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特開2024-113789複合焼結体および複合焼結体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113789
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】複合焼結体および複合焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 33/02 20060101AFI20240816BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240816BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20240816BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C22C33/02 C
B22F1/00 T
B22F3/02 S
B22F3/14 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018978
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】村井 剛志
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA33
4K018BA17
4K018BB04
4K018BD09
4K018CA29
4K018DA03
4K018DA11
4K018FA06
4K018HA03
4K018KA25
(57)【要約】
【課題】鋼種の違いに伴う良好な意匠性を表面内に有し、表面の再研磨を行ってもその意匠性を維持し得る複合焼結体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】第1ステンレス鋼の焼結体で構成されている第1部分と、前記第1ステンレス鋼とは鋼種が異なる第2ステンレス鋼の焼結体で構成され、界面で前記第1部分と拡散接合している第2部分と、を有し、前記第1部分が露出している表面を第1表面とし、前記第2部分が露出している表面を第2表面とするとき、前記第1表面と前記第2表面との段差が100μm以下であり、前記第1表面の研磨時の光反射率と、前記第2表面の研磨時の光反射率と、の差が2%以上であることを特徴とする複合焼結体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ステンレス鋼の焼結体で構成されている第1部分と、
前記第1ステンレス鋼とは鋼種が異なる第2ステンレス鋼の焼結体で構成され、界面で前記第1部分と拡散接合している第2部分と、
を有し、
前記第1部分が露出している表面を第1表面とし、
前記第2部分が露出している表面を第2表面とするとき、
前記第1表面と前記第2表面との段差が100μm以下であり、
前記第1表面の研磨時の光反射率と、前記第2表面の研磨時の光反射率と、の差が2%以上であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項2】
前記第1表面のビッカース硬さと、前記第2表面のビッカース硬さと、の差が、300以下である請求項1に記載の複合焼結体。
【請求項3】
前記第1ステンレス鋼は、Fe、NiおよびMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼であり、
前記第2ステンレス鋼は、Fe、NiおよびCuを含む析出硬化系ステンレス鋼であり、
Moは、前記界面を介して5μm以上200μm以下の幅で拡散しており、
Cuは、前記界面を介して10μm以上300μm以下の幅で拡散している請求項1または2に記載の複合焼結体。
【請求項4】
前記第1表面および前記第2表面を100μmの研磨量で再研磨し、
前記再研磨を行う前の前記第1表面の光反射率をRaとし、
前記再研磨を行った後の前記第1表面の光反射率をRbとするとき、
|Ra-Rb|は、10%以下である請求項1または2に記載の複合焼結体。
【請求項5】
請求項1に記載の複合焼結体を製造する方法であって、
前記第1ステンレス鋼で構成されている第1粉末を含む第1組成物、および、前記第2ステンレス鋼で構成されている第2粉末を含む第2組成物を用い、多色成形を行って多色成形体を得る成形工程と、
前記多色成形体を焼結し、複合焼結体を得る焼結工程と、
を有し、
前記第1粉末の収縮開始温度と、前記第2粉末の収縮開始温度と、の温度差が50℃以下であることを特徴とする複合焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合焼結体および複合焼結体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料は、金属特有の光沢を有しているため、様々な製品の外装等に用いることで、意匠性の向上に寄与する。
【0003】
例えば、特許文献1には、2.0mm以下の凹凸による線、点、面、外周の境界の段差による凹面または凸面および着色から選択される1または2以上の組み合わせで形成されている記号、模様、文字または絵その他の情報表示を有する装飾が表面に施されている金属板が開示されている。このような装飾は、凹凸の組み合わせによるものであるため、はっきりと確認可能なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-226216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の金属板は、用途によっては、使用に伴い、装飾が設けられている表面にキズや汚れが付き、模様や文字等の意匠が当初の状態から劣化する場合がある。このような場合、金属板の表面に再研磨を行い、意匠の状態を復活させる処理を行うことがある。
