(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113926
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】コンクリート表面の相対変位の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/353 20060101AFI20240816BHJP
G01B 11/16 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G01D5/353 B
G01B11/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019209
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】十川 貴行
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】平 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】玉野 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】皆川 春奈
【テーマコード(参考)】
2F065
2F103
【Fターム(参考)】
2F065AA03
2F065AA65
2F065BB22
2F065CC14
2F065DD03
2F065FF41
2F065GG04
2F065JJ01
2F065LL02
2F065MM16
2F065PP22
2F065QQ03
2F065QQ25
2F065QQ28
2F065UU03
2F103BA37
2F103CA01
2F103CA07
2F103EB01
2F103EB11
2F103EC09
2F103GA15
(57)【要約】
【課題】コンクリートの表面の光ファイバに沿う相対変位をより精度良く検出できるコンクリート表面の相対変位の検出方法を提供する。
【解決手段】コンクリート表面の相対変位の検出方法は、光ファイバ10が、コンクリート1の表面2に固定された固定部21と、コンクリート1の表面2に固定されていない非固定部22と、を交互に有するようにコンクリート1の表面2に光ファイバ10を設置する光ファイバ設置工程と、非固定部22のそれぞれにおける光ファイバ10に生じた歪みに基づいて、コンクリート1の表面2に生じたひび割れの幅を検出する検出工程と、を備える。光ファイバ設置工程では、柱状の光ファイバ巻付部32を含む固定用治具30をコンクリート1の表面2に固定し、光ファイバ10を1周以上の巻数で光ファイバ巻付部32の側面32aに沿わせて巻き付けることで、固定部21を構成する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの表面に設置された光ファイバに生じた歪みに基づいて前記コンクリートの前記表面の前記光ファイバに沿う相対変位を検出するコンクリート表面の相対変位の検出方法であって、
前記光ファイバが、前記コンクリートの前記表面に固定された固定部と、前記コンクリートの前記表面に固定されていない非固定部と、を交互に有するように前記コンクリートの前記表面に前記光ファイバを設置する光ファイバ設置工程と、
前記非固定部のそれぞれにおける前記光ファイバに生じた前記歪みに基づいて、前記コンクリートの前記表面の前記光ファイバに沿う相対変位を検出する検出工程と、
を備え、
前記光ファイバ設置工程では、柱状の光ファイバ巻付部を含む固定用治具を前記コンクリートの前記表面に固定し、前記光ファイバを1周以上の巻数で前記光ファイバ巻付部の側面に沿わせて巻き付けることで、前記固定部を構成する、コンクリート表面の相対変位の検出方法。
【請求項2】
前記光ファイバ設置工程では、前記固定部に隣接する前記非固定部の前記光ファイバにプレテンションを付与する、請求項1に記載のコンクリート表面の相対変位の検出方法。
【請求項3】
前記光ファイバ設置工程では、前記光ファイバの弾性係数、前記光ファイバの断面積、前記光ファイバと前記光ファイバ巻付部との摩擦係数、前記非固定部の前記光ファイバにて想定される想定歪み、及び、キャプスタン方程式を用いて前記プレテンションの大きさ及び前記固定部の前記光ファイバの巻数を算出する、請求項2に記載のコンクリート表面の相対変位の検出方法。
【請求項4】
前記光ファイバ設置工程では、前記プレテンションの大きさを、前記コンクリートが所定の条件で圧縮された際に生じると想定される想定圧縮歪みの大きさ以上とし、
前記検出工程では、前記コンクリートが圧縮されて生じる前記プレテンションの緩和量に基づいて、前記コンクリートの圧縮歪みを計測する、請求項2又は3に記載のコンクリート表面の相対変位の検出方法。
【請求項5】
前記固定用治具は、前記光ファイバ巻付部の前記側面を前記コンクリートの前記表面に対して相対的に変位させる側面変位部を有し、
前記光ファイバ設置工程では、前記側面変位部によって前記側面を前記コンクリートの前記表面に対して相対的に変位させることで、前記固定部に隣接する前記非固定部の前記光ファイバにプレテンションを付与する、請求項1又は2に記載のコンクリート表面の相対変位の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表面の相対変位の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの表面の相対変位として、例えばひび割れの幅を検出する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、トンネルの内壁のひび割れをまたぐように光ファイバを内壁にトンネルの長手方向に沿って敷設し、光ファイバの歪みから現在のひび割れの幅を求めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバをコンクリートの表面に設置する際、例えば光ファイバの延在方向が光ファイバの敷設方向に沿った状態で光ファイバを接着剤等で点付け固定しただけでは、コンクリートの表面の光ファイバに沿う相対変位に応じて光ファイバの固定箇所に作用する光ファイバの張力によって、光ファイバが表面に対して相対的にずれるおそれがある。その結果、光ファイバに本来生じる歪みよりも小さい歪みに基づいて相対変位を算出することとなり、相対変位を精度良く演算できないことがある。
【0005】
