(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011390
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】飽差制御装置
(51)【国際特許分類】
A01G 9/24 20060101AFI20240118BHJP
F24F 6/00 20060101ALI20240118BHJP
F24F 11/70 20180101ALI20240118BHJP
F24F 11/63 20180101ALI20240118BHJP
F24F 110/10 20180101ALN20240118BHJP
F24F 110/20 20180101ALN20240118BHJP
【FI】
A01G9/24 A
F24F6/00 E
F24F11/70
F24F11/63
F24F110:10
F24F110:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113333
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】舟久保 滋
(72)【発明者】
【氏名】壷井 智浩
(72)【発明者】
【氏名】寒川 史郎
【テーマコード(参考)】
2B029
3L055
3L260
【Fターム(参考)】
2B029TA01
3L055BB11
3L260AA15
3L260AB14
3L260BA06
3L260BA49
3L260CA12
3L260CA13
3L260EA08
3L260FA03
3L260FA06
3L260FB68
(57)【要約】
【課題】飽差を検出するセンサをより簡易で安価な温度センサで構成し、当該センサの特徴に対応した制御手法で飽差制御を行なう安価な飽差制御装置を提供する。
【解決手段】乾球熱電対TDの熱起電力と湿球熱電対TWの熱起電力の差である熱起電力差が、相対的に大きい第1の設定値より大きい場合と、相対的に小さい第2の設定値より小さい場合に、制御部3がミスト6にONまたはOFFの操作信号を出力して対象空間を加湿し、または加湿を停止する。乾球及び湿球に使用する熱電対は種々の温度センサのなかでも安価であり、2つの熱電対の熱起電力差を得るには、これらをシリアル接続して制御部に接続する単純な配線構造でよいため、低価格の飽差制御装置を実現することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間の飽差を制御するために加湿装置を操作する飽差制御装置であって、
乾球温度に対応した物理量を出力する乾球温度センサと、
湿球温度に対応した物理量を出力する湿球温度センサと、
前記乾球温度センサが出力した物理量と前記湿球温度センサが出力した物理量から取得した制御出力に基づいて、前記加湿装置を作動させる操作信号を出力する制御部と、
を具備することを特徴とする飽差制御装置。
【請求項2】
前記乾球温度センサは乾球熱電対であり、
前記湿球温度センサは湿球熱電対であり、
前記制御出力は、前記乾球熱電対の熱起電力と前記湿球熱電対の熱起電力の差である熱起電力差であることを特徴とする請求項1に記載の飽差制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記熱起電力差について定めた相対的に大きい第1の設定値と相対的に小さい第2の設定値を有しており、
前記熱起電力差が前記第1の設定値より大きい場合と、前記熱起電力差が前記第2の設定値より小さい場合に、前記操作信号を出力することを特徴とする請求項2に記載の飽差制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記熱起電力差と乾球温度と飽差の関係において、目標飽差範囲と目標温度範囲が定められた場合において、前記目標温度範囲の全域において前記目標飽差範囲内の飽差が実現するような前記熱起電力差の値を選択し、これを前記設定値として用いることを特徴とする請求項3に記載の飽差制御装置。
