(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113992
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】金属多孔体シート巻回体および部材
(51)【国際特許分類】
B01J 35/57 20240101AFI20240816BHJP
B01J 35/56 20240101ALI20240816BHJP
B01J 23/76 20060101ALI20240816BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20240816BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B01J35/04 321Z
B01J35/04 331A
B01J23/76 A
B01J23/63 A
B01D53/86 222
B01D53/86 ZAB
B01D53/86 228
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019324
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591174368
【氏名又は名称】富山住友電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】細江 晃久
(72)【発明者】
【氏名】俵山 博匡
(72)【発明者】
【氏名】奥野 一樹
(72)【発明者】
【氏名】武田 康誠
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
(72)【発明者】
【氏名】宮元 一成
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA07
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4G169FA01
4G169FA04
4G169FB15
4G169FB23
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】省エネルギー化を可能とする金属多孔体シート巻回体および部材を提供する。
【解決手段】金属多孔体シートをロール状に巻回してなる金属多孔体シート巻回体であって、前記金属多孔体シートは、三次元網目状構造を有する金属多孔体からなり、前記三次元網目状構造は、複数の支柱部と、複数の前記支柱部を繋ぐノード部と、から構成され、前記金属多孔体は、触媒を含む、金属多孔体シート巻回体である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属多孔体シートをロール状に巻回してなる金属多孔体シート巻回体であって、
前記金属多孔体シートは、三次元網目状構造を有する金属多孔体からなり、
前記三次元網目状構造は、複数の支柱部と、複数の前記支柱部を繋ぐノード部と、から構成され、
前記金属多孔体は、触媒を含む、金属多孔体シート巻回体。
【請求項2】
前記触媒は、亜酸化窒素分解触媒を含み、
前記亜酸化窒素分解触媒は、四酸化三コバルトと、カリウムと、を有する、請求項1に記載の金属多孔体シート巻回体。
【請求項3】
前記亜酸化窒素分解触媒において、四酸化三コバルトの含有量Aおよびカリウムの含有量Bの合計(A+B)に対する、前記四酸化三コバルトの含有量Aの質量基準の百分率{A/(A+B)}×100は、99.5%以上99.9%以下である、請求項2に記載の金属多孔体シート巻回体。
【請求項4】
前記触媒は、アンモニア分解触媒を含み、
前記アンモニア分解触媒は、ルテニウムと、酸化セリウムとを有する、請求項1に記載の金属多孔体シート巻回体。
【請求項5】
前記アンモニア分解触媒は、ルテニウムと、酸化セリウムとを有し、
前記金属多孔体のルテニウムの含有量は、10mg/cm3以上20mg/cm3以下である、請求項4に記載の金属多孔体シート巻回体。
【請求項6】
前記金属多孔体シートの平均厚さは、0.1mm以上2.5mm以下である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の金属多孔体シート巻回体。
【請求項7】
前記金属多孔体シートの圧力損失は、3Pa以上50Pa以下であり、
前記圧力損失は、前記金属多孔体シートの厚さ方向に空気を流速0.41m/秒で通過させて測定される、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の金属多孔体シート巻回体。
【請求項8】
流路管と、前記流路管の内部空間に挿入された請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の金属多孔体シート巻回体と、を備え、
前記金属多孔体シート巻回体の軸と、前記流路管の軸とのなす角度は0°以上45°以下である、部材。
【請求項9】
前記流路管の内壁と、前記金属多孔体シート巻回体とは、接触している、請求項8に記載の部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属多孔体シート巻回体および部材に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応の速度を高めることができる触媒は化学合成に不可欠であり、より環境負荷の低い化学プロセスの構築に向けて開発が続けられている。一般的に固体触媒は比表面積の大きい細かい粒子を用いた方が高い活性が得られるが、そのまま使用すると反応系の圧力損失が増加しやすく、また粒子の凝集や焼結により活性が低下しやすくなる。このため化学的に安定で大きな表面積を有する多孔体などを担体として用い、その表面に微粒子触媒を安定分散させることで、反応効率および耐久性の高い触媒を実現させている。
【0003】
非特許文献1には、ニッケル(Ni)多孔体に、触媒であるルテニウム(Ru)および酸化セリウム(CeO2)を被覆して得られたRu/CeO2含有三次元網目状多孔体が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】俵山博匡ら(2022).多孔質金属体セルメットの触媒担体への応用.住友電工テクニカルレビュー.第201号.32-36.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1では、Ru/CeO2含有三次元網目状多孔体を切り出した小片を5枚重ねて反応管内に固定し、反応管内にプロパンおよび水蒸気の混合ガスからなる反応ガスを導入し、触媒による反応ガスの分解性能を検討している。反応管内において、5枚の小片の積層方向は、反応管内での反応ガスの流れに沿っている。
【0006】
反応物質が5枚の小片からなる積層体を通過する際に、圧力損失が生じる。圧力損失が大きくなると、積層体に反応物質を流すために、ブロアーの出力をより大きくしたり、積層体の流体供給側の圧力を大きくしたりする必要がある。ブロアーの出力、および、積層体の流体供給側の圧力を増加させるためには、より多くのエネルギーが必要となる。
【0007】
近年、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の観点から、各分野の技術において省エネルギー化が求められている。触媒を用いた技術においても、省エネルギー化が可能な技術が求められている。
【0008】
そこで、本開示は、たとえば、触媒を用いた技術において、省エネルギー化を可能とする金属多孔体シート巻回体および部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の金属多孔体シート巻回体は、金属多孔体シートをロール状に巻回してなる金属多孔体シート巻回体であって、
前記金属多孔体シートは、三次元網目状構造を有する金属多孔体からなり、
前記三次元網目状構造は、複数の支柱部と、複数の前記支柱部を繋ぐノード部と、から構成され、
