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特開2024-114015電池用電解液及びリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114015
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】電池用電解液及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20240816BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240816BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240816BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20240816BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20240816BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/0567
H01M10/052
H01M50/417
H01M50/491
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019360
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】507317502
【氏名又は名称】エリーパワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】三橋 遼
(72)【発明者】
【氏名】古谷 亮太
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021CC02
5H021EE04
5H021HH01
5H021HH03
5H029AJ02
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM07
5H029DJ04
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ06
(57)【要約】
【課題】本発明は、セパレータの細孔に浸み込みやすい電池用電解液を提供する。
【解決手段】本発明の電池用電解液は、イオン液体と、前記イオン液体に溶解したリチウム塩と、前記イオン液体に溶解したカチオン界面活性剤とを含み、前記イオン液体は、EMI-FSIであり、前記リチウム塩は、LiFSIであり、前記カチオン界面活性剤は、疎水基と親水基とを含み、前記疎水基は、総炭素数が16以上25以下であるアルキル基又はアルケニル基であり、かつ、炭素数が16以上である主鎖を有し、前記親水基は、ピリジニウムカチオン又は第四級アンモニウムカチオンを含み、前記カチオン界面活性剤は、カウンターアニオンとして臭化物アニオン、テトラフルオロホウ素アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン又は硫酸水素アニオンを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体と、前記イオン液体に溶解したリチウム塩と、前記イオン液体に溶解したカチオン界面活性剤とを含み、
前記イオン液体は、EMI-FSIであり、
前記リチウム塩は、LiFSIであり、
前記カチオン界面活性剤は、疎水基と親水基とを含み、
前記疎水基は、総炭素数が16以上25以下であるアルキル基又はアルケニル基であり、かつ、炭素数が16以上である主鎖を有し、
前記親水基は、ピリジニウムカチオン又は第四級アンモニウムカチオンを含み、
前記カチオン界面活性剤は、カウンターアニオンとして臭化物アニオン、テトラフルオロホウ素アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン又は硫酸水素アニオンを含むことを特徴とする電池用電解液。
【請求項2】
前記電池用電解液における前記カチオン界面活性剤の割合は、0.5wt%以上4.0wt%以下である請求項1に記載の電池用電解液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電池用電解液と、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータとを含み、
前記セパレータは、ポリオレフィン多孔フィルムを含むリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記セパレータの細孔は、0.01μm以上0.5μm以下の平均細孔径を有する請求項3に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電解液及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
