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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113952
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】複合体
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/587 20120101AFI20240816BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20240816BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20240816BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20240816BHJP
   C08L 3/00 20060101ALI20240816BHJP
   D04H 1/732 20120101ALI20240816BHJP
【FI】
D04H1/587
C08K5/053
C08K5/092
C08L1/00
C08L3/00
D04H1/732
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019254
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】牛山 智幸
(72)【発明者】
【氏名】柳 仙妹
【テーマコード(参考)】
4J002
4L047
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002AB041
4J002AD032
4J002EC056
4J002EF067
4J002EF117
4J002EN117
4J002FA042
4J002FD026
4J002FD147
4J002GC00
4J002GD03
4J002GD05
4J002GG02
4J002GL00
4L047AA08
4L047AB02
4L047BA12
4L047BC01
4L047CB01
4L047CC16
(57)【要約】
【課題】耐湿性及び強度に優れた複合体を提供する。
【解決手段】デンプン、可塑剤及び架橋剤を含むデンプン複合粒子と、繊維と、を含み、前記デンプン複合粒子が前記繊維に分散している、複合体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプン、可塑剤及び架橋剤を含むデンプン複合粒子と、
繊維と、
を含み、
前記デンプン複合粒子が前記繊維に分散している、複合体。
【請求項2】
デンプン及び可塑剤を含むデンプン複合粒子と、
架橋剤と、
繊維と、
を含み、
前記デンプン複合粒子が前記繊維に分散している、複合体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記複合体における、前記デンプン、前記可塑剤及び前記架橋剤の合計の含有量[質量%]が、1.5[質量%]以上80[質量%]以下である、複合体。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
前記可塑剤は、糖アルコールから選択される一種以上である、複合体。
【請求項5】
請求項4において、
前記糖アルコールは、ソルビトール、エリスリトール及びD-マンニトールから選択される一種以上である、複合体。
【請求項6】
請求項1又は請求項2において、
前記可塑剤と前記デンプンの含有量の合計を100[質量%]としたとき、前記可塑剤の含有量[質量%]が、10[質量%]以上80[質量%]以下である、複合体。
【請求項7】
請求項1又は請求項2において、
前記架橋剤は、ジカルボン酸から選択される一種以上である、複合体。
【請求項8】
請求項7において、
前記ジカルボン酸は、コハク酸、アジピン酸及びセバシン酸から選択される一種以上である、複合体。
【請求項9】
請求項1において、
前記デンプン複合粒子における、前記架橋剤の含有量[質量%]が、1[質量%]以上50[質量%]以下である、複合体。
【請求項10】
請求項2において、
前記デンプン複合粒子と前記架橋剤の含有量の合計を100[質量%]としたとき、前記架橋剤の含有量[質量%]が、1[質量%]以上50[質量%]以下である、複合体。
【請求項11】
請求項1又は請求項2において、
前記デンプン複合粒子は、平均粒子径[μm]が、1[μm]以上50[μm]以下である、複合体。
【請求項12】
請求項1又は請求項2において、
前記繊維は、セルロースを含む、複合体。
【請求項13】
請求項1又は請求項2において、
前記複合体は、緩衝材である、複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、できるだけ石油由来の原料を用いない製品が求められるようになり、例えば植物由来の原料を用いる試みがなされている。そのような情勢から、セルロースを主成分とする紙等においても、添加される紙力増強剤を、天然由来成分に置き換えることが検討されている。例えば、特許文献1には、繊維と、熱可塑剤とデンプンを用いることで石油系原料を使用しない材料による構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2021-155655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱可塑剤により可塑化されたデンプンは吸湿性が高い。そのため、例えば高湿度の環境に構造体が置かれた場合には、可塑化されたデンプンの機械的強度が低下して構造体が変形することがあった。すなわち、熱可塑剤により可塑化されたデンプンを用いた構造体においては、機械的強度に加えて耐湿性が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る複合体の一態様は、デンプン、可塑剤及び架橋剤を含むデンプン複合粒子と、繊維と、を含み、前記デンプン複合粒子が前記繊維に分散している。
【0006】
本発明に係る複合体の一態様は、デンプン及び可塑剤を含むデンプン複合粒子と、架橋剤と、繊維と、を含み、前記デンプン複合粒子が前記繊維に分散している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】繊維に分散したデンプン複合粒子の概念図。
図2】実施形態に係る複合体製造装置の一例を模式的に示す図。
図3】実施例の組成、配合、評価結果を示す表(表1)。
図4】実施例の組成、配合、評価結果を示す表(表2)。
図5】実施例及び比較例の組成、配合、評価結果を示す表(表3)。
