IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ルミカの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113900
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】実験キット
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/24 20060101AFI20240816BHJP
   G01N 31/22 20060101ALI20240816BHJP
   G09B 19/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G09B23/24
G01N31/22 122
G09B19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019169
(22)【出願日】2023-02-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年5月10日に、株式会社ルミカが株式会社織田に実験キットを卸した。 (2)令和4年5月16日に、株式会社ルミカが実験キットについて動画投稿サイトYouTubeに公開した。また、令和4年6月1日に、株式会社ルミカが実験キットについてウェブサイトに公開した。 (3)令和4年5月16日に、株式会社ルミカが株式会社増村人形店に実験キットを販売した。 (4)令和4年5月17日に、株式会社ルミカが株式会社トキワ商事に実験キットを卸した。 (5)令和4年5月25日に、株式会社ルミカが株式会社セイワ・プロに実験キットを卸した。 (6)令和4年5月26日に、八木兵株式会社が実験キットを販売した。 (7)令和4年6月2日に、株式会社ルミカが株式会社タテノに実験キットを卸した。 (8)令和4年6月10日~令和4年8月8日に、株式会社キャンドゥが実験キットを販売した。 (9)令和4年6月10日に、株式会社ルミカが株式会社龍屋に実験キットを卸した。 (10)令和4年6月13日に、株式会社ルミカが共和文具株式会社に実験キットを卸した。 (11)令和4年6月27日に、株式会社ルミカが株式会社三交クリエイティブ・ライフに実験キットを卸した。 (12)令和4年7月1日に、株式会社別府釣具が実験キットを販売した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (13)令和4年7月5日に、株式会社ルミカが株式会社DIGプライミングに実験キットを卸した。 (14)令和4年7月25日に、株式会社ルミカが株式会社SynaBizに実験キットを卸した。 (15)令和4年8月4日~令和4年8月5日に、株式会社大創産業が実験キットを販売した。 (16)令和4年8月8日に、株式会社ルミカが株式会社GENKI LABOに実験キットを卸した。 (17)令和4年8月31日に、株式会社サン・スマイルが実験キットを販売した。 (18)令和4年9月1日に、株式会社いせやが実験キットを販売した。 (19)令和4年10月24日に、株式会社ルミカが株式会社美術出版エデュケーショナルに実験キットを卸した。 (20)令和4年10月25日に、株式会社ルミカが株式会社ヤマギシに実験キットを販売した。 (21)令和4年12月19日に、株式会社カワダが実験キットを販売した。 (22)令和5年1月6日に、株式会社ルミカが株式会社オンダに実験キットを卸した。 (23)令和5年1月11日に、株式会社ルミカが株式会社タイヨーに実験キットを卸した。
(71)【出願人】
【識別番号】000230630
【氏名又は名称】株式会社ルミカ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】永利 竜一
(72)【発明者】
【氏名】甲田 千尋
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA01
2G042BA04
2G042BA07
2G042BD20
2G042DA08
2G042FA13
2G042HA07
(57)【要約】
【課題】安全性に配慮した、色素の酸化還元反応による色の変化を観察するための実験キットを提供すること。
【解決手段】実験キットは、色素、還元糖及び炭酸塩を備え、30℃以上の水100質量部に対して、1.5質量部以上の炭酸塩及び0.3質量部以上の還元糖と、色素とを混合させた水溶液は、色素の酸化還元反応によって複数回変色する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素、還元糖及び炭酸塩を備え、
