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特開2024-114005高純度炭化ケイ素の製造方法及び炭化ケイ素の高純度化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114005
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】高純度炭化ケイ素の製造方法及び炭化ケイ素の高純度化方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/984 20170101AFI20240816BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C01B32/984
C01B33/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019345
(22)【出願日】2023-02-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発、CO2有効利用拠点における技術開発、研究開発拠点におけるCO2有効利用技術開発・実証事業/CO2を炭素源とした産廃由来炭化ケイ素合成の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】福島 潤
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 博胤
【テーマコード(参考)】
4G072
4G146
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072HH01
4G072JJ12
4G072LL04
4G072UU30
4G146MA14
4G146NA02
4G146NA06
4G146NB11
4G146PA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】炭化ケイ素と二酸化ケイ素とケイ素とを含む固形混合物から、二酸化ケイ素とケイ素を選択的に、高効率に除去し、炭化ケイ素を高純度化する技術を提供する。
【解決手段】炭化ケイ素、二酸化ケイ素、及びケイ素を含む固形混合物を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して該水酸化ナトリウム水溶液中に前記二酸化ケイ素と前記ケイ素とを選択的に溶解させることにより、所望の高純度炭化ケイ素の固形物を得ることを含む、高純度炭化ケイ素の製造方法ないし高純度化方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素と二酸化炭素とを発熱反応を介して反応させることにより、反応生成物である炭化ケイ素及び二酸化ケイ素と、未反応のケイ素とを含む固形混合物を得て、この固形混合物を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して該水酸化ナトリウム水溶液中に前記二酸化ケイ素と前記ケイ素とを選択的に溶解させることにより、高純度炭化ケイ素の固形物を得ることを含む、高純度炭化ケイ素の製造方法。
【請求項2】
前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度を5.0N以上とする、請求項1に記載の高純度炭化ケイ素の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄温度を90℃以上かつ前記水酸化ナトリウム水溶液の沸点未満とする、請求項2に記載の高純度炭化ケイ素の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄時間を30分以上とする、請求項3に記載の高純度炭化ケイ素の製造方法。
【請求項5】
前記高純度炭化ケイ素の純度が99.00%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の高純度炭化ケイ素の製造方法。
【請求項6】
炭化ケイ素と、前記炭化ケイ素よりも多量の二酸化ケイ素と、前記炭化ケイ素よりも少量のケイ素とを含む固形混合物を、濃度が5.0N以上の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、90℃以上かつ前記水酸化ナトリウム水溶液の沸点未満の温度で洗浄して該水酸化ナトリウム水溶液中に前記二酸化ケイ素と前記ケイ素とを選択的に溶解させることにより、純度99.00%以上の高純度炭化ケイ素の固形物を得ることを含む、炭化ケイ素の高純度化方法。
【請求項7】
前記洗浄時間を30分以上とする、請求項6に記載の炭化ケイ素の高純度化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度炭化ケイ素の製造方法及び炭化ケイ素の高純度化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な地球環境、社会を実現するために、脱炭素社会の実現への取り組みが国際的に加速している。例えば、石炭、石油及び天然ガスなどの化石燃料をエネルギー源とする火力発電では大量の二酸化炭素が排出される。二酸化炭素は温室効果ガスの大半を占め、地球温暖化の主な原因とされており、その排出量を削減するための技術開発が進められている。
二酸化炭素を資源として利用することにより、大気中への排出量を削減する取り組みとして、例えば、「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」が挙げられる。「CCUS」では、二酸化炭素の利用先として、化学品、燃料及び鉱物などが挙げられている。
【0003】
