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特開2024-114012神経芽腫の微小残存病変を評価するために用いられる試薬、およびそれを用いた生体試料の分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114012
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】神経芽腫の微小残存病変を評価するために用いられる試薬、およびそれを用いた生体試料の分析方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6881 20180101AFI20240816BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240816BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C12Q1/6881 Z
C12Q1/686 Z ZNA
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019356
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】西村 範行
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ53
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】神経芽腫の微小残存病変の評価における正確性を向上できる、新たな神経芽腫のMRDマーカーの組み合わせを利用する試薬及びそれを用いた生体試料の分析方法を提供する。
【解決手段】本発明の試薬は、B4GALNT1、CHRNA3、CRMP1、DBH、PHOX2B、及びTHからなる神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーと、HPRT1及びHMBSからなるレファレンス遺伝子と、を核酸増幅法により増幅しうるプライマーペアを含み、神経芽腫の微小残存病変を評価するために用いられ、神経芽腫の微小残存病変の評価における正確性を向上できる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B4GALNT1、CHRNA3、CRMP1、DBH、PHOX2B、及びTHからなる神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーと、HPRT1及びHMBSからなるレファレンス遺伝子と、を核酸増幅法により増幅しうるプライマーペアを含み、神経芽腫の微小残存病変を評価するために用いられる試薬。
【請求項2】
地固め療法終了時以降における神経芽腫患者から採取した生体試料に対して用いられる、請求項1に記載の試薬。
【請求項3】
骨髄検体に対して用いられる、請求項1に記載の試薬。
【請求項4】
前記遺伝子マーカー及び前記レファレンス遺伝子それぞれとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるプローブをさらに含む、請求項1に記載の試薬。
【請求項5】
B4GALNT1、CHRNA3、CRMP1、DBH、PHOX2B、及びTHからなる神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカー、並びにHPRT1及びHMBSからなるレファレンス遺伝子の、生体試料中における発現量を、請求項1に記載の試薬を用いて核酸増幅法により測定する測定工程と、
前記遺伝子マーカーの発現量A1~A6に基づく評価値が、健常者における定量値を参照して設定されるカットオフ値以上か否かを評価する評価工程とを含み、
前記発現量が神経芽腫の微小残存病変の発生レベルと相関し、
前記評価工程において、前記評価値が前記カットオフ値以上である場合に、前記生体試料の神経芽腫の微小残存病変を陽性と判定する、生体試料の分析方法。
【請求項6】
前記遺伝子マーカーの発現量A1~A6に基づく評価値が、前記遺伝子マーカーの発現量A1~A6の各々に対し、コントロールにおける前記遺伝子マーカー各々の発現量の統計学的数値B1~B6を加味した重み付けを行うことで、重み付き発現量AB1~AB6を取得し、さらに、前記重み付き発現量AB1~AB6の幾何平均又は総和をとることにより導出される、請求項5に記載の分析方法。
【請求項7】
前記測定工程における前記核酸増幅法がデジタルPCRである、請求項5に記載の生体試料の分析方法。
【請求項8】
前記測定工程において、同一の核酸増幅装置を用いて前記遺伝子マーカー及びレファレンス遺伝子を同時に核酸増幅する、請求項5に記載の生体試料の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経芽腫の微小残存病変を評価するための遺伝子マーカーおよびその使用に関する。より具体的には、本発明は、神経芽腫の微小残存病変を評価するために用いられる試薬、およびそれを用いた生体試料の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経芽腫は、神経堤細胞由来の難治性小児がんであり、小児がんの約10%を占める。これは、脳腫瘍に次いで高い頻度である。また神経芽腫は、小児がん死亡原因の約15%を占める。神経芽腫は、5つの予後因子(病期、病理、年齢、MYCN増幅、DNAプロイディー)を用いて、低・中間・高リスク群に分類されるが、50%を超える患者が高リスク群に分類される。そして、高リスク群患者の50%超で再発する。
【0003】
したがって、神経芽腫の予後改善、特に高リスク群患者の予後改善には、再発の起源と考えられる微小残存病変(MRD)を正しく評価することが不可欠である。腫瘍細胞にのみに検出される遺伝子が同定されていない神経芽腫では、正常細胞に比して腫瘍細胞で高発現するいくつかの遺伝子をマーカーとすることで、MRDの検出が試みられてきた。
【0004】
本発明者は、単独で神経芽腫の微小残存病変の検出能力が高い遺伝子マーカーとして、CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B及びTHを見出し、これら7種の遺伝子マーカーとレファレンス遺伝子HPRT1とを組み合わせることで、偽陰性の抑制と臨床適用性とを両立した神経芽腫の微小残存病変の評価法を開発した(非特許文献1、特許文献1、特許文献2)。
【0005】
また、神経芽腫のMRDマーカーとしては他にも様々なものが報告されており、例えば、CHGA、DCX、DDC、PHOX2B、およびTHの5種の遺伝子マーカーであって、B2M、GAPDH、HPRT1、及びSDHAのレファレンス遺伝子と組み合わせて用いられるもの(非特許文献2);PHOX2B、TH、及びDCXの3種の遺伝子マーカー(非特許文献3);神経芽腫の治療標的分子GD2の合成酵素B4GALNT1を利用した、B4GALNT1、CCND1、ISL1、PHOX2Bの4種の遺伝子マーカー(非特許文献4)、B4GALNT1、PHOX2B、TH、及びELAV4の4種の遺伝子マーカー(非特許文献5)、B4GALNT1、TH、DDCの3種の遺伝子マーカー(非特許文献6)、並びに、CHRNA3、DDC、GAP43、PHOX2B、およびTHの5種の遺伝子マーカー(非特許文献7);神経芽腫のMES群固有のPOSTN、PRRX1及びFMO3の3種の遺伝子マーカー(非特許文献8);その他遺伝子マーカーCHGB、SNAP91、STMN2(非特許文献7)GABRB3、KIF1A(非特許文献9)ST8SIA2(非特許文献10)、UCHL1(非特許文献11)等が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J Mol Diagn 22: 236-246, 2020.
【非特許文献2】Clin Cancer Res 23: 5374-5383, 2017.
【非特許文献3】J Pathol 216: 245-252, 2008.
【非特許文献4】J Clin Oncol 33: 755-763, 2015.
【非特許文献5】Pediatr Blood Cancer 369: e27354, 2018.
【非特許文献6】Int J Cancer 123: 2849-2855, 2008.
【非特許文献7】Clin Chem 55: 1316-1326, 2009.
【非特許文献8】JCO Precision Oncology 3: 1-11, 2019.
【非特許文献9】Clin Cancer Res 14: 7020-7027, 2008.
【非特許文献10】Int J Cancer 119: 152-156, 2006.
【非特許文献11】Clin Cancer Res 6: 551-558, 2000.
