(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113975
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】テンプレート及びテンプレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/88 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
A61B17/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019297
(22)【出願日】2023-02-10
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000193612
【氏名又は名称】ミズホ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貴徳
(72)【発明者】
【氏名】石原 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】三浦 大輝
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL24
4C160LL63
4C160LL70
(57)【要約】
【課題】術者を含む手術スタッフの経験や勘等に依存することなく、術者を含む手術スタッフに対して、体内に設置する前段階において、患者にとって最適な矯正効果が得られるロッドの弯曲の程度を教示するテンプレートを提供する。
【解決手段】テンプレート10は、ロッドを体内に設置する前段階にて、術者を含む手術スタッフに対して、患者固有の骨盤の形態角に対応したロッド全体の弯曲の程度を教示するものである。これにより、術者を含む手術スタッフの経験や勘等に依存することなく、テンプレート10により教示された最適な弯曲を有するロッドによって、脊柱変形に対して矯正、固定することで、患者にとって最適な矯正効果を得ることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊柱の各椎骨に装着され、体内埋没材として構成されるロッドを患者の体内に設置する際に使用されるテンプレートであって、
前記ロッドを体内に設置する前段階にて、術者を含む手術スタッフに対して、患者固有の骨盤の形態角に対応した前記ロッド全体の弯曲の程度を教示することを特徴とするテンプレート。
【請求項2】
前記テンプレートは、前記ロッド全体の弯曲の程度を二次元にて示したロッド形状を表示した表示部を備えることを特徴とする請求項1に記載のテンプレート。
【請求項3】
前記テンプレートは、板材の表面に前記表示部を設けてなることを特徴とする請求項2に記載のテンプレート。
【請求項4】
前記表示部には、前記ロッド形状の変曲点が表示されていることを特徴とする請求項2に記載のテンプレート。
【請求項5】
前記テンプレートは、前記ロッド全体の弯曲の程度を二次元または三次元にて曲げ加工されたテンポラリロッドにて構成されることを特徴とする請求項1に記載のテンプレート。
【請求項6】
脊柱の各椎骨に装着され、体内埋没材として構成されるロッドを患者の体内に設置する前段階にて弯曲させる際、術者を含む手術スタッフに対して、その弯曲の程度を教示するテンプレートの製造方法であって、
過去の多数の症例に基づいて、患者固有の骨盤の形態角ごとに、最適な弯曲を有するロッド形状をそれぞれ導き、当該ロッド形状に基づき前記テンプレートを製造することを特徴とするテンプレートの製造方法。
【請求項7】
過去の多数の症例に基づいて、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状、及び体内に設置前に曲げ加工されたロッド形状をそれぞれデータとして取得するロッド形状取得工程と、
該ロッド形状取得工程にて取得した、多数の、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状を、患者固有の骨盤の形態角ごとの群に分類する形態角分類工程と、
該形態角分類工程にて、骨盤の形態角ごとの群に分類された多数のロッド形状に基づいて、骨盤の形態角ごとに近似曲線を算出し、当該曲線を有する単一のロッド形状を取得する近似ロッド形状取得工程と、
前記ロッド形状取得工程にて取得した、同一患者に対して、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状と、体内に設置前に曲げ加工されたロッド形状とを比較して、形態角ごとにロッドの変形量を算出するロッド変形量算出工程と、
該ロッド変形量算出工程によって形態角ごとに算出した変形量を、前記近似ロッド形状取得工程において取得した形態角ごとのロッド形状に加味して、形態角ごとに最適な弯曲を有するロッド形状を導き、当該ロッド形状に基いてテンプレートを製造するテンプレート製造工程と、
を含むことを特徴とする請求項6に記載のテンプレートの製造方法。
【請求項8】
前記形態角分類工程と、前記近似ロッド形状取得工程との間に、骨盤の形態角ごとの群に分類された多数のロッド形状に基づいて、各形態角において、ロッドの、設定された複数の全長ごとの群に分類するロッド長分類工程を備え、
前記近似ロッド形状取得工程では、前記形態角分類工程及び前記ロッド長分類工程にて取得した、各形態角において、ロッドの全長ごとの群にそれぞれ分類された多数のロッド形状に基づいて近似曲線を算出して、当該曲線を有する単一のロッド形状を取得することを特徴とする請求項7に記載のテンプレートの製造方法。
【請求項9】
前記変形量は、腰椎前弯角度の差を含むことを特徴とする請求項7に記載のテンプレートの製造方法。
【請求項10】
前記テンプレート製造工程では、
前記形態角が40°~49°の範囲では、最適な弯曲を有するロッド形状が複数設定され、
また、前記形態角が50°~59°の範囲でも、最適な弯曲を有するロッド形状が複数設定されることを特徴とする請求項7に記載のテンプレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊柱の各椎骨に装着され、体内埋没材として構成されるロッドを患者の体内に設置する前段階で使用され、ロッドの弯曲の程度を教示するテンプレート、及び当該テンプレートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者の背中の正中を大きく切開して、その切開部分から椎弓根スクリュ及びロッド等を体内に挿入しつつ、脊柱に装着することで、脊柱の安定性を高めたり、脊柱変形を矯正するなど、脊柱を安定化させる外科的治療が行われている。このような、脊柱変形矯正固定術では、チタン合金、コバルトクロム合金などの生体親和材料にて製造されたロッドを、椎弓根にねじ込ませた椎弓根スクリュなどで保持することによって、脊柱を矯正して固定する。ロッドは、通常、手術中、すなわち椎弓根スクリュに保持される直前にベンダーなどの手術器具を利用して、術者の手によって曲げられ、しかも、椎弓根スクリュに強固に保持される前(仮止め状態)においても、必要に応じて、術者の手によってロッドの弯曲が微調整されることもある。