前記金属多孔体は、触媒を含む、金属多孔体シート巻回体である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、たとえば、触媒を用いた技術において、省エネルギー化を可能とする金属多孔体シート巻回体および部材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態1の金属多孔体シート巻回体の模式的斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態1における金属多孔体シートの模式的斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態2の部材の模式的断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態1の三次元網目状構造を有する金属多孔体におけるセル部の1つに着目した拡大模式図である。
【
図5】
図5は、セル部の形状の一態様を示す模式図である。
【
図6】
図6は、セル部の形状の他の態様を示す模式図である。
【
図7】
図7は、セル部の形状の他の態様を示す模式図である。
【
図8】
図8は、接合した2つのセル部の態様を示す模式図である。
【
図9】
図9は、接合した4つのセル部の態様を示す模式図である。
【
図10】
図10は、複数のセル部が接合することによって形成された三次元網目状構造の一態様を示す模式図である。
【
図11】
図11は、実施形態1の金属多孔体シート巻回体の軸C1に垂直な断面を示す図である。
【
図12】
図12は、亜酸化窒素分解構造体の圧力損失の測定方法を説明するための図である。
【
図13】
図13は、金属多孔体シート巻回体1の単位長さ(1cm)あたりの圧力損失の測定方法を説明するための図である。
【
図14】
図14は、金属多孔体シート巻回体1の単位長さ(1cm)あたりの圧力損失の測定方法を説明するための図である。
【
図15】
図15は、実施形態1における金属多孔体シートの模式的斜視図である。
【
図16】
図16は、実施形態1の金属多孔体シート巻回体の他の一例の模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の金属多孔体シート巻回体は、金属多孔体シートをロール状に巻回してなる金属多孔体シート巻回体であって、
前記金属多孔体シートは、三次元網目状構造を有する金属多孔体からなり、
前記三次元網目状構造は、複数の支柱部と、複数の前記支柱部を繋ぐノード部と、から構成され、
前記金属多孔体は、触媒を含む、金属多孔体シート巻回体である。
【0013】
本開示によれば、たとえば、触媒を用いた技術において、省エネルギー化を可能とする金属多孔体シート巻回体を提供することが可能となる。
【0014】
(2)上記(1)において、前記触媒は、亜酸化窒素分解触媒を含み、
前記亜酸化窒素分解触媒は、四酸化三コバルトと、カリウムと、を有してもよい。四酸化三コバルトと、カリウムと、を有する亜酸化窒素分解触媒は、低温でも、亜酸化窒素を効率的に分解することができる。
【0015】
(3)上記(2)において、前記亜酸化窒素分解触媒において、四酸化三コバルトの含有量Aおよびカリウムの含有量Bの合計(A+B)に対する、前記四酸化三コバルトの含有量Aの質量基準の百分率{A/(A+B)}×100は、99.5%以上99.9%以下でもよい。これによると、亜酸化窒素分解触媒の亜酸化窒素の分解能が更に向上する。
【0016】
(4)上記(1)において、前記触媒は、アンモニア分解触媒を含み、
前記アンモニア分解触媒は、ルテニウムと、酸化セリウムとを有してもよい。ルテニウムと、酸化セリウムとを有するアンモニア分解触媒は、低温においてもアンモニアを分解することが可能である。
【0017】
(5)上記(4)において、前記アンモニア分解触媒は、ルテニウムと、酸化セリウムとを有し、
前記金属多孔体のルテニウムの含有量は、10mg/cm3以上20mg/cm3以下であってもよい。これによると、金属多孔体において高価なルテニウムの含有量が抑制されつつも、金属多孔体は高いアンモニアの分解能を示すことが可能である。よって、金属多孔体は、コストと性能のバランスに優れている。
【0018】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記金属多孔体シートの平均厚さは、0.1mm以上2.5mm以下であってもよい。これによると、金属多孔体シートの巻回しが容易である。
【0019】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記金属多孔体シートの圧力損失は、3Pa以上50Pa以下でもよい。ここで、前記金属多孔体シートの厚さ方向に空気を流速0.41m/秒で通過させて測定される。
【0020】
金属多孔体シートの圧力損失が3Pa以上であると、金属多孔体シートを通過する流体の流れを乱すことが可能となり触媒と流体との接触頻度を上げることができる。金属多孔体シートの圧力損失が50Pa以下であると、金属多孔体シート巻回体の圧力損失が更に低減される。
【0021】
(8)本開示の部材は、流路管と、前記流路管の内部空間に挿入された上記(1)から(7)のいずれかに記載の金属多孔体シート巻回体と、を備え、
前記金属多孔体シート巻回体の軸と、前記流路管の軸とのなす角度は0°以上45°以下である、部材である。
【0022】
本開示によれば、たとえば、触媒を用いた技術において、省エネルギー化を可能とする部材を提供することが可能となる。
【0023】
(9)上記(8)において、前記流路管の内壁と、前記金属多孔体シート巻回体とは、接触していてもよい。これによると、金属多孔体シート巻回体を通過する流体の量を増加させることができるため、触媒による反応物質の分解率を向上させることができる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の金属多孔体シート巻回体および部材の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0025】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0026】
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0027】
本開示において、数値範囲下限および上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。例えば、下限として、a1以上、b1以上、c1以上が記載され、上限としてa2以下、b2以下、c2以下が記載されている場合は、a1以上a2以下、a1以上b2以下、a1以上c2以下、b1以上a2以下、b1以上b2以下、b1以上c2以下、c1以上a2以下、c1以上b2以下、c1以上c2以下が開示されているものとする。
【0028】
[実施形態1:金属多孔体シート巻回体]
図1は、本開示の一実施形態(以下、「実施形態1」とも記す。)に係る金属多孔体シート巻回体1の模式的斜視図である。
図2は、実施形態1における金属多孔体シート2の模式的斜視図である。
図2には、金属多孔体シート2の主面に沿って、X軸方向、および、X軸方向に直交するY軸方向が記載されている。
【0029】
図1に示されるように、実施形態1の金属多孔体シート巻回体1は、金属多孔体シート2をロール状に巻回してなる。金属多孔体シート2は、三次元網目状構造を有する金属多孔体からなる。三次元網目状構造は、複数の支柱部と、複数の支柱部を繋ぐノード部と、から構成される。金属多孔体は、触媒を含む。
【0030】
図3は、実施形態1の金属多孔体シート巻回体1を用いた部材4の模式的断面図である。
図3に示されるように、部材4は、流路管3と、流路管3の内部空間に挿入された実施形態1の金属多孔体シート巻回体1と、を備える。金属多孔体シート巻回体1の軸C1と、流路管3の軸C2とのなす角度は0°以上45°以下である。
図3では、金属多孔体シート巻回体1の軸C1と、流路管3の軸C2とのなす角度が0°の場合を示している。このため、
図3では、軸C1と軸C2とは、同一の点線で示されている。
【0031】
流路管3は、触媒により分解される反応物質を含む流体の流路である。反応物質としては、例えば、亜酸化窒素、アンモニア、プロパン、メタン、エタノールが挙げられる。流路管3は、流体の入り口側の第1端部3bと、第1端部3bと反対側の第2端部3cとを有する。第1端部3b側から流体を流すと、流体は金属多孔体シート巻回体1を通過して、第2端部3c側へ移動する。金属多孔体シート巻回体1は触媒を含むため、流体が金属多孔体シート巻回体1を通過する際に、流体に含まれる反応物質が分解される。よって、第2端部3c側へ移動した流体では、反応物質が分解されている。
【0032】
