Mは、式(A)中におけるMと同義)の合計モル量((X)Mn+Fe+M)との比((C)Li/(X)Mn+Fe+M)が、0.05~0.25であり、かつ
リチウム系ポリアニオン粒子(A)が、下記式(A)
LiaMnbFecMxPO4・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表される、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法によれば、安全性が高く簡易な方法でありながら、優れた電池物性を発現するリチウムイオン二次電池の正極材料として有用性の高いリチウム系ポリアニオン粒子複合体を得ることができる。また、リチウム系ポリアニオン粒子複合体をそのまま用いることにより、リチウムイオン二次電池の製造工程の簡略化を図ることもできる。
したがって、本発明であれば、使用済みリチウムイオン二次電池のリサイクル実現化に大いに寄与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1におけるXRDパターンの解析結果を示すパターン図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法は、炭素を担持してなる式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)(以下、単に「リチウム系ポリアニオン粒子(A)」とも称する)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)を用いる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法である。
すなわち、リチウム系ポリアニオン粒子(A)を一材料としつつ作製された正極によって構築された、使用前のリチウムイオン二次電池は、使用に供されている間、正極において次第にリチウムが離脱して劣化状態となるため、使用後は破棄の対象となるにすぎないところ、本発明では、こうした使用済みリチウムイオン二次電池の正極に粉砕等の処理を施して粉体(X)とし、これを原材料の一つとして用いる製造方法である。
【0013】
本発明によれば、粉体(X)に含まれる劣化したリチウム系ポリアニオン粒子に対して、離脱したリチウムを有効に補充し、当初正極に含まれていた式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)(以下、「当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)」とも称する)と同等の性能を有する複合体を得ることができ、有用性の高い再生処理である。
【0014】
本発明により得られるリチウム系ポリアニオン粒子複合体(以下、単に本発明により得られる「複合体」とも称する)は、具体的には、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)へと再生されたリチウム系ポリアニオン粒子と、後述するリチウムイオン伝導体(C)とにより形成されてなる複合体である。
かかる複合体は、リチウムイオン伝導体(C)が、粉体(X)に含まれる劣化したリチウム系ポリアニオン粒子にリチウムを補填しながら、リチウム系ポリアニオン粒子を被覆又はリチウム系ポリアニオン粒子の間隙に混在して凝集し、形成された複合体である。このような複合体を構成するリチウム系ポリアニオン粒子は、劣化したリチウム系ポリアニオン粒子が当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)へと効果的に再生されてなる粒子であり、ともに複合体を構成するリチウムイオン伝導体(C)と相まって、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)に劣ることのない優れた電池物性の発現を可能にする。
【0015】
このように、本発明により得られるリチウム系ポリアニオン粒子複合体であれば、再び電池特性に優れるリチウムイオン二次電池を構築するための正極材料として、有効に活用することができる。
【0016】
なお、かかる複合体を構成する、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)へと再生されたリチウム系ポリアニオン粒子は、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)と同様、式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子であり、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)と同一の組成であってもよく、式(A)で表される限り、異なる組成であってもよい。
したがって、例えば、本発明により得られるリチウム系ポリアニオン粒子複合体を構成するリチウム系ポリアニオン粒子について、式(A)中のbやc等を適宜所望の値になるよう調整してもよい。
【0017】
当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)は、炭素が担持されてなり、かつ下記式(A)で表される粒子であり、少なくとも遷移金属としてマンガン(Mn)又は鉄(Fe)の一方を含む、いわゆるオリビン型リン酸遷移金属リチウム化合物である。
LiaMnbFecMxPO4・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