【0006】
ところが、表面に再研磨を行うと、凹凸の凹面の深さが浅くなったり、凸面の高さが低くなったりする。また、再研磨の研磨量が大きい場合には、凹凸が消失する。そうなると、情報表示の機能が低下するとともに、意匠性が低下する。
【0007】
また、凹凸での装飾には、表現のバリエーションに限界がある。つまり、凹面の深さや凸面の高さで表現できるデザインの種類には限りがあるため、意匠性を十分に高めるという観点では改善の余地がある。
【0008】
そこで、より良好な意匠性を有するとともに、再研磨を行ってもその意匠性を維持し得る金属材料の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の適用例に係る複合焼結体は、
第1ステンレス鋼の焼結体で構成されている第1部分と、
前記第1ステンレス鋼とは鋼種が異なる第2ステンレス鋼の焼結体で構成され、界面で前記第1部分と拡散接合している第2部分と、
を有し、
前記第1部分が露出している表面を第1表面とし、
前記第2部分が露出している表面を第2表面とするとき、
前記第1表面と前記第2表面との段差が100μm以下であり、
前記第1表面の研磨時の光反射率と、前記第2表面の研磨時の光反射率と、の差が2%以上である。
【0010】
本発明の適用例に係る複合焼結体の製造方法は、
上記複合焼結体を製造する方法であって、
前記第1ステンレス鋼で構成されている第1粉末を含む第1組成物、および、前記第2ステンレス鋼で構成されている第2粉末を含む第2組成物を用い、多色成形を行って多色成形体を得る成形工程と、
前記多色成形体を焼結し、複合焼結体を得る焼結工程と、
を有し、
前記第1粉末の収縮開始温度と、前記第2粉末の収縮開始温度と、の温度差が50℃以下である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る複合焼結体を示す斜視図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3図2に示す断面について元素分析を行い、Ni、CuおよびMoの拡散状態を示す線分析結果である。
図4】実施形態に係る複合焼結体の製造方法の構成を示す工程図である。
図5図4に示す複合焼結体の製造方法を説明するための図であって、多色成形体を示す斜視図である。
図6図4に示す複合焼結体の製造方法を説明するための図であって、図5のB-B線断面図である。
図7】SUS316L粉末を含む成形体およびSUS630粉末を含む成形体について取得されたTMA曲線の例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の複合焼結体および複合焼結体の製造方法を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
1.複合焼結体
まず、実施形態に係る複合焼結体について説明する。
【0014】
図1は、実施形態に係る複合焼結体1を示す斜視図である。図2は、図1のA-A線断面図である。
【0015】
図1および図2に示す複合焼結体1は、上面101および下面102を有する円板状をなす金属焼結体である。また、複合焼結体1は、互いに隣接する、第1部分11と、第2部分12と、を有する。「複合」とは、特性の異なる部位が隣接して、一体化している状態を指している。第1部分11は、上面101を平面視したとき、一例として星形をなしている。また、第2部分12は、上面101を平面視したとき、一例として第1部分11を取り囲む形状をなしている。そして、第1部分11および第2部分12の各平面視形状は、厚さ方向の全体において変化することなく、上面101から下面102まで続いている。
【0016】
第1部分11は、第1ステンレス鋼の焼結体で構成されている。第2部分12は、第1ステンレス鋼とは鋼種が異なる第2ステンレス鋼の焼結体で構成されている。そして、第1部分11と第2部分12との界面IFは、互いに拡散接合している。本明細書における拡散接合とは、特に焼結拡散接合を指し、粉末同士を密着させ、構成材料の融点以下の温度で、界面IFに生じる原子の拡散を利用した接合である。拡散接合により、界面IFの構造上の一体化を図ることができ、隙間が生じにくくなる。このため、特性の異なる2つの部位を隣接させることができるので、それによる美的外観の向上を図ることができ、かつ、隙間による美的外観の低下や機械的特性の低下を抑制することができる。
【0017】
また、図1および図2では、第1部分11の表面を「第1表面13」とし、第2部分12の表面を「第2表面14」とする。本実施形態では、第1表面13および第2表面14が、それぞれ上面101の一部を構成している。
【0018】
第1表面13と第2表面14との段差は、100μm以下になっている。このような構成によれば、上面101を略平坦面とみなすことができる。つまり、第1表面13と第2表面14との段差が前記範囲内であれば、段差を視認しても、段差があることをほとんど意識することがない。このため、上面101を見た者に、上面101を平坦でかつ平滑な面として認識させることができる。その結果、上面101に対し、例えばシンプルかつスマートなイメージを付与することができ、複合焼結体1で構成される金属製品の意匠性の向上を図ることができる。なお、本明細書において「平坦」とは、平面や曲面を問わず、段差が少ないこと、つまり、第1表面13と第2表面14を同一面とみなすことができる状態を指す。
【0019】
また、第1表面13の研磨時の光反射率と、第2表面14の研磨時の光反射率と、の差が2%以上である。このような構成によれば、第1表面13と第2表面14との間で、光反射率の差を十分に確保できるため、上面101を見た者に対し、第1表面13および第2表面14の存在、つまり両者の境界線を意識させることができる。これにより、境界線を適宜選択することによって、模様、絵、文字、記号、その他の情報等を表示し得る上面101を得ることができ、意匠性の向上を図ることができる。