【請求項5】
前記制御部には、前記対象空間が前記目標温度範囲内にあるときにのみ前記操作信号の出力を許容する切り換え手段が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の飽差制御装置。
【請求項6】
前記乾球温度センサは乾球測温抵抗体であり、
前記湿球温度センサは湿球測温抵抗体であり、
前記制御出力は、前記乾球測温抵抗体の電圧と前記湿球測温抵抗体の電圧の差である電圧差であることを特徴とする請求項1に記載の飽差制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象空間の飽差を植物の育成にとって好ましい値に制御するために加湿装置を操作する飽差制御装置に係り、特に簡易な構造で低価格の飽差制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、飽差制御装置の発明が開示されている。この飽差制御装置によれば、日射量と気温から季節パターンを決定し(
図3a)、現在飽差と設定飽差の差と、決定した季節パターンに基づいて閾値を決定し(
図3b,S2)、出力値が閾値を越えた場合にのみ、ミスト7を規定時間だけ操作して加湿することができる(S3,S4) 。そして、規定時間の加湿後、新たに取得した出力値に応じた時間だけミストを操作して加湿を追加で行なう(S5,S6) ので、これによって、現在飽差を季節に適合した態様(
図2)で精密に制御し、植物の光合成を適正に行なわせることができる。なお、この項で説明に使用した符号及び図番は、前記特許文献1において使用されているものをそのまま用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来よりも低コストで製造でき、しかも十分な精度で飽差制御を行なえる飽差制御装置が求められている当業界の事情に鑑みてなされたものであり、対象空間の飽差を検出するためのセンサをより簡易で安価なデバイスによって構成し、当該デバイスの特徴に対応した制御手法で飽差制御を行なう飽差制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載された飽差制御装置は、
対象空間の飽差を制御するために加湿装置を操作する飽差制御装置であって、
乾球温度に対応した物理量を出力する乾球温度センサと、
湿球温度に対応した物理量を出力する湿球温度センサと、
前記乾球温度センサが出力した物理量と前記湿球温度センサが出力した物理量から取得した制御出力に基づいて、前記加湿装置を作動させる操作信号を出力する制御部と、
を具備することを特徴としている。
【0006】
請求項2に記載された飽差制御装置は、請求項1に記載の飽差制御装置において、
前記乾球温度センサは乾球熱電対であり、
前記湿球温度センサは湿球熱電対であり、
前記制御出力は、前記乾球熱電対の熱起電力と前記湿球熱電対の熱起電力の差である熱起電力差であることを特徴としている。
【0007】
請求項3に記載された飽差制御装置は、請求項2に記載の飽差制御装置において、
前記制御部は、
前記熱起電力差について定めた相対的に大きい第1の設定値と相対的に小さい第2の設定値を有しており、
前記熱起電力差が前記第1の設定値より大きい場合と、前記熱起電力差が前記第2の設定値より小さい場合に、前記操作信号を出力することを特徴としている。
【0008】
請求項4に記載された飽差制御装置は、請求項3に記載の飽差制御装置において、
前記制御部は、
前記熱起電力差と乾球温度と飽差の関係において、目標飽差範囲と目標温度範囲が定められた場合において、前記目標温度範囲の全域において前記目標飽差範囲内の飽差が実現するような前記熱起電力差の値を選択し、これを前記設定値として用いることを特徴としている。
【0009】
請求項5に記載された飽差制御装置は、請求項4に記載の飽差制御装置において、