また、持続可能な社会の実現のためには、資源を有効利用したり、廃棄物の削減や再利用を促進したりすることも重要である。例えば、社会のデジタル化が急激に進展している状況下、デジタルインフラの整備等に伴い半導体市場が活況である。半導体製品の基盤材料であるシリコンウェハー(半導体シリコン)の製造では、年間約9万トンに上る大量のシリコンスラッジが発生していると言われており、このシリコンスラッジを有効に利用するための研究開発が行われている。例えば、非特許文献1には、活性炭を炭素源として、シリコンの切り屑(シリコンスラッジ)から、炭化ケイ素を得る技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Powder Technology,2017年12月,第322巻,p.290-295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二酸化炭素を炭素源として化学反応に有効利用することが広く検討されている。例えば、二酸化炭素を固形状の化合物の原料として用いることができれば、二酸化炭素を大きく減容化できる利点がある。このような技術の一環として、例えば、二酸化炭素を原料として鉱物を合成し、ファインセラミックス等として利用することが考えられる。しかし現状では、二酸化炭素の鉱物化の技術として、二酸化炭素を酸化カルシウムと反応させて炭酸カルシウムを得ることが提案されている程度である。
【0006】
本発明は一側面において、二酸化炭素を、低エネルギーコストで固形炭化物である炭化ケイ素として資源化する方法に関連するものである。また、本発明は別の側面において、炭化ケイ素と二酸化ケイ素とケイ素とを含む固形混合物から、二酸化ケイ素とケイ素を選択的に、高効率に除去し、炭化ケイ素を高純度化することを可能とする技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、二酸化炭素とケイ素とを接触させて加熱すると、吸熱反応ではなく発熱反応が生じ、反応生成物として炭化ケイ素が得られること、すなわち、二酸化炭素を炭素源として、発熱反応により、固形炭化物である炭化ケイ素が生成することを見出した。
さらに本発明者らは、この発熱反応後の固形物が、炭化ケイ素に加え、副生物として多量の二酸化ケイ素が混在し、未反応のケイ素も残留した固形混合物であること、この固形混合物を、水酸化ナトリウム水溶液を用いて洗浄することにより、二酸化ケイ素とケイ素を選択的に、高効率に溶解・除去することができ、所望の高純度の二酸化ケイ素の固形物が得られることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づきさらに検討を重ねて完成させるに至ったものである。
【0008】
本発明の課題は以下の手段によって解決された。
〔1〕
ケイ素と二酸化炭素とを発熱反応を介して反応させることにより、反応生成物である炭化ケイ素及び二酸化ケイ素と、未反応のケイ素とを含む固形混合物を得て、この固形混合物を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して該水酸化ナトリウム水溶液中に前記二酸化ケイ素と前記ケイ素とを選択的に溶解させることにより、高純度炭化ケイ素の固形物を得ることを含む、高純度炭化ケイ素の製造方法。
〔2〕
前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度を5.0N以上とする、〔1〕に記載の高純度炭化ケイ素の製造方法。
〔3〕
前記洗浄温度を90℃以上かつ前記水酸化ナトリウム水溶液の沸点未満とする、〔1〕又は〔2〕に記載の高純度炭化ケイ素の製造方法。
〔4〕
前記洗浄時間を30分以上とする、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の高純度炭化ケイ素の製造方法。
〔5〕
前記高純度炭化ケイ素の純度が99.00%以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の高純度炭化ケイ素の製造方法。
〔6〕
炭化ケイ素と、前記炭化ケイ素よりも多量の二酸化ケイ素と、前記炭化ケイ素よりも少量のケイ素とを含む固形混合物を、濃度が5.0N以上の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、90℃以上かつ前記水酸化ナトリウム水溶液の沸点未満の温度で洗浄して該水酸化ナトリウム水溶液中に前記二酸化ケイ素と前記ケイ素とを選択的に溶解させることにより、純度99.00%以上の高純度炭化ケイ素の固形物を得ることを含む、炭化ケイ素の高純度化方法。
〔7〕
前記洗浄時間を30分以上とする、〔6〕に記載の炭化ケイ素の高純度化方法。
【0009】
本発明及び本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。なお、本明細書において、成分の含有量、物性等について数値範囲を段階的に複数設定して説明する場合、数値範囲を形成する上限値及び下限値は、適宜に組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高純度炭化ケイ素の製造方法によれば、ケイ素と二酸化炭素との発熱反応により得られる、炭化ケイ素と二酸化ケイ素と未反応のケイ素を含む固形混合物から、二酸化ケイ素とケイ素を選択的に除去して所望の高純度の炭化ケイ素を得ることができる。
また、本発明の炭化ケイ素の高純度化方法によれば、炭化ケイ素と、炭化ケイ素よりも多量の二酸化ケイ素と、炭化ケイ素よりも少量のケイ素とを含む固形混合物から、二酸化ケイ素とケイ素を選択的に除去して所望の高純度の炭化ケイ素を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[高純度炭化ケイ素の製造方法]
