(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113864
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】自動車車体用重ね合わせ構造部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 25/04 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
B62D25/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019109
(22)【出願日】2023-02-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澄川 智史
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA01
3D203BB53
3D203CA02
3D203CA25
3D203CA29
3D203CA39
3D203CA53
3D203CA64
3D203CA67
3D203CA73
3D203CA88
3D203CB04
(57)【要約】
【課題】冷間プレス成形中の部品同士の接合部の破断を抑制するとともに成形後の部品同士の密着性を向上させる自動車車体用重ね合わせ構造部材を提供することにある。
【解決手段】金属板からなる第1のブランクから冷間プレス成形した第1の部品と、第1のブランクに重ね合わせた状態で部分的に接合した金属板からなる第2のブランクから第1の部品と一緒に冷間プレス成形した第2の部品とを互いに重ね合わせた状態でさらに接合してなる自動車車体用重ね合わせ構造部材において、第1の部品および第2の部品が、それらの部品の前記冷間プレス成形からスプリングバックした部分同士が自由状態で互いに密着するように、第1のブランクの強度グレードおよび板厚と、第2のブランクの強度グレードおよび板厚との組み合わせを選択されたものであることを特徴としている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板からなる第1のブランクから冷間プレス成形した第1の部品と、前記第1のブランクに重ね合わせた状態で部分的に接合した金属板からなる第2のブランクから前記第1の部品と一緒に冷間プレス成形した第2の部品とを備え、前記第1の部品と前記第2の部品とを互いに重ね合わせた状態でさらに接合してなる自動車車体用重ね合わせ構造部材において、
前記第1の部品および前記第2の部品が、それらの部品の前記冷間プレス成形からスプリングバックした部分同士が自由状態で互いに密着するように、前記第1のブランクの強度グレードおよび板厚と、前記第2のブランクの強度グレードおよび板厚との組み合わせを選択されたものであることを特徴とする自動車車体用重ね合わせ構造部材。
【請求項2】
前記第1の部品と前記第2の部品の板厚をそれぞれt
1,t
2、前記第1の部品と前記第2の部品のヤング率をそれぞれE
1,E
2、前記第1の部品と前記第2の部品の降伏強度をそれぞれσ
1,σ
2とし、前記冷間プレス成形用の金型のパンチの半径をR
Pとするとき、前記第1の部品と前記第2の部品は、
の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の自動車車体用重ね合わせ構造部材。
【請求項3】
前記第1の部品は天板部およびその天板部の両側端に繋がる縦壁部を有し、
前記第2の部品は天板部およびその天板部の少なくとも一側端に繋がる縦壁部を有することを特徴とする請求項1記載の自動車車体用重ね合わせ構造部材。
【請求項4】
前記第1のブランクと前記第2のブランクとの引張強度の強度グレードはともに590MPa級以上であることを特徴とする請求項1から3までの何れか一項記載の自動車車体用重ね合わせ構造部材。
【請求項5】
金属板からなる第1のブランクから冷間プレス成形した第1の部品と、前記第1のブランクに重ね合わせた状態で部分的に接合した金属板からなる第2のブランクから前記第1の部品と一緒に冷間プレス成形した第2の部品とを備え、前記第1の部品と前記第2の部品とを互いに重ね合わせた状態でさらに接合してなる自動車車体用重ね合わせ構造部材を製造する方法において、
