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特開2024-113896フィギア用和服衣装、和服着付けフィギア及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113896
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】フィギア用和服衣装、和服着付けフィギア及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A63H 3/52 20220101AFI20240816BHJP
   A63H 3/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A63H3/52 A
A63H3/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019165
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】596136774
【氏名又は名称】株式会社 吉徳
(71)【出願人】
【識別番号】307010096
【氏名又は名称】フリュー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 ▲徳▼兵▲衛▼
(72)【発明者】
【氏名】羽原 良彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 壮
【テーマコード(参考)】
2C150
【Fターム(参考)】
2C150BC03
2C150CA18
2C150FD09
2C150FD31
(57)【要約】
【課題】
フィギアに着せ付けること故に生じる問題、例えば、ポージングを採るフィギアであっても、綺麗な着物柄を演出することのできるフィギア用和服衣装及び和服着付けフィギアを提供することを課題とする。
【解決手段】
通常の着物の型の如き矩形状には限定されずに、任意の固定されたポージングに対応した有意形状の型に対して、繋ぎ文様のみによらない任意の柄が着色されている
ことを特徴とするフィギア用和服衣装により、上記課題を解決した。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常の着物の型の如き矩形状には限定されずに、任意の固定されたポージングに対応した有意形状の型に対して、繋ぎ文様のみによらない任意の柄が着色されている
ことを特徴とするフィギア用和服衣装。
【請求項2】
前記有意形状の型は、縫製代を有するものであり、
前記任意の柄は、縫製代の部分で縫い合わされた際に、連続した模様となる
ことを特徴とする請求項1に記載のフィギア用和服衣装。
【請求項3】
前記任意の柄は、和服の身頃から袖まで連続する大柄の模様である絵羽である
ことを特徴とする請求項1に記載のフィギア用和服衣装。
【請求項4】
前記着色は、印刷により施されている
ことを特徴とする請求項1に記載のフィギア用和服衣装。
【請求項5】
前記着色は、染めにより施されている
ことを特徴とする請求項1に記載のフィギア用和服衣装。
【請求項6】
固定されたポージングを有し、かつ、請求項1~5の何れか一に記載のフィギア用和服衣装が着付けられた和服着付けフィギア。
【請求項7】
固定されたポージングを取り、任意の柄が着色された和服を着ているキャラクターの原画を用意する工程、
前記原画の和服の任意の柄の模様を抽出する工程、
前記抽出された模様を、任意の固定されたポージングに対応した有意形状の型に対応した領域に配置し、画像データとして記憶する工程、
前記記憶された画像データに基づいて、型にプリンタ印刷を施す工程、
を少なくとも含む
ことを特徴とするフィギア用和服衣装の製造方法。
【請求項8】
印刷された型に対応させた、染め用の型を作成する工程、
前記型を用いて染を行う工程、
をさらに含む請求項7に記載のフィギア用和服衣装の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のフィギア用和服衣装の製造方法により製造されたフィギア用和服衣装の複数のパーツを縫い止めにより固定を行う一方で、フィギア本体部に対しては、生地を傷めず剥がすことが可能な接着剤により固定して着せ付ける着せ付け工程、を有する
ことを特徴とする和服着付けフィギアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィギア用和服衣装、和服着付けフィギア及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
