(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113840
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02P 25/02 20160101AFI20240816BHJP
H02K 16/02 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H02P25/02
H02K16/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019076
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 雅史
(72)【発明者】
【氏名】北山 武志
(72)【発明者】
【氏名】阿久根 亮
(72)【発明者】
【氏名】服部 宏之
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505CC04
5H505DD08
5H505DD10
5H505EE07
5H505EE41
5H505EE48
5H505EE55
5H505JJ17
5H505LL39
5H505LL41
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】膨大な電流マップを用いることなくロータの位相差角を制御できる回転電機を提供する。
【解決手段】第1ロータ16に対して第2ロータ18を相対的に回動させることによって第1ロータ16に設けられた磁極と第2ロータ18に設けられた磁極との位相差を変更可能であり、第1ロータ16と第2ロータ18の位相差が第1の位相差であり、当該第1の位相差に固定された第1ロック状態、第1ロータ16と第2ロータ18の位相差が第1の位相差と異なる第2の位相差であり、当該第2の位相差に固定された第2ロック状態、第1ロータ16に対して第2ロータ18を回動させて、第1ロック状態と第2ロック状態との間で位相差を変化させるロック解除状態、の状態毎にステータ12に供給するステータ電流を切り替えて制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、前記ステータに対向して配置されたロータと、を備える回転電機であって、
前記ロータは、回転軸に固定された第1ロータと、前記回転軸の軸方向に沿って前記第1ロータと分割され、前記回転軸を回転中心として前記第1ロータに対して相対的に回動可能な第2ロータと、
を備え、
前記第1ロータに対して前記第2ロータを相対的に回動させることによって前記第1ロータに設けられた磁極と前記第2ロータに設けられた磁極との位相差を変更可能であり、
前記第1ロータと前記第2ロータの前記位相差が第1の位相差であり、当該第1の位相差に固定された第1ロック状態、
前記第1ロータと前記第2ロータの前記位相差が前記第1の位相差と異なる第2の位相差であり、当該第2の位相差に固定された第2ロック状態、
前記第1ロータに対して前記第2ロータを回動させて、前記第1ロック状態と前記第2ロック状態との間で前記位相差を変化させるロック解除状態、
の状態毎に前記ステータに供給するステータ電流を切り替えて制御することを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
出力トルク及び回転数に応じて前記第1ロック状態、前記第2ロック状態及び前記ロック解除状態の状態毎に定められた電流条件に前記ステータ電流を切り替えて制御することを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転電機であって、
前記第1ロック状態は、前記第1ロータの磁極と前記第2ロータの磁極の位相が一致した同極状態であり、
前記第2ロック状態は、前記第1ロータの磁極と前記第2ロータの磁極の位相が反転した逆極状態であり、
前記ロック解除状態は、前記回転軸に対して前記第2ロータが相対的に回動可能であり、前記同極状態から前記逆極状態へ遷移させる第1遷移状態と、前記回転軸に対して前記第2ロータが相対的に回動可能であり、前記逆極状態から前記同極状態へ遷移させる第2遷移状態と、であり、
前記同極状態、前記逆極状態、前記第1遷移状態及び前記第2遷移状態のいずれの状態であるかに応じて前記ステータ電流を切り替えて制御することを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機であって、
前記同極状態、前記逆極状態、前記第1遷移状態及び前記第2遷移状態の状態毎に出力トルク及び回転数に対して定められた電流条件を示すデータベースを参照して、
前記同極状態、前記逆極状態、前記第1遷移状態及び前記第2遷移状態の状態毎に出力トルク及び回転数に応じて定められた電流に前記ステータ電流を切り替えて制御することを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の回転電機であって、
前記第1ロック状態、前記第2ロック状態、前記ロック解除状態のいずれかを検出するためのセンサを備え、
前記センサの検出結果に応じて前記ステータ電流を切り替えて制御することを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の移動体の駆動用モータには、小型・高効率と同時に、広い運転範囲が求められる。低速時のトルク増加による小型化のため、強力な磁石をロータに用いるなど、ロータの起磁力増加が行われている。しかしながら、起磁力の高いロータを用いた場合、高速走行時には弱め磁束制御が必要であり、当該制御に伴う電流の増加によりモータ効率が低下することが懸念される。
【0003】