互いに重ね合わせた状態の前記第1の部品および前記第2の部品の、前記冷間プレス成形からスプリングバックした部分同士が自由状態で互いに密着するように、前記第1のブランクの強度グレードおよび板厚と、前記第2のブランクの強度グレードおよび板厚との組み合わせを選択し、
前記選択した強度グレードおよび板厚の組み合わせの前記第1のブランクおよび前記第2のブランクを互いに重ね合わせて部分的に接合し、
前記互いに重ね合わせて部分的に接合した第1のブランクおよび第2のブランクから前記冷間プレス成形により、互いに重ね合わせて部分的に接合した状態の前記第1の部品および前記第2の部品を一緒に、それらの部品のスプリングバックした部分同士が自由状態で互いに密着するように形成し、
前記第1の部品および前記第2の部品の少なくとも前記互いに密着した部分同士をさらに接合することを特徴とする自動車車体用重ね合わせ構造部材の製造方法。
【請求項6】
前記第1の部品と前記第2の部品の板厚をそれぞれt
1,t
2、前記第1の部品と前記第2の部品の材料強度としてのヤング率をそれぞれE
1,E
2、前記第1の部品と前記第2の部品の材料強度としての降伏強度をそれぞれσ
1,σ
2とし、前記冷間プレス成形用の金型のパンチの半径をR
Pとするとき、前記第1の部品と前記第2の部品は、
の関係を満たすことを特徴とする請求項5記載の自動車車体用重ね合わせ構造部材の製造方法。
【請求項7】
前記第1の部品は天板部およびその天板部の両側端に繋がる縦壁部を有し、
前記第2の部品は天板部およびその天板部の少なくとも一側端に繋がる縦壁部を有することを特徴とする請求項5記載の自動車車体用重ね合わせ構造部材の製造方法。
【請求項8】
前記第1のブランクと前記第2のブランクとの引張強度の強度グレードはともに590MPa級以上であることを特徴とする請求項5から7までの何れか一項記載の自動車車体用重ね合わせ構造部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各々金属板からなるブランクから冷間プレス成形した第1の部品と第2の部品とを互いに重ね合わせた状態で互いに接合してなる自動車車体用重ね合わせ構造部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の乗員保護の観点で、自動車車体には衝突安全性の向上が求められている。一方で、二酸化炭素排出量の削減のため、自動車車体を軽量化し燃費を向上させることも重要である。これら衝突安全性能と車体の軽量化を両立するために、自動車車体の骨格部品への高強度材の適用が年々増えている。例えば、自動車車体のキャビンを形成するフロントピラーやセンタピラーなどのピラー部品は、自動車の衝突時にキャビン内の乗員を保護するために重要な骨格部品である。そのためピラー部品には、衝突荷重に耐え得る強度が要求され、引張強度の強度グレードが1470MPa級以上の高張力鋼板も適用されている。
【0003】
また、自動車の衝突安全性基準は年々厳格さを増す傾向にあり、自動車車体はその基準を満たす必要がある。そのため、強度の必要な骨格部品に対し補強部品を重ね合わせて、衝突特性に大きく影響する車体の部位を部分的に補強した重ね合わせ構造部材が、上記ピラー部品などの骨格部品の構成に採用されている。
【0004】
図1に、自動車車体用重ね合わせ構造部材の一例を示す。図中符号1で示す本体部品は本例ではハット状断面を有し、天板部1aと縦壁部1bとフランジ部1cとこれらを繋ぐ稜線部1dとからなる。図中符号2で示す補強部品は本体部品1の内側に配置され、本例ではコ字状断面を有し、天板部2aと縦壁部2bとこれらを繋ぐ稜線部2dとからなる。本体部品1と補強部品2とは互いに抵抗スポット溶接で接合され、天板部1a,2aと縦壁部1b,2bとに接合部5が配置される。
【0005】
このような自動車車体用重ね合わせ構造部材を製造する従来の方法としては、例えば
図2(a)に示すように二枚のブランク3,4を準備して、先ず
図2(b)に示すようにそれらのブランク3,4から本体部品1と補強部品2とをそれぞれプレス成形する。そしてその後に
図2(c)に示すように本体部品1と補強部品2とを互いに重ね合わせて接合部5で電極6を用いた抵抗スポット溶接により接合する方法が一般的である。
【0006】
また自動車車体用重ね合わせ構造部材を製造する他の方法としては、パッチワーク法といわれる方法がある。この方法では、例えば
図3(a)に示すように二枚のブランク3,4を準備し、先ず
