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特開2024-113841印刷物、印刷物を印刷する方法およびプリンタ、印刷物の真贋を判定するための装置、方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113841
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】印刷物、印刷物を印刷する方法およびプリンタ、印刷物の真贋を判定するための装置、方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240816BHJP
   B41M 3/14 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G06T7/00 300F
B41M3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019077
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】前平 誠
【テーマコード(参考)】
2H113
5L096
【Fターム(参考)】
2H113AA04
2H113AA05
2H113AA06
2H113BA00
2H113CA39
2H113FA56
5L096BA08
5L096CA02
5L096DA02
5L096FA23
5L096JA11
(57)【要約】
【課題】 専用の検証器具を持ち合わせる必要なく、かつ印刷方式に関する知識がなくても、精度の高い真贋判定を容易に実施することが可能な技術を提供すること。
【解決手段】 本発明の真贋判定装置は、撮像された被検体の画像に対して二次元フーリエ変換を実行するフーリエ変換実行部と、二次元フーリエ変換で得られた結果から、画像における周期性に関する特徴量を抽出する特徴量抽出部と、抽出された特徴量を、予め準備された真正品の特徴量と比較する比較部と、比較の結果に基づいて、被検体の真贋判定を行う真贋判定部とを備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真贋判定される被検体を撮像し、
前記撮像によって得られた前記被検体の画像に対して二次元フーリエ変換を実行し、
前記二次元フーリエ変換で得られた結果から、前記画像における周期性に関する特徴量を抽出し、
前記抽出された特徴量を、予め準備された真正品の特徴量と比較し、
前記比較の結果に基づいて、前記被検体の真贋判定を行う
ことを特徴とする、真贋判定方法。
【請求項2】
前記特徴量は、印刷網点の配列角度およびピッチを含む
ことを特徴とする、請求項1に記載の真贋判定方法。
【請求項3】
前記印刷網点の配列角度およびピッチは、前記印刷網点の色毎に決定される
ことを特徴とする、請求項2に記載の真贋判定方法。
【請求項4】
前記真正品は、顔料溶融転写方式で印刷された
ことを特徴とする、請求項1に記載の真贋判定方法。
【請求項5】
前記真正品は、前記周期性を複数有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の真贋判定方法。
【請求項6】
前記真正品は、少なくとも、第1印刷方式で印刷され、前記複数の周期性のうち、第1周期性を有する第1領域と、第2印刷方式で印刷され、前記複数の周期性のうち、第2周期性を有する第2領域とを有する
ことを特徴とする、請求項5に記載の真贋判定方法。
【請求項7】
前記真正品は、少なくとも、第1解像度で印刷され、前記複数の周期性のうち、第1周期性を有する第1領域と、第2解像度で印刷され、前記複数の周期性のうち、第2周期性を有する第2領域とを有する
ことを特徴とする、請求項5に記載の真贋判定方法。
【請求項8】
前記真正品は、前記周期性を複数有し、
前記真正品は、少なくとも、前記複数の周期性のうち、第1周期性を有する第1領域と、前記複数の周期性のうち、第2周期性を有する第2領域とを有し、
前記印刷網点の配列角度はさらに、前記第1領域と、前記第2領域とで異なる
ことを特徴とする、請求項3に記載の真贋判定方法。
【請求項9】
前記撮像は、携帯端末に設けられたカメラによって行われる
ことを特徴とする、請求項1に記載の真贋判定方法。
【請求項10】
第1領域と第2領域とを含む印刷物のための印刷方法であって、
前記第1領域を第1解像度で印刷する第1ステップと、
前記第2領域を第2解像度で印刷する第2ステップとを有する
ことを特徴とする、印刷方法。
【請求項11】
第1領域と第2領域とを含む印刷物のための印刷方法であって、
前記第1領域を第1印刷方式で印刷する第1ステップと、
前記第2領域を第2印刷方式で印刷する第2ステップとを有する
ことを特徴とする、印刷方法。
【請求項12】
前記第1ステップは、前記第1領域における周期性に関する特徴量が、前記第2領域における周期性に関する特徴量と異なるように、前記第1領域を印刷するか、または、
前記第2ステップは、前記第2領域における周期性に関する特徴量が、前記第1領域における周期性に関する特徴量と異なるように、前記第2領域を印刷する
ことを特徴とする、請求項10または11に記載の印刷方法。
【請求項13】
前記特徴量は、印刷網点の配列角度およびピッチを含む
ことを特徴とする、請求項12に記載の印刷方法。
【請求項14】
前記印刷網点の配列角度およびピッチを、前記印刷網点の色毎に決定する
ことを特徴とする、請求項13に記載の印刷方法。
【請求項15】
前記印刷網点の配列角度をさらに、前記第1領域と、前記第2領域とで異なるように決定する
ことを特徴とする、請求項14に記載の印刷方法。
【請求項16】
第1領域と第2領域とを含む印刷物であって、
前記第1領域は、第1解像度で印刷され、
前記第2領域は、第2解像度で印刷された
ことを特徴とする、印刷物。
【請求項17】
第1領域と第2領域とを含む印刷物であって、
前記第1領域は、第1印刷方式で印刷され、
前記第2領域は、第2印刷方式で印刷された
ことを特徴とする、印刷物。
【請求項18】
前記第1領域における周期性に関する特徴量は、前記第2領域における周期性に関する特徴量と異なる
ことを特徴とする、請求項16または17に記載の印刷物。
【請求項19】
前記特徴量は、印刷網点の配列角度およびピッチを含む
ことを特徴とする、請求項18に記載の印刷物。
【請求項20】
前記印刷網点の配列角度およびピッチが、前記印刷網点の色毎に決定された
ことを特徴とする、請求項19に記載の印刷物。
【請求項21】
前記印刷網点の配列角度がさらに、前記第1領域と、前記第2領域とで異なるように決定された