【0018】
上記式(A)中、Mは、電池特性を高め得る有用性の高い材料として再生する観点から、さらにMg、Al、Ti、Zn、Nb、Co、Zr、又はGdであってもよい。また、aについては、0.6≦a≦1.2が好ましく、0.65≦a≦1.15がより好ましく、0.7≦a≦1.1がさらに好ましい。bについては、0.4≦b≦0.8が好ましい。cについては、0.2≦c≦0.6が好ましい。xについては、0≦x≦0.2であってもよく、さらに0≦x≦0.15であってもよく、0≦x≦0.1であってもよい。
【0019】
具体的には、例えばLiMnPO4、LiFePO4、LiMn0.3Fe0.7PO4、LiMn0.4Fe0.6PO4、LiMn0.45Fe0.55PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.9Fe0.1PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.75Fe0.15Mg0.1PO4、LiMn0.75Fe0.19Zr0.03PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、LiMn0.5Fe0.5PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4、Li0.6Mn0.84Fe0.36PO4等が挙げられる。なかでもLiMn0.4Fe0.6PO4、LiMn0.45Fe0.55PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4が好ましい。
【0020】
なお、リチウム系ポリアニオン粒子(A)に担持してなる炭素を形成する炭素材料としては、その種類は特に限定されないが、一般的には、セルロースナノファイバー、及び水溶性炭素材料から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。これらセルロースナノファイバーや水溶性炭素材料は、炭化されて炭素となり、リチウム系ポリアニオン粒子(A)にセルロースナノファイバー由来の炭素や水溶性炭素材料由来の炭素として担持してなる。
セルロースナノファイバーとしては、繊維径1nm~1000nmのものが挙げられる。
水溶性炭素材料としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース等の二糖類;デンプン、デキストリン等の多糖類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、プロパンジオール、ポリビニルアルコール、グリセリン等のポリオールやポリエーテル;クエン酸、酒石酸等の有機酸が挙げられる。
その他の炭素材料としては、例えば、カーボンナノファイバー、グラファイト、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックのような水不溶性炭素材料が挙げられる。
【0021】
本発明で用いる粉体(X)は、炭素を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(A)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体である。使用前のリチウムイオン二次電池を構築する正極には、式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)が含まれていたことから、使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得た粉体(X)には、リチウム系ポリアニオン粒子(A)が劣化した状態で含まれることとなる。かかる粉体(X)を得るにあたり、その方法は特に制限されないが、例えば、使用済みリチウムイオン二次電池を分解、破砕、又は焙焼等して正極を取り出し、これに粉砕、又は比重分離等の処理を施せばよい。
なお、粉体(X)は、適宜溶媒として水を用いてスラリー形態にて得てもよい。
【0022】
本発明のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法は、具体的には、次の工程(I)~(III):
(I)粉体(X)、水溶性リチウム化合物(Y)、及び水溶性リチウム化合物(Y)以外のリチウムイオン伝導体(C)を混合してスラリー水Iを得る工程
(II)得られたスラリー水IのpHを10~14に調整した後、還元剤(Z)を混合して、スラリー水IIを得る工程
(III)得られたスラリー水IIを水熱反応に付した後、噴霧乾燥に付す工程
を備える、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子複合体の製造方法であって、
水溶性リチウム化合物(Y)が、水酸化リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上であり、
還元剤(Z)が、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1種又は2種以上であり、
工程(I)における、リチウムイオン伝導体(C)に含まれるLiモル量((C)Li)と、粉体(X)に含まれるMn、Fe、及びM(Mは、式(A)中におけるMと同義)の合計モル量((X)Mn+Fe+M)との比((C)Li/(X)Mn+Fe+M)が、0.05~0.25である。
【0023】