図3(b)に示すように本体部品1および補強部品2への成形前のブランク3,4を互いに重ね合わせて、接合部5で電極6を用いた抵抗スポット溶接によりあらかじめ接合する。そして
図3(c)に示すようにこの互いに接合されたブランク3,4を1つのプレス金型で同時にプレス成形する。このパッチワーク法を用いれば、一回のプレス工程で本体部品1と補強部品2とを成形するのでプレス金型に掛かる費用を抑えることができる。また、パッチワーク法による構造では材料同士が密着しているため、衝突時に外力を受けた際に高い耐荷重を発揮する。
【0007】
パッチワーク法を適用した部材は、主にホットプレスにより製造されている(特許文献1~3参照)。ホットプレスとは、ブランクを高温に加熱し、これをプレス金型の互いに上下方向に対向する上型と下型とで挟んで、部品を熱間プレス成形する成形方法である。下死点(上型の最下点)でブランクはプレス金型により急冷され、金属組織がマルテンサイトに変態することによって部品強度を確保できる。また、ブランクから部品が高温で成形されることから、成形中にブランクに生じる応力が小さいため、プレス金型から外した際に部品に生じるスプリングバックが少ないので、形状凍結性に優れるという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-184221号公報
【特許文献2】特開2020-131226号公報
【特許文献3】特開2021-098451号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】戸沢 康寿:日本機械学会誌 塑性と加工、第68巻、第559号、昭和40年8月、p1090-1097、「薄板のスプリングバックに関する理論解析」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで近年は、引張強度の強度グレードが1470MPa級の超高張力鋼板を用いることで、常温のままのブランクをプレス成形する冷間プレス成形でもホットプレスと同等の部品強度が得られるようになってきている。冷間プレス成形はホットプレスにおけるようなブランクの加熱工程を必要としないため、ホットプレスに比べて生産性に優れ、部品の製造コストを安価に抑えることができる。
【0011】
しかしながら、パッチワーク法に冷間プレス成形を適用して自動車車体用重ね合わせ構造部材を成形する場合、特にパンチ肩部などの曲げ成形部位において、曲げ半径方向内側のブランクと外側のブランクとで横断方向の線長が異なるものとなる。そのため、重ね合わせたブランクの間でプレス成形中に部分的にずれが生じて、あらかじめブランク同士を接合した接合部がそのずれにより破断する可能性がある。
【0012】
また、両ブランクにおいて成形後のスプリングバック角度が相違して、重ね合わせた部品のスプリングバックした部分同士が密着せず離れてしまう。そして、スプリングバックに抗して挟圧して接合しても、スプリングバックによる反発力で接合部に引張り残留応力が生じて接合部の強度低下を招く。
【0013】
本発明は、自動車車体用重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、プレス成形中のブランク同士の接合部の破断を防止することを目的としている、また本発明は、上記の自動車車体用重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、冷間プレス成形、特に曲げ成形した部分同士の密着性を改善してその部分の接合部の強度低下を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を有利に解決する本発明の自動車車体用重ね合わせ構造部材は、
金属板からなる第1のブランクから冷間プレス成形した第1の部品と、前記第1のブランクに重ね合わせた状態で部分的に接合した金属板からなる第2のブランクから前記第1の部品と一緒に冷間プレス成形した第2の部品とを備え、前記第1の部品と前記第2の部品とを互いに重ね合わせた状態でさらに接合してなる自動車車体用重ね合わせ構造部材において、
前記第1の部品および前記第2の部品が、それらの部品の前記冷間プレス成形からスプリングバックした部分同士が自由状態で互いに密着するように、前記第1のブランクの強度グレードおよび板厚と、前記第2のブランクの強度グレードおよび板厚との組み合わせを選択されたものであることを特徴としている。
【0015】