ことを特徴とする、請求項20に記載の印刷物。
【請求項22】
第1領域と第2領域とを含む印刷物を作成するプリンタであって、
前記第1領域を第1解像度で印刷する第1ステップと、
前記第2領域を第2解像度で印刷する第2ステップとを実施することによって前記印刷物を作成する
ことを特徴とする、プリンタ。
【請求項23】
前記第1ステップで、前記第1領域における周期性に関する特徴量が、前記第2領域における周期性に関する特徴量と異なるように、前記第1領域を印刷するか、または、
前記第2ステップで、前記第2領域における周期性に関する特徴量が、前記第1領域における周期性に関する特徴量と異なるように、前記第2領域を印刷する
ことを特徴とする、請求項22に記載のプリンタ。
【請求項24】
前記特徴量は、印刷網点の配列角度およびピッチを含む
ことを特徴とする、請求項23に記載のプリンタ。
【請求項25】
撮像された被検体の画像に対して二次元フーリエ変換を実行するフーリエ変換実行部と、
前記二次元フーリエ変換で得られた結果から、前記画像における周期性に関する特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
前記抽出された特徴量を、予め準備された真正品の特徴量と比較する比較部と、
前記比較の結果に基づいて、前記被検体の真贋判定を行う真贋判定部とを備えた
ことを特徴とする、真贋判定装置。
【請求項26】
前記被検体を撮像し、前記撮像された被検体の画像を、前記フーリエ変換実行部に提供する撮像部をさらに備えた
ことを特徴とする、請求項25に記載の真贋判定装置。
【請求項27】
前記特徴量は、印刷網点の配列角度およびピッチを含む
ことを特徴とする、請求項25に記載の真贋判定装置。
【請求項28】
撮像された被検体の画像に対して二次元フーリエ変換を実行する機能、
前記二次元フーリエ変換で得られた結果から、前記画像における周期性に関する特徴量を抽出する機能、
前記抽出された特徴量を、予め準備された真正品の特徴量と比較する機能、
前記比較の結果に基づいて、前記被検体の真贋判定を行う機能を、
コンピュータに実現させるための、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、印刷物、印刷物を印刷する方法およびプリンタ、印刷物の真贋を判定するための装置、方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顔料インクリボンをサーマルヘッドによる加熱で転写する「顔料溶融転写方式」を採用したプリンタが使用されている(例えば、凸版印刷株式会社製のカードプリンタ「CP500」や、パスポートプリンタ「eP600」)。この種のプリンタは、CMYKインキをドット配置して、面積階調方式によって画像を表現している。
【0003】
このようなプリンタによって製造されるIDカードやパスポート等の表示体には、偽造や、顔写真の部分だけを書き換えた変造等の問題が常につきまとう。
【0004】
例えば、顔料溶融転写方式で形成された顔写真は、ドット配置が明瞭であるという特徴があるため、例えば、インクジェットプリンタ(以下「IJP」と称する)で偽造された顔写真とは明確に異なる。このため、知識のある評価者であれば、ルーペのような拡大鏡等の検証器具で被検体を観察することで、被検体の真贋判定を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5678364号公報
【特許文献2】特開2012-34271号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】https://jura.hu/travel-id-documents-mrtd-solutions/(令和5年1月24日検索)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一般向けの印刷技術(例えば、家庭用IJP等)が高度化し、それによって偽造されたIDカード等の表示体を目視で真贋判定することが困難になっている。また、ルーペ等で拡大観察すれば明らかに偽造品と分かる場合であっても、観察者に知識が無かったり、拡大鏡を持ち合わせていないと真贋判定できない。
【0008】
このように、観察者が、印刷方式に関する知識を有していても、検証器具を持ち合わせていなければ、被検体の真贋判定は困難である。
【0009】
また、観察者が、たとえ検証器具を持ち合わせていても、印刷方式に関する知識を有していなければ、被検体の真贋判定を行うことは困難である。
【0010】
さらには、前述したように、近年の印刷技術の高度化によって、真贋判定がより困難になっていることから、たとえ印刷方式に関する知識を有している観察者が、検証器具を持ち合わせている場合であっても、真贋判定の精度が、検証器具の能力や、観察者のスキルや感覚に依存する場合もあり得る。
【0011】
このため、印刷方式に関する知識の有無や、個人のスキルに依存せず、誰が実行しても客観的な判定結果を出力できる真贋判定技術が求められている。また、真贋判定装置としては、低コストで実現できることはもちろん、観察者が、真贋判定装置の設置場所に関わらず、いつでも、どこからでも手軽に利用できるように、ネットワークを用いた通信技術と、コンピュータによる画像処理とを利用したタイプのものが好ましい。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、専用の検証器具を持ち合わせる必要なく、かつ印刷方式に関する知識がなくても、精度の高い真贋判定を容易に実施することが可能な真贋判定装置、方法、およびプログラムを提供することにある。
【0013】
また、その第2の目的は、そのような真贋判定時において真正品として使用される印刷物、印刷物を印刷するための印刷方法、および印刷方法が適用されたプリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0015】
第1の態様は、真贋判定される被検体を撮像し、撮像によって得られた被検体の画像に対して二次元フーリエ変換を実行し、二次元フーリエ変換で得られた結果から、画像における周期性に関する特徴量を抽出し、抽出された特徴量を、予め準備された真正品の特徴量と比較し、比較の結果に基づいて、被検体の真贋判定を行う、真贋判定方法である。
【0016】
第2の態様は、特徴量が、印刷網点の配列角度およびピッチを含む、第1の態様の真贋判定方法である。
【0017】
第3の態様は、印刷網点の配列角度およびピッチが、印刷網点の色毎に決定される、第2の態様の真贋判定方法である。
【0018】
第4の態様は、真正品が、顔料溶融転写方式で印刷された、第1の態様の真贋判定方法である。
