(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011382
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】筒状部材、組成物、成形体、構造材料、及び筒状部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 1/08 20060101AFI20240118BHJP
B29C 41/22 20060101ALI20240118BHJP
B29C 41/36 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
B32B1/08 Z
B29C41/22
B29C41/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113323
(22)【出願日】2022-07-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ムーンショット型研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128107
【弁理士】
【氏名又は名称】深石 賢治
(72)【発明者】
【氏名】磯部 紀之
(72)【発明者】
【氏名】田中 圭子
【テーマコード(参考)】
4F100
4F205
【Fターム(参考)】
4F100AJ04A
4F100AJ04B
4F100AJ08A
4F100AJ08B
4F100BA02
4F100DA11
4F100EJ86
4F100JK04
4F100JM10A
4F100JM10B
4F100YY00A
4F100YY00B
4F205AA01
4F205AC05
4F205AD05
4F205AD12
4F205AG08
4F205GA07
4F205GB01
4F205GB11
4F205GC04
4F205GF24
4F205GN29
(57)【要約】
【課題】力学物性に優れる新規な筒状部材を提供すること。当該筒状部材を含む組成物、当該組成物を成形して構成された成形体、当該筒状部材により構成された構造材料、及び筒状部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】本開示の一側面に係る筒状部材は、複数の層からなる筒状部材であって、第1の層と、第1の層の外側に配置された第2の層と、を備え、第1の層の外面に第2の層の内面が直接接しており、第1及び第2の層がいずれもキチン系化合物及びセルロース系化合物の少なくとも一方を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層からなる筒状部材であって、
第1の層と、
前記第1の層の外側に配置された第2の層と、
を備え、
前記第1の層の外面に前記第2の層の内面が直接接しており、
前記第1及び第2の層がいずれもキチン系化合物及びセルロース系化合物の少なくとも一方を含む、筒状部材。
【請求項2】
前記第1及び第2の層におけるキチン系化合物の含有量が、前記第1及び第2の層の全量を基準として、99質量%以上である、請求項1に記載の筒状部材。
【請求項3】
前記第1及び第2の層におけるセルロース系化合物の含有量が、前記第1及び第2の層の全量を基準として、99質量%以上である、請求項1に記載の筒状部材。
【請求項4】
当該筒状部材の3点曲げ試験により測定される最大曲げ応力が、75MPa以上である、請求項1に記載の筒状部材。
【請求項5】
当該筒状部材の3点曲げ試験により測定される最大曲げひずみが、10%以上である、請求項1に記載の筒状部材。
【請求項6】
当該筒状部材の内径が、5mm以上である、請求項1に記載の筒状部材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の筒状部材を含有する、組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の組成物を成形して構成された成形体。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の筒状部材を複数組み合わせて構成された構造材料。
【請求項10】
複数の層からなる筒状部材の製造方法であって、
キチン系化合物及びセルロース系化合物の少なくとも一方を含む筒状の第1のゲルを準備する工程と、
前記第1のゲルを乾燥させて第1の層を得る工程と、
キチン系化合物及びセルロース系化合物の少なくとも一方を含む筒状の第2のゲルを前記第1の層の外側に配置する工程と、
