(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113764
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】高周波対応基板用フィルム及び高周波対応基板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20240816BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B32B15/08 J
H05K1/03 610J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018919
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】591145335
【氏名又は名称】パナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 健史
(72)【発明者】
【氏名】瀧 一晃
(72)【発明者】
【氏名】池田 剛
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB01C
4F100AB17C
4F100AB31C
4F100AH06B
4F100AK01A
4F100AK02A
4F100AK03B
4F100AK25B
4F100AK57A
4F100AL06B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100EH46
4F100EJ42
4F100EJ65B
4F100GB41
4F100GB43
4F100JG05
4F100JK06C
4F100JK15B
4F100JL11
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】金属層との間で良好な密着性を発揮し、27GHz以上の高周波においても低誘電特性を実現できる高周波対応基板用フィルムを提供する。
【解決手段】樹脂フィルムと、該樹脂フィルムの少なくとも一方の面にプライマー層を有する、27GHz以上の高周波通信に対応可能な高周波対応基板用フィルムであって、前記プライマー層が、(メタ)アクリル変性ポリオレフィンを含む高周波対応基板用フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムと、該樹脂フィルムの少なくとも一方の面にプライマー層を有する、27GHz以上の高周波通信に対応可能な高周波対応基板用フィルムであって、
前記プライマー層が、(メタ)アクリル変性ポリオレフィンを含む高周波対応基板用フィルム。
【請求項2】
前記プライマー層がシランカップリング剤を含む請求項1に記載の高周波対応基板用フィルム。
【請求項3】
前記プライマー層が、シランカップリング処理が施されたシランカップリング処理済みプライマー層である請求項1に記載の高周波対応基板用フィルム。
【請求項4】
前記プライマー層の厚みが、0.5~7μmである請求項1又は2に記載の高周波対応基板用フィルム。
【請求項5】
前記プライマー層表面の平均粗さRzが、0.7μm以下である請求項1又は2に記載の高周波対応基板用フィルム。
【請求項6】
前記樹脂フィルムが、シクロオレフィンポリマー又はポリフェニレンスルファイドである請求項1又は2に記載の高周波対応基板用フィルム。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の高周波対応基板用フィルムの前記プライマー層上に、金属層が形成されてなる高周波対応基板。
【請求項8】
前記金属層の金属が銅若しくは銅合金である請求項7に記載の高周波対応基板。
【請求項9】
前記金属層と前記高周波対応基板用フィルムの樹脂フィルムとの剥離強度が、5N/cm以上である請求項7に記載の高周波対応基板。
【請求項10】
前記金属層がパターニングされてなる請求項7に記載の高周波対応基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波対応基板用フィルム及び高周波対応基板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や情報機器端末等の通信用途で使用される信号の周波数は、現在6GHz以下(sub6帯)であるが、今後、27GHz以上の周波数が使用される。そこで、27GHz以上の高周波用途で使用される樹脂フィルムには、誘電率3.5以下、誘電正接0.004以下の低誘電特性が必要とされる。しかし、誘電率の低い材料(例えば、PFA、PTFE、COP等)は、従来から用いられているPET及びPIに比べると難接着性樹脂である。
【0003】
