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特開2024-114028補強フィルム、および補強フィルム付きデバイスの製造方法
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  • 特開-補強フィルム、および補強フィルム付きデバイスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114028
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】補強フィルム、および補強フィルム付きデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20240816BHJP
   C09J 133/08 20060101ALI20240816BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240816BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20240816BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/08
C09J11/06
C09J5/00
G09F9/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019387
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 慧
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5G435
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AA14
4J004AB01
4J004CA06
4J004CC02
4J004CE01
4J004FA04
4J040DF061
4J040EF181
4J040EF281
4J040FA082
4J040HC04
4J040JA09
4J040JB09
4J040KA13
4J040KA16
4J040LA06
4J040LA08
4J040MA10
4J040MB03
4J040MB05
4J040MB09
4J040NA17
4J040NA19
4J040PA32
5G435AA09
5G435GG43
5G435HH05
5G435HH18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】フォルダブルデバイスに適用可能した場合でも被着体からのはく離が生じ難く、かつ光硬化前は切断加工性に優れる粘着剤層を備える補強フィルムを提供する。
【解決手段】補強フィルム(10)は、フィルム基材(1)の一主面上に固着積層された粘着剤層(2)を備える。粘着剤層は、架橋剤による架橋構造が導入されているアクリル系ベースポリマー、2以上の光重合性官能基を有する光硬化剤および光重合開始剤を含む光硬化性組成物からなる。粘着剤層は、光硬化前において、25℃におけるせん断貯蔵弾性率が15~60kPaである。補強フィルムの前記粘着剤層をポリイミドフィルムに貼り合わせ、レーザー切断加工を行い、切断部分をポリイミドフィルムからはく離除去した際に、ポリイミドフィルム上に粘着剤が残存している部分の長さ比率は80%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材と、前記フィルム基材の一主面上に固着積層された粘着剤層とを備え、
前記粘着剤層は、アクリル系ベースポリマー、2以上の光重合性官能基を有する光硬化剤、および光重合開始剤を含む光硬化性組成物からなり、
前記アクリル系ベースポリマーは、モノマー成分として、ヒドロキシ基含有モノマーおよびカルボキシ基含有モノマーからなる群から選択される1以上を含み、前記アクリル系ベースポリマーには、前記ヒドロキシ基および/または前記カルボキシ基に結合した架橋剤による架橋構造が導入されており、
前記粘着剤層は、光硬化前において、25℃におけるせん断貯蔵弾性率が15~60kPaであり、
補強フィルムの前記粘着剤層をポリイミドフィルムに貼り合わせ、レーザー切断加工を行い、切断部分をポリイミドフィルムからはく離除去した際に、ポリイミドフィルム上に粘着剤が残存している部分の長さ比率が80%以下である、
補強フィルム。
【請求項2】
前記粘着剤層は、光硬化後において、25℃におけるせん断貯蔵弾性率が30~80kPaである、請求項1に記載の補強フィルム。
【請求項3】
前記光硬化性組成物は、前記アクリル系ベースポリマー100重量部に対して、前記光硬化剤を3~17重量部含有する、請求項1に記載の補強フィルム。
【請求項4】
前記光硬化剤として多官能(メタ)アクリレートを含む、請求項1に記載の補強フィルム。
【請求項5】
前記光硬化剤としてアルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレートを含む、請求項1に記載の補強フィルム。
【請求項6】
前記光硬化剤として、アルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレート、およびウレタン(メタ)アクリレートを含む、請求項1に記載の補強フィルム。
【請求項7】
前記アクリル系ベースポリマーのガラス転移温度が-55℃以下である、請求項1に記載の補強フィルム。
【請求項8】
前記アクリル系ベースポリマーは、構成元素中の窒素の割合が0.1モル%以下である、請求項1に記載の補強フィルム。
【請求項9】
前記アクリル系ベースポリマーは、ポリマー100重量部に対して、0.2~1.5重量部の架橋剤を用いて架橋構造が導入されている、請求項1に記載の補強フィルム。
【請求項10】
前記粘着剤層を光硬化する前のポリイミドフィルムとの接着力が、0.5N/25mm以下である、請求項1に記載の補強フィルム。
【請求項11】
前記粘着剤層を光硬化した後のポリイミドフィルムとの接着力が、3N/25mm以上である、請求項1に記載の補強フィルム。
【請求項12】
折り曲げ可能なデバイスの表面に補強フィルムが貼設された補強フィルム付きデバイスの製造方法であって、
折り曲げ可能なデバイスの表面に請求項1~11のいずれか1項に記載の補強フィルムの前記粘着剤層を貼り合わせて仮着し、
前記デバイスの表面に前記補強フィルムを仮着した状態で、前記補強フィルムを切断し、デバイスの非補強対象領域に仮着されている補強フィルムをデバイスの表面からはく離除去した後、
前記粘着剤層を光硬化する、
補強フィルム付きデバイスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム基材と光硬化性の粘着剤層とが固着積層された補強フィルムに関する。さらに、本発明は、補強フィルムが表面に貼り合わせられたデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ等の光学デバイスや電子デバイスの表面には、表面保護や耐衝撃性付与等を目的として、粘着性フィルムが貼着される場合がある。このような粘着性フィルムは、通常、フィルム基材の主面に粘着剤層が固着積層されており、この粘着剤層を介してデバイス表面に貼り合わせられる。
【0003】
デバイスの組み立て、加工、輸送等の使用前の状態において、デバイスまたはデバイス構成部品の表面に粘着性フィルムを仮着することにより、被着体の傷つきや破損を抑制できる。特許文献1には、フィルム基材上に光硬化性の粘着剤組成物からなる粘着剤層を備える補強フィルムが開示されている。
【0004】
この補強フィルムの粘着剤は、被着体との貼り合わせ直後は低粘着性であるため、被着体からのはく離が容易である。そのため、被着体からのリワークが可能であるとともに、被着体の補強を必要としない箇所に貼り合わせられた補強フィルムを切断し、被着体の表面から補強フィルムを位置選択的にはく離除去することも可能である。補強フィルムの粘着剤は、光硬化により被着体と強固に接着するため、被着体の表面にフィルム基材が永久接着した状態となり、デバイスの表面保護等を担う補強材として利用可能である。
【0005】
近年では、樹脂フィルム等の折り曲げ可能な基板(フレキシブル基板)を用いた有機ELパネルが実用化されており、折り曲げ可能なフレキシブルディスプレイが提案されている。折り畳み可能なデバイス(フォルダブルデバイス)では、同じ場所で屈曲が繰り返し行われる。屈曲箇所では、内側には圧縮応力、外側には引張応力が付与され、屈曲箇所およびその周辺に歪みが生じ、被着体からの粘着剤の剥がれが生じる場合がある。
【0006】
特許文献2では、フォルダブルデバイスの補強フィルムの粘着剤として、低ガラス転移温度のアクリル系ベースポリマーを含む光硬化性の粘着剤を用いることにより、フォルダブルデバイスを繰り返し屈曲した際の被着体からの粘着剤層のはく離を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-41113号公報
【特許文献2】国際公開第2022/050009号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
粘着剤のベースポリマーとしてガラス転移温度の低いポリマーを用いることにより、光硬化後の粘着剤層の貯蔵弾性率が小さくなるため、屈曲部分での補強フィルムのはく離を抑制できる。ガラス転移温度の低いベースポリマーを用いた場合は、光硬化前の粘着剤層も貯蔵弾性率が小さいため、粘着剤層の切断加工性が低下する傾向がある。粘着剤層の切断加工性が低い場合は、被着体から補強フィルムをはく離除去した際に、粘着剤層が適切に切断されていない部分の粘着剤が被着体の表面に残存しやすい。被着体の表面に残存した粘着剤は、デバイスの製造工程において、製造設備や他の部材に付着し、粘着剤による汚染や、部材の貼り付き等による歩留まり低下の原因となる。
【0009】
上記に鑑み、本発明は、フォルダブルデバイスに適用可能した場合でも被着体からのはく離が生じ難く、かつ光硬化前は切断加工性に優れる粘着剤層を備える補強フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の補強フィルムは、フィルム基材の一主面上に固着積層された粘着剤層を備える。粘着剤層は、アクリル系ベースポリマー、光硬化剤および光重合開始剤を含む光硬化性組成物からなる。アクリル系ベースポリマーは、モノマーユニットとして、ヒドロキシ基含有モノマーおよびカルボキシル基含有モノマーからなる群から選択される1以上を含有し、ベースポリマーのヒドロキシ基および/またはカルボキシ基と架橋剤が結合することにより架橋構造が導入されている。
【0011】
粘着剤層は、光硬化前の25℃におけるせん断貯蔵弾性率が15~60kPaである。光硬化後の粘着剤層の25℃におけるせん断貯蔵弾性率は、30~80kPaが好ましい。
【0012】
補強フィルムの粘着剤層をポリイミドフィルムに貼り合わせ、レーザー切断加工を行い、切断部分をポリイミドフィルムからはく離除去した際に、ポリイミドフィルム上に粘着剤が残存している部分の長さ比率は80%以下であることが好ましい。
【0013】
粘着剤層を構成する光硬化性組成物において、光硬化剤の量は、アクリル系ベースポリマー100重量部に対して、3~17重量部が好ましい。光硬化剤としては、多官能(メタ)アクリレートが好ましい。多官能(メタ)アクリレートは、アルキレンオキサイド鎖を有するものであってもよい。光硬化剤として、アルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレート、およびウレタン(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。
【0014】
アクリル系ベースポリマーのガラス転移温度は-55℃以下が好ましい。アクリル系ベースポリマーは、構成元素中の窒素の割合が0.1モル%以下であってもよい。
【0015】
光硬化前の粘着剤層のポリイミドフィルムとの接着力は、0.5N/25mm以下であってもよい。光硬化後の粘着剤層のポリイミドフィルムとの接着力は、3N/25mm以上であってもよい。
【0016】