そこで、運転状況に合わせてロータの起磁力を可変にするために、ロータを軸方向に分割したモータ構造が提案されている(特許文献1~5)。低速でトルクが必要な場合、軸方向の磁極の向きを揃え(同極:N極とN極及びS極とS極を揃えた状態)、起磁力を増加させる。高速で起磁力を抑制したい場合、軸方向の磁極の向きを変化させる(逆極:N極とS極を揃えた状態)。以下、磁極が揃った状態を「同極」、磁極が反対向きになった状態を「逆極」と示す。
【0004】
ステータに流す電流によって同極と逆極との間を遷移させる技術が開示されている。例えば、ステータの電気角を進角にすることでロータの相対回転角(位相差角)を変化させる技術が開示されている(特許文献1)。また、ステータコイルの電流をベクトル制御することでロータの相対回転角(位相差角)を変化させる技術が開示されている(特許文献2)。さらに、電流指令値に基づいてロータの相対回転角(位相差角)を変化させる技術が開示されている(特許文献3)。このとき、電流マップを利用してステータに流す電流を制御してロータの位相差角を変化させる。
【0005】
また、電圧を重畳して推定したインダクタンスからロータの位相差角を推定し、ロータに配置するセンサの数を低減させた技術が開示されている(特許文献4)。また、角速度とロックの解除からの経過時間を利用してロータの位相差角を演算する技術が開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-038860号公報
【特許文献2】特開2014-204517号公報
【特許文献3】特開2016-135031号公報
【特許文献4】特開2009-254079号公報
【特許文献5】特開2015-177641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、具体的な電流制御の方法が記載されていない。また、特許文献2及び3の技術では、ロータの位相差角毎に膨大な電流マップを用意する必要があり、当該電流マップを記憶させておくためにモータ制御用のECUのメモリ容量が大量に消費されてしまうという問題がある。また、特許文献4及び5の技術では、ロータの位相差角を検知するセンサの数は低減できるが、電流マップを利用した制御に変わりはなくメモリ容量を大量に必要とする。さらに、位相差角情報に応じて逐一制御電流を切り替える必要があるため、制御遅れなどの無いシビアな応答性が求められる。
【0008】
さらに、上記特許文献では、ロータの位相差角を調整する際に回転電機から出力されるトルクについて言及されておらず、又は、言及されていても出力トルクを0に制御しながらの回動制御のみが考慮されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様は、ステータと、前記ステータに対向して配置されたロータと、を備える回転電機であって、前記ロータは、回転軸に固定された第1ロータと、前記回転軸の軸方向に沿って前記第1ロータと分割され、前記回転軸を回転中心として前記第1ロータに対して相対的に回動可能な第2ロータと、を備え、前記第1ロータに対して前記第2ロータを相対的に回動させることによって前記第1ロータに設けられた磁極と前記第2ロータに設けられた磁極との位相差を変更可能であり、前記第1ロータと前記第2ロータの前記位相差が第1の位相差であり、当該第1の位相差に固定された第1ロック状態、前記第1ロータと前記第2ロータの前記位相差が前記第1の位相差と異なる第2の位相差であり、当該第2の位相差に固定された第2ロック状態、前記第1ロータに対して前記第2ロータを回動させて、前記第1ロック状態と前記第2ロック状態との間で前記位相差を変化させるロック解除状態、の状態毎に前記ステータに供給するステータ電流を切り替えて制御することを特徴とする回転電機である。
【0010】
ここで、出力トルク及び回転数に応じて前記第1ロック状態、前記第2ロック状態及び前記ロック解除状態の状態毎に定められた電流条件に前記ステータ電流を切り替えて制御することが好適である。
【0011】
また、前記第1ロック状態は、前記第1ロータの磁極と前記第2ロータの磁極の位相が一致した同極状態であり、前記第2ロック状態は、前記第1ロータの磁極と前記第2ロータの磁極の位相が反転した逆極状態であり、前記ロック解除状態は、前記回転軸に対して前記第2ロータが相対的に回動可能であり、前記同極状態から前記逆極状態へ遷移させる第1遷移状態と、前記回転軸に対して前記第2ロータが相対的に回動可能であり、前記逆極状態から前記同極状態へ遷移させる第2遷移状態と、であり、前記同極状態、前記逆極状態、前記第1遷移状態及び前記第2遷移状態のいずれの状態であるかに応じて前記ステータ電流を切り替えて制御することが好適である。
【0012】
また、前記同極状態、前記逆極状態、前記第1遷移状態及び前記第2遷移状態の状態毎に出力トルク及び回転数に対して定められた電流条件を示すデータベースを参照して、前記同極状態、前記逆極状態、前記第1遷移状態及び前記第2遷移状態の状態毎に出力トルク及び回転数に応じて定められた電流に前記ステータ電流を切り替えて制御することが好適である。
【0013】
また、前記第1ロック状態、前記第2ロック状態、前記ロック解除状態のいずれかを検出するためのセンサを備え、前記センサの検出結果に応じて前記ステータ電流を切り替えて制御することが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、膨大な電流マップを用いることなく、かつ、位相差角情報を必要としない電流制御により、ロータの位相差角を制御できる回転電機を提供することができる。また、ロータの位相差角を調整する際の出力トルクを一定に維持した回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態における回転電機システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態におけるロータの構成を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態におけるロータの構成を示す断面斜視図である。