【0019】
第5の態様5は、真正品が、周期性を複数有する、第1の態様の真贋判定方法である。
【0020】
第6の態様は、真正品が、少なくとも、第1印刷方式で印刷され、複数の周期性のうち、第1周期性を有する第1領域と、第2印刷方式で印刷され、複数の周期性のうち、第2周期性を有する第2領域とを有する、第5の態様の真贋判定方法である。
【0021】
第7の態様は、真正品が、少なくとも、第1解像度で印刷され、複数の周期性のうち、第1周期性を有する第1領域と、第2解像度で印刷され、複数の周期性のうち、第2周期性を有する第2領域とを有する、第5の態様の真贋判定方法である。
【0022】
第8の態様は、真正品が、周期性を複数有し、真正品が、少なくとも、複数の周期性のうち、第1周期性を有する第1領域と、複数の周期性のうち、第2周期性を有する第2領域とを有し、印刷網点の配列角度がさらに、第1領域と、第2領域とで異なる、第3の態様の真贋判定方法である。
【0023】
第9の態様は、撮像が、携帯端末に設けられたカメラによって行われる、第1の態様の真贋判定方法である。
【0024】
第10の態様は、第1領域と第2領域とを含む印刷物のための印刷方法であって、第1領域を第1解像度で印刷する第1ステップと、第2領域を第2解像度で印刷する第2ステップとを有する、印刷方法である。
【0025】
第11の態様は、第1領域と第2領域とを含む印刷物のための印刷方法であって、第1領域を第1印刷方式で印刷する第1ステップと、第2領域を第2印刷方式で印刷する第2ステップとを有する、印刷方法である。
【0026】
第12の態様は、第1ステップが、第1領域における周期性に関する特徴量が、第2領域における周期性に関する特徴量と異なるように、第1領域を印刷するか、または、第2ステップが、第2領域における周期性に関する特徴量が、第1領域における周期性に関する特徴量と異なるように、第2領域を印刷する、第10または11の態様の印刷方法である。
【0027】
第13の態様は、特徴量が、印刷網点の配列角度およびピッチを含む、第12の態様の印刷方法である。
【0028】
第14の態様は、印刷網点の配列角度およびピッチを、印刷網点の色毎に決定する、第13の態様の印刷方法である。
【0029】
第15の態様は、印刷網点の配列角度をさらに、第1領域と、第2領域とで異なるように決定する、第14の態様の印刷方法である。
【0030】
第16の態様は、第1領域と第2領域とを含む印刷物であって、第1領域は、第1解像度で印刷され、第2領域は、第2解像度で印刷された、印刷物である。
【0031】
第17の態様は、第1領域と第2領域とを含む印刷物であって、第1領域は、第1印刷方式で印刷され、第2領域は、第2印刷方式で印刷された、印刷物である。
【0032】
第18の態様は、第1領域における周期性に関する特徴量は、第2領域における周期性に関する特徴量と異なる、第16または17の態様の印刷物である。
【0033】
第19の態様は、特徴量は、印刷網点の配列角度およびピッチを含む、第18の態様の印刷物である。
【0034】
第20の態様は、印刷網点の配列角度およびピッチが、印刷網点の色毎に決定された、第19の態様の印刷物である。
【0035】
第21の態様は、印刷網点の配列角度がさらに、第1領域と、第2領域とで異なるように決定された、第20の態様の印刷物である。
【0036】
第22の態様は、第1領域と第2領域とを含む印刷物を作成するプリンタであって、第1領域を第1解像度で印刷する第1ステップと、第2領域を第2解像度で印刷する第2ステップとを実施することによって印刷物を作成する、プリンタである。
【0037】
第23の態様は、第1ステップで、第1領域における周期性に関する特徴量が、第2領域における周期性に関する特徴量と異なるように、第1領域を印刷するか、または、第2ステップで、第2領域における周期性に関する特徴量が、第1領域における周期性に関する特徴量と異なるように、第2領域を印刷する、第22の態様のプリンタである。
【0038】
第24の態様は、特徴量が、印刷網点の配列角度およびピッチを含む、第23の態様のプリンタである。
【0039】
第25の態様は、撮像された被検体の画像に対して二次元フーリエ変換を実行するフーリエ変換実行部と、二次元フーリエ変換で得られた結果から、画像における周期性に関する特徴量を抽出する特徴量抽出部と、抽出された特徴量を、予め準備された真正品の特徴量と比較する比較部と、比較の結果に基づいて、被検体の真贋判定を行う真贋判定部とを備えた、真贋判定装置である。
【0040】
第26の態様は、被検体を撮像し、撮像された被検体の画像を、フーリエ変換実行部に提供する撮像部をさらに備えた、第25の態様の真贋判定装置である。
【0041】
第27の態様は、特徴量が、印刷網点の配列角度およびピッチを含む、第25の態様の真贋判定装置である。
【0042】
第28の態様は、撮像された被検体の画像に対して二次元フーリエ変換を実行する機能、二次元フーリエ変換で得られた結果から、画像における周期性に関する特徴量を抽出する機能、抽出された特徴量を、予め準備された真正品の特徴量と比較する機能、比較の結果に基づいて、被検体の真贋判定を行う機能を、コンピュータに実現させるための、プログラムである。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、専用の検証器具を持ち合わせる必要なく、かつ印刷方式に関する知識がなくても、精度の高い真贋判定を容易に実施することが可能な真贋判定装置、方法、およびプログラムを提供することができる。
【0044】
また、そのような真贋判定時において真正品として使用される印刷物、印刷物を印刷するための印刷方法、および印刷方法が適用されたプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、顔と背景とが印刷された印刷物の一例を示す平面図である。
図2図2は、印刷物に複数の周期性を付与する第2の手法を説明するための概念図である。
図3図3は、現行プリンタに設定されている各色の網点の配列角度を説明する概念図である。
図4図4は、変更された各色の網点の配列角度を説明する概念図である。
図5図5は、領域毎に網点の配列角度が設定された印刷物の例を示す概念図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る真贋判定方法が適用された真贋判定装置の電子回路構成例を示すブロック図である。
図7図7は、フーリエ変換前の成形画像と、フーリエ変換によって得られる結果とを示す図である。
図8図8は、成形画像の周期性の算出を説明するための図である。