被着体としてのデバイスの表面に上記の補強フィルムを貼り合わせて仮着した後、粘着剤層を光硬化することにより、補強フィルム付きデバイスが得られる。デバイスは折り曲げ可能なフレキシブルデバイスであってもよい。補強フィルムを被着体に仮着した後、粘着剤層を光硬化する前に、被着体に仮着された補強フィルムを切断し、被着体上の一部の領域(非補強対象領域)から、補強フィルムをはく離除去してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の補強フィルムは、粘着剤層が光硬化性組成物からなり、粘着剤層を光硬化する前は被着体との接着力が小さく被着体からはく離可能であり、被着体との接着後に粘着剤層を光硬化することにより被着体との接着力が上昇する。補強フィルムの粘着剤層の貯蔵弾性率が小さく、応力歪の緩和性が高いため、本発明の補強フィルムは、樹脂フィルム基板を用いたフォルダブルデバイスにも好適に使用できる。
【0018】
本発明の補強フィルムは、光硬化前の粘着剤層が切断加工性に優れており、補強フィルムを被着体に仮着した後、粘着剤層を光硬化する前に、被着体に仮着された補強フィルムを切断し、被着体上の非補強対象領域から補強フィルムをはく離除去した際に、補強フィルムのはく離領域での被着体表面への粘着剤の残存が少ない。そのため、デバイスの製造工程において、製造設備や他の部材への粘着剤の付着が生じ難く、歩留まり向上に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】補強フィルムの積層構成を示す断面図である。
図2】補強フィルムの積層構成を示す断面図である。
図3】補強フィルムが貼設されたデバイスを示す断面図である。
図4】補強フィルムの切断部をポリイミドフィルムの表面からはく離除去した試料の観察像に基づいて、粘着剤残存部比率を算出する方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、補強フィルムの一実施形態を表す断面図である。補強フィルム10は、フィルム基材1の一主面上に粘着剤層2を備える。粘着剤層2は、フィルム基材1の一主面上に固着積層されている。粘着剤層2は光硬化性組成物からなる光硬化性粘着剤であり、紫外線等の活性光線の照射により硬化して、被着体との接着力が上昇する。
【0021】
図2は、粘着剤層2の主面上にはく離ライナー5が仮着された補強フィルムの断面図である。図3は、デバイス20の表面に補強フィルム10が貼設された状態を示す断面図である。
【0022】
粘着剤層2の表面からはく離ライナー5をはく離除去し、粘着剤層2の露出面をデバイス20の表面に貼り合わせることにより、デバイス20の表面に補強フィルム10が貼設される。この状態では、粘着剤層2は光硬化前であり、デバイス20上に補強フィルム10(粘着剤層2)が仮着された状態である。粘着剤層2を光硬化することにより、デバイス20と粘着剤層2との界面での接着力が上昇し、デバイス20と補強フィルム10とが固着される。
【0023】
「固着」とは積層された2つの層が強固に接着しており、両者の界面でのはく離が不可能または困難な状態である。「仮着」とは、積層された2つの層間の接着力が小さく、両者の界面で容易にはく離できる状態である。
【0024】
図2に示す補強フィルムでは、フィルム基材1と粘着剤層2とが固着しており、はく離ライナー5は粘着剤層2に仮着されている。フィルム基材1とはく離ライナー5をはく離すると、粘着剤層2とはく離ライナー5との界面ではく離が生じ、フィルム基材1上に粘着剤層2が固着した状態が維持される。はく離後のはく離ライナー5上には粘着剤は残存しない。
【0025】
図3に示す補強フィルム10が貼設されたデバイスは、粘着剤層2の光硬化前においては、デバイス20と粘着剤層2とが仮着状態である。デバイス20からフィルム基材1をはく離する際には、粘着剤層2とデバイス20との界面ではく離が生じ、フィルム基材1上に粘着剤層2が固着した状態が維持される。デバイス20上には粘着剤が残存しないため、リワークが容易である。粘着剤層2を光硬化後は、粘着剤層2とデバイス20との接着力が上昇するため、デバイス20からフィルム1をはく離することは困難であり、両者をはく離すると粘着剤層2の凝集破壊が生じる場合がある。
【0026】
[補強フィルムの構成]
<フィルム基材>
フィルム基材1としては、プラスチックフィルムが用いられる。フィルム基材1と粘着剤層2とを固着するために、フィルム基材1の粘着剤層2付設面は離型処理が施されていないことが好ましい。
【0027】
フィルム基材の厚みは、例えば4~150μm程度である。剛性付与や衝撃緩和等によりデバイスを補強する観点から、フィルム基材1の厚みは5μm以上が好ましく、12μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましく、25μm以上が特に好ましい。補強フィルムに可撓性を持たせて折り畳み可能とする観点から、フィルム基材1の厚みは125μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。機械強度と可撓性とを両立する観点から、フィルム基材1の圧縮強さは、100~3000kg/cmが好ましく、200~2900kg/cmがより好ましく、300~2800kg/cmがさらに好ましく、400~2700kg/cmが特に好ましい。
【0028】
フィルム基材1を構成するプラスチック材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。ディスプレイ等の光学デバイス用の補強フィルムにおいては、フィルム基材1は透明フィルムであることが好ましい。また、フィルム基材1側から活性光線を照射して粘着剤層2の光硬化を行う場合、フィルム基材1は、粘着剤層の硬化に用いられる活性光線に対する透明性を有することが好ましい。機械強度と透明性とを兼ね備えることから、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂が好適に用いられる。被着体側から活性光線を照射して粘着剤層を硬化する場合は、被着体が活性光線に対する透明性を有していればよく、フィルム基材1は活性光線に対して透明でなくてもよい。
【0029】
フィルム基材1の表面には、易接着層、易滑層、離型層、帯電防止層、ハードコート層、反射防止層等の機能性コーティングが設けられていてもよい。なお、前述のように、フィルム基材1と粘着剤層2とを固着するために、フィルム基材1の粘着剤層2付設面には離型層が設けられていないことが好ましい。
【0030】
<粘着剤層>
フィルム基材1上に固着積層される粘着剤層2は、ベースポリマー、光硬化剤および光重合開始剤を含む光硬化性組成物からなる。粘着剤層2は、光硬化前はデバイスやデバイス部品等の被着体との接着力が小さいため、はく離が容易である。粘着剤層2は、光硬化により被着体との接着力が向上するため、デバイスの使用時においても補強フィルムがデバイス表面からはく離し難く、接着信頼性に優れる。
【0031】
光硬化性の粘着剤は一般的な保管環境では硬化はほとんど進行せず、紫外線等の活性光線の照射により硬化する。そのため、本発明の補強フィルムは、粘着剤層2の硬化のタイミングを任意に設定可能であり、工程のリードタイム等に柔軟に対応できるとの利点を有する。
【0032】
粘着剤層2の厚みは、例えば、1~300μm程度である。粘着剤層2の厚みが大きいほど被着体との接着性が向上する傾向がある。一方、粘着剤層2の厚みが過度に大きい場合は、光硬化前の流動性が高く、ハンドリングが困難となる場合がある。そのため、粘着剤層2の厚みは3~100μmが好ましく、5~50μmがより好ましく、6~40μmがさらに好ましく、8~30μmが特に好ましい。薄型化の観点から、粘着剤層2の厚みは、25μm以下、20μm以下または18μm以下であってもよい。
【0033】
補強フィルムが、ディスプレイ等の光学デバイスに用いられる場合、粘着剤層2の全光線透過率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。粘着剤層2のヘイズは、2%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、0.7%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
【0034】
光硬化前の粘着剤層2の温度25℃におけるせん断貯蔵弾性率(以下、単に「貯蔵弾性率」と記載する)は、15kPa以上が好ましく、18kPa以上がより好ましく、20kPa以上がさらに好ましく、25kPa以上または30kPa以上であってもよい。光硬化前の粘着剤層の常温での貯蔵弾性率が大きいほど、切断加工性が向上するとともに、被着体から補強フィルムをはく離した際の被着体への糊残りが抑制される傾向がある。
【0035】
一方、光硬化前の粘着剤層の常温での貯蔵弾性率が過度に大きい場合は、光硬化後の粘着剤層も貯蔵弾性率が大きくなる傾向があり、被着体に対する接着性や、耐衝撃性が不足する場合がある。また、光硬化前の粘着剤層の貯蔵弾性率が大きい場合は、光硬化後の粘着剤層の貯蔵弾性率も大きくなる傾向があり、フォルダブルデバイスに適用した際に、屈曲箇所およびその周辺での歪を粘着剤層が吸収できず、デバイスから補強フィルムがはく離しやすい。そのため、光硬化前の粘着剤層の温度25℃における貯蔵弾性率は、60kPa以下が好ましく、55kPa以下がより好ましく、50kPa以下がさらに好ましく、45kPa以下または40kPa以下であってもよい。
【0036】
粘着剤層の貯蔵弾性率は、JIS K7244-1「プラスチック-動的機械特性の試験方法」に記載の方法に準拠して、周波数1Hzの条件で、-70~150℃の範囲で昇温速度5℃/分で測定した際の、所定温度における値を読み取ることにより求められる。本明細書においては、特に断りがない限り、貯蔵弾性率は温度25℃における値である。
【0037】
光硬化後において被着体との高い接着力を実現する観点から、光硬化後の粘着剤層の温度25℃における貯蔵弾性率は、30kPa以上が好ましく、35kPa以上がより好ましく、40kPa以上または45kPa以上であってもよい。一方、光硬化後の粘着剤層の貯蔵弾性率が過度に大きい場合は、フォルダブルデバイスに適用した際に、屈曲箇所およびその周辺で、デバイスから補強フィルムがはく離しやすい。また、光硬化後の粘着剤層の貯蔵弾性率が過度に大きい場合は、被着体に対する接着性や、衝撃緩和作用(クッション性)が低下する傾向がある。そのため、光硬化後の粘着剤層の温度25℃における貯蔵弾性率は、80kPa以下が好ましく、70kPa以下がより好ましく、65kPa以下、60kPa以下、55kPa以下または50kPa以下であってもよい。
【0038】
以下では、粘着剤層2を構成する光硬化性組成物の各成分について、好ましい形態を順次説明する。
【0039】
(ベースポリマー)
ベースポリマーは粘着剤組成物の主構成成分であり、粘着剤層の接着力等を決定する主要素である。光学的透明性および接着性に優れ、かつ接着力や貯蔵弾性率の制御が容易であることから、粘着剤組成物は、ベースポリマーとしてアクリル系ポリマーを含有するものが好ましく、粘着剤組成物の50重量%以上がアクリル系ポリマーであることが好ましい。
【0040】
アクリル系ポリマーとしては、主たるモノマー成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むものが好適に用いられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0041】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1~20である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好適に用いられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が分枝を有していてもよく、環状アルキル基(脂環式アルキル基)を有していてもよい。
【0042】
鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソトリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸イソテトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソオクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル等が挙げられる。
【0043】
脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘプチル、(メタ)アクリル酸シクロオクチル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸イソボルニル等の二環式の脂肪族炭化水素環を有する(メタ)アクリル酸エステル;ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロペンタニル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等の三環以上の脂肪族炭化水素環を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環上に置換基を有するものであってもよい。また、脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等の、脂環構造と不飽和結合を有する環構造との縮合環を含む(メタ)アクリル酸エステルであってもよい。
【0044】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、ベースポリマーを構成するモノマー成分全量100重量部に対して、50重量部以上が好ましく、60重量部以上がより好ましく、70重量部以上、80重量部以上または90重量部以上であってもよい。
【0045】
アクリル系ベースポリマーのガラス転移温度を低くして、貯蔵弾性率を低減することにより、屈曲を繰り返した際の粘着剤層のはく離を抑制する観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は鎖状アルキル基であることが好ましい。鎖状アルキル基は直鎖でもよく、分枝を有していてもよい。
【0046】
アクリル系ベースポリマーのガラス転移温度を低くする観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、ホモポリマーのガラス転移温度が-56℃以下であるものが好ましく、アルキル基の炭素数が6以上であるものが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基の炭素数は9以下であってもよい。
【0047】
ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-56℃以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、アクリル酸2-エチルヘキシル(Tg:-70℃)、アクリル酸n-ヘキシル(Tg:-65℃)、アクリル酸n-オクチル(Tg:-65℃)、アクリル酸イソノニル(Tg:-60℃)、アクリル酸n-ノニル(Tg:-58℃)、アクリル酸イソオクチル(Tg:-58℃)等が挙げられる。中でも、低Tgであり、粘着剤を低貯蔵弾性率化可能であることから、アクリル酸2-エチルヘキシルが特に好ましい。
【0048】
ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-56℃以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、ベースポリマーを構成するモノマー成分全量100重量部に対して、50重量部以上が好ましく、60重量部以上がより好ましく、70重量部以上、75重量部以上、80重量部以上、85重量部以上または90重量部以上であってもよい。アクリル系ベースポリマーは、モノマー成分全量100重量部に対するアクリル酸2-エチルヘキシルの量が上記範囲であってもよい。
【0049】
ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-56℃以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの量の上限は特に限定されない。後述のように、アクリル系ベースポリマーに架橋点を導入するために、アクリル系ベースポリマーの共重合成分として、ヒドロキシ基含有モノマーやカルボキシ基含有モノマーが用いられるため、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-56℃以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの量は、ベースポリマーを構成するモノマー成分全量100重量部に対して、99.5重量部以下が好ましく、99重量部以下がより好ましく、98重量部以下または97重量部以下であってもよい。
【0050】
アクリル系ベースポリマーは、モノマー成分として2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含んでいてもよい。2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、ホモポリマーのガラス転移温度が-56℃以下であるものと、ホモポリマーのガラス転移温度が-56℃よりも高いものを含んでいてもよい。
【0051】
アクリル系ベースポリマーは、共重合成分として、架橋可能な官能基を有するモノマー成分を含有することが好ましい。ベースポリマーに架橋構造が導入されることにより、凝集力が向上し、粘着剤層2の接着力が向上するとともに、光硬化前の粘着剤層を被着体からはく離する際の被着体への糊残りが低減する傾向がある。
【0052】
架橋可能な官能基を有するモノマーとしてはヒドロキシ基含有モノマーや、カルボキシ基含有モノマーが挙げられる。ベースポリマーのヒドロキシ基やカルボキシ基は、後述の架橋剤との反応点となる。例えば、イソシアネート系架橋剤を用いる場合は、ベースポリマーの共重合成分として、ヒドロキシ基含有モノマーを含有することが好ましい。エポキシ系架橋剤を用いる場合は、ベースポリマーの共重合成分として、カルボキシ基含有モノマーを含有することが好ましい。
【0053】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、(メタ)アクリル酸4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシルメチル等が挙げられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2-カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸カルボキシペンチル、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0054】
イソシアネート系架橋剤やエポキシ系架橋剤等の架橋剤による架橋構造を適度に導入する観点から、アクリル系ベースポリマーの構成モノマー成分全量100重量部に対するヒドロキシ基含有モノマーとカルボキシ基含有モノマーの合計量は、0.5重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましく、1.5重量部以上、2重量部以上、2.5重量部以上または3重量部以上であってもよい。
【0055】
ヒドロキシ基やカルボキシ基は高極性であるため、アクリル系ベースポリマーの構成モノマー成分におけるヒドロキシ基含有モノマーやカルボキシ基含有モノマーの量が多い場合は、ベースポリマーの凝集力が高くなり、光硬化後の粘着剤層の貯蔵弾性率が大きくなる傾向がある。粘着剤層2を低貯蔵弾性率化する観点から、アクリル系ベースポリマーの構成モノマー成分全量100重量部に対するヒドロキシ基含有モノマーとカルボキシ基含有モノマーの合計量は、25重量部以下が好ましく、20重量部以下がより好ましく、15重量部以下がさらに好ましく、12重量部以下、10重量部以下または8重量部以下であってもよい。
【0056】
アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分として、N-ビニルピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリン、N-アクリロイルモルホリン、N-ビニルカルボン酸アミド類、N-ビニルカプロラクタム等の窒素含有モノマーを含有していてもよい。
【0057】
窒素含有モノマーは高極性であり、かつガラス転移温度が高いため、アクリル系ベースポリマーの構成モノマー成分における窒素含有モノマーの量が多い場合は、ベースポリマーの凝集力が高く、粘着剤層のガラス転移温度が高くなる傾向があり、これに伴って光硬化後の粘着剤層の貯蔵弾性率が大きくなる傾向がある。また、窒素含有モノマーの量が多い場合は、プラズマ処理等の表面活性化処理を行った被着体に対する光硬化前の粘着剤層2の接着力が高くなる傾向があり、被着体からの補強フィルムのはく離が困難となる傾向がある。
【0058】
そのため、アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分における窒素含有モノマーの比率が小さいことが好ましい。また、アクリル系ベースポリマーのガラス転移温度を低くする観点においても、窒素含有モノマーの量が少ないことが好ましい。アクリル系ベースポリマーの構成モノマー成分全量100重量部に対する窒素含有モノマーの量は、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下がさらに好ましく、1重量部以下、0.5重量部以下、0.1重量部以下または0.05重量部以下であってもよい。
【0059】
アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分として窒素含有モノマーを含まないものであってもよい。架橋構造を導入する前のアクリル系ベースポリマーは、窒素原子を実質的に含まないものであってもよい。アクリル系ベースポリマーの構成元素中の窒素の割合は、0.1モル%以下、0.05モル%以下、0.01モル%以下、0.005モル%以下、0.001モル%以下、または0であってもよい。窒素原子を実質的に含まないアクリル系ベースポリマーを用いることにより、被着体に表面活性化処理を行った場合の、光硬化前の粘着シートの接着力(初期接着力)の上昇が抑制される傾向がある。構成モノマー成分として窒素原子含有モノマーを用いないことにより、窒素原子を実質的に含まないポリマーが得られる。なお、ベースポリマーに架橋構造が導入されている場合は、架橋構造導入前のポリマーが窒素原子を実質的に含まないものであればよく、架橋剤は窒素原子を含んでいてもよい。
【0060】
アクリル系ベースポリマーは、上記以外のモノマー成分を含んでいてもよい。アクリル系ベースポリマーは、モノマー成分として、例えば、ビニルエステルモノマー、芳香族ビニルモノマー、エポキシ基含有モノマー、ビニルエーテルモノマー、スルホ基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、酸無水物基含有モノマー等を含んでいてもよい。
【0061】
粘着剤に優れた接着性を持たせるとともに、粘着剤を低貯蔵弾性率とする観点から、アクリル系ベースポリマーのガラス転移温度は、-55℃以下が好ましく、-60℃以下がより好ましく、-62℃以下がさらに好ましく、-64℃以下または-65℃以下であってもよい。アクリル系ベースポリマーのガラス転移温度は、一般に-100℃以上であり、-80℃以上または-70℃以上であってもよい。
【0062】
ガラス転移温度(Tg)は、粘弾性測定における損失正接tanδが極大となる温度(ピークトップ温度)である。粘弾性測定によるガラス転移温度に代えて、理論ガラス転移温度を適用してもよい。理論Tgは、アクリル系ベースポリマーの構成モノマー成分のホモポリマーのガラス転移温度Tgと、各モノマー成分の重量分率Wから、下記のFoxの式により算出される。
1/Tg=Σ(W/Tg
【0063】
Tgはポリマーの理論ガラス転移温度(単位:K)、Wはセグメントを構成するモノマー成分iの重量分率(重量基準の共重合割合)、Tgはモノマー成分iのホモポリマーのガラス転移温度(単位:K)である。ホモポリマーのガラス転移温度としては、Polymer Handbook 第3版(John Wiley & Sons, Inc., 1989年)に記載の数値を採用できる。上記文献に記載されていないモノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、動的粘弾性測定によるtanδのピークトップ温度を採用すればよい。
【0064】