前記制御部には、前記対象空間が前記目標温度範囲内にあるときにのみ前記操作信号の出力を許容する切り換え手段が設けられていることを特徴としている。
【0010】
請求項6に記載された飽差制御装置は、請求項1に記載の飽差制御装置において、
前記乾球温度センサは乾球測温抵抗体であり、
前記湿球温度センサは湿球測温抵抗体であり、
前記制御出力は、前記乾球測温抵抗体の電圧と前記湿球測温抵抗体の電圧の差である電圧差であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載された飽差制御装置は、乾球温度センサと湿球温度センサを用いて対象空間の飽差に比例する制御出力を取得し、この制御出力に基づいて加湿装置の操作を行なうことで飽差を制御している。乾球温度センサと湿球温度センサとしては、種々の温度センサの中から安価なデバイスの選択が可能であり、両温度センサが出力する物理量の差を制御出力とすることから回路構成等も比較的簡易であるため、低価格の飽差制御装置を実現することができる。
【0012】
請求項2に記載された飽差制御装置によれば、乾球熱電対と湿球熱電対を用いて対象空間の飽差に比例する熱起電力差を取得し、この熱起電力差に基づいて加湿装置の操作を行なうことで飽差を制御している。乾球及び湿球に使用する熱電対は、種々の温度センサのなかでも特に安価であり、また2つの熱電対の熱起電力差を得るには、これらをシリアル接続して制御部に接続する単純な配線構造でよいため、低価格の飽差制御装置を実現することができる。
【0013】
請求項3に記載された飽差制御装置によれば、制御部は、上限値となる第1の設定値と、下限値となる第2の設定値を基準とし、第1の設定値よりも熱起電力差が大きい場合に加湿装置に操作信号(ON信号)を出力して対象空間を加湿し、第2の設定値よりも熱起電力差が小さい場合に加湿装置に操作信号(OFF信号)を出力して対象空間の加湿を停止させるため、対象空間の飽差を2つの設定値の熱起電力差に対応した好ましい値に保つことができる。
【0014】
請求項4に記載された飽差制御装置によれば、制御部は、植物の育成にとって好ましい温度範囲の全域において、植物の育成にとって好ましい飽差範囲内の飽差を実現することができる。
【0015】
請求項5に記載された飽差制御装置によれば、対象空間の温度が所定の温度範囲内にあるときには加湿装置を操作して必要な加湿を行えるが、対象空間の温度が所定の温度範囲から外れているときには加湿装置に対して操作信号を出力せず、無用な加湿を避けることができる。
【0016】
請求項6に記載された飽差制御装置によれば、乾球測温抵抗体と湿球測温抵抗体を用いて対象空間の飽差に比例する電圧差を取得し、この電圧差に基づいて加湿装置の操作を行なうことで飽差を制御している。乾球測温抵抗体と湿球測温抵抗体を制御部から離れた位置に設置する場合であっても、乾球測温抵抗体と湿球測温抵抗体を制御部に接続する導線には、補償導線などの特別な導線を使用する必要がないため、設置のコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態の飽差制御装置の全体構成図である。
【
図2】第1実施形態の飽差制御装置で得られる制御出力としての熱起電力差の値を、好ましい乾球温度(15~35[℃])と好ましい飽差(3~9[g/m
3 ])の15の組合せごとに計算して表形式で示した図である。
【
図3】
図2の表に示した数値を、異なる3つの飽差の値(3、6、9[g/m
3 ])ごとに、乾湿球熱起電力差(縦軸)と温度(横軸)の関係を示す3本の線として示したグラフであって、当該グラフ中に、所定の乾球温度(15~35[℃])において好ましい飽差(3~9[g/m
3 ])を実現することができる範囲を破線で示すとともに、当該範囲における乾湿球熱起電力差の上限値である起電力差設定値1と、下限値である起電力差設定値2を表示した図である。
【
図4】第1実施形態の飽差制御装置における制御手順の例(1)を示すフローチャートである。
【
図5】