前記第2のゲルを乾燥させて第2の層を得る工程と、
を含む、筒状部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、筒状部材、組成物、成形体、構造材料、及び筒状部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筒状部材は、航空宇宙材料、自動車材料及び建材等の軽量でありつつ高い力学物性が求められる場面で頻繁に用いられており、筒状部材やその製造方法がこれまで開発されている(例えば、特許文献1~3)。
【0003】
ところで、持続可能な社会構築のため、低炭素化社会の達成が強く望まれている。その中で、化石資源由来の材料を天然素材で代替し、カーボンニュートラルを達成しようとする試みが盛んに行われている。航空宇宙材料及び自動車材料等に用いられる筒状部材についても同様に天然素材への代替が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-172697号公報
【特許文献2】特開2006-44262号公報
【特許文献3】特開2010-523363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような天然素材として、本発明者らは、高い力学強度及び高耐熱性を有する多糖であるセルロース系化合物及びキチン系化合物を用いることを検討した。
【0006】
本開示は、力学物性に優れる新規な筒状部材を提供する。また、本開示は、当該筒状部材を含む組成物、当該組成物を成形して構成された成形体、当該筒状部材により構成された構造材料、及び筒状部材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、複数の層からなる筒状部材であって、第1の層と、第1の層の外側に配置された第2の層と、を備え、第1の層の外面に第2の層の内面が直接接しており、第1及び第2の層がいずれもキチン系化合物及びセルロース系化合物の少なくとも一方を含む、筒状部材である。
【0008】
一態様において、第1及び第2の層におけるキチン系化合物の含有量は、第1及び第2の層の全量を基準として、99質量%以上であってよい。一態様において、第1及び第2の層におけるセルロース系化合物の含有量は、第1及び第2の層の全量を基準として、99質量%以上であってよい。
【0009】
一態様において、当該筒状部材の3点曲げ試験により測定される最大曲げ応力は、75MPa以上であってよい。一態様において、当該筒状部材の3点曲げ試験により測定される最大曲げひずみは、10%以上であってよい。一態様において、当該筒状部材の内径は、5mm以上であってよい。
【0010】
本開示の他の一側面は、上記筒状部材を含有する、組成物である。本開示の更に他の一側面は、当該組成物を成形して構成された成形体である。本開示の更に他の一側面は、上記筒状部材を複数組み合わせて構成された構造材料である。
【0011】
本開示の更に他の一側面は、複数の層からなる筒状部材の製造方法であって、キチン系化合物及びセルロース系化合物の少なくとも一方を含む筒状の第1のゲルを準備する工程と、第1のゲルを乾燥させて第1の層を得る工程と、キチン系化合物及びセルロース系化合物の少なくとも一方を含む筒状の第2のゲルを第1の層の外側に配置する工程と、第2のゲルを乾燥させて第2の層を得る工程と、を含む、筒状部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、力学物性に優れる新規な筒状部材が提供される。また、本開示によれば、当該筒状部材を含む組成物、当該組成物を成形して構成された成形体、当該筒状部材により構成された構造材料、及び筒状部材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る筒状部材の模式的な斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、実施例1で得られた筒状部材の写真である。
図2(b)は、実施例2で得られた筒状部材の写真である。
【
図3】
図3(a)は、実施例1、比較例1及び2の筒状部材について測定された応力-ひずみ曲線のグラフである。
図3(b)は、実施例2、比較例3及び4の筒状部材について測定された応力-ひずみ曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。本開示は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
[筒状部材]
以下、本実施形態に係る筒状部材について説明する。