【0020】
上記のような上面101は、前述したように、略平坦面であるにもかかわらず、十分な光反射率の差に基づく意匠が付与されている。この光反射率の差は、第1ステンレス鋼および第2ステンレス鋼という2種類の鋼種に基づくものであるため、上面101に再研磨を行っても、光反射率の差が失われることがない。つまり、上面101は、鏡面でありながら、再研磨しても失われない意匠を有する面となる。したがって、上記のような構成によれば、上面101の再研磨を繰り返し行っても、良好な意匠を維持し得る複合焼結体1を実現することができる。
【0021】
1.1.第1部分
第1部分11は、前述したように、第1ステンレス鋼の焼結体で構成されている。
【0022】
第1ステンレス鋼は、前述した光反射率の差が満たされるように、第2ステンレス鋼との関係に基づいて適宜選択される。第1ステンレス鋼としては、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系(二相系)ステンレス鋼等が挙げられる。
【0023】
オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS301、SUS301L、SUS301J1、SUS302B、SUS303、SUS304、SUS304Cu、SUS304L、SUS304N1、SUS304N2、SUS304LN、SUS304J1、SUS304J2、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS312L、SUS315J1、SUS315J2、SUS316、SUS316L、SUS316N、SUS316LN、SUS316Ti、SUS316J1、SUS316J1L、SUS317、SUS317L、SUS317LN、SUS317J1、SUS317J2、SUS836L、SUS890L、SUS321、SUS347、SUSXM7、SUSXM15J1等が挙げられる。
【0024】
フェライト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS405、SUS410L、SUS429、SUS430、SUS430LX、SUS430J1L、SUS434、SUS436L、SUS436J1L、SUS445J1、SUS445J2、SUS444、SUS447J1、SUSXM27等が挙げられる。
【0025】
マルテンサイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS403、SUS410、SUS410S、SUS420J1、SUS420J2、SUS440A等が挙げられる。
【0026】
析出硬化系ステンレス鋼としては、例えば、SUS630、SUS631等が挙げられる。
【0027】
オーステナイト・フェライト系(二相系)ステンレス鋼としては、例えば、SUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4L等が挙げられる。
【0028】
なお、上記の記号は、JIS規格に基づく材料記号である。本明細書における鋼種とは、上記材料記号で区別される。したがって、鋼種が異なるとは、上記材料記号が異なることをいう。第1ステンレス鋼および第2ステンレス鋼は、結晶組織に基づく分類が互いに異なっている場合はもちろん、互いに同じ分類の鋼種でかつ材料記号が異なる鋼種であってもよい。例えば、第1ステンレス鋼および第2ステンレス鋼は、材料記号が異なっていれば、双方がオーステナイト系ステンレス鋼という同一の分類の鋼種であってもよい。また、材料記号は、JIS規格に基づくものに限定されず、他の規格に基づくものであってもよい。
【0029】
本明細書における第1ステンレス鋼の焼結体とは、第1ステンレス鋼の粉末を成形し、焼結して得られるものである。つまり、第1部分11は、第1ステンレス鋼の粉末を用い、粉末冶金法により製造されている部位である。粉末冶金法によれば、目的の形状またはそれに近い形状の第1部分11を容易に形成することができる。
【0030】
1.2.第2部分
第2部分12は、前述したように、第2ステンレス鋼の焼結体で構成されている。
【0031】
第2ステンレス鋼は、前述した光反射率の差が満たされるように、第1ステンレス鋼との関係に基づいて適宜選択される。第2ステンレス鋼としては、例えば、第1ステンレス鋼として挙げた鋼種から適宜選択される。
【0032】
本明細書における第2ステンレス鋼の焼結体とは、第2ステンレス鋼の粉末を成形し、焼結して得られるものである。つまり、第2部分12は、第2ステンレス鋼の粉末を用い、粉末冶金法により製造されている部位である。粉末冶金法によれば、目的の形状またはそれに近い形状の第2部分12を容易に形成することができる。
【0033】
なお、図2に示す複合焼結体1では、上面101から下面102に至るまで、第1部分11および第2部分12がそれぞれ連続している。このため、上面101に対して研磨を何度繰り返しても、同一の意匠を有する研磨面を得ることができる。ただし、第1部分11および第2部分12は、必ずしも下面102まで連続している必要はなく、下面102には第1部分11および第2部分12のいずれか一方のみが露出している形態であってもよいし、境界線の形状が上面101とは異なる形状に変化して露出していてもよい。
【0034】
1.3.段差の高さ