上記モノマー成分を、溶液重合、乳化重合、塊状重合等の各種公知の方法により重合することによりベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーが得られる。粘着剤の接着力、保持力等の特性のバランスや、コスト等の観点から、溶液重合法が好ましい。溶液重合の溶媒としては、酢酸エチル、トルエン等が用いられる。溶液濃度は通常20~80重量%程度である。溶液重合に用いられる重合開始剤としては、アゾ系、過酸化物系等の各種公知のものを使用できる。分子量を調整するために、連鎖移動剤が用いられていてもよい。反応温度は通常50~80℃程度、反応時間は通常1~8時間程度である。
【0065】
アクリル系ベースポリマーの重量平均分子量は、20万~300万が好ましく、30万~250万がより好ましく、40万~200万または50万~180万であってもよい、なお、ベースポリマーに架橋構造が導入される場合、ベースポリマーの分子量とは、架橋構造導入前の分子量を指す。
【0066】
(架橋剤)
粘着剤に適度の凝集力を持たせる観点から、ベースポリマーには架橋構造が導入されることが好ましい。例えば、ベースポリマーを重合後の溶液に架橋剤を添加し、必要に応じて加熱を行うことにより、架橋構造が導入される。架橋剤は、1分子中に2個以上の架橋性官能基を有する。架橋剤は1分子中に3個以上の架橋性官能基を有するものであってもよい。
【0067】
架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。これらの架橋剤は、ベースポリマー中に導入されたヒドロキシ基やカルボキシ基等の官能基と反応して架橋構造を形成する。ベースポリマーのヒドロキシ基やカルボキシ基との反応性が高く、架橋構造の導入が容易であることから、イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤が好ましい。
【0068】
イソシアネート系架橋剤としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートが用いられる。イソシアネート系架橋剤は、1分子中に3個以上のイソシアネート基を有するものであってもよい。イソシアネート系架橋剤としては、例えば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ポリイソシアネート類;シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート類;2,4-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類;トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(例えば、三井化学製「タケネートD101E」)、トリメチロールプロパン/へキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(例えば、東ソー製「コロネートHL」)、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(例えば、三井化学製「タケネートD110N」)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(例えば、東ソー製「コロネートHX」)等のイソシアネート付加物等が挙げられる。
【0069】
エポキシ系架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物が用いられる。エポキシ系架橋剤は、1分子中に3個以上または4個以上のエポキシ基を有するものであってもよい。エポキシ系架橋剤のエポキシ基はグリシジル基であってもよい。エポキシ系架橋剤としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、ジグリシジルアニリン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、o-フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジル-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノール-S-ジグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ系架橋剤として、ナガセケムテックス製の「デナコール」、三菱ガス化学製の「テトラッドX」「テトラッドC」等の市販品を用いてもよい。
【0070】
上述のように、ベースポリマーが窒素原子を実質的に含まない場合であっても、架橋剤は窒素原子を含んでいてもよい。例えば、窒素原子を実質的に含まないベースポリマーに、イソシアネート架橋剤により架橋構造を導入してもよい。
【0071】
架橋剤の使用量は、ベースポリマーの組成や分子量等に応じて適宜に調整すればよい。架橋剤の量が多いほど、ベースポリマーの架橋密度が高くなり、光硬化前の粘着剤層に適度な硬さが付与されて貯蔵弾性率が大きくなり、切断等の加工性が向上するとともに、被着体から補強フィルムをはく離した際の被着体への糊残りが抑制される傾向がある。一方、架橋剤の量が過度に多いと、粘着剤層の貯蔵弾性率が大きく、応力歪の緩和性が低いため、フォルダブルデバイスに適用した際に、屈曲箇所およびその周辺で、デバイスから補強フィルムがはく離しやすい。
【0072】
粘着剤層の切断加工性と柔軟性とを両立する観点から、架橋剤の使用量は、アクリル系ベースポリマー100重量部に対して、0.1~1.5重量部が好ましく、0.15~1重量部がより好ましく、0.25~75重量部がさらに好ましく、0.3~0.7重量部または0.4~0.6重量部であってもよい。
【0073】
(光硬化剤)
粘着剤層2を構成する粘着剤組成物は、ベースポリマーに加えて、光硬化剤として、1分子中に2個以上の光重合性官能基を有する化合物を含有する。光硬化剤を含有する粘着剤組成物は光硬化性を有し、被着体との貼り合わせ後に光硬化を行うと、被着体との接着力が向上する。
【0074】
ベースポリマーとの相溶性の観点から、光硬化剤は常温で液体であるものが好ましい。光硬化剤の光重合性官能基は、光ラジカル反応による重合性を有するものが好ましい。光硬化剤としては1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物が好ましく、アクリル系ベースポリマーと適度の相溶性を示すことから、多官能(メタ)アクリレートが好ましい。
【0075】
多官能(メタ)アクリレートは、代表的には、ポリオールと(メタ)アクリル酸とのエステルである。多官能(メタ)アクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールポリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ブタジエン(メタ)アクリレート、イソプレン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0076】
多官能(メタ)アクリレートは、アルキレンオキサイド変性されたポリオールと(メタ)アクリル酸とのエステルであってもよい。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド(EO)およびプロピレンオキサイド(PO)が挙げられる。アルキレンオキサイドは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレンオキサイドでもよい。
【0077】
アルキレンオキサイド変性多官能(メタ)アクリレートの具体例としては、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸プロピレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸プロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0078】
ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性多官能(メタ)アクリレート等のアルキレンオキサイド鎖を含む多官能(メタ)アクリレートにおいて、アルキレンオキサイドとしては、(ポリ)エチレンオキサイドまたは(ポリ)プロピレンオキサイドが好ましく、(ポリ)エチレンオキサイドが特に好ましい。アルキレンオキサイドの鎖長(アルキレンオキサイドの繰り返し単位数)nは、1~15程度である。1分子中に複数のアルキレンオキサイド鎖が含まれる場合は、平均鎖長nが1~15であるものが好ましい。アルキレンオキサイド鎖の(平均)鎖長nは、12以下、10以下、8以下、6以下、5以下、4以下または3以下であってもよい。アルキレンオキサイドの種類および鎖長を調整することにより、アクリル系ベースポリマーとの相溶性を適切な範囲に調整できる。
【0079】
アクリル系ベースポリマーとの相溶性の観点から、光硬化剤としての多官能(メタ)アクリレートの分子量は、1500以下が好ましく、1000以下がより好ましく、800以下、500以下または400以下であってもよい。ベースポリマーとの相溶性と光硬化後の接着力向上とを両立する観点から、多官能(メタ)アクリレートの官能基当量(g/eq)は500以下が好ましく、400以下がより好ましく、300以下、250以下、200以下、180以下または160以下であってもよい。一方、多官能(メタ)アクリレートの官能基当量が過度に小さいと、光硬化後の粘着剤層の架橋点密度が高くなり、接着性が低下する場合があるため、光硬化剤の官能基当量は、80以上が好ましく、100以上がより好ましく、120以上または130以上であってもよい。
【0080】
光硬化剤は、硬化により粘着剤の貯蔵弾性率を上昇させ、被着体との接着力を高める作用を有する。光硬化剤の量が多いほど、光硬化後の粘着剤層の貯蔵弾性率が大きくなる傾向がある。光硬化後の粘着剤層の被着体との接着力を十分に高める観点から、粘着剤層を構成する光硬化性組成物における光硬化剤の含有量は、アクリル系ベースポリマー100重量部に対して、3重量部以上が好ましく、4重量部以上がより好ましく、5重量部以上がさらに好ましく、6重量部以上または7重量部以上であってもよい。
【0081】
光硬化前の粘着剤層において、液状の光硬化剤は、ベースポリマーの凝集力を低下させるため、光硬化剤の量が多いほど、光硬化前の粘着剤層の貯蔵弾性率が小さく、被着体との接着力が小さくなる傾向がある。また、光硬化剤の量が多いほど、ベースポリマーの凝集力低下に伴って粘着剤の液状性が高くなるために、切断加工性が低下する傾向がある。粘着剤層の切断加工性が低い場合は、補強フィルムをレーザー等により切断加工して、切断部分の補強フィルムを被着体からはく離除去した際に、適切に切断されなかった粘着剤が被着体の表面に付着して残存し、粘着剤による設備の汚染や、部材の貼り付き等による歩留まり低下の原因となる。
【0082】
光硬化前の粘着剤層の切断加工性を良好とする観点から、粘着剤層を構成する光硬化性組成物における光硬化剤の含有量は、アクリル系ベースポリマー100重量部に対して、15重量部以下が好ましく、12重量部以下がより好ましく、11重量部以下がさらに好ましく、10重量部以下、9重量部以下または8重量部以下であってもよい。光硬化前の粘着剤層からの光硬化剤のブリードアウトによる被着体の汚染を抑制する観点からも、光硬化剤の量は上記範囲であることが好ましい。
【0083】
上述のように、光硬化剤は、光硬化前の粘着剤層の被着体に対する接着力を低下させて被着体からのはく離を容易化するとともに、光硬化後の粘着剤層の被着体に対する接着力を高める作用を有する。一方で、光硬化剤の量が過度に多い場合は、切断加工性の低下や被着体の汚染の原因となり得る。特に、フォルダブルデバイスへの適用等を目的として、低貯蔵弾性率化のために架橋剤の使用量が少ない(ベースポリマーに導入される架橋点が少ない)粘着剤は、ポリマーの凝集力が小さいため、切断加工性を確保するために、光硬化剤の配合量を少なくする必要がある。
【0084】
少量の光硬化剤により、光硬化前の粘着剤層の接着力を低く、かつ光硬化後の粘着剤層の接着力を高くするためには、光硬化剤として、アルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0085】
アルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレートは、アルキレンオキサイド鎖を有さない多官能(メタ)アクリレートと比較すると、アクリル系ベースポリマーとの相溶性が低く、特に、極性官能基の量が少ないポリマーとの相溶性が低いため、粘着剤層の表面(被着体との接着界面近傍)に偏在しやすい。光硬化剤としてアルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレートを含む場合、配合量が少量であっても、被着体との接着界面に偏在した光硬化剤により、接着阻害層(Weak Boundary Layer; WBL)が形成されやすい。