図9A図9Aは、実施例1における真贋判定装置による真正品の特徴量の格納時の動作例を示すフローチャートである。
図9B図9Bは、実施例1における真贋判定装置による真贋判定時の動作例を示すフローチャートである。
図10図10は、真正品と偽造品とのパワースペクトルの違いを示す図である。
図11図11は、(a)背景をオフセットで印刷したプレ印刷カードを示す図と、(b)そのパワースペクトルを示す図である。
図12図12は、(a)背景をオフセット印刷した後、顔をカードプリンタで印刷されたカードを示す図と、(b)そのパワースペクトルを示す図である。
図13図13は、(a)全面をカードプリンタで印刷されたカードを示す図と、(b)そのパワースペクトルを示す図である。
図14図14は、(a)全面をインクジェットプリンタで印刷されたカードを示す図と、(b)そのパワースペクトルを示す図である。
図15図15は、(a)背景をオフセットで、顔をインクジェットプリンタで印刷されたカードを示す図と、(b)そのパワースペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に、本発明の各実施形態について図面を参照して説明する。図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明や、重複した説明は適宜省略する。
【0047】
[印刷方法、プリンタ、印刷物]
本発明の実施形態に係る印刷方法、プリンタ、および印刷物について説明する。
【0048】
本発明の実施形態に係る印刷方法は、複数の周期性を有する印刷物を印刷するための方法であり、本発明の実施形態に係るプリンタは、この印刷方法に従って印刷物を印刷する。
【0049】
例えば、2つの周期性を有する印刷物を印刷する場合、印刷方法は、第1領域を印刷する第1ステップと、第2領域を印刷する第2ステップとを有するが、第1領域における周期性に関する特徴量と、第2領域における周期性に関する特徴量とは異なるようにする。
【0050】
特徴量とは、具体的には、印刷網点の配列角度およびピッチを含む。したがって、印刷網点の配列角度および/またはピッチを、領域毎に、印刷網点の色毎に変えながら印刷することによって、1つの印刷物を、同じ印刷方式で印刷することによって複数の周期性を与えることができる。
【0051】
このように複数の周期性を付与する手法について、以下に具体的に説明する。
【0052】
(複数の周期性を付与する第1の手法)
複数の周期性を付与する第1の手法について説明する。第1の手法は、最も簡単であり、複数の印刷方式を使って行う。例えば、第1の手法によって顔写真を印刷する場合、細紋などの背景のプレ印刷を一般的な印刷方法(オフセット印刷、グラビア印刷等)で行い、その背景がプレ印刷されたカードやパスポートデータページに対し、別の印刷方式で顔写真を印刷する。別の印刷方式として、例えば顔料溶融転写方式で印刷することによって、背景の印刷の周期性と合わせて2種類の周期性を有する印刷物を実現できる。
【0053】
図1は、顔と背景とが印刷された印刷物の一例を示す平面図である。
【0054】
例えば、図1に示すように顔と背景とからなる画像からなる印刷物50を印刷する場合、顔部分の第1領域51を、第1印刷方式(例えば、顔料溶融転写方式)で印刷し、背景部分の第2領域52を、第1印刷方式とは異なる第2印刷方式(例えば、グラビア印刷方式)で印刷する。このように、2つの印刷方式を使って印刷することによって、第1領域51に、第1周期性を付与し、第2領域52に、第1周波性とは異なる第2周期性を付与できる。なお、このように、2種類の印刷方式によって実現される印刷物50は、2種類のプリンタを用いて実現できる。
【0055】
(複数の周期性を付与する第2の手法)
次に、複数の周期性を付与する第2の手法について説明する。第2の手法では、第1の手法とは異なり、単一の印刷方式で実現でき、領域毎に解像度を変えて印刷することによって、印刷物に、複数の周期性を与える。
【0056】
図2は、印刷物に複数の周期性を付与する第2の手法を説明するための概念図である。
【0057】
例えば、凸版印刷(株)製のカード用顔料プリンタ「CP500」は、サーマルヘッドが600pdiであり、印画時にフィルムを搬送するプラテンローラの駆動も600dpiである。このプリンタを使用し、図2のようにカード60の左側の第1領域61を通常通りに、プラテンローラの駆動を600dpiとして印画し、残りの右側の第2領域62を印画する際には、プラテンローラの駆動を400dpiとして印画する。これによって、1つの印刷物の中で、第1領域61に、第1周期性を付与し、第2領域62に、第1周期性とは異なる第2周期性を付与できる。この場合、第1領域61の600dpiの印画領域に顔写真を印画することで、顔写真の画質を落とすことはない。
【0058】
このような第2の手法では、同一の印刷方式が使用されるので、1種類のプリンタで実現できる。
【0059】
なお、第1領域61および第2領域62ごとに印画解像度を変えるためには、プリンタのファームウェアに特殊なプログラムを組み込むか、プリンタに、外部の制御コンピュータから信号を入力するための機能を持たせる必要がある。このようなことは、市販の印刷機(トナープリンタ、IJP)では不可能であるために、複数の周期性を市販の印刷機で再現することは極めて困難である。したがって、第2の手法によれば、高い偽造防止効果を、印刷物に付与することが可能となる。
【0060】
(複数の周期性を付与する第3の手法)
次に、複数の周期性を付与する第3の手法について説明する。第3の手法は、単一の印刷方式で実現でき、領域毎に網点ドットの配列角度を変えて印刷することによって、印刷物に、複数の周期性を与える。
【0061】
顔料プリンタに限らず、オフセット印刷やトナー印刷など多くの印刷方式では、CMYの3色又は墨を加えた4色の網点ドットを、それぞれ所定の角度で並べて重ね合わせている。この所定の角度は、配列角度と呼ばれる。
【0062】
図3は、現行プリンタに設定されている各色の網点の配列角度を説明する概念図である。
【0063】
図4は、変更された各色の網点の配列角度を説明する概念図である。
【0064】
図5は、領域毎に網点の配列角度が設定された印刷物の例を示す概念図である。
【0065】
各色の網点の配列角度は、モアレが生じないように、異なるように設定される。現行プリンタの場合、各色の網点の配列角度は、シアン(C)が30度、マゼンタ(M)が75度、イエロー(Y)が0度、墨(K)が45度に設定されている。図3には、このうち、(a)30度のシアンと、(b)75度のマゼンダとが例示されている。
【0066】
通常の印刷物であれば、印刷物の全面で、各色の網点の配列角度を変えることはないが、第3の手法では、領域毎に網点の配列角度を設定する。