本発明は、コンクリートの表面の光ファイバに沿う相対変位をより精度良く検出できるコンクリート表面の相対変位の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、コンクリートの表面に設置された光ファイバに生じた歪みに基づいてコンクリートの表面の光ファイバに沿う相対変位を検出するコンクリート表面の相対変位の検出方法であって、光ファイバが、コンクリートの表面に固定された固定部と、コンクリートの表面に固定されていない非固定部と、を交互に有するようにコンクリートの表面に光ファイバを設置する光ファイバ設置工程と、非固定部のそれぞれにおける光ファイバに生じた歪みに基づいて、コンクリートの表面の光ファイバに沿う相対変位を検出する検出工程と、を備え、光ファイバ設置工程では、柱状の光ファイバ巻付部を含む固定用治具をコンクリートの表面に固定し、光ファイバを1周以上の巻数で光ファイバ巻付部の側面に沿わせて巻き付けることで、固定部を構成する。
【0007】
この構成によれば、柱状の光ファイバ巻付部を含む固定用治具がコンクリートの表面に固定される。光ファイバは、1周以上の巻数で光ファイバ巻付部の側面に沿わせて巻き付けられる。よって、例えば光ファイバの延在方向が光ファイバの敷設方向に沿った状態で光ファイバを接着剤等で点付け固定しただけの場合と比べて、光ファイバがコンクリートの表面に対して相対的にずれにくいように、固定部が構成される。これにより、コンクリートの表面の光ファイバに沿う相対変位に応じた大きさの歪みと比べて小さい歪みが非固定部の光ファイバに生じることを抑制できるため、コンクリートの表面の光ファイバに沿う相対変位をより精度良く検出することができる。
【0008】
一実施形態において、光ファイバ設置工程では、固定部に隣接する非固定部の光ファイバにプレテンションを付与してもよい。この場合、光ファイバと光ファイバ巻付部との間で光ファイバの滑りが生じにくくなる。
【0009】
一実施形態において、光ファイバ設置工程では、光ファイバの弾性係数、光ファイバの断面積、光ファイバと光ファイバ巻付部との摩擦係数、非固定部の光ファイバにて想定される想定歪み、及び、キャプスタン方程式を用いてプレテンションの大きさ及び固定部の光ファイバの巻数を算出してもよい。この場合、非固定部の光ファイバにて想定される想定歪みが生じたとしても光ファイバと光ファイバ巻付部との間で光ファイバの滑りが生じないように、プレテンションの大きさ及び巻数を求めることができる。
【0010】
一実施形態において、光ファイバ設置工程では、プレテンションの大きさを、コンクリートが所定の条件で圧縮された際に生じると想定される想定圧縮歪みの大きさ以上とし、検出工程では、コンクリートが圧縮されて生じるプレテンションの緩和量に基づいて、コンクリートの圧縮歪みを計測してもよい。この場合、プレテンションの大きさの範囲でコンクリートの圧縮歪みを計測することができる。
【0011】
一実施形態において、固定用治具は、光ファイバ巻付部の側面をコンクリートの表面に対して相対的に変位させる側面変位部を有し、光ファイバ設置工程では、側面変位部によって側面をコンクリートの表面に対して相対的に変位させることで、固定部に隣接する非固定部の光ファイバにプレテンションを付与してもよい。この場合、側面変位部によって側面をコンクリートの表面に対して相対的に変位させる量を調整することで、プレテンションを容易に調整することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコンクリート表面の相対変位の検出方法によれば、コンクリートの表面の光ファイバに沿う相対変位をより精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は、一実施形態に係るコンクリート表面の相対変位の検出方法の概念を示す側面図である。(b)は、(a)の底面図である。
【
図2】実施形態に係るコンクリート表面の相対変位の検出方法を示すフローチャートである。
【
図3】光ファイバの空間分解能及び計測の間隔の概念を示す図である。
【
図4】(a)は、固定部の一例を示す斜視図である。(b)は、(a)の固定部を拡大して示す斜視図である。
【
図5】(a)は、固定用治具の一例を示す斜視図である。(b)は、固定用治具の他の例を示す斜視図である。
【
図6】(a)は、コンクリートから突出するセパレータの端部を示す斜視図である。(b)は、(a)のセパレータの端部を用いた固定部の構成例を示す断面図である。(c)は、コンクリートの型枠面から窪むコーン穴の底部で突出するセパレータの端部を示す斜視図である。(d)は、(c)のセパレータの端部を用いた固定部の構成例を示す断面図である。
【
図7】キャプスタン方程式を用いた演算を説明するための図である。
【
図8】(a)は、側面変位部を有する固定用治具の第1の例を示す平面図である。(b)は、(a)の側面変位部による側面の変位例を示す平面図である。(c)は、(b)のc-c線に沿っての断面図である。
【
図9】(a)は、側面変位部を有する固定用治具の第2の例を示す平面図である。(b)は、(a)の側面変位部による側面の変位例を示す平面図である。(c)は、(b)のc-c線に沿っての断面図である。
【
図10】(a)は、側面変位部を有する固定用治具の第3の例を示す平面図である。(b)は、(a)の側面変位部による側面の変位例を示す平面図である。(c)は、(b)のc-c線に沿っての断面図である。
【
図11】変形例に係るコンクリート表面の相対変位の検出方法が適用される目地部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1(a)、
図1(b)及び
図2に示されるように、本発明の一実施形態に係るコンクリート表面の相対変位の検出方法は、コンクリート1の表面2に設置された光ファイバ10に生じた歪みに基づいて、コンクリートの表面の光ファイバに沿う相対変位を検出する方法である。コンクリートの表面の光ファイバに沿う相対変位として、以下の本実施形態では、鉄筋4や鋼材などの補強材が埋設されたコンクリート1の表面2に生じたひび割れ3の幅を例に説明する。ここでのひび割れ3とは、例えば、コンクリート1の表面2に一定間隔で発生することが予想可能な構造ひび割れを意味する。コンクリート表面の相対変位の検出方法では、ひび割れ3の幅と併せて、ひび割れ3の位置が検出されてもよい。
【0015】
図2に示されるように、本実施形態に係るコンクリート表面の相対変位の検出方法では、ステップS1として、コンクリート1の表面2に光ファイバ10を設置する光ファイバ設置工程が行われる。光ファイバ設置工程では、
