(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113965
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ポーラス状電極の製造方法、及びポーラス状電極
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240816BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20240816BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20240816BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20240816BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C23C14/34 M
C23C14/14 D
C23C14/58 A
H01L21/285 S
H01L21/285 301
H01L21/28 301R
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019277
(22)【出願日】2023-02-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年9月5日 第32回マイクロエレクトロニクスシンポジウム(MES2022)のウェブサイト (https://jiep.or.jp/event/mes/mes2022/index.php)において公開 (2)令和4年9月6日 第32回マイクロエレクトロニクスシンポジウム(MES2022)において口頭発表及びポスター発表により公開 (3)令和4年10月14日 第31回2022JIEPワークショップ予稿集にて公開 (4)令和4年10月14日 第31回2022JIEPワークショップにおいてポスター発表により公開
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】根本 俊介
(72)【発明者】
【氏名】八坂 慎一
(72)【発明者】
【氏名】三橋 雅彦
【テーマコード(参考)】
4K029
4M104
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA21
4K029BD02
4K029CA06
4K029DC03
4K029DC15
4K029DC35
4K029EA05
4K029GA01
4M104AA01
4M104BB04
4M104BB07
4M104BB36
4M104BB37
4M104DD37
4M104DD39
4M104DD40
4M104DD42
4M104HH20
(57)【要約】
【課題】接合された材料間に生じる応力を緩和することが可能なポーラス状電極の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の一態様にかかるポーラス状電極の製造方法は、水素吸蔵金属を含む材料をターゲットとし、アルゴンガスと水素ガスとを含む雰囲気下またはアルゴンガスと水とを含む雰囲気下でスパッタリングすることで、水素を含有する電極を成膜する工程と、成膜された電極に含まれる水素を脱離させる工程と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵金属を含む材料をターゲットとし、アルゴンガスと水素ガスとを含む雰囲気下またはアルゴンガスと水とを含む雰囲気下でスパッタリングすることで、水素を含有する電極を成膜する工程と、
前記成膜された電極に含まれる水素を脱離させる工程と、を備える、
ポーラス状電極の製造方法。
【請求項2】
前記ポーラス状の電極をアニールする工程を更に備える、請求項1に記載のポーラス状電極の製造方法。
【請求項3】
前記アルゴンガスに対する前記水素ガスの割合、または前記アルゴンガスに対する前記水の割合を調整することで、前記電極に含まれる空隙の割合を制御する、請求項1に記載のポーラス状電極の製造方法。
【請求項4】
前記アルゴンガスに対する前記水素ガスの割合、または前記アルゴンガスに対する前記水の割合を経時的に変化させることで、前記電極の成膜方向における空隙の割合を制御する、請求項1に記載のポーラス状電極の製造方法。
【請求項5】