流路管3の内部に金属多孔体シートを挿入した部材4において、反応物質の分解率を向上させるためには、金属多孔体シートの流体の流れに沿う方向の長さを大きくするという方法が考えられる。このような方法として、非特許文献1に示されるように、流体の流れる方向に対して垂直な断面における流路管3の内部空間の形状と同一の形状の主面を有する複数の金属多孔体シートを準備し、複数の金属多孔体シートを主面同士が対向するように重ねて金属多孔体シート積層体とする方法が挙げられる。この場合、反応物質の分解能は向上するものの、圧力損失が高くなる。圧力損失が高くなると、反応物質の分解に必要なエネルギーが増加してしまう。
【0033】
そこで本発明者らは鋭意検討の結果、金属多孔体シートをロール状に巻回してなる金属多孔体シート巻回体1を用いることにより、金属多孔体シート積層体と同等の分解能を有し、かつ、圧力損失の増加を抑制できることを見出した。以下、金属多孔体シート巻回体1およびそれを用いた部材4について説明する。
【0034】
図1に示される金属多孔体シート巻回体1は、たとえば、
図2に示される金属多孔体シート2をX軸方向に巻回して得ることができる。この場合、
図1に示される金属多孔体シート巻回体1において、巻回し方向であるX軸方向に直交するY軸方向が、金属多孔体シート巻回体1の軸C1の伸びる方向に該当する。
【0035】
金属多孔体シート巻回体1の外観は、流路管3に挿入することのできる形状であれば特に制限されない。金属多孔体シート巻回体1の形状としては、円柱状、楕円柱状、角柱状などが挙げられる。
【0036】
金属多孔体シート巻回体1の大きさは、特に制限されず、流路管3の大きさおよび用途によって適宜設定することができる。金属多孔体シート巻回体1の軸C1に垂直な断面における径(以下「金属多孔体シート巻回体1の断面の径」とも記す。)は、例えば、5mm以上3m以下でもよく、10mm以上1m以下でもよい。金属多孔体シート巻回体1の断面の径は、以下の手順で測定される。金属多孔体シート巻回体1を、軸C1を法線とする平面で切断して断面を露出させる。露出した断面の最小外接円の径を測定する。本開示において、最小外接円の径が、金属多孔体シート巻回体1の断面の径に該当する。金属多孔体シート巻回体1の断面の径が軸C1に沿って変化する場合は、最大径および最小径のいずれかまたは両方が、5mm以上3m以下でもよく、10mm以上1m以下でもよい。
【0037】
金属多孔体シート巻回体1の軸C1に沿う長さは、5mm以上10m以下でもよく、10mm以上1m以下でもよい。
【0038】
金属多孔体シート巻回体1において、金属多孔体シートの互いに対向する面同士は接することができる。また、本開示の効果を損なわない限りにおいて、金属多孔体シート巻回体1において、金属多孔体シートの互いに対向する面の間に隙間が存在していても良い。隙間の大きさは、例えば、2.2mm以下でもよく、1mm以下でもよい。
【0039】
<金属多孔体シート>
実施形態1において、金属多孔体シート2の平均厚さは、巻回しの可能な厚さであれば特に制限されない。金属多孔体シート巻回体1の平均厚さは、0.1mm以上5mm以下でもよく、0.5mm以上3mm以下でもよく、0.1mm以上2.5mm以下でもよく、0.1mm以上2.2mm以下でもよく、0.1mm以上1mm以下でもよい。
【0040】
金属多孔体シート2の平均厚さは、以下の手順で測定される。金属多孔体シート巻回体1を軸C1を法線とする平面に沿って切断して、金属多孔体シート巻回体1の軸C1に垂直な断面を露出させる。切断はワイヤーソーを用いて行われる。金属多孔体シート巻回体1の軸C1に垂直な断面において、金属多孔体シートの厚さを3箇所測定する。
図11は、金属多孔体シート巻回体1の軸C1に垂直な断面を示す図である。
図11に示されるように、厚さの測定箇所は、金属多孔体シート巻回体1の軸C1に垂直な断面において、金属多孔体シートの最も外側の第1A端部E1から最も内側の第2A端部E2までの金属多孔体シートの外側に位置する主面2Bに沿う距離をLとした場合に、第1A端部E1から金属多孔体シートの主面2Bに沿う距離が0.1Lであるs1、第1A端部E1から金属多孔体シートの主面2Bに沿う距離が0.5Lであるs2、第1A端部E1から金属多孔体シートの主面2Bに沿う距離が0.9Lであるs3の3箇所とする。s1、s2およびs3のそれぞれから、金属多孔体シート巻回体1の中心軸C1に向かう方向に沿って、金属多孔体シートの厚さt1、t2およびt3を測定する。3箇所の厚さt1、t2およびt3の平均である第1の平均厚さを算出する。
【0041】
上記の第1の平均厚さの測定を、金属多孔体シート巻回体1の切断位置を変えて、3つの断面で行う。3つの断面のそれぞれでの第1の平均厚さの平均である第2の平均厚さを算出する。本開示において、第2の平均厚さが、金属多孔体シート2の平均厚さに該当する。
【0042】
実施形態1において、金属多孔体シート2の圧力損失は、3Pa以上50Pa以下でもよく、3Pa以上30Pa以下でもよく、5Pa以上30Pa以下でもよい。金属多孔体シート2の圧力損失が3Pa以上であると、金属多孔体シートを通過する流体の流れを乱すことが可能となり触媒と流体との接触頻度を上げることができる。金属多孔体シート2の圧力損失が50Pa以下であると、金属多孔体シート巻回体1を用いた部材4において、圧力損失が更に低減される。
【0043】
金属多孔体シート2の圧力損失は、金属多孔体シート2の厚さ方向に空気を流速0.41m/秒で通過させて測定される。具体的な測定方法を
図12を用いて説明する。金属多孔体シート巻回体1を巻き戻して、金属多孔体シート2を平坦にする。金属多孔体シート2を、主面の法線方向に打ち抜くことにより、測定用試料7を作製する。測定用試料7の大きさおよび形状は、後述のポリ塩化ビニル管8の内径に応じて調整する。具体的には、測定用試料7の第1主面7aおよび第1主面7aと反対側の第2主面7bの外縁の全てが、ポリ塩化ビニル管8の内壁8aと接するように調整する。例えば、測定用試料7の第1主面7aおよび第2主面7bの大きさおよび形状が、ポリ塩化ビニル管8の軸を法線とする断面におけるポリ塩化ビニル管8の内部空間の大きさおよび形状と略同一の場合、測定用試料7の第1主面7aおよび第2主面7bの外縁の全てが、ポリ塩化ビニル管8の内壁8aと接することができる。ポリ塩化ビニル管8の内径は、10mm以上とする。金属多孔体シート2を打ち抜く位置は、測定用試料7の最小厚さが、金属多孔体シート2の最大厚さの70%以上となるように選択する。
【0044】
図12に示されるように、測定用試料7を、ポリ塩化ビニル管8のいずれかの第1端部8b側からポリ塩化ビニル管8の内部に、測定用試料7の第1主面7aおよび第2主面7bの外縁の全てが、ポリ塩化ビニル管8の内壁8aと接するように挿入する。ポリ塩化ビニル管8の内部空間での測定用試料7の位置は、ポリ塩化ビニル管8の第1端部8b側の測定用試料7の第1主面7aから、ポリ塩化ビニル管の第1端部8bまでの距離が、測定用試料7の第2主面7bから、ポリ塩化ビニル管の第1端部8bと反対側の第2端部8cまでの距離よりも短くなるように調整する。測定用試料7を挿入したポリ塩化ビニル管8を縦に設置する。この時、試料が落ちないよう、ポリ塩化ビニル管8の下端にはφ0.4mmの針金を十字に張っておく。ポリ塩化ビニル管8の第1端部8bと反対側の第2端部8c側から空気を流速0.41m/秒で導入する。測定用試料7のポリ塩化ビニル管8の第2端部8c側の圧力P1(単位:Pa)を差圧計で測定する。ポリ塩化ビニル管8から測定用試料8を外し、ポリ塩化ビニル管8の第2端部8c側から空気を流速0.41m/秒で導入して、ポリ塩化ビニル管8の第2端部8c側の圧力P2(単位:Pa)を差圧計で測定する。P1とP2との差を金属多孔体シート2の圧力損失(単位:Pa)とする。
【0045】
上記の測定を、5つの測定用試料で行う。5つの測定用試料のそれぞれの圧力損失の平均を算出する。本開示において、5つの測定用試料のそれぞれの圧力損失の平均が、金属多孔体シート2の圧力損失に該当する。
【0046】
同一の金属多孔体シートにおいて、金属多孔体シートの打ち抜き位置を上記の通り設定して測定用試料を作製する限り、測定を複数回行っても、測定結果にほとんどばらつきがないことが確認されている。
【0047】
<金属多孔体の構造>
実施形態1において、金属多孔体シート2は、三次元網目状構造を有する金属多孔体からなる。本開示において、三次元網目状構造とは、構成する固体成分が立体的に網目状に広がっている構造を意味する。ここで、固体成分とは金属などである。
