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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113921
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ADC回路
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/12 20060101AFI20240816BHJP
   H03M 1/10 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H03M1/12 C
H03M1/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019203
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 重錦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼梨 孝一
【テーマコード(参考)】
5J022
【Fターム(参考)】
5J022AA01
5J022BA01
5J022BA03
5J022BA06
5J022BA08
5J022CE01
5J022CE09
5J022CF01
5J022CF08
(57)【要約】
【課題】より簡便な構成で、インターリーブ方式のADC回路の特性を調整できる技術を提供する。
【解決手段】ADC回路1は、同一のアナログ信号がそれぞれ入力され、互いに位相の異なる複数のトリガー信号のそれぞれに応じて、アナログ信号をそれぞれA/D変換する複数のADC14a~14m(Analog Digital Converter)と、複数のADC14a~14mのそれぞれがA/D変換して得たデジタル信号を統合し、出力信号を生成する統合部16と、複数のトリガー信号から1つのトリガー信号を選択する選択部18と、選択部18によって選択されたトリガー信号に基づいてアナログ信号をA/D変換する基準ADC14rと、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一のアナログ信号がそれぞれ入力され、互いに位相の異なる複数のトリガー信号のそれぞれに応じて、前記アナログ信号をそれぞれA/D変換する複数のADC(Analog Digital Converter)と、
前記複数のADCのそれぞれがA/D変換して得たデジタル信号を統合し、出力信号を生成する統合部と、
前記複数のトリガー信号から1つのトリガー信号を選択する選択部と、
前記選択部によって選択されたトリガー信号に基づいて前記アナログ信号をA/D変換する基準ADCと、を備える、
ADC回路。
【請求項2】
前記複数のトリガー信号を生成するように構成されたシフト回路をさらに備え、
前記複数のADCのそれぞれは、自励式ADCである、
請求項1に記載のADC回路。
【請求項3】
前記シフト回路と前記複数のADCとの間に配置されている、前記トリガー信号の立ち上がりまたは立ち下がりのタイミングを補正する補正回路をさらに備える、
請求項2に記載のADC回路。
【請求項4】
前記複数のトリガー信号は、位相の異なるクロック信号をそれぞれ含み、
前記複数のADCのそれぞれは、前記クロック信号に基づいて前記アナログ信号をA/D変換する、
請求項1に記載のADC回路。
【請求項5】
前記統合部が生成した前記出力信号と、前記選択されたトリガー信号に基づいて前記基準ADCが前記アナログ信号をA/D変換して得たデジタル信号とを比較する比較部と、
前記比較部の比較結果に基づいて、前記選択されたトリガー信号に対応する前記ADCの動作パラメータを調整する調整部と、をさらに備える、
請求項1に記載のADC回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ADC回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のADC(Analog-to-Digital Converter)を所定の位相差で駆動することにより、入力電圧から所望の出力電圧値またはコードを出力するインターリーブ方式のADC回路が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-220976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インターリーブ方式のADC回路では、複数のADCを使用するため、各ADCのミスマッチが生じ、ADC回路の出力に歪みが起こることがある。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、より簡便な構成で、インターリーブ方式のADC回路の特性を調整できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様のADC回路は、同一のアナログ信号がそれぞれ入力され、互いに位相の異なる複数のトリガー信号のそれぞれに応じて、アナログ信号をそれぞれA/D変換する複数のADC(Analog Digital Converter)と、複数のADCのそれぞれがA/D変換して得たデジタル信号を統合し、出力信号を生成する統合部と、複数のトリガー信号から1つのトリガー信号を選択する選択部と、選択部によって選択されたトリガー信号に基づいてアナログ信号をA/D変換する基準ADCと、を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、より簡便な構成で、インターリーブ方式のADC回路の特性を調整できる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、背景技術に係るADC回路を示す図である。
図2図2は、背景技術に係るADC回路の動作を説明するための図である。
図3図3は、4つのADCを用いた場合のADC回路の出力信号を示す図である。