前記ターゲットに含まれる前記水素吸蔵金属の割合を変えることで、前記電極に含まれる空隙の径および量の少なくとも一方を制御する、請求項1に記載のポーラス状電極の製造方法。
【請求項6】
前記ターゲットに含まれる水素吸蔵金属の割合が各々異なる複数のターゲットを準備し、成膜中に前記ターゲットを変えることで、前記電極の成膜方向における空隙の割合を調整する、請求項1に記載のポーラス状電極の製造方法。
【請求項7】
前記水素吸蔵金属がパラジウムである、請求項1~6のいずれか一項に記載のポーラス状電極の製造方法。
【請求項8】
前記電極が、銅とパラジウムとを含む、請求項7に記載のポーラス状電極の製造方法。
【請求項9】
前記電極に含まれる前記パラジウムの割合が8atm%よりも少ない、請求項8に記載のポーラス状電極の製造方法。
【請求項10】
水素吸蔵金属を含む材料からなる電極であって、
前記電極がポーラス状である、
ポーラス状電極。
【請求項11】
前記電極の厚さ方向における空隙の割合が変化している、請求項10に記載のポーラス状電極。
【請求項12】
前記水素吸蔵金属がパラジウムである、請求項10または11に記載のポーラス状電極。
【請求項13】
前記電極が、銅とパラジウムとを含む、請求項12に記載のポーラス状電極。
【請求項14】
前記電極に含まれる前記パラジウムの割合が8atm%よりも少ない、請求項13に記載のポーラス状電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポーラス状電極の製造方法、及びポーラス状電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代半導体として、ゲート長の微細化による半導体の高密度化に加えて2.5次元、3次元積層LSIデバイスの研究開発が活発に行われている。これらの次世代半導体ではハイブリッド接合技術が重要であり、このようなハイブリッド接合技術は、次世代実装技術の主流となると考えられる。
【0003】
特許文献1には、エレクトロクロミック装置に関する技術が開示されている。特許文献1にかかるエレクトロクロミック装置は多孔質電極を備えており、当該多孔質電極は、酸素ガス存在下でマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、次世代半導体ではハイブリッド接合技術が重要であり、このようなハイブリッド接合技術は、次世代実装技術の主流となると考えられる。このようなハイブリッド接合技術では、線膨張係数の異なる材料同士を接合することも想定される。
【0006】
しかしながら、線膨張係数の異なる材料同士を接合すると、接合された材料間に応力が生じるためデバイスの信頼性が低下するという問題がある。このため、線膨張係数の異なる材料同士を接合した場合であっても、接合された材料間に生じる応力を緩和することが可能な電極、つまりポーラス状の電極が必要とされている。
【0007】
上記課題に鑑み本発明の目的は、接合された材料間に生じる応力を緩和することが可能なポーラス状電極の製造方法、及びポーラス状電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかるポーラス状電極の製造方法は、水素吸蔵金属を含む材料をターゲットとし、アルゴンガスと水素ガスとを含む雰囲気下またはアルゴンガスと水とを含む雰囲気下でスパッタリングすることで、水素を含有する電極を成膜する工程と、前記成膜された電極に含まれる水素を脱離させる工程と、を備える。
【0009】
本発明の一態様にかかるポーラス状電極は、水素吸蔵金属を含む材料からなる電極であって、前記電極がポーラス状である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、接合された材料間に生じる応力を緩和することが可能なポーラス状電極の製造方法、及びポーラス状電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態にかかるポーラス状電極を説明するための電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施の形態にかかるポーラス状電極の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】実施の形態にかかるポーラス状電極の適用例を説明するための断面図である。
【