また、上記課題を有利に解決する本発明の自動車車体用重ね合わせ構造部材の製造方法は、
金属板からなる第1のブランクから冷間プレス成形した第1の部品と、前記第1のブランクに重ね合わせた状態で部分的に接合した金属板からなる第2のブランクから前記第1の部品と一緒に冷間プレス成形した第2の部品とを備え、前記第1の部品と前記第2の部品とを互いに重ね合わせた状態でさらに接合してなる自動車車体用重ね合わせ構造部材を製造する方法において、
互いに重ね合わせた状態の前記第1の部品および前記第2の部品の、前記冷間プレス成形からスプリングバックした部分同士が自由状態で互いに密着するように、前記第1のブランクの強度グレードおよび板厚と、前記第2のブランクの強度グレードおよび板厚との組み合わせを選択し、
前記選択した強度グレードおよび板厚の組み合わせの前記第1のブランクおよび前記第2のブランクを互いに重ね合わせて部分的に接合し、
前記互いに重ね合わせて部分的に接合した第1のブランクおよび第2のブランクから前記冷間プレス成形により、互いに重ね合わせて部分的に接合した状態の前記第1の部品および前記第2の部品を一緒に、それらの部品のスプリングバックした部分同士が自由状態で互いに密着するように形成し、
前記第1の部品および前記第2の部品の少なくとも前記互いに密着した部分同士をさらに接合することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の自動車車体用重ね合わせ構造部材およびその製造方法にあっては、第1の部品および第2の部品の冷間プレス成形からスプリングバックした部分同士が自由状態で互いに密着するように、第1のブランクと第2のブランクとの強度グレードおよび板厚の組み合わせを選択している。
【0017】
またパッチワーク法に冷間プレス成形を適用し、互いに重ね合わせて部分的に接合した状態の第1の部品および第2の部品を一つの金型で一緒にプレス成形、特に曲げ成形する際に、上記の強度グレードおよび板厚の組み合わせの選択により、それらの部品のスプリングバックした部分同士が自由状態で互いに密着するので、それらの部分同士を接合する接合部に引張残留応力が殆どもしくは全く生じなくなる。
【0018】
従って、本発明の自動車車体用重ね合わせ構造部材およびその製造方法によれば、各々金属板からなるブランクから冷間プレス成形した二つの部品を互いに重ね合わせた状態で互いに接合してなる重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、成形中のブランク同士の接合部の破断を防止することができる。
【0019】
また、その重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、成形した部品同士のスプリングバックした部分の密着性を改善してその部分の接合部の強度低下を防止することができる。
【0020】
なお、本発明の自動車車体用重ね合わせ構造部材およびその製造方法においては、
前記第1の部品と前記第2の部品の板厚をそれぞれt
1,t
2、前記第1の部品と前記第2の部品のヤング率をそれぞれE
1,E
2、前記第1の部品と前記第2の部品の降伏強度をそれぞれσ
1,σ
2とし、前記冷間プレス成形用の金型のパンチの半径をR
Pとするとき、前記第1の部品と前記第2の部品は、
の関係を満たすものであってもよい。このようにすれば、前記冷間プレス成形からスプリングバックした部分同士が自由状態で互いに確実に密着するので好ましい。
【0021】
また、本発明の自動車車体用重ね合わせ構造部材およびその製造方法においては、
前記第1の部品は天板部およびその天板部の両側端に繋がる縦壁部を有し、
前記第2の部品は天板部およびその天板部の少なくとも一側端に繋がる縦壁部を有するものであってもよい。このようにすれば、第1の部品を第2の部品で補強したチャンネル状の重ね合わせ構造部材を構成できるので好ましい。
【0022】
さらに、本発明の自動車車体用重ね合わせ構造部材およびその製造方法においては、前記第1のブランクと前記第2のブランクとの引張強度の強度グレードはともに590MPa級以上であってもよい。このようにすれば、軽量で高強度の重ね合わせ構造部材を構成することができるので好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(a)および(b)は、自動車車体用重ね合わせ構造部材を例示する斜視図および断面図である。
【
