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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000114
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】波長変換装置及び照明装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20231225BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20231225BHJP
   F21V 9/32 20180101ALI20231225BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20231225BHJP
【FI】
G02B5/20
H01L33/50
F21V9/32
F21Y115:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098681
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前村 要介
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 涼介
(72)【発明者】
【氏名】村井 俊介
【テーマコード(参考)】
2H148
5F142
【Fターム(参考)】
2H148AA01
2H148AA07
5F142AA02
5F142AA14
5F142BA32
5F142CA11
5F142CD18
5F142CE16
5F142CG05
5F142CG24
5F142CG43
5F142DA02
5F142DA14
5F142DA73
5F142DB16
(57)【要約】
【課題】
ナノアンテナによる蛍光の狭角化を達成しつつ、光取出し効率を向上させることが可能な波長変換装置及び照明装置を提供する。
【解決手段】
励起光が入射される1の面を有し、励起光によって励起されて蛍光を発する蛍光体を含みかつ1の面と反対側の他の面において、各々が他の面に沿った1の方向において蛍光のピーク波長よりも小さい周期で設けられた複数の凸部からなる凹凸構造を有する蛍光体部材と、複数の凸部の上面に配されている金属部材からなる複数のナノアンテナと、を有することを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光が入射される1の面を有し、前記励起光によって励起されて蛍光を発する蛍光体を含みかつ前記1の面と反対側の他の面において、各々が前記他の面に沿った1の方向において前記蛍光のピーク波長よりも小さい周期で設けられた複数の凸部からなる凹凸構造を有する蛍光体部材と、
前記複数の凸部の上面に配されている金属部材からなる複数のナノアンテナと、
を有することを特徴とする波長変換装置。
【請求項2】
前記凹凸構造は、正方格子状又は三角格子状の配列パターンを形成しており、
前記複数のナノアンテナの各々は、前記複数の凸部の各々の上面にそれぞれ配されていることを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項3】
前記凹凸構造は、前記1の方向に配列された縞状のパターンを形成しており、
前記複数のナノアンテナは、前記複数の凸部の各々において前記複数の凸部の伸張方向に沿って複数配列されていることを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項4】
前記凹凸構造の凹部を埋め、前記蛍光体部材よりも小さい屈折率を有し、かつ前記励起光及び前記蛍光に対して透光性を有する透光性部材を有することを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項5】
前記蛍光体は、前記励起光によって励起されて520~570nmの前記ピーク波長を有する前記蛍光を発する性質を有し、
前記複数の凸部の各々は、120nm以下の高さを有することを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項6】
前記蛍光体部材は、単相の蛍光体プレートからなることを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項7】
前記複数のナノアンテナは、柱状、錐状又は錐台状を有していることを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項8】
前記複数のナノアンテナは、Al又はAgからなることを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項9】