例えば、特許文献1では、めっき層とプライマーインク層の間のアンカー効果による密着強度を確保しつつ、プライマーインク層と非導電性基材との密着強度を確保できるめっき層を有する成形品の製造方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようにベースとなる樹脂層と金属の密着性を得るために、ベースとなる樹脂層の表面に凹凸を作り、表面積を大きくする方法が知られている。しかし6GHz以上の周波数帯においては表皮効果が大きくなるため、伝送損失も大きくなってしまう。
【0006】
すなわち、信号の高速化及び高周波数化に伴い、高周波数領域での低誘電特性が求められる中、当該低誘電特性を達成しながら、密着性をも良好に維持することは非常に困難であった。
【0007】
以上から、本発明は上記に鑑みてなされたものであり、金属層との間で良好な密着性を発揮し、27GHz以上の高周波においても低誘電特性を実現できる高周波対応基板用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、下記本発明により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は下記のとおりである。
【0009】
[1] 樹脂フィルムと、該樹脂フィルムの少なくとも一方の面にプライマー層を有する、27GHz以上の高周波通信に対応可能な高周波対応基板用フィルムであって、
前記プライマー層が、(メタ)アクリル変性ポリオレフィンを含む高周波対応基板用フィルム。
[2] 前記プライマー層がシランカップリング剤を含む[1]に記載の高周波対応基板用フィルム。
[3] 前記プライマー層が、シランカップリング処理が施されたシランカップリング処理済みプライマー層である[1]又は[2]に記載の高周波対応基板用フィルム。
[4] 前記プライマー層の厚みが、0.5~7μmである[1]~[3]のいずれか1つに記載の高周波対応基板用フィルム。
[5] 前記プライマー層表面の平均粗さRzが、0.7μm以下である[1]~[4]のいずれか1つに記載の高周波対応基板用フィルム。
[6] 前記樹脂フィルムが、シクロオレフィンポリマー又はポリフェニレンスルファイドである[1]~[5]のいずれか1つに記載の高周波対応基板用フィルム。
[7] [1]~[6]のいずれか1つに記載の高周波対応基板用フィルムの前記プライマー層上に、金属層が形成されてなる高周波対応基板。
[8] 前記金属層の金属が銅若しくは銅合金である[7]に記載の高周波対応基板。
[9] 前記金属層と前記高周波対応基板用フィルムの樹脂フィルムとの剥離強度が、5N/cm以上である[7]又は[8]に記載の高周波対応基板。
[10] 前記金属層がパターニングされてなる[7]~[9]のいずれか1つに記載の高周波対応基板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属層との間で良好な密着性を発揮し、27GHz以上の高周波においても低誘電特性を実現できる高周波対応基板用フィルムを提供することができる。
なお、本明細書において、「低誘電特性」とは、27GHzでの誘電率が3.5以下であり、誘電正接が0.004以下であることをいう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)に係る高周波対応基板用フィルム及び高周波対応基板について説明する。
【0012】
[高周波対応基板用フィルム]
本実施形態に係る高周波対応基板用フィルムは、樹脂フィルムと、該樹脂フィルムの少なくとも一方の面にプライマー層を有する、27GHz以上の高周波通信に対応可能な高周波対応基板用フィルムであって、そのプライマー層が(メタ)アクリル変性ポリオレフィンを含む。
【0013】
ポリオレフィンが(メタ)アクリル変性されていることで親水性が増し、またポリマーが非晶化することによって界面活性剤やパラジウム触媒が吸着しやすくなると考えられる。これらの効果によってめっきが可能になると推測される。また(メタ)アクリルとめっきされた金属層との間には良好な密着性が発揮されると考えられ、その結果、27GHz以上の高周波においても低誘電特性を示す高周波対応基板用フィルムを実現することができる。なおポリオレフィンが(メタ)アクリル変性を含まずカルボン酸のみで変性されている場合、めっきが可能になるためにはカルボン酸の含有率を非常に高くする必要があると考えられるが、その場合は吸水が問題となって(メタ)アクリル変性の場合よりも密着性が劣ると考えられる。
【0014】
本実施形態に係る(メタ)アクリル変性ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィンに(メタ)アクリル酸系モノマーがグラフト重合された樹脂である。
【0015】
(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
