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特開2024-113781集電体、蓄電デバイス及び集電体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113781
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】集電体、蓄電デバイス及び集電体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/64 20060101AFI20240816BHJP
   H01G 11/70 20130101ALI20240816BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20240816BHJP
【FI】
H01M4/64 A
H01G11/70
H01G11/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018963
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勇一
(72)【発明者】
【氏名】奥田 匠昭
(72)【発明者】
【氏名】水谷 守
(72)【発明者】
【氏名】瀬上 正晴
【テーマコード(参考)】
5E078
5H017
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA53
5E078CA06
5E078EA04
5E078FA05
5E078FA12
5E078FA13
5E078FA15
5E078FA24
5E078FA25
5H017BB16
5H017CC05
5H017EE05
5H017HH03
5H017HH04
(57)【要約】
【課題】バイポーラ型の蓄電デバイスにおいて、内部短絡発生時の安全性をより高める。
【解決手段】本開示の集電体は、バイポーラ型蓄電デバイスに用いられる集電体であって、格子状に形成された絶縁部と、前記絶縁部の各格子内に形成された導電部と、を有し、前記絶縁部と前記導電部との全体の面積STと、前記導電部1つあたりの面積SLと、前記導電部の総面積ΣSLとが、SL/ST≦0.05及びΣSL/ST≧0.7を満たすものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイポーラ型蓄電デバイスに用いられる集電体であって、
格子状に形成された絶縁部と、前記絶縁部の各格子内に形成された導電部と、を有し、
前記絶縁部と前記導電部との全体の面積STと、前記導電部1つあたりの面積SLと、前記導電部の総面積ΣSLとが、下記式(1)及び下記式(2)を満たす、集電体。
SL/ST ≦ 0.05 ・・・(1)
ΣSL/ST ≧ 0.7 ・・・(2)
【請求項2】
前記絶縁部はアルマイト製であり、前記導電部はアルミニウム製である、請求項1に記載の集電体。
【請求項3】
SL/STは0.01以下である、請求項1又は2に記載の集電体。
【請求項4】
ΣSL/STは0.8以上である、請求項1又は2に記載の集電体。
【請求項5】
前記導電部は、矩形又は六角形である、請求項1又は2に記載の集電体。
【請求項6】
前記絶縁部の格子の太さは3mm以下である、請求項1又は2に記載の集電体。
【請求項7】
前記面積SLは、200mm2以上1000mm2以下である、請求項1又は2に記載の集電体。
【請求項8】
20個以上の前記導電部を有する、請求項1又は2に記載の集電体。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の集電体と、
前記集電体の1の面に前記絶縁部と前記導電部とに接触して形成された正極合材層と、
前記集電体の他の面に前記絶縁部と前記導電部とに接触して形成された負極合材層と、を備えた電極構造体が積層されてなる、蓄電デバイス。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の集電体の製造方法であって、
アルミニウム金属箔に所定形状のマスキング材を形成したのち、アルマイト処理を実行し、マスキング材を除去することによって、アルミニウム製の前記導電部と、アルマイト製の前記絶縁部と、を有する前記集電体を得る処理工程、
を含む集電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、集電体、蓄電デバイス及び集電体の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしては、化学エッチングにより粗面化された表面を有するステンレス箔集電体を用い、その一方の面に正極活物質層が形成され、他方の面に負極活物質層が形成されたバイポーラ電極を備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この蓄電デバイスでは、ステンレス箔集電体の表面を化学エッチングで粗面化することで、電池特性が向上するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-33769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、内部短絡発生時の安全性については検討されていなかった。そのため、バイポーラ型の蓄電デバイスにおいて、内部短絡に対処することができる集電構造が求められていた。