図1は、本実施形態に係る筒状部材の模式的な斜視図である。
図1に示すように、本実施形態に係る筒状部材10は、第1の層1と、第1の層1の外側に配置された第2の層2と、を備える。第1の層1の外面に第2の層2の内面が直接接している。第1及び第2の層はいずれもキチン系化合物及びセルロース系化合物の少なくとも一方を含む。
【0016】
セルロース系化合物としては、例えば、セルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)が挙げられる。セルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースは、公知のものを適宜使用することができる。セルロース系化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
セルロース系化合物の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば、1000~1500000である。本明細書において、重量平均分子量は、GPC法標準ポリスチレン換算により求められる重量平均分子量を意味する。
【0018】
キチン系化合物としては、例えば、キチン及びキトサンが挙げられる。キチン系化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
キチン系化合物の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば、1000~1500000である。
【0020】
第1及び第2の層におけるセルロース系化合物の含有量は、力学物性に優れることから、第1及び第2の層の全量を基準として、99質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましい。
【0021】
第1及び第2の層におけるキチン系化合物の含有量は、力学物性に優れることから、第1及び第2の層の全量を基準として、99質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましい。
【0022】
第1及び第2の層におけるキチン系化合物及びセルロース系化合物の合計含有量は、力学物性に優れることから、第1及び第2の層の全量を基準として、99質量%以上であることが好ましい。
【0023】
第1の層1の厚さは、例えば、0.1~3.0mmであってよい。第2の層2の厚さは、例えば、0.1~3.0mmであってよい。
【0024】
第1の層1の内径(筒状部材10の内径)は、力学物性に優れることから、5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましい。第1の層1の内径は、例えば、50mm以下であってよい。第2の層2の内径(筒状部材10の内径)は、力学物性に優れることから、5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましい。第2の層2の内径は、例えば、50mm以下であってよい。
【0025】
第1及び第2の層の空隙率は、例えば、10%未満、5%以下、3%以下、又は1%以下であってよい。空隙率の測定方法は特に限定されず、第1及び第2の層を電子顕微鏡で解析することで空隙率を算出してよい。
【0026】
第1の層1の外面に第2の層2の内面は直接接している。第2の層2の内面は第1の層1の外面に少なくとも一部が直接接していてよく、全部が直接接していてもよい。第2の層2の内面のうち、第1の層1の外面に接している面積は、第2の層の内面の全面を基準として、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上又は90%以上であってよい。
【0027】
第1の層1の外面に第2の層2の内面は接着していてもよく、接着していなくてもよい。
【0028】
筒状部材10の3点曲げ試験により測定される最大曲げ応力は、75MPa以上であってよい。3点曲げ試験は、力学試験機を用いて行うことが出来る。
【0029】
筒状部材10の3点曲げ試験により測定される最大曲げひずみは、10%以上であってよい。3点曲げ試験は、力学試験機を用いて行うことが出来る。
【0030】
筒状部材10の3点曲げ試験により測定される曲げヤング率は、3GPa以上であってよい。3点曲げ試験は、力学試験機を用いて行うことが出来る。
【0031】
筒状部材10の高さは、その用途によって適宜変更することができるが、例えば、10mm以上、50mm以上、又は100mm以上であってよく、500mm以下、1000mm以下、又は10000mm以下であってよい。
