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特開2024-113786画像処理装置、印刷システムおよび画像処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113786
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】画像処理装置、印刷システムおよび画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/12 20060101AFI20240816BHJP
   G06T 15/50 20110101ALI20240816BHJP
   G06T 19/00 20110101ALI20240816BHJP
   H04N 1/54 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G06F3/12 344
G06T15/50
G06T19/00 A
H04N1/54
G06F3/12 308
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018975
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山下 充裕
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐子
【テーマコード(参考)】
5B050
5B080
【Fターム(参考)】
5B050AA09
5B050BA06
5B050BA09
5B050BA18
5B050BA20
5B050CA03
5B050CA07
5B050EA09
5B050EA19
5B050EA26
5B050FA02
5B050FA05
5B050FA12
5B050FA13
5B080AA13
5B080BA03
5B080BA05
5B080CA04
5B080FA01
5B080FA02
5B080FA03
5B080FA14
5B080FA17
5B080GA22
5B080GA23
(57)【要約】
【課題】透明又は半透明な印刷媒体を用いて作成される印刷物の現実空間での見えを違和感なく再現する技術を提供する。
【解決手段】画像処理装置は、印刷層の遮蔽度を算出する遮蔽度算出部と、レンダリング部とを備える。レンダリング部は、色変換が施された画像データを3Dオブジェクトに対応付け、印刷層の遮蔽度を用いてレンダリングを実行することによって、表面側から印刷物を観察した表面側ビューと、裏面側から印刷物を観察した裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データを取得する画像データ取得部と、
印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得部と、
前記画像データに前記印刷条件に応じた色変換を施す色変換部と、
透明又は半透明である前記印刷媒体の表面上に印刷層が形成される印刷物に関して、前記印刷層の遮蔽度を算出する遮蔽度算出部と、
前記印刷媒体の形状を表す3Dオブジェクトに前記色変換が施された前記画像データを対応付けてレンダリングを実行することにより、前記印刷物を表すレンダリング画像を生成するレンダリング部と、
を備え、
前記レンダリング部は、前記印刷層の前記遮蔽度を用いて前記レンダリングを実行することによって、表面側から前記印刷物を観察した表面側ビューと、裏面側から前記印刷物を観察した裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成するように構成されている、画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置であって、更に、
前記印刷媒体の質感を表す質感パラメーターを取得するパラメーター取得部を備え、
前記レンダリング部は、前記3Dオブジェクトに前記質感パラメーターを対応付けて前記レンダリングを実行するように構成されている、画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
前記質感パラメーターは、前記印刷媒体の遮蔽度を表す媒体遮蔽度情報を含む、画像処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記印刷物は、前記印刷媒体の表面上に、裏面側から観察される裏面画像が形成された裏面層と、特色インクで形成された特色層と、表面側から観察される表面画像が形成された表面層と、がこの順に積層された第1印刷層が形成される第1印刷物であり、
前記遮蔽度算出部は、前記裏面層と前記特色層と前記表面層のそれぞれについて前記遮蔽度を算出し、
前記レンダリング部は、前記裏面層と前記特色層と前記表面層のそれぞれの前記遮蔽度を用いて前記レンダリングを実行することによって、表面側から前記第1印刷物を観察した第1表面側ビューと、裏面側から前記第1印刷物を観察した第1裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成するように構成されている、画像処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記印刷物は、前記印刷媒体の表面上に、特色インクで形成された特色層と、表面側から観察される表面画像が形成された表面層と、がこの順に積層された第2印刷層が形成される第2印刷物であり、
前記遮蔽度算出部は、前記特色層と前記表面層のそれぞれについて前記遮蔽度を算出し、
前記レンダリング部は、前記特色層と前記表面層のそれぞれの前記遮蔽度を用いて前記レンダリングを実行することにより、表面側から前記第2印刷物を観察した第2表面側ビューと、裏面側から前記第2印刷物を観察した第2裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成するように構成されている、画像処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記印刷物は、前記印刷媒体の表面上に、裏面側から観察される裏面画像が形成された裏面層と、特色インクで形成された特色層と、がこの順に積層された第3印刷層が形成される第3印刷物であり、
前記遮蔽度算出部は、前記裏面層と前記特色層のそれぞれについて前記遮蔽度を算出し、
前記レンダリング部は、前記裏面層と前記特色層のそれぞれの前記遮蔽度を用いて前記レンダリングを実行することにより、表面側から前記第3印刷物を観察した第3表面側ビューと、裏面側から前記第3印刷物を観察した第3裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成するように構成されている、画像処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記色変換部は、
入力プロファイルを用いた、入力色空間から機器非依存色空間への第1色変換と、
メディアプロファイルを用いた、前記機器非依存色空間から印刷装置用の機器依存色空間への第2色変換と、
前記メディアプロファイルを用いた、前記機器依存色空間から前記機器非依存色空間への第3色変換と、
共通色空間プロファイルを用いた、前記機器非依存色空間からレンダリング用色空間への第4色変換と、
をこの順に実行することによって、入力画像データをマネージド画像データに変換する処理であり、
前記レンダリング部は、前記マネージド画像データを用いて前記レンダリングを実行する、画像処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の画像処理装置であって、
前記遮蔽度算出部は、前記第1色変換と前記第2色変換とを行うことによって得られたデバイスカラー画像データを用いて前記印刷層の前記遮蔽度を画素毎に算出する、画像処理装置。
【請求項9】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記3Dオブジェクトは、平行に配置した第1ポリゴンオブジェクトと第2ポリゴンオブジェクトとで構成されており、
前記レンダリング部は、前記第1ポリゴンオブジェクトを用いて前記印刷媒体に関する前記レンダリングを実行し、前記第2ポリゴンオブジェクトを用いて前記印刷層に関する前記レンダリングを実行する、画像処理装置。
【請求項10】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記3Dオブジェクトは、1つのポリゴンオブジェクトで構成されており、