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2018/123764号
【特許文献2】国際公開第2021/006345号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者によってすでに見出された7種の遺伝子マーカーは、それら自体単独で神経芽腫の微小残存病変の検出能力が高い遺伝子マーカーが選択されているが、複数の遺伝子マーカーを組合せることによる性能については検討の余地がある。神経芽腫のMRDマーカーとしては様々なものが報告されているため、検査効率を度外視するならば、組み合わせるマーカーの数を単に増やせばよい。しかしながら、実臨床への適用性を考慮した検査効率を確保しつつ、より一層正確性を改善するためには、新たな神経芽腫のMRDマーカーの組み合わせが要される。
【0009】
そこで、本発明は、神経芽腫の微小残存病変の評価における正確性を向上できる、新たな神経芽腫のMRDマーカーの組み合わせを利用する試薬及びそれを用いた生体試料の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、レファレンス遺伝子として特定の2種(つまり、HPRT1及びHMBS)を選択する一方で、独自に絞り込んだ20種の神経芽腫のMRD遺伝子マーカーからなる一次候補を、独自に選択した検体での発現量に応じて14種の遺伝子マーカーからなる二次候補に絞り込み、さらに、独自に定めた4つの条件を満たす3通りの遺伝子マーカーの組み合わせに絞り込み、最後に、これらの中から正確性の高い6種からなる遺伝子マーカーの組み合わせ(つまり、B4GALNT1、CHRNA3、CRMP1、DBH、PHOX2B、及びTH)を選択した。さらに、これら6種の神経芽腫のMRDの遺伝子マーカーと、2種のレファレンス遺伝子とを組み合わせて用いることで、当該技術分野の技術水準からはおおよそ期待し得なかったほどの高い正確性をもって神経芽腫の微小残存病変を評価できることを、予期せず見出した。本発明は、この知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
本発明は、以下に掲げる通り、神経芽腫の微小残存病変を評価するための試薬と、それを用いた生体試料の分析方法と、を含む。
【0012】
項1. B4GALNT1、CHRNA3、CRMP1、DBH、PHOX2B、及びTHからなる神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーと、HPRT1及びHMBSからなるレファレンス遺伝子と、を核酸増幅法により増幅しうるプライマーペアを含み、神経芽腫の微小残存病変を評価するために用いられる試薬。
上述のB4GALNT1、CHRNA3、CRMP1、DBH、PHOX2B、及びTHとしてそれぞれ記載される遺伝子マーカー、並びにHPRT1及びHMBSからなるレファレンス遺伝子は、それぞれ、後述の配列番号1~6及び配列番号7,8で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと、当該ポリヌクレオチドと少なくとも70%の相同性を有するヌクレオチド配列からなり且つ当該ポリヌクレオチドと機能的に同等なものとを含む。
本発明で用いる神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーはわずか6個でありながら、神経芽腫の微小残存病変を正確性高く評価できる。
【0013】
項2. 地固め療法終了時以降における神経芽腫患者から採取した試料の分析に用いられる、項1に記載の試薬。
本発明の試薬は、上述の患者に適用することで、神経芽腫の微小残存病変の発生をより正確に評価することができるため、より正確な予後を予測できる。
【0014】
項3. 骨髄検体に対して用いられる、項1又は2に記載の試薬。
本発明の試薬は、上述の検体に適用することで、神経芽腫の微小残存病変の発生をより正確に評価することができる。
【0015】
項4. 前記遺伝子マーカー及び前記レファレンス遺伝子それぞれとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるプローブをさらに含む、項1~3のいずれかに記載の試薬。
これによって、プローブをハイブリダイズさせることで遺伝子マーカー及びレファレンス遺伝子を検出することができる。
【0016】
項5. B4GALNT1、CHRNA3、CRMP1、DBH、PHOX2B、及びTHからなる神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカー、並びにHPRT1及びHMBSからなるレファレンス遺伝子の、生体試料中における発現量を、項1~4のいずれかに記載の試薬を用いて核酸増幅法により測定する測定工程と、
前記遺伝子マーカーの発現量A1~A6に基づく評価値が、健常者における定量値を参照して設定されるカットオフ値以上か否かを評価する評価工程とを含み、
前記発現量が神経芽腫の微小残存病変の発生レベルと相関し、
前記評価工程において、前記評価値が前記カットオフ値以上である場合に、前記生体試料の神経芽腫の微小残存病変を陽性と判定する、生体試料の分析方法。
本発明で用いる神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーはわずか6個でありながら、神経芽腫の微小残存病変を正確性高く評価できる。
【0017】
項6. 前記遺伝子マーカーの発現量A1~A6に基づく評価値が、前記遺伝子マーカーの発現量A1~A6の各々に対し、コントロールにおける前記遺伝子マーカー各々の発現量の統計学的数値B1~B6を加味した重み付けを行うことで、重み付き発現量AB1~AB6を取得し、さらに、前記重み付き発現量AB1~AB6の幾何平均又は総和をとることにより導出される、項5に記載の分析方法。
この場合、神経芽腫の微小残存病変における分析の感度及び特異度を総合的に向上できる。
【0018】
項7. 前記測定工程における前記核酸増幅法がデジタルPCRである、項5又は6に記載の生体試料の分析方法。
この場合、遺伝子発現量がより少ない検体であっても感度よく神経芽腫の微小残存病変を検出することができる。また、異なる分析主体、分析時期、分析機器、プロトコル(反応時間、反応温度等)等であっても測定結果のばらつきを少なくすることができ、正確に神経芽腫の微小残存病変を検出することができる。
【0019】
項8. 前記測定工程において、同一の核酸増幅装置を用いて前記遺伝子マーカー及びレファレンス遺伝子を同時に核酸増幅する、項5~7のいずれかに記載の生体試料の分析方法。
本発明で用いる神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカー及びレファレンス遺伝子は合計でわずか8種であるため、同一の核酸増幅装置を用いて同時に分析することで、優れた検査効率が奏される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の試薬及びそれを用いた生体試料の分析方法は、新たな神経芽腫のMRDマーカーの組み合わせを利用することで、神経芽腫の微小残存病変の評価における正確性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[1.神経芽腫の微小残存病変を評価するための試薬]
本発明の試薬は神経芽腫の微小残存病変を評価するために用いられるものであり、6種の所定の遺伝子マーカー及び2種の所定のレファレンス遺伝子を核酸増幅法により増幅しうるプライマーペアとして用いられるポリヌクレオチド分子を含む。また、プライマーペアとして用いられるポリヌクレオチド分子に加えて、所定の遺伝子マーカー及び所定のレファレンス遺伝子それぞれとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるプローブとして用いられるポリヌクレオチド分子をさらに含んでもよい。なお、本明細書において、ポリヌクレオチド分子は、DNA、RNA、およびPNA(peptide nucleic acid)を含む意味で用いられる。本発明の好ましい態様によれば、ポリヌクレオチド分子はDNAまたはRNAである。