30℃以上の水100質量部に対して、1.5質量部以上の前記炭酸塩及び0.3質量部以上の前記還元糖と、前記色素とを混合させた水溶液は、前記色素の酸化還元反応によって複数回変色する、実験キット。
【請求項2】
前記炭酸塩は、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムの少なくとも一方である、請求項1に記載の実験キット。
【請求項3】
前記色素は、インジゴカルミン及びメチレンブルーの少なくとも一方である、請求項1または2に記載の実験キット。
【請求項4】
前記還元糖は、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、ラクトースからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項1または2に記載の実験キット。
【請求項5】
前記水の温度は40℃以上である、請求項1または2に記載の実験キット。
【請求項6】
前記色素、前記還元糖及び前記炭酸塩がそれぞれ別容器に貯蔵され、貯蔵した3つ以上の容器によって構成される、請求項1または2に記載の実験キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実験キットに関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応を色の変化によって確認する実験は、視覚的に非常に強い印象を与え化学に対する関心を効果的に高めることから、学校の化学の授業や理科実験教室などにおいて多く使用されている。代表的な例としては、酸化型と還元型の構造が異なる色素を用いた、酸化還元反応による色の変化を観察する実験が挙げられる。
【0003】
色素の酸化還元反応による色の変化を観察する実験では、まず強アルカリ性の環境下で、色素を溶解させた溶液中で色素が還元される。その後振り混ぜるなどの操作を行い、空気中の酸素を取り込むと色素は酸化される。さらに、その溶液を放置すると再び溶液中の色素は還元され、繰り返し色の変化を観察することができる。ここで、従来の技術に関する文献として、例えば非特許文献1を掲げる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小畠りか,大場茂,“インジゴカルミン水溶液中の信号反応および分解退色”,慶応義塾大学日吉紀要.自然科学,慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会,2016年3月,第59号,p.21-33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1は、色素の酸化還元反応による色の変化を観察する実験のひとつである信号反応に関する。信号反応を行うためには強アルカリ性にする必要があるが、非特許文献1のように一般的には水酸化ナトリウムが用いられる。しかしながら、水酸化ナトリウムは劇物に指定されており、危険性が高いため、小さい子供に使用させるには好ましくないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものである。そして、安全性に配慮した、色素の酸化還元反応による色の変化を観察するための実験キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様に係る実験キットは、色素、還元糖及び炭酸塩を備え、30℃以上の水100質量部に対して、1.5質量部以上の炭酸塩及び0.3質量部以上の還元糖と、色素とを混合させた水溶液は、色素の酸化還元反応によって複数回変色する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安全性に配慮した、色素の酸化還元反応による色の変化を観察するための実験キットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態に係る実験キットについて詳細に説明する。実験キットは、色素、還元糖及び炭酸塩を備える。そして、30℃以上の水に対して、実験キットを構成する炭酸塩、還元糖及び色素を混合させた水溶液は、色素の酸化還元反応を繰り返すことによって複数回変色する。
【0010】
30℃以上の水に、炭酸塩、還元糖及び色素を混合させた水溶液は、色素の酸化還元反応を起こす。色素にインジゴカルミンを用いた場合、インジゴカルミンの色は酸化型では青色、還元型では黄色、中間型では赤色になる性質を利用している。強アルカリ性の環境下で、インジゴカルミンを溶解させた水溶液に還元糖を混合させるとインジゴカルミンは還元されて黄色になる。黄色になった水溶液を振り混ぜて空気中の酸素を取り込むと、インジゴカルミンは酸化されて、酸化型の青色に呈色する。青色になった水溶液を室温(25℃)で静置すると再び水溶液中の還元糖によって還元されるため、中間型の赤色を経由し、還元型の黄色に戻る。このような色素の酸化還元反応を繰り返すことで、色の変化を複数回観察することができる。