図4図4(a)は、ADCのオフセットミスマッチを説明するための図であり、図4(b)は、ADCのタイミングミスマッチを説明するための図であり、図4(c)は、ADCのゲインミスマッチを説明するための図である。
図5図5は、本開示の一実施形態に係るADC回路を示す図である。
図6図6は、同実施形態に係る統合部16が出力するデジタルデータADOUT1の一例を説明するための図である。
図7図7は、同実施形態に係るシフト回路の構成を示す図である。
図8図8は、同実施形態に係るシフト回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
図9図9は、m個のADCのうちの一つの動作を説明するためのタイミングチャートである。
図10図10は、ADCがアナログ信号をデジタル信号に変換する処理を説明するためのタイミングチャートである。
図11図11は、比較技術1に係るADC回路を示す図である。
図12図12(a)は、比較技術1に係る統合部の構成を示すブロック図であり、図12(b)は、統合部の他の例を示すブロック図である。
図13図13は、比較技術1に係るADC回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
図14図14は、図13に示す領域Aを拡大した図である。
図15図15は、比較技術2に係るADC回路を示す図である。
図16図16は、比較技術2に係るADC回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0011】
一実施形態に係るADC回路は、同一のアナログ信号がそれぞれ入力され、互いに位相の異なる複数のトリガー信号のそれぞれに応じて、アナログ信号をそれぞれA/D変換する複数のADCと、複数のADCのそれぞれがA/D変換して得たデジタル信号を統合し、出力信号を生成する統合部と、複数のトリガー信号から1つのトリガー信号を選択する選択部と、選択部によって選択されたトリガー信号に基づいてアナログ信号をA/D変換する基準ADCと、を備える。
【0012】
この構成によれば、上記ADC回路は、より簡便な構成で、基準ADCがA/D変換して得たデジタル信号と統合部が生成した出力信号とを比較して、インターリーブ方式のADC回路の特性を調整できる。
【0013】
一実施形態において、上記ADC回路は、複数のトリガー信号を生成するように構成されたシフト回路をさらに備えてよい。複数のADCのそれぞれは、自励式ADCであってよい。
【0014】
一実施形態において、上記ADC回路は、シフト回路と複数のADCとの間に配置されている、トリガー信号の立ち上がりまたは立ち下がりのタイミングを補正する補正回路をさらに備えてよい。
【0015】
一実施形態において、複数のトリガー信号は、位相の異なるクロック信号をそれぞれ含んでよい。複数のADCのそれぞれは、クロック信号に基づいてアナログ信号をA/D変換してよい。
【0016】
一実施形態において、上記ADC回路は、統合部が生成した出力信号と、選択されたトリガー信号に基づいて基準ADCがアナログ信号をA/D変換して得たデジタル信号とを比較する比較部と、比較部の比較結果に基づいて、選択されたトリガー信号に対応するADCの動作パラメータを調整する調整部と、をさらに備えてよい。
【0017】
(背景)
電子機器の動作および通信速度の高速化において、そこで用いられる電子デバイスの高速化が求められている。中でも、アナログ信号を処理する部分とデジタル信号を処理する部分とのインターフェースであるADC回路の高速化および高精度化が求められている。タイム・インターリーブ方式(以下、単に「インターリーブ方式」ともいう。)のADC回路は、電子デバイスの高速化および高精度化を実現する手法の一つである。この手法では、複数のADCを使用し、各ADCのサンプリングクロックの位相を均等にずらし、アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号を取得する。この結果、実効サンプリングレートを向上させた高速かつ高精度なADC回路を実現できる。インターリーブ方式の特性には、位相の均等性が重要となる。
【0018】
図1は、背景技術に係るADC回路9を示す図である。図1に示すように、ADC回路9は、ディバイダ回路90、2つの遅延回路92a,92b、1chのADC94a、2chのADC94bおよび統合部96を備える。なお、本明細書では、「ADC回路」とは、複数のADCを含むインターリーブ方式のADC回路を指す。
【0019】
ディバイダ回路90は、クロック信号CLOCKが入力され、遅延回路92a,92bのそれぞれにクロック信号CKdiv9を入力する。遅延回路92a,92bは、入力されたクロック信号CKdiv9の位相を補正し、補正したクロック信号CK91,CK92をADC94a,94bに入力する。
【0020】
ADC94a,94bには、アナログ信号AINがそれぞれ入力される。ADC94a,94bは、入力されたクロック信号CK91,CK92に基づいて、アナログ信号AINをサンプリングして、A/D変換を行い、デジタル信号DOUT91,DOUT92を統合部96に出力する。統合部96は、ADC94a,94bから出力されたデジタル信号DOUT91,DOUT92を統合し、デジタルデータADOUT9を出力する。
【0021】
図2は、背景技術に係るADC回路9の動作を説明するための図である。図2には、アナログ信号AIN、1chのADC94aに入力されるクロック信号CK91、および2chのADC94bに入力されるクロック信号CK92を示している。ここでは、クロック信号CK91およびクロック信号CK92の間の位相差は、半周期分である。
【0022】
