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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113770
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】船舶診断システム
(51)【国際特許分類】
   B63B 79/30 20200101AFI20240816BHJP
【FI】
B63B79/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018940
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏
(57)【要約】
【課題】船内システムの診断のための労力および時間の削減に有利な船舶診断システムを提供する。
【解決手段】船舶診断システム100は、船舶5の船内システムと、サーバ2とを含む。船内システムは、船舶に艤装される複数の艤装機器と、船舶内に備えられ、艤装機器が接続される船内ネットワークと、を含む。艤装機器は、船内ネットワークを介して他の艤装機器と通信可能な通信機1を含む。サーバは、船舶外に備えられ、通信機と通信可能である。通信機は、複数の艤装機器の情報を収集するシステムスキャンと、システムスキャンによって収集した情報であるスキャン結果をサーバに送信するスキャン結果送信とを実行する。サーバは、通信機から受信したスキャン結果を評価して評価結果を生成し、その評価結果を通信機に送信する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に艤装される複数の艤装機器と、前記船舶内に備えられ、前記艤装機器が接続される船内ネットワークと、を含み、前記複数の艤装機器が前記船内ネットワークを介して他の艤装機器と通信可能な通信機を含む、船内システムと、
前記船舶外に備えられ、前記通信機と通信可能なサーバと、を含み、
前記通信機は、前記複数の艤装機器の情報を収集するシステムスキャンと、前記システムスキャンによって収集した情報であるスキャン結果を前記サーバに送信するスキャン結果送信とを実行し、
前記サーバは、前記通信機から受信したスキャン結果を評価して評価結果を生成し、その評価結果を前記通信機に送信する、船舶診断システム。
【請求項2】
前記通信機は、前記船内システムの起動時に前記システムスキャンを実行する、請求項1に記載の船舶診断システム。
【請求項3】
前記通信機は、前記船内ネットワークに新たな艤装機器が接続されたときに前記システムスキャンを実行する請求項1に記載の船舶診断システム。
【請求項4】
前記通信機は、前記スキャン結果を記憶するスキャン結果メモリを含み、前記システムスキャンによって新たに収集された情報である新たなスキャン結果と前記スキャン結果メモリに記憶されている従前のスキャン結果とが不一致であるときに、前記スキャン結果送信を実行する、請求項1に記載の船舶診断システム。
【請求項5】
前記通信機は、前記サーバから受信した評価結果を記憶する評価結果メモリを含み、
前記評価結果メモリに評価結果が記憶されていないときは、前記システムスキャンによって新たに収集された情報と前記スキャン結果メモリに記憶されている従前の情報とが一致するかどうかにかかわらず、前記スキャン結果送信を実行する、請求項4に記載の船舶診断システム。
【請求項6】
前記サーバは、前記複数の艤装機器の互換性を判定し、その判定結果を含む評価結果を生成して前記通信機に送信する、請求項1に記載の船舶診断システム。
【請求項7】
前記通信機が前記サーバに送信する前記スキャン結果は、各艤装機器のハードウェア情報およびソフトウェア情報を含む、請求項6に記載の船舶診断システム。
【請求項8】
前記艤装機器は、前記通信機によって受信された前記評価結果を表示する表示ユニットを含む、請求項1に記載の船舶診断システム。
【請求項9】
前記評価結果は、前記船内システムが適切に構築されているかどうかを表す合格/不合格の判定結果を含み、前記判定結果が不合格である場合には、不合格の事由または当該事由を解消するための対処法の情報を含む、請求項1に記載の船舶診断システム。
【請求項10】
前記艤装機器は、前記船舶の船体に推進力を与える推進機を含み、
前記通信機は、前記船内システムの稼働中に、前記推進機の運転状態を表す運転情報を前記サーバに送信する、請求項1に記載の船舶診断システム。
【請求項11】
前記推進機が船外機である、請求項10に記載の船舶診断システム。
【請求項12】
前記通信機は、前記スキャン結果送信において、前記サーバに送信すべきデータ項目の総数を表す総数データを前記サーバに通知し、かつ通し番号を付したデータ項目を前記サーバに送信し、
前記サーバは、前記総数データおよび前記通し番号に基づいて、全データが受信されたかどうかを判断する、請求項1に記載の船舶診断システム。
【請求項13】
複数の前記通信機が前記船内ネットワークに接続されると、予め定められた規則に従い、ただ一つの前記通信機の前記システムスキャンおよび前記スキャン結果送信の機能が有効となり、他の前記通信機の前記システムスキャンおよび前記スキャン結果送信の機能が無効になるように、前記通信機が構成されている、請求項1に記載の船舶診断システム。
【請求項14】
前記複数の艤装機器は、前記船内システムの起動時および前記船内システムの起動後に前記船内ネットワークにエラーの有無を表すエラーコードを送出し、
前記通信機は、前記船内システムの起動時にエラーの存在を表すエラーコードが前記船内ネットワークに現れたとき、および前記船内システムの起動後に前記エラーコードが変化したときに限り、前記エラーコードを前記サーバに送信する、請求項1に記載の船舶診断システム。
【請求項15】
船体と、
請求項1~14のいずれか一項に記載の船舶診断システムにおいて用いられる前記船内システムとを含む、船舶。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載の船舶診断システムにおいて用いられる前記通信機。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか一項に記載の船舶診断システムにおいて用いられる前記サーバ。
【請求項18】
船舶に艤装される複数の艤装機器と、
前記船舶内に備えられ、前記艤装機器が接続される船内ネットワークと、
前記船内ネットワークを介して前記複数の艤装機器と通信可能な通信機と、
前記通信機と通信可能なサーバと、を含み、
前記通信機は、前記複数の艤装機器の情報を収集して前記サーバに送信し、
前記サーバは、前記通信機から受信した情報を評価して評価結果を生成し、その評価結果を前記通信機に送信する、船舶診断システム。
【請求項19】
前記複数の艤装機器は、前記船内ネットワークを介して前記複数の艤装機器の情報を収集するシステムスキャンを実行するスキャンユニットを含み、
前記通信機は、前記スキャンユニットと、前記スキャンユニットによって収集された情報であるスキャン結果を前記サーバに送信し、前記評価結果を前記サーバから受信する通信ユニットとを含む、請求項18に記載の船舶診断システム。
【請求項20】
船舶に搭載され、サーバと通信する通信機であって、
前記船舶内に備えられる船内ネットワークに接続される通信インタフェースと、
前記サーバとの通信のための無線通信器と、
処理装置とを含み、
前記処理装置は、
前記船舶に艤装され前記船内ネットワークに接続される機器の情報を、前記通信インタフェースを介して収集するスキャンユニットと、
前記スキャンユニットによって収集された情報であるスキャン結果を前記無線通信器によって前記サーバに送信するスキャン結果送信ユニットと、
前記サーバから、前記送信した情報に対する評価結果を前記無線通信器によって受信する評価結果受信ユニットと、の機能を実行するようにプログラムされている、通信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶診断システムに関する。また、この発明は、船舶診断システムに用いる通信ユニットおよびサーバに関する。さらに、この発明は、船舶診断システムにおいて用いられる船内システムを有する船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、船舶に備えられる船内LAN(ローカルエリアネットワーク)に接続可能な診断装置を開示している。船内LANには、船外機ECU(電子制御ユニット)、入力機器、制御機器、表示機器および出力機器が接続されている。診断装置は、LANケーブルを介して船内LANに接続することができ、船内LANに接続された機器(艤装機器)と通信して、それらの機器から情報を取得できる。一方、診断装置は、インターネット等のWAN(ワイドエリアネットワーク)を介してサーバと通信することができる。サーバは、機器診断用の情報を提供する。
【0003】
診断装置は、ボートビルダまたはディーラによって保有されており、ボートビルダまたはディーラのサービスパーソンが典型的な使用者、すなわち診断作業者である。診断作業者は、必要時に、診断装置を船内LANに接続する。診断装置は、船内LANに接続された全ての機器の情報を収集し、その収集された情報に基づいて、サーバから診断に必要な情報を取得する。具体的には、診断装置は、艤装されている機器の正常動作を保証するための動作条件をサーバから取得する。診断装置は、取得した動作条件に基づいて各機器が正常動作するかどうかを判別し、その判別結果を表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-179829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のような診断装置を用いることによって、診断作業者は、船舶に艤装された機器のハードウェアおよびソフトウェアの互換性要件の充足/不充足を容易に知ることができる。それによって、診断作業者は、顧客の求める機能を実現する船内システムを構築できているかどうかを判断できる。