【0022】
[1-1.神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカー]
本発明における神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーは、B4GALNT1として記載されるMES群及びADRN群由来の遺伝子、CHRNA3として記載されるADRN群由来の遺伝子、CRMP1として記載されるADRN群由来の遺伝子、DBHとして記載されるADRN群由来の遺伝子、PHOX2Bとして記載されるADRN群由来の遺伝子、及びTHとして記載されるADRN群由来の遺伝子(以下、それぞれ単に、B4GALNT1、CHRNA3、CRMP1、DBH、PHOX2B、及びTHと記載する。)の6種からなる。
【0023】
本発明における遺伝子マーカーは、わずか6個の遺伝子マーカーの組み合わせでありながら、所定のレファレンス遺伝子と組み合わされて用いられることで、神経芽腫の微小残存病変を高い正確性で検出することができる。この6個という遺伝子マーカー数は、所定のレファレンス遺伝子の2個と組み合わせても、多くの核酸増幅装置において同時に遺伝子増幅できる数であるため、臨床への適用も容易である。
【0024】
本発明における遺伝子マーカーそれぞれの配列情報の詳細は、公知のデータベースにおいて取得することができる。たとえば;
・B4GALNT1(Beta-1,4-N-Acetyl-Galactosaminyltransferase 1)として、アメリカ合衆国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)のRefSeqデータベースにおけるアクセッション番号NM_001478に相当するもの及びそのアイソフォーム、
・CHRNA3(cholinergic receptor nicotinic alpha 3 subunit)として、同アクセッション番号NR_000743に相当するもの及びそのアイソフォーム、
・CRMP1(collapsin response mediator protein 1)として、同アクセッション番号NM_001313に相当するもの及びそのアイソフォーム、
・DBH(dopamine β-hydroxylase)として、同アクセッション番号NM_000787に相当するもの及びそのアイソフォームとして可能性のあるもの、
・PHOX2B(paired-like homeobox 2b)として、同アクセッション番号NM_003924に相当するもの及びそのアイソフォームとして可能性のあるもの、及び
・TH(tyrosine hydroxylase)として、同アクセッション番号NM_199293に相当するもの及びそのアイソフォームが挙げられる。
【0025】
本発明における遺伝子マーカーをコードする具体的なヌクレオチド配列としては;
・B4GALNT1の配列として、配列番号1で表される配列、
・CHRNA3の配列として、配列番号2で表される配列、
・CRMP1の配列として、配列番号3で表される配列、
・DBHの配列として、配列番号4で表される配列、
・PHOX2Bの配列として、配列番号5で表される配列、及び
・THの配列として、配列番号6で表される配列が挙げられる。
【0026】
本発明における遺伝子マーカーをコードするヌクレオチド配列は、神経芽腫の微小残存病変の指標となる限り、上記の配列と相同性を有するものであってもよい。好ましくは、上述の配列番号1から配列番号6でそれぞれ表されるヌクレオチド配列と少なくとも70%の相同性を有し、かつ機能的に同等なポリヌクレオチドからなってよい。このようなポリヌクレオチドの配列相同性は、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0027】
なお、機能的に同等とは、上述の配列番号1~6でそれぞれ表されるヌクレオチド配列を有する特定のポリヌクレオチドと同等に、神経芽腫の微小残存病変が存在する場合に発現量が増加する機能をいう。機能同等性は、たとえば、後述するプローブまたはプライマーを用い、ポリヌクレオチドの発現量を測定し、当該発現量と神経芽腫の微小残存病変との相関を公知の統計手法により決定し、上述の特定のポリヌクレオチドの発現量と比較することにより容易に決定することができる。
【0028】
また、上述のヌクレオチド配列の相同性は、公知の手法によって決定できる(以下においても同様)。このような手法の具体例としては、例えば、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873-5877(1993)〕等が挙げられる。また、このアルゴリズムに基づいて、BLASTNまたはBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されており〔Altschul et al.J.Mol.Biol.,215,403-410(1990)〕、本発明においても利用することができる。さらに、他の好ましい手法としては、遺伝情報処理ソフトウェア GENETYX(ゼネティックス社製)を用いる手法が挙げられる。GENETYXを用いる場合には、BLASTによる解析のほかにLipman-Pearson法によるホモロジー解析を行うことができ、本発明における相同性決定において有利に利用することができる。
【0029】
上述の6種の遺伝子マーカーは、神経芽腫の微小残存病変のレベルが増加する場合に発現量が増加する。つまり、当該発現量と神経芽腫の微小残存病変の発生レベルとが相関する。したがって、後述するポリヌクレオチド分子を用い、これら6種の遺伝子マーカー全ての発現量を所定のレファレンス遺伝子の発現量とともに測定することで、得られた発現量に基づいて神経芽腫の微小残存病変を評価することができる。
【0030】
[1-2.レファレンス遺伝子]
本発明におけるレファレンス遺伝子は、HPRT1として記載される遺伝子、及びHMBSとして記載される遺伝子(以下、それぞれ単に、HPRT1及びHMBSと記載する。)である。これらのレファレンス遺伝子は、神経芽腫患者群及び健常成人群のいずれにおいても、骨髄及び末梢血の両方で発現量のばらつきが少ないため安定した発現を示す。
【0031】
レファレンス遺伝子の配列情報の詳細は、公知のデータベースにおいて取得することができる。たとえば;
・HPRT1(hypoxanthine phosphoribosyltransferase 1)として、アメリカ合衆国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)のRefSeqデータベースにおけるアクセッション番号NM_000194に相当するもの及びそのアイソフォームとして可能性のあるもの、及び
・HMBS(Hydroxymethylbilane synthase)として、同データベースにおけるアクセッション番号NM_000190に相当するもの、及びそのアイソフォームが挙げられる。
【0032】
レファレンス遺伝子をコードする具体的なヌクレオチド配列としては;
・HPRT1の配列として、配列番号7で表される配列、及び
・HMBSの配列として、配列番号8で表される配列が挙げられる。
【0033】
レファレンス遺伝子をコードするヌクレオチド配列は、内在性コントロールとなる限り、上記の配列と相同性を有するものであってもよい。好ましくは、上述のヌクレオチド配列と少なくとも70%の相同性を有し、かつ上述の遺伝子それぞれと機能的に同等なポリヌクレオチドからなってよい。このようなポリヌクレオチドの配列相同性は、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0034】
なお、機能的に同等とは、上述の配列番号7,8で表されるヌクレオチド配列を有する特定のポリヌクレオチドと同等に、神経芽腫患者群及び健常成人群のいずれにおいても、骨髄及び末梢血の両方で発現量のばらつきが少ないものである。機能同等性は、たとえば、後述するプローブまたはプライマーを用い、ポリヌクレオチドの発現量を測定し、当該発現量、および、当該発現量と神経芽腫の微小残存病変との相関を公知の統計手法により決定し、上述の特定のポリヌクレオチドのそれらと比較することにより容易に決定することができる。