【
図4】本発明の実施の形態におけるロータの作用を説明する断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態におけるロータの作用を説明する断面斜視図である。
【
図6】本発明の実施の形態における伝達プレートの構成を示す図である。
【
図7】同極のロック状態で使用される電流マップの例を示す図である。
【
図8】同極から逆極へ遷移する第1遷移状態で使用される電流マップの例を示す図である。
【
図9】逆極のロック状態で使用される電流マップの例を示す図である。
【
図10】逆極から同極へ遷移する第2遷移状態で使用される電流マップの例を示す図である。
【
図11】電流制御の例における状態毎の電流条件を示す図である。
【
図12】電流制御の例における電流、ピストン位置及び位相差角の時間的な変化を示す図である。
【
図13】電流制御の例における位相差角と回動トルクの関係を示す図である。
【
図14】電流制御の例における電流実効値と出力トルクの時間的な変化を示す図である。
【
図15】電流制御の別例における電流、ピストン位置及び位相差角の時間的な変化を示す図である。
【
図16】電流制御の別例における電流実効値と出力トルクの時間的な変化を示す図である。
【
図17】電流制御の別例における電流、ピストン位置及び位相差角の時間的な変化を示す図である。
【
図18】電流制御の別例における電流実効値と出力トルクの時間的な変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態における回転電機システム100は、
図1に示すように、回転電機102、駆動回路104、電源106及び制御装置108を含んで構成される。回転電機システム100は、例えばハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等に搭載される。回転電機システム100は、駆動力を発生させるモータとして使用可能であると共に、発電機、モータ及び発電機の両方の機能をもつモータジェネレータとしても使用可能である。
【0017】
回転電機102は、筐体10、ステータ12、回転軸14、第1ロータ16、第2ロータ18、ロック機構20、軸受22及びロック駆動機構24を含んで構成される。なお、軸受22を設けず、回転軸14に対して第2ロータ18を摺動させるような構成としてもよい。
【0018】
回転電機102は、制御装置108に制御される駆動回路104によって、電源106から供給される電力を用いて回転軸14に対して駆動力を発生させる。また、回転軸14に与えられた回転エネルギーを駆動回路104によって電力に変換して電源106へ回生させる。駆動回路104は、電源106からの電力を交流に変換するインバータを含んで構成することができる。電源106は、例えば二次電池を含む蓄電システムを含んで構成することができる。
【0019】
筐体10は、回転電機102を機械的に支持するための構成である。筐体10内に、ステータ12、回転軸14、第1ロータ16、第2ロータ18、ロック機構20、軸受22及びロック駆動機構24が収納される。
【0020】
ステータ12は、ステータコアとステータコイルを備える。ステータコアは、電磁鋼板を回転軸14の軸方向に積層した積層体からなる中空円筒形状の部材である。ただし、ステータコアを構成する材料は、電磁鋼板に限定されるものではなく、アモルファス金属、ナノ結晶軟磁性材料、圧粉磁芯等の磁性体とすることができる。ステータコイルは、ステータコアの内周面に設けられた複数のスロットに配置されたコイルである。駆動回路104を介して電源106からステータコイルに電流を流すことによって、ステータコイルに磁場を発生させることができる。
【0021】
回転軸14には、第1ロータ16及び第2ロータ18が軸方向に沿って間隔をおいて配置される。本実施の形態における回転電機システム100では、2つに分割された第1ロータ16a,16bの間に第2ロータ18が配置される。ただし、第1ロータ16及び第2ロータ18は、3分割構造に限定されるものではなく、軸方向に分割されて互いに相対的に回動できる構造であればよい。
【0022】
第1ロータ16a,16bは、回転軸14に固定されている。また、第2ロータ18は、回転軸14に対して回転方向において移動可能に設置されている。すなわち、第2ロータ18は、回転軸14に対して相対的に回転可能とされている。例えば、第2ロータ18は、軸受22を介して回転軸14に取りつけられており、軸受22によって回転軸14に対して回転可能とされている。
【0023】
第1ロータ16(16a,16b)は、回転軸14に固定される基部と、基部の外周側に電磁鋼板を軸方向に積層した積層体を備える。ただし、積層体を構成する材料は、電磁鋼板に限定されるものではなく、アモルファス金属、ナノ結晶軟磁性材料、圧粉磁芯等の磁性体とすることができる。
【0024】
第2ロータ18は、電磁鋼板を軸方向に積層した積層体を備える。ただし、積層体を構成する材料は、電磁鋼板に限定されるものではなく、アモルファス金属、ナノ結晶軟磁性材料、圧粉磁芯等の磁性体とすることができる。
【0025】
本実施の形態では、
図2の断面模式図に示すように、第1ロータ16及び第2ロータ18には周方向に沿って等間隔に磁石30が配置される。磁石30は、例えば、45°置きに交互にN極とS極とが入れ替わるように8極の磁石30が配置される。なお、
図2では代表的に第2ロータ18を示しており、磁石30の磁極の方向をそれぞれS極からN極に向かう矢印で示している。第1ロータ16についても磁石30の配置は同様である。ただし、
図2の断面模式図は磁石30の配置の一例を示したものであり、磁石30の配置はこれに限定されるものではない。