【0003】
そして、曲げられたロッドの形状(ロッドの弯曲)によって、矯正後の脊柱の状態が概ね決定する。そのため、ロッドの弯曲は、脊柱変形矯正固定術において重要な要素となる。これまでの脊柱変形矯正固定術では、手術中に、術者や手術スタッフによって直線状のロッドが専用の手術器具により適宜曲げられているが、そのロッド全体の弯曲の程度、すなわち弯曲方向や角度等は、術者を含む手術スタッフの経験や勘に依存され、術者や手術スタッフ次第で微妙に変わり、患者にとって最適な矯正効果が得られるものではなかった。要するに、従来では、ロッドを患者の体内に設置する前段階にて、術者や手術スタッフに対して、患者にとって最適な矯正効果が得られるロッド全体の弯曲の程度を教示するものが一切存在しなかった。
【0004】
また、近年では、低侵襲手術として、患者の背中から経皮的に(数個の小切開孔から)、椎弓根スクリュ及びロッド等を体内に挿入して各椎骨に固定し、脊柱を安定化させる術式が採用されている。このような経皮的な術式によって脊柱を安定化させる方法は、背中を大きく切開する術式に比べて、手術に伴う出血量が減少して、手術時間も短縮することができ、しかも、手術部位感染も減少するなど、多くの点で患者にとって有利となる。このような、低侵襲手術では、前述した、ロッドの弯曲に対する課題が顕著になり、大きな問題となる。それは、このような低侵襲手術でも、患者の背中を大きく切開する術式と同様に、ロッドが、患者の体内に挿入される前段階にて、専用の手術器具を利用して術者を含む手術スタッフによって適宜曲げられているが、当該曲げられたロッドを経皮的に体内に挿入した後は、ロッドの弯曲を調整することが容易にできないためである。
【0005】
また、患者の背中を大きく切開する術式は、脊椎骨組織に付着している筋肉や靭帯類全てを剥離し、術野を展開して、脊柱のアライメントを脊柱安定化システム(椎弓根スクリュやロッド等を含む)により矯正しているために、ロッドへの負荷が小さく、ロッドの、体内への設置前の弯曲状態に対する設置後の弯曲状態の変形量が小さくなる。これに対して、経皮的な術式は、脊椎骨組織に付着している筋肉や靭帯類を剥離せずに、脊柱のアライメントを脊柱安定化システムにより矯正しているために、ロッドへの負荷が大きく、ロッドの、体内への設置前の弯曲程度に対する設置後の弯曲程度の変形量が大きくなる。そのために、経皮的な術式では、患者の背中を切開する術式にて得た、設置前のロッドの弯曲の程度についての経験や勘が全く通用せず、経皮的な術式においても、設置前のロッドの詳細な弯曲の程度があらためて重要となる。
【0006】
なお、特許文献1には、外科的ロッドを受け入れるための受け入れ領域を形成するハンドル、ハンドルに回動可能に連結されるレバー、及び曲げ軸心を中心にして外科的ロッドを曲げるためのテンプレートとして使用され得る曲がった形を有するテンプレートロッドを保持するために構成され、前記受け入れ領域と隣接する位置で前記ハンドル、及び前記レバーのうちの1つに取り付けられるテンプレートロッドホルダーを備える、外科的ロッドを曲げるための器具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の外科的ロッド曲げ器具では、テンプレートロッドを保持するためのテンプレートロッドホルダーを備えているが、このテンプレートロッドは、単に、外科的ロッドを局所的に曲げるためのものであって、術者や手術スタッフに対して、患者によって最適な矯正効果が得られる外科的ロッド全体の弯曲方向や正確な角度を教示するものではない。すなわち、特許文献1に記載のテンプレートロッドでは、術者や手術スタッフに対して、患者固有の骨盤の形態角(PI)に基づいた外科的ロッド全体の最適な弯曲を教示していないので、当該テンプレートロッドに沿って弯曲させた外科用ロッドにより、脊柱変形に対して矯正、固定したとしても、患者によって最適な矯正効果が得られることは困難となる。
【0009】
要するに、特許文献1に記載のテンプレートロッドにおいても、患者の背中を大きく切開する術式や、経皮的な術式(低侵襲手術)における脊柱変形矯正固定術において、術者を含む手術スタッフが、患者の体内に設置する前段階にてロッドを弯曲させる際、患者にとって最適な矯正効果が得られる、ロッドの弯曲の程度、すなわち詳細な弯曲方向や角度を取得することは難しい。
【0010】
そして、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、術者を含む手術スタッフの経験や勘等に依存することなく、術者を含む手術スタッフに対して、体内に設置する前段階において、患者にとって最適な矯正効果が得られるロッドの弯曲の程度を教示するテンプレート、及び当該テンプレートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段として、請求項1のテンプレートに係る発明は、脊柱の各椎骨に装着され、体内埋没材として構成されるロッドを患者の体内に設置する際に使用されるテンプレートであって、前記ロッドを体内に設置する前段階にて、術者を含む手術スタッフに対して、患者固有の骨盤の形態角に対応した前記ロッド全体の弯曲の程度を教示することを特徴とするものである。
請求項1の発明では、テンプレートにより、体内にロッドを設置する前段階にて、術者を含む手術スタッフに対して、患者固有の形態角に対応したロッド全体の弯曲の程度を教示することができる。その結果、テンプレートに沿って弯曲させたロッドにて、脊柱変形に対して矯正、固定することで、患者にとって最適な矯正効果を得ることができる。
【0012】
なお、骨盤の形態角(PI)は、患者固有の角度であって、当該形態角を基準に、解剖学的に正常な脊柱の矢状面アライメント(椎骨の配列)が構築されることになる。すなわち、形態角の違いによって、胸椎の後弯角度、腰椎の前弯角度が異なり、骨盤の形態に応じて、胸椎及び腰椎が矢状面においてバランスをとった結果となる。
【0013】