【0035】
[1-3.プライマーペア]
本発明におけるプライマーペアは、上述の遺伝子マーカー及びレファレンス遺伝子それぞれをコードするヌクレオチド配列を増幅しうる一対のポリヌクレオチド分子である。本発明の試薬には、6種の遺伝子マーカーB4GALNT1、CHRNA3、CRMP1、DBH、PHOX2B、及びTHそれぞれに対する合計6対のプライマーペアと、2種のレファレンス遺伝子HPRT1及びHMBSそれぞれに対する合計2対のプライマーペアとが含まれる。
【0036】
このようなプライマーペアは、上述の遺伝子マーカー及びレファレンス遺伝子それぞれをコードするヌクレオチド配列を増幅できるように設計されたセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを含む。アンチセンスプライマーは、増幅対象のポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド分子であり、センスプライマーは、増幅対象のポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド分子である。
【0037】
ストリンジェントな条件とは、0.5%SDS、5×デンハルツ〔Denhartz’s、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400〕および100μg/mlサケ精子DNAを含む6×SSC(1×SSCは、0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)中で、50℃~65℃で4時間~一晩保温する条件をいう。
【0038】
具体的なプライマーペアの設計は、増幅対象となる領域のヌクレオチド配列に基づいて当業者が適宜行うことができる。例えば、プライマーペアの一方のプライマーを、増幅対象領域のヌクレオチド配列中における5’末端部分の配列を有するものとし、他方のプライマーを、増幅対象領域の相補鎖のヌクレオチド配列中における5’末端部分の配列を有するものとすることができる。
【0039】
プライマーの長さ及び具体的配列は特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。たとえば、6種の遺伝子マーカー及び2種のレファレンス遺伝子のうち複数、好ましくは全部の同時測定のために、アニーリング温度条件が揃うTm値となるよう設計することができる。
【0040】
プライマーの長さは、たとえば18ヌクレオチド以上30ヌクレオチド以下、好ましくは18ヌクレオチド以上26ヌクレオチド以下に設定できる。
【0041】
プライマーの具体的配列としては、たとえば以下が挙げられる。
・B4GALNT1に対するプライマー
5'- TGA AAG CAG CCT CAT GTC C -3' (sense) (配列番号9)
5'- CAA CTC AAC AGG CAA CTA CAA C -3' (antisense) (配列番号10)
・CHRNA3に対するプライマー
5'- CCT CCC CAG TGT ACT TGA GT -3' (sense) (配列番号11)
5'- GGA AGC CAG ACA TTG TGC T -3' (antisense) (配列番号12)
・CRMP1に対するプライマー
5'- TGG CTT CAA TGG TCT TCA CTC -3' (sense) (配列番号13)
5'- CAT CAA AGG TGG ACG GAT CA -3' (antisense) (配列番号14)
・DBHに対するプライマー
5'- CAC TGT GAC CAC CTT TCT CC -3' (sense) (配列番号15)
5'- CTT CAT CCT CAC TGG CTA CTG -3' (antisense) (配列番号16)
・PHOX2Bに対するプライマー
5'- CTC CTG CTT GCG AAA CTT G -3' (sense) (配列番号17)
5'- CTC ACT ACC CCG ACA TCT ACA -3' (antisense) (配列番号18)
・THに対するプライマー
5'- GGT CTC TAG ATG GTG GAT TTT GG -3' (sense) (配列番号19)
5'- TGC TAA ACC TGC TCT TCT CC -3' (antisense) (配列番号20)
【0042】
・HPRT1に対するプライマー
5'- GCG ATG TCA ATA GGA CTC CAG -3' (sense) (配列番号21)
5'- TTG TTG TAG GAT ATG CCC TTG A -3' (antisense) (配列番号22)
・HMBSに対するプライマー
5'- AGG GTA CGA GGC TTT CAA TG -3' (sense) (配列番号23)
5'- CAT GTC TGG TAA CGG CAA TG -3' (antisense) (配列番号24)
【0043】
プライマーは、増幅対象の検出に適した付加的配列(具体的にはゲノムDNAと相補的でない配列)、例えばリンカー配列をさらに含んでいてもよい。また、プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(たとえば、125I、131I、3H、14Cなど)、酵素(たとえば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素など)、蛍光物質(たとえば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート、Cy3、Cy5など)、発光物質(たとえば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなど)などで標識されていてもよい。さらに、プライマーは、各々別個に、または各々の機能を損なわなければ混合した状態で、水または適当な緩衝液(たとえば、TEバッファー、Tris-HClバッファーなど)中に適当な濃度(たとえば、2×以上20×以下の濃度で1μM以上50μM以下など)となるように溶解し、約-20℃で保存することができる。
【0044】
[1-4.プローブ]
本発明の試薬に含まれてよいプローブは、上述の遺伝子マーカー及びレファレンス遺伝子それぞれをコードする配列またはその相補鎖配列を検出しうるポリヌクレオチド分子である。具体的には、プローブとして、上述の遺伝子マーカーを構成するポリヌクレオチドまたはその相補鎖なポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズうるポリヌクレオチド分子を用いることができる。
【0045】
ストリンジェントな条件とは、0.5%SDS、5×デンハルツ〔Denhartz’s、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400〕および100μg/mlサケ精子DNAを含む6×SSC(1×SSCは、0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)中で、50℃~65℃で4時間~一晩保温する条件をいう。
【0046】
ハイブリダイズにおいては、ポリヌクレオチド分子がストリンジェントな条件下で遺伝子マーカーまたはレファレンス遺伝子に特異的にハイブリダイズし、且つ、遺伝子マーカーまたはレファレンス遺伝子以外のポリヌクレオチド分子にはハイブリダイズしない。
【0047】
また、本発明における遺伝子マーカーまたはレファレンス遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチド分子は、上記特異的なハイブリダイズが可能であれば、その遺伝子マーカーまたはそのレファレンス遺伝子に対して完全に相補的である必要はないが、好ましくは、その遺伝子マーカーまたはそのレファレンス遺伝子に相補的なポリヌクレオチド分子の全部または一部の配列を含んで構成される。
【0048】
本発明におけるプローブは、市販のオリゴヌクレオチド合成機等を用いて合成オリゴヌクレオチドとして作製してもよいし、あるいは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製してもよい。