難揮発性であるイオン液体を含む電解液を用いたリチウムイオン電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような電池は、電池ケースの破損などにより電池から電解液が漏れ出たとしても電解液が発火しにくいため安全性が高い。
リチウムイオン電池は、正極と負極との間に配置された多孔性セパレータを有する。多孔性セパレータは、正極が負極と接触することを防止するように設けられ、かつ、セパレータの細孔が電解液で満たされるように設けられる。このことにより、正極と負極との間に短絡電流が流れることを防止することができ、かつ、正極又は負極から電解液中に溶出したリチウムイオンが他方の電極へと移動することができ充放電が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-204725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン液体を含む電解液(イオン液体電解液)は、一般的に、ポリオレフィン系セパレータの細孔に浸み込みにくい。このため、リチウムイオン電池の充放電性能が低下する。イオン液体電解液がセパレータの細孔に浸み込みにくい理由は明らかではないが、イオン液体電解液が比較的高い表面張力を示すこと、セパレータの表面とイオン液体電解液との間に静電的反発が生じることなどが考えられる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、セパレータの細孔に浸み込みやすい電池用電解液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、イオン液体と、前記イオン液体に溶解したリチウム塩と、前記イオン液体に溶解したカチオン界面活性剤とを含み、前記イオン液体は、EMI-FSIであり、前記リチウム塩は、LiFSIであり、前記カチオン界面活性剤は、疎水基と親水基とを含み、前記疎水基は、総炭素数が16以上25以下であるアルキル基又はアルケニル基であり、かつ、炭素数が16以上である主鎖を有し、前記親水基は、ピリジニウムカチオン又は第四級アンモニウムカチオンを含み、前記カチオン界面活性剤は、カウンターアニオンとして臭化物アニオン、テトラフルオロホウ素アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン又は硫酸水素アニオンを含むことを特徴とする電池用電解液を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の電池用電解液は、セパレータの微細孔に比較的短い時間で浸み込むことができる。このことは本願発明者が行った実験により明らかになった。この理由は明らかではないが、本発明の電池用電解液が、上述のカチオン界面活性剤を含むことにより、電池用電解液の表面張力が低下し電解液がセパレータの微細孔に浸み込みやすくなることが考えられる。また、セパレータの表面とイオン液体との間の静電的反発が上述のカチオン界面活性剤により抑制され電解液がセパレータの微細孔に浸み込みやすくなることが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(a)はアルキル基の化学構造式であり、(b)はアルケニル基の化学構造式である。
図2】(a)はピリジニウムカチオンを含む親水基の化学構造式であり、(b)は第四級アンモニウムカチオンを含む親水基の化学構造式である。
図3】ヘキサデシルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラートの化学構造式である。
図4】本発明の一実施形態のリチウムイオン電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の電池用電解液は、イオン液体と、前記イオン液体に溶解したリチウム塩と、前記イオン液体に溶解したカチオン界面活性剤とを含み、前記イオン液体は、EMI-FSIであり、前記リチウム塩は、LiFSIであり、前記カチオン界面活性剤は、疎水基と親水基とを含み、前記疎水基は、総炭素数が16以上25以下であるアルキル基又はアルケニル基であり、かつ、炭素数が16以上である主鎖を有し、前記親水基は、ピリジニウムカチオン又は第四級アンモニウムカチオンを含み、前記カチオン界面活性剤は、カウンターアニオンとして臭化物アニオン、テトラフルオロホウ素アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン又は硫酸水素アニオンを含む。
【0009】
前記電池用電解液における前記カチオン界面活性剤の割合は、0.5wt%以上4.0wt%以下であることが好ましい。