(メタ)アクリル酸としてはアクリル酸およびメタクリル酸の少なくとも一種が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル等のメタクリル酸エステル類;が挙げられる。
【0016】
(メタ)アクリル変性ポリオレフィンに使用されるポリオレフィンは、特に制限はなく、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン系不飽和炭化水素の共重合体又は単独重合体からなる樹脂、ゴム状物等が挙げられる。
具体的には、プロピレン-α-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリ-4-メチル-1ペンテン等が挙げられる。さらには、上記のα-オレフィンの2種以上と共役又は非共役ジエンとの共重合体、例えば、エチレン-プロピレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン-プロピレン-1,5-ヘキサジエン共重合体等;α-オレフィンと共役又は非共役ジエンとの共重合体、例えば、プロピレン-ブタジエン共重合体、プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体類等;ビルモノマー等のモノマーとα-オレフィンの共重合体及びその部分ケン化物;も一例として挙げられる。
【0017】
ポリオレフィンの(メタ)アクリル酸系モノマーによる酸変性は、溶液法や溶融法等の公知の方法で行うことができる。
【0018】
例えば、溶液法としては、まず、プロピレン-1-ブテン共重合体等のポリオレフィンをトルエンに溶解せしめた後、(メタ)アクリル酸系モノマーを添加し、さらにラジカル反応開始剤を一括又は分割で添加して反応させる。この反応液をアセトン等のケトン系有機溶剤に投入して樹脂を取りだし、乾燥することにより(メタ)アクリル変性ポリオレフィンを得る。
【0019】
また、例えば、溶融法としては、まず、プロピレン-1-ブテン共重合体等のポリオレフィンを、融点以上に加温溶融した後、(メタ)アクリル酸系モノマーと、ラジカル反応開始剤を添加して反応させる。反応後、溶融状態で減圧して未反応のα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体を除去し、(メタ)アクリル変性ポリオレフィンを得る。
【0020】
溶融法及び溶液法の際用いるラジカル反応開始剤としては、公知の有機過酸化物系化合物又はアゾニトリル類等を使用することができる。
有機過酸化物系化合物としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、クメンハイドロパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート等が挙げられる。
【0021】
アゾニトリル類としては、例えば、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0022】
本実施形態に係る(メタ)アクリル変性ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、プライマー層として塗布する際の粘度を調整する観点から、10,000~60,000であることが好ましく、20,000~50,000であることがより好ましい。
【0023】
なお、(メタ)アクリル変性ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法(溶離液:o-ジクロロベンゼン、測定温度:140℃)により測定することができる。
【0024】
本実施形態に係る高周波対応基板用フィルムにおいては、プライマー層がシランカップリング剤を含むシランカップリング剤含有プライマー層であるか、又は、プライマー層がシランカップリング剤によりシランカップリング処理の施されたシランカップリング処理済みプライマー層であることが好ましい。
【0025】
シランカップリング剤含有プライマー層である場合、シランカップリング剤の橋渡し効果により更にめっきとの密着性を向上させることができる。
【0026】
シランカップリング剤含有プライマー層に含有されるシランカップリング剤としては、末端に、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、カルボキシル基、及びヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基と、少なくとも1つのアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤が挙げられ、なかでも、金属イオンとの配位しやすさ等の観点から、エポキシ基を有するエポキシ系シランカップリング剤、末端にアミノ基を有し、かつアルコキシシリル基を有するアミノシランカップリング剤が好ましく、アミノシランカップリング剤としては、末端にアミノ基を有し、かつアルコキシシリル基を有し、さらにトリアジン骨格を有するトリアジン系シランカップリング剤がより好ましい。