本発明の高純度炭化ケイ素の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」と称する。)は、ケイ素と二酸化炭素とを、発熱反応を介して反応させることにより、反応生成物である炭化ケイ素及び二酸化ケイ素と、未反応のケイ素とを含む固形混合物(以下、「反応混合物」ともいう)を得ることを含む。すなわち、本発明の製造方法は、上記発熱反応によって、二酸化炭素の炭素とケイ素とを結合させ炭化ケイ素を生じ、同時に、二酸化炭素の酸素とケイ素とを結合させ二酸化ケイ素を生じることを含む。ケイ素と二酸化炭素とを接触させて加熱した場合に発熱反応が生じることはこれまで知られておらず、本発明の製造方法は、この発熱反応を構成要件とする点に第一次的な特徴がある。この特徴を基礎として、本発明の製造方法は、上記反応混合物を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、この水酸化ナトリウム水溶液中に二酸化ケイ素とケイ素とを選択的に溶解させることを含む。これにより、反応混合物中から二酸化ケイ素とケイ素を選択的に除去することができ、所望の高純度の炭化ケイ素の固形物を得ることができる。
【0012】
本発明の方法において「発熱反応」との用語は、自発的に燃焼が伝播し合成反応が進む燃焼合成反応も含む意味で用いている。
【0013】
<ケイ素と二酸化炭素との発熱反応>
「ケイ素と二酸化炭素とを発熱反応を介して反応させることにより、反応生成物である炭化ケイ素及び二酸化ケイ素と、未反応のケイ素とを含む固形混合物を得る」工程について説明する。なお、未反応のケイ素は反応生成物中に残留しないことが理想的であるが、現実には、一定量の未反応ケイ素が反応生成物中に残留する。
【0014】
本発明の製造方法では、後述する洗浄工程に付す固形混合物が、ケイ素と二酸化炭素との発熱反応により生じる反応混合物である。この発熱反応では、ケイ素と二酸化炭素とを共存させて、通常は加熱することにより発熱反応を生じさせる。本発明の製造方法は上記発熱反応を利用する点に特徴があり、これにより、外部から供給するエネルギーを抑えることができ、エネルギーコストを低減できる。この発熱反応の反応機構を以下に検討する。
【0015】
ケイ素と二酸化炭素の反応を反応式で表すと、次の反応式(1)を想起することができる。

Si + CO → SiC+O (1)

しかし、上記反応式(1)は、ギブスの自由エネルギーの変化(ΔG(kJ/mol))が、1気圧下、0~2500K(0~2500℃)の範囲内で300を越えるものである。つまり、この反応は吸熱反応であり、発熱反応にはなり得ない。
しかし、ケイ素と二酸化炭素との反応を、発熱反応を介して行えることは、後述する実施例において実験事実として示されている。また、この反応において炭化ケイ素(SiC)の他に、二酸化ケイ素(SiO)が相当程度生成していることを確認している。そうすると、ケイ素(Si)と二酸化炭素(CO)の反応は、例えば、下記反応式(2)~(4)で進行することが推定され、本発明の方法では、下記反応式(2)及び/又は(3)でSiCが得られると考えられる。

2Si + CO → SiO+SiC (2)

3Si + 2CO → 2SiC + SiO + O (3)

Si + CO → SiO + C (4)

上記反応式(2)は、ΔGが、1気圧下、0~2500Kの範囲内で0未満である。また、上記反応式(3)は、ΔGが、1気圧下、0~1200K程度では0未満である。すなわち、反応式(2)及び(3)は高温域でも発熱反応である。また、上記反応式(4)も、ΔGが、1気圧下、0~2500Kの範囲内で0未満である。
【0016】
なお、上記反応式において、SiCは、α-SiCであってもよく、β-SiCであってもよい。通常は、500~1500℃程度の熱によって発熱反応を行うとβ-SiCが生成するが、このβ-SiCを、2000℃を越える温度で加熱することにより、α-SiCへ相転移させることができる。
【0017】
本発明の製造方法において、発熱反応に供するケイ素は粉末状であることが好ましい。ケイ素粉末の粒径は小さい方が、目的の炭化ケイ素の収率をより高めることができる。この観点で、ケイ素の粒径を0.2~4.0μmとすることが好ましく、0.3~3.0μmとすることがより好ましく、0.3~2.0μmとすることがさらに好ましく、0.4~1.5μmとすることが特に好ましい。本発明において「粒径」はメジアン径(d50)を意味する。メジアン径は、レーザー回折・散乱法により粒度分布を測定し、累積分布において粒子の全体積を100%としたときに50%累積となるときの粒径を意味する。
上記の所望の微細粒子からなるケイ素は、乳鉢・乳棒、ボールミル、クラッシュミル、及びハンマーミル等の粉砕処理により調製することができる。
ケイ素粉末として、シリコンスラッジ又はシリコンスラッジの粉砕物を用いることも好ましい。
【0018】
本発明の製造方法では、二酸化炭素は発生源(排出元)に制限されることなく用いることができる。例えば、空気中の二酸化炭素を、必要により濃縮して使用することができる。また、火力発電所、セメントプラント及び製鉄所高炉等から排出される二酸化炭素を用いることもできる。また、ごみ焼却施設、輸送機、化学品製造、パルプ製造、紙製造、紙加工品製造、食品飲料製造及び機械製造等の各種製造プラントから発生する二酸化炭素を用いてもよい。
【0019】
また、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記発熱反応の反応系には二酸化炭素以外かつケイ素以外の原子、分子ないし化合物を含んでいてもよく、このような原子、分子ないし化合物として、例えば、窒素、希ガス、メタン、エチレン、酸素、一酸化炭素、炭素及び有機物が挙げられる。
上記反応系において、二酸化炭素以外の原料に占めるケイ素の割合は、合計で、例えば、50質量%以上であり、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0020】
なお、本発明の製造方法において、発熱反応の温度上昇を制御するため、希釈剤と混合して二酸化炭素と発熱反応させてもよい。このような希釈剤として、例えば、酸化物、窒化物、炭化物及び複酸化物が挙げられる。希釈剤の使用量はとくに制限されず、例えば、炭化物形成原料100質量部に対して、90質量部以下で用いることができ、80質量部以下が好ましく、75質量部以下がより好ましい。
【0021】
本発明の製造方法では、ケイ素と二酸化炭素とを発熱反応を介して反応させる。通常は、反応容器内にケイ素と二酸化炭素とを導入して加熱し、発熱反応を生じさせる。
【0022】