前記レンダリング部は、前記ポリゴンオブジェクトを用いて前記印刷媒体と前記印刷層とを含む前記印刷物に関する前記レンダリングを実行する、画像処理装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の画像処理装置と、
前記画像処理装置によって生成された前記レンダリング画像を表示する表示装置と、
前記印刷物を印刷する印刷装置と、
を備える、印刷システム。
【請求項12】
画像データを取得する画像データ取得機能と、
印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得機能と、
前記画像データに前記印刷条件に応じた色変換を施す色変換機能と、
透明又は半透明である前記印刷媒体の表面上に印刷層が形成される印刷物に関して、前記印刷層の遮蔽度を算出する遮蔽度算出機能と、
前記印刷媒体の形状を表す3Dオブジェクトに前記色変換が施された前記画像データを対応付けてレンダリングを実行することにより、前記印刷物を表すレンダリング画像を生成するレンダリング機能と、
をコンピューターに実行させ、
前記レンダリング機能は、前記印刷層の前記遮蔽度を用いて前記レンダリングを実行することによって、表面側から前記印刷物を観察した表面側ビューと、裏面側から前記印刷物を観察した裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成する機能を含む、画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像処理装置、印刷システムおよび画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、透明な記録媒体に対して裏刷りを行うことが指定された印刷物について、印刷物の表面側からみた表示用画像と裏面側から見た表示用画像を生成して表示する画像処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-201264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、透明な印刷媒体を用いて印刷される印刷物について、現実空間での見えを違和感なく再現する点で改良の余地があった。これは、透明な印刷媒体を用いる場合に限らず、半透明な印刷媒体を用いる場合や、不透明な印刷媒体を使用する場合にも共通する課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の形態によれば、画像処理装置が提供される。この画像処理装置は、画像データを取得する画像データ取得部と、印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得部と、前記画像データに前記印刷条件に応じた色変換を施す色変換部と、透明又は半透明である前記印刷媒体の表面上に印刷層が形成される印刷物に関して、前記印刷層の遮蔽度を算出する遮蔽度算出部と、前記印刷媒体の形状を表す3Dオブジェクトに前記色変換が施された前記画像データを対応付けてレンダリングを実行することにより、前記印刷物を表すレンダリング画像を生成するレンダリング部と、を備える。前記レンダリング部は、前記印刷層の前記遮蔽度を用いて前記レンダリングを実行することによって、表面側から前記印刷物を観察した表面側ビューと、裏面側から前記印刷物を観察した裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成するように構成されている。
【0006】
本開示の第2の形態によれば、印刷システムが提供される。この印刷システムは、前記第1の形態の前記画像処理装置と、前記画像処理装置によって生成された前記レンダリング画像を表示する表示装置と、前記印刷物を印刷する印刷装置と、を備える。
【0007】
本開示の第3の形態によれば、画像処理プログラムが提供される。この画像処理プログラムは、画像データを取得する画像データ取得機能と、印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得機能と、前記画像データに前記印刷条件に応じた色変換を施す色変換機能と、透明又は半透明である前記印刷媒体の表面上に印刷層が形成される印刷物に関して、前記印刷層の遮蔽度を算出する遮蔽度算出機能と、前記印刷媒体の形状を表す3Dオブジェクトに前記色変換が施された前記画像データを対応付けてレンダリングを実行することにより、前記印刷物を表すレンダリング画像を生成するレンダリング機能と、をコンピューターに実行させる。前記レンダリング機能は、前記印刷層の前記遮蔽度を用いて前記レンダリングを実行することによって、表面側から前記印刷物を観察した表面側ビューと、裏面側から前記印刷物を観察した裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成する機能を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】透明な印刷媒体上に印刷された印刷物の例1を示す説明図。
図2】透明な印刷媒体上に印刷された印刷物の例2を示す説明図。
図3】透明な印刷媒体上に印刷された印刷物の例3を示す説明図。
図4】透明な印刷媒体上に印刷された印刷物の例4を示す説明図。
図5】透明な印刷媒体上に印刷された印刷物の例5を示す説明図。
図6】仮想空間において印刷物の表面側を観察する様子を模式的に示す説明図。
図7】仮想空間において印刷物の裏面側を観察する様子を模式的に示す説明図。
図8】印刷システムの構成を示す説明図。
図9】画像処理装置の構成を示す説明図。
図10】画像データ入力用ユーザーインターフェースの例を示す説明図。
図11】前処理部の機能を示す説明図。
図12】カラーマネージメントシステムの処理内容を示す説明図。
図13】遮蔽度算出部が表面層遮蔽度マップを求める処理の内容を示す説明図。
図14】特色層設定部の処理内容を示す説明図。
図15】遮蔽度算出部が特色層遮蔽度マップを求める処理の内容を示す説明図。
図16】特色層色彩値算出部の処理内容を示す説明図。
図17】媒体色彩値算出部の処理内容を示す説明図。
図18】媒体遮蔽度情報の例を示す説明図。
図19】レンダリング部の構成を示す説明図。
図20】レンダリング部の処理を示すフローチャート。
図21】第2実施形態において印刷物の表面側を観察する様子を模式的に示す説明図。
図22】第2実施形態において印刷物の裏面側を観察する様子を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、印刷媒体上に印刷された印刷物の例1を示す説明図である。この印刷物PT1は、印刷媒体PMに印刷層PLが印刷されたものである。印刷層PLは、印刷媒体PMの表面上に、裏面側から観察される裏面画像RGが形成された裏面層RLと、特色インクで形成された特色層WLと、表面側から観察される表面画像SGが形成された表面層SLと、がこの順に積層されたものである。各層の厚さは、図示の便宜上、誇張されている。
【0010】
本開示において、印刷媒体PMの「表面」とは、印刷媒体PMの2つの面のうちで、印刷層PLが形成される側の面を意味する。印刷物PT1の「表面」とは、印刷物PT1の2つの面のうちで、印刷媒体PMの表面を含む側の面を意味する。「裏面」は、「表面」と反対側の面である。
【0011】
印刷媒体PMは、例えば、透明プラスチックシートなどの透明なシートである。但し、印刷媒体PMは、半透明でもよい。「透明」な印刷媒体PMは、例えば、可視光の平均透過率が80%以上であるものとしてもよい。また、「半透明」な印刷媒体PMは、例えば、可視光の平均透過率が30%以上80%未満であるものとしてもよい。以下の実施形態では、透明な印刷媒体PMを用いる場合の処理を説明するが、半透明な印刷媒体を用いる場合もほぼ同じ処理を適用できる。
【0012】
印刷物PT1を、印刷媒体PMの表面側から観察すると表面画像SGが見え、裏面側から観察すると裏面画像RGが見える。裏面画像RGは、裏面側から観察したときに正しい向きに見えるように、鏡像反転した画像として印刷媒体PMの表面上に印刷される。
【0013】
特色層WLにおいて特色インクが塗布される特色領域WGは、表面画像SGと裏面画像RGを包含する領域である。図1では、特色領域WGが、表面画像SGと裏面画像RGの和領域よりも大きな領域として描かれているが、表面画像SGと裏面画像RGの和領域と同じ大きさを有するものとしてもよい。特色層WLは、表面画像SGや裏面画像RGの下地として機能するので、「下地層」と呼ぶことも可能である。
【0014】
特色インクとしては、白色インクや、銀色または金色のようなメタリック色インクを使用することができる。「特色」とは、通常のカラー印刷に使用されるプロセスカラーCMYKとは異なる特別な色であり、スポットカラーとも呼ばれている。本実施形態では、特色インクとして白色インクを使用する。