【0067】
一例として、図5に示す印刷物70は、顔写真が印刷される第1領域71の網点の配列角度を、現行通りCMYK(30度,75度,0度,45度)に設定し、顔写真以外の背景部分が印刷される第2領域72の網点の配列角度を、第1領域71のものとは異なるCMYK(40度,85度,10度,55度)に変更して設定している。このようにして、2つの周期性を付与することができる。
【0068】
なお、このように網点の配列角度を変更する場合でも、CMYKの相対的な網点の配列角度を変えない。これによって、モアレが生じにくく、画質への影響を抑え、かつ、フーリエ変換によって検出可能な特徴量を持たせることが可能となる。
【0069】
さらに強い特徴量を持たせるためには、モアレが生じないように調整しつつCMYKの相対的な角度を変えても良いし、発生したモアレ模様自体を特徴量とみなしても良い。
【0070】
このように第1領域71および第2領域72ごとに網点の配列角度を設定するには、プリンタのファームウェアに特殊なソフトウェアを組み込むことで、配列角度が変更された印画パターンを実現する必要がある。図4は、変更された配列角度のうち、(a)30度のシアンと、(b)75度のマゼンダのみが例示されている。
【0071】
このような配列角度の変更は、配列角度が固定されている市販のプリンタ(トナープリンタ、IJP)では不可能であるために、周期性を市販の印刷機で再現することは極めて困難である。したがって、第3の手法によれば、高い偽造防止効果を、印刷物に付与することが可能となる。
【0072】
このようにして、複数の周期性が与えられた印刷物は、後述する真贋判定装置、方法、およびプログラムにおいて、真正品として使用される。
【0073】
[真贋判定装置、方法、およびプログラム]
次に、本発明の実施形態に係る真贋判定装置、方法、およびプログラムについて説明する。
【0074】
図6は、本発明の実施形態に係る真贋判定方法が適用された真贋判定装置の電子回路構成例を示すブロック図である。
【0075】
これは、パスポートなどの表示体の真贋判定を行うための装置である。
【0076】
本実施形態に係る真贋判定方法が適用された真贋判定装置10は、バス11によって互いに接続されたプロセッサ12、通信部13、記録媒体読取部15、入力部16、ディスプレイ17、撮像部18、メモリ20、および記憶部30を備えている。通信部13は、インターネットのような通信ネットワーク40に接続される。記録媒体読取部15は、USB等の外部記録媒体14に記録された情報を読み取る。入力部16は、キーボードやマウス等の入力手段を含む。
【0077】
このような真贋判定装置10は、限定される訳ではないが、PCや、タブレット端末や、スマートフォン等の携帯電話で実現することができる。真贋判定装置10は、画像解析や真贋判定に、コンピュータを使用するが、近年の技術進化により、一般用途のPCだけではなく、小型PCやスマートフォンの処理性能でも十分実現可能である。
【0078】
したがって、撮像部18としては、例えば、デジタルカメラ、スマートフォン等の携帯電話に内蔵されたカメラ、家庭用スキャナ、コンビニエンスストアやオフィスの複合機のスキャナ、パスポートスキャナ等のID表示体読取専用スキャナなどとできる。
【0079】
スキャナを使用すれば、得られる画像のひずみがなく、正確な判定ができるものの、利便性は劣り、カメラを用いれば、非接触で簡易に撮影できるが、画像処理が必要となり、判定精度は劣る。
【0080】
メモリ20は、画像成形プログラム21、フーリエ変換実行プログラム22、特徴量抽出プログラム23、比較プログラム24、および真贋判定プログラム25を記憶している。
【0081】
プロセッサ12は、メモリ20に記憶されているこれらプログラム21~25に従い回路各部の動作を制御する。
【0082】
これらプログラム21~25は、メモリ20に予め記憶されていてもよいし、あるいはメモリカード等の外部記録媒体14から記録媒体読取部15を介してメモリ20に読み込まれ記憶されたものであってもよい。これらプログラム21~25は、書き換えできないようになっている。
【0083】
メモリ20は、このようなユーザ書き換え不可能なエリアの他に、書き換え可能なデータを記憶するエリアとして、書込可能データエリア29を確保している。
【0084】
真贋判定装置10は、パスポートなどの表示体の真贋判定を行う場合、撮像部18で、真贋判定に供される表示体(以下、「被検体」と称する)を撮像する。撮像部18は、スキャナやカメラで実現することができ、所望される解像度で、被検体を撮像し、撮像した画像を、メモリ20へ出力する。
【0085】
画像成形プログラム21は、画像を、フーリエ変換用に成形し、成形画像を出力する。
【0086】
フーリエ変換実行プログラム22は、成形画像に対して二次元フーリエ変換を実行して画像処理する。
【0087】
図7は、フーリエ変換前の成形画像と、フーリエ変換によって得られる結果とを示す図である。
【0088】
フーリエ変換実行プログラム22は、成形画像Aに対するフーリエ変換により、図7に例示するように、(a)成形画像Aに対する(b)パワースペクトル画像Bを取得し、(b)パワースペクトル画像Bからさらに、(c)成形画像Aの周期性(角度、波長)を得ることができる。なお、図7(c)におけるI,II,III,IVはそれぞれ、パワースペクトル画像Bを原点を中心に4分割した第一象限、第二象限、第三象限、第四象限を示す。
【0089】
図8は、成形画像の周期性の算出を説明するための図である。
【0090】
例えば、図8に例示するように、パワースペクトル画像Bにおいて、原点Oから輝点1までの角度をθ、距離をX、入力画像サイズをLとすると、輝点1は、角度θの方向に波長L/Xの周期性がある。例えば、原点Oから輝点1までの角度θ=65°、入力画像サイズL=24mm、距離X=135ピクセルである場合、L/X=0.178mm=178μmとなる。これは、輝点1は、左下から65°の方向に、178μmの周期性(縞)が存在することを表している。
【0091】
なお、印刷物に対して複数の周期性を与えるために、前述する第1の手法では、異なる印刷方式で印刷することを説明したが、印刷方式とパワースペクトルとの関係は、以下の通りとなる。
【0092】
顔料溶融転写による印刷方式は、インクリボン上の顔料インキ層をサーマルヘッドの熱によって基材に直接、あるいは中間転写フィルムを介して、印刷する技術である。このような顔料溶融転写方式では、他のデジタル印刷方法(例えば、IJP、昇華染料)に比べてドットがくっきりと印刷される。
【0093】
