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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113995
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】回転電機用ロータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20240816BHJP
【FI】
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019327
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】井手上 薫樹
(72)【発明者】
【氏名】飯島 亜美
(72)【発明者】
【氏名】木戸 勇志
(72)【発明者】
【氏名】津田 哲平
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA00
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622CB03
5H622CB05
(57)【要約】
【課題】逆起電圧を有意に増加させることなく又は逆起電圧を低減しつつリラクタンストルクの向上を図る。
【解決手段】ロータコアと、第1層の磁石孔内に配置される第1層の永久磁石と、第2層の磁石孔内に配置される第2層の永久磁石と、を含み、一の磁石片に係る磁石角度を、軸方向に視て一の磁石片における主磁束方向の側面の延在方向とd軸との交点から、d軸に対して垂直な方向に伸ばした基準線と、側面の延在方向とのなす角度とし、かつ、軸方向に視て基準線よりも径方向内側を磁石角度の正側としたとき、第1層の永久磁石を形成するd軸上又はd軸に最も近い第1磁石片に係る第1磁石角度は、第2層の永久磁石を形成するd軸上又はd軸に最も近い第2磁石片に係る第2磁石角度よりも小さい、回転電機用ロータが開示される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層の磁石孔が軸方向に視てd軸に関して対称に形成されるとともに、前記第1層の磁石孔よりも径方向内側に第2層の磁石孔が軸方向に視てd軸に関して対称に形成されるロータコアと、
前記第1層の磁石孔内に配置される第1層の永久磁石と、
前記第2層の磁石孔内に配置される第2層の永久磁石と、を含み、
前記ロータコアは、前記第1層の磁石孔よりも径方向外側に位置しかつ前記ロータコアの外周面を形成する第1部位と、前記第1層の磁石孔と前記第2層の磁石孔との間を通って周方向両側が前記ロータコアの外周面まで延在する第2部位と、前記第2層の磁石孔よりも径方向内側を通って周方向両側が前記ロータコアの外周面まで延在する第3部位とを含み、
一の磁石片に係る磁石角度を、軸方向に視て前記一の磁石片における主磁束方向の側面の延在方向とd軸との交点から、d軸に対して垂直な方向に伸ばした基準線と、前記側面の延在方向とのなす角度とし、かつ、軸方向に視て前記基準線よりも径方向内側を磁石角度の正側としたとき、
前記第1層の永久磁石を形成するd軸上又はd軸に最も近い第1磁石片に係る第1磁石角度は、前記第2層の永久磁石を形成するd軸上又はd軸に最も近い第2磁石片に係る第2磁石角度よりも小さい、回転電機用ロータ。
【請求項2】
前記第2磁石角度は、正であり、前記第1磁石角度は、負である、請求項1に記載の回転電機用ロータ。
【請求項3】
前記第2磁石角度は、前記第1磁石角度よりも1度以上大きい、請求項1に記載の回転電機用ロータ。
【請求項4】
前記第1磁石角度は、9度より小さく、かつ、前記第2磁石角度は、9度より大きい、請求項1に記載の回転電機用ロータ。
【請求項5】
前記第2層の永久磁石を形成するq軸に最も近い第3磁石片に係るd軸側かつ径方向外側の角部と前記ロータコアの中心とを結んだ線分と、d軸とのなす鋭角側の角度は、12度以上かつ20度以下の範囲内である、請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ロータ。
【請求項6】
前記第2部位に係る距離のうちの、
軸方向に視て、前記第1磁石片の径方向内側の辺に沿った直線のd軸上の交点と、前記第2磁石片の径方向外側の辺に沿った直線のd軸上の交点との間の距離を、第1距離とし、かつ、