図4】サンプル1~サンプル3にかかる電極の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態にかかるポーラス状電極を説明するための電子顕微鏡写真である。なお、以下ではポーラス状電極を単に「電極」とも記載する。
図1に示すように、本実施の形態にかかる電極11は、電極11内に複数の空隙13を有する構造を備える。換言すると、本実施の形態にかかる電極11はポーラス状である。
図1では、電極11が基板10上に形成されている状態を示している。
【0013】
本実施の形態にかかる電極11は、水素吸蔵金属を含む材料からなる電極である。例えば、水素吸蔵金属には、パラジウム、カルシウム、マグネシウムなどを用いることができる。特に本実施の形態では、水素吸蔵金属としてパラジウムを用いることが好ましい。パラジウムは、パラジウムの体積の約1000倍の水素を吸蔵することができる。
【0014】
また、本実施の形態では電極11を構成する材料として、水素吸蔵金属と他の金属とを含む材料を用いてもよい。例えば、銅とパラジウムとを含む材料、銅とカルシウムとを含む材料、銅とマグネシウムとを含む材料などを用いることができる。特に本実施の形態では、銅とパラジウムとを含む材料を用いることが好ましい。この場合、電極11に含まれるパラジウムの割合(原子%)を0%<Pd濃度<8%とすることが好ましい。銅とパラジウムとを含む材料において、パラジウムの割合を8atm%よりも少なくした場合は、銅にパラジウムが固溶する(つまり、銅とパラジウムが合金化しない)。その結果、純銅から8atm%の範囲でスパッタ中にパラジウムの濃度を変更しても格子定数の不一致が最小化できる。したがって、ポーラス状の電極11は、格子定数の不一致が小さくなることから格子欠陥が少なくなり、長期信頼性が期待できる。なお、本実施の形態では、応力緩和を目的としたポーラス状の電極11を形成するのであれば、電極11に含まれるパラジウムの割合(原子%)を8%≦Pd濃度≦100%の範囲としてもよい。
【0015】
図1に示すように、本実施の形態にかかる電極11は、電極11の内部に空隙13を備えるポーラス状の電極である。このため、例えば、線膨張係数の異なる材料同士を接合した場合であっても、接合された材料間に生じる応力を緩和することができる。つまり、電極11がポーラス状の場合は電極11のヤング率が低下するので、線膨張係数の異なる材料同士を接合した際、接合された材料間に生じる応力が緩和される。また、電極11に形成された空隙13は略球状であるため、電極11内部の一部に応力が集中することを抑制できる。したがって、亀裂の発生を抑制でき、外力による影響を低減でき、電極の強度も向上する。すなわち、本実施の形態にかかる電極11は、弾性と強度の高い接合特性を備えるので、接合された材料間に生じる応力を抑制できデバイスの信頼性を向上させることができる。
【0016】
本実施の形態では、電極11の厚さ方向における空隙13の割合が変化するようにしてもよい。このように、電極11の厚さ方向における空隙13の割合を変化させることで、電極11のヤング率を調整できる。また、本実施の形態では、
図1に示すように電極11の上下面側(つまり、接合面側)において空隙13の割合が少なくなるように(もしくは空隙13が存在しないように)してもよい。このように、接合面側において空隙13の割合が少なくなるようにすることで、接合面側における電極11の接合強度、つまり電極11と他の材料との接合強度を非ポーラス電極と同等に高めることができる。
【0017】
次に、本実施の形態にかかるポーラス状電極の製造方法について説明する。
図2は、本実施の形態にかかるポーラス状電極の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0018】
本実施の形態にかかるポーラス状電極の製造方法では、まず、水素吸蔵金属を含む材料をターゲットとし、アルゴンガスと水素ガスとを含む雰囲気下またはアルゴンガスと水とを含む雰囲気下でスパッタリングすることで、水素を含有する電極11を成膜する(ステップS1)。
【0019】
ターゲットには、上述の電極11を構成する材料を用いることができる。すなわち、水素吸蔵金属を含む材料をターゲットとして用いることができる。水素吸蔵金属には、パラジウム、カルシウム、マグネシウムなどを用いることができる。特に本実施の形態では、水素吸蔵金属としてパラジウムを用いることが好ましい。また、ターゲットとして、水素吸蔵金属と他の金属とを含む材料を用いてもよい。例えば、銅とパラジウムとを含む材料、銅とカルシウムとを含む材料、銅とマグネシウムとを含む材料などを用いることができる。特に本実施の形態では、銅とパラジウムとを含む材料をターゲットとして用いることが好ましい。