ドットはCMYの3色、あるいはCMYKの4色で形成され、CMYの各色ドットはそれぞれ異なる網点角度(配列角度)で配置される。画像の濃度は各ドットの大きさで表され、これは、面積階調方式と呼ばれる。このため、印刷した画像を拡大すると、斜めに線があるように観察され、フーリエ変換することによって明瞭なピークが得られることから、その周期性を見い出すことができる。
【0094】
インクジェット印刷でもCMYのドットを配置して画像を形成するという点では同じであるが、それぞれのドットが非常に小さく、ある程度ランダムに配置するという特徴があるため、周期性を見い出すことは難しい。特にスマートフォンで撮影する程度の解像度であれば、ドット1つ1つを認識することはできず、フーリエ変換しても明瞭なピークを検出することは難しい。
【0095】
昇華染料プリンタはそもそもドットで印刷する訳ではなく、画像は連続的な濃度変化を有している。これは、濃度階調方式と呼ばれる。このため画像に周期性はなく、フーリエ変換してもピークは観察されない。
【0096】
トナー印刷(電子写真方式)では、ドラム上に画像を形成させたトナーの粉が、熱で溶かされて用紙に転写されるため、顔料溶融転写方式による印刷品に近い画像が得られ、フーリエ変換して得られるパワースペクトルも酷似している。これについては後述する実施例で説明する。
【0097】
したがって、顔料溶融転写方式、インクジェット方式、および昇華染料方式では、パワースペクトルは、明確に異なる。
【0098】
特徴量抽出プログラム23は、パワースペクトル画像Bから、成形画像Aにおける複数の周期性に関する特徴量を抽出する。
【0099】
特徴量は、前述した印刷網点の配列角度およびピッチを含む。印刷網点の配列角度およびピッチは、印刷網点の色毎に決定される。
【0100】
例えば、オフセット印刷の4色刷りであれば、特徴量は、CMYK4色それぞれの印刷網点の配列角度およびピッチを含む。
【0101】
比較プログラム24は、特徴量を、予め準備された真正品の複数の周期性に関する特徴量Cと比較する。
【0102】
真正品には、前述したように、複数の周期性が与えられている。
【0103】
このような真正品の特徴量Cは、記憶部30に記憶された真正品特徴量データベース31に格納されている。なお、記憶部30は、例えばSSD(Solid State Drive)やHDD(Hard Disk Drive)等からなる。
【0104】
比較プログラム24は、特徴量を、真正品特徴量データベース31に格納されている特徴量Cと比較する。
【0105】
なお、真贋判定装置10とは別の装置(例えば、後述するプリンタ)によって新たな真正品が印刷され、その特徴量Cが抽出された場合には、通信部13が、通信ネットワーク40を介して、その特徴量Cを、抽出元から取得し、真正品特徴量データベース31に追加する。これによって、比較プログラム24は、特徴量を、既存のすべての真正品の特徴量Cと比較することができる。
【0106】
なお、真贋判定装置10の変形例として、記憶部30を、真贋判定装置10に設けず、例えば、通信ネットワーク40を介して通信可能なクラウド(図示せず)に設けるようにすることもできる。この場合、比較プログラム24は、通信部13を介して、クラウドにアクセスし、特徴量を、中央サーバに設けられた真正品特徴量データベース31に格納されている特徴量Cと比較する。また、この比較に、AIを用いることもできる。
【0107】
真贋判定プログラム25は、比較プログラム24による比較結果に基づいて、被検体の真贋判定を行う。そして、真贋判定の結果を、ディスプレイ17から表示させることができる。
【0108】
真贋判定装置10を、スマートフォン等の携帯端末で実現することもできる。この場合、プログラム21~25を実現する専用アプリを、スマートフォン等の携帯端末にインストールする。また、携帯端末に内蔵されているカメラを、撮像部18として利用できる。また、携帯端末が備えている通信機能を、通信部13として利用できる。
【0109】
一方、携帯端末のメモリを記憶部30として使用し、真正品特徴量データベース31を格納することは、記憶容量の関係上好ましく。したがって、携帯端末自体には、真正品特徴量データベース31を備えず、比較プログラム24は、通信部13を使ってクラウドにアクセスし、特徴量を、クラウドに設けられた真正品特徴量データベース31に格納されている特徴量Cと比較するようにする。
【0110】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、専用の検証器具を持ち合わせる必要なく、かつ印刷方式に関する知識がなくても、精度の高い真贋判定を容易に実施することが可能な真贋判定装置、方法、およびプログラムを提供することができる。
【0111】
特に、真贋判定装置は、スマートフォンでも実現できるので、誰でも容易に、スマートフォンに内蔵されたカメラで画像を撮像し、スマートフォンにインストールされた専用アプリを使って、画像の特徴量を抽出して解析することによって、特殊な装置や専門知識を必要とせずに真贋判定を行うことができる。
【0112】
さらに、スマートフォンで実現される真贋判定装置は、既存品と新規発行品とを同じ原理で検証することができるため、専用アプリのアップデートのみで対応できる。すなわち、コストをかけずに判定精度を向上させることができる。
【0113】
また、本発明の実施形態によれば、このような真贋判定時において真正品として使用される印刷物と、印刷物を印刷するための印刷方法と、この印刷方法が適用されたプリンタとを提供することができる。この印刷方式が適用されたプリンタによれば、印刷物に複数の周期性を付与することができる。特にこのプリンタを、顔料プリンタで実現することで、印画ドットの周期性をより明確にできるので、すでに発行されている表示体も容易に真贋判定できる。
【0114】
現状、顔写真付きの在留カードは、顔料プリンタで発行されている。この在留カードには、全面をインクジェットプリンタで印刷した偽造品や、顔写真部分だけを書き換えた変造品などが存在しており、これまで現場の警察官ではその場で判断がつかず、鑑識等で真贋判定を行う必要があった。しかし、本発明の実施形態により、専用アプリがインストールされたスマートフォンで実現された真贋判定装置を使って、真贋判定を現場で行うことも可能となる。
【0115】
次に実施例について説明する。
【実施例0116】
実施例1では、本発明の実施形態のプリンタを用いて真正な印刷物を印刷し、本発明の実施形態の真贋判定装置によって、その特徴量を抽出し、さらに、この印刷物の偽造品を作成し、この偽造品に対して、本発明の実施形態の真贋判定装置10によって、真贋判定を行った例について説明する。
【0117】
