(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011394
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ノック式筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/08 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
B43K24/08 110
B43K24/08 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113338
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 昂正
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353HA01
2C353HC04
2C353HG04
(57)【要約】
【課題】リフィルにより強い衝撃を与えることが可能なノック式筆記具を提供する。
【解決手段】ノック式筆記具1が、軸筒4と、リフィル50と、軸筒の内面に周方向に沿って設けられた突起状の外カムであって、前端面から後方に向かって延在する第1溝21と、前端面から後方に向かって延在して第2斜面24で終端する第2溝23とが形成された外カム20と、前方に面したカム面34を備えたノック部材30と、第1溝内及び第2溝内を前後方向に移動可能に構成された内カムであって、後方に面して外カム及び前カム面と協働するカム受け面44を備えた内カム43を有する回転子40と、を具備し、非筆記状態では、内カムが第1溝内に配置され、筆記状態では、内カムが第2溝内に配置され且つ回転子が第2斜面24と係止している。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、
該軸筒内に配置された筆記体と、
該筆記体を後方に付勢する前スプリングと、
該軸筒の内面に周方向に沿って設けられた突起状の外カムであって、前端面から後方に向かって延在する第1溝と、前端面から後方に向かって延在して係止面で終端する第2溝とが形成された外カムと、
前方に面したカム面を備えたノック部材と、
前記第1溝内及び前記第2溝内を前後方向に移動可能に構成された内カムであって、後方に面して前記外カム及び前記カム面と協働するカム受け面を備えた内カムを有する回転子と、を具備し、
非筆記状態では、前記内カムが前記第1溝内に配置され、筆記状態では、前記内カムが前記第2溝内に配置され且つ前記回転子が前記係止面と係止していることを特徴とするノック式筆記具。
【請求項2】
前記ノック部材を後方に付勢する後スプリングをさらに具備する請求項1に記載のノック式筆記具。
【請求項3】
前記ノック部材の前記カム面に、前記外カムと前記内カムとの協働による前記回転子の回転を係止する係止部が設けられている請求項1又は2に記載のノック式筆記具。
【請求項4】
前記筆記体が、筆記部であるボールペンチップと、インクを収容するインク収容管と、前記ボールペンチップと前記インク収容管との間に設けられた継手とを有し、前記継手の内部に複数の攪拌部材が配置されている請求項1又は2に記載のノック式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノック式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
軸筒の後端部に操作部であるノック部材を有し、軸筒内に配置されたスプリングの付勢力に抗してノック部材を前方に押圧するノック操作を行うことによって、インクを収容したリフィル、すなわち筆記体のペン先である筆記部が軸筒の先端から突出した筆記状態に切り替わり、再度のノック操作によって筆記部が軸筒内に没入した非筆記状態に切り替えられる、いわゆるノック式筆記具が公知である(例えば、特許文献1)。
【0003】
ノック式筆記具では一般に、ノック操作による筆記状態及び非筆記状態の切り替え時、特に筆記状態から非筆記状態への切り替え時に、後退するリフィルが停止するときの衝撃によって筆記先端を介してインク内部に空気が入る場合がある。その結果、筆跡のかすれ等の問題が生じる。
【0004】
そこで特許文献1に記載のノック式筆記具では、リフィルを段階的に後退させることによって、リフィルに加わる衝撃を緩和している。また、特許文献2及び特許文献3にも、リフィルに加わる衝撃を緩和する発明が開示されている。
【0005】
ところで、剪断速度に応じて粘度が低下する剪断減粘性を備えた高粘度ゲルインクを収容したリフィルを有する筆記具が公知である(例えば、特許文献4)。特許文献4に記載の筆記具では、リフィルを変形させることによって内部のインクを攪拌している。それによって、インクの粘度を低下させ、インクの流出性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-45825号公報