【0005】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、バイポーラ型の蓄電デバイスにおいて、内部短絡発生時の安全性をより高めることができる集電体、蓄電デバイス及び集電体の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究した結果、格子状に形成された絶縁部と、前記絶縁部の各格子内に形成された導電部と、を有し、絶縁部と導電部との全体の面積STと、導電部1つあたりの面積SLと、導電部の総面積ΣSLとが所定の関係を満たす集電体を用いると、バイポーラ型の蓄電デバイスにおいて、内部短絡発生時の安全性をより高めることができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する集電体は、
バイポーラ型蓄電デバイスに用いられる集電体であって、
格子状に形成された絶縁部と、前記絶縁部の各格子内に形成された導電部と、を有し、
前記絶縁部と前記導電部との全体の面積STと、前記導電部1つあたりの面積SLと、前記導電部の総面積ΣSLとが、下記式(1)及び下記式(2)を満たすものである。
SL/ST ≦ 0.05 ・・・(1)
ΣSL/ST ≧ 0.7 ・・・(2)
【0008】
本明細書で開示する蓄電デバイスは、
上述した集電体と、
前記集電体の1の面に前記絶縁部と前記導電部とに接触して形成された正極合材層と、
前記集電体の他の面に前記絶縁部と前記導電部とに接触して形成された負極合材層と、を備えた電極構造体が積層されてなるものである。
【0009】
本明細書で開示する集電体の製造方法は、
上述した集電体の製造方法であって、
アルミニウム金属箔に所定形状のマスキング材を形成したのち、アルマイト処理を実行し、マスキング材を除去することによって、アルミニウム製の前記導電部と、アルマイト製の前記絶縁部と、を有する前記集電体を得る処理工程、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、バイポーラ型の蓄電デバイスにおいて、内部短絡発生時の安全性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、バイポーラ型の蓄電デバイスでは、内部短絡が発生すると、短絡した電極全体から短絡局所に向かって集電体内を面方向に電流が集中して流れるために、短絡部位に電流が集中し発熱することがある。一方、本開示の集電体では、複数の導電部の間に絶縁部が導入され、絶縁部と導電部との全体の面積STと、導電部1つあたりの面積SLとが、SL/ST≦0.05を満たすため、内部短絡時の面方向への電流集中をより抑制することができ、その結果、発熱を抑制し、より安全性を高めることができる。また、導電部の総面積ΣSLがΣSL/ST≧0.7を満たすため、絶縁部の導入による電池性能の低下も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】蓄電デバイス10の一例を示す模式図。
図2】蓄電デバイス10の断面の一例を示す模式図。
図3】通常の充放電時の蓄電デバイス10における電流の流れを示す説明図。
図4】内部短絡発生時の蓄電デバイス10における電流の流れを示す説明図。
図5】集電体20の製造方法の一例を示す説明図。
図6】バイポーラ型電池の内部短絡の様子を模した電気回路図。
図7】実験例1,5の集電体の構造を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態で説明する本開示の集電体、蓄電デバイス及び集電体の製造方法は、バイポーラ型の蓄電デバイスに関するものである。この蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、アルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池などとしてもよい。蓄電デバイスのキャリアイオンは、リチウムイオンやナトリウムイオン、カリウムイオンなどの第1族(アルカリ金属)イオン、マグネシウムイオンやストロンチウムイオン、カルシウムイオンなどの第2族イオンなどが挙げられる。ここでは、説明の便宜のため、蓄電デバイスが、リチウムイオンをキャリアとするリチウムイオン二次電池である場合を、その主たる一例として以下説明する。
【0013】
(集電体)
実施形態で説明する本開示の集電体は、蓄電デバイスに用いられるシート状の集電体であり、格子状に形成された絶縁部と、絶縁部の各格子内に形成された導電部と、を有している。この集電体では、格子状の絶縁部により、内部短絡発生時に集電体の面内方向の通電を効果的に抑制することができる。導電部は、絶縁部の各格子内に、イオン伝導媒体が透過可能な隙間ができないように形成されている。この集電体は、絶縁部と導電部との全体の面積STと、導電部1つあたりの面積SLと、導電部の総面積ΣSLとが、下記式(1)及び(2)を満たす。
SL/ST ≦ 0.05 ・・・(1)
ΣSL/ST ≧ 0.7 ・・・(2)
【0014】
集電体において、SL/STの値は、上記式(1)を満たせばよいが、安全性をより高める観点から、より小さい方が好ましく、例えば、0.03以下が好ましく、0.02以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましい。このSL/STの値は、例えば、0.001以上としてもよく、0.003以上としてもよく、0.005超過としてもよい。
【0015】
集電体において、ΣSL/STの値は、上記式(2)を満たせばよいが、絶縁部の導入による電池性能の低下をより抑制する観点から、より大きい方が好ましく、例えば、0.75以上が好ましく、0.78以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。このΣSL/STの値は、例えば、0.98以下としてもよく、0.95以下としてもよく、0.9以下としてもよい。
【0016】