【0049】
本発明におけるプローブの鎖長は、たとえば18ヌクレオチド以上30ヌクレオチド以下、好ましくは18ヌクレオチド以上26ヌクレオチド以下であってよい。
【0050】
本発明におけるプローブは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(たとえば、125I、131I、3H、14Cなど)、酵素(たとえば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素など)、蛍光物質(たとえば、カルボキシフルオレセイン、フルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアネート、Cy3、Cy5、VICなど)、発光物質(たとえば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなど)、クエンチャー(例えば、TAMRA、ブラックホール、IowaBlack、BlackBerry、ZEM、TAO)などで標識されていてもよい。
【0051】
本発明におけるプローブは、少なくとも5’末端蛍光物質による標識と3’末端クエンチャーとによる標識とを含むことが好ましい。より具体的には、本発明におけるプローブは、1個の5’末端蛍光物質と1個の3’末端クエンチャー(例えば、TAMRA、ブラックホール、IowaBlack、BlackBerryなど)とで標識された、シングルクエンチャープローブとして構成されてもよいし、1個の5’末端蛍光物質と1個の3’末端クエンチャー(例えば、TAMRA、ブラックホール、IowaBlack、BlackBerryなど)との間に、1個の内部クエンチャー(例えば、ZEM、TAO等)が組み込まれたダブルクエンチャープローブとして構成されてもよい。
【0052】
[1-5.他の成分]
本発明の試薬は、上述のプライマーとして挙げた成分、またはプライマーおよびプローブとして挙げた成分に加え、他の成分として、基剤;プライマー及び/又はプローブの安定化等を目的とする添加物;核酸増幅に必要な成分(水、緩衝剤、核酸合成酵素、核酸合成基質等);並びに標識(当該標識は、プライマー及び/又はプローブが非標識の態様で含まれている場合に含まれ得る)から選ばれる1または複数の成分を含んでよい。他の成分は、上述のプライマー及びプローブのそれぞれとともに配合されて組成物の形態で製剤化されていてもよいし、上述のプライマー、プローブ及び他の成分がそれぞれ個装された形態のキットアイテムをなしていてもよい。
[1-6.使用方法]
本発明の試薬の具体的な使用方法は、「2.神経芽腫の微小残存病変を評価するための生体試料の分析方法」に記載の通りである。
【0053】
[2.神経芽腫の微小残存病変を評価するための生体試料の分析方法]
本発明における6種の遺伝子マーカーは、2種のレファレンス遺伝子の組み合わせで使用されることで、神経芽腫の微小残存病変を正確に評価できる。したがって、本発明の生体試料の分析方法は、6種の遺伝子マーカー及び2種のレファレンス遺伝子の、生体試料中における発現量を、上記「1.神経芽腫の微小残存病変を評価するための試薬」に記載の試薬を用いて核酸増幅法により測定する測定工程と、前記遺伝子マーカーの発現量に基づく評価値が、健常者における定量値を参照して設定されるカットオフ値以上か否かを評価する評価工程とを含み、前記発現量が神経芽腫の微小残存病変の発生レベルと相関(正の相関)し、且つ、前記評価工程において、前記評価値が前記カットオフ値以上である場合に、前記生体試料の神経芽腫の微小残存病変を陽性と判定することを特徴とする。
【0054】
[2-1.測定工程]
測定工程においては、上記「1.神経芽腫の微小残存病変を評価するための試薬」の「1-1.神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカー」で述べた神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカー、及び「1-2.レファレンス遺伝子」で述べたレファレンス遺伝子の、生体試料中における発現量を、核酸増幅法により測定する。具体的には、生体試料中に含まれる核酸を鋳型として、上記「1.神経芽腫の微小残存病変を評価するための試薬」の「1-3.プライマーペア」で述べたプライマーペアを用いて核酸増幅を行い、得られた増幅産物の発現量を測定する。
【0055】
生体試料は、神経芽腫患者に由来する試料であってよい。生体試料の採取時期については、初発患者の診断(初診)時以降における、神経芽腫の微小残存病変の診断を要する任意の時期から選択される。ここで、全身療法(化学療法)が適応となる神経芽腫患者が初診後にたどり得る経過としては、緩解導入療法、地固め療法、維持療法、無治療経過観察、再発診断、及び救済療法が挙げられる。地固め療法では、大量化学療法、自家末梢血幹細胞移植、外科手術、及び放射線療法がこの順で行われ得る。
【0056】
従って、生体試料の具体的な採取時期としては、初発患者の、診断(初診)時、寛解導入療法終了時、地固め療法終了時(大量化学療法終了時、又は、地固め療法を構成する全ての治療終了時)、維持療法終了時、及び無治療経過観察時等、並びに、再発患者の、診断(再発診断)時及び救済療法終了時等が挙げられる。本発明は、これらの採取時期のいずれかの時期のみに適用してもよいし、これらの採取時期のうち複数の時期に適用してもよい。本発明において、生体試料の採取時期の特に好ましい例は、初発患者の地固め療法終了時以降であり、具体的には、地固め療法終了時、及び/又は、地固め療法終了時よりも後、且つ再発診断時よりも前(より具体的には、維持療法終了時及び/又は無治療経過観察時)である。
【0057】
また、神経芽腫患者は、再発リスクの高い中間リスク又は高リスク患者であることが好ましい。つまり、本発明の分析方法は、再発リスクの高い中間リスク又は高リスク神経芽腫患者の予後予測に用いられることが好ましく、特に初発の高リスク神経芽腫患者の地固め療法終了時における予後予測に用いられることが好ましい。
【0058】
生体試料は、被験者の核酸を含む試料であれば特に限定されず、使用する検出方法の種類に応じて適宜選択することができる。たとえば、生体試料としては、被験者から採取された生体組織、具体的には、骨髄検体または末梢血検体等、好ましくは骨髄検体から常法に従って調製した、RNA(例えば、total RNA、mRNAなど)の核酸試料が挙げられる。
【0059】
核酸増幅法としては、当技術分野において公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、核酸増幅法としては、通常のPCR法、リアルタイムPCR法、デジタルPCR法等を用いることができる。好ましくは、核酸増幅法としてデジタルPCR法を用いることができる。神経芽腫の微小残存病変の正確な評価のより好ましい達成は、極めて微量な遺伝子マーカーの発現を検出することによってなされるが、デジタルPCRを用いることは、遺伝子マーカーの発現量が少ない検体であっても感度よく検出することができる点で神経芽腫の微小残存病変の検出に特に適している。それだけでなく、デジタルPCRは、分析主体、分析時期、分析機器、プロトコル(反応時間、反応温度等)等が異なっても測定結果のばらつきが少なく、正確に神経芽腫の微小残存病変を検出することもできる点でも好ましい。したがって、デジタルPCRを用いることは、神経芽腫の微小残存病変の評価において汎用性の高さおよび信頼性の高さ等の点でも好ましい。
【0060】
デジタルPCRでは、まず、大きな容量の開始試料が複数のより小さな部分容量の試料(分割試料)に分割される。当該分割試料は、平均で単一コピーの標的を含むように調製される。このように分割試料中に存在するポリヌクレオチド分子が0分子(陰性)または1分子(陽性)となることにより、デジタル性が達成される。分割試料における陽性を計数することにより、開始試料中の標的の開始コピー数を推定することができる。従って、デジタルPCRでは、生体試料中の標的が低い濃度であっても、標的の定量が可能となる。なお、分割試料をデジタル性が達成される適正濃度とするためには、開始試料の複数連続希釈法を用いることができ、その容量は用いるPCR装置に応じて決定することができる。このようにして、増幅対象(標的)である遺伝子マーカーの発現量を定量することができる。
