(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113990
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/097 20060101AFI20240816BHJP
G03G 9/09 20060101ALI20240816BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G03G9/097 365
G03G9/09
G03G9/087 325
G03G9/097 368
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019321
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】和田 統
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500AA06
2H500AA08
2H500CA03
2H500CA29
2H500CB05
2H500CB07
2H500CB09
2H500CB12
2H500EA42C
2H500EA52D
2H500EA60C
2H500EA65C
(57)【要約】
【課題】結着樹脂がスチレンアクリル樹脂であるトナーを用いた昇華転写法による染色において、昇華性を有する染料のブリードアウトを抑制できるトナーを提供する。
【解決手段】トナーは、昇華性を有する染料、離型剤及びスチレンアクリル樹脂を含むトナー粒子を有する。離型剤は、45℃における針入度が3以上15以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華性を有する染料、離型剤及びスチレンアクリル樹脂を含むトナー粒子を有するトナーであって、
前記離型剤は、45℃における針入度が3以上15以下であることを特徴とするトナー。
【請求項2】
請求項1に記載のトナーであって、
前記トナー粒子中、前記染料の含有量は前記離型剤の含有量の0.5倍以上2.1倍以下であることを特徴とするトナー。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のトナーであって、
前記離型剤は、ワックスと昇華性を有する染料とを混練した混練物で構成されるマスターバッチであることを特徴とするトナー。
【請求項4】
請求項3に記載のトナーであって、
前記マスターバッチは、昇華性を有する染料を30質量%以上50質量%以下含むことを特徴とするトナー。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のトナーであって、
前記離型剤は、表面が無機微粒子で被覆されたワックスを含むことを特徴とするトナー。
【請求項6】
請求項5に記載のトナーであって、
前記無機微粒子は、平板結晶構造を有する無機微粒子であることを特徴とするトナー。
【請求項7】
請求項6に記載のトナーであって、
前記無機微粒子のメジアン径は、400nm以上900nm未満であることを特徴とするトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真方式において昇華転写法による染色を行うのに好適なトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル布を代表とする疎水性繊維等の被染色物に対する電子写真方式を用いた染色方法は、主に、ダイレクト法と昇華転写法との2つに大別することができる。ダイレクト法は、被染色物にトナーを直接付着させた後、熱処理によってトナー中に含まれる染料を被染色物へと付着させ、染料以外の付着物(樹脂、離型剤等)をアルカリ洗浄により溶解させて除去する染色方法である。昇華転写法は、紙等の中間記録媒体にトナーを付着させた後、中間記録媒体のトナー付着面と被染色物とを重ね合わせてから、熱プレス処理(加熱及び加圧処理)を行い、トナー中に含まれる染料を被染色物に昇華転写させる染色方法である。
【0003】
この2つの染色方法のうち昇華転写法は、トナーを構成する複数の成分のうち染料のみを中間記録媒体から繊維へと移行させることが可能である。つまり、染色布には染料以外のトナー構成成分は付着せず、染色布の洗浄や乾燥の工程が不要となるメリットがある。そのため、衣料品(スポーツアパレル等)やインテリア(シート、ソファー等)といった、風合いを重要視する用途向けの染色に適しているとされている。
【0004】
また、洗浄・乾燥等の工程が不要となることによって、染色工程を大幅に削減でき、大規模なスペース及び稼働エネルギーを必要とする洗浄・乾燥ラインが不要となるメリット、洗浄水の処理設備が不要となるメリット等、多数のメリットが生じる。そのため、昇華転写法は、小規模なスペースでも染色できる点でも優れた染色方法であるとされている。
【0005】
昇華転写法に用いるトナー中の染料としては、疎水性繊維を染色するのに適している分散染料あるいは油溶性染料のなかでも、特に熱処理による疎水性繊維への昇華転写適性に優れた易昇華型の染料が用いられる。
【0006】
なお、昇華転写法における印刷手段としては、インクジェット方式と電子写真方式とが存在し、一般的にインクジェット方式が主流とされている。しかし、インクジェット方式における昇華転写での染色は、インクを構成する成分の一つである有機溶剤が、染料を転写するときの熱によって揮発し、作業環境を汚染する等の問題がある。これに対して、電子写真方式は、トナー中に揮発成分が存在せず作業環境を汚染しないため、近年注目が集まっている。
【0007】