第1表面13と第2表面14との段差は、前述したように100μm以下とされるが、好ましくは30μm以下とされ、より好ましくは10μm以下とされる。段差が前記範囲内であれば、上面101を見た者に、上面101を平坦でかつ平滑な面として認識させることができる。また、上面101に対して研磨を繰り返しても、研磨後の段差は、上記範囲内に収まる可能性が高い。したがって、段差が前記範囲内であることで、研磨を繰り返しても見た目が変化しにくく、美的外観を維持し得る金属製品を実現することができる。なお、段差が前記上限値を上回ると、上面101を見た者が、段差の存在を意識するようになる。このため、複合焼結体1で構成される金属製品の意匠性が低下する。
【0035】
第1表面13と第2表面14との段差は、例えば、触針式段差・表面粗さ計、レーザー顕微鏡等により測定されるが、簡便性や面内バラつきを考慮した測定が可能であるという点で、レーザー顕微鏡により測定された値が好ましい。
【0036】
1.4.光反射率の差
第1表面13の研磨時の光反射率と第2表面14の研磨時の光反射率との差は、前述したように2%以上とされるが、好ましくは3%以上とされ、より好ましくは4%以上とされる。これにより、光反射率の差に基づいて、第1表面13および第2表面14を互いに異なる領域であると視認しやすくなる。つまり、上面101を見た者に対し、これらの境界線を意識させることができる。その結果、複合焼結体1で構成される金属製品の意匠性の向上を図ることができる。
【0037】
一方、光反射率の差の上限値は、特に設定されなくてもよいが、材料の調達コストが高くなるのを避けるという観点、つまり、調達しやすい材料で実現可能であるという観点で、20%以下であるのが好ましく、10%以下であるのがより好ましい。
【0038】
このように光反射率の差が付与されることで、上面101は、前述した良好な平坦性に基づいた鏡面と、それを背景にした模様や文字等の情報と、を有するものとなる。このような意匠は、従来の凹凸を利用した意匠では表現できないものであり、美的外観に優れる。
【0039】
上記の光反射率は、研磨面について測定される。研磨面は、JIS G 4304:2005に規定されている表面仕上げの記号#400に基づいて仕上げられた面をいう。また、光反射率は、研磨面に対し、入射角5°で入射した、波長360~830nmの光の平均正反射率とする。正反射率とは、研磨面に入射した光束に対する、正反射した光束の比である。また、平均正反射率とは、波長360~830nmの範囲における正反射率の平均値である。正反射率の測定には、例えば、日本分光株式会社製、紫外可視分光光度計V-770DSおよび自動絶対反射率測定ユニットARMN-920が用いられる。
【0040】
また、波長555nmの光の正反射率の差は、2%以上20%以下であるのが好ましく、3%以上10%以下であるのがより好ましい。これにより、比視感度が最も高い波長でも十分な光反射率の差が確保される。その結果、上面101を見た者に対し、よりコントラストが高く、美的外観に優れた意匠を実現することができる。
【0041】
1.5.ビッカース硬さ
第1表面13のビッカース硬さと、第2表面14のビッカース硬さと、の差は、特に限定されないが、300以下であるのが好ましく、250以下であるのがより好ましく、200以下であるのがさらに好ましい。ビッカース硬さの差を前記範囲内に設定することにより、上面101を研磨したとき、第1表面13の研磨量と第2表面14の研磨量との差を十分に小さくすることができる。これにより、研磨後でも、上面101の平坦性を良好に維持することができる。その結果、研磨を繰り返しても、初期の意匠性をより良好に維持し得る金属製品を実現することができる。
【0042】
ビッカース硬さの測定には、ビッカース硬度計が用いられる。測定荷重は、5kgf(49N)、荷重保持時間は10秒とする。
【0043】
また、第1表面13および第2表面14の各ビッカース硬さは、100以上500以下であるのが好ましく、150以上400以下であるのがより好ましい。これにより、上面101を研磨するとき、第1表面13および第2表面14を良好に研磨することができるとともに、キズ付きやすさを低減することができる。
【0044】
1.6.鋼種の組み合わせ例
また、第1ステンレス鋼および第2ステンレス鋼に用いる鋼種の組み合わせは、前述したように、光反射率の差に基づいて適宜選択されるが、第1ステンレス鋼がオーステナイト系ステンレス鋼であり、第2ステンレス鋼が析出硬化系ステンレス鋼である組み合わせが好ましく用いられる。この組み合わせでは、光反射率の差が特に大きい。このため、意匠の美的外観がより良好な金属製品を実現可能な複合焼結体1が得られる。
【0045】
なお、本実施形態では、上面101を平面視したとき、第1部分11を取り囲むように第2部分12が設けられている。このような配置によれは、第2部分12で第1部分11を保護することができる。この場合、第2ステンレス鋼には、第1ステンレス鋼よりもビッカース硬さが高い鋼種が好ましく用いられる。これにより、第2部分12によって第1部分11を保護する能力を高めることができる。その結果、例えばキズ付きや打痕、欠損等の発生を抑制しつつ、良好な意匠性を有する金属製品を実現可能な複合焼結体1が得られる。
【0046】
なお、取り囲むとは、第2部分12が好ましくは図1に示すような閉じた環状をなしていることを指すが、環の一部が開いていてもよい。
【0047】
ここで、第1ステンレス鋼が、例えば、Fe、NiおよびMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼であり、第2ステンレス鋼が、例えば、Fe、NiおよびCuを含む析出硬化系ステンレス鋼である場合について考える。この場合、第1ステンレス鋼が含むMoは、第2ステンレス鋼にほとんど含まれておらず、一方、第2ステンレス鋼が含むCuは、第1ステンレス鋼にほとんど含まれていない。このため、第1部分11と第2部分12との界面IFにおけるMoおよびCuの拡散状態を観察することによって、第1部分11と第2部分12との拡散接合の状態を評価することができる。また、両鋼種は、Niの含有率が大きく異なるため、Niの拡散状態によっても、拡散接合の状態を評価することができる。