【0026】
さらに、
図1に示すように、第2ロータ18には、回転軸14に対して固定できるようにロック機構20が設けられる。本実施の形態では、第2ロータ18と回転軸14との間にロック機構20が設けられる。ロック機構20は、回転軸14内に設けられたロック駆動機構24によって駆動される。
【0027】
図3に示すように、回転電機システム100の通常の運転時は、ロック機構20によって第2ロータ18を回転軸14に対して回転しないような状態として、第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18の両方が回転軸14の回転に寄与する状態とする。一方、界磁調整時は、ロック機構20を開放して、回転軸14を回転中心として第2ロータ18を回転可能として、第1ロータ16(16a,16b)に対して第2ロータ18を相対的に回転させ、周方向の位置を調整することで、ロータ全体としての界磁を調整することができる。
【0028】
このような構成において、ロック機構20を結合状態として回転軸14に対して第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18が回転しない状態(ロック状態)でステータ12のステータコイルに電流を流して回転磁界を形成することでステータ12に対して回転軸14を回転させる出力トルクを発生させることができる。また、逆に、回転軸14の回転エネルギーをステータ12のステータコイルに流れる電流に変換して回生させることができる。
【0029】
また、ロック機構20を開放状態して回転軸14に対して第2ロータ18が回転可能な状態(ロック解放状態)でステータ12のステータコイルに流す電流を制御することで、第1ロータ16(16a,16b)から回転軸14へ出力トルクを発生させつつ、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18との磁極の相対位相角(位相差角)を調整することができる。なお、ステータ12のステータコイルに流す電流はいわゆるベクトル制御することが好適である。
【0030】
以下、第1ロータ16a及び第1ロータ16bのN極と第2ロータ18のN極が軸方向に沿って揃い、第1ロータ16a及び第1ロータ16bのS極と第2ロータ18のS極が軸方向に沿った状態を同極という。また、第1ロータ16a及び第1ロータ16bのN極と第2ロータ18のS極が軸方向に沿って揃い、第1ロータ16a及び第1ロータ16bのS極と第2ロータ18のN極が軸方向に沿った状態を逆極という。
【0031】
なお、本実施の形態において、同極のロック状態が第1ロック状態に該当し、逆極のロック状態が第2ロック状態に該当する。ただし、第1ロック状態は、同極の状態に限定されるものではなく、第1ロータ16と第2ロータ18とが所定の第1の位相差であればよい。また、第2ロック状態は、逆極の状態に限定されるものではなく、第1ロータ16と第2ロータ18とが第1の位相差とは異なる第2の位相差であればよい。第1ロック状態から第2ロック状態へ遷移する状態が第1遷移状態、及び、第2ロック状態から第1ロック状態へ遷移する状態が第2遷移状態に該当する。第1遷移状態及び第2遷移状態は、第1ロータ16と第2ロータ18の位相差角がロックされていないロック解除状態に該当する。
【0032】
図2~
図6を参照して、ロック機構20及びロック駆動機構24の具体的な構成について説明する。ロック機構20は、ピン32、伝達プレート34及びハブ36を含んで構成される。また、ロック駆動機構24は、回動ロックシャフト38を含んで構成される。
【0033】
回転軸14は、第1ロータ16及び第2ロータ18の回転の軸方向に延びる中空領域14aを有する。回動ロックシャフト38は、ロック機構20に含まれるピン32が挿入されるピン孔38aを備えた円柱形状を有する。回動ロックシャフト38は、回転軸14の中空領域14aにおいて第2ロータ18の内周領域に該当する領域に配置される。回動ロックシャフト38は、アクチュエータ等の外部からの駆動力によって回転軸14の軸方向(
図3中の矢印方向)に移動可能に設けられる。
【0034】
ピン32は、回動ロックシャフト38に設けられたピン孔38aに挿入される。回動ロックシャフト38を回転軸14の軸方向に移動させると、回動ロックシャフト38と共にピン32も軸方向に移動する。
【0035】
伝達プレート34は、回転軸14と第2ロータ18とをロック状態にすると共に、回転軸14と第2ロータ18との間で動力を伝達するために設けられる部材である。伝達プレート34は、
図6に示すように、板状の部材である。伝達プレート34は、回動ロックシャフト38の中心軸を通って径方向に亘って設けられた貫通穴38b内に配置される。伝達プレート34は、貫通穴38b内において回転軸14(回動ロックシャフト38)の径方向に移動可能である。
【0036】
伝達プレート34には、
図6に示すように、ピン32を通すための誘導穴34aが設けられる。誘導穴34aは、伝達プレート34が回動ロックシャフト38の貫通穴38bに配置されたときに、回転軸14の軸方向及び径方向の両方に対して斜めの方向に沿って設けられる。回動ロックシャフト38と共に移動するピン32が誘導穴34aに通された状態において回動ロックシャフト38と共にピン32が軸方向に移動した場合、伝達プレート34は
図6の移動方向と示した矢印の方向に誘導される。
【0037】
ハブ36は、円筒形状を有する部材である。ハブ36は、回転軸14と第2ロータ18のコアとの間に配置される。ハブ36の外周は第2ロータ18の内周と係合するように構成され、ハブ36は第2ロータ18と一体に回転する。
【0038】