請求項1に記載の波長変換装置と、
前記蛍光体部材の前記1の面に向けて前記励起光を出射する光源と、
を有することを特徴とする照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの金属粒子からなる金属アンテナ(以下、ナノアンテナと称する)を用いて光の狭角化をなす照明装置が開示されている。例えば、特許文献1には、透明基板と当該透明基板上に配された波長変換体と、当該波長変換体上に形成された複数のナノアンテナとを有する照明装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2014-508379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような照明装置において、波長変換体内の蛍光体が励起光によって励起されることで生じた蛍光のうち臨界角を超える成分は、波長変換体と空気との界面において全反射される。このとき、全反射した蛍光のうちの一部の蛍光は、外部に取り出されないまま波長変換体内で多重反射を繰り返した後にナノアンテナに吸収され、照明装置全体としての光取出し効率が小さくなってしまうという問題点が挙げられる。
【0005】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、ナノアンテナによる蛍光の狭角化を達成しつつ、光取出し効率を向上させることが可能な波長変換装置及び照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による波長変換装置は、励起光が入射される1の面を有し、前記励起光によって励起されて蛍光を発する蛍光体を含みかつ前記1の面と反対側の他の面において、各々が前記他の面に沿った1の方向において前記蛍光のピーク波長よりも小さい周期で設けられた複数の凸部からなる凹凸構造を有する蛍光体部材と、前記複数の凸部の上面に配されている金属部材からなる複数のナノアンテナと、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1に係る波長変換装置の上面図である。
図2】実施例1に係る波長変換装置の断面図である。
図3】実施例1に係る波長変換装置における入射角に対する透過強度を示すグラフである。
図4】実施例1に係る波長変換装置における凹部の深さに対する透過強度を示すグラフである。
図5】実施例1に係る波長変換装置における凹部の深さに対する透過強度を示すグラフである。
図6】実施例1に係る波長変換装置における入射角に対するエバネッセント光の染み出し長さ示すグラフである。
図7】実施例1の変形例に係る波長変換装置の上面図である。
図8】実施例2に係る波長変換装置の断面図である。
図9】実施例3に係る照明装置の断面図である。
図10】実施例3に係る波長変換装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施例について図面を参照して具体的に説明する。なお、図面において同一の構成要素については同一の符号を付け、重複する構成要素の説明は省略する。
【実施例0009】
図1及び図2を参照しつつ、実施例1に係る波長変換装置100の構成について説明する。図1は、実施例1に係る波長変換装置100の上面図である。また、図2は、図1に示した波長変換装置100の2-2線に沿った断面図である。
【0010】
[実装基板]
実装基板12は、上面形状が矩形を有し、絶縁性を有する平板状の基板である。実装基板12は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)やアルミナ(Al)等からなる。以降、説明の簡便化のために、実装基板12の上面に垂直な方向をZ軸、実装基板12の互いに垂直な2つの辺の夫々に沿った方向をX軸、Y軸としてXYZ軸を定義する。
【0011】
[発光素子]
発光素子13は、実装基板12の上面に実装されており、かつ上面形状が矩形の発光ダイオード(LED:Light Emission Diode)である。発光素子13は、発光層を有する半導体構造層14と、半導体構造層14の上面に配された支持基板15と、半導体構造層14の下面に配されかつ実装基板12に接合されたp電極16及びn電極17とを含んで構成されている。すなわち、発光素子13は、実装基板12にフリップチップ実装されている。
【0012】
半導体構造層14は、各々が窒化ガリウム(GaN)を主材料とするn型半導体層、発光層及びp型半導体層(いずれも図示せず)からなる半導体積層体である。発光素子13の駆動時には、半導体構造層14の発光層からピーク波長が450nmの青色光が出射される。
【0013】