【0006】
このような診断は、典型的には、船舶内に新たな船内システムを構築した後、その船舶を顧客に引き渡す前に実行される。また、既存の船内システムに新たな機器を導入した後にも同様の診断を行うことで、当該機器導入後の船内システムが適切に機能することを確認できる。むろん、不適切な事項が発見されれば、その対処を行ったうえで再度の診断を行い、その後に、顧客への船舶の引渡が行われる。
【0007】
特許文献1に記載されている診断装置は、ボートビルダまたはディーラによって保有されるサービス専用ツールである。したがって、診断のためには、船内LANに診断装置を接続し、診断作業者がその診断装置を操作する作業が発生する。しかし、多くの場合、艤装される機器の組合せは適切に選択され、船内システムは適切に構築されるので、診断装置を用いる診断作業は、適切な船内システムが構築されたことを確認するだけであり、対処が必要となる場面は多くない。よって、この診断作業をさらに簡素化できれば、労力および時間を削減できるので好ましい。
【0008】
そこで、この発明の一実施形態は、船内システムの診断のための労力および時間の削減に有利な船舶診断システム、ならびにそのための通信機およびサーバを提供する。
【0009】
また、この発明の一実施形態は、船舶診断システムにおいて用いられる船内システムを備えた船舶を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の一実施形態は、船舶に艤装される複数の艤装機器と、前記船舶内に備えられ、前記艤装機器が接続される船内ネットワークと、を含み、前記複数の艤装機器が前記船内ネットワークを介して他の艤装機器と通信可能な通信機を含む、船内システムと、前記船舶外に備えられ、前記通信機と通信可能なサーバと、を含む、船舶診断システムを提供する。前記通信機は、前記複数の艤装機器の情報を収集するシステムスキャンと、前記システムスキャンによって収集した情報であるスキャン結果を前記サーバに送信するスキャン結果送信とを実行する。前記サーバは、前記通信機から受信したスキャン結果を評価して評価結果を生成し、その評価結果を前記通信機に送信する。
【0011】
この構成では、船内システムは、船内ネットワークに複数の艤装機器を接続して構成されており、その複数の艤装機器には、通信機が含まれている。通信機は、船内ネットワークを介して他の艤装機器と通信可能であり、かつ船舶外に備えられるサーバと通信可能である。この実施形態では、通信機は、複数の艤装機器の情報を収集するシステムスキャンを実行し、スキャン結果をサーバに送信する。サーバにおいては、スキャン結果の評価が行われ、その評価結果が通信機に送られる。
【0012】
したがって、船内システムに含まれていないサービス専用ツールを船内ネットワークに接続しなくても、システムスキャンを行うことができ、そのシステムスキャンの評価結果を取得することができる。そのため、船内システムが適切に構築されており、それに応じて、スキャン結果の評価が良好であれば、サービス専用ツールを接続して行う診断作業を省略することができる。こうして、船内システムの診断のための労力および時間を削減することができる。
【0013】
この発明の一実施形態では、前記通信機は、前記船内システムの起動時に前記システムスキャンを実行する。この構成により、船内システムを新たに構築したり、船内システムの構成を変更したりした後に、船内システムを起動すれば、システムスキャンが実行され、その評価結果を得ることができる。したがって、この場合でも、船内システムの構成が適切であれば、サービス専用ツールを接続して行う診断作業を省略できる。
【0014】
この発明の一実施形態では、前記通信機は、前記船内ネットワークに新たな艤装機器が接続されたときに前記システムスキャンを実行する。この構成により、船内システムの稼働中に新たな艤装機器が接続され、それによって船内システムの構成が変化したときには、システムスキャンが実行され、その評価結果を得ることができる。したがって、この場合でも、船内システムの構成が適切であれば、サービス専用ツールを接続して行う診断作業を省略できる。
【0015】
この発明の一実施形態では、前記通信機は、前記スキャン結果を記憶するスキャン結果メモリを含み、前記システムスキャンによって新たに収集された情報である新たなスキャン結果と前記スキャン結果メモリに記憶されている従前のスキャン結果とが不一致であるときに、前記スキャン結果送信を実行する。
【0016】
この構成により、新たなスキャン結果と従前のスキャン結果とが不一致であればスキャン結果がサーバに送信され、サーバは新たなスキャン結果に対する評価を実行する。一方、新たなスキャン結果と従前のスキャン結果とが一致していれば、スキャン結果送信が省かれ、したがって、サーバにおけるスキャン結果の評価も実行されない。こうして、通信機およびサーバの負荷を軽減しながら、サービス専用ツールを接続して行う診断作業を軽減できる。
【0017】
この発明の一実施形態では、前記通信機は、前記サーバから受信した評価結果を記憶する評価結果メモリを含む。前記通信機は、前記評価結果メモリに評価結果が記憶されていないときは、前記システムスキャンによって新たに収集された情報と前記スキャン結果メモリに記憶されている従前の情報とが一致するかどうかにかかわらず、前記スキャン結果送信を実行する。この構成により、サーバによるスキャン結果の評価が未了のままとなることを回避できる。したがって、船内システムが適切に構築されているかどうかを確実に評価できる。
【0018】
この発明の一実施形態では、前記サーバは、前記複数の艤装機器の互換性を判定し、その判定結果を含む評価結果を生成して前記通信機に送信する。この構成により、船内システムを構成する複数の艤装機器の互換性が評価されるので、評価結果に基づき、各艤装機器が適切に作動するかどうかを判断できる。
【0019】
この発明の一実施形態では、前記通信機が前記サーバに送信する前記スキャン結果は、各艤装機器のハードウェア情報およびソフトウェア情報を含む。この構成により、艤装機器のハードウェアの互換性およびソフトウェアの互換性をサーバにおいて評価できる。
【0020】
この発明の一実施形態では、前記艤装機器は、前記通信機によって受信された前記評価結果を表示する表示ユニットを含む。この構成により、サーバから受信した評価結果が船内システムを構成する艤装機器の一つである表示ユニットに表示される。それにより、サービス専用ツールを接続しなくても、評価結果を知ることができるので、診断作業の労力および時間を削減できる。
【0021】
この発明の一実施形態では、前記評価結果は、前記船内システムが適切に構築されているかどうかを表す合格/不合格の判定結果を含み、前記判定結果が不合格である場合には、不合格の事由または当該事由を解消するための対処法の情報を含む。
【0022】
評価結果は、典型的には、船内システムが適切に構築されているかどうかを表す合格/不合格の判定結果を含む。評価結果は、判定結果が不合格である場合に、不合格の事由の情報を含んでいてもよい。また、評価結果は、判定結果が不合格である場合に、不合格の事由を解消するための対処法の情報を含んでいてもよい。これらの情報が提供されることにより、判定結果が不合格のときでも、サービス専用ツールを接続することなく船内システムに加えるべき修正を知ることができるので、船内システムの診断のための労力および時間を削減できる。
【0023】
この発明の一実施形態では、前記艤装機器は、前記船舶の船体に推進力を与える推進機を含む。前記通信機は、前記船内システムの稼働中に、前記推進機の運転状態を表す運転情報を前記サーバに送信する。
【0024】
この構成によれば、推進機の運転情報を通信機からサーバに送信して、サーバに蓄積することができる。したがって、サーバに蓄積された情報に基づいて、推進機の運転状態を調べることができる。換言すれば、推進機の運転状態をモニタするために船舶に搭載される通信機を用いて、システムスキャンおよびスキャン結果の送信を行い、かつサーバから評価結果を受信できる。
【0025】
前記通信機は、たとえば、予め定める定期送信周期で、推進機の運転情報を前記サーバに送信してもよい。典型的には、通信機が推進機の運転情報を収集する周期は、前記定期送信周期よりも短い。
【0026】
前記推進機は、船外機であってもよい。前記推進機は、船外機のほか、船内機、船内外機、ウォータージェット等の他の形態をとり得る。
【0027】
この発明の一実施形態では、前記通信機は、前記スキャン結果送信において、前記サーバに送信すべきデータ項目の総数を表す総数データを前記サーバに通知し、かつ通し番号を付したデータ項目を前記サーバに送信する。前記サーバは、前記総数データおよび前記通し番号に基づいて、全データが受信されたかどうかを判断する。
【0028】
通し番号とは、予め定める初期値(典型的には0または1)から連続(典型的には昇順に連続)する整数をいう。データ項目は、典型的には、艤装機器から収集した情報を表す本体データと、前記通し番号データとを含む。
【0029】
この構成により、サーバは総数データおよび通し番号に基づいて、全データの受信を確認できる。すなわち、送信エラー(欠落の有無)をチェックできる。
【0030】
