(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113851
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】両回転式スクロール型圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
F04C18/02 311Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019093
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 洋介
(72)【発明者】
【氏名】本田 和也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 友次
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕之
(72)【発明者】
【氏名】管原 彬人
(72)【発明者】
【氏名】武藤 圭史朗
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA02
3H039AA13
3H039BB04
3H039BB15
3H039CC04
3H039CC19
3H039CC33
(57)【要約】
【課題】高い耐久性を発揮しつつ、逆流防止構造が高いシール性能を発揮可能な両回転式スクロール型圧縮機を提供する。
【解決手段】本発明の両回転式スクロール型圧縮機では、ハウジング6に支持部64aが形成されており、駆動スクロール30に吸入口91が形成されている。駆動スクロール30は、軸受51によって支持部64に支持されている。また、駆動スクロール30とハウジング6とは、逆流防止構造8を形成している。逆流防止構造8は、凸部93と対向部73とからなる。凸部93と対向部73との間には、駆動軸心O1方向に延びる絞り部S1が形成されている。軸受51と絞り部S1とは、少なくとも一部が駆動軸心O1方向で重なっている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング、駆動機構、駆動スクロール、従動スクロール及び従動機構を備え、
前記ハウジングは、前記駆動スクロール及び前記従動スクロールが収容されるスクロール室を有し、
前記駆動スクロールは、前記駆動機構によって駆動軸心周りに回転駆動され、
前記従動スクロールは、前記駆動スクロールに対して偏心しつつ従動軸心周りで前記駆動スクロール及び前記従動機構によって回転従動され、
前記駆動スクロールと前記従動スクロールとよって流体を圧縮する圧縮室が形成される両回転式スクロール型圧縮機であって、
前記駆動スクロール及び前記従動スクロールの一方は、前記圧縮室に流体を吸入させる吸入口が形成された特定スクロールとされ、
前記ハウジングには、前記特定スクロールに向かって前記スクロール室内に前記駆動軸心方向に突出する支持部が設けられ、
前記特定スクロールは、前記支持部に設けられた軸受によって前記支持部に支持され、
前記特定スクロールと前記ハウジングとによって、内側に前記軸受及び前記吸入口が配置された環状の逆流防止構造が形成され、
前記スクロール室は、前記逆流防止構造によって、前記逆流防止構造の外側の吸入室と、前記逆流防止構造の内側の吸入通路とが区画され、
前記逆流防止構造は、前記吸入通路から前記吸入口に向かって流通する流体に含まれる潤滑油が前記吸入通路から前記吸入室に流出することを防止し、
前記逆流防止構造は、前記特定スクロール及び前記ハウジングの一方に形成され、環状をなすとともに前記特定スクロール及び前記ハウジングの他方に向かって前記駆動軸心方向に延びる凸部と、
前記特定スクロール及び前記ハウジングの他方に形成され、環状をなすとともに前記凸部に対して径方向及び前記駆動軸心方向で対向する対向部とからなり、
前記凸部と前記対向部との間には、前記駆動軸心方向に延びる絞り部が形成され、
前記軸受と前記絞り部とは、少なくとも一部が前記駆動軸心方向で重なっていることを特徴とする両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記凸部は、前記特定スクロール及び前記ハウジングの他方に向かって前記駆動軸心方向に直線状に延びる第1面と、
前記第1面よりも径方向の外側に位置し、前記特定スクロール及び前記ハウジングの他方に向かって前記駆動軸心方向に直線状に延びる第2面と、
前記第1面と前記第2面との間で径方向に直線状に延び、前記第1面と前記第2面とに接続する第3面とを有し、
前記対向部は、前記第1面よりも径方向の内側に位置し、前記第1面と径方向で対向しつつ前記特定スクロール及び前記ハウジングの一方に向かって前記駆動軸心方向に直線状に延びる第1対向面と、
前記第2面よりも径方向の外側に位置し、前記第2面と径方向で対向しつつ前記特定スクロール及び前記ハウジングの一方に向かって前記駆動軸心方向に直線状に延びる第2対向面と、
前記第1対向面と前記第2対向面との間で径方向に直線状に延び、前記第1対向面と前記第2対向面とに接続するとともに、前記第3面と前記駆動軸心方向で対向する第3対向面とを有し、
前記絞り部は、前記第1面と前記第1対向面との間に形成された第1絞り部と、前記第2面と前記第2対向面との間に形成された第2絞り部とからなり、
前記軸受は、前記第1絞り部及び前記第2絞り部と前記駆動軸心方向で重なっている請求項1記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記軸受における前記駆動軸心方向の中央かつ径方向の中央は軸受中心とされ、
前記第1絞り部における前記第1面の前記駆動軸心方向の中央は第1中央部位とされ、
前記第2絞り部における前記第2面の前記駆動軸心方向の中央は第2中央部位とされ、
前記軸受中心は、前記駆動軸心方向において前記第1中央部位と前記第2中央部位との間に位置している請求項2記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は両回転式スクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の両回転式スクロール型圧縮機(以下、単に圧縮機という。)が開示されている。この圧縮機は、ハウジング、駆動機構、駆動スクロール、従動スクロール及び従動機構を備えている。ハウジングはスクロール室と動力室とを有している。また、ハウジングには下部隔壁が設けられている。下部隔壁は、スクロール室と動力室の間に位置しており、スクロール室と動力室とを区画している。駆動機構は動力室内に収容されている。
【0003】
駆動スクロール、従動スクロール及び従動機構はスクロール室内に収容されている。駆動スクロールは駆動端板と駆動渦巻体とを有している。駆動渦巻体は駆動端板に一体に形成されており、従動スクロールに向かって渦巻状に突出している。また、駆動端板には回転軸が一体に形成されている。回転軸は駆動端板から下部隔壁に向かって突出している。そして、回転軸は軸受を介して下部隔壁に回転可能に支持されているとともに、動力室内で駆動機構と連結されている。これにより、駆動スクロールは、駆動機構によって駆動軸心周りに回転駆動されるようになっている。