支持基板15は、上面形状が矩形の平板状の基板である。支持基板15は、単結晶のサファイア(Al)等の、半導体構造層14から放出される青色光に対して透光性を有する材料からなる。支持基板15の上面は、発光素子13から青色光が出射される光出射面である。
【0014】
p電極16は、半導体構造層14のp型半導体層と電気的に接続されている電極である。p電極16は、実装基板12の上面に形成されているp側配線(図示せず)に導電性の接合部材(図示せず)を介して接合されている。
【0015】
n電極17は、半導体構造層14の発光層及びp型半導体層を上下方向に貫通しかつ側面が絶縁体で覆われた貫通電極(図示せず)を介して、n型半導体層と電気的に接続されている電極である。言い換えれば、n電極17は、n型半導体層にのみ電気的に接続され、発光層及びp型半導体層と絶縁されている。n電極17は、実装基板12の上面に形成されているn側配線(図示せず)に導電性の接合部材(図示せず)を介して接合されている。
【0016】
上述のように、発光素子13は、実装基板12を介してp電極16及びn電極17に電圧が印加されて半導体構造層14内に電流が流れることで生じる青色光を、支持基板15の上面から出射させる構造を有している。
【0017】
[蛍光体部材]
蛍光体部材18は、発光素子13の上面、すなわち支持基板15の上面に透光性の接合部材(図示せず)を介して接着されている、厚み50~250μmの上面形状が矩形の蛍光体プレートである。蛍光体部材18は、上面視において発光素子13の支持基板15と同一形状を有している。
【0018】
蛍光体部材18は、発光素子13から出射される青色光によって励起されて黄色蛍光を発する蛍光体からなる。具体的には、蛍光体部材18は、例えば、セリウム(Ce)を賦活剤としたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:Ce)蛍光体からなる単相の透明なセラミックス蛍光体プレートである。
【0019】
上記した蛍光体部材18に、発光素子13の光出射面から出射された励起光が入射すると、その一部はそのまま蛍光体部材18を透過し、一部は蛍光体を励起し当該励起された蛍光体から黄色蛍光が発せられる。蛍光体から生じる黄色蛍光は、520~570nmにピーク波長を有し、480nm~700nmに亘るブロードなピークからなる黄色発光スペクトルを有する。
【0020】
従って、蛍光体部材18の上面からは、蛍光の発生に寄与せずに蛍光体部材18を通過した励起光(青色光)と、蛍光体から放出された蛍光(黄色光)とが出射される。これにより、波長変換装置100からは、蛍光体部材18の上面から出射する青色光と黄色蛍光とが混じり合った白色光が取り出される。
【0021】
以後、図1に示すように、蛍光体部材18の図中X方向に伸長する1対の辺を辺18X、蛍光体部材18の図中Y方向に伸長する1対の辺を辺18Yとして説明を進める。
【0022】
蛍光体部材18の上面には、X方向及びY方向の夫々に沿って周期Pでマトリクス状に配列されており各々が円錐台状を有する凸部18Cと、当該凸部18Cの間に形成される正方格子状の凹部18Gと、を有する凹凸構造を有している。
【0023】
凹凸構造の凹部18Gは、縦横に複数列に配列された複数の溝を合わせた構造であって、凸部18Cの各々を個別に区画する格子状の構造を形成している。周期Pは、蛍光体部材18から放出される蛍光のピーク波長よりも小さい周期である。周期Pは、500nm以下であることが好ましい。
【0024】
[ナノアンテナ]
ナノアンテナ21は、各々が蛍光体部材18の凹凸構造における凸部18Cの各々の上面に形成されている円錐台状の複数の金属部材である。ナノアンテナ21の各々は、正方格子状に配列された凸部18Cの各々の上面に形成されているために、結果として凸部18Cと同様に上面視において、周期Pで正方格子状に配列されている。
【0025】
ナノアンテナ21の各々の下面は、蛍光体部材18の凸部18Cの各々の上面と同じ大きさを有している。言い換えれば、ナノアンテナ21の下面及び蛍光体部材18の凸部18Cの上面は、互いに同じ径Wを有しており、凸部18Cと凸部18Cの上面に形成されたナノアンテナ21とが合わさって全体として円錐台形状を呈している。
【0026】
ナノアンテナ21の各々は、凸部18Cの各々の上面において互いに同一の高さHを有している。また、ナノアンテナ21の各々は、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)、Pt(プラチナ)、Pd(パラジウム)、Al(アルミニウム)及びNi(ニッケル)等の可視光領域にプラズマ周波数を有する材料、並びにこれらを含む合金又は積層体から構成される。特に、ナノアンテナ21の各々は、アルミニウム(Al)や銀(Ag)等の可視光域で吸収の小さい金属から構成されるのが望ましい。
【0027】