図2の表に示した数値を、異なる3つの飽差の値(3、6、9[g/m
3 ])ごとに、乾湿球熱起電力差(縦軸)と温度(横軸)の関係を示す3本の線として示したグラフであって、当該グラフ中に、所定の乾球温度(15~35[℃])において好ましい飽差(3~9[g/m
3 ])を実現することができる範囲を破線で示すとともに、当該範囲における乾湿球熱起電力差の中央値を±αの幅を有する起電力差設定値として示した図である。
【
図6】第1実施形態の飽差制御装置における制御手順の例(2)を示すフローチャートである。
【
図7】第2実施形態の飽差制御装置において、乾球測温抵抗体と湿球測温抵抗体の電圧差を得るためのブリッジ回路を示す図である。
【
図8】気温[℃]と湿度[%]に対する飽差[g/m
3 ]を示す飽差表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1実施形態の飽差制御装置について、
図1~
図6及び
図8を参照して説明する。
まず、
図1を参照して、第1実施形態の飽差制御装置1の構成について説明する。
飽差制御装置1は、乾球温度センサとしての乾球熱電対TDと、湿球温度センサとしての湿球熱電対TWを備えたセンサ部2を有している。熱電対は、材料が異なる2本の金属線を接続した温度測定用の素子であり、2つの接点に温度差を与えると熱起電力が発生する現象(ゼーベック効果)を利用している。乾球熱電対TDは、2つの接点の一方である測温接点が乾いた状態に保持されており、また湿球熱電対TWは、2つの接点の一方である測温接点が湿った布で包まれる等、濡れた状態に保持されている。乾球熱電対TDと湿球熱電対TWは、直列(シリアル)に接続されており、乾球熱電対TDの熱起電力と湿球熱電対TWの熱起電力の熱起電力差が、乾球熱電対TD及び湿球熱電対TWの各測温接点と反対側にある金属線の端部間に出力されるようになっている。
【0019】
第1実施形態では、センサ部の熱電対として、JIS規格におけるT熱電対を採用したが、K熱電対、E熱電対を採用することもできる。測定したい温度範囲が常温程度や若干のマイナス温度であれば、精度が高く低コストのT熱電対が好ましいが、幅広い温度範囲を重視する場合は、熱起電力の直線性がT熱電対より若干良好であるK熱電対を選択してもよい。また、熱起電力の値(電圧)が大きい方がよい事情がある場合は、E熱電対を採用することもできる。
【0020】
飽差制御装置1は、前述したセンサ部2が接続された制御部3を有している。制御部3は、デジタル指示調節計4と操作スイッチ及びリレー5を有している。デジタル指示調節計4には、直列に接続された乾球熱電対TD及び湿球熱電対TWの各測温接点と反対側の端部が接続されている。デジタル指示調節計4は、センサ部2からの制御出力として熱起電力差を計測、取得し、この熱起電力差と、予め設定した基準値である設定値を比較し、後述する制御手法に従ってON/OFF信号を操作スイッチ及びリレー5に出力する。デジタル指示調節計4からON信号を受けた操作スイッチ及びリレー5は、操作信号としてのON信号を外部に出力し、対象空間内にある加湿装置としてのミスト6を操作して対象空間を加湿する。デジタル指示調節計4からの出力がOFF信号であるときは、操作スイッチ及びリレー5から出力される操作信号はOFF信号となり、ミスト6は操作されない。
【0021】
次に、
図2、
図3及び
図8を参照して、制御部3による飽差制御の基準値である前記設定値について説明する。
図8は飽差表である。飽差表には、上横列の各欄に表示された気温[℃]と、左縦列の各欄に表示された湿度[%]の交点ごとに、計算された飽差[g/m
3 ]が示されている。飽差表において、実線で囲われた領域が、一般的に植物(作物)の育成に最も適した飽差の値である3~6[g/m
3 ]の範囲とされているが、飽差の値を示す数字を斜体で表した破線で囲われた領域、すなわち飽差の値が6~9[g/m
3 ]の範囲でも良いとの見解もあり、第1実施形態では、これら2つの領域の飽差、すなわち3~9[g/m