【0048】
第1ステンレス鋼のCuの含有率および第2ステンレス鋼のMoの含有率は、それぞれ、0.1質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以下であるのがより好ましい。これにより、上記効果がより確実に得られる。
【0049】
図3は、図2に示す断面について元素分析を行い、Ni、CuおよびMoの拡散状態を示す線分析結果である。図3の横軸は、第1部分11と第2部分12との界面IFを跨ぐ分析対象範囲の位置を表している。図3の縦軸は、各元素の濃度を表している。
【0050】
図3に示す例では、界面IFを介してNi濃度に差が認められる。また、界面IFの近傍では、このNi濃度の差が徐々に緩和している。緩和している範囲の幅は、40~50μm程度と見積もられる。この範囲は、高濃度側のNiが低濃度側に拡散していることを裏付けている。本明細書では、この幅を「拡散接合幅W_Ni」と呼ぶ。Niの拡散に基づく拡散接合幅W_Niは、10μm以上であるのが好ましく、20μm以上であるのがより好ましい。
【0051】
図3に示す例では、界面IFを介してCu濃度に差が認められる。また、界面IFの近傍では、このCu濃度の差が徐々に緩和している。緩和している範囲の幅は、80~120μm程度と見積もられる。この範囲は、高濃度側のCuが低濃度側に拡散していることを裏付けている。本明細書では、この幅を「拡散接合幅W_Cu」と呼ぶ。Cuの拡散に基づく拡散接合幅W_Cuは、10μm以上であるのが好ましく、20μm以上であるのがより好ましく、40μm以上であるのがさらに好ましい。これにより、拡散接合幅W_Cuが十分に広く確保され、第1部分11と第2部分12との密着性がより高められる。その結果、上面101の研磨を繰り返しても、界面IFに隙間等が生じにくくなり、良好な意匠性を維持しやすくなる。一方、Cuの過拡散による組成バランスの悪化を抑制するという観点から、拡散接合幅W_Cuの上限値は、300μm以下であるのが好ましく、200μm以下であるのがより好ましい。
【0052】
図3に示す例では、界面IFを介してMo濃度に差が認められる。また、界面IFの近傍では、このMo濃度の差が徐々に緩和している。緩和している範囲の幅は、40~60μm程度と見積もられる。この範囲は、高濃度側のMoが低濃度側に拡散していることを裏付けている。本明細書では、この幅を「拡散接合幅W_Mo」と呼ぶ。Moの拡散に基づく拡散接合幅W_Moは、5μm以上であるのが好ましく、10μm以上であるのがより好ましく、40μm以上であるのがさらに好ましい。これにより、拡散接合幅W_Moが十分に広く確保され、第1部分11と第2部分12との密着性がより高められる。その結果、上面101の研磨を繰り返しても、界面IFに隙間等が生じにくくなり、良好な意匠性を維持しやすくなる。一方、Moの過拡散による組成バランスの悪化を抑制するという観点から、拡散接合幅W_Moの上限値は、200μm以下であるのが好ましく、100μm以下であるのがより好ましい。
【0053】
また、上記の例のように、第1ステンレス鋼および第2ステンレス鋼は、鋼種が属する分類が互いに異なっているのが好ましい。これにより、第1ステンレス鋼と第2ステンレス鋼とで、結晶組織が異なるため、色相に差をつけることができる。このため、第1部分11と第2部分12との間で色相の差をつけることができ、コントラストが良好な意匠を得ることができる。
【0054】
1.7.再研磨に対する適性
上面101は、一度研磨に供された後、再研磨に供されることがある。このような場合、再研磨によって新たに100μm程度の研磨量が研磨されることになる。実施形態に係る複合焼結体1では、このような再研磨が施された場合でも、前述した光反射率の差が大きく低下することがないため、良好な意匠性を維持できる。
【0055】
具体的には、第1表面13および第2表面14を含む上面101を100μmの研磨量で再研磨する。再研磨を行う前の第1表面13の光反射率をRaとし、再研磨を行った後の第1表面13の光反射率をRbとする。このとき、再研磨の前後における光反射率差|Ra-Rb|は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。これにより、再研磨の前後で、光反射率の差を十分に小さく抑えることができる。その結果、繰り返しの再研磨に対する良好な適性(耐久性)を有する複合焼結体1を実現することができる。
【0056】
再研磨前の第1表面13および再研磨後の第1表面13は、それぞれ、JIS G 4304:2005に規定されている表面仕上げの記号#400に基づいて仕上げられている。
【0057】
2.複合焼結体の製造方法
次に、実施形態に係る複合焼結体の製造方法について説明する。ここでは、前述した複合焼結体1を製造する方法を例にして説明する。
【0058】
図4は、実施形態に係る複合焼結体の製造方法の構成を示す工程図である。図5および図6は、図4に示す複合焼結体の製造方法を説明するための図である。
【0059】
図4に示す複合焼結体の製造方法は、成形工程S102と、焼結工程S104と、を有する。
【0060】
2.1.成形工程
成形工程S102では、第1組成物110および第2組成物120を用い、多色成形を行って、図5および図6に示す多色成形体10を得る。図5は、多色成形体10を示す斜視図であり、図6は、図5のB-B線断面図である。第1組成物110は、第1ステンレス鋼で構成されている第1粉末を含むコンパウンドである。第2組成物120は、第2ステンレス鋼で構成されている第2粉末を含むコンパウンドである。各コンパウンドは、粉末以外に有機バインダー、溶媒、各種添加物等を含んでいてもよい。
【0061】