本発明は、本発明の電池用電解液と、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータとを含むリチウムイオン電池も提供する。前記セパレータは、ポリオレフィン多孔フィルムを含むことが好ましい。
前記セパレータの細孔は、0.01μm以上0.5μm以下の平均細孔径を有することが好ましい。
【0010】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0011】
電池用電解液
本実施形態の電池用電解液は、イオン液体と、前記イオン液体に溶解したリチウム塩と、前記イオン液体に溶解したカチオン界面活性剤とを含み、前記イオン液体は、EMI-FSIであり、前記リチウム塩は、LiFSIであり、前記カチオン界面活性剤は、疎水基と親水基とを含み、前記疎水基は、総炭素数が16以上25以下であるアルキル基又はアルケニル基であり、かつ、炭素数が16以上である主鎖を有し、前記親水基は、ピリジニウムカチオン又は第四級アンモニウムカチオンを含み、前記カチオン界面活性剤は、カウンターアニオンとして臭化物アニオン、テトラフルオロホウ素アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン又は硫酸水素アニオンを含む。
【0012】
電池用電解液(イオン液体電解液)は、リチウムイオン電池に含まれる電解液又はリチウムイオン電池の作製に用いられる電解液である。また、リチウムイオン電池の作製において、本実施形態の電池用電解液を含浸させたセパレータをリチウムイオン電池に組み込むことができる。
イオン液体は、EMI-FSI(1-エチル-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド)であり、リチウム塩は、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)である。このリチウム塩は、上記イオン液体に高い溶解度で溶解する。
電池用電解液に含まれるイオン液体の割合は、特に限定されるものではないが、電解液全体の30~90質量%であることが好ましい。イオン液体の割合を30質量%以上とすることにより、電解液の耐熱性を向上させることができ、リチウムイオン電池の安全性を向上させることができる。また、イオン液体の割合を90質量%以下とすることにより、電解液が電荷のキャリアであるリチウムイオンを十分に含有することができ、リチウムイオン電池の内部抵抗を低減することができる。
【0013】
カチオン界面活性剤は、水などに溶けたときにイオンに解離し界面活性を示す原子団がカチオンとなる界面活性剤である。カチオン界面活性剤は、疎水基と親水基とを有する。電池用電解液におけるカチオン界面活性剤の割合は、例えば、0.5wt%以上4.0wt%以下とすることができる。界面活性剤の量が多すぎると、電解液がゲル化するおそれがある。界面活性剤の量が少なすぎると、セパレータに電解液を含浸する時間が長くなったり、電解液がセパレータに十分に含浸せず、ムラがでたりする。
【0014】
カチオン界面活性剤に含まれる疎水基は、総炭素数が16以上25以下であるアルキル基又は総炭素数が16以上25以下であるアルケニル基であり、かつ、炭素数が16以上である主鎖を有する。カチオン界面活性剤に含まれる親水基は、ピリジニウムカチオン又は第四級アンモニウムカチオンを含み、カチオン界面活性剤は、カウンターアニオンとして臭化物アニオン[Br]-、テトラフルオロホウ素アニオン[BF4-、ヘキサフルオロリン酸アニオン[PF6-又は硫酸水素アニオン[HSO4-を含む。このようなカチオン界面活性剤を含む電解液は、ポリオレフィン系セパレータの微細孔に浸み込むことができる。このことは、本願発明者が行った実験により明らかになった。また、このようなカチオン界面活性剤を含むイオン液体電解液を用いると、微細孔を有するポリオレフィン系セパレータ及びイオン液体電解液を含むリチウムイオン電池であっても、優れた充放電特性を有することができる。
この理由は明らかではないが、この電解液が、上述のカチオン界面活性剤を含むことにより、電池用電解液の表面張力が低下し電解液がセパレータの微細孔に浸み込みやすくなることが考えられる。また、セパレータの表面とイオン液体との間の静電的反発が上述のカチオン界面活性剤により抑制され電解液がセパレータの微細孔に浸み込みやすくなることが考えられる。
【0015】
アルキル基は、疎水性を有しCn2n-1-で表される官能基である。アルキル基は、例えば、図1(a)に示したような化学構造を有するC1837-で表される官能基である。本実施形態の電池用電解液がアルキル基を含むカチオン界面活性剤を含む場合、このアルキル基の総炭素数は16以上25以下である。また、このアルキル基は、炭素数が16以上の主鎖を有する。