上記反応容器は耐熱性であることが好ましく、例えば、石英製、セラミックス製又は金属製の反応容器が好ましい。
【0023】
ケイ素と二酸化炭素とを接触させる方法は特に制限されず、例えば、反応容器中のガスを、二酸化炭素を含むガスとしたり、反応容器中に二酸化炭素を流通させたりする方法が挙げられる。
反応容器には二酸化炭素に加え、二酸化炭素以外のガスを導入してもよく、このようなガスとして例えば、窒素ガス、希ガス、一酸化炭素ガス及び酸素ガスが挙げられる。
反応容器に導入するガス中の二酸化炭素の割合は特に制限されず、低濃度の二酸化炭素でも目的の反応を進めることが可能である。また、反応を繰り返したり、二酸化炭素を流通形式で循環供給したりすれば、低濃度の二酸化炭素でも得られる炭化ケイ素の収率を挙げることが可能である。反応効率をより高める観点からは、反応容器に導入するガス中の二酸化炭素の割合は、例えば、1体積%以上が好ましく、5体積%以上とすることも好ましく、10体積%以上とすることも好ましい。
また、ケイ素のモル量に対して、二酸化炭素のモル量を過剰にして反応を行うことも好ましい。
【0024】
反応系を加熱する場合の加熱温度は、発熱反応が生じれば特に制限されない。例えば、30℃以上とすることができ、50℃以上とすることがより好ましく、100℃以上とすることがさらに好ましく、300℃以上とすることがさらに好ましく、500℃以上とすることがさらに好ましく、800℃以上とすることがさらに好ましく、1000℃以上とすることがさらに好ましく、1100℃以上がさらに好ましく、1150℃以上がさらに好ましい。また、上記加熱温度は、例えば、2500℃以下とすることができ、2400℃以下とすることもでき、2300℃以下とすることもでき、2200℃以下とすることもできる。したがって、反応系の加熱温度は、30~2500℃とすることができ、300~2400℃が好ましく、500~2300℃がより好ましく、800~2200℃がさらに好ましく、1000~2200℃がさらに好ましく、1100~2200℃がさらに好ましく、1150~2200℃が特に好ましい。
【0025】
加熱時間は、発熱反応が開始する限り特に制限されない。発熱反応開始後も加熱し続ける場合も考慮すると、加熱時間を、例えば、0.1~5000秒間とすることができ、0.5~4000秒間がより好ましい。
なお、発熱反応が開始した後は、加熱を止めてもよく、加熱し続けてもよい。例えば、自発的に燃焼が伝播し合成反応が進む反応形態であれば、加熱を止めても反応が効率的に進行する。
【0026】
反応系を加熱する手段は特に制限されず、例えば、加熱炉(電気炉、ガス加熱炉、誘導加熱炉等)のような熱伝導を介する加熱装置を用いることができ、また、熱伝導を介さないレーザー照射、マイクロ波照射及びハロゲンランプ光照射を用いることも好ましい。なお、マイクロ波加熱はシングルモードの定在波により行ってもよく、マルチモードのマイクロ波加熱でもよい。
【0027】
マイクロ波照射の出力は、例えば、1~3000Wとすることができ、5~1000Wが好ましい。一方、ハロゲンランプにより光(赤外線)を照射する場合の出力は、例えば、1~1000Wとすることができ、10~450Wが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法において、ケイ素と二酸化炭素との反応は、大気圧下で行ってもよく、反応容器を密閉して減圧下又は加圧下で行ってもよい。加圧下では、発熱反応を促進することができる。ケイ素と二酸化炭素との反応は、例えば、0.01~200MPa下で行うことができ、0.10~100MPa下で行うこともできる。
【0029】
本発明の製造方法において、1つの反応系で、加熱する工程は2回以上(好ましくは2~5回、より好ましくは2~4回)繰り返してもよい。反応系を加熱する工程を2回以上行う場合、通常、前の工程の発熱合成反応が終了後、反応系が室温になるまで静置した後、次回の加熱を行う。
また、上記静置後、反応系を構成する粒子が凝集している場合、必要に応じて、凝集した粒子を解砕してもよい。なお、粒子の凝集体と、ケイ素の粉末が共存している場合には、解砕前に篩(例えば目開き45μmの篩)によりケイ素の粉末を取り除いてもよい。これにより、凝集体中の未反応物だけを再度二酸化炭素との反応に付すことができ、目的の炭化ケイ素の純度をより高めることができる。
【0030】
<水酸化ナトリウム水溶液による洗浄>
続いて、「反応生成物である炭化ケイ素及び二酸化ケイ素と、未反応のケイ素とを含む固形混合物」(反応混合物)を「水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して該水酸化ナトリウム水溶液中に前記二酸化ケイ素と前記ケイ素とを選択的に溶解させる」工程について説明する。
【0031】
本発明の製造方法では、上記発熱反応により、反応生成物として炭化ケイ素と二酸化ケイ素が生じる一方で、未反応のケイ素も一定量残留する。未反応のケイ素は上記の通り、発熱合成反応を複数回繰り返したり、その過程で未反応のケイ素粉末を取り除いたりすることにより、その残留量を低減することができる。しかし、これらの方法では未反応のケイ素を完全に除去することは困難である。したがって、上記発熱反応後には、反応生成物である炭化ケイ素及び二酸化ケイ素と、未反応のケイ素とを含む上記反応混合物が生じる。また、反応混合物中の炭化ケイ素と二酸化ケイ素の量比は、質量比で、二酸化ケイ素の方が多くなる傾向にある。例えば、炭化ケイ素/二酸化ケイ素=1.0/5.0~1.0/1.1(質量比)程度となり、1.0/4.5~1.0/1.5(質量比)程度となることが好ましい。この反応混合物を水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液により洗浄すると、水酸化ナトリウム水溶液中に二酸化ケイ素とケイ素が選択的に溶解し、炭化ケイ素は事実上溶解せずに固体として残留する。したがって、ろ過等の固液分離により液体成分を取り除くことにより、固体成分として高純度の炭化ケイ素を得ることができる。
【0032】