【0011】
炭酸塩、還元糖及び色素を混合させた水溶液は、色素の酸化還元反応によって複数回変色し、色の変化は目視で確認できる。色素がインジゴカルミンである場合、還元型の黄色の水溶液を振り混ぜると酸化型の青色になり、青色になった水溶液を室温で静置させ、再び黄色に変わるまでの一連の反応、つまり黄色から青色になって再び黄色に戻る工程を第1サイクルとする。そして、第1サイクルが終わった後に、黄色の水溶液を再度振り混ぜて黄色から青色に変化させた後に、青色になった水溶液を室温で静置させて青色から黄色に変わるまでの一連の反応を第2サイクルとする。その後も同様の作業を、第3サイクル、第4サイクルと繰り返し、色の変化が起こらなくなる前の第nサイクルまで継続し、そのときの変色サイクル回数をn回と評価する。繰り返し色の変化を観察する必要性の観点から、変色サイクル回数は4回以上であることが好ましい。
【0012】
第1サイクルの間で、青色になった水溶液を室温で静置させてから黄色に変わるまでの時間を、1サイクル目の変色時間として測定する。そして、第2サイクルの間で、青色になった水溶液を室温で静置させてから黄色に変わるまでの時間を、2サイクル目の変色時間として測定する。その後も同様に、3サイクル目、4サイクル目の変色時間を測定し、色の変化が起こらなくなる前の、nサイクル目の変色時間まで測定を続ける。繰り返し色の変化を観察する必要性の観点から、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間はいずれも700秒以内であることが好ましく、300秒以内であることがより好ましく、120秒以内であることがさらに好ましい。
【0013】
色素にインジゴカルミンを用いた場合、上記の通り、還元型の黄色の水溶液を振り混ぜると酸化型の青色になり、青色になった水溶液を室温で静置させると、再び還元型の黄色に変わる。しかしながら、水溶液中の炭酸塩及び還元糖の量が不足していたり、水溶液中のインジゴカルミンの量が過剰であったりする場合、還元型にしたときの水溶液は黄色にはならず、例えば赤色(中間型)や濃橙色にとどまることがある。色の視認性の観点から、還元型にしたときの水溶液は黄色であることが好ましい。
【0014】
(色素)
実験キットは、色素を備える。そして、色素は酸化型と還元型の構造が異なり、酸化還元反応によって変色する。色素としては、例えば、インジゴカルミン(青色2号)、メチレンブルー、フェノサフラニン、ベンジルビオロゲンなどが挙げられる。色の視認性及び汎用性の高さの観点から、色素はインジゴカルミン及びメチレンブルーの少なくとも一方であることが好ましく、インジゴカルミンであることがより好ましい。
【0015】
水に対して、炭酸塩、還元糖及び色素を混合させて水溶液を作製するときの色素の含有量は、水100質量部に対して0.005質量部以上0.01質量部以下であることが好ましい。水100質量部に対する色素の含有量を0.005質量部以上とすることにより、色の変化の再現性を維持させることができる。また、水100質量部に対する色素の含有量を0.01質量部以下とすることにより、色の視認性を良好にすることができる。
【0016】
(還元糖)
実験キットは、還元糖を備える。そして、還元糖は、色素を還元させるために使用される。還元糖は、分子中にアルデヒド基、あるいはケトン基を有する、還元性のある糖(例えば、単糖類や二糖類)である。還元反応速度の観点から、還元糖は、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース、マルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)からなる群より選択される少なくとも一つを含有することが好ましく、グルコースまたはフルクトースであることがより好ましい。
【0017】
水に対して、炭酸塩、還元糖及び色素を混合させて水溶液を作製するときの還元糖の含有量は、水100質量部に対して0.3質量部以上である。水100質量部に対する還元糖の含有量を0.3質量部以上とすることにより、色素の還元反応を円滑に進行させることができる。
【0018】