【0048】
以下では、三次元網目状構造の理解を容易にするため、三次元網目状構造の構成単位をセル部20と表現して説明する。
図4は、実施形態1における金属多孔体の三次元網目状構造を構成する1つのセル部の拡大模式図である。
図10に示されるように、三次元網目状構造30は、複数のセル部が接合することによって形成されている。
【0049】
図4および
図5に示されるように、三次元網目状構造の構成単位であるセル部20は、複数の支柱部5と複数の支柱部5を繋ぐノード部6とから構成される。したがって、三次元網目状構造は、複数の支柱部5と複数の支柱部5を繋ぐノード部6とから構成されると表現することができる。以下では、支柱部5とノード部6とを分けて説明するが、両者の明確な境界はなく、複数の支柱部5と複数のノード部6とが一体となって三次元網目状構造を構成している。以下では、支柱部5とノード部6とから構成される三次元網目状構造を骨格とも記す。以下では、理解を容易にするため、
図4のセル部の形状を、
図5に示される正十二面体と見做して説明する。
【0050】
複数の支柱部5および複数のノード部6は、平面状の多角形構造体であるフレーム部10を形成する。ここで、平面状の多角形とは、平面的に見た場合に多角形であることを意味する。
図5では平面状の多角形構造体は正五角形であるが、平面状の多角形構造体の形状は正五角形に限定されない。平面状の多角形構造体は、三角形、四角形、六角形等、他の多角形であってもよい。フレーム部10は、複数の支柱部5と複数のノード部6とにより平面状の多角形状の孔を形成する。
【0051】
複数のフレーム部10が組み合わされて、立体状の多面体構造体であるセル部20を形成する。1個の支柱部5および1個のノード部6は、複数のフレーム部10で共有されている。ノード部6の形状は、頂点を有するようなシャープエッジの形状であってもよいし、頂点が面取りされているような平面状であってもよいし、頂点にアールが付与されたような曲面状であってもよい。
図5では、立体状の多面体構造体は、十二面体であるが、立方体、二十面体(
図6)、切頂二十面体(
図7)等、他の多面体であってもよい。セル部20は、複数のフレーム部10のそれぞれによって規定される仮想平面Aにより囲まれた立体状の空間を形成する。
【0052】
図8、
図9および
図10に示されるように、複数のセル部20が組み合わせられることによって三次元網目状構造30が形成される。フレーム部10は複数のセル部20で共有されている。フレーム部10は2つのセル部20で共有されていてもよい。三次元網目状構造30は、複数のフレーム部10からなると表現することもできる。三次元網目状構造30は、複数のセル部20からなると表現することもできる。本開示の金属多孔体は、三次元網目状構造30を有することから、連通気孔を有することができる。
【0053】
本開示の金属多孔体は、フレーム部により形成される平面状の多角形状の孔と、セル部により形成される立体状の空間とから構成される三次元網目状構造を有している。本開示の金属多孔体は、平面状の孔のみを有するパンチングメタルおよび焼き網等の二次元網目状構造体とは明確に区別できる。本開示の金属多孔体は、複数の支柱部と複数のノード部とが一体となって三次元網目状構造を形成している。そのため、構成単位である繊維同士が絡み合わされて形成された不織布等のような構造体とは明確に区別できる。
【0054】
本開示の三次元網目状構造は、上述の構造に限定されない。例えば、セル部20は、大きさ、平面的形状がそれぞれ異なる複数のフレーム部10によって形成されていてもよい。三次元網目状構造は、大きさ、立体的形状がそれぞれ異なる複数のセル部20によって形成されていてもよい。三次元網目状構造は、平面多角形状の孔が形成されていないフレーム部10を一部に含んでいてもよいし、立体状の空間が形成されておらず、内部が中実であるセル部20を一部に含んでいてもよい。
【0055】
金属多孔体の気孔率は、30%以上98%以下でもよく、40%以上97%以下でもよく、40%以上95%以下でもよく、50%以上96%以下でもよく、50%以上90%以下でもよい。金属多孔体の気孔率が30%以上であることにより、金属多孔体を非常に軽量なものとすることができ、且つ金属多孔体の表面積を大きくすることができる。金属多孔体の気孔率が98%以下であることにより、金属多孔体の強度を十分なものとすることができる。
【0056】
本開示において、金属多孔体の気孔率は次式で定義される。
気孔率[%]=(気孔の体積[cm3]/金属多孔体の体積[cm3])×100
上記式において、金属多孔体の体積とは、金属多孔体の外観形状の体積である。
【0057】
気孔の体積および金属多孔体の体積の測定方法は、以下の通りである。金属多孔体シート巻回体1を巻き戻して、金属多孔体シート2を平坦にする。金属多孔体シート2の外縁からの距離が2mm以上の領域内で、X線CTにより金属多孔体シート2の三次元データを取得し、三次元データに基づき気孔の体積および金属多孔体の体積を求める。X線CTの測定領域全体の体積が上記式における金属多孔体の体積に該当する。X線CTの測定領域の大きさは、4mm3以上とする。測定領域の大きさは、測定対象の大きさに応じて適宜設定することができる。
【0058】
得られた気孔の体積および金属多孔体の体積を上記式に代入することにより、金属多孔体の気孔率を算出する。1つの測定対象である金属多孔体シート2に対して、互いに重複しない3箇所の測定領域を設定する。3箇所の測定領域のそれぞれにおいて、気孔の体積および金属多孔体の体積を求め、金属多孔体の気孔率を算出する。3箇所の測定領域の金属多孔体の気孔率の平均を算出する。本開示において、3箇所の測定領域の金属多孔体の気孔率の平均が、金属多孔体の気孔率に該当する。
【0059】
金属多孔体の骨格の平均気孔径は、350μm以上3500μm以下でもよく、350μm以上1000μm以下でもよく、350μm以上850μm以下でもよい。金属多孔体の骨格の気孔径とは、立体状の空間の孔径を意味する。金属多孔体の骨格の平均気孔径が350μm以上であることにより、金属多孔体の強度を高めることができる。金属多孔体の骨格の平均気孔径が3500μm以下であることにより、金属多孔体の曲げ性を高めることができる。
【0060】
金属多孔体の骨格の平均気孔径の測定方法は以下の通りである。金属多孔体シート巻回体1を巻き戻して、金属多孔体シート2を平坦にする。金属多孔体シート2の表面を顕微鏡で観察する。観察像において、1インチ(25.4mm=25400μm)の直線を引き、直線が横切るセルの数ncを数える。第1の平均気孔径を以下の式で算出する。
第1の平均気孔径(μm)=25400(μm)/セルの数nc
【0061】
上記の測定を、金属多孔体シート2の表面に設定された互いに重複しない任意の5視野で行う。5視野のそれぞれにおいて第1の平均気孔径を算出し、これらの平均である第2の平均気孔径を算出する。本開示において、第2の平均気孔径が金属多孔体の骨格の平均気孔径に該当する。
【0062】
同一の金属多孔体で測定する限り、測定視野の位置を任意に選択して、測定を複数回行っても、測定結果にほとんどばらつきがないことが確認されている。
【0063】
<触媒>
実施形態1において、金属多孔体は、触媒を含む。金属多孔体において、触媒は、支柱部5とノード部6とから構成される骨格の表面に担持されていてもよい。この場合、触媒は、金属多孔体の外表面に位置する骨格の表面に担持されていてもよい。
【0064】
触媒の種類は、特に制限されず、金属多孔体シート巻回体1の用途によって適宜選択される。触媒としては、例えば、亜酸化窒素分解触媒、アンモニア分解触媒、プロパン改質触媒、メタン改質触媒、メタノール改質触媒、アンモニア合成触媒、メタン合成触媒が上げられる。
【0065】
触媒は亜酸化窒素分解触媒を含み、亜酸化窒素分解触媒は、四酸化三コバルト(Co3O4)と、カリウムと、を有してもよい。四酸化三コバルトと、カリウムと、を有する亜酸化窒素分解触媒は、低温でも、亜酸化窒素を効率的に分解することができる。低温とは、例えば350℃以下を意味する。
【0066】
亜酸化窒素分解触媒は四酸化三コバルトと、カリウムと、を有し、亜酸化窒素分解触媒において、四酸化三コバルトの含有量A(g)およびカリウムの含有量B(g)の合計(A+B)(g)に対する、四酸化三コバルトの含有量A(g)の質量基準の百分率{A/(A+B)}×100は、99.5%以上99.9%以下であってもよい。これによると、亜酸化窒素分解触媒の亜酸化窒素の分解能が更に向上する。百分率{A/(A+B)}×100は、99.6%以上99.8%以下でもよく、99.7%以上99.8%以下でもよい。