送信エラーがあれば、たとえば、サーバは、通信機に送信エラーを通知する。送信エラーの通知は、再送信要求であってもよい。再送信要求は、少なくとも未受信のデータの再送信の要求である。再送信要求は、全データの再送信の要求であってもよいし、未受信の(すなわち、欠落している)データを含む部分データの再送信の要求であってもよい。
【0031】
この発明の一実施形態では、複数の前記通信機が前記船内ネットワークに接続されると、予め定められた規則に従い、ただ一つの前記通信機の前記システムスキャンおよび前記スキャン結果送信の機能が有効となり、他の前記通信機の前記システムスキャンおよび前記スキャン結果送信の機能が無効になるように、前記通信機が構成されている。
【0032】
この構成により、船内ネットワークに接続されたただ一つの通信機のみが、システムスキャンおよびスキャン結果送信を実行する。したがって、船内システムに2つ以上の通信機が接続されていたとしても、システムスキャンおよび/またはスキャン結果送信が重複して行われることがない。それにより、船内システムにおける重複した処理を省くことができる。また、サーバに対して重複した情報が送信されることがないので、サーバの負荷を軽減できる。一方、船内ネットワークに複数の通信機が接続されており、そのうちの一つの通信機に故障が生じた場合には、他の通信機がその機能を代替できる。それにより、サーバとの通信機能を保持でき、システムスキャンおよびスキャン結果送信を行えるので、サービス専用ツールを接続して行う診断の労力および時間を軽減できる。
【0033】
一つの実施形態では、前記複数の艤装機器の各々は、前記船内システムの起動時に自身の機器の種別を特定可能な種別特定情報を前記船内ネットワークに送出する。たとえば、艤装機器の種別に応じて前記船内ネットワーク上で使用すべきアドレスが予め定められている場合には、そのアドレスは種別特定情報の一例であり得る。すなわち、船内システムの起動時に各艤装機器が使用アドレスを船内ネットワークに送出して宣言する処理(いわゆるアドレスクレーム)を実行することにより、各艤装機器は他の艤装機器に対して自身の種別を通知することができる。換言すれば、船内ネットワークに送出される使用アドレスを解釈することにより、その使用アドレスを送出した艤装機器の種別を知ることができる。
【0034】
一つの実施形態では、前記複数の艤装機器の各々は、前記船内ネットワークの起動時に、前記種別特定情報に加えて、各機器に固有に与えられる個体識別情報(ハードウェア識別情報)を前記船内ネットワークに送出する。個体識別情報は、各機器に付与されるユニークナンバーであり得る。通信機は、他の艤装機器が通信機であることを表す種別特定情報を船内ネットワークから受信すると、その艤装機器の個体識別情報と自身の個体識別情報とを比較し、その比較結果に基づいて、自身の機能の有効化/無効化を決定してもよい。より具体的には、通信機は、他の艤装機器が通信機の使用アドレスを船内ネットワークに送出すると、その艤装機器のユニークナンバーと自身のユニークナンバーとを比較(たとえば大小比較)して、自身の機能の有効化/無効化を決定してもよい。
【0035】
この発明の一実施形態では、前記複数の艤装機器は、前記船内システムの起動時および前記船内システムの起動後に(たとえば周期的に)前記船内ネットワークにエラーの有無を表すエラーコードを送出する。前記通信機は、前記船内システムの起動時にエラーの存在を表すエラーコードが前記船内ネットワークに現れたとき、および前記船内システムの起動後に前記エラーコードが変化したときに限り、前記エラーコードを前記サーバに送信する。
【0036】
この構成により、通信機の機能によって、船内システムを構成する複数の艤装機器のエラーコードをサーバに送信することができる。サーバにその情報を蓄積しておくことにより、その蓄積された情報に基づいて、船内システムの故障診断を行うことができる。通信機は、船内システムの起動時には、エラーの存在を表すエラーコードが現れたときには、そのエラーコードをサーバに送信し、さもなければ送信しない。これにより、最小限の通信で、サーバに対してエラーの存在を通知できる。通信機は、船内システムの起動後には、エラーコードに変化があると、そのエラーコードをサーバに送信し、変化がなければ送信しない。これにより、最小限の通信で、サーバに対して各艤装機器のエラーの状況を通知できる。
【0037】
エラーコードは、エラーの有無を表すほかに、エラーの内容をも表していてもよい。この場合、より多くの情報をサーバに蓄積することができるので、より詳細な故障診断が可能になる。
【0038】
この発明の一実施形態は、船体と、前述のような特徴を有する船舶診断システムにおいて用いられる前記船内システムとを含む、船舶を提供する。
【0039】
この発明の一実施形態は、前述のような特徴を有する船舶診断システムにおいて用いられる前記通信機を提供する。
【0040】
この発明の一実施形態は、前述のような特徴を有する船舶診断システムにおいて用いられる前記サーバを提供する。
【0041】
この発明の一実施形態は、船舶に艤装される複数の艤装機器と、前記船舶内に備えられ、前記艤装機器が接続される船内ネットワークと、前記船内ネットワークを介して前記複数の艤装機器と通信可能な通信機と、前記通信機と通信可能なサーバと、を含む、船舶診断システムを提供する。前記通信機は、前記複数の艤装機器の情報を収集して前記サーバに送信する。前記サーバは、前記通信機から受信した情報を評価して評価結果を生成し、その評価結果を前記通信機に送信する。
【0042】
この発明の一実施形態では、前記複数の艤装機器は、前記船内ネットワークを介して前記複数の艤装機器の情報を収集するシステムスキャンを実行するスキャンユニットを含み、前記通信機は、前記スキャンユニットと、前記スキャンユニットによって収集された情報であるスキャン結果を前記サーバに送信し、前記評価結果を前記サーバから受信する通信ユニットとを含む。
【0043】
この発明の一実施形態は、船舶に搭載され、サーバと通信する通信機を提供する。この通信機は、前記船舶内に備えられる船内ネットワークに接続される通信インタフェースと、前記サーバとの通信のための無線通信器と、処理装置とを含む。前記処理装置は、前記船舶に艤装され前記船内ネットワークに接続される機器の情報を、前記通信インタフェースを介して収集するスキャンユニット(システムスキャン機能)と、前記スキャンユニットによって収集された情報であるスキャン結果を前記無線通信器によって前記サーバに送信するスキャン結果送信ユニット(スキャン結果送信機能)と、前記サーバから、前記送信した情報に対する評価結果を前記無線通信器によって受信する評価結果受信ユニット(評価結果受信機能)と、の機能を実行するようにプログラムされている。
【発明の効果】
【0044】
この発明によれば、船内システムの診断のための労力および時間の削減に有利な船舶診断システム、ならびにそのための通信機およびサーバを提供できる。また、この発明によれば、上記のような船舶診断システムにおいて用いられる船内システムを備えた船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】この発明の一実施形態に係る船舶診断システムの概要を説明するための図である。
図2図2は、船舶の構成例を説明するためのブロック図である。
図3図3は、サーバの構成例を説明するためのブロック図である。
図4図4は、通信機の構成例を示すブロック図である。
図5図5は、通信機の動作例を説明するためのフローチャートである。
図6図6は、サーバにおけるシステム互換性判定の処理の例を説明するためのフローチャートである。
図7図7は、通信機の定期送信処理の例を説明するための図である。
図8図8は、通信機の有効化判定処理の例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0047】
図1は、この発明の一実施形態に係る船舶診断システムの概要を説明するための図である。船舶診断システム100は、船舶5に装備される機器の情報を収集して送信する通信機1と、通信機1と通信するサーバ2とを含む。通信機1は、船舶5に備え付けられていてもよい。また、通信機1は、持ち運び可能な形態の装置として構成され、必要に応じて、乗船者によって船舶5に持ち込まれる装置であってもよい。
【0048】
通信機1およびサーバ2は、ネットワーク4を介して通信可能である。すなわち、通信機1およびサーバ2は、それぞれネットワーク4に対して通信可能に接続されている。ネットワーク4は、典型的にはインターネット4Aを含む。通信機1は、たとえば、携帯電話網等の無線データ通信網4Bに通信可能に接続されており、その無線データ通信網4Bを介してインターネット4Aに通信可能に接続されている。
【0049】
図2は、船舶5の構成例を説明するためのブロック図である。船舶5は、船体51と、船体51に艤装された様々な機器(艤装機器)とを含む。艤装機器は、典型的には、操船のための入力機器(操船機器)、船舶5に艤装された機器を統括制御するためのコントローラ81、船体51に推進力を与える推進機、船体51の進行方向を変更するための転舵機器(操船機器)を含む。この実施形態では、通信機1も艤装機器の一つである。
【0050】
入力機器は、この例では、ステアリングホイール52およびリモコン55を含む。
【0051】
推進機は、この例では、主機(主推進機)の一例としての船外機60を含む。具体的には、一機以上の船外機60が船尾に配置されている。この例では複数機(より具体的には3機)の船外機60が、船尾に左右に並んで取り付けられている。この例では、船外機60は、エンジン61(内燃機関)を動力源としてプロペラ65を駆動するエンジン船外機である。むろん、電動モータを動力源とする電動船外機が適用されてもよい。3機の船外機60は、具体的には、中央に配置された中央船外機60Cと、その左右にそれぞれ配置された左舷船外機60Pおよび右舷船外機60Sとを含む。