【0032】
筒状部材10は、高さ方向に垂直な方向において、第1及び第2の層からなる積層構造を有する。筒状部材10は、高さ方向に垂直な方向の平面視において、円形状又は楕円形状であってよい。
【0033】
筒状部材10は、力学物性に優れることから、例えば、梱包材料、包装材料、航空宇宙材料、自動車材料及び建材等の用途に好適に用いることができる。筒状部材10は、200℃に加熱しても瓦解せず耐熱性に優れる傾向がある。筒状部材は、軽量性に優れる傾向がある。
【0034】
以上、一実施形態に係る筒状部材について説明したが、本開示の筒状部材は上記実施形態に限定されない。例えば、筒状部材は、第2の層の外側に第3の層を更に備えていてもよい。つまり、筒状部材は3層であってよい。第3の層は、その内面が第2の層の外面に直接接していてよい。第3の層の組成、厚さ及び空隙率は、第1の層及び第2の層と同様であってよい。第3の層の3点曲げ試験により測定される最大曲げ応力、最大曲げひずみ及びヤング率は、第1の層及び第2の層と同様であってよい。筒状部材は、第1~第3の層に加えて更にその他の層を備えていてもよい。つまり、筒状部材は4層以上であってよい。その場合、各層は互いに直接接していてよい。その他の層の組成、厚さ及び空隙率は、第1の層及び第2の層と同様であってよい。その他の層の3点曲げ試験により測定される最大曲げ応力、最大曲げひずみ及びヤング率は、第1の層及び第2の層と同様であってよい。
【0035】
[組成物]
以下、本実施形態に係る組成物について説明する。組成物は、上記実施形態に係る筒状部材を含有する。筒状部材は組成物を補強する役割を果たす。本実施形態に係る組成物は、バインダーを更に含有していてよい。バインダーとしては、例えば、樹脂が挙げられる。
【0036】
樹脂としては、例えば、ポリエステル、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂及び硅素樹脂が挙げられる。
【0037】
組成物は、例えば、筒状部材に樹脂を含浸させることで得られたものであってよい。
【0038】
[成形体]
以下、本実施形態に係る成形体について説明する。成形体は、上記実施形態に係る組成物を成形して構成されたものである。組成物が樹脂を含む場合には、成形体は、樹脂を硬化させて成形したものであってよい。成形体は、力学物性に優れることから、上記実施形態に係る筒状部材と同様の用途に好適に用いることができる。
【0039】
[構造材料]
以下、本実施形態に係る構造材料について説明する。構造材料は、上記実施形態に係る筒状部材を複数組み合わせて構成される。構造材料は、例えば、複数の筒状部材の外側の表面同士を接着剤等により接着させたものであってよい。構造材料は、力学物性に優れることから、上記実施形態に係る筒状部材と同様の用途に好適に用いることができる。
【0040】
[筒状部材の製造方法]
(第一実施形態)
以下、第一実施形態に係る筒状部材の製造方法について説明する。本実施形態に係る筒状部材の製造方法は、以下の工程を含む。
(A1)セルロース系化合物を含む筒状の第1のゲルを準備する工程
(B1)第1のゲルを乾燥させて第1の層を得る工程
(C1)セルロース系化合物を含む筒状の第2のゲルを第1の層の外側に配置する工程
(D1)第2のゲルを乾燥させて第2の層を得る工程
以下、各工程について説明する。
【0041】
<工程(A1)>
工程(A1)は、セルロース系化合物を含む筒状の第1のゲルを準備する工程である。本明細書において、ゲルとは、水を含有する分散系の組成物であって固体状のものを意味する。第1のゲルは、セルロース系化合物を含む溶液を用いて得られる。セルロース系化合物を含む溶液は、臭化リチウム水溶液にセルロースを溶解させることによって得られたものであってよい。臭化リチウム水溶液の臭化リチウムの濃度は、例えば、臭化リチウム水溶液の全量に対して、例えば、55~60質量%であり、50~65質量%であってもよい。
【0042】
臭化リチウム水溶液にセルロース系化合物を溶解させる際の温度は、例えば、100~160℃であり、90~180℃であってもよい。臭化リチウム水溶液にセルロース系化合物を溶解させる際のセルロース系化合物の配合量は、臭化リチウム水溶液100質量部に対して、例えば、0.5~10質量部であり、0.1~25質量部であってもよい。
【0043】
セルロース系化合物を含む溶液には、セルロース系化合物、臭化リチウム及び水以外の成分が含まれていてもよい。そのような成分としては、例えば、カーボンナノファイバーが挙げられる。かかる成分の含有量は、セルロース系化合物の全量を基準として、例えば、0.01~25質量%である。