図2】(a),(b)および(c)は、上記例の自動車車体用重ね合わせ構造部材を従来のプレス成形方法で製造する際の手順を模式的に示す説明図である。
【
図3】(a),(b)および(c)は、上記例の自動車車体用重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の従来の製造方法の手順を模式的に示す説明図である。
【
図4】(a),(b),(c)および(d)は、本発明の一実施形態の自動車車体用重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、本発明の一実施形態の製造方法の手順を模式的に示す説明図である。
【
図5】(a)は、自動車車体用重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、上記実施形態の製造方法での冷間プレス成形前の接合ブランクの形状を示す説明図である。また、(b)は、その接合ブランクを冷間プレス成形した際の下死点の形状を示す説明図である。そして(c1)および(c2)は、自動車車体用重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、上記実施形態の製造方法および従来の製造方法での冷間プレス成形後の本体部品および補強部品のスプリングバックした形状を示す説明図である。
【
図6】(a),(b)および(c)は、一枚の金属板からなるブランクを冷間プレス成形する際の、冷間プレス成形前、冷間プレス成形中および、冷間プレス成形後の形状を示す断面図である。
【
図7】(a),(b)および(c)は、パッチワーク法において二枚の金属板からなるブランクを冷間プレス成形する際の、冷間プレス成形前、冷間プレス成形中および、冷間プレス成形後の形状を示す断面図である。
【
図8】(a),(b)および(c)は、本発明の一実施形態の自動車車体用重ね合わせ構造部材の実施例および比較例を示す斜視図、断面図および平面図である。
【
図9】(a),(b)および(c)は、上記実施例および比較例の自動車車体用重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で二枚の鋼板から冷間プレス成形する手順並びにその冷間プレス成形中の二枚の鋼板およびプレス金型の一部断面を拡大して示す断面図である。
【
図10】上記実施例および比較例の自動車車体用重ね合わせ構造部材の衝突性能を確認する試験方法を示す説明図である。
【
図11】(a)および(b)は、本発明の自動車車体用重ね合わせ構造部材の他の一実施形態を示す斜視図および断面図である。
【
図12】(a)および(b)は、本発明の自動車車体用重ね合わせ構造部材のさらに他の一実施形態を示す斜視図および断面図である。
【
図13】(a)および(b)は、本発明の自動車車体用重ね合わせ構造部材のさらに他の一実施形態を示す斜視図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態につき図面に基づき詳細に説明する。
図4(a),
図4(b),
図4(c)および
図4(d)は、本発明の一実施形態の自動車車体用重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、本発明の一実施形態の製造方法の手順を模式的に示す説明図である。なお、図中、同様の部分は同一の符号にて示す。
【0025】
<第1接合工程>
はじめに、
図4(a)に示すように、第1の部品としての本体部品1になる例えば鋼板からなる第1のブランクとしてのブランク3と、第2の部品としての補強部品2になる例えば鋼板からなる第2のブランクとしてのブランク4を準備する。なお、これらのブランク3,4の強度グレードおよび板厚の組み合わせ(以下、「板組み」とも呼称する)の決定方法は後に詳述する。続いて、
図4(b)に示すように、両ブランク3,4を接合部5で仮接合することで、接合ブランクを作成する。本工程での接合箇所としては、本体部品1の天板部1aと補強部品2の天板部2aとになる両ブランク3,4の幅方向中央部同士が、ブランクの動きが比較的小さいので好ましい。接合部5での仮接合は、図示のような電極6を用いた抵抗スポット溶接の他、アーク溶接、レーザー溶接、シーム溶接、機械接合など、金属板であるブランク3,4を接合する方法であればいずれも適用できる。
【0026】
<成形工程>
次いで、