【0052】
転舵機器は、この例では、船外機60を左右に転舵させるステアリング70である。各船外機60に対して一つのステアリング70が設けられており、この例では、3個のステアリング70が設けられている。3個のステアリング70は、中央船外機60C、左舷船外機60Pおよび右舷船外機60Sにそれぞれ対応する、中央ステアリング70C、左舷ステアリング70Pおよび右舷ステアリング70Sである。
【0053】
ステアリングホイール52は、操船者によって回動操作される。ステアリングホイール52の操作角は、操作角センサ53によって検出され、ヘルムECU(電子制御ユニット)54に入力される。リモコン55は、船外機60が発生する推進力の方向(前進または後進)および推進力の大きさを調整するために操船者によって操作されるアクセルレバー56を備えている。アクセルレバー56の操作位置は、アクセル位置センサ57によって検出され、リモコンECU58に入力される。
【0054】
船外機60は、エンジン61と、エンジン61によって駆動されるプロペラ65と、シフト機構66と、エンジンECU63とを含む。シフト機構66は、複数のシフト位置、すなわち、前進位置、後進位置および中立位置を有する。前進位置は、エンジン61の駆動力によってプロペラ65を前進回転させるシフト位置である。後進位置は、エンジン61の駆動力によってプロペラ65を後進回転させるシフト位置である。中立位置は、エンジン61とプロペラ65との間の動力伝達を遮断するシフト位置である。エンジンECU63は、シフト機構66を作動させるシフトアクチュエータ67の動作を制御し、それによって、推進力の方向を制御する。また、エンジンECU63は、エンジン61のスロットルバルブを駆動するスロットルアクチュエータ62の動作を制御し、それによって、推進力の大きさを制御する。
【0055】
ステアリング70は、ステアリングアクチュエータ71と、それを制御するステアリングECU72とを含む。ステアリングアクチュエータ71は、ステアリング軸(図示せず)まわりに船外機60を左右に回動させるための動力を発生する。それにより、船外機60が船体51に与える推進力の方向が左右に変化し、船舶5の進行方向が変化する。ステアリング70は、船外機60と一体のユニットであってもよいし、船外機60とは別体のユニットであってもよい。図2には、ステアリング70が船外機60と一体のユニットとして構成されている(たとえば、船外機60に内蔵されている)例を示す。
【0056】
船内には、データ通信のためのネットワーク、すなわち、船内ネットワーク77が構築されている。船内ネットワーク77は、この実施形態では、船舶制御CAN(コントロールエリアネットワーク)75と、推進機制御CAN76とを含む。船内ネットワーク77は、さらに多くの子ネットワークを備えていてもよい。船内ネットワーク77と、船内ネットワーク77に接続された様々な艤装機器により、船内システム80が構成されている。
【0057】
推進機制御CAN76には、リモコンECU58、ヘルムECU54、エンジンECU63およびステアリングECU72が接続されている。したがって、リモコンECU58からの出力指令は、推進機制御CAN76を介してエンジンECU63に伝達される。出力指令は、各船外機60の推進力の方向(前進または後進)および大きさを指令する信号である。また、ヘルムECU54からの操舵指令は、推進機制御CAN76を介してステアリングECU72に伝達される。操舵指令は、ステアリングホイール52の操作方向(回動方向)および操作角に対応する指令信号であり、船外機60の転舵方向および転舵角を指令する信号である。
【0058】
リモコンECU58は、船舶制御CAN75にも接続されている。船舶制御CAN75には、さらに、コントローラ81が接続されている。したがって、コントローラ81は、リモコンECU58から出力指令の情報を得ることができる。
【0059】
また、コントローラ81は、リモコンECU58を介して、推進機制御CAN76に接続された艤装機器、より具体的には、ヘルムECU54、エンジンECU63およびステアリングECU72から各種の情報を得ることができる。
【0060】
したがって、コントローラ81は、ヘルムECU54が出力する操舵指令の情報を得ることができる。さらに、たとえば、ステアリングECU72が受信した操舵指令の情報、ステアリング70に備えられる各種センサ類73の検出結果の情報を得ることができる。センサ類73は、たとえば、転舵角センサを含む。転舵角センサは、船外機60の実際の転舵角を検出する。転舵角センサは、ステアリングアクチュエータ71の作動量を検出するセンサであってもよい。さらに、コントローラ81は、エンジンECU63から各種の情報を得ることができる。たとえば、エンジンECU63が受信した出力指令の情報、船外機60に備えられる各種センサ類64の検出結果の情報を得ることができる。センサ類64は、たとえば、スロットル開度センサ、エンジン回転速度センサ、エンジン温度センサを含む。スロットル開度センサは、スロットルバルブの開度を検出するセンサである。エンジン回転速度は、エンジン61の回転速度を検出するセンサであり、クランク角センサであってもよい。クランク角センサの出力をエンジンECU63で処理することにより、エンジン回転速度情報が生成されてもよい。エンジン温度センサは、エンジン61のシリンダブロックの温度(たとえば冷却水の温度)を検出するセンサであってもよいし、エンジン61の排気温度を検出するセンサであってもよい。
【0061】
船舶制御CAN75には、さらに、各種情報を表示するゲージ82、および通信機1が接続されている。通信機1は、船舶5の状況等の情報、より具体的には、船舶5(とくに船内システム80)の構成情報、船内システム80で生じるフェールの情報、センサ類の検出値等を、サーバ2(図1参照)に送信するための装置である。
【0062】
ゲージ82は、たとえば、燃料残量、各船外機60のエンジン回転速度およびシフト位置、バッテリ残量等を表示する表示装置の機能を有する。バッテリ残量とは、エンジン始動のために船外機60に内蔵されるスタータモータ(図示せず)を作動させるために船体51に搭載されるバッテリ88の残容量である。バッテリ88は、エンジン始動の際に放電し、エンジン運転中は船外機60に内蔵の発電機(図示せず)によって充電される。ゲージ82は、入力ボタンやタッチパネル等の入力装置83を備えていてもよく、使用者がその入力装置83を操作することによって、各種の指令を入力できるようになっていてもよい。入力装置83は、ゲージ82とは別に設けられてもよい。
【0063】
これらの他にも、船舶制御CAN75には各種の艤装機器をデータ通信可能に接続することができる。サードパーティ製の艤装機器は、典型的には、ゲートウェイ84を介して船舶制御CAN75に接続される。図2には、サードパーティ製の艤装機器の例として、GPS(Global Positioning System)受信機85、魚群探知機86およびオートパイロット装置87を示す。
【0064】
ステアリングホイール52およびリモコン55が配置される操船席には、船外機60の電源を投入/遮断し、さらにそれらのエンジン61を始動/停止するために操作されるメインスイッチ78が備えられている。また、操船席には、緊急時に船外機60の推進力を無効化する(典型的にはエンジン61を停止する)ためのキルスイッチ79(緊急停止スイッチ)が備えられている。キルスイッチ79は、たとえば、操船者が装着するランヤードケーブルに結合される操作端を備えており、操船者の落水時に作動して、船外機60のエンジン61を緊急停止させる。
【0065】
図3は、サーバ2の構成例を説明するためのブロック図である。サーバ2は、コンピュータとしての基本構成を有する。すなわち、プロセッサ21、メモリ22、ストレージ23、通信インタフェース24および入出力インタフェース25を備え、それらが、内部でデータ通信可能に接続されている。
【0066】
プロセッサ21は、メモリ22に格納されたプログラムに従って動作することにより、様々な機能を実現する。具体的には、通信機1(図1参照)と通信し、通信機1からデータを収集してストレージ23に蓄積する機能が実現される。また、蓄積された情報に基づいて、船内システム80を評価して評価結果を生成する機能が実現される。ストレージ23は、データを蓄積するための記憶領域を提供する。通信インタフェース24は、ネットワーク4との通信を仲介する。入出力インタフェース25は、キーボード等の入力装置26およびディスプレイ等の出力装置27を含み、マンマシンインタフェースを提供する。
【0067】
ストレージ23には、データベース23Dが構築され、複数の船舶のそれぞれについて、各船舶の船内システム80の構成を表す構成情報がデータベース23Dに蓄積される。蓄積される構成情報は、複数の船舶5に関して、各船舶5の通信機1から送信される構成情報を含む。構成情報は、船内システム80を構成する一つ以上の艤装機器の情報を含む。艤装機器の構成情報とは、艤装機器の種類(機種名)、部品番号、シリアル番号、ソフトウェア名、ソフトウェアバージョン等を表す情報であってもよい。構成情報は、さらに、艤装機器の個数、配置、および接続状態のうちの少なくとも一つ(好ましくは全部)に関する情報を含んでいてもよい。とくに、構成情報は、主機としての船外機60およびそれに内蔵されたステアリング70の種類(機種名)、個数、配置および接続状態に関する情報を含むことが好ましい。
【0068】