図6】実施例の組成、配合、評価結果を示す表(表4)。
図7】実施例の組成、配合、評価結果を示す表(表5)。
図8】実施例及び比較例の組成、配合、評価結果を示す表(表6)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0009】
1.第1実施形態
本実施形態に係る複合体は、デンプン、可塑剤及び架橋剤を含むデンプン複合粒子と、繊維と、を含み、前記デンプン複合粒子が前記繊維に分散している。
【0010】
1.1.デンプン複合粒子
本実施形態のデンプン複合粒子は、デンプンと、可塑剤と、架橋剤と、を含む。
【0011】
1.1.1.デンプン
デンプンは、複数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した分子である。デンプンは、直鎖状分子であってもよいし、分岐を含んでもよい。デンプンとしては、例えば、各種植物由来のものを用いることができる。より具体的には、例えば、トウモロコシ、小麦、米等の穀類、ソラマメ、緑豆、小豆等の豆類、ジャガイモ、サツマイモ、タピオカ等のイモ類、ワラビ、葛等の野草類、サゴヤシ等のヤシ類を由来とするものを用いることができる。
【0012】
デンプンは、加工デンプンであってもよい。加工デンプンとしては、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化デンプン、酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸物エステル化リン酸架橋デンプン、尿素リン酸化エステル化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、高アミロースコーンスターチ等が挙げられる。また、変性デンプンとしてのデキストリンは、デンプンを加工又は変性して得られるものを用いてもよい。
【0013】
デンプンの重量平均分子量は、特に限定されないが、50000以上400000以下が好ましく、70000以上300000以下がより好ましく、80000以上280000以下がさらに好ましい。分子量がこの範囲である場合、デンプンと可塑剤との混合をより優れたものにすることができる。これにより、水が存在しないか、少量しか存在しない場合でも、加熱による可塑化がより進行しやすく、複合体の強度や生産性を優れたものとすることができる。
【0014】
デンプンの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定から求めることができる。後述する実施例で示す重量平均分子量も、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定から求められた値である。
【0015】
1.1.2.可塑剤
デンプン複合体粒子は、可塑剤を含む。可塑剤は、デンプンを可塑化する性質を有する。可塑剤によりデンプンが可塑化されると、デンプンは熱可塑性を呈するようになる。本明細書では、そのような可塑化されたデンプンを、「熱可塑デンプン」、「可塑化デンプン」等と称することがある。
【0016】
可塑剤としては、糖アルコールが挙げられる。可塑剤は、糖アルコールから選択される一種以上であることが好ましい。可塑剤が糖アルコールから選択されることにより、デンプンの可塑化をより容易に生じさせることができる。これにより、デンプン複合粒子が、繊維と繊維とをより結着させやすくなり、より良好な強度を複合体に付与することができる。
【0017】
糖アルコールとは、アルドースやケトースのカルボニル基が還元されて生成する糖の一種である。糖アルコールとしては、例えば、マルチトール、ラクチトール、テトリトール、ペンチトール、ヘキシトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトールが挙げられる。これらの中でも、ソルビトール、エリスリトール及びD-マンニトールから選択される一種以上であることがより好ましい。
【0018】
ソルビトール、エリスリトール又はD-マンニトールは、糖アルコールの中でも、デン
プンの可塑化をより容易に生じさせることができ、さらに室温で可塑化を生じないため製造プロセスにおける取り扱い、及び製造した複合体の取り扱いが容易である。これにより、デンプン複合体粒子は、繊維と繊維とをより結着させやすく、より良好な強度を複合体に生じさせることができる。
【0019】
一方、可塑剤としては、ポリグリセリンを用いてもよい。ポリグリセリンは、グリセロールを重合させたものであり、その重合度は特に限定されない。さらに、可塑剤としては、水酸基を多く含む化合物であればデンプンを可塑化する性質を有すると考えられ、そのような化合物を用いてもよい。
【0020】
可塑剤は、デンプンに対してより適した含有量がある。可塑剤とデンプンの含有量の合計を100[質量%]としたとき、可塑剤の含有量[質量%]は、5[質量%]以上90[質量%]以下であることが好ましく、10[質量%]以上85[質量%]以下であることがより好ましく、10[質量%]以上80[質量%]以下であることがさらに好ましい。可塑剤が、デンプンに対して上記範囲で含有されることにより、デンプンの可塑化がより十分となり、より良好な強度を複合体に与えることができる。
【0021】
1.1.3.架橋剤
本実施形態のデンプン複合粒子は、架橋剤を含む。架橋剤は、熱が加わることで、デンプン、可塑剤及び繊維に含まれる水酸基と反応する。架橋剤は、カルボキシ基を2つ以上有する有機化合物である。
【0022】
架橋剤としては、複数のカルボキシ基を有する有機化合物であれば特に限定されない。架橋剤としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、酒石酸、リンゴ酸等の水酸基を有するジカルボン酸、クエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等のカルボキシ基を複数有するアミノ酸、及び、これらの混合物を挙げることができる。
【0023】
架橋剤としては、主に水酸基との反応性の点で、ジカルボン酸から選択される一種以上であることが好ましい。このようなジカルボン酸は、繊維、デンプン及び可塑剤のそれぞれが有する水酸基とエステル結合を形成でき、繊維とデンプンとの間、繊維と繊維との間、デンプンとデンプンとの間を化学的に架橋することができる。エステル結合(化学結合)は、FTIRで確認できる。
【0024】
さらに、架橋剤としては、ジカルボン酸のうち、コハク酸、アジピン酸及びセバシン酸から選択される一種以上であることがさらに好ましい。架橋剤により、繊維とデンプンとの間、繊維と繊維との間、デンプンとデンプンとの間の化学的架橋がエステル結合により形成されるので、さらに複合体の強度、耐湿性を向上できる。