軸方向に視て、前記第1磁石片と前記第3磁石片との間の最短距離、又は、前記第1磁石片が配置される前記第1層の磁石孔と前記第3磁石片が配置される前記第2層の磁石孔との間の最短距離であって前記角部よりも径方向内側における最短距離を、第2距離としたとき、
前記第2距離が前記第1距離よりも大きい、請求項5に記載の回転電機用ロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータコアに複数の永久磁石が径方向内側と径方向外側の2層で配置される2層配置構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-107370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、かかる2層配置構造(3層以上の多層配置構造も同様)の場合、回転電機の高回転化に伴う遠心力の増加に対応すべく、径方向外側の層に係る磁石孔(ここでは、「1層目の磁石孔」と称する)や径方向内側の層に係る磁石孔(ここでは、「2層目の磁石孔」と称する)を、軸方向に視てd軸を中心として径方向外側への凸状に形成することがある。
【0005】
しかしながら、かかる構成では、1層目の磁石孔に係る径方向外側への凸状の形態の角度、2層目の磁石孔に係る径方向外側への凸状の形態の角度、及び、これらの2つの角度間の関係に依存して、逆起電圧の有意な増加やリラクタンストルクの低下等が生じる場合があることが解析上わかった。
【0006】
そこで、1つの側面では、本開示は、逆起電圧を有意に増加させることなく又は逆起電圧を低減しつつリラクタンストルクの向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの側面では、第1層の磁石孔が軸方向に視てd軸に関して対称に形成されるとともに、前記第1層の磁石孔よりも径方向内側に第2層の磁石孔が軸方向に視てd軸に関して対称に形成されるロータコアと、
前記第1層の磁石孔内に配置される第1層の永久磁石と、
前記第2層の磁石孔内に配置される第2層の永久磁石と、を含み、
前記ロータコアは、前記第1層の磁石孔よりも径方向外側に位置しかつ前記ロータコアの外周面を形成する第1部位と、前記第1層の磁石孔と前記第2層の磁石孔との間を通って周方向両側が前記ロータコアの外周面まで延在する第2部位と、前記第2層の磁石孔よりも径方向内側を通って周方向両側が前記ロータコアの外周面まで延在する第3部位とを含み、
一の磁石片に係る磁石角度を、軸方向に視て前記一の磁石片における主磁束方向の側面の延在方向とd軸との交点から、d軸に対して垂直な方向に伸ばした基準線と、前記側面の延在方向とのなす角度とし、かつ、軸方向に視て前記基準線よりも径方向内側を磁石角度の正側としたとき、
前記第1層の永久磁石を形成するd軸上又はd軸に最も近い第1磁石片に係る第1磁石角度は、前記第2層の永久磁石を形成するd軸上又はd軸に最も近い第2磁石片に係る第2磁石角度よりも小さい、回転電機用ロータが提供される。
【発明の効果】
【0008】
1つの側面では、本開示によれば、逆起電圧を有意に増加させることなく又は逆起電圧を低減しつつリラクタンストルクの向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
図2】ロータの断面図である。
図3図2に示した一の磁極に係る部分の拡大図(その1)である。
図4図2に示した一の磁極に係る部分の拡大図(その2)である。
図5】解析結果に基づく本実施例の効果の説明図(その1)である。
図6】解析結果に基づく本実施例の効果の説明図(その2)である。
図7】解析結果に基づく本実施例の効果の説明図(その3)である。
図8】解析結果に基づく本実施例の効果の説明図(その4)である。
図9】解析結果に基づく本実施例の効果の説明図(その5)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。また、図面では、見易さのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0011】
図1は、一実施例によるモータ1の断面構造を概略的に示す断面図である。図2は、ロータ30の断面図(軸方向に垂直な平面による断面図)である。
【0012】
図1には、モータ1の回転軸12が図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)12が延在する方向を指し、径方向とは、回転軸12を中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸12から離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸12に向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸12まわりの回転方向に対応する。