工程(I)は、粉体(X)、水溶性リチウム化合物(Y)、及び水溶性リチウム化合物(Y)以外のリチウムイオン伝導体(C)を混合してスラリー水Iを得る工程であって、水溶性リチウム化合物(Y)が水酸化リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上であり、かつリチウムイオン伝導体(C)に含まれるLiモル量((C)Li)と、粉体(X)に含まれるMn、Fe、及びM(Mは、式(A)中におけるMと同義)の合計モル量((X)Mn+Fe+M)との比((C)Li/(X)Mn+Fe+M)が0.05~0.25である。
なお、粉体(X)は、上記のとおり、使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られた粉体であり、粉体そのものを直接用いてもよく、粉体(X)を含有するスラリー水として用いてもよい。
【0024】
かかる工程(I)において、粉体(X)とともに、特定の化合物である水溶性リチウム化合物(Y)とリチウムイオン伝導体(C)とを特定の比((C)Li/(X)Mn+Fe+M)で用いてスラリー水を調製することにより、続く工程(II)~(III)を経た後において、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)へと良好に再生されたリチウム系ポリアニオン粒子とリチウムイオン伝導体(C)とによって形成された複合体を得ることができる。
【0025】
水溶性リチウム化合物(Y)は、水酸化リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上の、水溶性を示す化合物である。かかる水溶性リチウム化合物(Y)は、粉体(X)に劣化した状態で含まれるリチウム系ポリアニオン粒子に対し、離脱してしまったリチウムを補充しつつ、リチウムイオン伝導体(C)とともに複合体を形成することにより、正極材料としての性能を向上させることに寄与する。
なお、「水溶性」を示す化合物とは、20℃における水に対する溶解度が30質量%以上(飽和水溶液100g中に30g以上溶解)である化合物のことを意味する。
【0026】
水溶性リチウム化合物(Y)としては、より具体的には、例えば、LiOH、LiOH・H2O等の水酸化リチウム又はその水和物;Li2SO4、Li2SO4・H2O等の硫酸リチウム又はその水和物;C2H3LiO2、C2H3LiO2・2H2O等の酢酸リチウム又はその水和物;LiNO3、LiNO3・xH2O等の硝酸リチウム又はその水和物;LiCl、LiCl・H2O等の塩化リチウム又はその水和物から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、水酸化リチウム又はその水和物が好ましい。
【0027】
水溶性リチウム化合物(Y)の添加量は、用いる粉体(X)に含まれる劣化した状態のリチウム系ポリアニオン粒子の組成や、再生後の式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子の組成に応じて、適宜調整することができる。
例えば、粉体(X)に含まれるLi、Mn、Fe、及びM(Mは、式(A)中におけるMと同義。以下、同様。)のモル量と、水溶性リチウム化合物(Y)に含まれるLiのモル量とを元に、水溶性リチウム化合物(Y)の添加量を調整してもよい。具体的には、粉体(X)に含まれるLi、及び水溶性リチウム化合物(Y)に含まれるLiの合計モル量((X)Li+(Y)Li)と、粉体(X)に含まれるMn、Fe、及びMの合計モル量((X)Mn+Fe+M)との比({(X)Li+(Y)Li}/(X)Mn+Fe+M)が、好ましくは0.88~0.98となるように、より好ましくは0.90~0.98となるように、さらに好ましくは0.92~0.98となるように調整する。
また、後述するリチウムイオン伝導体(C)とともに、粉体(X)に含まれるLiや、Mn、Fe、及びMのモル量を加味しつつ、後述する比({(X)Li+(Y)Li+(C)Li}/(X)Mn+Fe+M)が特定の範囲となるよう、調整してもよい。
【0028】
リチウムイオン伝導体(C)は、水溶性リチウム化合物(Y)以外のリチウム化合物であり、かつ優れたリチウムイオン導電性を有する化合物である。かかるリチウムイオン伝導体(C)は、水溶性リチウム化合物(Y)とともに複合体を形成することにより、粉体(X)に含まれるリチウム系ポリアニオン粒子の当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)への再生に大いに寄与することができる。
【0029】
リチウムイオン伝導体(C)としては、具体的には、例えば、Li3PO4;xLi4Ge4O4-(1-x)Zn2GeO4、Li4GeO4-Li3VO4、LiSiO4-Li3PO4、Li4GeO4-Li3PO4等のLISICON型化合物;Li2Co2(MoO4)3、Li1―xAxM3
2-x(PO4)3(A=AlNb又はTa等、M3=Zr、Hf又はTi等)等のNASICON型化合物;Li0.5La0.5TiO3、LiLaTiO3、Li0.35La0.55TiO3等のペロブスカイト型化合物;LiyLa(1-y)/3NbO3、Li7La3Zr2O12等のガーネット型化合物等が挙げられる。
なかでも、Li3PO4、LISICON型化合物、NASICON型化合物、及びペロブスカイト型化合物から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、Li3PO4、LISICON型化合物がより好ましく、より具体的には、Li3PO4、Li1.5Al0.5Ti1.5(PO4)3、及びLiLaTiO3から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、Li3PO4がより好ましい。