本発明において「高純度炭化ケイ素」とは、水酸化ナトリウム水溶液による洗浄後に固体成分として残る炭化ケイ素(洗浄前よりも純度が高められた炭化ケイ素)を意味し、固体成分に占める炭化ケイ素の濃度は特に制限されない。水酸化ナトリウム水溶液による洗浄の条件にもよるが、例えば、上記の洗浄により、純度95.00%以上の炭化ケイ素を得ることができ、純度97.00%以上の炭化ケイ素を得ることもでき、純度98.00%以上の炭化ケイ素を得ることもでき、純度98.50%以上の炭化ケイ素を得ることもでき、純度99.00%以上の炭化ケイ素を得ることもでき、純度99.10%以上の炭化ケイ素を得ることもでき、純度99.20%以上の炭化ケイ素を得ることもでき、純度99.30%以上の炭化ケイ素を得ることもできる。当該純度は、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)や蛍光X線分析法(XRD、XRF)により決定することができる。当該純度の%は質量%と事実上同義である。
【0033】
本発明の製造方法において、水酸化ナトリウム水溶液による洗浄は、上記発熱反応後の反応混合物を必要により解砕し、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して行う。このとき、浸漬中に適宜に撹拌してもよい。より高純度の炭化ケイ素を得るために、高温下で浸漬して洗浄することが好ましい。例えば、耐圧容器を用いて水酸化ナトリウム水溶液の沸点以上の温度(水酸化ナトリウム水溶液の濃度にもよるが、例えば120~180℃、好ましくは120~160℃)で洗浄を行うことができる。また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を高めることにより、沸点を越えない温度下の洗浄で、より高純度の炭化ケイ素を得ることも可能である。
【0034】
例えば、2.0N以上5.0N未満(2.0mol/L以上5.0mol/L未満)の水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合、耐圧容器を用いて、水酸化ナトリウム水溶液の沸点以上の温度で洗浄(浸漬)することにより、例えば、純度95.00%以上の炭化ケイ素を得ることができる。この条件のなかで、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を高めたり(例えば3.0N以上5.0N未満)、洗浄時間を長くしたり(例えば30分以上、好ましくは60分以上)、使用する洗浄液をより多量(例えば、[反応混合物/洗浄液]を質量比で1/2~1/50、好ましくは1/2~1/30)とすれば、例えば、純度97.00%以上の炭化ケイ素を得ることもでき、純度98.00%以上の炭化ケイ素を得ることもでき、純度98.50%以上の炭化ケイ素を得ることもでき、純度99.00%以上の炭化ケイ素を得ることもでき、純度99.10%以上の炭化ケイ素を得ることもでき、純度99.20%以上の炭化ケイ素を得ることもでき、純度99.30%以上の炭化ケイ素を得ることも可能となる。
【0035】
また、例えば、5.0N以上の高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合には、水酸化ナトリウム水溶液の沸点未満の温度でも、上記の、より高純度の炭化ケイ素を得ることができる。つまり、耐圧容器を用いずとも、高効率に二酸化ケイ素とケイ素を取り除くことが可能となる。また、水酸化ナトリウム水溶液の使用量も、より低減することができる。この場合、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は5.5N以上が好ましく、6.0N以上がより好ましく、6.5N以上とすることも好ましく、7.0N以上とすることも好ましく、7.5N以上とすることも好ましく、8.0N以上とすることも好ましい。水酸化ナトリウム水溶液の濃度は通常は12.0N以下であり、10.0N以下であることが好ましく、9.5N以下であることがより好ましく、9.0N以下であることも好ましい。より高純度の炭化ケイ素を得る観点から、洗浄温度は90℃以上が好ましく、95℃以上がより好ましい。同様の観点から、洗浄時間は30分以上が好ましく、60分以上がより好ましい。
5.0N以上という、かなり高濃度の水酸化ナトリウム水溶液で、100℃前後の高温下で処理をしても、炭化ケイ素は実質的に溶解せずに固形分として残留し、二酸化ケイ素とケイ素だけが選択的に、高効率に、高濃度水酸化ナトリウム水溶液中に溶解する。換言すれば、上記の高濃度水酸化ナトリウム水溶液を用いることにより、水酸化ナトリウム水溶液中への炭化ケイ素(非溶解)と二酸化ケイ素(溶解)の溶解性の違いを顕在化させることができ、二酸化ケイ素を多量に含む反応混合物であっても、二酸化ケイ素をケイ素とともに、高い選択性で、高効率に除去することができる。
【0036】
本発明の製造方法の工業的利用を考慮すると、上記反応混合物の水酸化ナトリウム水溶液による洗浄は、沸点未満の温度で、耐圧容器を用いずに行い、かつ、より高純度の炭化ケイ素を得ることが望まれる、この観点から好ましい洗浄条件の組合せを示すと、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を5.0~10.0N(好ましくは6.0~10.0N、より好ましくは7.0~9.5N、さらに好ましくは7.5~9.0N)とし、洗浄温度を90℃以上かつ水酸化ナトリウム水溶液の沸点未満の温度(好ましくは95~118℃、より好ましくは98~115℃、さらに好ましくは100~112℃)とし、洗浄時間を30分以上(好ましくは30分以上72時間以下、より好ましくは60分以上48時間以下、さらに好ましくは90分以上24時間以下、さらに好ましくは90分以上20時間以下、さらに好ましくは120分以上15時間以下、さらに好ましくは150分以上12時間以下、さらに好ましくは150分以上8時間以下)とすることが好ましい。また、[反応混合物/洗浄液]を質量比で1/2~1/40とすることが好ましく、1/2~1/30とすることがより好ましく、1/2~1/25とすることがさらに好ましい。