そして、請求項1の発明では、テンプレートにより、患者固有の骨盤の形態角に対応した、最適なロッド形状、すなわち最適な弯曲を有するロッド形状を教示できるので、術者を含む手術スタッフの経験や勘等に依存することなく、テンプレートにより教示された最適な弯曲を有するロッドによって、脊柱変形に対して矯正、固定することで、正常な脊柱のアライメントに近づくことが可能になる、すなわち、各患者にとって最適な矯正効果を得ることができる。要するに、請求項1の発明では、術者を含む手術スタッフにより、テンプレートに基づいて、各患者固有の形態角に対応した最適なロッド形状に沿ってロッドを弯曲させるので、各患者に対して、セミオーダーメイド治療が実現されることになる。
【0014】
また、当該テンプレートは、患者へのアプローチの違い(患者の背中を大きく切開する術式や経皮的な術式等)、ロッドの材質(チタン製やコバルトクロム合金製等)の違い、またロッドの外径の違いに対して適宜用意する必要がある。
【0015】
請求項2のテンプレートに係る発明は、請求項1に記載した発明において、前記テンプレートは、前記ロッド全体の弯曲の程度を二次元にて示したロッド形状を表示した表示部を備えることを特徴とするものである。
請求項2の発明では、術者を含む手術スタッフは、テンプレートの表示部に示されたロッド形状に沿うようにロッドを容易に曲げ加工することができる。
【0016】
請求項3のテンプレートに係る発明は、請求項2に記載した発明において、前記テンプレートは、板材の表面に前記表示部を設けてなることを特徴とするものである。
請求項3の発明では、板材の表面、すなわち上面及び/または下面に表示部が設けられており、この板材を容易に手術室内に持ち込めるので、その取り扱いが良好になる。
【0017】
請求項4のテンプレートに係る発明は、請求項2に記載した発明において、前記表示部には、前記ロッド形状の変曲点が表示されていることを特徴とするものである。
請求項4の発明では、テンプレートにより弯曲させたロッドにおいて、脊柱変形に対してロッド固定による矢状面矯正の指標の一つとして変曲点(腰椎前弯と胸椎後弯との境目である変曲点)の位置を把握することができるので、術者が、術後の患者の矯正位置をイメージすることができる。
【0018】
請求項5のテンプレートに係る発明は、請求項1に記載した発明において、前記テンプレートは、前記ロッド全体の弯曲の程度を二次元または三次元にて曲げ加工されたテンポラリロッドにて構成されることを特徴とするものである。
請求項5の発明では、ロッド全体の弯曲の程度(ロッド形状)が三次元の場合には、特に、有効である。
【0019】
請求項6のテンプレートの製造方法に係る発明は、脊柱の各椎骨に装着され、体内埋没材として構成されるロッドを患者の体内に設置する前段階にて弯曲させる際、術者を含む手術スタッフに対して、その弯曲の程度を教示するテンプレートの製造方法であって、過去の多数の症例に基づいて、患者固有の骨盤の形態角ごとに、最適な弯曲を有するロッド形状をそれぞれ導き、当該ロッド形状に基づき前記テンプレートを製造することを特徴とするものである。
請求項6の発明では、患者固有の骨盤の形態角ごとに、最適なロッド形状、すなわち最適な弯曲を有するロッド形状をそれぞれ導いて、形態角に対応したロッド全体の弯曲の程度を教示するテンプレートを製造することができる。その結果、請求項1の発明と同様に、術者を含む手術スタッフの経験や勘等に依存することなく、テンプレートにより教示されたロッドを脊柱変形に対して矯正、固定することで、各患者にとって最適な矯正効果を得ることができる。
【0020】
請求項7のテンプレートの製造方法に係る発明は、請求項6に記載の発明において、過去の多数の症例に基づいて、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状、及び体内に設置前に曲げ加工されたロッド形状をそれぞれデータとして取得するロッド形状取得工程と、該ロッド形状取得工程にて取得した、多数の、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状を、患者固有の骨盤の形態角ごとの群に分類する形態角分類工程と、該形態角分類工程にて、骨盤の形態角ごとの群に分類された多数のロッド形状に基づいて、骨盤の形態角ごとに近似曲線を算出し、当該曲線を有する単一のロッド形状を取得する近似ロッド形状取得工程と、前記ロッド形状取得工程にて取得した、同一患者に対して、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状と、体内に設置前に曲げ加工されたロッド形状とを比較して、形態角ごとにロッドの変形量を算出するロッド変形量算出工程と、該ロッド変形量算出工程によって形態角ごとに算出した変形量を、前記近似ロッド形状取得工程において取得した形態角ごとのロッド形状に加味して、形態角ごとに最適な弯曲を有するロッド形状を導き、当該ロッド形状に基いてテンプレートを製造するテンプレート製造工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0021】
なお、各患者の脊柱変形の矯正に対する硬軟程度や、手術環境下、例えば、椎体間にLIFケージを設置後の手術環境下の場合、各患者において、形態角が略同じ程度であっても、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状と、体内に設置前に曲げ加工されたロッド形状とを比較すると、ロッドの変形量が大幅に相違する場合がある。
【0022】
このような事情に鑑み、請求項7の発明では、特に、ロッド形状取得工程にて取得した、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状と、体内に設置前に曲げ加工されたロッド形状とを比較して、形態角ごとにその変形量を算出するロッド変形量算出工程と、該ロッド変形量算出工程によって形態角ごとに算出した変形量を、近似ロッド形状取得工程において取得した形態角ごとのロッド形状に加味して、形態角ごとに最適なロッド形状を導き、当該ロッド形状に基いてテンプレートを製造するテンプレート製造工程と、を備えているので、各患者にとって最適な弯曲を有するロッド形状を得るべくその精度を高めることができる。
【0023】
請求項8のテンプレートの製造方法に係る発明は、請求項7に記載の発明において、前記形態角分類工程と、前記近似ロッド形状取得工程との間に、骨盤の形態角ごとの群に分類された多数のロッド形状に基づいて、各形態角において、ロッドの、設定された複数の全長ごとの群に分類するロッド長分類工程を備え、前記近似ロッド形状取得工程では、前記形態角分類工程及び前記ロッド長分類工程にて取得した、各形態角において、ロッドの全長ごとの群にそれぞれ分類された多数のロッド形状に基づいて近似曲線を算出して、当該曲線を有する単一のロッド形状を取得することを特徴とするものである。