【0044】
セルロース系化合物を含む溶液は、例えば、加熱した状態で筒状の容器内に収容し、その中央部に棒状の構造体を挿入して冷却することで、ゲル化されてよい。これにより第1のゲルが得られる。容器の形状は、第1のゲルが筒状となるものであれば特に制限されない。セルロース系化合物を含む溶液を冷却する際の温度は、当該溶液がゾルからゲルへと相変化する温度であれば特に制限されない。
【0045】
第1のゲルは、洗浄することによって第1のゲルから臭化リチウムを除去してよい。第1のゲルを洗浄する際に用いる洗浄液としては、第1のゲルから臭化リチウムを除去することができるものであれば、特に制限されないが、例えば、蒸留水及びイオン交換水が挙げられる。第1のゲルを洗浄する方法は、特に制限されないが、例えば、上述した洗浄液に第1のゲルを浸漬させる方法が挙げられる。第1のゲルが十分に洗浄されたか否かは、例えば、洗浄に使用した水に溶出する臭化リチウムの濃度に基づいて判断することができる。
【0046】
<工程(B1)>
工程(B1)は、第1のゲルを乾燥させて第1の層を得る工程である。第1のゲルの乾燥は、第1のゲルの中空部に棒状の構造体を挿入した状態で行ってよい。第1のゲルの乾燥は、例えば、オーブンにより行われてよい。第1のゲルの乾燥温度は、例えば、90℃であってよい。
【0047】
<工程(C1)>
工程(C1)は、セルロース系化合物を含む筒状の第2のゲルを第1の層の外側に配置する工程である。本工程では、例えば、第1のゲルと同様にして準備した第2のゲルを第1の層の外側に被せることで第2のゲルを配置してよい。この場合、第2のゲルの内径は、第1のゲルの内径よりも大きくてよい。
【0048】
<工程(D1)>
工程(D1)は、第2のゲルを乾燥させて第2の層を得る工程である。第2のゲルが乾燥されることで収縮して、第1の層の外面に第2の層の内面が直接接する。第2の層の内面は第1の層の外面に接着する。第2のゲルの乾燥は、第1のゲルの中空部に棒状の構造体を挿入した状態で行ってよい。第2のゲルの乾燥は、例えば、オーブンにより行われてよい。第2のゲルの乾燥温度は、例えば、90℃であってよい。
【0049】
以上、第一実施形態に係る筒状部材の製造方法について説明したが、本開示の筒状部材の製造方法は上記実施形態に限定されない。例えば、目的とする筒状部材が3層以上である場合に、下記の工程を更に含んでいてよい。その場合、目的とする筒状部材の層の数となるまで工程(E1)から工程(F1)までの一連の工程を繰り返す。
(E1)セルロース系化合物を含む筒状のゲルを最外層の外側に配置する工程
(F1)工程(E1)にて配置されたゲルを乾燥させて層を得る工程
以下、各工程について説明する。
【0050】
<工程(E1)>
工程(E1)は、セルロース系化合物を含む筒状のゲルを最外層(ゲルの乾燥物)の外側に配置する工程である。工程(E1)では、例えば、第1のゲルと同様にして準備したゲルを最外層の外側に被せることでゲルを配置してよい。この場合、配置するゲルの内径は、最外層の乾燥前のゲルの内径よりも大きくてよい。
【0051】
<工程(F1)>
工程(F1)は、工程(E1)にて配置されたゲルを乾燥させて層を得る工程である。本工程で得られる層は新たな最外層となる。工程(E1)にて配置されたゲルが乾燥されることで収縮して、ゲルの内側にある層の外面に新たに形成される最外層の内面が直接接する。ゲルの乾燥は、工程(D1)と同様にして行ってよい。
【0052】
(第二実施形態)
第二実施形態に係る筒状部材の製造方法について説明する。本実施形態に係る筒状部材の製造方法は、以下の工程を含む。
(A2)キチン系化合物を含む筒状の第1のゲルを準備する工程
(B2)第1のゲルを乾燥させて第1の層を得る工程
(C2)キチン系化合物を含む筒状の第2のゲルを第1の層の外側に配置する工程
(D2)第2のゲルを乾燥させて第2の層を得る工程
【0053】
<工程(A2)>
工程(A2)は、キチン系化合物を含む筒状の第1のゲルを準備する工程である。第1のゲルは、キチン系化合物を含む溶液を用いて得られる。キチン系化合物を含む溶液は、溶媒にキチンを溶解させることによって得られたものであってよい。溶媒としては、例えば、水、酢酸及びメタノールが挙げられる。
【0054】
キチン系化合物を含む溶液は、例えば、ゲル化剤を加え冷却した状態で筒状の容器内に収容し、その中央部に棒状の構造体を挿入したのち室温で放置することでゲル化されてよい。ゲル化剤は、例えば、無水酢酸が挙げられる。冷却温度は、例えば、-15~-10℃であってよい。
【0055】