観賞用に製作される人形としてのフィギアが知られている。フィギアは様々なポージングを取るものであるが、ポージング自体の造形美も鑑賞の対象になるため、その形状は固定されているのが一般的であるし、固定されたポージングは観賞用として優れたものといえる。また、当然にフィギアが身に着けている衣装も鑑賞の対象になる。衣装は、人形本体と一体のものとして成型されるか、人形が身に着ける衣装を人形本体とは別途に成型する態様のものであっても、人形本体を成型するための樹脂と同じ樹脂で製造されることが一般的である。そうした中、人形本体を成型するための樹脂と異なる性質の樹脂を用いて衣装を製造する例もある。
【0003】
例えば、特許文献1には、人形本体を成型するための樹脂とは異なる性質の樹脂を用いて人形が身に着ける衣装を成型することによって、薄手の着衣が身体に密着したような軽快な装いのフィギアを製造することを可能とした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4946533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、昨今の高級志向により、美しいフィギアを高級な衣装で着飾らせた造形美の高いフィギアが欲しいという要求も存在する。このことに関し、高級な鑑賞用の人形というものとしては、和服が着付けられた伝統的な日本人形が知られている。日本人形は人形の身体の一部と衣装とが組み合わされることによって人形としての完成形が得られるものであって、そもそも、胴体部は人形としての形状を有するものでなく、衣装の下に藁胴や木胴、或いは、図15に示されるように、発泡スチロール等が配置されるものである。したがって、フィギアを着飾らせてリアリティのある鑑賞用人形を提供するということとは相容れない。このため、日本人形の制作技術が、フィギアへ和服を着付けさせようという発想に結び付くことはなかった。しかし、本発明者らは、その固定観念を打ち破って、従来の日本人形の製造方法では克服できない新たな製造方法を案出し、和服が着付けられたフィギアという全く新しい発想のフィギアを提供するに至り、和服着付けフィギアという新規な技術分野におけるフロントランナーとなった。
【0006】
高級な衣装で着飾らせた造形美の高いフィギアという観点からは、衣装たる和服の柄や文様も非常に重要となる。着物の柄として、七宝柄、卍繋ぎ、亀甲柄といった幾何学文様を繰り返し繋げた伝統文様や、任意の柄を型で繰り返すように染めた、型友禅といった見栄えの良いものがある。また、「繋ぎ文様」によることなく、自然の風景、花、鳥といったおめでたい柄としての任意の柄が描かれる場合がある。造形美の高いフィギアに対しては、後者の任意の柄が適しているといえる。さらに、縫い目をまたいでも柄が途切れず、一枚の絵のように見えるよう柄が描かれている「絵羽」という工夫を凝らした模様もあり、高級感をより演出することが可能であるため、これを採用したいという要求は高い。
【0007】
しかし、先駆者たる本発明者らは、新規技術分野ならではの新たな課題があることを発見した。日本人形は静かで優美な立ち居振舞いでの立位又は座位での固定形状とされ、躍動的なポージングをすることはまずない。このため、人形に着せ付けられる和服衣装は、垂下された状態で、着物の柄が一番見栄え良くなるデザインとなっている。ちなみに、このことは、実際の人が着る着物であっても同様である。ところが、フィギアの場合には、大きな動きのあるポージングを取る場合が当然にあり、例えば、両手を大きく広げる、左右の腕の動きが異なる動きとなる、といった状況が普通に生じえる。しかし、ポージングにあった綺麗な着物柄が演出されるようにすることは困難であった。また、別の問題も生じた。従来、例えば、市販の友禅生地(総柄)から必要な型を抜き取って、フィギア用の和服製作用の裁断片を得るためには、市販の生地が一定サイズごとで一柄となるため、欲しい柄が限られ、生地に無駄が生じる事態が頻出した。さらに、各裁断片を縫製するためにはどうしても縫い代が必要で、従来の総柄の友禅生地では、縫い代にも当然柄が入り、その結果、縫い代同士を繋げた衣装は、縫製ライン間で、元々あったはずの柄とズレてしまうという問題にも直面した。
【0008】
そこで、本発明は、フィギアに着せ付けること故に生じる問題、例えば、ポージングを採るフィギアであっても、綺麗な着物柄を演出することのできるフィギア用和服衣装、和服着付けフィギア及びそれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の和服着付けフィギア用和服衣装は、少なくとも以下の構成を具備するものである。
通常の着物の型の如き矩形状には限定されずに、任意の固定されたポージングに対応した有意形状の型に対して、繋ぎ文様のみによらない任意の柄が着色されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の和服着付けフィギアは、少なくとも以下の構成を具備するものである。