水に対して、炭酸塩、還元糖及び色素を混合させて水溶液を作製するときの還元糖の含有量の上限は特に限定されないが、水100質量部に対して12.0質量部以下であることが好ましく、9.0質量部以下であることがより好ましい。水100質量部に対する還元糖の含有量を12.0質量部以下とすることにより、色素の還元反応を円滑に進行させることができる。
【0019】
(炭酸塩)
実験キットは、炭酸塩を備える。そして、炭酸塩は強アルカリ性にするために使用される。炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。水に対する溶解性の観点から、炭酸塩は炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムの少なくとも一方であることが好ましい。
【0020】
水に対して、炭酸塩、還元糖及び色素を混合させて水溶液を作製するときの炭酸塩の含有量は、水100質量部に対して1.5質量部以上である。水100質量部に対する炭酸塩の含有量を1.5質量部以上とすることにより、最適な水溶液のpHを実現でき、色素の酸化還元反応を円滑に進行させることができる。
【0021】
水に対して、炭酸塩、還元糖及び色素を混合させて水溶液を作製するときの炭酸塩の含有量の上限は特に限定されないが、水100質量部に対して10.0質量部以下であることが好ましく、5.0質量部以下であることがより好ましい。水100質量部に対する炭酸塩の含有量を10.0質量部以下とすることにより、最適な水溶液のpHを実現でき、色素の酸化還元反応を円滑に進行させることができる。
【0022】
(水)
水は、炭酸塩、還元糖及び色素を混合させて水溶液を作製するために使用する。水としては、例えば、純水、イオン交換水、水道水、蒸留水などが挙げられる。水の種類は特に限定されないが、色の視認性の観点から無色透明であることが好ましい。
【0023】
水の温度は、30℃以上である。還元反応速度と炭酸塩の溶解速度の観点から、水の温度は35℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、45℃以上であることがさらに好ましく、50℃以上であることが特に好ましい。水の温度を30℃以上とすることにより、最適な水溶液のpHを実現でき、色素の酸化還元反応を円滑に進行させることができる。
【0024】
以上の通り、30℃以上の水100質量部に対して、1.5質量部以上の炭酸塩及び0.3質量部以上の還元糖と、色素とを混合させた水溶液は、最適なpHを実現でき、色素の酸化還元反応を円滑に進行させることができるため、複数回変色する。
【0025】
実験キットを、化学の授業や理科実験教室で使用するときには、例えば、試験管、ビーカー、透明もしくは半透明の樹脂製容器などを用いて、色素、還元糖、炭酸塩及び水を混合させることにより行う。一方で、色素、還元糖及び炭酸塩がそれぞれ別容器に貯蔵され、貯蔵した3つ以上の容器によって構成される実験キットとして使用することができる。このような実験キットにすることで、実験室だけでなく、家庭でも30℃以上の水を用意することができれば、気軽に楽しむことができる実験教材となる。
【0026】
実験キットは、色素の酸化還元反応による色の変化を観察する実験で一般的に使用される劇物の水酸化ナトリウムの代わりに炭酸塩を用いるため、危険性が低く、例えば小さい子供に使用させるには好ましい。
【0027】
以上のように、本実施形態に係る実験キットは、色素、還元糖及び炭酸塩を備える。そして、30℃以上の水100質量部に対して、1.5質量部以上の炭酸塩及び0.3質量部以上の還元糖と、色素とを混合させた水溶液は、色素の酸化還元反応によって複数回変色する。
【実施例0028】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
D(+)-グルコース(林純薬工業(株)製)を5.0g、炭酸カリウム(林純薬工業(株)製)を3.5g計り取り、300mlのポリエチレン容器に入れた。次に、上記容器に60℃の水100gを加えて撹拌した。さらに、あらかじめ調製しておいた濃度1質量%インジゴカルミン水溶液1mlを上記容器に加えて撹拌すると、水溶液が黄色になった。その後、上記容器に蓋をして5回強く振り混ぜると、水溶液が黄色から青色に変化した。なお、インジゴカルミンは、東京化成工業(株)製のものを使用した。
【0030】
青色になった水溶液を室温(25℃)で静置させ、青色から黄色に変わる色の変化を目視で確認した。つまり、色の変化の第1サイクルが完了したことになる。その際、青色から黄色に変わるまでの時間を、1サイクル目の変色時間として測定した。
【0031】