集電体において、導電部1つあたりの面積SLは、特に限定されるものではないが、例えば、50mm2以上としてもよく、100mm2以上としてもよく、200mm2以上としてもよい。また、面積SLは、例えば、10000mm2以下としてもよく、5000mm2以下としてもよく、1000mm2以下としてもよい。集電体は、20個以上の導電部を有するものとしてもよい。導電部の数は、50個以上としてもよいし、100個超過としてもよい。また、導電部の数は1000個以下としてもよいし、500個以下としてもよいし、200個以下としてもよい。各導電部は、一列に配置されていてもよいし、複数列分けて配置されていてもよい。
【0017】
集電体において、導電部は、全て同形状であるものとしてもよいし、一部又は全部の形状が異なるものとしてもよい。それにより、各導電部の面積が異なる場合、上述した面積SLは、面積が最も大きい導電部の面積とする。上述した面積ΣSLは、各導電部の面積の異同を問わず、導電部の面積の総和であり、面積STから、絶縁部の面積を差し引いた値とする。
【0018】
集電体において、絶縁部の格子の太さは、絶縁部の導入による電池性能の低下をより抑制する観点から、より小さい方が好ましく、例えば、5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2.5mm以下がさらに好ましい。絶縁部の格子の太さは、例えば、0.1mm以上としてもよく、0.5mm以上としてもよく、1mm以上としてもよい。なお、絶縁部の格子の太さは、隣り合う導電部同士の間の距離に相当する。この絶縁部の格子の太さに関し、縦方向の太さZ1と横方向の太さZ2とは、同じであってもよいし、異なってもよい(図1参照)。
【0019】
集電体において、絶縁部の格子によって区切られた導電部の一辺の長さは、安全性をより高める観点から、より小さい方が好ましく、例えば、50mm以下が好ましく、40mm以下が好ましく、30mm以下がより好ましい。導電部の一辺の長さは、例えば、5mm以上としてもよく、10mm以上としてもよく、20mm以上としてもよい。なお、導電部の一辺の長さは、導電部が矩形の場合には、絶縁部の格子間の距離に相当する。導電部の一辺の長さに関し、縦方向の長さY1と横方向の長さY2とは、同じであってもよいし、異なってもよい(図1参照)。
【0020】
集電体において、絶縁部の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、アルマイトなどの金属酸化物が好適である。また、絶縁部の材質は、金属窒化物や、金属ホウ化物としてもよい。また、絶縁部の材質は、エポキシ樹脂(EP)や、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂としてもよい。
【0021】
集電体において、導電部の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウムなどの金属が好適である。また、導電部の材質は、カーボン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などとしてもよい。導電性高分子としては、例えば、ポリチオフェン系、ポリアセチレン系、ポリアニリン系、ポリピロール系などの高分子材料が挙げられる。また、導電部は、導電材としての金属粒子や炭素粒子を分散したインクを固形化したものとしてもよい。導電材の金属は、例えば、銀などの貴金属などが挙げられる。
【0022】
集電体において、導電部は金属製で、絶縁部は導電部の金属を不導体化したものとしてもよい。こうした集電体は、例えば、導電体である金属の一部を、不導体化処理によって絶縁体にするという、比較的容易な処理によって作製できる。例えば、導電部はアルミニウム製で、絶縁部はアルマイト製であるものとしてもよい。こうした集電体は、導電体であるアルミニウムの一部を、陽極酸化処理によって絶縁体であるアルマイトにするという、比較的容易な処理によって作製できる。アルマイト製の絶縁部は、アルミニウムの陽極酸化処理によって生じる、細孔部と、多孔部と、バリア層とを有していてもよい。細孔部は、陽極酸化処理によって形成された通電孔であり、集電体の表面に開口している。多孔部は、多孔質アルミナの層であり、細孔部の周囲に形成されている。バリア層は、多孔部の底に形成された緻密な層である。バリア層の底には、素地アルミニウムが残存していてもよいが、集電体の面内方向の絶縁性を確保できる程度に十分に薄いことが望ましい。
【0023】
集電体において、隣り合う導電部と導電部との間の抵抗は、0.5Ω以上であることが好ましく、1Ω以上であるものとしてもよいし、5Ω以上であるものとしてもよい。なお、この抵抗は、絶縁部の格子による抵抗としてもよい。
【0024】
集電体において、集電体を曲率半径Rの面に沿って曲げた際の耐曲げ曲率半径Rの下限値は0.5mm程度が好ましく、それ以下であることが好ましい。この曲率半径Rは、より小さいことが集電体の柔軟性及び曲げ強度的には好ましい。この下限値は、1.0mmであるものとしてもよいし、1.5mmであるものとしてもよい。ここで、耐曲げ曲率半径Rの下限値とは、その曲率半径Rで集電体を曲げた際に、絶縁部にワレが生じない範囲としてもよい。また、耐曲げ曲率半径Rの下限値とは、その曲率半径Rで集電体を曲げた際に、絶縁部にヒビが生じてもワレが生じない範囲としてもよい。
【0025】
集電体の厚さは、特に限定されるものではないが、蓄電デバイスのエネルギー密度向上の観点からは、薄い方が好ましく、例えば、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。集電体の厚さは、イオン伝導媒体の不透過性を確保する観点から、例えば、5μm以上としてもよく、10μm以上としてもよく、20μm以上としてもよい。