固定されたポージングを有し、かつ、通常の着物の型の如き矩形状には限定されずに、任意の固定されたポージングに対応した有意形状の型に対して、繋ぎ文様のみによらない任意の柄が着色されているフィギア用和服衣装が着付けられた和服着付けフィギアである。
【0011】
また、本発明のフィギア用和服衣装の製造方法は、少なくとも以下の構成を具備するものである。
固定されたポージングを取り、任意の柄が着色された和服を着ているキャラクターの原画を用意する工程、前記原画の和服の任意の柄の模様を抽出する工程、前記抽出された模様を、任意の固定されたポージングに対応した有意形状の型に対応した領域に配置し、画像データとして記憶する工程、前記記憶された画像データに基づいて、生地や紙にプリンタ印刷を施す工程、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の和服着付けフィギアの製造方法は、少なくとも以下の構成を具備するものである。
固定されたポージングを取り、任意の柄が着色された和服を着ているキャラクターの原画を用意する工程、前記原画の和服の任意の柄の模様を抽出する工程、前記抽出された模様を、任意の固定されたポージングに対応した有意形状の型に対応した領域に配置し、画像データとして記憶する工程、前記記憶された画像データに基づいて、生地や紙にプリンタ印刷を施す工程により、フィギア用和服衣装を製造し、該製造されたフィギア用和服衣装の複数のパーツを縫い止めにより固定を行う一方で、フィギア本体部に対しては、生地を傷めず剥がすことが可能な接着剤により固定して着せ付ける着せ付け工程、を有することを特徴とする和服着付けフィギアの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る和服着付けフィギアの斜視図である。
図2】固定されたポージングを有する裸体のフィギア本体部を示す図である。
図3】デザイナーから与えられる完成図イメージを捉えるためのイラスト図である。
図4】形状が確定された型の一部を示す図である。
図5】型に画像データが嵌め込まれた様子を示す図である。
図6】画像データが嵌め込まれた型の一例を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る和服着付けフィギアを示す図である。
図8】ホットメルト接着剤を用いて、衣装着せ付けを行う様子を示す図である。
図9】フィギア本体に衣装の一部が貼り付けられた様子を示す図である。
図10】ホットメルト接着剤を用いて衣装同士を固定する日本人形を示す図である。
図11】縫い止めを用いて衣装同士を固定する本発明の実施形態を示す図である。
図12】綿を衣装部に縫製させておく本発明の実施形態を示す図である。
図13】着脱式パーツと着付けとの関係を示す工程図である。
図14】足首部と台座を示す図である。
図15】日本人形の胴体部と着付けの様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る和服着付けフィギアの製造方法は、固定されたポージングを取り、任意の柄が着色された和服を着ているキャラクターの原画を用意する工程、前記原画の和服の任意の柄の模様を抽出する工程、前記抽出された模様を、任意の固定されたポージングに対応した有意形状の型に対応した領域に配置し、画像データとして記憶する工程、前記記憶された画像データに基づいて、生地や紙にプリンタ印刷を施す工程により、フィギア用和服衣装を製造し、該製造されたフィギア用和服衣装の複数のパーツを縫い止めにより固定を行う一方で、フィギア本体部に対しては、生地を傷めず剥がすことが可能な接着剤により固定して着せ付ける着せ付け工程、を有することを特徴とするものである。
【0015】
以下、本発明の実施形態、特に製造工程についての実施形態を、図面を用いて説明するが、以下の図面は説明を目的に作成された概念図であって、実施されるそのままの態様を必ずしも示しているものではないことに留意する必要がある。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1の全体を示す斜視図である。裸体のフィギア本体部2に和服3が着せ付けられている。重ね袿姿で、右半身部分の一単を外した状態で、左半身側には和傘4を斜めに掲げるように両手を開いた状態での固定ポージングを取っており、優雅な立ち居振舞いが演出されている。この状態だけで、従来の日本人形とフィギアの発想を単に融合させたというようなものでなく、日本人形ともフィギアとも峻別されることが理解可能である。何故ならば、日本人形は衣装の下に人形の体裁を十分に維持した胴体が納められているものではないし、逆に、フィギアの衣装はフィギア本体と略同じ素材を用いて製作されているからである。本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1は、基礎となるフィギア本体部2及び和服3の組み合わせについての特徴的構造と製造方法としての特徴的な手法をもって、初めて実現可能となったものである。本発明の実施形態の特徴(和服衣装の図柄の構成のされ方についての特徴、フィギアと衣装の構造)について、和服着付けフィギアの製造方法の各工程について詳述することで説明する。