【0061】
デジタルPCRとしては、好ましくは、液滴ベースのデジタルドロップレットPCR(ddPCR)が挙げられる。ddPCR法は、具体的には、液滴生成工程、PCR増幅工程、検出工程、及び分析工程を含む。液滴生成工程では、核酸増幅に必要な試薬を含む複数の液滴を生成する。PCR増幅工程ではそれらの液滴(または当該液滴が入っているより大きな反応体積を有する試料)を標的の増幅に適切な熱サイクリング条件に付す。検出工程では、PCR産物を含む液滴(又は当該液滴が入っているより大きな反応体積を有する試料)と含まない液滴(又は当該液滴が入っているより大きな反応体積を有する試料)との特定を行う。分析工程では、標的である遺伝子マーカーの発現量を導出する。
【0062】
さらに、測定工程においては、上記「1.神経芽腫の微小残存病変を評価するための試薬」の「1-4.プローブ」で述べたプローブを生体試料中の核酸にハイブリダイズさせる工程を含んでもよい。これにより、増幅産物の検出を標識に基づいて行うことができる。例えば、少なくとも5’末端蛍光物質による標識と3’末端クエンチャーとによる標識とを含むプローブを用いる場合、遺伝子マーカーにプローブがハイブリダイズし、プライマーからの伸長反応がそのハイブリダイゼーション領域に到達した際にポリメラーゼの作用によって5’末端蛍光物質が遊離する。遊離した蛍光物質はクエンチャーの消光作用から開放されることで蛍光を発し、蛍光強度に基づいて遺伝子マーカーの発現量を導出する。
【0063】
[2-2.評価工程]
評価工程では、神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーの発現量に基づく評価値が、健常者における定量値を参照して設定されるカットオフ値以上か否かを評価し、前記カットオフ値以上である場合に、前記生体試料の神経芽腫の微小残存病変を陽性と判定する。
【0064】
[2-2-1.遺伝子マーカーの発現量]
神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーの発現量の取り扱いについては特に限定されず、疾患遺伝子マーカーを用いて疾患を診断する公知の方法に準じることができる。具体的には、神経芽腫の微小残存病変の6種の遺伝子マーカーそれぞれの発現量(以下において、これらの発現量を、それぞれ、「A1」~「A6」と記載する。)は、mRNAへの転写量(つまりコピー数)として定量化することができる。6種の遺伝子マーカーそれぞれの発現量A1~A6は、絶対コピー数であってもよいし、レファレンス遺伝子のコピー数に対する相対量(つまり、6種の遺伝子マーカーそれぞれのコピー数をレファレンス遺伝子のコピー数で除した値)であってもよい。
【0065】
本発明において、より正確な分析を行う観点からは、6種の遺伝子マーカーそれぞれの発現量A1~A6は、レファレンス遺伝子の発現量に対する6種の遺伝子マーカーそれぞれの発現量の相対量であることが好ましい。更に分析値の取扱いを容易にする観点から、当該相対量は、6種の遺伝子マーカーそれぞれのコピー数をレファレンス遺伝子のコピー数で除し且つ10,000を乗じて得た値であることが好ましい。
【0066】
なお、レファレンス遺伝子の発現量(コピー数)としては、2種のレファレンス遺伝子の発現量の平均値を用いることができる。当該平均値としては、算術平均値(つまり2種のレファレンス遺伝子の発現量の相加平均値)及び幾何平均値(つまり2種のレファレンス遺伝子の発現量数の相乗平均値)が挙げられるが、本発明においては幾何平均値を用いることがより好ましい。
【0067】
[2-2-2.発現量に基づく評価値]
発現量に基づく評価値の求め方についても特に限定されず、神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーパネル及びレファレンス遺伝子を用いて神経芽腫の微小残存病変の発生を評価する公知の方法に準じることができる。
【0068】
例えば、発現量に基づく評価値としては、6種の遺伝子マーカーについて得られる上記「2-2-1.遺伝子マーカーの発現量」で述べた発現量の、総和又は平均値(より具体的には算術平均値又は幾何平均値)であってもよいし、6種の遺伝子マーカーについて得られる上記「2-2-1.遺伝子マーカーの発現量」で述べた発現量を公知の方法で補正した値の、総和又は平均値(より具体的には算術平均値又は幾何平均値)であってもよい。
【0069】
本発明においては、発現量に基づく評価値として、6種の遺伝子マーカーについて得られる上記「2-2-1.遺伝子マーカーの発現量」で述べた発現量を以下の方法で補正した値(以下の重み付き発現量AB1~AB6)の、総和又は平均値(より具体的には算術平均値又は幾何平均値)であることが好ましい。以下、この場合の発現量に基づく評価値について詳述する。
【0070】
(重み付き発現量AB1~AB6)
6種の遺伝子マーカーは、健常コントロール(以下、単に「コントロール」と記載する。)における発現態様がそれぞれに異なる。具体的には、コントロール(n>100)における6種の遺伝子マーカーの発現量(上記「2-2-1.遺伝子マーカーの発現量」と同様にして得られる発現量であり、好ましくはデジタルPCRに基づいて得られる発現量である。)の統計において、発現量を小さい方からで並べて100等分すると、遺伝子マーカーが初めて検出されるパーセンタイル及び遺伝子マーカーの発現量が、それぞれのマーカーで様々に異なる。例えば、6種の遺伝子マーカーのうちCRMP1とDBHとを挙げると、CRMP1は比較的低いパーセンタイル(例えば6パーセンタイル程度)から検出される一方でDBHは比較的高いパーセンタイル(例えば52パーセンタイル程度)から検出され、より高いパーセンタイル(例えば90パーセンタイル程度)における発現量を比較するとDBHよりCRMP1の方ではるかに発現量が高い。
【0071】
つまり、上記のコントロールにおける6種の遺伝子マーカー各々の発現量の統計に鑑みると、6種の遺伝子マーカーはそれぞれに重みつまり重要度が異なっている(さらに言い換えると非重要度が異なっている)といえる。例えば、CRMP1とDBHとを比較すると、コントロールにおいて比較的検出されやすく検出量も比較的大きいCRMP1の方で重要度がより低い(つまり非重要度がより高い)といえる。このような重要度の違い(つまり非重要度の違い)は、6種の遺伝子マーカーそれぞれの間で存在する。
【0072】
このため、本発明においては、神経芽腫の微小残存病変における分析の感度及び特異度を総合的に向上させる観点から、発現量の補正の方法として、上記「2-2-1.遺伝子マーカーの発現量」で述べた6種の遺伝子マーカーの発現量A1~A6の各々に対し、コントロールにおける前記6種の遺伝子マーカー各々の発現量の統計学的数値(以下において、6種の遺伝子マーカー各々に対応するこれらの統計学的数値を、それぞれ、「B1」~「B6」と記載する。)を加味した重み付けを行うことが好ましい。このような重み付けを行うことで、6種の遺伝子マーカーの発現量A1~A6が、それらの非重要度を意味する数値である統計学的数値B1~B6それぞれにより補正され、重み付き発現量(以下において、発現量A1~A6各々に対応するこれらの重み付き発現量を、「AB1」~「AB6」と記載する。)が得られる。(この重み付き発現量AB1~AB6の幾何平均又は総和を、発現量に基づく評価値として得ることができる。)
【0073】
なお、コントロールにおける遺伝子マーカー各々の発現量の統計学的数値を加味した重み付けを行う方法の詳細は、特許文献2(国際公開第2021/006345号)で述べられている通りであり、本発明において当該統計学的数値B1~B6の具体例及び重み付けの方法は、当該公報の記載に準じる。
【0074】
つまり、当該統計学的数値B1~B6としては、固定パーセンタイル(つまり、コントロールにおいて6種の遺伝子マーカー全てが検出されるパーセンタイルのうちのいずれかであって、6種の遺伝子マーカー全てに対して共通して採用される1個の特定のパーセンタイル)における発現量、又は可変パーセンタイル(つまり、コントロールにおける6種の遺伝子マーカー各々の発現量において、神経芽腫の微小残存病変の有無に関するカットオフ値に最も近い発現量を示すパーセンタイルであって、6種の遺伝子マーカー各々に対応するよう設定されるパーセンタイル)における発現量を用いることができる。