【0020】
この場合、電極11に含まれるパラジウムの割合(原子%)を0%<Pd濃度<8%とすることが好ましい。銅とパラジウムとを含む材料において、パラジウムの割合を8atm%よりも少なくした場合は、銅にパラジウムが固溶する(つまり、銅とパラジウムが合金化しない)。その結果、純銅から8atm%の範囲でスパッタ中にパラジウムの濃度を変更しても格子定数の不一致が最小化できる。したがって、ポーラス状の電極11は、格子定数の不一致が小さくなることから格子欠陥が少なくなり、長期信頼性が期待できる。なお、本実施の形態では、応力緩和を目的としたポーラス状の電極11を形成するのであれば、電極11に含まれるパラジウムの割合(原子%)を8%≦Pd濃度≦100%の範囲としてもよい。
【0021】
例えば、任意の銅パラジウム合金ターゲットを用いても良い。または、銅のターゲットの上にパラジウム金属片を置いてターゲットとして用いてもよい。この場合は、銅のターゲットのエロージョン領域にパラジウム金属片を置いてもよい。また、パラジウム金属片の数を調整することで、銅とパラジウムの組成を調整してもよい。
【0022】
本実施の形態で用いられるスパッタ装置は、典型的にはRFマグネトロンスパッタ装置である。本実施の形態では、アルゴンガスと水素ガスとを含む雰囲気下またはアルゴンガスと水とを含む雰囲気下でスパッタリングを行う。アルゴンガスはスパッタ装置のチャンバー内に導入される。スパッタ装置に導入されたアルゴンガスは、電離してプラズマ状になる。そして、陽イオン化したアルゴンがターゲットに衝突することで、ターゲットの金属粒子がスパッタされ、スパッタされた金属粒子が基板に析出して成膜される。
【0023】
本実施の形態では、アルゴンガスとともに水素または水を導入する。アルゴンガスとともに水素を導入した場合は、スパッタされた金属粒子が基板に析出して成膜される際に、水素原子が水素吸蔵金属(パラジウム)に取り込まれる。このため、成膜された電極11には水素が含まれる。また、アルゴンガスとともに水(水蒸気)を導入した場合は、水分子がプラズマ中でH+とOH-に分離し、この分離したH+が水素吸蔵金属(パラジウム)に取り込まれる。このため、成膜された電極11には水素が含まれる。
【0024】
スパッタ装置のチャンバー内に導入されるアルゴンガス、水素ガス、又は水の量は、マスフローコントローラを用いて制御できる。また、成膜前にスパッタ装置のチャンバーを大気開放し、実験室内の水蒸気をチャンバー内に付着させることでチャンバー内に水を導入してもよい。また、アルゴンガスを用いて水をバブリングし、アルゴンガスに水分を含めることでチャンバー内に水を導入してもよい。この場合は、水の温度を制御することで、チャンバー内に導入される水の量を調整することができる。
【0025】
次に、ステップS1で成膜された電極11に含まれる水素を脱離させて電極11をポーラス状にする(ステップS2)。例えば、成膜された電極11を20℃~200℃に加熱することで、電極11に含まれる水素を脱離させることができる。水素の脱離は、電極11を成膜後、スパッタ装置のチャンバー内で実施してもよい。例えば真空下で加熱した場合は、水素を脱離させるための温度を高くすることができる。また、水素の脱離は上記温度で行われるため、成膜プロセス中で水素が自然に脱離して電極11がポーラス状になることもある。
【0026】
その後、ポーラス状の電極11をアニールする(ステップS3)。水素を脱離させた後の電極11は、水素脆性のために脆くなっている場合がある。このため、水素を脱離させた後の電極11をアニールして再結晶化させることで、電極11の強度を高めることができる。このときのアニール温度は、例えば200℃~250℃とすることができる。なお、ステップS3は省略してもよい。また、ステップS2とステップS3は同時に実施してもよい。すなわち、電極11に含まれる水素の脱離(ステップS2)と電極11の再結晶化(ステップS3)を同時に実施してもよい。
【0027】