【特許文献2】特開平10-000895号公報
【特許文献3】国際公開第99/24266号
【特許文献4】特開2013-193272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、ノック式筆記具では上述のとおり問題視されるようなリフィルに加わる衝撃を、剪断減粘性を備えた高粘度ゲルインクの流出性向上のために利用できることを見いだした。すなわち、ノック式筆記具では、高粘度ゲルインクの流出性向上、その他インクの攪拌等の目的で、適度な衝撃が利用できる場合がある。
【0008】
本発明は、リフィルにより強い衝撃を与えることが可能なノック式筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、軸筒と、該軸筒内に配置された筆記体と、該筆記体を後方に付勢する前スプリングと、該軸筒の内面に周方向に沿って設けられた突起状の外カムであって、前端面から後方に向かって延在する第1溝と、前端面から後方に向かって延在して係止面で終端する第2溝とが形成された外カムと、前方に面したカム面を備えたノック部材と、前記第1溝内及び前記第2溝内を前後方向に移動可能に構成された内カムであって、後方に面して前記外カム及び前記カム面と協働するカム受け面を備えた内カムを有する回転子と、を具備し、非筆記状態では、前記内カムが前記第1溝内に配置され、筆記状態では、前記内カムが前記第2溝内に配置され且つ前記回転子が前記係止面と係止していることを特徴とするノック式筆記具が提供される。
【0010】
前記ノック部材を後方に付勢する後スプリングをさらに具備していてもよい。前記ノック部材の前記カム面に、前記外カムと前記内カムとの協働による前記回転子の回転を係止する係止部が設けられていてもよい。前記筆記体が、筆記部であるボールペンチップと、インクを収容するインク収容管と、前記ボールペンチップと前記インク収容管との間に設けられた継手とを有し、前記継手の内部に複数の攪拌部材が配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、リフィルにより強い衝撃を与えることが可能なノック式筆記具を提供するという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態によるノック式筆記具の非筆記状態の縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のノック式筆記具の筆記状態の縦断面図である。
【
図6】
図6は、
図1のノック式筆記具の非筆記状態から筆記状態への切り替えを示すノック機構の模式図である。
【
図7】
図7は、
図1のノック式筆記具の筆記状態から非筆記状態への切り替えを示すノック機構の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に亘り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0014】
図1は、本発明の実施形態によるノック式筆記具1の非筆記状態の縦断面図であり、
図2は、
図1のノック式筆記具1の筆記状態の縦断面図である。
【0015】
ノック式筆記具1は、筒状に形成され且つ前軸2及び後軸3を備えた軸筒4と、軸筒4内に配置され且つ一端に筆記部であるボールペンチップ51を備えた筆記体であるリフィル50と、リフィル50を後方へ付勢する前スプリング5と、軸筒4の後端部に配置されたノック機構10とを有している。本明細書では、ノック式筆記具1の軸線方向において、ボールペンチップ51側を「前」側と規定し、ボールペンチップ51側とは反対側を「後」側と規定する。
【0016】
ノック機構10は、軸筒4、具体的には後軸3の内周面に設けられた外カム20と、円筒状に形成されたノック部材30と、ノック部材30の前方に配置される円筒状の回転子40とを有している。軸筒4の後端部には、ノック部材30を後方へ付勢する後スプリング6が配置されている。回転子40は、リフィル50を介した前スプリング5の付勢力によって、常に後方に付勢されている。後軸3の後端部には天冠7が嵌合し、ノック部材30は、天冠7の中心に形成された穴を介して軸筒4から後方に向かって突出する。
【0017】
図3は、後軸3の縦断面図である。
図3において、下方がノック式筆記具1の前方である。後軸3の内周面には、周方向に沿って突起状の外カム20が設けられている。外カム20には、前端面から後方に向かって延在し且つ中心軸線周りに対称位置に配置された2つの第1溝21が形成されている。第1溝21は、後方に設けられた第1斜面22で終端する。2つの第1溝21によって画成された外カム20の突起状の部分には、前端面から後方に向かって延在し且つ中心軸線回りに対称位置に配置された2つの第2溝23が形成されている。第2溝23は、後方に設けられた第2斜面24で終端する。