電子写真方式において昇華転写法による染色を行うのに用いるトナーとして、例えば、特許文献1には、昇華性を有する染料とポリエステル樹脂とを含むトナーが開示されており、動的粘弾性試験における貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’を特定の数値範囲内とすることで、被染色物から中間記録媒体を剥離するときの剥離性を改善できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、昇華転写法による染色を行うのに用いるトナーにおいて、結着樹脂にポリエステル樹脂を用いると、被染色物を高効率で染色可能な昇華転写染色方法とすることが困難であり、トナー内の分散染料を増やしても十分な染色濃度を得ることができないという問題があった。これを解決するために、結着樹脂にスチレンアクリル樹脂を用いると、昇華性を有する染料と結着樹脂との相性が低下することにより染色濃度の高い被染色物を得ることが可能となる一方、未使用状態でトナーを保存している間に、昇華性を有する染料がトナー粒子表面にブリードアウトしてしまい、トナーの流動性及び帯電特性が悪化する要因となる問題があった。
【0010】
本開示のトナーは、結着樹脂がスチレンアクリル樹脂であるトナーの斯かる事情に鑑みて見出されたものであり、昇華転写法による染色において、昇華性を有する染料のブリードアウトを抑制できるトナーの提供を主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本開示のトナーは、昇華性を有する染料(以下、単に「昇華性染料」ともいう)、離型剤及びスチレンアクリル樹脂を含むトナー粒子を有するトナーであって、前記離型剤は45℃における針入度が3以上15以下であることを特徴とする。
【0012】
上記のトナーにあっては、前記トナー粒子中、前記染料の含有量は前記離型剤の含有量の0.5倍以上2.1倍以下であることが好ましい。
【0013】
また、上記のトナーにあっては、前記離型剤は、ワックスと昇華性を有する染料とを混練した混練物で構成されるマスターバッチであることが好ましい。
【0014】
さらに、上記のトナーにあっては、前記マスターバッチは、昇華性を有する染料を30質量%以上50質量%以下含むことが好ましい。
【0015】
さらに、上記のトナーにあっては、前記離型剤は、表面が無機微粒子で被覆されたワックスを含むことが好ましい。
【0016】
さらに、上記のトナーにあっては、前記無機微粒子は、平板結晶構造を有する無機微粒子であることが好ましい。
【0017】
さらに、上記のトナーにあっては、前記無機微粒子のメジアン径は、400nm以上900nm未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本開示のトナーによれば、昇華性を有する染料のブリードアウトを抑制でき、また被染色物を高い転写効率で高濃度に染色可能である等、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】離型剤によるガスバリア効果を示した模式図である。
【
図2】一般的なトナー粒子の構成を例示した模式図である。
【
図3】
図2に示すトナー粒子にて、昇華性染料がブリードアウトした様子を例示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示のトナーについて詳述する。
【0021】
1.トナー粒子(トナーコア)、結着樹脂
本実施形態に係るトナー粒子は、結着樹脂としてのスチレンアクリル樹脂と、昇華性を有する染料、離型剤等の内添剤とで構成されており、内添剤は結着樹脂中に分散している。トナー粒子の表面には外添剤が付着している。さらに必要に応じて、本開示に係る効果を損なわない範囲において、任意成分を含有していてもよい。トナー粒子の平均一次粒子径は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、4μm以上8μm以下が挙げられる。
【0022】
<結着樹脂>
本実施形態に係るトナー粒子は、結着樹脂としてスチレンアクリル樹脂を含む。スチレンアクリル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、スチレン系単量体と、単官能(メタ)アクリル系単量体とを重合して得られる樹脂が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の両方を包含する概念である。
【0023】
前記のスチレン系単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、4,α-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ペンチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-ヘプチルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デカニルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-フェニルスチレン、3,4-ジシクロシルスチレン等が挙げられる。本実施形態に係るトナーにあっては、これらのなかでもスチレンが好適である。
【0024】
本実施形態に係るトナーにおいては、上記のスチレン系単量体のうち、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
前記の単官能(メタ)アクリル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクタデシル、α-クロロアクリル酸メチル、α-クロロアクリル酸エチル等のアクリル系単量体;
メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸n-シクロヘキシル、メタクリル酸n-ドデシル、メタクリル酸n-トリデシル、メタクリル酸n-オクタデシル等のメタクリル系単量体;