【0004】
従動スクロールは、従動端板と従動渦巻体とを有している。従動渦巻体は従動端板に一体に形成されており、駆動端板に向かって渦巻状に突出している。従動渦巻体は駆動渦巻体と噛合しており、駆動渦巻体との間に圧縮室を形成している。従動スクロールは、駆動スクロールに対して偏心しつつ従動軸心周りで駆動スクロール及び従動機構によって回転従動されるようになっている。
【0005】
また、この圧縮機では、駆動端板と下部隔壁とによって逆流防止構造が形成されている。逆流防止構造は、回転軸よりも駆動スクロールの径方向の外側に位置している。また、逆流防止構造と軸受とは駆動軸心方向に離隔している。逆流防止構造は、下部隔壁に形成され、環状をなすとともに駆動端板に向かって駆動軸心方向に延びる凸部と、駆動端板に形成され、環状をなして凸部を収容しつつ凸部と対向する対向部とを有している。凸部と対向部との間には、駆動軸心方向に延びる絞り部が形成されている。
【0006】
この圧縮機では、スクロール室内に流体が吸入され、この流体は圧縮室内に吸入される。そして、駆動スクロールが回転駆動するとともに従動スクロールが回転従動することにより、圧縮室内で流体が圧縮される。また、この圧縮機では、逆流防止構造によって、スクロール室内の流体及び潤滑油が動力室に流出することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の圧縮機において、逆流防止構造が高いシール性能を発揮するためには、絞り部の大きさ、つまり、凸部と対向部とにおける径方向の間隔を可及的に狭くする必要がある。しかし、圧縮機の作動時において、駆動スクロールには、駆動スクロールを駆動軸心方向に対して傾かせようとする傾転モーメントが作用するため、この傾転モーメントによって、回転する駆動スクロールには振れが不可避的に生じてしまう。このため、シール性能の向上のために凸部と対向部とにおける径方向の間隔を狭くすると、作動時の駆動スクロールの振れによって凸部と対向部とが干渉するおそれがある。一方、作動時における凸部と対向部との干渉を回避するために凸部と対向部とにおける径方向の間隔を広くすると、逆流防止構造が十分なシール性能を発揮し得なくなる。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高い耐久性を発揮しつつ、逆流防止構造が高いシール性能を発揮可能な両回転式スクロール型圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の両回転式スクロール型圧縮機は、ハウジング、駆動機構、駆動スクロール、従動スクロール及び従動機構を備え、
前記ハウジングは、前記駆動スクロール及び前記従動スクロールが収容されるスクロール室を有し、
前記駆動スクロールは、前記駆動機構によって駆動軸心周りに回転駆動され、
前記従動スクロールは、前記駆動スクロールに対して偏心しつつ従動軸心周りで前記駆動スクロール及び前記従動機構によって回転従動され、
前記駆動スクロールと前記従動スクロールとよって流体を圧縮する圧縮室が形成される両回転式スクロール型圧縮機であって、
前記駆動スクロール及び前記従動スクロールの一方は、前記圧縮室に流体を吸入させる吸入口が形成された特定スクロールとされ、
前記ハウジングには、前記特定スクロールに向かって前記スクロール室内に前記駆動軸心方向に突出する支持部が設けられ、
前記特定スクロールは、前記支持部に設けられた軸受によって前記支持部に支持され、
前記特定スクロールと前記ハウジングとによって、内側に前記軸受及び前記吸入口が配置された環状の逆流防止構造が形成され、
前記スクロール室は、前記逆流防止構造によって、前記逆流防止構造の外側の吸入室と、前記逆流防止構造の内側の吸入通路とが区画され、
前記逆流防止構造は、前記吸入通路から前記吸入口に向かって流通する流体に含まれる潤滑油が前記吸入通路から前記吸入室に流出することを防止し、
前記逆流防止構造は、前記特定スクロール及び前記ハウジングの一方に形成され、環状をなすとともに前記特定スクロール及び前記ハウジングの他方に向かって前記駆動軸心方向に延びる凸部と、
前記特定スクロール及び前記ハウジングの他方に形成され、環状をなすとともに前記凸部に対して径方向及び前記駆動軸心方向で対向する対向部とからなり、
前記凸部と前記対向部との間には、前記駆動軸心方向に延びる絞り部が形成され、
前記軸受と前記絞り部とは、少なくとも一部が前記駆動軸心方向で重なっていることを特徴とする。
【0011】
傾転モーメントによる作動時の特定スクロールの振れについて、特定スクロールの径方向の振れ量と、駆動軸心方向の振れ量とに分けて検討する。ここで、駆動軸心方向の振れ量の大きさは、特定スクロールの径方向の大きさで決定される。このため、特定スクロールにおける駆動軸心方向の振れ量を小さくするために、特定スクロールを径方向に小型化すると、その分、流体の圧縮容量が減少してしまう。このため、駆動軸心方向の振れ量を小さくすることは難しい。これに対し、特定スクロールの径方向の振れ量については、流体の圧縮容量を減少させることなく調整が可能である。
【0012】
すなわち、本発明の圧縮機では、逆流防止構造の内側に軸受及び吸入口が配置されており、軸受と逆流防止構造における絞り部とは、少なくとも一部が駆動軸心方向に対向する。このため、この圧縮機では、軸受と逆流防止構造とを駆動軸心方向に好適に接近させることができる。これにより、この圧縮機では、逆流防止構造に対して駆動軸心方向に近い位置で軸受が特定スクロールを支持することにより、作動時における特定スクロールの径方向の振れ量を小さくすることができる。
【0013】
このため、この圧縮機では、凸部と対向部とにおける径方向の間隔を可及的に小さくすることにより、吸入通路から吸入口に向かって流通する流体に含まれた潤滑油が遠心力によって吸入室に流出することを逆流防止構造が好適に防止できる。そして、このように、凸部と対向部とにおける径方向の間隔を小さくしても、作動時に特定スクロールの径方向の振れによって凸部と対向部とが干渉することを好適に防止できる。
【0014】
したがって、本発明の両回転式スクロール型圧縮機は、高い耐久性を発揮しつつ、逆流防止構造が高いシール性能を発揮する。
【0015】
本発明の圧縮機において、凸部は、特定スクロール及びハウジングの他方に向かって駆動軸心方向に直線状に延びる第1面と、第1面よりも径方向の外側に位置し、特定スクロール及びハウジングの他方に向かって駆動軸心方向に直線状に延びる第2面と、第1面と第2面との間で径方向に直線状に延び、第1面と第2面とに接続する第3面とを有し得る。また、対向部は、第1面よりも径方向の内側に位置し、第1面と径方向で対向しつつ特定スクロール及びハウジングの一方に向かって駆動軸心方向に直線状に延びる第1対向面と、第2面よりも径方向の外側に位置し、第2面と径方向で対向しつつ特定スクロール及びハウジングの一方に向かって駆動軸心方向に直線状に延びる第2対向面と、第1対向面と第2対向面との間で径方向に直線状に延び、第1対向面と第2対向面とに接続するとともに、第3面と駆動軸心方向で対向する第3対向面とを有し得る。さらに、絞り部は、第1面と第1対向面との間に形成された第1絞り部と、第2面と第2対向面との間に形成された第2絞り部とからなり得る。そして、軸受は、第1絞り部及び第2絞り部と駆動軸心方向で重なっていることが好ましい。