【0086】
WBLが形成されると、粘着剤層の貯蔵弾性率等のバルク特性を保持したまま、表面(接着界面)の液状の特性が強くなるため、被着体との接着力が小さくなる傾向がある。そのため、光硬化前の粘着剤層は、貯蔵弾性率が高く切断等の加工性に優れ、かつ被着体からのはく離が容易である。光硬化剤が被着体との接着界面近傍に偏在してWBLが形成されている粘着剤層を光硬化すると、光硬化剤の存在密度が高い接着界面近傍で、光硬化剤の硬化反応が進行しやすいため、接着力向上しやすい。また、WBLが形成されている場合は、バルク特性である貯蔵弾性率の光硬化による増大が抑制される傾向があるため、フォルダブルデバイスへの適用性に優れている。
【0087】
アルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレートは、アルキレンオキサイド鎖の平均鎖長nが大きいほど、アクリル系ベースポリマーとの相溶性が低く、光硬化前の粘着剤層の接着力が小さくなる傾向がある。一方、アクリル系ベースポリマーと光硬化剤との相溶性が過度に低い場合は、粘着剤層の表面に形成されるWBLの液状特性が高く、光硬化剤のせん断保持が困難となり、ブリードアウトした光硬化剤が被着体を汚染する原因となり得る。アクリル系ベースポリマーと適度の相溶性を持たせる観点から、アルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレートにおけるアルキレンオキサイド鎖の平均鎖長nは、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、5以下、4以下または3以下であってもよい。
【0088】
上記の様に、少量の添加によりWBLが形成されやすいことから、光硬化剤としては、アルキレンオキサイド鎖を有し、かつ1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートが好ましい。アルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレートは、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有していてもよい。
【0089】
光硬化剤が1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する場合は、光硬化により粘着剤層の接着力が上昇しやすい。一方、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能アクリレートを用いた場合は、1分子中に2個の(メタ)アクリロイル基を有する多官能アクリレートを用いた場合に比べて、光硬化後の粘着剤層の貯蔵弾性率が大きく、柔軟性が低下する場合がある。
【0090】
光硬化剤は、2種以上を併用してもよい。例えば、光硬化剤として、アルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレートを2種以上用いてもよく、アルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレートとアルキレンオキサイド鎖を有さない多官能(メタ)アクリレートを用いてもよい。また、光硬化剤として、官能基数(1分子中の(メタ)アクリロイル基の数)の異なる多官能(メタ)アクリレートを用いてもよい。例えば、光硬化後の粘着剤層の接着力や貯蔵弾性率の調整等を目的として、光硬化剤として、2官能(メタ)アクリレートと3官能以上の多官能(メタ)アクリレートを併用してもよい。
【0091】
光硬化剤として、アルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレートと、ウレタン(メタ)アクリレートを用いてもよい。ウレタン(メタ)アクリレートは、1分子中に、1個以上のウレタン結合と、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物であり、好ましくは1分子中に2個以上のウレタン結合を含む。2個以上のウレタン結合を有するウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリイソシアネートと、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル化合物との反応により得られ、ポリイソシアネートのイソシアネート基と(メタ)アクリル化合物のヒドロキシ基が結合して、ウレタン結合を形成する。
【0092】
ポリイソシアネートは、芳香族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートのいずれでもよい。中でも、芳香族ポリイソシアネートおよび脂肪族ポリイソシアネートが好ましい。芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)が特に好ましい。トリレンジイソシアネートは、2,4-トリレンジイソソアネート、および2,6-トリレンジイソシアネートのいずれでもよく、両者の混合物でもよい。脂肪族ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)が特に好ましい。
【0093】
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル化合物としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシへキシル、ヒドロキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド等の1個のヒドロキシ基と1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート等の1個のヒドロキシ基と2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が挙げられる。
【0094】
これらの中でも、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル化合物としては、1個のヒドロキシ基と2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく、その具体例として、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等のペンタエリスリトール骨格を有する化合物が挙げられる。
【0095】
ジイソシアネートと、1分子中に1個のヒドロキシ基および2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル化合物との反応により得られるウレタン(メタ)アクリレートは、1分子中に2個のウレタン結合と4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する。ウレタン(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の数は、6個以上または8個以上であってもよく、12個以下または10個以下であってもよい。
【0096】
上記のウレタン(メタ)アクリレートは、共栄社化学、新中村化学、根上工業、日本合成化学、ダイセル・オルネクス、昭和電工マテリアルズ等から市販されているものを用いてもよい。
【0097】
アクリル系ベースポリマーとの相溶性および粘着剤層の接着力調整の観点から、ウレタン(メタ)アクリレートの分子量は、500~1500が好ましく、600~1000、または700~900であってもよい。同様の観点から、ウレタン(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の官能基当量(g/eq)は、80~200が好ましく、100~150、110~140、または120~130であってもよい。
【0098】
光硬化剤として、ウレタン結合を有さない多官能(メタ)アクリレートに加えて、ウレタン(メタ)アクリレートを含むことにより、光硬化前の粘着剤層の接着力が小さく、光硬化後の粘着剤層の接着力が大きくなる傾向がある。一因として、ウレタン(メタ)アクリレートが、ウレタン結合を有さない多官能(メタ)アクリレート、特にアルキレンオキサイド鎖を有する多官能(メタ)アクリレートによるWBLの形成促進作用が考えられる。
【0099】
ウレタン(メタ)アクリレートは、アクリル系ベースポリマーの凝集力を高める作用を有し、さらにアクリル系ベースポリマーとウレタン(メタ)アクリレートが水素結合を形成する。そのため、ウレタン(メタ)アクリレートは粘着剤層のバルク部分に取り込まれやすい。ウレタン(メタ)アクリレートが粘着剤層のバルク部分に取り込まれると、ウレタン結合を有さない多官能(メタ)アクリレートが粘着剤層の表面(接着界面)近傍に偏在しやすくなり、WBLの形成が促進されると考えられる。
【0100】
粘着剤層を構成する光硬化性組成物が、光硬化剤として、ウレタン結合を有さない多官能(メタ)アクリレートに加えて、ウレタン(メタ)アクリレートを含む場合、ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、アクリル系ベースポリマー100重量部に対して、0.01重量部以上が好ましく、0.05重量部以上がより好ましく、0.08重量部以上または0.1重量部以上であってもよい。
【0101】
上記の様に、ウレタン(メタ)アクリレートは粘着剤層のバルク部分に取り込まれやすいため、ウレタンアクリレートの量が多くなると、バルク特性である貯蔵弾性率の光硬化による増大が顕著となる傾向がある。また、ウレタン(メタ)アクリレートの含有量が過度に多い場合は、光硬化剤(ウレタン結合を有さない多官能(メタ)アクリレートおよび/またはウレタン(メタ)アクリレート)が粘着剤層の表面(被着体との接着界面)にブリードアウトしやすく、ブリードアウトした成分が被着体を汚染する原因となり得る。そのため、ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、1重量部以下がさらに好ましく、0.5重量部以下、0.4重量部以下、0.3重量部以下、0.25重量部以下または0.2重量部以下であってもよい。
【0102】
光硬化性組成物が、光硬化剤として、ウレタン結合を有さない多官能(メタ)アクリレートに加えて、ウレタン(メタ)アクリレートを含む場合、光硬化前後の貯蔵弾性率および被着体との接着力を適切な範囲に調整する観点、ならびに光硬化剤のブリードアウトによる被着体の汚染を抑制する観点から、ウレタン結合を有さない多官能(メタ)アクリレートの含有が相対的に大きいことが好ましい。ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、ウレタン結合を有さない多官能(メタ)アクリレートの含有量に対して、重量比で、0.2倍以下が好ましく、0.1倍以下がより好ましく、0.05倍以下、0.03倍以下または0.02倍以下であってもよい。ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、ウレタン結合を有さない多官能(メタ)アクリレートの含有量に対して、重量比で、0.001倍以上、0.005倍以上、0.008倍以上または0.01倍以上であってもよい。
【0103】
(光重合開始剤)
光重合開始剤は、活性光線の照射により活性種を発生し、光硬化剤の硬化反応を促進する。光重合開始剤としては、光硬化剤の種類等に応じて、光カチオン開始剤(光酸発生剤)、光ラジカル重合開始剤、光アニオン開始剤(光塩基発生剤)等が用いられる。光硬化剤として多官能アクリレート等のエチレン性不飽和化合物が用いられる場合は、重合開始剤として光ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。
【0104】
光ラジカル重合開始剤は、活性光線の照射によりラジカルを生成し、光ラジカル重合開始剤から光硬化剤へのラジカル移動により、光硬化剤のラジカル重合反応を促進する。光ラジカル重合開始剤(光ラジカル発生剤)としては、波長450nmよりも短波長の可視光または紫外線の照射によりラジカルを生成するものが好ましく、ヒドロキシケトン類、ベンジルジメチルケタール類、アミノケトン類、アシルフォスフィンオキサイド類、ベンゾフェノン類、トリクロロメチル基含有トリアジン誘導体等が挙げられる。光ラジカル重合開始剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0105】