上記の好ましい洗浄条件の範囲で、炭化ケイ素の目的の純度に応じて、水酸化ナトリウム水溶液の濃度、使用量、洗浄温度、洗浄時間を適宜に制御すれば、例えば、純度99.00%以上(好ましくは純度99.10%以上、より好ましくは純度99.20%以上、さらに好ましくは純度99.30%以上)の、極めて高純度の炭化ケイ素を得ることが可能となる。
【0037】
[炭化ケイ素の高純度化方法]
本発明の炭化ケイ素の高純度化方法(以下、単に「本発明の高純度化方法」と称する。)は、炭化ケイ素と、前記炭化ケイ素よりも多量の二酸化ケイ素と、前記炭化ケイ素よりも少量のケイ素とを含む固形混合物を洗浄し、二酸化ケイ素とケイ素を除去して高純度炭化ケイ素を得る方法である。本発明において「より多量」ないし「より少量」との用語は質量基準の対比である。本発明の高純度化方法では、上記洗浄に、濃度が5.0N以上の水酸化ナトリウム水溶液を用いる。また、洗浄温度を90℃以上かつ前記水酸化ナトリウム水溶液の沸点未満に制御する。かかる洗浄条件を採用し、水酸化ナトリウム水溶液中に二酸化ケイ素とケイ素とを選択的に溶解させることにより、純度99.00%以上の高純度炭化ケイ素の固形物を得るのが、本発明の高純度化方法である。
洗浄対象とする固形混合物が、本発明の製造方法で特定される上述した発熱反応の反応混合物に限定されないこと、並びに、洗浄条件が本発明の高純度化方法では上記の通り制限されていること以外は、本発明の高純度化方法の規定と矛盾しない範囲で、本発明の製造方法で説明した形態(洗浄条件)を、そのまま本発明の高純度化方法に適用することができ、このような形態は本発明の高純度化方法の実施形態として好適である。
【0038】
本発明の高純度化方法において、洗浄対象とする固形混合物は、炭化ケイ素と、前記炭化ケイ素よりも多量の二酸化ケイ素と、前記炭化ケイ素よりも少量のケイ素とを含む限り特に制限されない。したがって、上述したケイ素と二酸化炭素とを発熱反応に付して得られる上記反応混合物を、本発明の高純度化方法における固形混合物とすることができる。また、当該発熱反応とは無関係に調製された、上記量比を満たす固形混合物を、洗浄対象としてもよい。
【0039】
本発明の高純度化方法において、固形混合物中、炭化ケイ素と二酸化ケイ素の量比は、質量比で、炭化ケイ素/二酸化ケイ素=1.0/5.0~1.0/1.1(質量比)が好ましく、1.0/4.5~1.0/1.5(質量比)がより好ましい。
【0040】
本発明の高純度化方法では、5.0N以上の高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、水酸化ナトリウム水溶液の沸点未満の温度で洗浄処理を行うため、耐圧容器を用いずとも、高効率に二酸化ケイ素とケイ素を取り除くことが可能となる。本発明の高純度化方法において、水酸化ナトリウム水溶液による固形混合物の好ましい洗浄条件は、例えば次の通りである。
【0041】
水酸化ナトリウム水溶液の濃度を5.0~10.0N(より好ましくは6.0~10.0N、さらに好ましくは7.0~9.5N、さらに好ましくは7.5~9.0N)とし、洗浄温度を95~118℃(より好ましくは98~115℃、さらに好ましくは100~112℃)とし、洗浄時間を30分以上(より好ましくは30分以上72時間以下、さらに好ましくは60分以上48時間以下、さらに好ましくは90分以上24時間以下、さらに好ましくは90分以上20時間以下、さらに好ましくは120分以上15時間以下、さらに好ましくは150分以上12時間以下、さらに好ましくは150分以上8時間以下)とし、[固形混合物]/洗浄液]を質量比で1/2~1/40(より好ましくは1/2~1/30、さらに好ましくは1/2~1/25)とする。
上記の洗浄条件の範囲で、炭化ケイ素の目的の純度に応じて、水酸化ナトリウム水溶液の濃度、使用量、洗浄温度、洗浄時間を適宜に制御すれば、例えば、純度99.10%以上(より好ましくは純度99.20%以上、さらに好ましくは純度99.30%以上)の、極めて高純度の炭化ケイ素を得ることが可能となる。
【0042】
本発明の方法で得られた炭化ケイ素は、種々の用途に適用することができる。一例として、耐火物、発熱体、セッター、半導体、ウエハ、半導体用インゴットなどの原料として用いることができる。
【実施例0043】
本発明を、実施例に基づき更に詳細に説明する。本発明は、本発明で規定すること以外は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0044】
[参考例1]
内部にケイ素粉末(シリコン粉末)0.15gを入れた石英製の円筒(サイズ:断面直径8mm、長さ70mm)を、共振器の中心軸に沿って配した。大気圧下で、円筒内に二酸化炭素(CO)ガスを流量0.14L/minで流通させながら、共振器内にマイクロ波を70W(周波数2.45GHz)で10秒間照射して共振器内にシングルモードの定在波を形成し、円筒内のケイ素粉末を電界加熱した。反応系内の温度をサーモグラフィにより測定したところ、マイクロ波照射により、反応系の温度は1800℃まで到達した。COガスを流通させたまま、得られた反応混合物を室温になるまで静置した。静置後の反応混合物を円筒から取出し、アルミナ乳鉢を用いて解砕した。解砕後の反応混合物についてXRD(X線回折)により得られた回析結果を用いて、RIR(参照強度比)法によりSiとSiCを定量した。定量結果を表1に記載する。表中の質量%はSiとSiCの合計を100質量%とした結果である(以下も同様)。
なお、XRDにより、反応混合物に非晶質シリカ(SiO)が確認された。以降の実施例も同様である。
【0045】
[参考例2]
マイクロ波照射時間を60秒とし、実施例1と同様にして、室温になるまで静置した反応生成物を、アルミナ乳鉢を用いて解砕した。マイクロ波照射から解砕までを1サイクルとして、このサイクルを3回行った。3サイクル後の反応混合物について、参考例1と同様にしてSiとSiCを定量した。定量結果を表1に記載する。
【0046】
[参考例3]
参考例2において、加熱方法としてマイクロ波照射に代えて、ハロゲンランプにより赤外線を出力450Wで10秒間照射したこと以外は、参考例2と同様にして反応混合物を得た。SiとSiCの定量結果を表1に記載する。