【0013】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0014】
モータ1は、インナロータタイプであり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、モータハウジング10に固定される。ステータ21は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるステータコア211を備え、ステータコア211の径方向内側には、コイル22が巻回される複数のスロット(図示せず)が形成される。
【0015】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。
【0016】
ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34と、エンドプレート35A、35Bと、磁石片61、62とを備える。
【0017】
ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側の表面に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータコア32は、軸孔320(図2参照)を有し、軸孔320にロータシャフト34が嵌合される。ロータコア32は、ロータシャフト34に焼き嵌め、圧入、又はその類により固定されてよい。例えば、ロータコア32は、ロータシャフト34にキー結合やスプライン結合により結合されてもよい。ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸12を画成する。
【0018】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板により形成される。ロータコア32の内部には、磁石片61、62(図2参照)が埋め込まれる。すなわち、ロータコア32は、軸方向に貫通する磁石孔321、322(図2参照)を有し、磁石孔321、322内に磁石片61、62が挿入され固定される。なお、変形例では、ロータコア32は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。
【0019】
ロータコア32は、第1半径r1の円形状で設計される。なお、変形例では、ロータコア32の円形状は、真円である必要はなく、例えば一部に切り欠きを有する円形状であってもよい。
【0020】
ロータコア32は、図2に示すように、軸方向に視て、回転軸12を中心とした回転対称の形態を有する。図2に示す例では、ロータコア32は、回転軸12を中心として45度回転するごとに、各組の磁石片61、62が重なる形態である。
【0021】
複数の磁石片61、62は、焼結磁石の形態であり、ネオジウム等により形成されてよい。本実施例では、一例として、図2に示すように、複数の磁石片61、62は、軸方向に視て、磁石片61、62がそれぞれ対をなして配置されている。この場合、対の磁石片61の間及び対の磁石片62の間に、共通の磁極が形成される。なお、複数の磁石片61、62は、周方向でS極とN極とが交互に現れる態様で配置される。なお、本実施例では、磁極数が8つであるが、磁極数は任意である。また、本実施例では、磁石片61、62は、軸方向に視て直線状の同一形態であるが、異なる形態であってもよい。また、磁石片61、62の少なくともいずれか一方が、軸方向に視て円弧状の形態であってもよい。
【0022】
なお、図1には、特定の構造を有するモータ1が示されるが、モータ1の構造は、かかる特定の構造に限定されない。例えば、図1では、ロータシャフト34は、中空であるが、中実であってもよい。
【0023】
次に、図3以降を参照して、ロータコア32及び磁石片61、62を更に詳細に説明する。以下では、ある一の磁極に係る構成について説明するが、他の磁極に係る構成についても同様であってよい。
【0024】
図3は、図2に示した一の磁極に係る部分の拡大図である。一の磁極に係る構成は、基本的に、主磁束方向(界磁極の方向)に対応するd軸(図3では「d-axis」と英語表記)に関して対称である。なお、d軸の方向は、ロータ30に配置される磁石片61、62が発生する磁界の方向に対応する。以下では、周方向外側とは、d軸から離れる側を指し、周方向内側とは、d軸に近づく側を指す。