クロック信号CK91,CK92の立ち上がりのタイミングで、アナログ信号AINがサンプリングされる。図2のアナログ信号AINには、1chのADC94aがサンプリングするタイミングに「1」、2chのADC94bがサンプリングするタイミングに「2」を付している。2つのADC94a,94bを用いることにより、1つのADCを用いる場合よりも2倍のサンプリングレートでアナログ信号AINをサンプリングできる。たとえばADC94b,94bのそれぞれのサンプリングレートが100MSPS(Mega sample(s) per second)である場合、この2つのADC94b,94bをインターリーブ方式で用いることにより、200MSPSのサンプリングレートを実現できる。
【0023】
図3および図4(a)~図4(c)を参照しながら、インターリーブ方式のADC回路の出力信号に生じる歪みについて説明する。図3は、4つのADCを用いた場合のADC回路の出力信号を示す図である。図4(a)は、ADCのオフセットミスマッチを説明するための図であり、図4(b)は、ADCのタイミングミスマッチを説明するための図で有り、図4(c)は、ADCのゲインミスマッチを説明するための図である。
【0024】
図3では、横軸は時間軸であり、ADC回路に入力されるアナログ信号900を実線で示している。ここでは、ADC回路は、4つのADC(1ch~4ch)を有するものとする。図3では、それぞれのADCによってA/D変換して得られたデジタル信号の値を、対応するADCのchの番号に対応付けた丸印で示している。図3に示すように、ADCによって得られるデジタル信号の波形は、アナログ信号900とずれ、歪んだ波形となっている。
【0025】
デジタル波形に歪みが生じる、すなわち、ADC回路の出力スペクトルにスプリアスが現れる原因は、以下の4つのミスマッチがある。
・オフセットのミスマッチ(各ADC間に存在するオフセットのミスマッチ)
・タイミングのミスマッチ(クロック・スキューと各ADCがもつそれぞれの遅延群のミスマッチ)
・ゲインのミスマッチ(各ADCがそれぞれもつゲインのミスマッチ)
・帯域幅のミスマッチ(各ADCがもつ2つのパラメータ(ゲインの成分および位相/周波数の成分)の相互関係によるミスマッチ)
【0026】
図4(a)~図4(c)には、4つのADCのそれぞれがアナログ信号をA/D変換することによって得たデジタル信号の値を示している。図4(a)に示すように各ADCが異なったオフセットを有すると、インターリーブ方式のADC回路として新たなオフセットが生じる。また、図4(b)に示すように、各ADCがアナログ信号をサンプリングするタイミングの間隔が異なると、各ADCのサンプリング位置がずれる。サンプリング位置がずれることにより、測定されるアナログ信号の位置がずれる。その結果、本来の値からずれた値(誤差)が取得され、その値に基づきA/D変換された値が出力されることとなる。各ADCからこの誤差を持った値が出力されるため、統合部においてこれらの値が統合されると、統合部からの出力信号は、本来の信号に対して歪んだ信号となり、具体的には、位相変調されたような信号となる。また、このタイミングのミスマッチによる誤差は、アナログ信号の振幅が大きい場合またはアナログ信号の周波数が高い場合に、特に大きくなる。さらに、図4(c)に示すように、各ADCにおいてゲインが異なると、同じ入力信号が各ADCに入力されても、各ADCにおいて、振幅の大きさが変わったように変換される。この結果、本来の値と異なる値を各ADCは出力し、それらの値が統合部で統合されると、その出力信号は、本来の信号に対して歪んだ信号となり、振幅変調されたような信号となる。このとき、入力されるアナログ信号の振幅が大きいほど、出力信号の誤差は大きくなる。これらのような原因で出力信号にエラーが生じると、結果として、図3に示すように、出力信号の波形が歪むこととなる。
【0027】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、複数の構成要素の各々に同一符号のみを付する。例えば、ADC14aおよびADC14bのそれぞれを特に区別しないとき、これらを単に「ADC14」と称する。また、以下に述べる構成は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。
【0028】
図5は、本開示の一実施形態に係るADC回路1を示す図である。図5に示すように、ADC回路1は、シフト回路10(生成部)、m(m:2以上の整数)個の遅延回路12a~12m(補正回路)、ADC群13、基準ADC14r、統合部16、マルチプレクサ18(選択部)および調整装置19を備える。
【0029】
シフト回路10は、入力されるクロック信号CLOCKに基づいて、互いに位相の異なるm個のトリガー信号CK01~CK0mを生成する。m個のトリガー信号CK01~CK0mは、所定の位相差を有するように生成されてよい。生成されたトリガー信号CK01~CK0mは、遅延回路12a~12mに入力される。たとえば、遅延回路12aにはトリガー信号CK01が入力され、遅延回路12bにはトリガー信号CK02が入力され、遅延回路12mにはトリガー信号CK0mが入力される。シフト回路10の構成および動作の詳細は、図7および図8を参照して後述する。
【0030】
遅延回路12a~12mは、シフト回路10とADC14a~14mとの間に配置されている。具体的には、遅延回路12a~12mは、入力がシフト回路10にそれぞれ接続されている。遅延回路12a~12mのそれぞれの出力は、対応するADC14a~14mに接続されている。たとえば、遅延回路12aの出力は、1chのADC14aに接続され、遅延回路12bの出力は、2chのADC14bに接続され、遅延回路12mの出力は、mchのADC14mに接続されている。
【0031】
遅延回路12a~12mは、シフト回路10から入力されたトリガー信号CK01~CK0mの立ち上がりおよび立ち下がりのタイミングを補正し、補正したトリガー信号CK11~CK1mをADC14a~14mに出力する。上述のように入力されるトリガー信号CK01~CK0mは位相差を持っており、遅延回路12a~12mは、位相差がより均等になるように、トリガー信号CK01~CK0mの立ち上がりおよび立ち下がりのタイミングを微少時間補正する。
【0032】