【0027】
なお、エポキシ系シランカップリング剤を用いると、樹脂フィルムとの密着性を向上させることができるため、エポキシ系シランカップリング剤単独、又はトリアジン系シランカップリング剤とともにエポキシ系シランカップリング剤を併用することが好ましい。
【0028】
エポキシ系シランカップリング剤としては、主鎖にエチレンオキサイド骨格を有するものが好ましく、さらに、アルコキシ基がエトキシ基であるものが好ましい。また、Si1つに対するエポキシ基の数は、2~4であることが好ましく、3であることがより好ましい。上記のような構造を有することで、樹脂フィルムとの良好な密着性が示され、トリアジン系シランカップリング剤と併用する際には、それぞれの特性を良好に発揮させることができる。
【0029】
トリアジン系シランカップリング剤としては、金属層との接着性をより向上させる観点から、下記式(1)で表されるものが好ましい。
【0030】
【0031】
上記式(1)中、Rxは2価の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基(好ましくは、炭素数1~20の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基)であり、Ryはメチル基、エチル基、プロピル基のいずれかである。
【0032】
プライマー層がシランカップリング剤を含む場合、当該シランカップリング剤(複数種含む場合はそれらの合計)は、プライマー層中に0.1~10質量%含むことが好ましく、0.3~7.5質量%含むことがより好ましい。0.1~10質量%含むことで、無電解めっきの前処理工程Pd錯体との密着力が向上する。
【0033】
また、トリアジン系シランカップリング剤とエポキシ系シランカップリング剤とを併用する場合は、それぞれの特性を良好に発揮させる観点から、プライマー層中に、トリアジン系シランカップリング剤を0.1~3質量%含むことが好ましく、0.3~2.7質量%含むことがより好ましく、また、エポキシ系シランカップリング剤は、0.5~8質量%含むことが好ましく、3~7質量%含むことがより好ましい。
【0034】
また、シランカップリング処理済みプライマー層である場合、シランカップリング処理の方法としては、シランカップリング剤を溶解した溶液にプライマー層を浸漬する方法等が挙げられ、なかでも、無電解めっきの前処理キャタリスト工程(Pd錯体付与)の前処理としてシランカップリング剤を溶解した液にプライマー層を浸漬することが好ましい。シランカップリング処理済みプライマー層であることで、Pd錯体との密着力を向上させることができる。
なお、シランカップリング剤としては、シランカップリング剤含有プライマー層で挙げられたものを使用することができる。
【0035】
本実施形態に係るプライマー層(シランカップリング剤含有プライマー層及びシランカップリング処理済みプライマー層)の厚みは、0.5~7μmであることが好ましく、0.5~5μmであることがより好ましく、0.6~4μmであることがさらに好ましい。厚みが0.5~7μmであることで、樹脂フィルム本来の外観を損なわずにめっきと良好に密着することができる。
【0036】
上記プライマー層の表面の平均粗さRzは、0.7μm以下であることが好ましく、0.015~0.5μmであることがより好ましく、0.01~0.45μmであることがさらに好ましい。表面の平均粗さが0.7μm以下であることで、表皮効果に起因する伝送損失をより少なくすることができる。
【0037】
プライマー層の表面の平均粗さRzを上記範囲とするには、固形分濃度を5~30%に調整した液をウェットコートが可能な装置を用いてコートすることが望ましい。コートにはグラビア技術を用いたコートやダイ技術を用いたコートが望ましい。なお、平均粗さRzは、後述の実施例に記載の方法により測定して求めることができる。
【0038】
既述の樹脂フィルムとしては、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、液晶ポリマー樹脂(LCP)、シンジオタクチックポリスチレン樹脂(SPS)等が挙げられ、なかでも、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が好ましい。シクロオレフィンポリマー、ポリフェニレンスルフィド(PPS)であることで、より低誘電性とすることができる。
【0039】
樹脂フィルムの厚みは、実用的な観点から、9~300μm程度であることが好ましい。
【0040】
本実施形態に係る高周波対応基板用フィルムは、まず、本実施形態に係る(メタ)アクリル変性ポリオレフィンを含む塗料に、溶媒を加え、固形分濃度を10~30質量%に調整してプライマー層形成用組成物を調製する。