図1(a)及び
図1(b)に示されるように、光ファイバ10が、コンクリート1の表面2に固定された固定部21と、コンクリート1の表面2に固定されていない非固定部22と、を交互に有するようにコンクリート1の表面2に光ファイバ10が設置される。
【0016】
固定部21は、コンクリート1の表面2に光ファイバ10が固定された部分である。非固定部22は、コンクリート1の表面2に光ファイバ10が固定されていない部分であり、自由長部とも称する。非固定部22の長さLは、光ファイバ10の空間分解能の区間Sの長さより長い。例えば、
図3に示されるように、光ファイバ10に生じた歪みのそれぞれの位置を分解して検出するために、光ファイバ10に複数の計測点23が所定間隔で設定される場合、計測点23の間隔g1は、光ファイバ10に生じた歪みの計測手法によって決まる。例えば、既存の計測システムでは、計測点23の間隔g1、つまり光ファイバ10に生じた歪みのデータの取得間隔は、50mmが標準である。また、当該計測システムでは、空間分解能の区間Sの長さは、間隔g1の2倍の100mmが標準である。空間分解能とは、例えば、空間分解能の区間Sでの平均の歪みが検出されることを意味する。なお、光ファイバ10に生じる歪みとしては、主に引張り歪みが想定されているが、後述するように、圧縮歪みであってもよい。
【0017】
また、
図1(a)及び
図1(b)に示されるように、非固定部22の長さLは、間隔g2よりも短い。間隔g2は、コンクリート1の表面2に生じると予想される複数のひび割れ3の間隔である。間隔g2は、コンクリート1に埋設された鉄筋4のかぶりc、鉄筋4のそれぞれの中心間隔c
s、鉄筋の直径φ、鋼材表面係数に関する定数K1、及び、引張鋼材の段数の影響を表す係数K2に基づいて、例えばコンクリート標準示方書等を含む公知の手法により決定することができる。例えば、間隔g2は、下式(1)により算出されてもよい。
間隔g2=K1×K2×4×c+0.7×(c
s-φ)・・・(1)
【0018】
光ファイバ設置工程では、予想されるひび割れ3の方向と光ファイバ10の軸方向とが交差するように、コンクリート1の表面2に光ファイバ10が設置される。予想されるひび割れ3の方向は、光ファイバ10の軸方向と直交することが好ましい。
【0019】
ステップS2として、光ファイバ設置工程でコンクリート1の表面2に設置された光ファイバ10に生じた歪みに基づいて、コンクリート1の表面2に生じたひび割れ3の位置を検出する位置検出工程(検出工程)が行われる。位置検出工程では、非固定部22のそれぞれにおける光ファイバ10に生じた歪みに基づいて、コンクリート1の表面2に生じたひび割れ3の位置を検出する。
【0020】
例えば、ブリルアン散乱光は、光ファイバ10の歪みの大きさに比例して周波数が変化する。そのため、位置検出工程において、光ファイバ10の一端から所定の周波数の光パルスを入射して、光パルスにより発生するブリルアン散乱光を一端で測定する。ブリルアン散乱光における光周波数の変化を、ブリルアン散乱光の発生位置を示す時間と共に測定することにより、光ファイバ10の軸方向の歪みが測定される。なお、非固定部22に歪みが検出されない場合は、その非固定部22及びその非固定部22に隣接する固定部21にはひび割れ3が無いことを意味する。
【0021】
ひび割れ3に起因する非固定部22での光ファイバ10の伸びは、当該非固定部22を挟む一対の固定部21の間で制限されるため、ひび割れ3が発生した位置の特定が可能となる。つまり、固定部21のそれぞれを独立した標点として光ファイバ10に生じた歪みが検出され、異なる非固定部22同士での歪みの検出結果それぞれ同士の干渉は無い。本実施形態では、ひび割れ3が生じた位置が非固定部22に限定される。個々の非固定部22での光ファイバ10の歪みから、非固定部22のそれぞれに対応した部位のコンクリート1の表面2のひび割れ3が特定される。
【0022】
ステップS3として、光ファイバ設置工程でコンクリート1の表面2に設置された光ファイバ10に生じた歪みに基づいて、コンクリート1の表面2の光ファイバ10に沿う相対変位として、非固定部22に生じたひび割れ3の幅を検出する相対変位検出工程(検出工程)が行われる。
【0023】
コンクリート1の表面2において、非固定部22に対応した位置にひび割れ3が発生した場合は、非固定部22を挟む一対の固定部21間の距離がひび割れ3の幅の分だけ光ファイバ10に沿って相対変位する。そのため、コンクリート1の表面2の固定部21を標点とした非固定部22での光ファイバ10の伸びが、ひび割れ3の幅に対応する。非固定部22での光ファイバ10の伸びは、標点間である固定部21の間の光ファイバ10の歪みを光ファイバ10の軸方向に積分することで求められる。したがって、相対変位検出工程では、非固定部22での光ファイバ10に生じた歪みの積分によって、非固定部22に生じたひび割れ3の幅が検出される。
【0024】
ここで、例えば光ファイバの延在方向が光ファイバの敷設方向に沿った状態で光ファイバを接着剤等で点付け固定するような固定手法で光ファイバをコンクリートの表面に設置しただけでは、ひび割れの幅に応じて光ファイバの固定箇所に作用する光ファイバの張力によって、光ファイバが壁面に対して相対的にずれるおそれがある。具体的には、試験体であるRCコンクリートを載荷装置で両引きする実験を行い、試験体の表面に設置したパイ型変位計を用いて光ファイバに生じた歪みの積分によるひび割れ幅を計測したところ、変位計での計測値が所定値(例えば0.4mm)を超える場合、変位計での計測値が当該所定値以下の場合と比べて、光ファイバで検出したひび割れ幅が変位計での計測値よりも小さくなりやすいことがわかった。つまり、ひび割れの幅が大きくなると、光ファイバが壁面に対して相対的にずれてしまい、光ファイバに本来生じるはずの歪みよりも小さい歪みに基づいてひび割れの幅を算出することとなる。その結果、ひび割れ幅の実際の大きさに対して光ファイバで検出するひび割れ幅が小さくなって、ひび割れ幅を精度良く演算できないことが生じ得る。このような検出精度の低下を抑制するため、本実施形態に係るコンクリート表面の相対変位の検出方法では、非固定部22での光ファイバ10の伸びがひび割れ3の幅に精度良く対応するように、固定部21をコンクリート1の表面2に強固に固定することが重要となる。
【0025】
図4(a)は、固定部の一例を示す斜視図である。
図4(b)は、
図4(a)の固定部を拡大して示す斜視図である。
図4(a)及び