【0025】
デンプン複合粒子における、架橋剤の含有量[質量%]は、1[質量%]以上60[質量%]以下が好ましく、1[質量%]以上50[質量%]以下がより好ましく、5[質量%]以上20[質量%]以下がさらに好ましく、10[質量%]以上20[質量%]以下が殊更好ましい。
【0026】
この程度の架橋剤の含有量であれば、繊維とデンプンとの間、繊維と繊維との間、デンプンとデンプンとの間の化学的架橋の程度がより良好となるので、さらに複合体の耐湿性、強度を優れたものにできる。
【0027】
1.1.4.デンプン複合粒子の製造
本実施形態のデンプン複合粒子は、例えば、スプレードライ法により形成される。スプレードライ法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。ただし、本実施形態のデンプン複合粒子は、可塑剤及び架橋剤を含むので、スプレードライの際にはできるだけ熱を印加しないように行うことが好ましい。
【0028】
スプレードライ法においては、デンプン、可塑剤及び架橋剤を水に混合して、必要に応じてこれに熱を加えて、糊化液を作製して行う。加熱する場合の温度としては、100℃以下が好ましく、98℃以下がより好ましく、95℃以下がさらに好ましい。また、糊化液を作製する際に、架橋剤の水溶性が低い場合には、デンプン及び可塑剤を水に混合して、必要に応じてこれに熱を加えて、糊化液を作製し、別途、エタノール等の適宜の水溶性有機溶剤に架橋剤を溶解したものを、糊化液に混合してスプレードライに供するようにしてもよい。
【0029】
本実施形態のデンプン複合粒子をスプレードライ法にて作製する際の、混合液(糊化液)の供給速度、入口温度、出口温度、滞留時間、アトマイザ回転数及び噴霧圧力等を適宜に調節することにより、得られるデンプン複合粒子の大きさ、形状を調整することが可能である。
【0030】
スプレードライ法における、上記溶液がスプレードライ装置に導入される導入口の温度(入口温度)は、100℃以上200℃以下が好ましく、110℃以上190℃以下がより好ましく、120℃以上180℃以下がさらに好ましい。スプレードライ法における、上記溶液が噴霧されて排出される排出口の温度(出口温度)は、40℃以上100℃以下が好ましく、50℃以上90℃以下がより好ましく、60℃以上80℃以下がさらに好ましい。
【0031】
スプレードライ装置としては、特に限定されないが、例えば、ヤマト科学社製 ADL311S-Aを用いることができる。
【0032】
造粒されたデンプン複合粒子の平均粒子径[μm]は、1[μm]以上60[μm]以下であることが好ましく、1[μm]以上50[μm]以下であることがより好ましく、2[μm]以上30[μm]以下であることがさらに好ましく、2[μm]以上20[μm]以下であることが殊更好ましい。デンプン複合粒子の平均粒子径が、このような範囲であると、複合体において、デンプン複合粒子の繊維間における分散状態がより均一となりやすく、複合体を耐湿性及び強度にさらに優れたものにできる。
【0033】
デンプン複合粒子の平均粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックMT3000II」日機装株式会社製)が挙げられる。
【0034】
1.2.繊維
繊維としては、特に限定されず、広範な繊維材料を用いることができる。繊維としては、天然繊維(動物繊維、植物繊維)、化学繊維(有機繊維、無機繊維、有機無機複合繊維)などが挙げられ、更に詳しくは、セルロース、絹、羊毛、綿、大麻、ケナフ、亜麻、ラミー、黄麻、マニラ麻、サイザル麻、針葉樹、広葉樹等からなる繊維等が挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよいし、精製などを行った再生繊維として用いてもよい。
【0035】
繊維の原料としては、例えば、古紙、古布等が挙げられるが、上記の繊維の少なくとも
1種を含んでいればよい。また繊維は、各種の表面処理がされていてもよい。また、繊維の材質は、純物質であってもよいし、不純物、添加物及びその他の成分など、複数の成分を含む材質であってもよい。
【0036】
これらの中でも繊維としては、セルロースを含むものがより好ましい。セルロースは、分子構造中に水酸基を多く含んでいる。そのため、架橋剤との反応も生じやすく、複合体の耐湿性、機械的強度を向上させやすい。
【0037】
繊維の長さは、特に限定されないが、繊維の長手方向に沿った長さは、1μm以上5mm以下、好ましくは、2μm以上3mm以下、より好ましくは3μm以上2mm以下である。
【0038】
1.3.複合体の成形
複合体は、上述のデンプン複合粒子及び上述の繊維を混合し、混合物に熱を加えることにより成形される。デンプン複合粒子は、熱可塑性を有するとともに、架橋剤による反応性も有している。したがって、混合物を加熱することにより、繊維と繊維とを物理的に結着する。また、混合物を加熱することにより、繊維、デンプン及び可塑剤に存在する水酸基が架橋剤と反応してそれぞれが化学的に結合する。
【0039】
複合体における繊維及びデンプン複合粒子の混合割合は、複合体の用途や必要性能に応じて適宜に設定し得る。例えば、繊維及びデンプン複合粒子の混合割合は、複合体における、デンプン、可塑剤及び架橋剤の合計の含有量[質量%]で表すと、1[質量%]以上90[質量%]以下が好ましく、1.5[質量%]以上85[質量%]以下がより好ましく、1.5[質量%]以上80[質量%]以下がさらに好ましく、5[質量%]以上80[質量%]以下がよりさらに好ましい。複合体における繊維及びデンプン複合粒子の混合割合がこのような範囲であれば、十分な強度が得られる。
【0040】
1.4.複合体におけるデンプン複合粒子の分散
本実施形態の複合体では、上述のデンプン複合粒子が上述の繊維に分散している。分散した状態とは、繊維と繊維との間に、デンプン複合粒子が点在している状態を指す。上述の通り複合体は、加熱されて成形される。そのため、複合体においては、デンプン複合粒子は、可塑化された後の固化した状態で存在する。
【0041】
図1は、繊維に分散したデンプン複合粒子の概念図である。図1に示すように、複合体において、デンプン複合粒子BMは溶融前の粒子の形状を失い、セルロース繊維CFに対してへばりつくように固着した状態で存在している。この状態では、複数の繊維CFが互いに物理的に結着されるとともに、架橋剤による化学的な結合も形成されており、繊維CF間の位置関係が固定される。つまり、繊維CF同士の結着性が十分に態となっている。複合体において繊維の相互の位置関係が結着により固定若しくは動きにくくなることにより、複合体の外形形状が緩やかに固定・維持されるので、複合体は、例えば、緩衝材、シート等の形状を維持できる。