アルケニル基は、疎水性を有し二重結合を有する炭化水素基であり、例えば、図1(b)に示したような化学構造を有するC918=C917-で表される官能基である。本実施形態の電池用電解液がアルケニル基を含むカチオン界面活性剤を含む場合、このアルケニル基の総炭素数は16以上25以下である。また、このアルケニル基は、炭素数が16以上の主鎖を有する。
【0016】
カチオン界面活性剤の親水基に含まれるピリジニウムカチオンは、例えば、図2(a)に示した化学構造を有する。
カチオン界面活性剤の親水基に含まれる第四級アンモニウムカチオンは、例えば、図2(b)に示した化学構造を有する。図2(b)の化学構造式中の「R」は炭化水素基である。図2(b)の化学構造式中の3つの「R」はメチル基であることが好ましい。
【0017】
本実施形態の電池用電解液に含まれるカチオン界面活性剤は、例えば、ヘキサデシルピリジニウムブロミド水和物、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラート、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヘキサフルオロホスファート、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム硫酸水素塩などである。
例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラートは、図3に示したような化学構造を有し、疎水基と親水基とを有する。疎水基の炭素数は16であり、親水基はトリメチルアンモニウム基(第四級アンモニウムカチオン)を含む。また、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラートは、カウンターアニオンとしてテトラフルオロホウ素アニオンを含む。
【0018】
リチウムイオン電池
図4は本実施形態のリチウムイオン電池の概略断面図である。
本実施形態のリチウムイオン電池20は、上述の電池用電解液5と、正極2と、負極3と、正極2と負極3との間に配置されたセパレータ4とを含み、セパレータ4は、ポリオレフィン多孔フィルムを含む。
リチウムイオン電池20は、コイン型電池であってもよく、パウチ型電池であってもよく、金属缶型電池であってもよい。また、正極2と、負極3と、セパレータ4とから構成される電極積層体は、スタック構造を有してもよく、巻回構造を有してもよい。
【0019】
電池用電解液5は、イオン液体と、前記イオン液体に溶解したリチウム塩と、前記イオン液体に溶解したカチオン界面活性剤とを含む上述した電解液である。イオン液体は難揮発性を有するため、電池ケースの破損などにより電解液5がリチウムイオン電池20から漏れ出たとしても電解液5は発火しない。このため、本実施形態のリチウムイオン電池20は高い安全性を有することができる。カチオン界面活性剤を含む上述した電解液5は、少なくともセパレータ4の細孔に存在すればよい。また、正極2の細孔に存在する電解液、負極3の細孔に存在する電解液、又は電極積層体の周りに存在する電解液は、カチオン界面活性剤を含んでいない電解液であってもよい。
【0020】
正極2は、正極集電シート6と、正極集電シート6上に設けられた多孔質の正極活物質層7とを有する。
正極集電シート6は、正極活物質層7を設けるための基材となるシートであり、正極電池端子(例えば、正極缶16)と正極活物質層7とを電気的に接続する導電体である。正極集電シート6は、例えば、アルミニウム箔である。
正極活物質層7は、多孔質層であり、正極活物質を含む層である。正極活物質層7は、正極集電シート6の片面上に設けられてもよく、正極集電シート6の両面上にそれぞれ設けられてもよい。
【0021】
正極活物質は、正極における電荷移動を伴う電子の受け渡しに直接関与する物質である。正極活物質層7に含まれる正極活物質は、例えば、オリビン型のLiFePO4、LixFe1-yyPO4(但し、0.05≦x≦1.2、0≦y≦0.8であり、MはMn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B、Nbのうち少なくとも1種以上である)、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-x2(x=0.01~0.99)、LiMnO2、LiMn24、LiCoxMnyNiz2(x+y+z=1)、Li(NixMnyCoz)O2(x+y+z=1)、LiNixCoyAlz2(x+y+z=1)、Li(NixMny)O2(x+y=1)などである。正極活物質層7は、これらの正極活物質を一種単独で又は複数種混合で含むことができる。
【0022】
正極活物質層7は、正極活物質の粉体がバインダにより接着された多孔質構造を有することができる。このことにより、正極活物質層7は、正極活物質粒子間に細孔を有することができる。この細孔は電解液5で満たされ、正極活物質粒子の表面において電極反応が進行する。