請求項8の発明では、ロッド長分類工程では、各形態角において、ロッド長ごとの群に分類してロッド形状を得ているので、さらに各患者にとって最適なロッド形状を得るべくその精度を高めることができる。
【0024】
請求項9のテンプレートの製造方法に係る発明は、請求項7に記載の発明において、前記変形量は、腰椎前弯角度の差を含むことを特徴とするものである。
請求項9の発明では、少なくとも、ロッドの変曲点から腰椎側の腰椎前弯角(LL)の差を算出することで、変形量を精度良く算出することができる。
【0025】
請求項10のテンプレートの製造方法に係る発明は、請求項7に記載の発明において、前記テンプレート製造工程では、前記形態角が40°~49°の範囲では、最適な弯曲を有するロッド形状が複数設定され、また、前記形態角が50°~59°の範囲でも、最適な弯曲を有するロッド形状が複数設定されることを特徴とするものである。
請求項10の発明では、各患者の脊柱変形の矯正に対する硬軟程度や、特殊な手術環境下、例えば、隣接する椎体間にLIFケージを設置後の手術環境下などを考慮して、最適な弯曲を有するロッド形状を選択することができ、この点からも、各患者にとって最適なロッド形状を得るべくその精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るテンプレートでは、術者を含む手術スタッフの経験や勘等に依存することなく、術者を含む手術スタッフに対して、体内に設置する前段階において、患者にとって最適な矯正効果が得られるロッドの弯曲の程度を教示することができる。また、本発明に係るテンプレートの製造方法では、過去の多数の症例に基づいて、患者の骨盤の形態角ごとに、最適な弯曲を有するロッド形状をそれぞれ導いて、当該ロッド形状に基づいてテンプレートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、経皮的脊柱安定化システムを示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るテンプレートに採用した板材の上面に設けた、各ロッド形状が表示してある表示部の平面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るテンプレートに採用した板材の下面に設けた、各ロッド形状が表示してある表示部の平面図である。
【
図4】
図4は、他の実施形態に係るテンプレートであるテンポラリロッドの斜視図である。
【
図5】
図5は、矢状面上での脊柱のバランスを示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係るテンプレートの製造方法を示すフロー図である。
【
図8】
図8(a)は、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状の多数のデータから、形態角分類工程にて形態角30°~39°の範囲に分類され、またロッド長分類工程にてロッドの全長ごとに分類された多数のロッド形状を示し、(b)は、分類された多数のロッド形状から近似曲線(平均曲線)を算出し、当該曲線を有する単一のロッド形状(中心軸線)を示す図である。
【
図9】
図9は、脊柱の胸椎T10~仙骨Sまでの角度パラメータを示す図である。
【
図10】
図10は、ロッド形状取得工程、形態角分類工程、ロッド長分類工程及び近似ロッド形状取得工程を経て取得した、例えば、形態角(PI)40°~49°全長305mmのロッド形状を示す図である。
【
図11】
図11は、ロッド形状取得工程、形態角分類工程、ロッド長分類工程及び近似ロッド形状取得工程を経て取得した、形態角(PI)ごとの、T10-L1後弯角、腰椎前弯角(LL)及び下位腰椎前弯角(LLL)である。
【
図12】
図12は、パターン1~6において、ロッド形状取得工程にて取得した体内設置後ロッド形状(患者)腰椎前弯角度、患者矯正目標腰椎前弯角度、ロッド変形量算出工程にて取得した変形量、テンプレート製造工程にて取得した最終ロッド形状腰椎前弯角度を示す図である。
【
図13】
図13は、パターン1~6において、最終的に算出、導かれたロッド形状の中心軸線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を
図1~
図13に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、例えば、患者の後方から経皮的にアプローチして、脊柱変形を矯正、固定する経皮的脊柱安定化システム1は、成人脊柱変形症であって、例えば、変性後側弯症や、腰椎すべり症、転位性脊椎腫瘍等様々な外科的治療に採用される。当該経皮的脊柱安定化システム1は、脊柱の各椎骨の椎弓根を介して椎体にねじ込まれる複数の椎弓根スクリュ2と、脊柱の頭尾方向に沿って配置され、各椎弓根スクリュ2の頭部2Aに連結されるロッド3と、を備え、脊柱変形を矯正、固定して安定化させるものである。本実施形態では、これら椎弓根スクリュ2及びロッド3はチタン製である。
【0029】
図1に示す経皮的脊柱安定化システム1は、患者の背中から経皮的に(数個の小切開孔から)椎弓根スクリュ2及びロッド3等を体内に挿入して各椎骨に固定して、脊柱変形を矯正、固定するものである。
図1に示す経皮的脊柱安定化システム1には、隣接する腰椎間に介装されるLIFケージ4が備えられる。なお、LIFケージ4は、側方経路腰椎椎体間固定術(LLIF)に採用されるケージである。
図1では、LIFケージ4は3箇所介装されている。そして、経皮的脊柱安定化システム1の構成であるロッド3は、経皮的に体内に設置される前段階にて、患者にとって最適な矯正効果が得られるように曲げ加工される。この曲げ加工は、術者を含むスタッフが、後述するテンプレート10の表示部12に示される各ロッド形状に基づいて行っている。ロッド3を適宜曲げる際には、例えば、プレートベンダー等の専用の手術器具が使用される。なお、本実施形態では、椎弓根スクリュ2、ロッド3及びLIFケージ4が体内埋没材に相当する。
【0030】
そして、本発明の実施形態に係るテンプレート10を
図2及び
図3に基づいて説明する。本実施形態に係るテンプレート10は、ロッド3を患者の体内に設置する前段階にて、術者を含む手術スタッフに対して、ロッド3全体の弯曲の程度を教示するものである。詳しくは、本実施形態に係るテンプレート10は、ロッド3を体内に設置する前段階にて、術者を含む手術スタッフに対して、患者固有の骨盤の形態角(PI)(後で詳述する)に対応したロッド3全体の弯曲の程度を教示するものである。本実施形態に係るテンプレート10は、薄い板材11の表面、すなわち板材11の上面(
図2参照)及び下面(