【0016】
この場合には、第1絞り部及び第2絞り部によって、潤滑油が吸入室に流出することをより一層好適に防止できる。そして、上述のように、この圧縮機では、特定スクロールの径方向の振れ量を小さくできるため、作動時における特定スクロールの径方向の振れによって、凸部の第1面と対向部の第1対向面とが干渉することを防止できるとともに、凸部の第2面と対向部の第2対向面とが干渉することを防止できる。
【0017】
また、軸受における駆動軸心方向の中央かつ径方向の中央は軸受中心とされ得る。第1絞り部における第1面の駆動軸心方向の中央は第1中央部位とされ得る。第2絞り部における第2面の駆動軸心方向の中央は第2中央部位とされ得る。そして、軸受中心は、駆動軸心方向において第1中央部位と第2中央部位との間に位置していることが好ましい。
【0018】
この場合には、軸受中心と第1絞り部及び第2絞り部とを駆動軸心方向に十分に接近させることができるため、逆流防止構造に対して駆動軸心方向により近い位置で軸受が特定スクロールを支持することができる。これにより、この圧縮機では、作動時における特定スクロールの径方向の振れ量を十分に小さくすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の両回転式スクロール型圧縮機は、高い耐久性を発揮しつつ、逆流防止構造が高いシール性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施例1の両回転式スクロール型圧縮機の断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1の両回転式スクロール型圧縮機に係り、軸受及び逆流防止構造等を示す要部拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1の両回転式スクロール型圧縮機に係り、軸受及び逆流防止構造等を示す
図2の要部拡大断面図である。
【
図4】
図4は、実施例2の両回転式スクロール型圧縮機に係り、軸受及び逆流防止構造等を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。実施例1、2の圧縮機は、図示しない車両に搭載されており、車両の空調装置を構成している。
【0022】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の圧縮機は、ハウジング6、電動モータ10、駆動スクロール30、従動スクロール40及び従動機構20を備えている。電動モータ10は本発明における「駆動機構」の一例である。
【0023】
本実施例では、
図1に示す実線矢印によって、圧縮機の前後方向を規定している。そして、
図2以降では、
図1に対応して圧縮機の前後方向を規定している。なお、前後方向は説明の便宜のための一例であり、圧縮機は搭載される車両に応じて、自己の姿勢を適宜変更可能である。
【0024】
図1に示すように、ハウジング6は、ハウジング本体60と、ハウジングカバー61とによって構成されている。ハウジング本体60及びハウジングカバー61は、アルミニウム合金製である。
【0025】
ハウジング本体60は、外周壁60a及び後壁を有する有底筒状部材である。外周壁60aは、駆動軸心O1を中心とする円筒状をなしている。駆動軸心O1は前後方向と平行である。外周壁60aには、吸入連通口69が形成されている。吸入連通口69は、外周壁60aをハウジング本体60の径方向、すなわち、駆動スクロール30の径方向に貫通している。吸入連通口69には図示しない配管が接続されている。また、外周壁60aは内周面601を有している。
【0026】
後壁60bは、ハウジング本体60の後端に位置している。後壁60bは、駆動軸心O1と直交して略円形平板状に延びている。後壁60bの外周縁は、外周壁60aの後端に接続している。後壁60bの内面中央には第1支持部64aが形成されている。第1支持部64aは、本発明における「支持部」の一例である。
【0027】
第1支持部64aは、後壁60bの内面中央から前方、すなわち、後述するスクロール室65内に突出している。第1支持部64aには、支持凹部71が形成されている。
図2に示すように、支持凹部71は、第1支持部64aの前面641から後方に向かって駆動軸心O1を中心とする円柱状に凹設されている。つまり、支持凹部71は、前面641から後方に向かって駆動軸心O1方向に凹んでいる。この支持凹部71により、第1支持部64aは、駆動軸心O1を中心とする略円筒状をなしている。
【0028】
また、
図1に示すように、後壁60bには、ハウジングボス64bが形成されている。ハウジングボス64bは、第1支持部64aよりも大径をなす円筒状に形成されており、第1支持部64aと同様に、後壁60bからスクロール室65内に突出している。これにより、ハウジングボス64bは、第1支持部64aに対して駆動スクロール30の径方向の外側に離隔しつつ、第1支持部64aを外側から囲っている。ハウジングボス64bは、外周面642を有している。また、ハウジングボス64bは、自己の外周部分が自己の内周部分の他、第1支持部64aに比べて駆動軸心O1方向に長く延びている。
【0029】
ハウジングボス64には、環状凹溝73と、連絡通路74とが形成されている。環状凹溝73は、本発明における「対向部」の一例である。
【0030】
環状凹溝73は、ハウジングボス64bの外周部分と内周部分とに跨って位置している。環状凹溝73は、ハウジングボス64の前面から後方に向かって駆動軸心O1を中心とする円環状に凹設されている。つまり、環状凹溝73は、前面から後方に向かって駆動軸心O1方向に凹んでいる。また、環状凹溝73は、第1支持部64a及び後述する吸入通路65bよりも大径の円環状をなしている。これにより、環状凹溝73は、第1支持部64a及び吸入通路65bを外側から囲っている。また、環状凹溝73における駆動軸心O1方向の深さは、吸入通路65bにおける駆動軸心O1方向の深さよりも短くなっている。
【0031】
