(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113807
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】撥水材、撥水性塗料、及び撥水性コンクリートの製造方法、防カビ方法、防錆方法、並びに撥水材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20240816BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240816BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C09D7/61
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019011
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】516207838
【氏名又は名称】東新 一三
(71)【出願人】
【識別番号】523048561
【氏名又は名称】林 明美
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東新 一三
【テーマコード(参考)】
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4H020BA32
4J038DL032
4J038HA456
4J038NA07
4J038PB05
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】
廃材であるもみ殻を利用した撥水材と、当該撥水材の製造方法、前記撥水材を含有する撥水性塗料の製造方法、前記撥水材を含有する撥水性コンクリートの製造方法、前記撥水材を利用した防カビ方法、及び前記撥水材を利用した防錆方法を提供する。
【解決手段】
焼成したもみ殻とシリコーンオイルとを混合する工程と、
もみ殻とシリコーンオイルとの混合物を焼成して撥水性の焼成物を得る工程を有する撥水材の製造方法等である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成したもみ殻とシリコーンオイルとを混合する工程と、
もみ殻とシリコーンオイルとの混合物を焼成して撥水性の焼成物を得る工程を有する撥水材の製造方法。
【請求項2】
もみ殻を焼成する工程と、
焼成したもみ殻とシリコーンオイルとを混合する工程と、
もみ殻とシリコーンオイルとの混合物を焼成して撥水性の焼成物を得る工程を有する撥水材の製造方法。
【請求項3】
前記混合物を焼成する際の温度は、500~900℃である請求項1又は2に記載の撥水材の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の前記撥水材と塗料とを混合する工程とを有する撥水性塗料の製造方法。
【請求項5】
前記撥水材の量は、撥水材を配合する前の塗料の質量を基準として、前記塗料の質量の0.5~6質量%である請求項4に記載の撥水性塗料の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の前記撥水材と、コンクリート組成物とを混合する工程を有する撥水性コンクリートの製造方法。
【請求項7】
前記撥水材は、前記コンクリート組成物に配合するセメントの質量を基準として、前記セメントの質量の0.5~6質量%である請求項6に記載の撥水性コンクリートの製造方法。
【請求項8】
請求項4の撥水性塗料を構造物に塗布して前記構造物におけるカビの発生を防止する防カビ方法。
【請求項9】
請求項4の撥水性塗料を金属材に塗布して発錆を防止する防錆方法。
【請求項10】
もみ殻の焼成物と、シリコーンオイルとを含有する撥水材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水材の製造方法、撥水性塗料の製造方法、撥水性コンクリートの製造方法、防カビ方法、防錆方法、及び撥水材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、シリコーンオイルを含有する液状の撥水剤が知られている。特許文献1の撥水材は、シリコーンオイルに対する分離指数が0.4以下であるパラフィン系オイル又は低分子量炭化水素樹脂と、シリコーンオイルとを含有する液状の撥水剤組成物であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように精製された化合物を主体とする撥水剤の場合、撥水性組成物の原料の製造にコストがかかり、撥水性組成物のコストが大きくなる傾向がある。撥水材の原料として廃材を利用すれば、撥水材の製造に要するコストを抑えることができるが、引用文献1には、そのような開示はない。
【0005】
本発明は、廃材であるもみ殻を利用した撥水材と、当該撥水材の製造方法、前記撥水材を含有する撥水性塗料の製造方法、前記撥水材を含有する撥水性コンクリートの製造方法、前記撥水材を利用した防カビ方法、及び前記撥水材を利用した防錆方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
焼成したもみ殻とシリコーンオイルとを混合する工程と、もみ殻とシリコーンオイルとの混合物を焼成して撥水性の焼成物を得る工程を有する撥水材の製造方法により、上記の課題を解決する。
【0007】
もみ殻を焼成する工程と、焼成したもみ殻とシリコーンオイルとを混合する工程と、もみ殻とシリコーンオイルとの混合物を焼成して撥水性の焼成物を得る工程を有する撥水材の製造方法により、上記の課題を解決する。