等が挙げられる。本実施形態に係るトナーにあっては、これらのなかでも、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert-ブチルが好適であり、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ブチルが特に好適である。
【0026】
本実施形態に係るトナーにおいては、上記の単官能(メタ)アクリル系単量体のうち、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本実施形態に係るトナーの結着樹脂としては、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上110℃以下のスチレンアクリル樹脂を使用することができる。スチレンアクリル樹脂のガラス転移温度は52℃以上68℃以下であるのが好ましく、55℃以上65℃以下であるのがより好ましい。
【0028】
本実施形態に係るトナー粒子中の結着樹脂の含有量は、目的に応じて適宜選択することができるが、通常60質量%以上99%質量%以下であり、65質量%以上98質量%以下であることが好ましい。結着樹脂の含有量が上記下限未満の場合、トナー中の染料の分散不良が起こり、トナーの電気特性の低下を招くおそれがある。結着樹脂の含有量が上記上限を超える場合、染色濃度の低下が発生するおそれがある。
【0029】
<昇華性染料>
本実施形態に係るトナー粒子は、昇華性染料を含む。昇華性染料としては、特に限定されないが、昇華転写適性のある染料が好ましい。
【0030】
「昇華転写適性のある染料」とは、「乾熱処理に対する染色堅ろう度試験方法〔JIS L 0879:2005〕(平成17年1月20日改定、財団法人日本規格協会発行)」における、感熱処理試験(C法)汚染(ポリエステル)の試験結果が、通常3~4級以下、好ましくは3級以下の染料を意味する。そのような染料のうち、公知の染料としては、例えば、以下の染料が挙げられる。
【0031】
イエロー染料としては、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.ソルベントイエロー114、163等が挙げられる。
【0032】
オレンジ染料としては、C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、20、25、25:1、33、56、76等が挙げられる。
【0033】
ブラウン染料としては、C.I.ディスパースブラウン2等が挙げられる。
【0034】
レッド染料としては、C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240;C.I.バットレッド41等が挙げられる。
【0035】
バイオレット染料としては、C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57等が挙げられる。
【0036】
ブルー染料としては、C.I.ディスパースブルー19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359、360;C.I.ソルベントブルー3、63、83、105、111等が挙げられる。
【0037】
本実施形態に係るトナーにおいては、上記の染料のうち、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の染料を組み合わせることで、元の染料とは全く異なる色相を得ることも可能である。例えば、ブルー染料を主体として、イエロー染料及びレッド染料を適宜配合することにより、ブラック染料とすることができる。また、2種以上の染料を組み合わせることで、ブルー、イエロー、オレンジ、レッド、バイオレット又はブラック等の色調をより好みの色調に微調整することや、中間色を得ることが可能である。
【0038】
本実施形態に係るトナー粒子中の昇華性染料の含有量は、目的に応じて適宜選択することができるが、通常1質量%以上40質量%以下であり、2質量%以上35質量%以下であることが好ましく、3質量%以上12質量%以下であることがより好ましい。トナー粒子中の昇華性染料の含有量が上記下限未満の場合、染色濃度の低下が発生するおそれがある。トナー粒子中の昇華性染料の含有量が上記上限を超える場合、トナー中での染料の分散不良が起こり、トナーの電気特性の低下を招くおそれがある。
【0039】
<離型剤>
本実施形態に係るトナー粒子は、45℃における針入度が3以上15以下である離型剤を含む。45℃における針入度は3以上11以下であることがより好ましく、5以上10以下であることがさらに好ましい。離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0040】
昇華転写法による染色において、熱プレス処理を行うと、
図1に例示するように、トナー層に含まれる昇華性染料が昇華して気体となり被染色物に移行するが、離型剤にはこの移行を阻害するガスバリア効果がある。結晶性の高い離型剤ではガスバリア効果が小さいため、トナー粒子中への離型剤の添加量を増やすことで、トナーを構成する樹脂が被染色物へと移行するのを抑制し、摩擦及び洗濯に対する染色堅牢度を高めることができる。しかしながら、染色堅牢度を高めるために離型剤の添加量を増やすと、トナーを構成する樹脂の可塑化が進み、昇華性染料がブリードアウトしてしまうという問題があった。なお、
図2及び
図3は昇華性染料のブリードアウトを説明する模式図であり、
図2に例示するトナー粒子にて昇華性染料のブリードアウトが生じた状態を示すのが
図3である。
【0041】
本実施形態に係るトナーにあっては、45℃における針入度が上記範囲内である離型剤を用いることで、スチレンアクリル樹脂の可塑化を抑え、昇華性染料のブリードアウトを抑制できる。針入度が上記上限を超えると、トナーを保存しているときに45℃以上の熱ストレスがかかった場合、昇華性染料のブリードアウトを抑制できないおそれがある。
【0042】