第1粉末および第2粉末の各平均粒径は、特に限定されないが、0.5μm以上30.0μm以下であるのが好ましく、3.0μm以上15.0μm以下であるのがより好ましく、5.0μm以上12.0μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、複合焼結体1のさらなる緻密化を図ることができる。
【0062】
平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて取得された、粉末の体積基準での累積粒度分布において、頻度の累積が小径側から50%である粒子径D50のことをいう。
【0063】
多色成形では、例えば、金属粉末射出成形法(MIM法)、押出成形法、熱溶融積層法(FDM法)等において、2種類以上の組成物を用いて成形を行う、多色成形法が用いられる。このうち、金属粉末射出成形法が好ましく用いられる。金属粉末射出成形法では、成形型に原材料を射出して成形体を作製するため、寸法精度が高い多色成形体を効率よく作製することができる。
【0064】
また、射出成形では、第1組成物および第2組成物を互いに同時にまたは互いに時間差を空けながら、成形型のキャビティー内に射出する。これにより、2種類の組成物をキャビティー内に充填することができる。なお、多色成形では、3種類以上の組成物が用いられてもよい。
【0065】
多色成形法では、第1組成物および第2組成物で互いに物性のバランスをとることにより、界面IFに隙間が生じるのを抑制し、最終的に製造される複合焼結体1の一体性を高める。
【0066】
具体的には、第1粉末の収縮開始温度T1[℃]と、第2粉末の収縮開始温度T2[℃]と、の温度差|T1-T2|が50℃以下となるように設定する。収縮開始温度T1とは、後述する焼結処理において第1粉末の温度が上昇するとき、熱膨張よりも焼結による収縮が大きくなり始める温度をいう。収縮開始温度T2も、第2粉末の熱膨張よりも焼結による収縮が大きくなり始める温度である。温度差|T1-T2|を前記範囲内に設定することで、第1組成物の成形体と第2組成物の成形体とが互いに重複する温度範囲で焼結を開始できる。これにより、界面IFでは双方の粉末を構成する原子を十分に拡散させることができる。その結果、第1部分11と第2部分12との界面IFが拡散接合している複合焼結体1を製造することができる。また、温度差|T1-T2|は、好ましくは30℃以下とされ、より好ましくは20℃以下とされる。
【0067】
収縮開始温度T1、T2は、熱機械分析(TMA)により求められる。TMAでは、第1組成物の成形体および第2組成物の成形体を試料とし、例えばアルゴン雰囲気や窒素雰囲気のような不活性雰囲気で試料を加熱しながら変形量を取得する。そして、試料が収縮を開始した温度を、収縮開始温度T1、T2とする。なお、試料中の有機バインダーの量は、粉末の10質量%とする。
【0068】
図7は、SUS316L粉末を含む成形体およびSUS630粉末を含む成形体について取得されたTMA曲線の例である。図7の横軸は温度、図7の縦軸は試料の変形量を表している。マイナスの変形量は、試料の収縮量を表している。なお、図7では、SUS316L粉末については、平均粒径が比較的小さい粉末と、平均粒径が比較的大きい粉末と、で個別に取得している。
【0069】
図7に示す各TMA曲線は、900~1000℃の範囲に極大値を持つ曲線になっている。そこで、この例では、TMA曲線が極大値をとるときの温度を、収縮開始温度としている。なお、粉末によっては、極大値を持たないTMA曲線が取得される場合もある。この場合は、収縮量が急激に大きくなる変曲点をとるときの温度を、収縮開始温度とすればよい。
【0070】
また、図7では、TMA曲線から見積もられた収縮開始温度を表に示している。この表に示すように、鋼種や粒径の違いによって、収縮開始温度が異なっている。
【0071】
このように収縮開始温度T1、T2は、各粉末の鋼種、粒径、比表面積等により調整可能である。例えば粉末の粒径を小さくしたり、比表面積を大きくしたりすることにより、収縮開始温度T1、T2を下げることができる。また、フェライト系ステンレス鋼やオーステナイト系ステンレス鋼は、析出硬化系ステンレス鋼に比べて、収縮開始温度T1、T2が低い傾向がある。
【0072】
得られた多色成形体には、必要に応じて、脱脂処理を施すようにしてもよい。
脱脂処理における加熱条件は、鋼種および有機バインダーの組成や配合量によって若干異なるものの、温度が100℃以上750℃以下、時間が0.1時間以上20時間以下であるのが好ましく、温度が150℃以上600℃以下、時間が0.5時間以上15時間以下であるのがより好ましい。
【0073】
多色成形体を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、窒素、アルゴンのような不活性雰囲気、大気のような酸化性雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
【0074】
2.2.焼結工程
焼結工程S104では、得られた多色成形体に焼結処理を施す。これにより、複合焼結体1が得られる。
【0075】
多色成形体では、前述したように、温度差|T1-T2|が最適化されている。このため、焼結時の昇温過程で、第1粉末が収縮を開始するタイミングと、第2粉末が収縮を開始するタイミングと、を揃えることができる。これにより、得られる複合焼結体1では、第1部分11と第2部分12との界面IFに隙間が生じるのを抑制することができる。その結果、第1部分11と第2部分12との界面IFが良好に拡散接合している複合焼結体1を製造することができる。
【0076】
焼結温度は、鋼種や粉末の粒径等によって異なるが、一例として980℃以上1450℃以下程度とされる。また、好ましくは1050℃以上1400℃以下程度とされる。
【0077】
また、焼結時間は、0.2時間以上7時間以下とされるが、好ましくは1時間以上6時間以下程度とされる。
【0078】