環状凹溝73は、第1対向面73aと、第2対向面73bと、第3対向面73cとを有している。第1対向面73aは、環状凹溝73において、駆動スクロール30の径方向の最も内側に位置しており、駆動軸心O1方向に直線状に延びている。第2対向面73bは、環状凹溝73において、駆動スクロール30の径方向の最も外側に位置しており、第1対向面73aと駆動スクロール30の径方向で対向している。第2対向面73bは、第1対向面73aと平行で駆動軸心O1方向に直線状に延びている。ここで、第2対向面73bは、第1対向面73aよりも駆動軸心O1方向で前方に長く延びている。第3対向面73cは、第1対向面73aと第2対向面73bとの間であって、環状凹溝73における後端に位置している。第3対向面73cは、駆動スクロール30の径方向に直線状に延びており、第1対向面73aの後端と第2対向面73bの後端とに接続している。これにより、第3対向面73cは、環状凹溝73における底面を構成している。換言すれば、第1対向面73a及び第2対向面73bは、第3対向面73cから後述する駆動端板31に向かって駆動軸心O1方向で前方に延びている。
【0032】
連絡通路74は、ハウジングボス64bにおいて、環状凹溝73よりも後方に離隔して配置されている。これにより、連絡通路74は環状凹溝73とは非連通となっている。また、連絡通路74は、ハウジングボス64bを駆動スクロール30の径方向に貫通している。これにより、連絡通路74は、吸入通路65bと連通している。また、連絡通路74において吸入通路65bとは反対側は、外周面642に開口している。
【0033】
また、
図1及び
図2に示すように、第1支持部64aにはボールベアリング51が設けられている。ボールベアリング51は、本発明における「軸受」の一例である。ボールベアリング51は、駆動軸心O1方向に所定の幅を有する円環状をなしている。ボールベアリング51は、支持凹部71の内周面に自己の外輪を嵌入させることにより、第1支持部64a内、より具体的には支持凹部71内に保持されている。ここで、
図2に示すように、ボールベアリング51における駆動軸心O1方向の中央かつ径方向の中央は軸受中心C1とされている。なお、ボールベアリング51に換えて、滑り軸受等を採用しても良い。
【0034】
図1に示すように、ハウジングカバー61は、ハウジング本体60の前方に配置されている。ハウジングカバー61は、駆動軸心O1と直交して略円形平板状に延びている。ハウジングカバー61は、その外周縁がハウジング本体60の外周壁60aの前端に当接している。これにより、ハウジングカバー61は、ハウジング本体60を前方から塞いでいる。こうして、ハウジング本体60内にスクロール室65が形成されている。
【0035】
また、ハウジングカバー61の内面中央には、第2支持部67が形成されている。第2支持部67は、従動軸心O2を中心とする円筒状をなしており、ハウジングカバー61の内面中央から後方に突出している。従動軸心O2は、駆動軸心O1に対して偏心しつつ駆動軸心O1と平行に延びている。つまり、従動軸心O2も前後方向に平行である。また、第2支持部67には、ニードルベアリング14の外輪が嵌入している。
【0036】
また、ハウジングカバー61には、吐出連通口68が形成されている。吐出連通口68は、ハウジングカバー61の中央に位置しており、ハウジングカバー61を駆動軸心O1方向に貫通している。吐出連通口68は、後述する吐出室13と連通している。吐出連通口68には図示しない配管が接続されている。
【0037】
電動モータ10はスクロール室65内に収容されている。これにより、スクロール室65は、電動モータ10を収容するモータ室を兼ねている。
【0038】
電動モータ10は、ステータ17及びロータ11によって構成されている。ステータ17は、駆動軸心O1を中心とする円筒状であり、巻き線17aを有している。ステータ17は、外周壁60aの内周面601に嵌入することにより、ハウジング本体60に固定されている。
【0039】
ロータ11は、駆動軸心O1周りで円筒状をなしており、ステータ17内に配置されている。詳細な図示を省略するものの、ロータ11は、ステータ17に対応する複数個の永久磁石と、各永久磁石を固定する積層鋼板とで構成されている。
【0040】
駆動スクロール30はアルミニウム合金製である。駆動スクロール30は、駆動端板31、駆動渦巻体33及び駆動周壁35を有している。
【0041】
駆動端板31は、駆動軸心O1及び従動軸心O2と直交して略円板状に延びている。駆動端板31は、前面311と、前面311の反対側に位置する後面312とを有している。後面312は、スクロール室65内において第1支持部64aと対向している。後面312の中央には、第1支持部64aの支持凹部71に向かって突出する第1ボス34が形成されている。第1ボス34は、駆動軸心O1を中心とする円筒状をなしている。また、第1ボス34は、支持凹部71及びボールベアリング51よりも小径に形成されている。
【0042】
駆動渦巻体33は駆動端板31と一体をなしており、駆動端板31の前面311から前方、すなわち従動スクロール40に向かって駆動軸心O1及び従動軸心O2と平行に延びている。駆動渦巻体33は、駆動端板31の中心側を渦巻中心としつつ、渦巻中心から外周に向かって渦巻状に延びている。
【0043】
駆動周壁35は、駆動端板31と一体に形成されており、駆動端板31の外周縁から従動スクロール40に向かって駆動軸心O1及び従動軸心O2と平行に延びている。駆動周壁35は、駆動軸心O1を中心とする円筒状をなしており、駆動渦巻体33を囲っている。駆動周壁35の前端には、4つの自転阻止ピン21が前方に向かって突出する状態で固定されている。なお、
図1では、4つの自転阻止ピン21のうちの2つを図示している。
【0044】
また、駆動スクロール30では、駆動端板31に対して吸入口91と凸部93とが形成されている。これにより、駆動スクロール30は、本発明における「特定スクロール」に相当している。吸入口91は、駆動端板31を駆動軸心O1方向に貫通している。
【0045】
凸部93は、駆動端板31の外周縁に一体に形成されている。これにより、凸部93は駆動端板31において、吸入口91よりも駆動スクロール30の径方向の外側に位置している。凸部93は、駆動端板31及び駆動周壁35と同径をなす円環状をなしており、駆動端板31の後面から後方、すなわちハウジングボス64bに向かって駆動軸心O1方向に延びている。つまり、凸部93は、駆動端板31を挟んで駆動周壁35の反対側に位置しており、駆動周壁35とは反対方向に延びている。これにより、凸部93は吸入口91を外側から囲っている。ここで、凸部93における駆動軸心O1方向の長さは、環状凹溝73における駆動軸心O1方向の長さ、つまり、環状凹溝73における駆動軸心O1方向の深さに比べて短くなっている。
【0046】
図2及び
図3に示すように、凸部93は、第1面93aと、第2面93bと、第3面93cとを有している。第1面93aは、凸部93において、駆動スクロール30の径方向の最も内側に位置しており、駆動軸心O1方向に直線状に延びている。第2面93bは、凸部93において、駆動スクロール30の径方向の最も外側に位置しており、第1面93aと平行で駆動軸心O1方向に直線状に延びている。第3面93cは、第1面93aと第2面93bとの間であって、凸部93における後端に位置している。第3面93cは、駆動スクロール30の径方向に直線状に延びており、第1面93aの後端と第2面93bの後端とに接続している。こうして、凸部93において、第1面93aは凸部93の内周面を構成しており、第2面93bは凸部93の外周面を構成しており、第3面93cは凸部93の端面を構成している。また、第2面93bは、駆動周壁35の外周面と連続している。