本実施形態に係るトナーにあっては、トナー粒子中の離型剤の含有量は目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。離型剤の含有量が上記下限未満の場合、定着ローラへのオフセットが起こるおそれがある。離型剤の含有量が上記上限を超える場合、中間記録媒体に対する定着不良が発生するおそれがある。
【0043】
本実施形態に係るトナー粒子中、昇華性染料の含有量は離型剤の含有量の0.5倍以上2.1倍以下であることが好ましく、1倍以上2倍以下であることがより好ましい。
【0044】
本実施形態に係るトナーにあっては、離型剤は、示差熱分析測定法(DSC法)による吸収熱量のピーク温度位置が70℃以上150℃以下の範囲内に存在することが好ましい。
【0045】
離型剤として用いる天然ワックスとしては、例えば、カルナバワックス、ライスワックス等の植物由来のワックスが挙げられる。また合成ワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、合成エステルワックス、α-オレフィン(分子末端に二重結合を持つ炭化水素)と無水マレイン酸とを組み合わせた重合物等が挙げられる。
【0046】
本実施形態に係るトナーにあっては、離型剤は、ワックスと昇華性を有する染料とを混練した混練物で構成されるマスターバッチであることが好ましい。ワックスにあらかじめ染料を配合してマスターバッチ化しておくことにより、45℃における針入度が適切な範囲となりやすく、トナー粒子を構成する樹脂の可塑化を抑制することが可能となる。
【0047】
上記マスターバッチとしては、ワックスと昇華性を有する染料とを混練した混練物を粉砕・微粉化したものを用いることができる。ワックスに昇華性染料を混練し混練物を得る工程は、例えば、ワックスと昇華性染料とを二軸押出機にて溶融混練することで実施できる。この混練物の粉砕工程は、例えば、10℃以上40℃以下の周囲温度で実施することが好ましく、20℃以上30℃以下の標準的な周囲温度で実施することがより好ましい。また微粉化工程は、例えば、ジェットミルを用いて実施することができる。ジェットミルのなかでもカウンタージェットミルを用いることが好ましく、流動層式カウンタージェットミルを用いることがより好ましい。
【0048】
上記マスターバッチ中の昇華性染料の含有量は、25質量%以上55質量%以下であることが好ましく、30質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。マスターバッチ中の昇華性染料の含有量が上記上限を超えると、マスターバッチ中のワックスの割合が少なく離型作用が小さくなるため、昇華転写時に樹脂移行が発生しやすくなり、摩擦に対する染色堅牢度が悪化するおそれがある。また、ワックスと昇華性染料とがうまく混合しないおそれがある。マスターバッチ中の昇華性染料の含有量が下限未満の場合、マスターバッチ中のワックスの割合が多く、昇華転写時に昇華性染料が被染色物に移行しづらく、染料が被染色物の繊維表面に残ってしまうため、摩擦に対する染色堅牢度が悪化するおそれがある。また、トナーを構成する樹脂との相溶が妨げられ、分散径の大きいワックスの一部が離脱し超微粉として存在しやすくなり、カブリが悪化するおそれがある。
【0049】
トナー粒子が上記マスターバッチを含むか否かは、例えば、以下に示す手順(1)~(2)で確認することができる。
(1)トナーを、可視光硬化性包埋樹脂(商品名:D-800、日新EM株式会社製)で包埋し、超音波ウルトラミクロトーム(商品名:EM UC7、ライカ社製)により60nm厚に切削し、気相染色法によりRuO4染色を行う。
(2)透過型電子顕微鏡(TEM)により加速電圧120kVで観察を行う。観察するトナーは、重量平均粒子径から±2.0μm以内のものを20粒子選んで撮影を行う。
【0050】
本開示のトナー構成の場合、RuO4染色を行うとトナー中のワックスが一層濃く投影される。マスターバッチ中に昇華性染料を含んでいる場合は、ワックスの投影の中に染料が存在していたスポットが観察できる。このスポットは、超音波ウルトラミクロトームでの切削時にワックスに含まれていた昇華性染料が離脱してできたものであると考えられる。
【0051】
本実施形態に係るトナーにあっては、離型剤は、表面が無機微粒子で被覆されたワックスを含むことが好ましい。これにより、スチレンアクリル樹脂と離型剤との間に、無機微粒子による緩衝作用を持たせることができ、トナー粒子を構成する樹脂の可塑化を抑制することが可能となる。
【0052】
離型剤に添加する無機微粒子としては、平板結晶構造を有する無機微粒子が好適である。無機微粒子が平板結晶構造を有することで、スチレンアクリル樹脂と離型剤との間の緩衝作用効果をより一層発揮することができる。
【0053】
平板結晶構造を有する無機微粒子としては、メジアン径が400nm以上900nm未満であるものが好ましく、400nm以上850nm以下であるものがより好ましい。無機微粒子のメジアン径が上記下限未満の場合、トナーを構成する樹脂の可塑化を抑制する効果が低下するおそれがある。無機微粒子のメジアン径が上記上限を超える場合、離型剤の離型作用を阻害するおそれがある。
【0054】
平板結晶構造を有する無機微粒子としては、アスペクト比は3以上であるものが好ましい。
【0055】
上記のメジアン径及びアスペクト比を満たす、平板結晶構造を有する無機微粒子としては、例えば、カオリン及びタルクが挙げられる。カオリン及びタルクは、おおよそ以下のような物性を有する。
カオリン:真比重2.7、モース硬度1、メジアン径400nm
タルク :真比重2~2.5、モース硬度2~2.5、メジアン径850nm
【0056】
離型剤に対する無機微粒子の添加量は少量であることが好ましく、具体的には、離型剤に対する無機微粒子の添加量は5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。無機微粒子は親水性を有するため、添加量が多いと高湿環境下で帯電低下が発生するおそれがある。また、平板結晶構造を持つ無機微粒子は嵩高いことからも、無機微粒子の添加量は少量であることが好ましい。