3 ]を好ましい値とし、これら2つの領域の気温(すなわち乾球温度)である15~35[℃]を、ミスト6の制御を行なうべき気温と考えることとする。乾球温度は、対象空間(例えば温室)において計測された温度測定値のような制御装置の周辺の気温(環境温度)を用いてもよいので、制御部3における制御では、前記周辺の気温(環境温度)が15~35[℃]の範囲に入っていることを条件としてミスト6の制御が行なわれるようになっているが、そのための具体的な構成の詳細は実施形態の説明の最後で説明する。
【0022】
図2は、第1実施形態の飽差制御装置1で得られる制御出力としての熱起電力差の値を、制御を行なうべき乾球温度(15~35[℃])と好ましい飽差(3~9[g/m
3 ])の15の組合せごとに計算して表形式で示した図である。
【0023】
具体的には、飽差3[g/m3 ]、6[g/m3 ]、9[g/m3 ]の各値において、温度(気温すなわち乾球温度)が15[℃]、20[℃]、25[℃]、30[℃]、35[℃]の各値をとった場合に、センサ部2が出力する熱起電力差の値を計算する。
【0024】
例えば、飽差3[g/m
3 ]、温度が15[℃]の場合の計算手順を説明する。まず、JISZ8806に規定されている公式を用いて温度から飽和絶対湿度[g/m
3 ]を求め、これを飽差3[g/m
3 ]における相対湿度[g/m
3 ]に換算する。また、JISZ8806に規定されている乾湿計公式(スプルングの式)を用いて湿球温度[℃]を求め、さらに乾湿球の温度差[℃]を求める。そして、JISC1602に規定されている熱起電力表と近似式により、乾球熱電対TDの熱起電力[μV]と湿球熱電対TWの熱起電力[μV]を求め、さらにこれらの値から、乾球熱電対TDの熱起電力と湿球温度センサの熱起電力の差である熱起電力差[μV]を求める。以上の計算を、20[℃]、25[℃]、30[℃]、35[℃]の各温度についても行なう。そして、以上の計算を、6[g/m
3 ]、9[g/m
3 ]の各飽差についても行なう。これによって
図2の表に示した数値が得られる。
【0025】
図3は、
図2の表に示した数値を、乾湿球熱起電力差を縦軸とし、温度(すなわち乾球温度)を横軸とする座標系にプロットし、異なる3つの飽差の値(3、6、9[g/m
3 ])ごとに点を繋いで乾湿球熱起電力差と温度の関係を示す3本の線として示したグラフである。このグラフにおいて、好ましい乾球温度(15~35[℃])及び飽差(3~9[g/m
3 ])を実現することができる範囲を矩形の破線で示した。この範囲において、乾湿球熱起電力差の上限値である起電力差設定値1は150[μV]であり、下限値である起電力差設定値2は93[μV]である。従って、以下に説明するように、制御部3は、乾湿球熱起電力差について設けた2つの起電力差設定値1及び2を用いてミスト6を適宜操作することにより、飽差が好ましい範囲に入るように制御することができる。
【0026】
図4は、第1実施形態の飽差制御装置1における制御手順の例(1)を示すフローチャートである。
制御が開始されると(START)、センサ部2から送られる乾湿球熱起電力差が起電力差設定値1より大きいか否かが判断され(S1)、乾湿球熱起電力差が起電力差設定値1より小さければ(S1、NO)、対象空間は十分に湿っていると考えられるため、ミスト6に操作信号を出力することなく、適当な時間間隔をおいて起電力差設定値1による判断(S1)を繰り返す。
【0027】
起電力差設定値1を用いた判断(S1)において、乾湿球熱起電力差が起電力差設定値1より大きければ(S1、YES)、対象空間は乾燥していると考えられるため、デジタル指示調節計4は操作スイッチ及びリレー5にON信号を出力し、操作スイッチ及びリレー5はミスト6に出力所定時間ONの信号を出力して(S2)ミスト6を作動させ、対象空間を加湿する。なお、ミスト6による加湿は、操作スイッチ及びリレー5がミスト6に出力所定時間ONの信号を与えてから所定時間(例えば30秒)だけ継続し、その後に自動的に止まるものとする。