たとえば、遅延回路12aは、トリガー信号CK01のタイミングを補正して、トリガー信号CK11を1chのADC14aに出力し、遅延回路12bは、トリガー信号CK02のタイミングを補正して、トリガー信号CK12を2chのADC14bに出力し、遅延回路12mは、トリガー信号CK0mのタイミングを補正して、トリガー信号Ck1mをmchのADC14mに出力する。
【0033】
ADC群13は、m個のADC14a~14mを含む。ADC14a~14mは、アナログ信号AINが入力され、トリガー信号CK11~CK1mに応じてアナログ信号AINをサンプリングし、A/D変換を行い、デジタル信号DOUT11~DOUT1mおよびトリガー信号CK11~CK1mを統合部16に出力する。たとえば、1chのADC14aは、トリガー信号CK11に応じてアナログ信号AINをサンプリングし、デジタル信号DOUT11およびトリガー信号CK11を統合部16に出力する。また、2chのADC14bは、トリガー信号CK12に応じてアナログ信号AINをサンプリングし、デジタル信号DOUT12およびトリガー信号CK12を統合部16に出力する。さらに、mchのADC14mは、トリガー信号CK1mに応じてアナログ信号AINをサンプリングし、デジタル信号DOUT1mおよびトリガー信号CK1mを統合部16に出力する。ADC14a~14mの動作の詳細については、図9および図10を参照して、後述する。
【0034】
本実施形態に係るADC14は、逐次比較型のADCである。ADC14は、サンプリングしたアナログ信号と比較信号とを比較し、比較結果に応じて次の比較信号を変更し、アナログ信号と変更した比較信号とを比較する。ADC14は、このようにアナログ信号と比較信号とを逐次比較した結果に基づいて、デジタル信号を出力する。このとき、ADC14は、アナログ信号と比較信号とを逐次比較するタイミングを示すタイミング信号に基づいて逐次比較を行う。
【0035】
本実施形態に係るADC14は、自励式ADCである。具体的には、ADC14は、トリガー信号に応じて、タイミング信号をADC14内で生成し、生成したタイミング信号に基づいて逐次比較を行い、A/D変換を行い、デジタル信号を出力する。
【0036】
統合部16は、ADC14a~14mから出力されたデジタル信号DOUT11~DOUT1mを統合し、デジタルデータADOUT1を調整装置19に出力する。
【0037】
図6は、本実施形態に係る統合部16が出力するデジタルデータADOUT1の一例を説明するための図である。図6には、ADC回路1に入力されるアナログ信号AINおよびトリガー信号CK11~CK1mが示されている。ここでは、ADC14は、入力されるトリガー信号の立ち上がりのタイミングでアナログ信号AINをサンプリングして、サンプリングしたアナログ信号AINをA/D変換して得たデジタル信号を出力するものとする。
【0038】
図6には、ADC14a~14mがアナログ信号AINをA/D変換して得たデジタル信号DOUT11~DOUT1mの値を丸印で示している。各丸印には、対応するADC14a~14mの番号を付している。m個のADC14a~14mが得たデジタル信号DOUT11~DOUT1mを統合することによって、デジタルデータADOUT1を生成できる。
【0039】
図5に戻って、マルチプレクサ18の機能を説明する。マルチプレクサ18は、複数のトリガー信号CK11~CK1mから1つのトリガー信号を選択し、選択したトリガー信号を基準ADC14rに入力する。本実施形態に係るマルチプレクサ18には、遅延回路12a~12mから、トリガー信号CK11~CK1mが入力され、これらのトリガー信号CK11~CK1mから1つのトリガー信号を選択でき、たとえばトリガー信号CK11を基準ADC14rに入力できる。また、マルチプレクサ18は、選択するトリガー信号を順次変更して、各トリガー信号CK11~CK1mを選択して、トリガー信号CK11~CK1mを基準ADCに伝送できる。
【0040】
また、マルチプレクサ18は、複数のトリガー信号CK11~CK1mから選択するトリガー信号を逐次変更してよい。たとえば、マルチプレクサ18は、所定時間が経過する度に、選択するトリガー信号を変更してよい。マルチプレクサ18は、たとえばトリガー信号CK11~CK1mのそれぞれが任意の順番で選択されるように、選択するトリガー信号を逐次変更してよい。具体的には、マルチプレクサ18は、最初に1chのADC14aに入力されるトリガー信号CK11を選択し、次いで、2chのADC14bに入力されるトリガー信号CK12を選択し、以降、順次選択するトリガー信号を変更し、最後に、mchのADC14mに入力されるトリガー信号CK1mを選択してよい。
【0041】
基準ADC14rは、マルチプレクサ18によって選択されたトリガー信号に基づいて、アナログ信号AINをA/D変換し、デジタル信号TOUTを調整装置19に出力する。たとえば、基準ADC14rは、トリガー信号CK11に基づいて、アナログ信号AINをA/D変換し、デジタル信号TOUTを出力できる。本実施形態に係る基準ADC14rは、自励式ADCである。具体的には、基準ADC14rは、ADC14a~14mと実質的に同一の構成および機能を有し、より具体的には、基準ADC14rは、トリガー信号に応じて、タイミング信号を基準ADC14r内で生成し、生成したタイミング信号に基づいて逐次比較を行い、A/D変換を行い、デジタル信号TOUTを出力する。
【0042】
調整装置19は、統合部16からのデジタルデータADOUT1および基準ADC14rからのデジタル信号TOUTを比較し、その結果に応じてADC14を調整する。調整装置19は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)などを備えてよい。本実施形態に係る調整装置19は、指示部190、比較部192および調整部194を備える。
【0043】