なお、図1及び図2に示した蛍光体部材18の凹凸構造及びナノアンテナ21の配列態様は、凹凸構造及びナノアンテナ21を説明するために模式的に示したに過ぎない。実際、発光素子13は例えば1mm角であり、その場合、凸部18Cやナノアンテナ21は、図1及び図2に示しているものよりも多く形成されている。
【0028】
ここで、ナノアンテナ21において生ずる蛍光増大効果について説明する。
【0029】
蛍光体部材18の上面に臨界角以上の角度で蛍光が到達すると、当該上面で全反射される。この全反射が起きた際には、蛍光体部材18の上面から低屈折率媒質側へしみ出すエバネッセント波が生ずる。このエバネッセント波は、蛍光体部材18の上面に沿って、言い換えれば蛍光体部材18と空気と界面に沿って伝播する。
【0030】
この蛍光体部材18の上面に沿って伝播したエバネッセント波は、ナノアンテナ21に達すると、ナノアンテナ21の配置周期によって決まる回折条件に適合した方向に上記蛍光と同波長の可視光の形で放射される。この現象により、回折条件に適合した狭い角度範囲に蛍光が発せられ、蛍光体部材18の上面から出射される蛍光の狭角化が促される。
【0031】
また、蛍光体部材18から出射された蛍光がナノアンテナ21に照射されると、ナノアンテナ21の表面で局在表面プラズモン共鳴が生じ、ナノアンテナ21の近傍の電場の強度が増大する。そして、上述のような蛍光のピーク波長よりも小さい周期Pで配列されているナノアンテナ21群においては、個々のナノアンテナ21の表面の隣り合うナノアンテナ21に近い部分、言い換えれば隣り合うナノアンテナ21に面した部分で電場の強度がさらに増大される。
【0032】
この電場増強の結果による非常に局在化したプラズモン共鳴によって、ナノアンテナ21の近傍において蛍光は著しく増幅され、当該増幅された蛍光は狭角な配光特性(低エタンデュ)を有することとなる。すなわち、ナノアンテナ21は、蛍光体部材18から出射される蛍光を増強し、蛍光の出射方向を絞る機能を有する。
【0033】
[光反射部材]
光反射部材22は、発光素子13の半導体構造層14及び支持基板15と蛍光体部材18の各々の外側面を覆うように連続的に延在している光反射性を有する部材である。光反射部材22は、光散乱性の粒子を含有する透光性の樹脂から構成され、例えば、シリコーン樹脂に酸化チタン(TiO)粒子を含有させた樹脂材からなる。
【0034】
光反射部材22は、例えば発光素子13から出射されて外側面に達した励起光(青色光)を上方へと反射させる。また、光反射部材22は、例えば蛍光体部材18内に生じて外側面に達した蛍光を上方へと反射させる。
【0035】
上記したように、蛍光体部材18の上面に形成された複数の凹凸は、蛍光体部材18から放出される蛍光のピーク波長よりも小さい周期Pで配列されている。言い換えれば、蛍光体部材18は、上面において蛍光のピーク波長よりも小さい周期で設けられた複数の凸部からなる凹凸構造を有している。
【0036】
本実施例によれば、蛍光体部材18の表面の凹凸構造における周期Pが蛍光のピーク波長よりも小さいために、蛍光が凹凸構造に至った際に凹凸構造部分の高さ方向において媒質の屈折率が徐々に変化している、具体的には、上に行くほど屈折率が低くなり空気の屈折率に近づくように変化しているのと同様の振る舞いをする。
【0037】
そのため、蛍光体部材18の上面における蛍光体部材18と空気との界面に対する蛍光の臨界角は凹凸構造を備えない場合と比較して大きくなり、全反射が起こりにくくなる。よって、蛍光体部材18における蛍光の臨界角以上の成分を減らすことができ、蛍光体部材18と空気との界面において全反射される成分を減らすことができる。
【0038】
従って、本実施例によれば、蛍光体部材18の凸部18Cの各々の上面から取り出される蛍光の割合を増やすことができる。すなわち、ナノアンテナ21による蛍光の狭角化を達成しつつ、光取出し効率を向上させることができる。
【0039】
[蛍光体部材の作製方法]
以下に、凹凸構造を有しかつ当該凹凸構造の凸部18Cの上面に形成されたナノアンテナ21を有する蛍光体部材18の作製方法について説明する。
【0040】
まず、蛍光体部材18となる平板状の基材の上面に、ナノアンテナ21の基材となるAlまたはAgからなる金属膜を電子ビーム蒸着やスパッタリング成膜によって成膜する(ステップ1)。
【0041】
次に、ステップ1において成膜した金属膜にレジストを塗布し、ナノインプリント装置又はイオンビーム描画装置を用いて正方格子状の凹凸を形成するようにパターニングを施す(ステップ2)。
【0042】
次に、ステップ2においてパターニングした凹凸の凸部となる部分に塗布されているレジストをエッチングマスクとして、凹部となる部分のドライエッチングを実施する(ステップ3)。このとき、凹部の深さが深さDとなるまでエッチングを行うことにより、深さDの凹部18Gを有する凹凸構造が得られる。