【0042】
なお、複合体は、繊維CFが結着されていない部分を有してもよく、デンプン複合粒子の配合量により調節できる。繊維CFが結着されていない部分が多いほど変形を容易に起こすことができる。その反対に、複合体において繊維CFがより多く結着されることにより、柔軟性は低下するが、形状の維持や機械的強度は高くなる。
【0043】
1.5.複合体の用途
上述した通り、複合体は、加熱成形することで得られる。そのため、様々な形状に成型することができる。複合体は、シート状、ボード状、ウェブ状のような二次元形状、ブロ
ック状、棒状、球状のような三次元形状などに成形できる。複合体の典型例としては、紙、不織布、壁紙、包装紙、色紙、画用紙、繊維ボード、フィルター、液体吸収材、吸音体、緩衝材、マットなどが挙げられる。
【0044】
本実施形態の複合体は、耐湿性及び機械的強度に優れるため、緩衝材として特に優れたものとなる。
【0045】
1.6.複合体の製造
本実施形態の複合体は、例えば以下に示す製造装置により製造できる。複合体製造装置は、複数のセルロース繊維と、該セルロース繊維を結着させるデンプン複合粒子と、を混合する混合部と、混合された複数のセルロース繊維とデンプン複合粒子とを堆積させる堆積部と、堆積部で堆積された堆積物を加熱して複合体を形成する加熱部と、を備える。
【0046】
図2は、複合体製造装置100を模式的に示す図である。複合体製造装置100は、図2に示すように、供給部10と、粗砕部12と、解繊部20と、選別部40と、第1ウェブ形成部45と、回転体49と、混合部50と、堆積部60と、第2ウェブ形成部70と、複合体形成部80と、切断部90と、加湿部78と、を有している。
【0047】
供給部10は、粗砕部12に原料を供給する。供給部10は、例えば、粗砕部12に原料を連続的に投入するための自動投入部である。粗砕部12に供給される原料は、セルロース繊維を含むものであればよい。
【0048】
粗砕部12は、供給部10によって供給された原料を、大気中(空気中)等の気中で裁断して細片にする。細片の形状や大きさは、例えば、数cm角の細片である。図示の例では、粗砕部12は、粗砕刃14を有し、粗砕刃14によって、投入された原料を裁断することができる。粗砕部12としては、例えば、シュレッダーを用いる。粗砕部12によって裁断された原料は、ホッパー1で受けてから管2を介して、解繊部20に移送(搬送)される。
【0049】
解繊部20は、粗砕部12によって裁断された原料を解繊する。ここで、「解繊する」とは、複数のセルロース繊維が結着されてなる原料(被解繊物)を、セルロース繊維1本1本に解きほぐすことをいう。解繊部20は、原料に付着した樹脂粒やインク、トナー、填料、にじみ防止剤等の物質を、セルロース繊維から分離させる機能をも有する。
【0050】
解繊部20を通過したものを「解繊物」という。「解繊物」には、解きほぐされた解繊物セルロース繊維の他に、セルロース繊維を解きほぐす際にセルロース繊維から分離した樹脂(複数のセルロース繊維同士を結着させるための樹脂)粒や、インク、トナー、填料、などの色剤や、にじみ防止材、紙力増強剤等の添加剤を含んでいる場合もある。
【0051】
解繊部20は、乾式で解繊を行う。水等の液体中(スラリー状に溶解させる湿式)ではなく大気等の気中において、解繊等の処理を行うことを乾式と称する。解繊部20として、本実施形態ではインペラーミルを用いる。解繊部20は、原料を吸引し、解繊物を排出するような気流を発生させる機能を有している。これにより、解繊部20は、自ら発生する気流によって、導入口22から原料を気流と共に吸引し、解繊処理して、解繊物を排出口24へと搬送することができる。解繊部20を通過した解繊物は、管3を介して、選別部40に移送される。なお、解繊部20から選別部40に解繊物を搬送させるための気流は、解繊部20が発生させる気流を利用してもよいし、ブロアー等の気流発生装置を設け、その気流を利用してもよい。
【0052】
選別部40は、解繊部20により解繊された解繊物を導入口42から導入し、セルロー
ス繊維の長さによって選別する。選別部40は、ドラム部41と、ドラム部41を収容するハウジング部43と、を有している。ドラム部41としては、例えば、篩(ふるい)を用いる。ドラム部41は、網(フィルター、スクリーン)を有し、網の目開きの大きさより小さいセルロース繊維又は粒子(網を通過するもの、第1選別物)と、網の目開きの大きさより大きいセルロース繊維や未解繊片やダマ(網を通過しないもの、第2選別物)と、を分けることができる。例えば、第1選別物は、管7を介して、混合部50に移送される。第2選別物は、排出口44から管8を介して、解繊部20に戻される。具体的には、ドラム部41は、モーターによって回転駆動される円筒の篩である。ドラム部41の網としては、例えば、金網、切れ目が入った金属板を引き延ばしたエキスパンドメタル、金属板にプレス機等で穴を形成したパンチングメタルを用いる。
【0053】
第1ウェブ形成部45は、選別部40を通過した第1選別物を、混合部50に搬送する。第1ウェブ形成部45は、メッシュベルト46と、張架ローラー47と、吸引部(サクション機構)48と、を含む。
【0054】
吸引部48は、選別部40の開口(網の開口)を通過して空気中に分散された第1選別物をメッシュベルト46上に吸引することができる。第1選別物は、移動するメッシュベルト46上に堆積し、ウェブVを形成する。メッシュベルト46、張架ローラー47及び吸引部48の基本的な構成は、後述する第2ウェブ形成部70のメッシュベルト72、張架ローラー74及びサクション機構76と同様である。
【0055】
ウェブVは、選別部40及び第1ウェブ形成部45を経ることにより、空気を多く含み柔らかくふくらんだ状態に形成される。メッシュベルト46に堆積されたウェブVは、管7へ投入され、混合部50へと搬送される。
【0056】
回転体49は、ウェブVが混合部50に搬送される前に、ウェブVを切断することができる。図示の例では、回転体49は、基部49aと、基部49aから突出している突部49bと、を有している。突部49bは、例えば、板状の形状を有している。図示の例では、突部49bは4つ設けられ、4つの突部49bが等間隔に設けられている。基部49aが方向Rに回転することにより、突部49bは、基部49aを軸として回転することができる。回転体49によってウェブVを切断することにより、例えば、堆積部60に供給される単位時間当たりの解繊物の量の変動を小さくすることができる。
【0057】