指示部190は、トリガー信号CK11~CK1mから選択するトリガー信号を指示する信号をマルチプレクサ18に伝送する。マルチプレクサ18は、この信号に応じてトリガー信号を選択できる。また、指示部190は、選択するトリガー信号を順次変更するように、マルチプレクサ18に信号を伝送してよい。また、指示部190は、選択されるトリガー信号を示す情報を調整部194に伝送できる。
【0044】
比較部192は、統合部16が生成したデジタルデータADOUT1と、基準ADC14rがマルチプレクサ18によって選択されたトリガー信号に基づいてアナログ信号AINをA/D変換して得たデジタル信号TOUTとを比較する。具体的には、比較部192は、デジタルデータADOUT1とデジタル信号TOUTとのずれを検出してよい。より具体的には、比較部192は、デジタルデータADOUT1とデジタル信号TOUTとの値の大きさのずれおよび位置ずれの大きさなどを検出してよい。比較部192は、比較結果を調整部194および出力装置(図示しない。)に出力してよい。出力装置は、たとえばディスプレイなどで構成された表示装置であってよく、ユーザは、表示装置に表示される比較結果を確認して、ADC14を調整できる。
【0045】
調整部194は、比較部192の比較結果に基づいて、マルチプレクサ18によって選択されたトリガー信号に対応するADC14の動作パラメータを調整できる。調整部194は、指示部190から伝送される情報に基づいて、調整する対象となるADC14を決定してよい。調整部194は、たとえば、オフセットのずれ、ゲインのずれおよびタイミングのずれなどを調整するための信号を対応するADCに伝送し、ADCの動作パラメータを調整してよい。
【0046】
図7は、本開示の一実施形態に係るシフト回路10の構成を示す図である。図7に示すように、シフト回路10は、m個のSET/RESET-フリップフロップ回路100a~100mを有する。フリップフロップ回路100a~100mは、共通のクロック信号CLOCKがそれぞれ入力され、所定の位相差を有する複数のトリガー信号CK01~CK0mを、m個の自励式のADC14a~14mに出力するように配置されている。
【0047】
フリップフロップ回路100a~100mのそれぞれのクロック端子には、クロック信号CLOCKが入力される。また、フリップフロップ回路100a~100mのそれぞれのセット端子には、セット信号S[1]~S[m]が入力され、フリップフロップ回路100a~100mのそれぞれのリセット端子には、リセット信号RSTが入力される。フリップフロップ回路100a~100mは、トリガー信号CK01~CK0mを出力する。
【0048】
フリップフロップ回路の出力は、他の1つのフリップフロップ回路のデータ端子に接続されている。たとえば、1番目のフリップフロップ回路100aの出力は、2番目のフリップフロップ回路100bのデータ端子に接続されている。また、2番目のフリップフロップ回路100bの出力は、3番目のフリップフロップ回路(図示しない。)のデータ端子に接続されている。このように、フリップフロップ回路の出力は、次のフリップ回路のデータ端子に接続され、m-1番目のフリップフロップ回路(図示しない。)の出力は、m番目のフリップフロップ回路100mのデータ端子に接続されている。さらに、m番目のフリップフロップ回路100mの出力は、1番目のフリップフロップ回路100aのデータ端子に接続されている。
【0049】
図8は、本実施形態に係るシフト回路10の動作を説明するためのタイミングチャートである。図8には、上から順に、クロック信号CLOCK、リセット信号RST、セット信号S[m:1]、トリガー信号CK01、トリガー信号CK02、・・・、トリガー信号CK0m-1、トリガー信号CK0mを示している。図8に示すセット信号S[m:1]は、セット信号S[1]~S[m]を表している。
【0050】
タイミングt0において、セット信号S[1]~S[m]がすべて0であり、リセット信号RSTが0から1となる。このとき、フリップフロップ回路100a~100mから出力されるトリガー信号CK01~CK0mはローとなる。その後、タイミングt1において、リセット信号RSTは1から0になる。
【0051】
タイミングt1以降に、セット信号S[1]~S[m]の任意の1ビットを1にする。ここでは、セット信号S[1]を1にする。タイミングt2において、リセット信号RSTが0から1になる。このとき、セット信号を1に設定されたフリップフロップ回路の出力は、ハイとなり、セット信号を0に設定されたフリップフロップ回路の出力は、ローとなる。
【0052】
タイミングt3において、リセット信号RSTがハイからローになり、クロック信号CLOCKがローからハイになる。これにより、フリップフロップ回路100aから出力されるトリガー信号CK01は、ハイからローになり、次段のフリップフロップ回路100bから出力されるトリガー信号CK02は、ローからハイとなる。また、トリガー信号CK03~CK0mは、ローのままである。
【0053】
以下、クロック信号CLOCKがローからハイになるとき、ハイのトリガー信号が入力されているフリップフロップ回路100からのトリガー信号はローからハイとなり、他のフリップフロップ回路100によって出力されるトリガー信号は、ハイからローになるかローのまま維持される。
【0054】
タイミングt4において、クロック信号CLOCKがローからハイになることに応じて、トリガー信号CK0m-1がハイからローになり、トリガー信号CK0mがローからハイになる。さらに、タイミングt5において、トリガー信号CK0mがハイからローになり、トリガー信号CK01がローからハイになる。このようにして、タイミングt2~t4において、各トリガー信号CK01~CK0mが互いに異なるタイミング(位相)でローからハイになり、シフト回路10は、位相差をもつトリガー信号CK01~CK0mを生成できる。
【0055】
図9は、本実施形態に係るm個のADC14のうちの一つの動作を説明するためのタイミングチャートである。図9には、クロック信号CLOCK、アナログ信号AIN、ADC14に入力されるクロック信号CKおよびADCが出力するデジタル信号DOUTを示している。クロック信号CKは、ADC14a~14mに入力されるクロック信号CK01~CK0mのいずれかであってよく、デジタル信号DOUTは、ADC14a~14mが出力するデジタル信号DOUT11~DOUT1mのいずれかであってよい。