図4(b)に示されるように、光ファイバ設置工程では、複数の固定用治具30をコンクリート1の表面2に固定する。複数の固定用治具30は、光ファイバ10の敷設方向に沿って並ぶようにコンクリート1の表面2に固定される。複数の固定用治具30は、一定間隔でコンクリート1の表面2に固定されている。隣り合う固定用治具30同士の間隔は、上述の計測点23の間隔g1とされる。これにより、固定用治具30がコンクリート1の表面2に固定された部位に固定部21が形成され、固定用治具30がコンクリート1の表面2に固定されていない部位に非固定部22が形成される。
【0026】
固定用治具30は、基部31と、基部31に固定された光ファイバ巻付部32と、を含む。基部31は、コンクリート1の表面2に沿って配置される部分である。基部31は、例えば、平板材33であってもよい。平板材33は、コンクリート1の表面2に当接するように配置される部分である。平板材33は、例えば鉄製又はステンレス製の平板材であるが、この例に限定されず、相対変位を計測(検出)する際にコンクリート1の表面2に固定できる材料であればよい。平板材33の形状は、特に限定されないが、例えば光ファイバ10の敷設方向を長手方向とする長方形であってもよい。平板材33の短手方向は、光ファイバ10の許容曲げ半径の2倍以上であってもよい。
【0027】
平板材33の表面のうちのコンクリート1の表面2に対向する側の表面には、突起34が設けられていてもよい。突起34は、固定用治具30をコンクリート1の表面2により強固に固定するための部分である。突起34は、光ファイバ10の敷設方向に沿う固定用治具30とコンクリート1の表面2との相対的な移動を規制する。突起34は、例えば平板材33の中央部から法線方向に延びるように固定されている。突起34は、例えば鉄製又はステンレス製の丸棒部材とすることができる。突起34は、例えば溶接により平板材33に固定される。突起34の表面には、必須ではないが、ねじ山等の凹凸が形成されていてもよい。
【0028】
光ファイバ設置工程では、コンクリート1の表面2に突起34の長さよりも深い削孔5を設けて、削孔5に固定用治具30の突起34を挿入する。このとき、削孔5内に接着剤を注入しつつ、削孔5に突起34を挿入して埋め込んでもよい。接着剤は、例えばケミカルアンカー(登録商標)のような接着系アンカーとして機能する。この場合、突起34に形成されたねじ山は、接着剤の付着を増加させる。或いは、削孔5内のコンクリート1にインサートナットを埋設し、突起34にねじ山をインサートナットに螺合させてもよい。
【0029】
光ファイバ巻付部32は、光ファイバ10を巻き付けるための部分である。光ファイバ巻付部32は、平板材33の表面のうちのコンクリート1の表面2とは対向しない側の表面から突出するように設けられている。光ファイバ巻付部32は、突起34とは反対側に平板材33から突出する。光ファイバ巻付部32は、例えば平板材33の中央部から法線方向に延びるように平板材33に固定されている。光ファイバ巻付部32は、例えば鉄製、ステンレス製、又は樹脂製とすることができるが、この例に限定されず、相対変位を計測(検出)する際に大きな変形やずれが生じない材料であればよい。光ファイバ巻付部32は、例えば瞬間接着剤等の接着剤により平板材33に固定されている。また、光ファイバ巻付部32が鉄製などの場合には、溶接により平板材33に固定されてもよい。
【0030】
光ファイバ巻付部32は、柱状を呈しており、光ファイバ10が巻き付けられる側面32aを有する。光ファイバ巻付部32は、例えば円柱状とされている。光ファイバ巻付部32の側面32aは、周方向に連続する外周面となっていてもよいし、例えば側面32aにおいて軸方向に延びる溝又は凹部を介して周方向に断続的に円周をなす外周面となっていてもよい。
【0031】
光ファイバ巻付部32の半径は、光ファイバ10の許容曲げ半径以上とされている。一例として、光ファイバ10の心線径がφ0.9mmである場合の光ファイバ巻付部32の半径は、15mm以上とすることができる。光ファイバ10の心線とは、主に石英ガラスで作られた光ファイバを紫外線硬化型樹脂等の被膜で覆ったもの(光ファイバ素線)に更にノンハロゲン樹脂等による二次被覆を施したものを指す。
【0032】
図5(a)は、固定用治具の一例を示す斜視図である。
図5(a)の例では、光ファイバ巻付部32として厚めのワッシャーが用いられている。光ファイバ巻付部32は、厚めのワッシャーが瞬間接着剤により平板材33に固定されて構成されている。この構成では、厚めのワッシャーを利用して光ファイバ巻付部32を容易に構成することができる。
【0033】
図5(b)は、固定用治具の他の例を示す斜視図である。
図5(b)の例では、円柱状の光ファイバ巻付部35が用いられている。光ファイバ巻付部35は、いわゆるボビン形状を呈している。光ファイバ巻付部35は、円柱部分の直径よりも大径なフランジ35aを有する。光ファイバ巻付部35は、例えば糸用などの樹脂製ボビンであってもよい。光ファイバ巻付部35は、例えば瞬間接着剤により平板材33に固定される。この構成では、フランジ35aにより、光ファイバ巻付部35の軸方向に沿う光ファイバ10の動きが拘束され、光ファイバ10がフランジ35aに引っかかることで抜け落ちづらくなるため、施工性が向上する。
【0034】
なお、
図5(b)の例では、突起34が省かれている。この場合、コンクリート1の表面2に削孔5を設けなくてもよい。平板材33は、瞬間接着剤によりコンクリート1の表面2に固定されてもよい。この場合であっても、例えば光ファイバの延在方向が光ファイバの敷設方向に沿った状態で光ファイバを接着剤等で点付け固定するような固定手法と比べて、平板材33及びフランジ35aの端面の接着面積が大きいため、光ファイバ10及び固定用治具30をより強固にコンクリート1の表面2に固定することができる。
【0035】
図6(a)は、コンクリートから突出するセパレータの端部を示す斜視図である。
図6(b)は、
図6(a)のセパレータの端部を用いた固定部の構成例を示す断面図である。
図6(a)及び
図6(b)に示されるように、コンクリート1を打設するときに用いた型枠を支持するセパレータ45の端部の雄ネジが表面2から突出している場合、この雄ネジを利用して、固定用治具40を固定してもよい。例えば、セパレータ45の端部の雄ネジが貫通する貫通孔を有する光ファイバ巻付部41を固定用治具40として用いてもよい。光ファイバ設置工程では、コンクリート1を打設するときに用いた型枠を支持するセパレータ45の端部の雄ネジに対して光ファイバ巻付部41を固定し、光ファイバ10を1周以上の巻数で光ファイバ巻付部41の側面41aに沿わせて巻き付ける。この場合、固定用治具30の基部31のような平板材33は省いてもよい。