データベース23Dには、船舶5に搭載され得る様々な艤装機器に関して、当該艤装機器を船内システム80内で適切に作動させるための要件情報(動作条件)が登録されている。要件情報は、たとえば、各機器を搭載する際に必須または許容可能なハードウェア要件および/またはソフトウェア要件を含む。ハードウェア要件とは、たとえば各機器とともに船内システム80内に備えられることが必須のまたは許容可能な他の機器の要件(機種名、部品名等)である。ソフトウェア要件とは、たとえば各機器とともに船内システムに備えられる他の機器において必須のまたは許容可能なソフトウェア(ソフトウェア名、ソフトウェアバージョン等)である。
【0069】
プロセッサ21は、通信機1から船内システム80の構成情報を受信すると、データベース23Dから該当する要件情報を検索することにより、船内システム80を評価し、評価結果を形成する。より具体的には、船内システム80を構成する複数の艤装機器の互換性を判定し、システム互換性判定結果を含む評価結果を生成する。複数の艤装機器の互換性に問題点がなく、いずれの艤装機器も適性に作動することが確認されると、システム互換性判定結果は「合格」となる。いずれかの問題があり、いずれかの艤装機器が適性に作動しない可能性があるときには、システム互換性判定結果は「不合格」となる。プロセッサ21は、システム互換性判定結果を、通信インタフェース24を介して、通信機1へと送信する。システム互換性判定結果が不合格のときには、プロセッサ21は、不合格の事由の情報、および/または不合格の事由を解消するための対処法の情報を生成し、それらの情報を通信機1に送信してもよい。
【0070】
図4は、通信機1の構成例を示すブロック図である。通信機1は、プロセッサ11、メモリ12、通信インタフェース13、および無線通信器14を含む。プロセッサ11は、メモリ12に格納されたプログラムに従って動作することにより、複数の機能を実現する処理装置である。通信インタフェース13は、船内ネットワーク77を介するデータ通信のためのインタフェースである。無線通信器14は、ネットワーク4を介してサーバ2との間でデータ通信するための装置である。
【0071】
プロセッサ11は、船内ネットワーク77を介して、船体51に装備された複数の機器からの情報を収集してメモリ12に格納するデータ収集機能を実行する。収集される情報は、船体51に装備されている機器(艤装機器)の構成情報を含む。また、収集される情報は、様々なセンサ類の検出値を含んでもよい。具体的には、ヘルムECU54、リモコンECU58、ステアリングECU72およびエンジンECU63に接続されたセンサ類53,57,64,73の検出値が収集可能である。収集される情報は、さらに、ヘルムECU54、リモコンECU58、ステアリングECU72およびエンジンECU63が生成する情報を含んでいてもよい。このような情報は、各ECUが内部で生成する制御情報(制御指令その他のデータ)、各ECUが検出する故障情報(エラーコード)などを含んでいてもよい。前述のとおり、メインスイッチ78、キルスイッチ79、スタートスイッチ等のスイッチ類もセンサと見なされ、それらの状態が検出値として収集されてもよい。プロセッサ11は、さらに、船内ネットワーク77に接続された様々な機器の状態を監視して、故障情報(フェール情報)を生成する故障検知機能を有していてもよい。たとえば、各ECUの状態を監視し、電源電圧の瞬間的な低下に伴う動作の中断を故障(瞬停)として検出してもよい。収集された情報および生成された故障情報等は、メモリ12に格納される。船内ネットワーク77に接続された全ての機器からの情報が収集される必要はなく、たとえば、ゲートウェイ84を介して接続されるサードパーティ製の機器は対象外であってもよい。
【0072】
プロセッサ11は、これらの収集および/または自身が生成してメモリ12に格納した情報の全部または一部を、無線通信器14によって、サーバ2に向けて送信させる機能を有する。
【0073】
プロセッサ11は、この実施形態では、船内ネットワーク77に接続されている艤装機器の構成情報を通信インタフェース13を介して収集するシステムスキャンを実行するスキャンユニット15としての機能を有する。また、プロセッサ11は、サーバ2との間で無線通信器14を介してデータ通信する通信ユニット16として機能を有する。通信ユニット16としての機能は、システムスキャンによって収集された情報であるスキャン結果を無線通信器14によってサーバ2に送信するスキャン結果送信を実行するスキャン結果送信ユニット17としての機能を含む。サーバ2は、スキャン結果を受信し、船内システム80の構成情報としてデータベース23Dに登録し、かつその構成情報に基づいて船内システム80を評価し、評価結果を通信機1に送信する。プロセッサ11の通信ユニット16としての機能は、サーバ2からの評価結果を無線通信器14によって受信する評価結果受信を実行する評価結果受信ユニット18としての機能を含む。評価結果は、前述のとおり、システム互換性判定結果を含み、システム互換性判定結果が不合格の場合には、その事由および/または当該事由の対処法の情報を含む。
【0074】
プロセッサ11は、システムスキャンによって収集した情報をスキャン結果としてメモリ12に格納する。すなわち、この実施形態では、メモリ12は、スキャン結果メモリとして利用される。プロセッサ11は、また、サーバ2から受信した評価結果(システム互換性判定結果)をメモリ12に格納する。すなわち、この実施形態では、メモリ12は、スキャン結果メモリとしても利用される。
【0075】
プロセッサ11は、船内システム80の起動時にシステムスキャンを実行する。また、プロセッサ11は、船内ネットワーク77に新たな艤装機器が導入され、それによって船内システム80が変更されたときにもシステムスキャンを実行する。
【0076】
また、プロセッサ11は、船内システム80の稼働中に、予め定める定期送信周期で、所定の定期送信情報をサーバ2に送信する定期送信を実行する定期送信ユニット19としての機能を有する。定期送信周期は、たとえば10分程度であってもよい。定期送信情報は、少なくとも推進機(船外機60)の運転状態を表す運転情報を含む。定期送信情報は、サーバ2にアップロードされてデータベース23D蓄積され、主として、異常の有無、異常発生時の状況等を事後的に調査する目的で使用される。
【0077】
定期送信情報には、必要に応じて、エラーコードが含められる。具体的には、船内システム80の起動時にエラーの存在を示すエラーコードが船内ネットワーク77に現れると、定期送信情報に当該エラーコードが含められる。その後は、船内システム80の稼働中にエラーコードに変化があると、その変化したエラーコードが定期送信情報に含められる。エラーコードのサーバ2への送信は、定期送信とは別に実行されてもよい。
【0078】
図5は、通信機1の動作例を説明するためのフローチャートであり、主としてプロセッサ11が周期的に実行する処理の一例を示す。通信機1は、船内システム80の起動を監視し、船内システム80が起動すると(ステップS1:YES)、船内ネットワーク77に接続された艤装機器の情報を取得するための処理を実行する。たとえば、通信機1は、船内ネットワーク77にいずれかの艤装機器がメッセージを送出したときに、船内システム80が起動されたと判断してもよい。より具体的には、通信機1は、船舶制御CAN75にメッセージが現れると、船内システム80が起動されたと判断してもよい。
【0079】
船内ネットワーク77に接続された艤装機器の情報を取得するために、通信機1は、船舶制御CAN75に接続された艤装機器のアドレスを取得する(ステップS2)。アドレスの取得は、通信機1が船内ネットワーク77(具体的には船舶制御CAN75)に対して自身のアドレスを宣言するアドレスクレームによって行われてもよい。船舶制御CAN75に接続された艤装機器は、船舶制御CAN75にアドレスクレームが送出されると、自身が使用しようとするアドレスを宣言するアドレスクレームを送出して応答するように構成されている。こうして、通信機1は、船舶制御CAN75にアドレスクレームを送出することによって、船舶制御CAN75に接続された艤装機器のアドレスを取得することができる。
【0080】
次に、通信機1は、同様の機能を有する他の通信機が船内ネットワーク77(より具体的には船舶制御CAN75)に接続されているかどうかを調べ、自身の機能を有効にするかどうかを決定する有効化判定処理を実行する(ステップS3)。自身の機能を無効にすべきときには、機能停止して(ステップS4)、処理を終了する。自身の機能を有効化すべきときには、次の処理に進む。有効化判定処理の詳細は、後述する。
【0081】
通信機1は、次に、システムスキャンを実行する。具体的には、通信機1は、取得されたアドレスを宛先として、船内ネットワーク77(より具体的には船舶制御CAN75)に接続された各艤装機器に対して、構成情報送信要求を送信する。その要求に応じて、その宛先の艤装機器は、構成情報を通信機1に送信する。通信機1は、その構成情報を受信してメモリ12に格納する。こうして、艤装機器の構成情報が取得される(ステップS5)。同様の処理を、取得された全てのアドレスに対して実行することにより(ステップS6)、船内ネットワーク77に接続された全ての艤装機器の構成情報が取得される。
【0082】
推進機制御CAN76に接続された艤装機器(ヘルムECU54、エンジンECU63およびステアリングECU72)からの情報の収集は、リモコンECU58によって代行される。すなわち、リモコンECU58は、構成情報送信要求を受けると、自身の構成情報を通信機1に送信するだけでなく、推進機制御CAN76に接続された艤装機器の構成情報を収集して通信機1に送信する。こうして、船内ネットワーク77に接続された全ての艤装機器の構成情報が収集される。このシステムスキャンによって取得された構成情報がスキャン結果であり、スキャン結果を表すデータをスキャン結果データという。スキャン結果データには、通信機1自身の構成情報も含められる。