【0057】
<帯電制御剤>
本実施形態に係るトナー粒子は、帯電制御剤を含有していてもよい。帯電制御剤としては、当該技術分野で常用される正電荷制御用及び負電荷制御用の電荷制御剤を用いることができる。
【0058】
正電荷制御用の電荷制御剤としては、例えば、ニグロシン染料、塩基性染料、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、アミノピリン、ピリミジン化合物、多核ポリアミノ化合物、アミノシラン、ニグロシン染料及びその誘導体、トリフェニルメタン誘導体、グアニジン塩、アミジン塩等が挙げられる。
【0059】
負電荷制御用の電荷制御剤としては、例えば、オイルブラック、スピロンブラック等の油溶性染料、含金属アゾ化合物、アゾ錯体染料、ナフテン酸金属塩、サリチル酸及びその誘導体の金属錯体や金属塩(金属はクロム、亜鉛、ジルコニウム等)、ホウ素化合物、脂肪酸石鹸、長鎖アルキルカルボン酸塩、樹脂酸石鹸等が挙げられる。
【0060】
本実施形態に係るトナーにおいては、上記の電荷制御剤のうち、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
本実施形態に係るトナーにおける帯電制御剤の含有量は、特に限定されないが、結着樹脂100質量部に対して0.5質量部以上3.0質量部以下であることが好ましく、0.7質量部以上2.5質量部以下であることがより好ましい。帯電制御剤の含有量が上記範囲内であることで、トナーの各種物性を損なうことなしに、高い画像濃度及び良好な画質を有する画像を形成できる。
【0062】
2.外添剤
本実施形態に係るトナーは、トナー粒子の表面に外添剤が付着されていてもよい。外添剤は、粉体流動性向上、摩擦帯電性向上、耐熱性、長期保存性改善、クリーニング特性改善、感光体表面摩耗特性制御等の機能を担う。
【0063】
外添剤としては、例えば、平均粒子径が5nm以上200nm以下のシリカ、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子を使用することができる。それらの無機微粒子の表面に、シランカップリング剤、チタンカップリング剤又はシリコーンオイルで表面処理を施すことで疎水性を付与した無機微粒子が、高湿下において電気抵抗や帯電量の低下が少なくなるためより好適である。
【0064】
外添剤の含有量は、トナー粒子100質量部に対して0.2質量部以上3質量部以下であることが好ましい。外添剤の含有量が上記下限未満の場合、流動性が向上する効果を付与することが難しくなる。外添剤の含有量が上記上限を超える場合、定着性が低下するおそれがある。
【0065】
トナー粒子に対する外添剤の添加方法としては、トナー粒子と外添剤とをヘンシェルミキサー等の気流混合機で混合する方法が挙げられる。
【0066】
本実施形態に係るトナーは、そのまま一成分現像剤として使用してもよく、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
【0067】
3.トナーの製造方法
本実施形態に係るトナーの製造方法は、結着樹脂、離型剤及び昇華性染料を含むトナー材料を混練することにより混練物を生成する混練工程S1と、混練工程S1にて生成した混練物を粉砕してトナー粒子を生成する粉砕工程S2とを含む。さらに、本実施形態に係るトナーの製造方法は、粉砕工程S2にて生成したトナー粒子を分級する分級工程S3と、分級工程S3にて分級した分級後のトナー粒子に外添剤を添加する外添工程S4とを含む。
【0068】
混練工程S1では、トナー材料となる結着樹脂、離型剤、昇華性染料等を、ヘンシェルミキサー等の混合機で混合したのち、混練機を用いてこれらを混練して混練物を得る。
【0069】
混合は乾式であることが好ましく、混合機には、当該技術分野で常用される公知の装置を使用できる。例えば、ヘンシェルミキサー(商品名、日本コークス工業株式会社製)、スーパーミキサ(商品名、株式会社カワタ製)、メカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)等のヘンシェルタイプの混合装置、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、コスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)等といった混合機が挙げられる。
【0070】
混練機には、当該技術分野で常用される公知の装置を使用でき、例えば、二軸押出機、三本ロール、ラボブラストミル等の一般的な混練機が挙げられる。具体的には、例えば、TEM-100B(商品名、東芝機械株式会社製)、PCM-65/87、PCM-30(以上いずれも商品名、株式会社池貝製)等の一軸又は二軸のエクストルーダ、ニーデックス(商品名、日本コークス工業株式会社製)等のオープンロール方式の混練機が挙げられる。これらのなかでも、オープンロール方式の混練機は、混練時のシェアが強くトナー材料を高分散できる点で好ましい。
【0071】
粉砕工程S2では、混練工程S1で得られた混練物を、粉砕機を用いて微粉砕する。粉砕機としては、当該技術分野で常用される公知の装置を使用でき、例えば、超音速ジェット気流を利用して粉砕するジェット式粉砕機、高速で回転する回転子(ロータ)と固定子(ライナ)との間に形成される空間に固化物を導入して粉砕する衝撃式粉砕機が挙げられる。
【0072】
分級工程S3では、粉砕工程S2で得られた微粉砕物であるトナー粒子を、分級機を用いて分級する。分級には、当該技術分野で常用される公知の装置を使用できる。旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)のように、遠心力及び風力により過粉砕されたトナー粒子を除去できる分級機が好適である。