第1のゲルは、洗浄することによって第1のゲルから溶媒(例えば、メタノール及び酢酸)を除去してよい。第1のゲルを洗浄する際に用いる洗浄液としては、第1のゲルから溶媒(例えば、メタノール及び酢酸)を除去することができるものであれば、特に制限されないが、例えば、蒸留水及びイオン交換水が挙げられる。第1のゲルを洗浄する方法は、特に制限されないが、例えば、上述した洗浄液に第1のゲルを浸漬させる方法が挙げられる。第1のゲルが十分に洗浄されたか否かは、例えば、洗浄に使用した水に溶出する溶媒(例えば、メタノール及び酢酸)の濃度に基づいて判断することができる。
【0056】
<工程(B2)>
工程(B2)は、第1のゲルを乾燥させて第1の層を得る工程である。第1のゲルの乾燥は、第1のゲルの中空部に棒状の構造体を挿入した状態で行ってよい。第1のゲルの乾燥は、例えば、オーブンにより行われてよい。第1のゲルの乾燥温度は、例えば、90℃であってよい。
【0057】
<工程(C2)>
工程(C2)は、キチン系化合物を含む筒状の第2のゲルを第1の層の外側に配置する工程である。本工程では、例えば、第1のゲルと同様にして準備した第2のゲルを第1の層の外側に被せることで第2のゲルを配置してよい。
【0058】
<工程(D2)>
工程(D2)は、第2のゲルを乾燥させて第2の層を得る工程である。第2のゲルが乾燥されることで収縮して、第1の層の外面に第2の層の内面が直接接する。第2の層の内面は第1の層の外面に接着しない。第2のゲルの乾燥は、第1のゲルの中空部に棒状の構造体を挿入した状態で行ってよい。第2のゲルの乾燥は、例えば、オーブンにより行われてよい。第2のゲルの乾燥温度は、例えば、90℃であってよい。
【0059】
以上、第二実施形態に係る筒状部材の製造方法について説明したが、本開示の筒状部材の製造方法は上記実施形態に限定されない。例えば、目的とする筒状部材が3層以上である場合に、下記の工程を更に含んでいてよい。目的とする筒状部材の層の数となるまで工程(E2)から工程(F2)までの一連の工程を繰り返す。
(E2)キチン系化合物を含む筒状のゲルを最外層の外側に配置する工程
(F2)工程(E2)にて配置されたゲルを乾燥させて層を得る工程
以下、各工程について説明する。
【0060】
<工程(E2)>
工程(E2)は、キチン系化合物を含む筒状のゲルを最外層(ゲルの乾燥物)の外側に配置する工程である。工程(E2)では、例えば、第1のゲルと同様にして準備したゲルを最外層の外側に被せることでゲルを配置してよい。この場合、配置するゲルの内径は、最外層の乾燥前のゲルの内径よりも大きくてよい。
【0061】
<工程(F2)>
工程(F2)は、工程(E2)にて配置されたゲルを乾燥させて層を得る工程である。本工程で得られる層は新たな最外層となる。工程(E2)にて配置されたゲルが乾燥されることで収縮して、ゲルの内側にある層の外面に新たに形成される最外層の内面が直接接する。ゲルの乾燥は、工程(D2)と同様にして行ってよい。
【実施例0062】
以下、本開示について実施例に基づいてより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
[筒状部材の製造]
(実施例1)
1.5gのキトサン100(商品名、富士フイルム和光純薬株式会社製)を30mLの酢酸水溶液(酢酸3mL及び水27mL)に溶解させ混合溶液を得た。メタノール120mLを混合溶液に加えて攪拌したのち、-12℃に冷却した。無水酢酸1.8mLを混合溶液に添加して攪拌した。試験管(内径:20mm、長さ:200mm)を2本用意し、各試験管に混合溶液を50mLずつ流し込んだ。各試験管の内部の中央にガラス棒(直径:10mm)を挿入し、混合溶液のゲル化が完了するまでガラス棒保持することで筒状のゲルを2つ得た。各ゲルを蒸留水にて洗浄した。2つの洗浄後のゲルのち一方のゲルの中空部にガラス棒(直径:5mm)を挿入したのち、ゲルを乾燥させた。これにより、筒状の第1の層を得た。2つの洗浄後のゲルのうちもう一方のゲルを第1の層の外側に被せた。ゲルを被せた第1の層の中空部にガラス棒(直径:5mm)を挿入したのち、ゲルを乾燥させた。これにより、ゲルが乾燥されて収縮することで第1の層の外面に第2の層の内面が直接接した筒状部材が得られた。得られた筒状部材の写真を
図2(a)に示した。得られた筒状部材には、割れ及び亀裂は確認されなかった。また、筒状部材の2層は密に接しているが接着してはいないことが確認された。
【0064】
(実施例2)