図3参照)に、患者にとって最適な矯正効果を得ることが可能な、各形態角(PI)ごと(後で詳述する
図12に示すパターン1~6ごと)のロッド形状を表示している表示部12を設けてなる。各形態角(PI)ごと(
図12に示すパターン1~6ごと)のロッド形状は、ロッド3全体の弯曲を二次元にて示したものである。板材11は、金属製や合成樹脂製等で構成される。板材11は、滅菌に対応できる材質であれば、これらに限定されることはない。
【0031】
詳しくは、テンプレート10の表示部12(板材11の上面及び下面)には、ロッド3の全長(
図2及び
図3のものは285mm)及びロッド3の外径(
図2及び
図3のものは5.5mm)は同じであって、後で詳述している各形態角(PI)ごと、すなわちパターン1~6(
図12に示す最終ロッド形状における腰椎前弯角(LL)に相当する45°、50°、55°、60°、65、70)ごとにロッド形状が表示されている。これらパターン1~6ごとのロッド形状は、
図13に示す、最終的に算出したロッド軸線に基づいて表示されている。テンプレート10の表示部12である上面には、
図2に示すように、上から順に形態角(PI)が30°~39°の範囲(パターン1)のロッド形状、形態角(PI)が40°~49°の範囲(パターン2)のロッド形状、形態角(PI)が50°~59°の範囲(パターン3)のロッド形状がそれぞれ表示されている。一方、テンプレート10の表示部12である下面には、
図3に示すように、上から順に形態角(PI)が40°~49°の範囲(パターン4)のロッド形状、形態角(PI)が50°~59°の範囲(パターン5)のロッド形状、形態角(PI)が60°以上の範囲(パターン6)のロッド形状がそれぞれ表示されている。
【0032】
また、表示部12に表示された各ロッド形状には、ロッド3を体内に設置した際の脊柱の胸椎(T10)~仙骨(S2)の位置と、ロッド3の全長に対する1/4基準線(3本)と、頂点の位置と、変曲点(IP)の位置と、がそれぞれ示されている。また、表示部12には、ロッド3の全長と、ロッド3の外径とが表示されている。そこで、ロッド形状の変曲点(IP)、すなわち腰椎前弯と胸椎後弯との境目である変曲点(IP)は、患者の形態角(PI)が大きいほど頭側に位置する事が知られており、腰椎前弯の頂椎の位置も同様に形態角(PI)が大きいほど頭側に位置する。
【0033】
そして、術者が、ロッド固定による矢状面矯正の指標の一つとして変曲点及び頂椎の位置を把握する事は、術後の患者の矯正位置をイメージする事にも繋がる。また、変曲点が必要以上に頭側に寄る(胸椎T12より頭側)と、術後の固定椎から上位の非固定椎の圧壊や矯正損失等(専門的にはPJK・PJF(Proximal Junctional Kyphosis/Failure)と言及される)と関連する事が知られており、前述した変曲点及び頂椎の位置の把握は、適切な矯正固定位の判断に重要な要素となる。また、ロッド3の全長に対する1/4基準線(3本)の位置は、ロッド形状に沿ってロッド3を曲げ加工する際に、例えば、プレートベンダー等の専用の手術器具にて支持する位置となる。そして、前述したテンプレート10は、ロッド3の全長が、例えば、後述するように285mm、295mm、305mm、320mmの4種類設定されているので、ロッド3の全長それぞれに対応して全4枚用意される。
【0034】
なお、本実施形態に係るテンプレート10では、板材11の上面及び下面に、表示部12としてパターン1~6ごとのロッド形状が表示されているが、板材11のいずれか一方の面(上面)に、表示部12としてパターン1~6ごとのロッド形状をそれぞれ表示してもよい。また、本実施形態に係るテンプレート10では、板材11の上面及び下面に、ロッド形状が線にて表示されているが、ロッド形状に沿って、ロッド径とほぼ同じ幅を有する凹部を形成してもよい。この実施形態の場合には、ロッド3を弯曲させた後、当該ロッド3を、教示されたロッド形状の凹部に嵌め込んで確認することができる。他の実施形態に係るテンプレート10Aとして、
図4に示すように、ロッド3全体の弯曲の程度を三次元にて予め曲げ加工されたテンポラリロッド15にて構成してもよい。
【0035】
次に、本発明の実施形態に係るテンプレート10の製造方法を説明する。なお、当該テンプレート10の製造方法では、特に、
図2及び
図3に示すテンプレート10の表示部12に表示されている、各形態角(PI)ごと、すなわち後で詳述しているパターン1~6ごとのロッド形状を導く方法を詳しく説明する。以下に説明するパターン1~6ごとのロッド形状を導く方法は、本実施形態では、ロッド3がチタン製であり、その外径が5.5mmのものが採用されている。テンプレート10の表示部12には、過去の多数の症例に基づいて、患者固有の骨盤の形態角(PI)ごとに、最適な弯曲を有するロッド形状をそれぞれ導いて表示している。なお、前述しているように、
図5及び
図6に示す骨盤の形態角(PI)は、患者固有の角度であって、当該形態角(PI)を基準に、解剖学的に正常な脊柱の矢状面アライメント(椎骨の配列)が構築されることになる。すなわち、形態角(PI)の違いによって、胸椎の後弯角度(TK)、腰椎の前弯角度(LL)が異なり、骨盤の形態に応じて、胸椎及び腰椎が矢状面においてバランスをとった結果となる。
【0036】
詳しく説明すると、本実施形態に係るテンプレート10の製造方法は、
図7に示すように、ロッド形状取得工程S1→形態角分類工程S2→ロッド長分類工程S3→近似ロッド形状取得工程S4→ロッド変形量算出工程S5→テンプレート製造工程S6をこの順序で実施する。まず、ロッド形状取得工程S1では、過去の多数の症例に基づいて、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状、及び体内に設置前に曲げ加工されたロッド形状をそれぞれデータとして取得する。
【0037】
ロッド形状取得工程S1において、まず、体内に設置前に曲げ加工されたロッド形状のデータを取得する。具体的には、設置前に曲げ加工されたロッド3の画像をCAD(Computer Aided Design)に読み込む。続いて、CADに読み込んだロッド3の中心軸線に沿って所定間隔で手動にて複数プロットする。続いて、複数プロットした各座標を計測して、その各座標を基に近似曲線(3次式)を算出する。続いて、当該近似曲線を中心軸線としたロッド形状(2次元)を算出する。続いて、データとして蓄積した曲げ加工された多数のロッド形状に対して、それぞれ変曲点の座標を算出する。
【0038】