【0028】
次に、センサ部2から送られる乾湿球熱起電力差が起電力差設定値2未満か否かが判断され(S3)、未満ではない場合(S2、NO)、対象空間が十分に湿っているとは考えないものとし、デジタル指示調節計4は操作スイッチ及びリレー5にON信号を出力し、操作スイッチ及びリレー5はミスト6に出力所定時間ONの信号を与えて(S2)対象空間を加湿する。
【0029】
起電力差設定値2を用いた判断(S2)において、乾湿球熱起電力差が起電力差設定値2未満であれば(S3、YES)、対象空間は十分に湿っていると考えられるため、デジタル指示調節計4は操作スイッチ及びリレー5にOFF信号を出力し、操作スイッチ及びリレー5はミスト6に出力所定時間OFFの信号を与え(S4)、ミスト6は、所定時間は作動することなく、制御は設定値1を用いた判断(S1)に戻る。
【0030】
次に、第1実施形態の飽差制御装置1における制御手順の例(2)を説明する。
図5は、
図3と同様の図であり、好ましい乾球温度(15~35[℃])と飽差(3~9[g/m
3 ])を実現することができる範囲がグラフ中に矩形の破線で示されている。ここで、制御の基準となる例(2)の起電力差設定値は、例(1)の起電力差設定値1と起電力差設定値2の中間値である125[μV]とした。起電力差設定値は一つであるが、この起電力差設定値には±aの微小な許容範囲が付加されている。付加範囲を決定する数値aは任意に設定することができるが、例えば、第1実施形態での数値例で言えば、数値aとしては、±3[μV]程度が好ましい。
【0031】
図6は、第1実施形態の飽差制御装置1における制御手順の例(2)を示すフローチャートである。
制御が開始されると(START)、センサ部2から送られる乾湿球熱起電力差が起電力差設定値+aより大きいか否かが判断され(S21)、乾湿球熱起電力差が起電力差設定値+aより小さければ(S21、NO)、対象空間は十分に湿っていると考えられるため、ミスト6に操作信号を出力することなく、適当な時間間隔をおいて起電力差設定値+aによる判断(S21)を繰り返す。
【0032】
起電力差設定値+aを用いた判断(S21)において、乾湿球熱起電力差が起電力差設定値+aより大きければ(S1、YES)、対象空間は乾燥していると考えられるため、デジタル指示調節計4は操作スイッチ及びリレー5にON信号を出力し、操作スイッチ及びリレー5はミスト6に出力所定時間ONの信号を出力して(S22)ミスト6を作動させ、対象空間を加湿する。なお、ミスト6による加湿時間は例(1)と同様とする。
【0033】
次に、センサ部2から送られる乾湿球熱起電力差が起電力差設定値-a未満か否かが判断され(S23)、未満ではない場合(S23、NO)、対象空間が十分に湿っているとは考えないものとし、デジタル指示調節計4は操作スイッチ及びリレー5にON信号を出力し、操作スイッチ及びリレー5はミスト6に出力所定時間ONの信号を与えて(S22)対象空間を加湿する。
【0034】
起電力差設定値-aを用いた判断(S23)において、乾湿球熱起電力差が起電力差設定値-a未満であれば(S23、YES)、対象空間は十分に湿っていると考えられるため、デジタル指示調節計4は操作スイッチ及びリレー5にOFF信号を出力し、操作スイッチ及びリレー5はミスト6に出力所定時間OFFの信号を与え(S24)、ミスト6は、所定時間は作動することなく、制御は起電力差設定値+aを用いた判断(S21)に戻る。
【0035】
以上説明したように、第1実施形態の飽差制御装置1によれば、熱電対をシリーズ接続した簡易な構成と、植物の育成にとって好ましい温度範囲及び飽差範囲を実現する熱起電力の起電力差設定値を用いてミスト6の操作を切り換える簡易な制御手法を採用しているため、低価格でありながら十分な精度の飽差制御を実現することができる。
【0036】