焼結処理の雰囲気は、例えば、水素等の還元性雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。減圧雰囲気の圧力は、常圧(100kPa)未満であれば、特に限定されないが、10kPa以下であるのが好ましく、1kPa以下であるのがより好ましい。
【0079】
その後、必要に応じて、複合焼結体1の上面101に研磨処理を施す。研磨処理は、上面101に生じる段差が100μm超である場合に、それを100μm以下にする目的の他、上面101の美的外観を高めることを目的として行うことができる。なお、研磨処理は、鏡面研磨の他、準鏡面研磨であってもよい。
【0080】
また、研磨処理に代えて、または研磨処理とともに、任意の仕上げ処理を行うようにしてもよい。仕上げ処理の例としては、例えば、エンボス加工、ヘアライン加工、バイブレーション加工、ダル加工、エッチング処理、化学発色処理、酸化黒色処理、酸化着色処理等が挙げられる。
【0081】
3.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る複合焼結体は、第1部分11と、第2部分12と、を有する。第1部分11は、第1ステンレス鋼の焼結体で構成されている。第2部分12は、第1ステンレス鋼とは鋼種が異なる第2ステンレス鋼の焼結体で構成され、界面IFで第1部分11と拡散接合している。また、第1部分11が露出している表面を第1表面13とし、第2部分12が露出している表面を第2表面14とする。第1表面13と第2表面14との段差は、100μm以下である。第1表面13の研磨時の光反射率と、第2表面14の研磨時の光反射率と、の差は、2%以上である。
【0082】
このような構成によれば、鋼種の違いに伴う良好な意匠性を上面101(表面)内に有し、上面101の再研磨を行ってもその意匠性を維持し得る複合焼結体1が得られる。このため、研磨を繰り返しても、初期の意匠性をより良好に維持し得る金属製品を実現することができる。また、界面IFには、隙間が生じにくいので、隙間による美的外観の低下や機械的特性の低下を抑制することができる。
【0083】
このような金属製品としては、例えば、時計、カメラ、モバイル端末等の外装部品の他、装身具、食器類、スポーツ用品、銘板、パネル、賞杯、自動車等の輸送機器の内装部品、その他のハウジング等が挙げられる。
【0084】
また、前記実施形態に係る複合焼結体は、第1表面13のビッカース硬さと、第2表面14のビッカース硬さと、の差が、300以下であることが好ましい。
【0085】
このような構成によれば、第1表面13および第2表面14を含む上面101を研磨したとき、第1表面13の研磨量と第2表面14の研磨量との差を十分に小さくすることができる。これにより、研磨後でも、上面101の平坦性を良好に維持することができる。その結果、研磨を繰り返しても、初期の意匠性をより良好に維持し得る金属製品を実現することができる。
【0086】
また、前記実施形態に係る複合焼結体では、第1ステンレス鋼が、Fe、NiおよびMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼であり、第2ステンレス鋼が、Fe、NiおよびCuを含む析出硬化系ステンレス鋼であることが好ましい。さらに、Moは、界面IFを介して5μm以上200μm以下の幅で拡散しており、Cuは、界面IFを介して10μm以上300μm以下の幅で拡散していることが好ましい。
【0087】
このような構成によれば、第1部分11と第2部分12との密着性がより高められる。その結果、上面101の研磨を繰り返しても、界面IFに隙間等が生じにくくなり、良好な意匠性を維持しやすくなる。
【0088】
また、前記実施形態に係る複合焼結体では、第1表面13および第2表面14を100μmの研磨量で再研磨し、再研磨を行う前の第1表面13の光反射率をRaとし、再研磨を行った後の第1表面13の光反射率をRbとする。このとき、|Ra-Rb|は、10%以下であることが好ましい。
【0089】
このような構成によれば、再研磨の前後で、光反射率の差を十分に小さく抑えることができる。その結果、繰り返しの再研磨に対する良好な適性(耐久性)を有する複合焼結体1を実現することができる。
【0090】
また、前記実施形態に係る複合焼結体の製造方法は、前記実施形態に係る複合焼結体を製造する方法であって、成形工程S102と、焼結工程S104と、を有する。成形工程S102では、第1ステンレス鋼で構成されている第1粉末を含む第1組成物、および、第2ステンレス鋼で構成されている第2粉末を含む第2組成物を用い、多色成形を行って多色成形体を得る。焼結工程S104では、多色成形体を焼結し、複合焼結体を得る。そして、第1粉末の収縮開始温度T1と、第2粉末の収縮開始温度T2と、の温度差|T1-T2|が50℃以下である。
【0091】
このような構成によれば、鋼種の違いに伴う良好な意匠性を上面101(表面)内に有し、上面101の再研磨を行ってもその意匠性を維持し得る複合焼結体1を製造することができる。また、第1部分11と第2部分12との界面IFが良好に拡散接合しているので、隙間による美的外観の低下や機械的特性の低下を抑制し得る複合焼結体1を製造することができる。
【0092】
以上、本発明に係る複合焼結体および複合焼結体の製造方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0093】
例えば、本発明に係る複合焼結体は、前記実施形態の各部が同様の機能を有する任意の構成物に置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【0094】
また、本発明に係る複合焼結体の製造方法は、前記実施形態に任意の目的の工程が付加されたものであってもよい。
【実施例0095】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