【0026】
集電体において、上記式(1)及び(2)を含む上記各事項は、少なくとも、後述の正極合材層や負極合材層が形成される、合材層形成領域において満たしていればよい。その場合、絶縁部と導電部との全体の面積STは、合材層形成領域の面積と等しいものとすればよい。
【0027】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した集電体と、集電体の1の面に絶縁部と導電部とに接触して形成された正極合材層と、集電体の他の面に絶縁部と導電部とに接触して形成された負極合材層と、を備えた電極構造体が積層されてなるものである。蓄電デバイスは、いわゆるバイポーラ型の二次電池である。
【0028】
本実施形態で開示する蓄電デバイスについて図面を用いて説明する。図1は、蓄電デバイス10の一例を示す模式図である。図2は、蓄電デバイス10の一例を示す断面図である。図3は、通常の充放電時の蓄電デバイス10における電流の流れを示す説明図である。図4は、内部短絡発生時の蓄電デバイス10における電流の流れを示す説明図である。
【0029】
蓄電デバイス10は、単セル30が多段に積層された単セル積層体40と、一対の外部集電体50と、を備えている。単セル30は、集電体20と、正極合材層32と、負極合材層34と、正極合材層32と負極合材層34との間に介在するイオン伝導媒体36と、を備えている。ここでは、イオン伝導媒体36は、正極合材層32と負極合材層34との間に介在するセパレータ38に含浸されている。集電体20は、上述した集電体であり、格子状に形成された絶縁部22と、絶縁部22の各格子内に形成された導電部21と、を有している。単セル積層体40は、内部集電体としての集電体20を介して単セル30が直列になるように、つまり正極合材層32と負極合材層34とが交互になるように、多段に積層されている。この単セル積層体40は、集電体20の一方の面に正極合材層32を備え他方の面に負極合材層34を備えた電極構造体が積層された構造を有している。単セル積層体40及び外部集電体50は、外装ケース60に収容されている。
【0030】
正極合材層32は、正極活物質を含むものである。正極合材層32は、例えば、正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体20の一方の面の合材層形成領域23に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものとしてもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。前者としては、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、後者としては、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物、リチウム鉄リン酸化合物などを用いることができる。導電材としては、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。
【0031】
負極合材層34は、負極活物質を含むものである。負極合材層34は、例えば、負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体20の他方の面の合材層形成領域23に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものとしてもよい。また、負極合材層34は、負極活物質を、集電体20の他方の面の合材層形成領域23に密着させて形成したものとしてもよい。負極活物質としては、アルミニウムを集電体として利用可能であるものが好ましく、例えば、充放電電位がリチウム基準電位で0.75V以上であることが好ましく、0.8V以上、1.0V以上、1.2V以上であることが好ましい。負極活物質としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な、複数の元素を含む複合酸化物、複合材料、導電性ポリマーなどが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。複合材料としては、例えば、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体などが挙げられる。層状構造体としては、例えば、ナフタレンジカルボン酸ジリチウムやビフェニルジカルボン酸ジリチウムなどが挙げられる。導電材や結着材、溶剤については、正極合材層32と同様のものを用いることができる。
【0032】
イオン伝導媒体36は、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などとしてもよいし、水溶液系電解液としてもよい。非水系電解液の溶媒としては、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。この支持塩は、電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。
【0033】
セパレータ38は、キャリアイオンのイオン伝導を阻害せず正極合材層32と負極合材層34とを絶縁するものである。言い換えると、セパレータ38は、キャリアイオンを通し電子を通さないように構成されたものである。セパレータ38としては、蓄電デバイス10の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。このセパレータ38の厚さは、例えば、5μm以上であることが好ましく、8μm以上であることがより好ましく、10μm以上であるものとしてもよい。この厚さが5μm以上では、絶縁性を確保する上で好ましい。また、セパレータ38の厚さは、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。この厚さが15μm以下では、イオン伝導性の低下を抑制できる点や、セルに占める体積をより低減する上で好ましい。