特に、制御手順の例(1)によれば、乾湿球熱起電力差の上限値(設定値1)と下限値(設定値2)を基準としてミスト6の操作を行なうため、植物の育成にとって好ましい温度範囲及び飽差範囲を確実に実現することができる。
【0037】
また、制御手順の例(2)によれば、乾湿球熱起電力差の上限値(設定値1)と下限値(設定値2)の中間値に±aの微小な幅を設けた起電力差設定値を基準としてミスト6の操作を行なうため、起電力差設定値が幅のない単一数値である場合に起こりうるチャタリングは発生しない。
【0038】
次に、第2実施形態の飽差制御装置10について
図7を参照して説明する。
図7は、第2実施形態の飽差制御装置10の基本構造を示す図であって、2個の乾湿の測温抵抗体からなるセンサ部20と、2個の乾湿の測温抵抗体が出力した2つの電圧から制御出力である電圧差を得るために制御部30に設けられたブリッジ回路40を示している。
【0039】
図7において、センサ部20は、乾球温度サーミスタ又は乾球白金測温抵抗体Rd(以下、乾球測温抵抗体Rdと称する。)と、湿球温度サーミスタ又は湿球白金測温抵抗体Rw(以下、湿球測温抵抗体Rwと称する。)を有している。
【0040】
図7において、制御部30のブリッジ回路40は、センサ部2の乾球測温抵抗体Rd及び湿球測温抵抗体Rwと、固定抵抗R1及び固定抵抗R2から構成されており、乾球測温抵抗体Rdと湿球測温抵抗体Rwの接続点Fと、固定抵抗R1と固定抵抗R2の接続点Eの間に電源が接続されて電源電圧Epを与えるようになっている。ブリッジ回路40の制御出力は、乾球測温抵抗体Rdと固定抵抗R1の接続点Cと、湿球測温抵抗体Rwと固定抵抗R2の接続点Dの間で得られる信号電圧Esである。信号電圧Esは、固定抵抗R1における電位降下、すなわち接続点CE間の電圧と、固定抵抗R2における電位降下、すなわち接続点DE間の電圧の電圧差として得られる。
【0041】
第2実施形態の飽差制御装置10によれば、乾球測温抵抗体Rdと湿球測温抵抗体Rwを制御部3から離れた位置に設置する場合であっても、乾球測温抵抗体Rdと湿球測温抵抗体Rwを制御部3に接続する導線には、補償導線などの特別な導線を使用する必要がないため、設置のコストを抑制できる効果がある。
【0042】
なお、以上説明した第1及び第2実施形態では、乾球温度センサ及び湿球温度センサとして、熱電対、サーミスタ、白金測温抵抗体を例示したが、その他の原理による温度センサであっても、本発明の乾球温度センサ及び湿球温度センサとして使用することができる。
【0043】
また、以上説明した第1及び第2の実施形態において、飽差制御を行なうべき温度範囲を15~35[℃]とし、周辺の気温(環境温度)がこの温度範囲内にあることを条件としてミスト6の制御を行なうものとしたが、具体的な構成としては、この温度範囲以外では、制御部3,30がミスト6に操作信号を出力できないようにする切り換え手段を制御部3,30に設けてもよい。例えば
図1において、操作スイッチ及びリレー5の出力部に、15~35[℃]の温度範囲においてのみONとなって操作信号が外部へ出力されることを許容する切り換え手段としてのバイメタルを設けることができる。または、制御部3の外に図示しない温度センサを設けておき、この温度センサによる環境温度の計測結果が15~35[℃]の温度範囲にあるか否かを示す信号を制御部3に入力し、環境温度の計測結果が15~35[℃]の温度範囲にある場合にのみ、操作スイッチ及びリレー5が動作可能となるような仕様としてもよい。このような構成とすることにより、飽差制御を行なうことを想定していない前記温度範囲以外の温度において、飽差制御装置10が作動することを防止することができる。
【符号の説明】
【0044】
1,10…飽差制御装置
2,20…センサ部
3,30…制御部
6…加湿装置としてのミスト
TD…乾球温度センサとしての乾球熱電対
TW…湿球温度センサとしての湿球熱電対
Rd…乾球温度センサとしての乾球温度サーミスタ又は乾球白金測温抵抗体(乾球測温抵抗体)
Rw…湿球温度センサとしての湿球温度サーミスタ又は湿球白金測温抵抗体(湿球測温抵抗体)