【0047】
図1に示す従動スクロール40もアルミニウム合金製である。従動スクロール40は、従動端板41及び従動渦巻体43を有している。
【0048】
従動端板41は、駆動軸心O1及び従動軸心O2と直交して略円板状に延びている。従動端板41は、前面411と、前面411の反対側に位置する後面412とを有している。前面411の中央には、ハウジングカバー61に向かって突出する第2ボス42が形成されている。第2ボス42は、従動軸心O2を中心とする円筒状をなしている。
【0049】
また、従動端板41には、吐出口38が形成されている。吐出口38は、従動端板41において、第2ボス42内となる個所に配置されており、従動端板41を駆動軸心O1方向に貫通している。
【0050】
さらに、第2ボス42内において、従動端板41には、吐出リード弁57及びリテーナ58が固定ボルト59によって固定されている。これにより、吐出リード弁57は吐出口38を開閉可能となっている。また、リテーナ58は、吐出リード弁57の開度を調整可能となっている。
【0051】
また、従動端板41の後面412において従動渦巻体43よりも外周側となる個所には、各自転阻止ピン21と対応するように4つリング22が固定されている。なお、
図1では、4つのリング22のうちの2つを図示している。
【0052】
従動渦巻体43は従動端板41と一体をなしており、従動端板41の後面412から後方、すなわち駆動端板31に向かって駆動軸心O1及び従動軸心O2と平行に延びている。従動渦巻体43は、従動端板41の中心側を渦巻中心としつつ、渦巻中心から外周に向かって渦巻状に延びている。
【0053】
従動機構20は、4つの自転阻止ピン21と4つのリング22とで構成されている。なお、自転阻止ピン21及びリング22は、それぞれ3つ以上であればその個数は適宜設計可能である。
【0054】
この圧縮機では、駆動スクロール30及び従動スクロール40が共にスクロール室65内に収容されている。そして、駆動スクロール30は、駆動周壁35がロータ11の内周面に固定されることにより、ロータ11に一体化されている。一方、従動スクロール40は、従動渦巻体43を駆動スクロール30側に向けた状態で、駆動スクロール30の前方に配置されている。これにより、駆動端板31の前面311と従動端板41の後面412とが駆動軸心O1方向で対向している。
【0055】
また、各自転阻止ピン21を各リング22内に進入させている。こうして、駆動スクロール30と従動スクロール40とが前後方向で組み付けられている。これにより、駆動スクロール30と従動スクロール40とはスクロール圧縮部100を構成している。また、駆動スクロール30と従動スクロール40とによって吸入部30aが形成されている。吸入部30aは、駆動端板31、駆動周壁35及び従動端板41によってスクロール室65から区画されている。また、吸入部30aは吸入口91と連通している。そして、駆動スクロール30と従動スクロール40とは、吸入部30a内で駆動渦巻体33と従動渦巻体43とを噛合させている。
【0056】
また、駆動スクロール30では、第1ボス34が第1支持部64aの支持凹部71内に進入している。そして、第1ボス34に対してボールベアリング51の内輪が内嵌することにより、第1ボス34、ひいては駆動スクロール30は、ボールベアリング51を介して第1支持部64aに回転可能に支持されている。この結果、この圧縮機では、駆動スクロール30が第1支持部64aによってハウジング6に駆動軸心O1周りで回転可能に支持されている。
【0057】
さらに、駆動スクロール30では、凸部93が環状凹溝73内に進入している。これにより、
図2及び
図3に示すように、凸部93の第1面93aに対して、環状凹溝73の第1対向面73aが駆動スクロール30の径方向の内側から対向している。また、凸部93の第2面93bに対して、環状凹溝73の第2対向面73bが駆動スクロール30の径方向の外側から対向している。さらに、凸部93の第3面93cに対して、環状凹溝73の第3対向面73cが駆動軸心O1に離隔しつつ後方から対向している。
【0058】
こうして、凸部93と環状凹溝73とによって逆流防止構造8が形成されている。この逆流防止構造8は、具体的にはラビリンスシールである。ここで、凸部93及び環状凹溝73が円環状であるため、逆流防止構造8は円環状に形成されている。また、逆流防止構造8は、ボールベアリング51及び吸入口91よりも、駆動スクロール30の径方向の外側に位置している。つまり、逆流防止構造8は、ボールベアリング51及び吸入口91を外側から囲っている。
【0059】
また、このように逆流防止構造8が形成されることにより、スクロール室65は、逆流防止構造8及びハウジングボス64bによって、吸入室65aと吸入通路65bとに区画されている。吸入室65aは、スクロール室65において、逆流防止構造8及びハウジングボス64bよりも外側となる個所である。吸入室65aは、吸入連通口69と連通している。これにより、吸入室65aには、吸入連通口69に接続された配管を通じて、圧縮機の外部から冷媒ガスが吸入される。冷媒ガスは本発明における「流体」の一例である。
【0060】
吸入通路65bは、スクロール室65において、逆流防止構造8及びハウジングボス64bよりも内側であって、第1支持部64aの外側となる個所である。つまり、吸入通路65bは、スクロール室65において、駆動スクロール30の径方向で逆流防止構造8及びハウジングボス64bと、第1支持部64aとの間となる個所である。吸入通路65bは、駆動軸心O1を中心とする円環状をなしており、駆動軸心O1方向に延びている。また、吸入通路65bは、第1支持部64aよりも大径であって、凸部93及び環状凹溝73よりも小径をなしている。吸入通路65bは、連絡通路74と接続することにより、連絡通路74を通じて吸入室65aと連通している。また、吸入通路65bは、吸入口91と駆動軸心O1方向で対向している。
【0061】
また、このように逆流防止構造8及びハウジングボス64bが吸入室65aと吸入通路65bとを区画することにより、逆流防止構造8は、ボールベアリング51及び吸入口91だけでなく、吸入通路65bよりも駆動スクロール30の径方向の外側に位置している。こうして、逆流防止構造8は、ボールベアリング51及び吸入口91に加えて、吸入通路65bについても外側から囲っている。
【0062】
ここで、環状凹溝73を含めハウジングボス64bはハウジング本体60の後壁60bに形成されているため、ハウジングボス64bはハウジング6を構成している。そして、凸部93を含め駆動スクロール30は駆動軸心O1周りで回転する一方、ハウジングボス64bを含めハウジング6は非回転となる。このため、逆流防止構造8において、凸部93と環状凹溝73との間には、回転する駆動スクロール30と、非回転のハウジングボス64bとの干渉を防止するための隙間が存在している。具体的には、第1面93aと第1対向面73aとの間、及び、第2面93bと第2対向面73bとの間には、それぞれ駆動スクロール30の径方向に隙間が存在している。また、第3面93cと第3対向面73cとの間には、駆動軸心O1方向に隙間が存在している。