【0034】
外部集電体50は、単セル積層体40の両端に位置する2つの単セル30の各々の外側の電極層と接するように、一対設けられている。外部集電体50は、内部短絡が発生したときの安全性をより高める観点から、集電体20と同様の構造を有するものとしてもよい。また、外部集電体50は、通常の充放電を円滑に行う観点から、例えば連続体である導体で構成されているなど、集電体20と異なる構造を有するものとしてもよい。その場合、外部集電体50には、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。外部集電体50は集電体20の導電部21と同じ材質としてもよいし異なる材質としてもよい。外部集電体50の形状は、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。外部集電体50の厚さは、集電体20の導電部21の厚さTと同じかそれよりも厚いことが好ましい。外部集電体50の厚さは、例えば500μm以下としてもよい。外部集電体50の一方と他方とは、材質及び形状が同じものとしてもよいし、材質及び形状の少なくとも一方が異なるものとしてもよい。
【0035】
外装ケース60は、単セル積層体40及び外部集電体50を収容するものであり、各外部集電体50の一部を露出させる開口を有している。外装ケース60は、例えば円筒形状に形成されている。外装ケース60の材質は、例えば、ラミネートフィルムとしてもよく、例えば、熱融着性樹脂フィルムと金属箔と剛性を有する樹脂フィルムとが内側から外側へこの順に積層された高分子金属複合フィルムとしてもよい。熱融着性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、アイオノマー、エチレンビニルアセテートなどを用いることができる。金属箔としては、例えば、アルミ箔、ニッケル箔などを用いることができる。剛性を有する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどを用いることができる。この外装ケース60には、集電体20が、熱融着性樹脂フィルムの熱融着などによって固定されていてもよい。
【0036】
この蓄電デバイス10では、通常の充放電時には、図3に示すように集電体20の厚さ方向に電流が流れる(白抜き矢印参照)。ここで、バイポーラ型電池では、内部短絡が発生すると、短絡した電極全体から短絡局所に向かって集電箔内を面方向に電流が集中して流れるために、短絡部位に電流が集中し発熱する。発熱の程度は短絡抵抗によって異なるが、時として温度が上昇し、発火するおそれもある。一方、本開示の蓄電デバイス10では、集電体20を有しており、格子状に形成された絶縁部22と、絶縁部22の各格子内に形成された導電部21と、を有している。この蓄電デバイス10では、蓄電デバイス10が内部短絡した場合、短絡箇所を含む格子内の導電部21からは短絡箇所に向かって電流が流れるが、それ以外の導電部21からは絶縁部22に遮られて、電流が大きく抑制されるため温度の上昇が抑制され、発火のおそれが低減される(図4の点線矢印参照)。バイポーラ型蓄電デバイスの充放電電流は、積層された電極を積層方向に流れるため(図3)、集電体内の電流の流れは厚さ方向である。したがって、集電体に格子状の絶縁部を導入してその部分の抵抗が高くなっても、電流は導電部を面内に流れず、厚さ方向のみに流れるため、充放電はほとんど阻害されない。例えば、絶縁部の格子の上下の電極は若干充放電しにくくなるが、集電体において、絶縁部と導電部との全体の面積STと、導電部1つあたりの面積SLと、導電部の総面積ΣSLとが、SL/ST≦0.05及びΣSL/ST≧0.7を満たすことで、安全性がより高まるのに加えて、絶縁部のない集電体とほぼ同等の充放電性能が得られる。
【0037】
この蓄電デバイス10では、絶縁部の導入による電池性能の低下を抑制する観点から、通常の充放電時のIV抵抗は、集電体として連続箔を用いた場合のIV抵抗を100%として規格化したときに、110%以下が好ましく、105%以下がより好ましい。このIV抵抗は、100%超過としてもよく、102%以上としてもよい。また、この蓄電デバイス10では、内部短絡発生時の安全性を高める観点から、短絡部の抵抗は、0.5Ω以上が好ましく、0.8Ω以上が好ましく、1Ω以上がより好ましい。この短絡部の抵抗は、例えば、1.95Ω以下としてもよく、1.9Ω以下としてもよい。また、この蓄電デバイス10では、内部短絡発生時の安全性を高める観点から、短絡部の発熱量は、30W以下が好ましく、10W以下がより好ましく、5W以下がさらに好ましい。この短絡部の発熱量は、例えば、0.95W以上としてもよい。
【0038】
(集電体の製造方法)
本開示の集電体の製造方法は、上述したバイポーラ型の蓄電デバイス10に用いられる集電体20の製造方法である。この製造方法は、アルミニウム製の導電部21と、アルマイト製の絶縁部22と、を有する集電体20を製造する方法であり、処理工程を含む。図5は、集電体20の製造方法の一例を示す説明図であり、図5Aが処理対象物70の斜視図、図5Bが処理対象物70の側面図、図5Cがアルマイト処理中の図、図5Dがアルマイト処理後の図、図5Eが除去処理後の図である。この処理工程には、形成処理と、アルマイト化処理と、除去処理とを含むものとしてもよい。
【0039】