第1サイクルが終わった後に、黄色の水溶液を再度強く振り混ぜると、黄色から青色に変化した。そして、青色になった水溶液を室温で静置させると、青色から黄色に再び変わった。つまり、色の変化の第2サイクルが完了したことになる。その際、青色から黄色に変わるまでの時間を、2サイクル目の変色時間として測定した。その後も同様の作業を続け、第3サイクル、第4サイクルと繰り返し、色の変化が起こらなくなる前の第nサイクルまで継続し、そのときの変色サイクル回数をn回と評価した。また、変色時間は3サイクル目及び4サイクル目についても測定した。
【0032】
[評価]
以下の方法により、実験キットの試験サンプルを作製した。そして、評価結果を表1~表6に示す。評価方法としては、変色サイクル回数が4回以上で、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間はいずれも700秒以内であり、かつ、還元型にしたときの水溶液の色が第1サイクルから第4サイクルまでいずれも黄色であった場合を合格「○」とした。なお、変色サイクル回数が4回以上という基準は、色の変化が第4サイクル以上継続して、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間の測定が可能であった場合も含まれる。
【0033】
一方、上記合格「○」以外のケースを不合格「×」とした。すなわち、変色サイクル回数3回以下の場合か、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間のいずれかが700秒を超えた場合か、還元型にしたときの水溶液の色が第1サイクルから第4サイクルまでのいずれかで黄色にならなかった場合を不合格とした。
【0034】
[実施例1~2、比較例1]
実験キットに使用する色素の種類を変更して、変色時間への影響を確認した(表1参照)。実施例1におけるインジゴカルミンをそれぞれ、メチレンブルー(アダプトゲン製薬(株)製)またはブリリアントブルーFCF(青色1号、共立食品(株)製)に変更した。これ以外は実施例1と同様にし、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間を測定した。なお、実施例2で使用したメチレンブルーは、インジゴカルミンと同様に酸化型と還元型の構造が異なる。メチレンブルーの色は酸化型では青色、還元型では透明を示す。つまり、濃度1質量%メチレンブルー水溶液1mlを加えたときは水溶液が透明になったが、その後、5回強く振り混ぜると、水溶液が透明から青色に変化した。そして、青色になった水溶液を室温で静置させ、青色から透明に変わったことを目視で確認した。そのため、実施例2では、メチレンブルーが青色から透明に変わるまでの時間を変色時間として測定した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示すように、実施例1~2では、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間はいずれも700秒以内であった。色の変化は第4サイクル以上継続し、還元型にしたときの水溶液の色が第1サイクルから第4サイクルまでのいずれも黄色であったため、評価は合格「○」であった。一方、比較例1については色の変化が見られなかったため、不合格「×」となった。比較例1で使用した、青色の色素であるブリリアントブルーFCFは、酸化状態と還元状態の構造が同じであるため、酸化還元反応による変色は起こらなかった。
【0037】
[実施例3~7、比較例2~3]
実験キットに使用する還元糖を他の糖類に変更して、変色時間及び変色サイクル回数への影響を確認した(表2参照)。実施例3は、実施例1と同様の方法で実施した。そして、実施例3におけるD(+)-グルコースをそれぞれ、D(-)-フルクトース(富士フィルム和光純薬(株)製)、D(+)-ガラクトース(富士フィルム和光純薬(株)製)、D(+)-マルトースの1水和物(キシダ化学(株)製)、ラクトースの1水和物(富士フィルム和光純薬(株)製)、スクロース(富士フィルム和光純薬(株)製)または可溶性でんぷん(林純薬工業(株)製)に変更した。これ以外は実施例3と同様にし、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間を測定し、変色サイクル回数を確認した。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示すように、実施例3~7では、変色サイクル回数が4回以上で、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間はいずれも700秒以内であり、還元型にしたときの水溶液の色がいずれも黄色であったため、評価は合格「○」であった。実施例3~4の結果より、還元糖がグルコースまたはフルクトースの場合、変色サイクル回数が比較的多く、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間はいずれも60秒以内であり、色素の酸化還元反応を円滑に進行させることができた。一方、比較例2~3の結果より、スクロースまたは可溶性でんぷんのような還元性を持たない糖類の場合、色の変化は見られず、変色サイクル回数が0回であり、不合格「×」となった。つまり、比較例2~3では酸化還元反応は全く進行しなかった。