【0025】
ロータコア32には、磁石孔321(以下、「第1層の磁石孔321」と称する)と、磁石孔322(以下、「第2層の磁石孔322」と称する)とが、形成される。
【0026】
第1層の磁石孔321は、2つが対となって略V字状(径方向外側又は径方向内側が開く態様の略V字状)に形成される。ただし、変形例では、第1層の磁石孔321は、2つが対となって直線状に形成されてもよいし、直線状(d軸に垂直な直線状)の1つの孔により実現されてもよい。第1層の磁石孔321のそれぞれには、磁石片61が設けられる。なお、第1層の磁石孔321と磁石片61との間には、磁石片61の長手方向両端部において隙間が設けられてもよい。なお、この隙間は、空洞であってもよいし、樹脂等が充填されてもよい。
【0027】
第2層の磁石孔322は、第1層の磁石孔321よりも径方向内側に設けられる。なお、第1層の磁石孔321及び第2層の磁石孔322の位置関係に関して径方向外側又は径方向内側とは、軸方向に視て、回転軸12を通る共通の線分が交わる点同士で比較される位置関係である。これは、後述する第1部位3211と第1層の磁石孔321との位置関係等に関しても同様である。
【0028】
第2層の磁石孔322は、第1層の磁石孔321と同様、d軸に関して対称な対をなす態様で形成される。なお、周方向でd軸の両側の第2層の磁石孔322は、周方向でd軸の両側の第1層の磁石孔321よりも周方向の延在範囲が広い。第2層の磁石孔322のそれぞれには、磁石片62が設けられる。なお、第2層の磁石孔322と磁石片62との間には、磁石片62の長手方向両端部において隙間が設けられてよい。なお、この隙間は、空洞であってもよいし、樹脂等が充填されてもよい。
【0029】
本実施例では、第2層の磁石孔322は、周方向でd軸の一方側に2つ形成され、かつ、周方向でd軸の他方側に2つ形成される。すなわち、一の磁極に対して合計4つの第2層の磁石孔322が形成される。
【0030】
ロータコア32は、このような第1層の磁石孔321及び第2層の磁石孔322を有することで、径方向にブリッジ部を介してのみ接続される3つの部位3211、3212、3213(以下、第1部位3211、第2部位3212、第3部位3213とも称する)を有する。
【0031】
具体的には、第1部位3211は、第1層の磁石孔321よりも径方向外側に延在する。第1部位3211は、ロータコア32の外周面328の一部328A(図3参照)を形成する。第1部位3211は、q軸(図4では「q-axis」と英語表記)磁束の磁路を形成する。具体的には、第1部位3211に係るq軸磁束は、第1部位3211の周方向一端から周方向他端に向けて第1部位3211(第1層の磁石孔3212よりも径方向外側の領域)を通って流れる。
【0032】
第2部位3212は、第2層の磁石孔322と第1層の磁石孔321との間を通って周方向両側がロータコア32の外周面328まで延在する。第2部位3212は、第1部位3211の周方向両側において、ロータコア32の外周面328の一部328B(以下、「第2部位3212の外周面部328B」とも称する)(図3参照)を形成する。第2部位3212は、q軸磁束の磁路を形成する。具体的には、第2部位3212に係るq軸磁束は、第2部位3212の一端(一方側の外周面部328B)から他端(他方側の外周面部328B)に向けて第2層の磁石孔322と第1層の磁石孔321との間を通って流れる。
【0033】
第3部位3213は、第2層の磁石孔322よりも径方向内側を通って周方向両側がロータコア32の外周面328まで延在する。第3部位3213は、第2部位3212の周方向両側において、ロータコア32の外周面328の一部328C(図3参照)を形成する。
【0034】
なお、本実施例では、第3部位3213の質量は、第2部位3212の質量よりも有意に大きく、第2部位3212の質量は、第1部位3211の質量よりも有意に大きくてよい。
【0035】
また、ロータコア32は、このような3つの部位3211、3212、3213を有することで、3つの部位3211、3212、3213を繋ぐ複数のブリッジ部41、42、43、44、45を有する。
【0036】
ブリッジ部41(以下、「第1ブリッジ部41」と称する)は、第2部位3212に対して第1部位3211を径方向外側で支持する。すなわち、第1ブリッジ部41は、第2部位3212と第1部位3211とを連結しかつ周方向に延在する。第1ブリッジ部41は、第1部位3211の周方向両側(周方向外側)に対で設けられる。