【0017】
(フィギア製造工程)
本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1のフィギア製造工程を説明する。和服着付けフィギアであっても、通常のフィギアの製作と同様に、完成図のイメージを捉えることが重要であることに変わりはない。したがって、デザイナーから与えられたイラストに基づき、例えば、3Dプリンタを用いて試作品のフィギアを作成することになる(ただし、フィギアの形状が確定した後の大量生産時には、金型にフィギアを成型するABS樹脂等を注入して、フィギアが製造されることになる。)。
【0018】
図2は、固定されたポージングを有する裸体のフィギア本体部2であって、既知となる所定の製造方法によって製造されたものである。また、図2には示されていないが、肘関節よりも上の部分で分断されている上腕部の一部22、足袋を履いた足首部23、頭部21等のフィギアの各パーツについても別途、金型を用いて製造する。その後、本体部とそれ以外のパーツには、必要に応じて着色が施される。
【0019】
(和服衣装の製造工程)
先述したように、和服着付けフィギアであっても、完成図のイメージを捉えることが重要で、このことは、フィギア本体部だけでなく、フィギアに着せ付けられる衣装についても当て嵌まる。そのようなことから、和服着付けフィギアという新規技術分野においては、デザイナーから与えられるイラストには、ポージングと共に、着物の図柄も詳細に描かれたイラストが与えられる。図3は、このことを説明するために用意された図である。すなわち、デザイナーから与えられる完成図イメージを捉えるためのイラストを、抽象化したものであり、着物の図柄の位置関係などを大小の円、矩形、三角形で表している。特に、右袖部分A、左袖部分B、襟部分Cには、後述する型へのパターン配置のさせ方を説明する上で、重点的に、図形が描かれている。ここで、左袖部分Bの円や矩形に着目すると、よく分かるように、和服の身頃から袖まで連続する大柄の模様である絵羽となっている。
【0020】
イラストを基に3Dプリンタを用いて試作したフィギアに対して、型を製作するために、太番手の糸で粗めに織られているシーチング生地を用いて、試しとしてのフィギアへの着付けを行う。フィギアは、ポージングにより、左右の手の動きが異なっていたりするので、両袖の型の形状が異なるようなことは当然に起こり得る。試しとしての着付けを何度か繰り返して、型の形状を確定させる。ただし、シーチング生地を用いることは必須ではなく、ジャガード織物や縮緬を用いても良いし、本番の製作で使用する生地と同じ材質のものを用いても良い。
【0021】
図4は、このようにして確定された型の例である。ただし、説明のため、図に示されているのは、右袖部分A、左袖部分Bだけである。イラストに基づいて試作されたフィギアでは左右の腕の振り上げ方が異なっており、シーチング生地を用いた試しの着付けを何度か繰り返して、図4に示されるように、右袖部分A、左袖部分B、それぞれの形状が決定されている。普通の着物生地であれば、着丈、裄丈、袖丈、袖幅など、体型に合わせて採寸し、切断するものの、基本的には直線断ちである。ところが、ポージングされたフィギアに着付けるには、直線断ちの生地ではなく、ポーズに合わせて着物図柄が綺麗に見える形状とされている方が有利である。デフォルメポーズの方が、見栄えが良くなるというフィギアの発想そのものからの技術思想である。したがって、図4の左袖部分Bのように、略直角に曲げられた袖形状というものも採用されることになる。この他、図6に示されるように、身頃の腰回りより下の部分も完全な直線断ちとはされていない。このように、本発明の実施形態の型は、ポージングに対応した有意形状の型となっている。
【0022】
型の形状が確定すると、イラストと同じイメージとなるように、型に任意の柄を落とし込む。具体的には、画像処理システムを用いて作業が行われるところ、型の適宜位置に絵羽の画像データが載せられることになる。図5は、このことを説明する図であり、右袖部分A、左袖部分B、襟部分Cに大小の円、矩形、三角形で示された画像データが嵌め込まれている。そして、左袖部分Bの円形を見れば理解されるように、身頃へと続く絵羽付けが施されている。
【0023】