ハブ36の内周面には、伝達プレート34の両端がそれぞれ嵌まり込むことができるハブ溝36aが設けられる。ハブ溝36aは、第1ロータ16a及び第1ロータ16bに対して第2ロータ18が同極となる状態において伝達プレート34の一端が嵌まり込む位置、及び、第1ロータ16a及び第1ロータ16bに対して第2ロータ18が逆極となる状態において伝達プレート34の他端が嵌まり込む位置に設けられる。
【0039】
ハブ36の内周面には、さらに回動範囲を規制するハブ溝36bが設けられる。ハブ溝36bには回転軸14の外周に設けられた突起(キー部)14cが嵌まり、ハブ溝36b内において突起14cが動ける範囲において回転軸14に対する第2ロータ18の回動範囲が規制される。
【0040】
以下、
図4~
図6を参照して、本実施の形態におけるロック機構20及びロック駆動機構24の作用を説明する。ここでは、ロック機構20及びロック駆動機構24を用いて、回転電機システム100を同極から逆極にする場合の作用について説明する。
【0041】
図4は、回転軸14の軸方向に対して垂直な面における第2ロータ18の断面を示している。
図4(a)は同極のロック状態、
図4(b)は同極から逆極への回動中、
図4(c)は逆極のロック状態を示している。
図5は、第2ロータ18の内部構造を示す部分断面斜視図である。
図5(a)は同極のロック状態、
図5(b)は同極から逆極への回動中、
図5(c)は逆極のロック状態を示している。
【0042】
図4(a)及び
図5(a)に示すように、回転電機システム100が同極のとき、ピン32が誘導穴34aの一端(
図5(a)において下側の端部)に位置するように回動ロックシャフト38に外力が与えられる。誘導穴34aに通されたピン32によって、伝達プレート34の一端をハブ36の内周面へ押し上げる(
図4及び
図5において上向き)。
【0043】
同極のロック状態では、伝達プレート34がハブ36の内周面側に押し付けられることによって、伝達プレート34の当該一端(
図4(a)及び
図5(a)において上端)がハブ36のハブ溝36aに嵌合した状態となる。また、回転軸14に設けられた突起14cはハブ36のハブ溝36b内の一端に当接した状態となる。
【0044】
回転電機システム100がモータとして力行動作している場合、第1ロータ16及び第2ロータ18は正転方向(
図4(a)においてCCW方向)に回転し、当該正転方向にトルクを出力する。同極ロック状態において力行動作時には、ハブ36のハブ溝36b内の一端に当接した回転軸14の突起14cによって第2ロータ18の力行トルクが回転軸14に伝達される。すなわち、力行動作状態では、伝達プレート34の端部には力行トルクは印加されていない。一方、回転電機システム100がジェネレータとして回生動作している場合、第1ロータ16及び第2ロータ18は正転方向に回転し、回生トルクを逆転方向(
図4(a)においてCCW方向とは逆方向)に出力する。このような回生動作状態では、ハブ36に設けられたハブ溝36aに嵌合した伝達プレート34の端部によって第2ロータ18の回生トルクが回転軸14に伝達される。
【0045】
次に、同極から逆極にするために第2ロータ18を回動状態にする。外力により回動ロックシャフト38を移動させる(
図5(a)の矢印方向)と、回動ロックシャフト38と共にピン32も移動し、誘導穴34aの斜面にしたがって伝達プレート34が押し下げられる(
図4及び
図5において下向き)。これに伴って伝達プレート34の端部がハブ溝36aから外れ、第2ロータ18と回転軸14のロックが解除される。したがって、第2ロータ18の回動に必要な回動トルクの増加を抑制することができる。
【0046】
この状態において、ステータ12のステータコイルに流す電流を制御することで、第2ロータ18を回動させるためのトルク(回動トルク)を与える。これによって、
図4(b)に示すように、第2ロータ18の回動動作が開始される。
【0047】
なお、回転電機システム100がモータとして力行動作しているときに同極ロック状態から回動状態へ遷移させれば、回転軸14の突起14cによって第2ロータ18のトルクが回転軸14に伝達され、伝達プレート34の端部によってトルクが伝達されていない状態において回動状態へ遷移させることができる。すなわち、ロック解除の際に伝達プレート34がハブ36のハブ溝36aから押されておらず、ロック解除に必要な力を増加させない。押される場合は、当接面で摩擦が発生して、ロック解除に必要な力が増加する。したがって、回動ロックシャフト38の軸方向に沿った移動に必要な外力の増加を抑制することができる。
【0048】
回動動作を続けると、
図4(b)及び
図5(b)に示すように、伝達プレート34が斜面36dから外れた状態となる。このとき、伝達プレート34の両端は、ハブ36に設けられたハブ溝36cの内面には接触せず、回転軸14と伝達プレート34との相対的な回動に対する伝達プレート34による機械的な抵抗はない。
【0049】
回動動作を続けると、
図4(c)及び
図5(c)に示すように、第2ロータ18が逆極の位置まで回動され、ハブ36に設けられた別のハブ溝36aが伝達プレート34の位置まで移動する。また、押され続けた回動ロックシャフト38と共にピン32が移動し、ピン32が誘導穴34aの一端(
図5(c)において上側の端部)に位置する。すなわち、誘導穴34aに通されたピン32によって、伝達プレート34の一端をハブ36の内周面へ押し下げる(
図4及び
図5において下向き)。
【0050】
逆極のロック状態では、伝達プレート34がハブ36の内周面側に押し付けられることによって、伝達プレート34の当該一端(
図4(c)及び
図5(c)において下端)がハブ36のハブ溝36aに嵌合した状態となる。また、回転軸14に設けられた突起14cはハブ36のハブ溝36b内において同極ロック状態のときと反対側の一端に当接した状態となる。
【0051】
回転電機システム100がモータとして力行動作している場合、第1ロータ16及び第2ロータ18は正転方向(