粘着剤層2における光重合開始剤の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、0.02~3重量部がより好ましく、0.03~2重量部がさらに好ましい。粘着剤層2における光重合開始剤の含有量は、光硬化剤100重量部に対して、0.02~20重量部が好ましく、0.05~10重量部がより好ましく、0.1~7重量部がさらに好ましい。
【0106】
(その他の添加剤)
上記例示の各成分の他、粘着剤層は、シランカップリング剤、粘着性付与剤、架橋促進剤、架橋遅延剤、可塑剤、軟化剤、酸化防止剤、劣化防止剤、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤界面活性剤、帯電防止剤等の添加剤を、本発明の特性を損なわない範囲で含有していてもよい。
【0107】
架橋促進剤としては、有機金属錯体(キレート)、金属とアルコキシ基との化合物、および金属とアシルオキシ基との化合物等の有機金属化合物;ならびに第三級アミン等が挙げられる。常温の溶液状態での架橋反応の進行を抑制して粘着剤組成物のポットライフを確保する観点から、有機金属化合物が好ましい。また、粘着剤層の厚み方向全体にわたって均一な架橋構造を導入しやすいことから、架橋促進剤としては常温で液体である有機金属化合物が好ましい。有機金属化合物の金属としては、鉄、錫、アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、チタン、鉛、コバルト、亜鉛等が挙げられる。
【0108】
架橋遅延剤としては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸オレイル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ステアリル等のβ-ケトエステル;アセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、ベンゾイルアセトン等のβ-ジケトン;tert-ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
【0109】
[補強フィルムの作製]
フィルム基材1上に光硬化性の粘着剤層2を積層することにより、補強フィルムが得られる。粘着剤層2は、フィルム基材1上に直接形成してもよく、他の基材上でシート状に形成された粘着剤層をフィルム基材1上に転写してもよい。
【0110】
上記の粘着剤組成物を、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコート等により、基材上に塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥除去することにより粘着剤層が形成される。乾燥方法としては、適宜、適切な方法が採用され得る。加熱乾燥温度は、好ましくは40℃~200℃、より好ましくは50℃~180℃、さらに好ましくは70℃~170℃である。乾燥時間は、好ましくは5秒~20分、より好ましくは5秒~15分、さらに好ましくは10秒~10分である。
【0111】
粘着剤組成物が架橋剤を含有する場合は、溶媒の乾燥と同時、または溶媒の乾燥後に、加熱またはエージングにより架橋を進行させることが好ましい。加熱温度や加熱時間は、使用する架橋剤の種類によって適宜設定され、通常、20℃~160℃の範囲で、1分から7日程度の加熱により架橋が行われる。溶媒を乾燥除去するための加熱が、架橋のための加熱を兼ねていてもよい。
【0112】
架橋剤によりポリマーに架橋構造を導入後も、光硬化剤は未反応の状態を維持している。そのため、高分子量成分と光硬化剤とを含む光硬化性の粘着剤層2が形成される。フィルム基材1上に粘着剤層2を形成する場合は、粘着剤層2の保護等を目的として、粘着剤層2上にはく離ライナー5を付設することが好ましい。粘着剤層2上にはく離ライナー5を付設後に架橋を行ってもよい。
【0113】
他の基材上に粘着剤層2を形成する場合は、溶媒を乾燥後に、フィルム基材1上に粘着剤層2を転写することにより補強フィルムが得られる。粘着剤層の形成に用いた基材を、そのままはく離ライナー5としてもよい。
【0114】
はく離ライナー5としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルムが好ましく用いられる。はく離ライナーの厚みは、通常3~200μm、好ましくは10~100μm程度である。はく離ライナー5の粘着剤層2との接触面には、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系、もしくは脂肪酸アミド系等の離型剤、またなシリカ粉等による離型処理が施されていることが好ましい。はく離ライナー5の表面が離型処理されていることにより、粘着剤層2とはく離ライナー5との界面ではく離が生じ、フィルム基材1上に粘着剤層2が固着した状態が維持される。はく離ライナー5は、離型処理面および非処理面のいずれか一方または両方に帯電防止処理が施されていてもよい。はく離ライナー5に帯電防止処理が施されていることにより、粘着剤層からはく離ライナーをはく離した際の帯電を抑制できる。
【0115】
[補強フィルムの特性および補強フィルムの使用]
本発明の補強フィルムは、デバイスまたはデバイス構成部品に貼り合わせて用いられる。補強フィルム10は、粘着剤層2がフィルム基材1と固着されており、被着体との貼り合わせ後光硬化前は、被着体への接着力が小さい。そのため、光硬化前は被着体からの補強フィルムのはく離が容易である。
【0116】
補強フィルムが貼り合わせられる被着体は特に限定されず、各種の電子デバイス、光学デバイスおよびその構成部品等が挙げられる。一実施形態において、補強フィルムは、折り曲げ可能なフレキシブルデバイスの表面に貼り合わせられる。折り曲げ可能なデバイスは、ヒンジ部を有し、このヒンジ部を中心に折り曲げることができる。折り曲げ角度は、任意に設定可能であり、180°折り曲げ(折りたたみ)可能であってもよい。デバイスが表示装置である場合、画面側の表面に補強フィルムを貼り合わせてもよく、裏面側(筐体)に補強フィルムを貼り合わせてもよい。ヒンジ部等の所定箇所で折り曲げ可能に構成されているフレキシブルデバイスでは、その使用状態において、同一箇所で屈曲と伸展が繰り返し行われる。
【0117】
補強フィルムは被着体の全面に貼り合わせられてもよく、補強を必要とする部分(補強対象領域)にのみ選択的に貼り合わせられてもよい。補強を必要とする部分(補強対象領域)と補強を必要としない領域(非補強対象領域)の全体に補強フィルムを貼り合わせた後、補強フィルムを切断し、非補強対象領域から補強フィルムをはく離除去することにより、補強対象領域のみに補強フィルムが貼り合わせられたデバイスを作製できる。粘着剤が光硬化前であれば、補強フィルムは被着体表面に仮着された状態であるため、被着体の表面から補強フィルムを容易にはく離除去できる。光硬化前の粘着剤層が、低貯蔵弾性率でありながら切断加工性に優れているため、切断後の補強フィルムをデバイスの表面からはく離除去する際に、デバイスの非補強対象領域への粘着剤の残存が少なく、工程の歩留まりが向上する。
【0118】
補強フィルムを貼り合わせることにより、適度な剛性が付与されるため、フレキシブルデバイス等の厚みが小さい部材に対して、ハンドリング性向上や破損防止効果が期待される。デバイスの製造工程において、仕掛品に補強フィルムが貼り合わせられる場合は、製品サイズに切断される前の大判の仕掛品に補強フィルムを貼り合わせてもよい。ロールトゥーロールプロセスにより製造されるデバイスのマザーロールに、補強フィルムをロールトゥーロールで貼り合わせてもよい。
【0119】
補強フィルムを貼り合わせる前に、清浄化等を目的として、被着体の表面の活性化処理を行ってもよい。表面活性化処理としては、プラズマ処理、コロナ処理、グロー放電処理等が挙げられる。表面が活性化処理された被着体は、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシル基等の活性基を多く含んでおり、粘着剤のベースポリマーの極性官能基との分子間相互作用により、接着力が上昇しやすい。特に、被着体がポリイミドである場合は、活性化処理により、アミド酸、末端のアミノ基やカルボキシ基(またはカルボン酸無水物基)等が活性化され、ベースポリマーの極性官能基との相互作用が強いため、活性化処理により初期接着力が大幅に上昇する場合がある。
【0120】
初期接着力が過度に大きくなると、非補強対象領域に貼り合わせられた補強フィルムのはく離が困難となる場合がある。前述のように、ベースポリマーが窒素原子を実質的に含まないことにより、表面が活性化処理された被着体に対する初期接着力の過度の上昇を抑制できる。表面活性化処理を行った被着体と光硬化前の粘着剤層の接着力は、表面活性化処理を行っていない被着体と光硬化前の粘着剤層の接着力の2.5倍以下が好ましく、2倍以下がより好ましく、1.5倍以下がさらに好ましく、1.4倍以下または1.3倍以下であってもよい。
【0121】
被着体からのはく離を容易とし、補強フィルムをはく離後の被着体への糊残りを防止する観点から、光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力(初期接着力)は、0.5N/25mm以下が好ましく、0.3N/25mm以下がより好ましく、0.25N/25mm以下がさらに好ましく、0.2N/25mm以下または0.15N/25mm以下であってもよい。保管やハンドリングの際の補強フィルムのはく離を防止する観点から、光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力は、0.005N/25mm以上が好ましく、0.01N/25mm以上がより好ましい。
【0122】
接着力は、ポリイミドフィルムを被着体として、引張速度300mm/分、はく離角度180°のピール試験により求められる。特に断りがない限り、接着力は25℃での測定値である。光硬化前の粘着剤層と被着体との接着力は、貼り合わせ後、25℃で30分静置した試料を用いて測定する。
【0123】
前述のように、切断加工性の観点から、光硬化前の粘着剤層2の25℃における貯蔵弾性率は、15kPa以上が好ましく、18kPa以上がより好ましく、20kPa以上がさらに好ましく、25kPa以上または30kPa以上であってもよい。光硬化前の粘着剤層の貯蔵弾性率は、ベースポリマーの組成、架橋剤の導入量および光硬化剤の含有量等に依存する。架橋剤の導入量が多いほど貯蔵弾性率が大きくなる傾向がある。光硬化剤の量が多いほど貯蔵弾性率が小さくなる傾向がある。
【0124】
被着体に補強フィルムを貼り合わせた後、補強対象領域と非補強対象領域との境界で、被着体20を切断しないように、補強フィルム10のフィルム基材1および粘着剤層2を選択的に切断(ハーフカット)し、被着体20の非補強対象領域上に仮着された補強フィルム10をはく離除去する。
【0125】
補強フィルムの切断方法は特に限定されないが、レーザーを用いた切断加工が好ましい。レーザーの波長および出力を選択することにより、被着体を損傷させずに、補強フィルム10のみを選択的に切断加工することが可能である。例えば、被着体がデバイス20の基板としてのポリイミドフィルムである場合は、炭酸レーザーを用い、補強フィルム10のフィルム基材1側からレーザーを照射することにより、ポリイミドフィルムの損傷を抑制しつつ、補強フィルム10のフィルム基材1および粘着剤層2を切断できる。
【0126】
被着体の損傷を抑制するために、レーザーの出力を小さくすると、粘着剤層2の切断性が低下する傾向があるが、上記の様に、本発明の補強フィルムは、粘着剤層2が切断加工性に優れているため、加工不良を抑制できる。そのため、切断後の補強フィルムを被着体の表面からはく離除去する際に、被着体の非補強対象領域への粘着剤の残存が少なく、工程の歩留まり向上に寄与し得る。
【0127】
補強フィルムの切断加工性の評価は、補強フィルムの粘着剤層をポリイミドフィルムに貼り合わせ、レーザー切断加工を行い、切断部分をポリイミドフィルムからはく離除去し、補強フィルムをはく離後のポリイミドフィルムの表面を観察し、ポリイミドフィルム上に粘着剤が残存している部分の長さ比率を算出することにより行う。具体的な条件は、後述の実施例に記載の通りである。