【0036】
図6(c)は、コンクリートの型枠面から窪むコーン穴の底部で突出するセパレータの端部を示す斜視図である。
図6(d)は、
図6(c)のセパレータの端部を用いた固定部の構成例を示す断面図である。
図6(c)及び
図6(d)に示されるように、コンクリート1を打設するときに用いた型枠を支持するPコンの跡が表面2から窪むように残っており、その底部46からセパレータ45の端部の雄ネジが突出している場合、この雄ネジを利用して、固定用治具40を固定してもよい。例えば、突起34と同様の突起42を固定用治具40の光ファイバ巻付部41から突出するように設けて、セパレータ45の端部の雄ネジに長ナット47を螺合させ、この長ナット47に突起34のねじ山を螺合させてもよい。すなわち、光ファイバ設置工程では、コンクリート1を打設するときに形成された表面2の窪みの底部46から突出するセパレータ45の端部の雄ネジに対して、セパレータ45の端部の雄ネジの突出長よりも長く且つ固定用治具30が表面2に接しないような長さの長ナット47を螺合させ、長ナット47に突起42を固定してもよい。
【0037】
光ファイバ設置工程では、光ファイバ10を1周以上の巻数で光ファイバ巻付部32の側面32aに沿わせて巻き付けることで、固定部21を構成する。これにより、固定用治具30に光ファイバ10が固定される。このような光ファイバ設置工程によれば、固定部21では、巻き付けによって光ファイバ10の張力による応力の方向が変化し、光ファイバ10と光ファイバ巻付部32の側面32aとの間の摩擦によって光ファイバ10に発生する応力が小さくなる。よって、互いに隣り合う一対の固定部21の間にひび割れ3が発生し非固定部22の光ファイバ10に引張力が作用しても、光ファイバ10の光ファイバ巻付部32の側面32aに対する滑りを小さくすることができる。なお、光ファイバ巻付部32の側面32aと光ファイバ10との間の摩擦係数は、特に限定されない。光ファイバ巻付部32の側面32aに光ファイバ10を接着剤で固定してもよい。
【0038】
光ファイバ設置工程では、固定部に隣接する非固定部の光ファイバにプレテンションを付与する。光ファイバ設置工程では、光ファイバの弾性係数、光ファイバの断面積、光ファイバと光ファイバ巻付部との摩擦係数、非固定部の光ファイバにて想定される想定歪み、及び、キャプスタン方程式を用いてプレテンションの導入量(大きさ)と光ファイバ巻付部32における光ファイバ10の巻数を算出する。
図7は、キャプスタン方程式を用いた演算を説明するための図である。キャプスタン方程式は、ベルト摩擦方程式のことである。プレテンションは、光ファイバ巻付部32に光ファイバ10を巻き付ける際にはじめに与える引張力を意味する。
【0039】
図7において、光ファイバ巻付部32がキャプスタンに相当すると仮定する。光ファイバ巻付部32に巻かれた光ファイバ10について、光ファイバ10側に加わる張力Tloadと光ファイバ巻付部32の反対側で生じる張力Tholdとの関係について、光ファイバ10と光ファイバ巻付部32の側面32aとの間の摩擦係数をμとし、光ファイバ巻付部32に巻かれた光ファイバ10ののべ角度をφ(ラジアン)とすると、下記式(2)の関係が成り立つ。光ファイバ設置工程では、下記式(2)を用いて、光ファイバ10の設置時の非固定部22におけるプレテンションの導入量と光ファイバ巻付部32における光ファイバ10の巻数を設定する。eは自然対数である。
Tload=Thold×e
(μ×φ)・・・(2)
【0040】
光ファイバ10の設置時に非固定部22にてプレテンションεtを発生させることを想定すると、光ファイバ10の弾性係数E、光ファイバ10の断面積Aとおくと、上式(2)の右辺のTholdは下式(3)で表される。
Thold=εt×E×A・・・(3)
【0041】
光ファイバ10と光ファイバ巻付部32の側面32aとの間の摩擦係数をμとし、巻数をnとすると、上式(2)の左辺のTloadは、下式(4)で表される。
Tload=Thold×e(μ×2πn)・・・(4)
【0042】
ひび割れ3の発生によって非固定部22の光ファイバ10に発生する引張りひずみをεdとすると、引張りひずみと光ファイバ10の弾性係数と光ファイバ10の断面積との積が張力Tloadより大きくなることで、光ファイバ10と光ファイバ巻付部32の側面32aとの間での滑りが発生する。そこで、下式(5)の関係が成立するように、プレテンションの導入量及び巻数を設定する。εdは、非固定部22の光ファイバ10にて想定される想定歪みに相当する。
Tload>εd×E×A・・・(5)
【0043】
上式(5)の左辺のTloadに上式(3)を代入すると、下式(6)が得られる。
Tload=Thold×e(μ×2πn)
=(εt×E×A)×e(μ×2πn)・・・(6)
【0044】
よって、上式(5)は下式(7)のように変形することができる。
(εt×E×A)×e(μ×2πn)>εd×E×A・・・(7)
【0045】
上式(7)において、一例として、光ファイバ10の弾性係数Eを5000N/mm
2とし、光ファイバ10の断面積Aを0.64mm
2とし、光ファイバ10と光ファイバ巻付部32の側面32aとの間の摩擦係数μを0.4とした場合において、プレテンションの導入量εt及び巻数nとパラメータとしたときの固定部21で滑りが発生する非固定部22の光ファイバ10の歪みの関係を下記表1に示す。下記表1において、例えば、非固定部22の長さが200mmの場合で、ひび割れ幅5mmを計測するためには、25000μ以上の歪みを固定部21で滑りなく計測できるように、プレテンションの導入量εtを4000μ以上、且つ、巻数nを1回以上と設定してもよいし、巻数nを2回以上と設定してもよい。
【表1】
【0046】
なお、非固定部22で圧縮歪みも計測する場合、圧縮歪みによってプレテンションが緩和される範囲内で、圧縮歪みも計測可能である。そのためには、光ファイバ設置工程において、プレテンションの導入量を、コンクリート1が所定の条件で圧縮された際に生じると想定される想定圧縮歪みの大きさ以上とする。所定の条件は、例えば、コンクリート1の供用中に作用することが想定される最大の圧縮力の条件とすることができる。この場合の想定圧縮歪みは、最大の圧縮力で圧縮された際に生じると想定される圧縮歪みの大きさを意味する。
【0047】