【0008】
前記撥水材と塗料とを混合する工程とを有する撥水性塗料の製造方法により、上記の課題を解決する。
【0009】
前記撥水材と、コンクリート組成物とを混合する工程を有する撥水性コンクリートの製造方法により、上記の課題を解決する。
【0010】
前記撥水性塗料を構造物に塗布して前記構造物におけるカビの発生を防止する防カビ方法により、上記の課題を解決する。
【0011】
前記撥水性塗料を金属材に塗布して発錆を防止する防錆方法により、上記の課題を解決する。
【0012】
もみ殻の焼成物と、シリコーンオイルとを含有する撥水材により、上記の課題を解決する。
【0013】
前記撥水材の製造方法において、前記混合物を焼成する際の温度は、500~900℃とすることができる。また、前記撥水性塗料の製造方法において、前記撥水材の量は、撥水材を配合する前の塗料の質量を基準として、前記塗料の質量の0.5~6質量%にすることができる。また、前記撥水性コンクリートの製造方法において、前記撥水材は、コンクリート組成物に配合するセメントの質量を基準として、前記セメントの質量の0.5~6質量%にすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、廃材であるもみ殻を利用した撥水材と、当該撥水材の製造方法、前記撥水材を含有する撥水性塗料の製造方法、前記撥水材を含有する撥水性コンクリートの製造方法、前記撥水材を利用した防カビ方法、及び前記撥水材を利用した防錆方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の限られた例に過ぎず、本発明の技術的範囲は例示した実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態の撥水材の製造方法は、もみ殻を焼成する工程と、焼成したもみ殻とシリコーンオイルとを混合する工程と、もみ殻とシリコーンオイルとの混合物を焼成して撥水性の焼成物を得る工程を有する。
【0017】
もみ殻は、イネの籾米の外皮である。前記もみ籾としては、コストの観点から、米から外皮を除去した際に産業廃棄物として排出されるものを好適に利用することができる。イネはケイ酸植物であり、土壌から積極的にケイ酸を吸収する。吸収されたケイ酸はもみ殻に高濃度に蓄積される。
【0018】
もみ殻を焼成する工程では、もみ殻を適宜の方法により、焼成する。もみ殻を焼成する際には、酸素を供給して完全燃焼が生じる条件下で、もみ殻の色が黒く変色する程度に加熱することが好ましい。もみ殻を焼成する際の温度は、例えば、500~900℃とすることが好ましい。もみ殻を焼成することにより、シリカ(SiO2)を高度に含有する黒色の焼成物が得られる。黒色の焼成物に含まれるシリカの含量は、例えば、90~98質量%である。また、もみ殻を焼成することにより、もみ殻は多孔質化する。シリカは、耐薬品性、耐熱性に優れており、変質しにくい。このため、シリコーンオイルと混合し、焼成したものは、例えば、酸性雨や薬品等による影響を受けにくく、耐久性に優れた撥水材となる。このような耐久性に優れるシリカを主体とするもみ殻の焼成物にシリコーンオイルを担持させることにより、シリコーンオイル自体も分解や変質しにくくなり、撥水効果が長期的に持続する。
【0019】
焼成したもみ殻とシリコーンオイルとを混合する工程では、もみ殻の焼成物100質量部に対して、シリコーンオイルを4~200質量部の割合で、もみ殻の焼成物とシリコーンオイルとを混合することが好ましい。シリコーンオイルは、4~50質量部とすることがより好ましく、4~15質量部とすることがより好ましい。この工程で、シリコーンオイルは、もみ殻に担持される。シリカを主成分とするもみ殻の焼成物は、シリコーンオイルと混合した際に、馴染みがよく、均一にブレンドすることができる。
【0020】
シリコーンオイルは、JISR3257:1999の静滴法による水滴との接触角度が40度以上である市販品を好適に使用することができる。接触角は90℃以上であることがより好ましい。接触角の上限値は特に限定されないが、例えば、160℃以下、又は150℃以下などである。シリコーンオイルとしては、例えば、主鎖にシロキサン結合を有する高分子を有効成分とするものが挙げられる。
【0021】
もみ殻とシリコーンオイルとの混合物を焼成して撥水性の焼成物を得る工程では、上述のもみ殻の焼成物とシリコーンオイルとの混合物を焼成する。もみ殻を焼成する際には、酸素を供給して完全燃焼が生じる条件下で、もみ殻の色が白く変色する程度に加熱することが好ましい。もみ殻を焼成する際の温度は、例えば、500~900℃とすることが好ましい。
【0022】
上記の方法により得られた白色の焼成物は、撥水性を備えている。例えば、コンクリート組成物に配合すれば、撥水性を備えるコンクリート成型物を得ることができる。また、塗料に配合すれば、撥水性を備える塗料を得ることができる。
【0023】
上述の撥水性を備えるコンクリート成形物は、それ自体が撥水性を有する。このため、当該コンクリート成形物を使用して外壁など屋外に設置される構造物を構築すれば、コンクリート成形物の内部への水の浸透を阻止して、前記構造物にカビが発生するのを効果的に防ぐことができる。また、コンクリート成形物が鉄筋を有するものであれば、鉄筋の腐食を効果的に防ぐことができる。前記構造物としては、例えば、外壁、階段、花壇、門柱、スロープ、トンネルの内壁、又は台座などが挙げられる。
【0024】