図4(c)に示すように、その接合ブランクから目標形状の、ハット状断面を有する本体部品1とコ字状断面を有する補強部品2とを一体で冷間プレス成形する。ここでの本体部品1と補強部品2とは各々概ね直線状をなしているので、これら本体部品1と補強部品2との冷間プレス成形は主に曲げ成形であるが、この成形工程での冷間プレス成形は、絞り成形や、曲げ成形と絞り成形との組み合わせであってもよい。また、目標形状が例えば直線状と曲線状とを組み合わせた形状のような場合は、形状の異なる部分ごとの複数工程のプレス成形を実施してもよい。
【0027】
<第2接合工程>
最後に、
図4(d)に示すように、本体部品1および補強部品2の、未だ接合していない部分、ここでは縦壁部1b,2b同士を、例えば電極6を用いた抵抗スポット溶接により形成する接合部5で接合する。
【0028】
このように本実施形態の製造方法によれば、二枚のブランク3,4の仮接合していない部分同士は冷間プレス成形後に接合部5で接合するので、例え冷間プレス成形中に曲げ半径の相違に起因してブランク3,4の仮接合していない部分間でずれが生じても、接合部5が破断するという問題が生じることはない。しかしながら、このパッチワーク法における冷間プレス成形で懸念されるのが曲げ成形部分のスプリングバックである。
【0029】
図5(a)は、自動車車体用重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、上記実施形態の製造方法での冷間プレス成形前の接合ブランクの形状を示す説明図である。また、
図5(b)は、その接合ブランクを冷間プレス成形した際の下死点の形状を示す説明図である。そして
図5(c1)および
図5(c2)は、自動車車体用重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、上記実施形態の製造方法および従来の製造方法での冷間プレス成形後の本体部品および補強部品のスプリングバックした形状を示す説明図である。
【0030】
図5(a)に示すような、ブランク3とブランク4を重ね合わせて接合部5で部分的に接合した接合ブランクを一体で、
図5(b)に部分的に示すように本体部品1および補強部品2に冷間プレス成形、特に曲げ成形すると、その曲げ成形の稜線部が離型後に元に戻る方向にわずかに変形する。そのため、本体部品1および補強部品2の稜線部に繋がる縦壁部1b,2bにそれらの角度が変化するスプリングバックが生じる。
【0031】
ここで、内側の補強部品2よりも外側の本体部品1のスプリングバックが小さい場合、もしくは両部品1,2のスプリングバックが同程度である場合は、
図5(c1)に示すように、本体部品1と補強部品2との縦壁部1b,2b同士は密着した状態となる。その一方で、内側の補強部品2よりも外側の本体部品1のスプリングバックが大きい場合は、
図5(c2)に示すように、縦壁部1b,2bは異なる角度となり、本体部品1と補強部品2との間に隙間が生じてしまう。この隙間は、その後の接合工程で縦壁部1b,2b同士の接合不可もしくは接合困難の原因となり、縦壁部1b,2b同士をスプリングバックに抗して接合しても、縦壁部1b,2bの反発力で接合部に引張残留応力が生じて接合部の強度低下を招く結果となる。したがって、冷間プレス成形でパッチワーク法を実施するためには、それぞれのブランクに生じるスプリングバックを考慮して板組みを選定する必要がある。
【0032】
そこで本発明の発明者が鋭意検討した結果、パッチワーク法に用いる二つのブランクの引張強度の強度グレードおよび板厚の組み合わせである板組みを適切に選定すれば、上記
図5(c)に示すケースを実現できることを見出した。本発明の実施形態の自動車車体用重ね合わせ構造部材およびその製造方法は、かかる知見に基づくものである。
【0033】
図6は、金属板からなる一枚のブランクBを冷間プレス金型のパンチ肩部S
Pで曲げ成形した際にブランクBの曲げ稜線部に生じるスプリングバックを模式的に示す断面図であり、
図6(a)は、プレス成形前,
図6(b)はプレス成形中、
図6(c)は、プレス成形後の形状を示している。
【0034】
非特許文献1の式(19),(20)’によると、角度θで板材を曲げた際の角度変化Δθは下記のように表せる。
ここで、tはブランクの板厚、Eはブランクのヤング率、σはブランクの降伏強度、Rはブランクの板厚中心C
Bにおける曲率半径である。
【0035】
さらに、プレス金型のパンチ肩部の曲げ半径をR