【0043】
最後に、凸部となる部分のエッチングマスク(レジスト)をアッシングにより除去する(ステップ4)。これにより、上面に凹凸構造を有し、凹凸構造の凸部18Cの各々の上面に形成されたナノアンテナ21を有する蛍光体部材18を得ることができる。
【0044】
なお、上記したエッチングによって蛍光体部材18の凹凸構造及びナノアンテナ21を形成する際には、エッチングを行う対象に応じてエッチングガスの種類を適宜選択できる。例えば、Alからなるナノアンテナ21を形成する際には、塩素(Cl)ガス及びアルゴン(Ar)ガスを用いてエッチングを実施する。また、例えば、YAG:CEe蛍光体からなる蛍光体プレートに凹凸構造を形成する際には、六フッ化硫黄(SF)ガスや四フッ化メタン(CF)ガス等を用いてエッチングを実施する。
【0045】
[検証]
以下に、図3~6を用いて、本発明の波長変換装置100に対して行った検証及びその検証結果について説明する。本検証においては、主に蛍光体部材18の凹凸構造の凹部18Gの深さDについての検討を行った。
【0046】
本検証にて用いたモデルについて説明する。蛍光体部材18はYAG:Ce蛍光体単相の単結晶のセラミックスプレートであり、ナノアンテナ21はAlからなる。蛍光体部材18の凹凸構造は、上記した凹凸の周期Pが350nmであり、配置態様が正方格子配列である。ナノアンテナ21は、高さHが150nmであり、下面の径W(凸部18Cの上面の径)が200nmである。なお、蛍光体部材18からナノアンテナ21に入射される入射光の波長は550nm(黄色蛍光のピーク波長)としている。
【0047】
図3は、蛍光体部材18と空気との界面に対する蛍光の入射角を変化させた際に、ナノアンテナ21を介して(ナノアンテナ21の形成面を透過して)空気中に取り出される蛍光の強度を、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)法を用いて算出した結果を示すグラフである。
【0048】
図3においては、凹部18Gの深さDを、0nm(凹凸構造無し)、10nm、30nm、50nm、70nm及び100nmとした際の蛍光の透過強度を示している。また、図3においては、ナノアンテナと凹凸構造を備えない場合(深さDが0nmの場合)の蛍光体部材18と空気との界面で入射する臨界角を一点二鎖線で示している。本実施例において、当該臨界角は34度である。
【0049】
図3より、蛍光の入射角が20°~65°の範囲において、凹部18Gの深さDが10nm、30nm、50nm、70nm及び100nmであるときの透過強度は、凹部を設けていないとき(D=0nm)と比べて大きくなることがわかる。特に、蛍光の入射角が20°からナノアンテナと凹凸構造を備えない場合の臨界角(図中一点二鎖線)までの範囲においては、蛍光体部材18に凹部18Gが設けられている方が、凹部を設けていないときと比べて透過強度が大きくなることが顕著に表れている。
【0050】
また、蛍光の入射角が20°~65°の範囲においては、凹部18Gの深さDが大きくなるほど透過強度が大きくなることがわかる。このように、蛍光体部材18に深さDを有する凹部18Gからなる複数の凹凸を設けることにより、蛍光の入射角の広い範囲において高い光取出し効率を得ることができる。
【0051】
図4は、凹部18Gの深さDを変化させた際の透過強度を、RCWA法を用いて算出した結果を示すグラフである。図4においては、蛍光の入射角を、全ての角度範囲としたときと、ナノアンテナと凹凸構造を備えない場合の臨界角未満までとしたときと、ナノアンテナと凹凸構造を備えない場合の臨界角以上としたときとに分けて、それぞれの透過強度を算出した。図4においては、凹部18Gを設けていないときの透過強度を1.0として示している。
【0052】
図4より、凹部18Gの深さDが10~100nmまでの範囲においては、蛍光の入射角がいずれの範囲においても、凹部18Gを設けていないときと比べて透過強度が10~20%程度増加している。
【0053】
また、ナノアンテナと凹凸構造を備えない場合の臨界角以上における蛍光の透過強度は、凹部18Gの深さDが120nmを超えると、凹部18Gを設けていないときよりも低くなっている。すなわち、蛍光のナノアンテナと凹凸構造を備えない場合の臨界角以上の範囲における透過強度を、凹部18Gを設けていないときよりも高く保つためには、凹部18Gの深さDを120nm以下とするのが好ましいことがわかる。
【0054】
図5は、凹部18Gの深さDを変化させた際の蛍光の入射角が全ての角度範囲での透過強度を、RCWA法を用いて算出した結果を示すグラフである。図5においては、波長変換装置100と比較対象としてナノアンテナを設けていない構成の波長変換装置とを用いて、ナノアンテナの有無における透過強度の変化を検証した。図5においては、ナノアンテナ有り/無しのモデルのそれぞれにおいて凹部18Gを設けていないときの透過強度を1.0として示している。