まず、本発明の実施形態のプリンタを用いて真正な印刷物を印刷した。ここでは、印刷物を、IDカード等の身分証とした。
【0118】
この身分証の作成のために、顔写真、氏名や生年月日等のID情報をレイアウトし、本発明の実施形態のプリンタ(例えば、凸版印刷株式会社製「CP500」のような顔料プリンタ)を用いて、ID1サイズのカードに印刷して作成した。これによって、印刷物に、複数の特徴量が付与される。
【0119】
次に、本発明の実施形態の真贋判定装置10によって、この真正な印刷物の特徴量を抽出した。実施例1では、スマートフォン(iPhone(登録商標) SE2)によって実現された真贋判定装置10を使用した。
【0120】
図9Aは、実施例1における真贋判定装置による真正品の特徴量の格納時の動作例を示すフローチャートである。
【0121】
図10は、真正品と偽造品とのパワースペクトルの違いを示す図である。
【0122】
印刷物の特徴量の抽出のために、まず、真贋判定装置10が組み込まれているスマートフォンの内蔵カメラ(撮像部18)によって、真正品である印刷物を、15cm離れた距離から撮像した(S1)。これにより、図10(a)左側に示すように、真正品の画像を含む3024*4032ピクセルのjpeg画像80を得た。
【0123】
次に、このjpeg画像80に写った印刷物の外形に沿って、画像成形プログラム21によって、印刷物の画像のみを切り出し、矩形に射影変換した(S2)。さらに、ID1カードのサイズが85.6*54mmであることを利用して、矩形の画像を600dpiに変換した。そして、600dpiの画像全体から、図10(a)右側に示すように、顔写真の目の部分を中心に、512*512ピクセルの顔画像Aを切り出した(S3)。
【0124】
顔部分だけを切り出す理由は下記のとおりである。
【0125】
すなわち、IDカード等の身分証を不正に利用する場合、カードを全て作る場合(偽造)と、盗品のカードの顔だけを書き換えて本人に成りすます場合(変造)との2通りがある。別のプリンタを用いた偽造であれば、カード全面を検証するだけでも偽造品と判断できる。しかし、顔写真部分だけを書き換えた変造品であれば、カード全面で検証すると顔以外の真正品の印刷の特徴も得られるため変造品と判断することが難しくなる。こういった顔だけを書き換えた変造品を明確に判断するために、真贋判定には顔写真部分を用いる。
【0126】
次に、切り出された顔画像Aに対して、フーリエ変換実行プログラム22によって、高速フーリエ変換(FFT)を実行し、パワースペクトル画像を得た(S4)。なお、FFTには、Pythonのnumpyライブラリを使用し、512*512ピクセルのパワースペクトルが得られた。
【0127】
次に、得られたパワースペクトルから、特徴量抽出プログラム23によって、ピーク検出および周期性算出を行った(S5)。具体的には、特徴量抽出プログラム23によって、パワースペクトルBの第一象限Iと第二象限IIとの輝点(ピーク)の座標を抽出し、数値が高い2点を抽出した。
【0128】
その結果、得られたピークは、図10(b)に示すように、中心から65度と、115度であり、中心からの距離はいずれも123ピクセルであった。ここで、画像は600dpiで512ピクセルなので、1辺が21.67mmである。したがって、21.67mm/123Hz=0.176mm=176μmとなり、画像は、65度およびと115度の方向に、176μmの周期性を有するとの結果が得られた。
【0129】
その後、顔写真のデータや背景デザインを変更して、同じプリンタを用いて、同じ印刷物を再び印刷した。この印刷物に対しても、上記と同様の処理を行うことにより周期性を算出したが、いずれも同じ65度およびと115度の方向に、176μmの周期性を有し、同じ周期性が得られるとの結果が得られた。そして、この結果を、真正品の特徴量Cとして、真正品特徴量データベース31に格納した(S6)。
【0130】
なお、撮影の際の傾きの違いや、解像度変換時の計算誤差のため、若干結果が変動する場合もあったが、それは角度で±2度、周期性で±5μm程度の小さなものであり、誤差の範囲内であった。
【0131】
次に、実施例1における真贋判定装置による真贋判定時の動作について説明する。
【0132】
図9Bは、実施例1における真贋判定装置による真贋判定時の動作例を示すフローチャートである。
【0133】
真贋判定装置10による真贋判定を行うために、先ず、偽造品を想定し、インクジェットプリンタ、昇華染料プリンタ、トナープリンタで比較用の同じデザインの印刷物を作成した。
【0134】
そして、この偽造品に対して、図9Aを用いて説明したステップS1~S5の処理を行い、ピーク検出および周期性を算出することによって、偽造品の特徴量を得た。
【0135】
インクジェットプリンタによって印刷された印刷物、および昇華染料プリンタで印刷された印刷物からは、ステップS5において、パワースペクトルからピークを検出できなかった。
【0136】
次に、比較プログラム24によって、ステップS5で得られた特徴量が、真正品特徴量データベース31に格納されている特徴量Cと比較された(S11)。
【0137】
前述したように、インクジェットプリンタによって印刷された印刷物、および昇華染料プリンタで印刷された印刷物からは、パワースペクトルからピークを検出できなかったので、これら偽造品の特徴量は、真正品特徴量データベース31に格納されている特徴量Cと一致しなかった(S12:No)。したがって、真贋判定プログラム25によって、偽造品として判定された(S14)。
【0138】
一方、トナープリンタで印刷された印刷物からは、ステップS5において、図10(c)に示すように、トナープリンタで印刷された印刷物のjpeg画像90から切り出された、顔写真の目の部分を中心とする顔画像A’から、パワースペクトルのピークを得ることができた。その結果は、図10(d)に示すパワースペクトル画像B’に示す通り、30度および120度の方向に190μmであった。
【0139】
したがって、トナープリンタで印刷された印刷物の特徴量も、真正品特徴量データベース31に格納されている特徴量Cと一致せず(S12:No)、真贋判定プログラム25によって、偽造品として判定された(S14)。
【0140】
このように、真贋判定装置10は、特徴量が真正品のものと一致している場合(S12:Yes)、真正品であると判定し、一致していない場合(S12:No)、偽造品であると判定するので、真正品と偽造品とを明確に判別できる。
【実施例0141】