pとするとRは
となるので、角度変化Δθは
となる。
この式(3)から、高強度で板厚が薄い材料ほど角度変化が大きくなることがわかる。
【0036】
図7は、各々金属板からなる二枚のブランクを曲げ成形した際にそれらのブランクの曲げ稜線部に生じるスプリングバックを模式的に示す断面図であり、曲げ外側のブランクをブランクB1、曲げ内側のブランクをブランクB2とする。ブランクB1とブランクB2とのそれぞれの板厚をt
1,t
2、ヤング率をE
1,E
2、降伏強度をσ
1,σ
2、プレス金型のパンチ肩部S
Pの曲げ半径をR
pとすると、ブランクB1とブランクB2とに生じる角度変化Δθ
1およびΔθ
2は、以下の式(4),式(5)のように表せる。
【0037】
なお、
図7中のR
1はブランクB1の板厚中心C
B1における曲率半径であって、R
1=R
P+t
2+t
1/2であり、R
2はブランクB2の板厚中心C
B2における曲率半径であって、R
2=R
P+t
2/2である。
【0038】
ここで、Δθ
1>Δθ
2の場合、つまり曲げ外側のブランクB1の角度変化が曲げ内側のブランクB2より大きい場合、成形品の間に隙間が生じ、後の接合工程での接合不良となってしまう。これに対し、Δθ
1≦Δθ
2の場合、つまり曲げ外側のブランクB1の角度変化が曲げ内側のブランクB2より小さいかそれと同程度である場合、ブランク同士は密着した状態となる。この状態となるための条件は上記の式(4)および式(5)より、
となる。この条件を満たすブランクB1,B2の板組みを選定することで、形状品質が優れ、後の工程での接合困難や接合不良の懸念がない自動車車体用重ね合わせ構造部材が得られる。
【0039】
<実施例>
本実施形態の自動車車体用重ね合わせ構造部材およびその製造方法の作用効果を確認するために行った実施例および比較例について、以下に説明する。
図8(a),
図8(b)および
図8(c)は、本実施形態の実施例の製造方法およびそれとブランクの板組みのみが異なる比較例の製造方法でそれぞれ製造した本実施形態の自動車車体用重ね合わせ構造部材の実施例および比較例の斜視図、断面図および平面図である。本体部品1はハット状断面を有し、天板部1a、縦壁部1b、フランジ部1c、およびこれらを繋ぐ稜線部1dからなる。補強部品2は本体部品1の内側に重ね合わせて配置され、本実施例および比較例ではコの字断面を有し、天板部2aと縦壁部2b、およびこれらを繋ぐ稜線部2dからなる。
【0040】
本体部品1と補強部品2とは接合部5で抵抗スポット溶接により接合され、接合部5は天板部1a,2aと縦壁部1b,2bとに配置している。接合部5の長手方向間隔は40mmピッチとした。本体部品1になるブランク3と補強部品2になるブランク4とに用いた鋼板の材料は、引張強度の強度グレードを590MPa級、780MPa級、980MPa級、1180MPa級、および1470MPa級の5水準、板厚を1.0mm、1.2mm、1.4mm、1.6mm、1.8mm、および2.0mmの6水準とした。
【0041】
図9(a),
図9(b)および
図9(c)は、上記実施例および比較例の自動車車体用重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で二枚の鋼板から冷間プレス成形する手順並びに、その冷間プレス成形中の二枚の鋼板およびプレス金型の一部断面を拡大して示す断面図である。また
図10は、上記実施例および比較例の自動車車体用重ね合わせ構造部材の衝突性能を確認する試験方法を示す説明図である。
【0042】
まず、
図10に示すように、
図8(a)~(c)に示す上記実施例および比較例の自動車車体用重ね合わせ構造部材と同一の形状および寸法の試験体T(各部を本体部品1におけると同一の符号で示す)を通常のコンピュータ上で作成し、その試験体Tについて、両端部付近の二箇所を支持部Sで下から支持するとともに中央部をパンチP
Tで押し下げる3点曲げのシミュレーションを上記コンピュータ上で実施した。そして、目標の衝突性能(パンチ反力)となる強度グレードと板厚の組み合わせすなわち板組みを全12通り選定した。
【0043】
次いで、その選定した板組みにより、
図9に示す工程で上記実施例および比較例の自動車車体用重ね合わせ構造部材を製造した。すなわち、まず、ブランク3とブランク4とを準備して互いに重ね合わせ、それらの幅方向中央部を抵抗スポット溶接の接合部5で仮溶接した接合ブランクを作成した。続いて、この接合ブランクから、