【0047】
[参考例4]
参考例2において、各サイクルの「静置」後「解砕」前に、篩(目開き45μm)を用いて未反応のケイ素粉末を取り除いたこと以外は、参考例2と同様にして反応混合物を得た。SiとSiCの定量結果を表1に記載する。
【0048】
【表1】
【0049】
<表の注>
「照射時間(秒)」は、1サイクルにおいて反応系を加熱した時間である。後記表においても同様である。
「反応系温度(℃)」は、照射時間における到達温度である。
【0050】
表1から、本発明で規定する発熱反応により、効率的に炭化ケイ素(固形炭化物)を得られることが分かる。特に、参考例1と2との比較から、サイクル数を増やしてトータルの照射時間を長くすることで、炭化ケイ素の収率が向上することが分かる。
【0051】
[参考例5]
参考例1において、ケイ素粉末の量を0.5gにしたこと、円筒内のケイ素粉末の一部を共振器の外部に配したこと及びCOガスの流量を1.05L/minにしたこと以外は、実施例1と同様にして反応混合物を得た。参考例1と同様にしてSiとSiCを定量した。定量結果を表2に記載する。
「円筒内のケイ素粉末の一部を共振器の外部に配した」とは、円筒内でひとまとまりのケイ素粉末の一部にマイクロ波が照射されるように(換言すれば、ケイ素粉末の一部にはマイクロ波が照射されないように)、ケイ素粉末を配したことを意味する。
【0052】
【表2】
【0053】
マイクロ波照射を停止した後50秒後に、共振器の外部にある反応系の温度をサーモグラフィにより測定したところ、1320℃という高温に到達していた。このことから、上記の反応は、マイクロ波が照射されて生じた発熱反応の反応熱が、マイクロ波が照射されていないケイ素粉末へと伝播して合成反応が進んでいること(発熱反応が燃焼合成反応のように進んでいること)が明らかとなった。
【0054】
[参考例6]
参考例1において、マイクロ波の照射時間を1秒間としたこと及びCOガスの流量を0.35L/minにしたこと以外は、参考例1と同様にして反応混合物を得た。SiとSiCの定量結果を表3に記載する。
【0055】
[参考例7]
参考例6において、照射時間を10秒間に変更したこと以外は、参考例6と同様にして反応混合物を得た。SiとSiCの定量結果を表3に記載する。
【0056】
[参考例8]
参考例6において、マイクロ波の照射時間を100秒間に変更したこと以外は、参考例6と同様にして反応混合物を得た。SiとSiCの定量結果を表3に記載する。
【0057】
[参考例9]
参考例6において、マイクロ波の照射時間を1000秒間に変更したこと以外は、参考例6と同様にして反応混合物を得た。SiとSiCの定量結果を表3に記載する。
【0058】
【表3】
【0059】
参考例6~9との比較から、反応系を加熱する時間を長くすることで炭化ケイ素の収率が向上することが分かる。
【0060】
[参考例10]
参考例2において、二酸化炭素ガスの流通に代えて、窒素と二酸化炭素との混合ガス(体積比で窒素:二酸化炭素=50:50)を流通させたこと以外は、参考例2と同様にして反応混合物を得た。SiとSiCの定量結果を表4に記載する。
【0061】
[参考例11]
参考例10において、混合ガスの窒素と二酸化炭素との割合を、窒素:二酸化炭素=90:10(体積比)に変えたこと、及び、1サイクルにおけるマイクロ波の照射時間を10秒間に変えたこと以外は、参考例10と同様にして反応混合物を得た。SiとSiCの定量結果を表4に記載する。
【0062】
[参考例12]
参考例11において、混合ガスの窒素と二酸化炭素との割合を、窒素:二酸化炭素=80:20(体積比)に変えたこと以外は、参考例11と同様にして反応混合物を得た。SiとSiCの定量結果を表4に記載する。
【0063】
[参考例13]
参考例11において、混合ガスの窒素と二酸化炭素との割合を、窒素:二酸化炭素=70:30(体積比)に変えたこと以外は、参考例11と同様にして反応混合物を得た。SiとSiCの定量結果を表4に記載する。
【0064】
【表4】
【0065】
参考例10~13の結果から、本発明で規定する発熱反応において、ケイ素と接触させるガスに二酸化炭素以外のガスが混合していても(二酸化炭素のモル分率を低くしても)、目的の炭化ケイ素を得られることが分かる。
【0066】
[参考例14]
ケイ素粉末50gに、二酸化炭素ガスを吹き付けながら(吹き付け量6L/min)、マルチモードマイクロ波を出力300Wで100秒間照射した。得られた試料を室温になるまで静置した。静置後の試料について、参考例1と同様にしてSiとSiCを定量した。定量結果を表5に記載する。
【0067】
【表5】
【0068】
表5から、本発明で規定する発熱反応により、ケイ素粉末の量を増やしても、目的とする炭化ケイ素を効率的に得られることが分かる。
【0069】
[参考例15]
シリコンスラッジ粉末(純度:99%、平均粒径:2.0~3.0μm)54gに、二酸化炭素ガスを吹き付けながら(吹き付け6L/min)、マルチモードマイクロ波を出力1000Wで60秒間照射した。得られた試料を室温になるまで静置した。室温になるまで静置した反応混合物を、アルミナ乳鉢を用いて解砕した。マイクロ波照射から解砕までを1サイクルとして、このサイクルを3回行った。3サイクル後の反応混合物について、参考例1と同様にしてSiとSiCを定量した。定量結果を表6に記載する。なお、シリコンスラッジ粉末の使用量は、表中の「ケイ素粉末」のカラムに記載している(以下も同様)。
【0070】
【表6】
【0071】
[実施例1-洗浄(1)]
参考例15で得られた3サイクル後の反応混合物を、10質量%のNaOH水溶液(40g)に投入し、電気炉にて140℃(NaOH水溶液の沸点以上の温度)で60分間加熱した。次いで、ろ過して液を取り除き、得られた洗浄後の固形物について、参考例1と同様にしてSiとSiCを定量した。定量結果を表7に記載する。なお、洗浄後の固形物のXRD測定では非晶質シリカ(SiO)が僅かながら確認された。
【0072】
[実施例2-洗浄(2)]