【0067】
本開示において、百分率{A/(A+B)}×100は以下の手順で測定される。金属多孔体をプレスすることにより、金属多孔体から亜酸化窒素分解触媒を脱落させて、亜酸化窒素分解触媒のみを取り出す。取り出された亜酸化窒素分解触媒を50℃の0.1M硝酸溶液に60分間浸漬して、亜酸化窒素分解触媒を溶解させた溶解液を得る。硝酸溶液に溶解させる亜酸化窒素分解触媒の質量M1は、例えば、0.04g以上とする。本開示において、亜酸化窒素分解触媒を50℃の0.1M硝酸溶液に60分間浸漬して、亜酸化窒素分解触媒を溶解させた溶解液を第1溶解液とも記す。
【0068】
第1溶解液に対してICP(Inductively Coupled Plasma、高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析を行い、第1溶解液中のコバルト(Co)含有量(g)およびカリウム(K)含有量(g)を測定する。コバルト含有量(g)に基づき、四酸化三コバルトとしての含有量A(g)を算出する。得られた四酸化三コバルトの含有量A(g)およびカリウムの含有量B(g)に基づき、百分率{A/(A+B)}×100を算出する。
【0069】
硝酸溶液に溶解させた亜酸化窒素分解触媒の質量M1および得られた四酸化三コバルトの含有量Aおよびカリウムの含有量Bに基づき、亜酸化窒素分解触媒中の四酸化三コバルトの含有率、および、亜酸化窒素分解触媒中のカリウムの含有率を算出することができる。
【0070】
亜酸化窒素分解触媒中のすべてのコバルトが、四酸化三コバルトとして存在していることは、以下の手順で確認される。亜酸化窒素分解触媒のX線回折分析を行い、X線回折スペクトルを取得する。X線回折分析は、測定装置としてパナリティカル社製の「EMPYREAN」を用いる。測定条件は以下の通りである。
<X回折分析測定条件>
X線回折法:θ-2θ法
測定範囲:2θ=10°~80°
積算時間:197.111sec
特性X線:Cu-Ka
管電圧:45kV
管電流:200mA
光学系:集中法
X線回折装置のスキャンスピード:1.5°/分
ステップ幅:0.03゜
【0071】
得られたX線回折スペクトルにおいて、四酸化三コバルトに帰属する回折ピークが存在し、他のコバルト化合物に帰属するピークが存在しない場合、亜酸化窒素分解触媒中のすべてのコバルトが、四酸化三コバルトとして存在していることが確認される。
【0072】
亜酸化窒素分解触媒において、コバルトの含有量C(g)およびカリウムの含有量B(g)の合計(C+B)(g)に対するコバルトの含有量C(g)の質量基準の百分率{C/(C+B)}×100は、99.3%以上99.9%以下でもよく、99.4%以上99.8%以下でもよい。
【0073】
亜酸化窒素分解触媒は、四酸化三コバルトおよびカリウムに加えて、他の成分を含むことができる。他の成分としては、ケイ素、アルミニウム、ニッケル、鉄、錫、銅、亜鉛、ナトリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。亜酸化窒素分解触媒の他の成分の合計含有率は、20質量%以下とすることができる。亜酸化窒素分解触媒の他の成分の合計含有量は、第1溶解液に対してICP発光分光分析を行うことにより測定される。
【0074】
亜酸化窒素分解触媒が四酸化三コバルトおよびカリウムに加えて、他の成分を含む場合においても、四酸化三コバルトの含有量A(g)およびカリウムの含有量B(g)の合計(A+B)(g)に対する、四酸化三コバルトの含有量A(g)の質量基準の百分率{A/(A+B)}×100は、99.5%以上99.9%以下でもよく、99.6%以上99.8%以下でもよく、99.7%以上99.8%以下でもよい。
【0075】
亜酸化窒素分解触媒は四酸化三コバルトと、カリウムとを有し、金属多孔体のコバルトの含有量は、18mg/cm3以上250mg/cm3以下であってもよい。これによると、金属多孔体は高い亜酸化窒素の分解能を示すことが可能である。本開示において、金属多孔体のコバルトの含有量とは、金属多孔体の外観の単位体積(cm3)当たりのコバルトの含有量(mg)を意味する。金属多孔体のコバルトの含有量の下限は、18mg/cm3以上でもよく、40mg/cm3以上でもよく、50mg/cm3以上でもよく、75mg/cm3以上でもよく、100mg/cm3以上でもよい。金属多孔体のコバルトの含有量の上限は、200mg/cm3以下でもよく、150mg/cm3以下でもよい。亜酸化金属多孔体のコバルトの含有量は、50mg/cm3以上200mg/cm3以下でもよく、100mg/cm3以上150mg/cm3以下でもよい。
【0076】
本開示において、金属多孔体のコバルトの含有量は以下の手順で測定される。金属多孔体シートを切り出して金属多孔体からなる測定用試料を作製し、測定用試料を50℃の0.1M硝酸溶液に60分間浸漬して、亜酸化窒素分解触媒を溶解させた溶解液を得る。測定用試料の外観の体積は0.1cm3以上とする。本開示において、測定用試料を50℃の0.1M硝酸溶液に60分間浸漬して、亜酸化窒素分解触媒を溶解させた溶解液を「第2溶解液」とも記す。得られた第2溶解液に対してICP発光分光分析を行い、溶解液中のコバルト(Co)の含有量(mg)を測定する。コバルトの含有量(mg)を測定用試料の外観の体積(cm3)で割ることにより、金属多孔体に含まれるコバルトの含有量(mg/cm3)を得る。
【0077】
アンモニア分解触媒は、ルテニウムと、酸化セリウム(CeO2)とを有してもよい。ルテニウムと、酸化セリウムとを有するアンモニア分解触媒は、低温でもアンモニアを分解することが可能である。低温とは、例えば500℃以下を意味する。
【0078】
アンモニア分解触媒はルテニウムと、酸化セリウムとを有し、金属多孔体のルテニウムの含有量は、10mg/cm3以上20mg/cm3以下であってもよい。これによると、金属多孔体において高価なルテニウムの含有量が抑制されつつも、金属多孔体は高いアンモニアの分解能を示すことが可能である。よって、金属多孔体は、コストと性能のバランスに優れている。本開示において、金属多孔体のルテニウムの含有量とは、金属多孔体の外観の単位体積(cm3)当たりのルテニウムの含有量(mg)を意味する。金属多孔体のルテニウムの含有量は、12mg/cm3以上18mg/cm3以下でもよく、14mg/cm3以上16mg/cm3以下でもよい。
【0079】
本開示において、金属多孔体のルテニウムの含有量は以下の手順で測定される。金属多孔体シート2を切り出して金属多孔体からなる測定用試料を作製し、測定用試料を王水に浸漬して、アンモニア分解触媒を溶解させた溶解液を得る。測定用試料の体積は0.1cm3以上とする。測定用試料を王水へ溶解する際の条件は、アンモニア分解触媒がすべて王水に溶解するような条件であれば特に限定されない。例えば、測定用試料を1000℃で24時間大気中にて熱処理した後、200℃の王水に300分間浸漬することにより、すべてのアンモニア分解触媒を王水に溶解させることができる。得られた溶解液に対してICP発光分光分析を行い、溶解液中のルテニウム(Ru)の含有量(mg)を測定する。ルテニウムの含有量(mg)を金属多孔体シートからなる測定用試料の体積(cm3)で割ることにより、金属多孔体に含まれるルテニウムの含有量(mg/cm3)を得る。
【0080】
本開示において、アンモニア分解触媒が酸化セリウムを含むことは、以下の手順で確認される。亜酸化窒素分解触媒のX線回折分析を行い、X線回折スペクトルを取得する。X線回折分析の条件は上記<X回折分析測定条件>の通りである。
【0081】
得られたX線回折スペクトルにおいて、酸化セリウムに帰属する回折ピークが存在する場合、亜酸化窒素分解触媒が酸化セリウムを含むことが確認される。
【0082】
<金属多孔体シート巻回体の単位長さ(1cm)あたりの圧力損失>
実施形態1の金属多孔体シート巻回体1の単位長さ(1cm)あたりの圧力損失は、1Pa/cm以上100Pa/cm以下でもよく、2Pa/cm以上50Pa/cm以下でもよく、3Pa/cm以上40Pa/cm以下でもよい。金属多孔体シート巻回体1の単位長さ(1cm)あたりの圧力損失が1Pa/cm以上であると、金属多孔体シート巻回体1を通過する流体の流れを乱すことが可能となり触媒と流体との接触頻度を上げることができる。金属多孔体シート巻回体1の単位長さ(1cm)あたりの圧力損失が100Pa/cm以下であると、金属多孔体シート巻回体1を用いた部材4において、圧力損失が更に低減される。