【0128】
粘着剤が残存している部分の長さ比率(粘着剤残存部比率)は、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましく、55%以下、50%以下、45%以下または40%以下であってもよい。粘着剤残存部比率は小さいほど好ましく、理想的には0である。一方、ポリイミドフィルムを損傷しないレーザー加工条件で、粘着剤残存部比率を0に近付けることは容易ではない。
【0129】
粘着剤の貯蔵弾性率を大きくすれば、粘着剤残存部比率をより小さくすることが可能であるが、その場合は、フォルダブルデバイスに適用するための粘着剤の柔軟性が不足する。粘着剤層がフォルダブルデバイスに適用可能な貯蔵弾性率を有する範囲において、粘着剤残存部比率は、一般に15%以上である。粘着剤残存部比率は、20%以上、25%以上、30%以上または35%以上であってもよい、
【0130】
被着体に補強フィルムを貼り合わせ、補強フィルムの切断加工およびはく離を行った後、被着体に貼り合わせられている補強フィルムの粘着剤層2に活性光線を照射することにより、粘着剤層を光硬化させる。活性光線としては、紫外線、可視光、赤外線、X線、α線、β線、およびγ線等が挙げられる。保管状態における粘着剤層の硬化を抑制可能であり、かつ硬化が容易であることから、活性光線としては紫外線が好ましい。活性光線の照射強度や照射時間は、粘着剤層の組成や厚み等に応じて適宜設定すればよい。粘着剤層2への活性光線の照射は、フィルム基材1側および被着体側のいずれの面から実施してもよく、両方の面から活性光線の照射を行ってもよい。
【0131】
光硬化に伴って、粘着剤層の被着体に対する接着力が上昇する。デバイスの実用時の接着信頼性の観点から、光硬化後の粘着剤層2と被着体との接着力は、3N/25mm以上が好ましく、4N/25mm以上がより好ましく、5N/25mm以上がさらに好ましく、6N/25mm以上、7N/25mm以上、8N/25mm以上、9N/25mm以上または10N/25mm以上であってもよい。補強フィルムは、光硬化後の粘着剤層が、ポリイミドフィルムに対して上記範囲の接着力を有することが好ましい。
【0132】
光硬化後の粘着剤層2と被着体との接着力は、光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力の5倍以上が好ましく、10倍以上がより好ましく、30倍以上がさらに好ましく、50倍以上、75倍以上または100倍以上であってもよい。前述のように、光硬化剤の種類(ベースポリマーとの相溶性)および添加量を調整することにより、光硬化前の接着力(初期接着力)を低く抑え、かつ切断加工性を維持しながら、光硬化後の粘着剤の接着力を大きくすることができる。
【0133】
前述のように、粘着剤層2に衝撃緩和作用を持たせるとともに、フォルダブルデバイスの屈曲箇所およびその周辺でのデバイスから補強フィルムのはく離を抑制する観点から、光硬化後の粘着剤層2の25℃における貯蔵弾性率は、80kPa以下が好ましく、70kPa以下がより好ましく、65kPa以下、60kPa以下、55kPa以下または50kPa以下であってもよい。
【0134】
光硬化後の粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率は、光硬化前の粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率の5倍以下が好ましく、3倍以下がより好ましく、2.5倍以下または2倍以下であってもよい。
【0135】
被着体に粘着剤層を貼り合わせた状態で粘着剤層を光硬化した際の粘着剤の硬化収縮による被着体の反りや破損を抑制する観点から、粘着剤層2の25℃における貯蔵弾性率の光硬化による増加量は、60kPa以下が好ましく、50kPa以下がより好ましく、40kPa以下がさらに好ましく、30kPa以下または25kPa以下であってもよい。
【0136】
架橋剤の量が少なく、光硬化剤の量が少ないほど、光硬化後の粘着剤層の貯蔵弾性率が小さくなる傾向があり、光硬化剤の量が少ないほど、光硬化による粘着剤層の貯蔵弾性率の増加量が小さくなる傾向がある。また、光硬化剤として、アルキレンオキシド鎖を有する多官能(メタ)アクリレートを用いることにより、光硬化による粘着剤層の貯蔵弾性率の上昇を抑制しつつ、被着体との接着力を高めることができる。
【0137】
上記の様に、補強フィルムを貼り合わせることにより、被着体に適度な剛性が付与されるとともに、応力が緩和・分散されるため、製造工程において生じ得る種々の不具合を抑制し、生産効率を向上し、歩留まりを改善できる。補強フィルムは、粘着剤層を光硬化する前は、被着体からのはく離が容易であるため、積層や貼り合わせ不良が生じた場合もリワークが容易である。また、補強対象領域以外から選択的に補強フィルムを除去する等の加工も容易であり、光硬化前の粘着剤層が切断加工性に優れるため、切断箇所近傍の被着体表面への粘着剤の残存が少ない。
【0138】
粘着剤層を光硬化後は、被着体に対して高い接着力を示し、補強フィルムがデバイス表面からはく離し難く、接着信頼性に優れるとともに、高い耐衝撃性が付与される。そのため、完成後のデバイスの使用において、デバイスの落下、デバイス上への重量物の載置、デバイスへの飛来物の衝突等により、不意に外力が負荷された場合でも、補強フィルムが貼り合わせられていることにより、デバイスの破損を防止できる。また、樹脂基板を用いたフレキシブルデバイスに本発明の補強フィルムを貼り合わせた補強フィルム付きデバイスでは、屈曲を繰り返した場合でも、屈曲箇所での補強フィルムのはく離が生じ難い。
【実施例0139】
以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0140】
[ベースポリマーの調製]
<ポリマーA>
温度計、攪拌機、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた反応容器に、モノマーとして、アクリル酸ブチル(BA)95重量部およびアクリル酸(AA)5重量部、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2重量部、ならびに溶媒として酢酸エチル233重量部を投入し、窒素ガスを流し、攪拌しながら約1時間窒素置換を行った。その後、60℃に加熱し、7時間反応させて、重量平均分子量60万のアクリル系ポリマーAの溶液を得た。
【0141】
<ポリマーB~F>
モノマーの仕込み量を表1に示すように変更した。それ以外はポリマーAの重合と同様にして、ポリマーB~Fの溶液を得た。
【0142】
アクリル系ポリマーA~Fの仕込みモノマー比率、ならびにポリマーの重量平均分子量(Mw)およびガラス転移温度(Tg)を表1に一覧で示す。ガラス転移温度は、仕込みモノマー比率からFoxの式に基づいて算出した。重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、GPC(東ソー製「HLC-8220GPC」)を用い下記の条件により測定した。
サンプル濃度:0.2重量%(テトラヒドロフラン溶液)
サンプル注入量:10μL
溶離液:THF
流速:0.6mL/min
測定温度:40℃
サンプルカラム: TSKguardcolumn SuperHZ-H(1本)+TSKgel SuperHZM-H(2本)
参照カラム: TSKgel SuperH-RC(1本)
【0143】
表1において、モノマーは下記の略称により記載している。
BA: アクリル酸ブチル
2EHA: アクリル酸2-エチルヘキシル
MMA: メタクリル酸メチル
LA: アクリル酸ドデシル
2HEA: アクリル酸2-ヒドロキシエチル
4HBA: アクリル酸4-ヒドロキシブチル
AA: アクリル酸
NVP: N-ビニルピロリドン
【0144】
【表1】
【0145】
[補強フィルムの作製]
<粘着剤組成物の調製>
アクリル系ポリマー溶液に、架橋剤、光硬化剤としての多官能アクリレート(ウレタン結合を有さないもの)およびウレタンアクリレート、ならびに光重合開始剤を添加し、均一に混合して、表2~4に示す粘着剤組成物を調製した。ベースポリマーとして、試料1~21ではポリマーBを用い、試料31~41ではポリマーCを用い、試料51~59ではポリマーDを用い、試料71~82ではポリマーFを用い、試料91~93ではポリマーAを用い、試料96ではポリマーEを用いた。
【0146】
光重合開始剤としては、IGM Resins製「Omnirad 651」をアクリル系ポリマーの固形分100重量部に対して0.3重量部添加した。架橋剤および多官能アクリレートは、表2~4に示す組成となるように添加した。表2~4における添加量は、ベースポリマー100重量部に対する量(固形分の重量部)である。架橋剤および光硬化剤の詳細は下記の通りである。
【0147】
(架橋剤)
T-C:N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン(三菱ガス化学製「テトラッドC」)
C-HX:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー製「コロネートHX」)
D110N:キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(三井化学製「タケネートD110N」)
【0148】
(多官能アクリレート)
A200: 新中村化学工業製「NKエステル A200」(ポリエチレングリコール#200(n=4)ジアクリレート;分子量308、官能基当量154g/eq)
A600: 新中村化学工業製「NKエステル A600」(ポリエチレングリコール#600(n=14)ジアクリレート;分子量708、官能基当量354g/eq)
M350:トリメチロールプロパンEO変性(n=1)トリアクリレート(東亞合成製「アロニックスM-350」、官能基当量143g/eq)
APG700: APG700:ポリプロピレングリコール#700(n=12)ジアクリレート;(新中村化学工業社製「NKエステル APG700」、官能基当量404g/eq)
ADPHE:エトキシ化ジペンタエリスリトールポリアクリレート(新中村化学工業社製「NKエステル A-DPH-12E」、官能基当量約200g/eq)
TMPT:トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業社製「NKエステル A-TMPT」、官能基当量99g/eq)
(ウレタンアクリレート)
UA306:ペンタエリスリトールトリアクリレート-トリレンジイソシアネート付加物(共栄社化学製「UA-306T」、官能基当量:128g/eq)
【0149】
<粘着剤溶液の塗布および架橋>
表面処理がされていない厚み75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材(三菱ケミカル製「ダイアホイル T100-75S」)上に、上記の粘着剤組成物を、乾燥後の厚みが13μmとなるように、ファウンテンロールを用いて塗布した。130℃で1分間乾燥して溶媒を除去後、粘着剤の塗布面に、はく離ライナー(表面がシリコーン離型処理された厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム)の離型処理面を貼り合わせた。その後、25℃の雰囲気で4日間のエージング処理を行い、架橋を進行させ、フィルム基材上に粘着シートが固着積層され、その上にはく離ライナーが仮着された補強フィルムを得た。
【0150】
[評価]
<ポリイミドフィルムに対する接着力>
(光硬化前の粘着剤層の接着力)
厚み25μmのポリイミドフィルム(宇部興産製「ユーピレックス25S」)を、両面接着テープ(日東電工製「No.531」)を介してガラス板に貼付し、測定用ポリイミドフィルム基板を得た。幅25mm×長さ100mmに切り出した補強フィルムの表面からはく離ライナーをはく離除去し、測定用ポリイミドフィルム基板にハンドローラを用いて貼り合わせた。
【0151】
この試料を25℃で30分静置した後、補強フィルムのフィルム基材の端部をチャックで保持して、引張速度300mm/分で、180°ピール試験を行い、ピール強度(プラズマ処理なしのポリイミドフィルムに対する補強フィルムの接着力)を測定した。
【0152】
測定用ポリイミドフィルム基板を、搬送速度3m/分で搬送しながら、常圧式プラズマ処理機を用い、電極電圧160Vの条件でポリイミドフィルムの表面にプラズマ処理を実施した。プラズマ処理後のポリイミドフィルムに、ハンドローラを用いて補強フィルムを貼り合わせ、上記と同様に、180°ピール試験により、プラズマ処理ありのポリイミドフィルムに対する接着力を測定した。