【0030】
リチウムイオン伝導体(C)の添加量は、リチウムイオン伝導体(C)に含まれるLiモル量と、粉体(X)に含まれるLi、Mn、Fe、及びMのモル量とを元に、これらが特定の比となるよう調整する。すなわち、リチウムイオン伝導体(C)の添加量を調整するにあたり、リチウムイオン伝導体(C)に含まれるLiモル量((C)Li)と、粉体(X)に含まれるMn、Fe、及びMの合計モル量((X)Mn+Fe+M)との比((C)Li/(X)Mn+Fe+M)が、0.05~0.25であればよく、さらにかかる比((C)Li/(X)Mn+Fe+M)が、0.05~0.22であれば好ましく、0.05~0.19であればより好ましく、0.05~0.15であればさらに好ましい。
【0031】
また、工程(I)において得られるスラリー水Iにおいて、粉体(X)に含まれるLi、水溶性リチウム化合物(Y)に含まれるLi、及びリチウムイオン伝導体(C)に含まれるLiの合計モル量((X)Li+(Y)Li+(C)Li)と、粉体(X)に含まれるMn、Fe、及びMの合計モル量((X)Mn+Fe+M)との比({(X)Li+(Y)Li+(C)Li}/(X)Mn+Fe+M)は、好ましくは1.01~1.15であり、より好ましくは1.03~1.10である。
【0032】
なお、粉体(X)に含まれるLi、Mn、Fe、M、及びPのモル量は、ICP発光分光分析装置を用いてICP分析を行うことにより特定する。
【0033】
スラリー水Iを得るにあたり、これら粉体(X)、水溶性リチウム化合物(Y)、及びリチウムイオン伝導体(C)のほか、これらの溶媒として適宜水を用いて調整してもよく、また上記のとおり、粉体(X)をスラリー水形態として用いてもよい。
なお、スラリー水Iの固形分濃度は、後の工程における複合体の形成を有効に促進させる観点から、好ましくは0.1質量%~40質量%であり、より好ましくは1質量%~30質量%である。
【0034】
工程(I)において、粉体(X)、水溶性リチウム化合物(Y)、及びリチウムイオン伝導体(C)を混合するにあたり、これらの添加順については特に制限はないが、これら各成分を良好に溶解又は分散させて、後の工程における複合体の形成を有効に促進させる観点、及び離脱してしまったリチウムをより効果的に補充する観点から、水溶性リチウム化合物(Y)、及びリチウムイオン伝導体(C)を混合した後、粉体(X)を混合するのが好ましく、さらに、予め水に水溶性リチウム化合物(Y)を溶解させた後、リチウムイオン伝導体(C)を混合し、次いで粉体(X)を混合するのがより好ましい。
【0035】
スラリー水Iは、次なる工程(II)へ移行する前に、予め撹拌するのが好ましい。これにより、各成分を良好に溶解又は分散させて、後の工程における複合体の形成を有効に促進させつつ、リチウムの補充も効果的に促進させることができる。攪拌の時間は、好ましくは1分~60分であり、より好ましくは5分~30分であり、さらに好ましくは10分~20分である。
また、スラリー水IのpHは、粉体(X)から不要にリチウム系ポリアニオン粒子が溶出してしまうのを有効に抑制し、効率的に再生を図る観点から、好ましくは7以上であり、より好ましくは8~14であり、さらに好ましくは8.5~13である。なお、pHの調整にあたっては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等、適宜公知のpH調整剤を用いてもよい。
【0036】
工程(II)は、工程(I)で得られたスラリー水IのpHを10~14に調整した後、還元剤(Z)を混合して、スラリー水IIを得る工程である。これにより、続く工程(III)において、粉体(X)から不要にリチウム系ポリアニオン粒子が溶出してしまうのをより有効に抑制しつつ、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)へと良好に再生されたリチウム系ポリアニオン粒子とリチウムイオン伝導体(C)との複合体を良好に形成させることができる。
【0037】
スラリー水IのpHは、10~14に調整し、好ましくは10.5~13に調整する。
なお、pHを調整するにあたり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸、及び塩酸から選ばれる1種又は2種以上のpH調整剤を用いるのが好ましく、水酸化ナトリウム、及び硫酸から選ばれる1種又は2種のpH調整剤を用いるのがより好ましい。かかるpH調整剤の添加量は、スラリー水IのpHによっても変動し得るが、溶け残りが生じない量であればよい。
【0038】
工程(II)では、pHを上記範囲に調整した後のスラリー水Iに還元剤(Z)を混合して、スラリー水IIを得る。
用いる還元剤(Z)は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1種又は2種以上である。なかでも、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムが好ましく、亜硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0039】