【0083】
通信機1は、メモリ12から従前のスキャン結果データを読み出し、その従前のスキャン結果データと今回の(最新の)スキャン結果データとを比較することにより、前回と今回のスキャン結果が一致するか不一致かを判断する(ステップS7)。メモリ12に従前のスキャン結果データが格納されていなければ、不一致の判断になる。今回のスキャン結果が前回のスキャン結果と相違していれば(ステップS7:NO)、通信機1は、今回のスキャン結果データをメモリ12に格納し(ステップS8)、さらに、その今回のスキャン結果データをサーバ2に送信する(ステップS9)。
【0084】
一方、今回のスキャン結果と前回のスキャン結果とが一致するときには(ステップS7:YES)、通信機1は、メモリ12にシステム互換性判定結果を表すデータ(システム互換性判定結果データ)が格納されているかどうかを調べる。システム互換性判定結果データがメモリ12に格納されており、そのシステム互換性判定結果データが、合格を表す場合には(ステップS10:YES)、通信機1は、スキャン結果データをサーバ2に送信しない。すなわち、船内システム80を構成する艤装機器の互換性が適性であると判定済みであれば、船内システム80が適切に構築されているので、通信機1は、スキャン結果データをサーバ2に送信しない。この場合、通信機1は、今回のスキャン結果データをメモリ12に格納する必要もない。むろん、今回のスキャン結果データをメモリ12に格納しても差し支えない。
【0085】
通信機1からサーバ2へのスキャン結果データの送信は、総数データの送信(ステップS91)と、その総数データが表す項目数のデータ項目の送信(ステップS92)とを含む。総数データは、データ項目の総数を表す。データ項目は、艤装機器から収集した構成情報を表す本体データと、通し番号データとを含む。送信されるスキャン結果データは、一つの艤装機器に関して少なくとも一つのデータ項目を含む。通し番号データは、通し番号を表すデータであり、送信順に付される通し番号を表すデータであってもよい。通し番号とは、典型的には、予め定める初期値(たとえば0または1)から始まる連続する(典型的には昇順に連続する)整数である。本体データは、艤装機器の構成情報を含む。本体データに含められる構成情報は、艤装機器のハードウェア構成を特定するハードウェア情報を含む。ハードウェア情報は、艤装機器の種別、部品番号、シリアル番号などである。艤装機器の種別は、たとえば、リモコンECU、エンジンECU、ステアリングECU、ヘルムECU等のような機器の種類を識別するための情報である。部品番号は、機器のモデル名等を具体的に特定するための情報である。シリアル番号は、個々の機器に付された個体識別番号である。構成情報は、艤装機器(たとえばECU)のソフトウェア構成を特定するソフトウェア情報を含む場合がある。ソフトウェア情報は、たとえば、ソフトウェア名、ソフトウェアのバージョン等の情報を含む。
【0086】
スキャン結果データの送信を終えると、通信機1は、船内システム80の稼働状態を調べる。船内システム80が稼働中であれば(ステップS11:YES)、すなわち、電源が投入された状態が継続していれば、通信機1は、さらに、船内ネットワーク77に新たな艤装機器が導入されたかどうかを判断する(ステップS12)。船内ネットワーク77に接続可能な艤装機器は、船内ネットワーク77に接続されて起動されると、船内ネットワーク77に自身が使用するアドレスを送出する処理、すなわち、アドレスクレームを実行する。このアドレスクレームを検出することで、通信機1は、船内システム80に新たな艤装機器が導入されたことを検出できる。なお、新たな艤装機器の導入は、新たなハードウェアが船内ネットワーク77に接続された場合のほか、接続済みのハードウェアに新たなソフトウェアが導入された場合を含む。
【0087】
新たな艤装機器の追加が検出されると(ステップS12:YES)、通信機1は、ステップS2からの処理を実行する。すなわち、システムスキャンが実行される。それによって、艤装機器の追加によって構成の変更した船内システム80を構成する艤装機器の情報(新たなスキャン結果)が取得される。
【0088】
新たな艤装機器の追加がなく、したがって、船内システム80の構成に変化がなければ(ステップS12:NO)、通信機1は、サーバ2からのシステム互換性判定結果データの受信の有無を調べる(ステップS13)。サーバ2からシステム互換性判定結果データを受信すると(ステップS13:YES)、そのデータがメモリ12に格納される(ステップS14)。通信機1は、さらに、そのシステム互換性判定結果データをゲージ82に伝達する。それにより、ゲージ82は、システム互換性判定結果を画面に表示する(ステップS15)。
【0089】
たとえば、ゲージ82は、船内システム80が構築された直後、および船内システム80に変更が加えられた直後は、システムスキャンが未了であることを表示する。この表示は、「システムスキャンを実行してください。」といったメッセージのポップアップ表示であってもよい。このような表示は、主として、ボートビルダまたはディーラの作業担当者に対する情報伝達を目的としている。ゲージ82は、合格を表すシステム互換性判定結果データが書き込まれるまで、当該表示を継続する。
【0090】
通信機1がサーバ2から受信したシステム互換性判定結果データをゲージ82に書き込み、そのシステム互換性判定結果データが合格を表す場合には、ゲージ82は、上記の表示(たとえばポップアップ表示)を消去する。一方、システム互換性判定結果データが不合格を表す場合には、ゲージ82は、その旨を表示する。システム互換性判定結果データが不合格の原因事由および/またはその原因事由に対する対処法を表す情報を含むときには、その情報も併せて表示されてもよい。
【0091】
ボートビルダまたはディーラには、船内システム80の診断のためのサービス専用ツールが備えられている。サービス専用ツールは、典型的には、パーソナルコンピュータの形態を有し、専用のアプリケーションを作動させることで、診断装置としての機能を有する。サービス専用ツールを船内ネットワーク77に接続することによって、サービス専用ツールを用いて、前述のようなシステムスキャンを行うことができる。サービス専用ツールは、さらに、サーバ2と通信する通信機能も備えている。したがって、サービス専用ツールを用いることによって、通信機1と同様に、システムスキャン、スキャン結果のサーバ2への送信、システム互換性判定結果の受信を行うことができる。サービス専用ツールは、このような機能だけでなく、たとえば艤装機器の最新のソフトウェアをサーバからダウンロードして、該当する艤装機器にインストールする機能を有していてもよい。
【0092】
図6は、サーバ2におけるシステム互換性判定の処理の例を説明するためのフローチャートであり、主として、プロセッサ21が周期的に実行する処理を示す。サーバ2は、船舶5の通信機1からのスキャン結果データを受信する(ステップS21)。サーバ2は、スキャン結果データに含まれる総数データと、データ項目中の通し番号データとに基づいて、通信エラーの有無を判断する(ステップS22)。具体的には、総数データが表す個数のデータ項目が受信されれば通信エラーなしと判断する。一方、総数データが表す個数よりも少ない数のデータ項目の受信(受信したデータ項目数が零の場合を含む)によって通信が終了したときには、通信エラーありと判断する。通信エラーありと判断すると(ステップS22:YES)、サーバ2は、通信機1に対して、スキャン結果データの再送信を要求する。サーバ2は、データ項目に含まれる通し番号データに基づいて、受信されなかった(欠落した)データ項目を特定してもよい。この場合、サーバ2は、受信されなかったデータ項目を特定する情報を通信機1に与えてもよい。通信機1は、欠落したデータ項目のみを再送信してもよいし、全てのスキャン結果データを再送信してもよい。
【0093】
通信エラーなしと判断すると(ステップS22:NO)、サーバ2はデータベース23Dを検索し(ステップS23)、データ項目の本体データによって特定される艤装機器に関連する情報を収集する。
【0094】
データベース23Dには、艤装機器のそれぞれについて、適切に動作させるための要件を記した要件情報が格納されている。要件情報は、典型的には、当該機器を適切に作動させるための必須要件を記した必須要件情報を含む。要件とは、たとえば、同じ船内システムに備えられるべき他の艤装機器の情報、当該艤装機器のソフトウェアの情報を含む。
【0095】
サーバ2は、スキャン結果データに基づいて、各艤装機器についての要件情報が充足されているかどうかを判断することにより、船内システム80を構成する複数の艤装機器の互換性が合格か不合格かを判定する(ステップS24)。その判定結果が、システム互換性判定結果データとして、通信機1に送信される(ステップS25)。
【0096】
互換性判定が不合格のときには、サーバ2は、その不合格となった要件情報を特定し、その要件情報を不合格事由情報として通信機1に送信することが好ましい。不合格事由情報は、不合格の事由の情報に代えて、または不合格の事由の情報に加えて、当該事由を解消するための対処法の情報を含んでいてもよい。前述のように、不合格の事由および/またはその対処法は、船内システム80のゲージ82に表示されてもよい。たとえば、「エンジンECUのROM情報が古いです。ECU書き換えを実施して下さい。」といったメッセージがゲージ82に表示されてもよい。