【0073】
外添工程S4では、分級工程S3で得られたトナー粒子と外添剤とを混合機を用いて混合することによって、トナー粒子に外添剤を付着させる。混合機には、当該技術分野で常用される公知の装置を使用できる。例えば、ヘンシェルミキサー(商品名、日本コークス工業株式会社製)、スーパーミキサ(商品名、株式会社カワタ製)、メカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)等のヘンシェルタイプの混合装置、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、コスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)等といった混合機が挙げられる。
【0074】
4.二成分現像剤
二成分現像を行う場合、本実施形態に係るトナーとキャリアとを混合することにより、二成分現像剤を調製する。トナーとキャリアとを混合する混合装置としては、例えば、V型混合機(商品名:V-5、株式会社徳寿工作所製)等の粉体混合装置が挙げられる。
【0075】
トナーとキャリアとの配合比としては、例えば、質量比で10:90~5:95の範囲内であることが好ましい。キャリアとしては、当該技術分野において通常使用されるキャリアを使用することができる。また、コートキャリアを使用することも可能である。
【実施例0076】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本開示のトナー及びその製造方法を具体的に説明する。まず、各種測定方法及び評価方法について説明する。
【0077】
<測定・評価方法>
-針入度測定試験-
針入度計(株式会社離合社製)を用いて、JIS K 2235の針入度の測定試験方法に準じて測定を行った。この測定は、試験温度25℃、加重100g、測定時間5秒間で行った。
【0078】
-示差熱分析測定法による吸収熱量ピークの測定-
示差熱分析測定法(DSC法)による、トナーを構成するワックスの吸収熱量ピークの測定は、示差熱分析測定装置DSC8230(株式会社リガク製)を用いて、ASTM D3418-82に準じて常温常湿下で行った。この測定は、測定用試料を10mgとし、20℃~150℃の間にて昇温速度を10℃/分として行った。
【0079】
-無機微粒子の粒子径の測定-
トナーを構成するワックスに配合する無機微粒子の粒子径は、以下の方法で測定した。
少量の試料をメタノール溶液に添加し、超音波分散器(商品名:UH-50、株式会社エスエムテー製)を用いて、超音波周波数20kHzで3分間分散処理し、測定用試料を調製した。この測定用試料について、粒度分布測定装置(商品名:コールターマルチサイザーII、ベックマン・コールター株式会社製)を用い、アパーチャ径100μm、測定粒子数50000カウントの条件下に測定を行い、試料粒子の体積粒度分布から無機微粒子の体積平均粒子径を求めた。
【0080】
-無機微粒子のサイズ及び形状の測定-
トナーを構成するワックスに配合する無機微粒子のサイズ及び形状を、自動粒子形状・サイズ分析装置(商品名:FPIA-3000、シスメックス株式会社製)を用いて測定した。この測定において、測定対象の試料は、粒子懸濁液としてシース・フローセルに供給される。粒子懸濁液の流れは、シース・フローセルを通過することで、幅の狭い扁平な流れに変換される。これにより、粒子の最大面積がカメラに向かって配向されること、及び全ての粒子に焦点が合うことが保証される。この測定において、CCDカメラは毎秒60画像をキャプチャし、これらの画像はリアルタイムで分析される。粒子のアスペクト比の評価は、粒子の面積の測定から導き出される。
【0081】
-評価項目1:フィルミングの評価-
実施例及び比較例のトナーを、現像装置を有する市販複写機(商品名:MX-5111FN、シャープ株式会社製)に充填し、A4用紙に印字率1%の所定のプリントパターンを高温高湿環境下(温度28℃、湿度80%)で連続印字した。5000枚連続印字後に感光体及びベタ画像を目視で観察することで、フィルミングの評価を行った。
【0082】
フィルミングの評価基準は以下のとおりである。
◎(優秀):感光体上にフィルミングの発生がなく、全く問題がない。
○(良好):感光体上にフィルミングの発生はないが、表面に傷による凹凸がみられる。問題がない。
△(可) :感光体上に若干フィルミングが発生しているが、画像には問題がない。
×(不可):感光体上に多くのフィルミングが発生しており、画像にも問題がある。
【0083】
-評価項目2:ブリードアウトの評価-
50mlのガラス管瓶(商品名:SV-50A、日電理化硝子株式会社製)に、染料樹脂組成物を5.0g秤量し、キャップ蓋をして密閉し、下記2条件で保管した後、室温に戻るまで静置した。
条件1:室温(25℃)下で24時間保管。
条件2:60℃±1℃の恒温器に入れ、24時間保管。
【0084】
その後、各樹脂組成物の粉体の電子顕微鏡(商品名:S-4800形電界放出形走査電子顕微鏡、日立ハイテクノロジーズ株式会社製)写真からブリードアウトの有無を、以下の評価基準に従ってそれぞれ評価した。
◎(優秀):ブリードアウトした固体がほとんど観測されない。
○(良好):ブリードアウトした固体が観測されるが、1μm未満の小さな固体がほとんどである。
△(可) :ブリードアウトした固体が観測されるが、観測されるのは1μm以上3μm未満の中型の固体が多数である。
×(不可):ブリードアウトした固体が非常に多く、3μm以上の大きな固体が数多観測される。
【0085】
-評価項目3:昇華転写効率の評価-
実施例及び比較例のトナーとコートキャリア(シャープ株式会社製のMX-5111FN用純正キャリア)を、トナー濃度が7質量%となるように、V型混合機(商品名:V-5、株式会社徳寿工作所製)にて20分間混合して二成分現像剤を作製した。
【0086】