【0056】
ADC14は、タイミングt10におけるトリガー信号CKの立ち上がりに応じて、アナログ信号AINをサンプリングし、A/D変換を行う。ADC14は、タイミングt10からクロック信号CLOCKが1サイクルしたタイミングt11においてデジタル信号Data0を出力する。次いで、ADC14は、タイミングt10からクロック信号CLOCKがmサイクルしたタイミングt12におけるトリガー信号CKの立ち上がりに応じて、アナログ信号AINをサンプリングし、A/D変換を行う。次いで、ADC14は、タイミングt12からクロック信号CLOCKが1サイクルしたタイミングt13において、デジタル信号Data1を出力する。このようにして、ADC14は、トリガー信号CKが立ち上がる度にアナログ信号AINをサンプリングし、デジタル信号DOUTを出力する。インターリーブ方式のADCでは、トリガー信号CKの立ち上がりは、クロック信号CLOCKがmサイクルする度に発生する。このため、デジタル信号DOUTは、クロック信号CLOCKがmサイクルする度にADC14から出力される。
【0057】
図10は、ADC14がアナログ信号AINをデジタル信号DOUTに変換する処理を説明するためのタイミングチャートである。図10には、トリガー信号CK、デジタル信号DOUT、ADC14の内部で生成されるタイミング信号S1および処理データD1を示している。
【0058】
タイミングt21におけるトリガー信号CKの立ち上がりに応じて、ADC14は、タイミング信号S1を生成する。タイミング信号S1は、N(N:2以上の整数)周期の信号であり、Nは、ADC14が出力するデジタル信号のビット数およびADC14が逐次比較を行う回数に依存する。たとえば、出力されるデジタル信号が10ビットである場合、逐次比較が10回行われ、この場合Nは10である。ADC14は、最初のタイミング信号S1の立ち上がりに応じてアナログ信号AINの変換を開始し、タイミング信号S1の立ち上がりのタイミングt21~t25において、サンプリングしたアナログ信号と比較信号との逐次比較を行い、処理データD1を生成する。タイミングt26においてN回目の逐次比較が終了し、タイミングt27において確定したNビットのデジタル信号DOUTを出力する。
【0059】
以上、本開示の一実施形態に係るADC回路1の構成および動作について説明した。上記実施形態では、m個のADC14a~14mおよび基準ADC14rが自励式ADCである例を説明した。これに限らず、m個のADCおよび基準ADCは、他励式ADCであってよい。この場合、m個のADCには、上述のトリガー信号CK11~CK1mに代えて、互いに位相の異なるクロック信号およびA/D変換をトリガするトリガー信号が入力されてよい。この場合、クロック信号を生成する回路に加えて、トリガー信号を生成する回路が別途設けられてよい。m個のADCは、トリガー信号に応じてアナログ信号AINをそれぞれサンプリングし、入力されたクロック信号に基づいてそれぞれ逐次比較を行い、A/D変換をそれぞれ行う。
【0060】
この場合、基準ADCには、たとえばマルチプレクサを通じて選択されたクロック信号が入力され、基準ADCは、その選択されたクロック信号に基づいて、アナログ信号AINをA/D変換できる。このようにして得られたm個のADCのデジタル信号を統合したデジタルデータと、基準ADCが得たデジタル信号とを比較することによっても、ADC回路を調整するための情報を得ることが可能である。
【0061】
(比較技術1)
図11は、比較技術1に係るADC回路3を示す図である。図11に示すように、比較技術1に係るADC回路3は、ディバイダ回路30、m個の遅延回路32a~32m、m個のADC34a~34mおよび統合部36を備える。
【0062】
ディバイダ回路30は、入力されるクロック信号CLOCKに基づいて、クロック信号CKdiv3を遅延回路32a~32mのそれぞれに出力する。遅延回路32a~32mのそれぞれは、クロック信号CKdiv3の位相の制御および補正を行い、互いに位相の異なるクロック信号CK31~CK3mを出力する。
【0063】
ADC34a~34mは、アナログ信号AINおよびクロック信号CK31~CK3mに基づいて、アナログ信号AINをA/D変換して、デジタル信号DOUT31~DOUT3mを統合部36に出力する。統合部36は、デジタル信号DOUT31~DOUT3mを統合し、デジタルデータADOUT3を出力する。
【0064】
図12(a)は、比較技術1に係る統合部36の構成を示すブロック図であり、図12(b)は、他の統合部37の例を示すブロック図である。
【0065】
図12(a)に示すように、比較技術1に係る統合部36は、統合回路360、スイッチ362、スイッチ364、接続経路366a~366m、分岐経路368a~368mおよび出力経路369を含む。統合回路360は、ADC34a~34mの出力と接続された接続経路366a~366mと接続されている。統合回路360には、接続経路366a~366mを介してデジタル信号DOUT31~DOUT3mが入力される。統合回路360は、デジタル信号DOUT31~DOUT3mを統合して、デジタルデータADOUT3を出力する。
【0066】
分岐経路368a~368mのそれぞれは、接続経路366a~366mのそれぞれから分岐した経路である。分岐経路368a~368mは、スイッチ362の切り替えに応じて、分岐経路368a~368mのいずれかが出力経路369に接続されるように設けられている。スイッチ364は、その切り替えに応じて、統合回路360および出力経路369のいずれかから外部にデジタルデータが出力されるように構成されている。
【0067】