【0083】
本開示において、金属多孔体シート巻回体1の単位長さ(1cm)あたりの圧力損失は、金属多孔体シート巻回体1の軸C1に沿う方向に空気を流速0.41m/秒で通過させて測定される。具体的な測定方法は以下の通りである。ポリ塩化ビニル管を準備する。ポリ塩化ビニル管の長さは、金属多孔体シート巻回体1の軸C1の長さの1.5倍以上とする。
図13に示されるように、ポリ塩化ビニル管8の内部空間の断面形状は、金属多孔体シート巻回体1の軸C1を法線とする断面の最小外接円C3と同一形状とする。
【0084】
図14に示されるように、ポリ塩化ビニル管8のいずれかの第1端部8b側からポリ塩化ビニル管8の内部空間に、金属多孔体シート巻回体1を、金属多孔体シート巻回体1の外周面が、ポリ塩化ビニル管8の内壁8aと接するように挿入する。金属多孔体シート巻回体1を挿入したポリ塩化ビニル管8を縦に設置する。この時、金属多孔体シート巻回体1が落ちないよう、ポリ塩化ビニル管8の下端にはφ0.4mmの針金を十字に張っておく。ポリ塩化ビニル管の第1端部8bと反対側の第2端部側8cから空気を流速0.41m/秒で導入する。金属多孔体シート巻回体1のポリ塩化ビニル管8の第2端部8c側の圧力P3(単位:Pa)を差圧計で測定する。ポリ塩化ビニル管8から金属多孔体シート巻回体1を外し、ポリ塩化ビニル管の第2端部8c側から空気を流速0.41m/秒で導入して、ポリ塩化ビニル管の第2端部側8cの圧力P4(単位:Pa)を差圧計で測定する。P3とP4との差(単位:Pa)を金属多孔体シート2の軸C1に沿う方向の長さ(単位:cm)で除することにより、金属多孔体シート巻回体1の単位長さ(1cm)あたりの圧力損失を得る。
【0085】
<金属多孔体シート巻回体の密度>
実施形態1の金属多孔体シート巻回体の密度は、0.1g/cm3以上0.5g/cm3以下でもよく、0.2g/cm3以上0.45g/cm3以下でもよく、0.24g/cm3以上0.42g/cm3以下でもよい。
【0086】
本開示において、金属多孔体シート巻回体の密度は次式で定義される。
金属多孔体シート巻回体の密度[g/cm3]=(金属多孔体シート巻回体の質量[g]/金属多孔体シート巻回体の体積[cm3])×100
上記式において、金属多孔体シート巻回体の体積とは、金属多孔体シート巻回体の外観形状の体積である。
【0087】
<金属多孔体の骨格の組成>
実施形態1において、金属多孔体の骨格の組成は特に制限されず、触媒の種類や、金属多孔体シート巻回体1の用途によって適宜選択される。
【0088】
金属多孔体の骨格の表面に触媒が担持されている場合、骨格の組成としては、例えば、ニッケル、ニッケル-クロム、ニッケル-コバルト、ニッケル-スズ、銅、アルミニウムが挙げられる。
【0089】
<金属多孔体シート巻回体の製造方法>
金属多孔体シート巻回体1の製造方法は、金属多孔体シート2を準備する第1工程と、金属多孔体シート2をロール状に巻回して金属多孔体シート巻回体1を得る第2工程と、を備えることができる。
【0090】
<第1工程>
第1工程で準備される金属多孔体シート2は、触媒を含む金属多孔体からなる。触媒を含む金属多孔体は、以下の手順で準備することができる。まず、金属多孔体の骨格を準備する。骨格としては、住友電気工業株式会社製の「セルメット(登録商標)」などの市販の金属多孔体を用いることができる。
【0091】
所望の骨格を市場から入手することができない場合には、以下の方法によって骨格を製造してもよい。三次元網目状構造を有する樹脂成形体のシートを用意する。樹脂成形体としては、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂等を用いることができる。続いて、樹脂成形体の表面に導電層を形成する導電化処理工程を行なう。導電化処理は、例えば、カーボン、導電性セラミック等の導電性粒子を含有した導電性塗料を塗布したり、無電解めっき法によってニッケルおよび銅等の導電性金属による層を形成したり、蒸着法またはスパッタリング法によって導電性金属による層を形成したりすることによって行なうことができる。続いて、表面に導電層を形成した樹脂成形体を基材として用いて、ニッケルなどの金属を電気めっきするめっき工程を行なう。電気めっきは公知の手法によって行なえばよい。
【0092】
最後に、熱処理等により、基材として用いた樹脂成形体を除去する除去工程を行なうことにより、三次元網目状構造を有する骨格を得ることができる。
【0093】
次に、触媒粉末を、バインダーおよび分散剤などと混合して、触媒含有スラリーを準備する。バインダーおよび分散剤の種類は、触媒の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0094】
触媒が四酸化三コバルトと、カリウムと、を有する亜酸化窒素分解触媒の場合、バインダーとしては日産化学社製の「スノーテックスST-N」(商標)、分散剤としては日油社製の「マリアリム」(商標)を用いることができる。亜酸化窒素分解触媒とバインダーと分散剤との混合比は、質量基準で5~10:1~5:0.1~2とすることができる。その他、消泡剤や増粘剤等、適宜添加することができる。
【0095】
触媒がルテニウムと、酸化セリウムとを有するアンモニア分解触媒の場合、バインダーとしてはDIC社製の「ボンコートEC-740EF」(商標)、分散剤としては日油社製の「マリアリム」(商標)を用いることができる。アンモニア分解触媒とバインダーと分散剤との混合比は、質量基準で5~10:1~10:0.1~4とすることができる。その他、消泡剤や増粘剤等、適宜添加することができる。
【0096】
金属多孔体の骨格を触媒含有スラリーに1分間浸漬した後に引き上げる。必要に応じて、表面に触媒含有スラリーが付着した金属多孔体の骨格を、例えば20m/sの風量で1分間ブローしたのち、150℃で15分間熱処理を行うことができる。必要に応じて、上記の骨格の触媒含有スラリーへの浸漬、ブローおよび熱処理を繰り返し行う。
【0097】
必要に応じて、上記のブローおよび熱処理に代えて、表面に触媒含有スラリーが付着した金属多孔体の骨格をホットプレート上で80℃で30分乾燥する工程を行うことができる。必要に応じて、上記の骨格の触媒含有スラリーへの浸漬、ホットプレート上での乾燥工程を繰り返し行う。
【0098】
以上の工程により、金属多孔体シートを作製することができる。
【0099】
<第2工程>
次に、第1工程で得られた金属多孔体シート2をロール状に巻回して金属多孔体シート巻回体1を得る。金属多孔体シート巻回体1の巻き戻しを防ぐために、金属多孔体シート巻回体1の外側の端部をテープで固定してもよい。
【0100】
金属多孔体シート巻回体は、2枚以上の金属多孔体シート2を用いて作製されてもよい。例えば、
図15に示されるように、2枚の金属多孔体シート2を作製してこれらを接合した後に、
図15に示される金属多孔体シートの接合部分2Cの延在方向であるY軸方向と交差するX軸方向に巻き回して、
図16に示される金属多孔体シート巻回体1を得ることができる。接合方法は、例えば、2枚の金属多孔体シート2のそれぞれの一部を重ねてプレス成型を行う方法、2枚の金属多孔体シート2のそれぞれの一部を重ねて溶接する方法が挙げられる。接合される金属多孔体シート2の枚数は2枚に限定されず、3枚以上であってもよい。金属多孔体シートの厚さ、金属多孔体の気孔率、金属多孔体の骨格の平均気孔径、触媒の組成などを測定する際は、接合部分以外の領域で測定する。
【0101】
2枚以上の金属多孔体シートを用いて金属多孔体シート巻回体を作製する場合、2枚以上の金属多孔体シート同士は、接合されていなくてもよい。例えば、2枚の金属多孔体シートを作製し、一方の第1金属多孔体シートを巻き回し、第1金属多孔体シートの巻き回し終端を開始点として、他の一方の第2金属多孔体シートを続けて巻き回しても良い。この時、第1金属多孔体シートの巻き回し終端と、第2金属多孔体シートの巻き回し開始端とは、接していてもよく、接していなくてもよい。接していない場合は、第1金属多孔体シートの巻き回し終端と、第2金属多孔体シートの巻き回し開始端との間の隙間の長さは0.1mm以下でもよく、1mm以下でもよく、2.2mm以下でもよい。
【0102】
[実施形態2:部材]
図3は、本開示の一実施形態(以下、「実施形態2」とも記す。)に係る部材4の模式的断面図である。