4.複合焼結体の作製
4.1.実施例1
まず、第1粉末として平均粒径10.6μmのSUS316L粉末、第2粉末として平均粒径6.0μmのSUS630粉末を用意した。なお、SUS316Lは、オーステナイト系ステンレス鋼であり、SUS630は、析出硬化系ステンレス鋼である。第1粉末および第2粉末の各収縮開始温度は、表1に示す通りである。
【0096】
次に、第1粉末と有機バインダーとを含むコンパウンド(第1組成物)および第2粉末と有機バインダーとを含むコンパウンド(第2組成物)を調製した。
【0097】
次に、調製したコンパウンドを用いて、金属粉末射出成形法により、多色成形体を作製した。続いて、多色成形体に脱脂処理および焼結処理を施し、複合焼結体を得た。
次に、複合焼結体の上面に研磨処理を施した。
【0098】
4.2.実施例2~8
複合焼結体の製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして複合焼結体を得た。
【0099】
4.3.比較例1~3
複合焼結体の製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして複合焼結体を得た。
【0100】
4.4.比較例4
SUS316Lの溶製材にレーザー加工を施し、凹凸で表現された模様を形成した。なお、凹凸の深さは最大100μmであった。模様を形成した溶製材を、比較例4の複合焼結体とした。
【0101】
5.複合焼結体の構成
5.1.第1表面と第2表面の光反射率の差
各実施例および比較例1~3の複合焼結体について、第1表面および第2表面の各光反射率を測定した。そして、光反射率の差を算出した。算出結果を表1に示す。
【0102】
5.2.段差
各実施例および比較例1~3の複合焼結体について、第1表面と第2表面との境界線を跨ぐように、表面形状を取得した。表面形状の取得にはレーザー顕微鏡を用いた。
次に、表面形状から境界線における段差を算出した。算出結果を表1に示す。
【0103】
5.3.ビッカース硬さ
各実施例および各比較例の複合焼結体について、第1表面および第2表面の各ビッカース硬さを測定した。そして、ビッカース硬さの差を算出した。算出結果を表1に示す。なお、比較例4については、凹凸を形成した箇所と、凹凸を形成していない箇所とで、ビッカース硬さの差を算出し、これを表1に記載した。
【0104】
5.4.再研磨の前後における光反射率の差
各実施例および各比較例の複合焼結体の上面に対し、再研磨を施した。研磨量は100μmとした。そして、再研磨の前後における光反射率の差を算出した。算出結果を表1に示す。なお、比較例4については、凹凸を形成した箇所の再研磨の前後における光反射率を測定し、その差を算出した。
【0105】
6.複合焼結体の評価
6.1.再研磨前の美的外観
各実施例および各比較例の複合焼結体について、再研磨前の上面を観察した。そして、観察結果を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表1に示す。
【0106】
A:上面の美的外観が特に高い
B:上面の美的外観がやや高い
C:上面の美的外観がやや低い
D:上面の美的外観が特に低い
【0107】
6.2.再研磨後の美的外観
各実施例および各比較例の複合焼結体について、再研磨後の上面を観察した。そして、観察結果を上記の評価基準に照らして評価した。
【0108】
次に、再研磨の前後における美的外観の変化を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表1に示す。
【0109】
A:再研磨の前後で美的外観が変化していない
B:再研磨の前後で美的外観が変化している
【0110】
6.3.界面の状態
実施例1~4および比較例1の複合焼結体について、厚さ方向に切断し、断面を研磨した。
【0111】
次に、研磨した断面について、元素分析を行い、CuおよびMoの拡散接合幅を求めた。そして、求めた拡散接合幅を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表1に示す。
【0112】
A:CuまたはMoの拡散接合幅が40μm以上である
B:CuまたはMoの拡散接合幅が5μm以上40μm未満である
C:CuまたはMoの拡散接合幅が1μm以上5μm未満である
D:CuまたはMoの拡散接合幅が1μm未満である
【0113】
【表1】
【0114】
表1に示すように、各実施例の複合焼結体は、再研磨前における美的外観が良好であった。特に鋼種の違いによる色相の差が平滑な面内に形成されており、独特で高い意匠性を生んでいることが認められた。また、再研磨の前後における美的外観の変化も認められなかった。さらに、実施例1~4の複合焼結体では、第1部分と第2部分との界面で良好な拡散接合が生じていることがわかった。
【0115】
一方、比較例1、2の複合焼結体では、界面に大きな段差が生じていた。これは、粉末同士で収縮開始温度に大きな差があったためと考えられる。
【0116】
また、比較例3の複合焼結体では、第1表面の研磨時の光反射率と、第2表面の研磨時の光反射率と、の差が小さかった。
【0117】
さらに、比較例4の複合焼結体では、再研磨によって凹凸が失われた。このため、比較例4の複合焼結体は、再研磨に対応できない、つまり、再研磨に対する適性を有していないことがわかった。
【符号の説明】
【0118】
1…複合焼結体、10…多色成形体、11…第1部分、12…第2部分、13…第1表面、14…第2表面、101…上面、102…下面、110…第1組成物、120…第2組成物、IF…界面、S102…成形工程、S104…焼結工程、W_Cu…拡散接合幅、W_Mo…拡散接合幅、W_Ni…拡散接合幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7