形成処理では、アルミニウム金属箔(Al箔71)に所定形状のマスキング材72を形成した処理対象物70を得るものとしてもよい(図5A,B)。この形成処理において、マスキング材72に覆われた部分がアルミニウム製の導電部21になり、覆われない部分がアルマイト製の絶縁部22になる。この形成処理では、上述したように、絶縁部22が格子状になるようにマスキングするものとしてもよい。このとき、絶縁部22の格子の太さや導電部の一辺の長さが上述した範囲になるようにすることが好ましい。マスキング材72は、アルマイト処理に影響しない材質であることが好ましく、例えば、樹脂材料としてもよい。マスキング材72の形成は、例えば、樹脂溶液をAl箔71の表面に、除去可能な態様で塗布して固化してもよいし、所定形状のマスキング材72をAl箔71の表面に除去可能な態様で貼付してもよい。また、形成処理では、マスキング材72を形成した面と異なる面に支持体73を形成してもよい。処理対象物70が支持体73を有するものとすれば、ハンドリングがし易く、好ましい。支持体73は、例えば、Al箔71の面に予め貼付するものとしてもよい。この支持体73は、アルマイト処理に影響しない材質が好ましく、樹脂材料としてもよい。樹脂材料としては、マスキング材72と同様の材質としてもよい。
【0040】
アルマイト処理では、処理対象物70に対して所定の条件でアルマイト処理を実行する。アルマイト処理は、処理液中で通電することでAlを強制的に酸化する処理である。この製造方法では、Al箔71の厚さ方向全てを酸化するものとする(図5D)。アルマイト処理では、処理を行う面の脱脂処理などを行い、清浄化を図ることが好ましい。処理液としては、例えば、硫酸やシュウ酸などが挙げられ、硫酸が好ましい。また、処理条件は、より穏和な条件がアルマイト製の絶縁部22の柔軟性に関して好ましく、例えば、印加する電圧は、15V以下、10V以下、あるいは8V以下が好ましい。処理効率の観点から、印加する電圧は、5V以上としてもよい。また、処理時間は、Al箔71の厚さに応じて適宜設定すればよいが、1時間以上や、2時間以上、3時間以上などを適宜選択すればよい。
【0041】
除去処理では、マスキング材72を除去することによって、アルミニウム金属の領域である導電部21と、導電部21の複数の領域に隣接しアルミニウム金属がアルマイト化された領域である絶縁部22と、を有する集電体20を得る。除去処理では、貼付されたマスキング材72を剥がす処理を行うものとしてもよい。また、支持体73を有する場合は、支持体73も除去する。このようにして、アルミニウム製の導電部21とアルマイト製の絶縁部22とを有する集電体20を作製することができる。
【0042】
以上詳述した集電体20及び蓄電デバイス10では、バイポーラ型の蓄電デバイスにおいて、内部短絡発生時の安全性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、バイポーラ型の蓄電デバイス10では、内部短絡が発生すると、短絡した電極全体から短絡局所に向かって集電体内を面方向に電流が集中して流れるために、短絡部位に電流が集中し発熱することがある。一方、本開示の集電体20では、導電部21の領域の間に絶縁部22が存在するため、内部短絡時の面方向への電流集中をより抑制することができ、その結果、発熱を抑制し、より安全性を高めることができる。
【0043】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0044】
例えば、上述した実施形態では、絶縁部22を矩形の格子状とし、導電部21の領域を矩形として説明したが、円形や楕円形、六角形や八角形など多角形としてもよい。
【0045】
上述した実施形態では、正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極活物質としたが、特に限定されず、例えば、キャパシタに用いられる炭素材料としてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着、脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入、脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0046】
上述した実施形態では、Al箔71をアルマイト化処理して、アルマイト製の絶縁部22と、アルミニウム製の導電部21を有する集電体20を作製したが、集電体20の製造方法は特に限定されない。集電体20は、以下のように製造してもよい。例えば、まず、集電箔を打ち抜いて、格子状の絶縁部22に対応するスリットを形成する。このスリットに絶縁部22の原料として液状の原料を充填し、スリット内で硬化させ、必要に応じてプレスにより形状を整え、集電シート20としてもよい。集電箔の表面にはみ出した絶縁部22の原料など、導電部21上に存在する余分な絶縁体は、硬化前に除去するものとしてもよいし、硬化後に除去してもよい。あるいは、スリットの形状に合わせて成形した絶縁部22の原料をスリットに嵌め込み、必要に応じて軟化及び硬化をさせて密着させ、必要に応じてプレスにより形状を整え、集電シート20としてもよい。
【0047】
本開示は、以下の[1]~[10]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] バイポーラ型蓄電デバイスに用いられる集電体であって、
格子状に形成された絶縁部と、前記絶縁部の各格子内に形成された導電部と、を有し、
前記絶縁部と前記導電部との全体の面積STと、前記導電部1つあたりの面積SLと、前記導電部の総面積ΣSLとが、下記式(1)及び下記式(2)を満たす、集電体。
SL/ST ≦ 0.05 ・・・(1)
ΣSL/ST ≧ 0.7 ・・・(2)