【0018】
第1斜面22及び第2斜面24はそれぞれ、第1の係止面及び第2の係止面を構成する。第1斜面22及び第2斜面24は、周方向に沿って傾斜しており、同一の傾きを有している。第2斜面24は、第1斜面22よりも前方に配置されている。要するに、外カム20の最前端からの長さについて、第2溝23は、第1溝21よりも短く形成されている。言い換えると、第1溝21及び第2溝23は、軸線方向における段差であり、段差の高さについて、第2溝23の方が、第1溝21よりも短く形成されている。
【0019】
第2溝23の両側における外カム20の前端面には、第3斜面25及び第4斜面26が形成されている。第3斜面25及び第4斜面26は、周方向に沿って傾斜しており、同一の傾きを有している。また、第3斜面25及び第4斜面26は、周方向に沿って第1斜面22及び第2斜面24と同一の傾きを有していることが好ましい。外カム20よりも後方の後軸3の内周面には、後方に向かって延在し且つ中心軸線周りに対称位置に配置された2つのガイド溝27が形成されている。外カム20の後端面には、環状の支持面28が形成されている。
【0020】
図4は、ノック部材30の斜視図である。
図4において、下方がノック式筆記具1の前方である。ノック部材30の前側の外周面には、2つの係止突起部31が中心軸線周りに対称位置に設けられている。係止突起部31の各々が、後軸3のガイド溝27内に配置されることによって、ノック部材30の中心軸線周りの回転を規制しつつ前後方向の移動を許容する。すなわち、係止突起部31の各々は、ノック操作に応じて、ガイド溝27内を前後方向に移動可能に構成されている。
【0021】
ノック部材30の前端面には、後方に向かって延在する4つの凹部32が周方向に沿って等間隔に形成されている。ノック部材30の前端部には、4つの凹部32によって突起状の4つの脚部33が画成されている。ノック部材30の前端面、すなわち脚部33の各々の前端面には、カム面34が形成されている。カム面34は、周方向に沿った斜面状の第1カム面35及び第2カム面36と、第1カム面35及び第2カム面36を接続する段差状の係止部37とを有している。第1カム面35及び第2カム面36は、同一の傾きを有している。また、第1カム面35及び第2カム面36は、外カム20の第3斜面25及び第4斜面26と同一の傾きを有している。
【0022】
図1及び
図2に示されるように、後スプリング6は、軸筒4の後端部の内部においてノック部材30を包囲するように配置される。後スプリング6の前端部は、後軸3の支持面28(
図3)によって支持され、後スプリング6の後端部は、ノック部材30の係止突起部31の前端面によって支持される。それによって、ノック部材30は、後スプリング6によって常に後方に付勢されている。すなわち、ノック部材30は、前方に押圧されているとき以外は
図1及び
図2に示されるような後退限に位置している。ノック部材30の後方への移動は、係止突起部31の後端面が、後軸3の内部に挿入された天冠7の前端面と当接することによって規制される。
【0023】
図5は、回転子40の斜視図である。
図5において、下方がノック式筆記具1の前方である。回転子40は、筒状のノック部材30の前端部から内部に挿入可能な挿入部41と、挿入部41の前方に配置され且つ挿入部41より大径の受容部42とを有している。受容部42の前端部には、前スプリング5によって後方に付勢されたリフィル50の後端部が挿入される。受容部42は、リフィル50の後端部と一体的に嵌合してもよく、クリアランスを備えるように緩く嵌合してもよい。挿入部41の外周面には、受容部42の環状の後端面から後方に向かって延在し且つ中心軸線回りに対称位置に配置された突起状の2つの内カム43が形成されている。内カム43の後端面には、ノック部材30のカム面34、さらには外カム20と協働するように構成された、周方向に沿った斜面状のカム受け面44が形成されている。カム受け面44は、ノック部材30のカム面34、すなわち第1カム面35及び第2カム面36と同一の傾きを有しており、さらには外カム20の第1斜面22、第2斜面24、第3斜面25及び第4斜面26と同一の傾きを有している。
【0024】
ノック操作は、前スプリング5及び後スプリング6の付勢力に抗してノック部材30を前方に向かって押圧して所定位置まで前進させ、次いで押圧を解除することによって行われる。ノック操作によるノック部材30の前進に伴い、回転子40が押圧されて軸筒4内を前進する。ノック操作によって、回転子40が外カム20のより前方で係止してリフィル50のボールペンチップ51が軸筒4の先端から突出した筆記状態(
図2)と、回転子40が外カム20のより後方で係止してボールペンチップ51が軸筒4内に没入した非筆記状態(