実施例1-洗浄(1)において、洗浄条件を下記表7に記載の条件に変えたこと以外は、実施例1-洗浄(1)と同様にして、3サイクル後の反応混合物の洗浄を行った。得られた洗浄後の固形物について、参考例1と同様にしてSiとSiCを定量した。定量結果を表7に記載する。なお、洗浄後の固形物のXRD測定では非晶質シリカ(SiO)は確認されなかった。したがって、実質的に単相のSiCが得られていることがわかる。
【0073】
[実施例3-洗浄(3)]
実施例1-洗浄(1)において、洗浄条件を下記表7に記載の条件に変えたこと以外は、実施例1-洗浄(1)と同様にして、3サイクル後の反応混合物の洗浄を行った。得られた洗浄後の固形物について、参考例1と同様にしてSiとSiCを定量した。定量結果を表7に記載する。なお、洗浄後の固形物のXRD測定では非晶質シリカ(SiO)が僅かながら確認された。
【0074】
【表7】
【0075】
表7の結果から、本発明で規定する発熱反応後の固形混合物を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄することで、高純度の炭化ケイ素が得られることが分かる。
【0076】
参考例15で原料としたシリコンスラッジ粉末(試料3)と、参考例15において得られた、3サイクル後の反応混合物(試料2)と、実施例2-洗浄(2)において得られた洗浄後の固形物(試料1)の各々について、ICP測定を行った。具体的には、塩酸、硝酸、フッ化水素酸及び硫酸からなる混酸に各試料をマイクロウェーブ試料分解装置にて溶解させたものをICP-MS装置により測定し、測定結果から各試料の元素組成を決定した。結果を表8に示し、純度を表9に示す。表9の純度(%)は、全ての元素濃度の合計値(C1)に対するケイ素の濃度(C2)の百分率の値((C2/C1)×100))である。
【0077】
【表8】
【0078】
[表8の注]
表中の数値の単位:μg/mg
【0079】
【表9】
【0080】
表7の結果と表8~10の結果から、実施例2-洗浄(2)の条件で洗浄することで、高純度且つ高効率に炭化ケイ素が得られることが分かる。
【0081】
実施例2-洗浄(2)において得られた洗浄後の反応生成物について、XRF(X-ray Fluorescence)測定により元素組成を調べた。結果を表10に示す。
【0082】
【表10】
【0083】
表10の結果から、XRF測定からも、実施例2-洗浄(2)の条件で洗浄することで、高純度且つ高効率に炭化ケイ素が得られることが分かる。
【0084】
[実施例4]
シリコンスラッジ粉末(純度3N、粒径約0.5μm)20gを入れた石英製のビーカー(容量50mL)を、マルチモード型マイクロ波照射装置に配した。ビーカー内に二酸化炭素(CO)ガスを流量7L/minで流通させながら、マイクロ波照射パワーを100W~1000Wで変化させ、ビーカー内試料粉末を加熱した。得られた反応混合物は、COを流通させたまま室温になるまで静置した。この反応混合物を、クラッシュミルを用いて解砕した。マイクロ波照射から解砕までを1サイクルとして、このサイクルを3回行った。3サイクル後の反応混合物1g中に含まれるSi、SiC、SiOの量(g)を、XRDのRIR(参照強度比)法により求めたSiとSiCとの比、及び、2Si+CO→SiC+SiOの反応式より求めた。結果を表11に示す。
【0085】
【表11】
【0086】
上記で得られた3サイクル後の反応混合物1gを、表12に示すように濃度が6N又は8NのNaOH水溶液に投入し、電気炉にて表12に示す通り、105~115℃(NaOH水溶液の沸点未満の温度)で60~300分間加熱した(洗浄条件ごとにNo.1~17として表12に示す)。次いで、ろ過して液を取り除き、得られた洗浄後の固形物について、RIR(参照強度比)法によりSiとSiCを定量した。定量結果を表12に記載する。なお、洗浄後の固形物は、XRDにより、非晶質シリカ(SiO)のハローパターンが検出されないか、ごく僅か検出される程度であった。つまり、実質的にすべてのSiOが上記の洗浄により除去できることがわかった。表12には、非晶質シリカ(SiO)のハローパターンが全く検出されなかったものについて、「無」の表記を付した。
【0087】
【表12】
【0088】
上記表12に示す通り、本発明の製造方法ないし高純度化方法により、SiOを多量に含む反応混合物から、純度99.0質量%以上の高純度SiCが得られることがわかる。
【0089】
[実施例5]
シリコンスラッジ粉末(純度3N、粒径約0.7μm)120gを入れた石英製のビーカー(容量300mL)を、マルチモード型マイクロ波照射装置に配した。ビーカー内に二酸化炭素(CO)ガスを流量14L/minで流通させながら、マイクロ波照射パワーを100W~1000Wで変化させ、ビーカー内試料粉末を加熱した。得られた反応混合物は、COを流通させたまま室温になるまで静置した。この反応混合物を、クラッシュミルを用いて解砕した。マイクロ波照射から解砕までを1サイクルとして、このサイクルを3回行った。3サイクル後の反応混合物1g中に含まれるSi、SiC、SiOの量(g)を、XRDのRIR(参照強度比)法により求めたSiとSiCとの比、及び、2Si+CO→SiC+SiOの反応式より求めた。結果は表13に示す通り、表11に示す結果と同じとなった(少数点第2位までの数値として示すと表11と同じであった)。
【0090】
【表13】
【0091】
上記で得られた3サイクル後の反応混合物1gを、表14に示すように濃度が6NのNaOH水溶液に投入し、電気炉にて110℃で180分間加熱した。NaOH水溶液の使用量を変えて、No.18~23として表14に示した。次いで、ろ過して液を取り除き、得られた洗浄後の固形物について、RIR(参照強度比)法によりSiとSiCを定量した。定量結果を表14に記載する。なお、洗浄後の固形物は、XRDにより、非晶質シリカ(SiO)のハローパターンが検出されなかった。
【0092】
【表14】
【0093】
実施例5の実験系でも、本発明の製造方法ないし高純度化方法により、SiOを多量に含む反応混合物から、純度が実質的に100質量%の高純度SiCが得られることが裏付けられた。