コンクリート組成物の組成は、特に限定されず、セメント、骨材、及び水を含有するものであればよい。上述の撥水材が組成物と混ざりやすくする目的で界面活性剤を配合してもよい。コンクリート組成物に、撥水材を配合する量は、セメント組成物に配合するセメントの質量を基準として、前記セメントの質量の0.5~6質量%とすることが好ましい。前記コンクリート組成物には、界面活性剤を配合してもよい。
【0025】
上述の撥水性を備える塗料を、屋外に設置される構造物の表面に塗布すれば、構造物への内部への水の浸透を阻止して、前記構造物にカビが発生するのを効果的に防ぐことができる。また、上述の撥水性を備える塗料を、船底に塗布すれば、フジツボや藻などが船底に付着するのを効果的に防止することができる。
【0026】
上述の撥水性を備える塗料を、金属材の表面に塗布すれば、金属材における発錆を防止することができる。金属材としては、例えば、柵、遊具など金属で構成され、腐食が生じやすい物品が挙げられる。
【0027】
塗料は特に限定されず、油性塗料、及び水性塗料のいずれにも、上述の撥水材を配合することができる。塗料に、撥水材を配合する量は、撥水材を配合する前の塗料の質量を基準として、前記塗料の質量の0.5~6質量%とすることが好ましい。塗料は、溶媒が揮発することにより合成樹脂成分が硬化するものが好ましい。塗料には、界面活性剤を配合してもよい。
【実施例0028】
以下、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。以下に示す実施例は、限られた例に過ぎず、本発明の技術的範囲は以下に挙げる実施例に限定されるべきものではない。
【0029】
[実施例1]
イネの穂から脱穀し、乾燥した籾米を、籾すり機を用いて、籾すりを行った。籾すりによりもみ殻を50kg得た。もみ殻50kgをロータリーキルンを用いて、酸素が供給される条件で、700℃で1時間にわたり焼成し、黒色の焼成物を1kg得た。
【0030】
上記1kgの焼成物と市販のシリコーンオイル(信越化学株式会社KF-99)100gとを混合した。混合物を、ロータリーキルンを用いて、700℃で1時間にわたり焼成し、白色の焼成物である撥水材を得た。この撥水材の剤型は、粉粒体状である。
【0031】
実施例1に係る撥水材を容器に入れておき、その上に数ミリリットルの水を滴下したところ、粉末状の撥水材の上で滴下された水滴が玉のようになり、撥水効果を発揮することが確認された。
【0032】
[実施例2]
セメント100gと、砂875gと、水25gとを混合して、1kgのコンクリート組成物を得た。このコンクリート組成物に、実施例1の方法で得た撥水材25gと界面活性剤6gとを配合して、混合した。
【0033】
上記の混合物を型枠に打設して、30日間養生して、実施例2に係るコンクリートブロックを得た。
【0034】
[比較例1]
上記のコンクリート組成物において、実施例1の方法で得た撥水材に替えて、上述の市販のシリコーンオイルを25gを配合した点以外は、実施例2と同様にして、コンクリートブロックを製造した。
【0035】
[浸水試験]
上記のコンクリートブロックを十分な量の水に浸漬して1週間静置した。1週間経過後にコンクリートブロックを引き上げて、コンクリートブロックを割って、コンクリートブロックの内部に水が染み込んでいないかどうかを目視で確認した。
【0036】
実施例2の方法で製造したコンクリートブロックでは、コンクリートブロック内部へ水が染み込んでいないことが確認された。
【0037】
比較のために用意した比較例1に係るコンクリートブロックでは、1週間にわたり水に浸漬することにより、わずかにコンクリートの内部へ水が染み込んでいた。コンクリートブロックを水に浸漬する期間が長期化するほど浸水の程度が強くなる傾向が確認された。このことからシリコーンオイルを配合した場合は、撥水性能が長期的には持続しにくい傾向があることが確認された。
【0038】
[カビの発生]
上記の実施例2に係るコンクリートブロックを屋外の日陰に放置してカビが生えるかどうかを目視により確認した。実施例2に係るコンクリートブロックでは、強い撥水効果により、コンクリートブロックに水が浸透せず、カビの発生もなかった。
【0039】
比較のために用意した比較例1に係るコンクリートブロックでは、コンクリートブロックの内部にわずかに水が浸入し、わずかにカビが発生していることが確認された。コンクリートブロックを屋外に放置する期間が長期化するほどカビが繁殖する程度が強くなる傾向が確認された。このことからシリコーンオイルを配合した場合は、防カビ性能が長期的には持続しにくい傾向があることが確認された。
【0040】
[実施例3]
市販の油性塗料4リットルに、実施例1の方法で得た撥水材を150g加えて、よく撹拌して、塗料を得た。
【0041】
[比較例2]
撥水材に替えて、上記同様のシリコーンオイル150gを使用したほかは、実施例3と同様にして、塗料を得た。
【0042】
[カビの発生]
市販のコンクリートブロックに、刷毛を用いて、実施例3に係る塗料を塗布した。コンクリートブロックを屋外の日陰に放置してカビが生えるかどうかを目視により確認した。実施例3に係る塗料を塗布したコンクリートブロックでは、強い撥水効果により、コンクリートブロックに水が浸透せず、カビの発生もなかった。
【0043】
比較のために用意した比較例2に係る塗料を塗布したコンクリートブロックでは、コンクリートブロックの内部にわずかに水が浸入し、カビがわずかに発生していることが確認された。コンクリートブロックを屋外に放置する期間が長期化するほどカビの繁殖の程度が強くなる傾向が確認された。このことからシリコーンオイルを配合した場合は、防カビ性能が長期的には持続しにくい傾向があることが確認された。