【0015】
図2~5は、透明な印刷媒体上に印刷された印刷物の他の例2~5を示す説明図である。図2の印刷物PT2は、透明な印刷媒体PMの表面上に、特色層WLと表面層SLとがこの順に積層された印刷層PLを有している。この印刷物PT2は、表面側からの観察のみを想定しており、裏面側から観察すると特色層WLの特色領域WGが見える。なお、この印刷物PT2については、透明又は半透明である印刷媒体を用いてもよく、或いは、不透明で下地に色がついた印刷媒体を用いてもよい。
【0016】
図3の印刷物PT3は、透明な印刷媒体PMの表面上に、裏面層BPと特色層WLとがこの順に積層された印刷層PLを有している。この印刷物PT3は、裏面側からの観察のみを想定しており、表面側から観察すると特色層WLの特色領域WGが見える。
【0017】
図4の印刷物PT4は、透明な印刷媒体PMの表面上に、表面層SLのみが印刷層として形成された構成を有している。この印刷物PT4は、表面側からの観察のみを想定しているが、裏面側から観察すると表面画像SGの鏡面反転画像SGrが見える。
【0018】
図5の印刷物PT5は、透明な印刷媒体PMの表面上に、裏面層RLのみが印刷層として形成された構成を有している。この印刷物PT5は、裏面側からの観察のみを想定しているが、表面側から観察すると裏面画像RGの鏡面反転画像RGrが見える。
【0019】
図1図5に示したように、レンダリングの対象物は、透明又は半透明な印刷媒体PMの上に、表面層SLと裏面層RLの少なくとも一方を含む印刷層が形成される印刷物とすることができる。
【0020】
本実施形態の画像処理装置は、上述した印刷物PT1~PT5を対象として、表面側から印刷物を観察した表面側ビューと、裏面側から印刷物を観察した裏面側ビューを、それぞれレンダリング画像として生成することが可能である。以下の説明では、主として図1に示した印刷物PT1の表面側ビューと裏面側ビューを生成する場合を想定する。
【0021】
図6は、仮想空間において印刷物の表面側を観察する様子を模式的に示す説明図であり、図7は、仮想空間において印刷物の裏面側を観察する様子を模式的に示す説明図である。印刷物は3DオブジェクトOBJ(3-Dimensional Object)として表現される。3DオブジェクトOBJは、印刷媒体PMに関するレンダリングを行うための第1のポリゴンオブジェクトPOaと、印刷層PLに関するレンダリングを行うための第2のポリゴンオブジェクトPObとを備えている。後述するように、印刷媒体PMに関する質感パラメーターの一部は、第2のポリゴンオブジェクトPObに適用してもよい。「印刷媒体PMに関するレンダリングを行うための第1のポリゴンオブジェクトPOa」という語句の意味は、第1のポリゴンオブジェクトPOaを用いたレンダリングにおいて、少なくとも印刷媒体PMの画素値が決定されることを意味する。
【0022】
2つのポリゴンオブジェクトPOa,PObは、平行に配置されている。第1のポリゴンオブジェクトPOaの法線ベクトルNpの方向は、3DオブジェクトOBJの表面側を向いている。この3DオブジェクトOBJは、光源LSによって照明されており、カメラCMで撮影される。ポリゴンオブジェクトPOa,PObは、いずれもオクルージョンカリングがオフとされる。換言すれば、レンダリング処理において、3DオブジェクトOBJは透明オブジェクトとして扱われる。
【0023】
図6及び図7では、便宜上、2つのポリゴンオブジェクトPOa,PObとの間の距離が大きく描かれているが、実際の距離は、印刷媒体PMの厚みとほぼ同じである。
【0024】
ポリゴンオブジェクトPOa,PObは、1枚のポリゴンでそれぞれ構成されていてもよく、或いは、複数の小さなポリゴン(マイクロポリゴン)でそれぞれ構成されていてもよい。ポリゴンオブジェクトを複数のマイクロポリゴンで構成するようにすれば、平面状の印刷物のレンダリング画像のみでなく、曲面状の印刷物のレンダリング画像も容易に生成できる。
【0025】
図6及び図7では、レンダリング処理に使用される座標系として、3DオブジェクトOBJの3次元直交座標系であるローカル座標系Σm(モデル座標系ともいう)と、仮想空間の3次元直交座標系であるワールド座標系Σg(グローバル座標系ともいう)と、仮想空間に配置されたカメラCMの3次元直交座標系であるビュー座標系Σc(カメラ座標系ともいう)とが描かれている。レンダリング処理では、カメラCMから視たシーンが投影されるスクリーンの座標系であるスクリーン座標系などの他の座標系も使用されるが、図6及び図7では省略されている。
【0026】
図6に示すように、3DオブジェクトOBJの表面側にカメラCMの視線方向を向けた状態に関しては、カメラCMを通して3DオブジェクトOBJの表面側を観察した表面側ビューがレンダリング画像として生成される。一方、図7に示すように、3DオブジェクトOBJの裏面側にカメラCMの視線方向を向けた状態に関しては、カメラCMを通して3DオブジェクトOBJの裏面側を観察した裏面側ビューがレンダリング画像として生成される。
【0027】
図8は、第1実施形態の画像処理装置100を備える印刷システム10の構成を示す説明図である。印刷システム10は、画像処理装置100と、入力装置200と、表示装置300と、印刷装置400とを備えている。画像処理装置100は、物理ベースレンダリング(以下、単にレンダリングという)により、仮想空間に配置された印刷物を表すレンダリング画像を生成して、レンダリング画像を表示装置300に表示させる。レンダリング画像は、印刷物の印刷実行前に、プレビュー画像として表示することができる。
【0028】
画像処理装置100は、プロセッサー101と、メモリー102と、入出力インターフェース103と、内部バス104とを備えている。プロセッサー101、メモリー102、および、入出力インターフェース103は、内部バス104を介して、双方向に通信可能に接続されている。メモリー102は、メインメモリーやビデオメモリーを含む揮発性メモリーと、ハードディスクやSSD(Solid State Drive)などの不揮発性メモリーとを含んでいる。入力装置200、表示装置300、および、印刷装置400は、有線通信あるいは無線通信により画像処理装置100の入出力インターフェース103に接続されている。入力装置200は、例えば、キーボードやマウスであり、表示装置300は、例えば、液晶ディスプレイである。入力装置200および表示装置300は、タッチパネルとして一体化されていてもよい。印刷装置400は、例えば、インクジェットプリンターであり、複数種類のインクを用いて印刷媒体に画像を印刷する。
【0029】
図9は、画像処理装置100の構成を示す説明図である。画像処理装置100は、画像データ取得部110と、カラープロファイル取得部120と、印刷条件取得部130と、パラメーター取得部140と、前処理部150と、レンダリング部160とを備えている。これらの各部の機能は、メモリー102に予め記憶されている画像処理プログラムPGをプロセッサー101が実行することによりソフトウェア的に実現される。但し、各部の機能の一部をハードウェア回路で実現してもよい。
【0030】
前処理部150は、カラーマネージメントシステム151と、遮蔽度算出部152と、特色層設定部153と、特色層色彩値算出部154と、媒体色彩値算出部155と、を含んでいる。なお、カラーマネージメントシステム151のことを「色変換部」と呼ぶことがある。
【0031】
画像データ取得部110は、入力画像データを取得する。本実施形態では、入力画像データには、表面画像SGを表す表面画像データと、裏面画像RGを表す裏面画像データと、特色層WLの特色領域WGを表すデータと、が含まれる。画像データ取得部110により取得された入力画像データは、前処理部150に送信される。
【0032】
カラープロファイル取得部120は、カラーマネージメントシステム151による色変換に使用されるカラープロファイルとして、入力カラープロファイルと、メディアプロファイルと、共通色空間プロファイルとを取得する。入力プロファイルは、入力画像データで使用されている入力色空間から機器非依存色空間への色変換に用いられるICCプロファイルである。入力色空間は、例えば、RGB色空間である。機器非依存色空間は、例えば、CIE-L(以下、単に「Lab」と記載する)色空間や、CIE-XYZ色空間である。メディアプロファイルは、機器非依存色空間から印刷装置400用の機器依存色空間への色変換に用いられるICCプロファイルである。印刷装置400用の機器依存色空間は、例えば、CMYK色空間やRGB色空間である。印刷装置400用の機器依存色空間の色を、「デバイスカラー」とも呼ぶ。共通色空間プロファイルは、機器非依存色空間からレンダリング用色空間への色変換に用いられるICCプロファイルである。レンダリング用色空間は、例えば、sRGBや、AdobeRGB、Display-P3などの表示装置300用の色空間である。カラープロファイル取得部120は、印刷装置400と表示装置300の種類に応じて、メモリー102に予め記憶されているカラープロファイルを取得する。これらのカラープロファイルは、カラーマネージメントシステム151に送信される。なお、カラープロファイル取得部120は、ネットワークを介して外部サーバーからカラープロファイルを取得してもよい。