【0153】
得られた結果から、プラズマ処理なしの場合の接着力に対するプラズマ処理ありの場合の接着力の比(プラズマ処理による接着力の増加率)を算出した。
【0154】
(光硬化後の粘着剤層の接着力)
測定用ポリイミドフィルム基板(プラズマ処理なし)に補強フィルムを貼り合わせた後、補強フィルム側(フィルム基材側)から、波長365nmのLED光源を用いて積算光量4000mJ/cmの紫外線を照射して粘着剤層を光硬化した。この試験サンプルを用い、上記と同様に、180°ピール試験により接着力を測定した。
【0155】
得られた結果から、光硬化後と光硬化前の接着力の比(光硬化に伴う粘着力の増加率)を算出した。
【0156】
<貯蔵弾性率>
はく離ライナー上に、上記と同様に粘着剤組成物の塗布および架橋を行い、粘着シート(光硬化前)を作製した。光硬化前の粘着シートの粘着剤層の表面にはく離ライナーを付設して酸素から遮断し、365nmのLEDランプで4000mJ/cmの紫外線を照射して光硬化させた。光硬化前の粘着シートおよび光硬化後の粘着シートのそれぞれを積層して、厚さ約1.5mmの測定用試料を作成し、回転レオメーター(TA Instruments製「ADiscovery-HR2」)を用いて、以下の条件により動的粘弾性測定を行い、25℃におけるせん断貯蔵弾性率G’の値を読み取った。
(測定条件)
変形モード:ねじり
測定周波数:1Hz
昇温速度:5℃/分
測定温度:-70~150℃
形状:パラレルプレート 8.0mmφ
【0157】
<切断加工性>
補強フィルムの表面からはく離ライナーをはく離除去し、粘着剤層の表面に厚み50μmのポリイミドフィルム(宇部興産製「ユーピレックス50S」)を、ハンドローラを用いて貼り合わせた。この積層体の補強フィルム側から炭酸レーザー(周波数:30kHz、出力:11W)を照射し、走査速度300mm/分で走査して補強フィルムを切断加工し、長さ180mmの切断線を形成した。この切断線と平行に、1mmの間隔でもう1本の切断線を形成し、2本の切断線に囲まれた領域の補強フィルム(幅1mm)を、はく離速度300mm/分でポリイミドフィルムの表面からはく離除去した。これにより、ポリイミドフィルム上に、幅1mm、長さ180mmのスリット状に、補強フィルムが貼り合わせられていない領域が存在する試料を得た。
【0158】
この試料を、三次元測定機(イースタン電子工業製「MicroVu」)により観察し、スリット線(補強フィルムをはく離除去した領域)の長さ方向に沿って2.5mmの観察領域において、粘着剤層が適切に切断されずにポリイミドフィルムの表面に残存している部分の長さを0.1mm単位で測定した(図4参照)。図4において、白色の二点鎖線(仮想線)がレーザーによる切断線に対応しており、この仮想線よりも下側で黒色に観察される部分が粘着剤残存部である。図4では、4箇所の粘着剤残存部が確認され、それぞれの長さは、0.3mm、0.7mm、0.5mm、0.6mmであった。スリット線に沿って30箇所(合計長さ75mm)の観察を行い、観察長さ(75mm)に対する粘着剤残存部の長さの合計の割合(%)を、粘着剤残存部比率とした。
【0159】
<被着体汚染性>
補強フィルムの表面からはく離ライナーをはく離除去し、粘着剤層の表面にポリイミドフィルム(宇部興産製「ユーピレックス25S」)を、ハンドローラを用いて貼り合わせた。25℃で、30分または静置した後、ポリイミドフィルムから補強フィルムをはく離し、蛍光灯下でポリイミドフィルムの表面を目視して、汚染の有無を確認した。以下の基準により被着体に対する汚染性を評価した。
A:24時間静置後にはく離した試料で汚染がみられなかったもの
B:24時間静置後にはく離した試料では汚染がみられたが、30分静置後にはく離した試料では汚染がみられなかったもの
C:30分静置後にはく離した試料で汚染がみられたもの
【0160】
それぞれの補強フィルムの粘着剤の組成(ベースポリマーの種類、架橋剤の種類および添加量、光硬化剤の種類および添加量)、ならびに評価結果を表2~4に示す。
【0161】
【表2】
【0162】
【表3】
【0163】
【表4】
【0164】
ポリマーA100重量部に対して、10重量部の光硬化剤を配合した粘着剤組成物を用いた試料91は、光硬化前の粘着剤層の貯蔵弾性率が60kPaを超えており、光硬化後の粘着剤層の貯蔵弾性率は153kPaであった。試料91は、粘着剤層が柔軟性に劣っており、フォルダブルデバイスへの適用には不向きである。
【0165】
光硬化剤の量を20重量部に増加させた減少させた試料92では、光硬化前の粘着剤像の貯蔵弾性率は、試料91に比べて低減されていたものの、光硬化後の貯蔵弾性率は試料91よりも大きく、試料91と同様、粘着剤層が柔軟性に劣っていた。また、試料92は、光硬化前の粘着剤層のレーザー切断時の粘着剤の残存部比率が90%を上回っており、粘着剤の切断加工性が劣っていた。光硬化剤として0.15重量部のウレタンアクリレートを追加した試料93は、試料92に比べて、光硬化後の粘着剤層の接着力が若干高くなっていたが、その他の特性は試料92と特段の差はみられず、試料92と同様、光硬化前後の貯蔵弾性率が大きく、かつ切断加工性が劣っていた。
【0166】
ポリマーB,C,D,Fを用いて光硬化剤の量を2~20重量部の範囲で変更した試料5,17~21、試料32,37~41、試料52,55~59、および試料72,77~82では、光硬化剤の配合量が少ないほど、光硬化前の粘着剤層の貯蔵弾性率が大きく、光硬化後の粘着剤層の貯蔵弾性率が小さくなる傾向がみられたが、いずれの例も、光硬化前の粘着剤層の貯蔵弾性率は60kPaよりも小さく、粘着剤層が適度の柔軟性を有していた。
【0167】
ポリマーB,C,D,Fは、アクリル酸2-エチルヘキシルを構成モノマーの主成分とするアクリル系ポリマーであり、ベースポリマーのガラス転移温度が低いために、粘着剤層の柔軟性に優れていたと考えられる。一方、試料91~93では、アクリル酸ブチルが構成モノマーの主成分であるポリマーAを用いており、ポリマーB,C,D,Fに比べてガラス転移温度が高く、ベースポリマーの弾性が大きいために、光硬化前後のいずれにおいても、貯蔵弾性率が高く、ポリマーB,C,D,Fを用いた例と対比すると柔軟性が不足していたと考えられる。
【0168】
試料96では、ポリマーEのガラス転移温度が高いことに加えて、極性の高いモノマー成分を多く含み凝集力が大きいために、ポリマーAを用いた試料91よりもさらに光硬化前後の光硬化前後の貯蔵弾性率が高くなっていたと考えられる。また、ポリマーEは、構成モノマー成分として、窒素原子を含む高極性モノマーであるNVPを含むため、試料96では、プラズマ処理を行ったポリイミドフィルムに対する光硬化前の粘着剤層の接着力が高くなっていた。ポリマーFを用いた試料71~82も、プラズマ処理を行ったポリイミドフィルムに対する接着力が、プラズマ処理を行っていないポリイミドフィルムに対する接着力の2倍以上であり、被着体のプラズマ処理により初期接着力が大きく上昇する傾向がみられた。
【0169】
上記のように、ポリマーB,C,D,Fを用いた試料は、ポリマーA,Eを用いた試料に比べて貯蔵弾性率が低く、優れた柔軟性を示したが、光硬化剤の配合量の増加に伴って、光硬化前の粘着剤層の貯蔵弾性率が小さくなり、レーザー切断時の粘着剤の残存部比率が大きくなる傾向がみられた。光硬化剤を20重量部配合した試料16,41,59,82では、試料92,93と同様、粘着剤の残存部比率が80%を上回っていた。
【0170】
試料92,93では、光硬化前の粘着剤層の貯蔵弾性率が60kPaを上回っていたにも関わらず、粘着剤の残存部比率が大きく切断加工性が劣っていたことから、光硬化剤の配合量が大きい場合は、光硬化前の粘着剤層の貯蔵弾性率が小さいことに加えて、光硬化剤の量が多いために粘着剤の液状性が高いことが切断加工性低下の原因であると考えられる。
【0171】
試料16,41,59,82では、汚染性の評価がCであり、補強フィルムをはく離後の被着体に汚染がみられた。過剰な光硬化剤が粘着剤層の表面にブリードアウトして、被着体に移着したことが汚染の原因と考えられる。粘着剤層の切断加工性に加えて、被着体の汚染防止の観点においても、光硬化後の粘着剤層が十分な接着性を有する範囲で、光硬化剤の配合量は少ない方が好ましいといえる。
【0172】
一方で、光硬化剤の配合量が2重量部である試料16,37,57,77は、光硬化前の粘着剤層の切断加工性は良好であったが、ポリイミドフィルムに対する接着力が大きく、被着体からのはく離性に劣っていた。
【0173】
ポリマーBを用いた試料5,11~15の対比、ポリマーCを用いた試料31~36の対比、ポリマーDを用いた試料51~56の対比、およびポリマーFを用いた試料71~76の対比から、架橋剤の配合量が多いほど、光硬化前の粘着剤層の接着力が小さく、光硬化前後の粘着剤層の貯蔵弾性率が大きくなり、これに伴って、レーザー切断時の粘着剤の残存部比率が小さくなる傾向がみられた。
【0174】
一方、架橋剤の配合量が大きい試料16,36,54,77は、光硬化前の粘着剤層の貯蔵弾性率が60kPaを上回っており、光硬化後の粘着剤層の貯蔵弾性率も大きく、柔軟性が劣っていた。これらの結果から、フォルダブルデバイスへの適用に適した柔軟性を確保可能な範囲で、架橋剤の配合量を多くすることにより、切断加工性を向上できることが分かる。
【0175】
ポリマーBを用い、光硬化剤としての多官能アクリレートの種類を変更した試料5~10では、光硬化剤の種類により、特性の違いがみられた。エチレンオキサイド鎖を含まない光硬化剤であるTMPTを用いた試料10は、エチレンオキサイド鎖を含む光硬化剤を用いた試料5~9と対比して、光硬化前の粘着剤層の接着力が大きく、光硬化後の粘着剤層の接着力が小さかった。
【0176】
試料5~10は、光硬化前の粘着剤層の貯蔵弾性率に大きな差はみられなかったが、光硬化剤として3官能以上の多官能アクリレートを用いた試料5,9,10は、2官能アクリレートを用いた試料6~8に比べて、光硬化による貯蔵弾性率の上昇量が大きくなる傾向がみられた。特に、試料10は、他の例に比べて光硬化による貯蔵弾性率の上昇が顕著であり、硬化収縮も他の例に比べて大きくなっていた。
【0177】
エチレンオキサイド鎖を含まないTMPTは、アクリル系ポリマーとの相溶性が高くWBLが形成され難いために、粘着剤層のバルク部分に取り込まれやすく、粘着剤層の厚み方向全体で均一に光硬化剤が硬化するために、バルク特性である貯蔵弾性率が大きく上昇したと考えられる。これに対して、エチレンオキサイド鎖を含む多官能アクリレートは、TMPTに比べてアクリル系ポリマーとの相溶性が低くWBLが形成されやすいために、試料5~9では、試料10に比べて、初期接着力が小さく、かつ光硬化による貯蔵弾性率の増大を抑制しつつ、接着力を高められると考えられる。
【0178】
試料5,6,10では、光硬化前の粘着剤層を被着体からはく離した際の被着体の汚染が生じ難く耐汚染性に優れていた。一方、試料7~9は、耐汚染性が劣っていた。試料7~9は、光硬化剤としての多官能アクリレートのエチレンオキサイド鎖の鎖長nが大きく、アクリル系ベースポリマーとの相溶性が低いために、光硬化剤がブリードアウトしやすく、被着体汚染の原因になったと考えられる。
【0179】
試料5~9は、光硬化前の粘着剤層の接着力に大きな差はみられなかったが、試料5は、他の試料に比べて、光硬化による接着力の上昇率が大きく、光硬化後の粘着剤層の接着力が大きくなっていた。試料5で用いた光硬化剤(M350)は、エチレンオキサイド鎖を含む3官能アクリレートであり、WBLが形成されやすく、光硬化後は接着界面近傍での架橋密度が高くなるために、光硬化後の接着力が大きくなっていたと考えられる。
【0180】
ポリマーBを用い、多官能アクリレートとして8重量部のM350を配合し、ウレタンアクリレートの配合量を変更した試料1~5では、ウレタンアクリレートの配合量が多いほど光硬化前の接着力が小さくなる傾向がみられた。一方、ウレタンアクリレートの配合量が多いほど、光硬化前の粘着剤層による被着体の汚染が生じやすい傾向がみられた。これらの結果から、光硬化剤として、ウレタン結合を含まない多官能アクリレートに加えて、被着体の汚染を生じない程度に少量のウレタンアクリレートを配合することにより、粘着剤を光硬化後した後に、被着体との接着力が高く、接着信頼性に優れる補強フィルムが得られることが分かる。
【符号の説明】
【0181】
1 フィルム基材
2 粘着剤層
10 補強フィルム
5 はく離ライナー
20 被着体

図1
図2
図3
図4