シランカップリング剤含有プライマー層とする場合は、シランカップリング剤を所望の濃度となるように溶媒に溶解したシランカップリング剤溶液を、上記プライマー層形成用組成物に混合し、樹脂フィルム上に塗布、乾燥し硬化することで、高周波対応基板用フィルムを作製する。乾燥後、紫外線照射装置を用いて紫外線を照射してプライマー層を硬化させると、より望ましい。
なお、プライマー層は、樹脂フィルムの片面だけに形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。
【0041】
また、シランカップリング処理済みプライマー層とする場合は、上記プライマー層形成用組成物を、樹脂フィルム上に塗布、乾燥し硬化することで、高周波対応基板用フィルムをして作製する。乾燥後、紫外線照射装置を用いて紫外線を照射してプライマー層を硬化させるとより望ましい。
【0042】
その後、高周波対応基板とするための無電解めっきをする際に、シランカップリング剤を所望の濃度となるように溶解しためっき前処理液を用いる。このとき、シランカップリング剤としては、密着性と良好な外観を得る観点から、既述のトリアジン系シランカップリング剤を用いることが好ましい。
この前処理液を用いて無電解めっきの工程を行うことで、シランカップリング処理済みプライマー層が形成された高周波対応基板用フィルムを作製することができる。
【0043】
[高周波対応基板]
本実施形態に係る高周波対応基板は、既述の高周波対応基板用フィルムのプライマー層上に、金属層が形成されてなる。
【0044】
金属層としては、ニッケル、クロム、銅、及びこれらのいずれか1種以上を主成分とする合金等が挙げられ、金属層の金属は、銅若しくは銅合金であることが好ましい。金属層は、単層でも複数の層で構成されていてもよく、単層の場合は、銅もしくは銅を主成分(例えば、Cu:50質量%以上)とする銅合金で構成されていることが好ましい。
複数の層で構成されている場合は、ニッケル、クロム、及び、これらのいずれか1種以上を主成分(例えば、50質量%以上)とする合金で構成された第1の金属層と、第1の金属層上に形成された銅もしくは銅を主成分(例えば、Cu:50質量%以上)とする銅合金で構成された第2の金属層を含むことが好ましい。
【0045】
金属層が単層の場合、当該金属層はプライマー層にスパッタリング処理を行って形成することができる。この場合の金属層の厚みは、生産性や導電性の確保の観点から、0.01~4.0μmであることが好ましく、0.05~1.0μmであることがより好ましい。
【0046】
金属層が複数の層で構成されている場合、既述の第1の金属層は、プライマー層に無電解めっき等を行って形成されることが好ましい。この場合の第1の金属層の厚みは、生産性の観点から、0.01~1.0μmであることが好ましく、0.05~0.7μmであることがより好ましい。
【0047】
第1の金属層上に形成される第2の金属層は、第1の金属層に電解めっき等を行って形成されることが好ましい。この場合の第2の金属層の厚みは、生産性及び導電性の観点から、0.5~50μmであることが好ましく、1.0~38μmであることがより好ましい。
【0048】
金属層と高周波対応基板用フィルムの樹脂フィルムとの剥離強度は、5N/cm以上であることが好ましく、5.5~12N/cmであることがより好ましい。剥離強度が5N/cm以上であることで、5~10μm幅のパターニングも可能にすることができる。
剥離強度は後述の実施例の「めっき密着力の測定」に記載の方法で求めることができる。
【0049】
本実施形態に係る高周波対応基板は、金属層がパターニングされていることが好ましい。例えば、回路パターンがパターニングされていることで、プリント配線板として供することができる。
【0050】
本実施形態に係る高周波対応基板は、上記のようなプリント配線板とするための積層板に適用することが好ましい。
【実施例0051】
以下、本発明を下記の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
(1)プライマー層形成用組成物の調製
(メタ)アクリル変性ポリオレフィンを含む塗料(アローベースSD-1205J2、ユニチカ(株)製)にイソプロパノールを加え、固形分濃度12質量%に調整してプライマー層形成用組成物を調製した。
【0053】
(2)プライマー層の形成
プライマー層形成用組成物をPPSからなる樹脂フィルム(東レ社製トレリナ 厚み50μm)上にワイヤーバーで塗布し、120℃で1分間乾燥したものをプライマー付きフィルム(高周波対応基板用フィルム)とした。
【0054】
(実施例2~12)
(1)プライマー層形成用組成物の調製
実施例1のプライマー層形成用組成物に、表3、表4に示すシランカップリング剤をイソプロパノールに5質量%で溶解したシランカップリング溶液を表3、表4の配合の濃度となるように混合してプライマー層形成用組成物を調製した。なおVD-5のみ、1-メトキシ-2-プロパノールに2.5質量%で溶解した溶液を表3、表4の配合の濃度となるように混合してプライマー層形成用組成物を調製した。