【0033】
印刷条件取得部130は、印刷媒体PMの種類やサイズを含む印刷条件を取得する。印刷条件には、印刷媒体PMの種類やサイズの他に、例えば、印刷の解像度や、重ね印刷の有無などの条件が含まれる。「印刷媒体PMの種類」は、印刷媒体PMが、透明か半透明かの区別も示す情報である。印刷条件取得部130により取得された印刷条件は、カラープロファイル取得部120と、パラメーター取得部140と、前処理部150に送信される。
【0034】
パラメーター取得部140は、レンダリングに用いられる各種パラメーターを取得する。レンダリングに用いられる各種パラメーターには、例えば、3Dオブジェクト情報や、カメラ情報、照明情報、印刷物の質感に関する質感パラメーターなどが含まれる。3Dオブジェクト情報は、仮想空間に配置された3DオブジェクトOBJに関するパラメーターである。カメラ情報は、仮想空間に配置されたカメラCMの位置および向きに関するパラメーターである。照明情報は、仮想空間に配置された光源LSの種類や位置や向きや色や光度(光量)に関するパラメーターである。光源LSの種類には、例えば、蛍光灯や、白熱電球などが含まれる。質感パラメーターについては後述する。パラメーター取得部140で取得されたパラメーターは、レンダリング部160に送信される。
【0035】
図10は、画像データ取得部110による画像データ入力用のユーザーインターフェースUIの例を示す説明図である。このユーザーインターフェースUIは、例えば、表示装置300に表示される。ユーザーインターフェースUIには、表面画像データを入力するための第1入力領域F1と、裏面画像データを入力するための第2入力領域F2と、特色層の色を入力するための第3入力領域F3と、特色層の濃度を入力するための第4入力領域F4が設けられている。画像データ取得部110は、第1入力領域F1で選択された画像の画像データを表面画像データとして取得し、第2入力領域F2で選択された画像の画像データを裏面画像データとして取得する。これらの入力領域F1,F2は、例えばユーザーがタップすると画像の一覧が表示されて、任意の画像を選択できるように構成されている。図10の例では、表面画像が選択済みであり、裏面画像は未選択である。特色層については、第3入力領域F3と第4入力領域F4用いて、特色インクの色と濃度を指定することができる。特色インクの色は、例えば、白色と、銀色や金色のメタリック色と、を含む複数の特色から選択することができる。特色インクの濃度は、例えば0~1.0の範囲の値で指定可能である。濃度=0は、特色インクを塗布しないことを意味し、濃度=1.0は、特色インクをベタ塗りすることを意味する。特色インクの濃度を、「デューティー」とも呼ぶ。なお、特色インクは、白色インクに固定されていてもよい。また、特色インクの濃度も予め設定された値が使用されるものとしてもよい。この場合には、第3入力領域F3と第4入力領域F4は省略される。
【0036】
図11は、前処理部150の機能を示す説明図である。前述したように、前処理部150は、カラーマネージメントシステム151と、遮蔽度算出部152と、特色層設定部153と、特色層色彩値算出部154と、媒体色彩値算出部155と、を含んでいる。
【0037】
図12は、カラーマネージメントシステム151の処理内容を示す説明図である。カラーマネージメントシステム151は、入力画像データとしての表面画像データIMsと裏面画像データIMrに対して、それぞれ以下の色変換を順に実行する。
(1)入力プロファイルIPFを用いた、入力色空間から機器非依存色空間への第1色変換CC1。
(2)メディアプロファイルMPFを用いた、機器非依存色空間から印刷装置用の機器依存色空間への第2色変換CC2。
(3)メディアプロファイルMPFを用いた、印刷装置用の機器依存色空間から機器非依存色空間への第3色変換CC3。
(4)共通色空間プロファイルCPFを用いた、機器非依存色空間からレンダリング用色空間への第4色変換CC4。
なお、入力プロファイルIPFとメディアプロファイルMPFの代わりに、第1色変換CC1と第2色変換CC2を結合した色変換を行うためのデバイスリンクプロファイルを用いてもよい。デバイスリンクプロファイルを用いた色変換は、第1色変換CC1と第2色変換CC2を順に行う処理と等価である。
【0038】
図12の例では、入力色空間はRGBであり、機器非依存色空間はLab、印刷装置用の機器依存色空間はCMYK又はRGB、レンダリング用色空間はsRGBである。以下の説明では、第1色変換CC1と第2色変換CC2が施された画像データを「デバイスカラー画像データIMsd,IMrd」と呼び、4つの色変換CC1~CC4が施された画像データを「マネージド画像データIMsm,IMrm」と呼ぶ。デバイスカラー画像データIMsd,IMrdは遮蔽度算出部152に送信される。マネージド画像データIMsm,IMrmは、レンダリング部160に送信される。
【0039】
図13は、遮蔽度算出部152による表面層遮蔽度マップSMsを求める処理の内容を示す説明図である。遮蔽度算出部152は、予め設定された遮蔽度変換テーブルSHTを参照して、デバイスカラー表面画像データIMsdで表される表面画像SGの各画素の色彩値から各画素の遮蔽度βsを算出する。この例では、デバイスカラー表面画像データIMsdは、RGB色空間で表現されているものと仮定している。遮蔽度βsは光を遮蔽する割合を意味しており、βs=0は光をすべて透過することを意味し、βs=1.0は光をすべて遮断することを意味する。また、(1-βs)は、光の透過度に相当する。遮蔽度変換テーブルSHTは、色彩値の組み合わせに対する遮蔽度が登録されたルックアップテーブルである。例えば、R=G=B=1の画素は、プロセスインクが吐出されない画素なので遮蔽度はゼロである。また、R=G=B=0の画素は、黒ベタで塗られる画素なので遮蔽度は1.0(=100%)である。遮蔽度算出部152は、必要に応じて補間処理を実行することによって表面画像SGの各画素の色彩値から各画素の遮蔽度βsを算出することが可能である。遮蔽度変換テーブルSHTの格子点の数は、図13の例よりも多いものとすることが好ましい。裏面層RLについても同様に、デバイスカラー裏面画像データIMrdから裏面層遮蔽度マップSMrが算出される。遮蔽度マップSMs,SMrは、レンダリング部160に送信される。
【0040】
図14は、特色層設定部153の処理内容を示す説明図である。特色層設定部153は、デバイスカラー表面画像データIMsdで表される表面画像の画像領域SLAと、デバイスカラー裏面画像データIMrdで表される裏面画像の画像領域RLAを決定し、それらの和領域を特色領域WGとして求める。表面画像の画像領域SLAは、実質的な色を有する画素、即ちR=G=B=1でない画素で構成される領域を意味する。裏面画像の画像領域RLAも同様である。特色層設定部153は、更に、特色領域WGの各画素に対して、特色インクの濃度、即ちデューティーを割り当てることによって、特色インク濃度マップIMwを生成する。なお、デバイスカラー画像データIMsd,IMrdの代わりに、入力画像データIMs,IMrを用いて画像領域SLAと画像領域RLAの和領域を求めてもよい。また、画像領域SLAと画像領域RLAの和領域に対して膨張処理を行うことによって、特色領域WGを求めてもよい。特色インク濃度マップIMwは、遮蔽度算出部152と特色層色彩値算出部154に送信される。
【0041】
図15は、遮蔽度算出部152が特色層遮蔽度マップSMwを求める処理の内容を示す説明図である。遮蔽度算出部152は、特色層用に予め設定された遮蔽度変換テーブルSHTwを参照して、特色インク濃度マップIMwで表される各画素の特色インク濃度から各画素の遮蔽度βwを算出する。遮蔽度変換テーブルSHTwは、特色インク濃度が増大するにつれて遮蔽度βwが単調に増加する特性曲線を示している。図15の例では、S字状の特性曲線が使用されているが、これ以外の形状を有する特性曲線を使用してもよい。また、図15に示す処理を行うことなく、予め設定された遮蔽度βwを特色領域WGの各画素に適用するようにしてもよい。特色層遮蔽度マップSMwは、レンダリング部160に送信される。
【0042】