そして、検出工程において、コンクリート1が圧縮されて生じるプレテンションの緩和量に基づいて、コンクリート1の圧縮歪みを計測する。プレテンションの緩和量は、プレテンションの導入量に等しかった光ファイバ10の引張り歪みが、コンクリート1の供用中に作用する圧縮力によって減少した減少量を意味し、コンクリート1の圧縮歪みに対応する。プレテンションの緩和量は、相対変位検出工程で検出した光ファイバ10の歪みをプレテンションの導入量から減算することで算出されてもよい。
【0048】
以上説明したようなコンクリート表面の相対変位の検出方法によれば、柱状の光ファイバ巻付部32を含む固定用治具30がコンクリート1の表面2に固定される。光ファイバ10は、1周以上の巻数で光ファイバ巻付部32の側面32aに沿わせて巻き付けられる。よって、例えば光ファイバの延在方向が光ファイバの敷設方向に沿った状態で光ファイバを接着剤等で点付け固定しただけの場合と比べて、光ファイバ10がコンクリート1の表面2に対して相対的にずれにくいように、固定部21が構成される。これにより、ひび割れ3の幅に応じた大きさの歪みと比べて小さい歪みが非固定部22の光ファイバ10に生じることを抑制できる。すなわち、本発明によって、光ファイバ10の固定部21での確実な固定が期待できるため、光ファイバ10を一定間隔で固定してひび割れ3の幅を計測する場合にひび割れ3の幅が大きくなっても、より適切にひび割れ3の幅を算出することができる。よって、コンクリート1の表面2の光ファイバ10に沿う相対変位としてのひび割れ3の幅をより精度良く検出することができる。
【0049】
光ファイバ設置工程では、固定部21に隣接する非固定部22の光ファイバ10にプレテンションを付与している。これにより、光ファイバ10と光ファイバ巻付部32との間で光ファイバ10の滑りが生じにくくなる。
【0050】
光ファイバ設置工程では、光ファイバ10の弾性係数、光ファイバ10の断面積、光ファイバ10と光ファイバ巻付部32との摩擦係数、非固定部22の光ファイバ10にて想定される想定歪み、及び、キャプスタン方程式を用いてプレテンションの導入量及び巻数を算出する。これにより、非固定部22の光ファイバ10にて想定される想定歪み(引張り歪み)が生じたとしても光ファイバ10と光ファイバ巻付部32との間で光ファイバ10の滑りが生じないように、プレテンションの導入量及び巻数を求めることができる。
【0051】
光ファイバ設置工程では、プレテンションの導入量を、コンクリート1が所定の条件で圧縮された際に生じると想定される想定圧縮歪みの大きさ以上とする。検出工程では、コンクリート1が圧縮されて生じるプレテンションの緩和量に基づいて、コンクリート1の圧縮歪みを計測する。これにより、プレテンションの導入量の範囲でコンクリート1の圧縮歪みを計測することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0053】
例えば、固定用治具は、光ファイバ巻付部の側面をコンクリートの表面に対して相対的に変位させる側面変位部を有していてもよい。
【0054】
具体的には、
図8(a)は、側面変位部を有する固定用治具の第1の例を示す平面図である。
図8(b)は、
図8(a)の側面変位部による側面の変位例を示す平面図である。
図8(c)は、
図8(b)のc-c線に沿っての断面図である。
図8(a)~
図8(c)には、固定用治具の光ファイバ巻付部の第1の変形例が図示されている。
【0055】
図8(a)~
図8(c)の固定用治具50は、側面変位部52を有している。側面変位部52は、光ファイバ10のプレテンションを調整するように固定用治具50の光ファイバ巻付部51の側面51aを変位させるための機構である。側面変位部52は、長方形板53と、円形突起54と、締結部材55と、を含む。長方形板53は、固定用治具50の基部である。長方形板53には、雌ネジが形成された一対のタップ孔53aが形成されている。円形突起54は、固定用治具50の光ファイバ巻付部であり、例えば円柱状を呈している。円形突起54には、一対の長孔54aが形成されている。一対の長孔54aの長手方向は、円形突起54の断面の円周方向に沿っている。円形突起54の一対の長孔54aには、それぞれ締結部材55のボルトが挿通され、長方形板53のタップ孔53aの雌ネジにそれぞれ螺合する。長方形板53と円形突起54とは、締結部材55を緩めた状態で相対的に回転可能になっている。締結部材55を緩めた状態で光ファイバ10のプレテンションを調整した後、締結部材55を締めた状態とすることで、長方形板53と円形突起54とが相対的に回転しないように固定される。
【0056】
このように、光ファイバ設置工程では、柱状の円形突起54を含む固定用治具50をコンクリート1の表面2に固定し、光ファイバ10を1周以上の巻数で円形突起54の側面51aに沿わせて巻き付けることで、固定部21を構成する。そして、光ファイバ設置工程では、側面変位部52によって側面51aをコンクリート1の表面2に対して相対的に変位させることで、固定部21に隣接する非固定部22の光ファイバ10にプレテンションを付与する。
【0057】
図9(a)は、側面変位部を有する固定用治具の第2の例を示す平面図である。
図9(b)は、
図9(a)の側面変位部による側面の変位例を示す平面図である。
図9(c)は、
図9(b)のc-c線に沿っての断面図である。
図9(a)~
図9(c)には、固定用治具の光ファイバ巻付部の第2の変形例が図示されている。
【0058】
図9(a)~
図9(c)の固定用治具60は、側面変位部62を有している。側面変位部62は、光ファイバ10のプレテンションを調整するように固定用治具60の光ファイバ巻付部61の側面61aを変位させるための機構である。側面変位部62は、長方形板63と、円形突起64と、締結部材65と、を含む。長方形板63は、固定用治具60の基部である。長方形板63には、雌ネジが形成された一対のタップ孔63aが形成されている。円形突起64は、固定用治具60の光ファイバ巻付部であり、例えば円柱状を呈している。円形突起64には、一対の長孔64aが形成されている。一対の長孔64aの長手方向は、光ファイバ10の敷設方向に沿っている。円形突起64の一対の長孔64aには、それぞれ締結部材65のボルトが挿通され、長方形板63のタップ孔63aの雌ネジにそれぞれ螺合する。長方形板63と円形突起64とは、締結部材65を緩めた状態で光ファイバ10の敷設方向に沿って相対的にスライド可能になっている。締結部材65を緩めた状態でプレテンションを調整した後、締結部材65を締めた状態とすることで、長方形板63と円形突起64とが光ファイバ10の敷設方向に沿って相対的にスライドしないように固定される。