図3に示されるように、部材4は、流路管3と、流路管3の内部空間に挿入された実施形態1の金属多孔体シート巻回体1と、を備える。金属多孔体シート巻回体1の軸C1と、流路管3の軸C2とのなす角度は0°以上45°以下である。金属多孔体シート巻回体1の軸C1とは、金属多孔体シート巻回体1のいずれかの第1端面1aと、第1端面1aと反対側の第2端面1bとの間の最短距離を規定する線分を意味する。流路管3の軸C2とは、流路管の第1端部3bと第2端部3cとの間の最短距離を規定する線分を意味する。
図3では、金属多孔体シート巻回体1の軸C1と、流路管3の軸C2とが同一線上に存在するため、金属多孔体シート巻回体1の軸C1と、流路管3の軸C2とのなす角度が0°である。
【0103】
流路管3は、触媒により分解される反応物質を含む流体の流路である。反応物質としては、例えば、亜酸化窒素、アンモニア、プロパン、メタン、メタノール、水素、水、窒素、二酸化炭素が挙げられる。流路は、流体の入り口側の第1端部3bと、第1端部3bと反対側の第2端部3cとを有する。第1端部3b側から流体を流すと、流体は金属多孔体シート巻回体1を通過して、第2端部3c側へ移動する。金属多孔体シート巻回体1は触媒を含むため、流体が金属多孔体シート巻回体1を通過する際に、流体に含まれる反応物質が分解される。よって、第2端部3c側へ移動した流体では、反応物質が分解されている。
【0104】
流体の流れる方向に対して垂直な断面における流路管3の内部空間の形状(以下「内部空間の断面形状」とも記す。)は特に限定されない。例えば、流路管3の内部空間の断面形状は、円形、楕円形、矩形とすることができる。流路管3の内部空間の断面の面積は特に限定されず、用途によって適宜変更することができる。
【0105】
流路管3の内部空間を規定する流路壁の材質は、流体、反応物質および触媒などを考慮して適宜選択できる。例えば、ステンレス、インコネル、アルミニウム、チタン、石英管などを使用できる。
【0106】
実施形態2の部材4において、流路管3の内壁3aと、金属多孔体シート巻回体1とは接していてもよい。これによると、金属多孔体シート巻回体1を通過する流体の量を増加させることができるため、触媒による反応物質の分解率を向上させることができる。
【0107】
実施形態2の部材4において、金属多孔体シート巻回体を軸C1を法線とする面P1で切断して得られる金属多孔体シート巻回体1の断面の面積S1の流路管3を面P1と同一の面で切断して得られる流路管3の内部空間の断面の面積S2に対する百分率(S1/S2)×100は、80%以上でもよく、90%以上でもよく、95%以上でもよく、100%でもよい。百分率(S1/S2)×100が、軸C1に沿って変化する場合は、最小値が80%以上でもよく、90%以上でもよく、95%以上でもよく、100%でもよい。金属多孔体シート巻回体1の断面の面積S1とは、断面に露出した金属多孔体シートの面積を意味する。
【0108】
実施形態2の部材4は、例えば、廃棄ガス処理装置、水素製造装置、メタン合成装置、アンモニア合成装置に用いることができる。
【0109】
<部材の製造方法>
実施形態2の部材4は、流路管3の内部空間に、金属多孔体シート巻回体1を、金属多孔体シート巻回体1の軸C1と、流路管3の軸C2とのなす角度が0°以上45°以下となるように流路管3の内部空間に挿入して作製することができる。
【0110】
[付記1]
本開示の金属多孔体シート巻回体において、金属多孔体は亜酸化窒素分解触媒を含み、
前記亜酸化窒素分解触媒は、四酸化三コバルトと、カリウムとを有し、
前記亜酸化窒素分解触媒において、コバルトの含有量C(g)およびカリウムの含有量B(g)の合計(C+B)(g)に対するコバルトの含有量C(g)の質量基準の百分率{C/(C+B)}×100は、99.3%以上99.9%以下でもよい。
【0111】
[付記2]
本開示の金属多孔体シート巻回体において、金属多孔体は亜酸化窒素分解触媒を含み、
前記亜酸化窒素分解触媒は、四酸化三コバルトと、カリウムとを有し、
前記金属多孔体のコバルトの含有量は、50mg/cm3以上200mg/cm3以下でもよい。
【実施例0112】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0113】
[検討1]
<金属多孔体シートの作製>
各試料の金属多孔体の骨格として、以下のNiセルメットを準備した。
品番#8:住友電気工業株式会社製の「Niセルメット、品番#8、Ni目付315g/m2、厚さ1.2mm、平均気孔径450μm」
品番#4:「Niセルメット、品番#4、Ni目付850g/m2、厚さ2.2mm、平均気孔径850μm」
各試料で用いたNiセルメットの品番および平均気孔径は、表1の「骨格」の「品番」および「平均気孔径」欄に記載の通りである。
【0114】
亜酸化窒素分解触媒として、四酸化三コバルト(Co3O4)およびカリウム(K)からなる亜酸化窒素分解触媒を準備した。各試料で用いられた亜酸化窒素分解触媒の四酸化三コバルト(Co3O4)およびカリウム(K)の含有率は、表1の「亜酸化窒素分解触媒」の「Co3O4」および「K」欄に示される通りである。例えば、試料1で準備された亜酸化窒素分解触媒は、四酸化三コバルト(Co3O4)を99.80質量%およびカリウム(K)を0.20質量%含む。各試料における四酸化三コバルトの含有量A(g)およびカリウムの含有量B(g)の合計(A+B)(g)に対する、四酸化三コバルトの含有量A(g)の質量基準の百分率{A/(A+B)}×100は、表1の「亜酸化窒素分解触媒」の「{A/(A+B)}×100」欄に記載の通りである。
【0115】
亜酸化窒素分解触媒を、バインダーおよび分散剤と混合して触媒含有スラリーを準備した。バインダーとしては日産化学社製の「スノーテックスST-N」(商標)、分散剤としては日油社製の「マリアリム」(商標)を用いた。亜酸化窒素分解触媒とバインダーと分散剤との混合比は、質量基準で10:5:2とした。
【0116】
金属多孔体の骨格を触媒含有スラリーに1分間浸漬した後に引き上げた。5分ほど室温で静置したのち、150℃で15分間熱処理を行った。以上の工程により、金属多孔体シートを作製した。
【0117】
<金属多孔体シートおよび金属多孔体の評価>
各試料の金属多孔体シートの平均厚さ、圧力損失および金属多孔体のコバルトの含有量を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表1の「金属多孔体シート」の「平均厚さ」、「圧力損失」欄および「金属多孔体」の「Co含有量」欄に示す。
【0118】
【0119】
<評価用試料の作製>
試料1~試料4では、金属多孔体シートをロール状に巻回して、評価用試料である金属多孔体シート巻回体を作製した。各試料の金属多孔体シート巻回体は円柱形状である。各試料の金属多孔体シート巻回体の径、長さおよび密度は、表2の「評価用試料」の「径」、「長さ」および「密度」欄に示される通りである。
【0120】
試料1-1、試料1-3および試料1-4では、金属多孔体シートを径16mmの板状に打ち抜き、8枚の円板状の金属多孔体片を準備した。8枚の金属多孔体片を、主面同士が対向するように重ねて、評価用試料である金属多孔体シート積層体を作製した。得られた金属多孔体シート積層体の径、長さおよび密度は、表2の「評価用試料」の「径」、「長さ」および「密度」欄に示される通りである。
【0121】
試料1-2では、金属多孔体シートを径16mmの板状に打ち抜き、5枚の円板状の金属多孔体片を準備した。5枚の金属多孔体片を、主面同士が対向するように重ねて、評価用試料である金属多孔体シート積層体を作製した。得られた金属多孔体シート積層体の径、長さおよび密度は、表2の「評価用試料」の「径」、「長さ」および「密度」欄に示される通りである。
【0122】
<評価用試料の圧力損失の測定>