回転体49は、第1ウェブ形成部45の近傍に設けられている。図示の例では、回転体49は、ウェブVの経路において下流側に位置する張架ローラー47aの近傍に(張架ローラー47aの横に)設けられている。回転体49は、突部49bがウェブVと接触可能な位置であって、ウェブVが堆積されるメッシュベルト46と接触しない位置に設けられている。突部49bとメッシュベルト46との間の最短距離は、例えば、0.05mm以上0.5mm以下である。
【0058】
混合部50は、選別部40を通過した第1選別物(第1ウェブ形成部45により搬送された第1選別物)と、デンプン複合粒子を含む添加物と、を混合する。混合部50は、添加物を供給する添加物供給部52と、第1選別物と添加物とを搬送する管54と、ブロアー56と、を有している。図示の例では、添加物は、添加物供給部52からホッパー9を介して管54に供給される。管54は、管7と連続している。
【0059】
混合部50では、ブロアー56によって気流を発生させ、管54中において、第1選別物と添加物とを混合させながら、搬送することができる。なお、第1選別物と添加物とを混合させる機構は、特に限定されず、高速回転する羽根により攪拌するものであってもよいし、V型ミキサーのように容器の回転を利用するものであってもよい。
【0060】
添加物供給部52としては、図5に示すようなスクリューフィーダーや、図示せぬディスクフィーダーなどを用いる。添加物供給部52から供給される添加物は、上述のデンプン複合粒子BMを含む。デンプン複合粒子BMが供給された時点では、複数のセルロース繊維は結着されていない。デンプン複合粒子BMは、複合体形成部80を通過する際に可塑化、架橋されて、複合体WSの複数のセルロース繊維を結着させる。
【0061】
なお、添加物供給部52から供給される添加物には、デンプン複合粒子BMの他、製造される複合体WSの種類に応じて、セルロース繊維を着色するための着色剤や、セルロース繊維の凝集やデンプン複合粒子BMの凝集を抑制するための凝集抑制剤、セルロース繊維等を燃えにくくするための難燃剤が含まれていてもよい。混合部50を通過した混合物(第1選別物と添加物との混合物)は、管54を介して、堆積部60に移送される。
【0062】
堆積部60は、混合部50を通過した混合物を導入口62から導入し、絡み合った解繊物(セルロース繊維)をほぐして、空気中で分散させながら降らせる。これにより、堆積部60は、第2ウェブ形成部70に、混合物を均一性よく堆積させることができる。
【0063】
堆積部60は、ドラム部61と、ドラム部61を収容するハウジング部63と、を有している。ドラム部61としては、回転する円筒の篩を用いる。ドラム部61は、網を有し、混合部50を通過した混合物に含まれる、網の目開きの大きさより小さいセルロース繊維又は粒子(網を通過するもの)を降らせる。ドラム部61の構成は、例えば、ドラム部41の構成と同じである。
【0064】
なお、ドラム部61の「篩」は、特定の対象物を選別する機能を有していなくてもよい。すなわち、ドラム部61として用いられる「篩」とは、網を備えたもの、という意味であり、ドラム部61は、ドラム部61に導入された混合物の全てを降らしてもよい。
【0065】
第2ウェブ形成部70は、堆積部60を通過した通過物を堆積して、複合体WSとなる堆積物であるウェブWを形成する。第2ウェブ形成部70は、例えば、メッシュベルト72と、張架ローラー74と、サクション機構76と、を有している。
【0066】
メッシュベルト72は、移動しながら、堆積部60の開口(網の開口)を通過した通過物を堆積する。メッシュベルト72は、張架ローラー74によって張架され、通過物を通しにくく空気を通す構成となっている。メッシュベルト72は、張架ローラー74が自転することによって移動する。メッシュベルト72が連続的に移動しながら、堆積部60を通過した通過物が連続的に降り積もることにより、メッシュベルト72上にウェブWが形成される。メッシュベルト72は、例えば、金属製、樹脂製、布製、あるいは不織布等である。
【0067】
サクション機構76は、メッシュベルト72の下方(堆積部60側とは反対側)に設けられている。サクション機構76は、下方に向く気流(堆積部60からメッシュベルト72に向く気流)を発生させることができる。サクション機構76によって、堆積部60により空気中に分散された混合物をメッシュベルト72上に吸引することができる。これにより、堆積部60からの排出速度を大きくすることができる。さらに、サクション機構76によって、混合物の落下経路にダウンフローを形成することができ、落下中に解繊物や添加物が絡み合うことを抑制できる。
【0068】
以上のように、堆積部60及び第2ウェブ形成部70(ウェブ形成工程)を経ることにより、空気を多く含み柔らかくふくらんだ状態のウェブWが形成される。メッシュベルト72に堆積されたウェブWは、複合体形成部80へと搬送される。複合体形成部80に搬
送されるウェブW(堆積物)の厚さは、特に限定されない。
【0069】
複合体形成部80は、メッシュベルト72に堆積したウェブWを加熱して複合体WSを形成する。複合体形成部80では、ウェブWにおいて混ぜ合された解繊物及び添加物の混合物の堆積物(ウェブW)に、熱を加えることにより、デンプン複合粒子BMを可塑化、架橋反応させることができる。その後、デンプン複合粒子BMにより複数のセルロース繊維が物理的、化学的に結着される。
【0070】
複合体形成部80は、ウェブWを加熱する加熱部84を備えている。加熱部84としては、例えば、ヒートプレス、加熱ローラー(ヒーターローラー)が用いられるが、以下は加熱ローラー(ヒーターローラー)を用いた例で説明する。加熱部84における加熱ローラーの数は、特に限定されない。図示の例では、加熱部84は、一対の加熱ローラー86を備えている。加熱部84を加熱ローラー86として構成することにより、ウェブWを連続的に搬送しながら複合体WSを成形することができる。加熱ローラー86は、例えば、その回転軸が平行になるように配置される。
【0071】
加熱ローラー86は、ウェブWに接触し、ウェブWを挟んで搬送しつつウェブWを加熱する。加熱ローラー86は、ウェブWを挟んで搬送し、所定の厚さの複合体WSを形成する。ここで加熱ローラー86によってウェブWに印加される圧力は、製造する複合体WSに応じて調節できる。
【0072】
ウェブWを加熱する際の加熱ローラー86の表面温度は、デンプン複合粒子BMの可塑化温度及び架橋剤の反応温度に応じて適宜設定されるが、例えば、60.0℃以上250.0℃以下、好ましくは70.0℃以上220.0℃以下、より好ましくは80.0℃以上200.0℃以下である。加熱ローラー86の表面温度をこの範囲にすることにより、ウェブW(堆積物)を当該温度範囲に加熱することができる。
【0073】
このような複合体製造装置100によって、以上のように本実施形態の複合体WSを製造することができる。
【0074】