【0037】
ブリッジ部42(以下、「第2ブリッジ部42」と称する)は、第3部位3213に対して第2部位3212を径方向外側で支持する。すなわち、第2ブリッジ部42は、第3部位3213と第2部位3212とを連結しかつ周方向に延在する。第2ブリッジ部42は、第2部位3212の周方向両側(周方向外側)に対で設けられる。
【0038】
ブリッジ部43(以下、「第1センタブリッジ部43」と称する)は、第2部位3212に対して第1部位3211をd軸上で支持する。
【0039】
ブリッジ部44(以下、「第2センタブリッジ部44」と称する)は、第3部位3213に対して第2部位3212をd軸上で支持する。
【0040】
ブリッジ部45(以下、「第2中間ブリッジ部45」と称する)は、第3部位3213に対して第2部位3212を、2つの第2層の磁石孔322間で支持する。
【0041】
図3に示す例では、各第1層の磁石孔321に挿入される各磁石片61は、径方向外側からの1層目の永久磁石(第1層の永久磁石の一例)を形成し、各第2層の磁石孔322に挿入される各磁石片62は、径方向外側からの2層目の永久磁石(第2層の永久磁石の一例)を形成する。なお、本実施例では、一の磁石孔(第1層の磁石孔321又は第2層の磁石孔322)に一の磁石片(磁石片61又は磁石片62)が挿入されるが、変形例では、一の磁石孔に2つ以上の磁石片が挿入されてもよい。
【0042】
また、図3に示す例では、第1層の磁石孔321及び第2層の磁石孔322は、ともにd軸上に延在せずに、d軸上に第1センタブリッジ部43及び第2センタブリッジ部44を有する。ただし、変形例では、第1層の磁石孔321及び第2層の磁石孔322は、いずれか一方又は双方がd軸上に延在してもよい。
【0043】
また、図3に示す例では、磁石片61、62は、第1層の磁石孔321及び第2層の磁石孔322と同様に、ともにd軸上に延在しないが、いずれか一方だけがd軸上に延在してもよい。
【0044】
次に、図4以降を参照して、本実施例の特徴的な構成を説明する。図4は、図3の一部の更なる拡大図であり、形状特徴の説明用の線を図示した図である。以下では、区別のために、周方向外側と周方向内側の第2層の磁石孔322のうちの、周方向内側の第2層の磁石孔322に挿入される磁石片62を、周方向内側の磁石片62(図3等では磁石片62-1と表記)とも称し、周方向外側の第2層の磁石孔322に挿入される磁石片62を、周方向外側の磁石片62(図3等では磁石片62-2と表記)とも称する場合がある。
【0045】
本実施例では、図4に示すように、角部(図4のP3参照)とロータコア32の中心(図2の回転軸12参照)とを結んだ線分L20と、d軸とのなす鋭角側の角度γは、好ましくは、12°以上かつ20°以下の範囲内である。角度γに係る角部は、2つの磁石片62のうちの、周方向外側の磁石片62-2の角部であって、磁石片62-2の4つの角部のうちの、d軸側かつ径方向外側の角部を指す。
【0046】
本実施例では、図4に示すように、周方向内側の磁石片61に係る磁石角度(以下、「第1磁石角度α」とも称する)を、軸方向に視て、基準線L1と、磁石片61の延在方向L11とのなす角度と定義する。磁石片61の延在方向L11は、軸方向に視て、磁石片61における径方向外側向きの側面(主磁束方向の側面)619の延在方向に対応する。また、基準線L1は、軸方向に視て、磁石片61の延在方向とd軸との交点P1から、d軸に対して垂直な方向に伸ばした線分に対応する。そして、第1磁石角度αは、軸方向に視て、基準線L1よりも径方向内側を正側とする。
【0047】
また、本実施例では、周方向内側の磁石片62-1に係る磁石角度(以下、「第2磁石角度β」とも称する)を、軸方向に視て、基準線L2と、周方向内側の磁石片62-1の延在方向L12とのなす角度と定義する。磁石片62の延在方向L12は、軸方向に視て、磁石片62における径方向外側向きの側面(主磁束方向の側面)629の延在方向に対応する。また、基準線L2は、軸方向に視て、磁石片62の延在方向とd軸との交点P2から、d軸に対して垂直な方向に伸ばした線分に対応する。そして、第2磁石角度βは、軸方向に視て、基準線L2よりも径方向内側を正側とする。
【0048】
本実施例では、第1磁石角度α及び第2磁石角度βは、第1磁石角度α<第2磁石角度βの関係を有する。
【0049】