【0075】
また、重み付き発現量AB1~AB6を得る重み付けの方法としては、除法により重み付けを行う方法と、減法により重み付けを行う方法とが挙げられる。
【0076】
(除法による重み付け)
除法により重み付けを行う場合、具体的には、発現量A1~A6各々を統計学的数値B1~B6で除して、重み付き発現量AB1~AB6を得る。例えば、重み付き発現量AB1は{A1/B1}、重み付き発現量AB2は{A2/B2}、・・・、重み付き発現量AB6は{A6/B6}として得られる。統計学的数値B1~B6は、いずれも0でないことを条件として、上記のパーセンタイルにおける発現量及び可変パーセンタイルにおける発現量のいずれも用いることができる。
【0077】
(減法による重み付け)
減法により重み付けを行う場合、具体的には、発現量A1~A6各々から統計学的数値B1~B6を差し引いて、重み付き発現量AB1~AB6を得る。例えば、重み付き発現量AB1は{A1-B1}、重み付き発現量AB2は{A2-B2}、・・・、重み付き発現量AB6は{A6-B6}として得られる。統計学的数値B1~B6としては、固定パーセンタイルにおける発現量及び可変パーセンタイルにおける発現量のいずれも用いることができる。
発現量に基づく評価値を、重み付き発現量AB1~AB6の幾何平均として得る場合については、発現量A1~A6各々から統計学的数値B1~B6を差し引いた結果1未満となるものがある場合、その重み付き発現量は1とする。例えば、{A1-B1}>1、{A2-B2}<1、・・・、{A6-B6}>1である場合、重み付き発現量AB1は{A1-B1}、重み付き発現量AB2は1、・・・重み付き発現量AB6は{A6-B6}となる。また、発現量に基づく評価値を、重み付き発現量AB1~AB6の総和として得る場合については、発現量A1~A6各々から統計学的数値B1~B6を差し引いた結果負の数値となるものがある場合、その重み付き発現量は0とする。例えば、{A1-B1}>0、{A2-B2}<0、・・・、{A6-B6}>0である場合、重み付き発現量AB1は{A1-B1}、重み付き発現量AB2は0、・・・重み付き発現量AB6は{A6-B6}となる。
【0078】
(発現量に基づく評価値)
発現量に基づく評価値が、重み付き発現量AB1~AB6の幾何平均である場合、減法により重み付けを行った場合の当該評価値は、{Π[i=1→6](Ai-Bi)}1/6(但し、Ai-Bi<1の場合、Ai-Bi=1とする。)で表される。
発現量に基づく評価値が、重み付き発現量AB1~AB6の総和である場合、減法により重み付けを行った場合の当該評価値は、Σ[k=1→6](Ak-Bk)(但し、Ak-Bk<0の場合、Ak-Bk=0とする。)で表され、また、除法により重み付けを行った場合の当該評価値は、Σ[k=1→6](Ak/Bk)で表される。
【0079】
本発明においては、発現量に基づく評価値として、発現量A1~A6各々を統計学的数値B1~B6で除することで重み付けして得られる重み付き発現量AB1~AB6の総和、つまりΣ[k=1→6](Ak/Bk)であることが特に好ましい。
【0080】
[2-2-3.カットオフ値]
遺伝子マーカーの発現量のカットオフ値は、上述の手法により予め測定することで経験的に収集した評価値を参照し、公知の統計手法により設定することができる。カットオフ値の具体的な設定手法としては、たとえば、{対照細胞における遺伝子マーカーの発現量の平均値±n×標準偏差}として導出する方法、ROC(Receiver Operating Characteristic)分析法などが挙げられ、好ましくはROC分析法が挙げられる。
【実施例0081】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。以下の実施例では、神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーとして、B4GALNT1(配列番号1)、CHRNA3(配列番号2)、CRMP1(配列番号3)、DBH(配列番号4)、PHOX2B(配列番号5)、及びTH(配列番号6)を用い、レファレンス遺伝子として、HPRT1(配列番号7)及びHMBS(配列番号8)を用いた。
【0082】
[試験例1]神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカー及びレファレンス遺伝子の決定
[1]レファレンス遺伝子の決定
レファレンス遺伝子の候補として、GUSB、HMBS、HPRT1、TBPを選択した。このうち、レファレンス遺伝子として上手く働かないGUSBを除外した。残りの3種のレファレンス遺伝子について、コントロール骨髄10検体及びコントロール末梢血10検体における発現量を測定し、いずれの検体でも発現量の変化が少なく安定的な発現を示したHPRT1及びHMBSを、レファレンス遺伝子として決定した。
【0083】
[2]神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーの決定
神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーの一次候補として、非特許文献1、特許文献1及び特許文献2で用いられた7種の遺伝子マーカー(RMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、TH)と、2種の間葉系マーカー(POSTN、PRRX1)と、1種のGD2合成酵素マーカー(B4GALNT1)と、非特許文献2で用いられた遺伝子マーカーのうちの1種(CHGA)、その他既報の遺伝子マーカーの内の9種(CCND1、CHGB、CHRNA3、GABRB3、KIF1A、SNAP91、ST8SIA2、STMN2、UCHL1)からなる20種のマーカーを選択した。
【0084】
スクリーニング用サンプルとして、Parental NB細胞株(BE(2)-C、SY-5Y、NB69、IMR32)4検体、Sphere NB細胞株(BE(2)-C、SY-5Y、NB69、IMR32)4検体、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)4検体、臍帯由来間葉系幹細胞(UC-MSC)4検体、コントロール骨髄10検体、及びコントロール末梢血10検体を選択した。
【0085】
スクリーニング用サンプルにおける発現量を測定し、コントロール骨髄における発現量の多い遺伝子、コントロール末梢血における発現量の多い遺伝子、Sphere NB細胞株における発現量の少ない遺伝子を絞り込んだ。なお、神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカーの発現量は、レファレンス遺伝子の発現量に対する遺伝子マーカーの発現量の相対量として導出した。さらに、レファレンス遺伝子の発現量としては、[1]で決定した2つのレファレンスの発現量の幾何平均値を用いた(以下においても同様)。その結果、CCND1、UCHL1、CHGB、STMN2、SNAP91、ST8SIA2を除外し、それ以外の14種の遺伝子マーカーを二次候補として選択した。
【0086】
地固め療法終了時に採取した骨髄16検体コホート(再発9検体及び非再発7検体からなる。1患者1検体。)における二次候補の14種の遺伝子マーカーの発現量を測定し、当該14種の遺伝子マーカーから1~6個の任意の数の遺伝子を選ぶ全ての組み合わせ(6475通り)から、AUC(点推定値)>0.8且つAUCの下限値(信頼区間下限値)>0.7となるマーカーの組み合わせ(83通り)を選出し、そこから、B4GALNT1を含み且つGAP43を含まないマーカーの組み合わせ(70通り)を選出し、そこから、DBH及びPHOX2B/THを含むマーカーの組み合わせ、且つ、特異度>80%、感度>50%となるカットオフを設定可能なマーカーの組み合わせ(43通り)を選出した。
【0087】