図4(c)においてCCW方向)に回転し、当該正転方向にトルクを出力する。逆極ロック状態において力行動作時には、ハブ36に設けられたハブ溝36aに嵌合した伝達プレート34の端部によって第2ロータ18の力行トルクが回転軸14に伝達される。一方、回転電機システム100がジェネレータとして回生動作している場合、第1ロータ16及び第2ロータ18は正転方向に回転し、回生トルクを逆転方向(
図4(c)においてCCW方向とは逆方向)に出力する。このとき、ハブ36のハブ溝36b内の一端に当接した回転軸14の突起14cによって第2ロータ18の回生トルクが回転軸14に伝達される。すなわち、回生動作状態では、伝達プレート34の端部には回生トルクは印加されていない。
【0052】
なお、ロック機構20及びロック駆動機構24を用いて、逆極状態から同極状態へ遷移させる場合には逆の操作を行えばよい。このとき、回転電機システム100が回生動作しているときに逆極ロック状態から回動状態へ遷移させれば、回転軸14の突起14cとハブ36のハブ溝36bによってトルクが伝達され、伝達プレート34の端部によってトルクが伝達されていない状態において回動状態へ遷移させることができる。すなわち、伝達プレート34がハブ36のハブ溝36aから押されておらず、ロック解除に必要な力を増加させない。押される場合は、当接面で摩擦が発生して、ロック解除に必要な力が増加する。したがって、回動ロックシャフト38の軸方向に沿った移動に必要な外力の増加を抑制することができる。
【0053】
以上のように、回転電機システム100では、回動ロックシャフト38を軸方向に動かすことによって同極又は逆極のロック状態を解除し、ステータ12への通電によって回転軸14に対して第2ロータ18を相対的に回動させることで同極状態と逆極状態とを相互に遷移させることができる。なお、回転軸14と第2ロータ18とのロック機能は、回動ロックシャフト38を押し続けることによって、ロック機構20及びロック駆動機構24以外の外部機構や追加センサを必要とすることなく受動的に行うことが可能である。
【0054】
また、伝達プレート34を用いたシンプルな構成によってロック状態とロック解除状態を実現することができる。さらに、回動動作中において伝達プレート34が第2ロータ18の中心部に配置されるため、回転による遠心力の影響を受け難い構造となっている。
【0055】
また、回転電機システム100では、第2ロータ18の内部にロック機構20及びロック駆動機構24を配置しており、回動動作はステータ12への通電によって行うために回転電機システム100の体積を増加させることなく同極状態と逆極状態を実現することができる。また、ロックのためのスキュー角の検出手段や制御も不要である。
【0056】
なお、回動ロックシャフト38に対して軸方向に沿って片側から力を印加し続けるためのバネ等の弾性体を回転軸14の中空部に設けた構成としてもよい。バネ等の弾性体を設けることで、回動ロックシャフト38に対して片側から外力を印加し続けることが可能になる。これによって、回転電機システム100の回動ロックシャフト38を外部から駆動するアクチュエータ等が停止した状態においても同極ロック状態又は逆極ロック状態を維持することが可能になる。
【0057】
回動ロックシャフト38に対して外力を与える機構に特別なアクチュエータを設けることなく、例えば、ベアリングやギア等に使用する潤滑油の油圧を利用して動作させることもできる。この場合、元々からある潤滑油のポンプが利用できるため、アクチュエータ等の外部から駆動力を与える機構を追加する必要がなく、システム全体を小型にできる。
【0058】
[回転電機システムの制御]
以下、回転電機システム100における第1ロータ16及び第2ロータ18の位相差角を調整するためのステータ12のステータコイルに流す電流の制御について説明する。
【0059】
本実施の形態における回転電機システム100では、同極のロック状態、逆極のロック状態、同極から逆極へ遷移する第1遷移状態、逆極から同極へ遷移する第2遷移状態の4つの状態に対してそれぞれ1つの電流マップを用いて、それぞれの運転状態に応じて電流マップを切り替えてステータ12のステータコイルに流す電流の制御を行う。
【0060】
なお、回動ロックシャフト38に位置センサを設けて、回動ロックシャフト38の回転軸方向の位置を検知することによって、回転電機システム100が4つの状態のいずれかの状態にあることを検知することができる。また、第1ロータ16又は第2ロータ18にレゾルバ等を設けることによって、回転電機システム100が4つの状態のいずれかの状態にあることを検知することができる。ただし、これらの構成及び方法に限定されるものではなく、回転電機システム100が4つの状態のいずれかの状態にあることを検知できるものであればよい。
【0061】
電流マップは、
図7~
図10に示すように、回転電機システム100の回転数と出力トルクに対してステータ12のステータコイルに流す電流の条件を示したデータベースである。
図7は、同極のロック状態で使用される電流マップ、
図8は、同極から逆極へ遷移する第1遷移状態で使用される電流マップ、
図9は、逆極のロック状態で使用される電流マップ、
図10は、逆極から同極へ遷移する第2遷移状態で使用される電流マップの例である。
【0062】
電流条件は、電流実効値(Ie)と電流進角(β)の組み合わせ、又は、d軸電流(id)とq軸電流(iq)の組み合わせとする。なお、電流実効値(Ie)と電流進角(β)の組み合わせと軸電流(id)とq軸電流(iq)の組み合わせは数式(1)に関係式で相互に変換可能である。
【数1】
【0063】
電流マップは、回転電機102における磁界解析や実機計測によって同極のロック状態、同極から逆極へ遷移する第1遷移状態、逆極のロック状態、逆極から同極へ遷移する第2遷移状態に適した電流条件を導出することで作成することができる。すなわち、回転電機102の回転数(回転速度)に対して様々な電流条件を適用したときの出力トルク及び回動トルクを求め、電流を縦軸、電流進角を横軸として出力トルクと回動トルクのマップを生成し、これらのマップから各状態において回転数(回転速度)と出力トルクの組み合わせに対して適した電流条件を求めて電流マップとする。