還元剤(Z)の添加量は、用いる粉体(X)に含まれる劣化した状態のリチウム系ポリアニオン粒子の組成や、再生後の式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子の組成によっても変動し得るが、得られる複合体における式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)への再生を有効に実現する観点から、スラリー水I中での水溶性リチウム化合物(Y)のモル量と還元剤(Z)のモル量との比((Y):(Z))が、1:0.3~1:1.2となる量であるのが好ましく、1:0.3~1:0.8となる量であるのがより好ましい。
【0040】
なお、スラリー水IIは、続く工程(III)へ移行する前に、撹拌してもよい。
また、スラリー水IIの固形分濃度は、後の工程における複合体の形成を有効に促進させる観点から、好ましくは0.1質量%~40質量%であり、より好ましくは1質量%~30質量%である。
【0041】
工程(III)は、工程(II)で得られたスラリー水IIを水熱反応に付した後、噴霧乾燥に付す工程である。このような簡易な工程を経ることにより、粉体(X)に含まれる劣化したリチウム系ポリアニオン粒子に対し、離脱したリチウムを有効に補充して式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子へと再生しながら、リチウムイオン伝導体(C)との複合体を形成させることができる。
【0042】
水熱反応の温度は、離脱したリチウムを有効に補充する観点、及び良好に再生されたリチウム系ポリアニオン粒子とリチウムイオン伝導体(C)との複合体を形成させる観点から、好ましくは100~200℃であり、より好ましくは110℃~200℃であり、さらに好ましくは140℃~190℃であり、よりさらに好ましくは150℃~170℃である。
また、水熱反応に付す時間は、水熱反応を迅速かつ効率的に進行させる観点から、好ましくは0.1時間~2.5時間であり、より好ましくは1時間~2時間である。
【0043】
水熱反応に付した後、噴霧乾燥に付す。噴霧乾燥に付すにあたり、予め水熱反応に付した後のスラリー水をろ過し、水で洗浄した後に再度調整したスラリー水とするのがよい。噴霧乾燥では、用いる装置(例えば、4流体ノズルを備えたマイクロミストドライヤー等)に応じて、適宜運転条件を設定すればよい。
【0044】
上記工程(I)~(III)を経ることにより、粉体(X)に含まれていたリチウム系ポリアニオン粒子が式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)へと再生され、かかるリチウム系ポリアニオン粒子(A)とリチウムイオン伝導体(C)とにより形成されてなる複合体が得られる。かかる複合体の平均粒径は、好ましくは5μm~25μmであり、より好ましくは10μm~20μmである。
【0045】
本発明の原材料の一つとして用いた粉体(X)に含まれるリチウム系ポリアニオン粒子は、そもそも炭素が担持されてなるため、本発明により得られた複合体を構成するリチウム系ポリアニオン粒子においても、担持してなる炭素が存在する。したがって、リチウムイオン二次電池を構築するための有用な正極材料として、本発明により得られた複合体をそのまま用いることができる。
【0046】
また、本発明により得られた複合体に新たに炭素を担持させてもよい。得られた複合体に対し、新たに炭素を担持させる場合、上記工程(III)を経た後に得られたスラリーをろ過して得たスラリー水に、炭素源として、適宜セルロースナノファイバー由来の炭素、及び水溶性炭素材料由来の炭素から選ばれる1種又は2種以上を添加することができる。次いで、これらを添加した後、噴霧乾燥に付し、炭化処理することにより、正極材料として用いるための複合体を得てもよい。
【0047】
本発明により得られた複合体を正極材料として用い、常法にしたがって、リチウムイオン二次電池を構築することができる。具体的には、例えば得られた複合体と、アセチレンブラックやケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデン、N-メチル-2-ピロリドン等とを混練して正極スラリーを調製した後、集電体に塗工し、次いでプレス成形して正極を作製する。
かかる正極を適用できるリチウムイオン二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータ、若しくは正極と負極と固体電解質を必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0048】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト、シリコン系(Si、SiOx)、チタン酸リチウム又は非晶質炭素等の炭素材料等を用いることができる。そしてリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。さらに、2種以上の上記の負極材料を併用してもよく、たとえばグラファイトとシリコン系の組み合わせを用いることができる。
【0049】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0050】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF3)2及びLiN(SO3CF3)2、LiN(SO2C2F5)2及びLiN(SO2CF3)(SO2C4F9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0051】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【0052】