【0055】
図5より、「ナノアンテナなし」の場合における透過強度は、凹部18Gの深さDが大きくなるほど増加している。すなわち、凹凸構造を有する蛍光体部材18から出射される蛍光の透過強度を増加させるためには、凹部18Gの深さDを大きくすることが好ましい。
【0056】
しかしながら、上述したように、凸部18Cの上面にナノアンテナ21を形成した(ナノアンテナあり)場合には、凹部18Gの深さDが120nmを超えると蛍光の入射角がナノアンテナと凹凸構造を備えない場合の臨界角以上の範囲における透過強度が凹凸構造を設けない場合と比べて低下する。
【0057】
そのため、ナノアンテナと凹凸構造を備えない場合の臨界角以上の入射角の蛍光を利用しつつ蛍光体部材18からの光取出し効率を向上させるためには、凹部18Gの深さDを120nm以下とするのが好ましい。
【0058】
図6は、蛍光の入射角を変化させた際に、蛍光体部材18の上面から染み出すエバネッセント波が最大強度から所定の強度となるときの染み出し長さを示すグラフである。
【0059】
図6においては、蛍光体部材の表面で生じたエバネッセント波が最大強度から1/eの強度になるまでの染み出し長さを蛍光の波長(500nm、550nm、600nm、650nm)ごとに示している。エバネッセント波の染み出し長さdは、以下の式によって求められる。
【0060】
【数1】
【0061】
ここで、波長λは蛍光の波長であり、屈折率nは蛍光体部材18の屈折率であり、屈折率nは空気の屈折率である。また、入射角θは、蛍光体部材18と空気中との界面に対する蛍光の入射角度である。
【0062】
図6より、蛍光の入射角が40°までの範囲においては、入射角に対する染み出し長さdの変化が大きく、蛍光の入射角が40~89°までの範囲においては、入射角に対する染み出し長さdの変化が小さくなっている。
【0063】
例えば、蛍光の波長が550nmであるとき、150nmの染み出し長さdを有するエバネッセント波を得るためには、蛍光の入射角θが40°よりも小さい成分の蛍光が必要となる。言い換えれば、蛍光の入射角θが40°を超える場合には、150nmの染み出し長さdを有するエバネッセント波は得られにくくなる。
【0064】
すなわち、凹部18Gの深さDを深くするほど、当該深さに応じた染み出し長さdを有するエバネッセント波が必要となるため、当該染み出し長さdを満たす蛍光の入射角の範囲が限られてしまう。
【0065】
そのため、図5においては、凹部18Gの深さDが深くなるとエバネッセント波の染み出しがナノアンテナ21まで届きにくくなり、電場増強が起こりにくくなったために、蛍光の透過強度が低下していると考えられる。
【0066】
従って、図3~6に示した結果より、広い角度範囲の蛍光の入射角を利用しつつ、光取出し効率を向上させるためには、蛍光体部材18の凹凸構造の凹部18Gの深さDを120nm以下とするのが好ましい。言い換えれば、凹部18Gの底面からの凸部18Cの高さは、120nm以下であることが好ましい。
【0067】
[変形例]
以下に、図7を用いて実施例1に係る波長変換装置100の変形例について説明する。図7は、変形例に係る波長変換装置110の上面図である。変形例に係る波長変換装置110は、蛍光体部材18の凹凸構造の形成態様が実施例1と異なっており、それ以外の点、例えば発光素子13の構成やナノアンテナ21の配置周期等は実施例1と同様である。
【0068】
本変形例において、蛍光体部材18は、上面視において一方の辺18Xから他方の18Xにかけて辺18Yに沿った方向に伸張する複数の凹凸からなる凹凸構造を有している。すなわち、蛍光体部材18の凹凸構造は、凸部18Cと凹部18Gとが辺18Yに沿った方向に複数配列されることで縞状のパターンを形成している。
【0069】
本変形例において、ナノアンテナ21の各々は、凸部18Cの各々の上面において、凸部18Cの伸張方向に沿って互いに同一の周期Pで配列されている。すなわち、本変形例において、ナノアンテナ21の各々の形成領域以外の領域においては、凸部18Cの上面が露出している。
【0070】
このような構成を有する波長変換装置110においても、実施例1と同様の効果を発揮させることができる。すなわち、蛍光体部材18における蛍光の臨界角以上の成分を減らすことができ、蛍光体部材18と空気との界面において全反射される成分を減らすことができる。
【0071】
よって、蛍光体部材18から取り出される蛍光の割合を増加させることができる。従って、ナノアンテナ21による蛍光の狭角化を達成しつつ、光取出し効率を向上させることができる。
【実施例0072】