例えば、リチウムイオン電池20を充電する際には、正極活物質粒子に含まれるリチウム原子がリチウムイオン(Li+)として電解液5に放出され、リチウムイオン電池20が放電する際には、電解液5のリチウムイオンがリチウム原子として正極活物質粒子中に挿入される。
また、正極活物質層7に含まれる正極活物質粒子は、その表面に導電皮膜を有することができる。
【0023】
正極活物質層7は、導電助剤を含むことができる。導電助剤は、例えば、アセチレンブラックである。
正極活物質層7は、バインダを含むことができる。バインダは、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アクリロニトリルゴム、又はアクリロニトリルゴム-PTFE混合体などである。
【0024】
負極3は、負極活物質を有する電極である。負極活物質は、負極における電荷移動を伴う電子の受け渡しに直接関与する物質である。負極活物質は、例えば、炭素材料(ソフトカーボン、ハードカーボン、黒鉛など)、金属リチウム、チタン酸リチウム(LTO)、Sn合金などである。
【0025】
負極3は、負極集電シート11と、負極集電シート11上に設けられた負極活物質層12とを備えることができる。負極集電シート11は、負極活物質層12を設けるための基材となるシートであり、負極電池端子(例えば負極缶17)と負極活物質層12とを電気的に接続する導電体である。負極集電シート11は、例えば、銅箔である。
負極活物質層12は、負極活物質を含む層である。負極活物質層12は、負極集電シート11の片面上に設けられてもよく、負極集電シート11の両面上にそれぞれ設けられてもよい。負極活物質層12は、例えば、負極活物質の微粒子を含むことができる。
負極活物質層12は、バインダを含むことができる。バインダは、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、アクリロニトリルゴム、又はアクリロニトリルゴム-PTFE混合体などである。
負極活物質層12は、増粘剤を含むことができる。増粘剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)である。
【0026】
セパレータ4は、シート状であり、正極2と負極3との間に配置される。また、セパレータ4は、正極2、負極3と共に電極積層体を構成することができる。セパレータ4を設けることにより、正極2と負極3との間に短絡電流が流れることを防止することができる。
【0027】
セパレータ4の膜厚は、特に限定されるものではないが、5μm以上30μm以下であることが好ましい。セパレータ4の膜厚を5μm以上とすることにより、セパレータ4の電気絶縁性を向上させることができ、リチウムイオン電池20の安全性を向上させることができる。また、セパレータ4の膜厚を30μm以下とすることにより、正極-負極間のイオンの移動距離(拡散距離)を短くすることができ、リチウムイオン電池20の内部抵抗を低減することができる。
【0028】
セパレータ4の空隙率は、特に限定されるものではないが、20体積%以上80体積%以下であることが好ましい。セパレータ4の空隙率を20体積%以上とすることにより、電解液の保液量を増やすことができ、リチウムイオン電池20の充放電サイクル特性を向上させることができる。また、セパレータ4の空隙率を80体積%以下とすることにより、セパレータ4の電気絶縁性を向上させることができ、リチウムイオン電池20の安全性を向上させることができる。
【0029】
セパレータ4の透気度(ガーレー試験機法による透気度)は、特に限定されるものではないが、50~500sec/100ccであることが好ましい。セパレータ4の透気度を50sec/100cc以上とすることにより、セパレータ4の電気絶縁性を向上させることができ、リチウムイオン電池の安全性を向上させることができる。また、セパレータ4の透気度を500sec/100cc以下とすることにより、イオン液体電解液がセパレータ4に速やかに含浸することができる。
【0030】
セパレータ4は、ポリオレフィンを含む多孔質膜を備えることができる。このことにより、セパレータ4が優れたシャットダウン機能を備えることができ、優れた安全性を有するセパレータを提供できる。多孔質膜の材料であるポリオレフィンは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどである。多孔質膜は、これらのポリオレフィンを1種単独で又は複数種混合で含むことができる。また、多孔質膜は、ポリオレフィン以外の成分を含むことができる。ポリオレフィン以外の成分は、例えば、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイドなどである。多孔質膜に含まれるポリオレフィンの割合は、特に限定されるものではないが、多孔質膜全体の50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。このことにより、セパレータ4のシャットダウン機能を向上させることができ、リチウムイオン電池20の安全性を向上させることができる。