型は、例えば、袖についていえば、前側部分と後側部分とが合わされて縫製されることになるが、型に落とし込まれた任意の柄は縫製代を考慮して、縫製された際に、パターンが連続されたものとなるように配置される。従来の着物生地、例えば、友禅生地の場合、一定サイズごとで一つの柄となるため、欲しい柄が限られ、生地に無駄が生じることが多かった。また、絵羽となるように縫製する際には、縫製代による位置のズレを調整して裁断・縫製を行う必要があるため、作業に高度な技術力が要求される上、生地に大量のロスが生じることになり、現実的には量産が不可能であった。本実施形態では、縫製代を考慮して、パターンが連続されるように任意の柄が配置されているので、普通に縫製するだけで、任意の柄が綺麗に描かれた着物生地が得られることになる。
【0024】
このように、絵羽付けや縫製代を考慮した、任意の柄が型紙に対して決定されるのであるが、これは仮決定である。画像データに基づいて、インクジェットプリンターを用いて、生地に着色を行う。その後、得られた着物をフィギアに着付けさせて、実際に着付けた絵羽の位置が合っているかを確認する。位置がずれていれば、データ位置を適宜シフトする等して、合うように調整する。
【0025】
このようにして、インクジェットプリンターでの着色に問題ないことが確認された後には、当該着色された型から、友禅の型彫りを行い、実際に用いる友禅染の生地を製作する。
【0026】
図6は、袖部分や襟部分以外に身頃部分なども示された、画像データが嵌め込まれた型の一例を示す図である。従来の着物生地、例えば、友禅生地の場合、一定サイズごとで一つの柄となるため、欲しい柄が限られ、生地に無駄が生じることが多かった。しかし、本実施形態では、総柄の中から特定の柄を得る従来技術とは異なり、図6に示されるように、型の形状に合わせて、任意の柄を落とし込むようにしているので、生地に無駄が生じないことになる。そして、この任意の柄は、フィギアのポージングに合わせて、見栄えが良くなる絵羽付けとなっている。
【0027】
和服衣装の製造が完了した後には、着付け工程やパーツ取付工程といったフィギア製造の終盤工程へ進むこととなるが、本発明の実施形態に係る和服着付けフィギアの製造方法により描かれる優美な模様、特に、絵羽付けによる模様の優美さ、高級感を示すために、説明のために描かれる模様でなく、本物の絵羽付けの模様を示しておく。図7は、本発明の実施形態に係る和服着付けフィギアの製造方法により着色製造された振袖を着せ付けられたフィギアである。図から、理解されるように、全身絵羽付けの模様とされ、高級感が演出されている。
【0028】
(着せ付け工程)
次に、本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1の着せ付け工程について説明する。既に述べたように、従来からある日本人形は、発泡スチロールといった簡易的な構造の代替物によって人形の本体部(胴体部)が形成されていた。そして、図15に示されるように、二の腕部分は針金に発泡ウレタンを巻き付け、頭部は石膏をガムテープ等で貼り付けるようにされている。また、衣装部分は主として釘の打ち込みにより着せ付けられるようにされている。
【0029】
一方、本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1では、人形を構成する主体はABS樹脂等で成型されたフィギア素材であり、このようなフィギア素材は人間らしい自然なボディーラインを表現できる点で優れている。しかし、このフィギア素材に釘を打ち込むことはできないし、仮に、袋状の衣装等を用意して、このフィギア素材に何ら工夫することなく、衣装を被せるようにしたのでは、ボディーラインとの間に無用な空間が生じることになり、フィギア素材の持つ折角の綺麗なボディーラインが台無しとなる。そこで、本発明の実施形態では、衣装の着せ付けに際して、生地を傷めず剥がすことが可能な接着剤としてのホットメルト接着剤を用いることとしている。図8は、フィギア本体部2の後側である臀部の部分にホットメルト接着剤で着物を接着した後に、フィギア本体部2の前側である大腿部にホットメルト接着剤をグルーガンで塗布しようとしている状況を示している。ホットメルト接着剤が塗布された後は、図9が示すように、着物の下部分が着せ付けられた状態となる。なお、図9では、フィギア本体部2の上半身にも肌襦袢がホットメルト接着剤で貼り付けられている状態となっている。また、図9からは、フィギア本体部2の形状が、肘関節よりも上の上腕部の途中までとされている様子を見ることができる。この後の着付け作業の障害となるために、図8では嵌め付けられていた上腕部の一部22が、図9では取り外されていることを理解することができる。一方、従来に日本人形へ衣装を着つける際に、ホットメルト接着剤を使用することはできない。これは、本体の発泡ウレタンが高温のホットメルト接着剤によって溶けてしまうためである。
【0030】