【0063】
そして、
図3に示すように、この逆流防止構造8では、第1面93aと第1対向面73aとの隙間によって第1絞り部S1が形成されており、第2面93bと第2対向面73bとの隙間によって第2絞り部S2が形成されている。第1絞り部S1及び第2絞り部S2は、それぞれ駆動軸心O1方向に延びつつ逆流防止構造8の周方向に一周している。
【0064】
より具体的には、第1絞り部S1は、第1面93a及び第1対向面73aのうち、これらの第1面93aと第1対向面73aとが互いに駆動スクロール30の径方向で対向する個所に形成されている。同様に、第2絞り部S2は、第2面93b及び第2対向面73bのうち、これらの第2面93bと第2対向面73bとが互いに駆動スクロール30の径方向で対向する個所に形成されている。そして、第2対向面73bは、第1対向面73aよりも駆動軸心O1方向に長く延びているため、第2対向面73bと第2面93bとが対向する個所は、第1対向面73aと第1面93aとが対向する個所に比べて駆動軸心O1方向に長くなっている。このため、第2絞り部S2は第1絞り部S1よりも駆動軸心O1方向に長く形成されている。
【0065】
また、第1絞り部S1において、第1面93aの駆動軸心O1方向の中央は第1中央部位P1とされている。そして、第2絞り部S2において、第2面93bの駆動軸心O1方向の中央は第2中央部位P2とされている。上述のように、凸部93は円環状をなしているため、第1面93a及び第2面93bは、それぞれ凸部93の周方向に一周するように延びている。これにより、第1中央部位P1は、第1面93aにおいて凸部93の周方向に一周して存在している。同様に、第2中央部位P2は、第2面93bにおいて凸部93の周方向に一周して存在している。
【0066】
また、この圧縮機において、ボールベアリング51は、その全体が第1絞り部S1及び第2絞り部S2よりも駆動スクロール30の径方向の内側に位置している。そして、ボールベアリング51の全体は、第1絞り部S1及び第2絞り部S2と駆動軸心O1方向で重なっている。より詳細には、この圧縮機では、ボールベアリング51の軸受中心C1は、駆動軸心O1方向において第1面93aの第1中央部位P1と、第2面93bの第2中央部位P2との間に位置している。すなわち、軸受中心C1を通って駆動スクロール30の径方向に直線状に延びる仮想線L1を規定するとともに、凸部93に対し、第1中央部位P1と第2中央部位P2の間に領域W1を規定することにより、仮想線L1は、駆動軸心O1方向で領域W1内に位置している。
【0067】
一方、
図1に示すように、従動スクロール40では、第2ボス42がニードルベアリング14の内輪に内嵌されている。これにより、第2ボス42はニードルベアリング14を介して第2支持部67に回転可能に支持されている。この結果、従動スクロール40はハウジング6に従動軸心O2周りで回転可能に支持されている。
【0068】
また、第2ボス42が第2支持部67に支持されることにより、この圧縮機では、ハウジング6内において、第2ボス42の内周面に囲まれ、かつハウジングカバー61と従動端板41とに挟まれた空間によって、吐出室13が形成されている。
【0069】
以上のように構成されたこの圧縮機では、吸入連通口69に接続された配管を通じて圧縮機の外部から吸入室65a内に冷媒ガスが吸入される。また、この圧縮機では、電動モータ10が作動し、ロータ11が回転することにより、スクロール室65内、すなわち吸入室65a内において、駆動スクロール30が駆動軸心O1周りで回転駆動する。つまり、駆動スクロール30とロータ11とは一体で回転駆動する。この際、従動機構20において、各自転阻止ピン21は各リング22の内周面に摺接しつつ各リング22を各自転阻止ピン21の中心周りで相対的に回転させる。こうして、従動機構20は、従動スクロール40に駆動スクロール30のトルクを伝達する。
【0070】
その結果、従動スクロール40は、従動軸心O2周りで駆動スクロール30及び従動機構20によって回転従動される。この際、従動機構20は、従動スクロール40が自転することを規制する。これにより、従動スクロール40は駆動スクロール30に対して従動軸心O2周りで相対的に公転する。そして、このように駆動スクロール30が回転駆動し、従動スクロール40が回転従動することにより、吸入部30a内において駆動渦巻体33及び従動渦巻体43がそれぞれ回転する。これにより、駆動渦巻体33及び従動渦巻体43は、互いに接触することによって双方の間に圧縮室12を形成する。
【0071】
また、吸入室65a内の冷媒ガスは、連絡通路74を経て吸入通路65b内を流通する。そして、吸入通路65b内の冷媒ガスは、吸入口91に向かって流通し、吸入口91から、吸入部30aひいては圧縮室12に吸入される。ここで、圧縮室12は、駆動端板31、駆動渦巻体33、従動端板41及び従動渦巻体43によって吸入部30aから区画される。このため、吸入部30aに吸入された冷媒ガスのうち、圧縮室12内に存在する冷媒ガスは、圧縮室12内に閉じ込められた状態となる。そして、駆動スクロール30が回転駆動し、従動スクロール40が回転従動することに伴い、駆動渦巻体33及び従動渦巻体43は、圧縮室12の容積を縮小させつつ圧縮室12内の冷媒ガスを圧縮する。こうして、吐出圧力まで圧縮された冷媒ガスは、吐出口38から吐出室13に吐出され、さらに、吐出連通口68に接続された配管によって圧縮機の外部に吐出される。これにより、車両用空調装置による空調が行われる。
【0072】
ところで、この圧縮機において、吸入室65a内に吸入された冷媒ガスは、吸入室65aで回転する駆動スクロール30及び従動スクロール40の影響を受ける。このため、冷媒ガスに含まれる潤滑油は冷媒ガスから遠心分離され、駆動スクロール30の径方向の外側に向かって飛散しようとする。これにより、吸入通路65bから吸入口91に向かって流通する冷媒ガスから遠心分離された潤滑油は、吸入通路65b及び吸入口91よりも外側、すなわち、吸入室65aに向かって駆動スクロール30の径方向に流通しようとする。
【0073】
この点、この圧縮機では、吸入口91及び吸入通路65bよりも駆動スクロール30の径方向の外側に逆流防止構造8が形成されており、逆流防止構造8は、冷媒ガスから遠心分離された潤滑油が吸入室65aに流出することを防止する。これにより、この圧縮機では、冷媒ガスから分離された潤滑油についても、冷媒ガスと共に吸入口91から圧縮室12へ好適に吸入させることが可能となっている。このため、この圧縮機では、圧縮室12内の潤滑油によって、駆動渦巻体33及び従動渦巻体43等を好適に潤滑することが可能となっている。また、この圧縮機では、潤滑油によるオイルシールによって圧縮室12内の冷媒ガスの漏れを好適に防止することが可能となっている。