ところで、比較例として、第1磁石角度α=第2磁石角度βであり、かつ、第2磁石角度β>0である場合、「発明が解決しようとする課題」で上述したように、第1部位3211におけるq軸磁路がd軸付近の領域(図4のQ5部参照)で狭くなり、リラクタンストルクを効果的に利用できないという問題がある。このような不都合は、第2磁石角度βが比較的大きくなると顕著となりやすい。
【0050】
これに対して、本実施例によれば、第1磁石角度α<第2磁石角度βの関係を有することで、リラクタンストルクを効果的に利用できる。また、以下で図5以降を参照して説明するように、逆起電圧を有意に増加させることなく又は逆起電圧を低減しつつリラクタンストルクの向上を図ることができる。
【0051】
また、本実施例では、第1磁石角度α<第2磁石角度βの関係を有するので、例えば第2部位3212のd軸付近の領域(図4のQ6部参照)においてq軸磁路幅が狭くなりやすいものの、これによる弊害を実質的に無くすことができる。換言すると、Q4部で磁気飽和が生じる範囲内(すなわちQ6部で磁気飽和が生じない範囲)でLQ6を小さくすれば、LQ6を小さくした分だけLQ5を大きくしやすくなる。従って、第2部位3212におけるリラクタンストルクを低減することなく、第1部位3211におけるリラクタンストルクの向上を図ることができる。ここで、LQ4(第2距離の一例)は、軸方向に視て、磁石片61と、周方向外側の磁石片62-2との間の最短距離であり、図示の例では、磁石片61の径方向内側かつq軸側の角部と、磁石片62-2との間の最短距離である。また、LQ6(第1距離の一例)は、軸方向に視て、磁石片61の径方向内側の辺に沿った直線L44のd軸上の交点P4と、上述した交点P2との間の距離である。このとき、好ましくはLQ6<LQ4である。なお、LQ5は、軸方向に視て、交点P1とロータコア32の外周面との間の最短距離である。なお、図示の例では、LQ5<LQ6である。
【0052】
また、他の実施例では、図4に示すQ4部に代えて、図4に示すQ4部よりも径方向内側(d軸に近い側)のQ4A部で磁気飽和が生じる構成が利用されてもよい。この場合、例えば、磁石孔321と、磁石片62-2が配置される磁石孔322との間の距離であって磁石片62-2の角部(図4のP3参照)よりも径方向内側における距離が最小となる部分が、第2部位3212における磁気飽和が生じる部分に対応してよい。従って、この場合、上述したLQ4は、磁石孔321と、磁石片62-2が配置される磁石孔322との間の最小距離であって磁石片62-2の角部(図4のP3参照)よりも径方向内側における最小距離であってよい。なお、このような構成においては、磁石片62-2が配置される磁石孔322は、d軸に近い側の端部(すなわち第2中間ブリッジ部45側の端部)において、径方向外側へのオーバーハング部(図示せず)を有してよく、当該オーバーハング部が、LQ4に係る最小距離を形成してよい。この場合も、好ましくはLQ6<LQ4である。
【0053】
図5から図9は、解析結果に基づく本実施例の効果の説明図である。
【0054】
図5は、横軸に、第1磁石角度αと第2磁石角度βの差(=α-β)を取り、縦軸に、q軸インダクタンスLqとd軸インダクタンスLdの差(=Lq-Ld)を取ったときの、各プロットの分布を示す。なお、縦軸に沿っては、上に行くほど数値が大きくなる。図5において、β=10が対応付けられた形状のプロット点は、第2磁石角度β=10°であるときのプロット点であり、β=5が対応付けられた形状のプロット点は、第2磁石角度β=5°であるときのプロット点であり、β=0が対応付けられた形状のプロット点は、第2磁石角度β=0°であるときのプロット点である。
【0055】
q軸インダクタンスLqとd軸インダクタンスLdの差(=Lq-Ld)が大きいほど、リラクタンストルクが向上する。従って、図5からは、α-βが小さくなるほど、リラクタンストルクが向上することがわかる。
【0056】
この点、本実施例では、上述したように、第1磁石角度α<第2磁石角度βの関係を有するので、α-βが0よりも小さくなる。従って、本実施例によれば、同一の第2磁石角度βの下、第1磁石角度α<第2磁石角度βの関係を有さない場合に比べて、リラクタンストルクが向上することがわかる。
【0057】
また、第1磁石角度α<第2磁石角度βの関係において、その差(=α-β)は、好ましくは、-1°以下であり、より好ましくは-2°以下であり、更に好ましくは、-5°以下である。この場合、図5からわかるように、リラクタンストルクを効果的に高めることができる。
【0058】