上述した本実施の形態にかかる電極の製造方法において、アルゴンガスに対する水素ガスの割合、またはアルゴンガスに対する水の割合を調整することで、電極11に含まれる空隙13の割合を制御してもよい。すなわち、成膜時(ステップS1)にチャンバーに導入する水素または水の量(つまり、水素原子の量)を調整することで、電極11(水素吸蔵金属)に取り込まれる水素の量を変化させることができる。電極11に取り込まれる水素の量は、水素を脱離させて電極11をポーラス状にした際(ステップS2)の空隙13の量に対応している。よって、アルゴンガスに対する水素ガスの割合、またはアルゴンガスに対する水の割合を調整することで、電極11に含まれる空隙13の割合を制御できる。
【0028】
このとき、アルゴンガスに対する水素ガスの割合、またはアルゴンガスに対する水の割合を経時的に変化させることで、電極11の成膜方向における空隙13の割合を制御してもよい。例えば、水素ガスまたは水を導入するタイミングを調整することで、電極11の成膜方向の任意の位置に空隙13を形成できる。換言すると、空隙13の割合(0を含む)が各々異なる階層構造を備える電極11を形成できる。
【0029】
例えば、
図1に示したように、電極11の上下面側(つまり、接合面側)において空隙13の割合を少なくし、電極11の内部において空隙13の割合を多くすることで、接合面側における電極11の接合強度を維持しつつ、接合された材料間に生じる応力を緩和することができる。
図1に示す構造の電極11を形成する際は、最初アルゴンガスのみをチャンバーに導入して成膜し、その後、水素ガスまたは水の割合を増加させて成膜する。更にその後、水素ガスまたは水の割合を減少させて成膜する(もしくはアルゴンガスのみをチャンバーに導入して成膜する)。
【0030】
また、本実施の形態では、ターゲットに含まれる水素吸蔵金属の割合を変えることで、電極11に含まれる空隙13の径および量の少なくとも一方を制御してもよい。例えば、ターゲットに含まれる水素吸蔵金属の割合を多くした場合は、成膜時に電極11に取り込まれる水素の量が増えるので、水素脱離後の電極11に含まれる空隙13の径が大きくなり、また空隙13の量も多くなる。逆に、ターゲットに含まれる水素吸蔵金属の割合を少なくした場合は、成膜時に電極11に取り込まれる水素の量が減少するので、水素脱離後に電極11に含まれる空隙13の径が小さくなり、また空隙13の量も少なくなる。
【0031】
このとき、ターゲットに含まれる水素吸蔵金属の割合が各々異なる複数のターゲットを準備し、成膜中にターゲットを変える(切り替える)ことで、電極11の成膜方向における空隙13の割合を調整してもよい。すなわち、水素吸蔵金属の割合が各々異なる複数のターゲットをスパッタ装置に設ける。そして、1つ目のターゲットを用いて所定時間成膜した後、プラズマを停止して2つ目のターゲットに交換する(切り替える)。その後、2つ目のターゲットを用いて所定時間成膜した後、プラズマを停止して3つ目のターゲットに交換する(切り替える)。このように成膜とターゲットの交換(切り替え)を複数回繰り返すことで、電極11の成膜方向における空隙13の割合を調整することができる。なお、電極11の所定の領域に空隙13を含まない領域を形成する場合は、水素吸蔵金属を含まないターゲット(例えば、銅のみのターゲット)を用いてもよい。
【0032】
図3は、本実施の形態にかかる電極の適用例を説明するための断面図である。本実施の形態にかかる電極は、線膨張係数の異なる材料同士を接合するようなハイブリッド接合技術に好適に用いることができる。
図3に示すデバイス100は、基板(シリコン基板)10、電極11、及び樹脂材料(またはシリコン化合物)31、32を備える。次世代半導体ではこのように、シリコン、金属材料、有機材料のような、線膨張係数が各々異なる材料が接合されたハイブリッド接合構造を備える。このようなハイブリッド接合構造では、各々の材料の線膨張係数が異なるため、材料間に応力が発生する。
【0033】
本実施の形態では、
図3に示すように、電極11をポーラス状としているので、各々の材料間の線膨張係数の差を吸収でき、各々の材料間に生じる応力を緩和することができる。
図3に示す構成例では、基板10と電極11とが接合する面側の領域21において、空隙13を少なくし(もしくは空隙13が存在しないようにし)、電極11と基板10の接合強度を強くしている。一方、電極11の中央の領域22では空隙13を多くして、基板10、電極11、樹脂材料(またはシリコン化合物)31、32間に生じる応力を緩和している。電極11の上部の領域23では空隙13を少なくし(もしくは空隙13が存在しないようにし)、電極11と上部の部材(不図示)との接合強度を強くしている。