【0074】
そして、この圧縮機では、作動時に凸部93と環状凹溝73との干渉を防止しつつも、逆流防止構造8が高いシール性能を発揮している。以下、この作用について説明する。
【0075】
この圧縮機では、圧縮室12で圧縮される冷媒ガスからの反力によって、駆動スクロール30には、作動時に駆動スクロール30を駆動軸心O1方向に対して傾かせようとする傾転モーメントが不可避的に作用する。このため、作動時に駆動スクロール30は、自己の径方向及び駆動軸心O1方向に振れが生じる。この駆動スクロール30の振れについて、径方向の振れ量と、駆動軸心O1方向の振れ量とに分けて検討する。そして、駆動スクロール30の径方向の振れ量をδYとし、駆動スクロール30の駆動軸心O1方向の振れ量をδXとする。
【0076】
また、ボールベアリング51が第1ボス34を支持する際の支持点中心、すなわち、ボールベアリング51の軸受中心C1を原点とする。また、傾転モーメントによる駆動スクロール30の振れ角度をΔθとする。さらに、逆流防止構造8から原点までの駆動軸心O1方向の距離、つまり、逆流防止構造8と軸受中心C1との駆動軸心O1方向の距離をXとし、駆動スクロール30の半径をYとする。
【0077】
これにより、駆動スクロール30の駆動軸心O1の振れ量δXと、駆動スクロール30の径方向の振れ量δYとは、それぞれ以下の通りとなる。
δX=YΔθ
δY=XΔθ
【0078】
すなわち、逆流防止構造8と軸受中心C1との駆動軸心O1方向の距離Xの値を小さくすれば、その分、駆動スクロール30の径方向の振れ量δYを小さくすることができる。ここで、この圧縮機では、逆流防止構造8がボールベアリング51よりも駆動スクロール30の径方向の外側に位置している。そして、ボールベアリング51の軸受中心C1が駆動軸心O1方向において第1面93aの第1中央部位P1と、第2面93bの第2中央部位P2との間に位置していることにより、ボールベアリング51の全体は、逆流防止構造8の第1絞り部S1及び第2絞り部S2と駆動軸心O1方向で重なっている。
【0079】
このため、この圧縮機では、ボールベアリング51と逆流防止構造8とが駆動軸心O1方向に十分に接近した状態で配置されている。すなわち、この圧縮機では、逆流防止構造8と軸受中心C1との駆動軸心O1方向の距離Xの値を十分に小さくすることが可能となっている。換言すれば、この圧縮機では、逆流防止構造8に対して駆動軸心O1方向に近い位置でボールベアリング51が第1ボス34を支持することにより、ボールベアリング51は、軸受中心C1が第1ボス34の根元に近い状態で第1ボス34を支持することが可能となっている。この結果、この圧縮機では、駆動スクロール30の径方向の振れ量δYを好適に小さくすることが可能となっている。
【0080】
こうして、この圧縮機では、逆流防止構造8において、凸部93の第1面93aと環状凹溝73の第1対向面73aとにおける駆動スクロール30の径方向の間隔、及び、凸部93の第2面93bと環状凹溝73の第2対向面73bとにおける駆動スクロール30の径方向の間隔を可及的に小さくしつつも、作動時における駆動スクロール30の径方向の振れによって、第1面93aと第1対向面73aとが干渉したり、第2面93bと第2対向面73bとが干渉したりすることを防止できる。
【0081】
また、このように、第1面93aと第1対向面73a、及び、第2面93bと第2対向面73bについて、それぞれ駆動スクロール30の径方向の間隔が小さくなることにより、第1絞り部S1及び第2絞り部S2をそれぞれ駆動スクロール30の径方向に狭くすることができる。このため、逆流防止構造8では、第1絞り部S1及び第2絞り部S2によって、潤滑油が吸入室65aに流出することを好適に防止することが可能となっている。
【0082】
ところで、駆動スクロール30の駆動軸心O1の振れ量δXを小さくするためには、駆動スクロール30の半径Yを小さくする必要がある。しかし、駆動スクロール30の半径Yを小さくして、駆動スクロール30を径方向に小型化すると、その分、冷媒ガスの圧縮容量が減少してしまう。この点、この圧縮機では、環状凹溝73内に凸部93が進入した状態において、凸部の第3面93cと環状凹溝73の第3対向面73cとが駆動軸心O1方向に十分に離隔している。このため、この圧縮機では、駆動スクロール30に駆動軸心O1方向の振れが生じた場合であっても、第3面93cと第3対向面73cとが干渉し難くなっている。この結果、この圧縮機では、駆動スクロール30の駆動軸心O1の振れ量δX、及び、駆動スクロール30の径方向の振れ量δYをそれぞれ小さくするに当たって、冷媒ガスの圧縮容量を減少させる必要がない。
【0083】
したがって、実施例1の圧縮機は、高い耐久性を発揮しつつ、逆流防止構造8が高いシール性能を発揮する。
【0084】
特に、この圧縮機において、潤滑油が逆流防止構造8を流通して吸入室65a内に流出するためには、潤滑油は、第1面93aと第1対向面73aとの間を流通して、第3面93cと第3対向面73cとの間に至り、さらに、第2面93bと第2対向面73bとの間を流通する必要がある。つまり、逆流防止構造8における潤滑油の流通経路は、第1絞り部S1によって縮小した後、第3面93cと第3対向面73cとの間で膨張し、第2絞り部S2によって再び縮小することになる。そして、上述のように、逆流防止構造8では、第1絞り部S1及び第2絞り部S2を狭くしている一方で、第3面93cと第3対向面73cとの間を大きくしている。このため、逆流防止構造8では、第1絞り部S1及び第2絞り部S2による潤滑油の流通経路の縮小と、第3面93cと第3対向面73cとの間における流通経路の膨張との差が大きくなっている。これにより、この圧縮機では、逆流防止構造8を流通する際の潤滑油の圧力損失が大きくなっている。この点においても、この圧縮機では、逆流防止構造8によって、潤滑油が吸入室65aに流出することを好適に防止することができる。
【0085】
(実施例2)
図4に示すように、実施例2の圧縮機では、環状凹溝73に換えて、ハウジングボス64bに対向溝75が形成されている。対向溝75も本発明における「対向部」の一例である。また、この圧縮機では、凸部93に換えて、駆動端板31に凸部95が形成されている。
【0086】
対向溝75は、ハウジングボス64bの前端部分を周方向に切り欠くことによって、ハウジングボス64bに形成されている。これにより、対向溝75は、第1支持部64a及び吸入通路65bよりも外側に位置している。
【0087】
対向溝75は、第1対向面75aと第2対向面75bとを有している。第1対向面75aは、駆動軸心O1方向に直線状に延びている。第2対向面75bは、第1対向面75aの後端と接続しており、第1対向面75aから駆動スクロール30の径方向の外側に向かって直線状に延びている。
【0088】
凸部95は、駆動端板31の外周縁に一体に形成されている。凸部95は、駆動端板31及び駆動周壁35と同径をなす円環状をなしており、駆動端板31の後面からハウジングボス64bに向かって駆動軸心O1方向に延びている。ここで、凸部95は、実施例1の圧縮機における凸部93に比べて、駆動軸心O1方向の長さが短くなっている。