なお、複合体の製造装置100は、必要に応じて、切断部90を有してもよい。図示の例では、加熱部84の下流側に切断部90が設けられている。切断部90は、複合体形成部80によって成形された複合体WSを切断する。図示の例では、切断部90は、複合体WSの搬送方向と交差する方向に複合体WSを切断する第1切断部92と、搬送方向に平行な方向に複合体WSを切断する第2切断部94と、を有している。第2切断部94は、例えば、第1切断部92を通過した複合体WSを切断する。
【0075】
また、本実施形態の複合体の製造装置100は、加湿部78を有してもよい。図示の例では、切断部90の下流側であって排出部96の上流側に設けられている。加湿部78は、複合体WSに対して水や水蒸気を付与することができる。加湿部78の具体的な態様としては、例えば、水又は水溶液のミストを吹き付ける態様、水又は水溶液をスプレーする態様、水又は水溶液をインクジェットヘッドから吐出して付着させる態様等が挙げられる。
【0076】
複合体の製造装置100が加湿部78を有することにより、形成される複合体WSに湿り気をもたせることができる。これにより、セルロース繊維が湿気を帯びて柔らかくなる。そのため、複合体WSを用いて容器等を立体成形する場合に、シワや破れがさらに生じにくくなる。また、複合体WSに湿り気をもたせることにより、セルロース繊維間の水素結合を形成しやすくなるので、成形された容器等の密度が高まり、例えば、強度を向上できる。
【0077】
なお、デンプン複合粒子は、熱によって可塑化するとともに、架橋反応が生じるので、乾式で複合体を形成できる。そのため、複合体製造装置100には、加湿部78は、必ずしも必要ではない。ただし、繊維間の水素結合の形成を期待して加湿部を適宜の箇所に配置してもよい。
【0078】
以上により、複合体WSが成形される。製造された複合体WSは、例えば、切断部90によって切断され、複合体WSは、必要に応じて排出部96へと排出される。また、複合体WSは、切断されることなくロール状に巻き取られてもよい。
【0079】
以上の例では、シート状の複合体WSを製造する例を示したが、加熱部や堆積部等の変更により、三次元形状の複合体が形成できることは理解されるであろう。
【0080】
2.第2実施形態
本実施形態に係る複合体は、デンプン及び可塑剤を含むデンプン複合粒子と、架橋剤と、繊維と、を含み、前記デンプン複合粒子が前記繊維に分散している。第1実施形態との相違は、デンプン複合粒子に架橋剤が含まれず、繊維に対して、デンプン複合粒子と、別途添加される架橋剤とが混合される点にある。
【0081】
本実施形態の複合体に用いるデンプン、可塑剤、架橋剤及び繊維は、上述の第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0082】
2.1.デンプン複合粒子の製造
本実施形態のデンプン複合粒子は、例えば、スプレードライ法により形成される。スプレードライ法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。ただし、本実施形態のデンプン複合粒子は、可塑剤を含むので、スプレードライの際にはできるだけ熱を印加しないように行うことが好ましい。
【0083】
スプレードライ法においては、デンプン及び可塑剤を水に混合して、必要に応じてこれに熱を加えて、糊化液を作製して行う。
【0084】
スプレードライ法における、上記溶液がスプレードライ装置に導入される導入口の温度(入口温度)は、100℃以上200℃以下が好ましく、110℃以上190℃以下がより好ましく、120℃以上180℃以下がさらに好ましい。スプレードライ法における、上記溶液が噴霧されて排出される排出口の温度(出口温度)は、40℃以上100℃以下が好ましく、50℃以上90℃以下がより好ましく、60℃以上80℃以下がさらに好ましい。
【0085】
造粒されたデンプン複合粒子の平均粒子径[μm]は、1[μm]以上60[μm]以下であることが好ましく、1[μm]以上50[μm]以下であることがより好ましく、2[μm]以上30[μm]以下であることがさらに好ましく、2[μm]以上20[μm]以下であることが殊更好ましい。デンプン複合粒子の平均粒子径が、このような範囲であると、複合体において、デンプン複合粒子の繊維間における分散状態がより均一となりやすく、複合体を耐湿性及び強度にさらに優れたものにできる。
【0086】
2.2.複合体の成形
本実施形態の複合体は、上述のデンプン複合粒子、上述の架橋剤及び上述の繊維を混合し、混合物に熱を加えることにより成形される。デンプン複合粒子は、熱可塑性を有する。また、架橋剤は、熱が印加されることにより、デンプン、可塑剤及び繊維の水酸基と反応する。したがって、混合物を加熱することにより、繊維と繊維とを物理的に結着する。
また、混合物を加熱することにより、繊維、デンプン及び可塑剤に存在する水酸基が架橋剤と反応してそれぞれが化学的に結合する。
【0087】
複合体における繊維並びにデンプン複合粒子及び架橋剤の混合割合は、複合体の用途や必要性能に応じて適宜に設定し得る。例えば、繊維、デンプン複合粒子及び架橋剤の混合割合は、複合体における、デンプン、可塑剤及び架橋剤の合計の含有量[質量%]で表すと、1[質量%]以上90[質量%]以下が好ましく、1.5[質量%]以上85[質量%]以下がより好ましく、1.5[質量%]以上80[質量%]以下がさらに好ましく、5[質量%]以上50[質量%]以下が特に好ましい。複合体における繊維及びデンプン複合粒子の混合割合がこのような範囲であれば、十分な強度が得られる。
【0088】
2.3.複合体におけるデンプン複合粒子の分散
本実施形態の複合体では、上述のデンプン複合粒子が上述の繊維に分散している。分散した状態とは、繊維と繊維との間に、デンプン複合粒子が点在している状態を指す。上述の通り複合体は、加熱されて成形される。そのため、複合体においては、デンプン複合粒子は、可塑化された後の固化した状態で存在する。
【0089】
本実施形態の複合体においても、先に説明した図1に示すように、デンプン複合粒子BMは溶融前の粒子の形状を失い、セルロース繊維CFに対してへばりつくように固着した状態で存在している。この状態では、複数の繊維CFが互いに物理的に結着されるとともに、架橋剤による化学的な結合も形成されており、繊維CF間の位置関係が固定される。つまり、繊維CF同士の結着性が十分に態となっている。複合体において繊維の相互の位置関係が結着により固定若しくは動きにくくなることにより、複合体の外形形状が緩やかに固定・維持されるので、複合体は、例えば、緩衝材、シート等の形状を維持できる。
【0090】
なお、複合体は、繊維CFが結着されていない部分を有してもよく、デンプン複合粒子の配合量により調節できる。繊維CFが結着されていない部分が多いほど変形を容易に起こすことができる。その反対に、複合体において繊維CFがより多く結着されることにより、柔軟性は低下するが、形状の維持や機械的強度は高くなる。