また、ロッド形状取得工程S1において、次に、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状のデータを取得する。具体的に、ロッド3を含む椎弓根スクリュ2が患者の脊柱に装着された状態のX線画像をCADに読み込む。続いて、ロッド3と、椎弓根スクリュ2の頭部2Aとの連結部分、詳しくは、ロッド3と椎弓根スクリュ2の頭部2Aとが重なった部位の中心位置を手動にて複数プロットする(椎弓根スクリュ2と同じ数量)。続いて、複数プロットした各座標を計測して、その各座標を基に近似曲線(3次式)を算出する。続いて、当該近似曲線を中心軸線としたロッド形状(2次元)を算出する。続いて、データとして蓄積した、体内に設置後の多数のロッド形状に対して、それぞれ変曲点の座標を算出する。
【0039】
次に、形態角分類工程S2を実施する。形態角分類工程S2では、ロッド形状取得工程S1にて取得した、多数の、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状を、患者固有の骨盤の形態角(PI)ごとの群に分類する。骨盤の形態角(PI)は、例えば、30°~39°の範囲、40°~49°の範囲、50°~59°の範囲、60°以上の範囲の4種類に設定される。次に、ロッド長分類工程S3を実施する。ロッド長分類工程S3では、形態角(PI)ごと(前述した4種類)に、ロッド3の、設定された全長ごとの群に分類する。ロッド3の全長は、例えば、285mm、295mm、305mm、320mmの4種類に設定される。なお、本実施形態では、ロッド3の全長が、285mm、295mm、305mm、320mmの4種類に設定されているが、この4種類に限定されることはない。
【0040】
詳しく、そのロッド長によって分類する方法を説明する。すなわち、X線画像にて取得したロッド形状は、ロッド3と、各椎弓根スクリュ2の頭部2Aとの連結部位を複数プロットして得たものであり、そのロッド形状の全長が、設定された各ロッド3の全長に沿うようにして適宜ロッド形状をそれぞれ算出する。例えば、X線画像から取得したロッド形状の全長が275mm程度であれば、当該ロッド形状をその全長が285mm、295mm、305mm、320mmになるように適宜相似比により拡大させて、全長285mm、295mm、305mm、320mmのロッド形状をそれぞれ算出する。また、例えば、X線画像から取得したロッド形状の全長が300mm程度であれば、当該ロッド形状をその全長が285mm、295mm、305mm、320mmになるように適宜相似比により拡縮させて、全長285mm、295mm、305mm、320mmのロッド形状をそれぞれ算出する。このように、X線画像から得た全てのロッド形状の全長を285mm、295mm、305mm、320mmの4種類の全長になるように適宜相似比により拡縮させることで、X線画像から得た全てのロッド形状を4種類の全長にそれぞれ分類している。
【0041】
そして、ロッド形状取得工程S1にて取得した、多数の、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状は、形態角(PI)ごとに4種類、さらにロッド3の全長ごとに4種類、全16種類に分類される。なお、
図8(a)では、X線画像にて取得したロッド形状(中心軸線)が、形態角(PI)30°~39°の範囲において、ロッド3の全長4種類(285mm、295mm、305mm、320mm)に分類された多数のロッド形状(中心軸線)が図示されている。
【0042】
次に、近似ロッド形状取得工程S4を実施する。近似ロッド形状取得工程S4では、ロッド形状取得工程S1、及び形態角分類工程S2及びロッド長分類工程S3にて取得した、全16種類ごとに分類された多数のロッド形状(中心軸線)に基づいて、全16種類ごとにロッド形状の近似曲線(平均曲線)を算出し、全16種類ごとに当該曲線を有する単一のロッド形状を取得している。
図8(b)では、形態角(PI)30°~39°の範囲において、ロッド3の全長4種類(285mm、295mm、305mm、320mm)に分類された多数のロッド形状(中心軸線)に基づいて、単一のロッド形状(中心軸線)が図示されている。要するに、ロッド形状取得工程S1、形態角分類工程S2、ロッド長分類工程S3及び近似ロッド形状取得工程S4を経て、全16種類ごとに単一のロッド形状が導かれる。
【0043】
図10には、ロッド形状取得工程S1、形態角分類工程S2、ロッド長分類工程S3及び近似ロッド形状取得工程S4を経て取得した、例えば、形態角(PI)40°~49°全長305mmのロッド形状を示している。なお、全16種類ごとに算出されたロッド形状に対して、その変曲点の座標(位置)を算出しておく。また、全16種類ごとに算出されたロッド形状に対して、X線画像を基に、特有の算出方法を用いることで、T10-L1後弯角、腰椎前弯角(LL)及び下位腰椎前弯角(LLL)等を算出しておく。そこで、
図11は、ロッド形状取得工程S1、形態角分類工程S2、ロッド長分類工程S3及び近似ロッド形状取得工程S4を経て取得した、形態角(PI)ごとのロッド形状に対する、T10-L1後弯角、腰椎前弯角(LL)、下位腰椎前弯角(LLL)及び変曲点の位置を示している。なお、近似ロッド形状取得工程S4では、形態角(PI)ごと、及びロッド長ごとの全16種類のロッド形状が算出されているが、形態角(PI)ごとの、T10-L1後弯角、腰椎前弯角(LL)及び下位腰椎前弯角(LLL)及び変曲点の位置は、ロッド長(4種類)に関わらず一定である。
【0044】
次に、ロッド変形量算出工程S5を実施する。ロッド変形量算出工程S5は、ロッド形状取得工程S1にて取得した、同一患者に対して、体内に設置された状態で弯曲したロッド形状と、体内に設置前に曲げ加工されたロッド形状とを比較して、形態角(PI)ごとにロッド3の変形量を算出する。具体的には、ロッド形状取得工程S1にて取得済みである、同一の患者において、X線画像における体内に設置された状態で弯曲したロッド形状と、体内に設置前に曲げ加工されたロッド形状(図に描いたもの)とを、CAD上で互いの変曲点が一致するように重ね合わせる。続いて、CAD上において、X線画像における体内に設置された状態で弯曲したロッド形状と、体内に設置前に曲げ加工されたロッド形状とにおいて、その変形量として腰椎前弯角(LL)(
図9参照)の差を算出する。この変形量を
図12に示している。この変形量は、形態角(PI)ごと、すなわち
図12のパターン1~6では、腰椎前弯角(LL)の差として5°~15°で推移している。
【0045】
次に、テンプレート製造工程S6を実施する。テンプレート製造工程S6では、ロッド変形量算出工程S5によって、形態角(PI)ごとに算出した変形量(腰椎前弯角(LL)の差)を、近似ロッド形状取得工程S4において取得した形態角(PI)ごと(及びロッド長ごと)に算出した単一のロッド形状に加味して、形態角(PI)ごと(及びロッド長ごと)にロッド形状を導き、当該ロッド形状に基いてテンプレート10を製造する。詳しくは、