次に、図8を用いて実施例2について説明する。図8は、実施例2に係る波長変換装置200の断面図である。波長変換装置200は、透光性部材24を備える点で実施例1と異なっており、それ以外の点、例えば発光素子13の構成や蛍光体部材18の凹凸構造の形成態様等は実施例1と同様である。
【0073】
透光性部材24は、図8に示すように、蛍光体部材18の凹凸構造の凸部18Cの上面と略均一な高さまで凹部18Gに充填されている部材である。言い換えれば、透光性部材24は、凹凸構造の凸部18Cの各々の上面を露出させるように凹部18Gを埋めている。
【0074】
透光性部材24は、上記した発光素子13からの出射光(青色光)及び蛍光体部材18に生じる蛍光(黄色光)に対して透光性を有し、かつ蛍光体部材18よりも小さい屈折率を有している材料からなる。透光性部材24は、例えば、二酸化ケイ素(SiO(屈折率n=1.46))やAl(屈折率n=1.63)からなる。
【0075】
本実施例によれば、蛍光体部材18の凹部18Gに蛍光体部材18よりも屈折率が小さい透光性部材24が充填されていることにより、蛍光が凹凸構造に至った際の屈折率の変化の振る舞いがより緩やかになる。
【0076】
すなわち、蛍光体部材18の凹部18Gに透光性部材24を充填することによって、蛍光体部材18の上面における蛍光体部材18と空気との界面に対する蛍光の臨界角が実施例1よりも大きくなり、全反射がより起こりにくくなる。よって、蛍光体部材18における蛍光の臨界角以上の成分を実施例1よりも減らすことができ、蛍光体部材18と空気との界面において全反射される成分を減らすことができる。
【0077】
従って、本実施例によれば、蛍光体部材18の凸部18Cの各々の上面から取り出される蛍光の割合を増やすことができる。すなわち、ナノアンテナ21による蛍光の狭角化を達成しつつ、光取出し効率を向上させることができる。
【0078】
なお、透光性部材24は、凹部18Gにおいて、ナノアンテナ21に直接接しない高さまで充填されていることが好ましい。これは、透光性部材24がナノアンテナ21に接してしまうと、ナノアンテナ21によるエバネッセント波に対する感受性が低下し、蛍光を増強させる作用が低下してしまうためである。そのため、透光性部材24は、例えば、凹部18Gにおいて凸部18Cの上面よりも所定の高さだけ低く充填されていることが好ましい。
【0079】
[蛍光体部材の製造方法]
ここで、実施例2に係る透光性部材24が形成された蛍光体部材18の製造方法について説明する。なお、蛍光体部材に対してエッチングにより凹部を形成する工程(ステップ3)までは実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0080】
まず、実施例1と同様にパターニングによって形成した蛍光体部材の凹凸構造に対して、電子ビーム蒸着やスパッタリング成膜により、SiOやAlからなる透明誘電体膜を成膜する(ステップ4A)。これにより、蛍光体部材の上面に亘って透光性部材が形成される。
【0081】
次に、凸部18Cの各々のエッチングマスク(レジスト)上に成膜されている透光性部材をエッチングマスクごとリフトオフして取り除く(ステップ5)。これにより、凹部18Gに透光性部材24が充填された蛍光体部材18を得ることができる。
【0082】
なお、上記した凹部18Gに透光性部材24が充填されている構成は、上記した変形例の構成に適用してもよい。すなわち、縞状にパターン形成された複数の凹部18Gの1つ1つに透光性部材24が充填されている構成としてもよい。
【実施例0083】
次に、図9及び図10を用いて実施例3について説明する。図9は、実施例3に係る照明装置300の構成を模式的に示す断面図である。図10は、波長変換装置310の断面図である。なお、図9においては視認性に鑑みてハッチングを省略している。
【0084】
筐体26は、箱形の筐体であり、互いに対向する2つの面の各々にそれぞれ開口部OP1及びOP2を有している。筐体26は、開口部OP1と開口部OP2との間の位置において、物体を支持する支持構造26Aを有している。支持構造26Aは、その中心において支持構造26Aを貫通する貫通孔26AOを有している。
【0085】
光源27は、開口部OP1内に固定され、開口部OP2に向けて所定の波長を有する光L1を出射する光源である。開口部OP1、貫通孔26AO及び開口部OP2は光軸OA上に形成されている。
【0086】
本実施例において、光源27は、InGaN系半導体からなる発光層を有するレーザ光源である。光源27からは、光L1として約450nmのピーク波長を有する青色光が出射される。
【0087】
波長変換装置310は、光軸OA上に位置するように支持構造26Aによって支持されている。具体的には、波長変換装置310は、光軸OAが通る底面の中央部が支持構造26Aの貫通孔26AOから露出するように支持構造26Aの上面に配されている。言い換えれば、波長変換装置310は、波長変換装置310の底面の中央を除く領域が支持構造26Aによって支持されている。