ホットメルト接着剤を使用する理由としては、体の曲線にフィットして衣装がシワにならない着せ付けを実現出来る、木工ボンド等に比べて乾きが早くて作業時間を短縮できる、接着剤が衣装に染み込まずに途中で剥がせる、貼り直しや位置の修正が容易である、という特長を有することが挙げられる。これらの特長を活かしつつ、塗布量や塗布面を極力抑えることによって、衣装の上から触れた時に、フィギュア自体が持つボディーラインや質感が伝わるようにすることができるし、見た目としても美しいラインを醸し出すことができる。ホットメルト接着剤の種類としては、スティック状、ペレット状、シート状の任意のものを用いることが可能であるが、作業性の面では、グルーガンを使用してのスティック状を用いることが有利である。また、ホットメルト接着剤でなくとも、弱粘着性のスプレー接着剤でも代替可能である。
【0031】
従来の日本人形では、袖の垂れ具合や裾のシワの付き具合を美しく見せるための形状を維持するために、実は、図10に示されるように、ホットメルト接着剤を用いて衣装同士を固定している。日本人形はガラスケースに収められていたり、そうでなくても、展示箇所に固定配置されていたりして、人形を手に取って触れるということが想定されていない。このため、ホットメルトが使用されているのであるが、当然に引っ張った際の強度、および長期間の形状維持に不安を抱えることになる。一方、本発明の実施形態のフィギアは完成された後、手に取って鑑賞されることに耐えうるものでなければならない。また、外気に晒される機会も、伝統的な日本人形に比べて頻発されることが想定され、長期間外気に晒されることで接着剤が経年劣化し、接着の剥がれが懸念される。そこで、本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1では、フィギアへの衣装の取り付けにホットメルト接着剤を用いる一方で、衣装同士の固定は、図11に示されるように、縫い止めの手法を採用している。衣装同士の形状を整え、形が崩れないようにするためである。これにより、長期間の鑑賞に耐え得る作りを実現することが可能となった。
【0032】
本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1では、衣装形状の艶やかさをみせるために、さらなる工夫もされている。日本人形は、顔周りを美しく見せるため、衣装の内側に綿を入れ、シワを出さないように張りを持たせてシルエットを維持するのが普通である。そのやり方としては、各着せ付けの工程の際に後入れで綿を詰めるようにされる。本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1では、腕部周辺に綿を詰めた方がシルエットが美しくなるとの判断の下で綿入れを採用している。しかし、後述するパーツ取付工程において、着脱式の上腕部の一部22がフィギア本体部2に取り付けられることになるため、日本人形の製作のように綿を後詰めにしてしまうと、その着脱の際に、周辺の綿が袖の下に落ちてしまうことが懸念された。そこで、本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1では、図12に示されるように、肩口から二の腕にかけての部分周辺を中心に、先に綿を衣装に縫製させておくことで、着脱させても綿の落下を防ぐようにした。これにより、思わぬ副次的な効果も生じた。従来の日本人形の製作では、各着せ付けの工程の際、後入れで綿を詰めているため、形状の差異としての個体差が出やすいものであったが、本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1の製作では、衣装への綿入れ工程を行った後に本体に着せ付けるようにしたことから、形状についての個体差が生じにくいものとなった。さらには、先に綿を衣装に縫製させておくことから、個体差をより小さくできる。
【0033】
(パーツ取付工程)
玩具としての着せ替え人形が本願発明と比較されるべきものでないことは、これまでの説明から明らかであると思われるが、念のため、着せ替え人形についても少し述べておくと、着せ替え人形の類は、衣装自体が面ファスナ等で貼剥がし出来る構造や、人形に関節部を具備させて上下肢体部を可動構造とすることによって、着せ替えを可能としている。本発明は、そもそも着せ替え人形ではないので、対比する必要もないが、着衣工程のみに着目すると、着せ替え人形では、衣装か人形の少なくとも一方の可動範囲を大きくすることで、着衣が実現されている。本発明では、フィギアが固定ポーズを取ること、また、着衣される衣装が和服であることから、着せ替え人形で採用されている技術を転用することはできない。一方で、日本人形では、先に述べたように、二の腕部分は針金に発泡ウレタンを巻き付けて可動できるようにされているのが普通であるため、ある意味、着せ替え人形と共通した特徴を有するものともいえる。しかし、本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1は可動部分を持たないため、着せ替え人形や日本人形のような手法を採用することはできない。