多孔質膜は、ポリオレフィンからなるポリオレフィン多孔質膜であってもよい。
また、多孔質膜は、ポリエチレン層とポリプロピレン層とが積層された積層構造を有してもよい。
【0031】
多孔質膜は、0.5μm以下の微孔を有する微多孔膜であってもよい。多孔質膜の細孔は、例えば、0.01μm以上0.5μm以下の平均細孔径を有することができる。平均細孔径が小さくなりすぎると電池の内部抵抗が大きくなり、平均細孔径が大きすぎると正負極間が短絡しやすくなる。平均細孔径は、水銀圧入法による細孔径分布測定の結果に基づき算出することができる。
多孔質膜は、例えば、乾式1成分系微多孔膜、湿式2成分系多孔膜、湿式3成分系微多孔膜などである。
乾式1成分系微多孔膜は、例えば溶融ポリマーを冷却・延伸してフィルム化することにより作製され冷却過程における延伸により微細孔が形成される。湿式2成分系多孔膜は、例えば可塑剤を予め混練した溶融ポリマーを冷却・延伸してフィルム化し、可塑剤を抽出することにより作製される。湿式3成分系微多孔膜は、例えば可塑剤及びフィラー微粒子を予め混練した溶融ポリマーを冷却・延伸してフィルム化し、可塑剤及びフィラー粒子を抽出することにより作製される。
【0032】
多孔質膜は、ポリオレフィンに混合されている無機微粒子を含んでもよい。無機微粒子は、例えば、アルミナ粒子、シリカ粒子、チタニア粒子などである。
セパレータ4は、多孔質膜と多孔質樹脂層とが積層された積層セパレータであってもよい。多孔質樹脂層は、例えば、液晶ポリエステル樹脂層、ポリフェニレンエーテル樹脂層、芳香族ポリアミド樹脂層、ポリイミド樹脂層、ポリアミドイミド樹脂層、耐熱性アクリル樹脂層、架橋性ポリマー層などである。
【0033】
セパレータ4は、多孔質膜上に設けられた多孔質耐熱層を有することができる。耐熱層(多孔質耐熱層)は、多孔質膜の一方の主要面(表又は裏)上にのみ設けられてもよく、多孔質膜の両方の主要面(表及び裏)上にそれぞれ設けられてもよい。耐熱層は、例えば、複数の無機粒子がバインダによって接着された多孔質層である。セパレータ4が耐熱層を有することにより、セパレータ4の耐熱性を向上させることができ、リチウムイオン電池20の安全性を向上させることができる。
【0034】
耐熱層は、無機粒子を含むことができる。無機粒子は、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化チタン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどである。
耐熱層は、バインダを含むことができる。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリルゴム、ポリアクリル酸などである。耐熱層は、増粘剤を含むことができる。増粘剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースなどである。
【0035】
耐熱層の層厚は、特に限定されるものではないが、1μm以上10μm以下であることが好ましい。耐熱層の層厚を1μm以上であることにより、セパレータ4の耐熱性を向上させることができ、リチウムイオン電池20の安全性を向上させることができる。また、耐熱層の層厚を10μm以下にすることにより、正極-負極間のイオンの移動距離(拡散距離)を短くすることができ、リチウムイオン電池20の内部抵抗を低減することができる。
【0036】
電解液の調製
65mol%のEMI-FSI(1-エチル-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド)に、35mol%のLiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)を加え、攪拌することによりリチウム塩を含むイオン液体を調製した。このイオン液体に界面活性剤を加え攪拌することにより試料1~16の電解液を調製した。界面活性剤には、表1及び表2に示したものを用いた。これらの界面活性剤は、カチオン界面活性剤である。試料1~11の電解液における界面活性剤の割合は、0.5wt%である。また、試料12~16の電解液における界面活性剤の割合は表2に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
含浸試験
セパレータフィルム(東レ株式会社製「セティーラ」(登録商標))に試料1~11の電解液を滴下し、電解液のセパレータフィルムへの浸み込みを観察した。この観察に基づき、試料1~11の電解液の含浸性を評価した。評価結果を表1に示す。表1では、1000秒間以下の含浸時間で電解液がセパレータフィルムに浸み込んだ電解液の評価を「〇」で示し、1000秒間より長く5000秒間以下の含浸時間で電解液がセパレータフィルムに浸み込んだ電解液の評価を「△」で示し、セパレータフィルムに浸み込まなかった電解液の評価を「×」で示した。