【0034】
なお、
図3に示した適用例は一例であり、本実施の形態にかかる電極は、部材間における応力を緩和しつつ、電気的な接続が必要な場所であればどのような場所にも適用することができる。また、電極中に設ける空隙の場所や割合は、電極を設ける場所に発生する応力等を考慮して決定できる。
【0035】
以上で説明したように、本実施の形態にかかる電極の製造方法では、電極11の内部に空隙13を備えるポーラス状の電極11を形成できる。このため、例えば、線膨張係数の異なる材料同士を接合した場合であっても、接合された材料間に生じる応力を緩和することができる。つまり、電極11がポーラス状の場合は電極11のヤング率が低下するので、線膨張係数の異なる材料同士を接合した際、接合された材料間に生じる応力が緩和される。また、電極11に形成された空隙13は略球状であるため、電極11内部の一部に応力が集中することを抑制できる。したがって、亀裂の発生を抑制でき、外力による影響を低減でき、電極11の強度も向上する。すなわち、本実施の形態にかかるポーラス状電極11は、弾性と強度の高い接合特性を備えるので、接合された材料間に生じる応力を抑制できデバイスの信頼性を向上させることができる。特に、本実施の形態にかかるポーラス状電極の製造方法では、既存のスパッタ装置に水素ガスまたは水を導入することで実施できるので、ポーラス状の電極を安価に製造することができる。
【実施例0036】
以下、実施例について説明する。
マグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ株式会社社製L-332S-FH)を用いてサンプル1~3を作製した。
具体的には、まず、銅のターゲットとパラジウム片を準備した。そして、銅のターゲットをマグネトロンスパッタ装置のチャンバー内に設置し、更に銅のターゲットの上にパラジウム片を配置し、これらをターゲットとして用いた。その後、スパッタ装置のチャンバー内にシリコン基板を設置し、チャンバー内が1×10-4(Pa)程度の真空度になるように真空引きした。次に、スパッタ装置に10sccmの流量でArガスを導入し、チャンバー内の圧力を0.3(Pa)とし、RF出力100Wの条件で60分間、Cu-Pd膜(電極膜)を成膜した。成膜したCu-Pd膜中のPdの組成比(原子比)は5.2%であった。
【0037】
その後、Cu-Pd膜を作製した基板を80℃条件で加熱し、Cu-Pd膜に含まれる水素を脱離させて電極をポーラス状にした。そして、このようにして作製したサンプル1~3の断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて観察した。サンプル1~3の断面写真を
図4に示す。
図4に示すように、サンプル1では空隙は形成されなかったが、サンプル2、3では空隙が形成された。この理由について、以下で説明する。
【0038】
上述のようにCu-Pd膜を成膜する際、成膜の準備のためにマグネトロンスパッタ装置のチャンバーを大気開放した。サンプル1では、チャンバーを大気開放した際の実験室内の湿度が45.3%であった。サンプル2では、チャンバーを大気開放した際の実験室内の湿度が92.0%であった。サンプル3では、チャンバーを大気開放した際の実験室内の湿度が98.0%であった。
【0039】
つまり、サンプル2、3では、チャンバーを大気開放した際の湿度が90%以上と高かったため、チャンバーを大気開放した際に大気中の水分がチャンバーの内壁に吸着したと考えられる。そして、Cu-Pd膜を成膜した際に、チャンバーの内壁に吸着していた水分が脱離し、この水分に由来する水素がCu-Pd膜中に取り込まれたと考えられる。そして、Cu-Pd膜を成膜後、Cu-Pd膜に含まれる水素が脱離してポーラス状の電極が形成されたと考えられる。
【0040】
一方、サンプル1では、チャンバーを大気開放した際の湿度が、サンプル2、3の場合よりも低かったため、チャンバーを大気開放した際に大気中の水分がチャンバーの内壁に十分に吸着しなかったと考えられる。このため、サンプル1では、Cu-Pd膜を成膜している際に、水分に由来する水素がCu-Pd膜中に取り込まれず、このためCu-Pd膜がポーラス状にならなかったと考えられる。
【0041】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。