図1)とが切り替えられる。
【0025】
図6は、
図1のノック式筆記具1の非筆記状態から筆記状態への切り替えを示すノック機構10の模式図であり、
図7は、
図1のノック式筆記具1の筆記状態から非筆記状態への切り替えを示すノック機構10の模式図である。具体的には、
図6及び
図7は、外カム20を周方向に展開したものに対して、ノック部材30のカム面34及び回転子40の内カム43の位置を示したものである。回転子40は、ノック操作毎に中心軸線周りに回転することから、
図6及び
図7において右から左へ移動する。
図6及び
図7において、下方がノック式筆記具1の前方である。
【0026】
図6を参照すると、
図6(A)はノック式筆記具1の非筆記状態を示している。回転子40の内カム43は、外カム20の第1溝21内に配置され、回転子40は第1斜面22と係止している。すなわち、前スプリング5によって後方に付勢された回転子40及びリフィル50は、後退限に配置されている。ノック部材30は、後スプリング6によって後方へ移動しており、回転子40に当接していない。
【0027】
図6(A)に示された状態からノック操作によってノック部材30を前方へ移動させると、ノック部材30は、まず回転子40と当接し、その後に回転子40と共に前方へ移動する。このとき、ノック部材30のカム面34と、回転子40の内カム43のカム受け面44とが協働する。すなわち、カム面34の斜面状の第1カム面35が、斜面状のカム受け面44を押圧すると、ノック部材30に作用する前方への押圧力及び回転子40に作用する後方への付勢力によって周方向(図において左方向)の分力が生じる。回転子40は、周方向の分力によって中心軸線周りに回転しようとするが、内カム43の側面が第1溝21の側壁と当接し、回転子40の回転が規制される。なお、周方向における反対方向の分力によってノック部材30も中心軸線周りに回転しようとするが、ノック部材30の回転は、係止突起部31が後軸3のガイド溝27内に配置されていることによって常に規制されている。
【0028】
ノック部材30を、回転子40の内カム43が外カム20を越えるまで、そしてさらに前方へ移動させると(
図6(B))、回転子40の回転の規制が解除される。回転の規制が解除された瞬間、回転子40のカム受け面44が、ノック部材30のカム面34、具体的には第1カム面35に沿って滑り、回転子40を回転させる。回転子40の回転は、内カム43がノック部材30のカム面34に設けられた係止部37と係止することによって停止する(
図6(C))。
【0029】
次いで、ノック部材30に加わる押圧力が解除されると、前スプリング5の付勢力によってノック部材30及び回転子40が一体的に後方へ移動する。回転子40は、内カム43のカム受け面44が外カム20の第3斜面25に当接することで、一旦停止する。ノック部材30がさらに後方へ移動すると、回転子40の内カム43とノック部材30の係止部37との係止が解除される(
図6(D))。
【0030】
このとき、外カム20と、回転子40の内カム43のカム受け面44とが協働する。回転子40のカム受け面44は、回転子40に作用する後方への付勢力によって生じた周方向の分力によって外カム20の第3斜面25に沿って滑り、回転子40を回転させる。回転子40のカム受け面44が外カム20の第3斜面25を越えた瞬間、前スプリング5の付勢力によって内カム43が、外カム20の第2溝23内に侵入し、第2斜面24に衝突する(
図6(E))。なお、ノック部材30は、後スプリング6の付勢力によって後退限まで移動して停止する。
【0031】
回転子40の内カム43、具体的にはカム受け面44が外カム20の第2斜面24に衝突した後、カム受け面44は、周方向の分力によって外カム20の第2斜面24に沿って滑り、回転子40を回転させる(
図6(F))。回転子40の回転は、内カム43の側面が第2溝23の側壁と当接して規制され、ノック式筆記具1は筆記状態となる(
図6(G))。
【0032】
次に
図7を参照すると、
図7(A)は、ノック式筆記具1の筆記状態を示しており、
図6(G)と同一の図である。したがって、回転子40の内カム43は、外カム20の第2溝23内に配置され、回転子40は第2斜面24と係止している。
【0033】
図7(A)に示された状態からノック操作によってノック部材30を前方へ移動させると、ノック部材30は、まず回転子40と当接する(
図7(B))。このとき、ノック部材30のカム面34の第1カム面35が、第2溝23内に配置された内カム43のカム受け面44と当接する。このとき、ノック部材30のカム面34と、回転子40の内カム43のカム受け面44とが協働する。それによって、回転子40は、周方向の分力によって中心軸線周りに回転しようとするが、内カム43の側面が第2溝23の側壁と当接していることから、回転子40の回転が規制される。