図16は、特色層色彩値算出部154の処理内容を示す説明図である。特色層色彩値算出部154は、特色層用に予め設定された色変換テーブルCTwを参照して、特色インク濃度マップIMwで表される特色領域WGの各画素のLab値を決定する。この際、特色領域WGの各画素の特色インク濃度は、図10に示したユーザーインターフェースUIで指定された特色インク濃度の値に拘わらず、常に最大値である1.0に設定される。従って、特色領域WGの各画素のLab値は、ユーザーに指定された特色インク濃度に拘わらない一定値に設定される。特色層色彩値算出部154は、更に、共通色空間プロファイルCPFを用いて、Lab値をレンダリング用色空間の色彩値に変換することによって、特色層色彩値マップCMwを作成する。なお、特色インク濃度の影響は、特色層色彩値マップCMwでなく、図15で説明した特色層WLの遮蔽度βwによって考慮される。この理由は、特色層WLは表面層SL又は裏面層RLの下地層であり、その主な機能が光の遮蔽だからである。特色層色彩値マップCMwは、レンダリング部160に送信される。
【0043】
図17は、媒体色彩値算出部155の処理内容を示す説明図である。媒体色彩値算出部155は、印刷媒体用に予め設定された色変換テーブルCTpを参照して、印刷媒体PMの各画素のLab値を決定する。色変換テーブルCTpは、印刷条件で指定された印刷媒体の種類に応じた変換特性を示している。この際、印刷媒体PMの各画素の濃度、即ちデューティーは、印刷媒体の種類に拘わらず、常に1.0に等しい値に設定される。媒体色彩値算出部155は、更に、共通色空間プロファイルCPFを用いて、Lab値をレンダリング用色空間の色彩値に変換することによって、媒体色彩値マップCMpを作成する。このような媒体色彩値算出部155の処理内容は、図16で説明した特色層色彩値算出部154の処理内容とほぼ同じである。媒体色彩値マップCMpは、レンダリング部160に送信される。
【0044】
図11に示したように、レンダリング部160には、図12図17の処理で得られた各種のデータの他に、印刷物の質感を表す質感パラメーターTXも入力される。
【0045】
質感パラメーターTXは、例えば、以下のパラメーターを含む。
(1)媒体遮蔽度情報
媒体遮蔽度情報は、印刷媒体PMの遮蔽度を表す情報である。媒体遮蔽度情報としては、例えば、印刷媒体PMの遮蔽度を画素毎に表す媒体遮蔽度マップを用いることができる。媒体遮蔽度情報の例については後述する。印刷媒体PMがほぼ完全な透明体であると見なせる場合には、媒体遮蔽度情報を省略してもよい。
(2)ベースカラー(Base color)
ベースカラー(Base color)は、印刷媒体の地色を表す。本実施形態では、媒体色彩値算出部155で算出された媒体色彩値マップCMpがベースカラーとして設定されるので、ベースカラーを質感パラメーターとして入力しなくてもよい。或いは、媒体色彩値算出部155で媒体色彩値マップCMpを算出する代わりに、印刷媒体の種類に応じたベースカラーを質感パラメーターとして入力してもよい。
(3)滑らかさ(Smoothness)
滑らかさ(Smoothness)は、印刷媒体の滑らかさを表す値である。滑らかさの値は、例えば、0~1の範囲で指定される。滑らかさに代えて、印刷媒体の粗さを表す粗さ(Roughness)を含むようにしてもよい。
(4)金属性(Metallic)
金属性(Metallic)は、印刷物の金属性、即ち、鏡面反射率(Specular reflection rate)の高さを表す値である。金属性の値は、例えば、0~1の範囲で指定される。特色層WLを形成する特色インクとしてメタリックインクを使用する場合には、その光沢感が質感パラメーターの金属性によって表される。
(5)法線マップ(Normal Map)
法線マップは、光の反射に影響する印刷媒体PMの微小な凹凸面(マイクロファセット)を表現するために用いられる。法線マップは、印刷媒体表面の微小な凹凸面の法線ベクトルの分布を表すテクスチャーである。
(6)高さマップ(Height Map)
高さマップも、光の反射に影響する印刷媒体PMの微小な凹凸面(マイクロファセット)を表現するために用いられる。高さマップは、印刷媒体表面の微小な凹凸面の高さの分布を表すテクスチャーである。微小な凹凸を表現するために3Dオブジェクトを構成するポリゴンのサイズを小さくすると、ポリゴンの数が膨大になり、レンダリングの計算負荷が大きくなる。法線マップや高さマップを用いることにより、ポリゴンのサイズを小さくしなくても、印刷媒体表面の微小な凹凸面による光の反射への影響を表現することが可能になる。
【0046】
媒体遮蔽度情報は、例えば図6及び図7に示した第1のポリゴンオブジェクトPOaに適用され、他の質感パラメーターは2つのポリゴンオブジェクトPOa,PObのいずれかに適用される。例えば、印刷媒体PMの表面に関する質感パラメーターは第2のポリゴンオブジェクトPObに適用され、印刷媒体PMの裏面に関する質感パラメーターはだい1のポリゴンオブジェクトPOaに適用されるようにしてもよい。換言すれば、媒体遮蔽度情報以外の質感パラメーターは、印刷媒体PMの表面側に関する表面質感パラメーターと、印刷媒体PMの裏面側に関する裏面質感パラメーターとを含むようにしてもよい。或いは、これらの質感パラメーターを、印刷媒体PMの表面と裏面で同じ値としてもよい。なお、質感パラメーターとしては、上述したもの以外のパラメーターを用いてもよい。
【0047】
図18は、媒体遮蔽度情報の例を示す説明図である。媒体遮蔽度マップSMpは、印刷媒体PMの各画素の遮蔽度βpを、マップ画像として定義したものである。媒体遮蔽度マップSMpは、印刷条件で選択された印刷媒体の種類に応じて予め設定されている。媒体遮蔽度マップSMpを使用すれば、印刷媒体PMの場所毎に遮蔽度βpの値を変化させることが可能である。媒体遮蔽度マップSMpを使用する代わりに、媒体遮蔽度テーブルSHpを用いて、印刷媒体PMの種類ごとに遮蔽度βpの値を設定してもよい。この場合には、印刷媒体PMの全体に対して一定値の遮蔽度βpが割り当てられる。媒体遮蔽度情報で設定される印刷媒体PMの遮蔽度βpは、ポリゴンオブジェクトPOaのアルファチャンネル情報として登録される。
【0048】
レンダリング部160は、図11においてレンダリング部160に入力されている各種のデータと、パラメーター取得部140で取得された各種パラメーターとを用いてレンダリングを実行する。
【0049】
レンダリング部160は、図1図5に示した印刷物の表面側ビューについて、印刷層PLの画素値Dtを、次式を用いて画素毎に決定することができる。
1-Dt = Ks(1-Ds)・βs + Kw(1-Dw)・βw・(1-βs) + Kr(1-Dr)・βr・(1-βs)・(1-βw)
…(1)
ここで、
Dtは、レンダリング用色空間における印刷層PLの画素値、
Dsは、レンダリング用色空間における表面層SLの色彩値、
Dwは、レンダリング用色空間における特色層WLの色彩値、
Drは、レンダリング用色空間における裏面層RLの色彩値、
βsは、表面層SLの遮蔽度、
βwは、特色層WLの遮蔽度、
βrは、裏面層RLの遮蔽度、
Ksは、表面層SLの有無を示す係数、
Kwは、特色層WLの有無を示す係数、
Krは、裏面層RLの有無を示す係数、である。
3つの層SL,WL,RLに対する係数Ks,Kw,Krは、その層が存在しないときはゼロ、その層が存在するときは1に設定される。また、上記(1)式は、レンダリング用色空間の個々の色成分R,G,Bについて適用される。
【0050】
表面層SLの色彩値Dsは、マネージド表面画像データIMsmの画素値である。特色層WLの色彩値Dwは、特色層色彩値マップCMwの色彩値である。裏面層RLの色彩値Drは、マネージド裏面画像データIMrmの画素値である。
【0051】
図1に示した印刷物PT1の表面側ビューについては、Ks=Kw=Kr=1である。このとき、透過度αs,αwを使用して上記(1)式を以下のように書き換えることができる。
1-Dt = (1-Ds)・βs + (1-Dw)・βw・αs + (1-Dr)・βr・αs・αw …(2)
ここで、αs=(1-βs)、αw=(1-βw)である。
【0052】