上記二成分現像剤を、市販複写機(商品名:MX-5111FN、シャープ株式会社製)に充填し、縦20mm、横50mmの長方形のベタ画像を有するA4テスト原稿を中間記録媒体(商品名:PPC用紙SF-4AM3、シャープ株式会社製)に印刷した。この際、ベタ画像部のトナーの付着量を0.5mg/cm2、定着ローラの温度を135℃となるように設定した。
【0087】
上記二成分現像で得た中間記録媒体について、熱プレス処理による昇華転写前後の中間記録媒体の印刷出力100%にあたる部分に対して、分光光度計(商品名:スペクトロアイ、グレタグマクベス社製)を用いてマゼンタ色の染色濃度を測色した。転写前後の中間記録媒体に付着した染料濃度から、以下の式により昇華転写効率を算出した。
昇華転写効率=(転写後の染料濃度-転写前の染料濃度)/(転写前の染料濃度)×100%
【0088】
算出した昇華転写効率に基づいて、以下の基準で評価を行った。
◎(優秀):昇華転写効率が50%以上である。
○(良好):昇華転写効率が45%以上50%未満である。
△(可) :昇華転写効率が40%以上45%未満である。
×(不可):昇華転写効率が40%未満である。
【0089】
-評価項目4:カブリの評価-
白度計(商品名:ZE6000、日本電色工業株式会社製)を用いて、印刷前用紙の白色度と、印刷後用紙の非画像領域の白色度との差分を測定することにより、以下の基準によりカブリを評価した。
【0090】
◎(優秀):白色度の差分が0.5以下である。
○(良好):白色度の差分が0.5超1.0以下である。
△(可) :白色度の差分が1.0超1.5以下である。
×(不可):白色度の差分が1.5超である。
【0091】
-評価項目5:摩擦に対する染色堅牢度の評価-
実施例及び比較例のトナーを、市販複写機(商品名:MX-5111FN、シャープ株式会社製)に充填して中間記録媒体に画像形成を行った。この中間記録媒体と布帛とを重ね合わせてから熱プレス処理を行うことで、布帛を昇華転写染色した。具体的には、下記3種類の布帛に対して、180℃で35秒間という条件で熱プレス処理して昇華転写染色を行い、3種類の試験布を調製した。
布帛1:PETトロマット(ポリエステルの厚手の生地で、ハトメ穴加工及び袋縫い加工が施されている布)
布帛2:T/C混(ポリエステルと綿とを混紡した布)
布帛3:綿ブロート(綿生地の密度が高く、光沢がある平織り布)
【0092】
上記のようにして得られた各試験布に対して、JIS L0849に規定の方法に従い、II型(学振型)試験機を用いて摩擦に対する染色堅牢度試験を実施した。乾摩擦はJIS L0849に規定される乾燥試験、湿摩擦はJIS L0849に規定される湿潤試験に則って試験し、汚染グレースケールを用いて以下の基準で評価した。
【0093】
◎(優秀):染色堅牢度が4.5級以上である。
○(良好):染色堅牢度が4級である。
△(可) :染色堅牢度が3級である。
×(不可):染色堅牢度が2級以下である。
【0094】
-総合評価-
上記評価項目1~5の評価結果を、「◎」を+2、「○」を+1、「△」を±0、「×」を-1として評点した。この評点の合計点に基づいて下記の基準で総合評価を行った。
【0095】
◎(優秀):合計点が8~10である(使用可能)。
○(良好):合計点が6~7である(使用可能)。
△(可) :合計点が0~5である(使用可能)。
×(不可):「×」評価である評価項目が1つ以上ある(使用不可)。
【0096】
<トナーの製造>
[実施例1]
-トナー粒子の製造工程-
トナー粒子(トナーコア)の作製には、以下のトナー材料を使用した。
・結着樹脂:スチレンアクリル樹脂(商品名:CPR-190、三井化学株式会社製) 85.0質量%
・昇華性染料:Disperse Yellow 54(商品名:Plast Yellow 8040、有本化学工業株式会社) 6.0質量%
・帯電制御剤:サリチル酸系化合物(商品名:ボントロンE-84、オリヱント化学工業株式会社) 1.0質量%
・離型剤:精製カルナバワックス(商品名:TOWAX-131、東亜化成株式会社製) 8.0質量%
【0097】
上記のトナー材料を、気流混合機(ヘンシェルミキサー、型式:FM20C、日本コークス工業株式会社製)を用いて5分間前混合した[混合工程]。次いで、二軸押出機(型式:PCM30型、株式会社池貝製)を用い、シリンダ設定温度110℃、バレル回転数200rpm、材料供給速度15kg/時間の条件で溶融混練して混練物を得た[混練工程]。
【0098】
得られた溶融混練物を、ドラムフレーカーで冷却させた後、カッティングミル(型式:VM-16、オリエント粉砕機株式会社製)を用いて粗粉砕して粗粉砕品を得た[粗粉砕工程]。
【0099】
次いで、得られた粗粉砕品を、ジェット式粉砕機(型式:IDS-2、日本ニューマチック工業株式会社製)を用いて微粉砕し、微粉砕品を得た[微粉砕工程]。
【0100】
得られた微粉砕品を、エルボージェット分級機(型式:EJ-LABO、日鉄鉱業株式会社製)を用いて分級して、平均一次粒子径5.5μmのトナー粒子を得た[分級工程]。
【0101】
-外添工程-
上記分級工程で得られたトナー粒子100質量部と、疎水性シリカ微粒子(平均一次粒子径7nm、商品名:フェームドシリカRY300、日本アエロジル株式会社製)1.5質量部とを気流混合機(ヘンシェルミキサー、型式:FM20C、日本コークス工業株式会社製)に投入し、撹拌羽根先端部の最外周における周速度を40m/秒に設定し、1分間撹拌混合し、トナー(体積平均粒子径5.9μm、変動係数24%)約2,000gを得た[外添工程]。
【0102】
[実施例2~5、比較例1,2]
ここで、実施例及び比較例で用いた離型剤の一覧を表1に示す。表1に示す離型剤の中から表3に示す針入度を有する離型剤を選択して使用するように変更し、トナー粒子への離型剤及び昇華性染料の添加量を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0103】
【0104】
[実施例6~9、比較例3]