【0034】
次いで、回転子40の内カム43が外カム20を越えるまで、そしてさらに前方へ移動させると(
図7(C))、回転子40の回転の規制が解除される。回転の規制が解除された瞬間、回転子40のカム受け面44が、ノック部材30のカム面34、具体的には第1カム面35に沿って滑り、回転子40を回転させる。回転子40の回転は、内カム43がノック部材30のカム面34に設けられた係止部37と係止することによって停止する。
【0035】
次いで、ノック部材30に加わる押圧力が解除されると、前スプリング5の付勢力によってノック部材30及び回転子40が一体的に後方へ移動する。回転子40は、内カム43のカム受け面44が外カム20の第4斜面26に当接することで、一旦停止する。ノック部材30がさらに後方へ移動すると、回転子40の内カム43とノック部材30の係止部37と係止が解除される(
図7(D))。
【0036】
回転子40のカム受け面44は、回転子40に作用する後方への付勢力によって生じた周方向の分力によって外カム20の第4斜面26に沿って滑り、回転子40を回転させる。回転子40のカム受け面44が外カム20の第4斜面26を越えた瞬間、前スプリング5の付勢力によって内カム43が、外カム20の第1溝21内に侵入し、第1斜面22に衝突する(
図7(E))。なお、ノック部材30は、後スプリング6の付勢力によって後退限まで移動して停止する。
【0037】
回転子40の内カム43、具体的にはカム受け面44が外カム20の第1斜面22に衝突した後、カム受け面44は、周方向の分力によって外カム20の第1斜面22に沿って滑り、回転子40を回転させる。回転子40の回転は、内カム43の側面が第1溝21の側壁と当接して規制され、ノック式筆記具1は非筆記状態となる(
図7(F))。
【0038】
ノック式筆記具1によれば、非筆記状態から筆記状態への切り替え時に第2溝23内に侵入した回転子40の内カム43に対して、第2斜面24との衝突による衝撃が加わる。この衝撃は、回転子40を介してリフィル50の内部に伝播し、インクを撹拌させることができる。インクを撹拌させることによって、インクの凝固等を防止することができる。なお、筆記状態から非筆記状態への切り替え時に第1溝21内に侵入した回転子40の内カム43に対して、第1斜面22との衝突による衝撃が加わる。この衝撃も同様に、回転子40を介してリフィル50の内部に伝播し、インクを撹拌させることができる。要するに、ノック式筆記具1によれば、リフィル50に対して従来のノック式筆記具よりも強い衝撃を与えることができる。
【0039】
特に、インクが剪断減粘性を備えた高粘度ゲルインクの場合、衝撃によってインクに対して剪断応力を作用させてインクの粘度を低下させ、インクの流出性を向上させることができる。高粘度ゲルインクは、一旦粘度が低下すると、再度元の粘度に復帰するまでに時間を要することから、ノック操作というノック式筆記具の使用の際に当然行う行為で以て、長時間の筆記を行ってもインクの流出性を安定的に維持することができる。
【0040】
ノック式筆記具1は後スプリング6を有していることから、ノック部材30は、回転子40とは独立して後方へ移動することができる。そのため、
図6(D)及び
図6(E)に示される回転子40の内カム43の第1溝21内への侵入及び衝突並びに
図7(D)及び
図7(E)に示される回転子40の内カム43の第2溝23内への侵入及び衝突のとき、ノック部材30が内カム43の後方への移動を阻害することはない。したがって、前スプリング5の付勢力による後方への移動のエネルギーを、より効率的にインクに対する衝撃に変換することができる。なお、前スプリング5をより強力なばねとすることによって、後スプリング6を省略してもよい。前スプリング5及び後スプリング6の付勢力に抗してノック操作を行うときのノック荷重は、5N以上とすることが好ましい。
【0041】
図1及び
図2に示されるように、リフィル50は、ボールペンチップ51と、インクを収容するインク収容管52と、ボールペンチップ51とインク収容管52との間に設けられた継手53とを有している。継手53の内部には、5つの金属製のボール54と、プレート55とが収容されている。ボール54及びプレート55は、攪拌部材である。複数のボール54及びプレート55は、継手53の内部においてインク中を浮遊し、インクを攪拌する。したがって、ボール54及びプレート55は、合計して2つ以上であることが好ましく、2つのボール54のみを有してプレート55を有していなくてもよく、1つのボール54及び1つのプレート55を有していてもよい。プレート55は、攪拌部材であると共に、ボール54がインクの流路を閉鎖するのを防止する。
【0042】