図12を参照して、パターン1(形態角(PI):30°~39°)では、変形量が10°であるので、目標患者矯正後の腰椎前弯角(LL)35°に変形量10°を加算して、最終ロッド形状の腰椎前弯角(LL)を45°とする。そして、近似ロッド形状取得工程S4にて取得した、形態角(PI)30°~39°の範囲における、全長285mm、295mm、305mm、320mm全てのロッド形状において、その腰椎前弯角(LL)を45°に設定する。パターン1(形態角(PI):30°~39°)では、最終ロッド形状の変曲点は第2腰椎(L2)の位置となる。
【0046】
また、パターン2(形態角(PI):40°~49°)では、変形量が5°であるので、目標患者矯正後の腰椎前弯角(LL)45°に変形量5°を加算して、最終ロッド形状の腰椎前弯角(LL)を50°とする。そして、近似ロッド形状取得工程S4にて取得した、形態角(PI):40°~49°の範囲における、全長285mm、295mm、305mm、320mm全てのロッド形状において、その腰椎前弯角(LL)を50°に設定する。さらに、パターン4(形態角(PI):40°~49°)では、変形量が15°であるので、目標患者矯正後の腰椎前弯角(LL)45°に変形量15°を加算して、最終ロッド形状の腰椎前弯角(LL)を60°とする。そして、近似ロッド形状取得工程S4にて取得した、形態角(PI)40°~49°の範囲における、全長285mm、295mm、305mm、320mm全てのロッド形状において、その腰椎前弯角(LL)を60°に設定する。パターン2及び4(形態角(PI):40°~49°)では、最終ロッド形状の変曲点は第1腰椎(L1)の位置となる。
【0047】
なお、パターン2及び4では、同じ形態角(PI):40°~49°において、変形量が5°と15°とに相違することから、最終のロッド形状の腰椎前弯角(LL°)を50°または60°に設定することになるが、これらは、各患者の脊柱変形の矯正に対する硬軟程度や、手術環境下、例えば、椎体間にLIFケージ4を設置後の手術環境下の場合などの事情に鑑みて適宜設定したものになる。そこで、形態角(PI):40°~49°の範囲であるパターン2または4において、例えば、患者の脊柱変形の矯正に対して硬い(矯正しづらい)と判断された場合などには、パターン4の最終ロッド形状が採用される。
【0048】
さらに、パターン3(形態角(PI):50°~59°)では、変形量が5°であるので、目標患者矯正後の腰椎前弯角(LL)50°に変形量5°を加算して、最終ロッド形状の腰椎前弯角(LL)を55°とする。そして、近似ロッド形状取得工程S4にて取得した、形態角(PI):50°~59°の範囲における、全長285mm、295mm、305mm、320mm全てのロッド形状において、その腰椎前弯角(LL)を55°に設定する。さらにまた、パターン5(形態角(PI):50°~59°)では、変形量が10°(または15°)であるので、目標患者矯正後の腰椎前弯角(LL)55°(または50°)に変形量10°(または15°)を加算して、最終ロッド形状の腰椎前弯角(LL)を65°とする。そして、近似ロッド形状取得工程S4にて取得した、形態角(PI):50°~59°の範囲における、全長285mm、295mm、305mm、320mm全てのロッド形状において、その腰椎前弯角(LL)を65°に設定する。パターン3及び5(形態角(PI):50°~59°)では、最終ロッド形状の変曲点は第1腰椎(L1)の位置となる。
【0049】
なお、パターン3及び5では、同じ形態角(PI):50°~59°において、変形量が5°と10°(15°)とに相違することから、最終のロッド形状の腰椎前弯角(LL)を55°または65°に設定することになるが、これらは、各患者の脊柱変形の矯正に対する硬軟程度や、手術環境下、例えば、椎体間にLIFケージ4を設置後の手術環境下の場合などの事情に鑑みて適宜設定したものになる。そこで、形態角(PI):50°~59°の範囲であるパターン3または5において、例えば、患者の脊柱変形の矯正に対して硬い(矯正しづらい)と判断された場合などには、パターン5の最終ロッド形状が採用される。
【0050】
さらにまた、パターン6(形態角(PI):60°以上)では、変形量が10°であるので、目標患者矯正後の腰椎前弯角(LL)60°に変形量10°を加算して、最終ロッド形状の腰椎前弯角(LL)を70°とする。そして、近似ロッド形状取得工程S4にて取得した、形態角(PI):60°以上における、全長285mm、295mm、305mm、320mm全てのロッド形状において、その腰椎前弯角(LL)を70°に設定する。パターン6(形態角(PI):60°以上)では、最終ロッド形状の変曲点は第1腰椎(L1)の位置となる。そして、
図13には、パターン1~6において、全長285mm、295mm、305mm、320mm全てのロッド形状に対して、最終的に算出、導かれたロッド形状(中心軸線)が示されている。なお、本実施形態では、パターン1~6において、近似ロッド形状取得工程S4にて算出された全16種類(実質的には形態角(PI)相違による4種類)のロッド形状の腰椎前弯角(LL)、すなわち
図12の体内設置後ロッド形状(患者)腰椎前弯角LL(°)の欄の値(パターン1~6の値)は参考値であり、最終ロッド形状を算出する際に直接的に考慮されない。
【0051】
続いて、テンプレート製造工程S6では、前述したように最終的に算出、導かれた各ロッド形状に基づいてテンプレート10を製造する。すなわち、テンプレート製造工程S6では、
図13に示すパターン1~6ごとに、最終的に算出、導かれた中心軸線に沿うロッド形状を、板材11の表面、すなわち上面及び下面における表示部12に表示してテンプレート10を製造している。その詳細な表示形態は、前述しているためにここでの説明を省略する。
【0052】
なお、本実施形態では、ロッド変形量算出工程S5にて、CAD上において、X線画像における体内に設置された状態で弯曲したロッド形状と、体内に設置前に曲げ加工されたロッド形状とを比較して得たロッド3の変形量を、腰椎前弯角(LL)の差にて算出したが、変形量の精度を上げるために、変形量として、腰椎前弯角(LL)の差と、ロッド3の変曲点から胸椎側のT10-L1後弯角の差とを考慮して算出しても良い。また、本実施形態では、変形量の評価指標として、腰椎前弯角(LL)の差や、T10-L1後弯角の差を採用しているが、他の評価指標を採用してもよい。
【0053】