図9(a)および
図9(b)に示すようにプレス成形金型で、主に曲げ成形により重ね合わせた状態の本体部品1と補強部品2とを一体で冷間プレス成形した。
【0044】
その際、
図9(a)に示すように、プレス成形中のブランク3,4を安定させるためにそれらの幅方向中央部をパッドPDとパンチPとで挟持して固定し、次いで
図9(b)に示すように、ダイDを下降させてブランク3,4をパンチPとで挟圧することにより、天板部1a、縦壁部1bおよびフランジ部1cと、天板部2aおよび縦壁部2bとを成形した。ここで、二枚の鋼板およびプレス金型の一部断面Sを
図9(c)に示すように、本体部品1および補強部品2の稜線部1d,2dの、パンチPの肩部S
Pによる曲げ半径は7mm(R7)、縦壁部1b,2bの曲げ成形角度は80°とした。そしてこのプレス成形後に、スプリングバックした縦壁部1bおよび縦壁部2bを抵抗スポット溶接の接合部5で互いに接合した。
【0045】
このプレス成形後の成形品である自動車車体用重ね合わせ構造部材について、上述した式(6)を満足する板組み条件のものを本実施例、満足しない板組み条件のものを比較例とし、その縦壁部1bおよび縦壁部2bの相互間に生じる乖離の有無を評価した。なお、式(6)のヤング率Eは5種類の強度グレードの全てについて205GPaとした。以下の表1に各板組み条件における評価結果を示す。比較例1~6では、本体部品1の稜線部1dの角度変化が補強部品2の稜線部2dの角度変化より大きくなり、縦壁部1b,2bの間に乖離が生じた。一方、本実施例1~6では、本体部品1と補強部品2との間に乖離は生じなかった。
【0046】
【0047】
上述のように本実施形態によれば、成形中の接合部の破断を抑制し、かつ部品同士の密着性に優れた自動車車体用重ね合わせ構造部材を得ることができることが判明した。それゆえ本実施形態の自動車車体用重ね合わせ構造部材は、フロントピラー、センタピラー、フロアクロスメンバなどの超高強度材からなる耐衝突部品の冷間プレス成形に好適に適用することができる。
【0048】
本発明が適用可能な自動車車体用重ね合わせ構造部材の他の実施形態としては、
図11に示すように、本体部品1と補強部品2とが共にコ字状断面を有する形状であってもよいし、
図12に示すように、補強部品2がL字状断面を有する形状であってもよい。さらに、
図13に示すように、本体部品1の外側に補強部品2が配置されていてもよい。
【0049】
さらに、本発明に使用するブランクの材料としては、鋼板のみならず、例えば、アルミニウム合金板、マグネシウム合金板、チタン合金板などの金属板が挙げられる。また、本発明に使用するブランクの強度においても、自動車車体用重ね合わせ構造部材に適するものであれば特に制限はない。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の自動車車体用重ね合わせ構造部材およびその製造方法は、上記の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであり、例えば、前記第1の部品および前記第2の部品は共に、全体的に円弧状などの曲線状をなす断面形状を有するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
かくして本発明の自動車車体用重ね合わせ構造部材およびその製造方法によれば、各々金属板からなるブランクから冷間プレス成形した二つの部品を互いに重ね合わせた状態で互いに接合してなる重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、成形中のブランク同士の接合部の破断を防止することができる。また、その重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、成形した部品同士のスプリングバックした部分の密着性を改善してその部分の接合部の強度低下を防止することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 本体部品
1a 天板部
1b 縦壁部
1c フランジ部
1d 稜線部
2 補強部品
2a 天板部
2b 縦壁部
2d 稜線部
3,4 ブランク
5 接合部
6 電極
B,B1,B2 ブランク
D ダイ
PD パッド
P パンチ
PT パンチ
S 支持部
SP パンチ肩部
T 試験体
t1,t2 板厚