【0091】
2.4.複合体の用途
本実施形態の複合体の用途についても、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。本実施形態の複合体についても、耐湿性及び機械的強度に優れるため、緩衝材として特に優れたものとなる。
【0092】
2.5.複合体の製造
本実施形態の複合体は、例えば上述の複合体製造装置100により製造することができる。具体的には、架橋剤が粉末状である場合には、添加物供給部52からデンプン複合粒子BM及び架橋剤を供給すればよい。一方、架橋剤が液体状である場合には、加熱部84に至る前のいずれかの箇所に噴霧器等を設け、架橋剤を繊維に吹き付けることにより、複合体を形成することができる。
【0093】
3.作用効果
第1実施形態及び第2実施形態の複合体は、いずれも、複数の繊維が可塑剤により熱可塑性が付与されたデンプンにより結着されるとともに、架橋剤によって、繊維とデンプンとの間、繊維と繊維との間、デンプンとデンプンとの間に化学的な架橋構造が形成されている。そのため、これらの複合体は、耐湿性及び強度に優れる。
【0094】
4.実施例及び比較例
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の例によっ
てなんら限定されるものではない。
【0095】
4.1.デンプン複合粒子の製造
以下のように実施例及び比較例のデンプン複合粒子を製造した。
【0096】
4.1.1.デンプン、可塑剤及び架橋剤を含むデンプン複合粒子
上記第1実施形態に対応するデンプン複合粒子であって、架橋剤がコハク酸又はクエン酸である場合のデンプン複合粒子を以下のように製造した。
【0097】
酸化デンプン(日本コーンスターチ製、SK200)4.5質量%と、エリスリトール(東京化成社製)4.5質量%と、コハク酸(富士フィルム和光製)1質量%と、水と、を混合し、100℃で2時間、加熱撹拌し、デンプン糊化液を作製した。そのデンプン糊化液をスプレードライ装置(ヤマト科学製、ADL311S-A)を用いて、入口温度150℃、出口温度70℃にて噴霧乾燥させ各例のデンプン複合粒子を得た。
【0098】
4.1.2.デンプン、可塑剤及び架橋剤を含むデンプン複合粒子
上記第1実施形態に対応するデンプン複合粒子であって、架橋剤がアジピン酸又はセバシン酸である場合のデンプン複合粒子を以下のように製造した。
【0099】
酸化デンプン(日本コーンスターチ製、SK200)9質量%と、エリスリトール(東京化成社製)9質量%と、水と、を混合し、100℃で2時間、加熱撹拌し、デンプン糊化液を作製した。
【0100】
別途、アジピン酸又はセバシン酸(東京化成)2質量%をエタノール(東京化成社製)と混合し、アジピン酸エタノール溶液、及びセバシン酸エタノール溶液を作製した。
【0101】
そして、デンプン糊化液と、アジピン酸エタノール溶液又はセバシン酸エタノール溶液をそれぞれ質量比1:1にて混合した。
【0102】
得られた混合液をスプレードライ装置(ヤマト科学製、ADL311S-A)を用いて、入口温度150℃℃、出口温度70℃にて噴霧乾燥させ各例のデンプン複合粒子を得た。なお、比較例3のデンプン複合粒子は、可塑剤を用いずに、同様にして作製した。
【0103】
4.1.3.デンプン及び可塑剤を含むデンプン複合粒子
上記第2実施形態に対応するデンプン複合粒子を以下のように製造した。
酸化デンプン(日本コーンスターチ製、SK200)5質量%と、エリスリトール(東京化成社製)5質量%と、水と混合し、100℃で2時間、加熱撹拌し、デンプン糊化液を作製した。デンプン糊化液をスプレードライ装置(ヤマト科学製、ADL311S-A)を用いて、入口温度150℃℃、出口温度70℃にて噴霧乾燥させ各例のデンプン複合粒子(熱可塑性デンプン)を得た。比較例1の粒子は、可塑剤を用いずに同様にして作製した。
【0104】
4.1.4.デンプン複合粒子の組成
得られたデンプン複合粒子の組成を図3(表1)~図8(表6)に記載した。デンプン、可塑剤及び架橋剤の比率の異なるデンプン複合粒子は、上記デンプン複合粒子を製造する際に、それぞれの配合量を変えることにより作製した。
【0105】
図3(表1)~図5(表3)には、各例のデンプン複合粒子における(架橋剤/デンプン複合粒子)の比率を記載した。また、図3(表1)~図8(表6)には、粒度分布計(「マイクロトラックMT3000II」日機装株式会社製)で測定したデンプン複合粒子
の粒子径[μm]を記載した。また、粒子径の異なる粒子は、それぞれ、スプレードライにおいて、混合液(糊化液)の供給速度、入口温度、出口温度、滞留時間、アトマイザ回転数及び噴霧圧力等を適宜に調節することにより作製した。さらに、図6(表4)~図8(表6)には、デンプン複合粒子に対する架橋剤の比率を記載した。
【0106】
4.2.複合体の作製
図3(表1)~図8(表6)に記載の混合比(合計100質量%)「繊維(セルロース)並びにデンプン複合粒子及び架橋剤の合計」となるように、繊維、デンプン複合粒子、及び架橋剤を混合した。繊維(セルロース)は、繊維(セルロース)原料として、セルロース繊維で構成されたG-80(三菱製紙株式会社製)を複数枚用意し、これらを上述したシート供給装置10の収容部に収容し、成形体製造装置100の運転を行い、得られたものを用いた。
【0107】
4.2.1.シートの作製
複合体としてシートを作製した。各例の混合物を、圧力90MPaにて150℃で2分間ホットプレスし、シート状にした試料を作製した。このシートは、紙を想定している。
【0108】
4.2.2.シートの作製
複合体として、密度の小さいシートを作製した。各例の混合物を、圧力1MPaにて180℃で6分間ホットプレスし、密度の低いシート状の試料を作製した。このシートは、緩衝材を想定している。
【0109】
4.3.評価方法
4.3.1.比引張強さ
各例の紙を想定したシートを打ち抜き、AUTOGRAPH AGC-X 500N(島津製作所製)を用いて、JIS P8113に準じた測定を行い、比引張強さを求め、以下の基準に従い評価した。結果を表に記載した。
A:比引張強さが15N・m/g以上
B:比引張強さが10N・m/g以上15N・m/g未満
C:比引張強さが5N・m/g以上10N・m/g未満
D:比引張強さが5N・m/g未満
【0110】
4.3.2.耐湿性
各例の緩衝材を想定したシートを、2cm×1cm×1cmの直方体に切り出した。恒温恒湿槽の内部にアルミ板を敷き、直方体試料を四隅に配置した。その上に800gの重量のアルミ板を置くことで0.01MPaの圧力がかかるようにした。アルミ板-アルミ板間の初期ギャップを測定後、恒温恒湿槽内を60℃90%RHに加温加湿し、120時間経た後のアルミ板-アルミ板間ギャップを測定し、初期ギャップからの変位率(圧縮クリープ率)を求め、以下の基準に従い評価した。結果を表に記載した。