【0097】
また、サーバ2は、船内システム80を構成する艤装機器のいずれかにおいて新しいソフトウェアが利用可能であるときには、そのことを通信機1に通知してもよい。この場合、サーバ2は、新しいソフトウェアを導入しても互換性判定が合格となることを予め判定しておくことが好ましい。通信機1は、新しいソフトウェアが利用可能である旨の通知を受けたとき、それをゲージ82に表示させることが好ましい。それにより、使用者や作業者に対して、新たなソフトウェアの使用を促すことができる。
【0098】
新たなソフトウェアの艤装機器への導入(インストール)は、船内ネットワーク77にサービス専用ツールを接続して行うことができる。通信機1が、新たなソフトウェアをサーバ2からダウンロードする機能を有していてもよい。そして、たとえば、ゲージ82および入力装置83をマンマシンインタフェースとして利用し、該当する艤装機器へのソフトウェアの導入操作(インストール操作)を行えるようになっていてもよい。
【0099】
図7は、船内システム80の稼働中に通信機1が行う定期送信処理の例を説明するための図である。通信機1は、定期送信周期が到来するたびに(ステップS31:YES)、定期送信情報をサーバ2に送信する。
【0100】
定期送信情報は、船外機60の運転情報、より具体的にはエンジン運転情報を含む。エンジン運転情報は、たとえば、予め定める複数の回転数領域ごとの運転時間の情報を含む。エンジン運転情報は、そのほか、過回転状態となった回数、オーバーヒート状態となった回数、低油圧状態となった回数、ノンキング制御の回数、逆回転状態となった回数などを含んでもよい。定期送信情報は、さらに、各種センサ類の検出値の情報を含んでいてもよい。通信機1は、エンジン運転情報や各種センサ類の検出値を、船内ネットワーク77を介して、艤装機器から収集する処理を周期的に実行する。この処理の周期は定期送信周期よりも短い。
【0101】
通信機1は、さらに、各艤装機器が船内ネットワーク77に送出するエラーコードを収集するエラーコード収集処理を実行している。エラーコードは、各機器におけるエラーの有無、およびエラーの内容を表すデータである。各艤装機器は、船内システム80の起動時にエラーコードを船内ネットワーク77に送出し、さらに船内システム80の起動後に周期的にエラーコードを船内ネットワーク77に送出する。
【0102】
通信機1は、船内システム80の起動直後には(ステップS32:YES)、エラー有りを表すエラーコードを受信すると(ステップS33:YES)、そのエラーコードを定期送信情報に加え(ステップS35)、その定期送信情報をサーバ2に送信する(ステップS36)。エラー有りを表すエラーコードがなければ(ステップS33:NO)、エラーコードは定期送信情報に加えられない。その後は、通信機1は、エラーコードの変化の有無を調べ(ステップS34)、前回の定期送信周期のときから変化したエラーコードがあれば(ステップS34:YES)、そのエラーコードを定期送信情報に加え(ステップS35)、その定期送信情報をサーバ2に送信する(ステップS36)。変化のないエラーコードは送信されない。
【0103】
図8は、通信機1の有効化判定処理(図5のステップS3)の例を説明するためのフローチャートである。通信機1は、典型的には、船内システム80に一つのみが備えられるように設計される。船内ネットワーク77に接続されるように設計された艤装機器は、アドレスクレームにおいて、当該機器の種別に応じて割り当てられたアドレスの使用を宣言する。したがって、その宣言されるアドレスは、艤装機器の機器種別を特定可能な種別特定情報の一例である。具体的には、通信機1は、アドレスクレームにおいて、通信機1が使用するアドレスとして予め定められたアドレス(以下、「通信機アドレス」という。)の使用を宣言する。したがって、船内システムに2つ以上の通信機1が接続されると、それらの通信機1は、同じアドレスの使用を宣言するので、アドレスの競合(重複)が生じる。そこで、複数の通信機1の間の交渉(ネゴシエーション)によって、優先する通信機1を決定する必要がある。ここでは、一例として、個々の艤装機器に与えられるハードウェア識別情報(個体識別情報)であるユニークナンバーを用いて交渉を行う場合について説明する。アドレスクレームにおいては、各艤装機器は、アドレスを宣言するほか、ユニークナンバーを含む他の情報も船内ネットワークに送出する。
【0104】
通信機1は、アドレスクレームにおいて、他の艤装機器が通信機アドレスの使用を宣言しなければ(ステップS41:NO)、自身の機能を有効化する(ステップS43)。一方、通信機1は、アドレスクレームにおいて、他の艤装機器が通信機アドレスの使用を宣言していることを検出すると(ステップS41:YES)、他の通信機1が船内ネットワークに接続されていると判断する。すると、通信機1は、その通信機アドレスの使用を宣言している艤装機器(すなわち、他の通信機1)のユニークナンバーと自身のユニークナンバーとを比較する(ステップS42)。
【0105】
自身のユニークナンバーが他の通信機1のユニークナンバーよりも小さければ(ステップS42:YES)、自身の機能を有効化する(ステップS43)。他の通信機1が複数個存在するときには、それらのいずれのユニークナンバーよりも自身のユニークナンバーが小さいときに、自身の機能を有効化する。
【0106】
一方、自身のユニークナンバーが他の通信機1のユニークナンバーよりも大きければ(ステップS42:NO)、自身の機能を無効化し、機能停止する。他の通信機1が複数個存在するときには、それらの少なくとも一つのユニークナンバーよりも自身のユニークナンバーが大きければ、自身の機能を無効化して、機能停止する。機能停止とは、具体的には、少なくともシステムスキャンの機能およびスキャン結果送信の機能を停止することをいう。たとえば、機能停止した通信機1は、船内ネットワーク77に対して信号を送出せず、船内ネットワーク77に現れる情報を読み取るだけのリードオンリーモードで動作してもよい。
【0107】
船内ネットワーク77に接続された他の通信機1においても同様の処理が行われることにより、ただ一つの通信機1の機能が有効になる。それにより、通信機1の機能が競合(重複)することを回避できる。
【0108】
一つの船内ネットワーク77に複数の通信機1が接続されており、それらがサーバ2に対して情報を送信すると、サーバ2は、一つの船内システム80の情報を重複して受信する。それにより、サーバ2における処理が重複するので、好ましくない。前述のような有効化判定処理によって、ただ一つの通信機1がサーバ2との通信を行うことを保証でき、サーバ2の負荷を軽減できる。
【0109】
一方、複数の通信機1が船内ネットワーク77に接続されている場合、一つの通信機1が故障しても、他の通信機1が代替してサーバ2との通信を確保できるメリットがある。たとえば、故障した通信機1が船内システム起動時のアドレスクレームに応答しなければ、前述の有効化判定処理において、当該故障した通信機1は判定対象から自動的に除外される。それにより、故障の生じていない通信機1の機能(とくにシステムスキャンおよびスキャン結果送信の機能)が有効になるので、サーバ2との間での通信を確保できる。
【0110】
以上のように、この実施形態においては、船内ネットワーク77に複数の艤装機器を接続して船内システム80が構成されており、その複数の艤装機器には、通信機1が含まれている。通信機1は、船内ネットワーク77を介して他の艤装機器と通信可能であり、かつ船舶5外に備えられるサーバ2と通信可能である。この実施形態では、通信機1は、複数の艤装機器の情報を収集するシステムスキャンを実行し、スキャン結果をサーバ2に送信する。サーバ2においては、スキャン結果の評価が行われ、その評価結果が通信機1に送られる。
【0111】
したがって、船内システム80を構成していないサービス専用ツールを船内ネットワーク77に接続しなくても、システムスキャンを行うことができ、かつそのシステムスキャンの評価結果を取得することができる。そのため、船内システム80が適切に構築されており、それに応じて、スキャン結果の評価が良好であれば、サービス専用ツールを接続して行う診断作業を省略することができる。こうして、船内システム80の診断のための労力および時間を削減することができる。
【0112】
この実施形態では、通信機1は、船内システム80の起動時にシステムスキャンを実行する。したがって、船内システム80を新たに構築したり、船内システム80の構成を変更したりした後に、船内システム80を起動すれば、システムスキャンが実行され、その評価結果を得ることができる。この場合にも、船内システム80の構成が適切であれば、サービス専用ツールを接続して行う診断作業を省略できる。
【0113】
この実施形態では、通信機1は、船内ネットワーク77に新たな艤装機器が接続されたときにシステムスキャンを実行する。したがって、船内システム80の稼働中に新たな艤装機器が接続され、それによって船内システム80の構成が変化したときには、システムスキャンが実行され、その評価結果を得ることができる。この場合にも、船内システム80の構成が適切であれば、サービス専用ツールを接続して行う診断作業を省略できる。
【0114】
この実施形態では、通信機1は、スキャン結果をメモリ12(スキャン結果メモリの一例)に格納する。通信機1は、システムスキャンによって新たに収集された情報である新たなスキャン結果とメモリ12に記憶されている従前のスキャン結果とを比較する。そして、新たなスキャン結果と従前のスキャン結果とが不一致であれば、その新たなスキャン結果がサーバ2に送信され、サーバ2は新たなスキャン結果に対する評価を実行する。一方、新たなスキャン結果と従前のスキャン結果とが一致していれば、スキャン結果送信が省かれ、したがって、サーバ2におけるスキャン結果の評価も実行されない。こうして、通信機1およびサーバ2の負荷を軽減しながら、サービス専用ツールを接続して行う診断作業を軽減できる。