また、本実施形態に係るテンプレート10の製造方法では、ロッド長分類工程S3を備え、取り扱い(販売戦略等)の観点から最良の形態であるが、最終ロッド形状を設定する過程として、ロッド長分類工程3を必ずしも備える必要はない。すなわち、近似ロッド形状取得工程S4にて算出された、形態角(PI)ごとの、T10-L1後弯角、腰椎前弯角(LL)及び下位腰椎前弯角(LLL)は、ロッド長(4種類)に関わらず一定であり、また、テンプレート製造工程S6では、最終ロッド形状を設定する際、パターン1~6(形態角(PI)の相違)に対して、腰椎前弯角(LL)がそれぞれ相違されており、ロッド長は関与しないので、ロッド長分類工程S3を必ずしも備える必要はない。要するに、
図12及び
図13における最終ロッド形状に対して、設定されるロッド長に対応して適宜相似比により拡縮させて、設定されるロッド長ごとにロッド形状を導いてもよい。
【0054】
そして、以上説明した本実施形態に係るテンプレート10は、ロッド3を体内に設置する前段階にて、術者を含む手術スタッフに対して、患者固有の骨盤の形態角(PI)に対応したロッド全体の弯曲の程度を教示することができる。これにより、術者を含む手術スタッフの経験や勘等に依存することなく、本実施形態に係るテンプレート10により教示された最適な弯曲を有するロッド3によって、脊柱変形に対して矯正、固定することで、各患者にとって最適な矯正効果を得ることができる。
【0055】
また、本実施形態に係るテンプレート10は、ロッド全体の弯曲の程度を二次元にて示したロッド形状を表示した表示部12を備えている。これにより、術者を含む手術スタッフは、テンプレート10の表示部12に示されたロッド形状に沿うようにロッド3を容易に曲げ加工することができる。
【0056】
さらに、本実施形態に係るテンプレート10は、板材11の表面、すなわち上面及び/または下面に表示部12を設けてなる。これにより、この板材11を容易に手術室内に持ち込めるので、その取り扱いが良好になる。なお、板材11を滅菌対応の合成樹脂製に構成すれば軽量化することができ、その取り扱いがさらに良好になる。
【0057】
さらにまた、本実施形態に係るテンプレート10の表示部12には、ロッド全体の弯曲の程度を二次元にて示したロッド形状に対して変曲点が表示されている。これにより、本実施形態に係るテンプレート10により弯曲させたロッド3において、脊柱変形に対してロッド固定による矢状面矯正の指標の一つとして変曲点の位置を把握することができるので、術後の患者の矯正位置をイメージすることができる。
【0058】
さらにまた、本実施形態に係るテンプレート10は、術者を含む手術スタッフに対して、経皮的脊柱安定化システム1に採用されるロッド3の弯曲の程度を教示するのに最適である。すなわち、経皮的な術式(低侵襲手術)と、背中を大きく切開する術式とでは、ロッド3への負荷が異なるためにロッド3の変形量が変わり、背中を大きく切開する術式に対応するロッド3の弯曲を教示することができない。しかしながら、背中を大きく切開する術式においても、本実施形態に係るテンプレート10の製造方法を採用し、
図12に相当する分析結果を得て最終ロッド形状を導いてテンプレート10を製造することができる。このテンプレート10は、あくまでも背中を切開する術式に対応するロッド3の弯曲を教示するものであって、経皮的な術式に対応するロッド3の弯曲を教示するものではない。
【0059】
さらにまた、他の実施形態に係るテンプレート10Aでは、ロッド全体の弯曲の程度を三次元にて曲げ加工されたテンポラリロッド15にて構成される。これにより、ロッド全体の弯曲の程度(ロッド形状)が三次元の場合に、特に、有効となる。
【0060】
一方、以上説明した本実施形態に係るテンプレート10の製造方法によれば、過去の多数の症例に基づいて、患者固有の骨盤の形態角(PI)ごとに、最適な弯曲を有するロッド形状をそれぞれ導き、当該ロッド形状に基づきテンプレート10を製造している。これにより、術者を含む手術スタッフの経験や勘等に依存することなく、経皮的な術式において経験が浅くても、テンプレート10により教示された最適な弯曲を有するロッド3を脊柱変形に対して矯正、固定することで、各患者にとって最適な矯正効果を得ることができる。
【0061】
また、本実施形態に係るテンプレート10の製造方法によれば、特に、ロッド変形量算出工程S5を備え、当該ロッド変形量算出工程S5による算出結果を、テンプレート製造工程S6における最終のロッド形状に反映させているので、各患者の脊柱変形の矯正に対する硬軟程度や、手術環境下、例えば、椎体間にLIFケージ4を設置後の手術環境下の場合、各患者(形態角(PI)が同じであっても)にとって最適なロッド形状を得ることができる。
【0062】
さらに、本実施形態に係るテンプレート10の製造方法では、ロッド長分類工程S3を備え、ロッド長分類工程S3では、各形態角(PI)において、ロッド長ごとの群に分類してロッド形状を得ているので、さらに各患者にとって最適なロッド形状を得るべくその精度を高めることができる。
【0063】
さらにまた、本実施形態に係るテンプレート10の製造方法では、テンプレート製造工程S6において、患者固有の形態角(PI)が40°~49°の範囲では、最適な弯曲を有するロッド形状が2タイプ設定され、また、形態角(PI)が50°~59°の範囲でも、最適な弯曲を有するロッド形状が2タイプ設定される。これにより、患者固有の形態角(PI)が同じであっても、各患者の脊柱変形の矯正に対する硬軟程度や、特殊な手術環境下、例えば、椎体間にLIFケージ4を設置後の手術環境下などをから各患者にとって最適なロッド形状を選択することができ、この点からも、各患者にとって最適なロッド形状を得るべくその精度を高めることができる。
【0064】
なお、以上説明した本実施形態に係るテンプレート10は、経皮的な術式において、ロッド3の材質がチタンであって、その外径が5.5mmの場合に適用されるが、テンプレート10を、適用される患者へのアプローチ、適用されるロッド3の材質及び外径に対応して適宜用意する必要がある。
【0065】
また、以上説明した本実施形態に係るテンプレート10は、経皮的脊柱安定化システム1のロッド3を体内に設置する前段階にて、術者を含む手術スタッフに対して、患者固有の骨盤の形態角(PI)に対応したロッド全体の弯曲の程度を教示するものであるが、本実施形態に係るテンプレート10を、例えば、成人脊柱変形症等の外科的治療であって、経皮的脊柱安定化システム1を採用する手術等において、特に、経皮的な術式における脊柱変形矯正固定術の経験が浅い医者や手術スタッフに対する教育ツール、特に、術前のロッド3の弯曲の程度を教育するための教育ツールとして使用してもよい。
【符号の説明】
【0066】
3 ロッド,10、10A テンプレート,11 板材,12 表示部,15 テンポラリロッド