10.5gのセルロース(Merck社製、商品名「microcrystallinecellulosepowder」)を、60重量%の臭化リチウム水溶液200mLに加えて攪拌することで第1の混合溶液を得た。第1の混合溶液を155℃に加熱して更に攪拌することでセルロースを完全に溶解させた。試験管(内径:12mm、長さ:150mm)を用意し、試験管に第1の混合溶液を18mL流し込んだ。試験管の内部の中央にガラス棒(内径:5mm)を挿入し、第1の混合溶液のゲル化が完了するまでガラス棒を保持すること筒状のゲルを得た。ゲルは蒸留水にて洗浄した。ゲルの中空部にガラス棒(直径:5mm)を挿入したのち、ゲルを乾燥させた。これにより、筒状の第1の層を得た。
【0065】
第1の混合溶液と同様にして、5gのセルロース(旭化成株式会社製、商品名「ベンコット」)から第2の混合溶液を準備した。試験管(内径:内径20mm、長さ:200mm)を用意し、試験管に第2の混合溶液を50mL流し込んだ。試験管の内部の中央にガラス棒(直径:10mm)を挿入し、第2の混合溶液のゲル化が完了するまでガラス棒を保持することで筒状のゲルを得た。ゲルは蒸留水にて洗浄したのち、第1の層の外側に被せた。ゲルを被せた第1の層の中空部にガラス棒(直径:5mm)を挿入したのち、ゲルを乾燥させた。これにより、ゲルが乾燥されて収縮することで第1の層の外面に第2の層の内面が直接接した筒状部材が得られた。得られた筒状部材の写真を
図2(b)に示した。得られた筒状部材には、割れ及び亀裂は確認されなかった。また、筒状部材の2層は接着していることが確認された。
【0066】
(比較例1)
実施例1と同様にして第1の層を得た。これを比較例1の筒状部材とした。
【0067】
(比較例2)
深海ハオリムシの棲管を比較例2の筒状部材とした。
【0068】
(比較例3)
実施例2と同様にして第1の層を得た。これを比較例3の筒状部材とした。
【0069】
(比較例4)
セルロースとしてベンコット(商品名、旭化成株式会社製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして第1の層を得た。これを比較例4の筒状部材とした。
【0070】
[曲げヤング率、最大曲げ応力及び最大曲げひずみの測定]
(実施例1、2及び比較例1~4)
各筒状部材について力学試験機を用いて3点曲げ試験を行い、曲げヤング率、最大曲げ応力及び最大曲げひずみを測定した。実施例1、比較例1及び2の筒状部材について測定された応力-ひずみ曲線のグラフを
図3(a)に示した。実施例2、比較例3及び4の筒状部材について測定された応力-ひずみ曲線のグラフを
図3(b)に示した。実施例1及び2の筒状部材について、曲げヤング率は3GPa以上、最大曲げ応力は75MPa以上、最大曲げ応力時の曲げひずみは10%以上であった。
【0071】
本開示の要旨は以下の[1]~[10]に存する。
[1]複数の層からなる筒状部材であって、
第1の層と、
前記第1の層の外側に配置された第2の層と、
を備え、
前記第1の層の外面に前記第2の層の内面が直接接しており、
前記第1及び第2の層がいずれもキチン系化合物及びセルロース系化合物の少なくとも一方を含む、筒状部材。
[2]前記第1及び第2の層におけるキチン系化合物の含有量が、前記第1及び第2の層の全量を基準として、99質量%以上である、[1]に記載の筒状部材。
[3]前記第1及び第2の層におけるセルロース系化合物の含有量が、前記第1及び第2の層の全量を基準として、99質量%以上である、[1]に記載の筒状部材。
[4]当該筒状部材の3点曲げ試験により測定される最大曲げ応力が、75MPa以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の筒状部材。
[5]当該筒状部材の3点曲げ試験により測定される最大曲げひずみが、10%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の筒状部材。
[6]当該筒状部材の内径が、5mm以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の筒状部材。
[7][1]~[6]のいずれか一項に記載の筒状部材を含有する、組成物。
[8][7]に記載の組成物を成形して構成された成形体。
[9][1]~[6]のいずれか一項に記載の筒状部材を複数組み合わせて構成された構造材料。
[10]複数の層からなる筒状部材の製造方法であって、
キチン系化合物及びセルロース系化合物の少なくとも一方を含む筒状の第1のゲルを準備する工程と、
前記第1のゲルを乾燥させて第1の層を得る工程と、
キチン系化合物及びセルロース系化合物の少なくとも一方を含む筒状の第2のゲルを前記第1の層の外側に配置する工程と、
前記第2のゲルを乾燥させて第2の層を得る工程と、
を含む、筒状部材の製造方法。