ここで、第2磁石角度βが0°以下であると、d軸上での第2部位3212の幅が広くなり、第2部位3212の質量が大きくなる傾向がある。第2部位3212の質量が大きくなると、遠心力の関係で、モータ1の高回転化が阻害される傾向となる。従って、本実施例においては、好ましくは、第2磁石角度βが0°よりも大きい。これにより、モータ1の高回転化を図りつつ、リラクタンストルクを高めることができる。
【0059】
なお、第2磁石角度βが0°よりも大きい場合、第2層の磁石孔322(及びそれに伴い第2層の磁石孔322内の磁石片62)は、d軸を中心としたW字状の形態をなす。具体的には、第2層の磁石孔322は、d軸に近い側の部分(周方向内側の磁石片62-1が挿入される部分)が、d軸を中心として径方向外側への凸状の形態をなし、かつ、d軸から遠い側の部分(周方向外側の磁石片62-2が挿入される部分)が、d軸に近い側の部分との組み合わせで、径方向内側への凸状の形態をなす。
【0060】
図6は、横軸に、第1磁石角度αを取り、縦軸に、逆起電圧を取ったときの、各プロットの分布を示す。なお、縦軸に沿っては、上に行くほど数値が大きくなる。図6に示す各プロット点は、第2磁石角度β=10°の下で、第1磁石角度αを変化させたときの解析結果を示す。図6から、第1磁石角度αが9°以下である場合でも、逆起電圧が有意に増加しないことがわかる。
【0061】
図7は、横軸に、第1磁石角度αを取り、縦軸に、モータ1の最大トルクを取ったときの、各プロットの分布を示す。なお、縦軸に沿っては、上に行くほど数値が大きくなる。図7に示す各プロット点は、第2磁石角度β=10°の下で、第1磁石角度αを変化させたときの解析結果を示す。図7から、第1磁石角度αが9°よりも小さくなるほど、最大トルクが顕著に増加していくことがわかる。
【0062】
図8は、横軸に、第2磁石角度βを取り、縦軸に、逆起電圧を取ったときの、各プロットの分布を示す。なお、縦軸に沿っては、上に行くほど数値が大きくなる。図8に示す各プロット点は、第1磁石角度α=8°の下で、第2磁石角度βを変化させたときの解析結果を示す。図8から、第2磁石角度βが0°から遠ざかるほど逆起電圧が低下していくことがわかる。また、第2磁石角度βが9°を超える領域では、逆起電圧が顕著に低下していくこともわかる。
【0063】
図9は、横軸に、第2磁石角度βを取り、縦軸に、モータ1の最大トルクを取ったときの、各プロットの分布を示す。なお、縦軸に沿っては、上に行くほど数値が大きくなる。図9に示す各プロット点は、第1磁石角度α=8°の下で、第2磁石角度βを変化させたときの解析結果を示す。図9から、第2磁石角度β=10°付近で最大トルクがピーク値付近で飽和する傾向があることがわかる。
【0064】
ここで、図6において、第1磁石角度α<9°の範囲内(ハッチングにより強調)では、同範囲外よりも、逆起電圧が有意に増加していない。また、図8において、第2磁石角度β>9°の範囲内(ハッチングにより強調)では、同範囲外よりも、逆起電圧が顕著に減少する。従って、第1磁石角度α<9°、かつ、9°<第2磁石角度βとすることで、逆起電圧の低下を図ることができる。
【0065】
また、図7において、第1磁石角度α<9°の範囲内(ハッチングにより強調)では、同範囲外よりも、最大トルクが増加する。また、図9において、第2磁石角度β>9°の範囲内(ハッチングにより強調)では、最大トルクがピーク値付近で飽和する。従って、第1磁石角度α<9°、かつ、第2磁石角度β>9°とすることで、最大トルクの増加を図ることができる。
【0066】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0067】
例えば、上述した実施例では、磁石片61、62は、軸方向に視て、直線状の辺の略矩形の外形を有するが、磁石片61又は62は、湾曲形状を有してもよい。この場合、第1磁石角度α又は第2磁石角度βは、湾曲形状を直線近似して算出されてよい。また、この場合、軸方向に視て湾曲形状を有する磁石片61、62は、ボンド磁石の形態であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
30・・・ロータ(回転電機用ロータ)、32・・・ロータコア、3211・・・第1部位、3212・・・第2部位、3213・・・第3部位、321・・・第1層の磁石孔、322・・・第2層の磁石孔、61・・・磁石片(第1層の永久磁石、第1磁石片)、62・・・磁石片(第2層の永久磁石)、62-1・・・磁石片(第2磁石片)、62-2・・・磁石片(第3磁石片)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9