【0064】
制御装置108は、4つの状態における電流マップを記憶する記憶部を備えており、当該電流マップを参照してステータ12のステータコイルに流す電流の制御を行う。制御装置108は、回動ロックシャフト38の位置を検出するセンサによって回動ロックシャフト38の位置から第1ロータ16及び第2ロータ18が同極のロック状態、逆極のロック状態、同極から逆極へ遷移する第1遷移状態、逆極から同極へ遷移する第2遷移状態のいずれであるかを判定する。そして、判定した現在の状態に対応する電流マップを参照して、回転電機システム100の回転数と出力トルクに対応する電流条件を読み出す。そして、制御装置108は、読み出した電流条件に応じて駆動回路104を制御して、ステータ12のステータコイルに流れる電流を当該電流条件に応じた値に制御する。
【0065】
第1ロータ16及び第2ロータ18が同極のロック状態である場合、
図7に示すように、回転数と出力トルクとの組み合わせに応じてステータ12に流す電流の電流条件を電流実効値I
1及び電流進角β
1として制御を行う。また、第1ロータ16及び第2ロータ18を同極から逆極へと回動させる場合、
図8に示すように、回転数と出力トルクとの組み合わせに応じてステータ12に流す電流の電流条件を電流実効値I
2及び電流進角β
2として制御を行う。第1ロータ16及び第2ロータ18が逆極のロック状態である場合、
図9に示すように、回転数と出力トルクとの組み合わせに応じてステータ12に流す電流の電流条件を電流実効値I
3及び電流進角β
3として制御を行う。また、第1ロータ16及び第2ロータ18を逆極から同極へと回動させる場合、
図10に示すように、回転数と出力トルクとの組み合わせに応じてステータ12に流す電流の電流条件を電流実効値I
4及び電流進角β
4として制御を行う。
【0066】
すなわち、同極から逆極に回動させたい場合、ステータ12に流す電流を状態毎に電流実効値I1及び電流進角β1→電流実効値I2及び電流進角β2→電流実効値I3及び電流進角β3と切り替える。また、逆極から同極に回動させたい場合、ステータ12に流す電流を状態毎に電流実効値I3及び電流進角β3→電流実効値I4及び電流進角β4→電流実効値I1及び電流進角β1と切り替える。
【0067】
以下、第1例として、回転電機102の回転数及び出力トルクを一定に維持するように逆極のロック状態→逆極から同極へ遷移する第2遷移状態→同極のロック状態へ状態を遷移させた場合のステータ12のステータコイルに流す電流の制御例を説明する。
【0068】
図11は、ステータ12のステータコイルに流す電流の電流実効値(Ie)の時間変化、及び、ステータ12のステータコイルに流す電流の電流進角(β)の時間変化を示す。横軸の時間の経過と共に、ステータ12に流す電流を電流実効値I
3及び電流進角β
3→電流実効値I
4及び電流進角β
4→電流実効値I
1及び電流進角β
1と切り替えている。
【0069】
図12は、逆極のロック状態→逆極から同極へ遷移する第2遷移状態→同極のロック状態へ状態を遷移させた場合において、ステータ12のステータコイルに流れる3相電流の各相の波形、ピストン(回動ロックシャフト38)の位置、第1ロータ16と第2ロータ18との位相差角の時間的な変化の実測結果を示す。また、
図13は、第1ロータ16と第2ロータ18の位相差角に対する第2ロータ18に与えられる回動トルクの変化の解析結果を示す。
【0070】
図12及び
図13に示すように、ステータ12のステータコイルに流す電流を状態毎に切り替える制御を行うことによって、逆極のロック状態→ロック解除状態→同極のロック状態と第1ロータ16と第2ロータ18の位相差角を遷移させることができている。
【0071】
図14は、逆極から同極へと遷移させた場合について、
図12に示した電流波形に基づいて算出した電流実効値と回転電機102に設けたトルク計で実測した出力トルクの時間的な変動を示す。
図14において、電流マップ作成時に電流条件を導出したトルク指令値を破線で示している。
【0072】
図14に示すように、状態毎に準備した電流マップを参照して、状態毎にステータ12のステータコイルに流れる電流を切り替えて制御することによって、回転電機102から出力される出力トルクを一定に維持しつつ、第1ロータ16と第2ロータ18との関係を逆極から同極へと遷移させることができる。
【0073】
次に、第2例として、回転電機102の回転数及び出力トルクを第1例と同じ値に維持しつつ、逆極のロック状態→逆極から同極へ遷移する第2遷移状態→同極のロック状態へ状態を遷移させる際の回動トルクを増加(第1例の2倍)させた場合のステータ12のステータコイルに流す電流の制御例を説明する。
【0074】
図15は、逆極のロック状態→逆極から同極へ遷移する第2遷移状態→同極のロック状態へ状態を遷移させた場合において、ステータ12のステータコイルに流れる3相電流の各相の波形、ピストン(回動ロックシャフト38)の位置、第1ロータ16と第2ロータ18との位相差角の時間的な変化の実測結果を示す。
図16は、逆極から同極へと遷移させた場合について、
図15に示した電流波形に基づいて算出した電流実効値と回転電機102に設けたトルク計で実測した出力トルクの時間的な変動を示す。
図16において、電流マップ作成時に電流条件を導出したトルク指令値を破線で示している。
【0075】
回動トルクを増大させた場合、
図15に示すように、第1例に比べて回動中の電流値が増加する。その結果、第1例に比べて逆極から同極への遷移の速度も増加し、遷移状態である時間が短縮されている。また、