固体電解質は、正極及び負極を電気的に絶縁し、高いリチウムイオン電導性を示すものである。たとえば、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.3N0.46、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3、Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4、30Li2S・26B2S3・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P2S5、50Li2S・50GeS2、Li7P3S11、Li3.25P0.95S4を用いればよい。
【0053】
上記の構成を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型,角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例0054】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
[製造例1:使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X1)の製造]
使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X1)につき、以下の方法により疑似的に作製した。
具体的には、まずLiOH・H2O 1272g、及び水4Lを混合してスラリーaを得た。次いで、得られたスラリーaを、25℃の温度に保持しながら3分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液1153gを35mL/分で滴下し、速度400rpmで12時間撹拌して、Li3PO4を含むスラリーbを得た。得られたスラリーbに窒素パージして、スラリーbの溶存酸素濃度を0.5mg/Lとした後、スラリーb全量に対し、MnSO4・5H2Oを1929g、FeSO4・7H2Oを556g添加してスラリーcを得た。添加したMnSO4・5H2OとFeSO4・7H2Oのモル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、80:20であった。
【0056】
次いで、得られたスラリーcをオートクレーブに投入し、170℃で1時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は0.8MPaであった。水熱反応後、生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を-50℃で12時間凍結乾燥して複合体dを得た。
【0057】
得られた複合体dを1500g分取し、セルロースナノファイバー(FD200L、ダイセル社製)120gと水2.2Lを添加して、スラリーeを得た。得られたスラリーeを超音波攪拌機(T25、IKA社製)で30分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(MDL-050M、藤崎電機株式会社製)を用いてスプレードライ(ノズルエアー流量50L/min、給気温度190℃)に付して造粒体S1を得た。
【0058】
得られた造粒体S1を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)にて750℃で1時間焼成して、式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子A1(LiMn0.8Fe0.2PO4、炭素量=1.2質量%)を得た。
水1Lに対し、得られたリチウム系ポリアニオン粒子A1を100g、Na2S2O8を30g加え、常温で24時間撹拌してリチウム系ポリアニオン粒子A1を疑似的に劣化させた。その後、これをろ過して乾燥した後、回収することにより、粉体(X1)を得た。
なお、ICP発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、PS3520UVDD2)を用い、得られた粉体(X1)のICP分析を行ったところ、粉体(X1)のP1モルあたりのLiモル量は、0.6であった。
【0059】
[製造例2:使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X2)の製造]
窒素パージして溶存酸素濃度を0.5mg/Lとした後のスラリーb全量に対し、FeSO4・7H2Oのみを2780gを添加した以外、製造例1と同様にして水熱反応を行った後、凍結乾燥、スプレードライ及び焼成を行って、リチウム系ポリアニオン粒子A2(LiFePO4、炭素量=1.2質量%)を得た。
次いで、得られたリチウム系ポリアニオン粒子A2を用い、製造例1と同様にして疑似的に劣化させた後、ろ過して乾燥した後に回収することにより、粉体(X2)を得た。
なお、ICP発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、PS3520UVDD2)を用い、得られた粉体(X2)のICP分析を行ったところ、粉体(X2)のP1モルあたりのLiモル量は、0.6であった。
【0060】
[実施例1]
水500gにLiOH・H2Oを7.6g添加して溶解させた水溶液f1に、リチウムイオン伝導体(C)としてLi3PO4を5.4g添加し、撹拌してスラリー水g1を得た。次いで、得られたスラリー水g1に粉体(X1)を80g添加して撹拌混合し、スラリー水I1を得た。