なお、各表の配合の単位は質量%である。
【0055】
(2)プライマー層の形成
実施例1と同様にして、上記プライマー層形成用組成物を用いて、プライマー付きフィルム(高周波対応基板用フィルム)とした。
【0056】
(比較例1~3)
実施例1の(メタ)アクリル変性ポリオレフィンの代わりに、エラスレン454A(塩素化ポリエチレン、昭和電工(株)製)を用いた。エラスレン454Aを固形分濃度10質量%でトルエンに溶解し、プライマー層形成用組成物とした。X12-984Sを加える場合、X12―984Sをイソプロパノールに5質量%で溶解したシランカップリング溶液を表5の配合の濃度となるように加え、さらに塗料の固形分濃度が10質量%となるようトルエンで調整した。VD-5を加える場合、VD-5を1-メトキシ-2-プロパノールに2.5質量%で溶解したシランカップリング溶液を表5の配合の濃度となるように加え、さらに塗料の固形分濃度が10質量%となるようトルエンで調整した。
【0057】
(比較例4~6)
実施例1の(メタ)アクリル変性ポリオレフィンの代わりに、エラスレン402NA-X5(塩素化ポリエチレン、昭和電工(株)製)を用いた。エラスレン402NA-X5を固形分濃度5質量%でトルエンに溶解し、プライマー層形成用組成物とした。X12-984Sを加える場合、X12―984Sをイソプロパノールに5質量%で溶解したシランカップリング溶液を表5、表6の配合の濃度となるように加え、さらに塗料の固形分濃度が5質量%となるようトルエンで調整した。VD-5を加える場合、VD-5を1-メトキシ-2-プロパノールに2.5質量%で溶解したシランカップリング溶液を表5、表6の配合の濃度となるように加え、さらに塗料の固形分濃度が5質量%となるようトルエンで調整した。
【0058】
(比較例7~12)
実施例1の(メタ)アクリル変性ポリオレフィンの代わりに、表6に示す変性ポリオレフィンを用いた。各々の変性ポリオレフィンの塗料にトルエンを加えて希釈した後、固形分濃度7.5%でトルエンに溶解したコロネートHLを表6の配合の濃度になるように加え、プライマー層形成用組成物とした。X12-984Sを加える場合、X12―984Sをイソプロパノールに5質量%で溶解したシランカップリング溶液を表6の配合の濃度となるように加えた。VD-5を加える場合、VD-5を1-メトキシ-2-プロパノールに2.5質量%で溶解したシランカップリング溶液を表6の配合の濃度となるように加えた。
【0059】
(2)プライマー層の形成
実施例1と同様にして、プライマー付きフィルムとした。なお塗布時の乾燥温度と乾燥時間については表5および表6に示した条件にて行なった。
【0060】
以下に、本例で用いた材料の詳細を示す。
(1)ポリオレフィン
・アローベースSD-1205J2(アクリル変性ポリオレフィン塗料 水性分散体、ユニチカ(株)製、融点100℃)
・エラスレン454A(塩素化ポリエチレン、昭和電工(株)製)
・エラスレン402NA-X5(塩素化ポリエチレン、昭和電工(株)製)
・ユニストールP801(水酸基変性ポリオレフィン塗料、三井化学(株)製)
・ユニストールP901(水酸基変性ポリオレフィン塗料、三井化学(株)製)
【0061】
(2)シランカップリング剤
・X12-984S(エポキシ系シランカップリング剤、信越化学工業(株)製、主鎖にエチレンオキサイド骨格を有し、アルコキシ基がエトキシ基であり、1つのSiに対するエポキシ基の数が3)
・X12-984S以外のエポキシ系シランカップリング剤(KBM-403、信越化学工業(株)製、主鎖にエチレンオキサイド骨格を有し、アルコキシ基がメトキシ基であり、1つのSiに対するエポキシ基の数が1)
・VD-5(トリアジン系シランカップリング剤、四国化成工業(株)製、式(1)に示されるトリアジン系シランカップリング剤でRxは炭素数1~15の脂肪族鎖であり、Ryはエチル基である。)
・コロネートHL:トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(日本ポリウレタン工業(株)製)
【0062】
各例で作製したプライマー付きフィルムについて、無電解銅めっき及び電解銅めっきを行って、基板(実施例の場合は、高周波対応基板)を作製し、各種測定を行った。
【0063】
(3)無電解銅めっき
プライマー付きフィルムをアルカリ洗浄し、カチオン界面活性剤による処理(カチオン界面活性剤付与)及びアニオン界面活性剤による処理(アニオン界面活性剤付与)を行った。その後、パラジウム錯体による処理(パラジウム錯体付与)及びパラジウム触媒活性化の処理を行い、無電解銅めっきの処理を行った。各処理は、表1の通り各工程の処理液にプライマー付きフィルムを浸漬して行い、無電解銅めっきフィルムを作製した。無電解銅めっき層の表面抵抗率は0.3Ω/□であった。また、無電解銅めっき層の厚みは、0.05μmであった。