【0115】
また、通信機1は、サーバ2から受信した評価結果をメモリ12(評価結果メモリの一例)に格納する。通信機1は、メモリ12に評価結果が記憶されていないときは、システムスキャンによって新たに収集された情報とメモリ12に記憶されている従前の情報とが一致するかどうかにかかわらず、スキャン結果送信を実行する。これにより、サーバ2によるスキャン結果の評価が未了のままとなることを回避できる。したがって、船内システム80が適切に構築されているかどうかを確実に評価できる。
【0116】
この実施形態では、サーバ2は、複数の艤装機器の互換性を判定し、その判定結果(システム互換性判定結果)を含む評価結果を生成して通信機1に送信する。これにより、船内システム80を構成する複数の艤装機器の互換性が評価されるので、評価結果に基づき、各艤装機器が適切に作動するかどうかを判断できる。
【0117】
この実施形態では、通信機1がサーバ2に送信する情報(スキャン結果)は、各艤装機器のハードウェア情報およびソフトウェア情報を含む。したがって、艤装機器のハードウェアの互換性およびソフトウェアの互換性をサーバ2において評価できる。
【0118】
この実施形態では、通信機1は、サーバ2から受信した評価結果をゲージ82に伝達し、ゲージ82はその評価結果を表示する。すなわち、艤装機器の一つであるゲージ82は、通信機1によって受信された評価結果を表示する表示ユニットとして機能する。それにより、サービス専用ツールを接続しなくても、評価結果を知ることができるので、診断作業の労力および時間を削減できる。
【0119】
この実施形態では、評価結果は、船内システム80が適切に構築されているかどうかを表す合格/不合格の判定結果を含む。また、この実施形態では、評価結果は、判定結果が不合格である場合に、不合格の事由の情報、および/または不合格の事由を解消するための対処法の情報を含んでいてもよい。これらの情報が提供されることにより、判定結果が不合格のときでも、サービス専用ツールを接続することなく船内システム80に加えるべき修正内容を知ることができるので、船内システム80の診断のための労力および時間を削減できる。
【0120】
この実施形態では、複数の艤装機器は、船舶5の船体51に推進力を与える推進機の一例である船外機60を含む。そして、通信機1は、船内システム80の稼働中に、船外機60の運転状態を表す運転情報をサーバ2に送信する。具体的には、定期送信周期で船外機60の運転情報を含む定期送信情報がサーバ2にアップロードされる。これにより、船外機60の運転情報をサーバ2に蓄積することができる。したがって、サーバ2に蓄積された情報に基づいて、船外機60の運転状態を調べることができる。換言すれば、船外機60の運転状態をモニタするために船舶5に搭載される通信機1を用いて、システムスキャンおよびスキャン結果の送信を行い、かつサーバ2から評価結果を受信できる。
【0121】
また、この実施形態では、通信機1は、スキャン結果送信において、サーバ2に送信すべきデータ項目の総数を表す総数データをサーバ2に通知し、かつ通し番号を付したデータ項目を前記サーバに送信する。そして、サーバ2は、総数データおよび通し番号に基づいて、スキャン結果の全データが受信されたかどうかを判断する。これにより、サーバ2は、総数データおよび通し番号に基づいて、全データの受信を確認できる。すなわち、送信エラーの有無、すなわちデータ欠落の有無をチェックできる。送信エラーがあれば、サーバ2は、通信機1に送信エラーを通知する。送信エラーの通知は、この実施形態では、再送信要求である。それに応答して、通信機1は、少なくとも欠落していたデータをサーバ2にアップロードする。こうして、スキャン結果の全データを確実にサーバ2に送信できる。それにより、サーバ2において、船内システム80を適切に評価することができる。
【0122】
また、この実施形態においては、複数の通信機1が船内ネットワーク77に接続されて競合するときには、予め定められた規則に従い、ただ一つの通信機1のシステムスキャンおよびスキャン結果送信の機能が有効となり、他の通信機1のシステムスキャンおよびスキャン結果送信の機能が無効になる。それにより、船内ネットワーク77に接続されたただ一つの通信機1のみが、システムスキャンおよびスキャン結果送信を実行する。したがって、船内システム80に2つ以上の通信機が接続されていたとしても、システムスキャンおよび/またはスキャン結果送信が重複して行われることがない。それにより、船内システム80における重複した処理を省くことができる。また、サーバ2に対して重複した情報が送信されることがないので、サーバ2の負荷を軽減できる。一方、船内ネットワーク77に複数の通信機1が接続されており、そのうちの一つの通信機1に故障が生じた場合には、他の通信機1がその機能を代替できる。それにより、サーバ2との通信機能を保持できるので、サービス専用ツールを接続して行う診断の労力および時間を軽減できる。加えて、船外機60の運転情報をサーバ2にアップロードする機能も保持できる。この実施形態では、前述のように、アドレスクレームの枠組みを利用して、2つ以上の通信機1の間での交渉(ネゴシエーション)が行われ、通信機1の優先順位が決定される。
【0123】
また、この実施形態では、複数の艤装機器は、船内システム80の起動時およびその起動後に、船内ネットワーク77上に、当該機器のエラーの有無を表すエラーコードを送出する。通信機1は、必要なエラーコードをサーバ2に送信する。サーバ2にその情報を蓄積しておくことにより、その蓄積された情報に基づいて、船内システム80の故障診断を行うことができる。通信機1は、船内システム80の起動時には、エラーの存在を表すエラーコードが現れたときには、そのエラーコードをサーバ2に送信し、さもなければ送信しない。これにより、最小限の通信で、サーバに対してエラーの存在を通知できる。また、通信機1は、船内システム80の起動後には、エラーコードに変化があると、そのエラーコードをサーバ2に送信し、変化がなければ送信しない。これにより、最小限の通信で、サーバ2に対して各艤装機器のエラーの状況を通知できる。エラーコードは、エラーの有無を表すほかに、エラーの内容をも表していてもよい。この場合、より多くの情報をサーバ2に蓄積することができるので、より詳細な故障診断が可能になる。
【0124】
以上、この発明の一実施形態について説明してきたが、この発明は、以下に例示的に列記するとおり、さらに他の形態で実施することもできる。
【0125】
前述の実施形態においては、船内システム80を構成する複数の艤装機器の一つである通信機1は、船内ネットワーク77を介して複数の艤装機器の情報を収集するシステムスキャンを実行するスキャンユニット15として機能する。加えて、通信機1は、スキャン結果をサーバ2に送信し、評価結果をサーバ2から受信する通信ユニット16(スキャン結果送信ユニット17および評価結果受信ユニット18)として機能する。この構成を変形して、たとえば、ゲージ82がスキャンユニットとしての機能を有し、通信機1が通信ユニット(スキャン結果送信ユニットおよび評価結果受信ユニット)としての機能を有する設計としてもよい。
【0126】
また、たとえば、船内システム80を構成する艤装機器の一つとしてのスキャンユニット(通信機1またはゲージ82)と、船内システム80を構成しない通信ユニットとの組み合わせによって通信機を構成してもよい。この場合の通信ユニットは、スマートフォン、タブレット等のモバイル通信機器であってもよい。スキャンユニットと通信ユニットとの間のデータ通信が可能であることが必要である。このデータ通信には、無線LAN(Wi-Fi)やブルートゥース(登録商標)に代表される近接無線通信を利用してもよい。少なくともスキャンユニットが船内システム80を構成する艤装機器の一つであることにより、診断作業を大幅に軽減することができる。
【0127】
また、前述の実施形態では、サーバ2から受信した評価結果(システム互換性判定結果)をゲージ82に表示しているが、たとえば、通信機1に発光ダイオードランプ等の表示器を設け、その表示器によって評価結果を表示できるようにしてもよい。
【0128】
また、前述の実施形態では、推進機の例として船外機を挙げているが、船舶に備えられる推進機の構成は、船内機、船内外機、ウォータージェット等の様々な形態であり得る。
【0129】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0130】
1:通信機、2:サーバ、4:ネットワーク、5 :船舶、11:プロセッサ、12:メモリ、13:通信インタフェース、14:無線通信器、15:スキャンユニット、16:通信ユニット、17:スキャン結果送信ユニット、18:評価結果受信ユニット、19:定期送信ユニット、21:プロセッサ、22:メモリ、23:ストレージ、23D:データベース、24:通信インタフェース、51:船体、54:ヘルムECU、58:リモコンECU、60:船外機、61:エンジン、63:エンジンECU、70:ステアリング、72:ステアリングECU、75:船舶制御CAN、76:推進機制御CAN、77:船内ネットワーク、80:船内システム、81:コントローラ、82:ゲージ、83:入力装置、100:船舶診断システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8