ポリ塩化ビニル管を準備した。ポリ塩化ビニル管の内部空間の径は16mmである。ポリ塩化ビニル管のいずれかの第1端部側からポリ塩化ビニル管の内部空間に、各試料の評価用試料(金属多孔体シート巻回体または金属多孔体シート積層体)を、これらの軸が、流路管の軸に沿うように流路管の内部空間に挿入した。この時、評価用試料の外周面が、ポリ塩化ビニル管の内壁と接していた。評価用試料を挿入したポリ塩化ビニル管を縦に設置した。ポリ塩化ビニル管の下端にはφ0.4mmの針金を十字に張った。ポリ塩化ビニル管の第1端部と反対側の第2端部側から空気を流量5L/分で導入した。評価用試料のポリ塩化ビニル管の第2端部側の圧力P3(単位:Pa)を差圧計で測定した。ポリ塩化ビニル管から評価用試料を外し、ポリ塩化ビニル管の第2端部側から空気を流量5L/分で導入して、ポリ塩化ビニル管の第2端部側の圧力P4(単位:Pa)を差圧計で測定した。P3とP4との差(単位:Pa)を算出することにより、各試料の評価用試料(金属多孔体シート巻回体または金属多孔体シート積層体)の圧力損失を得た。結果を表2の「評価」の「圧力損失」欄に示す。圧力損失が小さいほど、省エネルギー化が可能である。各試料について、圧力損失を測定用試料の長さで除することにより、単位長さ当たりの圧力損失を算出した。結果を表2の「単位長さ当たりの圧力損失」欄に示す。
【0123】
<N2O分解率評価>
流路管として、石英管を準備した。石英管の内部空間の径は16mmである。流路管の内部空間に、各試料の評価用試料(金属多孔体シート巻回体または金属多孔体シート積層体)を、これらの軸が、流路管の軸に沿うように流路管の内部空間に挿入して、各試料の部材を作製した。流路管内で金属多孔体シート巻回体または金属多孔体シート積層体を固定するために、金属多孔体シート巻回体または金属多孔体シート積層体の両端にガラスウールを配置した。評価用試料(金属多孔体シート巻回体または金属多孔体シート積層体)を挿入した石英管を管状炉にセットし、350℃に加熱した。
【0124】
各試料の部材において、反応ガスとして、N2O含有率が10000ppmである、N2Oとヘリウム(He)との混合ガスを、流路管のいずれかの開口側から空間速度2,500/hで導入して、N2O分解率を測定した。
【0125】
N2O分解率は、評価用試料(金属多孔体シート巻回体または金属多孔体シート積層体)を通過後のガスの組成をガスクロマトグラフを用いて分析することにより、算出した。結果を表2の「評価」の「N2O分解率」欄に示す。
【0126】
【0127】
<考察>
試料1の金属多孔体シート巻回体と、試料1-1の金属多孔体シート積層体とは、同一の金属多孔体シートから作製されている。試料1の部材と、試料1-1の部材とは、同一のN2O分解率を有し、かつ、試料1の金属多孔体シート巻回体は、試料1-1の金属多孔体シート積層体よりも圧力損失が低減されていた。よって、試料1の金属多孔体シート巻回体および部材は、省エネルギー化が可能であることが確認された。
【0128】
試料2の金属多孔体シート巻回体と、試料1-2の金属多孔体シート積層体とは、同一の金属多孔体シートから作製されている。試料2の部材と、試料1-2の部材とは、同等のN2O分解率を有し、かつ、試料2の金属多孔体シート巻回体は、試料1-2の金属多孔体シート積層体よりもが圧力損失が低減されていた。よって、試料2の金属多孔体シート巻回体および部材は、省エネルギー化が可能であることが確認された。
【0129】
試料3の金属多孔体シート巻回体と、試料1-3の金属多孔体シート積層体とは、同一の金属多孔体シートから作製されている。試料3の部材と、試料1-3の部材とは、同等のNO2分解率を有し、かつ、試料3の金属多孔体シート巻回体は、試料1-3の金属多孔体シート積層体よりも圧力損失が低減されていた。よって、試料3の金属多孔体シート巻回体および部材は、省エネルギー化が可能であることが確認された。
【0130】
試料4の金属多孔体シート巻回体と、試料1-4の金属多孔体シート積層体とは、同一の金属多孔体シートから作製されている。試料4の部材と、試料1-4の部材とは、同等のNO2分解率を有し、かつ、試料4の金属多孔体シート巻回体は、試料1-4の金属多孔体シート積層体よりも圧力損失が低減されていた。よって、試料4の金属多孔体シート巻回体および部材は、省エネルギー化が可能であることが確認された。
【0131】
[検討2]
<金属多孔体シートの作製>
金属多孔体の骨格として、住友電気工業株式会社製の「Niセルメット#2、Ni目付1900g/m2、厚さ5.0mm」を厚さ2.0mmにプレスしたものを準備した。金属多孔体の骨格の平均気孔径は、表2の「骨格」の「平均気孔径」欄に記載の通りである。
【0132】
アンモニア分解触媒として、ルテニウム(Ru)および酸化セリウム(CeO2)からなるアンモニア分解触媒を準備した。各試料で用いられたアンモニア分解触媒のルテニウム(Ru)および酸化セリウム(CeO2)の含有率は、表3の「アンモニア分解触媒」の「Ru」および「CeO2」欄に示される通りである。
【0133】
アンモニア分解触媒を、バインダーおよび分散剤と混合して触媒含有スラリーを準備した。バインダーとしてはDIC社製の「ボンコートEC-740EF」(商標)、分散剤としては日油社製の「マリアリム」(商標)を用いた。アンモニア分解触媒とバインダーと分散剤との混合比は、質量基準で10:10:6とした。
【0134】
金属多孔体の骨格を触媒含有スラリーに1分間浸漬した後に引き上げた。ホットプレートの上に金属ブロックを4個おき、これらが金属多孔体の骨格の角部に来るようにセットし、80℃で30分乾燥した。金属多孔体の骨格の触媒含有スラリーへの浸漬および乾燥処理を30回繰り返した。最後に120℃で2時間、および500℃で5時間熱処理を行った。以上の工程により、金属多孔体シートを作製した。
【0135】
<金属多孔体シートおよび金属多孔体の評価>
金属多孔体シートの平均厚さ、圧力損失および金属多孔体のルテニウムの含有量を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表3の「金属多孔体シート」の「平均厚さ」、「圧力損失」欄および「金属多孔体」の「Ru含有量」欄に示す。
【0136】
【0137】
<評価用試料の作製>
試料11では、上記で得られた金属多孔体シートをロール状に巻回して、評価用試料である金属多孔体シート巻回体を作製した。金属多孔体シート巻回体は円柱形状である。金属多孔体シート巻回体の径、長さおよび密度は、表4の「評価用試料」の「径」、「長さ」および「密度」欄に示される通りである。
【0138】
試料1-11では、金属多孔体シートを径22mmの板状に打ち抜き、5枚の円板状の金属多孔体片を準備した。5枚の金属多孔体片を、主面同士が対向するように重ねて、金属多孔体シート積層体を作製した。得られた金属多孔体シート積層体の径、長さおよび密度は、表4の「評価用試料」の「径」、「長さ」および「密度」欄に示される通りである。
【0139】
試料11の金属多孔体シート巻回体および試料1-11の金属多孔体シート積層体の圧力損失を、検討1の評価用試料の圧力損失の測定方法と同一の方法で測定した。結果を表4の「評価」の「圧力損失」欄に示す。圧力損失が小さいほど、省エネルギー化が可能である。各試料について、圧力損失を測定用試料の長さで除することにより、単位長さ当たりの圧力損失を算出した。結果を表4の「単位長さ当たりの圧力損失」欄に示す。
【0140】
<NH3残存率評価>
流路管として、石英管を準備した。石英管の内部空間の径は16mmである。流路管の内部空間に、各試料の評価用試料(金属多孔体シート巻回体または金属多孔体シート積層体)を、これらの軸が、流路管の軸に沿うように流路管の内部空間に挿入して、各試料の部材を作製した。流路管内で金属多孔体シート巻回体または金属多孔体シート積層体を固定するために、金属多孔体シート巻回体または金属多孔体シート積層体の両端にガラスウールを配置した。評価用試料(金属多孔体シート巻回体または金属多孔体シート積層体)を挿入した石英管を管状炉にセットし、500℃に加熱した。
【0141】
各試料の部材において、反応ガスとして、NH3ガスを流路管のいずれかの開口側から空間速度2,500/hで導入して、NH3残存率を測定した。
【0142】
NH3残存率は、評価用試料(金属多孔体シート巻回体または金属多孔体シート積層体)を通過後のガスの組成をガスクロマトグラフを用いて分析することにより、算出した。結果を表4の「評価」の「NH3残存率」欄に示す。
【0143】
【0144】
<考察>
試料11の金属多孔体シート巻回体と、試料1-11の金属多孔体シート積層体とは、同一の金属多孔体シートから作製されている。試料11の部材と、試料1-11の部材とは、同等のNH3残存率を有し、かつ、試料11の金属多孔体シート巻回体は、試料1-11の金属多孔体シート積層体よりも圧力損失が低減されていた。よって、試料11の金属多孔体シート巻回体および部材は、省エネルギー化が可能であることが確認された。
【0145】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。