なお、無電解銅めっき後のめっき外観について、目視により観察を行った。結果を下記の各表に示す。
【0064】
【0065】
(4)電解銅めっき
無電解銅めっきフィルムのめっき被膜を電極として、電解銅めっきを行ない、高周波対応基板用フィルムとした。銅めっき厚みは20μmとした。
なお、電解銅めっき液の配合は表2の通りとした。奥野製薬工業(株)のトップルチナSFの各種を光沢材として加えている。
【0066】
【0067】
(5)めっき密着力の測定
上記高周波対応基板用フィルムをめっき密着力測定用フィルムとした。銅めっき層に5mm幅の切り込みを入れ、銅めっき側を剥離角度90度、剥離速度50mm/分で剥がしめっき密着力(金属層との密着性)を測定した。
規格はIPC-TM-650 2.4.9に準じ、ORIENTEC RTC-1250Aを用いて測定した。結果を下記の各表に示す。
【0068】
(6)プライマーの外観
プライマー層形成用組成物をワイヤーバーで塗布し、加熱乾燥したプライマー付きフィルム(高周波対応基板用フィルム)を目視観察し外観を評価した。結果を下記の各表に示す。
【0069】
(7)表面粗さ(Rz)の測定
高周波対応基板を40%塩化鉄溶液に浸漬し、めっき層を溶解して高周波対応基板用フィルムとした。露出したプライマー層の表面粗さを白色干渉計ZYGO New View7300(ZYGO Corporation製)にて測定した。結果を下記の各表に示す。
【0070】
(8)樹脂フィルムの誘電特性
樹脂フィルムの周波数28GHzにおける誘電率および誘電正接を、ベクトルネットワークアナライザ(品番N5247A、キーサイト・テクノロジー社製)とスプリットシリンダ共振器(品番CR728、EMラボ社製)を用いて測定した。なお誘電率が3.5以下で、かつ、誘電正接が0.004以下の場合を合格とした。PPSからなる樹脂フィルムの誘電特性は、誘電率3.435、誘電正接0.0032であり合格であった。COPからなる樹脂フィルムの誘電特性は、誘電率2.3526、誘電正接0.00037であり合格であった。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
(実施例13)
(1)プライマー層形成用組成物の調製及びプライマー層の形成
実施例1と同様にして、プライマー層形成用組成物を調製し、このプライマー層形成用組成物をPPSからなる樹脂フィルム(東レ社製トレリナ 厚み50μm)上にワイヤーバーで塗布し、120℃で1分間乾燥したものをプライマー付きフィルム(高周波対応基板用フィルム)とした。
【0076】
(2)シランカップリング剤処理液の調製
VD-5(四国化成工業社製)を、1-メトキシ-2-プロパノールと水を1:1の体積比率で混ぜた溶媒に1質量%の濃度で溶解したものをシランカップリング剤処理液とした。
【0077】
(3)無電解銅めっき
プライマー付きフィルムをアルカリ洗浄し、カチオン界面活性剤による処理(カチオン界面活性剤付与)及びアニオン界面活性剤による処理(アニオン界面活性剤付与)を行なった。さらにシランカップリング剤処理液に25℃で2分浸漬した後、パラジウム錯体による処理(パラジウム錯体付与)及びパラジウム触媒活性化の処理を行い、無電解銅めっきの処理を行った。シランカップリング剤処理以外の工程については表1と同様に処理液にプライマー付きフィルムを浸漬して行い、無電解銅めっきフィルムを作製した。無電解銅めっき層の表面抵抗率は0.3Ω/□であった。また、無電解銅めっき層の厚みは、0.05μmであった。
これにより、無電解銅めっきが施され、シランカップリング処理が施されたシランカップリング処理済みプライマー層とした。
【0078】
その後、実施例1と同様にして、電解銅めっきを行って、基板(高周波対応基板)を作製し、各種測定を行った。結果を表7に示す。
【0079】
(実施例14)
(1)プライマー層形成用組成物の調製及びプライマー層の形成
実施例2と同様にしてプライマー層形成用組成物を調製し、このプライマー層形成用組成物をPPSからなる樹脂フィルム(東レ社製トレリナ 厚み50μm)上にワイヤーバーで塗布し、120℃で1分間乾燥したものをプライマー付きフィルム(高周波対応基板用フィルム)とした。
【0080】
実施例13と同様のシランカップリング剤処理液を用い、実施例13と同様にして、無電解めっき、及び電解銅めっきを行って、基板(高周波対応基板)を作製し、各種測定を行った。結果を表7に示す。
【0081】
【0082】
(実施例15)
実施例2において、樹脂フィルムをPPSからCOP(日本ゼオン(株)製、商品名ゼオノア 厚み100μm)に変更した以外は同様にして、プライマー付きフィルム(高周波対応基板用フィルム)とした。実施例1と同様の評価を行ったところ、プライマー層の表面粗さは0.10μmであり、プライマーの外観、無電解めっきの外観はいずれも問題なかった。誘電特性も合格であった。めっき密着力は、6.5N/cmで良好であった。