図16に示すように、回転電機102から出力される出力トルクを一定に維持しつつ、第1ロータ16と第2ロータ18との関係を逆極から同極へと遷移させることができる。
【0076】
次に、第3例として、回転電機102の回転数は第1例と同じ値とし、出力トルクを第1例より増加(第1例の2倍)させて維持しつつ、逆極のロック状態→逆極から同極へ遷移する第2遷移状態→同極のロック状態へ状態を遷移させた場合のステータ12のステータコイルに流す電流の制御例を説明する。
【0077】
図17は、逆極のロック状態→逆極から同極へ遷移する第2遷移状態→同極のロック状態へ状態を遷移させた場合において、ステータ12のステータコイルに流れる3相電流の各相の波形、ピストン(回動ロックシャフト38)の位置、第1ロータ16と第2ロータ18との位相差角の時間的な変化の実測結果を示す。
図18は、逆極から同極へと遷移させた場合について、
図17に示した電流波形に基づいて算出した電流実効値と回転電機102に設けたトルク計で実測した出力トルクの時間的な変動を示す。
図18において、電流マップ作成時に電流条件を導出したトルク指令値を破線で示している。
【0078】
出力トルクを増大させた場合、
図17に示すように、第1例に比べて逆極、回動中、同極のいずれの状態においても電流値が増加する。また、第2例と同じように、第1例に比べて逆極から同極への遷移の速度も増加し、遷移状態である時間が短縮されている。また、
図18に示すように、第1例及び第2例よりも出力トルクは増加しており、回転電機102から出力される出力トルクを一定に維持しつつ、第1ロータ16と第2ロータ18との関係を逆極から同極へと遷移させることができる。
【0079】
なお、本実施の形態では、回転電機102の回転数及び出力トルクを一定に維持しつつ逆極から同極へと状態を遷移させた例について示したが、回転電機102の回転数及び出力トルクを一定に維持しつつ同極から逆極へと状態を遷移させる場合についても同様に制御することができる。
【0080】
以上のように、本実施の形態における回転電機システム100では、第1ロータ16と第2ロータ18との位相差角毎に大量の電流マップを設けることなく、ロック状態(第1ロック状態、第2ロック状態)とロック解放状態(第1遷移状態、第2遷移状態)の状態毎に準備した電流マップを参照して、状態毎にステータ12のステータコイルに流れる電流を切り替えて制御することによって、回転電機102から出力される出力トルクを一定に維持しつつ、第1ロータ16と第2ロータ18との関係を同極から逆極へと遷移させることができる。
【0081】
[発明の構成]
[構成1]
ステータと、前記ステータに対向して配置されたロータと、を備える回転電機であって、
前記ロータは、回転軸に固定された第1ロータと、前記回転軸の軸方向に沿って前記第1ロータと分割され、前記回転軸を回転中心として前記第1ロータに対して相対的に回動可能な第2ロータと、
を備え、
前記第1ロータに対して前記第2ロータを相対的に回動させることによって前記第1ロータに設けられた磁極と前記第2ロータに設けられた磁極との位相差を変更可能であり、
前記第1ロータと前記第2ロータの前記位相差が第1の位相差であり、当該第1の位相差に固定された第1ロック状態、
前記第1ロータと前記第2ロータの前記位相差が前記第1の位相差と異なる第2の位相差であり、当該第2の位相差に固定された第2ロック状態、
前記第1ロータに対して前記第2ロータを回動させて、前記第1ロック状態と前記第2ロック状態との間で前記位相差を変化させるロック解除状態、
の状態毎に前記ステータに供給するステータ電流を切り替えて制御することを特徴とする回転電機。
[構成2]
構成1に記載の回転電機であって、
出力トルク及び回転数に応じて前記第1ロック状態、前記第2ロック状態及び前記ロック解除状態の状態毎に定められた電流条件に前記ステータ電流を切り替えて制御することを特徴とする回転電機。
[構成3]
構成1又は2に記載の回転電機であって、
前記第1ロック状態は、前記第1ロータの磁極と前記第2ロータの磁極の位相が一致した同極状態であり、
前記第2ロック状態は、前記第1ロータの磁極と前記第2ロータの磁極の位相が反転した逆極状態であり、
前記ロック解除状態は、前記回転軸に対して前記第2ロータが相対的に回動可能であり、前記同極状態から前記逆極状態へ遷移させる第1遷移状態と、前記回転軸に対して前記第2ロータが相対的に回動可能であり、前記逆極状態から前記同極状態へ遷移させる第2遷移状態と、であり、
前記同極状態、前記逆極状態、前記第1遷移状態及び前記第2遷移状態のいずれの状態であるかに応じて前記ステータ電流を切り替えて制御することを特徴とする回転電機。
[構成4]
構成3に記載の回転電機であって、
前記同極状態、前記逆極状態、前記第1遷移状態及び前記第2遷移状態の状態毎に出力トルク及び回転数に対して定められた電流条件を示すデータベースを参照して、
前記同極状態、前記逆極状態、前記第1遷移状態及び前記第2遷移状態の状態毎に出力トルク及び回転数に応じて定められた電流に前記ステータ電流を切り替えて制御することを特徴とする回転電機。
[構成5]
構成1~4のいずれか1項に記載の回転電機であって、
前記第1ロック状態、前記第2ロック状態、前記ロック解除状態のいずれかを検出するためのセンサを備え、
前記センサの検出結果に応じて前記ステータ電流を切り替えて制御することを特徴とする回転電機。
【符号の説明】
【0082】
10 筐体、12 ステータ、14 回転軸、14a 中空領域、14c 突起(キー部)、20 ロック機構、22 軸受、24 ロック駆動機構、30 磁石、32 ピン、34 伝達プレート、34a 誘導穴、36 ハブ、36a ハブ溝、36b ハブ溝、36c ハブ溝、36d 斜面、38 回動ロックシャフト、38a ピン孔、38b 貫通穴、100 回転電機システム、102 回転電機、104 駆動回路、106 電源、108 制御装置。