【0089】
凸部95は、第1面95aと、第2面95bと、第3面95cとを有している。第1面95aは、凸部95において、駆動スクロール30の径方向の最も内側に位置しており、駆動軸心O1方向に直線状に延びている。第2面95bは、凸部95において、駆動スクロール30の径方向の最も外側に位置しており、第1面95aと平行で駆動軸心O1方向に直線状に延びている。また、第2面95bは、駆動周壁35の外周面と連続している。第3面95cは、第1面95aと第2面95bとの間であって、凸部95における後端に位置している。第3面95cは、駆動スクロール30の径方向の径方向に直線状に延びており、第1面95aの後端と第2面95bの後端とに接続している。
【0090】
この圧縮機においても、駆動スクロール30の第1ボス34がボールベアリング51を介して支持凹部71に回転可能に支持されている。また、この圧縮機では、凸部95が対向溝75に対して駆動スクロール30の径方向の外側から重なっている。こうして、この圧縮機では、凸部95と対向溝75とによって逆流防止構造8aが形成されている。この逆流防止構造8aも円環状に形成されている。そして、実施例1の圧縮機と同様に、この圧縮機では、逆流防止構造8a及びハウジングボス64bによって、スクロール室65が吸入室65aと吸入通路65bとに区画されている。こうして、この圧縮機において、逆流防止構造8aは、ボールベアリング51、吸入口91及び吸入通路65bよりも、駆動スクロール30の径方向の外側に位置している。つまり、逆流防止構造8aも、ボールベアリング51、吸入口91及び吸入通路65bを外側から囲っている。
【0091】
また、逆流防止構造8aでは、凸部95の第1面95aに対して、対向溝75の第1対向面75aが駆動スクロール30の径方向の内側から対向している。これにより、第1面95aと第1対向面75aとの隙間によって絞り部S3が形成されている。また、凸部95の第3面95cに対して、対向溝75の第2対向面75bが駆動軸心O1に離隔しつつ後方から対向している。なお、凸部95の第2面95bは吸入室65a内に面している。
【0092】
ここで、凸部95は、実施例1の圧縮機における凸部93よりも駆動軸心O1方向の長さが短いため、絞り部S3は、実施例1の圧縮機における第1絞り部S1及び第2絞り部S2よりも駆動軸心O1方向に短く形成されている。これにより、この圧縮機では、ボールベアリング51の一部が絞り部S3と駆動軸心O1方向で重なっている。この圧縮機における他の構成は実施例1の圧縮機と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0093】
この圧縮においても、逆流防止構造8aは、吸入通路65bから吸入口91に向かって流通する冷媒ガスから遠心分離された潤滑油が吸入室65aに流出することを防止する。ここで、ボールベアリング51の一部が絞り部S3と駆動軸心O1方向で重なっているため、この圧縮機でも、ボールベアリング51と逆流防止構造8aとが駆動軸心O1方向に十分に接近した状態で配置されている。これにより、この圧縮機でも、駆動スクロール30の径方向の振れ量δYを好適に小さくすることが可能となっている。このため、この圧縮機では、凸部95の第1面95aと対向溝75の第1対向面75aとにおける駆動スクロール30の径方向の間隔を可及的に小さくしつつも、作動時における駆動スクロール30の径方向の振れによって、第1面95aと第1対向面75aとが干渉することを防止できる。そして、第1面95aと第1対向面75aとにおける駆動スクロール30の径方向の間隔を小さくすることより、この圧縮機では、絞り部S3を駆動スクロール30の径方向に狭くすることができる。こうして、この圧縮機でも実施例1の圧縮機と同様の作用を奏することが可能となっている。
【0094】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0095】
例えば、実施例1、2の圧縮機では、駆動スクロール30を本発明における「特定スクロール」としている。しかし、これに限らず、従動スクロール40を本発明における「特定スクロール」とし、従動スクロール40とハウジングボス64bとによって逆流防止構造8、8aを形成しても良い。
【0096】
また、実施例1の圧縮機では、駆動スクロール30に凸部93を形成し、ハウジングボス64bに環状凹溝73を形成している。しかし、これに限らず、駆動スクロール30に環状凹溝73を形成し、ハウジングボス64bに凸部93を形成しても良い。実施例2の圧縮機についても同様に、駆動スクロール30に対向溝75を形成し、ハウジングボス64bに凸部95を形成しても良い。
【0097】
また、実施例1の圧縮機において、ボールベアリング51の一部が第1絞り部S1及び第2絞り部S2と駆動軸心O1方向で重なる構成としても良い。
【0098】
また、実施例2の圧縮機において、ボールベアリング51の全体が絞り部S3と駆動軸心O1方向で重なる構成としても良い。
【0099】
また、実施例1、2の圧縮機において、駆動スクロール30とロータ11とを駆動軸によって動力伝達可能に接続することにより、駆動スクロール30とロータ11とを駆動軸心O1方向に離隔して配置しても良い。そして、この場合、駆動軸をボールベアリング51に挿通することにより、ボールベアリング51は駆動軸を介して駆動スクロール30を回転可能に支持することができる。
【0100】
また、実施例1、2の圧縮機では、従動機構20が自転阻止ピン21及びリング22によって構成されている。しかし、これに限らず、従動機構20は、2本のピンが1つのフリーリングの内周面に摺接するピン・リング・ピン方式、2本のピンの外周面同士が摺接するピン・ピン方式、オルダム接手を用いる方式等によって構成されていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は車両の空調装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0102】
6…ハウジング
8、8a…逆流防止構造
10…電動モータ(駆動機構)
12…圧縮室
20…従動機構
30…駆動スクロール(特定スクロール)
31…駆動端板
33…駆動渦巻体
40…従動スクロール
41…従動端板
43…従動渦巻体
51…ボールベアリング(軸受)
64a…第1支持部(支持部)
65…スクロール室
65a…吸入室
65b…吸入通路
73…環状凹溝(対向部)
73a…第1対向面
73b…第2対向面
73c…第3対向面
75…対向溝(対向部)
75a…第1対向面
75b…第2対向面
91…吸入口
93、95…凸部
93a、95a…第1面
93b、95b…第2面
93c、95c…第3面
C1…軸受中心
O1…駆動軸心
O2…従動軸心
P1…第1中央部位
P2…第2中央部位
S1…第1絞り部(絞り部)
S2…第2絞り部(絞り部)
S3…絞り部