リフィル50に収容されるインクは、少なくとも着色剤、水、水溶性有機溶剤を含んでなる水性インクにおいて、炭素数1乃至6の直鎖又は側鎖アルキル基のヒドロキシルアミンを含んでなる筆記具用水性インクである。剪断減粘性付与剤を含んでなること、E型回転粘度計による100rpmにおけるインク粘度が20~200mPa・s(25℃)を示し、且つ、剪断減粘性指数が0.1~0.4とすることが好ましい。さらには、インク消費に伴って追従するインク逆流防止体を配置するタイプの筆記具に上記インクを充填してなるリフィルとすることが好ましい。
【0043】
上記ヒドロキシルアミンは、具体的には、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、N-メチルヒドロキシルアミン、N-(tert-ブチル)ヒドロキシルアミンのいずれかとし、インク組成中0.01~5重量%添加することができる。0.01重量%以下では所期の気泡発生抑止効果を得ることは困難であり、又、5重量%以下であれば所期の効果が十分に得られることと、他のインク効果を妨げるおそれがあるため、これ以上の添加を要しない。
【0044】
上記着色剤としては、水性系媒体に溶解又は分散可能な染料及び顔料がすべて使用可能であり、その具体例を以下に例示する。上記染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料等を使用することができる。
【0045】
顔料を分散する樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリル酸樹脂、マレイン酸樹脂、アラビアゴム、セルロース、デキストラン、ガゼイン等、及びそれらの誘導体、上記した樹脂の共重合体等が挙げられる。
【0046】
蛍光顔料としては、各種蛍光性染料を樹脂マトリックス中に固溶体化した合成樹脂微細粒子状の蛍光顔料が使用できる。また、二酸化チタン等の白色顔料、アルミニウム等の金属粉、パール顔料、金色、銀色のメタリック顔料、蓄光性顔料、香料又は香料カプセル顔料等を使用することもできる。上記顔料は一種又は二種以上を適宜混合して使用することができ、インク中1乃至25重量%、好ましくは2乃至15重量%の範囲で用いられる。具体的には、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、N-メチルヒドロキシルアミン、N-(tert-ブチル)ヒドロキシルアミンを例示できる。
【0047】
上記水溶性有機溶剤としては、水に相溶性のある従来汎用の溶剤が用いられ、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブタンジオール、ネオプレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。なお、上記水溶性有機溶剤は1種又は2種以上を併用することもでき、2~60重量%、好ましくは5~35重量%の範囲で用いられる。
【0048】
インクには、その他、必要に応じてpH調整剤、防腐剤又は防黴剤を添加することができる。
【0049】
上記pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、トリエタノールアミンやジエタノールアミン等の水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等が挙げられる。
【0050】
上記防腐剤又は防黴剤としては、石炭酸、1、2-ベンズイソチアゾリン-3-オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン等が挙げられる。
【0051】
インクには、その他、溶剤の浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン、アニオン、カチオン系界面活性剤、ジメチルポリシロキサン等の消泡剤を添加することもできる。また、耐乾燥性を妨げない範疇でアルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等の水溶性樹脂を1種又は2種以上添加したり、尿素、ノニオン系界面活性剤、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤を1種又は2種以上添加することもできる。
【0052】
インクの剪断減粘性とは静止状態又は応力の低い時は著しく高粘度で流動し難い性質を有し、応力が増大すると低粘度化して良流動性を示すレオロジー特性を言うものであり、チクソトロピー性あるいは擬似可塑性とも呼ばれる液性を意味している。よって、インクは筆記時の高剪断応力下においては三次元構造が一時的に破壊されインクの粘度が低下し、筆記先端部のインクは筆記に適した低粘度インクとなり、紙面に転移される。非筆記時にはインクの粘度が高くなり、インクの漏出を防止したり、インクの分離、逆流を防ぐことができる。また、インク物性を経時的に安定に保つことができる。
【0053】