比較技術1に係る統合部60は、スイッチ362およびスイッチ364の切り替えることによって、統合回路360のデジタルデータADOUT3および出力経路369を介してデジタル信号DOUT31~DOUT3mのいずれかを出力する。比較技術1では、このデジタルデータADOUT3とデジタル信号DOUT31~DOUT3mのいずれかとを比較し、その比較結果に応じてADC34の特性が調整される。
【0068】
比較技術1では、ディバイダ回路30および遅延回路32a~32mにおけるタイミングミスマッチやADC34a~34mのミスマッチを補正するためには、デジタルデータADOUT3とデジタル信号DOUT31~DOUT3mとを比較するための回路(以下、「比較回路」ともいう。)が必要となる。具体的には、比較回路を構成するスイッチ362、スイッチ364、分岐経路368a~368mおよび出力経路369などが必要となる。このため、統合部36の回路構成が大きくなる上、比較回路が高速なADC回路の特性に影響を与える。また、比較回路自体(たとえば、分岐経路368a~368m)にも遅延ばらつきがあり、比較回路が正規の経路とは異なる。これも、ADC34の特性の調整を困難にする要因となる。また、この比較回路を含む機構での遅延およびスキューを合わせる設計およびレイアウトは、非常に困難である。
【0069】
図12(b)に示すように、製品によっては、統合部37にフィルター回路を含む統合回路370を設け、出力スペクトルのスプリアス低減を行うものがある。しかしながら、回路も大きくなり、また、フィルター回路の設計自体も困難である。
【0070】
図13は、比較技術1に係るADC回路3の動作を説明するためのタイミングチャートである。図13には、クロック信号CKdiv3、クロック信号CK31,CK32,CK3m、デジタル信号DOUT31,DOUT32,DOUT3mを示している。また、クロック信号CKdiv3の1周期分の範囲を破線Aで示している。図14には、図13に示す領域Aを拡大した図を示している。
【0071】
1chのADC34aのクロック信号CK31は、クロック信号CKdivとほぼ同じタイミングt31で立ち上がる。2chのADC34bのクロック信号CK32は、タイミングt31よりも遅れたタイミングt32で立ち上がる。以降、3ch~mchのADCのクロック信号は、立ち上がりのタイミングが順次等間隔で遅れ、mchのADC34mのクロック信号CKmは、タイミングt33において立ち上がる。
【0072】
ADC34は、入力されるクロック信号の立ち上がりのタイミングでアナログ信号AINのA/D変換を開始する。ADC34は、そのクロック信号がn(n:2以上の整数)サイクルする間に、アナログ信号AINをnビットのデジタル信号に変換し、タイミングt34においてデジタル信号への変換が完了する。
【0073】
比較技術1に係るADC回路1では、以下のような問題がある。
1. 遅延回路32a~32m自体で位相およびスキュー補正両方を考慮した回路となるため、回路が複雑化し、大きくなる。
2. 遅延回路32a~32m自体のばらつきが大きくなる(位相の均等性が悪くなる)。
3. ADC34のch数が増えると、遅延回路32が大きくなる。
4. 1.の理由により、制御線が多くなるため、レイアウト上での配線干渉および配線遅延を考慮したスキューを合わせるレイアウトが難しくなる。この結果、ADC回路の開発の難易度が上がり、開発期間が長くなる。
【0074】
(まとめ1)
上述のように比較技術1に係る統合部36,37では、回路構成が大きくなったり、レイアウトおよびADCの特性の調整が困難であったりする。
【0075】
これに対し、図5などを参照しながら説明したADC回路1によれば、基準ADC14rは、マルチプレクサ18によって選択されたトリガー信号に基づいて、アナログ信号AINをA/D変換する。これにより、基準ADC14rがアナログ信号AINをA/D変換して得たデジタル信号TOUTと、m個のADC14a~14mが出力するデジタル信号DOUT11~DOUT1mを統合したデジタルデータADOUT1とを、比較技術1の比較回路を用いなくとも直接比較できる。
【0076】
このため、ADC回路1によれば、比較技術1の比較回路を用いずに調整を行うことが可能となるため、特性改善の調整が容易となる。また、ADC回路1によれば、比較技術1の比較回路が不要であり、ADC回路14の正規の出力そのものを使用できるため、ADC回路14の設計が容易となる。レイアウトにおいても、ADC14a~14mと同じADCで構成された基準ADC14rを設ける以外には複雑な回路を必要とせず、かつ、クロック信号CLOCKのラインもシンプルとなる。このため、レイアウト(配線のスキュー調整)も非常に容易となり、開発工程を大幅に短縮できる。
【0077】
(比較技術2)
図15は、比較技術2に係るADC回路5を示す図である。比較技術2に係るADC回路5は、比較技術1に係るディバイダ回路30、遅延回路32a~32mおよびADC32a~32mを、ディバイダ回路50、遅延回路52a~52mおよびADC52a~52mに置き換えたものである。
【0078】
比較技術2に係るディバイダ回路50は、入力されるクロック信号CLOCKの位相を制御して、クロック信号CKdiv5を遅延回路52a~52mに入力する。遅延回路52a~52mは、ディバイダ回路50から入力されたクロック信号CKdiv5の位相を補正し、クロック信号CK51~CK5mをADC34a~34mに入力する。ADC54a~54mは、トリガー信号ADTRIG1~ADTRIGmおよびクロック信号CK51~5mに基づいて、アナログ信号AINをデジタル信号DOUT1~DOUTmに変換する。
【0079】
図16は、比較技術2に係るADC回路5の動作を説明するためのタイミングチャートである。図16には、クロック信号CKdiv5、クロック信号CK51~CK5m、トリガー信号ADTRIG1,ADTRIG2,ADTRIGm、デジタル信号DOUT51,DOUT52,DOUT5mを示している。
【0080】