実施例6~9及び比較例3では、ワックスに昇華性染料を混練することでマスターバッチ化したものを使用した。具体的には、混合工程を行う前に、ワックスと昇華性染料とを以下の表3に示す割合で配合し、二軸押出機(型式:PCM45型、株式会社池貝製、φ=45mm,L/D=30)を用いて、シリンダ温度220℃、回転数150rpmにて溶融混練し、ワックスと昇華性染料との混練物を得た。この混練物を20~30℃の標準的な周囲温度で粉砕し、流動層式カウンタージェットミルを用いて微粉化したものをマスターバッチとして得た。実施例6~9及び比較例3におけるマスターバッチ中のワックス及び昇華性染料の質量割合は、表3に示すとおりである。
【0105】
実施例6~9及び比較例3では、このマスターバッチを離型剤として用いた。換言すると、表3における離型剤の添加量は、マスターバッチの添加量である。そのうえで、トナー粒子への離型剤及び昇華性染料の添加量が表3に示す量となるように変更した以外は実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0106】
[実施例10~13、比較例4]
実施例及び比較例で用いた「平板結晶構造を有する無機微粒子」の一覧を表2に示す。実施例10~13及び比較例4では、離型剤としてのワックスに、表2に示す無機微粒子の中から表3に示すメジアン径である無機微粒子を選択して配合するように変更し、且つ、トナー粒子への離型剤及び昇華性染料の添加量を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0107】
【0108】
なお、実施例10~13及び比較例4におけるワックスへの無機微粒子の配合工程は、以下の手順で行った。
【0109】
まず、湿式ビーズミル・ラボスター(アシザワ・ファインテック株式会社製)を用いて、微粉砕化されたワックススラリーを得た。次いで、得られたワックススラリーに無機微粒子を添加して、アルミエアーモーター竪型撹拌機(ベルヌーイ流撹拌体BEAG E型、日東金属工業株式会社製)を用いて懸濁することにより、ワックス表面を無機微粒子で被覆したワックススラリーを得た。最後に、得られたワックススラリーに対して、フラッシュジェットドライヤー(株式会社セイシン企業製)を用いて連続乾燥することにより、表面を無機微粒子で被覆されたワックス粒子を得た。
【0110】
[比較例5]
トナー材料として使用する結着樹脂を、当該技術分野で常用されるポリエステル樹脂に変更した以外は、実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0111】
[比較例6]
トナー材料として使用する結着樹脂を、当該技術分野で常用されるポリオレフィン樹脂に変更した以外は、実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0112】
【0113】
【0114】
表3は、実施例及び比較例におけるトナー材料の種類及び添加量を示したものであり、表4は、実施例及び比較例の評価結果を示したものである。この評価結果から明らかなように、昇華性を有する染料、離型剤としてのワックス及びスチレンアクリル樹脂を含むトナー粒子を有するトナーであって、前記ワックスは45℃における針入度が3以上15以下である実施例1~13のトナーは、昇華転写法による染色において、フィルミング、ブリードアウト及びカブリの発生を抑制でき、昇華転写効率及び摩擦に対する染色堅牢度に優れるものであった。
【0115】
これに対して、離型剤として含むワックスの45℃における針入度が3未満である比較例1、針入度が15を超える比較例2~4、及び結着樹脂がスチレンアクリル樹脂ではない比較例5,6は、昇華転写法による染色において高濃度に染色するために必要な5項目に基づく総合評価において、実施例に対して劣っていた。
【0116】
トナー粒子中の昇華性染料及びワックスの含有量を変化させた実施例2~5によれば、トナー粒子中の昇華性染料の含有量がワックスの含有量の0.5倍以上2.1倍以下である実施例3,4は、0.5倍未満である実施例2よりも、特に摩擦に対する染色堅牢度の評価に優れることがわかる。また、2.1倍を超える実施例5よりも、特にカブリの評価に優れることがわかる。
【0117】
実施例6~9は、トナー材料の離型剤として、ワックスと昇華性染料とを溶融混練した混練物で構成されるマスターバッチを用いた例である。ワックスにあらかじめ染料を配合してマスターバッチ化しておくことにより、45℃における針入度が適切な範囲となりやすく、トナー粒子を構成する樹脂の可塑化を抑制することが可能となる。
【0118】
マスターバッチが昇華性染料を30質量%以上50質量%以下含む実施例7,8は、昇華性染料の含有量が30質量%未満である実施例6、及び50質量%を超える実施例9よりも、特に摩擦に対する染色堅牢度及びカブリの評価に優れることがわかる。
【0119】
実施例10~13は、平板結晶構造を有する無機微粒子をワックスに配合したものを、離型剤として用いた例である。換言すると、表面が無機微粒子で被覆されたワックスを含む例である。これにより、スチレンアクリル樹脂とワックスとの間に、無機微粒子による緩衝作用を持たせることができ、トナー粒子を構成する樹脂の可塑化を抑制することが可能となる。
【0120】
ワックスに配合した無機微粒子のメジアン径が400nm以上900nm未満である実施例11,12は、無機微粒子のメジアン径が400nm未満である実施例10よりも、特にブリードアウトの評価に優れることがわかる。また、無機微粒子のメジアン径が900nm以上である実施例13よりも、特にブリードアウト及び摩擦に対する染色堅牢度の評価に優れることがわかる。
【0121】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本開示の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。