特に、筆記先端部にボールを抱持したボールペンは、筆記時の高剪断応力下においてはボール近傍のインクが筆記に適した低粘度となり、ボールとボールハウスの間隙を毛細管力によって移動して紙面に転移されるインク特性が必要であり、また、非筆記時には、ボール近傍も含めてすべてのインクの粘度が高くなり、インクの漏出を防止したり、インクの分離、逆流を防止する必要があり、E型回転粘度計による100rpmにおけるインク粘度が20~200mPa・s(25℃)を示し、且つ、剪断減粘性指数が0.1~0.8を示すインクが好適である。
【0054】
上記剪断減粘性付与剤としては、水に可溶乃至分散性の物質が効果的であり、キサンタンガム、ウェランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100乃至800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万~15万の重合体、グリコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する増粘多糖類、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、無機質微粒子、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸アミド等のHLB値が8~12のノニオン系界面活性剤、ジアルキル又はジアルケニルスルホコハク酸の塩類等を例示でき、単独で又は混合して使用することができる。さらに、N-アルキル-2-ピロリドンとアニオン系界面活性剤の混合物、ポリビニルアルコールとアクリル系樹脂の混合物を用いることもできる。上記剪断減粘性付与剤は、インク中0.1~20重量%の範囲で用いることができる。
【0055】
インクには、その他、必要に応じて防錆剤又は潤滑剤等を添加することができる。上記防錆剤としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸塩、サポニン、ジアルキルチオ尿素等が挙げられる。
【0056】
上記潤滑剤としては、金属石鹸、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加型カチオン活性剤、リン酸エステル系活性剤、チオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩等が挙げられる。また、好適に用いられる潤滑剤としては、燐酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
【0057】
インク収容管52に収容したインクの後端にはインク逆流防止体を充填することができる。上記インク逆流防止体としては、液状又は固体のいずれを用いることもでき、上記液状のインク逆流防止体としては、ポリブテン、シリコーン油等の不揮発性媒体が挙げられ、所望により上記媒体中にシリカ、珪酸アルミニウム等を添加することもできる。
【0058】
水性インクは、水と水溶性有機溶剤からなる媒体中に、染料又は顔料(顔料分散体)、ヒドロキシルアミン、必要により剪断減粘性付与剤や各種添加剤を投入し、必要により加温して攪拌し、溶解及び分散することにより調製される。
【実施例0059】
インク組成、及び、インクの25℃におけるEM型回転粘度計による1rpm、10rpm、100rpmにおける粘度、剪断減粘性指数を以下に示す。なお、配合中の数字は重量部を示す。
【0060】
青色顔料〔山陽色素(株)製、商品名:SS BLUE GLL) 25.0
エチレングリコール 15.0
サクシノグリカン 0.3
(構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体)
1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン 0.1
〔ゼネカ(株)製、商品名:プロキセルXL-2〕
トリエタノールアミン 0.5
N,N-ジエチルヒドロキシルアミン 0.3
水 58.8
合計 100.0
【0061】
上記配合物を混合して室温でディスパーにて3時間攪拌し、濾過することにより筆記具用水性インクが得られる。なお、上記インクの25℃におけるEM型回転粘度計による1rpmにおける粘度は1400mPa・sであり、10rpmにおける粘度は200mPa・sであり、100rpmにおける粘度は40mPa・sであり、剪断減粘性指数は0.228であった。
【0062】
上記インク調製方法によりインクを調製し、直径0.5mmのボールを抱持するステンレススチール製チップがポリプロピレン製パイプの一端に嵌着されたボールペンレフィルに充填し、さらに、上記インク後端面に密接させてインク逆流防止体を充填した後、上記ボールペンレフィルを軸筒に組み込み、ボールペンとした。