【0040】
[実施例8~13、比較例4~5]
炭酸塩、還元糖及び色素を、水に対して混合させた水溶液を作製するときの、還元糖の含有量を変更して、変色時間及び変色サイクル回数への影響を確認した(表3参照)。実施例10は、実施例1と同様の方法で実施した。実施例10における、水100gに対するD(+)-グルコース(以下、グルコース)の含有量5.0gをそれぞれ、0.05g、0.1g、0.5g、1.0g、3.0g、7.0gまたは9.0gに変更した。これ以外は実施例10と同様にし、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間を測定し、変色サイクル回数を確認した。
【0041】
【表3】
【0042】
表3に示すように、実施例8~13の結果より、水100gに対するグルコースの含有量が0.5g以上9.0g以下の場合、変色サイクル回数が4回以上で、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間はいずれも700秒以内であった。また、還元型にしたときの水溶液の色がいずれも黄色であったため、評価は合格「○」であった。そして、水100gに対するグルコースの含有量が増えるほど、変色時間が短くなり、変色サイクル回数が増える傾向を示し、色素の酸化還元反応が円滑に進行することが分かった。
【0043】
一方、比較例4~5の結果より、水100gに対するグルコースの含有量が0.1g以下となると、色の変化は黄色まで到達せず、濃橙色までにとどまった。そのため、カッコ内に示したデータは、青色になった水溶液を室温で静置させてから濃橙色に変わるまでの変色時間と、黄色(濃橙色)から青色になって濃橙色に変化する工程を1回の変色サイクルとして確認した変色サイクル回数を参考値として示したものである。比較例4~5の結果より、変色サイクル回数は3回以下であった。以上のことから、比較例4~5は不合格「×」となった。
【0044】
[実施例14~15、比較例6~7]
実験キットに使用する炭酸塩を他の塩基性物質に変更して、水溶液のpH及び変色時間への影響を確認した(表4参照)。実施例14は、実施例1と同様の方法で実施した。そして、実施例14における炭酸カリウムをそれぞれ、炭酸ナトリウム(林純薬工業(株)製)、水酸化ナトリウム(林純薬工業(株)製)または水酸化カルシウム(林純薬工業(株)製)に変更した。なお、水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウムは反応性が高かったため、60℃の水ではなく、室温(25℃)の水を使用し、比較例6~7として実施した。これ以外は実施例14と同様にし、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間を測定した。また、炭酸塩(塩基性物質)、還元糖及び色素を、水に対して混合させた水溶液を作製した時点のpHについても測定した。
【0045】
【表4】
【0046】
表4に示すように、実施例14~15では、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間はいずれも700秒以内であり、水溶液はpH12~13の強アルカリ性を示した。そして、色の変化は第4サイクル以上継続し、還元型にしたときの水溶液の色が第1サイクルから第4サイクルまでのいずれも黄色であったため、評価は合格「○」であった。
【0047】
一方、比較例6は、色素の酸化還元反応による色の変化を観察する実験で一般的に使用される水酸化ナトリウムを室温で用いた場合である。比較例6は、実施例14~15と同様に、色の変化は第4サイクル以上継続し、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間はいずれも700秒以内であった。つまり、60℃で炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムを使用した場合、従来のように水酸化ナトリウムを室温で使用した場合と同様に、強アルカリ性の環境下で色素の酸化還元反応を円滑に進行させることができた。ただし、水酸化ナトリウムは劇物に指定されており、危険性が高い。また、比較例7は、水酸化カルシウムを室温で使用した場合であり、色の変化は第4サイクル以上継続し、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間はいずれも700秒以内であった。しかしながら、水酸化カルシウムは水に対する溶解性が低いため、完全に水には溶解せず白濁した状態となり、色の視認性に劣る結果となった。