A:圧縮クリープ率が5%未満
B:圧縮クリープ率が5%以上10%未満
C:圧縮クリープ率が10%以上20%未満
D:圧縮クリープ率が20%以上
【0111】
4.4.評価結果
デンプン、可塑剤及び架橋剤を含むデンプン複合粒子と、繊維と、を含み、デンプン複合粒子が繊維に分散している、実施例1-23の複合体、及び、デンプン及び可塑剤を含むデンプン複合粒子と、架橋剤と、繊維と、を含み、デンプン複合粒子が繊維に分散している、実施例24-46の複合体は、いずれも耐湿性及び強度に優れることが判明した。
【0112】
上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態及び各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0113】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0114】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0115】
複合体は、
デンプン、可塑剤及び架橋剤を含むデンプン複合粒子と、
繊維と、
を含み、
前記デンプン複合粒子が前記繊維に分散している。
【0116】
この複合体は、複数の繊維が可塑剤により熱可塑性が付与されたデンプンにより結着されるとともに、架橋剤によって、繊維とデンプンとの間、繊維と繊維との間、デンプンとデンプンとの間に架橋構造が形成されている。そのため、この複合体は、耐湿性及び強度に優れる。
【0117】
複合体は、
デンプン及び可塑剤を含むデンプン複合粒子と、
架橋剤と、
繊維と、
を含み、
前記デンプン複合粒子が前記繊維に分散している。
【0118】
この複合体は、複数の繊維が可塑剤により熱可塑性が付与されたデンプンにより結着されるとともに、架橋剤によって、繊維とデンプンとの間、繊維と繊維との間、デンプンとデンプンとの間に架橋構造が形成されている。そのため、この複合体は、耐湿性及び強度に優れる。
【0119】
上記複合体において、
前記複合体における、前記デンプン、前記可塑剤及び前記架橋剤の合計の含有量[質量%]が、1.5[質量%]以上80[質量%]以下であってもよい。
【0120】
この複合体によれば、より十分な強度が得られる。
【0121】
上記複合体において、
前記可塑剤は、糖アルコールから選択される一種以上であってもよい。
【0122】
この複合体によれば、デンプンの可塑化をより容易に生じさせることができる。これにより、この複合体は、繊維と繊維とをより結着させやすく、より良好な強度を有することができる。
【0123】
上記複合体において、
前記糖アルコールは、ソルビトール、エリスリトール及びD-マンニトールから選択さ
れる一種以上であってもよい。
【0124】
この複合体によれば、デンプンの可塑化をより容易に生じさせることができる。これにより、この複合体は、繊維と繊維とをより結着させやすく、より良好な強度を有することができる。
【0125】
上記複合体において、
前記可塑剤と前記デンプンの含有量の合計を100[質量%]としたとき、前記可塑剤の含有量[質量%]が、10[質量%]以上80[質量%]以下であってもよい。
【0126】
この複合体によれば、デンプンの可塑化がより十分となり、より良好な強度を有することができる。
【0127】
上記複合体において、
前記架橋剤は、ジカルボン酸から選択される一種以上であってもよい。
【0128】
この複合体によれば、繊維とデンプンとの間、繊維と繊維との間、デンプンとデンプンとの間の化学的架橋がエステル結合により形成されるので、さらに強度、耐湿性を向上できる。
【0129】
上記複合体において、
前記ジカルボン酸は、コハク酸、アジピン酸及びセバシン酸から選択される一種以上であってもよい。
【0130】
この複合体によれば、繊維とデンプンとの間、繊維と繊維との間、デンプンとデンプンとの間の化学的架橋がエステル結合により形成されるので、さらに強度、耐湿性を向上できる。
【0131】
上記複合体において、
前記デンプン複合粒子における、前記架橋剤の含有量[質量%]が、1[質量%]以上50[質量%]以下であってもよい。
【0132】
この複合体によれば、繊維とデンプンとの間、繊維と繊維との間、デンプンとデンプンとの間の化学的架橋の程度がより良好となるので、さらに耐湿性、強度に優れる。
【0133】
上記複合体において、
前記デンプン複合粒子と前記架橋剤の含有量の合計を100[質量%]としたとき、前記架橋剤の含有量[質量%]が、1[質量%]以上50[質量%]以下であってもよい。
【0134】
この複合体によれば、繊維とデンプンとの間、繊維と繊維との間、デンプンとデンプンとの間の化学的架橋の程度がより良好となるので、さらに耐湿性、強度に優れる。
【0135】
上記複合体において、
前記デンプン複合粒子は、平均粒子径[μm]が、1[μm]以上50[μm]以下であってもよい。
【0136】
この複合体によれば、デンプン複合粒子の繊維間における分散状態がより均一となるので、耐湿性及び強度にさらに優れる。
【0137】
上記複合体において、
前記繊維は、セルロースを含んでもよい。
【0138】
この複合体によれば、架橋剤による架橋がより生じやすく、さらに強度が良好である。また、この複合体によれば、石油由来の成分をさらに低減できる。
【0139】
上記複合体において、
前記複合体は、緩衝材であってもよい。
【0140】
この複合体によれば、湿度の高い環境であっても、緩衝効果を維持しやすい。
【符号の説明】
【0141】
BM…デンプン複合粒子、CF…繊維、1…ホッパー、2,3,7,8…管、9…ホッパー、10…供給部、12…粗砕部、14…粗砕刃、20…解繊部、22…導入口、24…排出口、40…選別部、41…ドラム部、42…導入口、43…ハウジング部、44…排出口、45…第1ウェブ形成部、46…メッシュベルト、47,47a…張架ローラー、48…吸引部、49…回転体、49a…基部、49b…突部、50…混合部、52…添加物供給部、54…管、56…ブロアー、60…堆積部、61…ドラム部、62…導入口、63…ハウジング部、70…第2ウェブ形成部、72…メッシュベルト、74…張架ローラー、76…サクション機構、78…加湿部、80…シート形成部、84…加熱部、86…加熱ローラー、90…切断部、92…第1切断部、94…第2切断部、96…排出部、100…複合体製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8