1chのADC54aは、タイミングt41におけるトリガー信号ADTRIG1の立ち上がりに応じて、A/D変換を開始する。その後、ADC54aは、クロック信号CK51に基づいて、クロック信号CKdiv5がnサイクルする間に、アナログ信号をnビットのデジタル信号DOUT51に変換する。ここでは、ADC54aがA/D変換を開始してから、クロック信号CKdivがmサイクルしたタイミングt42において、デジタル信号の変換値が確定する。
【0081】
比較技術1とは異なり、比較技術2では、トリガー信号ADTRIG1~ADTRIGmによって各ADT54の変換開始のクロック信号の立ち上がりのタイミングおよび立ち下がりのタイミングを制御し、クロック信号の位相が制御される。このため、比較技術2に係る遅延回路52a~52mは、位相の制御を行わず補正のみを行う。このため、比較技術2に係るADC回路5は、比較技術1に係るADC回路3よりも小型かつシンプルな構成となる。しかしながら、以下の問題が生じる。
1. クロック信号で位相制御するため、高速なクロック信号が必要である。
2. インターリーブ1周期の間に、高速なクロック信号のサイクルがnビット分(AD変換)分必要となる。
3. 1.および2.の理由により、消費電力が大きくなる。
4. TI-ADCのch数をデジタル信号のビット数以下にできない。
5. 各A/D変換のための制御(トリガー)信号が増え、制御系が増える。
6. 5.の理由により、配線が増え、配線干渉、遅延が増え、レイアウトでのスキュー補正の負荷が増える。
【0082】
(まとめ2)
ADC回路を開発する上で、速度、精度および消費電力が、トレードオフとなる。このため、ADC回路単体での回路設計は困難であるが、タイム・インターリーブ方式では、低消費で、高精度かつ高速なADC回路を開発する事が可能となる。
【0083】
しかしながら、タイム・インターリーブ方式のADC回路は、複数のADCと、インターリーブ方式を用いたアーキテクチャであるため、時間および各ADCのミスマッチによるエイリアシングアーティファクトが発生することとなる。それらを解決するための回路および制御技術の実現は、困難な課題となっている。
【0084】
図5を参照して説明した実施形態に係るADC回路1によれば、シフト回路10は、互いに位相の異なる複数のトリガー信号を生成する。このトリガー信号により、複数のADC14が、自身で変換タイミング信号を生成し、アナログ信号をnビットのデジタル信号に変換する。
【0085】
ディバイダ回路30をシフト回路10にすることで、複数のADCに互いに位相の異なる信号を生成するための回路をシンプルにできる。シフト回路10の出力を、ADC14にトリガー信号として供給することで、システム全体のクロック信号による動作を大幅に削減できる。このため、ADC回路1によれば、より簡便な構成でインターリーブ方式のADC回路を実現でき、回路の小型化および低消費化を実現できる。
【0086】
また、ADC回路1によれば、自励式のADC14が自身でタイミング信号を生成するため、比較技術2のように高速なクロック信号を生成する必要がない。このため、ADC回路1は、より低い消費電力のADC回路を実現できる。
【0087】
ADC回路1によれば、高速かつ低電力でインターリーブ方式のADC回路を実現できる。また、位相の制御をシフト回路10で実施することにより、シンプルな回路でADC回路を実現できる。遅延回路12a~12mが位相制御を行わず、補正機能のみとできるため、小型化でき、さらに、遅延回路12a~12mの機能のばらつきを小さくできる。
【0088】
ADC回路1によれば、ディバイダ回路(カウンター回路)を用いないため、組合わせ回路によるグリッジケア不要となる。また、位相の制御および補正のための回路がシンプルなので、スキューを考慮した設計、レイアウトが容易となる。すなわち、配線数も少なくなり、配線干渉および配線遅延考慮の必要性を軽減できる。さらに、A/D変換に必要なクロックサイクル数と、TI-ADCのch数の設計考慮不要となり、設計が容易となる。
【0089】
(付記)
本明細書に開示される技術は、一側面において以下のように把握できる。
【0090】
(項目1)
同一のアナログ信号がそれぞれ入力され、互いに位相の異なる複数のトリガー信号のそれぞれに応じて、前記アナログ信号をそれぞれA/D変換する複数のADC(Analog Digital Converter)と、
前記複数のADCのそれぞれがA/D変換して得たデジタル信号を統合し、出力信号を生成する統合部と、
前記複数のトリガー信号から1つのトリガー信号を選択する選択部と、
前記選択部によって選択されたトリガー信号に基づいて前記アナログ信号をA/D変換する基準ADCと、を備える、
ADC回路。
【0091】
(項目2)
前記複数のトリガー信号を生成するように構成されたシフト回路をさらに備え、
前記複数のADCのそれぞれは、自励式ADCである、
項目1に記載のADC回路。
【0092】
(項目3)
前記シフト回路と前記複数のADCとの間に配置されている、前記トリガー信号の立ち上がりまたは立ち下がりのタイミングを補正する補正回路をさらに備える、
項目1または2に記載のADC回路。
【0093】
(項目4)
前記複数のトリガー信号は、位相の異なるクロック信号をそれぞれ含み、
前記複数のADCのそれぞれは、前記クロック信号に基づいて前記アナログ信号をA/D変換する、
項目1に記載のADC回路。
【0094】
(項目5)
前記統合部が生成した前記出力信号と、前記選択されたトリガー信号に基づいて前記基準ADCが前記アナログ信号をA/D変換して得たデジタル信号とを比較する比較部と、
前記比較部の比較結果に基づいて、前記選択されたトリガー信号に対応する前記ADCの動作パラメータを調整する調整部と、をさらに備える、
項目1~4のいずれか一項に記載のADC回路。
【符号の説明】
【0095】
1 ADC回路、10 シフト回路、12 遅延回路、14a~14m ADC、14r 基準ADC、16 統合部、18 マルチプレクサ(選択部)、100 フリップフロップ回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16