【0040】
試料1、2、5、6、7の電解液は含浸時間が比較的短く含浸性の評価が「〇」であった。試料3、4の電解液の含浸性の評価は「△」であった。また、試料8~11の電解液の含浸性の評価は「×」であった。これらの評価結果から、炭素数が16以上である疎水基を含み、かつ、ピリジニウムカチオン又は第四級アンモニウムカチオンを含む界面活性剤を含む電解液がセパレータフィルムに浸み込むことがわかった。
【0041】
充放電サイクル試験1
セパレータフィルムへ染み込んだ試料1~7の電解液を用いてコインセル(CR2032コインセル(直径:20mm、高さ:3.2mm))を作製した。具体的には、グラファイトが1.00g/100cm2となるように、銅箔(負極集電シート)の片面上にグラファイト粉末のペーストを塗工し乾燥させることにより負極活物質層を形成し負極を作製した。また、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2(三元系NCA)が1.74g/100cm2となるように、アルミニウム箔(正極集電シート)の片面上にLiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末のペーストを塗工し乾燥させることにより正極活物質層を形成し正極を作製した。作製した負極、セパレータ(東レ株式会社製「セティーラ」)、作製した正極及び試料1~7の電解液を用いて試料1~7のコインセルを作製した。これらのコインセルでは、電解液だけが異なり、負極、セパレータ及び正極は同じように作製したものを用いた。これらのコインセルの電池容量は5.20mAhである。
【0042】
作製した試料1~7のコインセルを用いて充放電サイクル試験を行った。1回目の充放電サイクルでは、0.05C定電流定電圧充電(CC-CV充電)を行い、0.1C定電流放電(CC放電)を行った。2回目の充放電サイクルでは、0.2C定電流定電圧充電(CC-CV充電)を行い、0.2C定電流放電(CC放電)を行った。3回目の充放電サイクルでは、0.5C定電流定電圧充電(CC-CV充電)を行い、0.5C定電流放電(CC放電)を行った。4回目の充放電サイクルでは、1.0C定電流定電圧充電(CC-CV充電)を行い、1.0C定電流放電(CC放電)を行った。
試料1~7のコインセルの1回目の充放電サイクルの充放電効率(初回充放電効率)を表1に示す。また、試料1~7のコインセルの1C放電容量維持率も表1に示す。1C放電容量維持率は式:1C放電容量維持率(%)=(1.0C放電容量[mAh]/0.1C放電容量[mAh])×100を用いて算出した。
【0043】
試料1~4のコインセルの初回充放電効率はいずれも80%を超えており、優れた充放電効率を有することが分かった。また、試料1~4のコインセルの放電容量維持率はいずれも50%を超えており、これらのコインセルでは問題なく充放電を繰り返すことができることがわかった。
試料5~7のコインセルの初回充放電効率は65%以下であり、試料5~7のコインセルの放電容量維持率は35%以下であった。試料5~7の界面活性剤のカウンターアニオンはいずれも塩化物アニオンであるため、塩化物アニオンがコインセルの充放電性能を低下させたと考えられる。
【0044】
充放電サイクル試験2
試料12~16の電解液を用いてコインセル(CR2032コインセル(直径:20mm、高さ:3.2mm))を作製した。
正極におけるLiNi0.8Co0.15Al0.05O2(三元系NCA)の量を1.74g/100cm2としたこと、電池容量を5.217mAhとしたこと、試料12~16の電解液を用いたこと以外は、試料1~7のコインセルと同様に試料12~16のコインセルを作製した。
試料12、13の電解液に含まれる界面活性剤は試料1の電解液に含まれる界面活性剤と同じであり、試料14~16の電解液に含まれる界面活性剤は試料2の電解液に含まれる界面活性剤と同じである。
【0045】
作製した試料12~16のコインセルを用いて充放電サイクル試験を行った。試験方法などは充放電サイクル試験1と同じである。試料12~16のコインセルの1回目の充放電サイクルの充放電効率(初回充放電効率)を表2に示す。また、試料12~16のコインセルの1C放電容量維持率も表2に示す。
試料12~16のコインセルの初回充放電効率はいずれも65%を超えており、優れた充放電効率を有することが分かった。また、試料12~16のコインセルの放電容量維持率はいずれも60%を超えており、これらのコインセルでは問題なく充放電を繰り返すことができることがわかった。
【符号の説明】
【0046】
2:正極 3:負極 4:セパレータ 5:電池用電解液 6:正極集電シート 7:正極活物質層 11:負極集電シート 12:負極活物質層 16:正極缶 17:負極缶 18:ガスケット 20:リチウムイオン電池
図1
図2
図3
図4