【0048】
[実施例16~20、比較例8~10]
炭酸塩、還元糖及び色素を、水に対して混合させた水溶液を作製するときの、炭酸塩の含有量を変更して、水溶液のpH及び変色時間への影響を確認した(表5参照)。実施例18は、実施例1と同様の方法で実施した。実施例18における炭酸カリウムの含有量3.5gをそれぞれ、0.035g、0.35g、1.0g、2.0g、3.0g、4.0gまたは5.0gに変更した。これ以外は実施例18と同様にし、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間を測定した。また、炭酸塩、還元糖及び色素を、水に対して混合させた水溶液を作製した時点のpHを測定した。
【0049】
【表5】
【0050】
表5に示すように、実施例16~20の結果より、水100gに対する炭酸カリウムの含有量が2.0g以上の場合、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間はいずれも700秒以内であり、水溶液はpH12の強アルカリ性を示した。そして、色の変化は第4サイクル以上継続し、還元型にしたときの水溶液の色が第1サイクルから第4サイクルまでのいずれも黄色であったため、評価は合格「○」であった。そして、水100gに対する炭酸カリウムの含有量が増えるほど、変色時間が短くなる傾向を示し、色素の酸化還元反応が円滑に進行することが分かった。
【0051】
一方、比較例8~9の結果より、水100gに対する炭酸カリウムの含有量が1.0g以下となると、水溶液のpHは低下し、色の変化は黄色まで到達せず、濃橙色までにとどまった。そのため、カッコ内に示したデータは、青色になった水溶液を室温で静置させてから濃橙色に変わるまでの変色時間を参考値として示したものである。以上のことから、比較例8~9は不合格「×」となった。また、比較例10の結果より、水100gに対する炭酸カリウムの含有量が0.035gの場合、水溶液のpHは9であり、色の変化は見られず、不合格「×」となった。つまり、比較例10では酸化還元反応は全く進行しなかった。
【0052】
[実施例21~27、比較例11~12]
炭酸塩、還元糖及び色素を、水に対して混合させた水溶液を作製するときの、水の温度を変更して、変色時間への影響を確認した(表6参照)。実施例23は、実施例1と同様の方法で実施した。実施例23における60℃の水の温度をそれぞれ、室温(25℃)、30℃、40℃、50℃、70℃または80℃に変更した。また、実施例26~27及び比較例12については、水の温度だけではなく、塩基性物質の種類を炭酸カリウムから炭酸ナトリウムに変更した。これ以外は実施例23と同様にし、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間を測定した。
【0053】
【表6】
【0054】
表6に示すように、実施例21~27の結果より、水の温度が30℃以上の場合、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間はいずれも700秒以内であった。色の変化は第4サイクル以上継続し、還元型にしたときの水溶液の色が第1サイクルから第4サイクルまでのいずれも黄色であったため、評価は合格「○」であった。
【0055】
一方、比較例11~12の結果より、水の温度が30℃未満であった場合、1サイクル目から4サイクル目までの変色時間のいずれかが700秒を超えたため、不合格「×」となった。これは、水の温度が低いために、色素の酸化還元反応自体が遅くなったこと、あるいは、炭酸カリウムまたは炭酸ナトリウムが完全に水に溶解できず沈殿してしまい、水溶液のpHが上がらず強アルカリ性にならなかったことが原因と考えられる。なお、表6の各実験データにおいて、2サイクル目以降の変色時間は短くなり、反応がやや早くなっている。その理由としては、インジゴカルミンが一部分解して減少したために変色が容易になったこと、あるいは、溶け残っていた炭酸カリウムまたは炭酸ナトリウムが溶解したことが考えられる。
【0056】
以上、本実施形態を実施例によって説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。