上記(2)式は、以下のように理解することができる。(2)式の左辺の(1-Dt)は、印刷層PLの画素値Dtに対応する補色の濃度に相当する。例えば、画素値DtのR成分に関しては、(1-Dt)はシアン成分の濃度に相当する。(2)式の右辺第1項は、表面層SLの色彩値Dsに対応する補色の濃度(1-Ds)に、表面層SLの遮蔽度βsを乗じた値に相当する。(2)式の右辺第2項は、特色層WLの色彩値Dwに対応する補色の濃度(1-Dw)に、特色層WLの遮蔽度βwと、表面層SLの透過度αsとを乗じた値に相当する。(2)式の右辺第3項は、裏面層RLの色彩値Drに対応する補色の濃度(1-Dr)に、裏面層RLの遮蔽度βrと、表面層SLの透過度αsと、特色層WLの透過度αwとを乗じた値に相当する。このように、上記(2)式は、個々の層に関する補色の濃度と、その層の遮蔽度と、その層よりも視線方向の前側に存在する他の層の透過度とを乗じた値を3つの層に関してそれぞれ求め、それらを加算することによって、印刷層PLの各画素における補色の濃度(1-Dt)を求めている、という内容であることが理解できる。上記(1)式と(2)式において、レンダリング用色空間の色彩値そのものではなく、その補色の濃度を使用している理由は、レンダリング用色空間の色彩値に対応する補色が減法混色の色成分CMYに相当するので、遮蔽度βや透過度α=(1-β)を用いた関係がうまく成立するからである。
【0053】
上記(2)式の代わりに、(2)式を変形した次式を用いてもよい。
Dt = 1 - {(1-Ds)・βs + (1-Dw)・βw・(1-βs) + (1-Dr)・βr・(1-βs)・(1-βw)}
= 1 - {(1-Ds)・βs + (1-Dw)・βw・αs + (1-Dr)・βr・αs・αw} …(3)
【0054】
レンダリング部160は、更に、図1図5に示した印刷物の裏面側ビューについては、印刷層PLを表す画素値Dtを、上記(1)式と類似した次式を用いて決定することができる。
1-Dt = Kr(1-Dr)・βr + Kw(1-Dw)・βw・(1-βr) +Ks(1-Ds)・βs・(1-βr)・(1-βw)
…(4)
【0055】
図1に示した印刷物PT1の裏面側ビューについては、上記(4)式を次式に書き換えることができる。
Dt = 1 - {(1-Dr)・βr + (1-Dw)・βw・(1-βr)+(1-Ds)・βs・(1-βr)・(1-βw)}
= 1 - {(1-Dr)・βr + (1-Dw)・βw・αr + (1-Ds)・βs・αr・αw} …(5)
【0056】
レンダリング部160は、更に、印刷層PLの遮蔽度βtを、次式で算出することができる。
βt = 1 - (1-βs)・(1-βw)・(1-βr) …(6)
印刷層PLの遮蔽度βtは、表面側ビューと裏面側ビューのいずれを生成する際にも使用できる。印刷層PLの遮蔽度βtは、印刷層PL用の第2のポリゴンオブジェクトPObのアルファチャンネル情報として登録され、後述するレンダーバックエンドにおける透明度反映処理に適用される。
【0057】
図19は、レンダリング部160の構成を示す説明図である。レンダリング部160は、頂点パイプラインVPLと、ラスタライザーRRZと、ピクセルパイプラインPPLと、ポスト処理部PSTとを備えている。本実施形態では、頂点パイプラインVPLは、頂点シェーダーVSと、ジオメトリーシェーダーGSとを備えており、ピクセルパイプラインPPLは、ピクセルシェーダーPSと、レンダーバックエンドRBEとを備えている。
【0058】
頂点シェーダーVSは、3Dオブジェクト情報OBIとカメラ情報CMIと照明情報LTIとを用いて、3DオブジェクトOBJを構成するポリゴンに関する処理を実行する。この処理は、3DオブジェクトOBJを構成する各ポリゴンの頂点の座標変換や、各ポリゴンの法線ベクトルの算出、陰影処理、及び、テクスチャーマッピング座標(UV座標)の算出などを含む。座標変換には、3DオブジェクトOBJのローカル座標系Σmからワールド座標系Σgへの座標変換であるモデル変換と、ワールド座標系Σgからビュー座標系Σcへの座標変換であるビュー変換と、ビュー座標系Σcからスクリーン座標系への座標変換である投影変換とが含まれる。上述した座標変換の一部は、ジオメトリーシェーダーGSによって実行されてもよい。頂点シェーダーVSの処理結果は、ジオメトリーシェーダーGSに送信される。
【0059】
ジオメトリーシェーダーGSは、3Dオブジェクトの頂点の集合を加工する。ジオメトリーシェーダーGSは、頂点数を増減させることにより、ポリゴンを点や線に変換したり、点や線をポリゴンに変換したりすることができる。ジオメトリーシェーダーGSの処理結果は、ラスタライザーRRZに送信される。なお、他の実施形態では、レンダリング部160にジオメトリーシェーダーGSが設けられていなくてもよい。この場合、頂点シェーダーVSの処理結果がラスタライザーRRZに送信される。
【0060】
ラスタライザーRRZは、ラスタライズ処理を実行することにより、頂点パイプラインVPLの処理結果からピクセルごとの描画情報を生成する。ラスタライザーRRZの処理結果は、ピクセルシェーダーPSに送信される。
【0061】
ピクセルシェーダーPSは、ラスタライズ処理が施された3Dオブジェクトと画像データと質感パラメーターとを用いてライティング処理を実行することにより、各ピクセルに対応するポリゴンオブジェクトPOa,PObの表面と裏面のピクセル色を決定する。本実施形態では、3Dオブジェクトの表面は、第2のポリゴンオブジェクトPObの表面により構成されており、3Dオブジェクトの裏面は、第1のポリゴンオブジェクトPOaの表面により構成されている。ピクセルシェーダーPSは、第2のポリゴンオブジェクトPObに表面質感パラメーターを対応付け、第1のポリゴンオブジェクトPOaに裏面質感パラメーターを対応付けて、ライティング処理を実行する。ライティング処理において光の反射を計算するための関数には、例えば、ディズニー原則BRDF(Disney Principled BRDF)を用いることができる。本実施形態では、レンダリング部160は、カメラに裏面を向けているポリゴンを描画対象から除外する背面カリング機能を有している。レンダリング部160が背面カリング機能を有している場合には、レンダリング部160は、背面カリング機能がオフの状態で処理を実行する。このため、カメラの視野内の各ポリゴンの裏面は、描画対象から除外されない。ピクセルシェーダーPSの処理結果は、レンダーバックエンドRBEに送信される。
【0062】
レンダーバックエンドRBEは、ピクセルシェーダーPSにより生成されたピクセルデータをメモリー102の表示用領域に書き込むか否かを判断する。レンダーバックエンドRBEがメモリー102に書き込むと判断した場合には、ピクセルデータは描画対象として保存され、レンダーバックエンドRBEがメモリー102に書き込むと判断しなかった場合には、ピクセルデータは描画対象として保存されない。書き込むか否かの判断には、例えば、アルファテストや、深度テストや、ステンシルテストなどが用いられる。本実施形態では、ピクセルデータには、第2のポリゴンオブジェクトPObの色の情報と第1のポリゴンオブジェクトPOaの色の情報とが含まれる。表面側ビューを作成する際に、レンダーバックエンドRBEは、例えば、デプスソート法により、カメラに対して奥側のポリゴンオブジェクトPOaの色から順に書き込む。レンダーバックエンドRBEは、奥側のポリゴンオブジェクトPOaの色を書き込んだ後、手前側のポリゴンオブジェクトPObの色を書き込むときに、例えば、アルファブレンドにより、手前側のポリゴンオブジェクトPObの透過度に応じて、奥側のポリゴンの色と手前側のポリゴンの色とを合成する。なお、透過度がゼロである場合、手前側のポリゴンオブジェクトPObの色が書き込まれるときに、手前側のポリゴンオブジェクトPObの色で奥側のポリゴンオブジェクトPOaの色が上書きされる。このような表示用領域への書き込みの処理を、「描き込み処理」とも呼ぶ。ピクセルデータがメモリー102に書き込まれることにより、パイプライン処理は終了する。
【0063】
ポスト処理部PSTは、メモリー102に保存されたピクセルデータからなるレンダリング画像に対して、例えば、アンチエイリアスや、アンビエントオクルージョンや、スクリーンスペースリフレクションや、被写界深度の処理などのポスト処理を実行することにより、レンダリング画像RIMの見た目の改善を図る。
【0064】
図20は、レンダリング部160の処理を示すフローチャートである。ステップS110では、頂点パイプラインVPLが3DオブジェクトOBJを構成するポリゴンオブジェクトPOa,PObに関する処理を実行する。
【0065】
ステップS120~S160では、ピクセルシェーダーPSがレンダリング画像におけるピクセル色を決定する。ステップS120では、ピクセルシェーダーPSがリソースデータを取得する。リソースデータは、表面画像と裏面画像のマネージド画像データIMsm,IMrmと、表面層と裏面層と特色層の遮蔽度マップSMs,SMr,SMwと、特色層色彩値マップCMwと、媒体色彩値マップCMpと、質感パラメーターTXとを含んでいる。なお、媒体色彩値マップCMpは、第1のポリゴンオブジェクトPOaのベースカラーとして適用される。また、質感パラメーターTXに含まれる媒体遮蔽度情報は、第1のポリゴンオブジェクトPOaのアルファチャンネル情報として登録される。