【0059】
このように、光ファイバ設置工程では、柱状の円形突起64を含む固定用治具60をコンクリート1の表面2に固定し、光ファイバ10を1周以上の巻数で円形突起64の側面61aに沿わせて巻き付けることで、固定部21を構成する。そして、光ファイバ設置工程では、側面変位部62によって側面61aをコンクリート1の表面2に対して相対的に変位させることで、固定部21に隣接する非固定部22の光ファイバ10にプレテンションを付与する。
【0060】
図10(a)は、側面変位部を有する固定用治具の第3の例を示す平面図である。
図10(b)は、
図10(a)の側面変位部による側面の変位例を示す平面図である。
図10(c)は、
図10(b)のc-c線に沿っての断面図である。
図10(a)~
図10(c)には、固定用治具の光ファイバ巻付部の第3の変形例が図示されている。
【0061】
図10(a)~
図10(c)の固定用治具70は、側面変位部72を有している。側面変位部72は、光ファイバ10のプレテンションを調整するように固定用治具70の光ファイバ巻付部71の側面75aを変位させるための機構である。側面変位部72は、長方形板73と、円形突起75と、締結部材77と、を含む。長方形板73は、固定用治具70の基部である。長方形板73には雌ネジが形成された一組のタップ孔74が形成されている。一組のタップ孔74は、円形突起75の中央に対応して位置するセンター孔74aと、センター孔74aを中心とした所定半径の仮想円の周方向に沿って並ぶ4つのタップ孔74bと、を含む。円形突起75は、固定用治具70の光ファイバ巻付部であり、例えば円柱状を呈している。円形突起75は、円形突起75の断面の円周方向に4分割(例えば4等分)され、4つの扇形突起76を有している。4つの扇形突起76のそれぞれの中央部には、径方向に沿って延びる長孔76aが形成されている。4つの扇形突起76の長孔76aは、4つの扇形突起76を寄せ集めて1つの円形突起としたときに、センター孔74aを中心として放射状に延在する。4つの扇形突起76の長孔76aには、それぞれ締結部材77のボルトが挿通され、長方形板73のタップ孔74bの雌ネジにそれぞれ螺合する。長方形板73と扇形突起76とは、締結部材77を緩めた状態でセンター孔74aを中心とした円の径方向に沿って相対的にスライド可能になっている。
【0062】
4つの扇形突起76には、寄せ集めて1つの円形突起としたときに、その中央部に円錐の側面のような内周面が形成されるテーパ面76bがそれぞれ形成されている。この中央部には、4つの扇形突起76を寄せ集めた1つの円形突起と同軸に、円錐状の傾斜面を有するテーパボルト78が配置される。テーパボルト78は、その傾斜面がテーパ面76bと当接した状態で、長方形板73のセンター孔74aの雌ネジに螺合する。テーパボルト78が締め込まれると、傾斜面がテーパ面76bを押すことで、4つの扇形突起76をセンター孔74aを中心とした円の径方向に沿ってスライドさせる。円形突起75の周囲には、4つの扇形突起76にそれぞれ対応して4つのガイド部79が配置されている。4つのガイド部79は、平面視で円弧状に延びる板状の壁である。4つの扇形突起76の外周面と、4つのガイド部79の内周面が互いに対向している。テーパボルト78が最大限に締め込まれると、4つの扇形突起76がセンター孔74aを中心とした円の径方向に沿って最外部までスライドし、4つのガイド部79と略当接する。4つの扇形突起76の外周面には、光ファイバ10を配置する凹部75bが形成されている。締結部材77を緩めた状態でテーパボルト78の緩める量に応じて光ファイバ10のプレテンションを調整した後、締結部材77を締めた状態とすることで、長方形板73と円形突起75とが光ファイバ10の敷設方向に沿って相対的にスライドしないように固定される。
【0063】
このように、光ファイバ設置工程では、柱状の円形突起75を含む固定用治具70をコンクリート1の表面2に固定し、光ファイバ10を1周以上の巻数で円形突起75の側面75aに沿わせて巻き付けることで、固定部21を構成する。そして、光ファイバ設置工程では、側面変位部72によって側面75aをコンクリート1の表面2に対して相対的に変位させることで、固定部21に隣接する非固定部22の光ファイバ10にプレテンションを付与する。
【0064】
図8~
図10に示される第1~第3の変形例によれば、固定用治具50,60,70は、光ファイバ巻付部51,61,71の側面51a,61a,75aをコンクリート1の表面2に対して相対的に変位させる側面変位部52,62,72を有している。光ファイバ設置工程では、側面変位部52,62,72によって側面51a,61a,75aをコンクリート1の表面2に対して相対的に変位させることで、固定部21に隣接する非固定部22の光ファイバ10プレテンションを付与する。これにより、側面変位部52,62,72によって側面51a,61a,75aをコンクリート1の表面2に対して相対的に変位させる量を調整することで、プレテンションを容易に調整することができる。
【0065】
上記実施形態では、非固定部22の光ファイバ10に付与するプレテンションはキャプスタン方程式を用いて算出したが、この例に限定されない。公知のシミュレーション等の種々の手法により、プレテンションが算出されてもよい。
【0066】
ちなみに、
図4の例において、コンクリート1に設けた直線状の凹み内へ光ファイバ10を設置する場合、光ファイバ設置工程は、次のようにしてもよい。例えば、コンクリート1の打設前に、型枠にチューブ等の長尺部材を設置する。その後、コンクリート1を打設する。コンクリート1を養生する際に長尺部材を除去すると、直線状の凹み(溝)が現れる。この溝の中に、光ファイバ10及び固定用治具30を配置する。つまり、溝の幅が固定用治具30の大きさより広くなるように、長尺部材を選定する。溝の内部に、上述したような種々の光ファイバ設置工程により、固定用治具30を用いて光ファイバ10を設置する。その後、溝をコンクリートで埋め戻す。埋め戻し材としては、コンクリート1のひび割れに注入するために用いられる無機系のモルタル材を用いることができる。
【0067】
上記実施形態では、コンクリートの表面の光ファイバに沿う相対変位として、鉄筋4や鋼材などの補強材が埋設されたコンクリート1の表面2に生じたひび割れ3の幅を例示したが、これに限定されない。変形例に係るコンクリート表面の相対変位の検出方法では、相対変位は、それぞれの端面が互いに対向するように隣り合う一対のコンクリート部材によって形成される目地部の目開き寸法であってもよい。この場合、コンクリート部材としては、例えば、プレキャストコンクリート(PCa)部材、ボックスカルバート等の函渠、等であってもよい。