加えて、本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1は、腕に角度を付けたポージングを取っているため、腕周りのスペースが不足して衣装がだぶついたり、そもそも帯部分を着せ付けるためのスペースが無くなったりしてしまう。本来であれば、着せ付けの難易度は著しく高く、このようなポージングに対して着せ付けを行うこと自体が不可能の筈であった。そこで、関節部と関連付けされない箇所で分断されている上腕部の一部22を着脱式としたことで、先に当該パーツを外した状態で袖を通して、後で当該パーツを取り付けるという事を可能とし、着せ付け自体を容易なものとして、ポージングの制限を大幅に緩和することを可能とした。
【0034】
この点につき、図13を用いて詳述する。まず、腕に袖を通すのであるが、この段階で、着脱式でなければ袖を通す空間に対して、腕の長さが長過ぎて、袖を通すことができないという問題がある。次の段階でも、着脱式にして角度とスペースに余裕を作っておかなければ、そもそも帯部分が着せ付けられないという問題が生じてしまう。胴体には二の腕と上腕部の根本しか接続されていないことによって、これらの問題を解決している。このようにして、一通りの着せ付けが終わってから、上腕部の一部22を取り付けて形を整えるのである。肢体の分断箇所は、衣装によって隠れる範囲に限定すると、フィギアの組み立て完成時に分断箇所が見られないという効果を得ることができる。
本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1は和傘4を持つために、両手を開き、肘で曲げられた先の部分で、上腕部が分断されることが半ば必然である。しかし、上腕と二の腕が真直ぐなポーズであれば(それが魅惑的であるかは別として)、肘部分で分断されることが可能であることは言うまでもない。要するに、本発明が意図するところは、分断箇所を関節部の位置とすることを必ずしも要しないという意味であり、分断箇所が偶々、関節部と一致する態様を排除するものではない。ただし、分断箇所を肩口とする手法を採用した場合には、輸送時の衝撃等で接合部が外れてしまった際に、復旧させるのが困難であるし、衣装の形状自体が崩れる恐れもあるため、適当ではない。しかし、この手法であったとしても、治具を用いる等して解決できるのであれば、本発明の思想から排除されるものではない。
【0035】
上腕部の一部22以外に、頭部21と足首部23も着脱式にされている。そして、フィギア本体部2と足首部23の着脱だけでなく、足首部23と台座の着脱も可能とされている。図14は、台座に足首部23が嵌めこまれている様子を示す図である。これらのパーツも着せ付けの容易化に寄与するものである。特に、頭部については、髪の毛が長い造形の場合には、首周りのスペースが不足し着せ付けが困難になる問題を着脱式にすることで解消することを実現する。フィギアの場合は、人形の髪の毛も柔軟性の低いプラスチック素材で成形されることが多いため、髪の毛を避けて着せ付けを行うことができる従来の日本人形に比べて、このような課題が顕在化しやすい。このように、各種パーツを着脱式とすることで、次のような副次的な効果も発現される。フィギュア各パーツと衣装の生産をそれぞれ並行して進めるが、着せ付けに必要なパーツ(胴体部、上腕部の一部)を優先して進め、他(頭部、足首から下)は着せ付けをしている最中に揃えるという形を取ることで、全体的な工期を圧縮出来る。不良品が出た場合に、個別のパーツを交換することで対応することが出来る。足首から下の部分を分割構造とすることで、輸送時の破損リスクを軽減できる。これらの効果も、本発明の特徴的な構造と製造方法によって達成されるものである。
【0036】
以上、本発明の実施形態に係る和服着付けフィギア1について、図面を参照して詳述し、フィギア及び衣装の製造工程、並びにフィギア及び衣装の特徴的構造について説明したが、具体的な構成は、これらの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、本実施形態は、高級な衣装で着飾らせた造形美の高いフィギアを提供するため、染のための型を用意し、それを用いて染められた生地を型で裁断して用いるのであるが、プリンターで裁断型ごと着色された生地を用いた、ある意味、廉価版のフィギアであっても本願発明の範囲に含まれるものである。また、前述の実施例は、その目的および構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 和服着付けフィギア
2 フィギア本体部
21 頭部
22 上腕部の一部
23 足首部
3 和服
4 和傘
A 右袖部分
B 左袖部分
C 襟部分
図1
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