【0066】
ステップS130では、ピクセルシェーダーPSが、表面側ビューと裏面側ビューのいずれをレンダリング画像として生成するかを判定する。表面側ビューを生成する場合には、ステップS140に進み、ピクセルシェーダーPSが、表面側ビュー用の印刷層PLの画素値を決定する。具体的には、上述した(1)式や(3)式に従って画素値Dtが算出される。一方、裏面側ビューを生成する場合には、ステップS150に進み、ピクセルシェーダーPSが、裏面側ビュー用の印刷層PLの画素値を決定する。即ち、上述した(4)式や(5)式に従って画素値Dtが算出される。
【0067】
ステップS160では、ピクセルシェーダーPSが、ステップS140又はステップS150で決定された画素値と、質感パラメーターとを用いてライティング処理を実行することにより、レンダリング画像のピクセル色を決定する。
【0068】
ステップS170では、レンダーバックエンドRBEが、ピクセルシェーダーPSにより生成されたピクセルデータについて描き込み処理を行い、処理後のピクセルデータをレンダリング画像としてメモリー102の表示用領域に書き込む。描き込み処理において、印刷媒体PM用の第1のポリゴンオブジェクトPOaに関しては、第1のポリゴンオブジェクトPOaのアルファチャンネル情報として登録された印刷媒体PMの遮蔽度βpを利用したアルファブレンド処理が実行される。また、印刷層PL用の第2のポリゴンオブジェクトPObに関しては、第2のポリゴンオブジェクトPObのアルファチャンネル情報として登録された印刷層PLの遮蔽度βtを利用したアルファブレンド処理が実行される。
【0069】
ステップS180では、生成されたレンダリング画像が表示装置300に表示される。なお、ユーザーの指示に応じて、表面側ビューと裏面側ビューの一方のみを選択的に表示してもよく、或いは、両方を同時に表示してもよい。表面側ビューと裏面側ビューを同時に表示する場合には、ステップS140,S150の両方が実行される。
【0070】
以上で説明した第1実施形態によれば、印刷層PLの遮蔽度を用いてレンダリングを行うので、透明又は半透明な印刷媒体PMの上に印刷層PLが形成される印刷物について、現実空間での見えを違和感なく再現できる。また、印刷物の質感が表現されるので、質感を伴ったリアルなレンダリング画像を作成できる。
【0071】
また、第1実施形態では、印刷媒体PMと印刷層PLを別のポリゴンオブジェクトで表現するので、印刷物の見えをリアルな質感で再現できる。更に、レンダリングをリアルタイムに行うことにより、印刷装置を用いた印刷に先立ってプレビュー表示を行うことができる。また、プレビュー表示の初期表示にかかる処理負荷を抑えられるため、初回のプレビュー表示を短時間で行えるメリットがある。
【0072】
B.第2実施形態:
図21は、第2実施形態において3DオブジェクトOBJの表面を観察する様子を模式的に示す説明図であり、図22は、第2実施形態において3DオブジェクトOBJの裏面を観察する様子を模式的に示す説明図である。第2実施形態では、1つのポリゴンオブジェクトPOで構成された3DオブジェクトOBJがレンダリングに用いられる点が、第1実施形態と異なる。その他の構成については、特に説明しない限り第1実施形態と同じである。
【0073】
第2実施形態では、1枚のポリゴンオブジェクトPOが、3DオブジェクトOBJの表面を構成するとともに3DオブジェクトOBJの裏面も構成している。即ち、ポリゴンオブジェクトPOの法線ベクトルNpが向く側の面であるポリゴンオブジェクトPOの表面により3DオブジェクトOBJの表面が構成されており、ポリゴンオブジェクトPOの裏面により3DオブジェクトOBJの裏面が構成されている。ポリゴンオブジェクトPOは、厚みのない板状の形状を有するように構成できる。
【0074】
第2実施形態において、レンダリング部160は、印刷媒体PMと印刷層PLを含む印刷物について、その表面側ビューの画素値Dptを次式に従って決定することができる。
Dpt = 1 - {(1-Dt) + (1-Dp)・βp・(1-βt)} …(7)
ここで、Dtは印刷層PLの画素値、Dpは印刷媒体PMの色彩値、βpは印刷媒体PMの遮蔽度、βtは印刷層PLの遮蔽度である。
印刷層PLの画素値Dtは、上述した(1)式~(3)式のいずれかを用いて算出される。印刷媒体PMの色彩値Dpは、図17で説明した媒体色彩値マップCMpの画素値である。印刷層PLの遮蔽度βtは、上述した(6)式で算出される。
【0075】
レンダリング部160は、更に、印刷媒体PMと印刷層PLを含む印刷物について、その裏面側ビューの画素値Dptを次式に従って決定することができる。
Dpt = 1 - {(1-Dp) + (1-Dt)・βt・(1-βp)} …(8)
ここで、印刷層PLの画素値Dtは、上述した(4)式~(5)式のいずれかを用いて算出される。
【0076】
印刷物全体の遮蔽度βptは、次式で算出される。
βpt = 1 - (1-βt)・(1-βp) …(9)
ここで、βtは印刷層PLの遮蔽度、βpは印刷媒体PMの遮蔽度である。印刷層PLの遮蔽度βtは、上述した(6)式で与えられる。
【0077】
なお、印刷物全体の遮蔽度βptは、0≦βpt≦1の範囲で定義されるので、この範囲外となる場合は、境界値である0又は1でクリップされる。印刷物全体の遮蔽度βptは、ポリゴンオブジェクトPOのアルファチャンネル情報として登録され、レンダーバックエンドRBEにおける描き込み処理に利用される。
【0078】
以上で説明した第2実施形態によれば、第1実施形態とほぼ同様の効果を得ることができる。また、第2実施形態では、1つのポリゴンオブジェクトPOを用いて、印刷物をリアルな質感で表現できる。
【0079】
C.他の実施形態:
(C1)上述した各実施形態の画像処理装置100では、媒体遮蔽度以外の質感パラメーターには、表面質感パラメーターと裏面質感パラメーターとが含まれており、レンダリング部160は、表面質感パラメーターを3Dオブジェクトの表面に対応付け、かつ、裏面質感パラメーターを3Dオブジェクトの裏面に対応付けて、レンダリングを実行する。これに対して、質感パラメーターが表面用と裏面用とに分かれていなくてもよい。この場合、レンダリング部160は、同じ質感パラメーターを3Dオブジェクトの表面と裏面とに対応付けて、レンダリングを実行してもよい。
【0080】
(C2)上述した各実施形態の画像処理装置100では、インクジェットプリンターなどの印刷装置により画像が直接印刷された印刷媒体を表すレンダリング画像が生成される。これに対して、画像処理装置100は、例えば、印刷装置により画像が印刷された転写紙から熱転写により画像が転写される媒体を表すレンダリング画像を生成してもよい。この場合、転写紙から熱転写により画像が転写される媒体のことを印刷媒体と呼ぶ。
【0081】
D.他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0082】
(1)本開示の第1の形態によれば、画像処理装置が提供される。この画像処理装置は、画像データを取得する画像データ取得部と、印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得部と、前記画像データに前記印刷条件に応じた色変換を施す色変換部と、透明又は半透明である前記印刷媒体の表面上に印刷層が形成される印刷物に関して、前記印刷層の遮蔽度を算出する遮蔽度算出部と、前記印刷媒体の形状を表す3Dオブジェクトに前記色変換が施された前記画像データを対応付けてレンダリングを実行することにより、前記印刷物を表すレンダリング画像を生成するレンダリング部と、を備える。前記レンダリング部は、前記印刷層の前記遮蔽度を用いて前記レンダリングを実行することによって、表面側から前記印刷物を観察した表面側ビューと、裏面側から前記印刷物を観察した裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成するように構成されている。
この画像処理装置によれば、印刷層の遮蔽度を用いてレンダリングを行うので、透明又は半透明な印刷媒体の上に印刷層が形成される印刷物について、現実空間での見えを違和感なく再現できる。
【0083】
(2)上記画像処理装置は、更に、前記印刷媒体の質感を表す質感パラメーターを取得するパラメーター取得部を備え、前記レンダリング部は、前記3Dオブジェクトに前記質感パラメーターを対応付けて前記レンダリングを実行するように構成されているものとしてもよい。
この方法によれば、印刷物の質感が表現されるので、質感を伴ったリアルなレンダリング画像を作成できる。
【0084】