[2] 前記絶縁部はアルマイト製であり、前記導電部はアルミニウム製である、[1]に記載の集電体。
[3] SL/STは0.01以下である、[1]又は[2]に記載の集電体。
[4] ΣSL/STは0.8以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の集電体。
[5] 前記導電部は、矩形又は六角形である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の集電体。
[6] 前記絶縁部の格子の太さは3mm以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の集電体。
[7] 前記面積SLは、200mm2以上1000mm2以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の集電体。
[8] 20個以上の前記導電部を有する、[1]~[7]のいずれか1つに記載の集電体。
[9] [1]~[8]のいずれか1つに記載の集電体と、
前記集電体の1の面に前記絶縁部と前記導電部とに接触して形成された正極合材層と、
前記集電体の他の面に前記絶縁部と前記導電部とに接触して形成された負極合材層と、を備えた電極構造体が積層されてなる、蓄電デバイス。
[10] [1]~[8]のいずれか1つに記載の集電体の製造方法であって、
アルミニウム金属箔に所定形状のマスキング材を形成したのち、アルマイト処理を実行し、マスキング材を除去することによって、アルミニウム製の前記導電部と、アルマイト製の前記絶縁部と、を有する前記集電体を得る処理工程、
を含む集電体の製造方法。
【実施例0048】
以下には、上述した蓄電デバイスについて実験で検討した例を実験例として説明する。なお、実験例1~5が実施例に相当し、実験例6~9が比較例に相当する。
【0049】
(電気回路計算)
バイポーラ型電池では、通常の充放電時には集電体の厚さ方向に電流が流れ、内部短絡時には集電体の面内方向に電流が流れる。図6は、バイポーラ型電池の内部短絡の様子を模した電気回路図である。
【0050】
図6Aは、集電体として、連続箔を備えたバイポーラ型電池の内部短絡の様子を模した電気回路図である。ここでは、バイポーラ型電池は、電圧V、内部抵抗Riの単セルが、N個直列に繋がっているものとした。そして、破線で示した単セルに内部短絡が発生したと仮定して、短絡部に流れる短絡電流Isnを計算し、さらに、短絡部の発熱量Wsnを計算した。なお、短絡部の発熱は、Ri=Rs(電池の内部抵抗と短絡抵抗が同じ)の条件で最大になることから(例えば、NTTファシリティーズ総研レポート No.28 2017年6月 p44-46参照)、Ri=Rsとして計算した。その結果は、下記式(3)及び下記式(4)のようになった。
Isn=V・(1/(2Ri)-(1/2)・(N-1/2)/(3.5Ri+Rt)) ・・・(3)
Wsn=(Isn)2×Ri ・・・(4)
【0051】
図6Bは、集電体として、格子状の絶縁部で導電部をn個に分割した構造を有する分割箔を備えたバイポーラ型電池の内部短絡の様子を模した電気回路図である。このような分割箔を用いると、連続箔を用いた場合には「電圧V、内部抵抗Riの単セル」が、分割後は「電圧V、内部抵抗nRiの分割セルが並列に接続」した状態になり、それがN個直列に繋がっているものとした。そして、破線で示した分割セルに内部短絡が発生したと仮定して、短絡部に流れる短絡電流Isbを計算し、さらに、短絡部の発熱量Wsbを計算した。なお、短絡部の発熱の計算は、連続箔を用いた場合と同様、Ri=Rsとして計算した。その結果は、下記式(5)及び下記式(6)のようになった。
Isb=V・(1/(2Ri)-(1/2)・(N-1/2)/(3.5Ri+Rt))/n ・・・(5)
Wsb=(Isb)2×nRi ・・・(6)
【0052】
以上より、連続箔と分割箔とでは、短絡部の抵抗及び発熱量が、下記式(7)及び下記式(8)の関係にあることがわかった。この関係から、分割数nに応じて短絡部の電流値及び発熱量を制御・抑制することができることがわかった。なお、これらの式へ、抵抗値及び電圧を代入して計算される値は、市販の電気回路シミュレータ(例えば、TopSpice)を利用して算出される値と一致した。
Isb/Isn=1/n ・・・(7)
Wsb/Wsn=1/n ・・・(8)
【0053】
(集電体の作製)
図5に示すような処理を経て、例えば図7に示すような集電体を作製した。厚さ15μmのアルミニウム箔(A1000系)に、所定形状のマスキングテープを、所定数、所定の間隔で貼布した(図5A)。マスキングテープが貼付されていない裏面に、支持材としてのポリプロピレン(PP)フィルムを貼布したのちに、脱脂処理を行い、マスキングテープが貼布されている側のアルミニウム面を清浄にした試料を得た。この試料を硫酸電解液中に浸漬し、陽極酸化法の処理電圧と処理時間を変化させて15μmの厚さをほぼ全てを、マスキングテープを貼布した側のAl面からアルマイト化し、格子状にアルマイト化したアルミニウム集電体を得た。アルマイトの処理電圧は一般的な20Vの1/3程度の7Vで行った。処理時間は、3時間とした。アルマイト化した試料は、マスキングテープの除去、PPフィルムの除去を行い、評価に供した。
【0054】
(実験例1)
図7Aに示すように、20mm×20mmの矩形のマスキングテープを10個×10個=100個、2mm間隔で貼布して、上述の手順で格子状にアルマイト化して、実験例1のアルミニウム集電体を得た。面積STは49284mm2とした。
(実験例2)
16mm×16mmの矩形のマスキングテープを12個×12個=144個、2mm間隔で貼付して、上述の手順で格子状にアルマイト化して、実験例2のアルミニウム集電体を得た。面積STは47524mm2とした。