【0088】
波長変換装置310は、図10に示すように、図2に示した蛍光体部材18及び蛍光体部材18の凸部18Cの各々の上面に形成されたナノアンテナ21と、蛍光体部材18の側面に形成された光反射部材22とを有している。言い換えれば、波長変換装置310は、実施例1における波長変換装置100の構成から実装基板12及び発光素子13を除いた構成を有している。
【0089】
波長変換装置310は、実施例1と同様に、450nmをピーク波長とする励起光(青色光)によって励起されて550nmをピーク波長とする蛍光(黄色光)を発する。従って、波長変換装置310からは、蛍光の発生に寄与せずに蛍光体部材18を通過した励起光(青色光)と、蛍光体から放出された蛍光(黄色光)とが出射される。図9においては、波長変換装置310から出射される励起光と蛍光とを併せて光L2として示している。
【0090】
なお、波長変換装置310と支持構造26Aの間に、熱伝導率の高い、例えば単結晶サファイアからなる透明支持基板を設けてもよい。当該透明支持基板を設けることにより、波長変換装置310で発生した熱を効率よく支持構造26Aに伝えることができる。
【0091】
また、光源27と波長変換装置310の光L1の入射面との間に、レーザ光を集光するレンズを設けてもよい。当該レンズを設けることにより、レーザ光を集光することで、効率よく波長変換装置310にレーザ光を照射することができる。
【0092】
レンズ28は、開口部OP2内に固定されている光学部材である。すなわち、レンズ28は、光軸OA上に配されている。レンズ28は、波長変換装置310から出射される光L2を受けて、当該光L2を所望の配光に成形し、照明光としての光L3を生成する光学レンズである。レンズ28には、例えば、球面レンズや非球面レンズなどを用いることができる。レンズ28によって生成される光L3は、筐体26の外部に取り出される。
【0093】
本実施例において、筐体26内における光源27と波長変換装置310との間の空間及び波長変換装置310とレンズ28との間の空間は大気で満たされている。すなわち、波長変換装置310から出射される光L2は、大気中を通ってレンズ28に入射される。
【0094】
上記したような構成を有する照明装置300においても、実施例1と同様の効果を発揮させることができる。すなわち、蛍光体部材18における蛍光の臨界角以上の成分を減らすことができ、蛍光体部材18と空気との界面において全反射される成分を減らすことができる。
【0095】
よって、蛍光体部材18から取り出される蛍光の割合を増加させることができる。従って、ナノアンテナ21による蛍光の狭角化を達成しつつ、光取出し効率を向上させることができる。
【0096】
なお、上記した実施例及び変形例においては、蛍光体部材18が単結晶のYAG:Ce蛍光体プレートからなる場合について説明したが、当該蛍光体部材18はその内部で光散乱が生じにくい構成であればよく、その構成はこれに限られない。散乱の生じにくい構成として、単一材料からなる単相の蛍光体プレートであることが好ましく、この場合において、多結晶であってもよい。例えば、黄色蛍光を発する蛍光体粒子を含有する樹脂又はガラスを媒体としたプレートであってもよい。
【0097】
また、上記した実施例及び変形例においては、蛍光体部材18の凹凸構造の凸部18Cの各々が蛍光体部材18の上面において正方格子状に配列されている場合について説明したが、これに限られない。例えば、凸部18Cの各々は、蛍光体部材18の上面において三角格子状の配列パターンを有していてもよい。
【0098】
上記した実施例及び変形例においては、ナノアンテナ21が円錐台状を有する場合について説明したが、ナノアンテナ21が蛍光の狭角化作用を発揮可能であればよく、形状はこれに限られない。例えば、ナノアンテナ21は、円柱等の柱形状や円錐等の錐形状を有していてもよい。
【0099】
上記した実施例及び変形例においては、光反射部材22が設けられる場合について説明したが、求められる配光によっては光反射部材22を設けなくてもよい。なお、求められる配光によっては光反射部材22の代わりに光学多層反射膜や金属反射膜を用いてもよく、また、これらを組み合わせたものを発光素子13及び蛍光体部材18の側面に設けてもよい。
【符号の説明】
【0100】
100、110、200、310 波長変換装置
300 照明装置
12 実装基板
13 発光素子
14 半導体構造層
15 支持基板
16 p電極
17 n電極
18 蛍光体部材
21 ナノアンテナ
22 光反射部材
24 透光性部材
26 筐体
27 光源(レーザ光源)
28 レンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10