(3)上記画像処理装置において、前記質感パラメーターは、前記印刷媒体の遮蔽度を表す媒体遮蔽度情報を含むものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、媒体遮蔽度情報を含む質感パラメーターによって印刷物の質感が表現されるので、リアルなレンダリング画像を作成できる。
【0085】
(4)上記画像処理装置において、前記印刷物は、前記印刷媒体の表面上に、裏面側から観察される裏面画像が形成された裏面層と、特色インクで形成された特色層と、表面側から観察される表面画像が形成された表面層と、がこの順に積層された第1印刷層が形成される第1印刷物であるものとしてもよい。前記遮蔽度算出部は、前記裏面層と前記特色層と前記表面層のそれぞれについて前記遮蔽度を算出し、前記レンダリング部は、前記裏面層と前記特色層と前記表面層のそれぞれの前記遮蔽度を用いて前記レンダリングを実行することによって、表面側から前記第1印刷物を観察した第1表面側ビューと、裏面側から前記第1印刷物を観察した第1裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成するように構成されているものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、透明又は半透明な印刷媒体の上に3層構造の印刷層が形成される印刷物について、現実空間での見えを仮想空間上で再現できる。
【0086】
(5)上記画像処理装置において、前記印刷物は、前記印刷媒体の表面上に、特色インクで形成された特色層と、表面側から観察される表面画像が形成された表面層と、がこの順に積層された第2印刷層が形成される第2印刷物であるものとしてもよい。前記遮蔽度算出部は、前記特色層と前記表面層のそれぞれについて前記遮蔽度を算出し、前記レンダリング部は、前記特色層と前記表面層のそれぞれの前記遮蔽度を用いて前記レンダリングを実行することにより、表面側から前記第2印刷物を観察した第2表面側ビューと、裏面側から前記第2印刷物を観察した第2裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成するように構成されているものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、印刷媒体の上に2層構造の印刷層が形成される印刷物について、現実空間での見えを仮想空間上で再現できる。なお、第2印刷物については、透明又は半透明である印刷媒体を用いてもよく、或いは、不透明で下地に色がついた印刷媒体を用いてもよい。
【0087】
(6)上記画像処理装置において、前記印刷物は、前記印刷媒体の表面上に、裏面側から観察される裏面画像が形成された裏面層と、特色インクで形成された特色層と、がこの順に積層された第3印刷層が形成される第3印刷物であるものとしてもよい。前記遮蔽度算出部は、前記裏面層と前記特色層のそれぞれについて前記遮蔽度を算出し、前記レンダリング部は、前記裏面層と前記特色層のそれぞれの前記遮蔽度を用いて前記レンダリングを実行することにより、表面側から前記第3印刷物を観察した第3表面側ビューと、裏面側から前記第3印刷物を観察した第3裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成するように構成されているものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、透明又は半透明な印刷媒体の上に2層構造の印刷層が形成される印刷物について、現実空間での見えを仮想空間上で再現できる。
【0088】
(7)上記画像処理装置において、前記色変換部は、入力プロファイルを用いた、入力色空間から機器非依存色空間への第1色変換と、メディアプロファイルを用いた、前記機器非依存色空間から印刷装置用の機器依存色空間への第2色変換と、前記メディアプロファイルを用いた、前記機器依存色空間から前記機器非依存色空間への第3色変換と、共通色空間プロファイルを用いた、前記機器非依存色空間からレンダリング用色空間への第4色変換と、をこの順に実行することによって、入力画像データをマネージド画像データに変換する処理であるものとしてもよい。前記レンダリング部は、前記マネージド画像データを用いて前記レンダリングを実行するものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、入力色空間を機器非依存空間を介して印刷装置用の機器依存色空間に変換し、その後に機器非依存色空間に再度変換し、更にレンダリング用色空間に変換するので、現実の印刷物に近い色を再現できる。
【0089】
(8)上記画像処理装置において、前記遮蔽度算出部は、前記第1色変換と前記第2色変換とを行うことによって得られたデバイスカラー画像データを用いて前記印刷層の前記遮蔽度を画素毎に算出するものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、印刷層の遮蔽度をデバイスカラー画像データから算出できる。
【0090】
(9)上記画像処理装置において、前記3Dオブジェクトは、平行に配置した第1ポリゴンオブジェクトと第2ポリゴンオブジェクトとで構成されており、前記レンダリング部は、前記第1ポリゴンオブジェクトを用いて前記印刷媒体に関する前記レンダリングを実行し、前記第2ポリゴンオブジェクトを用いて前記印刷層に関する前記レンダリングを実行するものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、印刷媒体と印刷層を別のポリゴンオブジェクトで表現するので、印刷物の見えをリアルな質感で再現できる。
【0091】
(10)上記画像処理装置において、前記3Dオブジェクトは、1つのポリゴンオブジェクトで構成されており、前記レンダリング部は、前記ポリゴンオブジェクトを用いて前記印刷媒体と前記印刷層とを含む前記印刷物に関する前記レンダリングを実行するものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、1つのポリゴンオブジェクトで印刷物の見えをリアルな質感で再現できる。
【0092】
(11)本開示の第2の形態によれば、印刷システムが提供される。この印刷システムは、上記第1の形態の画像処理装置と、前記画像処理装置によって生成された前記レンダリング画像を表示する表示装置と、前記印刷物を印刷する印刷装置と、を備える。
この印刷システムによれば、画像処理装置により生成されるレンダリング画像を用いて、印刷装置により印刷される印刷物を表示装置でプレビューすることができる。
【0093】
(12)本開示の第3の形態によれば、画像処理プログラムが提供される。この画像処理プログラムは、画像データを取得する画像データ取得機能と、印刷媒体の種類を含む印刷条件を取得する印刷条件取得機能と、前記画像データに前記印刷条件に応じた色変換を施す色変換機能と、透明又は半透明である前記印刷媒体の表面上に印刷層が形成される印刷物に関して、前記印刷層の遮蔽度を算出する遮蔽度算出機能と、前記印刷媒体の形状を表す3Dオブジェクトに前記色変換が施された前記画像データを対応付けてレンダリングを実行することにより、前記印刷物を表すレンダリング画像を生成するレンダリング機能と、をコンピューターに実行させる。前記レンダリング機能は、前記印刷層の前記遮蔽度を用いて前記レンダリングを実行することによって、表面側から前記印刷物を観察した表面側ビューと、裏面側から前記印刷物を観察した裏面側ビューと、のうちの少なくとも一方を生成する機能を含む。
【0094】
本開示は、画像処理装置、印刷システム、および、コンピュータープログラム以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、画像処理方法や、コンピュータープログラムを記録した一時的でない記録媒体(non-transitory storage medium)等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0095】
10…印刷システム、100…画像処理装置、101…プロセッサー、102…メモリー、103…入出力インターフェース、104…内部バス、110…画像データ取得部、120…カラープロファイル取得部、130…印刷条件取得部、140…パラメーター取得部、150…前処理部、151…カラーマネージメントシステム、152…遮蔽度算出部、153…特色層設定部、154…特色層色彩値算出部、155…媒体色彩値算出部、160…レンダリング部、200…入力装置、300…表示装置、400…印刷装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図16
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図22