(実験例3)
16mm×20mmの矩形のマスキングテープを、12個×10個=120個、2mm間隔で貼付して、上述の手順で格子状にアルマイト化して、実験例3のアルミニウム集電体を得た。面積STは48396mm2とした。
(実験例4)
24mm×24mmの矩形のマスキングテープを、9個×9個=81個、2mm間隔で貼付して、上述の手順で格子状にアルマイト化して、実験例4のアルミニウム集電体を得た。面積STは55696mm2とした。
(実験例5)
図7Bに示すように、1辺が12.4mmの六角形のマスキングテープを、96個相当分、2mm間隔で貼付して、上述の手順で格子状にアルマイト化して、実験例5のアルミニウム集電体を得た。面積STは47637mm2とした。
(実験例6)
108mm×108mmの矩形のマスキングテープを2個×2個=4個、2mm間隔で貼付して、上述の手順で格子状にアルマイト化して、実験例6のアルミニウム集電体を得た。面積STは49284mm2とした。
(実験例7)
53mm×53mmの矩形のマスキングテープを4個×4個=16個、2mm間隔で貼付して、上述の手順で格子状にアルマイト化して、実験例7のアルミニウム集電体を得た。面積STは49284mm2とした。
(実験例8)
16mm×16mmの矩形のマスキングテープを11個×11個=121個、4mm間隔で貼付して、上述の手順で格子状にアルマイト化して、実験例8のアルミニウム集電体を得た。面積STは50176mm2とした。
(実験例9)
アルマイト化していないアルミニウム箔そのままを、実験例9のアルミニウム集電体とした。面積STは49284mm2とした。
【0055】
(蓄電デバイスの作製)
上述した集電体を用い、ニッケル酸リチウムを正極活物質とし、チタン酸リチウムを負極活物質とするバイポーラ型の電池を作製した。具体的には、集電体の片側の面に正極合材を、もう一方の面に負極合材を塗布し、プレスしたのち、セパレータを介して電極体を積層した。なお、正極合材及び負極合材は、図7の電極材塗布部(図1の合材層形成領域23)に塗布した。そして電解液を注液して、シールしてバイポーラ型電池を形成した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を等体積比で混合した混合溶媒に1mol/LのLiPF6を溶解させた溶液を用いた。なお、この蓄電デバイスでは、負極活物質として、充放電電位が1.5V vs.Li+/Liと高いチタン酸リチウムを用いているため、正負極とも集電箔としてAlを使用可能である。実験例1~9の蓄電デバイスでは、いずれも、単セル電圧は2.7V、単セル容量は2Ah、単セル内部抵抗Riは10mΩであった。
【0056】
(IV抵抗の評価)
上述した蓄電デバイスを用い、所定の直流電流Iを10秒間通電後、その電位降下ΔVを測定し、R=ΔV/Iを算出し、これをIV抵抗とした。このIV抵抗は、通常の充放電時の抵抗である。表1に、実験例1~9のIV抵抗を示した。表1では、実験例9の集電体、つまり未処理のアルミ箔を用いた場合のIV抵抗を100%として規格化した値を示した。絶縁部の面積比が大きい場合、すなわちΣSL/STが小さい場合ほどIV抵抗は高い値となった。これは、絶縁部の分だけ電子抵抗が大きくなったためと推察された。ΣSL/ST≧0.7の範囲では抵抗の上昇は10%以内、ΣSL/ST≧0.8の範囲では抵抗の上昇は5%以内と見積もられ、こうした範囲とすることが好ましいと推察された。
【0057】
なお、実験例1と実験例5とは、導電部1つあたりの面積はほぼ同じであるが、導電部を六角形にした実験例5の方が、導電部を矩形にした実験例1よりもIV抵抗値が低い値となった。これは、平面充填可能な図形として、三角形、矩形、六角形などが挙げられるが、同じ面積で周長を最も短くできるのは六角形であるため、実験例5の方が、絶縁部の格子の幅が同じでも絶縁部の面積が小さくなり、ΣSL/STが大きくなったためと推察された。こうした観点から、導電部の形状は、矩形や六角形が好ましく、六角形がより好ましいと推察された。
【0058】
(短絡部抵抗及び発熱量の評価)
内部短絡時の短絡部の抵抗及び発熱量を、上記式(3)~(8)によって求めた。表1に、実験例1~9の短絡部抵抗及び発熱量の計算結果を示した。短絡部の発熱量が大きいと、それによって、熱暴走を生じるおそれがあるが、表1に示すように、分割箔を用いた実験例1~8では、連続箔を用いた実験例9の発熱量の1/4以下と小さく、熱暴走を抑制できることがわかった。実験例1~8を比較すると、SL/STが小さいほど短絡部の発熱量が小さく、SL/ST≦0.1を満たす実験例1~5では、連続箔を用いた実験例9の発熱量の1/100以下と小さかった。このことから、SL/ST≦0.05を満たすものとすれば、熱暴走をより抑制することができ、SL/ST≦0.01を満たすものとすれば、熱暴走をさらに抑制できることができ、好ましいことがわかった。
【0059】
【表1】
【0060】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示は、蓄電デバイスの技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 蓄電デバイス、20 集電体、21 導電部、22 絶縁部、23 合材層形成領域、30 単セル、32 正極合材層、34 負極合材層、36 イオン伝導媒体、38 セパレータ、40 単セル積層体、50 外部集電体、60 外装ケース、70 処理対象物、71 Al箔、72 マスキング材、73 支持体、74 細孔部、75 多孔部、76 バリア層、Y1,Y2 長さ、Z1,Z2 太さ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7