次に、NaOHを用い、得られたスラリー水I1のpHを12に調製した後、Na2SO3を加えてLiOH・H2Oのモル量とNa2SO3のモル量との比((Y):(Z))=1:0.6となるように調整し、混合してスラリーII1を得た。得られたスラリーII1をオートクレーブに投入し、160℃で1時間水熱反応を行った。なお、オートクレーブ内の圧力は0.6MPaであった。
水熱反応後、生成した結晶をろ過して洗浄し、次いで噴霧乾燥してリチウム系ポリアニオン粒子複合体Ae1を得た。
なお、リチウム系ポリアニオン粒子複合体Ae1の平均粒径をMT3300EXII(マイクロトラック・ベル社製)により測定したところ、14μmであった。
【0061】
[実施例2]
水500gに添加するLiOH・H2Oを4.4gとし、これを溶解させて水溶液f2を得た後、得られた水溶液f2に添加するLi3PO4を13.2gとした以外、実施例1と同様にしてスラリー水I2を得た。
次いで、得られたスラリー水I2を用い、実施例1で得られたスラリー水I1と同様の操作を行って、リチウム系ポリアニオン粒子複合体Ae2を得た。
【0062】
[実施例3]
水溶液f1に添加するリチウムイオン伝導体(C)としてLi1.5Al0.5Ti1.5(PO4)3を13.8g用いた以外、実施例1と同様にしてスラリー水I3を得た。
次いで、得られたスラリー水I3を用い、実施例1で得られたスラリー水I1と同様の操作を行って、リチウム系ポリアニオン粒子複合体Ae3を得た。
【0063】
[実施例4]
水溶液f1に添加するリチウムイオン伝導体(C)としてLiLaTiO3を13.8g用いた以外、実施例1と同様にしてスラリー水I4を得た。
次いで、得られたスラリー水I4を用い、実施例1で得られたスラリー水I1と同様の操作を行って、リチウム系ポリアニオン粒子複合体Ae4を得た。
【0064】
[実施例5]
スラリー水g1に対し、粉体(X1)の代わりに粉体(X2)を添加した以外、実施例1と同様の操作を行って、リチウム系ポリアニオン粒子複合体Ae5を得た。
【0065】
[比較例1]
水溶液f1に対し、リチウムイオン伝導体(C)として添加するLi3PO4を16.8gとした以外、実施例1と同様の操作を行って、リチウム系ポリアニオン粒子複合体Ac1を得た。
【0066】
[比較例2]
水500gに添加するLiOH・H2Oを8.7gとして溶解させた水溶液f3に、リチウムイオン伝導体(C)としてのLi3PO4を添加することなくスラリー水g3を得た後、粉体(X1)の代わりに粉体(X2)をスラリー水g3に添加した以外、実施例1と同様の操作を行って、リチウム系ポリアニオン粒子複合体Ac2を得た。
【0067】
上記実施例及び比較例において用いた各成分及びその量比について、表1に示す。
【0068】
【0069】
《XRDパターンの解析》
上記実施例1で得られたリチウム系ポリアニオン粒子複合体について、XRD(D8-ADVANCE A-25型、BrukerAXS社製)を用い、ターゲットCuKα、管電圧40 kV、管電流40 mA、走査範囲10~80°(2θ)、ステップ幅0.0234°及びスキャンスピード0.13°/stepで測定し、XRDパターンを得た。
製造例1で得られたリチウム系ポリアニオン粒子A1も含め、得られたXRDパターン図を
図1に示す。
【0070】
《電池特性の評価》
製造例1で得られたリチウム系ポリアニオン粒子A-1、及び上記実施例及び比較例で得られたリチウム系ポリアニオン粒子複合体を使用して、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。
具体的には、各粒子又は粒子複合体、ケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比75:20:5の配合割合で混合し、これにN-メチル-2-ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
【0071】
次いで、上記正極を用いてコイン型二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、高分子多孔フィルムを用いた。これらの電池部品を露点が-50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型二次電池(CR-2032)を得た。
上記得られたコイン型二次電池を用い、放電容量測定装置(HJ-1001SD8、北斗電工社製)にて30℃環境での0.2C、終止電圧4.5Vの定電流充電、放電条件を0.2C、終止電圧2Vの定電流放電とした場合の放電容量(mAh/g)を求めた。
また、充電条件を0.2C、終止電圧4.5Vの定電流充電、放電条件を5C、終止電圧2Vの定電流放電とした場合の放電容量(mAh/g)を求め、これらの放電容量を元に算出される値(%)(=(5Cでの放電容量/0.2Cでの放電容量)×100)をレート特性の評価の指標とした。
結果を表2に示す。
【0072】
【0073】
上記
図1に示すように、実施例1において得られた複合体Ae1は、一旦劣化した粉体(X)に含まれるリチウム系ポリアニオン粒子を、使用前のリチウムイオン二次電池を構成した当初リチウム系ポリアニオン粒子A1へと有効に再生し、かかるリチウム系ポリアニオン粒子とリチウムイオン伝導体(C)とにより形成された複合体であることがわかる。
また、実施例において得られたこれらの複合体は、比較例において得られた複合体に比して、優れた電池特性を発揮できることがわかる。