43通りの遺伝子マーカー候補(NB-mRNAs)の組み合わせについて、地固め療法終了時よりも後、再発診断時より前(具体的には、維持療法終了時及び無治療経過観察時等)に採取した骨髄57検体コホート(再発7検体及び非再発50検体からなる。1患者複数検体。)における神経芽腫の微小残存病変の遺伝子マーカー候補の発現量を測定し、正確性の高い診断が可能な以下の3通りの組み合わせを選出した。
【0088】
【表1】
【0089】
結果、最も正確性の高い診断が可能なB4GALNT1、CHRNA3、CRMP1、DBH、PHOX2B、及びTHの6種からなる遺伝子マーカーの組み合わせを選出した。
【0090】
[試験例2]6種の遺伝子マーカーの臨床性能
[1]プライマー及びプローブの設計
6種の遺伝子マーカー及び2種のレファレンス遺伝子それぞれについて、以下に示すプライマー及びプローブ(ダブルクエンチャープローブ)を設計した。
【0091】
【表2】
【0092】
[2]遺伝子マーカーの発現量A1~A6のデジタルPCR測定
1)抗凝固剤(EDTAまたはヘパリン)を含む検体(骨髄検体又は末梢血検体)2 ml~5 mlから、モノ・ポリ分離溶液(DSファーマバイオメディカル社製)を用いて有核細胞を遠心分離した。
2)得られた有核細胞から、TRIZOL PLUS RNA Purification kit(ライフテクノロジー社製)を用いてtotal RNAを抽出し、使用するまで-80℃で保存した。
3)Nanodrop 2000分光光度計(ThermoFisher Scientific社)によってRNA濃度を測定し、Total RNAの品質について、2100 Bioanalyzer(アジレントテクノロジー社製)を用いてその完全性を評価した。
4)品質を評価したtotal RNA 1.0 μgからQuantiTect Reverse Transcription kit(キアジェン社製)を用いてcDNAを合成し、total 80μlとなるようにTE bufferで希釈した。
【0093】
5)QX200 Droplet Digital PCR System(バイオラッド社製)を用いて、6種の遺伝子マーカー全てを1回の操作で同時にddPCR(デジタルPCR)反応に供し、それぞれの遺伝子マーカーの発現量の解析を行った。
鋳型cDNA 1.0 μl(total RNA 12.5 ng相当)、2 x ddPCR Supermix for Probes(バイオラッド)10μl、Sense primer(x 20、IDT社製) 1.0 μl、Antisense primer(x 20、IDT社製) 1.0 μl、Probe(x 20、IDT社製) 1.0 μlを含む全量20 μlの反応液を調製した。
QX200 Droplet Generator (バイオラッド社製)を用いて反応液のドロップレットを作製し、各cDNAをC1000 Touch Thermal Cycler(バイオラッド社製)で増幅した。熱サイクル条件は、95℃で10分間の予備サイクル、94℃で30秒及び56℃1分30秒を1サイクルとして40サイクル、及び98℃で10分間のポストサイクリングであった。温度上昇速度は2℃/秒であった。
ddPCR増幅後、液滴をQX200 Droplet Reader(バイオラッド社製)で測定し、標的コピー数をQuantaSoft(バージョン1.6.6、バイオラッド社製)によって分析した。非テンプレート対照(NTC)反応を用い、陽性および陰性液滴集団のカットオフ値を手動で設定した。全RNAの量およびcDNA合成効率の違いを補正するために、標的コピー数を、レファレンス遺伝子HPRT1及びHMBSを用いて標準化した(下記項目6)参照)。
なお、再現性のあるddPCR反応を確実にするために、1滴あたり最低0.045コピーのHPRT1 mRNAが得られたcDNAのみを選択し、選択したcDNAをさらに2~8倍希釈して1滴あたり最大0.45コピーとなるように調整した。結果として、ddPCR反応は、神経芽腫患者およびコントロールからのすべての試料について2~3回繰り返された。この研究は、デジタルMIQEガイドラインに従って実施された。
【0094】
6)サンプルの各遺伝子マーカーの発現量として、遺伝子マーカーのコピー数(copies per well)とレファレンス遺伝子のコピー数(copies per well)とから以下の式によりコピー数(Copies per sample)を算出した。なお、以下の式において、レファレンス遺伝子のコピー数は、HPRT1のコピー数及びHMBSのコピー数の幾何平均である。つまり、サンプルの各遺伝子マーカーの発現量A1~A6を、レファレンス遺伝子に対する相対発現量(相対コピー数;relative copy number)として得た。
【0095】
【数1】
【0096】
[3]発現量に基づく評価値
発現量に基づく評価値として、発現量A1~A6各々を統計学的数値B1~B6で除することで重み付けして得られる重み付き発現量AB1~AB6の総和、つまりΣ[k=1→6](Ak/Bk)を用いた。統計学的数値B1~B6としては、骨髄検体における発現量A1~A6に重み付けする場合は、コントロール骨髄101検体において上記[2]の方法でデジタルPCR測定された発現量を小さい方から並べて100等分したうちの、90パーセンタイルにおける発現量を用い、末梢血検体における発現量A1~A6に重み付けする場合は、コントロール末梢血105検体において上記[2]の方法でデジタルPCR測定された発現量を小さい方からで並べて100等分したうちの、90パーセンタイルにおける発現量を用いた。
【0097】
[4]骨髄検体の分析(実施例1)
地固め療法終了時に採取した骨髄16検体コホート(再発9検体及び非再発7検体からなる。1患者1検体。)に対して、上記[1]のプリマー及びプローブを用いて6種の遺伝子マーカーの発現量を上記[2]の方法で測定し、上記[3]の評価値を導出した。カットオフ値は3.5とし、6種の遺伝子マーカーの臨床性能を試験した。その結果、AUCは0.937(95%CIは0.821-1.000)であった。さらに、カプラン・マイヤープロットによる3年イベントフリー生存率(EFS)は、MRD≧3.5が0%、MRD<3.5が63.6%(p=0.00615)であり、3年全生存率(OS)は、MRD≧3.5が26.7%、MRD<3.5が90.0%(p=0.000409)であった。
【0098】
[5]末梢血検体の分析(実施例2)
地固め療法終了時に採取した骨髄5検体コホート(再発3検体及び非再発2検体からなる。1患者1検体。)に対して、上記[1]のプリマー及びプローブを用いて6種の遺伝子マーカーの発現量を上記[2]の方法で測定し、上記[3]の評価値を導出した。カットオフ値は1.5とし、6種の遺伝子マーカーの臨床性能を試験した。その結果、AUCは0.833(95%CIは0.371-1.000)であった。
【0099】
[試験例3]
試験例2の[4]に示す実施例1で用いた、地固め療法終了時に採取した骨髄16検体コホート(再発9検体及び非再発7検体からなる。1患者1検体。)に対して、遺伝子マーカーの組み合わせを表3に示すものに変更したことを除いて、同様にAUCを導出した。なお、表3に示す比較例1~9で用いた遺伝子マーカーの組み合わせは、既報(非特許文献1,9,7,2,5,4,6,3)において報告された遺伝子マーカーの組み合わせ、又は、当該組み合わせから試験例1の[2]で選出された二次候補に係る14種の遺伝子マーカーに含まれていないもの(具体的には、二次候補への絞り込み時に性能を悪くすると判断した、CCND1、DCX、及びELAV4)を除いた組み合わせである。結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3に示す通り、比較例1~9の遺伝子マーカーの組み合わせによるAUCは、0.587~0.786の範囲にとどまり、その優劣は、組み合わせを構成するマーカー数とは無関係であった。一方で、本発明の6種の遺伝子マーカーの組み合わせによるAUCは、0.937と飛躍的に向上し、その向上の程度も、当該技術水準から期待できる程度をはるかに超えるほどに顕著であった。
【配列表フリーテキスト】
【0102】
配列番号9~24はプライマーであり、配列番号25~32はプローブである。
【配列表】
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