【0068】
図11は、変形例に係るコンクリート表面の相対変位の検出方法が適用される目地部を示す斜視図である。
図11には、一対のコンクリート部材(コンクリート)81,82が示されている。一対のコンクリート部材81,82は、それぞれの端面81a,82aが互いに対向するように隣り合っている。一対のコンクリート部材81,82は、目地部83を形成する。目地部83は、一対のコンクリート部材81,82の端面81a,82a同士によって挟まれる継ぎ目の領域を意味する。目地部83では、端面81a,82a同士の離間距離が目開き寸法となる。
【0069】
光ファイバ設置工程では、目地部83の延在方向(端面81a,82aの縁81b,82bの延在方向)と光ファイバ10の軸方向とが交差するように、一対のコンクリート部材81,82の表面81c,82cに光ファイバ10が設置される。光ファイバ設置工程では、複数の固定用治具30をコンクリート部材81,82の表面81c,82cに固定する。複数の固定用治具30は、光ファイバ10の敷設方向に沿って並ぶようにコンクリート部材81,82の表面81c,82cに固定される。複数の固定用治具30は、一定間隔でコンクリート部材81,82の表面81c,82cに固定されている。これにより、固定用治具30がコンクリート部材81,82の表面81c,82cに固定された部位に固定部21が形成される。また、固定用治具30がコンクリート部材81,82の表面81c,82cに固定されていない部位、及び、目地部83に非固定部22が形成される。つまり、目地部83に非固定部22が存在すると共に、当該目地部83を挟むように、当該非固定部22に隣接する一対の固定部が21が存在することとなる。
【0070】
光ファイバ設置工程でコンクリート部材81,82の表面81c,82cに設置された光ファイバ10のうち目地部83に存在する非固定部22に生じた歪みに基づいて、コンクリート部材81,82の表面81c,82cの光ファイバ10に沿う相対変位として、目地部83の目開き寸法を検出する相対変位検出工程(検出工程)が行われる。端面81a,82a同士が互いに遠ざかるように一対のコンクリート部材81,82が変位すると、目地部83は開いていく。コンクリート部材81,82の表面81c,82cにおいて、目地部83が開いていく場合は、目地部83に存在する非固定部22を挟む一対の固定部21間の距離が目地部83の目開き寸法の分だけ光ファイバ10に沿って相対変位する。そのため、コンクリート部材81,82の表面81c,82cの固定部21を標点とした非固定部22での光ファイバ10の伸びが、目地部83の目開き寸法に対応する。
【0071】
変形例に係るコンクリート表面の相対変位の検出方法によれば、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。すなわち、目地部83の目開き寸法に応じた大きさの歪みと比べて小さい歪みが非固定部22の光ファイバ10に生じることを抑制できる。すなわち、本発明によって、光ファイバ10の固定部21での確実な固定が期待できるため、光ファイバ10を一定間隔で固定して目地部83の目開き寸法を計測する場合に目地部83の目開き寸法が大きくなっても、より適切に目地部83の目開き寸法を算出することができる。よって、コンクリート部材81,82の表面81c,82cの光ファイバ10に沿う相対変位としての目地部83の目開き寸法をより精度良く検出することができる。
【0072】
なお、以下、本開示の種々の態様の構成要件を記載する。
<発明1>
コンクリートの表面に設置された光ファイバに生じた歪みに基づいて前記コンクリートの前記表面の前記光ファイバに沿う相対変位を検出するコンクリート表面の相対変位の検出方法であって、
前記光ファイバが、前記コンクリートの前記表面に固定された固定部と、前記コンクリートの前記表面に固定されていない非固定部と、を交互に有するように前記コンクリートの前記表面に前記光ファイバを設置する光ファイバ設置工程と、
前記非固定部のそれぞれにおける前記光ファイバに生じた前記歪みに基づいて、前記コンクリートの前記表面の前記光ファイバに沿う相対変位を検出する検出工程と、
を備え、
前記光ファイバ設置工程では、柱状の光ファイバ巻付部を含む固定用治具を前記コンクリートの前記表面に固定し、前記光ファイバを1周以上の巻数で前記光ファイバ巻付部の側面に沿わせて巻き付けることで、前記固定部を構成する、コンクリート表面の相対変位の検出方法。
<発明2>
前記光ファイバ設置工程では、前記固定部に隣接する前記非固定部の前記光ファイバにプレテンションを付与する、発明1に記載のコンクリート表面の相対変位の検出方法。
<発明3>
前記光ファイバ設置工程では、前記光ファイバの弾性係数、前記光ファイバの断面積、前記光ファイバと前記光ファイバ巻付部との摩擦係数、前記非固定部の前記光ファイバにて想定される想定歪み、及び、キャプスタン方程式を用いて前記プレテンションの大きさ及び前記巻数を算出する、発明2に記載のコンクリート表面の相対変位の検出方法。
<発明4>
前記光ファイバ設置工程では、前記プレテンションの大きさを、前記コンクリートが所定の条件で圧縮された際に生じると想定される想定圧縮歪みの大きさ以上とし、
前記検出工程では、前記コンクリートが圧縮されて生じる前記プレテンションの緩和量に基づいて、前記コンクリートの圧縮歪みを計測する、発明2又は3に記載のコンクリート表面の相対変位の検出方法。
<発明5>
前記固定用治具は、前記光ファイバ巻付部の前記側面を前記コンクリートの前記表面に対して相対的に変位させる側面変位部を有し、
前記光ファイバ設置工程では、前記側面変位部によって前記側面を前記コンクリートの前記表面に対して相対的に変位させることで、前記固定部に隣接する前記非固定部の前記光ファイバにプレテンションを付与する、発明1~4の何れか一項に記載のコンクリート表面の相対変位の検出方法。
【符号の説明】
【0073】
1…コンクリート、2…表面、3…ひび割れ、10…光ファイバ、21…固定部、22…非固定部、30,40,50,60,70…固定用治具、32,35,41,51,61,71…光ファイバ巻付部、32a,41a,51a,61a,75a…側面、52,62,72…側面変位部、A…断面積、E…弾性係数、n…巻数、εt…プレテンション、μ…摩擦係数。