実施例2でも、実施例1と同様に、本発明の実施形態のプリンタを用いて真正な印刷物を印刷し、本発明の実施形態の真贋判定装置によって、その特徴量を抽出し、さらに、この印刷物の偽造品を作成し、この偽造品に対して、本発明の実施形態の真贋判定装置10によって、真贋判定を行った例について説明する。ただし、実施例1では、顔料プリンタのような単一のプリンタによって、印刷物に複数の特徴量を付与していたが、実施例2では、複数種類のプリンタによって、印刷物に複数の特徴量を付与する。
【0142】
図11は、(a)背景をオフセットで印刷したプレ印刷カードを示す図と、(b)そのパワースペクトルを示す図である。
【0143】
図12は、(a)背景をオフセット印刷した後、顔をカードプリンタで印刷されたカードを示す図と、(b)そのパワースペクトルを示す図である。
【0144】
図13は、(a)全面をカードプリンタで印刷されたカードを示す図と、(b)そのパワースペクトルを示す図である。
【0145】
図14は、(a)全面をインクジェットプリンタで印刷されたカードを示す図と、(b)そのパワースペクトルを示す図である。
【0146】
図15は、(a)背景をオフセットで、顔をインクジェットプリンタで印刷されたカードを示す図と、(b)そのパワースペクトルを示す図である。
【0147】
実施例2でも、真正な印刷物として、IDカード等の身分証を印刷した。ただし、複数種類のプリンタによって作成するために、先ず、図11(a)に示すように、カードの背景画像(彩文模様、ロゴ、定型文字列など)をオフセット印刷した1D1サイズのプレ印刷カード100を作成し、図12(a)に示すように、プレ印刷カード100に、顔写真、氏名や生年月日等のID情報を、顔料プリンタ(例えば、凸版印刷株式会社製CP500)を用いて印刷することによって作成した。このように、複数種類のプリンタによって印刷することによって、印刷物に、複数の特徴量が付与された。
【0148】
このようにして作成された真正品110に対して、本発明の実施形態の真贋判定装置10によって、特徴量を抽出した。なお、実施例2で使用する真贋判定装置10もまた、実施例1と同様、スマートフォン(iPhone SE2)によって実現され、その動作例は、図9Aおよび図9Bのフローチャートに示す通りであるが、ステップS5におけるピーク検出の手法が異なる。したがって、以下では、実施例1と同じ動作については、重複説明を避ける。
【0149】
実施例2では、ステップS5では、ステップS4で得られたパワースペクトルから、特徴量抽出プログラム23が、パワースペクトルの輝点(ピーク)の座標を、以下の(1)から(5)に示すアルゴリズムに則り抽出する。
【0150】
(1)輝点を検出するための検出エリアのサイズを設定する。検出エリアは、例えば7%のように、パワースペクトルに対するパーセントで設定できる。パワースペクトルは、512*512ピクセルである場合、検出エリアを7%とすれば、512*0.07=35であることから、検出エリアのサイズは、35*35ピクセルとなる。
【0151】
(2)検出エリア内で最大値あるピクセルを仮のピークとみなす。この処理を、画像内のすべてのピクセルについて行う。
【0152】
(3)しきい値の割合(例えば、50%)を設定する。
【0153】
(4)検出された仮のピークのうち、最大値のものを抽出し、上記割合を積算し、しきい値とする。
【0154】
(5)仮のピークから、しきい値以下の点を取り除き、残ったものをピークとみなす。
【0155】
ステップS5では、このようにしてピークが検出される。そして、検出されたピークについて、実施例1で説明したように、周期性を算出する。
【0156】
また、実施例2では、実施例1で作成したものとは異なる3種類の偽造品(下記に示す比較品1~3)を作成し、真贋判定装置10を使って真贋判定を行った。
【0157】
比較品1は、図13(a)に示すように、背景画像とID情報とを、全て顔料プリンタ(CP500)で印刷することによって作成された偽造品120である。
【0158】
比較品2は、図14(a)に示すように、背景画像とID情報とを、全てインクジェットプリンタ(IJP)で印刷することによって作成された偽造品130である。
【0159】
比較品3は、図15(a)に示すように、前述したプレ印刷カードに、インクジェットプリンタ(IJP)で顔写真を印刷することによって作成された偽造品140である。
【0160】
図12(b)に示す真正品110のパワースペクトルは、図11(b)に示すプレ印刷カード100のスペクトルと、図13(b)に示す偽造品120(比較品1)のスペクトルを合わせたものとなった。このため図12(a)に示す真正品110と、図13(a)、図14(a)、および図15(a)に示す3種類の偽造品120,130,140とを明確に区別できた。
【0161】
例えば、図12(a)に示す真正品は、図11(b)に示すプレ印刷カード100のパワースペクトルBにおけるピークと、図13(b)に示す偽造品120(比較品1)のパワースペクトルBにおけるピークとの両方を有している。また、図13(b)に示す偽造品120(比較品1)のパワースペクトルBには、図11(b)に示すプレ印刷カード100のパワースペクトルBのピークが無い。また、図14(b)に示すように、偽造品130(比較品2)のパワースペクトルBにもピークが無い。さらに、図15(b)に示すように、偽造品140(比較品3)のパワースペクトルBには、図13(b)に示す偽造品120(比較品1)のパワースペクトルBにおけるピークが無い。
【0162】
なお、真贋判定は、パワースペクトルを目視で見比べるだけでなく、AIを用いて真正品のパワースペクトルを機械学習させ、パターンマッチングによって行うこともできる。
【0163】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0164】
10 真贋判定装置
11 バス
12 プロセッサ
13 通信部
14 外部記録媒体
15 記録媒体読取部
16 入力部
17 ディスプレイ
18 撮像部
20 メモリ
21 画像成形プログラム
22 フーリエ変換実行プログラム
23 特徴量抽出プログラム
24 比較プログラム
25 真贋判定プログラム
29 書込可能データエリア
30 記憶部
31 真正品特徴量データベース
40 通信ネットワーク
50 印刷物
51 第1領域
52 第2領域
60 カード
61 第1領域
62 第2領域
70 印刷物
71 第1領域
72 第2領域
80 真正品のjpeg画像
90 偽造品のjpeg画像
100 プレ印刷カード
110 真正品
120 偽造品
130 偽造品
140 偽造品
A 成形画像
B パワースペクトル画像
C 真正品の特徴量
O 原点
X 距離
θ 角度

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15